ロケット 宇宙への出発と帰還

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輸送技術
ロケット
宇宙船を地球周回軌道に乗せるためには、莫大なエネルギー が必要だ。
地球に帰還するときには、宇宙船の運動エネルギー は
地球の大気との摩擦によって熱となり、降下速度が減少する。
ロケットは反作用の原理に従って飛ぶ。 化剤には液体酸素か酸素を含んだ化合物な
人工衛星や宇宙飛行士は打ち上げロケッ
それぞれの軌道上で互いに相手に近付いて
推進装置から燃焼ガスを後方に噴出させる
どを使用する。液体燃料ロケットを始動す
トで宇宙に運ばれるが、宇宙船を軌道の高
いく。必要ならば、それからドッキングする
と、ロケットと噴出ガスの質量とが互いに反
るには燃料と酸化剤を燃焼室にポンプで送
さまで打ち上げるだけでは十分ではない。 こともできる。ランデブー の技術は、宇宙で
発することによってロケットを前方に進ませ
り込み点火する。生じた排出ガスは高速で
そこから、軌道を回るのに必要な速度まで
る。この力を推力といい、排出ガスの速度と
ノズルを通って出て行く。
加速する必要がある。例えば、高度 300 km
飛行士を国際宇宙ステーションに運んだり
単位時間当たりの燃焼ガス量が増えるほど、 ロケット燃料としては、数ある燃料のう
ほどの低軌道では、秒速 8kmの速度とな
する際にも使われる。
推力が増大する。
る。これは地表すれすれの場合だ。もっと
こうしたランデブーでは、通常片方の宇
高い軌道を回る衛星は、これよりも遅い。
宙船が待ち受けて、もう片方が近付いてい
ち、液体水素、炭化水素あるいはヒドラジン
H イオン 推 進ロケットSMART 1 は、欧 州 宇 宙 機 関
が使われている。固体燃料 ( ESA )が打ち上げた探査機に使われた。
多段式ロケットの概念
衛星などの重量物を地球周回軌道に乗せる場合には、多段式ロ
ケットが使われる。この方式では、各段が独自のエンジンと燃料タ
ンクを備える。各段が燃料を
使い果たすと切り離され、次
の段が点火される。こうして
衛星を点検するのに役立つし、機器や宇宙
ロケットでは、燃料と酸化剤
く。近付いていくほうの宇宙
を混合した固体燃料が燃焼
船 の 飛 行 は、位 置、速 度、
室に蓄えられている。ハイブ
軸、角度が相手と同じになる
リッド推進剤は通常、固体
ように、厳密に制御しなけれ
in focus
「カナダーム 」 は、軌道上で重量物を操作するためのロボットアームだ。
打ち上げ場所 赤道付近で打ち上げると、ロケットはす
でに地球の回転速度で運動していることになる。そのた
め加速エネルギーが少なくて済む。
燃料の重量 地球の重力と空気抵抗に打ち勝つために
は大量の燃料が必要であり、ときにはロケットの打ち上
げ時重量の 90 %に達する。
燃料と液体酸化剤を組み合
ばならない。この複雑な操作
は、地上局および近付いてい
使われた炭素気化却材の場合、外部温度が
くほうの宇 宙 船がレー ダー
2000℃を超えても、内部の温度は 27℃に
冷却方法
で追跡しながら行う。
とによって、各段の推進力か
加速度を得ることができる。
H 米 NASA のスペースシャトルで使われるマニピュレータ
わせて使用する。
ロケットの重量が減っていくこ
H 多段ロケットによって効率的に大きな
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宇宙への出発と帰還
ロケット・エンジンは、反作用の原理によって力を伝える。
これは飛行機のジェット・エンジンと同じだが、ジェット機よりも、
けた違いの推力が必要であり、真空の宇宙でも飛べなくてはならない。
basics
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保たれた。ほかの方法として、スペースシャ
トルに使われてきた耐熱タイルがある。
ら大きな加速度を得ることが
ロケット燃料が燃焼する
できる。各段を縦に重ねたり、
と極めて高温になる。そのた
固体燃料の補助ロケットを横
め燃焼室とノズルを冷却す
宇宙船が地球に帰還する
に束ねたりする。
る必要がある。エンジンが大
ときには、まず軌道上でエン
衝撃を緩和するため、内蔵する制動用ロケ
きい場合は、低温の液体燃
ジンを点火して減速を開始す
ットを地上付近で噴射するものもある。スペ
大気圏再突入
最終的に宇宙カプセルはパラシュートで
着陸する。カプセルによっては、着陸時の
料を燃焼室やノズルに沿っ
る。宇宙船の速度は非常に
ースシャトルは、飛行機のように着陸でき
飛行機との根本的な違いは、飛行機のエ
た配管に通して、冷却材として働かせる。別
大きいため、大気圏への突入
る点では優れている。ただ、そのために打ち
ンジンが空気中の酸素を使って燃料を燃や
の方法は、高温になる部分について、熱を
操作は極めて細心の注意が
上げ時の重量は大きくなり、技術的にも複
すのに対し、ロケットは空気のない宇宙を
通しにくい材料で被覆してそれが徐々には
必要である。地上に近付くと、 雑になるのが欠点である。
飛ぶための酸素を自分で持つことだ。
がれていくようにする。固体燃料では燃料と
濃くなっていく空気との摩擦
推力を得るにはいくつか方法がある。化
酸化剤の混合比を調整し、燃焼室の外周部
によって、船体は火の玉にな
学推進エンジンの燃料は固体か液体だ。酸
分だけは燃焼温度が低くなるようにする。
り速度が落ちる。
H 打ち上げ直後の米 NASA のスペースシャトル・コロンビア。
コロンビアの飛行は数々 の成功を収めてきたが、2003 年の 28 回目の
飛行で、大気圏再突入時に事故を起こして、完全に破壊された。
電気推進ロケット
電気ロケット・エンジンは、イオンガスあ
軌道上での操作
るいは蒸発しやすい金属を推進剤に使う。
宇宙船のこの発熱量と減
速 量は、再 突 入 時の速 度と
角度によって変わる。減速作
用は有人宇宙船カプセルにとって過酷なも
宇宙船が低軌道から高軌道に移動する場
のとなるが、わずかに浮力が生じるようなカ
は磁気で加速して噴出させる。ただし、この
合、一定の時間、エンジンを噴射する必要
プセル形状にすれば、緩和することができ
方式では十分な推力が得られないので、地
がある。この噴射によって速度が増すと、 る。摩擦熱の一部は気流によって発散され
電荷を帯びた推進剤の気体分子を電気また
上からの打ち上げには使えない。しかし衛
軌道は楕円形に膨らむ。楕円軌道の一番遠
星の姿勢制御や宇宙探査機の推進としては
い位置に来ると、再びエンジンを噴射する。 は熱遮蔽が不可欠だ。
十分な推力があるため、そうした用途では
この噴射で得られる推力によって、新しい軌
使われることがある。
道にぴったり合った速度まで、正確に加速
蒸発する際に熱を奪う現象を用いるのが、
する必要がある。
いわゆる気化冷却である。それに適した材
るが、再突入で燃え尽きてしまわないために
しゃへい
H 発射台に運ばれるロシアのプロトン Mロケット。ブー
スターを取り付けている。
H 本体に付けられた固体燃料ロケットブースター。打
ち上げ時に使われ、推進剤を使い切ると本体から切り
離される。
カプセルの被覆材が熱せられて、溶融・
ランデブー の場合には、2つの宇宙船は、 料で外壁を覆う。例えば、アポロ宇宙船に
p.413(ベクトル)参照
を用いた実
H 1998 年、大気圏再突入実証機( ARD )
験により、再突入技術の詳細な検討が行われた。