産衛誌 57 巻,2015
146
資 料
産業衛生学雑誌
許容濃度等の勧告(2015 年度)
平成 27 年 5 月 14 日 日本産業衛生学会
ここに述べる有害物質の許容濃度,生物学的許容値,騒音,衝撃騒音,高温,
寒冷,全身振動,手腕振動,電場・磁場および電磁場,紫外放射の各許容基準は,
職場におけるこれらの環境要因による労働者の健康障害を予防するための手引き
に用いられることを目的として,日本産業衛生学会が勧告するものである.
許容濃度等の性格および利用上の注意
1.許容濃度等は,労働衛生についての十分な知識と経
験をもった人々が利用すべきものである.
ものと考えてはならない.従って,労働者に何らか
の健康異常がみられた場合に,許容濃度等を越えた
2.許容濃度等は,許容濃度等を設定するに当たって考
ことのみを理由として,その物質等による健康障害
慮された曝露時間,労働強度を越えている場合には
と判断してはならない.また逆に,許容濃度等を越
適用できない.
えていないことのみを理由として,その物質等によ
3.許容濃度等は,産業における経験,人および動物に
ついての実験的研究から得られた多様な知見に基礎
をおいており,許容濃度等の設定に用いられた情報
の量と質は必ずしも同等のものではない.
4.許容濃度等を決定する場合に考慮された生体影響の
る健康障害ではないと判断してはならない.
7.許容濃度等の数値を,労働の場以外での環境要因の
許容限界値として用いてはならない.
8.許容濃度等は,有害物質等および労働条件の健康影
響に関する知識の増加,情報の蓄積,新しい物質の
種類は物質等によって異なり,ある種のものでは,
使用などに応じて改訂・追加されるべきである.
明瞭な健康障害に,また他のものでは,不快,刺激,
9.許容濃度等の勧告をより良いものにするために,
中枢神経抑制などの生体影響に根拠が求められてい
個々の許容濃度等に対する科学的根拠に基づいた意
る.従って,許容濃度等の数値は,単純に,毒性の
見が,各方面から提案されることが望ましい.
強さの相対的比較の尺度として用いてはならない.
10.許容濃度等の勧告を転載・引用する場合には,誤
5.人の有害物質等への感受性は個人毎に異なるので,
解・誤用を避けるために,「許容濃度等の性格およ
許容濃度等以下の曝露であっても,不快,既存の健
び使用上の注意」および「化学物質の許容濃度」や
康異常の悪化,あるいは職業病の発生を防止できな
「生物学的許容値」等に記述してある定義等も,同
い場合がありうる.
時に転載・引用することを求める.
6.許容濃度等は,安全と危険の明らかな境界を示した
Ⅰ.化学物質の許容濃度
1.定義
許容濃度とは,労働者が 1 日 8 時間,週間 40 時間程度,
れば,ほとんどすべての労働者に健康上の悪い影響が見
肉体的に激しくない労働強度で有害物質に曝露される場
られないと判断される濃度である.曝露時間が短い,あ
合に,当該有害物質の平均曝露濃度がこの数値以下であ
るいは労働強度が弱い場合でも,許容濃度を越える曝露
産衛誌 57 巻,2015
147
は避けるべきである.なお,曝露濃度とは,呼吸保護具
3.経皮吸収
を装着していない状態で,労働者が作業中に吸入するで
表Ⅰ-1,Ⅰ-2 で経皮吸収欄に「皮」をつけてある物
あろう空気中の当該物質の濃度である.労働時間が,作
質は,皮膚と接触することにより,経皮的に吸収される
業内容,作業場所,あるいは曝露の程度に従って,いく
量が全身への健康影響または吸収量からみて無視できな
つかの部分に分割され,それぞれの部分における平均曝
い程度に達することがあると考えられる物質である.許
露濃度あるいはその推定値がわかっている場合には,そ
容濃度は,経皮吸収がないことを前提として提案されて
れらに時間の重みをかけた平均値をもって,全体の平均
いる数値であることに注意する.
曝露濃度あるいはその推定値とすることができる.
4.有害物質以外の労働条件との関連
最大許容濃度とは,作業中のどの時間をとっても曝露
許容濃度を利用するにあたっては,労働強度,温熱条
濃度がこの数値以下であれば,ほとんどすべての労働者
件,放射線,気圧などを考慮する必要がある.これらの
に健康上の悪い影響が見られないと判断される濃度であ
条件が負荷される場合には,有害物質の健康への影響が
る.一部の物質の許容濃度を最大許容濃度として勧告す
増強されることがあることに留意する必要がある.
る理由は,その物質の毒性が,短時間で発現する刺激,
5.混合物質の許容濃度
中枢神経抑制等の生体影響を主とするためである.最大
表Ⅰ-1,Ⅰ-2 に表示された許容濃度の数値は,当該
許容濃度を超える瞬間的な曝露があるかどうかを判断す
物質が単独で空気中に存在する場合のものである.2 種
るための測定は,厳密には非常に困難である.実際には
またはそれ以上の物質に曝露される場合には,個々の物
最大曝露濃度を含むと考えられる 5 分程度までの短時間
質の許容濃度のみによって判断してはならない.現実的
の測定によって得られる最大の値を考えればよい.
には,相加が成り立たないことを示す証拠がない場合に
2.濃度変動の評価
は,2 種またはそれ以上の物質の毒性は相加されると想
曝露濃度は,平均値の上下に変動するが,許容濃度は
定し,次式によって計算される I の値が 1 を越える場合
変動の幅があまり大きくない場合に利用されるべきもの
に,許容濃度を越える曝露と判断するのが適当である.
である.どの程度の幅の変動が許容されるかは物質に
よって異なる.特に注記のない限り,曝露濃度が最大に
なると予想される時間を含む 15 分間の平均曝露濃度が,
Ci = 各成分の平均曝露濃度
許容濃度の数値の 1.5 倍を越えないことが望ましい.
I=
C
C
C1 C2
+
+…… + i + … + n
T1 T2
Ti
Tn
Ti = 各成分の許容濃度
表Ⅰ- 1. 許 容 濃 度
物質名[CAS No.]
アクリルアミド[79-06-1]
アクリルアルデヒド[107-02-8]
アクリル酸メチル[96-33-3]
アクリロニトリル[107-13-1]
アセトアルデヒド[75-07-0]
アセトン[67-64-1]
アトラジン[1912-24-9]
o- アニシジン[90-04-0]
p- アニシジン[104-94-9]
アニリン[62-53-3]
2- アミノエタノール[141-43-5]
アリルアルコール[107-18-6]
アルシン[7784-42-1]
化学式
CH2=CHCONH2
CH2=CHCHO
CH2=CHCOOCH3
CH2=CHCN
CH3CHO
CH3COCH3
C8H14ClN5
H3COC6H4NH2
H3COC6H4NH2
C6H5NH2
H2NCH2CH2OH
CH2=CHCH2OH
AsH3
アンチモンおよびアンチモン化合物
Sb
(Sb として,スチビンを除く)[7440-36-0]
アンモニア[7664-41-7]
NH3
イソブチルアルコール[78-83-1]
(CH3)2CHCH2OH
イソプロチオラン[50512-35-1]
C12H18O4S2
イソプロピルアルコール[67-63-0]
CH3CH(OH)CH3
イソペンチルアルコール[123-51-3]
(CH3)2CHCH2CH2OH
一酸化炭素[630-08-0]
CO
インジウムおよびインジウム化合物[7440-74-6] In
エチルアミン[75-04-7]
C2H5NH2
エチルエーテル[60-29-7]
(C2H5)
2O
許容濃度
ppm
mg/m3
−
0.1
0.1
0.23
2
7
2
4.3
50*
90*
200
470
(表Ⅰ-2)
0.1
0.5
0.1
0.5
1
3.8
3
7.5
1
2.4
0.01
0.032
0.1*
0.32*
−
経皮 発がん 感作性分類
吸収 性分類 気道 皮膚
皮
2A
2†
皮
2Aψ
2B
皮
皮
皮
2B
2
1†
皮
提案
年度
’04
’73
’04
’88
’90
’72
’15
’96
’96
’88
’65
’78
’92
0.1
(’13)
25
17
50
150
−
5
400*
980*
100
360
50
57
(表Ⅱ-1)
10
18
400
1,200
’79
’87
’93
’87
’66
’71
’07
’79
(’97)
2A
産衛誌 57 巻,2015
148
物質名[CAS No.]
化学式
エチルベンゼン[100-41-4]
C6H5C2H5
エチレンイミン[151-56-4]
C2H5N
エチレンオキシド[75-21-8]
C2H4O
エチレングリコールモノエチルエーテル
C2H5OCH2CH2OH
[110-80-5]
エチレングリコールモノエチルエーテル
C2H5OCH2CH2OCOCH3
アセテート[111-15-9]
エチレングリコールモノメチルエーテル
CH3OCH2CH2OH
[109-86-4]
エチレングリコールモノメチルエーテル
CH3OCH2CH2OCOCH3
アセテート[110-49-6]
エチレンジアミン[107-15-3]
H2NCH2CH2NH2
エトフェンプロックス[80844-07-1]
C25H28O3
塩化水素[7647-01-0]
HCl
塩化ビニル[75-01-4]
CH2=CHCl
塩素[7782-50-5]
Cl2
黄リン[7723-14-0]
P4
オクタン[111-65-9]
CH(CH
3
2)
6CH3
オゾン[10028–15–6]
O3
ガソリン[8006–61–9]
カドミウムおよびカドミウム化合物(Cd として)
Cd
[7440–43–9]
カルバリル[63–25–2]
C12H11NO2
ギ酸[64–18–6]
HCOOH
キシレン(全異性体およびその混合物)
C6H(CH
4
3)
2
銀および銀化合物(Ag として)[7440–22-4] Ag
グルタルアルデヒド[111–30–8]
OHC(CH2)3CHO
クレゾール(全異性体)
C6H4CH(OH)
3
クロムおよびクロム化合物(Cr として)
Cr
[7440–47–3]
金属クロム
3 価クロム化合物
6 価クロム化合物
ある種の 6 価クロム化合物
クロロエタン[75–00–3]
C2H5Cl
クロロジフルオロメタン[75–45–6]
CHClF2
クロロピクリン[76–06–2]
Cl3CNO2
クロロベンゼン[108–90–7]
C6H5Cl
クロロホルム[67–66–3]
CHCl3
クロロメタン[74–87–3]
CH3Cl
クロロメチルメチルエーテル(工業用)
[107–30–2]CH3OCH2Cl
鉱油ミスト
五塩化リン[10026–13–8]
PCl5
コバルトおよびコバルト化合物(Co として)
Co
[7440–48–4]
酢酸[64–19–7]
CH3COOH
酢酸エチル[141–78–6]
CH3COOC2H5
酢酸ブチル[123–86–4]
CH3COO(CH2)3CH3
酢酸プロピル[109–60–4]
CH3COO(CH2)2CH3
酢酸ペンチル類[628–63–7; 123–92–2; 626–38–0;
CH3COOC5H11
620–11–1; 625–16–1; 624–41–9; 926–41–0]
酢酸メチル[79–20–9]
三塩化リン[7719–12–2]
酸化亜鉛ヒューム[1314–13–2]
三フッ化ホウ素[7637–07–2]
シアン化カリウム(CN として)[151–50–8]
シアン化カルシウム(CN として)[592–01–8]
シアン化水素[74-90-8]
シアン化ナトリウム(CN として)[143–33–9]
CH3COOCH3
PCl3
ZnO
BF3
KCN
Ca(CN)
2
HCN
NaCN
許容濃度
ppm
mg/m3
50
217
0.5
0.88
1
1.8
経皮 発がん 感作性分類 提案
吸収 性分類 気道 皮膚 年度
’01
2B
皮
2B
(’90)
’90
1ψ
2
5
18
皮
’85
5
27
皮
’85
0.1
0.31
皮
’09
0.1
0.48
皮
’09
25
3
3.0*
6.5a
1.5*
0.1
1,400
0.2
300b
皮
10
−
2*
2.5a
0.5*
−
300
0.1
100b
−
−
5
50
−
0.03*
5
22
−
−
−
−
100
1,000
0.1
10
3
50
−
−
0.1
0.5
0.5
0.05
0.01
260
3,500
0.67
46
14.7
100
−
3
0.85
−
0.05
10
200
100
200
50
2
2B
’91
’95
’14
’75
’99
(’88)
’89
’63
’85
1ψ
’76
1ψ
0.05
5
9.4
217
0.01
2
皮
皮
1
1
2
1
’89
’78
’01
’91
’06
’86
’89
1ψ
皮
’93
’87
’68
’93
’05
’84
’92
’77
’89
2B
2A
1ψ
2B
1
1
’92
25
720
475
830
’78
’95
’94
’70
266.3
’08
100*
532.5*
200
610
0.2
1.1
(検討中)
0.3
0.83
−
5*
−
5*
5
5.5
−
5*
皮
皮
皮
皮
’63
’89
’69
’79
’01
’01
’90
’01
産衛誌 57 巻,2015
物質名[CAS No.]
149
化学式
ジエチルアミン[109–89–7]
(C2H5)
2NH
四塩化炭素[56–23–5]
CCl4
1,4- ジオキサン[123–91–1]
C4H8O2
シクロヘキサノール[108–93–0]
C6H11OH
シクロヘキサノン[108–94–1]
C6H10O
シクロヘキサン[110–82–7]
C6H12
1,1- ジクロロエタン[75–34–3]
Cl2CHCH3
1,2- ジクロロエタン[107–06–2]
ClCH2CH2Cl
2,2’- ジクロロエチルエーテル[111–44–4]
(ClCH2CH2)2O
1,2- ジクロロエチレン[540–59–0]
ClCH=CHCl
3,3’- ジクロロ -4,4’- ジアミノジフェニルメタン
CH(C
2
6H3NH2Cl)
2
(MBOCA)[101–14–4]
ジクロロジフルオロメタン[75–71–8]
CCl2F2
2,2-ジクロロ-1,1,1-トリフルオロエタン[306–83–2] CF3CHCl2
1,4- ジクロロ -2- ブテン[764–41–0]
C4H6Cl2
1,2- ジクロロプロパン[78–87–5]
ClCH2CHClCH3
o- ジクロロベンゼン[95–50–1]
C6H4Cl2
p- ジクロロベンゼン[106–46–7]
C6H4Cl2
ジクロロメタン[75–09–2]
CH2Cl2
1,2- ジニトロベンゼン[528–29–0]
C6H(NO
4
2)
2
1,3- ジニトロベンゼン[99–65–0]
C6H(NO
4
2)
2
1,4- ジニトロベンゼン[100–25–4]
C6H(NO
4
2)
2
ジフェニルメタン -4,4’- ジイソシアネート(MDI)
CH(C
H
NCO)
2
6 4
2
[101–68–8]
ジボラン[19287–45–7]
B2H6
N, N- ジメチルアセトアミド[127–19–5]
(CH3)2NCOCH3
N, N- ジメチルアニリン[121–69–7]
C6H5N(CH3)2
ジメチルアミン[124–40–3]
(CH3)2NH
N, N- ジメチルホルムアミド(DMF)
[68–12–2](CH3)2NCHO
臭化メチル[74–83–9]
CH3Br
臭素[7726–95–6]
Br2
硝酸[7697–37–2]
HNO3
シラン[7803–62–5]
SiH4
人造鉱物繊維 **
ガラス長繊維,グラスウール,ロックウール,
スラグウール,
セラミック繊維,ガラス微細繊維
水銀蒸気[7439–97–6]
Hg
水酸化カリウム[1310–58–3]
KOH
水酸化ナトリウム[1310–73–2]
NaOH
水酸化リチウム[1310–65–2]
LiOH
スチレン[100–42–5]
C6H5CH=CH2
セレンおよびセレン化合物(Se として,セレ
ン化水素,六フッ素化セレンを除く)
Se
[7782–49–2]
セレン化水素[7783–07–5]
SeH2
ダイアジノン[333–41–5]
C12H21N2O3PS
チウラム[137–26–8]
C6H12N2S4
テトラエチル鉛(Pb として)[78–00–2]
Pb(C2H5)4
テトラエトキシシラン[78–10–4]
Si(OC2H5)4
1,1,2,2- テトラクロロエタン[79–34–5]
Cl2CHCHCl2
テトラクロロエチレン[127–18–4]
Cl2C=CCl2
テトラヒドロフラン[109–99–9]
C4H8O
テトラメトキシシラン[681–84–5]
Si(OCH3)4
テレビン油
トリクロルホン[52–68–6]
C4H8Cl3O4P
1,1,1- トリクロロエタン[71–55–6]
Cl3CCH3
1,1,2- トリクロロエタン[79–00–5]
Cl2CHCH2Cl
トリクロロエチレン[79–01–6]
Cl2C=CHCl
許容濃度
ppm
mg/m3
10
30
5
31
(表Ⅰ-2)
25
102
25
100
150
520
100
400
10
40
15
88
150
590
−
0.005
2,500
62
(表Ⅰ-2)
1
4.6
25
150
10
60
50
170
100*
340*
0.15
1
0.15
1
0.15
1
経皮 発がん 感作性分類
吸収 性分類 気道 皮膚
皮
皮
皮
皮
’89
’91
’15
’70
’70
’70
’93
’84
’67
’70
2B
2B
2B
2Aψ
’12
1
’87
’00
’15
’13
’94
’98
’99
500
10
−
0.05
0.01
10
5
10
10
1
0.1
2
100*
0.012
36
25
18
30
3.89
0.65
5.2
130*
皮
2
2B
2B
皮
皮
皮
’94
’94
’94
1
’93
’96
’90
’93
’79
’74
’03
’64
’82
’93
’03
皮
皮
皮
皮
提案
年度
2B
1(繊維/ml)
−
−
−
−
−
20
−
0.05
−
−
0.025
2*
2*
1
85
2B
皮
’98
’78
’78
’95
’99
2B
0.1
0.17
0.1
0.1
−
0.075
10
85
1
6.9
(検討中)
(表Ⅰ-2)
1
6
50
280
0.2
200
1,100
10
55
25
135
’00
皮
1
皮
皮
皮
2B
1
皮
皮
1ψ †
2†
’63
’89
’08
’65
’91
’84
’72
’15
’91
’91
’10
’74
(’78)
’15
産衛誌 57 巻,2015
150
物質名[CAS No.]
化学式
1,1,2- トリクロロ -1,2,2- トリフルオロエタン
Cl2FCCClF2
[76–13–1]
トリクロロフルオロメタン[75–69–4]
CCl3F
トリシクラゾール[41814–78–2]
C9H7N3S
トリニトロトルエン(全異性体)
C6H2CH(NO
3
2)
3
1,2,3- トリメチルベンゼン[526–73–8]
C6H(CH
3
3)
3
1,2,4- トリメチルベンゼン[95–63–6]
C6H(CH
3
3)
3
1,3,5- トリメチルベンゼン[108–67–8]
C6H(CH
3
3)
3
o- トルイジン[95–53–4]
CH3C6H4NH2
トルエン[108–88–3]
C6H5CH3
トルエンジイソシアネート類(TDI)
[26471–62–5]C6H3CH(NCO)
3
2
鉛および鉛化合物(Pb として,アルキル鉛化
Pb
合物を除く)[7439–92–1]
二塩化二硫黄[10025–67–9]
S2Cl2
二酸化硫黄[7446–09–5]
SO2
二酸化炭素[124–38–9]
CO2
二酸化チタンナノ粒子[13463–67–7]
TiO2
二酸化窒素[10102–44–0]
NO2
ニッケル[7440–02–0]
Ni
ニッケルカルボニル[13463–39–3]
Ni(CO)
4
ニッケル化合物(総粉塵)(Ni として)
ニッケル化合物,水溶性
ニッケル化合物,水溶性でないもの
ニッケル製錬粉塵
p- ニトロアニリン[100–01–6]
H2NC6H4NO2
ニトログリコール[628–96–6]
O2NOCH2CH2ONO2
ニトログリセリン[55–63–0]
(O2NOCH2)2CHONO2
p- ニトロクロロベンゼン[100–00–5]
C6H4ClNO2
ニトロベンゼン[98–95–3]
C6H5NO2
二硫化炭素[75–15–0]
CS2
ノナン[111–84–2]
CH(CH
3
2)
7CH3
パーフルオロオクタン酸[335–67–1]
C7F15COOH
白金(水溶性白金塩,Pt として)[7440–06–4] Pt
バナジウム化合物
五酸化バナジウム[1314–62–1]
V2O5
フェロバナジウム粉塵[12604–58–9]
FeV
パラチオン[56–38–2]
(C2H5O)
2PSOC6H4NO2
ピクリン酸[88–89–1]
C6H(NO
2
2)
3OH
ヒ素およびヒ素化合物(As として)
[7440–38–2]As
ピリダフェンチオン[119–12–0]
C14H17N2O4PS
フェニトロチオン[122–14–5]
C9H12NO5PS
m- フェニレンジアミン[108–45–2]
C6H(NH
4
2)
2
o- フェニレンジアミン[95–54–5]
C6H(NH
4
2)
2
p- フェニレンジアミン[106–50–3]
C6H(NH
4
2)
2
フェノール[108–95–2]
C6H5OH
フェノブカルブ[3766–81–2]
C12H17NO2
フェンチオン[55–38–9]
C10H15O3PS2
フサライド[27355–22–2]
C8H2Cl4O2
1- ブタノール[71–36–3]
CH3CH2CH2CH2OH
2- ブタノール[78–92–2]
CH3CH(OH)CH2CH3
フタル酸ジエチル[84–66–2]
C6H(COOC
4
2H5)
2
フタル酸ジ -2- エチルヘキシル[117–81–7]
C24H38O4
フタル酸ジブチル[84–74–2]
C6H(COOC
4
4H9)
2
o- フタロジニトリル[91–15–6]
C6H(CN)
4
2
ブタン(全異性体)[106–97–8]
C4H10
ブチルアミン[109–73–9]
CH3CH2CH2CH2NH2
t- ブチルアルコール[75–65–0]
(CH3)3COH
フッ化水素[7664–39–3]
HF
ブプロフェジン[69327–76-0]
C16H23N3OS
許容濃度
ppm
mg/m3
500
1,000*
−
−
25
25
25
1
50
0.005
0.02*
−
経皮 発がん 感作性分類
吸収 性分類 気道 皮膚
3,800
5,600*
3
0.1
120
120
120
4.4
188
0.035
0.14*
’87
皮
皮
皮
0.1
1*
5.5*
(検討中)
5,000
9,000
−
0.3
(検討中)
−
1
0.001
0.007
(表Ⅲ–1)
0.01
0.1
(表Ⅲ–2)
−
3
0.05
0.31
0.05*
0.46*
0.1
0.64
1
5
(表Ⅰ–2)
200
1,050
0.005c
−
0.001
−
0.05
−
1
−
0.1
−
−
(表Ⅲ–2)
−
0.2
−
1
−
0.1
−
0.1
−
0.1
5
19
−
5
−
0.2
−
10
50*
150*
100
300
−
5
−
5
−
5
0.01
500
1,200
5*
15*
50
150
3*
2.5*
−
2
提案
年度
2A
2B
1
2
2B
’82
2
1
1
1
2B
皮
皮
皮
皮
皮
皮
1
2B
皮
皮
皮
1
2
3
3
1
皮
皮
皮
皮
2B
皮
皮
’87
’90
’93
’84
’84
’84
’91
(’13)
’92
2
’76
’61
’74
’13
’61
’67
’66
’11
’11
’11
’11
’95
’86
’86
’89
(’88)
’15
’89
’08
’00
’03
’68
(’80)
’14
’00
’89
’81
’99
’99
’97
’78
’89
’89
’90
’87
’87
’95
’95
’96
’09
’88
(’94)
’87
’00
’90
産衛誌 57 巻,2015
151
物質名[CAS No.]
化学式
フルトラニル[66332–96–5]
フルフラール[98–01–1]
フルフリルアルコール[98–00–0]
プロピレンイミン[75–55–8]
1- ブロモプロパン[106–94–5]
2- ブロモプロパン[75–26–3]
ブロモホルム[75–25–2]
粉塵
ヘキサクロロブタジエン[87–68–3]
ヘキサン[110–54–3]
ヘキサン -1,6- ジイソシアネート[822–06–0]
ヘプタン[142–82–5]
ベリリウムおよびベリリウム化合物(Be として)
[7440–41–7]
ベンゼン[71–43–2]
ペンタクロロフェノール[87–86–5]
ペンタン[109–66–0]
ホスゲン[75–44–5]
ホスフィン[7803–51–2]
ポリ塩化ビフェニル類
ホルムアルデヒド[50–00–0]
マラチオン[121–75–5]
マンガンおよびマンガン化合物(Mn として,
有機マンガン化合物を除く)[7439–96–5]
無水酢酸[108–24–7]
無水トリメリット酸[552–30–7]
無水ヒドラジンおよびヒドラジン一水和物
[302–01–2/7803–57–8]
無水フタル酸[85–44–9]
無水マレイン酸[108–31–6]
C17H16NO2F3
C5H4O2
C4H3OCH2OH
C3H7N
CH3CH2CH2Br
CH3CHBrCH3
CHBr3
Cl2C=C2Cl2=CCl2
CH(CH
3
2)
4CH3
OCN(CH2)6NCO
CH(CH
3
2)
5CH3
Be
C6H6
C6Cl5OH
CH(CH
3
2)
3CH3
COCl2
PH3
C12H(10−n)Cln
HCHO
C10H16O6PS2
−
(CH3CO)
2O
HOOCC6H(CO)
3
2O
N2H4・N2H4・H2O
C6H(CO)
4
2O
C4H2O3
C5H9NO
CH3CO(CH2)3CH3
CH(C
2
6H4NH2)
2
C17H19NO2
I2
H2S
H2SO4
(CH3)2SO4
H3PO4
Rh
経皮 発がん 感作性分類
吸収 性分類 気道 皮膚
皮
皮
皮
皮
1
2Aψ
皮
皮
1
皮
2Aψ
2A
1
2
2
’63
1
’97
(’89)
’87
’69
’98
’06
’07
皮
’89
0.2
’08
5*
21*
(表Ⅰ–2)
’90
’15
1
0.13 および
0.21
0.33*
2*
0.1
0.4
0.2*
0.8*
2
7.0
2
8.3
200
260
10
13
50
200
200
590
50
230
50
230
400
1,600
0.007
0.05
0.015*
0.1*
1
4
5
20
−
0.4
−
5
0.1
1
5
7
−
1*
0.1
0.52
−
1
0.1
−
提案
年度
’90
(’89)
’78
’67
’12
’99
’97
’80
’13
’85
’95
’88
皮
0.002
(表Ⅲ–2)
−
0.5
300
880
0.1
0.4
0.3*
0.42*
−
0.01
0.1
0.12
0.2*
0.24*
−
10
Mn
メタクリル酸[79–41–4]
CH2=C(CH3)COOH
メタクリル酸メチル[80–62–6]
CH2=C(CH3)COOCH3
メタノール[67–56–1]
CH3OH
メチルアミン[74–89–5]
CH3NH2
メチルイソブチルケトン[108–10–1]
CH3COCH2CH(CH3)2
メチルエチルケトン[78–93–3]
C2H5COCH3
メチルシクロヘキサノール[25639–42–3]
CH3C6H10OH
メチルシクロヘキサノン[1331–22–2]
CH3C6H9O
メチルシクロヘキサン[108–87–2]
CH3C6H11
メチルテトラヒドロ無水フタル酸[11070–44–3] CH3C6H(CO)
7
2O
N- メチル -2- ピロリドン[872–50–4]
メチル -n- ブチルケトン[591–78–6]
4,4’- メチレンジアニリン[101–77–9]
メプロニル[55814–41–0]
ヨウ素[7553–56–2]
硫化水素[7783–06–4]
硫酸[7664–93–9]
硫酸ジメチル[77–78–1]
リン酸[7664–38–2]
ロジウム(可溶性化合物,Rh として)
[7440–16–6]
許容濃度
ppm
mg/m3
−
10
2.5
9.8
5
20
2
4.7
0.5
2.5
1
5
1
10.3
(表Ⅰ–3)
0.01
0.12
40
140
0.005
0.034
200
820
0.001
3
皮
2B
皮
1
’98
1
2
2
’98
(’15)
2
2
皮
1
皮
皮
皮
皮
2B
’12
’12
’63
’79
’84
’64
’80
’87
’86
’02
2
’02
’84
’95
’90
’68
’01
’00
’80
(’90)
2
’07
1
2Aψ
[注]1.ppm の単位表示における気体容積は,25℃,1 気圧におけるものとする.ppm からmg/m への換算は,3 桁を計算し四捨五入した.
2.提案年度欄の( )内は,結果として数値は変更しなかったが,再検討を行った年度を示す.
3.記号の説明
* …最大許容濃度.常時この濃度以下に保つこと.
** …メンブレンフィルター法で補集し,400 倍の位相差顕微鏡で,長さ 5 µ m 以上,太さ 3 µ m 未満,長さと太さの比(アスペ
クト比)3:1 以上の繊維.
ψ …発がん以外の健康影響を指標として許容濃度が示されている物質.Ⅲ.発がん物質の前文参照.
a …暫定的に 2.5 ppm とするが,できる限り検出可能限界以下に保つよう努めるべきこと.
b …ガソリンについては,300 mg/m3 を許容濃度とし,mg/m3 から ppm への換算はガソリンの平均分子量を 72.5 と仮定して行った.
c …妊娠可能な女性には適用しない.
† …暫定
産衛誌 57 巻,2015
152
表Ⅰ- 2. 許容濃度(暫定)
物質名[CAS No.]
アトラジン[1912-24-9]
1,4- ジオキサン[123-91-1]
1,4- ジクロロ -2- ブテン[764-41-0]
テトラヒドロフラン[109-99-9]
二硫化炭素[75-15-0]
無水トリメリット酸[552-30-7]
化学式
C8H14ClN5
C4H8O2
C4H6Cl2
C4H8O
CS2
HOOCC6H(CO)
3
2O
許容濃度
ppm
mg/m3
2
1
3.6
0.002
50
148
1
3.13
0.0005
0.004*
経皮
吸収
発がん
性分類
皮
2B
2B
皮
皮
皮
感作性分類
気道
皮膚
提案
年度
’15
’15
’15
’15
’15
’15
1
[注]ppm の単位表示における気体容積は,25℃,1 気圧におけるものとする.
* …最大許容濃度.常時この濃度以下に保つこと.
表Ⅰ- 3. 粉塵の許容濃度
ψ
Ⅰ . 吸入性結晶質シリカ , *
許容濃度 0.03 mg/m3
Ⅱ . 各種粉塵
許容濃度 mg/m3
吸入性粉塵 *
総 粉 塵 **
粉 塵 の 種 類
第 1 種粉塵
第 2 種粉塵
第 3 種粉塵
石綿粉塵 ***
タルク,ろう石,アルミニウム,アルミナ,珪藻土,硫化鉱,硫化焼鉱,
ベントナイト,カオリナイト,活性炭,黒鉛
結晶質シリカ含有率3%未満の鉱物性粉塵,酸化鉄,カーボンブラック,
石炭,酸化亜鉛,二酸化チタン,ポートランドセメント,大理石,
線香材料粉塵,穀粉,綿塵,革粉,コルク粉,べークライト
石灰石‡,その他の無機および有機粉塵
0.5
2
1
4
2
8
(表Ⅲ–2)
[注]1.* 吸入性結晶質シリカおよび吸入性粉塵は以下の捕集率 R
(dae)で捕集された粒子の質量濃度である.
R
(dae)= 0.5[1 + exp(−0.06dae)][1 − F
(x)]
dae:空気動力学的粒子径(µ m),F
(x):標準正規変数の累積分布関数
x = ln(dae/Γ )/ln(Σ ),ln 自然対数,Γ = 4.25 µ m,Σ = 1.5
2.** 総粉塵:捕集器の入口における流速を 50 ∼ 80 cm/sec として捕集した粉塵を総粉塵とする .
3.*** メンブレンフィルターで捕集し,400 倍(対物 4 mm)の位相差顕微鏡で,長さ 5 µ m 以上,長さと幅の比 3:1 以上の繊維.
4.‡石綿繊維および 1%以上の結晶質シリカを含まないこと.
5.ψ 発がん以外の健康影響を指標として許容濃度が示されている物質.Ⅲ.発がん物質の前文参照.
Ⅱ.生物学的許容値
1.定義
労働の場において,有害因子に曝露している労働者の
尿,血液等の生体試料中の当該有害物質濃度,その有害
物の代謝物濃度,または,予防すべき影響の発生を予
測・警告できるような影響の大きさを測定することを
「生物学的モニタリング」という.「生物学的許容値」と
は,生物学的モニタリング値がその勧告値の範囲内であ
れば,ほとんどすべての労働者に健康上の悪い影響がみ
られないと判断される濃度である.
2.生物学的許容値の性格
(1)生物学的許容値は,生物学的モニタリング値と健
康影響との量影響関係,量反応関係の知見,生物学的モ
ニタリング値と曝露濃度の関係に関する知見に基礎をお
いている.
(2)労働の場における有害要因曝露濃度と生物学的モ
ニタリング値とは,個人間変動,個体間変動,喫煙や飲
酒等の習慣,作業条件,作業時間,皮膚吸収,保護具の
使用,労働の場以外での有害要因曝露等の様々な要因に
より,よい関連を示さない場合がある.したがって,有
害要因曝露濃度が許容濃度を越えていなくとも,生物学
的モニタリング値が生物学的許容値を越えている場合も
あり,逆に,有害要因曝露濃度が許容濃度を越えていて
も,生物学的モニタリング値が生物学的許容値の範囲内
である場合もある.労働の場では,許容濃度と生物学的
許容値の両方を満たすことが必要である.
(3)生体試料の採取時期
有害要因曝露を最もよく代表する時期,または,有害
要因吸収による健康影響の発生を最もよく予測できる時
期に採取した生体試料を用いて測定した生物学的モニタ
リング値についてのみ,生物学的許容値を参照できる.
(4)複数の有害要因の同時曝露
表示された生物学的許容値は,当該有害要因単独の吸
収を想定している.複数の有害要因に同時曝露する場合
には,複数有害要因の健康への相互作用および吸収・代
謝・排泄過程での相互作用を加味し,各有害要因の生物
学的許容値を適用する.
産衛誌 57 巻,2015
153
表Ⅱ- 1. 生物学的許容値
物 質 名
アセトン
インジウムおよびインジウム化合物
エチレングリコールモノブチルエーテルおよび
エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート
キシレン
クロロベンゼン
コバルトおよびコバルト無機化合物
(酸化コバルトを除く)
3, 3’- ジクロロ -4, 4’- ジアミノジフェニルメタ
ン(MBOCA)
ジクロロメタン
水銀および水銀化合物(アルキル水銀化合物
を除く)
スチレン
テトラヒドロフラン
トリクロロエチレン
トルエン
鉛
測 定 対 象
試 料
物 質
尿
アセトン
血清 インジウム
尿
総ブトキシ酢酸
尿
総メチル馬尿酸
(o-, m-, p- 三異性体
の総和 )
尿
4- クロロカテコール
(加水分解)
血 液 コバルト
尿
コバルト
尿
総 MBOCA
尿
尿
尿
血 液
尿
尿
尿
尿
血 液
尿
血 液
血 液
尿
二硫化炭素
尿
フェノール
尿
ヘキサン
尿
尿
ポリ塩化ビフェニル類(PCB)
メタノール
メチルイソブチルケトン
メチルエチルケトン
血液
尿
尿
尿
ジクロロメタン
総 水 銀
生物学的許容値
試料採取時期
提案
年度
40 mg/l
3 µ g/l
200 mg/g・Cr
作業終了前2時間以内
特定せず
作業了時
’01
’07
’08
800 mg/l
週の後半の作業終了時
’06
120 mg/g・Cr
作業了時
’08
3 µ g/l
35 µ g/l
50 µ g/g・Cr
週末の作業終了前2時間以内
週末の作業終了前2時間以内
週末の作業終了時
’05
0.2 mg/l
35 µ g/g・Cr
作業終了時
特定せず
’05
’93
週の後半の作業終了時
’07
マンデル酸とフェニル
430 mg/l
グリオキシル酸の和
スチレン
0.2 mg/l
テトラヒドロフラン
2 mg/l
総三塩化物
150 mg/l
トリクロロエタノール
100 mg/l
トリクロロ酢酸
50 mg/l
トルエン
0.6 mg/l
トルエン
0.06 mg/l
鉛
15 µ g/100 ml
プロトポルフィリン 200 µ g/100 ml 赤血
球または
80 µ g/100 ml 血液
デルタアミノレブ
5 mg/l
リン酸
2-ジチオチアゾリジ
0.5 mg/g・Cr †
ン-4-カルボキシル酸
総フェノール
250 mg/g・Cr
(遊離体,グルクロン
酸抱合体,硫酸抱合体)
2, 5- ヘキサンジオン
3 mg/g・Cr
(酸加水分解後)
2, 5- ヘキサンジオン
0.3 mg/g・Cr
(加水分解なし)
総 PCB
25 µ g/l
メタノール
20 mg/l
メチルイソブチルケトン
1.7 mg/l
メチルエチルケトン
5 mg/l
’05
’94
週の後半の作業終了時 ’07
作業終了時
(’15)
週の後半の作業終了前2時間以内 ’99
週の後半の作業終了前2時間以内 ’99
週の後半の作業終了前2時間以内 ’99
週の後半の作業終了前2時間以内 ’99
週の後半の作業終了前2時間以内 ’99
’13
特定せず
’94
特定せず
(継続曝露 1 ヶ月以降)
’94
特定せず
(継続曝露 1 ヶ月以降)
作業終了時(アブラナ科 ’15
植物を摂取しない時期)
’08
作業終了時
週末の作業終了時
’94
週末の作業終了時
’94
特定せず
作業終了時
作業終了時
作業終了時または高濃度
曝露後数時間以内
’06
’10
’07
’06
† …暫定値
Ⅲ.発がん性分類
日本産業衛生学会は,ヒトにおける疫学的証拠*を最も
重要な拠り所として,動物実験の結果およびその解釈と
る物質・要因である.この群に分類される物質・要因
は,疫学研究からの十分な証拠がある.
併せて検討を行い,発がん性分類を行う.本分類は,ヒ
「第 2 群」はヒトに対しておそらく発がん性があると
トに対する発がんの証拠の確からしさにより分類するも
判断できる物質・要因である.「第 2 群 A」に分類され
のであり,発がん性の強さを示すものではない.
るのは,証拠が比較的十分な物質・要因で,疫学研究か
そ こ で, 国 際 が ん 研 究 機 関(International Agency
らの証拠が限定的であるが,動物実験からの証拠が十分
for Research on Cancer)が発表している分類を併せ
である.「第 2 群 B」に分類されるのは,証拠が比較的
て検討し,産業化学物質および関連物質・要因を対象と
十分でない物質・要因,すなわち,疫学研究からの証拠
した発がん性分類表を定める(表Ⅲ-1).
が限定的であり,動物実験からの証拠が十分でない.ま
「第 1 群」はヒトに対して発がん性があると判断でき
たは,疫学研究からの証拠はないが,動物実験からの証
産衛誌 57 巻,2015
154
拠が十分な場合である.
して評価値を計算によって求めたが,本係数を巡っては,
第 1 群で,過剰発がん生涯リスクに対応する濃度レベ
低線量・低線量率の曝露の場合には線量当たりのがんリ
ルの評価を設定できる十分な情報がある物質・要因につ
スクを低減すべきとの考え方もあることから,固形がん
いては,表Ⅲ-2 に,過剰発がん生涯リスクおよび対応
の DDREF を 2 とした場合についても計算を行い,その
する濃度レベルの評価値(表では「リスク評価値」と記
結果をあわせて記載することとした.DDREF として単一
載)を示す.過剰発がん生涯リスクレベルおよび評価値
の値のみを示すことが可能かどうかについては,引き続
は,労働者が受容しうるリスクとして日本産業衛生学会
き,本委員会で検討を行うこととしている.
が勧告することを意味せず,あくまで医学生物学的に求
められた値である.
#
単位線量当たりの生物学的効果が低線量・低線量率の
放射線曝露では高線量・高線量率における曝露と比較
電離放射線については,表Ⅲ-2 に示した産業化学物質
および関連物質・要因の第 1 群と同様,ヒトに対して発
がん性があり,かつ,過剰発がん生涯リスクに対応する
して通常低いことを一般化した,判断によって決めら
れた係数.Dose and dose-rate effectiveness factor.
なお,評価値の計算は,低 LET 放射線(X 線,γ 線)
線量レベルの評価を設定できる十分な情報があると判断
における線量・反応関係に基づいた.従って,内部曝露
し,表Ⅲ-3 に,過剰発がん生涯リスクと対応する線量レ
がある場合,α 線等の影響が考えられる場合には本勧告
ベルの評価値を示した.評価値の算出にあたっては,発
は適用されない.
がんリスクが,性別,年齢によって異なることから,男
第 1 群および第 2 群に分類された物質のうち,発がん以
女別に年齢 18,28,38,48,58 歳からの曝露を想定し,
(1)
外の健康影響を指標として許容濃度が示されている物質
その年齢における単回曝露,
(2)その年齢から 67 歳まで
には,表示を付け注意を喚起した
毎年一定線量の曝露(10 ∼ 50 年間の繰り返し曝露に相
るいは動物実験で発がんが観察される濃度レベルが,発が
当)
,
(3)その年齢から 10 年間,毎年一定線量の曝露,
(4)
ん以外の健康影響がみられる濃度レベルよりも十分高い
その年齢から 5 年間,毎年一定線量の曝露,の計 4 通り
という明らかな証拠がある物質については表示をしない.
**
について,生涯過剰がん期待死亡数(Radiation Exposure
*
Induced Deaths:以下,REID)を計算した.なお,線量・
**
#
線量率効果係数(DDREF) については,基本的に 1 と
.ただし,疫学研究あ
血清疫学,分子疫学研究などを含む.
第 1 群および第 2 群 A については許容濃度(表Ⅰ-1)
参照.
表Ⅲ- 1. 発がん性分類
第1群
エリオナイト
エチレンオキシド(酸化エチレン)
塩化ビニル
カドミウムおよびカドミウム化合物 *
クロム化合物(6価)
頁岩油
結晶質シリカ
鉱物油(未精製および半精製品)
コールタール
コールタールピッチ揮発物
1,2- ジクロロプロパン
ス ス
石 綿
タバコ煙
タルク(石綿繊維含有製品)
第2群 A
アクリルアミド
アクリロニトリル
インジウム化合物(無機,難溶性)
エピクロロヒドリン
塩化ジメチルカルバモイル
塩化ベンザル
塩化ベンジル
グリシドール
クレオソート
4- クロロ -o- トルイジン
クロロメチルメチルエーテル(工業用)
3, 3’
- ジクロロ -4, 4’
- ジアミノジフェニルメタン(MBOCA)
1, 2- ジブロモエタン
臭化ビニル
スチレンオキシド
2, 3, 7, 8- テトラクロロジベンゾ -p- ダイオキシン
電離放射線
トリクロロエチレン†
2- ナフチルアミン
ニッケル化合物(製錬粉塵)*
ビス(クロロメチル)エーテル
ヒ素およびヒ素化合物 *
4- ビフェニルアミン(4 −アミノビフェニル,4 −アミノジ
フェニル)
1, 3- ブタジエン
ベンジジン
ベンゼン
ベンゾトリクロリド
木材粉塵
硫化ジクロルジエチル(マスタードガス,イペリット)
ジクロロメタン†
ダイレクトブラウン 95**
ダイレクトブラック 38**
ダイレクトブルー 6**
1, 2, 3- トリクロロプロパン
o- トルイジン
フッ化ビニル
ベリリウムおよびベリリウム化合物 *
ベンゾ[a]ピレン
ホルムアルデヒド
ポリ塩化ビフェニル類(PCB)
硫酸ジエチル
硫酸ジメチル
リン酸トリス(2, 3- ジブロモプロピル)
産衛誌 57 巻,2015
155
表Ⅲ- 1. (つづき)
第2群 B
アクリル酸エチル
アセトアミド
アセトアルデヒド
o- アニシジン
アミトロール
o- アミノアゾトルエン
p- アミノアゾベンゼン
アントラキノン†
イソプレン
ウレタン
HC ブルー No. 1
エチルベンゼン
エチレンイミン
エチレンチオウレア
1, 2- エポキシブタン
塩素化パラフィン類
オイルオレンジ SS
オーラミン(工業用)
ガソリン
カテコール
カーボンブラック
クメン†
グリシドアルデヒド
クロルデコン(ケポン)
クロルデン
p- クレシジン
クロレンド酸
p- クロロアニリン
クロロタロニル
p- クロロ -o- フェニレンジアミン
1- クロロ -2- メチルプロペン
3- クロロ -2- メチルプロペン
クロロプレン
クロロフェノキシ酢酸除草剤 *
クロロホルム
高周波電磁界(場)†
五酸化バナジウム†
コバルトおよびコバルト化合物 *
酢酸ビニル
三酸化アンチモン
CI アシッドレッド 114
CI ダイレクトブルー 15
CI ベイシックレッド 9
四塩化炭素
N, N- ジアセチルベンジジン
2, 4- ジアミノアニソール
4, 4’-ジアミノジフェニルエーテル
2, 4- ジアミノトルエン
1, 2- ジエチルヒドラジン
ジエポキシブタン
ジエタノールアミン†
1, 4- ジオキサン
ジクロルボス
1, 2- ジクロロエタン
3, 3’-ジクロロ -4, 4’-ジアミノジフェニルエーテル
1, 4- ジクロロ -2- ブテン†
1, 3- ジクロロ -2- プロパノール†
1, 3- ジクロロプロペン(工業用)
3, 3’-ジクロロベンジジン
p- ジクロロベンゼン
ジグリシジルレゾルシノールエーテル
ジスパースブルー 1
シトラスレッド No. 2
2, 4-(または 2, 6-)ジニトロトルエン
1, 8- ジヒドロキシアントラキノン(ダントロン)†
1, 2- ジブロモ -3- クロロプロパン
2, 3- ジブロモプロパン -1- オール
2, 6- ジメチルアニリン(2, 6- キシリジン)
*
p- ジメチルアミノアゾベンゼン
1, 1- ジメチルヒドラジン
3, 3’-ジメチルベンジジン(o- トリジン)
N, N- ジメチルホルムアミド
3, 3’-ジメトキシベンジジン(o- ジアニシジン)
人造鉱物繊維(セラミック繊維,ガラス微細繊維)
スチレン
4, 4’-チオジアニリン
チオ尿素
超低周波磁界(場)†
DDT
1, 1, 2, 2- テトラクロロエタン†
テトラクロロエチレン
テトラニトロメタン
テトラフルオロエチレン
トリクロロエチレン
トリパンブルー
トルエンジイソシアネート類
ナイトロジェンマスタード -N- オキシド
ナフタレン†
鉛および鉛化合物(無機)*
二酸化チタン†
ニッケル化合物(ニッケルカルボニル,製錬粉塵を除く)
*
ニトリロトリ酢酸とその塩
5- ニトロアセナフテン
2- ニトロアニソール
N- ニトロソジエタノールアミン
N- ニトロソモルホリン
2- ニトロプロパン
ニトロベンゼン
ニトロメタン
2, 2- ビス(ブロモメチル)プロパン -1, 3- ジオール
ビチューメン(ビツメン,瀝青質)
ヒドラジン
4- ビニルシクロヘキセン
4- ビニルシクロヘキセンジエポキシド
フェニルグリシジルエーテル
フタル酸ジ -2- エチルヘキシル
β - ブチロラクトン
フラン
ブロモジクロロメタン
1, 3- プロパンスルトン
β - プロピオラクトン
プロピレンオキシド
ヘキサクロロシクロヘキサン類
ヘキサメチルホスホルアミド
ヘプタクロル
ベンジルバイオレット 4B
ベンゾフェノン†
ベンゾフラン†
(2- ホルミルヒドラジノ)-4-(5- ニトロ -2- フリル)
チアゾール
ポリクロロフェノール類(工業用)
ポリ臭化ビフェニル類
ポンソー 3R
ポンソー MX
マイレックス
マゼンタ(CI ベイシックレッド9含有製品)
メタンスルホン酸エチル
2- メチルアジリジン(プロピレンイミン)
メチルイソブチルケトン†
メチル水銀化合物
α - メチルスチレン†
2- メチル -1- ニトロアントラキノン
N- メチル -N- ニトロソウレタン
4, 4’
- メチレンジアニリン
4, 4’
- メチレンビス(2- メチルアニリン)
硫酸ジイソプロピル
発がんに関与する物質のすべてが同定されているわけではない.
ベンジジンに代謝される色素.
†
暫定分類.
2014 年度に検討中であったオフセット印刷工程は,表Ⅲ -1 より削除する.
**
産衛誌 57 巻,2015
156
表Ⅲ- 2. 過剰発がん生涯リスクレベルと対応する評価値
過剰発がん
生涯リスクレベル
物質名
石綿
クリソタイルのみの時
10−3
10−4
10−3
10−4
10−3
10−4
クリソタイル以外の石綿繊維を含むとき
ニッケル化合物(製錬粉塵)
ヒ素およびヒ素化合物(Asとして)
10−3
10−4
ベンゼン
10−3
10−4
評価方法
評価値
評価年度
繊維/ml
繊維/ml
繊維/ml
繊維/ml
平均相対リスクモデル
’00
10 μg/m3
1 μg/m3
平均相対リスクモデル
’09
3 μg/m3
0.3 μg/m3
平均相対リスクモデル
’00
1 ppm
0.1 ppm
平均相対リスクモデル
’97
0.15
0.015
0.03
0.003
表Ⅲ- 3. 電離放射線の過剰がん死亡生涯リスクレベルと対応する評価値
単回曝露の過剰がん死亡生涯リスクレベルと対応する線量の評価値(mSv)DDREF = 1
(a)男性
過剰がん死亡生涯 曝露年齢
リスクレベル
18 歳
10−1
892.2
5 × 10−2
440.8
10−2
87.4
10−3
8.7
10−4
0.9
28 歳
1,075.5
535.2
106.8
10.7
1.1
38 歳
1,342.1
676.9
136.7
13.7
1.4
48 歳
1,760.8
911.2
189.0
19.1
1.9
58 歳
2,441.8
1,325.0
291.6
30.0
3.0
(b)女性
過剰がん死亡生涯 曝露年齢
リスクレベル
18 歳
10−1
762.9
5 × 10−2
374.1
10−2
73.7
10−3
7.3
10−4
0.7
28 歳
939.2
462.3
91.4
9.1
0.9
38 歳
1,204.2
597.7
119.0
11.9
1.2
48 歳
1,628.9
821.7
166.0
16.6
1.7
58 歳
2,320.5
1,207.9
251.9
25.5
2.6
繰り返し曝露(各歳∼ 67 歳まで)の過剰がん死亡生涯リスクレベルと対応する線量の評価値(mSv /年)DDREF = 1
(a)男性
過剰がん死亡生涯 曝露開始
リスクレベル 年齢 18 歳
10−1
34.1
5 × 10−2
16.4
10−2
3.2
10−3
0.3
10−4
0.03
28 歳
50.8
24.5
4.8
0.5
0.05
38 歳
83.5
40.3
7.8
0.8
0.08
48 歳
160.2
77.5
15.1
1.5
0.15
(b)女性
過剰がん死亡生涯 曝露開始
58 歳
リスクレベル 年齢 18 歳
412.8
10−1
28.6
203.9
5 × 10−2
13.8
40.4
10−2
2.7
4.0
10−3
0.3
0.40
10−4
0.03
28 歳
42.7
20.7
4.0
0.4
0.04
38 歳
70.1
33.9
6.6
0.7
0.07
48 歳
133.0
64.5
12.6
1.3
0.13
58 歳
342.4
167.5
33.0
3.3
0.33
繰り返し曝露(各歳∼ 10 年間)の過剰がん死亡生涯リスクレベルと対応する線量の評価値(mSv /年)DDREF = 1
(a)男性
過剰がん死亡生涯 曝露開始
リスクレベル 年齢 18 歳
−1
10
101.7
5 × 10−2
49.2
10−2
9.6
10−3
1.0
10−4
0.10
28 歳
126.8
61.4
12.0
1.2
0.12
38 歳
168.1
81.4
15.9
1.6
0.16
48 歳
245.8
119.6
23.4
2.3
0.23
(b)女性
過剰がん死亡生涯 曝露開始
58 歳
リスクレベル 年齢 18 歳
−1
412.8
10
85.5
203.9
5 × 10−2
41.5
40.4
10−2
8.1
4.0
10−3
0.8
0.40
10−4
0.08
28 歳
108.2
52.5
10.3
1.0
0.10
38 歳
145.3
70.5
13.8
1.4
0.14
48 歳
211.0
102.6
20.1
2.0
0.20
58 歳
342.4
167.5
33.0
3.3
0.33
48 歳
376.7
184.1
36.2
3.6
0.36
58 歳
581.4
287.1
56.9
5.7
0.57
繰り返し曝露(各歳∼ 5 年間)の過剰がん死亡生涯リスクレベルと対応する線量の評価値(mSv /年)DDREF = 1
(a)男性
過剰がん死亡生涯 曝露開始
リスクレベル 年齢 18 歳
10−1
192.5
5 × 10−2
93.3
10−2
18.2
10−3
1.8
10−4
0.18
28 歳
236.8
115.0
22.5
2.2
0.22
38 歳
306.4
149.3
29.3
2.9
0.29
48 歳
430.4
211.4
41.7
4.2
0.42
(b)女性
過剰がん死亡生涯 曝露開始
58 歳
リスクレベル 年齢 18 歳
673.3
10−1
161.8
337.9
5 × 10−2
78.6
68.0
10−2
15.4
6.8
10−3
1.5
0.68
10−4
0.15
28 歳
202.3
98.3
19.2
1.9
0.19
38 歳
266.4
129.7
25.4
2.5
0.25
産衛誌 57 巻,2015
157
表Ⅲ- 3. つづき
単回曝露の過剰がん死亡生涯リスクレベルと対応する線量の評価値(mSv)DDREF = 2
(a)男性
過剰がん死亡生涯 曝露年齢
リスクレベル
18 歳
10−1
1,541.0
5 × 10−2
797.0
10−2
165.1
10−3
16.7
10−4
1.7
28 歳
1,801.1
946.9
199.8
20.3
2.0
38 歳
2,139.4
1,153.4
251.4
25.8
2.6
48 歳
2,599.6
1,455.7
335.9
35.1
3.5
58 歳
3,245.9
1,911.2
486.3
53.3
5.4
(b)女性
過剰がん死亡生涯 曝露年齢
リスクレベル
18 歳
10−1
1,403.1
5 × 10−2
707.5
10−2
142.8
10−3
14.3
10−4
1.4
28 歳
1,692.1
862.9
176.1
17.7
1.8
38 歳
2,084.0
1,085.7
226.6
22.9
2.3
48 歳
2,646.2
1,425.2
309.8
31.7
3.2
58 歳
3,436.8
1,940.6
453.4
47.7
4.8
繰り返し曝露(各歳∼ 67 歳まで)の過剰がん死亡生涯リスクレベルと対応する線量の評価値(mSv)DDREF = 2
(a)男性
過剰がん死亡生涯 曝露開始
リスクレベル 年齢 18 歳
10−1
63.5
5 × 10−2
30.7
10−2
6.0
10−3
0.6
10−4
0.06
28 歳
93.4
45.3
8.8
0.9
0.09
38 歳
150.2
73.2
14.4
1.4
0.14
48 歳
276.5
136.8
27.2
2.7
0.27
(b)女性
過剰がん死亡生涯 曝露開始
58 歳
リスクレベル 年齢 18 歳
650.5
10−1
54.9
337.3
5 × 10−2
26.6
70.2
10−2
5.2
7.1
10−3
0.5
0.71
10−4
0.05
28 歳
81.4
39.5
7.7
0.8
0.08
38 歳
131.9
64.2
12.6
1.3
0.13
48 歳
244.7
120.1
23.7
2.4
0.24
58 歳
596.9
301.3
60.9
6.1
0.61
繰り返し曝露(各歳∼ 10 年間)の過剰がん死亡生涯リスクレベルと対応する線量の評価値(mSv /年)DDREF = 2
(a)男性
過剰がん死亡生涯 曝露開始
リスクレベル 年齢 18 歳
10−1
191.2
5 × 10−2
93.2
10−2
18.3
10−3
1.8
10−4
0.18
28 歳
235.3
115.1
22.6
2.3
0.23
38 歳
304.2
149.9
29.7
3.0
0.30
48 歳
424.7
212.5
42.6
4.3
0.43
(b)女性
過剰がん死亡生涯 曝露開始
58 歳
リスクレベル 年齢 18 歳
650.5
10−1
165.2
337.3
5 × 10−2
80.5
70.2
10−2
15.8
7.1
10−3
1.6
0.71
10−4
0.16
28 歳
207.5
101.2
19.9
2.0
0.20
38 歳
274.3
134.4
26.5
2.6
0.26
48 歳
387.7
191.7
38.0
3.8
0.38
58 歳
596.9
301.3
60.9
6.1
0.61
48 歳
681.2
341.5
68.6
6.9
0.69
58 歳
989.7
510.3
105.3
10.6
1.06
繰り返し曝露(各歳∼ 5 年間)の過剰がん死亡生涯リスクレベルと対応する線量の評価値(mSv /年)DDREF = 2
(a)男性
過剰がん死亡生涯 曝露開始
リスクレベル 年齢 18 歳
10−1
358.0
5 × 10−2
176.0
10−2
34.8
10−3
3.5
10−4
0.35
28 歳
433.6
214.5
42.6
4.3
0.42
38 歳
545.5
272.8
54.7
5.5
0.55
(b)女性
過剰がん死亡生涯 曝露開始
48 歳
58 歳
リスクレベル 年齢 18 歳
726.9 1,032.7
10−1
310.9
371.6
550.8
5 × 10−2
152.1
76.1
118.5
10−2
29.9
7.7
12.1
10−3
3.0
0.77
1.21
10−4
0.30
28 歳
385.1
189.1
37.3
3.7
0.37
38 歳
497.8
246.1
48.8
4.9
0.49
Ⅳ.感作性物質
〔感作性物質の定義〕
気道感作性物質とは,その物質によりアレルギー性呼
吸器疾患*を誘発する物質とする.
皮膚感作性物質とは,その物質によりアレルギー性皮
膚反応を誘発する物質とする.
*
鼻炎,喘息,過敏性肺臓炎,好酸球性肺炎等,アレ
ルギーの関与が考えられる疾患.
〔許容濃度〕
感作性のある物質の許容濃度の数値を勧告するにあ
たっては,労働者の感作の予防,または感作成立後の感
作反応の発生予防が,必ずしも考慮されていないことに
注意すること.
人間への健康影響の重篤度は,気道において高い場合
がある.
〔感作性物質リスト〕
本分類で感作性ありと分類されないことは,感作性が
ないということと同義ではない.
〔感作性物質の分類〕
感作性物質を,反応の場としての気道と皮膚に分けて
基準を設け,
「人間に対して明らかに感作性がある物質(第 1 群)」
「人間に対しておそらく感作性があると考えられる
物質(第 2 群)」
「動物試験などにより人間に対して感作性が懸念さ
産衛誌 57 巻,2015
158
れる物質(第 3 群)」
(ⅳ)明らかな陽性対照を実験に組み入れている
第 1 群,第 2 群,第 3 群の分類の基準は,以下のごと
こと.
くである.
<または>
(2)単独の機関による上記試験((ⅰ)∼(ⅳ))に
1.気道感作性物質
第 1 群 人間に対して明らかに感作性がある物質
つき陽性の報告があり,本条件((ⅰ)∼(ⅳ))
(判断基準)
に該当しないが適切な感作性試験法による感
呼吸器症状と曝露歴(職歴)が密接な関連性があ
作性の陽性の報告があること.
ると同時に,抗原特異的誘発試験(環境誘発試験)
2.皮膚感作性物質
による陽性反応,血清学的陽性反応,または皮膚
第 1 群 人間に対して明らかに感作性がある物質
試験の陽性反応のうち,いずれかひとつを満たす
(判断基準)
症例報告が,異なる機関からなされている.かつ,
皮膚炎症状とパッチテストとの関係を検討した症
呼吸器症状と曝露歴(職歴)との関連性を明確に
例報告が異なる機関から 2 つ以上なされているこ
示した適切な疫学研究があること.
と.かつ,曝露状況,接触皮膚炎症状およびパッ
第 2 群 人間に対しておそらく感作性があると考えら
チテスト(皮膚貼付試験)との関連性を明確に示
れる物質
した疫学研究があること.実施されたパッチテス
(判断基準)
トは,対照を設けた適切な方法のものであること.
上記に準ずるものであるが,疫学研究では必ずし
第 2 群 人間に対しておそらく感作性があると考えら
も明確にされていない物質.
れる物質
第 3 群 動物試験などにより人間に対して感作性が懸
(判断基準)
念される物質
上記に準ずるものであるが,疫学研究は必ずしも
(判断基準)
明確にされていない物質.
(1)異なる機関から以下の条件をすべて満たす気
第 3 群 動物試験などにより人間に対して感作性が懸
道感作性の動物実験において陽性の報告があ
ること.
念される物質
(判断基準)
適切な皮膚感作性の動物実験による陽性の報告#が
(ⅰ)感作および惹起方法は,吸入,鼻投与,気
管投与のうちのいずれかであること.
(ⅱ)惹起反応の検出項目は,気管支肺胞洗浄ま
たはそれに代わる手法による細胞分画およ
び病理組織学的検索を実施しており,さら
ある場合.
参考
#
例えば OECD Guideline 406 ではモルモットを用いた
Magnusson と Kligman の Guinea-Pig Maximization
に呼吸機能,抗体産生あるいはサイトカイ
test(GPMT)で陽性率が 30%以上,Buehler test で
ン解析のうちのいずれかひとつを実施して
陽性率が 15%以上.もしくは OECD Guideline 429:
いること.
マウスを用いた Local Lymph Node Assay(LLNA)
(ⅲ)陰性対照として,少なくとも惹起のみ群と
感作のみ群の両群を設定していること.
の試験結果に濃度依存性があり,Stimulation Index
(SI)値が 3 以上であるとしている.
表Ⅳ. 感作性物質 1
気道
第 1 群
グルタルアルデヒド
コバルト *
コロホニウム(ロジン)*
ジフェニルメタン -4,4’- ジイソシアネート(MDI)
トルエンジイソシアネート(TDI)類 *
白金 *
第 2 群
エチレンジアミン
クロム *
クロロタロニル
ニッケル *
ヘキサン -1,6- ジイソシアネート
ベリリウム *
無水トリメリット酸†
無水フタル酸
メチルテトラヒドロ無水フタル酸
ピペラジン
ホルムアルデヒド
無水マレイン酸
メタクリル酸メチル
産衛誌 57 巻,2015
159
表Ⅳ. つづき
皮膚
第 1 群
アニリン
エチル水銀チオサリチル酸ナトリウム
(チメロサール)
エピクロロヒドリン
過酸化ジベンゾイル
m- キシリレンジアミン
グルタルアルデヒド
クロム *
クロロタロニル
コバルト *
コロホニウム(ロジン)*
4,4- ジアミノジフェニルメタン
2,4- ジニトロクロロベンゼン(DNCB)
水銀 *
チウラム
テレビン油 *
N,N’,N”- トリス(β - ハイドロキシエチル)
- ヘキサヒドロ -1,3,5- トリアジン
トリプロピレングリコールジアクリレート
ニッケル *
白金 *
ヒドラジン *
p- フェニレンジアミン
ホルムアルデヒド
4,4’- メチレンジアニリン
レゾルシノール
第 2 群
アクリルアミド
アクリル酸ブチル
アクリル酸メチル
ウスニック酸
エチレンオキシド
エチレンジアミン
ジクロロプロパン
ジシクロヘキシルカルボジイミド
銅 *
トリクロロエチレン†
トルエンジアミン
トルエンジイソシアネート(TDI)類 *
ピクリン酸
ヒドロキノン
フタル酸ジブチル
ベノミル
ベリリウム *
ポリ塩化ビニル可塑剤 *
無水マレイン酸
メタクリル酸メチル
ヨウ素 *
ロジウム *
第 3 群
m- クロロアニリン
m- フェニレンジアミン
o- フェニレンジアミン
1 表Ⅳ-1 は,1998 年に提案された感作性物質と,それ以降に提案された感作性物質を新分類基準で見直したものであり,全物質を見
直したリストではない.なお,全ての物質に許容濃度が勧告されているわけではない.
* 当該物質自体ないしその化合物を示すが,感作性に関わる全ての物質が同定されているわけではない.
†
暫定物質.
Ⅴ.生殖毒性物質
日本産業衛生学会は,生殖毒性に関する疫学的研究等
のヒトにおける証拠および動物実験から得られた証拠に
もとづき,生殖毒性物質の分類を行う.本分類は,ヒト
に対する生殖毒性の証拠の確からしさによるものであ
り,生殖毒性の強さを示すものではない.すなわち,現
行の許容濃度レベルの曝露で生殖毒性が発現することを
合にも,生殖毒性として考慮する.
2.分類と判定基準:生殖毒性物質は,下記の定義お
よび判断基準にしたがって分類する.
1)生殖毒性物質の分類:生殖毒性物質を,以下の第 1
群,第 2 群,第 3 群に分類する.
第 1 群:ヒトに対して生殖毒性を示すことが知られて
必ずしも示すわけではない.生殖毒性およびその分類に
ついては,以下の定義および判定基準による.
いる物質.
第 2 群:ヒトに対しておそらく生殖毒性を示すと判断
される物質.
1.生殖毒性の定義:生殖毒性を以下のように定義する.
生殖毒性とは,男女両性の生殖機能に対して有害な影
響を及ぼす作用または次世代児に対して有害な影響を及
ぼす作用とする.女性では妊孕性,妊娠,出産,授乳へ
の影響等,男性では,受精能への影響等とする.生殖器
第 3 群:ヒトに対する生殖毒性の疑いがある物質.
2)生殖毒性分類の判定基準:第 1 群,第 2 群,第 3 群
への分類判定は以下による.
第 1 群:
官に影響を示すものについては,上述の生殖機能への影
疫学研究等によりヒトにおいて十分な証拠が示され
響が懸念される場合に対象に含める.次世代児では,出
ているものを分類する.ヒトで生殖毒性を示す十分な
生前曝露による,または,乳汁移行により授乳を介した
証拠がある場合であり,十分な証拠があるとは適切に
曝露で生じる,胚・胎児の発生・発育への影響,催奇形
実施された疫学研究報告が複数存在することを基本と
性,乳児の発育への影響とし,離乳後の発育,行動,機
する.ただし,疫学研究が一つしかない場合でも,他
能,性成熟,発がん,老化促進などへの影響が明確な場
物質への同時曝露を含む交絡要因や量−反応関係を適
産衛誌 57 巻,2015
160
切に考慮している等により生殖毒性を明確に示してい
ると考えられる場合や,疫学研究に加えて多数の症例
報告や曝露事例等の調査報告によって生殖毒性を示す
との疫学研究が補強され,総合的にヒトで十分な証拠
が存在すると判断される場合は,この群に分類する根
拠となる,動物実験データは傍証として考慮する.
第 2 群:
適切な動物実験により生殖毒性を示すとの十分な証
拠が示されており,ヒトで生殖毒性を示すと判断され
るものを分類する.動物実験による証拠を基本とし,
適切に実施された動物実験により明らかに生殖毒性を
示す証拠が認められ,ヒトにおいても生殖毒性が生じ
ると判断される場合である.動物実験結果の判断では,
観察された影響が一般毒性発現の結果として生じた二
次的で非特異的な影響によるものではないこと,種特
異的であるなどヒトへの外挿が不適切と考えられるメ
カニズムによるものではないこと,正常からの逸脱の
程度が軽く健常ではないが個体の生死や機能に大きな
影響を及ぼさない軽度の変化とされるものではないこ
とが求められる.第 1 群に相当するものは除外する.
第 3 群:
ヒトや実験動物において限定的な証拠が示されてい
るものを分類する.この群に分類されるのは,ヒトで
の報告や動物実験等により生殖毒性が疑われる場合で
ある.疫学研究等のヒトでの証拠や動物実験での証拠
が第 1 群や第 2 群と判断するには不十分であるものの,
生殖毒性を示唆する報告が存在する場合,この群への
分類を考慮する.
3.生殖毒性分類表:分類結果を表Ⅴに示す.
上記基準によって分類を検討した結果,生殖毒性物質
に分類された物質を群別に示す.日本産業衛生学会によ
り許容濃度が示されている物質について,許容濃度等の
提案理由書の記載や他の情報を検討した結果,各群に分
類されると判定されたものが示されているが,表に記載さ
れていない物質が生殖毒性物質に該当しないことを示す
ものではない.本表では,生殖毒性が観察される曝露レ
ベルが,許容濃度や生物学的許容値以下となる可能性が
懸念されるものについて,表示をつけて注意を喚起した.
表Ⅴ. 生殖毒性物質
第1群
一酸化炭素#
エチレンオキシド
エチレングリコールモノメチルエーテル
エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート
カドミウムおよびカドミウム化合物
トルエン
鉛および鉛化合物
二硫化炭素
#
パーフルオロオクタン酸(PFOA)
ヒ素およびヒ素化合物
フタル酸ジ -2- エチルヘキシル#
2- ブロモプロパン
ポリ塩化ビフェニル類(PCB)
第2群
アクリルアミド
エチルベンゼン
エチレングリコールモノエチルエーテル
エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート
工業用キシレン(混合キシレン)
クロロジフルオロメタン
クロロメタン
N,N- ジメチルアセトアミド
N,N- ジメチルホルムアミド
水銀蒸気を含む無機水銀
スチレン
バナジウムおよびバナジウム化合物
1- ブロモプロパン
ペンタクロロフェノール(PCP)
マンガンおよびマンガン化合物
メタノール
第3群
アトラジン†
エチレンイミン
キシレン(o-, m-, p- キシレンおよびその混合物)
クロムおよびクロム化合物
p- ジクロロベンゼン
テトラクロロエチレン
トリクロロエチレン
ニッケルおよびニッケル化合物
フェノール
注)生殖毒性に関与するすべての物質が同定されているわけで
はない.
#
:生殖毒性では,妊娠期など高感受性を示す時期があり,本
物質については現行の許容濃度設定の根拠となったものよ
りも低い曝露レベルで影響が認められていることから,現
行の許容濃度や生物学的許容値以下の曝露レベルでも注意
が必要と考えられるもの.
†
:暫定
Ⅵ.騒音の許容基準
1.許容基準
下 の 周 波 数 で 10 dB 以 下,2 kHz 以 下 で 15 dB 以 下,
常習的な曝露に対する騒音の許容基準を,聴力保護の
3 kHz 以上の周波数で 20 dB 以下にとどめることが期待
立場から次のように定める.
できる.
a)図Ⅵあるいは表Ⅵ-1 に示す値を許容基準とする.こ
b)騒音レベル(A 特性音圧レベル)による許容基準
の基準以下であれば,1 日 8 時間以内の曝露が常習的に
この許容基準では騒音の周波数分析を行うことを原則
10 年以上続いた場合にも,騒音性永久閾値移動(NIPTS;
とするが,騒音計の A 特性で測定した値を用いる場合
noise-induced permanent threshold shift)を 1 kHz 以
には,表Ⅵ-2 に示す値を許容基準とする.ただし,1 日
産衛誌 57 巻,2015
161
の曝露時間が 8 時間を超える場合の許容騒音レベルは,
80 dB 未満にとどまっている時間をいう.
2 交替制等によって,1 日の曝露時間がやむを得ず 8 時
c)対象としている騒音をオクターブバンドフィルター
間を超える場合の参考値である.
を用いて分析した場合には,図Ⅵの左側の縦軸あるいは
2.適用
表Ⅵ -1 の値を用い,1/3 オクターブあるいはより狭い帯
広帯域騒音および狭帯域騒音(帯域幅が 1/3 オクター
域幅をもつフィルターで分析した場合には,図Ⅵの右側
ブ以下の騒音)に対して適用する.ただし,純音は狭帯
の縦軸あるいは表Ⅵ-1 の値から 5 を引いた値を用いる.
域騒音とみなして暫定的にこの基準を適用する.また,
衝撃騒音に対しては除外する.
3.測定方法
等価騒音レベルを測定する.「JIS Z8731-1999 環境騒
a)1 日の曝露が連続的に行われる場合には,各曝露時
音の表示・測定方法」により,「JIS C1509-1-2005 電気
間に対して与えられている図Ⅵあるいは表Ⅵ-1 の数値
音響―サウンドレベルメータ(騒音計)」の規格に適合
を用いる.
した騒音計を用いる.
b)1 日の曝露が断続的に行われる場合には,騒音の実
4.提案年度
効休止時間を除いた曝露時間の合計を連続曝露の場合と
1969 年.騒音レベル(A 特性音圧レベル)による許
等価な曝露時間とみなして,図Ⅵあるいは表Ⅵ-1 の数
容基準については 1982 年.
値を用いる.ただし,実効休止時間とは騒音レベルが
表Ⅵ - 2. 騒音レベル(A 特性音圧レベル)による許容基準
1日の曝露時間 許容騒音レベル
時間−分
dB
表Ⅵ - 1. 騒音の許容基準
中心周波数
(Hz)
各曝露時間に対する許容オクターブ
バンドレベル(dB)
480分 240分 120分 60分
40分 30分
250
98
102
108
117
120
120
500
1000
2000
92
86
83
95
88
84
99
91
85
105
95
88
112
99
90
117
103
92
3000
4000
8000
82
82
87
83
83
89
84
85
92
86
87
97
88
89
101
90
91
105
図Ⅵ. 騒音の許容基準
1日の曝露時間 許容騒音レベル
時間−分
dB
80
2−00
91
81
82
1−35
1−15
92
93
83
84
1−00
0−47
94
95
85
86
87
0−37
0−30
0−23
96
97
98
4−00
3−10
88
89
0−18
0−15
99
100
2−30
90
24−00
20−09
16−00
12−41
10−04
8−00
6−20
5−02
産衛誌 57 巻,2015
162
Ⅶ-ⅰ.衝撃騒音の許容基準
1.許容基準
作業場における衝撃騒音の許容基準を,聴力保護の立
場から次のように定める.
1 労働日の衝撃騒音の総曝露回数が 100 回以下の場合
の許容基準のいずれをも満足すべきこととする.
3.測定方法
衝撃騒音の測定には,オッシロスコープを使用し,そ
の波形によって,図Ⅶ-3 の(A),(B)に示すごとく,
は,図Ⅶ-1 に示す衝撃騒音の持続時間(後述の 3.測定
これを 2 種に大別する.図Ⅶ-3 の(A)の場合では,持
方法の項を参照)に対応するピークレベルを許容基準と
続時間として T0 から TD までの時間をとり,これを A
する.
1 労働日の衝撃騒音の総曝露回数が 100 回をこえる場
合は,図Ⅶ-2 に示す衝撃騒音の曝露回数の相違に対す
る補正値を,同様な方法で,図Ⅶ-1 から求めたピーク
持続時間(A duration)とよぶ.図Ⅶ-3 の(B)の場
合では,反射音がない場合には T0 から TD́ までの時間
をとり,反射音がある場合には,T0 から TD́ までの時間
と,T0́
から T D̋ までの時間の和をとって持続時間とし,
レベルに加算したものを許容基準とする.これらの基準
これらを B 持続時間(B duration)とよぶ.(B)の場
以下であれば,曝露が 10 年以上常習的に続いた場合に
合には,音圧の変化を示す波形の包絡線(envelope)が,
も,騒音性永久閾値移動(NIPTS)を,1 kHz 以下の周
ピークの音圧よりも 20 dB 低い値を示す線と交わる点
波数で 10 dB 以下,2 kHz で 15 dB 以下,3 kHz 以上の
が,TD́
周波数で 20 dB 以下にとどめることが期待できる.
合も同様に取り扱う.
あるいは T D̋ を与える.反射音が 2 個以上の場
2.適用
4.提案年度
衝撃騒音に対してのみ適用する.衝撃騒音と定常騒音
1974 年.
との複合した場合については,この許容基準とⅥ.騒音
図Ⅶ- 1. 衝撃騒音の許容基準
図Ⅶ- 3. 衝撃騒音の測定
図Ⅶ- 2. 1 労働日における衝撃騒音の曝露回数に対する補正値
産衛誌 57 巻,2015
163
Ⅶ-ⅱ.騒音レベル(A 特性音圧レベル)による衝撃騒音の許容基準
1.許容基準
3.測定方法
1 労働日の衝撃騒音の総曝露回数が 100 回以下の場合
騒音計「JIS C1509-1-2005 電気音響―サウンドレベ
は,騒音レベル(A 特性音圧レベル)120 dB を許容基
ルメータ(騒音計)」の指示値の最大値を読み取る.周
準とする.1 労働日の衝撃騒音の総曝露回数が 100 回を
波数重み付け特性は A 特性とし,時間重み付け特性は
超える場合は,「衝撃騒音の許容基準」の図Ⅶ-2 に示す
F とする.
衝撃騒音の曝露回数に対応する補正値を加算する.
4.提案年度
1989 年.
2.適用
図Ⅶ-3 に示す B 型の衝撃騒音にのみ適用する.
Ⅷ.高温の許容基準
1.許容基準
による体の産生熱とともに,温熱環境への曝露時間も大
温熱ストレスによる好ましくない生理的反応はあって
きな要因である.したがって,高温熱環境での作業時に
はならないことを前提として,高温の許容基準を表Ⅷ-1
は,作業の強さに応じた一定時間の曝露を考慮した許容
のように定める.
基準を設定することが必要である.
2.適用
暑熱環境に適応し作業に習熟した健康な成年男子作業
作業の強さとは,作業者の労作時に消費される代謝エ
ネルギーである.その程度を RMR(Relative Metabolic
者が,夏期の普通の作業服装をして適当の水分・塩分を
Rate)で表し,表Ⅷ-2 に示すように 5 段階とした.なお,
補給しながら作業する時,継続 1 時間作業および断続 2
RMR は次式によって計算される.
時間作業を基本として,健康で安全にかつ能率の低下を
きたすことのない工場や屋外などの作業場での条件を示
したものである.
−
(
ルギー消費量 ) ( ルギー消費量 )
RMR=
構のうち,主として蒸発による体温調節機構が行われる
環境をいう.
安静時のエネ
(基礎代謝量)
高温熱環境とは,環境の気温・湿度・熱輻射および気
流の総合された温度条件によって起こる人の体温調節機
労作時のエネ
表Ⅷ-3 に一般的な動作別の RMR を示してある.作
業の強さの推定にはこの表が参考となる.
通常の産業現場では,平均 RMR が 1.0 前後の継続作
適応とは,高温熱環境下で作業することによって引き
業が多く,手作業が主である.そのため作業の強さはほ
起こされた作業者の代償性の生理的変化の効果のことで
とんど RMR が 2 までの作業である.しかし RMR 4 ま
ある.
での作業は継続作業が可能であるため,RMR 4 までの
この温熱条件による適応の効果は,高温熱下で通常 1
作業は継続 1 時間作業を基本とした.更に RMR 4 をこ
週間作業することによって得られるものである.高温熱
える作業が存在することも考慮し,RMR 4 以上の作業
曝露が終われば適応効果は,最初すみやかに失われ,通
は継続 1 時間作業は困難であるため,断続作業を基本と
常 2 週間でほとんど消失する.したがって,高温熱環境
した.
下で作業する場合には適応効果が十分成立していない期
したがって,ここにいう作業時間については,作業形
間は勿論のこと,2 日ないしそれ以上の期間,作業から
態を継続作業と断続作業とに分け,継続作業とは,1 時
離れ,再び作業に就くような時には,作業者の状態に注
間連続して曝露を受ける作業とし,正常な 8 時間作業中
意することが必要である.
の 1 時間で評価できるようにした.断続作業とは,2 時
好ましくない生理的反応とは,心拍数の増加,体温の
間内の断続して曝露を受ける作業とし,同様に 2 時間の
上昇,水分喪失量の増加などの生理的負担が増大を続け
断続作業で評価できるようにした.それは,産業現場の
るような状態のことである.
実態に,できるだけ合致するように配慮したことと,短
したがって,高温熱環境下で作業者の生理的負担が増
大を続けるような作業にあっては,温熱ストレスを軽減
時間で評価できるように配慮したためである.
3.温熱指標と作業の強さの算出法
するための工学的な対策,あるいは防熱服の着用,更に
温熱環境の評価には,温熱ストレスによる生理的反
また作業者の作業負担の軽減などが実行されなければな
応に対応する環境の温熱条件の指標で行うこととし
らない.人の受ける温熱負荷は,環境の温熱条件と代謝
た.現在最もよい方法として WBGT(Wet-Bulb Globe
産衛誌 57 巻,2015
164
表Ⅷ- 1. 高温の許容基準
作業の強さ
表Ⅷ- 2. 作業の強さと代謝エネルギー
許容温度条件
作業の強さ
WBGT(℃)
RMR ∼ 1(極軽作業)
RMR ∼ 2(軽作業)
RMR ∼ 3(中等度作業)
RMR ∼ 4(中等度作業)
RMR ∼ 5(重作業)
RMR ∼ 1(極軽作業)
RMR ∼ 2(軽作業)
RMR ∼ 3(中等度作業)
RMR ∼ 4(中等度作業)
RMR ∼ 5(重作業)
32.5
30.5
29.0
27.5
26.5
代謝エネルギー(kcal/h)
∼ 130
∼ 190
∼ 250
∼ 310
∼ 370
表Ⅷ- 3. 動作別の RMR の分類
RMR
0 ∼ 0.5
主となる動作部位
手 先
動かし方
作 業 例
機械的に動かす
電話応対(座位)0.4,記帳 0.5,計器監視(座位)0.5
0.5 ∼ 1.0
意識的に動かす
ひずみとり(ハンマーで軽く,98 回/分)0.9,自動車運転 1.0
1.0 ∼ 2.0 手先の動作が上肢まで及ぶ
手先の動きが前腕まで及ぶ
旋盤(ペアリング,0.83 分 / 個)1.1,監視作業(立位)1.2,平地歩行ゆっくり,
45 m/ 分)1.5.
2.0 ∼ 3.0
手先の動きが上腕まで及ぶ
歩行(普通,71 m/ 分)2.1,コンクリートみがき(軽く)2.0,丸のこ 2.5,
階段歩行(降り,50 m/ 分)2.6
3.0 ∼ 4.0 上 肢
普通の動かし方
懸垂グラインダー(150 kg 部品削り,6 分 / 個)3.0,自転車(平地,170 m/ 分)
3.4,歩行(速足,95 m/ 分)3.5
4.0 ∼ 5.5
動作が比較的大きく力も入る びょう打ち(1.3 本 / 分)4.2,やすりかけ(36 cm やすり,150 回 / 分)4.2,
荒のこ 5.0
5.5 ∼ 6.5 全 身
普通の動かし方
タップ(デレッキ 7 kg,16 ∼ 20 回 / 分)5.7,ショベル作業(6 kg,18 回 / 分)
抱き上げる,まわす,引く,
6.5,階段歩行(昇り,45 m/ 分)6.5
押す,投げる,上下動,かき
6.5 ∼ 8.0
動作が比較的大きく力を平均 ハンマー(6.8 kg,26 回 / 分)7.8
よせる
に入れる
8.0 ∼ 9.5
とくに瞬間的に全身に力を集 積み上げ(15 kg,10 回 / 分)9.0
中する
10.0 ∼
12.0
全 身(同上)
激しい作業ではあるが心でい 全力で事押し 10.0
くらかゆとりがある.ある時 つるはし(コンクリート破り)10.5
間は続けられる
ショベル(72 回 / 分)11.0
12.0 ∼
職業的重筋労働者たとえば,土 全身に力を集中し1分以内し ハンマー(4.5 kg,29 回 / 分)19.3
建労働者の作業
かたえられない
Temperature Index:湿球黒球温度指標,暑さ指数)
DB(dry-bulb temperature):熱輻射源からの
が簡便であり,実用的であるため,温熱条件の指標とし
直接の影響を防ぎ,自然気流はそこなわれない
て,WBGT を用いた.
ように,球部を囲ったもので測定された乾球温
温熱指標の算出法
温熱条件の測定法については別に示してあるが,許容
基準に示されている WBGT の算出は次のようにして行
この場合の湿球温は強制通気をし,熱輻射を防いだ形
で測定された湿球の読みである.
測定に当たっては,自然の温熱条件と職場での温熱発
う.
生条件との結果生ずる温熱負荷の実態を熟知することに
WBGT の算出
心掛けることが重要である.その実態と作業者の実態す
(1)室内もしくは室外で日光照射のない場合
なわち作業位置,作業強度,温熱曝露の時間と頻度など
WBGT = 0.7NWB + 0.3GT
(2)室外で日光照射のある場合
WBGT = 0.7NWB + 0.2GT + 0.1DB
NWB(natural wet-bulb temperature):自然
気流に曝露したままで測定された湿球温(強制
通気せず,熱輻射を防ぐための球部の囲いはし
ない).
GT(globe thermometer temperature):径 6
インチの黒球温度計示度
熟知することが必要である.その作業実態の推定は次の
ようにして行う.
1 時間継続曝露作業の場合は,1 日作業時間中の最も
高い温熱に曝露されている 1 時間作業時の WBGT で,
その作業場所の温熱条件とする.
2 時間断続曝露作業の場合は,曝露ごとの作業時間に
よって,2 時間荷重平均で求めた WBGT で,その作業
場所の温熱条件とする.
産衛誌 57 巻,2015
165
2 時間荷重平均 WBGT =
(WBGT1 × t1 + WBGT2
× t2 + + WBGTn × tn )/ 120 分
WBGT1,WBGT2, ,WBGTn :個々の作業時,休
1 時間以上軽作業で残り重作業の場合は中等度作業と
する.
個々の作業の強さが問題となる時には次のようにし
憩時の WBGT
て,2 時間荷重平均の作業の強さを求める.
t1, t2, ,tn :個々の作業時,休憩時の時間(分)
2 時間荷重平均の作業の強さ=(WL1 × t1 + WL2 ×
2 時間断続作業時の作業の強さの算出方法は次のよう
にして行う.
1 時間以上重作業,中等度作業の場合は重作業,中等
度作業とする.
1 時間以上軽作業で残り中等作業の場合は軽作業とす
る.
t2 + + WLn × tn )/ 120 分
WL1,WL2, ,WLn :個々の作業時,休憩時の作
業の強さ
t1, t2, ,tn :個々の作業時,休憩時の時間(分)
4.提案年度
1982 年.
Ⅸ.寒冷の許容基準
1.許容基準
服は,乾いた衣服に着替えるべきである.
寒冷環境で作業する場合には,温度条件のみでなく衣
局所の冷却や凍傷予防のため手袋の着用が必要であ
服や風速,健康状態に留意しなければならない.この基
る.手の保温と作業能とを配慮し,適切な手袋を選定す
準は寒冷作業に習熟,適応した健康な成人男子作業者を
べきであり,作業によっては,防水性手袋も必要となる.
対象とし,適切な作業衣服を着用し,適時に休憩・採暖
寒冷の程度により通常の防寒手袋を着用するが,さらに
することができる作業環境において,健康で安全に作業
寒冷の程度が厳しければミトン型の手袋を着用する.作
できる寒冷作業の条件を示すものである.
業条件によってはミトン手袋を脱がずに操作の出来る機
作業場の気温(ここでの等価冷却温度)と適切とされ
る衣服の保温力との関係を図Ⅸ-1 に示した.表Ⅸ-1 は
械や道具を備えるべきである.なお,腕時計,眼鏡枠な
どで金属製のものの着用は避けるべきである.
衣服の組合せによる衣服の保温力(クロ値)である.風
また,足の冷えが起こりやすいので,防寒靴,防寒靴
速の影響は表Ⅸ-2 の等価冷却温度表により気温に換算
下を着用し,あわせて作業にともなう靴内の湿気に留意
する.
する.
ここでの基準条件は 4 時間シフト作業で,ほとんど無
さらに頭部には安全帽,寒冷の厳しさによってはさら
風の環境であり,作業強度によって防寒衣服は適切に
に防寒帽,耳あて,マスク,ゴーグルなどを着用する.
調整されているものとし,一連続作業の後,少なくと
休憩室を設け作業時間を区分し,適時に休みをとるこ
も 30 分程度の休憩をとることを前提としている.作業
とができるようにする.休憩室には採暖設備を設置しな
場の気温および作業強度別に一連続作業時間の限度を示
ければならない.
し,寒冷の許容基準を表Ⅸ-3 のように定める.
半年に 1 回以上の健康診断が必要である.医師が必要
2.適用
と認めた作業者や中高年作業者に対しては,より保温性
寒冷環境においては,気温のみならず風速が大きな因
の高い防寒服の着用や寒冷曝露時間の短縮などの必要な
子となる.風速の影響については,表Ⅸ-2 の等価冷却
措置を行う.就業前には血圧測定,検尿などのチェック
温度を適用する.
が必要である.
寒冷環境の厳しさや作業強度に応じ適切な防寒衣服を
3.作業強度と寒冷指標の算定
着用しなければならない.表Ⅸ-1 に衣服の保温力を示
作業強度を高温の許容基準の場合と同様にRMR(Relative
した.保温力の低い衣服の場合には放熱により低体温化
Metabolic Rate)で表し,軽作業は RMR ∼ 2(代謝エ
や手足のこわばりなどを生じる.保温力の高い衣服を着
ネルギーで∼ 190 kcal/時),中等度作業を RMR2 ∼ 3(代
用した場合には,動作の妨げとなる場合もみられ,また
謝エネルギーで∼ 250 kcal/ 時)とする.通常の寒冷作
作業強度の大きい場合には,発汗に留意しなければなら
業においては継続的な軽作業(RMR1 ∼ 2)が多く,な
ない.図Ⅸに作業強度別に気温と必要とされる衣服の保
かには RMR3 程度の中等度作業もみられる.この程度
温力とのおおよその関係を示した.
の作業強度においては作業による呼吸循環系機能への負
寒冷が厳しければ保温性の高い防寒服を着用するが,
作業強度によっては発汗による衣服の湿りに留意すべき
荷よりも,寒冷による体温調節系への負荷が大きいもの
と考えられる.
である.このような場合には,汗の蒸発を助長するため
寒冷作業には環境条件,防寒衣服の保温力,作業強度
衣服の開口部を開放したり,休憩時間に湿気をおびた衣
の関与が大きい.寒冷環境の評価にしばしば風冷指数
産衛誌 57 巻,2015
166
表Ⅸ- 1. 各種衣服の保温性(クロ値)
衣 服 組 合 せ
clo(クロ値)
下着(上下)
,シャツ,ズボン,上衣,ベスト,靴下,靴
下着(上下)
,防寒上衣,防寒ズボン,靴下,靴
下着(上下)
,シャツ,ズボン,上衣,オーバージャケット,帽子,手袋,靴下,靴
1.11
1.40
1.60
下着(上下)
,シャツ,ズボン,上衣,オーバージャケット,オーバーズボン,靴下,靴
1.86
下着(上下)
,シャツ,ズボン,上衣,オーバージャケット,オーバーズボン,帽子,手袋,靴下,靴
下着(上下)
,オーバージャケット,オーバーズボン,防寒上衣,防寒ズボン,靴下,靴
下着(上下)
,オーバージャケット,オーバーズボン,防寒上衣,防寒ズボン,帽子,手袋,靴下,靴
厚手防寒服,極地脈
寝 袋
2.02
2.22
2.55
3 ∼ 4.5
3∼8
表Ⅸ- 2. 風の冷却力を示す等価冷却温度(℃)
気 温(℃)
風速
(m/ 秒)
0
−5
−10
−15
−20
−25
−30
−35
−40
−45
−50
無風
0
−5
−10
−15
−20
−25
−30
−35
−40
−45
−50
2
−1
−6
−11
−16
−21
−27
−32
−37
−42
−47
−52
3
−4
−10
−15
−21
−27
−32
−38
−44
−49
−55
−60
5
−9
−15
−21
−28
−34
−40
−47
−53
−59
−66
−72
8
−13
−20
−27
−34
−41
−48
−55
−62
−69
−76
−83
11
−16
−23
−31
−38
−46
−53
−60
−68
−75
−83
−90
15
−18
−26
−34
−42
−49
−57
−63
−73
−80
−88
−96
20
−20
−28
−36
−44
−52
−60
−68
−76
−84
−92
−100
表Ⅸ- 3. 寒冷の許容基準(4 時間シフト作業に
おける一連続作業時間の限度)
一連作業
時間(分)
気 温
作 業 強 度
−10 ∼−25℃
軽作業(RMR ∼ 2)
中等度作業(RMR ∼ 3)
∼ 50
∼ 60
−26 ∼−40℃
軽作業(RMR ∼ 2)
中等度作業(RMR ∼ 3)
∼ 30
∼ 45
−41 ∼−55℃
軽作業(RMR ∼ 2)
中等度作業(RMR ∼ 3)
∼ 20
∼ 30
注)風速は 0.5 m/ 秒以下のほぼ無風とする.
一連続作業時間の作業の後には,少なくとも 30 分間程度の充分
な休憩時間を採暖室でとる必要がある.例えば,一連続作業時
間 20 分,採暖・休憩 30 分の場合には,4時間中に作業5回,
休憩5回(作業 20 分−休憩 30 分−作業 20 分…)である.
図Ⅸ- 1. 作業強度別の気温と必要とされる衣服の保温力との
関係
表Ⅸ- 4. 風冷指数と等価冷却温度による影響
風冷指数(kcal/m2/h)
1,000
1,200
1,400 ∼ 1,550
1,700 ∼ 1,900
2,000 ∼ 2,300
等価冷却温度(℃)
−14
−22
−30 ∼−38
−45 ∼−53
−61 ∼−69
影 響
非常に寒い
極度に寒い
1時間以内に露出皮膚で凍傷が起き始める
歩行などの屋外動作が危険,普通の人で1分以内に顔の露出部分が凍傷
普通の人で 30 秒以内に顔の露出部分が凍傷
産衛誌 57 巻,2015
167
KC(kcal/m2/h)が用いられ,気温 ta(℃)と風速 v
(m/s)
ら作業能率の低下がみられ,安全性がおかされる.さら
れる.指数値が大きくなると,生体影響が大きくなる
は手指部でほぼ 10℃,趾部で 13℃である.この痛みは
から,KC =(10 √v −v + 10.5)・(33 −ta )により算定さ
(表Ⅸ-4).
に,冷えによる痛みやしびれが生じ,このときの皮膚温
凍傷にいたる危険信号であり注意が必要である.
寒冷に曝露されると皮膚温の低下が起こり,特に手足
寒冷作業には冬季の農林漁業など自然環境における作
など末梢部位での温度の低下が著しい.体内では産熱量
業から,冷凍,冷蔵倉庫など人工環境における作業と多
を増やし,体内の熱収支の平衡状態を図ることが行われ
岐にわたる.自然の寒冷は季節の変化とともに現れる
る.しかし,産熱が体熱の放散に追いつかない状態にお
が,人工の寒冷は四六時中存在し,そこに働く人々に
いては体温の低下が起こる.低体温によりふるえや意識
とっては温度レベルのみならず季節とも関係し,屋内外
の低下がみられるので,直腸温などの中核部温は 36℃
の温度差,くりかえし作業による寒冷曝露など人々の耐
以下にならないようにすべきである.更に激しいふるえ
性,抵抗力も問題となる.
の発生はより体温が低下している危険信号であり,直ち
4.提案年度
に寒冷曝露を中止すべきである.
1994 年.
手足などの末梢部位においては寒冷によるこわばりか
Ⅹ.全身振動の許容基準
1.許容基準
2
全身振動の許容値は 0.35 m/s Asum
(8)(x, y, z 軸の
3 方向の合成振動値の 8 時間等価周波数補正加速度実効
値)とする.(表Ⅹ)
2.適用
通常の健康状態にある椅座位の作業者が,座席面から
でん部を通して人体全体に伝達する振動(全身振動)に,
1 日 10 分以上職業的に曝露される場合に適用する.な
お,乗物の衝突時に発生するような激しい単発衝撃に対
しては適用しない.
評価する振動の周波数範囲は 0.5 ∼ 80 Hz とする.
a)この基準では,全身振動に 1 日あたり 8 時間曝露さ
れた場合に相当する振動への変換値(x, y, z 軸の合成
振動値),すなわち 8 時間等価周波数補正加速度実効値
Asum
(8)をもって評価する.
測定評価された合成振動値が aw の場合に許容される
表Ⅹ. x, y, z 軸の 3 方向の合成振動値の曝露時間別許容等価
周波数補正加速度実行値
曝露時間/日
等価周波数補正加速度実行値
m/s2
24時間
16時間
12時間
10時間
8時間
7時間
6時間
5時間
4時間
3時間
2時間
1時間
50分
40分
30分
20分
10分
0.20
0.25
0.29
0.31
0.35
0.37
0.40
0.44
0.49
0.57
0.70
0.99
1.08
1.21
1.40
1.71
2.42
時間 T(hour)は,式(1),を用いて計算する.表に 1
日あたりの曝露時間別の許容値を示す.
Asum
(8)=
2
T = 0.98 / aw (1)
n
∑a
2
wi
× Ti
(3)
8 i
b)振動源あるいは振動曝露条件によって全身振動が変
動する場合は,異なる振動源あるいは振動曝露条件 i に
3.測定方法
おける測定評価された合成振動値 awi,1 日の曝露時間
a)測定装置は「JIS B 7760-1-2004 全身振動―第 1 部:
Ti(hour)より,式(2),(3)を用いて,Asum
(8)を計
測定装置」(ISO 8041 : 2003)を満足するものとする.
awyi については Wd 周波数補正特性を,垂直振動 awzi に
「JIS B 7760-2 : 2004 全身振動―第 2 部:測定方法及び
算する.周波数補正において,前後振動 awxi,左右振動
ついては Wk 周波数補正特性を用いる.
2
2
2
2
2 1/2
awi =(1.4 × awxi + 1.4 × awyi + awzi ) (2)
b)測定・評価は,振動源あるいは振動曝露条件ごとに,
評価に関する基本的要求」(ISO 2631-1 : 1997)の規定
にそって,座席面を通じて人体に伝達する振動が入力す
ると考えられる位置を原点とした座標系に従って行う.
産衛誌 57 巻,2015
168
c)振動測定が代表値を得る目的の場合,振動源ごとの
るために,十分に長くなければならない.
計測時間は,十分な精度の統計値を得るために,また,
4.提案年度
対象振動源の振動が典型的な曝露状態である事を確かめ
2012 年
Ⅺ.手腕振動の許容基準
1.許容基準
2.適用
図Ⅺあるいは表Ⅺに示す値を手腕振動の許容基準とす
る.
手腕振動曝露をともなう作業者の手から人体に入力さ
れる振動を対象とする.この基準は周期的,ランダムま
たは非周期的振動に適用する.暫定的に繰り返し衝撃型
の振動にも適用する.対象となる振動の周波数範囲は 8
表Ⅺ. 手腕振動の許容基準
周波数補正振動加速度実効値
の 3 軸合成値(m/s2)
曝露時間
(分)
6 分以下
10
25.0
19.4
15
30
60
90
15.8
11.2
7.92
6.47
120
5.60
150
5.01
180
210
240
4.57
4.23
3.96
270
3.73
300
330
360
390
3.54
3.38
3.23
3.11
420
450
480
2.99
2.89
2.80
∼ 1,400 Hz,周波数補正振動加速度実効値の 3 軸合成値
は 1.4 m/s2 以上とする.
a)振動曝露は,基本的には 1 日当たりの曝露について
評価するものとする.
b)日振動暴露量(8 時間エネルギー等価振動合成値)
A(8)は次式(1)で求める
A(8) ahv
ここで,
T
T0
(1)
ahv: 周波数補正振動加速度実効値の 3 軸合成値
T:
ahv の振動への合計日振動暴露時間
T0: 基準暴露時間 8 時間(480 分)
定常的連続振動暴露については,工具等の振動あるい
は手に入る振動測定量(3 軸合成値)から図Ⅺまたは表
Ⅺによって 1 日の許容暴露時間を求める.また,任意の
周波数補正振動加速度実効値の 3 軸合成値(ahv;m/s2)
と許容時間(T;分)との関係は次式(2)により求め
ることができる.
T = 3,763/(ahv)2
m/s2
周波数補正振動加速度実効値の3軸合成値
(ahv)
50
10
1
図Ⅺ. 手腕振動の許容基準
10
曝露時間
100
500 min
(2)
産衛誌 57 巻,2015
169
c)断続的曝露については,同一工具等を用い作業方法
b)測定は「JIS B 7761-2-2004 手腕系振動―第 2 部:
も同一とみなせる場合,曝露時間の総和が許容時間を超
作業場における実務的測定方法」(ISO 5349-2 : 2001)
えないようにする.
に従って行う.3 軸を同時に測定することが望ましいが,
d)複数の工具等の使用あるいは同一工具等であっても
測定条件がほぼ同一であるならば 3 軸を連続的に測定す
作業方法の違いから明らかに振動量が異なる場合は,振
ることも可とする.
動が定常的とみなせる時間単位に区分し,その都度の振
c)測定値は周波数補正振動加速度実効値の 3 軸合成値
動測定値と曝露時間から次式の条件を満たす総曝露時間
で表す.
内(分)で使用することとする.
周 波 数 補 正 振 動 加 速 度 実 効 値 の 3 軸 合 成 値(ahv,
Σ[Ti・
(ahvi)2]≤ 3,763
m/s2)は次式で求める.
Ti:区分ごとの曝露時間(分)
ahvi:区分ごとの周波数補正振動加速度実効値の
3 軸合成値(m/s2)
ahv = (ahwx )2 + (ahwy )2 + (ahwz )2
ahwx,ahwy,ahwz:各軸の周波数補正振動加速度実効
e)振動測定値が小さいものであっても,曝露時間は 1
値(m/s2)
日 4 時間以内にとどまるよう努める.4 時間を超える場
d)曝露時間は個人曝露計等を用いた精密測定が望まし
合でも曝露時間が 1 日 8 時間を超えてはならない.
いが,やむを得ない場合はタイムスタディや聞き取りに
よって求める.
3.測定方法
a)測定装置は「JIS B 7761-1-2004 手腕系振動―第 1
4.提案年度
部:測定装置」
(ISO 8041 : 2005)を満足するものとする.
2000 年提案,2006 年用語修正.
Ⅻ.電場・磁場および電磁場(300 GHz 以下)の許容基準
1.静磁場
2.低周波の時間変動電場・磁場
1)許容基準
1)許容基準
0-0.25 Hz 以下の磁場の許容基準を表Ⅻ-1 に示す.四
0.25 Hz-100 kHz 以下の電磁場の許容基準を表Ⅻ-2 に
肢への安全率を 2.5 とする.また,最大許容値への曝露
示す.産業に応用される装置の多くは電場と磁場の比
は 1 時間以内とする.
(インピーダンス)が一定せず,電場と磁場が混在した
状態である.現在知られた明らかな生体効果は誘導電流
表Ⅻ- 1. 静磁場の許容基準
許容値
最大許容値
頭部・ 幹
200 mT(1.63×105 Am−1)
2T
四肢
500 mT(4.08×105 Am−1)
5T
2)適用
a)多くの心臓ペースメーカは静磁場の 5 mT 以下で影
響を受ける.その他電気で作動する体内埋め込み装置や
強磁性体を用いた装置・部品も mT のオーダーで影響
を受けるので,これらの医機器装着者は磁場に近寄らな
い注意が必要である.本案では 0.5 mT(静磁場)を目
安とすることを薦める.
b)3 mT を超える場所では金属片が磁石に向かって飛
ぶ可能性があるので,酸素ボンベ,医用のメスなどを近
くで扱う場合は殊に事前の注意・検討が必要である.
によるものである.1 Hz 以下の電場には規制値を設け
ない.
表Ⅻ- 2. 低周波の時間変動電場・磁場の許容基準
(rms 実効値,1 日作業時間の平均値,f は頭書の周波数)
周波数
電 場
磁束密度
磁場強度
0.25−1.0 Hz
1.0−25 Hz
25−500 Hz
500−814 Hz
0.814−60 kHz
60−100 kHz
20kVm−1
50/f[mT] 4.08×104/f[Am−1]
500/f[kVm−1]
614Vm
0.1mT
81.4Am−1
6/f[mT]
4880/f[Am−1]
−1
2)適用
a)in vivo お よ び in vitro 実 験 で, 低 周 波 域 で は
100-1,000 mAm−2 の電流密度で末梢および中枢神経系
3)測定方法
測定はベクトルの最大値を採る(3 軸を備えたプロー
2
2
2
ブでは,最大値= x + y + z が 1 回の測定で得られる).
を刺激できることが知られている.したがって,許容値
は人体内にこの電流密度の 1/10(基本制限値)を生じ
4)提案年度
させる時間変動電場・磁場のレベル以下であるような電
1998 年.
場・磁場の強度である.本案は,基本制限値のさらに 3
分の 1 の誘導電流値を得るレベルに設定しているが,詳
細は別掲の提案理由 2)を参照されたい.また,パルス
産衛誌 57 巻,2015
170
間隔が tp のパルス磁場の場合は,周波数を f = 1 /(2 tp)
らの疾病の防護のための許容値設定とはなっていない.
表Ⅻ- 3. 基本制限値
れる 170 µ A(50 Hz)の弱い電流を感知して,単極モー
で近似する.(f は頭書の周波数)
周波数範囲
誘導電流密度[mAm−2]
0.25−1.0 Hz
40(ただし,電場はなし)
1.0−4.0 Hz
40/f(周波数)
ドでは更に低い電流値で,ノイズ逆転モードとなる.後
者の例は通常の生活でも遭遇しうるとされるので,産業
現場ではここに示した許容値以下でペースメーカの機能
異常が起こる可能性がある.
10
4.0 Hz−1 kHz
f)良導体の金属はこの範囲の周波数で誘導される電流
10 f
1.0−100 kHz
e)心臓ペースメーカは 2 極モードではからだに誘導さ
のジュール熱によって,思わぬ高温度まで上昇する可能
b)電導体に誘導されそこから流れる接触電流が表Ⅻ-4
性がある.人工関節・骨頭・聴覚器など比較的大きな金
に示すレベル以下であること.この値は,低周波域では
属の体内装置の埋め込み術を受けている人は注意が必要
痛みを感じる限界値である.
である.
3)提案年度
表Ⅻ- 4. 接触電流
周波数
電流値[mA]
2.5 kHzまで
1.0
2.5−100 kHz
0.4 f
1998 年.
3.電磁場(300 GHz 以下)
1)許容基準
c)許容値は基本制限値の 1/3 に設定されているので,
0.1 MHz から 300 GHz までの放送波(電波)の許容
上に示した許容値の 3 倍を最大許容値と考えることがで
基準を表Ⅻ-5 に示す.通信以外に工業用としての近傍
きるが,曝露は短時間であること.
界での応用は,発生源に近く周囲の金属が磁場や電場に
d)低周波電磁場と白血病や脳腫瘍との関係については,
影響を与えるので前述の式が成り立たない.生体への影
現時点では確認されていないとみられる.本案は,これ
響は誘電加熱による熱効果が主となる.
表Ⅻ- 5. 電磁場(300 GHz 以下の許容基準)
(rms 実効値,1 日作業時間の平均値,f は頭書の周波数)
周波数
電 場
0.1−3.0 MHz
614Vm−1
3.0−30 MHz
1842/f[Vm−1]
磁束密度
磁場強度
電力密度
6/f[μT]
4.88/f[Am−1]
30−400 MHz
61.4Vm−1
0.2μT
0.163Am−1
10Wm−2
400−2000 MHz
3.07 f 0.5Vm−1
0.01 f 0.5μT
8.14 f 0.5mAm−1
f/40[Wm−2]
2−300 GHz
137Vm
0.447μT
−1
0.364Am
2)適用
a)頭部・幹の四肢誘導および接触電流密度が表Ⅹ-6 に
示す値以下であること.
表Ⅻ- 6.
周波数
頭部・ 幹
100 kHz−10 MHz
40 mA
50Wm−2
−1
表Ⅻ- 7.
周波数
全身平均
(Wkg−1)
頭部・ 幹
(Wkg−1)
四 肢
(Wkg−1)
100 kHz−10 GHz
0.4
10
20
四 肢
c)本案は,ここで扱うような微弱な高周波電磁場の生
100 mA
体への作用は,現時点では誘導電流および誘電加熱によ
る効果以外は明らかではないとみている.
b)6 分あたりの SAR(比吸収率)が表Ⅹ-7 に示す値以
d)携帯電話等の通信機器の出力はおおむねこの規制値
下であること.局所の SAR は同質の組織 10 g の平均値
より低いが,機器からの距離によって心臓ペースメーカ
とする.10 GHz 以上では,身体の深部へ到達しにくく
およびその他の医療装置への影響のある場合がある.
体表面のパワーが高くなるので,68 /(GHz)1.05 分あ
たりの 20 cm2 の平均電力密度を 50 Wm−2 以下とする.
産衛誌 57 巻,2015
171
3)測定方法
Electromagnetlc Fields with Respect to Human
十分な遠方界(波源の[波長]/ 2 πより遠方)では,
Exposure to Such Fields, 100 kHz-300 GHz.
[電場]/[磁場]= 377 Ωが成り立つので,電場あるい
は磁場の測定のみで環境評価が可能であるが,測定は以
下の指針等による正確な手法で行う必要がある.
a) 平成 11 年郵政省告示第 300 号「無線設備から発射
される電波の強度の算出方法及び測定方法」1999.
b)IEEE Recommended Practice for Measurements
and Computations of Radiofrequency
図Ⅻ- 1. 電場の許容基準
IEEE C95.3‐2002.
c) Measurement methods for electromagnetic
fields of household appliances and similar
apparatus with regard to human exposure. IEC
62233, 2005.
4)提案年度
1998 年.
図Ⅻ- 2. 磁場の許容値基準
ⅩⅢ.紫外放射の許容基準
1.許容基準
紫外放射(波長 180 ∼ 400 m)の許容基準を,実効照
2
度の 1 日 8 時間の時間積分値として 30 J/m と定める.
2.適用
400 nm
Eeff =
E S( )
=180 nm
ここで,Eeff は実効照度,Eλ は曝露面における紫外放
この値は,角膜,結膜,皮膚に対する急性障害の防止
射の分光放射照度,S(λ )は表 XⅢに示す相対分光効果
に関する許容値であり,またレーザー放射には適用され
値,∆λ は積和をとる際の波長幅である.表 XⅢに示さ
ない.
れていない波長の相対分光効果値が必要な場合には,内
3.実効照度の算出方法
実効照度は,次式によって定義される.
挿補間によって求める.
4.提案年度
2006 年.
産衛誌 57 巻,2015
172
表ⅩⅢ. 相対分光効果値
波長(nm) 相対分光効果値
180
0.012
190
0.019
200
0.030
205
0.051
210
0.075
215
0.094
220
0.120
225
0.150
230
0.190
235
0.230
240
0.300
245
0.360
250
0.430
254
0.500
波長(nm) 相対分光効果値
255
0.520
260
0.650
265
0.810
270
1.000
275
0.970
280
0.880
285
0.770
290
0.640
295
0.540
297
0.460
300
0.300
303
0.120
305
0.060
308
0.025
波長(nm) 相対分光効果値
310
0.015
313
0.006
315
0.003
316
0.0023
317
0.0020
318
0.0016
319
0.0012
320
0.0010
322
0.00067
323
0.00054
325
0.00050
328
0.00044
330
0.00041
333
0.00037
波長(nm) 相対分光効果値
335
0.00034
340
0.00027
345
0.00023
350
0.00020
355
0.00016
360
0.00013
365
0.00011
370
0.000094
375
0.000077
380
0.000064
385
0.000053
390
0.000044
395
0.000036
400
0.000030
日本産業衛生学会許容濃度等に関する委員会(2014 年度)
委員長 武林 亨
顧問 池田 正之 圓藤 陽子 河合 俊夫 岸 玲子 小泉 昭夫 櫻井 治彦
佐藤 洋 清水 英佑 竹内 康浩 田中 正敏 長野 嘉介 那須 民江
矢野 榮二
委員 市原 学 圓藤 吟史 大前 和幸 加藤 貴彦 苅田 香苗 川本 俊弘
日下 幸則 熊谷 信二 竹下 達也 野見山哲生 原 邦夫 福島 哲仁
保利 一 宮川 宗之 山野 優子 横山 和仁
起案委員 市場 正良 伊藤 昭好 岩澤 聡子 上野 晋 奥田 裕計 上島 通浩
佐藤 一博 諏訪園 靖 祖父江友孝 田中 茂 角田 正史 原田 浩二
堀江 正知 堀口 兵剛 村田 勝敬 森本 泰夫 伊藤 由起 小林 健一
田中 政幸 長谷川也須子
専門委員 石竹 達也 奥野 勉 原田 規章
(五十音順)
産衛誌 57 巻,2015
173
許容濃度の暫定値(2015)の提案理由
る 6,7).アトラジンが含まれる s-triazine 化合物は体内に
は長く残留しないとされ,アイソトープでラベルしたア
平成 27 年 5 月 14 日
トラジンを用いたラットにおける研究では,72 時間後
日本産業衛生学会
に 65.5% が尿に,20.3% が糞中に検出された 8).ヒトに
許容濃度等に関する委員会
ついての研究では,アトラジンの使用者の尿を使用後 8
時間で検討したところ,30.8% のサンプルにジエチルと
アトラジン
C8H14ClN5
[CAS No. 1912-24-9]
許容濃度 2 mg/m3
生殖毒性分類 第 3 群
リアジン,74.2% のサンプルにアトラジンメルカプツル
酸塩を検出した 9).同様にアトラジンを使用した男性の
農業生産従事者 11 名については,作業開始時(11 名),
作業終了時(10 名),作業終了 12 時間後(6 名)の尿サ
ンプルを得て検討した研究があり,アトラジンメルカプ
ツル酸塩が,作業開始時 3 割(3/10,クレアチン低値の
別名
ため一例は除外)に検出が認められたが,作業終了時
2- クロロ -4- エチルアミノ -6- イソプロピルアミノ -s- ト
リアジン[2-chloro-4-(ethylamino)-6-(isopropylamine)
には全例(10/10),作業終了 12 時間後の時点でも全例
(6/6)に,検出されたという報告もある 10).
-s-triazine],6-ク ロ ロ -N- エ チ ル -N'-1- メ チ ル エ チ
ル -1,3,5- ト リ ア ジ ン -2,4- ジ イ ル ジ ア ミ ン[6-chloro-Nethyl-N’-(1-methylethyl)-1,3,5-triazine-2,4-diamine]
3.ヒトに対する影響
現在までのところ,ヒトでの中毒事例の報告は知られ
ていない.ヒトへの吸入毒性は低いとされ,皮膚刺激性
1.物理化学的性質ならびに用途
分子量 215.68,融点 171-174℃の結晶性の固体で無色
の粉末状である.水への溶解度は 25℃において 70 ppm
や他の毒性も知られていない.ヒトへの影響として妊
娠・胎児への影響が検討されている.疫学的調査は,環
境汚染によるものである.
と低いが,エーテルには 12,000 ppm,クロロホルムに
Munger ら 11) は米国アイオワ州におけるトリアジン
52,000 ppm,メタノールに 18,000 ppm と有機溶媒に対
系除草剤による水道水汚染が胎児に与える影響を多変
する溶解度は高い 1).揮発性は 20℃において 0.04 mPa
量解析で検討した結果,早産との関連は認められなかっ
2)
である .
たが,子宮内発育遅延との関連はアトラジンが最も強く
EU を除く世界各国でさまざまな化合物として除草剤
かった(r=0.31,p=0.001)と報告している.しかしな
として使用され,アメリカ合衆国での使用が多い.とう
がら,他の除草剤とも有意な相関があり,アトラジン単
もろこし,アスパラガス,トマト,じゃがいもなどの雑
独のリスクとは言えなかった.
草に対して用いられる.日本での使用状況は,2011(平
Rinsky ら 12)は,米国ケンタッキー州の 2004 ∼ 2006
成 23 年)の出荷実績で,アトラジン水和剤 77.7 トン,
年における単胎出生児 151,784 児の出生証明書データを
アトラジン・メトラクロール水和剤 128.5 トン,アトラ
用いて,飲料水中アトラジンレベルと早産について,母
ジン・S- メトラクロール水和剤 0.6 トンであった 3).
親の年齢,人種,教育,喫煙,周産期ケアを補正してロ
ジスティック回帰分析した.アトラジンの定量限界値は
測定機関によって大きな差があったので,群を 3 つに分
2.吸収,代謝,排泄
アトラジンの体内動態についてはわかっていないこと
けて解析したところ,低濃度群(0.0015 µ g/l 以下)に
が多いが,経口から吸収され,また経気道,経皮いずれ
対する高濃度群(0.0804 µ g/l 以上)のオッズ比は 1.20
でも吸収されうるとされる.しかしながら経皮につい
(95%CI: 1.14-1.12)∼ 1.26 (95%CI: 1.19-1.32)となり,
ては,動物実験で中毒症状が起こったとする報告はな
いずれの方法でも有意な上昇であった.しかし,中濃度
4)
い .
群のオッズ比は 0.90 (95%CI: 0.85-0.95)∼ 1.02 (95%CI:
ヒトとげっ歯類における研究から,アトラジンは体内
0.96-1.09)となり,有意な低下もしくは上昇しなかった.
で主にグルタチオン抱合かまたは酸化系による代謝が
これは,アトラジン曝露評価の信頼性が低いことにある
行われ,アトラジンメルカプツル酸代謝物か,脱アル
と著者らは述べている.
5)
キル化代謝物となるとされる .酸化系による代謝物で
Villanueva ら 13) は,仏国ブルターニュ地方の 1997
は,DIA(2-chloro-4-ethylamino-6-amono-1,3,5-triazine)
年 10 月∼ 1998 年 9 月における出生児 3,510 例について,
や DEA(2-chloro-amino-6-isopropylamino-1,3,5-triazine)
水道水中アトラジン濃度と早産,低体重児,および発育
を 経 て,didealylated atrazine と な る. こ れ に は
遅延との関連を検討したが,いずれもアトラジンによる
diethylchloroatrazine,diisopropylchlorotriazine が あ
有意なリスク上昇はみられなかった.
産衛誌 57 巻,2015
174
Chevrier ら 14) は,仏国ブルターニュ地方の 3,399 名
は認められなかった.また,アトラジンなどの除草剤
の妊婦を対象に,妊娠第 19 週の尿におけるアトラジン
製造工場において,1985 年∼ 1997 年の間に 2,045 人の
またはアトラジン代謝物の有無と胎児毒性を検討した.
労働者(757 人の正社員,1,288 人の契約社員)に 11 例
アトラジンまたはアトラジン代謝産物が検出された妊婦
の前立腺がんが発生し,標準化罹患比は 114(95%CI:
から奇形児出産のリスク増加はなかったが,胎児の成長
83-152)であったが,実際に生産している工場の正社
の抑制に対するオッズ比は 1.5(95%CI: 1.0-2.2)であり,
員では標準化罹患比が 394(95%CI:128-960)であっ
頭囲の小ささに対するオッズ比は 1.7 (95%CI: 1.0-2.7)
たとする報告 20)があるが,Prostate Specific Antigen
で,共に有意であった.
(PSA)検査の頻度の相違があるなどがあり,著者らは
職業曝露のリスクについては,労働者直接ではなく配
偶者に対する研究がある.Savitz ら
15)
明確に因果関係を示すものではないとしている.
は,カナダの農
業人口調査を用いて,質問表調査により 1991-1992 年
4.動物に対する影響
における男性農業労働者の活動と化学物質の使用および
1)急性毒性
流産,早産,低体重児および性比との関連を検討した結
LD50(経口)は,マウスについて 1,750 mg/kg,ラッ
果,いずれも化学物質全体の曝露との関連はみられな
ト に つ い て は 3,080 mg/kg で あ る 21). 他 に ラ ッ ト に
かった.個々の物質についての解析は,曝露量の情報
つ い て 1,869 mg/kg 以 上 4),2,000 mg/kg や メ ス 670
がなく分類が重なるので不正確であるが,仕事場にお
mg/kg,オス 740 mg/kg(Sherman ラット)の報告が
けるアトラジンの使用が早産のオッズ比を 4.9(95% CI:
ある 2).経皮曝露の LD50 はラットでは 2,500 mg/kg 以
1.6-15.0)と有意に上昇させていた.
Petrelli ら
16)
によると,南イタリアにおける 184 名
上と報告され
22)
,経気道暴露による LC50 はラットで
は 5.8 mg/l 以 上 4),710 mg/m3 以 上(0.7 mg/l 以 上 ),
の温室の労働者について,初妊時にアトラジン,ベノミ
5,000 mg/m3 以上(5.0 mg/l 以上)23)の報告がある.
ル,カルベンダジム,カルバリル,DDT など 10 種の農
2)亜急性毒性,亜慢性毒性
薬を使用していた 48 名を曝露群,それ以外の 136 名を
Santa Maria ら 24)は,Wistar ラットに 0,100,200,
コントロール群として,自然流産を起こすリスクをロジ
400,600 mg/kg を 7 日間または 14 日間強制経口投与
スティック回帰分析をした結果,コントロール群に比べ
した実験で,肝毒性と腎毒性がみられたとしている.肝
曝露群の配偶者は,オッズ比が 11.8 (95%CI: 2.3-59.6)
毒性では投与量に対応して血糖値の低下,血清脂質の
と増大していたが,アトラジン曝露のあった 2 名の配偶
上昇がみられ,600 mg/kg 投与群では血清 ALT および
者に流産はなかった.
ALP の上昇が対照群に比べて有意であった.電顕像で
ヒトの発がん性については様々な疫学研究がある.
は高濃度群の肝臓で滑面小胞体の変性や脂肪の蓄積,ミ
IARC の評価 2) によれば,ヒトに対する発がん性は不
トコンドリアの膨潤などが肝細胞にみられた.100 mg/
十分(inadequate)な証拠にとどまる.症例対照研究
kg 投与群では肝臓に対する毒性は認められなかった.
においては,多くの研究で対照との差はない.例えば,
腎毒性では尿蛋白の増加,クレアチニンクリアランスの
Rusieki ら
17)
では,アトラジン曝露についてコホート
研究を行い,曝露は人生における曝露日数を 4 分位に
低下,尿中電解質の増加が投与量に対応して認められた
と報告している.
して検討したが,全がん,及び 14 のがんについて有意
US EPA の 報 告 4) で は,SD ラ ッ ト に 0,10,50,
差は見られなかった.但し非ホジキンリンパ腫につい
500 ppm(雄 0,0.6,3.3,34 mg/kg/day,雌 0,0.659,
て IARC
2)
では,4 つの研究を紹介しているが,Zahm
3.35,35.3 mg/kg/day 相当)を 92 日間混餌投与した実
ら 18)のみアトラジン曝露群に有意な結果が報告されて
験で,500 ppm 投与群で体重減少と脾臓にヘモジデリ
いる.Zahm ら
19)
は米国の中西部の州で行われた 3 つ
ン 沈 着 が 観 察 さ れ た と し,NOAEL は 3.3 mg/kg/day
の症例対照研究をまとめ,全体として 933 人の白人の非
と評価している.
ホジキンリンパ腫患者と 2,913 人の対照白人男性の症例
3)慢性毒性,発がん性
対象研究として解析した.非ホジキンリンパ種患者で
発がん性に関して,アトラジンの経口投与による実験
は,農場で働いたことのない 357 人,アトラジン使用経
に基づいて IARC2)は,実験動物においては十分な証拠
験あり 130 人に対して,対照群では農場で働いたことの
があるとしている.Stevens ら 25,26) 及び US EPA4) の
ない 1,017 人,アトラジン使用経験あり 249 人となり,
慢性毒性 / 発がん性併合試験の報告では,SD ラットに
アトラジンがオッズ比 1.4(95%CI:1.1-1.8)と有意で
0,10,70,500,1,000 ppm(0,0.5,3.5,25,50 mg/
あ っ た. た だ し,dichlorophenoxyacetic acid(2,4-D)
kg/day 相当)を 2 年間混餌投与した結果,500 及び 1,000
や有機リン農薬の使用で補正すると,アトラジンの曝
ppm 投与群では,雌雄ともに体重の増加抑制や摂餌量
露のオッズ比は 1.2(95%CI:0.9-1.7)となり,有意差
の減少が観察された.500 ppm 投与群では,雄に病理
産衛誌 57 巻,2015
175
組織学的な変化はみられなかったが,雌では骨髄の過形
25,50,400 ppm を 6 か月間混餌投与した実験で,強
成や脾臓の髄外造血がみられた.1,000 ppm 投与群では,
制経口投与の 200 mg/kg 群及び混餌投与の 400 ppm(26
雌のみに血液,生化学検査の変化として,モグロビン,
mg/kg 相当)群ともに性周期の延長がみられたとして
ヘマトクリット,赤血球数,血糖値の低下がみられた.
いる.これらアトラジンの経口投与による性周期延長の
病理組織学検査では,雌に筋肉変性,腎臓と膀胱の移行
特徴として,高濃度の初期影響では発情休止期の延長,
上皮細胞の過形成がみられ,雄に前立腺上皮細胞の過形
長期投与では連続発情の誘発であったと述べており,こ
成,腎臓結石,乳腺の腺房過形成がみられたとしている.
の試験での NOAEL は 50 ppm(3.3 mg/kg 相当)であ
さらに,乳腺腫瘍について腺癌と線維腺腫を合わせて評
ると報告している.Wetzel ら 30)もまた,雌 SD ラット
価した場合,2 年間の累積発生率は,1,000 ppm 投与群
及び雌 F344 ラットに,400 ppm(26.2 mg/kg 相当)を
で対照群に比べて有意に増加,500 ppm 投与群では観
混餌投与した実験で,SD ラットでは性周期の延長及び
察期間途中での増加は見られるものの,最終的な累積発
発情期の日数増加が観察されたが,F344 ラットではわ
生率には有意な増加はなかった.70 ppm 投与群でも腺
ずかな性周期の延長がみられるのみであったと報告し
癌の発生は見られるが,累積発生率の有意な増加には至
て い る. さ ら に,Cooper ら 31) は,Long-Evans(LE)
らなかったとしている.
ラット及び SD ラットを使用し,規則的に 4 日性周期を
また,Stevens ら 25,26) 及び US EPA4) は,卵巣摘出
示した雌に 75,150,300 mg/kg を 21 日間強制経口投
及び無処置の雌 SD ラットに 0,25,50,70,400 ppm
与した結果,両系統ともに 75 mg/kg 群から不規則な性
( 卵 巣 摘 出 0,1.5,3.1,4.2,24.4 mg/kg/day, 無 処 置
周期がみられ,150 mg/kg 以上の群では偽妊娠の兆候
0,1.2,2.5,3.5,20.9 mg/kg/day 相当)を 2 年間混餌
(発情休止期が 12 日以上継続)が認められたとし,300
投与した結果,卵巣摘出した動物では乳腺腫瘍の増加は
mg/kg 群の雌 LE ラットでは卵子の退行がみられ,性
認められなかったが,無処置雌では腺癌と線維腺腫を
周期は無発情を示したと報告している.
合わせて評価した場合,400 ppm 投与群で 104 週間の
Shibayama ら 32)は,卵巣毒性の評価の共同研究の一
観察期間内に累積発生率が増加することが示された.一
環として,アトラジンの反復投与毒性試験及び受胎能試
方,70 ppm 投与群では累積発生率に対照群と差がなく,
験を行った.反復投与毒性試験では,雌 SD ラット(1
25,26)
群 10 匹)に,0,3,30,300 mg/kg を 2 週間または 4
この投与量を NOAEL と判断している.Stevens ら
は,卵巣摘出した動物で乳腺腫瘍が認められなかったこ
週間強制経口投与した結果,300 mg/kg 群において,2
とは,アトラジンの作用機構には直接的な遺伝毒性が無
週間及び 4 週間投与ともに体重増加の抑制,性周期(発
いことだけでなく,乳腺に対してエストロゲン作用がな
情休止期)の延長及び不規則性周期を示した動物数の増
かった証拠を示している.むしろ,卵巣に関与する間接
加が観察されたとしている.この群の卵巣では重量の減
的なホルモン調整への影響を意味している.また,SD
少がみられ,黄体数の減少,肥大胞状卵胞の増加,黄体
ラットにおける乳腺腫瘍の発生増加は,内因性のエスト
細胞の腫大が観察された.さら 300 mg/kg 群の 4 週間
ロゲンやプロラクチンへの曝露が増加した系統や性に特
投与では子宮重量の減少,30 mg/kg 群の 4 週間投与で
異的に関連しており,この反応は,ヒトへの生物学的関
も性周期の延長がみられたと報告している.一方,受
連が無いように思われるとしている.
胎能試験において,雌 SD ラット(1 群 10 匹)に,0,
Wetzel ら
27)
及 び US EPA
4)
は,F344 ラ ッ ト に 0,
3,30,100 mg/kg を交配前 2 週間強制経口投与した後,
10, 70, 200, 400 ppm(雄 0, 0.49, 3.43, 9.87, 20.17 mg/
無処置の雄と交配させ,妊娠 7 日まで投与を継続し,妊
kg/day,雌 0,0.61,4.35,12.71,26.18 mg/kg/day 相当)
娠 14 日に剖検した試験の結果,交尾率,妊娠率,黄体数,
を 2 年間混餌投与した結果,200 及び 400 ppm 投与群
着床痕数,胚の生死数等にアトラジン投与による影響は
で体重減少や体重の増加抑制のみがみられたのみで,腫
認められなかったとしている.
瘍発生率の増加は雌雄ともになかったとしている.ま
Foradori ら 33) は, 卵 巣 摘 出 雌 Wistar ラ ッ ト(1 群
た,Thakur ら 28) 及 び Stevens ら 26) は,CD-1 マ ウ ス
5-8 匹)に 0,50,100,200 mg/kg を 4 日間強制経口
に 0, 10, 300, 1,500, 3,000 ppm(雄 0, 1.4, 38.4, 194.0,
投与し,排卵に関与する血漿中黄体形成ホルモン(LH)
385.7,雌 0, 1.6, 47.9, 246.9, 482.7 mg/kg/day 相当)を
と卵胞刺激ホルモン(FSH),及び生殖腺刺激ホルモン
91 週間混餌投与した結果,対照群と比較して腫瘍発生
放出ホルモン(GnRH)活性を検査した実験で,LH は
率の増加はなかったと報告している.
50 mg/kg 以上の投与群,FSH は 200 mg/kg 投与群で
4)生殖毒性
有意な減少がみられ,これに GnRH の減少も一致して
アトラジンによる雌における生殖毒性に関連する研究
いたとしている.この結果から,アトラジンによる性周
で,Eldrige ら 29) は,雌 SD ラット(1 群 90 匹)に 0,
期の変化と視床下部−下垂体−性腺系からのホルモンの
2.5,5,40,200 mg/kg を 6 週間強制経口投与,または 0,
分泌抑制は,中枢性調節機構への干渉によるものと推察
産衛誌 57 巻,2015
176
している.
6)刺激性・腐食性
雄における生殖毒性に関連する研究で,Stoker ら
34)
眼に入った場合の刺激性(発赤,痛み)は国際化学
は, 雄 ラ ッ ト に 0,12.5,25,50,100,150,200 mg/
物質安全カードにあり,ウサギでの軽度な刺激性の報
kg を生後 23 日から 53 日まで強制経口投与した実験で,
告 23) がある.皮膚刺激性や腐食性は知られていない.
全投与群で包皮分離の遅延が認められ,50 mg/kg 以上
皮膚の感作性もモルモットでは報告がある 23)が,ヒト
の投与群で腹側前立腺重量の低下,200 mg/kg 群では
ではない.
生後 45 日に精巣中のテストステロン濃度の低下が認め
られたとし,これらの影響は,アトラジンによる雄ラッ
トの性成熟の遅延作用を示唆したものと報告している.
催奇形性作用に関して,Cumming ら
35)
5.許容濃度の提案
ヒトの集団において,アトラジンの職業性曝露による
は,4 系統
明らかな健康影響が起こったという報告がなく,職場に
(Holtzman,SD,LE,F344)の雌ラットの妊娠 1 ∼ 8
おける濃度を測定した上での,健康影響を検討した結果
日に 0,50,100,200 mg/kg を強制経口投与した結果,
もない.生殖毒性についても,現時点では,予防すべき
F344 ラットの 100 及び 200 mg/kg 群に着床前胚死亡が
影響とするほどの十分な科学的知見は,疫学的,毒性学
みられ,Holtzman ラットの 200 mg/kg 群では着床後胚
的に明らかでない.発がん性に関しても,IARC は,動
死亡と血清中黄体ホルモンの増加がみられた報告してい
物実験で観察される腫瘍は系統特異的であってヒトには
る.Rayner ら
36)
は,雌 LE ラットの妊娠 15 ∼ 19 日に 0,
100 mg/kg を強制経口投与し,生後 1 日に 0 及び 100
直ちに適用できるものはないとの判断に基づき Group3
(ヒト発がん物質として分類できない)と分類している.
mg/kg 群の母動物が哺育している半数の児動物を交換
以上より,動物実験において最も低い濃度で影響が起
した実験で,アトラジンを投与した母動物が出生し,哺
こっている造血系への影響に基づいて許容濃度を検討す
育した雄児に包皮分離の遅延と生後 120 日での前立腺重
るのが妥当と考える.ラットを用いた 2 年間の混餌投与
量の減少がみられたと報告している.
実験で雌ラットの NOAEL は 70 ppm(3.5 mg/kg に相
以上のことから,アトラジンの投与による生殖毒性
当)と報告されている.これに,ラットとヒトの種差に
は,主としてホルモンの分泌に関連した影響であること
関する不確実係数を 10 と仮定すると,ヒトの一日許容
が示唆されたが,妊孕性への影響や催奇形性作用は明確
摂取量は 0.35 mg/kg となる.吸入毒性への変換につい
ではなかった.
て,体重 50 kg,呼吸量 10 m3 として気中濃度に換算す
5)遺伝毒性
ると,1.75 mg/m3 となる.アトラジンの体内動態が必
遺 伝 毒 性 に 関 し て は 一 般 的 に は 原 核 細 胞, 真核細
8)
胞ともに突然変異原性はないとされてきた .例え
ば Shirasu ら
37)
ずしも明確でないものの,肺からの吸収が 100%とは考
えられない点を考慮に入れ,2 mg/m3 を許容濃度とし
は枯草菌 Bacillus subtilis 株を用いた
て提案する.また生殖毒性について,動物実験において
DNA 修復試験 rec アッセイとサルモネラ菌株及び大
限定的な証拠があることから,生殖毒性物質の第 3 群に
腸菌株を用いた Ames 試験で,農薬類の突然変異原性
分類する.
をスクリーニングしたが,アトラジンは陰性であった.
ま た de Bertoldi ら
38)
は, 出 芽 酵 母 Saccharomyces
6.他機関の提案値
cerevisiae を用いた突然変異原性試験を行い,アトラ
職業性曝露の基準として ACGIH の TLV(Threshold
ジンは陰性であった.またマウスの肝臓のミクロゾー
limited value)は TLV-TWA(time-weighted average)
ム系酵素を用いてアトラジンを代謝活性化した後にも,
と し て 5 mg/m3 で あ っ た が 8), こ れ は OSHA の
Saccharomyces cerevisiae を用いた突然変異原性試験
Permissible exposure limit,NIOSH の recommended
では陰性であった.なおこの研究では,アスベルギル
exposure limit でも同じ数字であった.しかし ACGIH
ス属 Aspergillus nidulance を用いた変異原性でも gene
は 7th edition より TLV を 2 mg/m3 とした 20).他の
conversion は陰性であった.比較的近年の研究では,
国の職業性曝露の基準で 5 mg/m3 を採用しているのが,
Ribas ら
39)
がヒト末梢血リンパ球を培養し,アトラジ
オーストラリア,ベルギー,カナダ,フランス,オラ
ン曝露による姉妹染色分体交換(S9 代謝活性化系あり,
ンダ(いずれも TWA)である 2).現在,ACGIH が新
なし共に),染色体異常,小核試験(S9 代謝活性化系あ
たに設定した 2 mg/m3(TWA)を採用しているのが,
り,なし共に)で,遺伝毒性を示さなかった.しかしな
オーストリア,デンマーク,スイスであり,ロシアは 2
がら,遺伝毒性に関しては,結論がついていないとする
mg/m3(Short-term exposure limit,STEL) を 採 用,
評価 2) もあり,また近年のトランスジェニック植物を
ドイツは maximum workplace concentration (MAK)
用いた遺伝毒性解析システム 40)では,相同組み換えの
としてエアロゾルの吸入可能な分画として 2 mg/m3 を
頻度が 2 µ g/l 以上で上昇するという報告もある.
採用している.英国は 10 mg/m3(TWA)を採用,フィ
産衛誌 57 巻,2015
ンランドは 10 mg/m3(TWA)及び 20 mg/m3(STEL)
を採用している.
7.勧告の履歴
2015 年度(新設)許容濃度 2 mg/m3 生殖毒性分類第
3群
文 献
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1,4- ジオキサン
C4H8O2
[CAS No. 123-91-1]
許容濃度 1 ppm(3.6 mg/m3)
(皮)
発がん性分類 第 2 群 B
別名 1,4- ジエチレンジオキシド,ジオキサン,パラ ジオキサン
1.物理化学的性質ならびに用途
分子量 88.1,融点 12℃,沸点 101℃,比重(20/4℃)
1.03,蒸気圧 37 mmHg(25℃),常温常圧では無色の液
体.水,有機溶剤に溶ける 1).
きわめて引火しやすい〔爆発限界 2.0 ∼ 22.0%(空気
中)〕.蒸気は比重が空気よりも重いので低い所に滞留
し,また空気中で過酸化物を生成して,爆発性の混合ガ
スを作りやすい.洗浄剤,合成皮革,反応用の溶剤,塩
素系溶剤,医薬品,農薬に用いられる 1).
2.吸収,代謝,分布,蓄積,排泄
Young ら(1976) に よ る と, 労 働 者 へ 1.6 ppm
で 7.5 時 間 曝 露 す る と,99 % の 1,4- ジ オ キ サ ン が,
2-hydroxyethoxyacetic acid (HEAA)として尿中に排
泄される 2).Young ら(1977)によると,成人男性ボ
ランティア 4 人への 50 ppm,6 時間の曝露による半減
期は,血漿で 59 ± 7 分,尿中で 48 ± 17 分であり,尿
中への排泄は 99.3% が HEAA,0.7% が 1,4- ジオキサン
で,曝露終了から 6 時間以内に,尿中の 1,4- ジオキサ
ンの 90%,HEAA の 47%が排泄され,18 時間以降では
3)
HEAA は検出されなかった .ヒトでの経口投与によ
る排泄データはない.
3.ヒトに対する影響
マスクなし,閉鎖され換気のない屋内での 1,4- ジオキ
サンの 1 週間曝露作業により死亡した症例がある.初め
は消化器症状,次いで筋緊張亢進と神経症状が出現し
た.入院 1 週間後に腎機能不全で死亡した.剖検では,
間質内出血を伴う腎皮質の壊死,尿細管腔の赤血球像,
肝細胞壊死,脳での脱髄と神経線維消失を認めた.職場
での曝露濃度は,208 から 650 ppm であった 4).
1954 年以降に低濃度 1,4- ジオキサン曝露を受けてい
た 165 名の作業員の前向き死亡率調査では,1975 年時
点で 12 人が死亡した.そのうち 3 名ががんによる死亡
であった.観察された死亡数は,期待数と比較し統計学
的有意差を認めなかった 5).
産衛誌 57 巻,2015
179
7/10)を認めた.ラット,マウスとも,NOAEL と
4.動物に対する影響
して,640 ppm と示され,体重換算では,ラットで
(1)急性毒性
ラ ッ ト へ の 経 口 LD50 で 5,170 mg/kg, マ ウ ス で は
52 mg/kg/ 日,マウスで 170 mg/kg/ 日とされた 10).
静脈内投与時,ウサギの致死量は 1.5 g/kg で,この時,
5,000 ppm, 雌 雄 BDF1 マ ウ ス( 各 群 50 匹 ) に 0,
5,700 mg/kg という報告がある 6).
急性腎不全および肝不全を認めた 7).
雌 雄 F344 ラ ッ ト( 各 群 50 匹 ) に 0,200,1,000,
500,2,000,8,000 ppm の濃度の飲水を 2 年間経口投
与した実験では,ラットで 1,000 ppm から鼻腔に嗅
(2)反復曝露時の毒性
吸入曝露
上 皮 の 核 の 大 型 化( 雄 5/50, 雌 28/50),5,000 ppm
雌 雄 F344 ラ ッ ト( 各 群 10 匹 ) に,0,100,200,
では呼吸上皮の核の大型化(雄 26/50,雌 13/50)と
400,800,1,600,3,200,6,400 ppm を 6 時 間 / 日,5
扁平上皮化生(雄 31/50,雌 35/50)を認めた.マウ
日 / 週,13 週吸入曝露した実験では,6,400 ppm 投与
スでは 2,000 ppm より鼻腔に嗅上皮の核の大型化(雄
群で初めの 1 週で,雌雄ともすべて死亡した.0 ppm
9/50,雌 41/50),8,000 ppm では呼吸上皮の核の大型
群と比較し,体重減少を雄 200 ppm,3,200 ppm,雌
化(雄 31/50,雌 41/50)を認めた 11).
200 ppm,800 ppm,1,600 ppm,3,200 ppm で認めた.
経皮曝露
病理学的には,100 ppm から雌雄ともに鼻腔上皮に
ウサギ及びモルモットの皮膚に 1,4- ジオキサンを局
病変(呼吸上皮の核の大型化(雄 7/10,雌 5/10)・
所投与(1,4- ジオキサン 80% 溶液,10 滴 / 回,週 11
嗅上皮の核の大型化(雄 0/10,雌 2/10))がみられ,
回投与)し投与 49,66,77,101 日目に剖検した試験
200 ppm から雌では嗅上皮の萎縮(2/10)が認めら
では,腎尿細管と糸球体での細胞変性,腎髄質での出
れた.LOAEL として 100 ppm と示された 8).
血,肝細胞変性を認めた 12).
雄 F344 ラ ッ ト( 各 群 50 匹 ) に 0,50,250,
1,250 ppm を 6 時間 / 日,5 日 / 週,104 週吸入投与
(3)遺伝毒性(変異原性)
Salmonella typhimurium の復帰突然変異試験は,
した実験では,1,250 ppm 群で,0 ppm 群と比較し,
陰性であった 13).Saccharomyces cerevisiae の染色
体重減少,肝重量と肺重量の増加,ヘモグロビン・
体異常試験で陰性であった 14).ラット肝細胞を用い
MCV・MCH の 減 少,AST・ALT・ALP・γ GTP の
た不定期 DNA 合成(UDS)試験でも陰性である 15).
上昇,尿 pH の低下を認めた.また,病理学的には
In vivo では,優性致死試験,DNA 修復試験にお
50 ppm から鼻腔上皮に病変(呼吸上皮の核の大型化
いて陰性であった.陽性であったのは,マウス骨髄
(50/50)・嗅上皮の核の大型化(48/50),嗅上皮の萎
での小核試験のみであった 16) が,再現性はなかっ
縮(40/50),嗅上皮の呼吸上皮化生(34/50))がみら
た 17).
れ,250 ppm からは呼吸上皮の扁平上皮化生(7/50)
(4)発がん性
9)
も認められた.LOAEL として 50 ppm と示された .
経口曝露
雌 雄 F344 ラ ッ ト( 各 群 10 匹 ), 雌 雄 BDF1 マ ウ
ス( 各 群 10 匹 ) に,0,640,1,600,4,000,10,000,
吸入曝露
環境省の委託で日本バイオアッセイ研究センターが
実施した F344 ラットを用いた吸入曝露による発がん
性試験がある.
25,000 ppm を飲水により 13 週間経口投与した実験
雄 F344 ラット(各群 50 匹)に 1,4- ジオキサン蒸
で は, ラ ッ ト で 1,600 ppm か ら 鼻 腔 呼 吸 上 皮 の 核
気を 0,50,250,1,250 ppm を 6 時間 / 日,5 日 / 週,
の大型化(雄 9/10,雌 5/10),肝細胞の小葉中心性
104 週吸入曝露した実験では,鼻腔の扁平上皮がん
腫 脹( 雄 9/10),4,000 ppm か ら 嗅 上 皮 の 核 の 大 型
(6/50)と肝細胞腺腫(21/50)が 1,250 ppm 群で,腹
化(雄 10/10,雌 9/10),気管上皮の核の大型化(雄
膜 の 中 皮 腫 が 250 ppm 群(14/50) と 1,250 ppm 群
10/10, 雌 9/10), 肝 細 胞 の 単 細 胞 壊 死( 雄 5/10),
(41/50)で統計学的に有意な発生増加を示した 9).こ
10,000 ppm から肝臓の中心性空胞性変化(雄 10/10),
腎臓の近位尿細管の核の大型化(雄 5/10,雌 8/10),
の所見より,NOAEL は 50 ppm と判断される.
(表 1)
経口投与 / 経皮投与 / その他の経路等
25,000 ppm では腎臓の近位尿細管の水腫様変化(雄
雄 Wistar ラ ッ ト 26 匹 に, ジ オ キ サ ン を 1% 含 有
7/10, 雌 5/10), 脳 の 空 胞 性 変 化( 雄 10/10, 雌
(840 mg/kg 体重 / 日),63 週間飲水投与した実験で
9/10)を認めた.マウスでは 1,600 ppm より気管支
は,6 匹に肝細胞がん,1 匹に腎盂移行上皮がん,1
上皮の核の大型化(雌 10/10),4,000 ppm から嗅上
匹に骨髄性白血病を認めた 18).
皮の核の大型化(雄 9/10,雌 6/10),気管上皮の核の
Sherman ラット(各群 雄 60 匹,雌 60 匹)を用
大型化(雄 7/10,雌 9/10),肝細胞の小葉中心性腫
いた 2 年間にわたる飲水(ジオキサン 0,0.01,0.1,1%
脹(雄 10/10,雌 10/10)と単細胞壊死(雄 5/10,雌
含有)投与実験では,1%含有投与群(1,015 mg/kg
産衛誌 57 巻,2015
180
体 重 / 日( 雄 ),1,599 mg/kg 体 重 / 日( 雌 )) で 肝
350,640 mg/kg/ 日相当)の濃度で 110 週間経口(飲
細胞がんを 10 匹に認め,対照群と比較し統計学的に
水)投与した実験では,鼻腔の扁平上皮がんの発生が
有意な上昇であった.鼻甲介の扁平上皮がんは,1%
雌雄とも 0.5% 群からみられた(雄:0.5% 群(12/33),
含有投与群のみで発生し,3 匹で認めた.これは対照
1%群(16/34),雌:0.5% 群(10/35),1%群(8/35)).
群と比較し統計学的に有意な上昇ではなかった.他
また,雌では肝細胞腺腫の発生率が 0% 群(0/31),
に,1%含有投与群では,乳腺の腺がんを 1 匹に,膀
0.5% 群(10/33),1%群(11/33)であり,対照群と
胱 の 移 行 上 皮 が ん を 1 匹 に 認 め た.0.1% 含 有 投 与
比較し 0.5% 以上の群で有意に増加していた 20).
群(94 mg/kg 体 重 / 日( 雄 ),148 mg/kg 体 重 / 日
厚労省の委託で日本バイオアッセイ研究センターが
(雌))では,肝細胞がん,腎がんをそれぞれ 1 匹ずつ
実施した F344 ラットと BDF1 マウスを用いた飲水投
認めたが,腫瘍発生頻度の有意な増加はみられなかっ
与による発がん性試験がある.
た.0.01% 含 有 投 与 群(9.6 mg/kg 体 重 / 日( 雄 ),
F344 ラット(各群 雄 50 匹,雌 50 匹)に 1,4- ジ
19 mg/kg 体 重 / 日( 雌 )) で は 悪 影 響 は み ら れ て
オ キ サ ン を 0,200,1000,5,000 ppm の 濃 度 で 2 年
い な い. こ れ ら の 結 果 よ り,NOAEL と し て 0.01%
間飲水投与した実験では,雌雄とも 5,000 ppm 群に
(9.6 mg/kg 体重 / 日(雄),19 mg/kg 体重 / 日(雌))
鼻腔の悪性腫瘍(主として扁平上皮癌),肝細胞腺腫
とする 19).
および肝細胞癌の発生増加が認められた.また,雄の
米国国立がん研究所(NCI)で実施された B6C3F1
5,000 ppm 群には腹膜の中皮腫の発生増加も認められ
た 11).(表 2)
マ ウ ス に 1,4- ジ オ キ サ ン の 0,0.5,1.0 %( 雄:0,
720,830 mg/kg/ 日 相 当, 雌:0,380,860 mg/kg/
BDF1 マウス(各群 雄 50 匹,雌 50 匹)に 1,4- ジ
日相当)を 90 週間経口 (飲水)投与した実験では,
オキサンを 0,500,2,000,8,000 ppm の濃度で 2 年
肝 細 胞 が ん の 発 生 率 が 雄 で 0% 群(2/49),0.5% 群
間飲水投与した実験では,雄に肝細胞腺腫の発生増加
(18/50),1 % 群(24/47), 雌 で 0% 群(0/50),0.5%
が 2,000 ppm 以上の群,肝細胞癌の発生増加が 8,000
群(12/48),1%群(29/37)であり,雌雄とも 0.5%
ppm で認められた.雌では肝細胞腺腫と肝細胞癌の
以上の群で有意に増加した 20).
発生増加が最低濃度である 500 ppm まで認められた.
同様に,米国国立がん研究所(NCI)で実施され
また,自然発生が稀な鼻腔の悪性腫瘍の発生が少数例
た Osborne-Mendel ラ ッ ト に 1,4- ジ オ キ サ ン を 0,
ではあるがみられた(鼻腔神経上皮腫が雄 1 例,腺癌
0.5,1.0%(雄:0,240,530 mg/kg/ 日相当,雌:0,
が雌 1 例)11).(表 3)
(5)生殖毒性
Giavini ら(1985)によると,SD ラットに 0,0.25,
表 1. 1,4- ジオキサンのラットを用いた吸入曝露による 2 年
間の発がん性試験における腫瘍の発生匹数 9)
0.5,1 ml/kg 体重 / 日(換算値:250,500,1,000 mg/
kg)の 1,4- ジオキサンを各群 18-20 匹,妊娠 5 ∼ 14
雄
曝露濃度(ppm)
0
50
250
1,250
検査動物数
鼻腔 扁平上皮がん
肝細胞腺腫
腹膜中皮腫
50
0
1
2
50
0
2
4
50
1
3
14**
50
6*
21**
41**
日に経口投与した結果,奇形や胎児の毒性所見は認め
られていない.母親の体重増加を軽度抑制する程度の
曝露(1 ml/kg 体重 / 日)でも,胎児毒性として,胎
児体重減少を認めた.また,1 ml/kg 群でこの体重低
下に伴って胸骨骨化の有意な減少したとして,EPA
の報告書では 500 mg/kg を NOAEL としている 21).
対 照 群 と 比 較 し て,*: p<0.05,**: p<0.01 で 有 意 な 増 加
(Fisher’s exact test).
ICR Swiss マウスにおける 1,4- ジオキサン 0,3,9,
表 2. 1,4- ジオキサンのラットを用いた飲水投与による 2 年間の発がん性試験における腫瘍の発
生匹数 11)
雄
雌
飲水濃度(ppm wt./wt.)
0
200
1,000
5,000
0
200
1,000
5,000
検査動物数
鼻腔 扁平上皮がん
肝細胞がん
肝細胞腺腫
腹膜中皮腫
50
0
0
3
2
50
0
0
4
2
50
0
0
7
5
50
3
14**
32**
28**
50
0
0
3
1
50
0
0
1
0
50
0
0
6
0
50
7**
10**
48**
0
対照群と比較して,*: p<0.05,**: p<0.01 で有意な増加(Fisher’s exact test).
産衛誌 57 巻,2015
181
表 3. 1,4- ジオキサンのマウスを用いた飲水投与による 2 年間の発がん性試験における腫瘍の発
生匹数 11)
雄
雌
飲水濃度(ppm wt./wt.)
0
500
2,000
8,000
0
500
2,000
8,000
検査動物数
肝細胞がん
肝細胞腺腫
50
15
9
50
20
17
50
23
23**
50
36**
11
50
0
5
50
6*
31**
50
30**
20**
50
45**
3
対照群と比較して,*: p<0.05,**: p<0.01 で有意な増加(Fisher’s exact test).
30 mg/kg 体重(1,1,1,- トリトリクロロエタンの安定
表記は,動物(ウサギ,モルモット)皮膚から急速に吸
剤として 3%含有)の飲水投与による 2 世代試験で,
収され,協調運動失調,昏睡を引き起こすことが報告
生殖毒性はみられていない 22).
されており指定されている 25).また DFG (2014)では
MAK(時間荷重平均)として 20 ppm(72 mg/m3)を
示している(Documentation date は 1996 年).
5.許容濃度の提案
1984 年設定の許容濃度は,ラットを 1,4- ジオキサン
蒸気に 111 ppm × 7 時間 / 日× 5 日 / 週× 2 年間曝露
した実験
23)
で催腫瘍性を見出さなかったことに基づき,
発がん性および変異原性に関する情報に基づいて,
ACGIH(2015)は 1,4- ジオキサンの発がん性を A3(実
験動物での発がん性は確認されているがその所見のヒ
その 1/10 である 10 ppm が提案された.また,1,4- ジオ
トに対する意義については明らかでない物質),DFG
キサンは経気道的に吸収される以外に,動物実験によれ
(2014)は Category 4(実験動物での発がん性は変異原
ば経皮的にも中毒量が吸収されることから,皮マークが
性には基づいていない作用機構によるもので MAK およ
付されている.その上で,技術的に可能なかぎりいっそ
び BAT が守られていればヒトに対する発がんのリスク
う低濃度とすることを求めている 24).
は有意でない物質)に分類している.IARC(2014)は
その後の研究によっても,ヒト健康影響についての
1,4- ジオキサンの発がん性をグループ 2B(ヒトに対し
閾値を直接に推定するにはなお十分な情報は得られて
て発がん性がある可能性がある物質)と分類している.
いない.ヒトへの曝露では報告がないが,動物実験で
発がん性が報告されていることより発がん分類は,従
7.勧告の履歴
来通り第 2 群 B とする.遺伝毒性は In vitro,in vivo
2015 年度(改定案)
においてほとんどが陰性であり,変異原性はみられな
許容濃度 1 ppm(3.6 mg/m3)(皮)
いと考えられることから,発がん閾値なしとする根拠
発がん性分類 第 2 群 B
に乏しい.ラット(各群 50 匹)に 1,4- ジオキサン蒸気
1984 年度(新設)
を 104 週吸入曝露した実験
9)
では,鼻腔の扁平上皮が
ん,肝細胞腺腫,腹膜中皮腫の発生が統計学的に有意に
許容濃度 10 ppm(36 mg/m3)(皮)
発がん性分類 第 2 群 B
増加し,NOAEL は 50 ppm であった.不確実係数とし
て,種差(10),発がんの影響としての重大性(5)を考
慮し,これらの障害を示さないことが期待される濃度と
して 1 ppm(3.6 mg/m3)が求められる.この値は,同
じラットの吸入実験で観察された鼻腔上皮,嗅上皮の変
化から得られる非発がん影響の LOAEL50 ppm に,不
確実係数として LOAEL → NOAEL の変換(10),種差
(dynamics の差として 2.5)を適用して求めた 2 ppm(7.2
mg/m3)よりも小さく,発がん以外の影響を防ぐこと
ができると期待できる.
6.他機関の提案値
ACGIH (2015)では 1,4- ジオキサンの職業曝露の許
容濃度として TLV-TWA 20 ppm(72 mg/m3)が勧告
されている(Documentation date は 1996 年).Skin の
文 献
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1,4- ジクロロ -2- ブテン
C4H6Cl2,ClCH2-CH=CH-CH2Cl
[CAS No. 764-41-0]
許容濃度 0.005 ppm
発がん性分類 第 2 群 B
別名 1,4- ジクロロブテン -2
1.物理化学的性質ならびに用途
1,4- ジクロロ -2- ブテン(1,4-DCB)は,無色ないし褐
色の液体.分子量 124.99,比重 1.185,融点 3.5℃,沸
点 155.5℃,蒸気圧不明.濃度換算は 5.11 × ppm=mg/
m3.シス体,トランス体が存在する.
ナイロンの原料であるヘキサメチレンジアミンの中間
体である.加水分解して塩化水素になることから,組織
刺激性が予測される.厚労省による曝露リスク評価が行
われ,平成 20 年の曝露作業報告では,対象は 1 事業場,
従事者数は 66 名で,取扱量は 3,200 t の報告がある.厚
労省の初期リスク評価では,個人曝露測定の 8 時間曝露
の測定結果は,平均 0.0035 ppm,最大は 0.0177 ppm で
あった 1).平成 23 年 4 月から,特化則に収載された.
2.ヒトに対する影響
ヒトに対する影響の報告は見当たらない.525 名の男
発がんの有意な増加は得られていない.デュポン社の内
部資料のようであり,詳細は不明である 2).
3.動物に対する影響
1)急性毒性試験
ラットへの経口投与で,LD50 は 89 mg/kg,ラットへ
の皮膚投与で,LD50 は 0.62 ml/kg の報告がある.眼刺
激性があり,永続的な角膜損傷を起こした.ラットへの
4 時間吸入曝露では,LC50 は 86 ppm であり,肺,肝,
脾の出血を確認した 3).
ラ ッ ト に お け る 15 分 間 の,15.8,29.2,62.9,148,
182,296 ppm の吸入曝露では,29.2 ppm 以上の曝露群
産衛誌 57 巻,2015
183
で呼吸数の低下がみられ,179 ppm で半数の動物に呼
4)
中間代謝物と考えられた 1,4 ジクロロ 2,3 エポキシブタ
吸機能の低下を見た .
ンの変異原性は,強くなかった 7).黄色ショウジョウバ
2)亜急性毒性試験
エの劣性致死試験で陽性を示した 8).
ハムスター,ラットに,0.1 および 10 ppm を,2 週
5)生殖毒性
間にわたり 6 時間 / 日,5 日 / 週の吸入曝露を行った.
ラットの妊娠 6 日から 15 日に,0,0.5,5 ppm,6 時
0.1 ppm 曝露群では,両動物種ともに影響はなかった.
間/日,吸入曝露させたところ,5 ppm 曝露群におけ
10 ppm 曝露群では,ハムスターには影響はなかった
る母体の体重減少以外に,胎児毒性,催奇形性はみられ
が,ラットで気道炎症がみられた.濃度を 0.5,2,8,
なかった 9).
12 ppm に変えたラットへの 4 週間の吸入曝露では,0.5,
2 ppm 群では,影響はなかったが,8,12 ppm 曝露群
で気道損傷が見られ,その程度は濃度依存的であった.
3)
4.許容濃度の提案
慢 性 曝 露 の NOAEL は 確 認 で き な い が, 最 も 低 い
よって NOAEL は,2 ppm となる .
LOAEL 報告値は,雄ラットでの吸入実験から,鼻腔
3)慢性毒性試験,発がん性試験
粘膜病変や良性鼻腔腺腫を起こした 0.1 ppm であった.
SD ラットの雄,雌各 140 匹/群に,0,0.5 ppm で,
ラットはマウスよりも鼻腔腫瘍が発生しやすいとされ,
6 時間 / 日,5 日 / 週,2 年間の吸入曝露を行った.ま
かつ高濃度曝露実験から雄が発症しやすい結果も示さ
た,5 ppm で,6 時間 / 日,5 日 / 週,7 か月間の吸入
れている 6) ことから,0.1 ppm より低い LOAEL は考
後,濃度を 2.5 ppm に下げ 5 か月間の,計 1 年間の吸
えにくい.ヒトへの推定に際し,LOAEL から NOAEL
入曝露を行い,その後,12 か月曝露なしで経過を見た.
の不確実性係数を 5,種差の不確実性係数を鼻腔病変で
0.5 ppm 群では,良性鼻腔腺腫が,雄で 25%(p<0.05),
あることから dynamics を考慮して 2.5,さらに動物実
雌で 18%(p<0.05)に見られ,鼻腔の悪性腫瘍が,雄
験での発がん性を考慮した不確実係数 5 を加味すると
で 8.5%(p<0.05),雌で 1.6%に見られた.5 ppm 群で
0.0016 ppm となることから,許容濃度として 0.002 ppm
は,雄,雌とも 88%(p<0.05)に,鼻腔の悪性腫瘍が
を提案する.微生物変異原性とともにマウス,ラットで
見られた.鼻腔の悪性腫瘍の種類は,腺癌,扁平上皮癌,
発がん性が認められたが,ヒトにおける発がん性は確認
癌肉腫,横紋筋肉腫であり,多くは頸部リンパ節や肺に
できていないことから,発がん性分類は第 2 群 B とする.
転移していた 5).
雄 SD ラットに,0(160 匹),0.1(150 匹),0.3(150
5.諸外国の勧告
匹),1 ppm(128 匹)で,6 時間 / 日,5 日 / 週,19 か
USEPA は,ラットの発がん結果から,0.005 ppm 曝
月間,吸入曝露した.その後,5 か月曝露なしで経過を
露の労働者の生涯発がんリスクを 8×10−3 としている.
見た.動物を経時的に解剖し気道,リンパ節,脳の病理
この結果から,ACGIH は 0.005 ppm(skin)を採用し,
所見を観察した.粘膜萎縮,基底細胞過形成などの鼻腔
また発がん分類は A2 としている 2).IARC は,人にお
の非腫瘍性病変は,1 ppm 群で 3 か月後,0.1,0.3 ppm
ける発がんの証拠はないとしてグループ 3 に分類してい
群で 12 か月後に見られた.良性鼻腔腺腫は,1 ppm 群
る 10).DFG11)の MAK は許容濃度の報告はないが,経
で 10 か月後に,0.3 ppm 群で 12 か月後に,0.1 ppm 群
皮吸収有,発がん性分類を 2 としている.
で 19 か月後に見られた.それらの発生率(死亡率で補
正 し た 生 涯 腫 瘍 発 生 率 ) は,1 ppm 群 で 82.2 %(p<
0.05),0.3 ppm 群で 30.1%(p<0.05),0.1 ppm 群で 7.6%
6.勧告の履歴
2015 年度(新規提案) 許容濃度 0.005 ppm
(p<0.05)であった.鼻腔の悪性腫瘍(主に腺癌)は,
発がん性分類 第 2 群 B
12 か月後に 1 ppm 曝露群で,19 か月後に 0.3 ppm 曝露
群で,17 か月後に 0.1 ppm 曝露群で発生したが,有意
な増加は 1 ppm 群(88.8%)のみであり,0.3 ppm 群は
6%,0.1 ppm は 1.2%の発生率であった.良性の鼻腔腺
腫は鼻腔の呼吸部,悪性腫瘍は鼻腔の嗅部に発生してい
た.肺腫瘍の発生が少数に見られたが,有意な増加はな
かった.よって LOAEL は,鼻腔に非腫瘍性病変と良性
鼻腔腺腫の発生がみられた 0.1 ppm と推定される 6).
4)変異原性試験
Salmonella typhimurium の復帰突然変異試験は,陽
性であり,S9mix の添加で変異原性は増強した.しかし,
文 献
1)初期リスク評価書 No.26(初期)1, 4- ジクロロ -2- ブテン
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8)Vogel E. Mutagenicity of chloroprene, 1-chloro-1,3trans-butadiene, 1-4-dichlorobutene-2 and 1,4-dichloro-2,3epoxybutane in Drosophila melanogaster. Mutate Res
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テトラヒドロフラン
C4H8O
[CAS No. 109-99-9]
許容濃度 50 ppm(148 mg/m3)(皮)
別名 ジエチレンオキシド,テトラメチレンオキシド,
オキソラン,tetrahydrofuran,THF
1.物理化学的性質ならびに用途
分子量 72.10,融点−108.5℃,沸点 66℃,飽和蒸気圧
21.6 kPa(25℃),比重 0.8892,引火点−14.5℃ 1).常温
常圧では無色透明の液体.水に溶け,またアルコール・
エステル・芳香族炭化水素・塩化脂肪族炭化水素など
多種の有機溶剤に容易に溶けるエーテル様の臭いがあ
り 2),においの感知下限は 2 ppm3) あるいは 2.5 ppm4)
と報告されている.分子量 72.10.
市販品には酸化防止剤(内容不明)0.025% を加える
か,不活性ガスを封入して安定化したものがある 2).
塩化ビニル系樹脂その他の各種樹脂の溶剤,印刷用イ
ンキの溶剤,保護コーテイング用溶剤,抽出溶剤,ペイ
ント・リムーバー,各種有機合成反応の反応相などに用
いられる 2).
2.吸収,代謝,分布,蓄積,排泄
日 本 人 男 子 計 61 名, 女 子 計 9 名 の 志 願 者 を 100 ∼
400 ppm の間の 6 濃度の THF に 6 分間曝露して THF
の呼気中濃度/曝露濃度比を求めた実験によれば,比は
男子で 35%,女子で 27% であった.また男子各 5 名を
50,200 ppm × 3 時間× 2 回曝露した場合の比は 40%
であった 5).
志願者(男子 10 名)を 50,200 ppm の THF に 3 時
間曝露し,呼気中の THF 濃度と曝露 THF 濃度と比較
した実験では曝露開始 30 分後(第一回測定)から実験
終了に到る間,呼気中濃度/曝露濃度の比は著変を示さ
ず,50 ppm では 41.7%,200 ppm では 38.3% と曝露濃
度とはほぼ無関係に 40% 前後の値を示した 6).
剃毛したラットの体表面の 10% に THF を塗布すると
死亡例が認められ 7),液体の経皮吸収性は大きいと推定
された.しかし志願者 4 名(性別不明)に 150 ppm の
THF 蒸気への 4 時間全身曝露(従って呼吸器からの曝
露と皮膚からの曝露の和)および皮膚のみの曝露を受け
させて総曝露量に対する経皮曝露の割合を推定した研究
の場合,血中濃度,呼吸中濃度,尿中濃度に基づく推定
ではそれぞれ 3.3 ∼ 5.9%,0.4 ∼ 2.6%,0.5 ∼ 4.0% であり,
蒸気曝露に伴う経皮吸収は無視できる 8).
試験管内実験によれば THF はミクロソーム局在性
酵素によって環の酸素の隣接する炭素の酸化(水酸基
の生成)を受け,ついで可溶性分画の存在下にその炭
素と酸素の間で環開製を受けて γ - ヒドロキシ酪酸とな
る 9).この反応の in vivo での意義は未詳であるが大量
の THF を経口摂取した患者の尿からは THF を上廻る
濃度の γ - ヒドロキシ酪酸が検出されている
10)
.
試験管内実験によれば THF はデオキシアデノシン,
デオキシグアニンおよびデオキシシトシンと付加体を形
成する 11).
THF 4,167 ppm × 6 時間/日× 5 日間反復曝露によ
り肝ミクロソームの P450 増加,脱アルキル酵素活性の
上昇がもたらされるが,P450 による代謝をアミノベン
ゾトリアゾールで抑制すると,これらの変化は増強され
る.この所見から肝細胞の変化は THF の代謝物でなく,
THF 自体による結果と推定された 12).
ラ ッ ト を 0,200,1,000,2,000 ppm の THF に 6 時
間/日× 5 日/週× 2 ∼ 18 週反復曝露すると,長期間
曝露とともに脳および腎周囲脂肪中の THF 濃度は相対
的に低くなる.同時に第 2 週以降では肝および腎の 7エトキシクマリン -O- 脱メチル酵素活性が上昇してお
り,THF 濃度の相対的低下は代謝酵素の誘導によると
推定された 13).
THF は in vitro で 添 加 す る と 0.01 ∼ 8.4 mM (0.72
産衛誌 57 巻,2015
∼ 606 mg/l) の 濃 度 で 肝 ミ ク ロ ソ ー ム( エ タ ノ ー ル
投与ラットより調製)の O- 脱アルキル反応を阻害す
る 14).
185
ない 19).
THF・シクロヘキサノン混液,又はアセトンを用い
て塩ビパイプを洗浄する作業(溶剤蒸気濃度不明)に
ラットに THF 0.1 ml(推定約 900 mg)を腹腔内投
3 か月間従事していた 41 才の男子作業者では,嗅覚が
与した実験では,THF の濃度は血液>腎>脳>脂肪組
著しく低下しまた異常な臭い(ことに不快臭)を覚え
織>筋肉の順を示した.投与量の約 40% が 24 時間以内
るようになった.7 か月の受診期間中も改善を見なかっ
に未変化のまま呼気中に排出され,その生物学的半減期
た 20).
は約 140 分であった.尿中への未変化体排泄は 0.1% に
とどまった 15).
抗うつ剤(fluoxetine)・睡眠剤(zolpidem)とともに
THF を意図的に経口摂取(摂取量不明)した 55 才の女
性は救急入院時には深い昏睡状態にあり両眼は散瞳して
3.ヒトに対する影響
いた.入院時に食道と胃の炎症が認められた.格別の
THF は PVC(塩化ビニルポリマー樹脂)用接着剤と
治療を要せずに 2 日後に意識は一部回復,昏睡状態・幻
して多用されるため,建築工程の中で THF 曝露が見出
覚発生を経て入院 8 日後に後遺症なく退院した.入院時
される
16)
.
に採取された血清から THF と γ - ヒドロキシ酪酸が 813
プラスチック・パイプの配管作業に従事し,接着剤
mg (11.3 m mol),239 mg (2.3 m mol)/l,尿中から
として用いた THF に曝露された 2 症例が報告されてい
は 850 mg(11.8 m mol),2,977 mg(28.6 m mol)/l 検
る(同一職場であるか否かは不明).第 1 例は 35 歳の男
出された 10).
子で,狭い空間でのプラスチック・パイプ修理作業に 3
我 が 国 で の THF 曝 露 作 業 者 調 査 例 と し て は 堀 内
日間従事し,悪心,頭痛,視力低下(ぼやけて見える),
ら 21)・堀口ら 22) の報告があげられる.堀内ら 21) は
眩暈,胸部痛および咳を覚えて受診した.聴診により胸
塩ビ・ホースの接着作業に従事してした作業員男子 33
部にラ音を認めたが胸部 X 線所見で異常なく,また心
名・女子 17 名の調査を行った.この作業では接着剤と
電図にも異常を認めなかった.しかし AST・ALT は正
して THF と少量のメチルエチルケトン(MEK)が用
常値上限の 3 倍の高値を示した(数値記載なし).症状
いられ,検知管を用いた測定によれば作業環境からは
は 2 日後には消褪,AST・ALT も 2 週間後には正常に
THF 500 ∼ 1,000 ppm,MEK 20 ∼ 300 ppm が検出さ
復した.飲酒癖はなく,A 型肝炎・B 型肝炎感染は除外
れた.自覚症状としては頭重・眩暈・下肢倦怠感・胃
されている.第 2 例は 55 才の男子で,狭い空間でのプ
症状(内容不明)を訴える作業者が多く(30 ∼ 70%),
ラスチック・パイプ修理作業に数時間従事したのち,頭
ALT 上 昇〔40 単 位 以 上: 男 子 4 名(12%), 女 子 1 名
痛,眩暈,胸部痛,呼吸困難,上腹部痛を覚えて受診し
(6%)〕(但し AST 上昇例なし),肝縁を觸れる例〔1 横
た.受診時には異常所見は見出されなかったが,翌日
指以上:男子 6 例(18%),女子 2 名(12%)〕を認めたが,
AST,ALT,γ -GTP はそれぞれ正常値上限の 25,15,
THF 曝露との関係は明らかではなかった.
9 倍の高値を示した(数値記載なし).これらの値は 2
同じ工場での 3 回にわたる追跡調査
22)
では THF 最
週間以内に正常に復した.ウイルス肝炎は除外されてい
高 1,000 ppm,MEK 300 ppm が検出された.作業者で
ない 17).
は頭重・頭痛が男子の 46 ∼ 73%,女子の 57 ∼ 61% に
プラスチック・パイプの配管作業に従事して THF
みられ,さらに胃症状(内容不明)が多発(男子 50 ∼
389 ∼ 737 ppm と MEK 3.9 ∼ 5.0 ppm に 1 回 15 分 程
60%,女子 30 ∼ 40%)していたが,THF 曝露との関連
度の曝露を反復して受けていた 28 才の男子自営業配管
は明らかではなかった.
工に,自己免疫性糸球体腎炎が見出されたが THF 曝露
との因果関係は明らかにされていない 18).
堀口 23) は高分子化学研究室で紡糸実験中に THF 反
復曝露(濃度不明)を受けた 4 名の研究者(男子と推
エンフルラン(2- クロロ -1,1,2- トリフルオロエチルジ
定される)について報告している.これらの研究者は
フルオロメチルエーテル)は化学構造がハロセンに類似
THF を使う実験をはじめてから体調不良を覚え,不
した麻酔剤であるが,急性虫垂炎に対する手術のためこ
眠・疲労感を訴えるようになった.4 名中 2 名には白血
の薬剤を用いて 45 才の男子に麻酔を行ったところ,癲
球数低下(最も低い値で 2,000 細胞 /mm3)を認めたが,
癇様の痙攣発作を見た.原因と想定される要因はなく,
約 2 年後に回復した.ベンゼン高濃度曝露は否定されて
この麻酔に先立って約 2 週間前から患者は排気設備のな
いる.
い狭い場所で THF を取扱っており,手術の前週には頭
ビデオテープ製造工場の A,B,C の 3 職場では THF
痛と強い疲労感を覚えたことがあった.この THF 曝露
を含む 4 溶剤の混合曝露が観察され,拡散型サンプラー
がエンフルラン麻酔にともなう痙攣発作に関係している
による時間荷重平均値は A 職場では THF,MEK,ト
可能性が疑われているが,因果関係は明らかにされてい
ルエン,シクロヘキサノンの順に 6.9,67.6,10.1,0.92
産衛誌 57 巻,2015
186
ppm(いずれも個人測定値の平均),B 職場では 22.3,
群で曝露開始 1 週間後に気道粘膜の繊毛運動が低下
127.5,13.2,5.16 ppm,C 職 場 で は 8.6,10.7,1.7,9.1
し,さらに 3 週間後には気管粘膜上皮の胚細胞分泌顆
ppm で,3 職場を通じての最高濃度は THF 40.0 ppm,
粒の形状変化や分泌亢進を示す所見,および上皮細胞
MEK 426 ppm,トルエン 54.3 ppm,シクロヘキサノン
層において軽度の細胞間隙拡大が認められた.また鼻
17.2 ppm であった.曝露作業者 19 名(男子)と非曝露
粘膜では上皮細胞に著明な空胞変性や高電子密度顆粒
作業者 26 名(クレーン・フォークリフト運転に従事す
の増加,繊毛の脱落,細胞間隙の軽度拡大などの形態
る男子港湾労働者)の比較によれば,曝露群では頭痛
学的変化が観察された 35).
(26% 対 0%),眼の刺激(21% 対 0%),鼻の刺激(21%
ラ ッ ト を 0,100,200,1,000,5,000 ppm の THP
対 0%),咳(26% 対 4%),焦燥感(26% 対 4%)が有意
に 4 時間/日× 5 日/週× 12 週反復曝露した実験の
(p<0.05)に多発していた.サンタ・アナその他の神経
場合,100 および 200 ppm 曝露では気道粘膜の刺激
行動学的試験では有意差を示す項目があったが,いずれ
症状を認めたが,体重増加・血清生化学所見には異常
も曝露濃度との対応を示さなかった
24)
.
を認めなかった.しかし 1,000,5,000 ppm 群では気
道粘膜上皮の変性・脱落に加えて,血清生化学的には
AST および ChE(従って pseudo ChE)の軽度上昇
4.動物に対する影響
(但し推計学的には有意 ; p<0.05)が観察された 36).
(1)急性毒性
ラットに対する経口 LD50 としては生後 14 日の個体 ;
雌 雄 の ラ ッ ト・ マ ウ ス を THP 0,66,200,600,
体重 80 ∼ 160 g の幼若個体および体重 300 ∼ 470 g
1,800,5,000 ppm に 4 時 間 / 日 × 5 日 / 週 × 13 週
の成熟個体でそれぞれ 2.0,3.2,2.8 g/kg と報告され
[National Toxicology Program(NTP) ]によれば
ている
25)
.
37)
14 週]反復曝露した実験によれば,5,000 ppm 群の
ラットの腹腔内投与による LD50 は 2 ∼ 3 g/kg,3
ラットでは運動失調が,1,800,5,000 ppm 群のマウス
時間蒸気曝露による LC50 は 21,000 ppm といずれも
では麻酔状態が観察されたが,死亡例は発生しなかっ
.3 時 間 曝 露 の 場 合 200 ppm
た.剖検により 5,000 ppm 群ではラット・マウスに
で は 鼻・ 眼 の 軽 い 刺 激 症 状 を 認 め る 程 度 で あるが
胸腺と脾臓の重量低下,ラットと雌マウスに肝重量増
5,000 ppm では角膜浮腫・流涎・鼻粘膜出血・昏睡・
加,雌・雄のマウスに小葉中心性の肝細胞肥大,雌マ
痙攣を認めた 26).
ウスに子宮萎縮と副腎皮質の変質を認めた.肝が主要
低毒性を示唆する
26)
THF には強い麻酔作用がある
27)
.マウスを 1.1%,
6.7% の蒸気に曝露すると 43 分,5 分後に麻酔が始ま
り,109 分,30 分後には死亡する
28)
.
ラットを 6.5% 蒸気に 1 時間曝露した場合麻酔を生
じ,肝の脂肪変性が観察された
29)
.しかしモルモッ
標的臓器であったが,肝の形態学的変化はマウスでの
み見出された.600 ppm 以下の曝露では明らかな変
化は認められなかった 37,38).
ラ ッ ト を THF 0,500,1,500,3,000 ppm に 6 時
間/日× 5 日/週× 14 週反復曝露した実験では 1,500,
トに 500 mg/kg 腹腔内投与した実験ではオルニチン
3,000 ppm で聴覚刺激に対する反応が低下したが,曝
カルバミルトランスフェラーゼの活性上昇は軽度であ
露の反復によって反応低下がより顕著になる傾向は認
り,肝毒性は弱いと判断された 30).
められなかった.体重増加は 3,000 ppm でやや減少
ウ サ ギ を 100,250,1,000,6,000,12,000 ppm の
する傾向を認めたが,推計学的には対照群に比して有
THF に 4 時間曝露した実験では気道粘膜繊毛運動
意差を示さなかった.14 週反復曝露による NOEL は
機能は 100 ppm 群でも低下したが,曝露中止 40 分
500 ppm と判断された 34).
後には回復した.250 ppm 群でも障害は軽度であっ
(3)発がん性
た.10,000 ppm あるいはそれより高濃度での曝露で
米国 NTP では THF の発がん性に関する動物実験
は繊毛運動の回復が遅れ,かつ形態学的異常を認め
を行った 38,39).この実験では各群雄・雌各 50 匹(計
た 31-33).
100 匹)の F344 / N ラットと B6C3F1 マウス(従っ
ラットを THF 0,500,2,000,5,000 ppm × 6 時間
て一投与群当り 200 匹)を 0,200,600,1,800 ppm
1 回曝露した実験では 2,000,5,000 ppm で聴覚刺激に
の THF に 6 時間/日× 5 日/週× 105 週反復曝露し
対して鈍感になり,昏睡状態に陥った.マバタキの
た.雄ラットでは 0,200,600,1,800 ppm 群で腎尿
頻度が落ち,正向反射は低下ないし消失した.NOEL
細管上皮の腺腫が 1/50(病変ラット数/全ラット数),
は 500 ppm と判断された 34).
1/50,4/50,3/50, が ん が 0/50,0/50,0/50,2/50
(2)反復曝露時の毒性
(Bruner ら 40)の判定では 2/50,1/50,3/50,5/50)
ラットを 0,100,5,000 ppm の THF に 4 時間/日
腺腫+がんが 1/50,1/50,4/50,5/50 検出(Bruner
× 5 日/週× 3 週間反復曝露した実験では 100 ppm
ら 40) の の 判 定 で は 0/50,0/50,0/50,0/50) さ
産衛誌 57 巻,2015
187
れ,600 お よ び 1,800 ppm で の 腺 腫+ 腺 が ん の 発 生
相当した.但し飲水量は高濃度ほど低下し,また 9,000
率は歴史的対照群での値(背景値 : 0-4%)に比べて
ppm 群では摂餌量および体重はともに減少した.9,000
上昇していた.雌ラットでは腫瘍発生増加は観察さ
ppm 群では F1 および F2 世代とも児動物の体重増加
れなかった.また雌雄とも THF 曝露に関連すると思
は抑制され,また F1 では開瞼が遅延した.しかし催
われる非腫瘍性病変は認められなかった.雌マウス
奇形性は見出されなかった 46).
では肝の腺腫が 12/50,17/50,18/50,31/50,がん
ラット・マウスをそれぞれ妊娠 6 ∼ 19 日および
が 6/50,10/50,10/50,16/50,腺腫+がんが 17/50,
6 ∼ 17 日 の 間 THF 0,600,1,800,5,000 ppm に 6
24/50,26/50,41/50 検出され,1,800 ppm 群での腺
時間/日× 7 日/週(連日)反復曝露した実験では,
腫,がん,腺腫+がんの増加は有意(p<0.05)であっ
5,000 ppm 群では母ラットの体重減少と母マウスの死
た (背景値:それぞれ 0-40%,0-30%,3-54%).雄
亡例発生を認めた.5,000 ppm 群では胎児ラットの体
マウスには THF 曝露に関連した腫瘍発生増加は認め
重低下,1,800 ppm 群で吸収胚の増加を生じた 47).
られなかった.また雌雄マウスとも THF 曝露に関連
した非腫瘍性病変は検出されなかった.以上の所見か
(5)遺伝毒性
TA100 を 用 い た Ames 試 験
48)
,G46,TA1535,
ら THF の発がん性について雄ラットではある程度の
TA100 WP2,WP2uvrA-(ベース・シフト型 5 株),
証拠(some evidence),雌マウスでは明らかな証拠
C3076,TA1537,D3052,TA1538,TA90( フ レ ー
(clear evidence)があると結論された.
この NTP 実験の補足として,雄 F344 ラットおよ
ム・シフト型 5 株)の菌株を用いた Ames 試験 49),
TA100,TA1535,TA1537,TA98 を 用 い た Ames
50)
び 雌 B6C3F1 マ ウ ス( 各 群 6 ∼ 10 匹 ) を THF 0,
試験
200,600,1,800 ppm に 6 時間/日× 5 日間又は 6 時
た Ames 試験および CHO 細胞を用いた in vitro で
間/日× 5 日/週× 4 週反復曝露した実験が行われて
の染色体異常試験と姉妹染色分体交換試験 37)でいず
いる.1,800 ppm 群の雌マウスでは曝露に伴って肝細
れも S9-mix 添加の有無にかかわらず陰性,シリアン
胞は拡大し,P450 の増加が見られた.但しこれらの
ハムスター胚細胞を用いた in vitro での小核試験 51),
変化は曝露の中止によって回復した.また雄ラットで
マウスを用いた in vivo での骨髄染色体異常試験と小
は腎皮質の α 2u- グロブリンが増加し,この変化は曝
核試験 37,52)でいずれも陰性であった.
グロブリンは腫瘍発生に先行する変化であることが他
における変異原性は培養液への THP 添加(25 µ l/ プ
の化学物質を用いた実験で見出されている.200 ppm
レート)によって増強された 53).
露の中止によっても回復しなかった.因みに腎の α 2u-
,TA98,TA100,TA1535 と TA1537 を用い
変異原である Trp-P-1 および Trp-P-2 の Ames 試験
およびそれ以下の曝露群ではラット・マウスともにこ
れらの変化は観察されなかった.これらの所見に基づ
いて THF 曝露の場合,細胞増殖が先行して発がんに
到ると推定されている
41,42)
.
5.許容濃度の提案
1978 年設定の許容濃度 200 ppm は 500 ∼ 1,000 ppm
の THP 曝露を受けている労働者での自覚症状増加
21,22)
その後 雄ラット腎腫瘍の発生機構についての専門
を引用し,かつ動物実験では高濃度曝露に伴って粘膜刺
家グループの検討によれば雄ラットに見られた重症ま
激作用∼麻酔作用が認められること紹介して「十分な量
たは末期の慢性進行性腎障害(chronic progressive
の情報ではないが当面の値」として提案されている.
nephropathy: Hard と Seely43))あるいは α 2u- グロブ
その後の研究によってヒトでも低濃度では気道や眼の
リンの過度の集積が腎腫瘍発生の原因となった可能性
刺激作用,高濃度では中枢神経抑制作用があることが確
が最も大きいが,これらの機構はヒトでは機能しない
認されている.しかし曝露濃度情報を伴っている健康影
のでヒトでの発がんのリスクを意味しないと判断され
響報告は少なく,あるいは示されている曝露濃度の幅が
た 44).また 雌マウスの肝腫瘍については 本来マ
大きいために,ヒト健康影響についての閾値を直接に推
ウスでの肝がん自然発生率は高く ヒトでの肝がん発
定するにはなお十分な情報は得られていない.
生の危険性を検討するモデルには適しないと評価され
動物実験では 1,000 ∼ 5,000 ppm の THP に対する反
45)
復曝露により血清 AST,ChE の上昇,肝重量増加等が
(4)生殖毒性
確認され (例えば 26,38)),聴覚刺激に対する反応の低下
た
.
THF を 0,1,000,3,000,9,000 ppm(0 ∼ 9 g/l)
を指標とした場合の NOAEL は 500 ppm と判断されて
の濃度で添加した飲み水を雄・雌ラットに交配∼離乳
いる 34).他覚所見が記載された最も低濃度の実験は大
の全期間(70 日以上)にわたって与えた二世代生殖
橋ら 35)の成績であって,100 ppm × 3 週間の反復曝露
毒性実験では,THF 摂取量は雄では,0,100,300,
によりラットの気管粘膜胚細胞の分泌亢進・上皮細胞間
700 mg/kg/ 日, 雌 で は 0,100,300,800 mg/kg に
隙の軽度拡大,鼻粘膜上皮細胞の空胞変性・細胞間隙の
188
軽度拡大が見出された.この所見に基づき,これらの障
害を示さないことが期待される濃度として許容濃度 50
ppm を提案する.この濃度(50 ppm)あるいはそれよ
りも高い濃度で志願者曝露が行われており 54,55),その曝
露条件下で志願者にどのような自・他覚所見が認められ
たかに興味が持たれるが,この点についての記載は見当
たらない.また,THF 液体の皮膚吸収性が認められる
ことから,皮マークを付して注意を喚起する.
NTP(1998)の発がん試験では上記のように雄ラット
および雌マウスで発がん性を示すある程度の証拠(some
evidence)あるいは明らかな証拠(clear evidence)が
認められたが,これらの所見はいずれもヒトでの発がん
の危険性を示唆しないと考えられており,また雌ラット
および雄マウスでは発がん性を示す所見は得られてい
ない.LOAEL 100 ppm の判定の基礎となった気道と,
発がんが認められた肝・腎とでは標的臓器は明らかに異
なるが,気道に病理組織学的変化を生じさせないと推定
される 50 ppm ではおそらく肝・腎にも変化を生じさせ
ないと期待される.
6.他の機関の設定した許容濃度
ACGIH56) で は テ ト ラ ヒ ド ロ フ ラ ン の TLV-TWA
(時間荷重平均)として 50 ppm を示している.また
DFG57)では MAK(時間荷重平均)として 50 ppm(150
mg/m3)を示している.
発がん性および変異原性に関する情報に基づいて,
ACGIH56)は THF の発がん性を A3(実験動物での発が
ん性は確認されているがその所見のヒトに対する意義に
ついては明らかでない物質),DFG57)は Category 4(実
験動物での発がん性は変異原性には基づいていない作用
機構によるもので MAK および BAT が守られていれば
ヒトに対する発がんのリスクは有意でない物質)に分類
している.因みに日本産業衛生学会 58) および IARC59)
は THF の発がん性については分類していない.
7.勧告の履歴
2015 年 度( 改 定 案 ) 許 容 濃 度 50 ppm(148 mg/m3)
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二硫化炭素
CS2
[CAS No.75-15-0]
1 ppm(3.13 mg/m3)(皮)
生殖毒性分類 第 1 群
1.物理化学的性質ならびに用途
常温では気化しやすい無色の気体.融点−111.5℃,
沸点 46.5℃,飽和蒸気圧 48.2 kPa[≒ 362 mmHg(25℃,
1 気圧]1).分子量 76.14.
ビスコース・レーヨン用溶剤,ゴム加硫促進剤 など
の用途がある 2).
2.吸収,代謝,分布,蓄積,排泄
二硫化炭素は蒸気が呼吸器から吸収されるほか ウ
サギを用いた実験によれば蒸気は経皮的にも吸収され
る 3).また水溶液に志願者の手を漬けた実験では健康な
皮膚からも吸収されることが報告されている 4).
体内ではグルタチオン抱合その他の抱合反応を受け代
謝物の一部は尿中に 2- ジチオチアゾリジン -4- カルボキ
シル酸(2-dithiothazolidine-4-carboxylic acid:TTCA)
として排泄される 5).
体外への排泄は早く,曝露後のヒトの血中濃度は 2 時
間以内に消失する 6).尿中 TTCA の生物学的半減期は
約 4 時間と推定される 7).35-45 ppm の濃度曝露では蓄
積が観察されている 8)が,6-11 ppm の職場では週末に
向かっての蓄積は無いことを示唆する報告がある 9).
3.ヒトに対する影響
3.-1 心血管系,眼底毛細血管,および脂質代謝に対する
影響
Vanhoorne et al.10) はビスコース・レーヨン工場に
勤務し 4-112 mg/m3(1.4-35.8 ppn)の二硫化炭素曝露
を受けている男子作業者 115 名と非曝露者 76 名を比較
して二硫化炭素作業者では収縮期血圧 / 拡張期血圧=
130.0/74.3 で非曝露者での 124.0/69.2 に比して上昇(p<
0.05)していると報告した.
Chang et al.11)によれば ビスコース・レーヨン工場
で算術平均 14.7 ppm の二硫化炭素曝露を受けている 男
子 251 名の ECG 異常(期外収縮,左室肥大など)所見
率(25.9%)は非曝露群男子 226 名での率(2.7%)に比
して高率であった(OR=12.8; 95%CI 5.4-30.2).
Kornith et al.12)はビスコース・レイヨン工場に勤務
する作業者 325 名(二硫化炭素曝露濃度 6.0 ppm; 算術
平均か幾何平均か不明)と非曝露者 179 名(ともに性別
不明)を比較した研究で 心血管機能に差を認めなかっ
た.
Takebayashi et al.13)はビスコース・レーヨン工場に
勤務し調査期間中(6 年間)に幾何平均 5.0 ppm の二硫
化炭素曝露(平均尿中 TTCA 濃度 1.6 mg/gCr)を受け
ている男子作業者 391 名(調査終了時の平均曝露年数
19.3 年.6 年間作業継続者 251 名,工場閉鎖により調査
期間中に曝露が中断した者 140 名)と非曝露者 359 名
を 6 年間観察し,負荷心電図による虚血性所見(ST 低
下・陰性T波など)の調整済み発生オッズ比は,6 年
間作業継続者群で 2.1(95%CI 1.1-4.0)と上昇していて
許容濃度 10 ppm でも心血管疾患のリスクは高まって
いること,6 年間の尿中 TTCA 濃度の四分位でグルー
プ分けすると,最も高い TTCA 濃度群(6 年間の平均
尿 中 TTCA3.6 mg/gCr, 対 応 す る 平 均 CS2 曝 露 濃 度
8.7 ppm)でのみ調整済み発生オッズ比 4.2(1.8-9.7)と
産衛誌 57 巻,2015
191
有意な上昇を示していたことを報告した.
14)
Kotseva
子 38 名について精神神経科的診察(neuro-psychiatric
は 10 ppm 以下の曝露を受けている作業者
check-up)と自覚症状調査を行い,高濃度曝露群では耳
64 名の血清生化学値を非曝露群 141 名(ともに男女混
鳴(OR=8.22; 95% CI: 2.17-21.19)集中力低下(6.78;
合)の値と比較し,総コレステロール値が上昇していた
2.14-21.19), 短 期 間 記 憶 力 の 低 下(4.59; 1.69-12.44),
と述べた.
性への関心の低下(8.14; 2.19-30.22)の訴えが増加して
15)
Drexler et al.
はビスコース・レーヨン工場に勤務
して二硫化炭素 中央値 4.0 ppm の曝露を受けている
いることを報告した.
de Fruyt et al.23) はビスコース・レーヨン工場で
男子 247 名(対照:非曝露者 男子 222 名)の HDL-C,
3-147 mg m3 (0.95-47.0 ppm)の二硫化炭素に曝露さ
TG,血圧等に有意な変化がないことを報告した.
れ て い る 作 業 者 67 名 に 対 し て Santa Ana dextrality
16)
のビスコース・レーヨン工場勤務者 132
test,Wechsler memory test その他の検査を行い,30
名(性別不明)の調査によればによれば 血清 TG レ
Luo et al.
ppm を越える曝露を受けている作業者では反応速度と
ベルは二硫化炭素濃度が平均 3.5,12.9,30.6 ppm(算
心理運動行動(psychomotor performance)が低下して
術 平 均 と 推 定 さ れ る ) と 高 い 群 ほ ど 血 清 TG > 150
いることを報告した(但し記憶力と注意力には変化は無
mg/100 ml の割合は 40.0,42.2,63.7% と上昇していた.
かった).
但しこの調査では非曝露群での割合は示されていない.
Goddenis et al.24) はビスコース・レーヨン工場に勤
Tan et al.17) はビスコース・レーヨン工場で算術平
務して二硫化炭素<10,10- ≦ 30,>30 mg/m3 (<3.2, 3.2-
均 3.2 ppm の二硫化炭素曝露を受けている 367 名(男
≦ 9.6, >9.6 ppm)に曝露されている作業者 65,54,23
子 252 名,女子 115 名)の所見を 非曝露群 125 名(男
名と非曝露者 66 名について調査を行い,手指の震顫,
子 78 名 女子 47 名)の所見と比較した研究では ECG,
指でのタッピング数,腓腹神経活動電位振幅 などが
TG,総コレステロール,HDL に有意な差を認めなかっ
3.2 ppm 以下の曝露でも影響されている可能性を示唆し
た.
た.
18)
はビスコース・レーヨン工場に勤務
Vasilescu と Florescu25) は 15 mg/m3(4.8 ppm) の
し 5.4-13.0 mg/m (1.7-4.2 ppn)の二硫化炭素に曝露を
二硫化炭素に曝露されている作業者 30 名(作業内容・
受けている男子作業者 91 名と非曝露者 81 名を 2 年間
性別ともに不明)と非曝露者 30 名(男 25 名,女 5 名)
検査し ECG 所見と胸痛を指標に心血管疾患アリの判定
の調査を行い,曝露群では非曝露群に比して尺骨神経運
を受けた比率は OR=2.83(95% CI 1.12-7.14)と上昇
動神経伝導速度(肘─手首)は低下傾向 (55.4 ± 1.7 m/
していることを報告した.但し著者らは過去の高濃度曝
sec 対 57.3 ± 0.9 m/sec; p>0.05)
・知覚神経伝導速度(手
露に起因している可能性を指摘している.
掌─肘)は 有意(p<0.01)に低下(42.7 ± 1.8 m/sec 対
Kotseva et al.
3
二硫化炭素の長期間高濃度曝露により眼底に微細動脈
19)
瘤を生じることが知られている(例えば Goto et al. ).
20)
Omae et al.
58.9 ± 1.3 m/sec)していることを認めた.
Sinczuk-Walczak と Szymczak26)
は 10-35 mg/m3
によれば 1993 年時点で 3.4 ppm の曝露
(3.2-11.2 ppm)の二硫化炭素曝露を受けている作業者
を受けていた男子作業者 432 名での検出率は 8.1% で非
(作業内容と性別不明)116 名と非曝露者 122 名の脳波
暴露者 402 名での 3.4% に比して有意(p<0.01)に高率
であった.
Vanhoorne et al.21) は 男 子 ビ ス コ ー ス・ レ ー ヨ ン
作 業 者[ 二 硫 化 炭 素 曝 露 濃 度 4-112 mg/m3(1.3-35.8
ppm)]と男子非曝露者 123 名の眼科学的調査を行い 10
ppm 以上の非曝露者 81 名の 9.0% に眼底微細動脈瘤を
認めた(非曝露者では 0%).
以上を通観すると 心血管系に明らかな変化を認めた
二硫化炭素曝露濃度は Takebayashi et al.13)の幾何平均
5 ppm と判断される.Omae et al.20)の網膜微細動脈瘤
発生率増加濃度(3.4 ppm)もほぼこれに近い.
3.-2 中枢・末梢神経系に対する影響
Krestev et al.22)はビスコース・レーヨン工場に勤務
して高濃度 [幾何平均 44.4 mg/m3 (14.2 ppm); 97 名]
および低濃度 [幾何平均 5.5 mg/m3 (1.8 ppm); 27 名]
の二硫化炭素曝露を受けている男子 134 名と非曝露群男
α 波を比較し,対照群では変動アリが 63% であったの
に対して 曝露群では 87% と有意に増加していること,
曝露群では頭痛・眩暈・感情不安定・集中困難などの自
覚症状が増えていることを報告した.
Takebayashi et al.27) はビスコース・レーヨン工場
に勤務する男子作業者 432 名,男子非曝露者 402 名の
末梢神経伝導速度測定と自覚症状調査を行い,高曝露
作業群(紡糸・精錬作業者:平均作業従事年数 13.8 年,
調査時の二硫化炭素曝露濃度は,Takebayashi et al.28)
の Fig. 2 から 7 ppm と推定される)の正中神経の運動
神経伝導速度,順行性知覚神経伝導速度,逆行性知覚
神経伝導速度(m/sec)はいずれも有意に低下してい
る(調整済みの非曝露群との差−1.94: 95%CI −2.51 ∼
−1.38),( −0.91: −1.62 ∼ −0.21),( −1.15: −1.83 ∼
−0.46)のに対し,低曝露作業群(平均作業従事年数
12.6 年,調査時の二硫化炭素曝露濃度は,Takebayashi
産衛誌 57 巻,2015
192
et al.28)の Fig. 2 から 3.7 ppm と推定される)では有意
± 4.4,43.7 ± 5.1,43.4 ± 4.8,41.8 ± 4.5 と低濃度群で
な低下が観察されないこと,同様に,高曝露群では,手
も有意(p<0.01)な低下を示し,腓腹神経(知覚神経)
のだるさ・握力低下,皮膚の知覚過敏,皮膚のあれの訴
で は 41.8 ± 3.4,41.2 ± 5.2,39.8 ± 3.7,40.5 ± 3.0 と
えが,交絡因子調整後も有意に増加していることを報告
中濃度群(p<0.01),高濃度群(p<0.05)で有意な低下
した.
を示した.
29)
はビスコース・レーヨン工場で二
Hirata et al.34)はビスコース・レーヨン工場で算術平
硫化炭素 10 ppm(中央値)以下の曝露を受けている作
均 4.76 ppm の二硫化炭素曝露を受けている作業者 24 名
業者(性別不明)と非曝露者男子 191 名の腓骨神経(運
と非曝露者 26 名(いずれも日本人なので男子と思われ
動神経)伝導速度を測定し,非曝露群の中央値(最小∼
る)の末梢神経伝導速度測定を行い,腓腹神経(知覚神
最大)(m/sec)49.08(34.30 ∼ 58.6)に比して曝露群で
経)の伝導速度(算術平均±算術標準偏差 m/sec)が非
は 48.00(35.50 ∼ 58.80)とわずかに低下していること
曝露群 53.4 ± 4.96 に対し曝露群では 49.1 ± 4.82 と有意
Reinhardt et al.
を報告した.
(p<0.01)に低下していることを報告した.尺骨神経(運
Reinhardt et al.30)はビスコース・レーヨン工場で二
硫化炭素 0.2-65.7 ppm(中央値 4.02 ppm)の二硫化炭
動神経)伝導速度には 54.9 ± 3.57 対 53.8 ± 3.56 と有
意差を認めなかった(p>0.05).
素曝露を受けている作業者 222 名と非曝露者 191 名の臨
Hirata et al.35) は二硫化炭素平均 1.45 ppm(作業内
床診断学的所見(歩行異常,筋痙攣など)および自覚症
容不明)の曝露を受けている男子作業者 70 名と男子非
状頻度を比較し,いずれの検査でも二硫化炭素曝露群と
曝露者 70 名の尺骨神経(運動神経)伝導速度(算術平
非曝露群の間に有意差を認めなかった.
均±算術標準偏差 m/sec)を比較し,非曝露群の 63.2
Nishiwaki et al.31)はビスコース・レーヨン工場で追
跡期間中(6 年間)の幾何平均 4.87 ppm の二硫化炭素
± 6.30 に対して曝露群では 55.6 ± 3.50 と有意(p<0.05)
に低下していることを認めた.
曝露を受けている男子作業者 432 名(6 年間作業継続
末梢神経障害をもたらす二硫化炭素濃度について
者 217 名,工場閉鎖により調査期間中に曝露が中断した
Hirata et al.35)は 1.45 ppm の曝露で尺骨神経(運動神経)
者 125 名)と男子非曝露者 324 名の脳 MRI 所見を比較
伝導速度の低下を報告し,Johnson et al.33)は 1 ppm 曝
し,無症状脳梗塞(silent cerebral infarctions)の頻度
露群でも腓骨神経(運動神経)の伝導速度の有意な低下
が増加するオッズ比(交絡因子調整済み); 95%CI はそ
を報告している.中枢神経に対する影響についてはな
れぞれ 2.27; 1.37 ∼ 3.76,1.33; 0.70 ∼ 2.54 であり,また
お障害を発生させる最低濃度を推定するには所見に乏し
ベースライン時に無症状脳梗塞の所見がない群から所見
い.
が発生する調整済みオッズ比も,同様に,3.38; 1.06 ∼
種々の有機溶剤曝露に伴って 青─黄色覚異常を見る
10.76,2.84; 0.77 ∼ 10.52 と,6 年間作業継続者群におい
ことが報告されている(Iregren et al36))が,二硫化
て,二硫化炭素曝露が無症状脳梗塞を齎す可能性を指摘
炭素の影響については報告によって異なる(Iregren
した.
et al. ).発症したとの報告はいずれもビスコース・
36)
Cirla と Graziano32) はビスコース・レーヨン工場で
レイヨン作業者であるが,曝露濃度としては 1950 年代
平均 20 mg/m3(6.4 ppm)の二硫化炭素曝露を受けて
に 30 ppm,以降次第に低下して 970 年代には 20 ppm
いる男子作業者 50 名と非曝露作業者 50 名の検診を行
(Ruijiten et al.37))あるいは当時の TLV 以下(Raitta
い,腓腹神経(知覚神経)伝導速度測定(算術平均値 ;
et al.37))と記述されていて正確な曝露濃度は知りえな
m/sec)(対照群 51.1; 暴露群 50.1,p>0.05)を含む各
い.
種検査で有意差を認めなかった.
3.-3 内分泌および生殖機能に対する影響
33)
Johnson et al.
はビスコース・レーヨン工場に勤務
Vanhoorne et al.39) は 4-112 mg/m3(1.3-35.8 ppm)
して二硫化炭素(中央値)1.0,4.1,7.6 ppm に曝露を
の二硫化炭素に曝露されている作業者 117 名と非曝露者
受けている男子作業者 26-44,34-60,24-36 名(低濃
66 名(ともに男子と推定される)の血清中テストステ
度群,中濃度群,高濃度群)と合成繊維工場に勤務し
ロン・黄体形成ホルモン・濾胞刺激ホルモン・プロラク
て二硫化炭素 0.2 ppm に曝露を受けている男子作業者
チンの濃度を比較し,曝露群ではプロラクチン濃度が有
104-198 名(対照群)(項目によって人数が異なる)の
意に高いが,曝露群を低濃度群と高濃度群に分けると低
電気生理学的検査所見を比較した.尺骨神経(運動神
濃度群の方が高いことを報告した.
経)の伝導速度(m/sec: 算術平均±算術標準偏差)は
Takebayashi et al.28)はビスコース・レーヨン男子従
対照群,低濃度群,中濃度群,高濃度群で 56.9 ± 6.7,
業員 432 名と男子非曝露者 402 名の空腹時血清中各種ホ
55.5 ± 6.4,56.8 ± 6.0,55.0 ± 6.6; p=0.62 と変化を認
ルモン(テストステロン・脳下垂体関連ホルモンを含
めなかったが,腓骨神経(運動神経)の伝導速度は 45.3
む)の分析を行い,曝露群で甲状腺ホルモン T4 が有意
産衛誌 57 巻,2015
193
(p<0.05)に低値 (ただし T3 には有意差ナシ)であっ
たが,その他の項目では 両群間に有意差を認めなかっ
溶剤以外の化学物質に対する曝露情報がなく,因果関係
については評価できない.
た.
Meyer et al.40) は<2 ppm,2-10,>10 ppm の二硫
化炭素に曝露(作業内容不明)を受けている作業者 22,
4.動物に対する影響
4.-1 慢性毒性
27,18 名と非曝露者 89 名の精液(48 時間禁欲後)調査
ラ ッ ト( 系 統 不 明 albino と 記 載 ) 二 硫 化 炭 0,100,
を行い,精液量・精子数のいずれにも有意差を認め無
200 mg/m3(0,32,64 ppm)に 8 時間 / 日,5 日 / 週,
かった.
6 か月間曝露した実験では,64 ppm 群で心筋細胞の変
Ma et al.41) は 10.9 mg/m3(=3.5 ppm)の二硫化炭
性・壊死など心障害を示す所見が得られた 48).
素に曝露 (作業内容不明)を受けている作業者 43 名と
雄・ 雌 の F344 ラ ッ ト を 15,500,800 ppm の 二 硫
非曝露者 35 名の精液調査を行い,曝露群では非曝露群
化炭素に 6 時間 / 日,5 日 / 週,2,4. 8,13 週曝露し
に比して精子数は有意(p<0.01)に少なく,精子の形
た実験 49) では雄・雌ともに 8 週時点で 500 および 800
態異常の率は有意(p<0.01)に高いと報告した.
ppm 群の脊髄頸節レベル側索・前索の神経軸索の膨化
42)
はビスコース・レーヨン工場で
を認め,13 週では変化は後索にも拡大した.末梢神経
二硫化炭素曝露を受けている男子作業者 112 名(0.3-10
Vanhoorne et al.
(脛骨神経を検索)でも 800 ppm,13 週時点で雄雌とも
ppm 43 名,>10 ppm 73 名)と非曝露男子作業者 79
に軸索の膨化が認められた 50).
名の子供の数と先天異常児数の比較を行って有意差を認
4.-2 遺伝毒性
めず,また曝露群 43 名と非曝露群 35 名から提供された
サルモネラを用いた変異原性試験では S9-mix 添加の
精液について精子数などの精子所見に有意差を認めな
有無に拘らず陰性 51,52)であった.
かった.
4.-3 発がん性
Cai と Bao43)はビスコース・レーヨン工場で 11.8-17.9
雌 A/J マ ウ ス に 1,113 mg/m3( 約 356 ppm) に 6 時
ppm の二硫化炭素曝露を受けている女子作業者 173 名
間 / 日,5 日 / 週,6 か月反復吸入曝露した実験では発
とと非曝露女子作業者 187 名の調査を行い 月経障害の
がん性は確認されなかった 53).
頻度(曝露群 72/173=41.6%,非曝露群 39/187=20.9%)
4.-4 生殖毒性
および妊娠中毒症の頻度 (曝露群 10/74=12.3%,非曝
雄 Long-Evans ラ ッ ト を 0,600 ppm の 二 硫 化 炭 素
露群 3/84=3.6%)がいずれも曝露群に有意(p<0.01 及
に 8 時間 / 日,5 日 / 週,10 週間曝露した実験では 600
び<0.05)に高いことを報告した.
ppm 群の血漿中テストステロン濃度(算術平均)は 1.75
44)
はビスコース・レーヨン工場で 0.5-4.7
ng/ml と 0 ppm 群の 3.45 ng/ml に比して低下した.ま
ppm の曝露を受けている女子作業者 265 名とと非曝露
Zhou et al.
た交尾時間と射精精子数は有意に低下した(ともに p<
女子作業者(製糸工場)291 名の調査を行い 月経痛・
0.05)54).
周期不調・月経過多などの月経障害の頻度は曝露群
3
雌 Wistar ラ ッ ト を 0. 50. 100,200 mg/m (0,16,
95/265=35.9% 非曝露群 53/291=18.3% と曝露群で有意
32,65 ppm)の二硫化炭素に 8 時間 / 日,全妊娠期間
(p<0.01)に高いことを報告した.妊娠中毒症・悪阻・
中曝露した実験では 曝露濃度に対応して胚の死亡率が
自然流産・死産・妊娠期間の延長・先天異常の頻度に有
高かまり,32,65 ppm 群では 0 ppm 群に比して 3 倍,
意差を認めなかっった.
5 倍になった.胎児の奇形率は 0,16,32,65 ppm 群
45)
Le et al.
は 健 康 な 男 子 9 名 か ら 得 た 精 液 を 0,
で 0,5.5,27.2,38.4% であり,水頭症・四肢の変形・
388.1,761.4 µ g/l の二硫化炭素二曝露し,最高濃度では
尾の変形は 32,65 ppm 群で,斜頸は 5 ppm で有意に
精子染色体の数的・構造的異常を検出した.
増加した 55).3.2 ppm,8 時間 / 日の曝露では奇形は発
女性で月経や妊娠に対する影響が観察されていること
46)
から日本産業衛生学会許容濃度等の勧告(2013)
に
生しなかったが生後 18 日での開眼遅延などが観察され
た 56).
従って二硫化炭素は生殖毒性第 1 群に分類される.しか
し 内分泌系・生殖系毒性にについて障害を与える最低
濃度を判断するにはなお情報が十分でなくこの影響に基
5.許容濃度の提案
心血管系および網膜微細動脈瘤発生率の増加は 3.4 な
づいては許容濃度値を提案できない.
いし 5 ppm で認められている.末梢神経障害に関し
3.-4 発がん関連情報
てもっとも低い二硫化炭素濃度で影響が認められた.
大規模なゴム工場での解析によれば 二硫化炭素曝露
Hirata et al.35)は 1.45 ppm 群で尺骨神経伝導速度低下
とリンパ球性白血病発生との間に関連性(OR=15.3,
を,Johnson et al.33)は 1.0 ppm 曝露群で腓骨神経の伝
p<0.001)が検出された 47) が,二硫化炭素曝露濃度や
導速度低下を観察しているが,これらよりも高濃度(6.4
産衛誌 57 巻,2015
194
ppm)の曝露を受けていた事例でも有意な低下を認めな
かったとの Cirla と Graziano の報告
32)
があることを考
慮し,許容濃度として 1 ppm を提案する.
6.他機関の提案値
ACGIH 1 ppm57)
DFG
5 ppm58)
IARC
発がん性について評価対象としていない 58).
7.勧告の履歴
2015 年度(改定案)
許容濃度 1 ppm(3.13 mg/m3)(皮)
1974 年度(改定案)
許容濃度 10 ppm(31 mg/m3)(皮)
1961 年度(新設)
許容濃度 20 ppm(62 mg/m3)(皮)
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無水トリメリット酸
C9H4O5
vitro 実験した結果,20-35 Kd の蛋白と結合した 3).ま
た,U937 細胞を用いた in vitro 実験によると,TMA
は細胞内蛋白よりも血清蛋白との結合が強く,2 型サイ
トカインの分化を引き起こした 4).無水フタル酸等の環
状酸無水物は,ジカルボン酸として尿中に排泄される
が,TMA に関する情報はない 5).
3.ヒトに対する影響
1)急性毒性
曝露作業者で,上気道の刺激症状の発生が報告されて
いる.刺激症状は高濃度の粉塵またはヒュームへの 1 回
曝露で,上気道刺激,咳,鼻汁,および鼻出血等の症状
を発現する 6).
2)亜急性,慢性毒性
免疫学的機序による以下の 5 種類の疾患が報告されて
いる 6-8).
(a)即時型喘息─鼻炎症候群は TMA ハプテンに特
異的な IgE 抗体により発症し,感作された作業者は曝
露後数分以内に喘息 / 鼻炎を発症するが同時に TMAHSA 特異的 IgE 抗体価(IgE 抗体価)が上昇している 6).
(b)遅発型喘息は潜伏期間が数カ月から数年で,曝
露 4 ∼ 12 時間後に咳や喘鳴を発症するが全身症状はな
く,TMA-HSA 特異的総抗体価(総抗体価)の上昇が
見られる 7).
(c)過敏性肺臓炎の特徴をもつ遅発性呼吸器症候群
(Late respiratory systemic syndrome,LRSS)は,曝
[CAS No. 552-30-7]
許容濃度 0.0005 mg/m3
最大許容濃度 0.004 mg/m3,
感作性分類 気道 第 1 群
別名 ベンゼン -1, 2, 4- トリカルボン酸 1, 2- 無水物
Benzene-1,2,4-tricarboxylic acid 1,2-anhydride,
Trimellitic anhydride, TMA, TMAN
1.物理化学的性質ならびに用途
1,2)
分 子 量 192.19, 沸 点 390 ℃, 融 点 165 ℃. 引 火 点
227 ℃, 比 重 1.54, 蒸 気 圧 1.6 × 10−7 Pa(1.2 × 10−9
mmHg)
(25℃),常温常圧では白色,フレーク状の固体.
水(1,036 mg/l,25℃),アセトン,メチルエチルケ
トン,その他の有機溶剤に可溶.容易に加水分解され,
トリメリット酸になる.
耐熱性 PVC 用可塑剤,耐熱性エナメル線ワニス,塗
料,エポキシ樹脂などに使用されている.
露後 4 ∼ 12 時間後に咳,呼吸困難,喘鳴,息切れが起
こり,それとともに関節痛,筋肉痛,倦怠感および発熱
が見られ,血清中の総抗体価,TMA-HSA 特異的 IgE,
IgA,および IgG 抗体価(IgE,IgA,IgG 抗体価)が
6)
高値である .
(d)咳,呼吸困難,喀血,貧血を起こす肺疾患貧血
症 候 群(Pulmonary disease anemia,PDA) は TMA
含有エポキシ粉末を 450℃のパイプに吹き付けていた部
屋でマスクなしで 3 週間作業した時 17 歳と 6 週間作業
した 39 歳男性に発症している 8).
(e)遅発型関節痛筋肉痛症候群は曝露後 3 ∼ 6 時間で
呼吸器症状なしに顕著な倦怠感,関節痛,筋肉痛を起こ
し,総抗体価は高値を示す 6).
いくつかの曝露作業者集団について疫学調査が行われ
ている.
TMA 製造工場で,1976 年から 1987 年までの間,曝
露作業者のうちボランティア 196 名について調査が行わ
れている.33 名(17%)に免疫学的症状,46 名(23%)
が無症状,113 名(58%)に刺激症状がみられ,そのう
ち 16% は総抗体価が低いレベルであった.1981 年の作
2.吸収,代謝,分布,蓄積,排泄
肺 上 皮 細 胞 株 を 用 い て,TMA の 蛋 白 結 合 能 を in
業環境改善に伴って一部の作業に呼吸保護具も導入して
いる.1977-1981 年には 23% に免疫学的症状(喘息・
産衛誌 57 巻,2015
197
鼻 炎 10 名,LRSS6 名, 喘 息・ 鼻 炎 お よ び LRSS2 名,
エポキシ樹脂被覆材を製造している工場では,1979
肺疾患貧血症候群 1 名,遅発型喘息 2 名)がみられた
年において 20 名が TMA 粉末に曝露されていた.この
が,作業環境が改善された以後の 1982-1987 年ではそれ
うち平均 TMA 曝露が 2.1 mg/m3 のオペレーター 1 名
が 8%(喘息・鼻炎 5 名,遅発型喘息 1 名,遅発型関節
と 0.82 mg/m3 の副オペレーター 2 名に LRSS がみられ,
痛筋肉痛症候群 1 名)に減少していた.曝露濃度は不明
彼らの総抗体価は 9,500 ng/ml 以上であったが IgE 抗体
である.総抗体価は無症状の作業者では 8%,刺激症状
価はゼロであった.このうち 2 名は配置転換により,残
を持つ作業者では 16%,免疫学的機序による症状を持
り 1 名は環境改善により,症状は無くなり,総抗体価は
つ作業者では 97%に検出され,LRSS,肺疾患貧血症候
徐々に低下した.鼻炎が 1 名(総抗体価はゼロ,IgE 抗
群,遅発型関節痛筋肉痛症候群を持つもので高値を示す
体価は 1.1 ng/ml)と鼻炎 / 喘息が 1 名(総抗体価はゼ
場合が多く,IgE 抗体価は喘息・鼻炎を持つもので高値
ロ,IgE 抗体価は 5.2 ng/ml),残り 15 名は刺激症状の
を示す場合が多かった 6).
みか無症状でいずれの抗体価の上昇もなかった.1982
上記の工場の作業者 474 名を対象に,1988-1989 年に
年の調査時には新たに 15 名が参加した.このうち 1979
横断調査が行われた.即時型喘息─鼻炎症候群は 12 名
年以前に曝露されていた作業者 4 名中 1 名に喘息(総
で,総抗体価および IgE 抗体価の平均はそれぞれ 13225
抗 体 価 は 3,600 ng/ml,IgE 抗 体 価 は 0.5 ng/ml) が 見
及び 3.70 であった.LRSS は 10 名で,総抗体価および
られた.改善以後に曝露された作業者 11 名には上記の
IgE 抗体価の平均はそれぞれ 15400 及び 0.40 であった.
ような免疫学的機序による症状と総抗体価の上昇はみ
作業種と個人曝露濃度測定結果により全作業者を 5 群に
られなかった.改善された 1979 年から 1982 年までの
分けた.最高濃度群(クラス 1)は<0.00054-6.5 mg/m
3
3
3
で GM 0.17 mg/m , ク ラ ス 2 は 0.0058-0.97 mg/m で
3
3
職種別の平均個人曝露濃度は 0.002-0.18 mg/m の範囲,
3
1982 年は 0.01-0.18 mg/m の範囲であった.1983 年の
3
GM 0.087 mg/m ,クラス 3 の GM は<0.00055 mg/m
時点では喘息の 1 名の症状はなくなり,総抗体価も減少
(n=1),クラス 4,5 はコントロールで GM は<0.00041
した.総抗体価のみ上昇がみられた 1 名では IgE 抗体
3
3
mg/m ,<0.00053 mg/m で あ っ た. 全 対 象 者 474 名
価は検出されなかった.1983 年の平均個人曝露濃度は
中新規参加者 321 名では,総抗体価の陽性率は曝露濃度
<0.001-0.10 mg/m3 であった 12).
群と有意に関連しており(χ 2=17.5,p=0.016),IgE 抗
同工場において 1990 年の時点で曝露されており,そ
体価陽性者はクラス 1 にのみ検出され(2/8,25%),有
れまでに調査に参加した作業者 46 名(上記の工場で曝
意な上昇であった(χ 2=76.7,p<0.0001).新規参加者
露されている作業者の約 70%にあたる)について調べ
からは 4 名(1.3%)にのみ免疫学的機序による症状が
たところ,上記のような症状をもつものは喘息・鼻炎の
認められた.以前にかなりの曝露を受けていた他の 1 名
2 名(4%)のみであった.オペレーターの個人曝露濃
は以前に LRSS と診断されたことがあるが現在は症状が
度は,作業環境改善以前の 1974-1978 年は 2.1 mg/m3,
ないものであった 9).
作業環境改善以後の 1979-1984 年は<0.001-0.03 mg/m3
上記の工場作業者で免疫学的疾患のない 286 名を対象
とし,TMA が免疫学的疾患を誘起するか 3 年間観察し
3
た結果,平均濃度として 0.00053 mg/m 未満 では発症
3
3
3
の 範 囲,1987-1988 年 は 0.002-0.045 mg/m の 範 囲,
1989 年は 0.006-0.77 mg/m3 の範囲であった.呼吸保護
具については,1979 年に使用法を改善,1988 年にさら
者 な し,0.002 mg/m で は 5%,0.036 mg/m で は 4%,
に別の呼吸保護具を導入しているので,著者らは気中濃
0.13 mg/m3 では 29% に呼吸器疾患の発症が見られ,曝
度に比べ曝露は低下したと言っている 13).
露量とに有意な正の関連が見られた.また,IgG および
IgE 抗体価陽性率も有意な正の相関が得られた 10).
また,免疫学的肺疾患(LRSS,喘息/鼻炎)のある
作業者 19 名とそうでない作業者 12 名において,年齢,
また,上記の工場作業者で中または重度の免疫学的肺
喫煙歴,曝露程度,総抗体価および IgG サブクラス別
疾患を発症した 42 名(遅発性喘息 4 名,即時型喘息 21
の IgG 抗体価を比較したが,いずれの項目も両群に有
名,LRSS13 名,両型 4 名)を対象とし,低濃度(平均
意差は見られなかった 14).
3
0.00051 mg/m )への配置転換による改善の有無を検討
さらに,アトピーと TMA 曝露による喘息発症を症
3
した.彼らの発症時の曝露レベルは,0.12 ∼ 1.7 mg/m
例対象研究で調べた結果,16 名の喘息発症作業者では
で,それまでの曝露期間は 2 か月∼ 21 年,配置転換後
56.3% がアトピーで,性,年齢,曝露,及び喫煙歴をマッ
の期間は 1 ∼ 20 年だった.胸部 X 線写真は全員正常で,
チさせた 44 名のコントロール作業者 28.9% の 2 倍であっ
遅発型喘息と LRSS では全員に呼吸器症状がなくなった
たが,統計的には有意でなかった.また,ダニ,猫,ド
が,即時型喘息 3 名と両型 1 名に軽度な症状が残った.
クダミ及びブタクサに対する IgE 抗体価のいずれも両
IgE および IgG 抗体価の上昇は全員に見られず,即時型
群に有意差は見られなかった 15).
喘息では両抗体価は有意な低下であった 11).
1979 年から TMA 粉末を使用しているクッション付
産衛誌 57 巻,2015
198
きフローリング材の製造工場では 1987 年から全面マス
さらにラットで低濃度,長期曝露の影響をみるため
クと使い捨て保護スーツを導入し,1989 年には局排の
に,6 時間/日,5 日/週,6.5 週(32 日)及び 13 週(65
改善,1991 年には全体換気の改善を実施した.コホー
日)の吸入曝露(0,2,15,50 µ g/m3)を行ったところ,
トは 1979 年 1 月から 1992 年の健診時まで 1 か月以上
6.5,13 週間曝露のいずれでも 2 µ g/m3 群以上では血
働いた 101 名を対象とし,自己記入式質問表の記入と
清特異抗体の有意な増加,肺の出血巣の増加がみられ,
皮膚プリック試験を実施した.個人曝露濃度を<10,
15 µ g/m3 群で肺の重量及び体積の有意な増加がみられ
3
10-40,>40 µ g/m の 3 群に分けた時,作業に起因す
た.50 µ g/m3 群では病理組織学的な変化として,多発
る 新 た な 呼 吸 器 症 状 の<10 µ g/m3 ( 患 者 5 対 コ ン ト
性肺小葉気管支炎が 100%のラットにみられた.回復期
ロール 39)に対する発症リスクは,10-40 µ g/m3(患
間 3 週間後には,肺の出血巣数の減少がみられ,回復
者 6 対 コ ン ト ロ ー ル 7) が 5.94 (95%CI: 1.44-24.50),
期間 38 週間後で肺の慢性疾患は観察されず,この変化
>40 µ g/m3(患者 1 対コントロール 2)は 7.42 (95%CI:
は可逆的であり,長期曝露により肺の繊維化などの慢性
0.33-168.50)となり,酸無水物−ヒト血清アルブミン
肺疾患を引き起こすような所見はみられていない 19).
(AA-HSA)を用いた皮膚プリックテストの陽性リスク
TMA 粉末 20 mg をブラウンノルウェー(BN)ラッ
は, 順 に 10.00 (95%CI: 1.03-480.37),20.67 (95%CI:
ト の 背 部 に 1 回 20 時 間,7 日 毎 に 4 回 貼 布 し, そ の
0.87-1,237.31)と有意な上昇傾向(p=0.003)が見られ
7 日後に 40 mg/m3,10 分間の鼻部吸入誘発を行った
た.また,AA-HSA による陽性リスクは喫煙やアトピー
実験では,全身プレスチモグラフィーにより気道抵抗
に影響されなかった.但し,人数をほぼ均等にして 3 群
(Enhanced pause,Penh) の 上 昇 が 30 分 以 内( 即 時
3
に分けた場合,Cut off 値が 1,及び 11.4 µ g/m となり,
3
<1 µ g/m に対する呼吸器の発症リスクは,1-11.4 µ g/
3
3
m が 6.21(95%CI: 1.07-36.02),>11.4 µ g/m では 9.01
(95%CI: 1.35-60.05)となった 16).
気道反応)と 2-4 時間後(遅発気道反応)にみられ,
TMA 特異的 IgE 抗体の検出,および気道の好酸球性炎
症が観察された.さらに吸入誘発の濃度を 0,0.2,1,
5,または 40 mg/3 で実施した場合,濃度に比例した変
化が見られ,1 mg/m3 以上で即時気道反応が見られ,5
3)発がん性
mg/m3 以上で即時及び遅発気道反応が見られた.以上
ヒトにおける報告は見当たらない.
4)生殖毒性
より,TMA 粉末の経皮曝露により免疫学的感作及びそ
ヒトにおける報告は見当たらない.
れに続く TMA エアロゾル誘発により 2 相の気道反応が
起こることが認められた 20).
BN ラットに 0.04,0.4,4,または 40 mg/m3 の TMA
4.動物に対する影響
1)急性毒性 2)
エアロゾルを週 1 回,10 週間鼻部曝露させた場合,即
経口 LD50:1,900 mg/kg ( マ ウ ス ),2,730 mg/kg
(ラット)
3
時及び遅発気道反応が見られたのは 40 mg/m3 群のみ
で,TMA 特異的 IgE 抗体は 4 及び 40 mg/m3 群では 7
3
吸入 LC50:2,330 mg/m 超(ラット 4 時間)
日までに検出されたが,0.4 mg/m 群では 1/4 に,0.04
経皮 LD50:2,000 mg/kg 超(ウサギ)
mg/m3 群では検出されなかった.さらに 40 mg/m3 群
ラットで,6 時間/日,10 日の吸入曝露(0,0.011,
間の鼻部吸入誘発を行った実験では,4 mg/m3 群の全
以外のラットに 2 週間後に 40 mg/m3 の TMA で 10 分
2)亜急性,慢性毒性
3
0.037,0.101,0.262 mg/m )を行ったところ,曝露濃度
てのラット(n=8)と 0.4 mg/m3 群の 1 匹に即時及び
に依存した肺表面の肉眼的な出血巣の数の増加がみられ
遅発気道反応が見られた 21).
3
た.肺の出血巣は 0.101(0.103 ± 0.021)mg/m で対照
A/J マウスの耳にアセトン/オリーブ油に溶解した
群と比較して有意に増加した.曝露終了 12 日後に同じ
10%TMA を 12.5 µ L で day1 と 3 の 2 回 感 作 し,day
濃度で 6 時間の曝露を行った場合にも同じであったが出
17 と 27 に同量で誘発をし,48 時間後に解剖し,病理所
血巣の数は減少した.組織学的な肺出血は 0.037(0.038
見と鼻粘膜のサイトカイン mRNA の発現を解析したと
± 0.006)mg/m3 で対照群と比較して有意に増加したが,
ころ,鼻炎が発症し,Th2 型サイトカインの IL-4,IL-5
その程度は軽かった.なお,同じ条件で 5 日間の吸入曝
および IL-13 の発現が有意に増加していた.この一連の
露では変化は何もみられなかった 17).
変化は,鼻腔内に感作と誘発をした時と同様の変化で
このような肺の出血巣は免疫学的機序により起こるこ
あった 22).
とが,免疫抑制剤を使用した実験と受動移入実験で証
3)発がん性
明されており
18)
,この実験系はヒトでの LRSS あるい
は肺疾患貧血症候群のラットモデルであるとされてい
る 19).
動物における報告は見当たらない.
4)変異原性,遺伝毒性 2)
Ames 試験では,代謝活性化系の有無に関わらず陰性
産衛誌 57 巻,2015
であった.
ミクロソーム活性化系の有無に関わらずチャイニーズ
199
最大許容濃度 0.004 mg/m3
感作性分類 気道 第 1 群
ハムスターの卵巣細胞の染色体異常の有意な増加はみら
1998 年度(新設)
れなかった.チャイニーズハムスター卵巣 /HGPRT 変
許容濃度 0.04 mg/m3
異試験は,外因性の代謝活性化の有無に関わらず陰性で
最大許容濃度 0.1 mg/m3
あった.
感作性分類 気道 第 1 群
in vivo 試験に関する報告は見当たらなかった.
5)生殖発生毒性 2)
TMA 0,0.5 mg/m3 を 1 日 6 時間,SD ラットでは妊
娠 6 ∼ 15 日,Hartley モルモットでは妊娠 6 ∼ 26 日に
吸入曝露させた試験で,母動物毒性として,両動物種と
も肺の病巣,TMA に対する特異 IgG 抗体値の高値がみ
られたが,他の影響はみられなかった.児動物に対して,
両動物種とも催奇形性または発生毒性はみられなかっ
た.TMA に対する特異 IgG 抗体の児動物への移行は,
ラットでは胎盤及び乳汁を介して,モルモットでは胎盤
を介して生じたとの報告がされているが,この報告は要
約のみであり,詳細は不明である.
5.許容濃度の提案
TMA の毒性として問題になるのは感作性と刺激性で
あり,1998 年に許容濃度 0.04 mg/m3,最大許容濃度 0.1
mg/m3,呼吸器感作性を提案している.今回はそれ以
降の報告を検討した.
前回の提案後に報告されたヒトの疫学調査では,個人
曝露濃度が 0.001 mg/m3 を超えると,呼吸器症状の発
症リスクが有意に高くなったという報告 16) と,0.0005
mg/m3 未満ならば 3 年間の観察期間に発症が見られな
かったという報告 10)がある.
ラットの実験では 0.002 mg/m3 で抗体価の上昇およ
び軽度の組織学的な肺出血がみられ,病理所見は濃度依
存的に重症化しており,10 分間曝露では,0.04 mg/m3
が気道反応性の NOAEL と考えられた 21).
以上の結果から,許容濃度として 0.0005 mg/m3,最
大許容濃度として 0.004 mg/m3 を提案する.
なお,TMA 曝露は粉塵かヒュームの形で起こるので,
単位は mg/m3 のみで表現することとする.
6.他機関の提案値 23)
ACGIH:TLV-TWA 0.0005 mg/m 3 ; TLV-STEL
0.002 mg/m3(吸引性成分と蒸気)Skin,RSEN,DSEN
NIOSH:TWA=0.04 mg/m3(0.005 ppm)
DFG MAK(ドイツ):TWA=0.04 mg/m3(吸入性
成分)Sa
7.勧告の履歴
2015 年度(改定案)
許容濃度 0.0005 mg/m3
文 献
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[CAS No. 108-31-6]
(変更なし)
許容濃度 0.1 ppm(0.4 mg/m3)
最大許容濃度 0.2 ppm(0.8 mg/m3)
感作性分類 気道 2 群,皮膚 2 群
別名:2,5- フランジオン
M a l e i c a n h y d r i d e , 2 , 5 - f u r a n d i o n e , c i s butenedioic anhydride, toxilic anhydride
1.物理化学的性質ならびに用途 1-4)
白色針状または粒状結晶で特有の臭いがある.昇華
性あり.分子量 98.06,融点 52.8℃,沸点 202℃,引火
点 101℃,発火点 477℃,爆発限界 1.4-7.1%.蒸気圧:
15.1Pa (22℃).溶解性:アセトン,酢酸エチル,クロ
ロホルム,ベンゼンに易溶.水に溶けマレイン酸となる.
アルコールに溶け,エステルを形成.
2009 年における国内生産量は 79,183 トン.不飽和ポ
リエステル樹脂,フタル酸系可塑剤,およびアルキド樹
脂の原料やエポキシ樹脂の硬化剤として使われている.
2.吸収,代謝,分布,蓄積,排泄
報告は見当たらないが,水に溶けてマレイン酸になる
こと及び他の酸無水物の動態より,生体に取り込まれた
無水マレイン酸は容易にマレイン酸となって排泄される
と予想される.
3.ヒトに対する影響
1)急性毒性
ヒトにおける MA の臭いの感知下限は 0.32 ppm と報
告されている 5).ロシアの報告によると 0.9 mg/m3(0.22
ppm)では結膜と上部気道への悪影響がみられていない
ので,刺激に関する閾値は 1 mg/m3 付近と ACGIH は
記述している 3).
2)亜急性,慢性毒性
アルキド─ポリエステル樹脂製造工場において粉末
MA 曝露 1 か月後に咳,鼻炎,息苦しさ,喘鳴をおこ
した症例が報告されている 6).粉末 MA および無水フ
タル酸(PA)の投入作業時の MA 濃度は 0.83 mg/m3(吸
引性),0.17 mg/m3(吸入性),PA 濃度は 1.36 mg/m3
産衛誌 57 巻,2015
201
(吸引性),0.33 mg/m3(吸入性)であった.MA によ
3
3
3 種 の 酸 無 水 物(PA,TMA,MA) を 使 用 し て い
る誘発試験では 0.83 mg/m (吸引性),0.09 mg/m (吸
る 4 工場において 1960-1992 年に 1 か月以上作業した
入性)の MA 粉塵を 14 分間曝露して 2 分後に,咳,鼻
従業員 401 名を対象に後ろ向きコホート調査が実施さ
炎,流涙が起り,8 分後にはいびき音(低音性連続ラ音)
れた.作業者の曝露濃度は作業によって異なり,PA,
が両肺に聞かれ,ピークフローは 20 分後に最大 55%低
TMA,MA の 8 時間加重平均濃度(8h-TWA)は,順
3
下した.他方,PA の誘発試験では 0.64 mg/m (吸引
3
に,1.8-38.0,0.3-264.4,0.4 µ g/m3 で, 作 業 別 の 10 分
性),0.04 mg/m (吸入性)の PA 粉塵を 11 分間曝露
間の平均濃度(最大曝露濃度)は,順に,90.4-1825.2,
したが,喘息発作は起こらなかった.彼は MA 濃度よ
2.9-12689.9,20.1-41.4 µ g/m3 で あ っ た
りも高い PA 曝露を受けているのに,PA で誘発がみら
問表により呼吸器症状の種類と発症時期,喫煙,作
れなかったことから,PA と MA とは交叉反応しないと
業経過のデータを得た.皮膚のプリックテストは酸
考えられる.
無 水 物 と ヒ ト ア ル ブ ミ ン 化 合 物(PA-HSA,TMA-
14)
.自記式質
また,MA 取り扱い作業者が誘発試験により,二相型
HSA,MA-HSA)とコントロール HSA により実施さ
の喘息発作を起こした 2 症例も報告されているが曝露濃
れた.TMA のみ使用した 1 工場では曝露と呼吸器症
度は不明である
7,8)
.
MA 曝露による溶血性貧血と喘息が起こった症例が報
状とは正の相関が見られたが,全ての作業者と 3 種の
酸無水物曝露を対象にした場合は,曝露との関連は見
告されている.彼は非喫煙,非アトピーで試験的に MA
ら れ な か っ た.8h-TWA を 低(<10), 中(10-100),
製造に携わった直後に喘鳴と息切れを現したので,職場
高(>100 µ g/m3) の 3 群 に 分 け, 低 濃 度 群 を コ ン
を変更し,症状は消滅していたが,30 年後に再び分析
トロールとしてプリックテスト陽性のオッズ比を見
業務で間欠的に MA 曝露した結果,喘鳴と息切れが再
た 結 果, 中 お よ び 高 濃 度 群 は, 未 補 正 で は 順 に 3.97
発し,曝露の継続により重篤な溶血性貧血となり入院し
(95%CI: 0.88-24.13),2.65 (95%CI: 0.22-23.70), 喫 煙
た.特異的 IgE は MA,PA,トリメリット酸(TMA)
で補正すると,4.05 (95%CI: 1.01-16.27),2.02 (95%CI:
が陽性,クームズ試験も陽性であったが,曝露濃度の記
0.32-12.70)と量─反応関係は見られなかった(p=0.12,
χ 2 for linear trend).呼吸器症状は順に 3.40(95%CI:
1.29-8.96),5.58(95%CI: 0.89-35.21) と 増 加 傾 向 が 見
られ,喫煙とアトピーは呼吸器症状の発現率に関連し
なかった.しかしながら,MA は 2 工場において使用
されていたが,その濃度は作業による差異もなく平均
2 µ g/m3 と他の酸無水物に比べ低濃度であるとともに使
用時には呼吸保護具が装着されていた 15,16).著者らは,
TMA 単独曝露作業場におけるプリックテスト陽性およ
び呼吸器症状のリスクが曝露に比例して増加している事
を報告しているが,40 µ g/m3 よりも 1 と 11.4 µ g/m3 を
カットオフポイントにした方がより明白になるとしてい
る 15).
更に,370 名にヒスタミン誘発試験による気道過敏性
(BHR)試験(1 秒量(FEV1)を 20%低下させるヒスタ
ミン量が 8 µ mol 以下の場合を BHR ありと定義),皮膚
プリックテスト,個人曝露測定がなされた結果,BHR
陽性は有意に累積曝露量が高いが,同時に年齢も喫煙量
も高かった.最大曝露濃度では 100 µ g/m3 以上の群で
のみ BHR 陽性者が多かった.ロジスティック多変量解
析によると BHR のリスク増加には年齢,AA-HSA 陽性,
アトピーおよび喫煙量が関連し,累積曝露量と最大曝露
量は関連しなかったが,ベースライン FEV1 による補正
をした場合,AA-HSA 陽性のみがオッズ比 5.56(95%CI:
1.49-20.76,p=0.01)と有意なリスク因子となり,その
他の因子は有意な関連が見られなかった 17).この報告
においては,個々の酸無水物についての検討はされてい
載がない 9).
眼に対する影響が報告されている.印刷作業者 265 名
中 73%に目の痛み,流涙,眼のかすみが見られ,その
うちの 17 名にはびまん性表在性角膜炎がみられた 10).
このときの推定濃度は 4.4 mg/m3 以上とされている.
エポキシ樹脂と MA 使用場における感作性皮膚炎が
報告されているが,パッチテストでは MA 陰性であっ
た 11).イタリアの陶器工場作業者 190 名を対象にして
皮膚障害を調査した結果によると,パッチテストで MA
陽性者は 2 名だったが,MA と皮膚炎との関係は記述さ
れていない 12).
4 種の酸無水物(PA,TMA,MA および無水ピロメ
リット酸(PMDA))製造工場における 92 名の作業者
について肺機能検査(FEV1%VC)とメサコリンによ
る気道過敏性(BHR)試験(1 秒量(FEV1)を 20%低
下させるメサコリン量が 0.6 mg 以下の場合を BHR あ
りと定義),IgE 抗体検査,皮膚プリックテストによる
断面調査とその 10 か月後の追跡調査結果が報告されて
いる 13).MA のみと MA+PA の曝露作業者は各 1 名,
MA+PMDA が 21 名,MA+PMDA+PA が 19 名だっ
た.これら曝露形態に特有な呼吸器症状は見られなかっ
たが,IgE 抗体陽性者 15 名は陰性者よりも肺機能が有
意に悪かった(p<0.001).MA+PMDA は 0.6-07 年の
曝露で,痰の自覚症状が 7 名と最も多く,そのうち 5 名
が IgE 抗体陽性で,3 名は全ての酸無水物の IgE 抗体が
陽性であった.この報告には,曝露濃度の情報がない.
産衛誌 57 巻,2015
202
ない.
25 µ l を連続 3 日間塗り,局所リンパ節分析をしたとこ
3)発がん性
ろ,Th2 型の IL-10 の上昇がみられ,3 倍刺激指数(EC3)
は 0.016 M であった 21).
ヒトにおける報告は見当たらない.
4)生殖毒性
3)発がん性
ヒトにおける報告は見当たらない.
雄ラットの皮下に落花生油に溶かした 1.0 mg の MA
を週 2 回 61 週投与した結果,投与開始後 80 週で 3 匹中
2 匹の局所に線維肉腫が発生した 22).
4.動物に対する影響
(1)急性毒性 18)
雌 雄 ラ ッ ト に 0,10,32, ま た は 100 mg/kg/day の
LD 50:ラ ッ ト 経 口 400 mg/kg, マ ウ ス 経 口
MA を餌に混ぜて 2 年間投与した実験では,投与量に比
465 mg/kg,ウサギ経口 875 mg/kg
例した体重増加抑制が見られたが,MA に関連する腫瘍
ウサギ経皮 2620 mg/kg,モルモット腹腔内
の発生増加はみられなかった.子宮腺がんの発生増加が
100 mg/kg
見られたが,コントロール群(23/86)と曝露群(20/82)
モルモットにおけるびまん性表層角膜炎様変化の
3
3
EC50 は 71.9 mg/m ± 0.49 mg/m で あ っ た
10)
の発生率に差がなかった.この腺がんは,よく見られる
.標準
自然発生腫瘍ではないので,何故この実験だけ発生率が
ドレーズ法を用いたウサギへの刺激試験によると,眼
高かったのかは不明であるが,MA 曝露との関連はない
では 1%液で重篤な刺激が見られている
18)
.GPMT 法
ようである.著者らは,一時期終日点灯していたような
(Guinea pig maximization test)による皮膚の感作性
ので,ホルモン状態の変異によるのではないかと推察し
試験では,50% 陽性率は 1 ppm(コーン油溶解)であっ
た
19)
2)
ている .
4)変異原性,遺伝毒性 23)
.
(2)亜急性および慢性毒性
サルモネラ菌によるエームス試験は陰性だが,CHL
SD ラット,イングル・ハムスター,アカゲザルに
細胞(チャイニーズハムスター肺線維芽細胞株)による
MA を 0,1.1,3.3 ま た は 9.8 mg/m3(0,0.3,0.8, ま
染色体試験では陽性(10%以上の細胞に異常〕で D20
たは 2.4 ppm)で 1 日 6 時間,週 5 日,6 か月間曝露さ
=0.23 mg/ml(中期分裂細胞の 20%に染色体異常)と
せた実験では,ラット高濃度群の体重減少以外は呼吸器
なった.
と眼にのみ影響が見られた.一般状態の観察による鼻腔
5)生殖発生毒性
と目の刺激症状がいずれの動物種でも全ての濃度群で観
ラットにおいて催奇性および 2 世代試験が報告され
察された.病理学的検査では,全ての動物種の鼻腔に炎
て い る 24). コ ー ン 油 に 溶 解 さ せ た MA 0,30,90,
症性変化が見られた.,炎症性変化はラットとサルでは
140 mg/kg/day を器官形成期(妊娠 6-15 日)に経口投
全ての濃度群で認められた.また,鼻腔粘膜(呼吸上皮
与し,胎児の骨格異常と軟組織形態異常とを観察した
の移行上皮部)の過形成性変化と扁平上皮化生がラット
が,投与群に異常の増加はみられなかった.2 世代試験
とハムスターに見られた.過形成性変化はラットでは全
においては,雌雄のラット(雄 10,雌 20:F0)に 0,
ての曝露群,ハムスターでは中濃度群まで見られ,扁平
20,55,150 mg/kg/day の MA を 80 日 間 以 上 経 口 投
上皮化生はラット,ハムスターとも全ての曝露群に認め
与してから交尾させ,F1 を得た.F1 からランダムに雄
られた.死亡率,血液性状,血清生化学的検査および尿
10,雌 20 匹を選んで,生後 22 日から F0 と同様に MA
検査においてはいずれの動物種においても異常は見られ
を投与し交尾させ F2 を得た.F0 および F1 において
なかった.サルにおいては 3 および 6 か月目に,呼吸機
は,150 mg/kg/day 群の体重増加率は有意に低く,死
能を検査したが曝露による影響は見られなかった 20).
亡率は有意に高く,F1 の雌は全匹死亡した.F0 の 150
雌雄ラットに 0,10,32,または 100 mg/kg/day の
mg/kg/day 群では腎皮質の壊死が雄 60%,雌 15%にみ
MA を餌に混ぜて 2 年間投与した実験では,投与量に
られた.F1 と F2 における妊娠率および受精率は F2 の
比例した体重増加抑制が見られたが,神経学的および眼
150 mg/kg/day 群以外は対照群と差がなかった.また,
科的検査ではコントロール群と曝露群とに差がなかっ
F1 と F2 の胎児数や生存児数も投与群と対照群と差が
た.18 か月および実験終了時における検査では検査し
なかった.以上のことから,2 世代投与においては 55
た動物の 100%に白内障が見られたが MA 摂取量とは関
mg/kg/day までが無影響であるとしている.
連しなかった.血液,生化学,剖検,および病理組織検
査において MA 曝露に関連する異常は見られなかった.
2)
NOAEL は 10 mg/kg/day とされている .
5.許容濃度の提案
MA の毒性として問題になるのは刺激性と感作性であ
マウスの皮膚感作性試験として,脇腹に 1M 濃度の
り,2000 年に許容濃度として 0.1 ppm, 0.4 mg/m3,最
MA を 50 µ l 塗 り,5 日 後 に 再 び 投 与 し 5 日 後 に 耳 に
大許容濃度として,0.2 ppm,0.8 mg/m3,感作性分類:
産衛誌 57 巻,2015
203
呼吸器,皮膚を提案していた.今回,新たなデータを加
よりも高いことから,許容濃度として 0.01 mg/m3 を
えて,検討した.
Inhalable fraction and vapor(IFV)とし 3),感作性は
10)
Tanaka
によると眼への刺激による障害が起こっ
DSEN,RSEN として提案している 25).しかしながら,
た と き の 推 定 濃 度 は 4.4 mg/m3(1.1 ppm) 以 上 で,
これは PA と TMA が主体の 3 種の酸無水物の合計濃度
ACGIH3) によると 0.9 mg/m3(0.22 ppm)では悪影響
であり,TMA 単独曝露で濃度に比例する感作陽性と呼
3
がないので,刺激に関する閾値は 1 mg/m (0.25 ppm)
付近とされている.臭いを感じる濃度は報告によって異
吸器症状のリスク増大が報告されており,Tongeren ら
(1998)によると MA の関与は低いとされている.
なるとのことであるが,0.32 ppm が検知閾値と考えら
ドイツは MAK として 0.1 ppm,0.41 mg/m3 を設定し,
れ,10-50%が 0.25 ppm(当時の TWA)を検出できる
局所刺激があることから MAK の 2 倍の濃度を天井値,
5)
とされている .
生殖毒性分類は C とし,感作性(Sah)の表示をしてい
混合酸無水物における感作性と呼吸器障害の疫学研究
る 26).
は報告されているが,MA 単独曝露については見当たら
ない.MA,PA,および TMA の混合曝露においては,
3
10 µ g/m 未満に比べ,それ以上では呼吸器への悪影響
7.勧告の履歴
2015 年度(変更なし)
が増加傾向になっているが,PA と TMA 曝露が主体で
許 容 濃 度 0.1 ppm(0.4 mg/m3) 最 大 許 容 濃 度:
あり MA 曝露の平均は 2.2 µ g/m3 以下とされているの
0.2 ppm(0.8 mg/m3)
で,その寄与は無視できる.
感作性分類 気道 2 群,皮膚 2 群
呼吸器感作性の症例報告が 3 報告ある
6,7,9)
.2 報告は
2000 年度(新設)
誘発試験,残りの 1 報告は特異抗体検出により,曝露と
許 容 濃 度 0.1 ppm(0.4 mg/m3) 最 大 許 容 濃 度:
症状との関連性を確認している.Lee ら 6) は 0.83 mg/
0.2 ppm(0.8 mg/m3)
3
m の MA を 1 か月曝露したときに発症したと報告して
感作性分類 気道 2 群,皮膚 2 群
いる.
感作性の皮膚障害については,動物実験結果および症
例報告がある.症例報告はパッチテストが陽性
12)
と陰
性 11)の両結果が得られている.
動物の吸入曝露実験では,濃度に依存した鼻と眼の刺
激と炎症性変化が見られており,LOAEL は 1.1 mg/m3
と考えられる.
無水マレイン酸の刺激性と感作性により許容濃度と最
大許容濃度を設定する.ヒトの刺激からは,NOAEL が
3
1 mg/m (0.25 ppm)と考えられるが,動物実験では局
所刺激の LOAEL が 1.1 mg/m3 と考えられる.鼻腔の
扁平上皮化生が可逆性であると考えられるので NOAEL
へ の 変 換 の 不 確 実 係 数 は 3 と な る こ と か ら, 動 物 の
NOAEL が 0.4 mg/m3 となる.局所刺激の場合は動物
からヒトへの外挿の不確実係数が 1 となるので,刺激の
NOAEL は 0.4 mg/m3 となる.
以上の結果,作業環境中では,ガスおよび粉塵の両
形態で存在することから許容濃度として 0.1 ppm,0.4
mg/m3,刺激性の強いことから,最大許容濃度として,
0.2 ppm,0.8 mg/m3 と許容濃度値を変更しない.また,
感作性についてはヒトの明白な疫学証拠はないが,複数
の症例報告及び動物実験結果から感作性物質気道および
皮膚の 2 群に分類する.
6.他機関の提案値
米 国 ACGIH は Barker ら(1998) の 報 告 を も と に
10 µ g/m3 以上の曝露は感作のリスクが 10 µ g/m3 未満
文 献
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生物学的許容値の暫定値(2015)の提案理由
平成 27 年 5 月 14 日
日本産業衛生学会
許容濃度等に関する委員会
テトラヒドロフラン
C4H8O(分子量 72.10)
[CAS No. 109-99-9]
測定対象 尿中テトラヒドロフラン
生物学的許容値 2 mg/l
試料採取時期 作業終了時
別名:ジエチレンオキシド,テトラメチレンオキシド,
オキソラン
1.物理化学的性質ならびに用途
融 点 −108.5 ℃, 沸 点 66 ℃, 飽 和 蒸 気 圧 21.6 kPa
(25℃),比重 0.8892,引火点−14.5℃ 1).常温常圧では
無色透明の液体.水に溶け,またアルコール・エステ
ル・芳香族炭化水素・塩化脂肪族炭化水素など多種の有
機溶剤に容易に溶けるエーテル様の臭いがあり 2),にお
いの感知下限は 2 ppm3)あるいは 2.5 ppm4)と報告され
ている.市販品には酸化防止剤(成分不明)を加えるか,
不活性ガスを封入して安定化したものがある 2).
塩化ビニル系樹脂その他の各種樹脂の溶剤,印刷用イ
ンキの溶剤,保護コーテイング用溶剤,抽出溶剤,ペイ
ント・リムーバー,各種有機合成反応の反応相などに用
いられる 2).
2.吸収,代謝,分布,蓄積,排泄
動物実験によれば 液体のテトラヒドロフラン(THF)
の経皮吸収性は高い 5) が,ヒトでの研究によれば皮膚
の蒸気曝露による吸収は無視出来る 6).生体内では一部
分は酸化されてコハク酸[HOOC(CH2)2COOH]となる
と考えられている 7) が,代謝の詳細はなお明らかでな
い.
吸収された THF の一部分は呼気中に,他の一部分
は尿中にいずれも未変化のまま呼出あるいは排泄され
る 8).未変化体尿中排泄の生物学的半減期は約 2.5 時間
である 9).
3.曝露と生物学的指標との関係
日本人男子志願者 10 名を 50,200 ppm の THF に 1
時間休憩を挟んで,3 時間 2 回(延べ 6 時間)曝露した
場合,曝露終了後の THF 半減期は尿中で 118 分,呼気
中で 32 分であった.血中 THF 濃度の低下は一定の傾
向を示さず,半減期は計算し得なかったが,終了 11 時
産衛誌 57 巻,2015
205
間後にもなお血中から THF が検出された 10).日本人
男子志願者 10 名を(特に運動負荷を課さないで)1 時
間の休憩を挟んで 3 時間× 2 回計 6 時間 THF 曝露し
4.生物学的指標と健康影響との関係
この生物学的許容値は気中 THF 許容濃度 50 ppm に
対応する尿中 THF 濃度として設定されている.
た実験では,曝露終了時に採取された呼気および尿中
か ら THF 50 ppm 曝 露 時 に は 1.16 ppm と 0.28 mg/l,
200 ppm 曝露時には 2.19 ppm と 1.75 mg/l が検出され
た 10).
5.生物学的許容値の提案
知見が比較的豊富な尿中 THF(非補正値)について
考察する.前述のように尿中 THF の生物学的半減期は
ドイツ人志願者を休憩時間(30 分または 1 時間)を
118 分 10) と短いので曝露開始後数時間で平衡状態に達
挟んで 200 ppm の THF に 4 時間× 2 回,計 8 時間毎時
すると推定出来,従って職業的曝露とともに数時間程度
10 分間 50 W の運動負荷を課しながら曝露し,曝露開始
の実験的曝露に基づく成績も活用することが出来る.ま
7 時間後(3 例),8 時間後(1 例),9 時間後(4 例)に
た THF 使用の実態からみて非職業的 THF 曝露は極め
採集した尿からはそれぞれ 10.6,7.9,7.6 mg/l の THF
て小さいと考えられ,THF の生理的生成も報告されて
が検出された 11).
いないので,非職業的曝露に伴う補正は不必要と考えら
シンガポールに在住するビデオテープ製造作業者 58
れる.
名(男子 ; 21 ∼ 48 才,作業歴平均 7.2 年)を対象にし
実験的曝露としては Teramoto et al.10)の成績すなわ
た曝露調査と呼気・血液・尿を検体とした生物学的モニ
ち 安 静 時 THF 50,200 ppm 曝 露 に 伴 う 尿 中 THF 濃
タリング調査が行なわれている 12).調査は週の中間に
度 0.28,1.75 mg/l から 50 ppm 曝露に対する尿中 THF
行われ,8 時間の作業時間中の溶剤曝露濃度の測定には
と し て 0.36 mg/l を 得 る. ま た Failing et al.
拡散型サンプラーが用いられた.呼気,末梢血および尿
ppm 曝露(毎時 10 分,50W 負荷)の値は曝露 7-9 時間
検体は作業終了時に採取された.気中からは THF 2 ∼
曝露直後の採尿で条件はも一定ではないが,前後 1 時間
150 ppm のほかにメチルイソブチルケトン(同一工場
の差を無視すると尿中 THF 10.6,7.9,7.6 mg/l(各 3,
13)
の調査と思われる Chia et al.
によればメチルエチル
ケトン),トルエンおよびシクロヘキサノンが検出され
11)
の 200
1,4 例)から 50 ppm 曝露二対する例数荷重平均値と
して 2.19 mg/l を得る.
職 業 的 曝 露 例 と し て は Oug et al.12) と Lehnet et
た.
気中 THF(X: ppm)に対する回帰直線として
al.14)の 2 報がある.Ong et al.12)の回帰式は THF の分
血液(B: µ mol/l)B=3.03+0.15X(r=0.68)
子量 72.11 に基づいて換算すると
呼気(A: ppm)A=0.53+0.03X(r=0.61)
血液(B: mg/l)B=0.218+0.0108X(r=0.68)
尿(補正なし Uob: µ mol/l)Uob=3.87+0.54X(r=0.86)
呼気(A: ppm)A=0.53+0.03X(r=0.61)
尿(比重 1.018 に補正 Usg: µ mol/l)Usg=3.33+0.53X
尿(補正なし Uob: mg/l)Uob=0.279+0.0389X(r=
尿(クレアチニン補正 Ucr: µ mol/g. Cr)Ucr=6.47+
尿(比重補正値 0.018 より 1.016 に換算:Usg: mg/l)
(r=0.88)
0.27X(r=0.50)
が得られている 12).
0.86)
Usg=0.13 + 0.0340X(r=0.88)
尿(クレアチニン補正値 : mg/g: Ucr: mg/g)Ucr=
ビデオテープ製造工場で 76 名の作業者(男子と思わ
0.467+0.0195X(r=0.50)を得る.このうち Uob の式に
THF 50 ppm を代入すると尿中 THF(非補正値)とし
れる)について作業中の平均 THF 気中濃度(拡散型サ
て 2.22 mg/l を 得 る. ま た Lehnert14) の 式 か ら は 1.13
ンプラー使用)と作業終了時の尿中 THF との相関を検
mg/l が算出される.
討した調査
14)
によれば 気中 THF(X ppm)と尿中
THF(Y: mg/l)の間には
これら 4 つの値のうち Teramoto et al.10)の値(0.36
mg/l)は他の 3 者(2.19,2.22,1.13 mg/l)に比して小
Y=0.026+0.022X
さいが,この値は運動負荷のない状態での値である点に
の関係が見出されたと報告されている.但しこの報告は
留意しなければならない.この値を除外して 3 者を平均
論文としては発表されていないため,相関係数その他詳
すると 1.85 mg/l となり,数値を単純化して尿中 THF
細は不明である.
2 mg/l(作業終了時)を生物学的許容値として提案す
水・オリーブ油・血液と空気との THF 分配係数を
る.この値は Droz et al.15)が THF 200 ppm 曝露に対
163.3,226.2,145.3 として PBPK モデルを用いて計算し
する作業終了時尿中 THF 濃度として推定した 7.2 mg/l
た結果では THF 200 ppm 曝露を伴う作業の場合,作
を THF 50 ppm 曝露に比例計算した値(1.8 mg/l)と
業終了時の生体試料中の濃度として呼気 5.1 ppm,静脈
もほぼ一致する.
血 4.1 mg/l,尿 7.2 mg/l と推定されている
15)
.
THF 200 ppm 曝露を伴う作業の場合,作業終了時の
産衛誌 57 巻,2015
206
生体試料中の濃度として呼気 5.1 ppm,静脈血 4.1 mg/l,
尿 7.2 mg/l と推定されている
15)
.
大量経口摂取者の尿中から THF を上廻る濃度の γ - ヒ
ドロキシ酪酸が検出されており 16),この物質を尿中曝
露指標として活用出来る可能性があるが,調査例はな
い.
5.他の機関の設定した生物学的許容値
ACGIH17) ではテトラヒドロフランの TLV(気中許
容濃度)50 ppm に対応する BEI(生物学的許容値)と
して尿中テトラヒドロフラン 2 mg/l(作業終了時採尿)
を提案している(NIC: 変更予定値).
また DFG18) では MAK(気中許容濃度)50 ppm に
対応する BAT(生物学的許容値)として尿中テトラヒ
ドロフラン 2 mg/l(作業終了時採尿)を示している.
6.勧告の履歴
2015 年度 数値の変更なし,提案理由の改定
2007 年度(新規提案)
生物学的許容値 尿中テトラヒドロフラン 2 mg/l
試料採取時期 作業終了時
文 献
1)製品評価研究機構.CHRIP (Chenical Risk Information
Platform),東京,2015.
2)化学工業日報社.2015 年版 16615 の化学商品 PDF.東
京,2015.
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U.S.A., 2015.
18)Deutsche Forschungsgemeinschaft. List of MAK and
BAT values 2014. Wiley-VCH, Weinheim, Germany
2014.
二硫化炭素
CS2
[CAS No.75-15-0]
測定対象 尿中 2- ジチオチアゾリジン -4- カルボ
キシル酸
生物学的許容値 0.5 mg /g・Cr
試料採取時期 作業終了時(ただし,アブラナ科植
物を摂取しない時期)
1.物理化学的性質ならびに用途
常温では気化しやすい無色の気体.融点−111.5℃,
沸点 46.5℃,飽和蒸気圧 48.2 kPa[≒ 362 mmHg(25℃,
1 気圧]1).分子量 76.14.
ビスコース・レーヨン用溶剤,ゴム加硫促進剤などの
用途がある 2).
2.吸収,代謝,分布,蓄積,排泄
二硫化炭素は蒸気が呼吸器・皮膚 3-4)のいずれからも
吸収される.
体内ではグルタチオン抱合その他の抱合反応を受
産衛誌 57 巻,2015
207
け 代謝物の一部は尿中に 2- ジチオチアゾリジン -4- カ
であるため,被験者数のもっとも多い Takebayashi et
ル ボ キ シ ル 酸(2-dithiothazolidine-4-carboxylic acid:
al.16)の調査に基づく 0.37 と Omae et al.15)の 0.47 を採
5)
TTCA)として排泄される .
用することとした.
6)
体外への排泄は早く ,尿中 TTCA の生物学的半減
期は約 4 時間
7)
である.高濃度(35-45 ppm)曝露で
は蓄積が観察されている
8)
が,6-11 ppm の職場では週
末に向かっての蓄積は無い 9).
Korinth et al.19)はビスコースレーヨン工場で二硫化
炭素 6.04 ppm(中央値)の曝露を受けている作業者 325
名(性別不明)の尿中 TTCA 濃度として 1.14 mg/g・cr
(中央値)を報告した.この値から 1 ppm 暴露に対する
TTCA 濃度として 0.19 mg/g・cr が算出される.
Shih et al.9)がビスコース・レーヨン工場に勤務する
3.曝露と生物学的指標との関係
ヒトでの二硫化炭素代謝に関する研究はきわめて初
作業者を対象に行った調査のうち 8 時間勤務者 5 名(性
期から行われている 10).しかし過去の高濃度曝露職場
別不明)の時間荷重曝露濃度(活性炭管法)の算術平均
で行われた二硫化炭素曝露 -TTCA 排泄についての研
値は 6.30 mg/m3(=2 ppm),作業終了時の尿中 TTCA
11)
究(例えば Rosier et al. ,最高 58 ppm;Riihimäki et
12)
濃度は 3.24 mg/g・cr と報告されている.二硫化炭素濃
al. ,最高 16 ppm)では 曝露―排泄間に直線関係が
度 1 ppm に 対 応 す る TTCA 濃 度 と し て 1.6 mg/g・cr
存在することは示しているが 1 ppm 暴露に対応する尿
が算出されるが,気中濃度の測定法が異なる.
中 TTCA 濃度を求めるには適していない.この目的に
二 硫 化 炭 素 1 ppm に 対 応 す る 作 業 終 了 時 尿 中
適した研究として Meuling et al.13)と Drexler et al.14)
TTCA 濃度(mg/g・cr)として値の近似する Meuling
の 2 報告が得られた.
et al.
13)
13)
Meuling et al.
はビスコース・レーヨン工場勤務者
に よ る 0.29 mg/g・cr,Drexler et al.
0.905 mg/g・cr,Omae et al.
15)
14)
の
の 0.40 mg/g・cr,
29 名(性別不明)の 8 時間作業中平均二硫化炭素曝露
Takebayashi et al.16) の 0.37 mg/g・cr の算術平均値と
濃度(拡散型個人サンプラー使用)の対数値と作業終了
して 0.491 mg/g・cr を得る.この計算に基づき生物学的
時尿中 TTCA 濃度の対数値の間に下記の直線関係を得
許容値として 0.5 mg/g・cr を提案する.
た.
log TTCA (mmol/mol cr)=−1.10+0.84 log [CS 2
(mg/m3)]
3
4.生物学的指標と健康影響との関係
この生物学的許容値 0.5 mg/g・cr は許容濃度 1 ppm
CS2 1 ppm=3.13 mg/m ,TTCA 1 mol/mol cr=1.4
に対応する値として設定されている.
に対応する TTCA 濃度を求めると 0.29 mg/g・cr を得る.
5.測定上の注意
mg/g・cr (cr: クレアチニン)を用いて 1 ppm の CS2
Drexler et al.14)はビスコース・レーヨン工場に勤務
する 363 名の男子労働者より作業終了時尿中 TTCA 濃
度と 作業中曝露平均濃度(拡散型個人サンプラー使用)
との関係を求め 回帰直線として 次の式を得た.
尿中 TTCA 分析には高速液体クロマト法が用いられ
ている 20-22).
非曝露者の尿中からは TTCA は検出されない
23)
.あ
る種の食品(例えば キャベツ・レタス・カブラなどの
十字花科植物 24))を摂取すると尿中に TTCA が排泄さ
TTCA(mg/g・cr)=0.59+[0.315×CS2(ppm)]
こ の 式 に 二 硫 化 炭 素 1 ppm を 代 入 す る と TTCA=
れる.日本人での研究によれば,生キャベツ 100 g を
0.905 mg/g・cr を得る.
摂 取 す る と 1-2 時 間 後 に 尿 中 に 0.02-0.06 mg/ 時 間 の
我が国のビスコース・レーヨン工場に勤務する男子労
15)
働者 432 (Omae et al. ;1993 年時の値を採用).432
16)
17)
TTCA が観察された 25).尿中クレアチニン(cr)排泄
を 50 mg/ 時間と推定すると この値は 0.4-1.2 mg/g・cr
(Takebayashi et al. ),432 (Takebayashi et al. ),
に相当する.また抗酒癖剤であるジスルフィラム(250
217 名(Nishiwaki et al.18))を対象にした調査によれば
mg)の投与を受けた患者の尿からは 0.3-0.4 mg/g・cr
二硫化炭素曝露 8 時間曝露平均値(拡散型サンプラー
の TTCA が検出されている 26).皮膚疾患のある人では
使用)(幾何平均値)はそれぞれ 3.36,4.4 (中央値),
経皮吸収が高まっていることがある 27,28).
5.0,4.9 ppm. 作業終了時尿中 TTCA 濃度は 3.42,1.61
(中央値),1.6,1.6 mg/g・cr と報告されていて,二硫
化炭素濃度と TTCA 濃度の間に比例関係を想定する
と 二硫化炭素 1 ppm に対応する TTCA 濃度は それぞ
6.生物学的許容値の提案
許容濃度 1 ppm に対応する値として,0.5 mg/g・Cr
を提案する.
れ 0.40,0.37,0.33,0.33 mg/g・cr と算出される.これ
らのうち Takebayashi et al.16),Takebayashi et al.17)
18)
と Nishiwaki et al.
の調査対象は基本的には同一集団
7.他機関の提案値
ACGIH29) 0.5 mg/g・Cr(2015)
[TLV=1 ppm]
208
DFG30) BAT=2 mg/g・Cr(2014)
[MAK=5 ppm]
8.勧告の履歴
2015 年度(新設)
生物学的許容値 尿中 2- ジチオチアゾリジン -4- カ
ルボキシル酸 0.5 mg /g・Cr
試料採取時期 作業終了時(ただし,アブラナ科植
物を摂取しない時期)
文 献
1)製 品 評 価 技 術 基 盤 機 構 CHRIP (Chemical Risk
Information Platform)2015.
2)化学工業日報社 . 2015 年版 16615 の化学商品 PDF.東京,
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発がん性分類暫定物質(2015)の提案理由
平成 27 年 5 月 14 日
日本産業衛生学会
許容濃度等に関する委員会
オフセット印刷工程
発がん性分類を削除
オフセット印刷の発がん性分類は 2013 年度総会で第
1 群として提案され,その後,2014 年度総会で検討中と
された.その後の検討により,オフセット印刷工程で発
生した胆管がんは,工程で使用された 1,2- ジクロロプロ
パン(発がん性分類 1),ジクロロメタン(発がん性分
類 2A)による可能性が高いと考えられることから,検
討中としていたオフセット印刷工程を発がん分類表から
削除する.
る.塗料剥離用溶剤,脱脂洗浄剤,フォーム製造発泡剤,
フィルム現像溶剤,香油等の抽出溶剤,エアロゾル成分
等に使用される.平成 24 年の製造輸入量は 51,984 トン 1)
であった.
2.前回(1999 年)発がん性分類提案時の情報
(ア)ヒトへの影響
ヒトの疫学研究,特にコホート研究は,Lanes 等 2)
がセルロースアセテート繊維製造工程で 1954 年から
1977 年までに 3 か月以上働いた 1,271 名を 1986 年ま
で追跡した研究で,全 122 名の死亡のうち胆道・肝
臓がんで 4 名が死亡し,標準化死亡比(Standardized
Mortality Ratio: SMR) は 5.75(95% 信 頼 区 間
(Confidence Interval: CI): 1.82-13.78), う ち 胆 道
がん死亡者は 3 名で,SMR20(95%CI: 5.2-56)とい
ずれも有意に高かった.その後追跡期間を 1986 年
末から 1990 年 12 月まで延長し,50 名の死亡を追加
した結果,胆道・肝臓がん死亡は追加死亡 0 名で,
SMR2.98(95%CI: 0.81-7.63)となり,有意でなくなっ
た 3).胆道がん死亡の SMR は論文中で触れられてい
なかった.一方で,Hearne 等 4) は 1964 年から 1970
年まで 1 年以上セルロースアセテートフィルム製造工
程でジクロロメタンに曝露した作業者 1,013 名の作業
者の死亡を 1984 年まで追跡した結果,176 名が死亡
(うち 41 名が悪性腫瘍)したが,悪性腫瘍で有意な
SMR,Proportional mortality ratio の上昇は見られ
ず,このコホートの追跡期間を 1988 年まで 4 年間延
長した 5)が,64 名が加わった 238 名の死亡(うち 55
名が悪性腫瘍)で,ジクロロメタンによる部位別がん
死亡の増加は見られなかった.
Gibbs 等
6)
はセルロースアセテート繊維製造工程で
1970 年から 1981 年までに 3 か月以上雇用された 3,211
名(男性 2,187 名,女性 1,024 名)を 1989 年 12 月ま
で追跡,734 名(男性 602 名,女性 132 名)が死亡し
たが,曝露別(低濃度 50-100 ppm,高濃度 350-700
ppm),男女別で,有意な過剰死亡を示す死因は同定
ジクロロメタン
CH2Cl2
[CAS No. 75-09-2]
発がん性分類 第 2 群 A
別名
されなかった.しかし,20 年以上の曝露群に限ると,
高濃度曝露群の前立腺がんで SMR208.4(p<0.05),
低濃度曝露群の子宮がんで SMR802.2(p<0.01)を示
した.
Tomenson 等 7)は,1946 年から 1988 年にかけてセ
ルロースアセテートフィルムを製造していた工場で働
メチレンクロライド,塩化メチレン
いていた 1,473 名の死亡を 1994 年 12 月まで追跡した
1.物理化学的性質,用途
は見られなかった.
ジクロロメタンは,常温常圧でエタノール様臭のあ
る無色透明の液体である.分子量 84.94,融点−96.8℃,
沸点 39.8℃,蒸気圧 440 mmHg(25℃),非引火性であ
結果,ジクロロメタンに関連したがんの SMR の上昇
(イ)動物実験
a)長期発がん実験
NTP8) は,動物実験で,8 ∼ 9 週齢の雌・雄性
産衛誌 57 巻,2015
210
B6C3F1 マ ウ ス,7 ∼ 8 週 齢 の F344/F ラ ッ ト に,
の乳がんについて,ジクロロメタンとの関連を調べた
0,1,000( ラ ッ ト の み ),2,000,4,000 ppm の ジ ク
結果,それぞれオッズ比が 2.02(95%CI: 0.76-5.42),
ロロメタンを 6 時間 / 日,5 日間 / 週,102 週間,1
2.58(95%CI: 0.86-7.72),2.35(95%CI: 0.98-5.65)だっ
群 50 匹に経気道曝露した結果,肺胞・気管支の腺
た.
腫・がんが,雄で 2,10,28 匹,雌で 1,13,29 匹,
Tomenson 等 18) は,Tomenson 等 7) の対象コホー
肝細胞腺腫・がんが,雄で 22,24,33 匹,雌で 3,
ト,1946 年から 1988 年にかけてセルロースアセテー
16,40 匹と,量反応的に発症が増えたが,ラット
トフィルムを製造していた工場で働いていた 1,473 名
では同様の腫瘍の発生はみられなかった.
の死亡,の追跡期間を 2006 年 12 月まで延長して追跡
一方,8 ∼ 9 週齢の雌性 B6C3F1 マウスの 0,2,000
ppm,6 時 間 / 日,5 日 間 / 週,104 週 間,1 群 50
したが,ジクロロメタンに関連したがんの SMR の上
昇は見られなかった.
匹に経気道曝露した実験 9) で,コントロール群と
Miligi 等 19) は,イタリアの 8 地域で,1991 年から
比して曝露群で肺・肝臓の腺腫・がんの発症率が有
1993 年に新規に悪性リンパ腫と診断された 20 ∼ 74
意に高かった.
歳の男女 1,732 名(非ホジキンリンパ腫 1,428 名,ホ
b)遺伝子障害性
ジキンリンパ腫 304 名)と,対照群(1,530 名)を比
ジクロロメタンの遺伝子障害性は,in vitro 試
較し,ジクロロメタンや他の有機溶剤曝露との関連を
験では,ネズミチフス菌を用いた復帰突然変異試
検討したところ,非ホジキンリンパ腫ではジクロロメ
験 10),マウス,ハムスターの細胞を用いた染色体
タンのオッズ比は曝露が中・高濃度帯(13 名)で 1.7
異常試験
11,12)
で,in vivo 試験では,マウスで染
色体異常試験,姉妹染色分体交換試験,小核試験,
DNA 損傷試験
13)
で,陽性の所見が得られた.
(95%CI: 0.7-4.3)だったが,小リンパ球性非ホジキン
リンパ腫(6 名発症)ではジクロロメタン曝露のオッ
ズ比は 3.2(95%CI: 1.0-10.1)と有意に高かった.
Wang 等 20) は,1996 年から 2000 年に非ホジキン
(ウ)発がんのメカニズム
動物実験とヒト疫学研究における発がんの根拠の
リンパ腫患者と診断された 601 名と 717 名の対照群
差は,ジクロロメタンの代謝経路として考えられる
による女性のみ,21 ∼ 84 歳の参加者による症例対照
GST-T1 によるグルタチオン抱合
14)
と CYP2E1 によ
研究を行い,ジクロロメタンや他の有機溶剤との関連
る酸化 15)のうち,前者が有意である場合に発がんを
を検討したところ,ジクロロメタン曝露のオッズ比は
生じ,マウスは GST-T1 活性が高く,通常グルタチオ
1.5(95%CI: 1.0-2.3)と有意に高かった.
ン抱合による代謝を経るが,ヒトでは CYP2E1 によ
Barry 等
21)
は,Wang 等
20)
と同一の対象を用
る酸化が主で,高濃度にならない限り CYP2E1 は飽
い,代謝に関連した遺伝子型別にジクロロメタン曝
和せず,GST-T1 によるグルタチオン抱合が行われな
露と非ホジキンリンパ腫との関連を調べた.遺伝子
い,と説明された.
型 を 調 べ た 非 ホ ジ キ ン リ ン パ 腫 患 者 518 名, 対 照
(エ)前回の発がん分類の提案理由
日本産業衛生学会
16)
群 597 名を対象とした症例対照研究で,ジクロロメ
は,動物実験から十分な発が
タンのオッズ比は非ホジキンリンパ腫全体では 1.69
んの十分な証拠があると認め,ヒト疫学研究からの証
(95%CI: 1.06-2.69),びまん性大細胞型 B 細胞性リン
拠はないとする知見から,発がん性分類 2B を提案し
パ 腫(diffuse large B-cell lymphoma: DLBCL) で
た.
2.10(95%CI: 1.15-3.85),辺縁帯リンパ腫(marginal
zone lymphoma: MZL)で 5.52(95%CI: 2.26-13.50)
3.前回(1999 年)発がん性分類提案以降の情報
と有意に高かった.CYP2E1 の一塩基多型(スニップ)
(ア)ヒトへの影響
rs2070673 の野生型(TT)ではジクロロメタンのオッ
そ の 後 Radican 等 17),Tomenson 等 18) の コ ホ ー
ト研究,Miligi 等
19)
,Wang 等
20)
,Barry 等
21)
の症
例 対 照 研 究,Kumagai 等 22),Kubo 等 23),Yamada
等 24)による発がん症例の報告が蓄積された.
コホート研究では,Radican 等 17) は,1952 年から
ズ比は非ホジキンリンパ腫で 4.42(95%CI: 2.03-9.62),
DLBCL で 4.71(95%CI: 1.85-11.99),MZL で 17.17
(95%CI: 5.10-57.88)と有意に高かった.
一方,本邦大阪の 1 オフセット印刷会社から発生
した肝内・肝外胆管がんの事案では,Kumagai 等 22)
1956 年の 5 カ年間のうち 1 年以上働いた,トリクロ
は報告した 11 例中 10 例でジクロロメタン曝露,全
ロエチレンと他の有機溶剤に曝露していた 14,455 名
例で 1,2- ジクロロプロパン曝露があり,SMR は 2,900
の作業者を,これらの化学物質と発がんとの関連をみ
(95%CI: 1,100-6,400), ジ ク ロ ロ メ タ ン の 曝 露 濃 度
る目的で,1990 年から 2000 年まで追跡した調査で,
は推定で 80-540 ppm と報告している.また,Kubo
男性の非ホジキンリンパ腫および多発性骨髄腫,女性
等 23) は Kumagai 等 22) で報告のあった 11 例を含む
産衛誌 57 巻,2015
211
17 例の肝内・肝外胆管がんが同じ事業場で発症した,
GST-T1 が関与するが,ジクロロメタンの発がん性は,
と報告している.全例が 1,2- ジクロロプロパン曝露が
GST による代謝で生じる中間代謝産物 S-(クロロメ
あるものの,11 例はジクロロメタンに混合曝露して
チル)グルタチオン,ホルムアルデヒドが関係してい
いた.
ると考えられている 10,29).一方,正常なヒトの胆管
また,Kumagai
24)
は,本邦で労災申請のあった 2
の核内,細胞質内において GST-T1 の発現が認めら
例の胆管がんを報告しているが,このうち 1 名は 44
れ 30-32),更に胆管がん以外(胆嚢結石)のヒトの肝
歳で胆管がんと診断されたが,ケロセンとジクロロメ
内・肝外胆管の胆管上皮細胞で GST-T1 の発現が確認
タン,1,1,1- トリクロロエタンを 50% ずつ配合した溶
された 33).このことから,本邦でジクロロメタンを
液をブランケット洗浄に使用し,ジクロロメタンに
含む有機溶剤に曝露した作業者が発症した胆管がんの
は 240-6,100 ppm 曝露されていると推定した.Kubo
発症に,ジクロロメタンが寄与している可能性が示唆
等 25)は,新たな 9 例の胆管がんを報告したが,その
される.
うち 2 名(41 歳,49 歳)はジクロロメタンと 1,1,1トリクロロエタンの混合曝露だった.Yamada 等 26)
4.発がん性分類の提案
が報告した 6 例の胆管がんのうち 4 名がジクロロメタ
本学会で過去に発がん性分類第 2 群 B が提案された
ンの推定加重平均曝露濃度が 0-180 ppm に曝露して
後の疫学研究,動物実験による知見では,疫学研究のコ
いたが,1,2- ジクロロプロパンやケロセン等との混合
ホート研究で発がんの部位,得られた結果の有意性に一
曝露だった.また Yamada 等(in press)27) が報告
貫性は見られなかった.しかし,2 つの対象から解析さ
した 7 例の胆管がん患者の全員が推定加重平均濃度で
れた 3 つの症例対照研究では,対象者はジクロロメタン
15-440 ppm のジクロロメタンに曝露されており,う
単体の曝露でなく,混合曝露の可能性はあるものの,一
ち 3 名は 1,2- ジクロロプロパンには曝露されていな
致して非ホジキンリンパ腫とジクロロメタンとの関連を
かった.ただし,それらのものもガソリン,ケロセン
示唆している.また,本邦の 1 事業場で報告された 17
あるいは 1,1,1- トリクロロエタンなどへの曝露もあっ
例は,25 歳から 45 歳と若年であり,1,2- ジクロロプロ
た.
パン,ジクロロメタンの曝露による発症を強く疑われ
(イ)動物実験による発がん性に関する情報
る.また,ジクロロメタン単体の曝露でないものの他の
日本バイオアッセイ研究センターの研究 28) では,
発がんの可能性の低い物質との混合曝露により発症した
6 週齢の雌雄 BDF1 マウス,F344 ラットを 0,1,000,
胆管がんの症例報告もある.また,ジクロロメタン代謝
2,000,4,000 ppm,6 時間 / 日,5 日間 / 週,104 週間,
により,胆管にも発現が確認された GST-T1 による発が
1 群 50 匹に経気道曝露した.マウスでは,肝細胞腺腫,
んの可能性も示唆される.以上のことから疫学研究から
肝細胞がんは,雄のコントロール群(共に 10)と比し,
の証拠は十分とは言えないものの限定的であり,更に前
1,000 ppm 群 13,9,2,000 ppm 群 14,14,4,000 ppm
回提案時及びその後の動物実験から動物での発がんの証
群 15,20,雌のコントロール群(共に 1)と比し,1,000
拠は十分であると判断されることから,発がん性分類第
ppm 群 7,1,2,000 ppm 群 4,5,4,000 ppm 群 16,
2 群 A を提案する.
19 と,曝露濃度が増加すると共に発生が増加した.
細気管支―肺胞上皮種,細気管支−肺胞上皮がんは,
雄のコントロール群(7,1)と比し,1,000 ppm 群 3,
5.他機関における情報
国 際 が ん 研 究 期 間(International Agency for
14,2,000 ppm 群 4,22,4,000 ppm 群 14,39, 雌 の
34)
Research on Cancer: IARC)
の発がん分類では,最
コントロール群(2,3)と比し,1,000 ppm 群 4,1,
近の症例対照研究で一致して非ホジキンリンパ腫とジク
2,000 ppm 群 5,8,4,000 ppm 群 12,20 と, 曝 露 濃
ロロメタン曝露との関連が認められ,更に本邦から報告
度が増加すると共に発生が増加した.ラットでは,雄
のあった胆管がん発症にジクロロメタンとの関連が示唆
では,皮下組織線維腫,乳腺線維腺腫,腹膜中皮腫は,
されることから,過去に十分でない 34),とした疫学研
コントロール群(1,1,3)と比し,1,000 ppm 群 4,
究による証拠を限定的とし,動物実験による過去の十分
2,1,2,000 ppm 群 7,3,0,4,000 ppm 群 12,8,7,
とした評価をそのままとして,グループ 2A(ヒトに対
雌では,乳腺線維腺腫は,コントロール群(7)と比し,
して多分発がん性がある物質)に分類している 35).
1,000 ppm 群 7,2,000 ppm 群 9,4,000 ppm 群 14 と,
曝露濃度が増加すると共に発生が増加した.
(ウ)発がんのメカニズム
ACGIH(American Conference on Governmental
Industrial Hygienists)36)は発がん性分類を A3(動物に
対して発がん性のあることは確認されているが,人体に
ヒ ト, 動 物 に お け る ジ ク ロ ロ メ タ ン の 代 謝 は,
対する影響は不明)としているが,2001 年以降のデー
CYP,GST の 両 経 路 が あ り, そ れ ぞ れ CYP2E1,
タに基づく発がん性分類の修正は行っていない.DFG
産衛誌 57 巻,2015
212
(2014)37) は,2013 年に 3A(人体に対する発がん性の
おそれがある)としていた発がん性分類を,2014 年に 5
(発がん性があり,遺伝子障害性があるが,MAK 値は
設定できる)に変更した.
6.勧告の履歴
2015 年度(改定案)
発がん性分類 第 2 群 A
1999 年度(新規提案) 発がん性分類 第 2 群 B
文 献
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213
トリクロロエチレン
Cl2C=CHCl
[CAS No. 79-01-6]
発がん性分類 第 1 群
日本産業衛生学会では,1997 年にトリクロロエチレ
ンの許容濃度を改定 3) し,発がん性分類については第
2 群 B としてきたが,その後の研究により,コホート研
究およびケースコントロール研究による発がん性に関す
る報告が増え,国際がん研究機関(IARC)においても
2014 年発行のモノグラム Vol.106 において発がん性につ
いて十分な証拠があるとして Group 1 に変更 2)してい
ることから,発がん性分類について検討した.
1.IARC の発がん分類変更理由
IARC monograph2) では,Vol.63 以降,コホート研
究およびケースコントロール研究が増えて,ヒトにおけ
る知見として,腎がんについては発がん性を示す十分な
根拠があると判断し,また,非ホジキンリンパ腫と肝が
んについても,正の相関が認められると判断した.また,
動物実験においても発がん性を示す十分な根拠があると
判断された.これにより,発がん性分類を Group 1 に
変更している.
2.ヒト発がんに関する知見
前回(1997 年)の提案理由書 3)にて参照された 11 編
の研究論文に加えて,コホート研究については,ヨー
ロッパにおける金属加工業・脱脂処理作業者コホート
が 2 編 4,5),アメリカにおける電気・航空機産業での
脱脂処理作業者コホートが 8 編 6-13),その後報告され
た.さらに,ケースコントロール研究が 17 編(腎がん
8 編 14-21),非ホジキンリンパ腫 9 編 21-29)
〈1 編は腎が
んを含む〉),メタ解析研究 5 編 30-34)が報告された.作
業環境中のトリクロロエチレン平均濃度は,1947 年か
ら 1989 年 に か け て,10 年 ご と に,329,260,53,23
mg/m3,(それぞれ 60.2,47.9,9.7,4.2 ppm)と推移し
たと報告されている 35).
腎がんについて,統計学的に有意なリスク増加を示し
た研究は,コホート研究 10 編中 0 編,ケースコントロー
ル研究 8 編中 6 編 14,15,17-20) であり,ケースコントロー
ルの結果を中心に関連を示す研究が多く報告されている
が,コホート研究については対象者数の不足が指摘され
ている.US-EPA が行ったメタ解析 30)では,15 のコホー
ト研究とケースコントロール研究に基づく総相対リスク
は 1.27(95% 信頼区間 1.13-1.43)と有意なリスク増加
が示されたが,不均一性や出版バイアスは明らかではな
かった.また,他のメタ解析 31)では,トリクロロエチ
レン曝露の把握に特化した研究 9 編に限った相対リスク
産衛誌 57 巻,2015
214
が 1.26(95% 信頼区間 1.06-1.56)であったのに対して,
ム P450 に よ り, ま た,GSH 抱 合 が GST 酵 素 に よ り
トリクロロエチレンに特化しない塩素系溶媒曝露と定義
触媒されること,③実験動物およびヒトでの腎細胞
した研究 5 編では 1.13(95% 信頼区間 0.70-1.83)であり,
の GSH 抱合代謝物の生成過程中に,トリクロロエチ
トリクロロエチレン単独曝露と腎がんとの関連が明らか
レンから反応性の高い代謝産物[S-(1,2-dichlorovinyl)
であった.
glutathione (DCVG),S-(1,2-dichlorovinyl)-L-cysteine
非ホジキンリンパ腫については,統計学的に有意なリ
(DCVC),N-acetyl-S-(1,2-dichlorovinyl)-L-cysteine
スク増加を示した研究は,コホート研究 10 編中 0 編,
(NAcDCVC),S-(1,2-dichlorovinyl)-thiol (DCVT),S-
ケースコントロール研究 9 編中 4 編
22,25,28,29)
,肝がんに
(1,2-dichlorovinyl)-L-cysteine sulfoxide (DCVCS)]が
ついては,コホート研究 10 編中 0 編であり,腎がんと
生成されること,④複数の試験系において,トリクロ
同様,コホート研究については対象者数の不足が指摘さ
ロエチレン由来の反応性の高い GSH 抱合代謝物には,
れている.US-EPA が行ったメタ解析 30)では,非ホジ
一貫して遺伝毒性が認められること,である.さらに,
キンリンパ腫について,17 のコホート研究とケースコ
GSTT1 アレル保有者ではトリクロロエチレン曝露によ
ントロール研究に基づく総相対リスクは 1.23(95% 信頼
り腎がんリスクが増加するのに対して,GSTT1 アレル
区間 1.07-1.42)と有意なリスク増加が示されたが,中
のホモ欠損者では,トリクロロエチレン曝露により腎が
等度から弱い不均一性や出版バイアスの存在が示唆され
んリスクが増加しないことが症例対照研究で示されてい
た.肝がんについては,9 のコホート研究に基づく総相
る 20).
対リスクは 1.29(95% 信頼区間 1.07-1.56)と有意なリ
スク増加が示されたが,不均一性や出版バイアスは明ら
かではなかった 30).
5.発がん性分類の提案
日本産業衛生学会では,1997 年にトリクロロエチレ
ンの許容濃度を改定 3) し,発がん分類については第 2
群 B としていたが,その後の研究により,コホート研
3.動物発がんに関する知見
動物実験における発がん性に関する情報は,マウス
究およびケースコントロール研究による発がん性に関す
については,吸入試験が 2 報あり,肺の腺癌 36)と,肺
る報告が増え,ヒトに対する腎がんについては有意なリ
の腺癌と肝臓の肝細胞癌
37)
の発生増加が報告されてい
スク増加が確認されたことから,疫学研究からの十分な
る.また,強制経口投与による試験では,肝細胞癌の発
証拠があると判断した.また,動物実験においても肺,
生増加が 4 報 38-41)報告されている.ラットについて
肝臓,腎臓において腫瘍の発生を認める十分な証拠があ
は,腎臓に尿細管上皮の核の巨大化とともに少数例では
り,発がんメカニズムについても,GSH 抱合代謝物の
あるが尿細管由来の腺癌の発生が吸入試験 1 報
37)
と強
遺伝毒性が観察されることや,GST 活性が遺伝的に低
制経口投与試験 2 報 39,42) で報告されている.また,精
いヒトでは遺伝毒性が認められないことなどが確認され
巣の間細胞腫瘍(主に良性)の発生増加が吸入試験
複数の系統のラットを使用した強制経口投与試験
37)
42)
,
の
中の 1 つの系統で報告されている.
ている.また IARC は,1995 年(モノグラム Vol.63)
において Group 2A1)としていたが,2014 年発行のモ
ノグラム Vol.106 において発がん性について十分な証拠
以上のように,マウスにおいて複数の試験で肝臓と肺
に悪性腫瘍の発生増加が示されていることから,トリク
ロロエチレンの発がん性は動物実験からの証拠も十分で
があるとして Group 1 に変更 2)している.
以上より,トリクロロエチレンの発がん性分類を,第
2 群 B から第 1 群へ変更することを提案する.
あると考えられる.なお,吸入曝露によりマウスに肺の
悪性腫瘍が発生増加した濃度は 150 ppm 以上 36),肝臓
に悪性腫瘍が発生増加した濃度は 600 ppm
37)
であった.
6.許容濃度について
許容濃度 25 ppm は,ヒトへの神経毒性をエンドポイ
また,吸入曝露によりラットに腎臓の悪性腫瘍が発生し
ントとして設定されている.疫学研究において発がん性
た濃度は 600 ppm,精巣腫瘍が発生増加した濃度は 100
が報告されている濃度は,1947 年から 1989 年にかけて
ppm 以上 37)であった.
10 年ごとに,作業環境中のトリクロロエチレンの平均
濃度として 329,260,53,23 mg/m3(それぞれ 60.2,
4.発がんメカニズムについて
47.9,9.7,4.2 ppm)が報告 35)されている.また,動物
発がんメカニズムに係る事項として以下が報告され
実験において悪性腫瘍の発生増加が報告されている濃度
ている.すなわち,①トリクロロエチレンの吸収,体
は 150 ppm 以上である 36).これらの曝露濃度は,許容
内分布,代謝,排泄が,実験動物およびヒトにおいて
濃度よりも明らかに高値であるとはいえないことによ
明らかになっていること,②実験動物およびヒトにお
り,表中に「ψ」のマークを付し,発がん以外の健康影
いて,トリクロロエチレンの酸化的代謝がチトクロー
響を指標として許容濃度が設定されている物質として,
産衛誌 57 巻,2015
注意を喚起することとした.
7.勧告の履歴
2015 年度(改定案) 発がん性分類第 1 群
1997 年度(新設) 発がん性分類第 2 群 B
文 献
1)IARC monograph Volume 63 (1995)Dry Cleaning,
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tetrachloroethylene-induced liver tumors in B6C3F1
∼ 30%である 3).Stevens-Johnson 症候群と中毒性表皮
感作性物質暫定物質(2015)の提案理由
平成 27 年 5 月 14 日
日本産業衛生学会
許容濃度等に関する委員会
トリクロロエチレン
Cl2C=CHCl
[CAS No. 79-01-6]
感作性分類 皮膚 第 2 群
職 業 性 ト リ ク ロ ロ エ チ レ ン(TRI) 曝 露 は
hypersensitivity dermatitis の原因である.日本からの
報告は多くなく,1960 年から 1980 年代にかけて,5 名,
2009 年,2010 年にそれぞれ 1 名の症例が報告された.
韓国では 1990 年代から 2000 年代にかけて 2 名,2012
年に新たに 1 例が報告された.その他,フィリピンで 7
名,シンガポールで 8 名,タイで 3 名,スペインで 1 名,
アメリカで 5 名報告された.患者数が圧倒的に多いのが
中国であり,1990 年代以降 300 名を超える症例の発生
が把握されている.繰り返しの TRI 曝露により死亡例
も報告されている 1,2).
国際分類に準じた皮膚の病型は剥脱性皮膚炎が最も多
く,全体の 50 ∼ 70%であった.次いで多形紅斑が 20
壊死融解症は少なく,概ね 10%以下であった.仕事の
内容は,脱脂洗浄,成型,包装,研磨,製品検査,溶接
であった.脱脂洗浄作業に従事していた者が圧倒的に多
かったが,すべての患者が TRI の曝露を受けていたと
解される.
この疾患は TRI 使用開始から平均約 1 か月の間に発
症していた.性差はなく,比較的若い年齢層に発生して
いた.肝障害はほぼ必発で,38℃以上の熱発,白血球,
特に好酸球の増多,表在リンパ節の腫脹を伴うことが多
かった.7 割の患者で皮疹発症直前の薬物の使用は認め
られず,症状は重症薬疹に酷似しているがこの疾患は医
薬による薬疹ではない.重症皮膚肝障害の原因となり得
産衛誌 57 巻,2015
217
るマイコプラズマ,単純ヘルペスウイルス,サイトメガ
ロウイルス,風疹,肝炎ウイルスの急性感染は認めら
れなかった.一方,HHV6 の再活性化が特徴的であり,
病態は重症薬疹である DIHS/DRESS と同一である 3-5).
複数の患者発生職場の調査では,トリクロロエチレン以
外に共通する有機溶剤曝露や,安定剤および金属といっ
た溶剤混入物の存在は認められなかった 6).
Phoon ら 2) は 5% の TRI をオリーブ油に溶かして 1
名の患者にパッチテストが行ったが,結果は陰性であっ
た.Nakayama7) は TRI,TCE,TCA に よ る パ ッ チ
テストを行った.10%,25% の TRI で弱陽性であった
が,5% では陰性であった.0.005% − 5% の TCE では
中程度の陽性であったが,5% の TCA は陰性であった.
Watanabe ら 8)は TRI とその代謝物(抱水クロラール,
TCE,TCA)のパッチテストを行ったところ,全化学
物質が陽性を示した.
雌 モ ル モ ッ ト を 用 い た Guinea Pig Maximization
9)
Test (GPMT)で 66%の感作率であった .感作性動
物の ALT,AST の値は上昇し,病理的にも肝障害が観
察された.
以上のように,適切な方法により全身性皮膚障害患者
に実施されたパッチテストで,TRI または代謝物への
感作成立が複数のグループにより証明されていること,
曝露と発症との関連を明確に示す疫学研究が存在し,人
間に対する感作性が明らかに認められることから,トリ
クロロエチレンを皮膚感作性第 2 群に分類することを提
案する.
文 献
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