第4部 バイオマスの熱化学的変換

第4部
バイオマスの熱化学的変換
4.1 燃焼
4.1.1 総論
(a) 燃焼とは
燃焼とは多量の発熱と発光を伴う発熱化学反応で、反応によって発生する熱エネルギーで自発的
に反応が継続される現象である。バイオマスを燃料とする場合、工業的には空気や酸素とバイオマ
ス中に含有する炭素・水素・酸素・燃焼性硫黄・窒素と反応させる発熱性酸化反応を燃焼と言う。
燃焼の過程では、溶融、蒸発、熱分解という前段階を経て気相反応か表面反応、またはその両方に
より燃焼反応が進行する。実際の燃焼反応は、蒸発、混合、拡散、対流、熱伝導、放射、発光など
の複雑な現象が非常に早い速度で複合的に進行する。気体燃料では気相中で直接燃焼する予混合燃
焼や拡散燃焼が、液体燃料では、表面蒸発後に可燃性ガスとして気相で燃焼する蒸発燃焼や、重質
油等でみられる蒸発燃焼とその熱により燃料部分が分解しながら燃焼する分解燃焼が、進行する。
(b) バイオマスの燃焼形態
固体であるバイオマスの直接燃焼の燃焼形態は、蒸発燃焼、分解燃焼、表面燃焼、いぶり燃焼が
ある。蒸発燃焼では、比較的融点の低い分子構造で簡単な成分を有する燃料が加熱により溶解、蒸
発し気相中で酸素と反応し燃焼する。分解燃焼では、加熱による熱分解で生成したガス(成分は
H2, CO, CmHn, H2O, CO2)が気相中で酸素と反応、火炎を形成して燃焼する。通常は最後にチャ
ーが残り表面燃焼する。表面燃焼は、木炭のように揮発分をほとんど含まない炭素のみの成分であ
る場合に進行し、酸素または二酸化炭素や水蒸気が固体表面や内部に存在する気孔に拡散して、表
面反応し燃焼するものである。いぶり燃焼は、おき燃焼とも言われ木材等の反応性の良い燃料で表
面燃焼が揮発分の着火温度より低い温度で熱分解反応を続けるものである。煙に強制点火するか、
発火点より温度が上がると有炎燃焼となる。実際のバイオマスの工業的に利用される直接燃焼にお
いては、分解燃焼と表面燃焼が主流と考えてよい。
(c) 燃焼形式
燃焼用空気は工業的にはバイオマスの燃焼に必要な理論空気量に対し余剰分を含めて供給する。
-93-
アジアバイオマスハンドブック
余剰空気比率が大きすぎる場合、燃焼温度の低下や熱効率の低下となる。バイオマスの燃焼方法と
しては、火格子燃焼(固定火床及び移動火床)、流動床燃焼、回転炉床燃焼、バーナ燃焼が利用さ
れている。Table 4.1.1 に燃焼方法の各形式の特長を示す。
Table 4.1.1 Combustion type and feature of biomass
Combustion
Combustion type
Features
method
Fixed
bed Horizontal/Inclined
Grate is level or sloping. Ignites and burns as
combustion
grate
surface combustion of biomass supplied to grate.
Water-cooling grate
Used in small-scale batch furnace for biomass
Dumping grate
containing little ash.
Moving bed Forward
moving Grate moves gradually and is divided into
combustion
grate
combustion zone and after-combustion zone. Due
Reverse
moving to continuous ash discharge, grate load is large.
grate
The combustion obstruction caused by ash can be
Step grate
avoided. Can be applied to wide range of fuels
Louver grate
from chip type to block type.
Fluidized bed Bubbling
fluidized Uses sand for bed material, keeps fuel and sand
combustion
bed combustion
in furnace in boiling state with high-pressure
Circulation fluidized combustion air, and burns through thermal
bed combustion
storage and heat transmission effect of sand.
Suitable for high moisture fuel or low grade fuel.
Rotary
Kiln furnace
Used for combustion of high moisture fuel such
hearth
as liquid organic sludge and food residue, or
furnace
large waste etc. Restricted to fuel size on its
combustion
fluidity.
Burner
Burner
Burns wood powder and fine powder such as
combustion
bagasse pith by burners, same as that for liquid
fuel.
(d) 利用形態
バイオマスの燃焼による利用形態は、熱エネルギー転換を図る最も単純な方式で、化石燃料で経
験した技術が適用できることや、バイオマスの利点である NOx、SOx、HCl、ダイオキシン類の発
生が少なく、燃焼性に優れていることのため広く普及している。燃焼熱はボイラや熱交換器により、
蒸気、温水などの熱媒体を利用して熱回収し、発電利用や熱利用される。地域熱供給や工業団地の
エネルギーセンターでは廃木材や農産廃棄物を燃料とする熱併給発電が多い。籾殻、バガス、廃木
材、オイルパーム廃、鶏糞等を燃料とする発電所や熱利用プラントが規模の大小を問わず多数存在
する。
参考文献
Fujii, S. in “Baiomasu Enerugino Riyo, Kenchiku, Toshi Enerugi Sisutemuno Shingijutsu", Kuuki Chowa
-94-
アジアバイオマスハンドブック
Eisei Kogakkai Ed., 2007, pp.212-218 (in Japanese)
Mizutani, Y. in "Nensho Kogaku", 3ed., Morikita Shuppan, 2002, pp.169-181 (in Japanese)
4.1.2 コージェネレーション
(a) コージェネレーションとは
コージェネレーションとは一つのエネルギー源を二つ以上の利用可能なエネルギーに変換する
ことだが、一般的には一つのエネルギー源から同時に電気と熱を取り出すことをいう。日本語では
熱電併給、英語では Combined Heat and Power(CHP)という。コージェネレーションは電気だ
けを取り出す場合(ふつうの発電)と比べてエネルギー効率が高いため、エネルギーの有効利用の
観点から注目されている。
(b) コージェネレーションのエネルギー変換
バイオマス原料から発電するためには、バイオマスの持つエネルギーを運動エネルギーに変えて
発電機を回し、電気エネルギーを取り出す。バイオマスの持つエネルギーを運動エネルギーに変え
る主な方法としては、1) バイオマスを燃焼させて蒸気を作り、蒸気タービンを回す、2) バイオマ
スを熱分解または微生物によって分解して可燃性ガスを作り、そのガスを燃焼させてガスエンジン
あるいはガスタービンを回す、などがある。いずれの場合も燃焼によって発生する熱エネルギーを
運動エネルギーに変換するわけだが、すべての熱エネルギーを運動エネルギーに変換できないため、
一部の熱は放出されてしまう。この熱エネルギーを回収して電気エネルギーと一緒に供給すれば、
バイオマス原料の持つエネルギーの利用効率を高めることができる。このようにコージェネレーシ
ョンは、エネルギー変換効率を高くするというメリットがある。
(c) 大規模プラントの可能性
大規模な発電所でもコージェネレーションは可能だが、発電所の近くに熱の需要がない場合は、
利用されずに捨てられていることが多い。火力発電所や原子力発電所が海岸や大きな河川の近くに
立地しているのは、熱を捨てるための水として大量の海水や河川水を使うためである。一方、発電
所から出る熱を近くの工場に販売しているケースもある。これからは大規模な発電所を計画する際
に、熱の供給先についても検討することが望まれる。
(d) 工場・集合住宅への適用可能性
工場や集合住宅では、電力と熱の需要に合わせてコージェネレーション設備を設計・設置するこ
とが可能である。熱は高温・高圧の蒸気から、暖房・給湯用の温水までさまざまな仕様があるが、
低温、低圧のものほど回収・供給が容易である。またコージェネレーション設備を既設のボイラと
組み合わせて、蒸気、温水を供給することもできる。バイオマスを原料とする場合、規模が小さく
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アジアバイオマスハンドブック
なると発電効率が下がってしまう。直接燃焼・蒸気タービン発電の場合は発電出力で 2,000 kW 以
上、ガス化・ガスエンジン発電の場合は同じく 50 kW 以上の規模にする必要がある。
(e) 事例
木質バイオマスを原料にした小型コージェネレーション設備の例を紹介する。この設備では工場か
ら出る廃材を燃料として熱分解ガス化を行い、電力、温風、温水、冷水を工場に供給している。設
備の概略フロー図を Fig. 4.1.1 に示す。発電出力は発電端で 175 kW、送電端で 157kW、熱出力は
温風(67℃)は 174 kW (150 Mcal /h)、温水(80℃)は 116 kW (100 Mcal/h)、冷水(7℃)は 70
kW (60 Mcal/h)で、もともと排気ガス、冷却水として捨てられていた熱を有効利用することで、設
備のエネルギー利用効率を高くすることができた。
Fuel
Gasifier
Gas cleaner
Generator
Gas engine
Electricity
Exhaust
Hot air for heating
Silo
Heat exchanger
Absorption chiller
Ash
Charcoal
Heat exchanger
Co ld water
conditioning
fo r ai r-
Hot water for air-conditioning
Fig. 4.1.1. Outline flow diagram of a small CHP using woody biomass.
4.1.3 混焼
(a) 混焼とは
バイオマスを火力発電所などで化石燃料と一緒に燃焼する技術を混焼という。既存の設備にバイ
オマス処理のためのわずかな変更を行うだけで、バイオマスを高効率な大規模燃焼設備で燃焼でき
る利点がある。ここでは、中国電力(株),(株)日立製作所,バブコック日立(株)が共同で実施した石
炭・木質バイオマス混焼技術の研究開発を紹介する。
(b) 事例-目標
木質バイオマスを石炭火力発電所で 5~10%程度混焼(以下混焼率は熱量ベース割合)し,安定
運転の確保と環境規制値をクリアし,かつ発電効率の低下を最小限とすることを目指した。発電効
率は既設石炭火力発電所並みの約 40%を目標とし,具体的には 5%混焼時に送電端効率の低下を
0.5%以内とした(10%混焼時,0.8%以内)。
(c) 事例-原料
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アジアバイオマスハンドブック
マツ,スギ,ヒノキ,タケ等の性状分析から,石炭(瀝青炭)と比較して木質バイオマスは,揮
発分が多く,燃料比(固定炭素と揮発分の比)が石炭の約 1/10 であり,灰分が少ない。小型のハ
ンマーミル等により試験した結果,木質バイオマスの粉砕性は石炭と比較して重量当たりの粉砕動
力原単位が 10 倍以上高いことや、石炭と木質バイオマスの同時粉砕試験により,木質の混合率を
高めていくと石炭粉砕性が大きく低下することが分った。
(d) 事例-プロセスフロー
Fig. 4.1.2 はバイオマス前処理装置のフロー概略図である。木質バイオマスとしては,中国地方
で調達したサイズ 50mm 以下,水分 50wt%の間伐材と竹材チップを乾燥に適した粒径まで破砕し
(20mm 以下)
,水分 20%以下となるまで乾燥させる。次に,型式の異なる 2 種類の粉砕機を組合
せ,トップサイズが 1~5mm になるように調整して粉砕し,定量フィーダにて火炉に空気搬送す
る。混焼率は最大 15%とした。バーナは,石炭とバイオマスの同軸混焼バーナとバイオマス専焼
(別置)バーナの 2 種類とした。
Bag
house
Stack
Hopper
Hopper
Biomass inlet
Feeder
Burner
5 m3
Furnace
1m3
Cyclone
Hopper
Crusher
Feeder
Heater
Blower
Pulverizer-1
Switcher
Drier
Feeder
Pulverizer-2
Fig. 4.1.2. Schematic of the Pretreatment Flow
(e) 事例-結果
Fig. 4.1.3 に試験結果の一部を示す。混焼率が増加するにつれ,同軸バーナ,別置バーナともに
未燃分および NOx 相対値が低下した。未燃分の低下は揮発性の高いバイオマスを混入することに
より,雰囲気温度が向上し,燃料自体の燃焼効率が向上したことを示している。この NOx の低下
率は,燃料中の N 成分低減率からの予想値より,さらに低い値を示している。
-97-
アジアバイオマスハンドブック
8
1 .2
Relative Nox (-)
UBC in ash (%)
Forecast from the fuel N
1 .0
0 .8
0 .6
Combustion test value
Co-axial burner
0 .4
Separate burner
Wood type : pine
(moisture21%,-2mm)
0 .2
5
10
15
4
Co-axial burner
Separate burner
Wood type : pine
(moisture21%,-2mm)
2
0
0
6
0
20
0
Biomass co-firing ratio (%)
5
10
15
20
Biomass co-firing ratio (%)
Fig. 4.1.3. Mixed Fuel Firing Test Results.
(f) 事例-効率
燃焼試験結果を基に,既設石炭火力発電所(75~500 MW の 3 容量機を選定)に適用する場合の
基本的な設備,システム構成を検討し,発電効率および発電原価を評価した。混焼により発電効率
に影響する要因は,ボイラ効率と所内動力の変化が考えられる。林地等の自然乾燥後,水分 30%,
50mm 以下の間伐材チップを発電所に受入れ,粉砕搬送工程を経て水分 20%,2 mm 以下の微粉
バイオマスをボイラで混焼した場合,石炭専焼時と比較して灰中未燃分は減るものの,木質バイオ
マスの水分によりボイラ効率は若干低下する。一方所内動力は,パイロット試験結果から二段階の
衝撃粉砕機を用いた場合の粉砕動力の試算等から,全体の送電端効率低下は混焼率 5%および 10%
において 0.44%と 0.77%となり,目標値の 0.5%以下および 0.8%以下を達成。さらに,木質バイオ
マス専焼発電(10 MW)と混焼発電原価を比較したところ,混焼発電原価は専焼発電原価(11.3
円/kWh)を下回ることから,混焼発電の優位性が確認できた。
-98-
アジアバイオマスハンドブック
4.2 ガス化
4.2.1 ガス化とは
バイオマス固体原料を高温場において、熱分解と化学反応によって、ガス燃料または化学原料ガ
ス(合成ガスと呼ぶ)のガス状態に変換するプロセスをガス化または熱化学的ガス化と呼ぶ。
4.2.2 ガス化法の分類
ガス化法は Table 4.2.1 の条件因子の組合せで分類される。
Table 4.2.1 Classification of Gasification Method
Classification
Gasification pressure
Gasification
temperature
Gasification agent
Heating
(Temperature zone
formation)
Gasifier types
Conditional factor
Normal pressure (0.1~0.12 MPa), High pressure (0.5~2.5 MPa)
Low temperature (700oC and below), High temperature (700oC and
above),
High temperature decomposition (ash fusion point and above)
Air, oxygen, steam and combination of them, carbon dioxide for special
case
Direct gasification (heat generation from reaction of partial
gasification raw material and oxygen)
Indirect gasification (heating raw material and gasification agent by
external heat)
Fixed bed, moving bed, circulating fluidized bed, entrained bed,
mixing bed, rotary kiln, twin tower, molten furnace
4.2.3 ガス化に関するバイオマスの物性調査
ガス化の計画に先立って、バイオマスの物性を調査しておくことが必要である。
(a) 元素分析
バイオマスの炭素(C)、水素(H)、酸素(O)、硫黄(S)、窒素(N)、塩素(Cl)を元素分析
(HCN コーダー等利用)によって求める。硫黄(S)と塩素(Cl)成分が多いと、プラント機材の
腐食を起こす。炭素(C)、水素(H)、酸素(O)のモル比を求め CnHmOp の略式分子式を求めて
おく。草本類、木本類のバイオマスでは m=2 に対し、n=1.2~1.5、p=0.8~1.0 である。
(b) 灰分組成と融点
灰の軟化点、融点、流動点を酸化雰囲気と還元雰囲気で計測する。融点温度が低い場合プラント
のトラブルが起きやすい。
99
(c) 工業分析
原料バイオマスの工業分析を行い、表面水分、固有水分、揮発分、固定炭素分、灰分を求め、さ
らに高位および低位発熱量を求める。これらはガス化解析に重要な物性値である。
4.2.4 ガス化剤
固体バイオマスを可燃性ガスへ変換させるためには化学反応を起こさせるための物質が必要で、
これをガス化剤と呼ぶ。ガス化剤に用いられる物質は空気(N2、O2)、酸素(O2)、H2O、CO2 が
主なもので、必要に応じこれらを混合して用いる。空気(うち O2 のみ反応)
、O2 の場合は酸化反
応で発熱し、O2 使用量が増えると有効な可燃性ガスが減少する。
4.2.5 バイオマスのガス化に関する基本現象
バイオマス原料のガス化プロセスは基本的に次の段階を経てガス化に至る。
(a) 表面水分の蒸発
原料は水の沸点 100℃(圧力によって変わる)で表面水分が蒸発する。原料が大きい場合は内部
に水分が残る。
(b) 固有水分の蒸発
表面水分の蒸発に続き、沸点 100℃より 10~20℃高い温度で固有水分が蒸発する。
(c) 揮発分の気化
原料が 200~300℃になるとバイオマスの熱分解が始まり、CO、CO2、H2、H2O がガスとして
気化する。このときの熱分解は発熱反応である(バイオマス CnHmOp 特有の現象)。
(d) 揮発分の気化とガス化反応
原料バイオマスは揮発分を気化させながら、温度を上昇させ、軽質の炭化水素(CxHy:x, y は 1
以上の整数、x が小さいと軽質、x が大きいと重質)から、沸点の高い重質の CxHy へと揮発物質が
移っていく。このあと CxHy はガス化剤と反応して低分子のクリーンガスに転換するが、ガス化剤
の拡散が遅い場合には CxHy は縮合して、タール・すすの発生が起こる。
(e) チャーのガス化
原料バイオマスの揮発分の気化終了後、固定炭素と灰分はチャーとなって雰囲気温度まで昇温さ
れる。このあとガス化剤と反応し、炭素分は CO、CO2 のガスに転換する。ただし、ガス化剤が水
蒸気過剰の場合かつ雰囲気温度が 750℃以上の場合は水性ガス化反応(C+H2O→CO+H2)により、
主に CO、CO2、H2 からなるガスが発生する。
100
(f) チャーの残分
水性ガス化反応は反応速度が遅く、チャーは残分となりやすい。タール・すす・チャーの発生は
効率を下げ,機器のトラブルを起こしやすい。
4.2.6 ガス化生成ガスの特徴
ガス化は供給原料を一部燃焼させて加温する直接ガス化が一般に採用される。原料は木材チップ
やトウモロコシ茎などで、商業用に供されているガス化炉はほとんどが常圧・直接ガス化プロセス
に属する。直接ガス化では反応温度の 800℃以上を保持するため、ガス化剤には必ず空気または酸
素が必要となり、目的に応じて水蒸気が混入される。反応温度を維持するために、一般には完全燃
焼に必要な酸素量の約 1/3(酸素比と呼ぶ)が供給され、部分燃焼(部分酸化と同意)によってガ
ス化反応が行われる。生成ガスはガス中の可燃ガス(CO、H2、CxHy)の含有割合によって発熱量
が決まる。高位発熱量の値によって、低カロリーガス(4~12 MJ/m3)、中カロリーガス(12~28
MJ/m3)
、高カロリーガス(28 MJ/m3 以上)などの分け方がある。バイオマスの直接ガス化の場合、
ほぼ低カロリーガスに属する。バイオマスとして稲わら、ガス化剤として水蒸気・酸素を用いたガ
ス化生成ガス組成の基礎実験例を Fig. 4.2.1 に示す。なお、供給バイオマスの高位発熱量に対する
生成ガス(常温)の高位発熱量の比を冷ガス効率と呼ぶ。
4.2.7 ガス化の装置と実施例
固定床ガス化炉の実施例を次に示す。固定床炉は固体燃料の燃焼またはガス化の基本となるもの
で、比較的シンプルな構造で装置コストも安い。ガス化炉の概念図を Fig. 4.2.2 に示す。原料は一
般に大きさ 2.5~5 cm の木材チップが使われ、上部供給口より投入されて、炉内に積層される。ガ
ス化剤(空気、酸素、水蒸気またはこれらの混合ガス)は炉底より上昇流で供給される(ガス化方
式には下降流の形式もある)。ガス化反応は下部から上部へ進む。下部より上部へ、灰層、チャー
層、揮発・熱分解層、生材層の順に、原料のガス化に伴う変化によって各層を形成する。生成ガス
が上部より取り出される。
参考文献
Kawamoto, H. in “Baiomasu, Enerugi, Kankyo”, Saka, S. Ed., IPC, 2001, pp.240-244 (in Japanese)
Sakai, M. in “Baiomasu, Enerugi, Kankyo”, Saka, S. Ed., IPC, 2001, pp.409-421 (in Japanese)
Takeno, K. in “Baiomasu Enerugi Riyono Saishin Gijutsu”, Yukawa, H. Ed. CMC, 2001, pp.59-78 (in
Japanese)
101
Sakai, M. “Baiomasuga Hiraku 21 Seiki Enerugi”, Morikita Shuppan (1998) (in Japanese)
H2,CO,CH4,C2+,CO2 Cold Gas Efficiency
(%)
(vol%)
Yokoyama, S. “Baiomasu Enerugi Saizensen”, Morikita Shuppan, 2001, pp.87-95 (in Japanese)
Biomass Supply
(Wood Chips Approx. 5cm)
〔Note〕 C2+はC2H4,C2H6,C3H8
100
80
60
40
20
0
100
C2+
80
CO2
CH4
Product Layer
Volatalization &
Decomposition Layer
60
CO
40
20
0
Char Layer
Ash Layer
H2
0
0.25 0.50 0.75
[O2] / [C] Mol Ratio
Product Gas
Drying and Tar
Removal
~250℃
Volatile Content
Gasification
250~800℃
Char Gasification
800~1000℃
Gasifier Main Unit
(insulated walls)
Char Combustion
1000~1200℃
Rotary Fire Grate
1.00
Fig. 4.2.1. Changes in product gas
composition due to oxygen
ratio.
Ash
Gasification Agent
(Air, Oxygen and Steam)
Fig. 4.2.2. Concept diagram of a fixed bed gasifier
4.3 熱分解
4.3.1 熱分解とは
バイオマスの構成元素は炭素、水素、酸素である。式(4.3.1), (4.3.2)でそれぞれバイオマスの
光合成、熱分解を簡略的に表すことができる。Fig. 4.3.1 に、バイオマスの熱分解の概要を示す。
熱(500~600℃以上)
熱分解
-(C6H12O6)m
バイオマス
(CO + H2 + CH4)↑+ (H2O +・・・+ CH3OH + CH3COOH +・・・)+ C
ガス
液体
炭
(4.3.1)
光
光合成
m(6CO2 + 6H2O)
炭酸ガス 水
-(C6H12O6)m + m6O2↑
バイオマス
酸素
(4.3.2)
バイオマスの主成分はセルロース、ヘミセルロース、リグニンであるが熱分解温度が高くなるに
つれ分解物の量が多くなる。残渣は炭であり、概ねその収率は 10%~25%である。
102
l os
llu
dis
till
ate
G
as
re
Carbonized
residue
Charcoal
ue
sid
Lignin
etc.
Gas
tile
la
vo
nNo
Weight fraction
e
Ce
llu
lo
se
H2O, methanol,
acetic acid,
phenol,
etc.
Guaiacol, eugenol, etc.
Liquid product
ice
He
av
y
(Wood vinegar) (Tar)
m
He
Water soluble
distillate
(Residue weight) / (initial weight) [wt%]
Temperature
Low
(Room temperature)
Fig. 4.3.1
High
Composition changing during
pyrolysis.
4.3.2 熱分解・急速熱分解の特徴
海外の Dynamotive(カナダ)や BTG(オランダ)で開発された急速熱分解装置の液収率は、60
~80%と高収率で注目を浴びている。急速熱分解では減圧熱分解と同様の効果がある。
バイオマスの熱分解過程では、先ず水分が蒸発(~110℃)
、次いでヘミセルロースが約 200~260℃、
セルロースは 240~340℃、リグニンは 280~500℃で分解する。大気圧で 500℃に達した段階でほぼ
熱分解は終わる。加熱速度を 10℃/s と 100℃/s で到達最高温度を 600℃に設定した場合を考えてみ
る。10℃/s では 1 分後に、100℃/s では 6 秒で設定温度になる。100℃/s の場合には木材の熱分解
は 5 秒で終了し、反応系内は分解ガスの発生で圧力は急激に大きくなる。加熱速度が大きい程、揮
発生成物の滞留時間は短くなる。木材の熱伝導率(300 K)は、繊維に垂直方向で 0.12~0.42 W/(m
K)であり純銅の約 1/1000 である。熱が非常に伝わり難いことから急速熱分解するには微粉砕が必
要不可欠となる。また、部分燃焼法では空気を助燃ガスに用いるので多量の N2 を高温で排出する事
となり、その熱損失量が大きくガスの熱量は低いものとなる。
4.3.3
急速熱分解装置
(a) 基礎実験装置
熱天秤は極微量(数 mg~数十 mg)の試料で熱変化を分析できる。生成物の評価は困難であるが、
室温~任意の温度範囲での加熱速度の影響を重量変化で観察できる。
103
赤外線加熱炉を用いた熱分解装置では数g~数十gの試料量で、任意の加熱速度、設定温度にお
ける各生成物の評価ができる。
溶融塩や熱砂浴による瞬間加熱装置は溶融塩の温度あるいは任意温度の加熱媒体中に試料を瞬
時に浸漬する熱分解装置である。赤外線加熱炉と同様、基礎実験用であるが処理量を多くできるの
で生産物の評価や物質収支を求めることができる。溶融塩は塩の融点が設定温度となる。
(b) ベンチ規模実験装置、実用化装置
遠心力型熱分解装置の例として、米 NREL 式ボルテックス反応器では、木材チップをガス気流に
のせ摩擦旋回方式で高温壁を滑走、移動させて熱分解している。旋回により常に新しい表面が露出
することで熱分解反応はスムーズに進行する。BTG 式回転逆円錐反応器では、熱媒体に砂を用いて
遠心力を利用する構造となっている。熱伝達面積が大きく熱回収やタール障害対策にノウハウがあ
ると思われる。
流動炉式熱分解装置は流動床による反応器であり、Dynamotive-RTI、Pasquali-ENEL(イタリ
ア)
、Ensyn(カナダ)
、RedArrow-Ensyn(米)
、UnionFenosa-Waterloo(スペイン)
、VTT(フィン
ランド)などがある。微細木粉を高温の不活性ガスあるいは熱媒体とともに、高温の反応部に瞬時
に通過させて熱分解油の収率を高めている。バイオマスの流動層熱分解では、圧縮性のある粒子の
定量供給が難しく、タールが反応器内や配管内に固化して閉塞する障害を起こしやすい欠点がある。
マイクロ波急速熱分解装置を用いるマイクロ波法は丸太や塊状物を急速熱分解できる(日本:産
総研)。マイクロ波法ではバイオマスの内部から発熱が起こり、250℃/s 以上の加熱速度で急速熱分
解した時と同様の結果となる。粒子より塊状物の方がエネルギー効率は良い。木材(水分:10%)
の場合、マイクロ波発振器への供給電力量は、約 1.4 MJ/kg (0.4 kWh/kg)で完全に熱分解できる。
マイクロ波法では付着タールの固化や炭化を防ぐことができ、タールトラブルは少ない。
4.3.4 生成物の特徴
(a) 熱分解液
木質材原料の場合には油分は極く微量であり、1%に
Condensation point
水(原料の 14~17%)が液中に混ざり、水の多い有機
溶液と親水性タールの混合物といえる。木タールの高位
発熱量は 12.5~21 MJ/kg、上層の有機水溶液は、水分
Heating value
満たないことが多い。原料の含水分(8~40%)と反応
が約 80%で 3.3~4.2 MJ/kg-wet、40%では 9.6~12.5
Kinematic viscosity
Fig. 4.3.2
104
The relationship between the
viscosity and heating value of
pyrolysis liquid.
MJ/kg-wet である。木タールと木酢液の粘度と発熱量との関係を Fig. 4.3.2 に示す。不安定で経時
変化するため改質が必要である。
(b) ガス
ガスには CO2 が多く含まれ、可燃ガスは CO、H2、C1~C5 までの飽和・不飽和炭化水素が含まれ
る。
(c) 炭化物
炭化物の高位発熱量は、32 MJ/kg-dry 程度である。密度が小さく吸着剤や活性炭原料に適して
いるがほぼ全量熱分解システムで消費されることが多い。
4.3.5 技術の現状
熱分解液は水可溶分が多く自動車用の燃料油とは溶け合わない。バイオマスの急速熱分解では、
タールに起因する多くの障害が避けられずその解決法は装置メーカ各社のノウハウとなっており
公表されない点が多い。一般的にバイオマスの急速加熱と液の凝縮回収のため急冷が必要であるこ
とから熱損失の把握、生産物の適正評価など長所、短所の見極めが重要となる。
参考文献
Miura, M. in “Biomass Handbook”, Japan Institute of Energy Ed., Ohm-sha, 2002, pp.106-115 (in
Japanese)
Miura, M.; Kaga, H.; Sakurai, A.; Takahashi, K., Rapid pyrolysis of wood block by microwave heating, J.
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4.4 炭化
4.4.1 炭化とは
木材、樹皮、竹、もみ殻などの固体バイオマスを空気(酸素)の供給を遮断もしくは制限して 400
~600℃に加熱し、主生成物として炭(固体)を得る技術であり、酢液+タール(液体)と可燃ガ
ス成分を副生する。液体成分の回収、利用を目的とする乾留と区別する場合には製炭といい、両者
を併せて炭化と称するが、通常炭化といえば製炭を指す。
105
4.4.2 炭化の特徴
燃焼と並ぶ最も古典的な固体バイオマスのエネルギー転換法である。固体生成物(炭)の発熱量
増加を主眼とするが、油化(タール製造)とガス化の二つの側面を併せ持つ。油化法としては常圧
熱分解(4.3 章参照)に相当し、高圧(直接)液化法(4.6 章)とともに実操業が検討されたが、得
られるタール(油)が低収率(30%以下)
、低品質(高粘度、高酸素量、低発熱量、低 pH など)
のため、高収率油化法(急速熱分解、4.3 章)の登場に伴い衰退した。一方、ガス生産法としては
操作温度が低く、可燃分(CO, H2)の発熱量の点でガス化(4.2 章)には及ばない。発電などのガ
ス利用においては、相当量のタール分を除去する必要がある。しかし、炭化プロセスは一般に装置
が安価で運転操作が容易という利点があり、今日でも高発熱量固体の製造法として重要性である。
有機炭素のかなりの割合を炭として安定固定化することから CO2 排出量抑制につながり、低質バイ
オマス(都市ゴミ、生ゴミ、下水スラッジ、家畜糞など)の実用的な減容化技術としても有用であ
る。
4.4.3 炭化の反応
基本的には不活性ガス(窒素)中の常圧
熱分解であり、木材では 200℃以下で大部
分の水が蒸発した後 200〜500℃で主要構
成成分であるセルロース、ヘミセルロース、
Fig. 4.4.1. Modified Broide-Shafizadeh scheme.
リグニンの分解とそれらの分解生成物である液体成分
の留出、CO2、CO を主体とする気体成分の発生が起こ
り、重量が急激に減少する。この温度域では各木材成分
が脱水、解重合して分子間、分子内の結合切断と再結合
を繰り返し、その結果生じた低分子量フラグメントが液
体、気体となり、縮重合により高分子化したフラグメン
トと非分解部分がチャー(炭)を形成する。500℃以上
では小さな重量減少となり、700℃までに H2 を発生しな
がら炭中の炭素の縮合多環芳香族構造が発達し、炭素割
合が 80%近くに増加する。700℃以上では H2 発生量は
減少するが、炭素割合は増加して多環芳香族化がさらに
進む。Fig. 4.4.1 は炭化過程の模式図であり、生成物分
Fig. 4.4.2. Tech-Air pyrolysis system.
106
布が木材成分から生じた溶融物(メルト)の気体、液体、固体への分解(一次分解)と液体の二次
分解の速度及び一次分解と二次分解の速度比によって決まることを表わしている。この分布は原料
の種類や水分、大きさ、加熱速度、炭化温度などの影響を受け、特に後 3 者の影響は大きく、原料
サイズが小さく加熱速度が大きいと液体(タール)収量が増加する。炭化温度が高いと収炭率が減
少し、およそ 500℃まではタール収量が増加する。操作圧力も重要な因子であり、低圧ほどタール
生成は有利である。
4.4.4 炭化のエネルギー効率
Tech-Air 熱分解プロセス(Fig. 4.4.2)によるマツの樹皮とおが屑混合物の連続炭化を例として
説明する。このプロセスは縦型固定床炉を用いる内熱式で、初期水分 25〜55%の原料を 4〜7%に
乾燥して炉の上部から投入し、炉下部から送入した空気で一部を燃焼し、この熱により炭化を行う。
生成した炭は炉底からスクリューで抜き出し、生成蒸気はサイクロンで微粒炭素を除去した後コン
デンサーを通し、ここでタール(油)を回収する。この後非凝縮ガスをバーナーで燃焼し、この燃
焼排ガス(204~316℃)を原料の乾燥に利用する。炉内温度は 430~760℃の間で可変であり、そ
の温度は生成する熱分解ガスが原料の乾燥に必要な熱量をもつように設定される。Table 4.4.1 は炭、
油、ガスの収率をそれぞれ最大化した操作におけるエネルギー分布とそのプロセス効率を正味の熱
効率 Net Thermal Efficiency (NTE, %) = [{生成物の発熱量−プロセス熱(乾燥用ガス)/原料の発熱
量}]×100 とエネルギー利益比 Energy Benefit Ratio (EBR, %) = [生成エネルギー量/消費エネルギ
Table 4.4.1. Product energy yields and process efficiency.
ー量]×100 で表わしている。いずれの
操作でも NTE と EBR には大差がな
く、運転条件は炭と油の品質、用途、
価格などにより決定される。
4.4.5 炭化生成物
日本では、炭は暖房・調理用燃料、活性炭用の他吸着能を活かして土壌改良、飼料、床下調湿な
どとして広く利用されている(いわゆる新用途木炭)
。液体生成物のうち低沸点の酢液は農業資材、
消臭材などとして市販されているが、高沸点のタールは一部が医薬品(クレオソート)として実用
されているに過ぎない。実験室レベルでは、フェノール樹脂接着剤の製造、木材防腐剤の回収、導
電性炭素の製造などが提案されている。生成ガスの用途はプロセス補助燃料である。
107
4.4.6 技術の現状
運転操作などに大きな変更はないが、原料の多様化に伴い、規模や形状の異なる炭化炉が多数開
発され、実用運転中である。実験室規模の 900℃ニッケル触媒炭化が、導電性と高分子液相吸着能
を備えた機能性木炭と水素リッチガスの同時生産法として注目される。
参考文献
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Suzuki, T.; Miyamoto, M.; Luo, W.-M.; Yamada, T.; Yoshida, T. in “Science in Thermal and Chemical
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Suzuki, T.; Suzuki, K.; Takahashi, Y.; Okimoto, M.; Yamada, T.; Okazakik N.; Shimizu, Y.; Fujiwara, M.
Nickel-catalyzed carbonization of wood for coproduction of functional carbon and fluid fuels I., J.
Wood Sci., 53, 54-60 (2007)
4.5 水熱ガス化
4.5.1 水熱ガス化とは
水熱ガス化とはバイオマスを加圧熱水中で処
上、20 MPa 以上の条件が用いられる。Fig. 4.5.1
に水の相図を示すが、気液平衡線が三重点から始
まって臨界点で終了している。水熱条件は、この
臨界点の周辺に位置する。温度も圧力がそれぞれ
臨界温度、臨界圧力よりも高い場合には水熱条件
は特に超臨界水と呼ばれ、超臨界水中のガス化は
108
Hydrothermal condition
Pressure
[MPa]
理して可燃性のガスを得る技術で、通常 350℃以
Supercritical
water
Critical
point
22.1
Ice
Water
0.1013
612 Pa
Steam
Triple point 0.01
100 374
Temperature [oC]
Fig. 4.5.1. Phase diagram of water.
「超臨界水ガス化」と呼ばれる。この加圧熱水は高い反応性を有し、バイオマスがこの水の中に置
かれると、加水分解と熱分解によってガス化が進行する。
4.5.2 水熱ガス化の特徴
水熱ガス化は含水性のバイオマス処理に適した技術である。含水性のバイオマスをガス化しよう
とする時、その高い含水率のために、通常の熱化学的ガス化は利用できない。これに対して水熱ガ
ス化は水を反応媒体として用いるために、含水性のバイオマスを経済的にもエネルギー的にも不可
の大きい乾燥前処理を行うことなく利用することができる。これらの条件における水の反応性は高
く、水熱ガス化は迅速かつほとんど完全なバイオマスのガス化を実現する。含水性バイオマスから
可燃性のガスを得るためにはメタン発酵も用いられるが、通常反応が完結するのに数週間かかり、
その上、未反応の発酵残渣(ざんさ)と排水処理が大きな問題となる。反応時間が数週間かかるた
め、反応器はかさ高くなる。発酵残渣はコンポストとすることができるが、利用するための十分な
土地が得られなければ廃棄物として扱うしかない。水熱ガス化では、反応は長くても数分で完了し、
適切な反応条件を設定すればほとんど完全なガス化が可能である。アルカリ、金属、炭素触媒など
が反応促進に有効であることが知られている。
4.5.3 水熱ガス化の反応
水熱ガス化の反応場で進行する反応を確認するためには、容積数 mL の密閉型小型反応器やオー
トクレーブがしばしば用いられる。しかしながら、商用プラントの建設にあたっては Fig. 4.5.2 に
示すような連続式反応器とすることが必要不可欠である。バイオマスは加圧して反応器に供給され、
反応温度まで加熱される。その後、反応器内でバイオマスは水熱条件下でガス化され、反応器出口
流れは室温まで冷却される。 冷却時に放出される熱は熱交換器によって回収され、原料を加熱す
るのに利用される。室温まで冷却された後、出口流れは大気圧まで減圧され、生成ガスが回収され
る。連続式反応器が必要となるのは、水熱条件を実現するために必要な大量の熱のためである。こ
の熱量は処理するバイオマスの発熱量に匹敵することがあり、熱交換器を用いた熱回収が必要不可
欠となる。連続流通式反応器を用いなければ、この熱回収ができない。Fig. 4.5.2 には、理想的な
場合の熱収支も示されている。バイオマスの発熱量は生成ガスに保持され、水熱条件を実現するた
めに必要な熱量は完全に回収されて外部からの熱供給なしにガス化プロセスを運転することがで
きる。実際には熱交換器の効率は1とはできず、急熱反応熱を供給する必要もあるために、反応器
への一定の熱供給は必要となる。
109
4.5.4 水熱ガス化のエネル
Biomass 20 kg (400 MJ)
Water 80 kg (0 MJ)
ギー効率
Biomass 400 MJ Water 280 MJ
SCWG reactor
Fig. 4.5.2 に示す理想的なプロセ
600℃, 25 MPa
スでは、水熱ガス化のエネルギー効
率は1となる。よく、水熱条件を実
現するために大量の熱量が必要な
ので、水熱ガス化のエネルギー効率
は低いという誤解が多く見られる
Product gas 400 MJ Water
0 MJ
Product gas 400 MJ Water 280 MJ
Fig. 4.5.2. Heat balance of hydrothermal gasification.
ため、このことはよく理解されたい。
熱交換が適切に行われれば、高いエネルギー効率を実現することは可能である。詳細なプロセス計
算によって、プロセス運転動力および熱交換器の熱損失を考慮しても 70%以上の効率が達成できる
ことを確認した例もある。
4.5.5 水熱ガス化の生成ガス
反応器出口流れを室温まで冷却すれば、生成ガスは自然に液相から分離される。タールを含まな
いガスを得ることができるが、これは通常の熱化学ガス化に対してもより優れた点である。生成ガ
スの主成分は水素、二酸化炭素およびメタンである。水性ガスシフト反応のために、一酸化炭素の
収率はきわめて低い。高い反応温度、低い反応圧力、希薄な原料濃度ほど水素分率の高いガスが得
られる。生成ガスの発熱量は反応条件によるが、通常、12~18 MJ/m3-N である。
4.5.6 技術の現状
研究室規模の反応器を用いた実験結果の報告は多い。パイロットプラントは3機が運転されてい
る。一つは日本の中国電力のもの、もう一つはドイツの VERENA プラント、最後の一つは米国の
TEES プロセスである。
これらの処理量は 1~2.4 t-wet/d である。多くの原料が試験されているが、
いくつか挙げれば鶏糞、トウモロコシ発酵飼料、チーズ作成時の乳漿(にゅうしょう)などを用い
た例が報告されている。現時点では主として高いプラントコストのために商用プラントは建設され
ていない。
110
参考文献
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Kruse, A.; Henningsen, T.; Sinag, A.; Pfeiffer, J. Biomass gasification in supercritical water: Influence of
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Elliott, D. C.; Neuenschwander, G. G.; Kruse, A.; Antal, M. J. Jr. Biomass gasification in near- and
super-critical water: Status and prospects, Biomass Bioenergy, 29, 269-292 (2005)
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Yu, D.; Aihara, M.; Antal, M.J., Jr. Hydrogen production by steam reforming glucose in supercritical
water, Energy Fuels, 7, 574-577 (1993)
4.6 水熱液化
4.6.1 水熱液化とは
水熱液化とはバイオマスを高温高圧の熱水中(300℃、10MPa 程度)で反応させて熱分解させる
ことである。気相での熱分解と同様に気体、液体、固体の三者が生成する。このうち液体について
は、軽質成分(気相での熱分解では木酢液と称される成分)は水に溶解し、重質成分(オイル:気
相での熱分解ではタールと称される成分)は固体(炭、チャー)と混合した状態で得られる。すな
わち、気体、水相、油相の三者が得られることになる。
4.6.2 水熱液化の特徴
水熱液化は水の中で反応が進行するため、原料の乾燥が不要であると言う特徴がある。このため、
含水率の高いバイオマス(水生バイオマスや生ごみ、汚泥など)の変換反応として適している。ま
た、温度域により様々な反応が生じることから、様々な応用が可能である。Fig. 4.6.1 に水熱中で
111
起きる反応を示す。まず、100℃前後では、水
溶性の成分が熱水に溶けることから抽出が可
374oC
Critical point
Gasification
300oC
Liquefaction
Carbonization
200oC
Liquidization
Hydrolysis
能である。150℃以上の温度になると、バイオ
マスを構成しているセルロースやヘミセルロ
ース、タンパク質などの高分子の加水分解が起
きてきる。200℃、1MPa 前後になると、固形
Extraction
100oC
Boiling point
状であったバイオマスが流動性を持つスラリ
Fig. 4.6.1. Reactions which occur in the
hot-compressed water.
ーに変化する(流動化)。但し、この温度域で
はオイル状の生成物はほとんどできない。さら
に温度が高くなり 300℃、10MPa 前後になるとオイル状の生成物ができる液化が起きる。反応条
件などにより主生成物を炭化物(チャー)とすることもでき、この場合は水熱炭化となる。また、
超臨界点近傍で触媒を使うことでガス化することも可能である(4.5 章を参照)。
4.6.3 水熱液化の反応
水熱液化は基本的に熱分解反応であるので、低分子となる分解反応と分解物が高分子になる重合
反応とが複雑に起きながら反応が進行する。簡単な反応スキームを Fig. 4.6.2 に示す。図に示すよ
うに、バイオマスはいったん水溶性の生成物に分解されて、これが中間体となって重合・分解を繰
り返しながら水に不溶なオイル状生成物となり、さらに重合が進んで炭状生成物となる。
Gas
degradation
Water-dissolved
Oil
Char
materials
degradation
polymerization
polymerization
Biomass
Fig. 4.6.2. Simple reaction scheme of liquefaction.
4.6.4 水熱液化の生成油
還元性ガス(水素や一酸化炭素)を用いず、水熱反応のみで得られる生成油の性質を Table 4.6.1
に示す。生成油には酸素が 20 wt%前後残っており、高位発熱量が石油系の重油(42 MJ/kg)に比
べて低くなっている。木材からの生成油には、酸性成分が多く、腐食性や貯蔵時の重合による固化
などの問題がある。また、粘性が非常に高い。一方、下水汚泥からの生成油では、タンパク質由来
112
Table 4.6.1. Properties of obtained oil by liquefaction.
Biomass
Wood Sewage sludge
の窒素が含まれている。燃焼利用時には
Elemental composition [wt%]
NOx 対策が必要になろう。化学成分とし
Carbon
72
71
Hydrogen
6
9
てはピリジン、ピラジン骨格の誘導体や
Nitrogen
-
6
アミド化合物が同定されている。選択的
Oxygen
22
16
H/C
1.00
1.52
Higher heating value [MJ/kg]
29 - 30
33 - 34
に分離できれば、化学原料としての利用
の可能性もある。
Viscosity [mPa.s]
>
106
103 - 104
4.6.5 水熱液化のエネルギー効率
エネルギー収率(=オイルの有する熱量/原料の有する熱量)は 70%程度である。一方、プロセ
スのエネルギー効率に関しては、原料を室温から反応温度まで加熱するのに必要な熱量と、得られ
た生成油の有効熱量とがほぼバランスするか、若干余剰が出る。これは含水率に大きく影響され、
含水率 85%前後以下でエネルギー生産型となると試算されている。
4.6.6 技術の現状
研究室規模からパイロット規模の研究開発が行われているが、実用機は建設されていない。パイ
ロット規模では、1960~1970 年代に米国鉱山局の PERC プロセスや米国エネルギー省の LBL プ
ロセスが、1990 年前後に日本の資源環境技術総合研究所・オルガノ株式会社の下水汚泥油化プラ
ントが、2000 年前後にオランダのバイオフューエル社・シェル社の HTU プロセスなどが研究開発
されている。
参考文献
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Dote, Y., et al., Analysis of oil derived from liquefaction of sewage sludge, Fuel, 71, 1071-1073 (1992)
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2-propanol solvent system, Biomass & Bioenergy, 7, 193-199 (1994)
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113
Suzuki, A., et al., Oil production from sewage sludge by direct thermochemical liquefaction using a
continuous reactor, Gesuido Kyokaisi, 27, 104-112 (1990) (in Japanese)
4.7 バイオディーゼル製造
4.7.1 バイオディーゼルとは
油脂類は他のバイオマス資源と比較して発熱量が高く、その多くは常温で液体である。これらの
)や引火点(>300℃)が高いた
特徴は自動車燃料として望ましいが、動粘度(>30 mm2/s(40℃)
めこのままでは利用できない。今、油脂類の主成分であるトリグリセリドをエステル交換反応によ
、引火点 160℃程度、セタ
り脂肪酸メチルエステルに変換することで、動粘度 3~5 mm2/s(40℃)
ン価 50~60 の軽油代替燃料として利用することが可能となる。この脂肪酸メチルエステルをバイ
オディーゼル燃料(BDF)と呼ぶ。
4.7.2 バイオディーゼル燃料の特徴
バイオディーゼル燃料は酸性雨の原因となる硫黄酸化物や黒煙が軽油に比べて少なく、浮遊粒子
状物質(PM; Particulate matter)の発生が少ないため、排気ガスは比較的クリーンである。さら
にバイオマス資源由来であるため、地球上の炭素バランスを崩さないという利点がある。また、エ
ステル組成として酸素を含むため軽油に比べ熱量が 11%程度少ないが、バイオディーゼル燃料の潤
滑性能および黒煙発生の抑制効果など、ディーゼルエンジンのエネルギー変換効率を高める要素が
働くことによって実走行上ほとんど軽油と差がない。
4.7.3 バイオディーゼル製造の反応
バイオディーゼル燃料の製造には植物油のエステル交換反応が用いられる(式(4.7.1))。植物油
は脂肪酸とグリセリンのエステルであるトリグリセリドが主成分で、一部遊離の脂肪酸が含まれる。
一般には、トリグリセリドをアルカリ触媒(水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなど)を用いてメ
タノールと混合し、60~70℃にて 1 時間撹拌して反応させれば、下層にグリセリン、上層にエステ
ル層が得られる。この上層を水洗し、脱水・脱メタノールすれば脂肪酸メチルエステルが得られる。
廃食油などにはトリグリセリドの他に遊離脂肪酸が存在するため、アルカリ触媒と反応してアルカ
リ石ケンとなり(式(4.7.2))、収率が低下する。
114
CH2- COOR1
│
CH - COOR2
│
CH2- COOR3
+
3CH3OH
+
R2COOCH3
R3COOCH3
Triglyceride
Methanol
+
R’COOH
CH2-OH
│
CH - OH
│
CH2-OH
R1COOCH3
Alkali catalyst
Fatty acid
Fatty acid methyl esters
KOH
H2O
Saponified product
Alkali catalyst
(4.7.1)
Glycerin
+
R’COOK
Reaction 4.7.1
Reaction 4.7.2
Water
(4.7.2)
R1, R2, R3, R’; Hydrocarbon residues
そこで、酸触媒により遊離脂肪酸をまず脂肪酸メチルエステルとし、次にアルカリ触媒法を後続さ
せる方法や、イオン交換樹脂あるいはリパーゼ酵素、さらには超臨界メタノールを用いた無触媒法
でのエステル交換反応が提案されている。また、エステル化を効率よく進めるため、トリグリセリ
ドを亜臨界水で加水分解して脂肪酸とし、これを超臨界メタノールにて無触媒でバイオディーゼル
に変換する二段階超臨界メタノールプロセス(式(4.7.3)、(4.7.4)および Fig. 4.7.1)が提案されて
いる。遊離脂肪酸を多く含み、かつ水が共存する低品位の廃食油などを高品位バイオディーゼルに
変換できる唯一のプロセスとして注目されている。
CH2- COOR1
│
CH - COOR2
│
CH2- COOR3
+
Triglyceride
R’COOH
Fatty acid
R3COOH
CH2-OH
│
CH - OH
│
CH2-OH
Subcritical water
Fatty acids
Glycerin
+
R’COOCH3
R1COOH
+
R2COOH
3H2O
CH3OH
Supercritical methanol
+
Fatty acid methyl ester
H2O
Reaction 4.7.3
Reaction 4.7.4
Water
R1, R2, R3, R’; Hydrocarbon residues
Methanol
Methanol/Water
Vaporizer
Vaporizer
Oils
Hydrolysis
Esterification
Water
High-pressure
pump
Re-esterification
Phase
separator
BDF
Methanol
Oil phase
(fatty acid)
Water phase (glycerin)
Back-pressure regulator
Fig. 4.7.1. Two-Step supercritical methanol process adopting the re-esterification step.
115
4.7.4 バイオディーゼル燃料のエネルギー効率
トリグリセリドのエステル交換反応と脂肪酸のエステル化反応はともに発熱反応であるが、発熱
量は小さい。アルカリ触媒法では、反応温度 60~70℃に上げる顕熱エネルギーとメタノールの精
留エネルギー、さらにプロセス全体の動力エネルギーが必要であるが、副産するグリセリンの処理
にもエネルギーを必要とする。2.2 kg/s (7 万 t/年)規模のバイオディーゼル製造プラントでのエネル
ギー効率(高位発熱量基準)は約 62%と推定される。
4.7.5 技術の現状
EU を中心に商用プラントによるバイオディーゼルの製造が進められているが、その多くはアル
カリ触媒法による。しかし低品位の廃食油に対しては、酸触媒法との組み合わせなど独自技術を開
発しているようであるが、その詳細は明らかにされていない。我が国では油脂資源量に限りがある
ため、今後は廃食油を使いこなせる新規技術プラントの参入が期待される。
参考文献
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