日本語版 - エンバイロセルジャパン

パコのショッピング所感:
苦境の現状
第一四半期の小売統計が公表されましたが、一部の例外を除いて大多数の米国小売網売上高は下降し
続けています。安物を買う動き(トレード・ダウン)には上昇したケースも散見されるものの、消費額を増やす
動きはほとんど見られません。現在は苦境の時期です。先週会った女性レポーターが『景気が回復した際
には・・・』と話しを切り出したので私は彼女の話しを中断し、まだとても「回復途上」には至っていないことを
指摘せざるを得ませんでした。
米国人の3分の1以上が景気下降局面における苦境に喘いでいます。下降局面は誰にも厳しいものです
が、階層シフトが死ぬまで続きそうに見える分だけベビーブーマー世代以上が最も厳しいように思われます。
若い世代には回復を享受するだけの時間がありますが、ベビーブーマーに残された時間は少ないのです。
私達は飲食のために出費しますが、より多くのお金を家庭生活にかけています。家や庭や車の維持費が
あります。携帯電話や高速インターネット通信やケーブル・衛星テレビの料金も払います。これ以外の物は
重要視されません。人々が食事と住まいと通信に多くの費用をかけるほど、小売業界は販売を維持するた
めにより多くの努力を払わされるのです。
封鎖的なアメリカ式ショッピングモールは、出店するテナントの顔ぶれの見直しも含めて、最も再開発が必
要とされる施設であることには疑問の余地がありません。ニュージャージー州にある Short Hills やオレンジ
カウンティーの South Coast Plaza のようなプレミアム・モールは繁栄し続けるでしょうが、立地条件に恵ま
れないモールは絶滅の危機に瀕しているのです。
本人保護のため以下の実話には匿名を使用しています。
ウォルター氏は中部カリフォルニアにある8軒の Taco Bells 店(メキシコ風料理のチェーン)を売却した。彼
はアイルランドで家と高級ヨットを購入し、ニューヨークにアパートを探していた。彼は59歳で引退したつも
りだった。この景気後退によって彼の現金は半分以下に減った。彼と奥さんはフルタイムで働かざるを得な
くなったので地元カリフォルニアの大学で教えることにした。彼はぜいたくな人間ではなかったが、上位中流
階級の生活レベルに引き戻されるまで、裕福な地で過ごす時間をたった18ヵ月しか味わえなかった。ウォ
ルターも彼の奥さんもモールに戻ることはないだろう。彼らは買った家やヨットの維持管理を続けるだろうが、
移動にはエコノミークラスを使い、買い物はカタログ・ショッピングで行なうことになるだろう。
デンバーのトルディー嬢は、ボーイフレンドと彼の17歳になる息子と一緒に住んでいる。彼女は財務サー
ビス会社の店舗プランナーとして働いているが、この1年間でやったことは店舗の開業ではなく「店舗の封
鎖」だけだった。彼女はこの仕事がいつまで続くものか分からない。彼女のボーイフレンドは建築現場のマ
ネージャーをしているがこの半年間は仕事がない。彼女は靴が趣味で、ズボンを穿くよりもドレスを着る方
を好む。彼女もまた地元のモールから離れてしまった。彼女は、多くはニューヨーク出張の際に買い物をす
るものの、その行先はサンプル販売の店かディスカウント店である。彼女はボーイフレンドとショッピング情
報を共有し、バーゲンセールを求めて定期的にインターネット検索を行なっている。
オレゴン州ポートランドに住むカーラ嬢は、ほぼ40年間に亘って勤めてきたデパートから一時解雇された
ばかりだ。彼女の愛車は走行距離 25 万マイルを超えている。彼女の夫は海運業から引退し、時々建築現
場で働いているものの収入は以前に比べてほんの僅かにすぎない。IT 不況の際は彼らも打撃を受けたも
のの、二人とも働いていたのでそれを乗り切ることができた。将来が暗黒とまではいえないものの彼らを取
り巻く現状は明らかに苦しい。固定資産税を支払うだけでも精一杯の状況となるであろう。彼らはモールへ
戻るだろうか?収入さえ確保できるならばカーラはモールへ行くことだろう。
過去30年以上に亘って消費者支出は米国経済を牽引する原動力となってきました。失業が増え年金口座
に大きなダメージを受けているなかで、私たちの消費慣習も変わりつつあります。多数の米国人がモール
から離れてしまっており、余程の動機づけを与えない限り彼らがモールへ戻ることはないでしょう。
パコ・アンダーヒル氏はエンバイロセル社創設者であり、『なぜこの店で買ってしまうのか』と『なぜ人はショッピングモ
ールが大好きなのか』の著者でもあります。小売業界において「ショッピング界初の人類学者」といわれる立場から、
DDI 誌へ隔月ごとのコラム執筆をして頂いています。