公共経営における協働を創造するためのマーケティング戦略

公共経営における協働を創造するためのマーケティング戦略
慶應義塾大学 総合政策学部 助教授 玉村雅敏
1.マーケティングとは何か?
「公共経営におけるマーケティング」と聞くと、それは、行政の活動を住民にわかってもらう(売り込む)活動
と思うかもしれない。確かに、かつては、マーケティングというと売り込み活動や広報宣伝活動を指していたこ
ともあったが、現在、売り込み宣伝活動だけを指してマーケティングということはほとんどない。
そもそもマーケティングとは何か?マーケティングの定義に関しては、視点や立場の違いにより多種多様な
ものがあるが、もともとは、言葉の通り「Market + ing(=市場づくり)」という意味である。すなわち、すでに完成
している商品(サービスや活動、アイデアなども含む)を売り込むことだけではなく、まだ完成していない商品の
潜在的なニーズを探りだし、市場に並べる商品を創造することや、「市場(=多様な価値が交換され、関係者
に満足が提供される場)」そのものを創ることもその範疇となる。このように、マーケティングとは、モノをつくる
(生産)・売る(販売)だけではなく、顧客の潜在ニーズを獲得することや、市場を形成することなど、企業と市
場(=企業の外部)との関係を構築する活動を包括する概念である。
こういったマーケティングは、いうまでもなく、経営学では一つの重要な分野であり、実践からの理論化や手
法の蓄積がなされてきている。また、その実践は、営利組織だけでなく、行政機関、NPO、特殊法人、教育機
関、病院など、各種の公共・非営利組織においても推進されており、効果的な組織マネジメントを行うときに必
要・不可欠な概念となっている。
2.マーケティングのパラダイム転換:トランザクションからリレーションシップへ
企業経営の世界では、80 年代末から 90 年代初めにかけて、マーケティングの発想が転換したと言われて
いる。それは、一方向的な「マス・マーケティング」から、顧客とのコミュニケーションや対話を前提とする「リレ
ーションシップ・マーケティング」への転換である。
こういった発想への転換を生み出した背景には、成熟化社会を迎え、安価で、かつ標準化されたものを求
めるという物財需要は満たされ、より個性的なものへと、顧客のニーズと欲求のパターンは変化したことがあ
る。この状況下では、企業の活動としては、大量生産した製品を一方的に市場に供給するというアプローチで
は、ほとんど有効に機能しなくなる。一方、顧客としても、企業とのコミュニケーションや対話といった リレーシ
ョンシップ(関係づくり) のプロセスから、自らのニーズが明らかになることも多くなる。
加えて、こういった変化に同期するかのように、80 年代には、人々の生活にしめるサービス部門の役割が
大きくなり、「サービス」に対応したマーケティングの役割が増大していく(アメリカでは 80 年代には GDP に占め
るサービス部門の比重が 60 数%、日本でも 80 年代の後半には、家計支出に占める非物品支出の割合が約
50%となっていた。なお、現在では、サービス部門の比重は、日本でも 60%に達し、アメリカでは 70%を超え
る)。「サービス」に関するマーケティングには、これまでのような「物財」を想定したマーケティングとは異なる
発想が必要となる。なぜならば、生産物とサービスの違いであるが、サービスは、在庫できないものであり、ま
た、生産と消費とが同時に行われるものだからである。こういった特性を持ったサービスに関するマーケティン
グでは、相互のコミュニケーションプロセスを前提とした 関係づくり に力点が置かれるものとなる。
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これらの変化に直面して言われるようになったのが、従来の「取引パラダイム(トランザクション・パラダイ
ム)」から、「関係づくりパラダイム(リレーションシップ・パラダイム)」にマーケティングは転換した、ということで
ある。それは、企業と顧客との間で、商品の提供とその対価のやり取りを通じた、一種の 取引関係 の成立を
どのように実現するか、という視点で考えていたマーケティングから、企業と顧客との対話やコミュニケーショ
ンといった 関係づくり を通じて、お互いに変化をしていき、結果として、お互いに満足を創造することが実現
できる、というマーケティングの発想に切り替わっていったのである。
3.公共・非営利分野におけるマーケティング
こういった 関係づくり(リレーションシップ) を基盤とするマーケティングの発想が定着してくると、より幅広
い場面や分野で、その発想や手法が活用されるようになってきた。立場の異なる者同士が、お互いに関係づく
りをしながら満足を高めていく、という発想に立つと、自治体と住民の関係、医者と患者の関係、学校と学生の
関係など、これまでは、一方的に提供する前提が多く見られた公共・非営利分野での活用も可能となったので
ある。例えば、医療の場合、長らく、医者が医療というサービスを一方的に与えるという視点が一般的であっ
た。だが、様々な関係づくりの中から患者をエンパワーし、自らの目標を認識し、積極的に治そうという意欲を
引き出すことになれば、治療はより効果的となってくる。
このように、リレーションシップ・マーケティングの観点は、自治体、病院、学校などの公共・非営利部門での、
顧客との間を物財とお金が交流するとはいえない、一種の社会的(ソーシャル)なサービスに関しても、注目さ
れ、実践されるものとなっていったのである。こういったマーケティングのアプローチは、「ソーシャル・マーケテ
ィング」と呼ばれ、社会的な関係づくりにおいても、マーケティングの理論や技法が開発・適用されている(注:
ソーシャル・マーケティングは、営利企業における社会的価値や社会的責任を追求する際のマーケティングと
いう側面も持ち合わせている)。
4.NPM と成果起点のマーケティング
先進諸国の公共部門は、70 年代以降、共通して、財政赤字の肥大化や、公共部門の効率性や生産性の
悪さ、官僚制の弊害といった「政府の失敗」と言われる現象に直面した。そこで、公共経営の効率性や生産性
の改善を目指した改革がおこなわれ、その結果として現れたのが NPM(New Public Management:新しい公共
経営)である(詳細は玉村雅敏(2003a)を参照のこと)。
この NPM では、活動の結果として何が実現できたのかという「成果(アウトカム)」を重視する。すなわち、活
動内容や手続きの自由度を高める(=資源利用に関する権限委譲を行う)代わりに、「高い成果の効率的な
実現」を求めるというアプローチをとるのである。
ここでいう「成果(アウトカム)」とは、1 つの施策(アウトプット供給)のみが影響しているとは限らないもので
あり、また、アウトカムレベルでの価値提供は、1つの主体の努力だけでは実現できないことも多い。例えば、
「福祉ボランティアを増やす」というアウトカムを掲げた場合、その実現には、様々な施策が影響することにな
る。例えば、ボランティアを行いたい人と必要とする人をマッチングするデータベースを構築する施策、ボラン
ティアに参加しやすいように開催するボランティア講習会の施策、ボランティア活動を行う団体を助成する施策、
ボランティアの活動を紹介する広報誌の施策…などなど、様々な主体による、数多くの施策が影響しているの
である(図 1)。
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図 1 多様な施策によって実現する「アウトカム(成果)」
インプット(投入)
アウトプット(算出)
(行政)
ボランティア
データベース構築
予算100万円
データベース登録
300人
(NPO)
ボランティア講習会
予算50万円
講習会受講
400人
(公益信託)
ボランティア基金
予算300万円
活動への助成
25団体
アウトカム(成果)
福祉ボランティア
200人増加
すなわち、高いアウトカムを、効果的・効率的に実現しようとした場合、公共部門の活動以外にも、NPO や
地域コミュニティなどの主体による施策を引き出すことや、その相互の協力関係づくりを促進することが重要と
なる。
日本の自治体・行政機関においても、近年、公共部門の生産性やサービスの質が問われるようになり、成
果に視点を置く NPM の様々な実践が行われている。
また、社会のトレンドとして、NPO やボランティア団体といった、社会的な価値を追求する主体が一定の役
割を果たす時代となりつつある。さらに、企業経営においても、近年、「企業の社会的責任(CSR:Corporate
Social Responsibility))」という概念が注目され、企業が果たす社会的な価値が重視されるようになっている。
CSR とは、企業は、社会の一員として、企業倫理や法令を守り、社会貢献や環境対策などでも一定の責任を
果たすことで、結果的に、企業の持続的な活動基盤を構築することができるという考え方である。こういった発
想は、さして新しいものではないが、これまでは、概して、抽象的な議論となりがちであった。だが、近年の
CSR では、具体的な数値を設定し、企業の社会的な側面での現状を把握し、改善をしていくという、より具体
的・実践的なアプローチをとる企業が増えてきている。例えば、通常の「財務面の決算書」とは別に、社会・倫
理・環境…といった非財務面(社会的側面)でどういった影響や成果を実現しているかの「CSR の決算書」を作
成し、公表する企業も現れてきている。なお、イギリス・フランスでは、CSR 担当大臣をおき、法制化の動きが
見られるなど、社会システムとしての CSR の重要性が高まっている。
公共部門のマネジメントが成果起点で動き始め、また、社会的な価値の実現を重視する様々な主体が役割
を担いはじめた状況において、より高い成果を、より効率的に実現するには、多種多様な主体(行政機関、
NPO、民間企業、町内会、地域コミュニティ、学校、家庭、個人など)による施策の実践と、相互の協働を通じ
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て、必要な活動や政策を生みだし、実行して、さらにその成果を確認して前進していくといった状態をつくる必
要がある。
こういった観点は、 関係づくり(リレーションシップ) を重視する、現在のマーケティングのパラダイムとも親
和性が高いものであり、効果的な協働を生み出すためのマーケティング戦略が求められることになる。
5.効果的な協働を生み出すマーケティング戦略
では、どうしたら、公共経営において「リレーションシップ・マーケティング」が実現できるのだろうか?
それには、様々な側面が必要であるが、まずは、目指す「成果」の定義と共有化は不可欠であろう。だが、
「成果」とは、極論すれば何でも成果になりうる。特に、公共経営の場合は、「投資してどれだけ収益が上がっ
たのか」といった金銭的な成果よりも、「日々、不安のない暮らしが送れているのか」「教育水準はどれだけ高
まったのか」「雇用の拡大はどれくらい進んだのか」などといった非金銭的(公共的、社会的)な成果の追求に
力点が置かれるため、容易には設定しにくいものでもある。
企業経営において、真に求めるべき「成果」は何なのかを考える際に参考となるのは、サービス提供の相手
方である「顧客」にとっての価値である。公共経営においても同様に、顧客である住民の生活実感を起点に価
値基準を検討することによって、定義しにくい「成果」を設定しやすくなることが想定できる。
そして、こういった顧客起点によって提示された「成果」は、関係する主体が共通で実現を目指す「目標」とし
ての機能を持つことになり、その効果的・効率的な実現に向けた協働(=関係づくり)を生み出していくという、
公共経営におけるマーケティングのアプローチも想定できることになる。
以下、こういった観点からの実践事例として、筆者が関わった、青森県政策マーケティングと愛知県東海市
の実践を紹介したい。
6.青森県政策マーケティングの実践
青森県では、住民の視点から必要となる政策や公共サービスを、多様な担い手によって提供することを目
指して、「政策マーケティング」と名付けた公共サービスの供給システムの構築を、1999 年から進めている。
「政策マーケティング」とは、一般的な用語ではなく、青森県において「県民がより満足した人生を送れる青
森県」を実現していくために構築されたシステムに名付けた名称であり、「政策の市場づくり」を意味するものと
して定義されている(政策マーケティング委員会(2005))。
その発想は、住民が抱く生活実感に基づく「政策ニーズ(より満足した人生を送れるための条件・項目)」を
調査した上で、そのニーズを満たすための商品(政策や公共サービス)が創造・提供されていく「政策市場(い
ちば)をつくる」というものである。そのための仕掛けとして、政策ニーズが満たされているかどうかを、毎年、
モニタリングする政策評価システムの構築や、市場への参入や連携を促すワークショップの開催、政策ニー
ズなどの情報を共有する政策マーケティングブックの発行などを行っている(この政策マーケティングブックは
インターネットで公開されている。興味がある方は参照のこと)。
こういった「政策市場をつくることで政策ニーズを満たす」という発想にたつのは、青森県全体を見渡した場
合、行政以外にも、多様な政策の担い手(例えば、NPO や市民団体、町内会、学校、企業、労組、農・漁協な
ど)が存在している、という前提に立つからである。
住民の政策ニーズからみた場合、行政によって直接提供されている政策や公共サービスというのはその一
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部にすぎず、行政以外の担い手によって提供されているものも多い。例えば、まちをきれいにしよう、お年寄り
を元気づけようと、町内会が行っている政策や公共サービス、地域の教育問題を自分たちで改善していこうと、
PTA や NPO などが行っている政策や公共サービス、地域での豊かな食生活、安全な食生活を提供しようと、
スーパーやコンビニなどが行っている政策やサービスなどは、行政によって提供されてはいないが、住民の生
活満足を向上させるには重要な要素となるものである。
すなわち、住民が抱く政策ニーズを満たすには、そのニーズを明らかにした上で、多様な政策の担い手によ
る政策や公共サービスの供給(=市場への参入)を実現すること、さらに、地域全体として、高い成果を効率
的に実現する、効果的な役割分担と活動連携を実現するシステムづくり(=市場づくり)をすることが必要とな
ってくる。そのために、企業経営を通じて培われたマーケティングの考え方や手法、ノウハウを、政策や公共
サービスの供給に関連する一連のプロセスに取り入れているのが、青森県の政策マーケティングである。
ここでいう「政策ニーズ」というのは、先に解説した「成果(アウトカム)」を意味している。
この「政策ニーズ」として、青森県では、綿密なマーケティングリサーチの実践を通じて、27 個の項目(点検
項目)を明らかにしている(詳細な手法解説は上山・玉村(2001)を参照のこと)。この 27 個の点検項目は、マ
ーケティングリサーチの結果として、県民の意識として、少なくとも、これらの項目が改善しない限り、「県民が
より満足した人生を送れる青森県」は実現できないという項目であり、その改善・実現を、多様な担い手が協
働して取り組んでいくことを目指しているのである。
図 2 政策マーケティングシステムの構築プロセス
(1)政策ニーズの
分析と可視化
(2)評価システム
の構築
(3)情報共有
の実践
(4)活動実践
(5)モニタリングと
フィードバック
① 県民意識調査の ① 評価指標(案)の ・ コミュニケーション ・ 多様な主体による ・ 各主体ごとの
自己点検
実施
検討
メディアの設計
行動実践
② グループインタ
ビューの実施
② 評価指標の選定
③ 政策目標の設定 ③ 現状値の調査
④ 点検項目(候補) ④ めざそう値・分担
の検討
値の調査
⑤ 点検項目(候補)
の重み付け
・ 政策マーケティング ・ 参入と連携の
ブックの作成と配布 システム構築
(エントリー活動、
リレーションシップ活動、
セッション…)
・ 政策に関わる主体 ・ 他の政策形成
との現状の共有
システムとの連携
・ 全体としての
成果の確認
- 評価指標の現状値
の確認
- 点検項目の満足度
の測定
・ 実践活動の把握
(エントリー状況の把握)
⑥ 点検項目の選定
5年に1回
毎年実施
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さらに、青森県の政策マーケティングでは、この 27 個の点検項目が実現したのかを確認するための評価シ
ステムを構築している。
青森県の政策マーケティングで構築している評価システムは、政策レベルの評価手法である「ベンチマーキ
ング方式」を応用したものである。ベンチマーキング方式とは、米国オレゴン州のオレゴン・ベンチマーキング
に代表されるが、住民にとって重要な政策課題に評価指標を設定し、その数値を測定して、時系列的に監視
することで、地域社会の豊かさや進歩を政策の成果として評価し、地域の社会・経済・環境などの状況改善策
への示唆を得るというものである(行政経営フォーラム(1998))。
このベンチマーキング方式では、指標の現状値について、毎年、その変動状況をみることで政策評価が行
われることになる。現状値の変動という事実について、関連する主体による説明責任と改善活動を引き出すこ
とで、めざす目標へと前進していくことを想定しているのである。
住民の政策ニーズの視点から設定されたアウトカムである点検項目は、地域全体で達成すべき共通の目
標として位置づけられるものであるが、その実現を確認するための尺度として、青森県では 66 個のベンチマ
ーク(評価指標)を設定している。
また、自律・分散して活動をする、多様な政策の担い手を前提とする以上、その間をつなぎ、相互に関係づ
くりを促す、コミュニケーションメディアの設計などの、情報共有環境の構築も重要となる。
青森県では、その一環として、「政策マーケティングブック」と呼ばれる冊子を、2000 年より年 1 回発行し、県
内で政策に関わる主体(県庁各部局、市町村、NPO、各種団体、実践を希望する個人など)に配布している。
この冊子には、県民が求める政策ニーズの実態と、評価指標の変動によるその達成状況、役割分担、多様な
主体によって実際に行われている実践活動などが掲載されている(政策マーケティング委員会(2005))。
そして、こういった、情報共有の環境を構築した上で、県内で活動する(もしくは、これから活動する)組織や
団体・個人が県内各地に集まり、政策マーケティングブックを題材に「ワークショップ(通称「政策いちば」)」を
開催し、様々な行動計画づくりや役割分担の方法などの検討が推進されている。また、点検項目で示されて
いることに関連して、実際に活動をしている組織・団体、個人などに、活動内容を紹介・登録してもらう「エント
リーシート(活動アピールシート)」を作成してもらい、政策マーケティングブックに掲載をしている。他には、項
目ごとに県庁内の関連する部局が集まり情報交換をする県庁内のワークショップである「セッション」といった
活動も行われている。こういう場を通じて、相互の関係づくりを促し、個々の実践を引き出そうとしているので
ある。
なお、毎年、評価指標の現状値調査と、点検項目の満足度調査を行い、政策ニーズの実現度合いの点検
を行っている。その変動状況については、政策マーケティングブックとしてとりまとめ、県内で政策に関わる主
体に配布をしている。こういった実情を見ることを通じて、青森県の暮らしやすさを確認し、様々な協働も生み
出しやすくしているのである。
7.愛知県東海市「まちづくり指標」に基づく協働と共創のまちづくり
愛知県東海市では、マーケティングリサーチ手法を活用した、青森県の政策マーケティングシステムにおけ
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る、点検項目や評価指標の設定方法を参考に、2002 年 4 月から 2003 年 3 月にかけて、「東海市まちづくり指
標」の設定を行った。
この「東海市まちづくり指標」とは、東海市での生活実感を持つ 50 名の市民委員が、約 10 万人の市民を対
象とした調査の設計・分析者となり、東海市民が抱く、東海市でのよりよい生活を実現するために、特に注目
すべき 38 個の「生活課題(=青森県の点検項目)」を調査した上で、その改善度合いを測るために 99 個の「評
価指標」を設定したものである。
東海市では、市民参画に関わる様々な活動に先立って、こういった「東海市まちづくり指標」を設定すること
で、(1)「市民参画」システムが構築され、発展している東海市を実現すること、(2)市民・企業など(=地域の多
様な主体)による、まちづくりへの主体的な参画を実現することを目指している(東海市市民参画推進委員会
(2003))。
こういった「まちづくり指標」の設定をふまえて、2003 年度には、行政では、まちづくり指標で指摘された「生
活課題」を柱とした総合計画の策定と、その理念を前提にした「まちづくり基本条例(自治基本条例)」と「市民
参画条例」の制定、その他、住民活動促進事業の推進などを行った。また、市民側の活動を誘発するために、
市民委員が中心となり、生活課題の実現(=まちづくり指標の改善)のために、どのような市民活動の展開が
あり得るのか、市民の主体はどういった実践を考えているのか、といったことを解説する「まちづくりのための
アクションプラン」を作成し、様々な実践を行っている。
2004 年度には、指標の変化から、生活課題の改善状況、まちづくりの進捗状況を確認する「評価の大会(8
月)」、生活課題の改善に効果のある事業等の提案を行う「提案の大会(10 月)」、市民委員会を通じた提案等
が、まちづくりにどのように反映されたかを確認する「確認の大会(3 月)」を開催し、こういった場をきっかけに、
市民と行政がパートナーとして連携をし、それぞれ智恵と行動を出し合いながら「協働・共創のまちづくり」を進
めている。
おわりに
ピーター・ドラッカーは、組織が存続し発展していくためには、2 つのことをしなければならないと指摘してい
る。ひとつは、顧客も含めた外部との関係をいかにうまくつくるか、もうひとつは、それに合わせて内部をどの
ように効率よく組織するか、ということである。企業やビジネスの機能は、多様な切り口で分けることが可能だ
が、総論としては、この 2 つに集約することができ、それぞれ、マーケティングとマネジメントと言い換えることも
可能であろう。
NPM というパラダイムでの公共経営においても、持続的かつ効率的に価値を提供しようとしたときも、同様
にこういった 2 つの側面が求められることになる。多様な公共サービスの担い手それぞれが、成果の実現を目
指した戦略的なマネジメントを推進する状況では、組織とその外部の関係に関わる理論や実務の蓄積である
「マーケティング」の理論や手法をいかに活用していくのかについても問われることになるのである。
参考文献
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書房
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