日本放射線技術学会 入門講座(12) 放射線治療2 「治療用加速器ビームデータ のコミッショニング」 シー・エム・エス・ジャパン株式会社 切山 文香 平成22年4月11日(日) 8:00~9:00 序章 コミッショニング(commissioning)とは? 和英辞書を引いてみると以下のように出てくる。 commission=委員会、委任、依頼、責務、命令、権限、など 「なんやそれ?!?!治療用加速器とどんな関係があんねん?」 となるが、 commission という単語は “in commission” と使われることが多い。 “in commission” = 使用可能な これが、commissioning(コミッショニング)の意味合いなのである。 使用可能にする! 仕様通りであるかのテスト・確認 臨床使用を想定した動作・精度の確認 施設の基準データを取得、品質管理プログラムの確立 治療用加速器(リニアック)を使用可能にする為の多くのテスト 治療室の放射線遮蔽 機械的動作確認 ビームデータの確認 他機器との接続 など 盛りだくさん だなぁ~ だなぁ~ 第一章 参考資料 The American Association of Physicists in Medicine (通称:AAPM) 米国の医学物理士の集まり AAPMは作業部会(Task Group)を儲け、リニアックのコミッショニングの重要 性、推奨、その内容の提案、注意事項等を明確にし、レポートとして発行してき た。 リニアックのコミッショニング・品質管理に関連したレポートは5つある。 AAPM HPからフリー ダウンロード可能: http://www.aapm.org/pubs/reports/ 発行年 レポート番号 タイトル 内容 1984 13 Physical aspects of QA in radiation therapy 放射線治療全体におけ る品質管理の推奨 1994.04 46 Comprehensive QA for radiation oncology レポート13の改訂版 AAPM code of practice for radiotherapy accelerators Accelerator beam data commissioning equipment and procedures リニアック使用開始にあ たっての服務規定 QA of medical accelerator レポート46(リニアックセ クション)の改訂版 1994.07 47 2008 106 2009 142 治療用加速器のビーム データのコミッショニン グ 第二章 Accelerator beam data commissioning equipment and procedures タスクグループ: 106 (レポートナンバー106) メンバー: Das, Cheng, Watts, Ahnesjö, Gibbons, Li, Lowenstein, Mitra, Simon, Zhu 目的: コミッショニングのデータを取得するにあたって、ビームデータの測定方 法の基本を明確にし、測定機器による違いや測定エラーの原因を紹介をする。 対象外: 不均質物質による測定、定位手術的照射(SRS)、ガンマナイフ, サイ バーナイフ, 全身皮膚電子線治療、全身照射 要する時間: 測定項目、施設での体制に左右される。 例 PDD測定(13 オープン照射野 + 4 ウェッジ照射野=17スキャン) スキャン sec ポイント 時間 ≈ 17 × 1 = 2040秒 = 34分 × (2エネルギー)× 60 エネルギー スキャン ポイント スキャンデータ:PDD、TMR、プロファイル ノンスキャンデータ:Scp 、 Sc 、 ウェッジファクター、その他ファクター X線データ取得 2.5 週間 6.5週間 ~ 1ヶ月以上の作業 電子線データ取得 1.5 週間 データ確認 1 週間 解析・文書作成 1.5 週間 ん~ん、治療 開始はまだ まだ先だ! 項目: A) ファントム・検出器 B) 水ファントムのセットアップ(スキャンデータ測定) C) X線ビームデータ D) 電子線ビームデータ E) ビームデータの加工方法 第二章 A) ファントム・検出器 ファントム:水 (深さ: 40 cm / 照射野: 40x40-cm) 注意点1 注意点 リザーバーを使う場合、防藻剤の入った蒸留水を使う。 注意点2 注意点 リザーバーを使わない場合、測定開始前に水温が室温であることを 確認する。ファントムに水道水を溜め、一晩治療室に置いておく。 注意点3 注意点 数日間に亘って水道水を使って測定する場合、藻の発生を防ぐ(又 は取り除く)には、測定前又は水が濁った段階で極少量の洗濯洗剤もしくは塩 素(漂白剤)を足す。 ※ 洗剤を足すと表面張力が減る利点もある。 注意点4 注意点 水の蒸発による水位の変化に気を付ける。 ファントム:サイズ (深さ: 40 cm / 照射野: 40×40-cm) 注意点1 注意点 サイズ75×75-cmのファントムが最 適なファントムサイズ 75cm 注意点3 注意点 ハーフスキャンの場合は、データをミ ラーしてもフルスキャンのデータと同様である 必要がある為、フルスキャンで非対称性が 0.5%未満であることを確認する。 注意点4 注意点 ハーフスキャンの場合は、横方向か らの散乱が十分考慮できるよう中心軸が少なく とも5cmはファントムのエッジから離れている必 要がある。 スキャン 5cm 図:対角線ハーフスキャン 75cm 注意点2 注意点 コリメータを回しての対角のプロファ イル測定はしない(フラットニングフィルターの特 性がわからない。) 固体ファントム 注意点1 注意点 検出器用に彫られた空洞は検出器が挿入された状態で低いkVpで 撮影し確認する。 注意点2 注意点 測定するにあたり、ファントムの空洞と検出器が熱平衡である必要が ある。 注意点3 注意点 ファントムの材質均一性をCTから確認する。 ※ CT値が水と同一になるとは限らない。固体ファントムは通常MVエネルギー にて水等価になるようにデザインされている。 ビルドアップキャップ・ミニファントム AAPM レポート97を参照。 検出器 種類: 電離箱、ダイオード検出器、2次元検出器、ダイアモンド検出器、熱ルミ ネッセンス線量計(TLD)、フィルム、MOSFET、Bang gels サイズ: ● 標準チェンバー (0.1ccクラス) → 例:ファーマ形電離箱~0.6cc ● ミニチェンバー (0.01ccクラス) → 平均体積~0.05cc ● マイクロチェンバー (0.001ccクラス) → 平均体積~0.007cc (ラジオ サージェリ、ガンマナイフ、サイバーナイフ、IMRT) 使い分け: 1~25 MV 1~25 MeV 4×4-cm 10×10-cm ≈ 0×0-cm 40×40-cm 基準チェンバー ミニ・マイクロチェンバー ダイオード検出器 ソフトウェッジ測定に 最適。電離箱でもダイ オードでもオッケー! 2次元検出器 温度、線量率、エネル ギー、角度、モダリティ 依存性がある。電離箱と 確認する。 第二章 B) 水ファントムのセットアップ(スキャンデータ測定) 始める前に ● ケーブルは通ってますか? 通せますか? ● ファントム動作をコントロールするコンピュータをLinacのコンソールの近くに 配置すると効率的になる。 ● タンクの状態の確認、ファントムの動作確認をする。 ● 各パーツの接続の確認をする。 ● ファントムシステム自体の品質管理を定期的に実施する。(保守契約) 機器 ● フィールドチェンバー、リフェレンスチェンバー 注意1 リフェレンスチェンバーがフィールドチェンバーの上にあってはならない。 注意2 小照射野の測定でリフェレンスチェンバーが使えない場合はTime integration methodを使う。 注意3 チェンバーフォルダーが妥当なものである必要がある。 注意4 チェンバーの置き方(横、縦)は測定項目に依存する。 ● ケーブル、コネクター、アダプター 注意1 BNC(Bayonet Neill-Concelman)、TNC(Threaded Neill-Concelman) の違いに注意 注意2 三同軸ケーブルのコネクター・アダプターが多様化している。 注意3 漏洩電流 ● 電位計 (Electrometer) ~ 自動化しているが、注意点は沢山。次回に。。。 ● スキャン用水タンク 注意1 座標・ラベル 注意2 スキャナーの動き 注意3 治療機と測定機材の座標の同期化(?)ーOrientation 注意4 チェンバーの置き方(横、縦)は測定項目に依存する。 ● ケーブル、コネクター、アダプター 注意1 BNC(Bayonet Neill-Concelman)、TNC(Threaded Neill-Concelman) の違いに注意 注意2 三同軸ケーブルのコネクター・アダプターが多様化している。 注意3 漏洩電流 ● 電位計 (Electrometer) ~ 自動化しているが、注意点は沢山。次回に。。。 測定前 ● Dry Run ● Water Run ● 飽和テスト ● エネルギーテスト ● 測定データ項目、測定順番、ファイル名の明確化 など 第二章 C) X線ビームデータ 測定する項目は使っている治療計画装置やQAソフトに依存する。手計算で必 要になるデータも取得しておく必要がある。 あらかじめ必要データを整理し、測定項目を表かし、データ入力シートも作成し ておくと効率良くデータ取得が出来る。 深部量百分率(PDD) 注意点1 SSDによる変化(実測 vs 距離の逆二乗) 組織最大線量比(TMR) ・ 組織ピーク線量比(TPR) 注意点1 実測 vs 計算値 2 PDD(d , r , SSD ) SSD + d S p (rd max ) ⋅ TMR (d , rd ) = ⋅ 100 S p (rd ) SSD + d max 皮膚線量・ビルドアップ領域 検出器 外挿電離箱(Extrapolation chamber) > 平行平板形電離箱>TLD、ダ イオード、フィルム プロファイル 注意点1 注意点 チェンバーの種類・チェンバーの向き (半影に影響) 注意点2 注意点 測定間隔 半影 ≤ 1mm、その他 ≤ 2mm 注意点3 注意点 中心軸で正規化 注意点4 注意点 Star Pattern-コリメータを回転しての測定はしてはいけない。 注意点5 注意点 ウェッジプロファイル(特に大きい照射野は勾配の付かない方向でもス キャン) 注意点6 注意点 フィルム使用~フィルムシステムの品質管理を担保 MLCデータ AAPM レポート72を参照 ノンスキャンデータ:Scp、 Sc、 ウェッジファクター、トレイファクター 治療計画装置で測定項目が左右する。 第二章 D) 電子線ビームデータ 検出器 ダイオード、平行平板形電離箱、指頭形電離箱、フィルムが一般的 水面 電子線のPDD測定時に重要になるのが正しい水面が取られているか? である。 セットアップテスト:6MeVのPDDを測定し、dmax=1.1±0.2cm出なければ、セッ トアップに問題有り。 PDD-深部量百分率 注意点1 注意点 指頭形電離箱で測定する場合は実効中心で測定する。 注意点2 注意点 電離箱で測定した場合はPDIからPDDに変換する。 推奨 深さRp+10 cmまで、0.1cm間隔で取得。 プロファイル 推奨 深さ、dmax, d90, d70, d50, d30, d10 注意点1 注意点 深さ> dmax のプロファイル(特に低エネルギー)は非対称になってい ないかを確認して作業を進める。非対称の場合は、ファントムの設定、ガント リーの角度を再確認する。 コーンファクター 注意点1 注意点 固体ファントムでも測定できるが、コーン25x25-cmがある場合は少な くともファントムサイズが30x30-cmである必要がある。 カットアウトファクター 推奨 代表的なアパーチャ(長方形、円、楕円形、正方形)のブロックを使って測 定しておく。 仮想線源距離 電子線の場合は散乱成分の効果により、距離の逆二乗が成り立たないため、 多くの治療計画装置ではこの距離を必要とする。 第二章 E) ビームデータの加工方法 治療計画装置に登録するためにデータを加工することがある。平滑化機能を 使ってノイズ(スキャンデータ)を削除したり、ハーフスキャンデータからフルス キャンデータに変換する場合の注意点が幾つかある。 平滑化(Smoothing) 注意点1 注意点 データ解析ソフトにはお決まりの平滑化機能が付いてくる(例:least square, median, cubic spline など。)どれも完璧ではない。試して決めよう! 注意点2 注意点 平滑化のルールはないが、あるとすれば、測定されたデータの形状 が平滑化によって変化してはいけないというルールであろう。例えば、ウェッジ プロファイルのピークを削り取るような事はあってはならない。 注意点3 注意点3 平滑化することによってデータの本質(特に半影、ウェッジプロファイ ルー線量勾配が高い領域)が変わってしまうようであれば、スキャンのスピード を遅くするなどをして再測定を考える必要がある。 中心化(Centering) 注意点1 注意点 ウェッジプロファイルのCenteringは通常出来ない。オープンプロファ イルをCenteringをして0.05cm超のシフトを要する場合は測定セットアップを見 直し、再測定を実施する方が良い。 ミラーリング 注意点1 注意点 オープンのプロファイルで非対称(0.5%超)である場合はミラーリング や対称化の機能を使わず、測定セットアップを見直し再測定を実施するか、治 療機の調整をする。 基本的に生データを著しい加工が必要な場合は再測定をすること を推奨する。 ノンスキャンデータの確認 注意点1 注意点 データ(例:Scp, Sc)をグラフ化し、データのトレンドを確認する。 再測定はやだー! 測定中に要所、要所でデータ 確認をしなくては。 第三章 最後に この発表は時間の関係で概要のみの紹介になっています。 AAPMレポート106(TG-106)をダウンロードして読んでみましょう。 29ページの英文で全て細かく読むのは骨の折れることです。 でも、解りやすい図を参照に、興味のあるセクションだけでも読まれるの は良い勉強になります。 このプレゼンはCMSのHPからダウンロード可能です。 是非、補足資料としてお使い下さいませ。 頑張って勉強 するぞー!
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