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エジプト・ナイル流域における食糧・燃料の持続的生産

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筑波大学北アフリカ研究センター、北アフリカ・地中海事務所特別セミナー
「アフリカとの科学技術協力と大学の役割」(筑波大学 2011. 03.01)
地球規模課題対応国際科学技術協力事業(SATREPS)
エジプト・ナイル流域における食糧・燃料の持続的生産
プロジェクトリーダー、
筑波大学生命環境科学研究科国際地縁技術開発科学専攻 教授 佐藤政良
1.研究の背景
20 世紀後半に起こった爆発的な世界人口の増加に対して、食糧がそれを上回って生産できたのは、主
に緑の革命による。そして、その期間に面積を 3 倍にもした水資源開発=灌漑開発がそれを支えた。とこ
ろがこれによって水資源の開発と利用は地球規模で限界に到達し、世界第 2 位の大きさを誇った中央ア
ジアのアラル海が消滅する等、水に関わる環境問題が起こるとともに、各国で、都市と農業の水争奪が始
まった(21世紀は水の世紀)。これら水問題の解決には、全世界の水使用量の70%を占める灌漑部門
における水使用効率の改善が焦眉の急である。水資源と農業は、食糧・環境・エネルギー問題解決のキ
ーになる。
ナイル川におけるアスワンハイダムの建設とその利用は、そのような世界状況の典型例である。エジプ
トは、カイロにおける年間降水量が 25mm 程度という乾燥地域にあり、その存続はナイル川の水に頼って
いる(「エジプトはナイルの賜」)。5000 年以上にも及ぶとされるエジプト・ナイル川の灌漑農業は、年 1 回
生起する洪水に頼っていた。その限界を破るため、エジプトは、アスワンハイダムの建設に踏み切り、
1964 年に貯水を開始した。それ以後、エジプトは、流下してくる洪水を完全にコントロールするようになって、
新たに大量の水資源を手に入れる一方、季節的な洪水に依存する伝統的ベイスン灌漑から、用水を全面
的にコントロールする近代的灌漑管理の時代に入った。これによって通年灌漑が実施され、沙漠地帯で多
くの農地が開発された。
アスワンハイダムの建設に当たっては多くの懸念が議論された。そのうちの一つは、洪水を止めてしま
った後の耕地の塩類集積によるエジプト農業の持続性の喪失であった。エジプト政府は、塩類集積を予防
回避するために、ほぼ全耕地に暗渠排水を敷設した。しかし、それによって塩類集積問題が解決したのか
どうか、総合的な評価は定まっていない。
一方、アスワンハイダム建設後、激しい人口増加があり、食糧増産と都市拡大のための水需要が増大
したことから、1988 年、ナセル湖がほとんど空になる事態を経験して、早くもエジプトにおける水資源の限
界状況が露呈した。ところが、エジプト政府は、さらに増加し続ける人口への対策と経済発展を目的に、シ
ナイ半島および上流部トシュカ地域に、新都市開発と 49 万 ha に及ぶ沙漠開発(農地化)のため、大量の
水を送る計画を策定し、実行に移している。しかしそのための水資源は、ナイル川自体(ナセル湖)にはな
いので、ナイルデルタを中心とする地域で在来の灌漑・営農活動を変更改善し、節水することによって生
み出さざるを得ない。
しかし、伝統的な灌漑地域では、長い歴史を背景とする旧来の灌漑方法、農法およびアスワンハイダム
建設後に形成され定着した用水配分システムが存在し、少ない水を巡って、すでに上下流の農民が激し
い対立の関係にある。このような中でエジプト政府は節水および水資源管理の問題に取り組もうとしてい
るが、近代的用水管理の歴史が浅いこと、地域的対立が激しいことのため、試行錯誤を繰り返しながら進
めている状況にある。JICA は、エジプト国の要請に基づき、これまでに農民参加型水管理システム構築を
1
目的とした技術協力を行って、日本の技術の移転に一定の成功を収めている。
ところが、ナイルデルタで食糧生産量を落とさず、大量の節水をすることは、技術的、社会的にどう実現
できるのか、また実際にデルタへの用水供給を減少させたとき、塩類集積問題を初めとして、デルタ農業
の持続性がどのような影響を受けるのかが大きな問題になる。しかし、このような視点からの検討・研究
はほとんど取り組まれていない。また、原油価格の急騰を背景に、食糧だけでなくバイオエネルギーの生
産も重要な課題に上って来ている。ナイル川の水は、まず農地で地域の条件に応じて食料生産に使い、
高塩分濃度化した農地排水、汚濁水は、海に捨てることなく不毛地・沙漠でバイオ燃料作物の生産に利
用するような総合水戦略の構築も検討される必要がある。
日本は、江戸期に水資源供給量の限界まで灌漑農地開発を進展させた結果、水資源の枯渇(水不足)
段階に達した。以来、300 年以上にわたる水利紛争・調整の長い経験をもつほとんど世界唯一の国である。
そこで構築してきた農民参加型水管理に関する工学的手法(溜池の築造、用排水路の計画・設計、徹底
した反復利用の実施方法等)や社会制度的手法(水利組合、土地改良区等の農民参加型組織等)は世
界の先進技術として広く認められている。これらと農学、水文・気象学、乾燥地工学に関する先端の研究
成果を総合的に結集することにより、エジプトの水資源、食糧・エネルギー生産問題の解決に大きく貢献
することが期待できる。
なお、エジプトは、他のアフリカ諸国と同様貧困層の人口が多く、2008 年以来顕著になっている世界的
な食糧不足、穀物価格の高騰は、大きな社会的不安定を生じさせている。この点で、食糧・エネルギーの
安定的生産をいかに確保するかというグローバルな課題の解決が、エジプト、あるいはアフリカという地域
で切実に求められていると言える。
2.研究の目的と活動
アスワンハイダムの建設後 40 年以上経過した現時点で、ナイルデルタにおける水収支、用排水利用
状況、農業活動・経営状況の実態を解明し、5000 年以上続いてきたエジプトの灌漑農業が、いまその持
続性を失っていないのか否かを総合的に評価する。そして、失っていないとすれば、その理由を示し、今
後とも持続性を維持するための条件は何かを明らかにする。
また、ナイルデルタで行われている現在の水利用を改善し、節水によって大量の水資源を生み出さなく
てはならないという課題に対し、デルタ全体として生産性を落とさずにそのような節水は本質的に可能な
のかどうか、水を減らすことでナイルデルタの農業の持続性にどのような影響をもたらすのか、またそれら
の問題の解決が可能であるとするなら、どのような技術的、制度的な方策が必要なのかを検討する。その
中では、乾燥地の特徴である用水・排水中の塩分濃度の上昇等に関連して、流域的なレベルで、地域の
水質に応じた食糧とバイオエネルギー生産への水資源の配分と栽培方法を視野に入れて検討する。
本プロジェクト研究は、筑波大学とカイロ大学の協力で実施し、鳥取大学と三重大学(日本)と水資源研
究センターおよび農業研究所(エジプト)が協力機関として参加している。期間は、2009年度から2013
年度までの5か年である。
3.本研究における認識と構想
1)ナイルデルタの灌漑システムでは、アスワンハイダムから供給、配水された用水が、最終的に、メス
カと呼ばれるレベルの用水路から耕地へ揚水することが不可欠であるという条件を抱えている。また各レ
ベルの用水路には一定量の水が配分されることから、その上下流で、すでに用水配分の地域間不均衡と
2
農民の利害対立とが生じている。このようなことから用水不足解消のため、特に下流部地域においては、
水質が低下した農地排水、工場住宅排水の再利用が不可欠になっている。従って、デルタにおける節水
灌漑の政策は、最終的に農民に受け入れられるかどうかが重要で、工学的技術に加え、社会・制度的な
技術を提示する必要がある。
2)地域的な用水利用条件、地形的条件に応じて、農家は栽培方法を選択しており、それらは農地にお
ける塩類集積問題と密接に関わっている。従って、ナイルデルタの塩類集積問題はデルタ全体について
均一の問題ではなく、水資源の配分、利用、それらに対する農家の関与等によって支配されている地域
的問題としてとらえることが必要である。
3)このような内部構造を持つナイルデルタのどのような場所に、どのような塩類集積あるいはその予
備的状況が生じているかについては、現在のところ、散発的な情報が得られるだけである。本研究の目的
は単なる現状把握ではなく、このようなデルタにおいて用水供給の節減が行われた場合、どこにどのよう
な深刻な影響が生じるのかを予測し、対策を提言することにある。そのためには、多要因の包括的な現状
分析が欠かせない。
4)デルタ地域への用水供給量を減らすことは、デルタにおけるマクロな水収支の視点からすると、地
中海(地区外)への排水量を減少させるか、デルタ地域全体からの蒸発散量を減少させるか、いずれかの
結果を生む。したがって、デルタ地域からの節水の実現可能性を検討するためには、水収支に関する調
査・研究が重要になる。そこで、どのような質、量の農地排水がどのように地中海に流出しているかを把握
した上で、デルタにおける水量・水質動態のモデル化が必要である。
5)栽培耕地における蒸発散量の抑制が、デルタにおける節水実現の基本である。そのためには、作
物の生育を保証しながら、いかに土壌からの蒸発を抑制するかが課題になる。そこで、様々な節水灌漑
方法を種々の作物に対して試験適用し、蒸発散量の精密測定を通じて節水効果を見るとともに、作物へ
の影響を評価する。その上で、地域の特性に応じた作目選択のモデルを提示する。
6)節水を実現した後にも、耕地に集積する塩類の排除のため、少量の高塩分濃度(汚染された)水の
デルタからの排出は不可避である。この水は、食糧の生産には不適切であるから、適切なバイオエネル
ギー作物の栽培に使い、水資源の高度利用を実現することが本プロジェクトとしてのアイデアである。そ
のため、ナイルデルタの外において、効率的な栽培法の開発試験を行う。
7)伝統的に、デルタにおける揚水はすべてロバ、水牛などの家畜によって担われ、必要エネルギーは
現地生産されてきたが、この20年の間に、ほとんどすべて外部からの燃料等に置き換わった。耕起、運
搬には現在でも、広く家畜が活躍している。デルタ農村における持続的食糧生産を考えるため、これらの
エネルギー評価を行う。ただし、デルタ農村における家畜の役割は、単にエネルギー供給や肉の生産だ
けで終わるものではなく、それらの排泄物から生産される堆肥による土壌肥沃度の維持等、持続的農業
生産システムにとって重要な位置を占めている。
プロジェクト HP
http://www.agbi.tsukuba.ac.jp/~wat/
3
plan
Fig. 2 Project sites in the Nile Delta
Fig. 1 Outline of the Egyptian Nile
Fig. 3 Eddy Covariance Method for accurate measurement of ET under water saving irrigation methods
Fig.4 Measurement of water stress impact
Fig. 5 Soil survey
on sugar beat
4
Fig. 5 Evolution of lifting device
Fig. 7 Downstream part of Abshan canal
Fig.6 Water distribution analysis in Bahr Terra canal.
(Water is scarce and polluted)
Fig. 9 Draft animals are widely used for transportation
Fig. 8 Jatropha grown in the experimental field
(They may be replaced by tractor.)
5
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