[京都議定書] 利益団体と京都議定書 ∼アメリカ環境政策決定の背後にいる団体∼ 髙木 理絵 目次 序章 第1章 第2章 第3章 終章 地球温暖化防止―賛成団体(環境団体) 地球温暖化防止―反対団体(利益団体) NGO の影響力 序章 1997 年、地球温暖化防止京都会議で採択された気候変動枠組み条約として京都議定 書が出来あがった。世界問題として注目せねばならない地球温暖化を阻止するものと して取り上げられた。2008~12 年の間に、二酸化炭素など 6 種類の温室効果ガスの排 出量を、先進国全体で 1990 年より 5.2%減らすことを決め、EU 全体で 8%、米国で 7%、日本で 6%など国ごとの削減目標値も定められた1。京都会議に出席していたゴア 副大統領は当初主張していた 0%から条約の 7%削減に同意した。しかし、2001 年 3 月、ブッシュ大統領はアメリカの京都議定書からの離脱を世界に向けて宣言した。10 年の交渉の成果として作られた京都議定書をひっくり返すような発言に世界中から非 難が殺到した。こういったブッシュ大統領の決断や、今までのアメリカがとってきた 地球温暖化に対する姿勢の要因は沢山あるだろう。そして、その一つとして、利益団 体の活動があげられる。 参加型政治文化が優れている国アメリカでは政治、政策決定において、利益団体の 影響力はかなり大きい。環境問題、地球温暖化といった分野を専門に活動している団 体も数多く、大規模に存在している。こういった活動を行なっている団体を大きく二 つに分類することが出来る。一つは、環境 NGO、環境保護政策推進派、環境保護団体 である。1994 年の全米野生生物連盟の報告によると、アメリカに全米的な環境 NGO は約 600、州内的な NGO は約 1000 存在するといわれる2。実際には統計に含まれな い小規模な団体も多く存在していることからも、数の多さが理解できる。そして、環 境 NGO と対立しているのが、環境保護政策反対派である。こういった反対派団体に は、産業 NGO、企業 NGO とも呼ばれる、企業による団体も存在する。環境団体、反 対派団体は様々な活動を行なっているのは言うまでもない。それらは、選挙と政党活 動、議会へのロビーイング、政府や行政機関への影響力の行使、裁判所の利用、出版、 広告、マスメデイア、デモを通じた公衆支持の獲得、反対計画を妨害、遅延、予防す るための直接行動と幅広く、一般市民から議会へ自分達の主張を聞いてもらい、反映 されるように日々動いている。 この論文では、温暖化問題、京都議定書に注目しながら、環境団体と反対派団体が どのような姿勢、行動をとってきたか、そして今後の行方を考察していく。環境団体 の中でも大規模であるシエラ・クラブ(Sierra Club)とグリーンピース(Green peace) に注目し、反対派ではクーラーヘッズ連合(Cooler Heads)と地球気候連合(Global Climate Coalition)に注目して利益団体はどのようにアメリカの京都議定書離説の姿 勢に影響を及ぼしてきたかを考察する。 117 三田祭論文集 2002 第 1 章 地球温暖化防止―賛成団体(環境団体) 環境団体は数多く存在しており、活動している。それらのどれも地球温暖化問題を 深刻に考えでおり、二酸化炭素を削減しなくては地球の将来が危険であると考えてい る。京都議定書は実行すべきと考える理由として三つあげられる。このまま地球温暖 化が進むことによって、洪水、嵐、農業の混乱が起きてしまい、経済が打撃を受ける と主張。第二に植物、動物が気候の上昇に順応できず消滅してしまう。そして、マラ リアやコレラといった感染病が広がり、熱波死の増加の原因となってしまうと予測す る。環境 NGO は、人為的な温暖化が起きているのはほぼ間違いなく、今手を打たな いと大変なことになると主張する。 第 1 節 シエラ・クラブ 1892 年に設立され、全米で最も古い環境保護団体のひとつ。数百人の弁護士、ロビ イストをもち、メンバーは 70 万人をも越える、大規模な環境 NGO の一つである3。 各州に支部をもち、環境に関する問題には幅広く扱っている。2000 年の予算規模は 5,200 万ドル4。寄付、会費、財団からの助成金、本の出版、自然見学旅行の利益が活 動資金の基となっている。また、特徴としては、極端に民主党よりであり、2000 年の 選挙では大統領候補であった、ゴア副大統領の支援団体であり、ブッシュ大統領には 攻撃的な立場をとっている。シエラ・クラブは 501(C)(4)の分類を受けており、税を免 除され、大きな制約なしにロビーイングに従事し、選挙においては候補者を推薦し、 政治献金を行ない、テレビによる意見広告を流すことも出来、政治活動委員会(PAC) を持つ。政治家に直接的な影響を及ぼせる環境団体の一つである。活動様式は議員を 対象としたロビーイング活動以外にも草の根運動をも積極的に行なっている他、これ まで 100 以上の環境保護に関する法律の制定に重要な役割を果たしてきた。シエラ・ クラブは環境団体としては多額の PAC を使っており、1992 年では 64 位の 6120 万ド ルといった、大企業に匹敵する額を利用した。こういった PAC のほとんどが民主党議 員へ費やされている5。 京都会議以前にもシエラ・クラブは地球温暖化、環境保護政策に多く関与してきた。 そして、京都会議に出席したゴア副大統領を支援し続け、影響を及ぼしたことによっ て、会議では最終的にアメリカの賛成まで取りつけた。しかし、ブッシュ大統領の京 都議定書離説宣言に対して、シエラ・クラブが怒りを感じたのは言うまでもない。離 説の代わりに提案した代案は全く不十分であり、温室効果ガスの排出量削減に関して 明らかな数値目標もないと主張。彼等はブッシュ大統領の政策を非難し、2 ヶ月間の広 告キャンペーンを開始した。 第 2 節 グリーンピース USA(Green peace USA) グリーンピースはシエラ・クラブの会員によって 1971 年に設立された。核実験が予 定されていた、アムチカ島で核実験反対の抗議行動を行ない、成功したことによって マスコミの注目を浴びたのがこの団体の活動の始まりである。他の環境団体と比べ、 「直接行動」を重視し、中心のテーマとしてきた急進派の環境団体である。1990 年頃 までは全米各地に支部を設けており、250 万の会員と 250 人の職員という大規模な団 体となったが、1996 年にはグラスルーツ組織として断念をし、会員数も減らし、現在 では 40 万の会員と 90 人の専従職員によって成り立っている6。グリーンピースは政府 または企業から寄付金は受理せず、予算は 1,000 ドル。現在ではロビー活動、調査研 究、議会で証言、訴訟を提起、連合づくりなどと活動を広げ、当初の直接行動からは 118 [京都議定書] 遠ざかり、事務的な団体へと変わってきたとも考えられる。資金面では、企業からの 寄付、政府からの契約や補助金を受けず、個人、財団からの寄付と出版物の売上のみ によって成り立っている。そして、シエラ・クラブとは違って、501(C)(3)として分類 をされているため、直接選挙に関与することは禁止されており、直接的な候補者の推 薦、PAC や政治献金を組むことが認められていない。 1985 年頃に科学者によって地球温暖化が騒がれ始めた時点ではまだ扱う環境問題 の一つとしては取り上げずにいた。しかし、90 年代から温暖化問題に関与する姿勢を とった。そして、京都会議を前に積極的な活動が始まった。実際の京都会議にもオブ ザーバーとして参加し、書類の提出、発言することもできた。研究を行ない、地球温 暖化防止は地球の将来を守るためには必要不可欠てあることを主張、議員にロビーす るなどした。2001 年のブッシュ大統領による京都離説にグリーンピースも怒りを隠す ことは出来なかった。離説宣言後には「Global Warning」キャンペーンを開始し、グ リーンピースは米企業 100 社に対して地球温暖化防止に関する働きかけを行なった。 フォーチュン 500 社のリストに掲載されている米企業上位 100 社の最高経営責任者に 書簡を送り、ブッシュ大統領の京都議定書批准拒否に関して一週間以内に反対を宣言 するよう求めた7。リスト上位にある石油・電力・ガス会社等は、二酸化炭素排出量を 削減するという選挙公約をブッシュ大統領に覆させたともいわれている。そして、ブ ッシュの提案した代案は数値目標もなく、不十分であり、他国はアメリカなしでも京 都議定書を結び、目標達成に試みるべきと主張している。 第 2 章 地球温暖化防止―反対団体(利益団体) 京都議定書による条約、規制に対して反対を表す団体も出てきた。反対派として立 ったのはエネルギー関係の石油、石炭、電力、ガソリン企業、化石燃料業界、自動車 業界、化学業界といった産業界、農業関係者、保守派の消費者団体、増税反対団体、 保守派シンクタンク、経済団体であるビジネス・ラウンドテーブル といった幅広い団 体を含む。彼等の主張は温暖化防止に必要なコストは莫大なので不確実性がなくなる まで研究をしてから手をつけるべきというものだ。こういった反対派は産業界と絡み、 膨大な資金と共にアメリカの環境保護における姿勢に影響を及ぼしてきた。 第 1 節 クーラーヘッズ連合(Cooler Heads Coalition) 1977 年に創立された全国消費者連合(National Consumer Coalition)のサブグル ープとしてクーラーヘッズ連合が設立された。 全国消費者連合は全国と州レベルに政 府規制の行き過ぎについて関心を持っている人々のための全米規模の非営利的な会員 構成で、個人と政策決定者がもっと市場経済の消費者利点についての理解および鑑賞 を増強し、依存するように、消費者関係への政府アプローチではなく個人アプローチ で消費者に情報を与えるために結成された。このサブグループのクーラーヘッズ連合 は地球温暖化を専門とし、 「地球温暖化の危険は思索的で;地球温暖化政策の危険はあ まりにも現実味を帯びている」8と主張。彼等は温室効果ガス排出を減少させる提案の 経済的影響に関してアメリカ人が知らされていなかった上、地球温暖化の科学に関す るバランスのとれた情報を供給されていないという懸念から、全国消費者連合の後援 により 1997 年に形成された。団体のメンバーは非営利、超党派で公共政策を扱い、納 税者、活動家、消費者グループによって成り立っている。 シンクタンクのヘリテージ 財団やコンペテティブ・エンタープライズ(Competitive Enterprise)を含む約 80 の メンバーによって形成されている9。 119 三田祭論文集 2002 地球温暖化政策の消費者インパクトに注目し、エネルギー使用を制限することによ って、消費者のコストが上がってしまうこと、地球温暖化の科学が不確かであること を指摘し、公衆に知らせることを団体の使命としている。連合メンバーは、さらに国 際的な世界的な気候変動条約交渉の進行を続けている。活動方法としては情報提供を 重視している。ニュースレターでは、温暖化に関する経済問題、科学的な問題及び、 政治的な問題の最新ニュースを出版している他、個々のメンバーはさらにセミナー、 プレゼンテーション、討論を行なったりと定期的にテレビやラジオに現れる。新聞や 雑誌に調査結果や意見を、数多く載せていることからも活動熱心さが分かる。そして、 ホームページによる情報提供である。地球温暖化科学及び政策提案に関する情報を、 連合の内部と外部の両方から専門家による情報を収集し、出している。作成されてま だ間もない、4 か月後にはニューヨークタイムズでの環境関連ウェブサイト中トップ 15 の一つとして挙げられた10。そして、クーラーヘッズ連合のスタッフは定期的に議 会のスタッフ、メンバーやメディアのために科学及びに経済状況報告を行なっている ことから、クーラーヘッズ連合がどれだけ議員へと情報提供を行なっているかが想像 できる。 京都議定書に対して反対であるクーラーヘッズ連合は、条約を合意することはアメ リカの労働者、家族、貧しい高齢者および小企業に大打撃を与えると主張した。家賃、 光熱費、電気代、交通費、食料費、と消費者物価の物事の値上げは確実であり、低賃 金家族には特に、全米の人々に影響を及ぼすことを明らかにしている。彼等の研究に よれば、ガソリンは一年で 840 ドルまでも増加し、1970 年代に起きた石油危機の様な 石油不足の可能性、電気代、石油(灯油)が 50%以上もの増加がありえる上、最低で も 150 万もの職が失われるといった恐ろしい数字を並べている11。 第 2 節 地球気候連合(Global Climate Coalition) 地球気候連合は地球気候変化及びに地球温暖化の問題についての国際的な政策討論 へのビジネス参加を調整するために 1989 年に設立された同業組合の構成。現在、 GCC のメンバーは、600 万をも超える企業や団体によって成り立っている12。それらは各分 野にも広がり、電気設備、鉄道、輸送、生産、採鉱、石油および石炭を含む、米国の 商業界のみならず、農業や山林学といった産業界と幅広く、大規模な組織である。こ ういった、企業は京都議定書から影響をおよぼさすだろうと思われるメジャーの自動 車メーカーであるフォードや石油会社のエクソン、モービルまでもを含む。彼等は全 ての地球温暖化に関する国際交渉には出席し、気象変動に関する政府間パネル(IPCC) を密接に監視し、科学研究調査に助言をしている。国内的にも、GCC のメンバーは議 員や、立法政策決定者に彼等の見解を表し、提案された立法および政府プログラムに 関するコメントを調査し、提供をすることによって、大きく京都議定書におけるアメ リカ政策決定に大きく関わってきた。しかし、つい最近には GCC の重要メンバーだっ たフォード、GM、BP、クライスラーなどの企業が撤退を申しだてるニュースが次々 と続いたことによって、今では、GCC は活動をやめてしまった。しかし、彼等の行動 は大きな影響を与えてきたことは間違いない。 GCC の主な京都議定書反対を反対していた理由としては、クーラーヘッズ連合と同 じく、京都議定書が提案する温室効果ガス排出を低下させる目標はあまりにも厳格で、 アメリカ国内の経済成長は厳しく妨げられ、消費者のエネルギー価格が急騰するだろ うと訴えた。更にこの条約は開発途上国に排出量削減を要求しないことによって、GCC は条約に反対した。それらは当然ながら、自らの企業の売上、負担を気にして主張し 120 [京都議定書] ていた。そういったことから、GCC は大資金の基で様々な活動を行なった。1994 年 および 1995 年の二年間では、気候変動の脅威を小さく見せるために 100 万ドル以上 を費やしている13。1996 年にも同じ目的でさらにほぼ 100 万ドルの出費を見込んでい た。そして、京都会議には第二に大きい団体として約 50 人もが参加した。二酸化炭素 の大幅な排出削減に伴う経済への悪影響を分析した調査書を元に、 「ゼロ削減」の米提 案を守るよう各国の政府代表団に訴えてきた。連合会長であるゲイル・マックドナル ドは当時点の状況に関して、 「大いに満足している・ゴア米副大統領にも強い立場を守 ってもらい、そのために議定書がまとまらなければ、それでいい」と話し、会議の途 中でロビー活動をやめ、京都観光などに繰り出すといった余裕っぷりまでもを見せた が、最後にはアメリカは同意した。その後には大金を使った猛烈な反温暖化対策キャ ンペーンが行なわれた。ワシントン・ポストには「地球温暖化防止の国際合意。痛み は大きく、得るものなし」 。ニューヨーク・タイムズには「大統領殿、アメリカ人は現 在の生活水準を維持するために一生懸命に働いています。我が国の経済の将来を危険 にさらさないでください」などと京都会議の数週間後には、テレビ・出版広告・イン ターネットを利用した大がかりなキャンペーンが開始され、総費用は 1,300 万ドルと 伝えられている。そういったことから、2000 年選挙においては、環境保護に消極的で ある候補者であるブッシュを支持し、GCC のメンバーである世界最大の石油企業エク ソン、モービルは選挙資金の大献金先であったことも明らかだ。2001 年に発表したブ ッシュ大統領による離説宣言には喜んだに違いない。 第 3 章 NGO の影響力 前章で考察してきたように、アメリカの環境保護に関しては数多くの NGO が加わ ってきている。それらの影響力は大きく、重要な役割を果たしてきている。環境団体 による京都議定書賛成派、そして反対派団体の両立場があることによってアメリカ政 府はこの数年間、環境保護政策の立場においては極端にある一方側に立つことはなか った。時には、環境保護団体の声が通り、注目を浴び、取り上げられ、影響を及ぼす こともあれば、他方では産業団体の影響力がより強化的な場合もあった。それらは当 然ながら、団体による活動によって変化する。情報と注目を浴びることが大切である 利益団体にとってはメディアは重要な役割を果たす。どれだけ公衆そして議員に主張 を聞いてもらえるか、理解してもらえるかによって、政策決定に影響を及ぼすことが 出来るからである。温暖化問題では化石燃料業界、自動車業界、化学業界が規制反対 を代表する産業 NGO であるが、その主張は温暖化防止に必要なコストは莫大なので 不確実性がなくなるまで研究をしてから手をつけるべきというものだ。こういった発 言を一方的に聞けば、聞いた側としては言われる通りと思う。一方で、環境 NGO は、 人為的な温暖化が起きているのはほぼ間違いなく、今手を打たないと大変なことにな ると反論する。同じく、環境 NGO の主張のみを聞けばそれを信じて、地球温暖化防 止を今でもせねばならないと思うだろう。実際では、片一方のみの主張が聞かれるこ とはない。環境 NGO と産業 NGO の論争ではあるが、どちらのほうが報道され、聞い てもらえるかによって人々の意見を左右させることが出来る。 それに加え、資本主義社会にいる我らの現代社会では、お金の力を無視することは 出来ない。お金によって驚くほどの権力をもつことも出来る。環境 NGO の予算は大 規模にもなれば、多額にもなるが、産業 NGO を相手にしてみれば相手にならない。 前章で紹介した、地球気候連合の背後には、世界で最もお金があり、かつ力をもった 巨大企業何社かの存在があるのは確かである。GCC は、地球温暖化防止京都会議に先 121 三田祭論文集 2002 立ち、地球規模の炭素排出量削減に関する、いかなる実質的な合意に対しても米国政 府が支持を与えることを阻止しようとして、1300万ドルの費用をかけた宣伝キャ ンペーンを開始した。このGCCグループの戦列には、化石燃料に関係する、世界で 最も強力な企業や業界団体の幾つかが加わっていた。そして、米国市民を混乱させ、 おびえさせることを目的とした、一連のテレビ・コマーシャルに努力を傾けたのであ る。その中でも効果的だったのは、「米国民は、その代償を支払うことになる……ガソ リン1ガロンごとに50セント余分に」というコマーシャルだった。だが実際には、 そうした増税の提案は何もなかった14。キャンペーンは成功した。米国政府は、地球の 気候を安定化させるための国際的な努力の、先頭に立とうとしていた。だが、いわゆ る「カーボン・クラブ」は、その米国の努力に対する米国民の支持を、効果的に切り 崩したのである。と言ったようにお金を使用した宣伝、広告、行動によって人の意見 を左右してきた GCC の姿さえ見られる。しかし、1997 年に石油会社の BP、シェルは GCC からの撤退を宣言した。1999 年にはフォード社、2000 年にはダイムラー・クラ イスラー、テキサコ、ゼネラル・モーターズ(GM)の各社もまた、GCCを離れる ことを次々に発表した。GCC を支えてきた企業なしでは今まで及ぼしていた政治権力 を無くしてしまうのは言うまでもなく明らかである事からも、GCC は解散となった。 環境保護へと一歩近づいてきたのではないだろうか。 2000 年の大統領選挙は今後のアメリカ環境政策を変える決定打の一つでもあった。 民主党候補であるゴアか選ばれるか、共和党候補ブッシュが選ばれるかによって京都 議定書のみならず今後アメリカがどのような政策決定が行なわれるかが左右すること だ。環境 NGO であるシエラ・クラブは副大統領であったゴア候補を支持し、政治献 金を行なった。京都議定書に出席をし、条約に同意をしただけあって、地球温暖化防 止へと進むことを望めた。対戦相手である、ブッシュは環境 NGO にとっては最も大 統領になって欲しくない人であろう。共和党は昔から環境保護には消極的な姿勢をと ってはいるが、その中でも、ブッシュは避けたいと思われていた。選挙前から環境保 護には全くの興味を見せず、経済重視である。その上、彼はテキサス州の石油会社を もっているといった環境保護の敵とも言える存在だ。しかし、産業 NGO である GCC はブッシュ候補を支持し、膨大な選挙資金を費やした。ブッシュ大統領となり、1997 年に一度成立した京都議定書は、2001 年にアメリカは離脱すると宣言してしまった。 こういった決断の背景には GCC、クーラーヘッズ連合といった反対派団体の影響もあ ったであろう。歴史を語る時には「もし」は禁句とも言うが、もし、ゴアが大統領に なっていれば、アメリカは温室効果ガスの排出量削減方法を考えていたかもしれない。 そして、それらの提案は環境団体によってされ、それらの団体はより政策決定に影響 を及ぼせたことでしょう。この様に、利益団体が影響を及ぼすためには、支持する大 統領による当選までもが重要となってくる。 終章 ヨーロッパには環境保護政策を優先とする「緑の党」が存在するが、アメリカでは 二大政党中心によって機能しているため経済界が圧倒的な力をもつ。その中でも、ア メリカでは数々の環境保護政策が行なわれてきた。それらの背景には環境 NGO があ る。環境団体は大きな影響を与えてきたことは間違いないが、今、我らの環境、地球 にとって最も重要である条約、京都議定書をアメリカ政府の賛成を導きつづける影響 力までもを及ぼすことは出来なかった。今後の行方はどうなることだろうか。 これまでは、反対派団体による影響力がより大きかったとも言える。それは、資金 122 [京都議定書] 力のみならず、小規模であった為、大規模である環境団体とは異なり組織化されやす かったからである。環境団体の訴え、活動は幅広く、なるべく多くの市民へと伝わる ようにとしたが、限度があった。しかし、最近では京都議定書反対として産業 NGO に参加していた石油大企業の脱退、GCC の解散といったことから、京都議定書反対派 の力は弱まっている。産業 NGO はブッシュ政権との密接な関係が非難されていたニ ュースも多かったが、ブッシュは産業 NGO なしではどうなることだろう。ブッシュ 政権の残りは後 2 年足らず、地球温暖化防止の正確な科学結果が少しずつ出てくる今 では、世界温暖化の実態を否定できなくなっている。ブッシュ大統領は不支持の理由 について「米国はエネルギー危機に直面している。米国の経済と労働者の利益を傷つ けることはできない」15と国益を前面に掲げたが、産業 NGO のサポートなしでは少数 派の意見となってしまう。 環境団体は日々多くの市民に地球温暖化の実態、危険性を主張し、関心を高め続け ている。環境 NGO による 2000 年の調査によると 80%のアメリカ人は京都議定書に参 加すべきと思っているとの結果が明らかになった。人々の関心を上げていくにつれ、 政府も環境保護政策に追い詰められることも考えられる。環境 NGO は再び、アメリ カを京都議定書に引き戻すことが出来るだろうか。地球温暖化問題は世界の問題であ り、早い行動が必要である。NGO による活動によって、今後のアメリカの環境政策に 対する姿勢は変わってくるだろう。 【註】 1 http://www.cnn.com/2001/WORLD/europe/03/29/kyoto.QA/index.html 2 諏訪雄三『アメリカは環境に優しいのか―環境意思決定とアメリカ型民主主義の功罪』新評論、1996 年 3 http://www.sierraclub.org/inside/ 4 阿部斎・久保文明『現代アメリカの政治』放送大学教育振興会、2002 年 5 http://www.sierraclub.org/planet/199604/cfr.asp 6 http://www.greenpeaceusa.org/inside/ 7 http://eco.goo.ne.jp/eco_exp/us/files/0104.html 8 http://www.globalwarming.org/about.htm 9 http://www.globalwarming.org/broccool.html 10 http://www.globalwarming.org/broccool.html 11 http://www.consumeralert.org/issues/enviro/MarchPR.htm 12 http://www.globalclimate.org/aboutus.htm 13 http://www.greenpeaceusa.org/media/press_releases/1999/99_11_4.htm 14 http://www.greenpeaceusa.org/features/exxonmobil.htm 15 http://www.mainichi.co.jp/eye/kishanome/200104/03.html 【参考文献】 阿部斎、久保文明『現代アメリカの政治』放送大学教育振興会、2002 年 久保文明『現代アメリカ政治と公共利益』東京大学出版会、1997 年 久保文明「地球温暖化問題」 『AERA MOOK 新国際関係学がわかる』朝日新聞社、1999 年 諏訪雄三『アメリカは環境に優しいのか―環境意思決定とアメリカ型民主主義の功罪』新評論、1996 年 マイケル・ブラウン他『グリーンピースストーリー』中野治子訳、山と渓谷社、1995 年 山村恒年『環境 NGO』新山社、1998 年 クーラーヘッズ連合:www.globalwarming.org グリーンピース USA:www.greenpeaceusa.org コンスーマー・アラート:www.consumeralert.org シエラ・クラブ:www.sierraclub.org 地球気候連合:www.globalclimate.org CNN:www.cnn.com エコロジーエクスプレス:www.ecologyexpress.com 123 三田祭論文集 2002 毎日新聞社:www.mainichi.co.jp 過去久保研究会ゼミ生による論文 124
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