NPM理論に基づくインフラ資産マネジメントに関する検討

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土木学会第57回年次学術講演会(平成14年9月)
NPM理論に基づくインフラ資産マネジメントに関する検討
パシフィックコンサルタンツ(株)† 正会員 大村 修
††
正会員 横山 正樹
††
正会員 鈴木啓司
1. はじめに
近年、公的機関においては、財政状況の悪化やアカウンタビリティに対する要請の高まりなど社会経済情勢が
変化するなかで継続的に社会的サービスを提供することが求められており、行財政改革(行財政プロセスの改革)
を推進するための新たなマネジメント理念として、ニュー・パブリック・マネジメント(New Public Management、
以下 NPM)理論が注目を集めている。本稿は、この NPM 理論をインフラ資産マネジメントに導入する意義につい
て考察をおこなうことを目的としている。
2. NPM の基本理念
NPM 理論とは、民間の経営手法において適用可能なものを行政運営に積極的に導入することにより行政運営の
経済性(Economy)、効率性(Efficiency)、有効性(Effectiveness)のいわゆる 3E を追求し、組織としての競争力
を高めるというものであり、その基本理念は以下の項目に整理される。なお、
NPM の詳細については、(大住 1999)
、
(上山 2000)等を参考にされたい。
① 市民志向(顧客志向)
② 競争原理の導入(市場システムの活用)
③ ビジネス・サイクル(PDCA サイクル)の構築
④ 戦略計画と業績測定の導入(業績・成果主義の導入)
⑤ リアルタイムな意思決定システムの構築
⑥ 起業家精神の旺盛な職員の育成
3. NPM 理論に基づくインフラ資産マネジメント
前章に示した基本理念をインフラ資産マネジメントに適用する方策について整理・検討を行う。
(1) 市民志向(顧客志向)
一般的に、維持管理は、資産の物理的な状態(わだち・ひびわれの状況等)に関する基準を設けて行われる。し
かし、インフラの利用者(顧客)である市民にとっては、資産の状態ではなく提供されるサービス(安全・快適
に自動車が走行できる、安全でおいしい水が安定的に供給される等)がどのような水準にあるのかが問題となる。
従って、顧客にとってのサービスレベルに関する基準を設けると共に、CS 調査やマーケティングを通じ適正サー
ビス水準を追求するなどの対応が必要になるものと考えられる。
(2) 競争原理の導入
市民にとっては適正なサービスがリーズナブルに受けられることが重要であり、提供主体が公的機関であるこ
とは必ずしも求められない。従って公的機関は、民間企業や NPO 等と比較して効率的なサービス提供が可能な
分野に限られた資金や人材を振り向けることが望ましく、PFI の導入等もこの流れに沿ったものといえる。
(3) ビジネス・サイクル(PDCA サイクル)の構築
単年度予算に基づき事業を実施し、前例重視で十分な事後評価や見直しがないままに事業が継続されるほか、
予算の消化状況以外に業務実績を測定する指標がないため効率性を無視した予算消化が行われており、Plan と
Key Words: NPM(ニュー・パブリック・マネジメント)
、マネジメント、インフラ資産、アセットマネジメント
連絡先:† NPM 開発室
〒206-8550 東京都多摩市関戸 1-7-5
Tel:042-372-6283,†† 保全システム部
‑801‑
Tel:042-372-6574
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土木学会第57回年次学術講演会(平成14年9月)
Do の繰り返しであり、Check や Action が不足しているという点が課題であるとの指摘がなされることが多い。
そこで、計画立案時の事前評価や年度末・事業完了時の事後評価など評価制度を整備し、結果のフィードバック
により継続的な業務改善を図る仕組みを確立することが必要となる。このような動きは、自治体等における行政
評価制度の導入という形で具体化が進んでいる。
(4) 戦略計画と業績測定の導入(業績・成果主義の導入)
劣化の進行などのデータ蓄積が不十分なこともあり、対処的な維持管理が中心となっている野が現状である。
そこで、資産の劣化予測をふまえた予防保全の実施や改修・更新計画の立案など戦略計画に基づく管理を行うこ
とにより、リスク(将来のコスト発生)管理が可能になり、コストの最小化・収益の最大化など 3E が追求できる
ものと考えられる。しかし戦略計画は不確実な要素を含むことから業績測定とフィードバックを行い、常に最適
化を図ることが必要になる。また業績・成果に関する評価が行われることにより、人員配置の適正化など資源の
有効活用を図ることにもつながる。
(5) リアルタイムな意思決定システムの構築
最終的な意思決定が行われるまでには、上位の管理者へデータや報告を提出し決済を得るというプロセスを何
度も繰り返すのが一般的であり、膨大な時間とコストの損失により 3E を低下させる要因となっている。しかし
IT 技術の発達により点検結果や分析結果、報告等の膨大な情報を管理し、リアルタイムで共有し活用すること
が可能になっている。また、システムを通じデータが蓄積されることにより、個所別の劣化予測などリスク管理
の精度も高まることが期待される。
(6) 起業家精神の旺盛な職員の育成
PDCA サイクルの確立や業績・成果主義の導入などにより、業務改善に向けた発案が確実に反映され具体的に
結果が見える仕組みが整備されれば、職員の意識が高まり組織の活性化につながるものと考えられる。これは、
人材という資産の有効活用につながるものであり、トップダウン、ボトムアップ両方向で業務改善が継続的に行
われ、3E の追求もさらに進むことが期待される。
4. インフラ資産マネジメントへの NPM 理論導入の意義
従来、インフラ資産の管理においては、短期的に最小の事業費で状態に関する管理基準を満足することを目標と
してきたといえるが、長期的にも望ましい管理が行われているのか、管理基準は適正なのかという疑問に答えを出
すことは難しく、財務的な観点から割り当てられた予算の中で維持管理を行っていく形にならざるを得なかった。
しかし、NPM 理論に基づきサービスレベルに着目した戦略的なマネジメントを行うことにより、予算の効率的な
執行が可能になるほか、機能保持やサービス提供の観点から必要なコストを予算として要求するなど維持管理部
門と財務部門が共通の認識の下にコミュニケーションできるようになるものと考えられる
また費用の面では事業費を LCC で捉える考えも広がってきているが、サービス提供に必要な人件費や間接費を
含めた総コストでサービス原価を考えることにより、財務や人事も含めた総合的なマネジメントに展開すること
が可能になるものと考えられる。
NPM 理論の一部を、実際にインフラ資産マネジメントに適用したものといえる「アセットマネジメント」が我
が国にも紹介され、公的機関における関心を引くと共に、一部組織においては研究が進められている。アセットマ
ネジメントの概要については、(横山他 2001)を参照されたい。
(参考文献)
・ 大住壯一郎(1999)
『ニュー・パブリック・マネジメント』日本評論社
・ 上山信一(1999)『「行政経営」の時代』NTT 出版
・ 横山、鈴木、大村(2001)「アセットマネジメントの導入」『第 2 回 社会資本のメンテナンスに関す
るシンポジウム』土木学会鋼構造委員会 鋼構造物の維持管理研究小委員会 12 月
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