Akita University 大阪市中心部 における人 口回帰現象 辻 キー ワー ド:大阪市 中央区船場 井 宏 仁 マ ンション 都心居住 Ⅰ は じめに 居住地移動 人 口回帰現象 都市地理学 バ ブル経済 による地価 の乱高下 と卸 。問屋業 の不振 に見舞われた。 そのため、2 0 0 3 年現在で は、健全 な 1 9 8 0 年代 に始 まったバ ブル経済 は、 とくに大都市 都市機能 の回復が、船場地区の重要 な課題 にな って 中心部 における地価 の高騰 を招 いた。 その結果、既 いる2)。 従来 の研究 によれば、都市 中心部 における人 口回 存 の居住者 は、高額 な固定資産税 と相続税 の課税 に よって、大都市中心部か らの移転を余儀 な くされた。 帰現象 は、居住空間の供給元 となるマ ンションと深 しか し、バ ブル経済崩壊後の、1 9 9 0 年代後半以降、 く結 びっ くと考 え られ る。研究対象地域 におけるマ 大都市 中心部 に中高層共同住宅 ( 以下 マ ンション1 ) ) ンションの立地件数 は8 5 棟であり、建設中のマ ンショ の建設が著 しくな った。 マ ンションは、住宅供給価 ンを含 めると、9 5 棟 になる ( 第 2図)。 マ ンションの分布 は、中央大通 よ り南側 において 格か らみて、住居の選択肢 として魅力的なものになっ て きた ( 榊原 ほか,2 0 0 3;矢部,2 0 0 3 ) 。 糖密である。 また、南北方向の御堂筋 と堺筋沿線、 そ こで、本研究の 目的 は、大阪市中心部 を研究対 東西方向の土佐堀通、本町通、中央大通、長堀通沿 象地域 と し、人 口回帰現象の動向を明 らかにす るこ 線 にはマ ンションの分布が ほとん どみ られず、む し ととす る。 本研究では、研究対象地域 と して、大阪市 中央区 船場地区を取 り上 げる。大阪市 中央区は、1 9 9 6 年以 降、緩やかな人 口回復 の傾向にある ( 第 1図)。 Ⅲ 研究対象地域の概観 とマンシ ョンの分布 大阪市 中央区船場地区は、伝統的に、繊維関係 の 卸 ・問屋街 を核心 とす る業務地区であ り、大阪の経 済活動 の牽引役 を担 って きた。 しか し、船場地区は ど ∃ 第 1図 第 2図 研究対象地域 およびマ ンションの分布 ( 2 0 0 3 年1 0 月) ( 国土地理院発行 1万分 の 1 「 大阪城 」( 2 0 0 0 年修正測量) 大阪市中央区における人 口の推移 ( 1 9 4 5 年 ∼2 0 0 2 年) 症) 1 9 8 9 年以前 の数値 は大阪市東区 と南区の数値 を合算 し た ものである。 ( 大阪市計画調整局資料 よ り作成) および現地調査 よ り作成) -2 5- Akita University 0 %と2 8 %を占める。 み世帯 と単身世帯が、それぞれ3 年齢構成 と世帯構成 の関係 をみ ると、1 0 代 ・2 0 代 については、単身世帯 と夫婦 のみ世帯 を主体 として 構成 されている。一万 、3 0 代 ・4 0 代では夫婦 と子 ど も (1人、 もしくは 2人以上)世帯が多 い。 2) 職業 と勤務先 世帯主 の職業構成 をみ ると、会社員 と自営業の割 合 が括抗 して いる ( 第 2表)。職業構成 と勤務先 の 関係 については、会社員 は大阪市 内での勤務 を、 自 営業 は中央区内での勤務 を志向 している。つ まり、 船場地区の居住者 は、 自宅 と従業地 との近接性 を重 視 している。 また、 自営業では、在宅勤務の場合 と、 中央区内の店舗 に通勤す る場合があることか ら、職 住関係 は一致、 もしくは近接関係 にあるといえ る。 写真 1 船場地区の概観 ( 2 0 0 3 年 6月1 3日、筆者撮影) ろ、 これ らの主要街路 に囲 まれた内部 の街区に、 マ ンションの分布が集中 している。 第 1表 固着 h 10 代 20代 ヨo代 ヰo代 現地調査 によって、マ ンションの増加 と高層化が、 同時 に進行 していることがわか った。 そのため、 マ 大阪市中央区船場地区におけるマ ンション 居住者 の世代別 にみた世帯構成 ( 2 0 0 3 年) 50 代 80 代 70代 BO代 以上 ■JHr+ I 2 3 2 2 7 1 2 ○ ■ 1 夫*のみ世7 B 夫+と手 ども( 1人) 7 ● 2 7 1 I ■ 2 2 3 3 2 1 2 1 不明 1 2 I I 2 1 1 3 1 (ア ンケー ト調査 よ り作成) 加 と高層化 にともな って、人 口 もまた増加傾向にあ 第 2表 け られて きた船場地 区に、再 び居住空間が付加 され 大阪市 中央区船場地区 におけるマ ンション 居住者 の職業別 にみた勤務先構成 ( 2 0 0 3 年) つつあるといえ る ( 写真 1)。 Ⅲ 居住者の特徴 と移動パター ン 回書tk 中央 区 その他 不明 会社 負 32 12 1 6 4 - 自営集 29 1 6 1 0 1 2 公務且 2 1 1 - - パート. アルバイト ■ 4 - - - 学生 2 - 1 その他 4 2 1 1 - 船場地区における人 口回帰現象 を考察す るために ア ンケー ト調査 と居住地移動パ ター ン3) の調査 を実 その他 1 ンションの分布が桐密 な街区で は、 マ ンションの増 る。言 い換えれば、従来、商業 ・業務空間 に特徴づ 三t B代世+ 2 1 0 I I 3 荏)無職 は 5名 で あ る。 大 阪市 内 1 (ア ンケー ト調査 よ り作成) 施 した。 ア ンケー ト調査で は、研究対象地域 にお け るマ ンションの居住者 を対象 と して、年齢構成 と世 居住年ヤ【 不明 帯構成、世帯主の職業 と勤務先、居住年数、前住地、 11年 年以上 1 0年 および 「 街 なか」 に住む魅力 について尋ねた。回答 9年 年 者 は計 7 8 人であ った。一方、移動パ ター ン調査 は、 8 7年 年 研究対象地域 に住居 を構え る一般住宅居住者 を対象 6 5年 と した。 4年 3年 2年 1 , マ ンション居住者 の特徴 1年兼溝 1 ) 年齢構成 と世帯構成 第 1表 をみ ると、年齢構成では、2 0 代 ・3 0 代の 2 第 3図 つの世代で全体 の6 0%を占め る。 また、5 0 代以上 の 大阪市 中央区船場地区におけるマ ンション 居住者 の居住年数 ( 2 0 0 3 年) 世代 は、全体 の3 0%である。世帯構成 では、夫婦 の (ア ンケー ト調査 よ り作成) -2 6- Akita University 船場地区における人 口回帰現象が、大阪市 内の限定 的で向心的な人 口移動 によって引 き起 こされている ことを示す ( 第 4図)。言 い換 えれば、近畿地方、 もしくは近畿地方以外 を発地 とす る広域的な人 口回 帰現象 はほとんどみ られないことが明 らかにな った。 4二 ) 「 街 なか」 に住む魅力 「 街 なか」 に住む、 いわゆる都心居住 の魅力を問 うと、近接性 と利便性 をあげる回答が多か った。 第 3表か らさ らに詳細 に検討 してみよ う。1 0 代。 2 ( 〕 代 は、「 都市中心部の賑わい」を都心居住のメ リッ トと してあげている。 その一方で、子 どもを持っ世 帯で は、 「 都心居住 に ともな う子育 て は、必ず しも 子 どもにとって良好 な環境 とはいえない」 とい う回 答 もあ る。 同様 に、3 0 代 で は、「居住環境 に対す る 懸念」 も回答 にあげ られた。一万、4 0 代以上 の世代 で は、 「 都心居住 によ って、 日常 の生活空間が コン 凡例 一一 一 一 ・ 一 ・ ・ - 1人 第 4図 2人 一・ 一一可ト 8人 パ ク トになるため、就業活動 と余暇活動 を容易 に行 6人以上 うことが可能 になる」、「出生地 に対す る愛着 を持 っ 大阪市中央区船場地区におけるマ ンション 居住者 の前住地 ( 2 0 0 3 年) ( アンケー ト調査より作成) ているとい う理 由で再 び戻 って きた」 などの回答 も ある。高齢世代では 「 移動 に不便 を欠 く郊外 に居住 す るよ りは、近接性 。利便性 に優れた都市中心、 部に 3 ) 居住年数 と前住地 住む ことを希望 していた」 とい う回答がみ られた。 居住年数 は、第 3図に示す とお り、 3年以下 の割 2 . 一般居住者 の移動パ ター ン 合が全体 の7 0%を占める。一万、 5年以上 の居住者 の割合 は、1 7 %である。 この ことか ら、船場地区の 本節では、船場地区に住居 を構え る、一般住宅居 住者 A 氏の ライフパ スを事例 として取 り上 げる。 居住者 は、居住期間が短 い ことがわか った。 前住地 をみ ると、全体 の2 6%が中央区内である。 A氏 は男性 で、1 9 5 4年 に奈良県大和郡 山市 で誕 さらに、中央区を含 む大阪市内全域か らの転入者 は 生 した。現在、妻 と 2人の子 どもを持 っ 4人家族 の 5 8%になる。一方、大阪府下 では1 7 %、大阪府 を除 く近畿 1府 4県では1 0 %にとどまっている。近畿地 方以外か らの転入 について も 8%と少ない。 これは、 世帯主であ り、京都市内で公立高校 の教諭 と して勤 第 3表 務 している。 A氏 は、1 9 6 0 年 に大和郡 山市 か ら両親 とと もに 大阪市 中央区船場地区におけるマ ンション居住者 に対す る 「 街 なか」 に住 む 魅力 についてのア ンケー ト結果 ( 2 0 0 3 年) 世代 世帯構成 世帯主の敬重 自由妃述内容( テーマ r Bi なか」に住む魅力について) 1 0代 単身 学生 通学に便利。遊ぶところが多い. 20代 単身 /ト ト アルバイト 人が鴬に多くて、店も多いので住みやすい。 20代 夫婦とチビも(1人) 会社良 20代 夫婦と子ども(2人以上) 会社貞 夫の勤務先がたまたま大阪だったためで、街中に住む魅力はない。できれば田舎に住みたい。 夫の会社と実家が近いので住んでいるが、子どもにとっては環境が悪い。大人が住むには繁華街 も近いし、いいと思うO 20代 夫婦と手ども(2人以上) 自営業 30代 単身 自営業 仕事中心の生活にとって.何かと利便性がよい。 30代 その他 自営業 職住が近接し、深夜の帰宅にも交通費がかからない。ただし、車の埴音、大気汚染などがあるため 生まれが大阪市内なので.とくに街に対する魅力はない。むしろ郊外に住みたい。 30代 夫婦と子ども( 2人以上) 自営菓 交通が便利Dとくに軌 bなので車がなくても移勤しやすいO公共交通機関だと渋滞に巻き込まれ 30代 夫婦と子ども(1人) 会社員 都心に近いので何かと便利だが、交通史の多さ.空気の悪さ、騒音などが気になる. 近接性に僚れている。仕事とプライベートの空間.病院等すべてが整っている. に.住むには忍耐が必要。 ず、時間のロスも少ない。 40代 単身 自営菓 40代 その他 自営業 何かにつけて便利で、生まれもこの辺りなので離れられない感がある。催し物にもすぐに行け、夜、 代 その他 パート アルバイト 実家と同じエリアなので.生まれた土地から来るエネルギーを感じるO 代 凍身 自営業 住居と鵬 代 単身 自掌典 元々市内に生活していた。 代 夫婦のみ世帯 自営業 年齢をとるにつれ、郊外F =住むよL )も、何かと便利な中心地に住むことを希望していた。 遊ぶところが多い。 の近さ、さらに交通手段のよさ。 ( アンケー ト調査より作成) - 27 - Akita University 通 よ り南側 において桐密であ り、 とりわけ、主要 街路 に囲 まれた内部 の街区に集 中 している。 なか で も、中央大通 と堺筋、長堀通 に囲 まれた街区で は、船場地区に分布す るマ ンション全体 の5 0%を 占め る。 3. 船場地区 にお ける人 口動 向の特徴的な世代 は、 2 0 代 ・3 0 代である。職業 をみ ると会社員 と自営業 の割合が括抗 している。居住者 は、職住近接 ない しは一致 の傾 向を強 く志向 してお り、都心居住 に よ って得 られ る近接性や利便性 を求 めていること が確認 で きた。 4. 者柾 、 環境の問題 と、生活 ・育児 に関わる社会サー ビスの不十分 さは、都市 中心部 に継続 して居住す ることに対す るネ ックとな っている。 また、都兄、 居住 の実現 には経済的な余裕 と、都市 中心部 に密 接 な関わ りがあることが必要 であることが明 らか にな った。 第 5図 A氏の移動事例 ( 1 9 5 4 年 ∼2 0 0 3 年) ( 聞 き取 り調査 より作成) 本稿 の作成 に当た り、秋 田大学教育文化学部 の松 船場地区に転居 した。1 9 7 4 年 に京都市 内の国立大学 村公明先生か ら終始、御助言、御指導を頂 きま した。 に進学 し、1 9 82 年 に現職 に就 いた ( 第 5図)。 末筆 なが ら、 ここに深 く感謝 申 し上 げます。 A 氏 は、1 9 97 年 の結婚 を契機 に、 船場地 区 の実 家か ら、京都市内の妻 の実家 に転居 した。1 9 9 8 年、 注 第一子 の長男が誕生 した。長男が幼稚園入園時期 に なると、大阪市 内にかねてよ り入園を望んでいた幼 1 ) マ ンションは、現地調査 によって、 5階以上 の 稚園があ ったため、船場地区 にある実家の隣家を購 階数 を持 ち、 お もに居住 を 目的 に建設 された建物 入 し、2 0 0 0年 に京都市 内か ら転居 した。 その後、 と定義 した。 2 0 0 3 年 に第二子 の長女が誕生 している。 2 ) 大阪市で は、1 9 9 0 年 より 「 船場都心居住促進地 A 氏 の場合、 子 ど もの教育環境 を考慮 して都心 区再開発地区計画」 を策定 し、規制緩和等 の実施 を行 っている。 居住 を選択 した といえ る。者虹 、 居住 の実現 に当た っ て は 2つの背景があ ることがわか った。 1つ は、A 3 ) 移動パ ター ンの概念 は、鄭 ( 2 0 0 2 ) による。 氏 には、希望 を実行 に移せ るだ けの経済的な余裕が あ った ことで あ る。 次 には、 A 氏 は結婚 に至 るま 文 献 で船場地区に居住 していた ことか ら、船場地区の不 動産事情 に精通 していた ことである 榊原彰子 ・松 岡恵悟 ・宮津 。 仁 ( 2 0 0 3 ):仙台都心 部 における分譲 マ ンション居住者 の特性 と都心居 Ⅳ おわ りに 住 の志向性.季刊地理学,第 5 5 巻 ,8 71 0 6 . 鄭 本研究の結果 をまとめると、以下 のとお りである。 美愛 ( 2 0 0 2 ):韓 E g盆唐 ニ ュー タウ ン居住者 の 居住地移動パ ター ンと移動要因.地理学評論,第 1. 大阪市 中央区の人 口は、1 9 9 6 年以降、継続 して 7 5 巻 ,7 9181 2 . 回復傾向 にあるが、船場地区に限定す ると、人 口 矢部 直人 ( 2 0 0 3 ):1 9 9 0 年代後半 の東京都心 にお け 増加 は、 マ ンションの立地が著 しい地区に限 られ る人 口回帰現象一港区における住民 ア ンケー ト調 査 の分析 を中心 に して-. 人文地理 , 第 5 5巻, ている。 7 99 4. 2. 船場地 区 におけるマ ンシ ョンの分布 は、 中央大 - 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