「梅田DTタワー」 1.建物概要 建物名称 梅田DTタワー 所在地 大阪市北区梅田 建物構造・階数 S、RC、SRC造(免震構造) B4階、27階、P2階 延床面積 47,608.13 ㎡ 空調面積(蓄熱部分) 31,200 ㎡(27,000 ㎡) リニューアル・新築 区分 新 築 主要用途 事務所 その他用途 店舗、駐車場 2.蓄熱式空調設備/システム 空調システム セントラル型 空気熱源ヒートポンプ製氷チラー 容量(型式)×台数 120馬力相当(CLIS HP)× 6台 120馬力相当(CLIS 冷専)× 6台 氷蓄熱槽 225m3×2、138m3×1 空調機器メーカー 蓄熱空調導入年月 設備設計事務所 (株)サンウェル・ジャパン 平成15年 1月 (株)竹中工務店 写真1.建物外観 大阪一級建築士事務所 設備施工会社 (株)竹中工務店 その他 躯体蓄熱(空気吹付方式) 写真2.空調機器(氷蓄熱槽) 写真3.空調機器(空気熱源ヒートポンプ製氷チラー) 3.導入経緯: (1) 蓄熱空調システムの導入背景 「梅田DTタワー」の設備計画は、地球環境負荷低減を課題とし、省エネルギー・電力負荷平 準化・信頼性向上・安全性向上・快適性向上・IT 化対応をコンセプトとして構築した。特に空調 システムは、図1のような、社会的ニーズ、建築主ニーズ、居住者ニーズを満足するものとして、 氷蓄熱、躯体蓄熱を主体とした蓄熱空調システムを導入している。 ■これからの空調にもとめられるもの ◇社会的ニーズ ◇建築主ニーズ ・環境負荷の低減 CO2排出量の低減 ・電力平準化 昼間ピーク電力の低減 ・高い採算性 イニシャルコストが安い ランニングコスト(LCC)が低い 機械室が小さい ◇居住者ニーズ ・快適な執務空間 快適な温熱環境 残業時の空調対応 年間冷房への対応 図 1.蓄熱空調システム導入背景 (2)氷蓄熱システムのイニシャルコストレス化:蓄熱受託制度の採用 図1の建築主ニーズで示した、イニシャルコストが安いという要求に対し、関西電力の蓄熱受 託制度の採用により「初期投資額の軽減(イニシャルコストレス)」を図るとともに、「竣工後の 保守管理業務の軽減(ハンズフリー)」を同時に実現させた。この制度は、イニシャル・ランニン グ双方のコストをトータル(年経費ベース)で評価できる制度であり、蓄熱システムの設置から 竣工後の保守管理までを関西電力が一貫して請け負い、その対価として、15年間(設備の耐用 年数)に亘って、定額の受託料金を支払うというものである。(図2) 建築主のメリットを整理すると、次の項目が挙げられる ① 初期投資額の削減と費用の経費化 ② 契約期間中のリスク(機器故障に伴う急な出費など)の回避 ③ 保守管理業務の省力化とシステムの効率的運用。 通常の方法 施設関係費 初期投資 〜 イニシャル コスト 蓄熱受託制度利用 年経費 年経費 減価償却 支払利息 税金・諸経費 メンテ ナンス 運転費 受託料金 修繕費 エネルギー費 エネルギー費 図2.蓄熱受託制度の概要 エネルギー費 (3)経済性と環境性の試算 熱源運転パターンとしては、夏期ピーク時での熱源の夜間移行率を70%以上として設計し、 電力デマンドは、図3のように氷蓄熱を最大限夜間運転することで、夜間と昼間をほぼフラ ットにし、従来のビルに比べ最大電力デマンドを約70%と想定している。さらに、13時 から16時までの電力ピーク時に免震層上部の全熱源を停止して、ピーク時間帯の電力デマ ンドを従来のビルに比べ約45%とし、1日の電力デマンドカーブは凹型となり(図4)、電 力負荷平準化に寄与すると共に、ランニングコストの低減を図っている。図5に示すように、 非蓄熱の空気熱源ヒートポンプチラーに比較し、56%低減できる試算となる。 また、環境性としてCO2排出量の比較を図6に示すが、夜間電力の有効利用により、非蓄 熱の空気熱源ヒートポンプチラーに比較し、21%低減できる試算となる。 13:00〜16:00 熱源ピークカット運転 電力負荷の フラット化 3,500 3,500 3,000 電力デマンド想定 (KW) 3,000 2,500 2,000 1,500 1,000 非蓄熱の場合 2,500 2,000 1,500 熱源追掛 運転 蓄熱運転 蓄熱 運転 1,000 500 熱源以外 500 0 1 3 5 7 9 11 13 15 17 19 21 23 0 1 夜間蓄熱運転 放熱運転(蓄熱分) 2 3 4 100% 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 放熱運転(追掛分) 代表日冷房 図3 夏期ピーク時氷蓄熱運転パターン 図4 夏期ピーク電力デマンド想定 100% 1000 100% 蓄熱ピーク調整割引 従量料金(夜間) 従量料金(昼間) 基本料金 80% 900 800 79% 60% 44% 40% 20% CO2排出量 [t-CO/年] ランニングコスト(電力料金) 熱量 (kW) 13:00〜16:00 熱源ピークカット運転 700 600 500 400 300 0% 200 100 -20% 非蓄熱(空気熱源HP) 蓄熱(本方式) 0 非蓄熱(空気熱源HP) 図5 ランニングコスト(電力料金)の試算 蓄熱(本方式) 図6 CO2排出量の試算 4.配慮した点 氷蓄熱システム、躯体蓄熱システムに加え、更なる省エネルギー、快適性の向上のために冷媒 自然循環空調システム(VCS)、ペリメータ空調システムを組合せたシステムとしている(図7)。 氷蓄熱方式は、より低温を利用できるダイナミック型とし、VCSと組み合わせた。VCSは、 冷暖フリーでかつ冷媒の搬送動力を必要としない省エネルギー空調システムである。空調の運転 停止や温度設定等の空調制御は執務室の居住者各自が携帯している構内PHS(ブラウザ・フォ ン)の画面から行え、操作性を向上した。さらに、執務空間の照明は人感・明るさセンサーによ り自動調光され、約50%の省エネルギーを図るともに、空調負荷低減を図っている。 氷蓄熱 VCS 躯体蓄熱 (クリスタルリキッドアイス) (冷媒自然循環空調システム) 空調システム ペリメータ 空調システム 蓄熱受託範囲 図7 熱源・空調概念図 空気熱源ヒートポンプ製氷チラー 屋上 27F 氷蓄熱槽 225m3 北系統(3階〜22階) 氷蓄熱槽 138m3 23〜26階 系統 空気熱源製氷チラー 氷蓄熱槽 225m3 (製氷専用機) 南系統(3階〜22階) 冷房系統 北系統(3階〜26階) 南系統(3階〜26階) 暖房系統 空調範囲 図8 氷蓄熱システム系統図 (1)躯体蓄熱システムの特徴 躯体蓄熱システムは、冷温風上部床スラブ吹付方式とした。特に本建物では、図9のように天 井内の大梁や子梁で囲まれた部分に切り替えダンパーを設置した。これにより、床スラブへの均 一な蓄熱が期待でき、躯体蓄熱の蓄熱効率を上げることができる。氷蓄熱との組合せで、事務所 ゾーンの約95%の熱負荷を夜間移行できると予測している。 VCS室内ユニットは、ペリメータゾーンは20㎡毎に冷暖フリータイプを、インテリアゾー ンは80㎡毎に冷房専用タイプを、それぞれ負荷の近く設置することで、空気側搬送動力を低減 している。 VCユニット 夜間 切替 ダンパー 昼間 小梁 吹出口 大梁 図9 躯体蓄熱システム概念図 (2)負荷低減を図った空調計画 本建物の外装は全面ガラスカーテンウォールであり、負荷低減のため、基準階プランは事務室 を日射負荷の少ない東北南面に配し、西面片側コアとした。また、ガラスには、高遮熱高断熱 Low‑e ペアガラス(遮蔽係数0.64、熱還流率2.5KW/㎡ h℃)を採用した。 また、冬期のペリメータゾーンとインテリアゾーンのミキシングロスを低減するとともに、ペ リメータ空間における夏季の熱輻射と冬季のコールドドラフトによる執務スペースの不快感を解 消するため、図10のような上下排熱型空調方式(PULL・PULL方式)を採用した。これ は、夏季は窓廻りに発生する熱気をブラインドボックスに設けたスリットから排気(写真4(1))、 冬季はコールドドラフトをペリメーターカバーとカーテンウォールの間の「冷気たまり」に受止 め、ペリメーターカバーに設けたスリットから排気(写真4(2))する方式である。図11で冬 季の室内空調がない場合の執務空間温度分布シミュレーションを示すが、d(本建物方式)では、 暖房しない状態でもペリメータゾーンの温熱環境は良好で、インテリアゾーンに影響しにくくミ キシングロスが低減できることがわかる。暖房期の熱源側の運転も熱回収運転(温水・製氷同時 運転)を行っており、熱源・空調両方での省エネルギー運転を行っている。 また、図10の上部下部兼用PULLファンの排気はインテリアゾーンに排出しており、ペリ メータゾーンのOA機器等の冷房負荷処理に寄与できる。さらに、シミュレーション比較からは、 エアバリアPUSH・PULL方式と比較し快適性が上がり、風量が下がることがわかる。また、 ペリメーターカバー「冷気たまり」を設けることで、同一風量でのコールドドラフトの影響を受 けにくくなることがわかる。これにより、PUSH・PULL方式と比較し、ランニングコスト は約73%低減できる。 執務空間の換気の省エネルギーとして全熱交換器による熱回収を行っているが、更なる省エネ ルギー対策として下記の項目を行っている。 z CO2制御による風量の自動切り替え z 外気と室内のエンタルピ比較における外気冷房運転 z 中間期の簡易ナイトパージ運転 z フィルターユニットの分散化により、空調・換気と無関係での間欠運転 ブラインド吸込口 上部下部切替ダンパー インテリア ゾーンに排気 夏期吸込 20.5℃ 上部下部兼用 PULLファン 20℃ 高遮熱Low-E 断熱複層ガラス ブラインド 冬期吸込 a) ペリメータ空調なし 柱隙間利用ダクト 22℃ OAフロア利用ダクト ぺリカバー利用の冷気たまり 図10 PULL・PULL方式概念図 21℃ 20.5℃ b) PUSH・PULL 方式(150CMH/m) 22℃ 21.5℃ 21℃ 写真4(1) 窓面上部ブラインド内吸込口 c) PULL・PULL 方式冷気たまりなし(60CMH/m) 22℃ d) PULL・PULL 方式冷気たまりあり(60CMH/m) 図11 冬期シミュレーション比較 計算条件 外気温度 0℃ 室内温度 22℃ 室内空調なし 写真4(2) 窓面下部ペリカバー吸込口 (3)総合監視機能 設備システムの運用面での効率的な省エネルギー運転のためにビルマネジメントサポート機 能を持ったBEMS(Building and Energy Management System)を導入した。これにより、 省エネルギー効果の確認や運転管理の効率化、運用段階でのランニングコストの低減が可能とな る。また、監視システム、データベース、防災盤等は、それぞれ独立したシステムとし、通信標 準化を図って、互いにネットワーク標準プロトコル(BACnet)により接続している。 5.問題となった点 (1)故障時の熱源停止対応 空気熱源ヒートポンプ製氷チラーについては、系統毎に複数台設置し、かつ、万一の際に系統 毎のバックアップができるよう、配管に分岐バルブを設けている。溶液2次ポンプも2台設置し、 最低1台でのバックアップ運転ができるよう配慮している。溶液2次ポンプ1台運転での流量は、 時間最大冷房負荷の約70%で設計している。 (2) 氷蓄熱槽を利用した制振装置対応 本建物では、超高層建物の強風による風揺れを軽減し、居住性を確保するため、氷蓄熱槽を重 りとして利用した振り子式制振装置を設けている。本建物の氷蓄熱システムは、氷蓄熱槽の上部 に空気熱源ヒートポンプ製氷チラーを設置しているが、氷蓄熱槽が最大500mm揺れるため、 チラーや二次ポンプとの接続は、フレキ管を用い揺れを吸収している。(図12) 製氷機 フレキ管 滑り軸受 滑り軸受 設備水槽 氷蓄熱槽 250ton 直交方向 直交方向 ブレース ブレース 平常時 吊り 吊り フラットバー フラットバ- 吸収 ダンパー 揺れ時 バッファ 図12 制振装置概念図および配管の揺れ吸収対応 6.そ の 他 (1)中間階免震システム対応 本建物は、建築計画途中に阪神大震災が起きたことで、市街地中心の高層建築の在り方とその 安全性を改めて追求した結果、1階エントランス上部に免震装置を配置し、その上部に高層部分 を設置する中間階免震構造を採用した。そこで、熱源については、信頼性、安全性向上の観点か ら免震層の上部と下部でできるかぎり設備システムを分け、かつ、多様なエネルギー利用の観点 から、上部を電気熱源の氷蓄熱システム、下部をガス熱源で計画している。 (2)竣工後の運転実績データ収集について 竣工後の期間が短く、本稿の内容は設計時点での予測値を元に報告した。現在、運転実績デー タを収集中であり、今後データを公開することで蓄熱空調システムの一助となれば幸いである。 講演・執筆 株式会社竹中工務店 大阪本店 設計部 主任 篠島 隆司 (電話:06-6252-1201,FAX:06-6263-9731)
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