2016 年 1 月 7 日 ロイヤリング講義 講師: 弁護士 吉岡 康博 先生 議事録作成者 中前 悠 消費者被害の実態とその救済 0.はじめに 今日は消費者問題についてお話ししたいと思います。消費者問題とはこういうものがあ る、という具体的な話と、どうやって救済していくのかという話をします。 ここ数年なのですが、私は、大学生からトラブルの相談を受けているので、その話から したいと思います。学生の間で、マルチ商法が流行っている、というものなのですが、皆 さん聞いたことはないでしょうか。関西にも、私大を含めていくつかあるそうで、大学も HP などを通じて、注意喚起をしています。私が相談を受けた中でも、色々なパターンがあ るのですが、ここで 1 つ紹介したいと思います。 まず、友達から「君に夢はないのか。」という風に持ち掛けられる。それに対して、「ま だ夢はない。 」というように答えると、「それは、だめだ。」と説教されます。そして、「夢 を叶えるために必要なのは、人脈とお金だ。欲しくないか。 」と言われます。「欲しい。」と 答えると、 「それなら、僕の入っているグループに入らないか。そのグループには、大手会 社の社長や若い実業家の人たちも加入している。 」と言われ、 「加入する。 」と答えると、ホ テルやレストランに連れて行かれます。 勧誘をする人が、例えば知らないおじさんであれば、誰もついていかないのでしょうが、 話をしているのが友達なので、皆さん簡単に信用をしてしまいます。そして、ホテルに行 くと、豪華なロビーに勧誘者が待っており、 「君にはこういうものが必要だ。 」と言って DVD などを売りつけられます。雰囲気もあって、なかなか断ることができず、契約を結んでし まう。DVD の内容自体は、本当にしょうもないものなのですが、そんな DVD が 1 個 50 万円とかするわけです。勿論学生ですから、誰もそんな大金持っていませんよね。しかし、 勧誘を受けた学生達は、消費者金融に行くよう上手くそそのかされ、結局借金をして、そ の DVD を買わされることになるのです。そして、買った後に「君も友達に紹介してくれた ら報酬を支払うよ。 」と言われ、自分も報酬が欲しいがために、友達を勧誘する行為に走っ てしまい、被害がどんどん広がっていく、というものです。 最近私のところに来られて裁判になった事案の中に、この手法で FX の自動売買ソフトを 50 万円で買わされた、というものがあります。その学生によく話を聞いてみると、全く FX 取引などしたことがなく、なぜそのソフトを買ったのかと私が尋ねると、 「ソフトではなく、 そのグループに入ることが目的だった。 」と言っていました。50 万円を払ってでも、その魅 力的なグループに入りたかったそうです。そういった被害に遭った学生の話をよく聞いて いると、やはり言葉巧みに大学生の心理を突いてくる勧誘だ、と感じました。 学生向けのマルチ商法という暗い話から入ってしまいましたが、皆さんは、これから社 会に出て、色々な経験をする中で、経済的なトラブルに巻き込まれることが多々あると思 います。そんな時に、少し自分に落ち度があった、と感じる時もあると思いますし、全く 自分に落ち度がなくても、巻き込まれてしまうこともあります。皆さんは法学部生ですか ら、どうすればよいのか、どういう法律構成をすればよいのか。そのようなことを今日の 講義で学んでもらえればよいと思います。 1.クーリングオフに関する話 1 番簡単な法律構成の事案として、まず初めにクーリングオフの話をしたいと思います。 皆さんの中で、クーリングオフという言葉を聞いたことがある方はいますか。中学高校の 家庭科で聞いた人が多いみたいですね。大学に入ってから聞いた、という人は少ないよう ですね。クーリングオフについて、契約をなかったことにできるという位の知識はあると 思うのですが、細かいことを説明してくださいと言われると、どうでしょうか。困ってし まう人が多いのではないでしょうか。 ⑴クーリングオフの根拠は? 特定商取引に関する法律に規定があります。 対象となる基本的なものとして、訪問販売や電話勧誘販売があります。突然家に押しか けてきて、巧みに物を買わせるとか、突然電話がかかってきて、商品購入を勧誘され、な かなか電話を切らせてくれない、というものです。これらには、クーリングオフが認めら れています。その他にも特定商取引に関する法律にはいくつかの類型があり例えば、特定 継続的役務提供と言われる英会話やエステなどもこの方法でクーリングオフすることがで きます。 クーリングオフとは、無条件で、契約をしてから一定期間はその契約を解除できる制度 のことを言います。この趣旨は、クーリング、つまり、頭を冷やして冷静に考えることで す。よく学生さんと議論をしていると、クーリングオフは、詐欺的な商法や、無理矢理買 わされた時にのみ適用できるものだと思っている方が多いようですが、不意打ち的に商品 を勧められた場合に、契約後に頭を冷やして冷静に考えるという点が法の趣旨になります。 ⑵クーリングオフの実際の使い方 では、実際にどういう時に使えるのか、ということについてお話ししていきたいと思い ます。まず、こういう事例を思い浮かべて下さい。 皆さんは地方から大阪にやって来て下宿しているとします。ある日、実家のお母さんか ら電話がかかってきました。今日、同居のおばあちゃんが 1 人で家にいた時に、訪問販売 業者が来て、10 万円もする健康食品を買わされたというのです。お母さんが言うには, 「お ばあちゃんも、こんなものはいらないし、何とかして、取り消すことはできないか。すで に業者に支払った 10 万円を何とかして、取り返してほしい。 」ということです。 このような時、クーリングオフは使えるでしょうか。まず、契約を解除することが必要 なので、まず初めに、解除する旨の意思表示を業者にすることになります。一般的には書 面で行うのですが、どういう書面で行うのでしょうか。資料 1 を見て下さい。 これは、私が、高齢者の方の代理人として書いた書面です。見てもらったら分かると思 いますが、クーリングオフの書面というのはそれほど難しいものではありません。要する に、こういう契約をしましたが、この書面で解除しますよ、ということを記載していれば よい、ということになります。 この書面は内容証明郵便で送らなければならないのですか、という質問を受けることが よくあります。ここで内容証明郵便についてお話しします。内容証明郵便は、郵便物の内 容を郵便局が証明してくれるというものです。今はインターネットを使った送付方法もあ るのですが、今日は従来のやり方を紹介しましょう。同じ内容を記載した手紙を 3 通作り、 それを郵便局に持っていきます。 郵便局員が 3 通の内容が同一であることを確認した上で、 1 通を封筒に入れて送り、1 通は郵便局に控えとして残します。もう 1 通は差出人の手元に 記録として残ります。もし、送られた郵便物がどういう内容だったか確認したいときには、 郵便局が証明してくれるという仕組みになっています。 内容証明郵便を発送した後どうなるかと言いますと、通常、資料 1 の次のページにある ような配達証明書が手元に送り返されます。何年何月何日に配達した、ということを郵便 局が証明してくれるのです。クーリングオフの場合、受取人が「そんなもの受け取ってい ない。 」と言って来ないように、公的機関である郵便局が証明してくれるようにしておくこ とが必要だ、ということになります。ちなみに内容証明郵便は形式が決まっていて、20 行 ×23 文字以上を 1 ページに書くことができません。1 頁だったら 1700 円位で証明してくれ るので非常に便利なものです。皆さん弁護士になられない方も、会社などで、重要な書類 を送る時はこれを使うことになると思いますので、頭の片隅に置いておくと、将来役に立 つかもしれません。 次は、皆さんのところに電話がかかってくるのが一週間遅かった、つまり、先週おばあ ちゃんが健康食品を買っていました、という事例について、考えてみましょう。一週間前 の訪問販売について、今からでもクーリングオフできるのかな、という相談を受けたら、 皆さんはどうしますか。 クーリングオフは何日間することができるでしょうか。法律上は 8 日間することができ ます。ですから、一週間前であれば、ぎりぎりセーフということになります。また、クー リングオフは発信主義をとっているので、通知を送った瞬間に契約を解除できることにな ります。 おばあちゃんの手元にある健康食品も着払いで送り返せば、何ら問題はありません。健 康食品くらいであればよいのですか、例えば、よくある事例で、床下換気扇。これも 50 万 100 万する場合があるのですが、この場合も、相手方の費用で原状回復をすることができま す。 ここまでが、原則のクーリングオフの事例です。次は少し応用問題になります。 皆さんはお母さんからこのように言われました。おばあちゃんは、10 日前に健康食品を 訪問販売で買ってしまったようだ、と言うのです。そうすると、先ほどお話しした 8 日間 を過ぎているからクーリングオフできないのではないかとも思えます。しかし実は、この ような場合でもクーリングオフできる場合があるのだ、ということを今から話したいと思 います。 では、皆さん。早速ですが、この 8 日間、何をしてから 8 日間だと思いますか。イメー ジとしては、契約をしてから 8 日間だと考えている方が多いと思いますが、特定商取引法 にはこのようには書いていません。少し大ざっぱな言い方ですが、契約書をもらってから 8 日間という風に規定されています。ですから、契約書をもらっていなければ、起算しませ んので、クーリングオフは 10 日たってもできる、ということになります。 そこで、皆さんはお母さんに、 「おばあちゃんは契約書もらっている?」このように聞く でしょう。しかし、残念ながら、おばあちゃんは契約書をもらっていたとします。でも、 ここであきらめるのはまだ早い。まだクーリングオフできる可能性があります。まずは契 約書を穴が開くほど眺めて下さい。資料 3 を見てみましょう。 これは、クレジットで買った場合の契約書です。この契約書は、先ほどの事例とは違っ て、何かの省エネシステムの工事費ということになっています。一式で約 80 万円と記載さ れています。ここで、資料 2 を見て下さい。これを見ると、契約書はこのようなことを書 いて下さい、というのが細かく法令で定められています。逆に言うと、これらを全て記載 していないと、特定商取引法に定められている契約書を渡したことになりません。そして、 その結果、クーリングオフの起算点も開始しないことになります。ここで、もう一度資料 3 の契約書を見て下さい。これらの記載事項が書かれているか順番に確認してみましょう。 契約当事者に関する事項はきっちりと書かれていますね。しかし、契約締結の年月日を見 てみると、空欄になっています。そして、この契約書の致命的なところは、商品名に「省 エネシステム工事費サービス」と記載されていること、これは商品名ではない、というこ とです。さらに、商標も書かれていなければ、商品の数量も“一式”となっています。つ まり、特定商取引法に定められた要件を全く満たしていないので、これをもらったからと 言ってクーリングオフの起算点は開始しない、ということになります。 資料 3 は、わざと契約書の内容を変えたものなのですが、実際意外とこれらの内容が抜 け落ちているものは多いです。 事例に戻りますと、皆さんは、お母さんにおばあちゃんがもらった契約書を写メか何か で送ってもらうようにしましょう。そして、これらの内容が抜けていないか確認する。そ うすれば、10 日たっていても、クーリングオフできる可能性は残っています。 今のは、業者の側で契約書の記載内容にミスがあったという事例でしたが、もう 1 つよ くあるのは、訪問者側が訪問販売であると意識していない場合です。最近あった相談なの ですが、高齢者に、コンテナを買うよう勧誘があります。コンテナを倉庫として貸すこと で、そのレンタル費用がかえってきて数年後には利益をあげることができると言って、契 約させるというものです。こういう業者は投資ですよ、と言って契約させてきたので、本 人たちも投資という理解で、訪問販売で商品を買ったという意識はありませんでした。し かし、これも、訪問して言葉巧みに消費者にコンテナを買わせるものですので、訪問販売 であり、立派な売買契約です。ですから、この場合も、先ほどと同様に契約書に規定の内 容を記載していないとならないのですが、業者にもそういう意識がなくて、適当な契約書 しか作っていない、ということがあります。これも、勿論起算点は開始しませんので、ク ーリングオフの対象になります。 ちなみに、クーリングオフの書面に対しては、悪質な業者でもきちんとこれに応じてく れることは多いです。なぜかと言いますと、クーリングオフされているのに契約を解除し ない、となりますと、特定商取引法違反になり、いきなり罰則ということはないのですが、 行政処分(都道府県からの指導)の後、改善しないと罰則を受けます。彼らは、警察が介 入して、詐欺をしていることがばれてしまうことを恐れています。ですから、クーリング オフの申し出があった人には対応してきます。 以上がクーリングオフに関するお話しです。 2.クレジットカードに関する話 今日はもう 1 つ、クーリングオフと並んで皆さんには覚えておいてほしい、クレジット カードに関するお話しをしようと思います。 今クレジットカードを持っている、いう方は少ないかもしれませんが、社会人になれば 皆さん必ず持つことになると思うので、ぜひ今日の話を聞いていてほしいと思います。 ⑴クレジットカードの仕組み まず、クレジットカードの仕組みについて、簡単にお話ししたいと思います。消費者が お店でクレジットカードを使って商品を買ったとき、消費者と売主の間には売買契約が成 立します。消費者とクレジットカード会社(以下、信販会社)との間には会員契約が結ばれて おり、売主と信販会社の間には加盟店契約が結ばれています。皆さんが売買契約を結ぶと、 まず商品は、売主から皆さんに引き渡されます。一方、代金支払いについては、クレジッ トカードで決済をしたときに、レシートのようなものにサインをしますが、その控えが信 販会社に送られ、毎月決まった日に信販会社から売主にお金が一括で振り込まれます。消 費者には、翌月以降信販会社から請求が来ます。一括のときもあれば分割の時もあります。 しかし通常、この三者契約になることは少ないです。例えば、皆さんは信販会社 A と契 約を結んでいるとします。ところが、売主が信販会社 A と契約を結んでいるとは限りませ ん。信販会社 B と契約を結んでいるとします。そのような場合、信販会社 A と信販会社 B でお金のやり取りをして、売主への振込、皆さんへの請求が行われます。 ところで、信販会社がどうやって利益を上げているのかと言いますと、例えば、1 万円で 何かを買ったとすると、皆さんは 1 万円を信販会社に払うのですが、信販会社から売主に は、例えば 9500 円しか払われません。では、500 円はどこに行ったのかと言いますと、こ の信販会社 A と信販会社 B で取り合う利益ということになります。この売主からすると、 1 万円の物を売って 9500 円しかもらえないので、損をしているわけですが、現金を持って おらずに買ってくれない客も、クレジットカードだったら買ってくれるという場合が多々 あります。ですから、500 円損してでも、クレジットカードを使えるようにしておきたい、 と考える売主は信販会社と加盟店契約を結ぶ、ということになります。 ⑵クレジットカードに関するトラブル クレジットカードに関する消費者トラブルにはどのようなものがあるのでしょうか。私 が大学生の頃は、梅田のあたりでキャッチセールスが流行っていました。梅田を 1 人で歩 いていて、学生とわかると呼び止められます。足をとめると、「英語がうまくなる。」とい うような話をされ、関心を示すと、事務所に連れていかれて、高い英会話教材を買わされ るというものです。今は、梅田で声をかけられることはないのかもしれませんが、よく相 談で聞くのは、旅先で声をかけられるというものです。また、これも、私が大学生のころ によくあった話なのですが、アポイントメントセールスというもので、個人情報の管理な どがそれほど厳しくなかった時代に名簿が簡単に売買され、私の自宅に電話が掛かってき たことが何度かあります。手口としては、キャッチセールスと同じで「旅行に興味はあり ませんか。 」というような勧誘から、事務所に呼び出されて、やはり高い教材などを買わさ れる、というものです。 ここで、考えてもらいたいのですが、皆さんはこういった勧誘に引っかかって、英会話 教材を買ってしまったとします。高額だったので、クレジットカードで分割払いの契約を してしまいました。さっきの話だと、クーリングオフの書面を相手方に送ればよかったの ですが、今回は間にクレジットカード会社が入っています。少しややこしい話になりそう ですね。 さて、皆さんがキャッチセールスやアポイントメントセールスに遭って高額の英会話教 材をクレジットカードで買ってしまった。この場合も、クーリングオフの通知を売主に出 してください。実は、キャッチセールスやアポイントメントセールスは、自宅を訪問して 販売する訪問販売には当たりませんが、不意打ちの趣旨は同じなので、特定商取引に関す る法律では訪問販売として扱われているのです。 もっとも、先程は、この売主がお金を返すということでしたが、今度は、信販会社が間 に挟まっているので、直接お金は返ってきません。最近法律が変わって、色々な方法があ るのですが、1 番オーソドックスな方法としては、 「こんなクーリングオフの通知を出しま したよ。 」という書面を信販会社に送る方法があります。そうすると、信販会社からの請求 は止まり、消費者はお金を引き落とされずに済みます。 次に、少し応用のお話しをしたいと思います。今お話ししたのは、分割払いの場合です から、この場合は割賦販売法という法律を使うことができます。この法律には、消費者が 売主に対抗できた抗弁を、信販会社に対しても言うことができる、ということが定められ ています。抗弁の対抗というものです。 ただ、一括払いの場合は、割賦払いではないので、この法律は適用されません。そうな ると、クーリングオフをしても、抗弁の対抗を使うことができません。どうすればよいの でしょうか。ここで、事例を 1 つ作って考えてみたいと思います。 皆さん海外旅行に行くことや、通販で海外の物を買うことがあると思います。カード決 済をした後に、トラブルがおきてしまったら、どうしますか。例えば、アメリカへ旅行に 行き、レストランに行って、5000 円のものを食べました。ちょっとお酒を飲みすぎたこと もあって、ちゃんと確認せずに、カード決済の署名をしてしまいました。しかし、後で見 てみると、0 の数が 1 つ違っていました。このようなケースは、1 回日本に帰ってしまうと、 アメリカに電話して、交渉するしかありません。 こんな場合には、まず、皆さんが契約している信販会社に電話してください。英語のス ピーキングができなくても、大丈夫です。この信販会社が全て調査をしてくれます。資料 となる物を全て信販会社に送ると、1 ヶ月位時間はかかるのですが、海外の信販会社に問い 合わせてくれます。そして、海外の信販会社がそのレストランに問い合わせ、間違いが分 かれば、まずこの両者の間で、お金のやり取りがなされます。そして、皆さんが契約して いる信販会社との間でやり取りがあった後、皆さんのもとに請求の取消しの連絡が届く、 という形で解決することになります。 今の例に限らず、海外でなくても信販会社と加盟店の間でトラブルがあると、加盟店は 加盟店契約を解除されます。店舗としては加盟店契約を解除されて、カード決済できなく なると困るので、信販会社の主張を比較的よく受け入れるようになっています。 ここまでが、皆さんトラブルにあった時にこういう風に対処すればよい、というお話で す。一言でいうと、皆さんが契約している信販会社に相談すると、意外と親切に対応して くれるということです。勿論手数料もかかりません。 後 1 つ、最近問題になっていることについて、話しましょう。決済代行を行っている会 社があって、このような会社が問題になっています。決済代行とは何でしょうか。例えば、 大手のショッピングセンターの中に入っている店舗は、個々では信販会社と契約を結ぶこ とをせず、このショッピングセンターに紐づく形で加盟店契約を結んでいることがありま す。信販会社から毎月支払われるお金も、ショッピングセンターが一旦一括して受領し、 それを店舗に支払っています。この時にショッピングセンターが行っているのが、決済代 行という役割です。 これは分かりやすい例なのですが、問題になるのは次の例。例えば、私が本を執筆して その本をネットで売ろうとしているとします。この場合、私のような個人と信販会社は契 約を結ぶことはできません。ここで登場するのが、決済代行会社です。私は、この決済代 行会社と契約を結びます。そうすると、インターネットで消費者から見ると、普通にカー ドで決済をしているようにしか見えないのですが、実際は、この決済代行会社と信販会社 がやり取りをして、手数料をひいたうえで、私に決済金額を渡してくれる、ということに なります。この仕組みは実際、信販会社と契約を結べない中小企業などで重宝しているも のです。 しかし、世の中には、色々な決済代行会社がいて、悪い業者ばかりと提携している会社 もあります。そんな中で、今も昔も相談が多いのが、出会い系のサイトです。出会い系の サイトと言っても、皆さんが思い浮かべるような純粋な出会いを提供するようなものでは ありません。まず、使用者がクレジットカードを使って、ポイントを買います。そしてこ のポイントを使って、メールを送ると若い女の子から返信が返ってくるというものです。 何回かやり取りがあって、実際に会いましょう、という話になるのですが、大抵は詐欺業 者なので、出会えません。メールを送っているのも、私くらいの年代の男性です。これに はまってしまう人は多いみたいで、一度はまってしまうと簡単に 50 万 100 万使ってしまい ます。このような出会い系サイトが流行っています。勿論このような出会い系サイトの会 社はまともな会社ではありませんので、やはり信販会社と契約を結ぶことはできません。 彼らはどうするかと言いますと、脇の甘い決済代行会社と契約を結んで消費者にカード決 済を可能にしているというわけです。 さて、このような場合にどうして被害救済するのかと言いますと、決済代行会社の下に 悪質業者がぶら下がっているので、相手方の信販会社からはこの業者はわかりません。で すから、私たちがまずするべきことは、消費者側の信販会社に連絡をして、この決済代行 業者が何者かということをつきとめます。一方で、問題となっている悪質業者が出会い系 サイトでこれだけ被害を出しているというデータを集めてきます。これは、国民生活セン ターなどに照会をかけると何十件も被害データが出てきます。そして、それを持って、決 済代行会社に、契約を結んでいる業者が悪質な業者であることを証明し、お金を返さない と、信販会社にこのことを伝えるぞ、というようにプレッシャーをかけます。これによっ て返金されるケースもあります。 以上がクレジットカードの話になります。 3.消費者問題 まとめ 今日の話をまとめると、1 つ目がクーリングオフについて。クーリングオフの行使の仕方 と、契約書面に不備があると、クーリングオフの起算点は始まらない、ということを話し ました。2 つ目が、クレジットカードについて。その仕組みと、トラブルにあった時、色々 なところと連絡をとることで解決につながることをおさえておいていただければと思いま す。 4.最後に 私もロイヤリングの講師をさせてもらうようになって 16 年目であり、ずいぶん歳をとっ たものだ、という印象です。最後に 2 つ、私の個人的な話をしたいと思います。 まず 1 つ目。皆さんは和歌山カレー事件をご存知でしょうか。平成 10 年に和歌山市内に ある町内会の夏祭りで振る舞われたカレーの中にヒ素が混入しており、それを食べた人が 次々と病院に運ばれ、何人かが亡くなったという事件です。ヒ素をその当時、自宅に保有 していた女性が逮捕され、死刑判決が下されて最高裁で確定し、現在再審を申し立ててい ます。 私が司法修習生の頃は 1 年半の間、地方で修習をすることになっていて、私の場合は、 平成 10 年、和歌山地裁に配属されていました。私が配属されて、ちょうど 1 週間くらいで この事件が起きたことになります。刑事事件の手続きを、間近で見ることができたわけで すが、その中で印象に残ったことがあります。 司法修習生になると、色々な弁護士事務所を訪問することができます。私も、当時は色々 な事務所にお邪魔していたのですが、その中で、まさに和歌山カレー事件の弁護人をされ ている先生の事務所を訪れる機会がありました。その際、私は無礼にも、 「先生、なぜこん な事件の弁護人をされているのですか。 」と尋ねました。すると、先生は、自分はたまたま このカレー事件が起きた時に大阪弁護士会の刑事弁護委員会で委員長をやっていた。誰も 引き受け手がないから、とりあえず自分がやらなくてはいけない、ということで引き受け た。被告人が、神様の目から見て、白か黒かはわからない。しかし、引き受けたからには、 被告人にも、憲法上刑事手続きが保障されているのだから、一生懸命弁護をしなければな らない。ということをおっしゃって、とても感銘を受けた記憶があります。 私は今でも、大変な事件に当たった時、このエピソードを思い出すようにしています。 皆さんも、これから生きていく中で、困難にぶつかることもあると思います。しかし、こ れも全て運命の中にあるということを意識して、使命感を持って臨んでもらいたいと思い ます。 もう 1 つは、学生時代の過ごし方です。私は、大学時代あまり勉強をしませんでした。4 回生になってから、勉強が楽しいと思うようになり、そこから勉強を始めて弁護士になり ました。それまでの時間は、本当にもったいなかったな、と思っています。ですから、皆 さんには、何でもいいから、できることを一生懸命してほしいです。何でもいいとは言っ たものの、皆さんはせっかく法学部に入ったのですから、何か 1 つ法律をしっかり学んで もらえたらな、と思います。法学部で身につけた、法律的な考え方というのは、将来社会 に出た時に必ず役に立ちます。 後、私がやっておけばよかったな、と思うことは外国語です。これができると非常に武 器になると思います。私が学生時代の時には、中国語なんて見向きもしなかったのですが、 やはり英語や中国語ができる人は強いです。また、興味がある人にはぜひ、簿記をやって もらいたいと思います。会計の考え方を身に着けることができるので、これも将来必ず役 に立ちます。社会人になってから始めるのも、なかなか大変なので、学生時代に挑戦して みてほしいです。 皆さん、2 回生が多いということで、学生時代まだまだ時間があります。ぜひ、色々なこ とにチャレンジしていって下さい。 以上で本日の講義を終わります。ありがとうございました。 以上
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