平成 22 年度高等学校授業力向上研修 実践記録 平成22年年度高等学校授業力向上研修 実践報告書 生徒の表現力や学習動機を高めるための文化理解活動 -英語Ⅱの授業を通して- 松井 Ⅰ 市子(新潟県立松代高等学校) 指導構想 1)課題解決のための指導方針、授業構想 中学校での英語学習につまずいた生徒に対して、高等学校でその苦手意識を払拭することも大切な指導 である。「分からない→面白くない→やらない」の学習の負のサイクルをどこかで断ち切る手立てが必要 となる。英語学習への動機付けが高まり自信を取り戻すと、授業中の発声も活発化し始める。本研究では 英語に苦手意識を持つ生徒に対して、「面白い授業」、つまり生徒が教材や他者の考えに興味や関心を持 ち、主体的に学ぶ姿勢へと導く授業を仕組む。そのために文化理解を研究テーマの中心に据える。 授業では教科書の英文をインプットと捉え、そこから自分が感じたことや考えたことを英語や日本語で アウトプットする活動や、他者との意見交流を通して文化的な気づきが深まる活動や発問を設定する。し かしアウトプット活動において英語で表現するとなると制約を感じる生徒は多い。そこで翻訳ソフトを活 用してその制約を最小限にした表現活動を行う。また、自由な表現活動を保障する一方で基礎・基本の定 着をねらった活動も確保したい。そこで単語のペア活動を帯学習として位置付ける。これは生徒が少しで も「わかる」「できる」といった達成感や、ペアで学び合う楽しさを味わえるようにするためである。こ れらの活動を通して生徒の学習意欲が高まり、表現力の伸長に資することを期待する。 2)学習指導要領との関連 外国語の教科目標は「外国語を通じて、言語や文化に対する理解を深め、積極的にコミュニケーション を図ろうとする態度の育成を図り、情報や相手の意向などを理解したり自分の考えなどを表現したりする 実践的コミュニケーション能力を養う」ことである。研究スタンスで現状を見た場合、実践的コミュニケ ーション能力の育成や言語理解に関する研究や実践は進んでいるものの、文化理解に関しては明らかにさ れていない部分も多い。外国語学習の目標には、学習言語の習得の他に音や表記法、文法などの言語的側 面の理解と並んで、思考法、表現法などその言語を使用する人々に関わる文化的側面の理解も挙げられる。 しかし、日本の教育現場では学習言語の習得に重きが置かれているのが現状である。 外国語学習を通して生徒の思考力、判断力、表現力、コミュニケーション能力を培うことが求められて いる中で、それらの力を育成するには様々なアプローチがあるが、文化理解を目標に掲げて授業を行うこ とで、これまで以上に生徒の自己探求や自己実現の機会が深まり、それらの力を育成することに資すると 期待する。文化理解には人としての営みの特質となる「言語」が大きく関わっているので、言語に関わる 事象を学び、他者の考えと比較することで生徒の学習意欲が喚起されると期待できる。 1 3)実際の授業の展開 生徒の表現力や学習動機を高めるために以下の3点を工夫する。 学習テーマの設定と学習展開 文化理解を授業の中心に据えた場合、学習テーマの設定が一番の課題となるが、表1はその一覧であ る。単元の学習展開は学習テーマに関する教科書やALT(外国語指導助手)の英文を通して題材を理 解し(①異文化の価値観の提示、モデル文の提示)、そこから感じた事や考えた事を表現し(②テーマ に関する自己表現)、クラスメートとの交流を通して自分の思考を深め(③テーマに関する別の意見の 提示)、単元の学習テーマのまとめ(④自文化の意識化・文化観の相対化)という流れである。また、 ALTに特定のテーマで Monthly Newsletter(NL:月刊便り)を発行してもらい、それを元に Teamteaching(TT)を実施し、文化理解を促進するよう工夫する。なお、TTは週一度実施している。 表 1 学習テーマと評価の関連 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 学習テーマ オーストラリアの地理 環境問題 オーストラリアの学校 歴史上の英雄 尊敬される科学者 オーストラリアの国民性 翻訳ソフト① 様々な英語 古都 オリンピック選手 長期休暇の過ごし方 差別の歴史 生徒の声① 歴史の転換点 アルバイト 宇宙開発 家族 生徒の声② 社会貢献 音楽 仕事と生き方 翻訳ソフト② 生徒の声③ クリスマスと休日 新年の抱負 プロジェクト・翻訳ソフト③ 自立 WU:What’ Up? 教材 ALT 英語ⅡLesson10 ALT WU① WU② ALT ALT WU③ WU④ ALT WU⑤ WU WU⑥ ALT WU⑦ ALT WU WU⑧ ALT WU⑨ WU 英語Ⅱ Lesson8 ALT 他科目との連携 ALT 評価対象(4技能) R・L・S R・L・S・W R・L・S R・L R・L・S・W R・L・S R・L・S・W R・L・S R・L R・L R・L・S・W R・L R・L R・L R・L・S・W R・L R・L・S・W R・L・S R・L・S R・L・S・W R・L・S・W R・L・S・W R・L・S・W R・L R・L・S・W R・L・S・W R・L・S 評価場面・手段 NL メール NL ワークシート ワークシート NL ワークシート NL ワークシート ワークシート NL・メール ワークシート 観察 ワークシート NL ワークシート NL ワークシート ワークシート NL・ビデオ ワークシート ワークシート ワークシート ワークシート・ICレコーダ NL ワークシート・ビデオ ワークシート NL:月刊便り R・L・S・W:Reading・Listening・Speaing・Writing 帯学習としての単語のペア活動 動機付けの低い生徒に対しては、まず英語がわかる、できるという感覚を出来るだけ多く感じられる ような活動を設定し、英語学習に対する意欲や自信を取り戻す工夫が必要である。語彙力を付けること は外国語学習にとって大切だが、教師が良かれと思って実施する単語テストで結果が振るわず、時にそ の埋め合わせの課題やテストが課され、ますます英語に対する苦手意識が増すというパターンに陥りが ちである。本研究では単語テストを廃止し、その代わりに毎時間単語のペア活動を帯学習として実施す 2 る。帯学習はパターンが決まっており、 そのパターンに慣れることで短時間でも 一定の基礎力を定着させるには適してい ると考えられる。これはクラスサイズが 大きい場合の生徒の活動従事度を上げる には最適である。また、単語テストに関 わる教員の時間と労力を考慮した場合、 廃止した方が教員にも生徒にも良い効果 が認められると期待する。 実際の手順は以下の通りである。毎回 の授業は帯学習で始まる。定期考査まで の新出単語を単元ごとにワークシートに 記入する(図1)。10行目までは全員 共通で、11~20行目までは各自の自 由で埋めさせる。レベル1「英単語を自 力で読める」、レベル2「読まれた英語 を日本語で答える」、レベル3「読まれ た日本語を英語で答える」、レベル4 「読まれた日本語を英語で書きとる」の 中からレベルを選んでペアで学習し、で きればチェック欄に○を記入する。1分 30秒ごとに役割を交代する。その後、 教師による全体確認(生徒は教師が読む 単語を書き取り日本語にする)を1分で 行う。合計時間が5分程度の活動である。 図 1 単語のペア学習のワークシート アウトプット活動時間の確保 アウトプット活動を確保するには適当な時間が必要なので教師主導指導を最小限に抑え、生徒主導の 活動や自律学習を促す手立てを示すことが大切である。その一つが定期考査までの一連の活動と評価を 生徒と共有することである。1~2ヶ月の間でどのような内容の教材でどのような活動を行い、4技能 をどのように評価するのかを生徒に示すことで見通しを持った学習を促すことができる。定期考査後に はその見通しを振り返る時間を確保して生徒が次の見通しを持つよう促す。表1の評価計画や図1のワ ークシートも考査までの活動や評価を生徒と共有するときに役立つ。 インプットとして教科書を扱う際の授業手順は以下に示すとおりである。英文の日本語訳は英文提示 と同時に行う(図2)。これは教師主導指導を最小限に抑え、生徒のリスニング活動や発話活動の時間 を確保するための一つの手段である。語彙指導の後、英文の聞き取り問題や日本語訳の空所補充を行う。 その際に帯学習での単語のペア活動が活きてくる。生徒は「分かる」という感覚を多く感じるのである。 それがさらに意欲的にペア活動に取り組むという相乗効果につながる。 教師主導の指導を縮小したことで生じた時間をアトプット活動に充てる。図3は研究授業で使用した ワークシートである。学習テーマが生徒の身近な事柄と関連付けられるように設問や活動を設定する。 本単元の学習テーマは「仕事と生き方」である。このテーマが教科書でどのように提示され、それを自 分はどのように受け取り、他の人(生徒や教師、ALT)の受け取り方とどのように異なるかを比較す ることで文化観の相対化を図る(図3 左側)。 3 図2 図3 教科書補助プリント(Lesson9 Dr.Designer) 学習テーマに関する授業プリント(ワークシート) 4 教科書では工業デザイナーの川崎和男氏が何をきっかけにその職業を選択し(①職業の抽出、②きっか け)、その分野にかける情熱やその分野が今後どのような発展を遂げるのか(③必要な資質・能力、④将 来の展望)という内容が取り上げられている。本文の内容理解の後、生徒は自分の就きたい職業について 観点別(①~④+⑤働く目的)に日本語で考えをまとめる(図3 右側)。次に①~⑤の日本文を以下の マス目1~10に埋めていく。それを英語にする際にインターネットのフリー翻訳ソフト(free translation か excite)を活用する。その英文をALTにチェックしてもらい、通じない英文はなぜ通じな いのかを考え、日本語からもう一度直して、通じる英語になるまでこの作業を繰り返す(図4)。日本語 と英語では言語的特性が大きく異なるが、この作業を通して必然的にその違い(代名詞の使用方法や語順 など)を意識するようになる。 図4はある生徒の活動例であるが、職業に関して彼が表現したかった日本語と、翻訳ソフトを使用し てALTチェックを受けた英文は以下に示す通りである。 【日本語】私の夢は建築士になることです。理由は二つあり、一つは何もないところから自分の力で建物を作りたいか ら、もう一つは父の後を継ぎたいからです。そのためには資格を取ったり、技術を身につけたりしなければなりませ ん。そのために私は一生懸命勉強しています。目指すは一級建築士です。いつか自分で設計した図で家を建てたいで す。 【英語】My dream is to become an architect. There are two reasons. I must build the building from any place with my power. I am to do father’s successor. It is necessary to qualify for that. I am studying hard for that now. The target is a first class authorized architect. I want to build the house in figure that I designed at one time. 英語が苦手な生徒であるが、翻訳ソフトがあることで、表現活動に取り組もうという意欲が生まれ、 上記のような日本語を書くことができた。また、訳された英文やALTにチェックされた英文と日 本語を見直して英語らしいものにしていこうとする過程にも積極的に取り組んだ。 これらの活動を通して、教科書の学習テーマが自身の生活と関連付けられ、また他の生徒やAL Tの考えと対比することで自文化や異文化の特性の同異性に気づくようになる。テーマによっては 文化の違いに関わらず人類普遍のものがあり、その発見は彼らにとって時に大きな衝撃になるよう である。 図 4 生徒の翻訳作業例 5 Ⅱ 学習指導案 1 科目名および単元名 英語Ⅱ(3年) 教材 What’s up? 2009-2010 Intermediate(桐原書店)Lesson9 Dr. Designer 2 指導目標(評価規準)と指導/評価計画 英語Ⅱの評価規準は表2に示す通りである。どの単元でも根底に文化理解という目的を置き、4技能の バランスが取れた活動を仕組むように意図している。また、表3は単元ごとの学習内容と学習形態、評価 方法等を示したものである。 表 2 英語Ⅱの評価規準 A 関心・意欲・態度 ①他の生徒や教師の発言や 書いたものを見て、メモを 取ったり質問をしたりする などの反応を示す。 ②日本語と英語、自文化と 異文化との相違点や類似点 に注意を払おうとする。 ③他の生徒や教師との約束 事を守ろうとする。 B 表現の能力 Speaking / Writing ①聞き手に通じる強勢やイ ントネーションで話すこと ができる。 ②英語の音に注意して発音 できる。 ③正しい綴りで英語を書く ことができる。 ④正しい文法でまとまりの ある英文を話したり書いた りすることができる。 C 理解の能力 Listening / Reading ①まとまりのある英語を聞 いてその内容を理解するこ とができる。 ②まとまりのある英語を読 んでその内容を理解するこ とができる。 D 知識・理解 ①日本語と英語の言語的違 いを理解することができ る。 ②与えられたテーマに関し て自分と同じ、もしくは異 なる文化の特徴を説明する ことができる。 表 3 単元における学習内容と評価計画(全 3 時間) 時 1 2 3 3 学習内容 語彙学習 単元テーマとモデルの提示 語彙学習 単元テーマに関する考察 アウトプット活動 語彙学習 単元テーマに関する考察の比較とまとめ アウトプット活動 学習形態 ペア・個人・全体 個人・全体 ペア・個人・全体 個人 個人 ペア・個人・全体 全体・個人 個人 評価対象と方法 ワークシート 活動内容 観察 備考 TT TT 本時の計画(2/3時間) (1)ねらい ・テスト範囲の単語に親しむ。【A①③】 ・職業観に関する異文化間の相違点や類似点を説明することができる。【C①②・D②】 ・日本語と英語の表現の違いに注意を向け、その特性の違いを説明することができる。【D①】 ※【 】内は表 2 参照 6 (2)本時における「研究テーマ」に迫るための指導の構想 英語で表現したくても出来ない生徒を支援するため、また日本語と英語の違いに意識を向けるために 翻訳ソフトを活用する。翻訳ソフトを有効に活用するためには、表現したい日本語を英語らしくなるよう に意訳し直す必要がある。そこで、英語と日本語の言語的側面に注意を払い、翻訳ソフトを有効に活用で きるようになるための段階的指導を試みる。また、トピックに関する文化的側面への気づきにつなげ、異 文化理解、自文化理解へと思考を深めていく活動を設定する。 (3)展開 時間 学習活動と内容 指導上の留意点■・支援( 導入(8 分) ・英語で挨拶を交わす。 ・ペアになり、ワークシート①を 使用して新出単語の練習をする。 ■元気に挨拶をしているか【観察】 ■意欲的に活動に取り組んでいるか【観察 A①③】 (発音できない生徒の支援をし、生徒が 間違えやすい単語をチェックする) 展開①(15 分) 教科書の英文理解 展開②(25 分) 仲間の作品鑑賞 ・教師が読み上げる問題で確認する。 ・教科書補助プリントを利用し て、教科書の英文の流れを理解す る。 ・生徒の代表作品を聞く。 ・教科書を読んで、日本人の職業 観の特性について考える。 )・評価【 】 資料等 ワークシート① ※図1 ■日本語と英単語を関連付けようとして いるか【観察A①】 教科書 教科書補助プリント ※図2 ■内容を理解できるか【観察C②】 ■自分と違う視点や同じ視点に注意を払 っているか【観察・支援C②D②】 (英語で躓いているかどうか見極める) ワークシート② ※図3 (発問)職業を決めるのに必要な 5 つの視点は? 自文化と異文化 の比較 翻訳ソフトを用 いた活動 ・ALTの職業観を聞いて、日本 人の特性との違いがあるか考え る。 ・翻訳ソフト利用時のよくある間 違いについてその特性を考える。 ■内容を理解できるか【観察C①】 ■自文化と異文化という視点を持ってい るか【観察D②】 ■日本語と英語の違いに注意して、その 特性に気付けるか【観察D①】 (発問)日本語のどの部分を直せば通じる英語になるか? まとめ(2 分) ・課題をメモする。 ■メモしているか【観察A①】 ※参照 Ⅲ 授業の実際 導入では、普段の授業で帯学習として取り入れているペア学習のため、生徒は慣れた様子であった。 ペア学習のざわついた雰囲気から個人学習、全体学習へと形態を変えることで気持ちの切り替えもね らった。参観者からはALTとの役割分担がスムーズだという感想を頂いた(毎週火曜日はALTと のTTを行っているため本時もその形態で行った)。 展開①では、本文の英文解釈と文法説明を行ったが、表現活動の時間を確保するため、本文の日本 語訳は英文と同時提示である。プリントの日本語の空所補充を行う活動では、板書は日本語の答えで はなく英単語を書き、最後に黒板に残った英単語から日本語を再現する活動につなげ、何度も単語を 振り返られるようにした。 7 展開②が文化理解活動の中心となる。テキストのテーマをどのように生徒が自分の実生活と関連付けら れるかが重要になる。本課では、テキストの内容と生徒の職業観を相対化する活動を仕組んだ。工業デザ イナー川崎和男氏が何をきっかけにその職業を選択し、その分野にかける情熱やその分野が今後どのよう な発展を遂げるのか、という内容の英文を読み、それを自分の職業観や将来像と結びつけ、感じたことや 考えたことを英語にするという活動である。自力では英語にできないので、まず表現したい日本語を翻訳 ソフトで英語にする。そしてそれが通じるかどうかALTのチェックを受け、通じる英語になるまで日本 語の直しと英語の直しを繰り返す。授業では二人の生徒の優秀作品を提示し、彼らがどのような職業に就 きたいと思っているのか、きっかけは何か、その職業に就くために必要な資質や能力は何か、という聞き 取り活動を行った。 授業では、ALTの職業観を聞き取る活動で時間切れとなり、職業観比較や職業観の普遍性について考 える活動は実施できなかった。 参観者から、ALTの職業観を聞きとる活動は語彙が難しく、ペンが動いていない生徒が多かったとい う指摘を頂いた。さらに、生徒が翻訳ソフトを使用して英訳する活動においてはすべてをその作業にする のではなく、キーフレーズをいくつか提示し習得させたい構文を絞ることで、生徒が目的に応じて使える 表現を増やしていくことができるだとうと指摘して頂いた。 授業を振り返って一番生徒の関心が高まったと感じた場面は、ワークシートを使って生徒の作品を読み 上げたときであった。英語を聞き取ろうと耳をそばだて、どの生徒の作品か一生懸命考えていた。それが 英語の苦手な彼だと分かったとき、またいつも物静かな彼女が将来の職業についてこんなにも熱い思いを 抱いていたと知ったとき、彼らの中で心の動きがあったのであろう。 また、単語テストを実施してきたときと比べてペア活動に変更してからの方が、生徒の発声量は大きく なり、定期考査の単語の聞き取り問題の記述量と正答率は上がった。そして単語テストに関わる教員の労 力はペア活動の方が少なくなった。 Ⅳ 実践の考察のまとめ 英語学習に対する動機付けが低く英語力が原因で表現活動が制約される生徒にも、表現力を磨き自分を 表現することの楽しさを味わってもらいたくて翻訳ソフトを使用した活動を授業に取り入れた。また、教 科書で学ぶ内容を受動的に受け止めるのではなく、実生活に結び付けて能動的に考える機会を確保したか ったので、文化理解を授業の中心テーマに位置づけた。さらに、ALTとのTTを文化理解の手段となる ように工夫した。また、授業で英語が「分かる」「面白い」という感覚を味わってもらうために、単語テ ストの代わりに単語のペア学習を取り入れた。これらの効果について検証していく。 表4は、研究テーマに関する授業について、生徒に質問紙調査を行った結果を示したものである。各質 問に対し、「1:そう思わない」「2:どちらかというとそう思わない」「3:どちらかというとそう思 う」「4:そう思う」の4段階尺度で回答したものの個数とカイ自乗検定を行った残差分析の結果を示し たものである。 分析の結果、項目5、6、8で「4」と答えた生徒が有意に多いことから、帯学習として行った単語の ペア活動はやりがいがあり、単語を覚えるのに役立ち、またこのような活動を継続してもらいたいと感じ ている生徒が多いことが分かった。また項目9で「1」「2」と答えた生徒が「3」「4」と答えた生徒 より有意に多いことから、単語を覚えるには単語テストよりペア活動の方が効果的だと感じている生徒が 多いことも分かった。 さらに、項目10、17で「3」と答えた生徒が有意に多いことから、ALTとのTTを通して英語力 が伸びたと感じ、月刊便りを楽しみにしている生徒が多いことも分かった。 一方で、項目3で「2」と答えた生徒が有意に多いことは、翻訳ソフトを使用しても表現活動に自信が 持てない生徒が依然として多いことを示している。しかし、相対的に分析結果を見た場合、項目9以外の 8 すべての活動において肯定的な回答をした生徒の数が否定的な回答をした生徒より多いことから、これら の活動が生徒のやる気を高めるのに有効だったと推測できる。 なお、項目7で「3」、項目10、11で「2」、項目12で「4」、項目17で「4」と答えた生徒 が有意に少ないことは他の項目における同回答者との比較から生じた結果なので、考察の対象から除く。 次に、文化理解活動についての考察を行う。表5は研究テーマに関する「授業の感想や授業への要望」 について、表6は「他国や自国の文化を理解するのに役立ったと思われる活動や場面」について、自由記 述回答をまとめたものである。これらの結果から、多くの生徒がALTとのTTや月刊便りを通して異文 化に興味を持ち、自文化へも関心が向いたことや、単語のペア活動により英語学習への苦手意識を払拭で き、翻訳ソフトを用いた活動により言語特性に意識を向けたことが分かる。 授業アンケートに関するカイ自乗検定の残差分析結果(N=30) 表 4 1 2 3 項目1 翻訳ソフトは表現活動に役立った。 0 3 18 9 項目2 翻訳ソフトを使った表現活動はやりがいがあった。 0 3 15 12 項目3 翻訳ソフトを使った表現活動を通して自分に自信がついた。 0 13 11 6 項目4 また機会があれば翻訳ソフトを使った表現活動を行いたい。 0 4 16 10 項目5 単語を覚えるためのペア活動は単語を覚えるのに役立った。 0 2 11 項目6 単語を覚えるためのペア活動はやりがいがあった。 0 7 9 項目7 単語を覚えるためのペア活動を通して自分に自信がついた。 0 7 13 項目8 また機会があればこのようなペア活動を行いたい。 0 ▲** 5 13 ▽** ▲ 8 26 ▲** 14 ▲* 10 12 ** 17 13 ** 2 ▲** 4 ▽ 項目9 単語を覚えるにはペア活動より小テストの方が良い。 7 項目10 ALTの授業は英語力を伸ばすのに役立った。 0 0 ▽** 項目11 ALTの授業はやりがいがあった。 0 0 ▽** 21 9 項目12 ALTの授業を通して自分に自信がついた。 0 8 19 3 項目13 ALTの授業をできるだけたくさん入れてもらいたい。 0 6 18 6 項目14 ALTの授業を通して外国の文化をよりよく理解できた。 0 2 18 10 項目15 ALTの授業を通して自国の文化をよりよく理解できた。 0 3 17 10 項目16 ALTの授業を通して英語が好きになった。 1 7 17 項目17 ALTのニュースレターは楽しみだった。 1 4 22 項目18 ALTの授業の方が普段の授業より英語力を伸ばすのに役立った。 0 8 18 * p<.05 表5 ** p<.01 ▲ ** 4 ▲* ▽** ▽* 5 ▲* 3 ▽* 4 ▲有意に多い ▽有意に少ない 研究テーマに関する授業の感想や授業への要望の自由記述回答 英語を楽しく出来たので良かった ちょい難しい。 長文を英語にするのは難しいと思った。英語にしても文法がめちゃくちゃだったし、日本語を何回も書き直して大変だった。でもどうし たらちゃんとした英文になるのかが分かってよかったと思う。単語のペア活動も楽しく出来たし、覚えられたので良かった。 単語を重点的に勉強することで教科書を読んでいても自然と訳せていたので授業内容はとても良いと思いました 授業では単語を覚えるのが大変でした ALTとは楽しく授業を行うことが出来ました また翻訳の授業をやりたい 翻訳ソフトをする機会を月3くらいにしてほしい 最初のころより英語が分かるようになった気がする と思います 今までの小テストをするよりも単語の練習をするほうがはるかに自分の力に成った 授業は楽しく出来た。ペアワークはすごく役立った。 ペア活動のお陰で単語が自然と頭に入ってきて覚えられた ペアでの単語練習がとても役に立ちました。ペア活動は楽しい分楽に単語が入ってくる気がしました。毎時間やることで身につくのも早 かったと思います。今後も続けてほしいです。 翻訳ソフトの使い方が難しくてなかなか進まなかった。単語のペアワークは続けてほしい。 普段の授業もALTの授業もどちらも分かりやすくて楽しいと思います。 翻訳ソフトの使い方、注意することが分かってよかった できればペアでやる単語の時間を延ばしてほしい 9 表6 他国や自国の文化を理解するのに役立ったと思われる活動や場面についての自由記述回答集計(個数) ○ALTの授業(9) ALTの話ではどのように違うのかなどを詳しく話してもらいました クイズ ○ALTのニュースレター(14) 他国の法律 オーストラリアの学校について 中国 携帯を買うときやはんこを買うときなど 本に来たときのジェネレーションギャップの話 市役所 日本のシステム ○教科書(1) 伊藤さんがアフガニスタンにボランティア活動に行った 外人カードの話とか マイケル先生が日 文化理解を中心に据えた活動により生徒は教材に主体的に関わり、学習動機が高まることが分かった。 このような活動時間を確保するために教師主導の指導を縮小したが、そのことが生徒の学習にマイナスに 働くことは無かったようである。文化理解を中心に据え、生徒主体の活動を行うことはどの科目でも応用 できる。また、ALTとのTTがゲームや景品だけの「楽しい」授業に終わるのではなく、知的好奇心を 刺激されるような活動を意図的に仕組んだ。ALTとのTTは現在様々な問題を呈しており、それを敬遠 する日本人英語教師も増えているが、文化理解において彼らの存在は大変貴重である。教科書の学習テー マを抽出し、それに関連した教材を作成してもらうように依頼すると、たいていのALTは快くかつ意欲 的に取り組んでくれるものである。ALTとのTTは状況が許す限り活用したい。 翻訳ソフトを使用することに至った経緯は、作文課題にそれを使用した生徒がいたことがきっかけであ る。とても理解できる英文ではなかったが、高校卒業後に翻訳ソフトに頼ることが少なからず生じるであ ろうことを鑑み、正しく使用できるように導くよう発想転換を図った。使用するに従い、当初の目論見と は異なりこの活動には言語的気づきにつながるような要素がちりばめられていることに気付いた。英語に なりそうな日本語を考える作業は、すなわち英語と日本語との根本的な違いに自ずと意識を向ける作業で ある。そのことに気づき、文化理解が言語理解に直結した。生徒の表現力や学習動機を高めたいと思って 試行錯誤を重ねる日々であるが、目的を追い求める中で生徒も教師もそれを共有するようになるのであろ う。言語運用能力が著しく向上したとは言えないが、授業中の発声量や彼らの表情を見ていると「文化理 解」を念頭に置いた指導を今後も続けていきたいと思う。 Ⅴ 参考文献・参照ホームページ 佐野正之・水落一郎・鈴木龍一.(1995). 『異文化理解のストラテジー:50の文化的トピックを視点に して』 大修館書店. Dornyei,Z.(米山朝二・関昭典(訳)). (2005). 『動機づけを高める英語指導ストラテジー35』大修館書 店. 文部科学省.「高等学校学習指導要領」(2011) http://www.mext.go.jp/b_menu/shuppan/sonota/990301d/990301i.htm (2012 年 1 月検索) Paran, A. and Sercu, L. (2010). Testing the Untestable in Language Education. Multilingual Matters. 10
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