日本のエネルギー安全保障 ~アメリカの視点から

今 月 の 特 集 (寄稿)
日本のエネルギー安全保障
ジェイン・ナカノ氏
~アメリカの視点から〜
米国戦略国際問題研究所
エネルギー・国家安全保障部 上級研究員
現在、日本が非常に困難な状況にあることは、疑いの余地がありません。世界第3位の
経済大国である日本は、2011年3月 日に起こった福島第一原子力発電所の事故を受
けて
11
基の原子炉のうち、 基が停止し、 基が廃止されました。その発電量の不足分を
48
6
◆
型”の天然ガス、石油と呼び、地下数千メートルにあるシェール(頁岩)層などに存在し
これまでの通常のガス田や油田以外から生産される天然ガスや石油のことを、
“非在来
のか、 こ の 革 命 の 概 要 を 見 て み ま し ょ う 。
シェール革命がアメリカのエネルギー経済や外交政策にどのような影響を及ぼしてきた
アメリカのシェール革命とは何か?
はあり ま せ ん 。
には微妙であって、それが日本にとってどのような意味をもつのかを見極めるのは容易で
のエネルギー戦略に大きな影響を及ぼしています。しかし、その影響は複雑であり、とき
化し始めています。このシェール革命は、日本のエネルギー安全保障や、また、これから
その一方で、世界のエネルギー情勢は、アメリカの“シェール革命”によって大きく変
の輸出を止めて起こった石油危機以来、最大の危機に瀕しています。
ざるを得なくなったのです。日本のエネルギー政策は、1970年代にアラブ諸国が原油
よってこの計画はまったく非現実的なものとなりました。エネルギー政策を大幅に見直さ
電量を、2030年には全体の半分にまで引き上げることを計画していましたが、事故に
事故前、日本政府は、2007年に総発電量の約3分の1を占めていた原子力による発
か乗り 切 ろ う と 努 力 し て い ま す 。
なものとなってしまいました。日本は、このことによって不安定になった国内経済を何と
LNG(液化天然ガス)などの化石燃料による火力発電で代替しましたが、燃料費が膨大
54
1
2
ひろば441号 - 特集
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ます。これらはアメリカを含む北米全域に広く分布しています。米国エネルギー情報局の
2013年6月の調査によれば、アメリカには技術的に回収可能なタイトオイル 頁( 岩や
砂岩など高密度な岩盤層から採取されるシェールオイルなどの石油 が) 、世界の総量の
%に当たる580億バレル、また、技術的に回収可能なシェールガスが、世界の総量の9
%に当たる約 兆立方メートル、存在しています。
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能も向 上 し た 結 果 、 シ ェ ー ル 層 に 巧 み に 圧 力
を掛け て 浸 透 率 を 高 め 、 シ ェ ー ル 層 に 閉 じ 込
2040
2030
められ て い る 天 然 ガ ス を 取 り 出 せ る よ う に な
ったの で す 。
こう し た 技 術 が 進 歩 し た お か げ で 、 ア メ リ
カでは 2 0 0 6 年 か ら 2 0 1 3 年 に か け て シ
ェ ー ル ガ ス の 生 産 量 が 約 9 倍 に 増 え ま し た。
国内の 天 然 ガ ス 生 産 量 に 占 め る シ ェ ー ル ガ ス
の 割 合 は、 数 年 前 ま で は ご く 僅 か で し た が、
アラスカ産
2020
2010
2000
現在で は 3 割 に 達 し て い る の で す 。 さ ら に 2
040 年 ま で に は 、 お よ そ 5 割 に ま で 増 え る
と予測 さ れ て い ま す 。 減 少 傾 向 に あ っ た ア メ
リカ国 内 の 天 然 ガ ス 生 産 量 も 、 シ ェ ー ル 革 命
以降は増加傾向に転じているのです。(資料
①参照 )
資料① 米国のガス供給総量に占めるシェールガスの割合の増加
米国の乾性ガス生産量(兆立方フィート / 年)
30
50%
出典:米国エネルギー情報局(EIA) 、2013年年間エネルギー見通し
例えば、水圧破砕は数十年も前から利用されてきた技術ですが、この技術が進歩し、技
意欲が 刺 激 さ れ た こ と が 挙 げ ら れ ま す 。
③2007~2008年にかけて天然ガスの価格が経済的に魅力のあるものとなり、投資
グなど、高度な技術が実用化されたこと、②シェール生産技術・技能が蓄積されたこと、
イプライン等の設備が整っていたことに加えて、①シェール層の水圧破砕や水平ボーリン
シェール革命がもたらされた要因は、従来から私有地での資源開発が可能なことと、パ
経済の変革が目に見えるようになったのはここ数年のことです。
はここ十数年ほどのことです。したがって、非在来型の石油・ガス生産によるエネルギー
とは分かっていましたが、ようやく商業的にシェールガスの生産ができるようになったの
実は、アメリカでは数十年前から非在来型の石油や天然ガスが国内に埋蔵されているこ
20
3
4
タイトガス
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本土 48 州陸上在来型
本土 48 州沖合
コールベッドメタン
0
1990
34% シェールガス
20
見通し
2011
実 績
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シェール革命が及ぼす影響は、天然ガスだけにとどまりません。非在来型の石油の生産
も同様に増え、ここ数十年間減少傾向にあった国内の石油生産量が増加傾向に転じました。
2009年から2012年にかけて、非在来型の石油の生産量は3倍以上に増え、201
2年、2013年には、アメリカはサウジアラビアやロシアを抜いて、石油と天然ガスの
世界最 大 の 生 産 国 と な っ た の で す 。
シェール革命の影響は、世界のエネルギー経済におけるアメリカの立場を変えつつあり
ます。自動車の燃費を向上させる厳しい基準が設けられたことや、経済の回復が緩やかで
あることなど、石油の需要があまり増えない状況のなかで、非在来型の石油の生産量が増
えているため、アメリカでは2005年から石油の輸入依存度が低下しているのです。
具体的に言えば、2005年以降、シェールガスを含む天然ガスの国内生産量は %の
増 加 と な り( こ れ は、 世 界 の L N G 市 場 で の 取 引 量 の 約 半 分 に 相 当 す る )
、その結果、ア
40
メリカの天然ガスの輸入量は %減少しました。また、石油の生産量も %増え(世界の
50
5年以 降 の 石 油 の 輸 入 量 は % 減 少 し ま し た 。
石油市場での取引量の約3%に相当)天然ガスと同様に国内生産が増えたことで、200
28
◆
の石油の価格はさらに不安定になっていたことでしょう。
ことで、世界の石油市場の緊張が緩和されました。シェール革命がなければ、世界市場で
り中断したりしたにもかかわらず、アメリカで急速にシェールオイルの生産が本格化した
同様に、イラン、イラク、リビア、ナイジェリアなどの産油国で石油の生産が減少した
刻な供 給 不 足 を 防 い だ と い う こ と に な り ま す 。
前はアメリカに輸出されていたものです。アメリカのシェール革命が、アジアにおける深
例えば、日本では特にカタールからのLNG輸入を増やしましたが、このLNGは、以
がアジア市場に回ることになり、その影響を最小限にとどめることになったのです。
域の天然ガスの価格を上昇させる要因となりましたが、従来、アメリカ市場向けのLNG
福島第一原子力発電所の事故以後に日本で天然ガスの需要が高まったことは、アジア地
エネル ギ ー 供 給 の 安 定 化 に 貢 献 し て い ま す 。
はじめとする天然ガス輸入国が利用できるLNGの供給量が大きく増えたことは、日本の
このシェール革命によってアメリカの天然ガスの輸入依存度が下がったために、日本を
シェール革命は、日本にとってどのような意味があるのか?
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5
6
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さらに、数年後にはアメリカのシェールガスの輸出が始まり、アメリカが天然ガスの純
輸出国になると考えられます。天然ガスの価格に規制の無いアメリカの国内ガス価格は、
ヘ ン リ ー・ ハ ブ ル( イ ジ ア ナ 州 に あ る 天 然 ガ ス の 集 積 地 の) 市 場 価 格 と リ ン ク し て い て、
100万BTUというイギリスの熱量単位で4~5ドルです。日本の天然ガスの価格は
~ ドルですから、天然ガスをLNGにする液化と専用船での輸送のコストを加えてもア
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が総輸出収入の %を超え、ロシアの連邦予算収入の ~ %程度を占めるほど、その経
従来石油と天然ガスの世界最大級の生産国であるロシアは、エネルギーの輸出による収入
かの特別な二国間関係に影響が出始めています。その一つは、日本とロシアの関係です。
このように、アメリカが重要なエネルギー供給大国としての地位を高めた結果、いくつ
ます。
なるであろうアメリカからのLNGは、日本のエネルギー安全保障に貢献することになり
通らずに運ぶことができます。パナマ運河を通過した後は、太平洋上の公海を通ることに
これに対し、アメリカからアジアへは、このような地政学的な争いのある地帯や地域を
あるいは南シナ海など地政学的に緊張が高まっている地域を通ります。
れらの国から運ばれる天然ガスは、ほとんどがホルムズ海峡やマラッカ海峡などの難所、
給国は、マレーシア、オーストラリア、インドネシア、カタール、ロシアなどですが、こ
日本がより安定して天然ガスを得る助けになることでしょう。現在、日本への天然ガス供
さらに、アメリカがLNGを輸出することは、日本向けの天然ガスの供給国が多様化し、
ェクト へ の 投 資 も 計 画 し て い ま す 。
は、より安価な天然ガスを手に入れるために、アメリカのいくつかのLNGの輸出プロジ
ジア市場にとって、アメリカ産のLNGは商業的にも魅力的なものとなります。日本企業
17
40
50
から2035年には %にしたいと考えています。
アジアへの輸出を増やし、アジアへのガス供給がロシアの輸出に占める割合を現在の6%
うと、アメリカのシェール革命以前からアジアに目を向け始めています。今後、ロシアは
ています。そこでロシアは、好況を維持するため、エネルギーの輸出による収入を増やそ
いため、ヨーロッパを最大の天然ガス輸出市場としてきたロシアにも経済的な困難が生じ
ヨーロッパでは経済危機が長引き、その結果としてエネルギー消費があまり伸びていな
済はエ ネ ル ギ ー 貿 易 に 頼 っ て い ま す 。
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アジア市場でのシェアを拡大したいロシア、そして天然ガスの需要が増えている日本、
そうした両国間の相互作用はより強まってきています。すでに現在、ロシアから日本への
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天然ガス輸出に関するいくつかの案件が交渉のテーブルに載っています。
一方、ロシアは、天然ガス生産量が膨大なアメリカだけでなく、近い将来に新たなLN
G供給を開始するオーストラリアやカナダ、またはモザンビークなどとも将来、アジアに
おいてLNG供給のシェアを巡って競い合うことになることを鋭く察知しています。
ロシアは長年、その豊かなエネルギー資源を外交のカードとしてきましたが、アメリカ
が世界のエネルギー供給国として台頭すると、これまでと同様なエネルギー外交では、地
政学的な意味での国益の追求を推し進めていくことが難しくなる可能性も出てきます。
また、地域市場でのエネルギーの供給が十分に確保されることになれば、東シベリアや
極東での資源開発の商業的な見込みについて、投資家がより厳しく精査するようになるで
しょう。ロシアでは西シベリアでの石油と天然ガスの生産が落ちてきたため、これを補う
ために東シベリアと極東での資源開発を計画しています。しかし、厳しい気候をはじめ、
社会経済的インフラの不足など数多くの困難があるため、非常にコストがかかり、外国か
らの投 資 が 必 要 と 言 わ れ て い る の で す 。
アメリカ等の新しい供給国と、従来からの供給国であるロシアによる厳しい競争によっ
て、ロシアからアジアへの天然ガスの輸出案件では、それにかかる費用と得られる便益を
計算し 直 す 必 要 が 生 じ る か も し れ ま せ ん 。
シェール革命から生じる複雑さと不確実さ
◆
アメリカのシェール革命は、日本のエネルギーや経済の安全保障上の課題にいくつかの
利益をもたらしますが、万能薬ではありません。
第一に、ヘンリー・ハブによる取引から生じている天然ガス価格の優位性は、長期的に
確保されているとは言えません。LNGの輸出によるアメリカ経済への影響については、
多くの研究がなされていますが、一連の輸出プロジェクトが2010年代後半に実現され
ると、国内の供給レベルは適切に維持されるとしても、ヘンリー・ハブの価格は需要の増
加を反映して値上がりするだろうと考えられています。そうなれば、アメリカの価格と他
の国から供給されるLNGの価格差が縮まり、価格差によって可能だった液化と輸送の費
用の相 殺 が 難 し く な る 可 能 性 も 出 て き ま す 。
日本のエネルギー安全保障に関して言うと、シェール革命によって、日本がこれまで石
油や天然ガスを輸入してきた中東やロシア、東南アジアから、今後は輸入する必要性が無
くなる、というわけではありません。例えば、アメリカの石油に関しては、少数の例外は
9
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あるものの原則禁止されている原油の輸出が解禁になったとしても、アメリカの生産量の
大半は国内で消費されると思われます。この点で、アメリカは中東やロシアなどの供給国
と異な っ て い る の で す 。
また、シェール革命は、石油の供給国である中東の多くの国に安全保障上の影響を及ぼ
し、世界のエネルギー情勢の不確実性を高める可能性があります。中東のエネルギー資源
は世界の重要なエネルギーであるだけでなく、産油国自体の経済的な健全性にとっても重
要で、エネルギーの輸出が国家収入の大きな柱となっています。例えば、サウジアラビア
は政府収入の約 %、アラブ首長国連邦は政府収入の %が石油の輸出によって賄われて
いるの で す 。
80
現在、日本は石油の %を中東から輸入していますので、中東の不安定性は日本にとっ
ます。
ペルシャ勢力の争いやイスラムの宗派間抗争といった、問題が一層激化する可能性もあり
が減ってしまいます。さらに国内が不安定になることで、何千年にもわたるアラブ勢力と
済が弱まり国民の不満が高まるだけでなく、国内の治安を維持するために利用できる資金
ところが、もしシェール革命が長期的に低価格な原油市場を生み出したら、産油国の経
は、より多くの政府収入につながるという意味をもっています。
スを充実させるようになりました。こうした国にとって、石油を高い価格で輸出すること
安定を維持する重要な手段として、燃料への補助金をはじめ、さまざまな社会福祉サービ
「アラブの春」と呼ばれる民主化運動が起こって以来、中東では多くの政府が社会的な
90
するこ と で す 。
とだけではありません。アメリカにとって、この地域の安定を確保することは国益に関係
実際には、中東に対するアメリカの関心は、中東の油田やガス田の権益に直接関わるこ
した。
今後も果たしていくつもりがあるだろうか、との疑問が世界各地で聞かれるようになりま
らの石油を運ぶ海路の防衛など、中東の安定と貿易の流れを確保する役割を、アメリカは
アメリカが非在来型の石油と天然ガスの生産を確実に行えるようになったことで、中東か
シェール革命がもたらすかもしれないもう一つの不確実性は、
アメリカ自体の問題です。
す。また、供給国から輸入国までの輸送ルートの安全も脅かされることになります。
の生産活動にマイナスの影響があり、世界市場への供給能力にも同様の影響が出るからで
て重要な意味をもちます。供給国の国内が不安定になれば、多くの場合、石油と天然ガス
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第一に、中東の不安定性や紛争によって、過激派がアメリカや西側諸国の人命や経済的
資産、制度を攻撃するといった脅威が強まります。
第二に、アメリカは現在も世界経済の一員です。エネルギー自給率が向上しても、中東
での地域紛争によって石油価格が不安定になることで生じるマイナスの経済的な影響から
免れることはできません。日本や韓国、多くのヨーロッパ諸国といったアメリカの同盟国
をはじめ、アメリカの重要な貿易相手国である中国は、中東からの石油輸入によって経済
的な健全性を保っています。ですからアメリカは、今後も中東に関与し続けることに利益
がある と 考 え て い る の で す 。
4年ごとに見直されている国防計画の2014年版でも、
「持続的な合衆国国家安全保
障上の利益」の6項目の中に、世界の経済システムの安全と、海外にいるアメリカ人の保
護が含まれています。また、アメリカの上級政策立案者たちは、
「シェール革命は、アメ
リカが中東やその他の地域から手を引くことができる、またはそうすべきである、という
ことを示しているわけではない」ことや、「中東からのエネルギー供給が本格的に中断す
れば世界経済全体が不安定になりかねない」ことを、繰り返し指摘してきました。
% が、
「アメリカはもっと自国内の問題に取り組
ただし、アメリカの一般市民は別の考え方をするかもしれません。世論調査で名高いピ
ュ ー 研 究 所 に よ れ ば、 ア メ リ カ 国 民 の
◆
一方、シェール革命でエネルギー自給率が向上しているのに、なぜアメリカは原子力な
世界中で原子力への関心が続く理由は?
すこと で し ょ う 。
カの貢献に依存している日本や中国、インドなど多くの国の経済的な健全性に影響を及ぼ
今後のアメリカの動きは、中東の地域安定やエネルギー供給ルートの維持などのアメリ
ます。
て、アメリカの政治的指導者が国民から支持を得るには、大変な困難を伴う可能性があり
思っている筋があり、その結果として現在と同じレベルで中東に関与し続けることについ
どで疲労感を覚える一般市民の多くは、シェール革命は中東依存からの脱却を意味すると
したがって、深刻な財政危機や十年間にわたるアフガニスタンとイラクへの軍事関与な
ったと考えているというのは、決して偶然ではないでしょう。
ー研究所による)イラクやアフガニスタンへのアメリカの軍事介入は目標を達成できなか
むべきだ」と考えています。この世論調査の結果と同じ率のアメリカ国民が(同じくピュ
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ど他のエネルギー源の維持にも力を注いでいるのでしょうか。
シェールガスの生産量が増えてガス価格が下がったことで、アメリカでは天然ガスを発
電に利用しやすくなり、現在では国内の総発電量の約 %を天然ガス火力が占めています。
メリカでは100基の原子炉が稼働していますが、そのうち 基は、 年のライセンス更
その一方、原子力発電も引き続き重要な電源としての役割を果たしています。現在、ア
利用は増え続け、発電用燃料の主役を石炭にとって代わることになると予想されています。
この割合は、2000年以降ほぼ倍増しています。今後も数十年間、発電への天然ガスの
30
20
新を受けていて、合計 年間の運転ができることになっています。そのうち 基は、福島
73
し た。 ま た 、
基はライセンスをさらに
年延長して合計
11
年の運転を可能にするため、
80
%、そしてゼロエミッション 二( 酸化
19
炭素を排出しない 電) 力の %以上を占めました。これは、風力と太陽光による発電を合
わせた 量 の 4 倍 以 上 に な り ま す 。
2 0 1 2 年 に は、 原 子 力 は ア メ リ カ の 総 発 電 量 の
バマ政権も、温室効果ガスの排出量を減らすうえで原子力が果たす役割を認めています。
アメリカでは、原子力はクリーンなエネルギー源として広く認められてきています。オ
メリカでは5基の原子炉の建設も進められています。
ライセンス更新の申請を行ったか、またはその意思が表明されています。しかも現在、ア
20
第一原子力発電所の事故が起こった2011年3月以後にライセンスの延長が認められま
60
030年までに既存の発電所による二酸化炭素の排出量を、2005年比で %削減する
また、2013年6月にオバマ大統領は気候行動計画を発表しましたが、
そのなかで、「2
60
存度の上昇に対処するのみでなく、発電用の一次エネルギーのほぼ %を占めている石炭
エネルギー需要が飛躍的に増大した中国にとって、原子力発電の拡大はエネルギー輸入依
組みにおいてリーダーシップを発揮する具体的手段の一つとなっています。過去十年間に
例えば中国にとっても、原子力発電の開発はエネルギーの安全保障と環境問題への取り
ている の は ア メ リ カ だ け で は あ り ま せ ん 。
このように原子力発電の利用が環境と気候問題において重要な価値をもつことを認識し
原子炉についても、発電能力を6%程度維持することを提案しているのです。
な対策の一つとして、建設中の5基の原子炉を完成させるとともに、廃炉の可能性のある
こと」を具体的な目標の一つとして定めています。そして、この目標を達成するための主
30
への著しい依存、そしてそれに伴う深刻な大気汚染問題などに対処するための現実的な手
70
40
15
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段となったのです。現在、世界で約 基の原子炉が建設中ですが、その %が中国で行わ
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れてい ま す 。
イギリスでも、環境問題に関する目標を達成するための解決策の中に原子力の利用が含
まれています。イギリスは、1990年比で2020年までに %、2050年までに
80
経済開発協力機構(OECD)に加盟していない国々によるエネルギー消費が %増える
世界のエネルギー需要は、これからも増え続けると予測されています。今後数十年間は、
での安 全 保 障 で す 。
そして、世界の国々が原子力発電への関心を強めているもう一つの重要な要因は経済面
期間を終了する予定であることから、新規の原子炉の建設を推し進めています。
で重要な役割を果たしていることを強調し、既存の原子炉の大半が2023年までに運転
は、現在は総発電量の4分の1を占めている原子力がクリーンなエネルギーミックスの中
%削減するという法的な拘束力をもった温室効果ガスの排出量目標を掲げています。政府
34
と予測されており、いわゆる途上国が世界の総エネルギー消費量の増加を牽引していくと
90
みられます。一方でOECD加盟国によるエネルギー消費量の増加は %にとどまり、世
界平均 で は % の 増 加 と 予 測 さ れ て い ま す 。
17
た状況を背景に2011年6月、サウジアラビア政府は今後1000億ドル以上を投じて
力需要が倍増し、環境対策の面でも多額の資金が必要になると予測されています。こうし
電は石油に大きく依存していますが、経済成長と人口の急増によって2035年までに電
サウジアラビアも原子力発電への関心を新たにしています。現在、サウジアラビアの発
0年までに4基の原子炉を稼働させる計画を進めています。
例えば、アラブ首長国連邦は2009年に原子力発電のプロジェクトを開始し、202
です。
ています。こうした状況から、いくつかの国が原子力発電に関心を向けるようになったの
府収入の獲得に不可欠な輸出向け石油の供給量にどのような影響をもたらすのか懸念され
内の電力消費量が増えています。これによる国内の化石燃料の需要増加が、外貨獲得と政
の多くは発電に石油を使ってきましたが、近年では人口の増加と近代化の進展によって国
石油資源の豊富な中東の国々でさえ、原子力発電に注目しています。従来、中東の国々
燃料を補完する重要なエネルギーとして目されてきています。
力を確実に手にすることが経済安全保障において非常に重要な要素であり、原子力は化石
エネルギー消費が増えています。これらの国々にとっては、妥当な価格でエネルギーや電
途上国では、経済成長と人口の増加によって、また、近代化や都市化の進展によって、
56
17
18
ひろば441号 - 特集
ひろば441号 - 特集
建設中
資料② 世界の建設中および計画中の原子炉(2014年5月現在)
ロシア
中国
サウジアラビア
インド
トルコ
アメリカ合衆国
ベトナム
アラブ首長国連邦
英国
40
基の原子炉を建設する計画であることを発
表しました。現在は、原子炉メーカーの候補
企業との話し合いが進められています。
1986年にチェルノブイリ原子力発電所
基の原子炉が電力需
の事故を経験したウクライナでも、原子力発
電は続けられ、現在も
戦略」では、
基の原子炉を新設する予定も
「2030年までのウクライナのエネルギー
06年に発表され2012年に更新された
子力の利用を現在も続けているのです。20
保障という二つの観点から、ウクライナは原
ています。エネルギー源の多様化と経済安全
要のほぼ半分を賄い、経済を支える力となっ
15
70
60
50
原子炉数
30
20
10
0
出典:世界原子力協会(WNA)のデータ及びNuclear Threat Initiativeに基づき作成
(注:図は計画中の全ての原子力発電所を網羅したリストではない。
「計画中」
の定義は世界原子力協会に拠る。)
◆
イナでは最近、シェールガスの鉱床がいくつ
一国家のエネルギー政策を作成する際の基本は、経済、環境、外交などの間で適切なバ
では、日本のエネルギーミックスは、どのように構成するべきなのでしょうか?
日本にとってのエネルギー安全保障とは?
な見方 だ と 思 い ま す 。
ぶというような、互いに排他的な燃料の選択肢と見なす議論は見当違いですし、近視眼的
つまり、原子力と再生可能エネルギーは高度に補完し合うものであって、どちらかを選
のでは あ り ま せ ん 。
した再生可能エネルギーは、安定的なベースロード電源となる原子力の価値を否定するも
模な商業化はできず、固定価格買取制度などの保護措置によって支援されています。こう
左右されるなど本質的に安定性に欠け、再生可能エネルギーによる発電は今のところ大規
再生可能エネルギーは、エネルギー源多様性の重要な要素の一つです。しかし、天候に
風力や太陽光など再生可能エネルギーの重要性についても触れておきましょう。
アメリカでも、また、世界でも、クリーンエネルギーへの注目が高まっていますので、
か発見され、その開発の可能性についての調査も始めています。
(資料②参照)
韓国
16
示されています。また、その一方で、ウクラ
11
計画中
ウクライナ
19
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ひろば441号 - 特集
ランスを取ることだと思います。日本の外交政策は、これまでお話ししてきたような世界
のさまざまなエネルギー情勢の変化によって影響を受けていますし、経済と環境において
も緊張 状 態 に あ り ま す 。
経済面をみると、原子力発電所が停止しているため、その分の発電量を補うために火力
発電用の化石燃料を大量に輸入することが必要となり、国家支出が増加しています。その
結果、日本では歴史的に前例がないほどの貿易赤字が生じているのです。
エネルギーの安定供給は、国の経済競争力にとっても、また、雇用や教育、健康・公共
衛生状態など生活の質にとっても重要な要素です。世界経済フォーラムなどが作成してい
る競争力に関する年次報告書によると、日本の総合的競争力は過去数年、低下してきてい
位から
位に引き下げました。
ます。また、2012年の国際経営開発研究所(本部スイス)の報告では、将来のエネル
ギー供給も考慮して、日本のランクを ヵ国中の
22
55
25
ことは で き ま せ ん 。
ェールガスなどの開発を行いエネルギー自給率を高めてエネルギーの輸入依存を軽減する
地質学的には、日本は化石資源がほとんどありませんから、アメリカなどのように、シ
決策の 選 択 肢 が 著 し く 限 ら れ て い ま す 。
エネルギー政策を立てようとしても、地質学的、地理学的な特徴によって、実現可能な解
せん。このため、経済、環境、そして外交・国防政策の間で適切なバランスを取りながら
ただし、天然のエネルギー資源に乏しい島国であるという、日本の特徴は変わっていま
し、また、高度な公衆衛生と技術革新を備えた国となりました。
降、日本は大きく変化して、戦争で荒廃した経済から世界の経済先進国の仲間入りを果た
来、日本のエネルギー政策にとって重大な問題をもたらしました。しかし1970年代以
最初にお話ししたように、福島第一原子力発電所の事故は、1970年代の石油危機以
ら大幅 な 後 退 で あ る こ と は 否 定 で き ま せ ん 。
スの排出量は3%増となります。1990年度比で %削減するとしていた以前の公約か
公約を発表しました。この新しい目標を1990年度のレベルと比較すると、温室効果ガ
を大幅に見直す必要が生じ、2020年度に2005年度比で3・8%削減という新たな
排出量は、2010年より7%増えました。このため日本は、気候変動に関する国際公約
ことから、二酸化炭素の排出量が増えてしまったのです。2013年の日本の二酸化炭素
原子力発電所の停止によって生じる発電量不足を補うために化石燃料の使用量を増やした
次に環境面をみると、現在の日本のエネルギー状況は気候変動に影響を与えています。
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ひろば441号 - 特集
ひろば441号 - 特集
また、地理学的には、島国の日本はエネルギー資源を船で輸入しています。そのため、
海上輸送のコストに加えて、LNGの輸入では輸入先での天然ガスの液化や日本に運び込
んだ後の再ガス化などにもコストがかかります。また、この地理学的特徴によって、日本
は他の経済大国がもっている選択肢を実質的にもつことができなくなっています。
例えば、同じく輸出産業が経済的競争力の源となっているドイツは、エネルギー面では
日本とは対照的な国です。福島第一原子力発電所の事故後、ドイツは2022年までに段
階的に原子力発電を廃止することを決定しました。この決定は、基本的に十年前にドイツ
が決定した段階的な脱原発ビジョンへの回帰です。しかし、ベースロード電源である原子
力を短期間に置き換えるため、ドイツでは石炭などの化石燃料への依存がこれまで以上に
強くなってしまいました。その結果、温室効果ガスの排出量は2011年から増加の一途
を辿っ て い ま す 。
一方、ドイツの地理学的な位置は、日本と比べて明らかに優位です。ドイツはヨーロッ
パ大陸の中央部に位置し、全ヨーロッパ規模で張り巡らされている送電網を利用して周辺
の国々から電力を輸入できるため、原子力発電の廃止を決めるにあたり、電力供給の安全
確保はドイツにとって重要な懸念事項とはならなかったのです。
さて、日本のエネルギーミックスは、どのような構成にするべきか? 日本のエネルギ
ー経済において、原子力はどのような役割を果たすべきか? 完璧なエネルギー源などは
なく、どのエネルギー源にもそれぞれ長所と短所があります。
経済、環境、そして外交・国防の間で、国のエネルギー政策のために適切なバランスと
は何か? 適切なバランスとは、国民が抱く日本の未来像により異なるもので、それに答
えられるのは日本の国民自身だけだと思います。ただし、そのためには自国の長所と短所
を客観的に認識し、他国のエネルギー政策を取り巻く状況とその要因を冷静に判断する必
要があるでしょう。震災以降の日本経済の復興を切に望むアメリカやその他の国々からの
知見を取り入れながら、活発な論議の基に、日本のエネルギーミックスが構成されること
を期待 し て い ま す 。
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ひろば441号 - 特集
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講 師 略 歴
ジ ェ イ ン・ナ カ ノ
米国戦略国際問題研究所
エネルギー・国家安全保障部 上級研究員
専 門 は ア ジ ア の エ ネ ル ギ ー 安 全 保 障、世 界 の 原 子 力 政 策 お よ
び米国のシェール開発など。
(DOE)で対中、
対日関係に従事。
米国エネルギー省
2001~02年、在日米大使館勤務。
2010年より現職。
ジ ョ ー ジ タ ウ ン 大 学 外 交 学 部 で 学 士 号 を、コ ロ ン ビ ア 大 学 国
際公共政策大学院で修士号を取得。
近著に、
「 New Energy, New Geopolitics
」(2014年4月)
「 The United States and China: Marking Nuclear Energy Safer
」
(2013年7月)など
以上
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