b 精 子 sperm

対合開始
染色体の対合
キアズマ形成
分離
第一減数分裂終了時の細胞
第二減数分裂終了時の細胞
図1-2
減数分裂の仕組み
第一減数分裂に先立って染色体(DNA)数を 2 倍
虫にかなわない哺乳類が生み出した知恵といえま
に増やします(通常時を 2n と表現するので 4n に
す。
なります)。そして,相同染色体が寄り添うよう
ところで,一次卵母細胞から 4 個の成熟卵子が
に並び,これを対合 pairing と呼びます。対合状態
できるわけではありません。成熟卵子は各月経周
では各染色体が 2 倍になっているので,4 本の染
期に 1 個あれば十分なので,2 度の減数分裂に際
色体が束を作ります。さらに,4 本の染色体は交
してそのつど片割れが極体 polar body となって捨
叉してキアズマ chiasma を形成し,遺伝情報を交
てられます(第一減数分裂で捨てられるものを第
換します。その後,染色体は 2 本ずつ引き離され,
一極体,第二減数分裂で捨てられるものを第二極
これで第一減数分裂が終了します。
体と呼びます)(図 1-1 左)。後述のように,数の
この段階で DNA 量は 2n に戻っていますが,染
色体数は 23 本です(2 倍になった相同染色体を 23
本もっています)。他方,第二減数分裂では,そ
4
多さで勝負する精子とは大きな違いがあります。
b精
子 sperm
れに先立つ DNA 複製は行われません。単に 2 つに
遺伝的男性では原始生殖細胞は分化しないでそ
分かれるだけなので,染色体数は 23 本,DNA 量
のまま休止期に入り,思春期に至って初めて精原
は半分の n になります。ここで気をつけていただ
細胞 spermatogonium になります。精原細胞は体
きたいのは,単に 1 個の細胞が 4 個の細胞に分か
細胞分裂を重ねた後,第一減数分裂に入り(第一
れるだけではなく,この 4 個の細胞はいずれも異
減 数 分 裂 に 入 る と , 一 次 精 母 細 胞 primary
なる遺伝情報をもつという点です。図 1-2 では 1
spermatocyte に名称が変わります),速やかにこ
対の染色体しか描かれていませんが,実際には 23
れ を 完 了 し て 二 次 精 母 細 胞 secondary
本の遺伝子が入り乱れて交叉します。すると,毎
spermatocyte になります。なお,精原細胞は一次
月放出される卵子の遺伝情報,1 回に射精される 1
精母細胞に分化しないまま自己複製をすることも
億個以上の精子の遺伝情報はすべて異なり,受精
可能です。つまり,年老いた後にも精子を供給で
卵が受け継ぐ両親の遺伝情報の組合せパターンは
きる体制が維持されています。二次精母細胞も直
天文学的な数になります。このメカニズムを採用
ちに第二減数分裂に入り,そのままこれを完了し
した目的は多様性の確保にあり(どんな天敵が登
て精子細胞 spermatid となります(図 1-1 右)。な
場しても誰かしらは生き残れます),繁殖力で昆
お,各減数分裂に際して細胞質も均等に分けられ,
産
科
先体(アクロゾーム)
頭部
頸部
精子細胞膜
拡大
先体外膜
先体帽
先体内膜
第
1
章
体部
ミトコンドリア
核膜
核
尾部
図1-3
精子の形態
結果的に 1 個の一次精母細胞からは 4 個の精子細
節約するだけでなく,物理的・化学的刺激に耐え
胞が誕生します。精子細胞は次第に成熟し,特殊
る目的もあります。他方,体部にはミトコンドリ
な形態をした精子となります。精原細胞が精子に
アが豊富に存在し,精子にエネルギーを供給しま
至るには 2 か月以上要しますが,こつこつと作業
す。また,尾部は精子の運動性を確保するための
6
を積み重ね,毎日 125 × 10 個も生産されます
重要な道具です(図 1-3)
。
(出生前の卵原細胞を大切に消費する女性とは大
STEP 1
きな違いです)
。
一次精母細胞は 46 本の染色体をもった 4n,二
次精母細胞は 23 本の染色体をもった 2n,精子細
胞は 23 本の染色体をもった n です。男性の性染色
卵原細胞は出生後に生産されない
g出生時までに第一減数分裂に入り(一
次卵母細胞),途中で止める
体は XY の組合せなので,二次精母細胞には 22 +
g排卵直後に第一減数分裂を完了し,第
X と 22 + Y の二者があり,どちらが卵子(22 + X)
二減数分裂に入る(二次卵母細胞)
に進入するかによって胎児の性が決定されます。
g第二減数分裂も途中で止め,受精時に
なお,22 + Y の精子は 22 + X の精子よりわずか
に卵子に結合しやすいため,出生時の性比は 105 :
100 で,男児の方がやや多く生まれます(結婚適
完了
g1 個の一次卵母細胞からは 1 個の成熟
卵細胞しかできない
齢期までに不慮の事故や自殺などで死亡しやすい
精原細胞は思春期に至って初登場
男性を多く作るシステムを採用したと考えられま
g2 回の減数分裂をすませ,4 個の精子細
す)
。
次に精子の形態を説明します。その全長は
0.05mm で,頭部,頸部,体部,尾部の 4 パーツ
胞(精子)となる
g頭部には凝縮した核が充満し,それを
包む先体が存在
からできています。頭部には凝縮した核が充満し
(凝縮に際して核蛋白がヒストンからプロタミン
に代わります)
,帽子のように先体 acrosome が頭
部を包んでいます。なお,核の凝縮はスペースを
第1章
妊娠の生理
5
2 受
精
振幅も上昇した三次元運動をとるようになりま
fertilization
す。活性化は精子が放線冠と透明帯を突破して卵
子に進入するために不可欠であり,ここで初めて
受精能を獲得 capacitation します。
a 受精に至るまで
射出された精子は子宮内で数日間生存します
受精は卵子と精子が合体し,細胞質と核が融合
が,受精能を維持できるのはせいぜい 1 〜 2 日で
する現象で,卵管膨大部で起こります(図 1-4)。
す。他方,放出された卵子の生存期間はわずか数
排卵に至る前の Graaf 卵胞は数層の顆粒膜細胞に
時間です。したがって,受精のチャンスは各月経
包まれていますが(顆粒膜細胞は卵子を辺縁に押
周期に 1 〜 2 日しかありません。卵子と精子が卵
しやって卵丘を作ります),この顆粒膜細胞は丈
管膨大部でばったり遭遇することもありますが,
が高く,整った配列を示すので,放線冠 radiate
一般的には精子が卵管峡部で排卵のときを待ち,
corona と呼ばれます。また,顆粒膜細胞と卵子の
膨大部に向かってのこのことやってくる卵子を見
間には糖蛋白からなる分厚い均質な層が存在し,
つけて襲いかかるというパターンをとります。ち
光学顕微鏡で観察すると光をよく通すので,透明
なみに,待っている間,線毛運動によって流され
帯と呼ばれます(図 1-5 参照)
。そして,卵子はこ
ないように,精子は卵管上皮細胞に頭部を擦り付
の状態のまま腹腔内に放出され,速やかに卵管采
けてじっと耐えています。
に取り上げられた後,卵管上皮の線毛運動に従っ
STEP 2
て卵管膨大部に至ります。
他方,精子は自らの運動で子宮を泳ぎ渡り,卵
受精は卵管膨大部で起こる
管膨大部にたどり着きます。射出された精子の数
は 2 億個を超えますが,卵管膨大部に至るまでに
そのほとんどが淘汰され,たどり着けるのは数十
b 先体反応 acrosome reaction
精子が卵子周囲の透明帯に接触すると,その先
個だけです。
なお,射出直後の精子は単に前進するだけの能
体が変化して穿孔しますが,これを先体反応と呼
力しかなく,このままでは受精できません。しか
びます。透明帯への接着には放線冠をくぐり抜け
し,精漿(精子以外の精液成分)中の糖蛋白や糖
る三次元的運動が必要なので,受精能を獲得した
脂質,頸管粘液中の未知の成分が精子に付着した
精子のみが先体反応を起こせます。
り,細胞膜を安定化しているコレステロールが餝
がれたりすると,精子は一挙に活性化し,速度も
その過程を詳しくみると,透明帯には ZP1,ZP2,
ZP3 という 3 種類の糖蛋白がありますが,精子が
ZP3 に結合すると,先体外膜に存在する G 蛋白受
容体が活性化され,先体内に Ca2+が流入します。
これが刺激となって先体外膜は破綻して消失しま
卵管膨大部
卵巣
すが,その際に先体内に蓄えられていたアクロシ
ン acrosin(加水分解酵素の一種)が放出され,透
卵管采
排卵
明帯を溶かしながら突き進んでいきます。
透明帯を貫通した精子は卵子の細胞膜と接着
し,速やかに融合します。この変化に触発された
腟
卵子は中断していた第二減数分裂を再開します。
図1-4
6
産
科
受精の仕組み
第二減数分裂は速やかに完了し,第二極体を放出
して,23 本の染色体で DNA 量が n の雌性前核が
埋もれたまま死滅してしまいます。なお,例外的
できあがります(なお,この時点の卵子には第一
に多精子受精が生じた場合,哺乳類では流産に終
極体を含めた 3 個の極体を観察できますが,いず
わりますが(多胎になりません),鳥類や爬虫類
れもやがて消失します)
。他方,精子の核はプロタ
ではその 1 つを雄性前核として選択するシステム
ミンへの置換によって凝縮されていましたが,こ
が備わっています。
第
1
章
こでプロタミンをヒストンに戻して元の姿になり
STEP 3
(脱凝縮によって膨化し),雄性前核となります
(以前から精子の染色体は 23 本,DNA 量は n で
受精能を獲得した精子は透明帯に触れて
す)。雌雄の前核は受精後 12 時間程度存続し,そ
先体反応
の間にそれぞれが DNA 量を 2 倍に増やします。そ
→透明帯を貫通して卵子の細胞膜に触れ
る
して,両者は接近し,相互の核膜を失って完全に
融合するとともに細胞分裂を起こして 2 細胞期に
→卵子は第二減数分裂を再開し,雌性前
核になる
入ります(図 1-5)。これで受精は完了しますが,
(同時に透明帯の性状が変化して多精
ここまで至るには約 30 時間必要です。
子受精を回避)
ところで,卵管峡部で卵子を待ち伏せる精子の
数は数十個と推定され,これらが一挙に卵子に襲
→精子は雄性前核となって雌性前核と融
合し,2 細胞期に至る
いかかります。しかし,襲われる卵子は多精子受
精 polyspermy を回避しなければなりません。その
鍵を握るのは表層顆粒 cortical granule です。1 個
の精子が卵子の細胞膜と融合すると,その直下に
c 受精卵の輸送と分割(図 1-6)
存在する表層顆粒の内容物が放出され,これが透
卵管膨大部で誕生した受精卵は,卵管粘膜の線
明帯の性状を大きく変化させます。すると,出遅
毛運動と卵管壁の蠕動によって子宮に輸送されま
れた精子は先体反応を起こせなくなるし,すでに
す。卵管壁の蠕動は放線冠を削ぎ落とす作用があ
先体反応を起こしていた精子があっても透明帯に
り,子宮腔に至るまでにすっかり失います(透明
放線冠
透明帯
卵子の細胞膜
雌性前核
雄性前核
先体内容放出
雌性前核
極体
第2成熟分裂の途中
雄性前核と雌性前核の融合
図1-5
2細胞期
先体反応から2細胞期まで
第1章
妊娠の生理
7
管断端が閉じるので,速やかに止血します。それ
STEP 44
でもある程度の出血は避けられず,出血量は通常
200 〜 400ml に達します。なお,分娩の第 1 期と
第1 期:分娩開始→子宮口全開大で,末
期に胎胞が破れて適時破水
第 2 期はほとんど出血しないので,分娩時の出血
≒後産期出血と考えても間違いではありません。
第2 期:→胎児娩出で,児頭は最も下降
し,共圧陣痛で肛門も開く
破綻血管から流出した血液は胎盤と子宮壁との
〜児頭排臨後に発露し,次いで肩甲娩
間 で 血 腫 を 作 り , 胎 盤 後 血 腫 retroplacental
出
hematoma と呼ばれます(図 3-23)
。そして,胎盤
後血腫は胎盤に続いて娩出されます。
第3 期:→胎盤餝離,200 〜 400ml の出
血を伴う
胎児面
母体面
Schultze様式
Duncan様式
図3-21 Schultze様式とDuncan様式
胎盤餝離後
(Schröder徴候)
胎盤後血腫
児娩出直後
(胎盤餝離前)
胎盤娩出後
図3-22 子宮底の変動
74
産
科
図3-23 胎盤後血腫
径は延長し,結果的に長頭蓋 dolichocephalia とな
3 分娩所要時間
ります。
具体的な方法として,胎児は前頭骨と後頭骨を
分娩所要時間は個体差が大きく,さまざまの報
告がありますが,表 3-3 の平均値を紹介します。
左右の頭頂骨の下に滑り込ませます。また,第 2
回旋に際して左右の頭頂骨も重積しますが,岬角
ただし,問題なのは長引いた場合(遷延分娩
に近い頭頂骨が反対側の頭頂骨の下方にきます。
prolonged labor)なので,所要時間の上限の設定
つまり,第 1 胎向であれば胎児の左側に岬角があ
が重要です。遷延分娩は第 7 章で取り上げますが,
るので,左頭頂骨が右頭頂骨の下に入ります(第
第
初産婦で 30 時間,経産婦で 15 時間を経ても児娩
2 胎向であれば,右頭頂骨が左頭頂骨の下に入り
章
出に至らないものと定義されます。
ます)(図 3-24)。なお,骨重積によって変形した
3
児頭は,生後数日以内に本来の姿に戻ります。
4 頭蓋骨重積と産瘤
b産
瘤 caput succedaneum
産瘤は分娩に際して生じる柔らかい腫瘤で,児
頭先進部を中心に認められます。球形に近い物体
a 頭蓋骨重積(骨重積)
が狭い道を通過するとき,先進部は圧迫されませ
overlapping of cranial bones
んが,それに続く部分には強い抵抗が加わります。
縫合と泉門によって緩やかに結合しただけの頭
すると,あたかも血圧測定時にマンシェットの遠
蓋骨は産道通過時(分娩第 2 期)に重積します。後
位部の前腕がむくむのと同じように,静脈還流が
頭位分娩では小斜径周囲で産道を通過するので,
阻害されて先進部の皮下組織には浮腫(滲出液の
小斜径が短縮しなければ意味がありません。そし
貯留)が生じます。
て,小斜径の短縮を受けて,それと直行する大斜
ここから理解できるように,産瘤は頭皮と骨膜
の間に生じ,骨縫合や泉門を越えて拡がります(図
表 3-3
第1期
第2期
第3期
合
計
分娩所要時間の平均値
初産婦
経産婦
10 時間
2 時間
15 分
4 時間
1 時間
15 分
12 時間 15 分
5 時間 15 分
3-25)
。また,産瘤は可動性で,圧迫すると簡単に
つぶれます。
産瘤が生じる部位は児頭先進部なので,反時計
回りに回旋する第 1 胎向では右側が先進部とな
り,右頭頂骨後部に生じます。他方,時計回りに
回旋する第 2 胎向では左側が先進部となり,産瘤
岬角
右頭頂骨
大斜径
頭頂骨
左頭頂骨
前頭骨
後頭骨
後頭骨
小斜径
後面図(第1胎向の場合)
側面図
図3-24 骨重積
第3章
分娩の生理と管理
75
頭皮
帽状腱膜
骨膜
浮腫
帽状腱膜
血腫
血腫
頭蓋骨
産
瘤
頭血腫
帽状腱膜下血腫
図3-25 産瘤と頭血腫・帽状腱膜下血腫
ができるのは左頭頂骨後部です(後部にできるの
は後頭位だからです)。産瘤は分娩時の抵抗に比
例して大きくなりますが,分娩後数時間で縮小し
D 分娩の管理と介助
始め,24 時間以内にほとんど消失します。
産瘤と似て非なるものに,頭血腫と帽状腱膜下
血腫があります。頭血腫 cephal hematoma は産道
の抵抗が非常に強いときに,児頭の骨膜が餝離し,
1 産婦診察
examination of the parturient
その下の血管が破綻して生じます。したがって,
血腫は骨膜と頭蓋骨の間に存在し,骨縫合を越え
て拡がることはありません。頭血腫も多くは数週
以内,遅くても 3 か月以内に吸収されます。他方,
帽状腱膜下血腫 subgaleal hematoma は吸引分娩
a 母体の診察
1)問
診
陣痛の強さと頻度,胎児下降感,胎動の減少,
や鉗子分娩などでさらに強い外力に曝されたとき
破水感,分泌物の有無などについて問診します。
に,骨膜と帽状腱膜の間の血管が破綻して生じま
2)全身状態のチェック
す。血腫は骨膜と帽状腱膜の間に存在し,骨縫合
脈拍,体温,血圧,体重,浮腫の有無などをチェ
を越えてしばしば頭部全体に拡がります。出血量
ックします。
が少なければ自然に吸収されますが,出血量が多
3)外
いと児の循環動態が悪化し,重篤な事態に陥るこ
診
基本的には妊娠時の外診と同じで,子宮底の長
さと子宮の硬さを調べるとともに,胎児部分を触
ともあります。
れて胎位と胎向を把握します。
STEP 45
g骨重積は前頭骨と側頭骨が左右の頭頂
4)内
診
感染防止の必要性が妊娠時の内診よりも高いの
骨の下に滑り込む
で,外陰部および診察者の手指を十分に消毒し,
〜左右の頭頂骨同士では岬角に近い方
滅菌手袋を着用して実施します。
が下にくる
g産瘤は頭皮と骨膜の間に生じたむくみ
で,骨縫合や泉門を越えて拡がる
a)頸管熟化の程度
頸管開大度,展退度,児頭位置,頸管の硬さ,
外子宮口の位置を調べ,Bishop スコアを算出しま
す。前述のように,13 点中 9 点以上で熟化したと
判定します。
76
産
科
b)破
水
c)下向部
破水前であれば胎胞の緊張を認め,破水後であ
下向部の高さをチェックし,De Lee の station
れば胎児(頭位であれば頭髪)を直接触れるので,
方式または Hodge の平行平面で表現します。また,
破水したか否かの判定は比較的容易です。
破水後であれば,児頭に直接触れて,その位置関
ただし,羊水の大半が流出してしまったケース
係を把握します。
などは判定が困難であり,検査が必要です。まず,
羊水は豊富な塩化ナトリウムと蛋白質を含むの
b 胎児の評価
で,これを乾燥させると,羊歯状結晶を形成しま
胎児心拍数陣痛図(CTG)で,胎児の心拍数と
第
す。ただし,腟内容にも塩化ナトリウムや蛋白質
陣痛の強さと頻度を連続的に記録します。その詳
章
があるので,程度の違いに過ぎず,正診率は約 60
細は分娩監視の箇所で説明します。
%止まりです。また,妊婦の腟は pH 4.0 前後の酸
3
c 超音波検査
性環境であるのに対し,羊水は弱アルカリ性(pH
8.0 〜 9.0)なので(p.16,STEP 9 参照),破水後
必要に応じて胎児の大きさ,胎位,胎盤の位置,
は pH が上昇します。ただし,尿や血液,細菌感染
羊水量をチェックします。
の影響を受けるので,正診率は 80 〜 90 %です。そ
こで,羊水中にしか存在しない物質の検出を試み
ます。具体的にはヒト癌胎児性フィブロネクチン,
2 分娩監視
インスリン様成長因子結合蛋白 1 型(IGFBP-1),
αフェトプロテイン(AFP)などがあり(2012 年
現在,AFP 測定キットは製造されていません),
a 子宮頸管開大曲線 cervical dilatation curve
(Friedman 曲線)
正診率は 95 %以上ですが,保険適用は妊娠 37 週
アメリカのフリードマン博士は,縦軸に陣痛発
以前の破水に限られています。
なお,従来はメチレンブルーやインジゴカルミ
作時の子宮頸管開大度(cm),横軸に時間をとっ
ンを子宮内に注入し,腟内への色素排泄を観察し
てグラフを作成すると,健常妊婦の大半が S 状曲
ていましたが,胎児に対する安全性や感染の懸念
線(Friedman 曲線)を描くことを報告しました
(図 3-26)
。
があることから,近年は実施されていません。
(cm)
10
減
速
期
8
子
宮
頸
管
開
大
度
分
娩
第
2
期
6
最
大
傾
斜
期
4
2
0
加
速
期
2
4
6
潜伏期
図3-26
8
10
12
14
16(時間)
活動期
子宮頸管開大曲線
第3章
分娩の生理と管理
77