成熟した市民社会形成の一助としての大学の研修 学習院女子大学准教授 伊藤由紀子 学習院女子大学では、平成 16(2004)年から年に 2 回、ラオス国際協力研修を実施しています。各研 修に毎回 25 名程度参加し、平成 20(2008)年 2 月に実施した研修には学科・学年を超えて 29 名が参 加、国際協力への関心が本学でも確実に高くなってきていることが推察されます。 学習院女子大学のラオス研修は、研修の様々な学びや活動を通して、「国際協力をより身近に、つまり 『普通のこと』と捉える」ことを学生に促す役割を果たすことを目的としています。グローバリゼーシ ョンがさらに進み、貧困、紛争、格差、環境等、様々な課題が以前にもまして世界の人々の生きる環境 を蝕む中、地球市民社会の一員として一人ひとりによる、多様な問題解決への取り組みが必要とされて います。しかしながら日本においては、そのような取り組みは限定的であります。その要因は様々です が、1つ挙げられることは、国際協力活動・支援を「特別なこと」、 「すばらしい、すごいこと」と捉え る風潮が日本にあることです。賛美するがゆえに、国際協力活動は「普通の、何ができるわけでもない 私には関われないこと」と距離を置いてしまう、結果的には「無関心」につながる傾向が見られます。 大多数の「ふつうの」日本人がこうなってしまうと、市民社会に支えられ、そのミッション・活動を拡 げてゆく国際協力NGOは、発展しうるに足る基盤を形成することが難しくなります。日本の 1 世帯が 1 年にする寄付は 1 万円に満たないという調査結果が出ています。私が住む新宿区では、NPOの活動 を支援するための、一般市民からの寄付による協働推進基金がありますが、毎年平均 15 件程からの総 額 200 万円の寄付に留まっているという現状があります。 先に、私たち一人ひとりが世界の問題解決へ取り組む必要があると書きましたが、もちろん、大多数の 人たちが直接問題解決にあたることはできません。そういう中、できることは現場で働くプロに私たち の責任を託すこと。NGOはそのプロの1組織として重要な役割・機能を所持している集団です。その NGOが現場で様々な使命をはたすための基盤としての資金作りへの貢献は私たち誰もができること です。それができる市民社会こそ、豊かな日本が求める成熟した社会の姿であるはずです。 そうした市民社会を構成する市民の育成に、開発途上国における研修は有効です。研修を通して学生は、 開発途上国がステレオタイプ的な「開発途上国」ではないこと、問題だけではなく、その国らしい豊か さや文化を持っていることを知ることができます。また、この研修の醍醐味は、慣れない地で、学生が 周囲に受け入れられ、助けられることです。そのような学びや経験は、自分が国際社会においてどのよ うな立場であるか、ありたいかを考え、行動をするきっかけとなっています。 研修に参加した学生が、以下のように振り返っています。「実際にラオスに行き、出会った人々は私に とって、今までの意識や価値観を変えさせてくれる大きな存在となった。この研修に参加するまでは、 ラオスは「途上国=貧しい、不便」と思っていた。しかし、3 ヵ月間の準備と、実際に行った 9 日間で その概念が大きく変わった。「貧しい、不便」というのは周りと比べたときに初めてでてくる概念であ り、彼らは自分たちの生活を「豊か」に暮らしていた。むしろ、私たちが無くしてしまったもの、忘れ てしまったものを持つ素敵な人々であった。しかし、ではそのままでいいかというと、そうではないの がまた難しい問題だというのもこの研修を通して初めてわかった。」 こうした学生の気付き・学びが、成熟した市民社会の形成につながることを信じたいです。
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