室内プールにおける鋼材の防錆対策

U.
D.
C. 72
5,
74:6
91.
7:62
0.
1
9
7
西松建設技報 Vol
.
22
室内プールにおける鋼材の防錆対策
TheCons
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小林
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Tos
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要
約
本報告 は,世 田谷 区立千歳温水 プール改築工事 で検討 した室内 プール空間での各種鋼材類 の
防錆対策 に関す る ものであ る.室 内 プール空 間は年 間 を通 して常時高湿度環境 にあ る うえ, プ
ール水 の消毒 を目的 に常 に一定量 以上の塩素が残留す る よう滅菌剤が混入 され るため,普通鋼
のみな らず アル ミニ ウムやステ ンレス鋼 まで非常 に腐食 されやすい厳 しい環境 にある,
本工事 で は,室 内 プール空 間 に関わる鋼材類 の防錆処理対策 を適材適所 に行 い長期 的 に錆 に
よる不具合 を防止 す る こ とを目的 に,設計 ・施工 関係者 に よる検討会 を開催 し,対象部材 の形
状,接合方法 ,施工手順等 を考慮 した うえで,鋼材 の材種,表面処理方法等 を選定 した.
に示す とお り曲面 を多用 した複雑 な形状であ る.
主用途が室内温水 プールであったため,工事着手前 に
世 田谷 区管轄 の既設室内温水 プールを監督員 ・設計者 ・
監理者 とともに調査 ・見学 した ところ,予想以上 に多 く
の鋼材類で錆 による不具合が確認 された.錆 は鉄部 のみ
な らずステ ンレス等 にも確認 され,室内プール空間の環
境 の厳 しさを痛感 した.そ こで,プール空 間における鋼
§1.は じめに
材類や設備機器類の材質,表面処理等 の原設計仕様 を十
分 に再検討す る必要がある と判断 し,設計 ・施工 関係者
による腐食防止検討会 を開催 した.その検討結果 を受 け
世田谷 区立千歳温水 プールは,隣接す る千歳清掃工場
で発生す る廃熱 を利用 した高温水 を熱源 と した施設で, て,原設計仕様 に対す る改善案 を提案することがで きた.
以下 に腐食防止検討会で得 られた防錆技術 な らびに改善
本工事 は既設温水 プール建築物 の解体 も含 む内容であっ
仕様案 を報告す る.
た.建物 は図 - 1, 2のプール階の平面 図お よび断面図
目
次
§1.は じめに
§2.工事概要
§3.検討内容
§4.検討結果
§5.おわ りに
*
東京建築 (
支)千歳温水 プール (
也)
**
技術研究所建築技術課
99
西松廷設枝幸
だ Vo122
室内プール における鋼材の防錆対策
図- 1
750r
)
7
O
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5
0
750
7
5
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0
7
5
0
0
断
面
図
95(
)
(
)
$2.工事概要
工事名称
工事場所
発 注 者
設計監理
:世田谷区立千歳温水 プール改築工事
91
:東京都世田谷区船橋7:世田谷区
:世田谷区建設部営繕第-課第2係
株式会社 早川邦彦建築研究室
施 工 者 西松 ・俵 田 ・日本施設建設共同企業体
工
期 平成8年 1
2月5日-平成 1
1
年2月26日
用
途 水泳場,健康増進浴室及び集会施設
構
造 地下2階-地上3階RC遷
地上4階sRC造,屋根 S造
0,
2
6
6.
3
5
r
n2
敷地面積 :2
建築面積 :2,
01
4.
1
0m2
延床面積 :7,
703.
9m2
最高高 さ :1
8m
軒
尚 :1
7.
8m
100
§3.検討 内容
3- 1 室内プールにおける問題点 と背景
室内プール空間は,常時高湿度環境 にあるうえに塩素
系滅菌剤 (
次亜塩素酸ナ トリウム等) を含 む水蒸気が各
種 の鋼材類表面 に結露 して付着 し,そのサ イクルが繰 り
返 されることによ り鋼材類表面の塩化物が蓄積 され,秩
のみな らず アル ミニ ウムやステ ンレス まで もが早期 に錆
びるほ どの厳 しい環境である.
鋼材類 の塩化物 による席食 に関する研究成果 を調査 し
た ところ,建設省 ・大学 ・鋼材類製造 メーカ等の各種研
究機関で長年 にわた り実施 されて きているが,そのほ と
ん どは沿岸域での実構造物や試験片 による屋外暴露デー
タを基 に した もので,室内プール空間での検討 はあ ま i
l
)
西松廷設技報 Vol
.
22
なされて きていない状況 にあることが分かった.
また,最近竣工 した某室内プールで竣工 2年 に満たな
い時期 にステ ンレス手摺 (
sUs304) の錆 が問題 になっ
た事例があ り,特 に竣工初期 での錆 は美観の うえで大 き
な不具合 に発展す る危険性があることを認識 した.
本工事の原設計仕様 では,室内プール空間に関わる鋼
材類 にステ ンレス,アル ミニ ウムを採用 した り,普通鋼
材 においてはすべ て溶融亜鉛めっ き処理が指定 されてい
る等,防錆性 を考慮 した設計が なされていたが,長期的
な腐食防止 の観点か らは不十分 な可能性 も考 え られた.
3-2 検討内容
(
1
)
検討議題
防錆検討会では下記の項 目を議題 とし,各建材 メーカ
専 門技術者か らの既往研究成果や実施工実績説明後,関
係者一同によるフリーデ ィスカ ッシ ョン形式で改善仕様
の必要性,判断根拠 を検討 した.
① アル ミニ ウムの耐食性
② ステ ンレス鋼 の耐食性
③ 素地別の防錆性塗装仕様
④溶融亜鉛めっきと亜鉛溶射の性能比較
⑤建築用 シー リング材 の特性 と温水 プール用仕様
⑥ ステ ンレス鋼板製 プールの耐食性
(
2
)
改善仕様 を検討 した項 目
検討会での結果 を受 けて以下の仕様 に関 して,原設計
仕様 の改善 安否,改善内容 を検討 した.
① アル ミニ ウム建材 の陽極酸化複合被膜仕様
②塗装 アル ミニウム建材の塗装仕様
③ アル ミカーテ ンウオールの補強鋼材の塗装仕様
④鉄骨螺旋階段支柱 の防錆仕様
⑤鉄骨螺旋階段 の踏み板,手摺 り等の防錆仕様
⑥流水 プールのオーバーブ リッジの防錆仕様
② キャッ トウォークの手摺 り等の防錆仕様
⑧金属製建具の鋼材種お よび防錆仕様
⑨ ステ ンレスプールの仕様
⑲ 目地 シー リング材 の仕様
⑪排煙 オペ レー タの仕様
§4.検討結果
4-1 改善仕様
原設計仕様 と改善仕様 を表 - 1に示す.
4-2 改善理由
以下 に検討内容 な らびに改善理由を示す.
(
1
)
アル ミニウム建材 の陽極酸化複合被膜仕様
I
SH 8602 (
陽極酸化複合被膜) における複
①表 - 2にJ
室内プールにおける鋼材の防錆対策
表- 2 J
I
SH86
02 (
陽極酸化複合被膜)での種類
主な
用
途例
参
考
稗某
月 隠 犠酸 化L波根
Zr
n輝 き (
t
) 染野
莫
〟
輝m
き(
i
) 漁 喉
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9.
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6.
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_
7.
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1
}
上
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帝 色糸
建 築部材 (
環外),印弼 部材 な ど
娃築部材
段蔓
内),家電部材
な ど)
娃
築部材 (
崩
外
でか (
苛)
汚たな環境
姐薬類i
材 (
構外).j
F
t
弼部材な ど
縄 梅酸 化 蚊帳 輝 き及 び漁場 J
g.
さは. 放低 皮発
受輝 き とす る。
償考 1.遼 I
I
F
l
系幣暇 とは. 下地のアル ミニ ウム及びアル ミニ ウム合食や戸
籍柘植 化枝絹 の も
つ瀦柑感及び 色調 をL
j
l
な うこ との ない遜F
l
J
I
又はこれ に光沢だ けを抑 別 した竣順 を
注(
り
いつ.
2. rr色糸照朽
葉とは. 終純拶i
綿糸牧村 に令 色をul
l
l
.
)として顔料 を入れた新色染料 を漁
装 して門Fられ た漁順 をい う。
倉被 膜 の種類 を示 す . これ に よれ ば,原 設計仕様 は
J
I
Sの 「
種類A」 に相 当 し,屋外で苛酷 な環境での下限
値 に相当する.室内プール環境 の苛酷 さの程度 は明 ら
かな状況 にないが,過去の経験 か らは 「
種類A」 の下
限値では十分 とはいえない と判断 された.
②屋外 であれば,アル ミニ ウム表面 に付着 した塩化物 は
雨水 で洗い流 されることも期待で きるが,室内では定
期 的な洗浄 を実施 しないか ぎり,付着 した塩化物 は堆
積 され続 ける危険性がある.室内プール空間は階高が
1
0
m以上 もあ り,洗浄不 能な部位 も多 いため, よ り高
い防錆性 を付与す る必要がある.
③ アル ミニ ウムの腐食 は容易 には補修 で きない こ とか
ら,陽極酸化複合被膜 を1ランク向上 させ るべ きと判
断 した.
(
2)
塗装 アル ミニ ウム建材の塗装仕様
原設計仕様 の焼付形 ポ リウレタン樹脂塗料 は十分 に管
理 された工場での塗装であ り,焼付 け形 ポ リウレタン樹
脂塗料 とアル ミニ ウム との付着性 も良好 なことか ら,室
内 プール環境 で も長期 の防錆性が期待 で きる と判断 し,
原設計仕様 どお りとした.
(
3)アル ミカーテ ンウオールの補強鋼材 の塗装仕様
① 原設計仕様 では溶融亜鉛 めっきとなっている.溶融亜
鉛 めっ きを行 うと鋼材 は急激 な温度上昇 と冷却 を受 け
I
SH
るため どうして もひずみが残留する.そのため,J
8
6
41 (
溶融亜鉛 めっ き) には亜鉛付着量 によ り銅材厚
さの例が示 されてお り,HDZ50 (
亜鉛付着量500g/
m2)
以上の場合 ,5mmを超 える板厚 となっている.カーテ
ンウオールの補強鋼材 には板 厚5mm未満の薄材 も含 ま
れているため,必ず しも溶融亜鉛 めっきが良い とはい
えない と判断 した.
②溶融亜鉛めっ きでは亜鉛 の ダレが生 じやす く,美観上
の問題が想定 された.そこで,塗装で防錆処理 を行 う
こ とを検討 した.ただ し,下塗 り1回 目は工場塗装 と
して素地 と下塗 り塗料の付着性の確保 に配慮 した.
③原設計仕様 の フッ素樹脂塗料 は常温硬化形の塗料の中
101
.
22
西松廷設技報 VoE
室内 プール にお ける鋼材 の防錆対策
表- 1
検討 内容
(
I
) ア′
レミニ ウム建材 の陽極酸
化複合被膜犀 の仕様
(
2) 迭装 アル ミニ ウム建材 の塗
装仕様
(
3) アル ミカー テ ン ウオー ルの
補強鋼材 の塗装仕様
(
4) 鉄骨螺 旋階段支柱 の防錆仕 様
原 設 計 仕 様 お よび改 善 仕 様
原設 計仕様
陽極 酸 化被膜輝 さ :t
L
IJ
Lm以 上
塗膜厚 さ
:1
2l
lm以 上
焼付 け形 ポ リウ レタン塗料 (
工場塗 装)
乾燥 塗膜厚 さ :L
l
O′
上m以 上
原設 計仕 様 どお り
溶融 租鉛 めっき (
H Z55) の うえ
溶融 碓鉛 め っき処理 は行 わず ,以 下 の塗装仕 様
D
ふ っ素樹 脂塗料 (
現場塗装)
溶融 砿鉛 めっき (
HDZ55) の うえ
ステ ン レス (
SUS3
0
4)- ア ライ ン仕 上 げ
摺 り等 の防錆仕様
(
6) 流水プール のオーバー ブ リ
ツジの 防錆仕 様
・桁 ,踏み 板 :鋼材 に溶 融 亜鉛 め っき
の受 け材 (
HDZ5
5)の うえにふ っ素
樹脂染料 (
現場塗 装)
・蹄み板
(
7
)キャ ッ トウォー クの手招 り
:ふ
ステ
ン レス 塗料
っ素樹脂
(
SUS3
(
0
現場
1
)の塗装
うえ)
ステ ン レス (
SUS3
04)- ア ライ ン仕 上 げ
等 の防 錆仕様
(
8)金属製建 具 の鋼 材稼お よび
防錆仕様
(
1
0) 目地 シー リング材 の仕様
SD :扉 ふ っ素樹脂 塗料 (
現場 塗 装)
枠 合成樹脂調合塗 料 (
現場 塗 装)
SSD : .枠 ステ ン レス (
SUS304)- ア
戻
1
02
亜鉛溶射 (
膜厚 1
20/
Jm以 上工場施 工)の うえ
・封孔処理
以下
下妻
上塗
中塗
たり
の塗
り 装仕様
:エ
ポポ
ポキ
リウ
キシ樹脂
シ樹脂
レタン樹脂
法科
塗料 塗料
送料
(
現場途装)
現場塗装)
現場塗
工場塗 装)
踏み板 は(
4)支柱 と同一仕 様
手摺 り等 は原 設計仕様 どお り
す べ てステ ン レス (
SUS3
04)の うえ以 下の塗装仕様
・下塗 り
:エ ポキ シ樹脂 染料
(
工場塗装)
・中塗 り
:ポ リウ レタン樹脂 塗料 (
現場塗装)
・上塗 り
:ポ リウ レタン樹脂 塗 料
(
現場塗 装)
ステ ン レス (
SUS3
0∠
1
) の うえ以 下の塗装仕様
:エ
ポ ポキ
リウ シ樹脂
レタン樹脂
塗料 塗料 (
現場塗装)
現 場塗装)
すべ て扉 .枠 ともステ ン レス (
SUS304)- ア ライ ン
の うえ以 下の塗装仕 様
・下塗 り
:エ ポキ シ樹脂 塗料
(
現 場塗装)
・上塗
中途 り
:ポ リウ レタン樹脂 塗料 (
現場塗装)
側板 :表
SU
面
S3
タイル張
04厚 さL
1
り,
.
0m要
m
言面 タ-ル エ ポ
側板 :原 設 計仕様 どお り
底板 :S
キシ塗装
表
U
面軽蕊
S3
04揮
コン
さ2
ク
.
0
リー
mm トの うえ タイ
底板 :原設 計仕様 どお り
石 7号 厚
1
00m m
基礎 :単粒
ル張 度砕
り三
矢面ステ
ンさ
レス素地
基礎 :軽盈 コンク リー ト輝 さ1
00mm
ガ ラス突付 け部 :シ リコー ン系 1成 分 形
及 び サ ッシ廻 り
金属 笠木 目地
:シ リコー ン系 1成 分形
及 び 建 具周閉
RC壁 タイ ′
レ面 :ポ リサル フ ァイ ド系 又
及 び建 具用 B
f
l は変成 シ リコー ン系 2
ガ ラス突付 け部 :シ リコー ン系 1成 分形
及 びサ ッシ廻 り
金属 笠木 目地
:変 成 シ リコー ン系 2成分形
及び建 具 周 囲
RC壁 タイ ル而 :変成 シ リコー ン系 2成分 形
及び 建具用開
成分形
(ll
)排煙 オペ レー タの仕様
・
・下塗
上塗
中塗 り- 2
1 :ペ
エ
ポイ
ポキ
リウ
ン シ樹脂
レタン樹
ト
塗
系厚
脂
料膜
染料
塗料
形 ジン
(
現場塗
現場途装)
工場塗装)
現場込装)
ク リッチ
装)
・上塗
下塗
中塗 り
ライ ン仕 上 げ
(
9) ステン レスプー ルの仕様
改善仕様
Hl
l
以上
陽極 酸化 被膜厚 さ : 9J
:1
2F
Lm以 上
塗膜厚 さ
ふ っ素樹脂塗料 (
現場を
た装 )
(
5)鉄骨螺 旋階段 の踏み板 ,辛
(秦 )
排煙窓
換
レー
気用
タ窓及
用オペ
び
:標 準型電 動オ′
\
やい 夕
が
プ[
f
l
i
等
直接揺
のプJ
レ格 す
内,
ル水
る床
目地
:シ リコ- ン系 1成分形
原設 計仕様 どお り
西松建設技報 Vol
.
22
では もっとも耐候性が高 い.そのため屋外等 の紫外線
の影響 を強 く受 ける部位 で も長期 にわたって初期 の光
沢 を維持す る. しか し,室内プールでは直射 日光の影
響が非常 に少 ないことか ら, フッ素樹脂塗料 ほ どの高
い耐候性 は必要ない と考 え,室内プール空間の上塗 り
塗料 はすべ てポ リウレタン樹脂塗料 に統一す る改善仕
様 を採用 した.
室 内プール にお ける鋼材 の防鏑対策
(
5)
鉄骨螺旋階段 の踏み板 ,手摺 り等防錆仕様
原設計仕様 はステ ンレスヘ アライ ン仕上 げであ るが,
踏み板 は以下の理 由によ り支柱鋼材 と同様 の亜鉛溶射の
うえポ リウレタン樹脂塗料 とす る改善仕様 を採用 し,そ
の他 の部材 は以下の理由によ りステ ンレスに塗装 を施す
改善仕様 を採用 した (
写真 - 2)
.
① 踏み板 の受 け材 となる支柱 はスチール材 であるため,
踏み板 をステ ンレス鋼 にす る と異種金属 の接触 によ り
スチール材 に早期腐食が生 じる危険性がある.そ こで,
(
4
)
鉄骨螺旋階段支柱 の防錆仕様
踏み板 は支柱 と同一仕様 とした.
HDZ55) の溶融亜鉛 め っ き
亜鉛付着量550g
/
m2以上 (
参事摺 り等 の原設計仕様 であるステ ンレスヘアライン仕
は非常 に高い防錆性 を長期 間保持す るため,苛酷 な室内 (
上げは建材 に多用 されているが,ヘアラインの凹部 に
プール環境 に透 しているが,螺旋階段支柱 に関 しては以
下の理 由によ りHDZ55と同等 の防錆性 能 を持 つ亜鉛溶
水分や塩化物が溜 りやす く,平滑仕上げのステ ンレス
に比べて錆が発生 しやすい.改善仕様 として,鏡面仕
射が良い と判断 し,改善仕様 に採用 した (
写真 - 1).
上 げ とす る か ス テ ン レス 鋼 の 品 質 を高 め る こ と
①螺旋階段 は一体ではめっき槽 に入 らない形状であるた
(
sus31
6) を検討 したが,前者 は意匠上の問題で,級
め,数 ブ ロ ックに分割 してめ っ きを行 うことになる.
者 は製作金物 に対応で きるだけの汎用性が な く必要な
分割す ると溶接 ジ ョイン トが生 じて溶接部が防錆上の
形状 ・寸法の製品が入手困難 なことか らどち らも採用
弱点 にな りやすい.亜鉛溶射であれば一体化 したのち
しな か っ た . そ の た め , ス テ ン レス ヘ ア ラ イ ン
の表面処理が可能である.
(
sus3
04) に塗装 を施す改善仕様 を採用 した.
②螺旋階段 の鉄骨部材 には部分的 に板厚 の薄い部位 もあ
るため,めっき処理 による残留 ひずみが生 じる免険性
がある,亜鉛溶射であゴ
1ば鋼材 にはほ とん ど熱が加 わ (
6
)
流水 プールのオーバ ーブ リッジの防錆仕様
らないためひずみは発生 しない.
螺旋階段部分での検討 と同様 に,原設計仕様 の ままで
は異種金属 による鋼材 の早期腐食の可能性が考 え られた
③溶融亜鉛めっ きでは どうして もダレが生 じて美観 を損
ため,桁 ・踏み板受 け材,踏み板お よび手摺 り等すべ て
な う危険性があるが,亜鉛溶射であれば比較的均質 な
の部材 をステ ンレスヘ アライ ン (
SUS304) とし,塗装
表面が得 られ,良好 な仕上が りが得 られる. また塗膜
を施す改善仕様 を採用 した.ただ し,オーバーブ リッジ
との付着性 に関 して も,めっ き面 よ り亜鉛溶射面の方
は工場 にて一体 に組立 ててか ら現場搬入 ・据付 けが可能
が安定 している.
④亜鉛溶射 を採用す る場合 には原設計仕様 の亜鉛めっき であるため,下塗 りは工場塗装 とし,ステ ンレス素地 と
下塗 りとの付着性 の確保 に配慮 した.
HDZ55の膜厚80,
〟m以上 よ りも厚 い膜厚 (
1
20′
〟m以
上)の仕様 とす ることで,原設計仕様 よ りも高い防錆
性 を確保 した.
(
7)
キャッ トウォークの手摺 り等の防錆仕様
鉄骨螺旋階段 の手摺 り等 と同様 に,ステ ンレスヘ アラ
写真- 1 螺旋階段 (
封孔処理完了状況)
写真- 2 亜鉛 溶射作業
103
室内プールにおける鋼材の防錆対策
西松建設技報
VoE
.
2
2
イン仕上 げでは比較的早期 に錆が生 じる可能性がある と ② 金属製笠木廻 り等 の原設計仕様 は シ リコー ン系 1
成分
考 え,ステ ンレスに現場塗装 を施す改善仕様 を採用 した.
形であったが, 目地周囲の汚れ防止 を目的 に変成 シリ
コー ン系 2成分形 に変更す る改善仕様 を採用 した.
(
8
)
金属製建具の鋼材種お よび防錆仕様
①室内プール空間にある金属製建具 は,常時塩化物 を含
(
ll
)
排煙 オペ レー タの仕様
排煙 オペ レー タには標準型 と浴室型 の 2通 りがある.
んだ湿気や結露水 の影響 を受 ける.スチール ドアでは
浴 室 型 は湿 気 を考 慮 して標 準 型 に比 べ て ス テ ン レス
防錆性の高い塗装仕様 を採用すれば,塗装面 はある程
(
sus304) 製の部 品 を多用 してい る ものであ る. しか
度錆 を防止で きるが,現場塗装ので きない鋼板の裏面
側か らの錆が懸念 された.そのため, プール環境 に影
04では十分 とはいえず,
しなが ら, プール環境 ではsus3
響 を受 ける範囲の金属製建具 は扉 ・枠共 にすべ てステ 冬期等で排煙 窓 を長期 間稼動 させ ない と錆 の固着 によ り
SUS304) 製 とす るこ とに し,他 のステ ンレ 開閉 しな くなることが多い.プールでの実績か らは,頻
ンレス (
ス部分 と同様 の塗装 を施す改善仕様 を採用 した.
繁 に排煙 窓を稼動 させ る等のメンテナ ンスによ り部品表
面 の錆 の進行 を抑 える方法が もっ とも効果 的 と判 断 し
②扉の吊 り元金具や ドアノブには塗装で きないため,ス
テ ンレス素地の ままとした. これ らの部分 は付着 した
た. よって,排煙 オペ レー タは原設計 どお りの標準型 と
塩化物や水分 を定期的に拭 き取 る等の維持管理 を行 う
し,管理運営の うえで頻繁 に稼動 させ る等, メンテナ ン
スの実施 にご配慮 いただ くこととした.
ことで錆の発生 を防止する しかない と判断 した.
(
9
)
ステ ンレスプールの仕様
① ステ ンレスプールで生 じる問題 は,底板 における 「
異
種金属接触 による腐食」や 「
す きま腐食」である. こ
れ らの現象 は,基礎部分の水分や異物が原 因 となる.
そのため,使用す るステ ンレス板 は原設計仕様 どお り
とし,基礎部分か ら腐食原因を排 除す ることを第- に
検討 した.
②底板基礎 の原設計仕様 は単粒度砕石である.単粒度砕
石 に釘等の異物が混入 した り,水分が供給 される と底
板腐食の原因 となる. この不具合 は屋外 プールでの施
工 中の降雨 に起因す ることがほ とん どであるが,室内
プールであって も基礎 の単粒度砕石が湿潤状態 になる
可能性があること,砕石敷込み作業 中に異物が混入す
る可能性があること等か ら,軽量 コンク リー ト基礎 に
変更す る改善仕様 を採用 した.
(
1
0)目地 シー リング材 の仕様
① プール水 には滅菌剤 として次亜塩素酸 ナ トリウム等が
添加 される. これ らの滅菌剤 は酸化性があ り,特 に湿
潤状態ではシー リング材 の軟化や溶解 を促進 させ る性
質 を持つ.原設計仕様 ではプールの水廻 りに使用す る
シー リング材が指定 されていなかったため,プール稚
内 とプールサ イ ド床面 を水廻 りの範囲 と判断 し, この
範囲の 目地 には脱 オキシム形 シ リコー ン系 1成分形 を
採用 した.現状では温水 プール水 に対応で きるのはこ
の タイプのみであるが, この タイプを使用 して もあ ま
り長期の耐久性 は期待 で きないため,万一 プール廻 り
の シー リング目地が切れて も支障が生 じない よう納 ま
りに配慮 した.
1
04
S5.おわ りに
世 田谷 区千歳温水 プール改築工事で検討 した室内プー
ル環境 における防錆仕様 の概要 を報告 した.鋼材類製造
や表面処理 を専 門 とす る関係者が集 ま り検討 したが,室
内プールの腐食環境 の実態が十分 に把接で きていない こ
とが判 った.品質,工期お よび経済性 のバ ランス をとり
なが ら適材適所 に材料 を選定す ることが大切であるが,
材料 品質の不足や過剰 を判断す るためには,おかれた環
境 因子が明 らかであることが非常 に大切であると実感 し
た.
最近 は錆 びに くいはずのステ ンレスで も予想外 の錆が
生 じて問題 となるケースがある と開 くが,錆 はた とえ全
体 の1
0%で も発生す る と構造上支障はな くて も美観上 は
大 きな問題 になる.防錆性能の向上のみ追求す る とすべ
ての素材 を高品質にすれば経済性 の面で問題 となる.本
工事 を通 じて,将来の維持管理 まで含めたライフサ イク
ルコス トを考慮 した適材適所の仕様選定の必要性 を改め
て考 えさせ られた.
この報告が今後の室内プール施工 における防錆対策の
一助 になれば率いである.
なお,プール環境 の実態 に関 しては,世 田谷 区教育委
0年 間にわたるプール環境での暴
員会のご配慮で竣工後 1
露実験 を技術研究所で行 うことになった.別の機会に実
験結果 を公表す る予定であるが,有意義 な成果が得 られ
ることを期待す る.
最後 に,本工事施工 に対 して,貴重 なご助言 を頂 いた
世田谷区建設部営繕第一課の皆様 は じめ,検討会 にご参
加 いただ き貴重 な意見 を頂いた関係各位 に厚 く御礼 申 し
上げます.