図書館兼ー用への社会階層の影響 -市町村別デ離タを用いた試験的分析

図書館利用への社会階層 の影響
―市町村別デー タを用いた試験的分析一
福嶋
1
順
課 題 の設 定
子 どもの図書館利 用へ の社会階層 の影響 を調べ ることを目的 として、筆者 は先 に、都道
府県単位 で集計 された統計デー タを用 いた分析 をお こな つた (福 嶋 21X18)。
ここでは、近
年 の子 どもの図書館利 用には、出身 階層 が無視 で きない影響 を与 えてい ること、社会階層
の影響 は 1990年 代以降 に顕在化 している ことが確 かめ られ た。他方、都道府 県単位 での分
析 は、利用 可能 なデー タの種類 が多 い反面、地域 ご との社会的背景や 市町村単位 で行われ
る図書館行政 の格差 を捨象す ることになるため、
分 析結果 の一般化 には課題 を残 していた。
本来社 会教育行政 については 、その 主な実施主体は市町村である。 自治体 ごとに予算、
施設数 、職 員数等 の大 きな差が存在す る。 た とえば平成 19年度地方教育費調査 (平 成 18
年会計年度)に よると、社会教育費の総額 1兆 7490億 円の うち、82%に あた る 1兆 4325
億 円を市町 付支出金が 占めて い る。学校教育費については総額 の 76%を 国庫補助金 と都道
府 県支出金 が 占めてい ることに鑑 みれ ば、社会教育行政は市町村 の取組 に大 きく依存 して
い るといえるだろ う。 同時に この ことが、社会教育行政 の 自治体間の大 きな格差 として現
れてい る。 同 じく地方教育費調査にお いて、都道府県別 に集計 され たデー タで見 ると、国
民 一人あた りの図書館 費 では、熊本 の 1324円 か ら福井の 5699円 まで、実 に 4倍 以上 の格
差が存 在す るのである。
また公共図書館 にお いては、その整備 が進む 中で、住民 に直接奉仕す る市町村立図書館
と、図書館 の図書館 としてそれ らをサポー トす る都道府県 立図書館 とい う、両者 の役害1分
担 を踏 まえたネ ッ トワー ク化がはか られて きた。 したがって市民の図書館 利用行動は、居
住す る市町 村の図書館 サー ビスに大 きく左右 され る こ ととなる。 さらに社会階層 の影響 を
調 べ る上で も、都道府県単位 の分析 では 、都 市圏 と地方 といった大 きな地政的要因の影響
が避 け られ ないが 、市町 付単位 の よ り詳細 な分析 を行 うことで、結果 の信頼性 が増す と考
え られ る。
したがつて本論文では 、市町村 単位 で集計 され たデー タを用 いて、図書館利 用へ の社会
階層 の影響 を調べ ることを課題 とす る。 ただ し、全国の市町 村を対象に含めるためには、
膨 大な作業 が必 要 となるため、試験 的分析 として大阪府 下の市町 付について、分析 を行 う。
‐25‐
2
図書 館 利 用 と社 会 階 層
格差や不平等の問題 が社会的課題 と して意識 され つつあ る今 日であるが 、社会教 育にお
いて、学習行動へ の社会階層 の影響や 、教 育機会 の不平等 に焦点を当てて、実証的 に分析
した研究は少ない。 これ は、社会教育 が職業選択 や所得に直接影響 しない教育活動 として
理解 されてきた ことの影響 もあるだろ う。 しか し教育の社会学的研究 における、学力の階
層差や学歴 による意識 の違 しヽこ関す る近年 の研究 (苅 谷・ 志水
2a14、
吉川 2006等 )に 鑑
みれば、学習者 の 自発的な行動 が前提 となる社会教育にお いて も、同様 の階層 間格差 が存
在す る ことが当然考 え られ る。
図書館 の利用 と社会階層 の 関係 についての先行研究 としては、特定の 自治体 または図書
館 を対象 とした調 査によつて、図書館利 用や読書傾 向の学歴差 を明 ら力ヽこした ものがある
(寄 藤 1982、
大阪大学人 間科学部社会教育論講座
1983、
常盤 1995)。
これ′
らの知見が一
般化可能 な ものであるのか どうか、換言すれ ば、学歴 の高い人 ほ ど図書館 をよ く利用す る
とい う関係 が、一般的 に見 られ るか どうかを確 かめる ことが、本研究 のひ とつの課題 とな
る。また 、先述 した筆者 の過 去の研究結果か らも、子 どもの図書館利 用に社会階層 は無視
で きない影響 を与 えてい ると考え られ るが 、市町村 を単位 とした分析のおいて も同様 の結
果 となるか どうかが確 かめ られ なければな らない。
の
市町村 を単位 と して、図書館 利用 の要因 を探 つた研 究 としては、岸 田・ 佐藤 によるも
があ り、大阪府 と富山県にお ける 1980年 と 1985年 の図書館利用 について、貸出密度 を被
説明変数 とす る重回帰分析 を行 つてい る (岸 田 佐藤 1991)。 ここでは、階層指標 として
専門・管理職 従事者率 が説明変数 に加 え られて いるが、いずれ の分析 にお いて も最終的な回
の
帰モデルには採用 されていない。 しか し、筆者 の研究において 、階層指標 が顕在化す る
は 1990年 以降 のデー タであつた (福 嶋
211118)。
したがつて、同様 の分析 をよ り新 しいデ
ー タで行 う必要 があるだろ う。 また、岸 田 と佐藤 の提示す る回帰モデルには、相 互に高 い
相関関係 にあると思われ る複数 の説明変数 が含まれ てお り、標準偏回帰係数 が極端に大 き
い ものや、単相関 と偏回帰係数 の符号が大 きく逆転 してい ると思われ る説 明変数 が含 まれ
て い る。多重共線性 の問題 が強 く疑われ 、適切 なモデルが提示 され ているとは言 いがたしヽ
したが って 、分析 の手法は岸 田・ 佐藤 に習 いつつ 、適切 なデー タの指標化 に留意 し、最
終的な回帰モデ ル に階層指標 が含まオしるか どうかを確 かめることにな る。
3
方 法 、指 標 、デ ー タ
岸 田・ 佐藤 に習 つて、市町 付 ごとの公共図書館 の利用 の度合 いを示す指標 を被説 明変数
とし、図書館数や蔵書数 といつた図書館 の内的要因 と、住 民の学歴 や高齢者 率 といつた外
‐26‐
的要因 を説明変数 とす る重回帰分析 を行 う。それ ぞれ の説明変数 を ■ト ル、ぁ・・・ とお
くと、被説明変数 ンは以下の式で予測できる と仮定する もの である。
―
■a:χ lり
・・
2+・
し
本研究の課題 に即 して言えば、最終的な回帰モ デル に階層指標が含 まれ るか否か、含 ま
れ る とすれ ば、他 の変数 と比べ た ときの影響力の強 さは ど うか とい うこ とが問題 となる。
影響力の強 さについては、説明変数 の単位 の とり方に依存 しないよ う標準化 した、標 準偏
回帰係数 を比較す る。
先行研究の多 くが、図書館 の利用 の度合 い を示す指標 として用いてい るの は「貸出密度」
であ り、貸出数 を人 口で除 して導かれ る。本研究 では、試験 的 な分析 と して子 ども図書館
利用 と、一般 の図書館利 用 を区別 して分析す る。そ のため、児童書 の貸出を 15歳 未満人 口
で除 した 「児童貸 出密度」と、児童書 をのぞいた貸出を 15歳 以 上の人 口で除 した 「一般 貸
出密度Jの 二つ を被説 明変数 として設定す る。
続 いて、図書館 サ ー ビスの供給側 の要因を指標 化す る。 先行研 究で用い られ ている もの
には 、図書館 数 、サー ビスポイ ン ト数 、蔵書数、受入数、資料費、図書館面積 、職
員数等
がある。 この うち、図書館 数やサ ー ビスポイン ト数 は、図書館サー ビスヘ のア クセスの し
やす さを示す もの と して指標化す る必要があ る。 ここでは徒歩圏内の図書館 の有無を示す
もの として 、図書関数・サー ビスポイ ン ト数 を小学校 数 で除 した 「充足率Jを 変数 とする。
続 いて 、図書館 サー ビスの水準 を示すデー タとして、蔵 議
、受入数、資料費等がある。
この うち、蔵書数は過去 の図書館サー ビスにおいて蓄積 され て きた、 いわばス トックで
ぁ
り、受入数、購入数 、資料費等 は毎年 のサー ビスの水準 を示す いわば フ ローである。 ス ト
ックの多 い図書館 は、資料 の数 とい う魅力があ るのに対 し、 フ ローの多い図書館 は、新鮮
な資料が多 い とい う魅力 があることにな る。
フ ローにつ いては、年間予算 として確保 され た資料費 を用 いて図書が
購入 され 、 これが
各図書館 の受入数 の 大半 を占めるこ とになるため (寄 贈等がある場合 は購 入数 よ り受入数
が多 くなる)、 どの よ うに指標化 して もこれ らの フ ロー変数は相互の
相 関が非常に高 くな
る。相関の高 い説明変数 を同時に回帰モ デル に投入す ることはで きないため、 ここでは児
童書 を区別 して集 計 され てい る購入数 を用 いる。
蔵書数 、購入数 、職員数 、図書館面積 の指標化にあたって 、 も う一つ問題 となるのが 、
基 準化 の方法 である。先行研 究では、人 口で除 して基準化 している ものが 多 い (上 田他
1979、
岸 田・ 佐藤 1991)。
しか し図書館 サー ビスは本来図書館 とい う施 設を通 じて提供 さ
れ る ものであるため、図書館 単位 のサー ビス水準 を示す指標 と して図書館数 で除 して基準
化す るほ うが、実 態に即 した 自然な方法である とt)考 え られ る。 ただ し実際 の図書館サー
‐27‐
ビスは、 自動車図書館 や公 共施設 に設置 されたサー ビスポイ ン ト等 を通 じて も行 われ てお
り:こ れ らの寄与 については既存 の資料 の範囲では適切 に評価す ることが難 しい。 だ とす
れ ば、当該 自治体 の全体的な図書館 サー ビス水準 を示す指標 として、人 口で除す る ことに
も意義 がある とい うことになる。
そ こで本研究 では、図書館 内的要因を図書館数 で除 した図書館 あた りの数値 を用
い る分
析 と、人 口で除 した人 口 ilXXl人 あた りの数値 を用 い る分析 の両方を行 い 、それぞれ で回帰
モデルに採用 され る変数 の異同 を確かめる。
最後 に、社会階層 に代表 され る利用者側 の要因や 、図書館利 用に影響 を与 えると考
えら
れ る地域環境 を指標化す る。 まず、本研究 の課題 となる社会階層 であるが、市町村別 に集
の
計 され た利用可能 なデー タとして最終学 歴 を用 い る。 一般 の貸 出については、各市町 村
15歳 以 上人 口に 占める短大・高専卒業者 と大学・大学院卒業者 の合計 の 占める比率を用 い
る。児童書 の貸出 については、親 世代 の社会階層 の指標 として、30歳 ∼44歳 の男女それぞ
の
と
れ の人 口にお ける短大・ 高専、大学・ 大学院卒業者 の比率を用い る。その他 外的要因
しては、都市化 の度合 い を示す指標 として人 口集 中地区人 口率 を、地域住 民
の年齢構成 を
示す指標 として 65歳 以 上人 口率 と 15歳 未満人 口率を変数 に加 えた。各変数
の算出方法は
表 1を 参照 された い。
の
本調査で用いるデータのうち、図書館に関するものは、日本図書館協会発行の『 日本
)、
小学校数は『 大阪府統計年鑑』 と『 大
図書館』、人口、学歴に関するものは国勢調査
阪市統計書』によつている。必要なデータがそろう最も新しい年が 20∞ 年であるため、図
ついては
書館の貸出、購入数については21XXl年 度の実績、図書館数、職員数、小学校数に
21XXl年 4月
の段階のデータを用いた ヽ国勢調査は 21XXl年
10月
に実施されたものである。
分析の対象 とす るのは大限 府下の市町村 である。 この年度 の 自治体数 は
村 であ つたが 、 この うち 20∞ 年度 の時点 で公 共図書館 を持 たな
33市 、10町 、1
い 5町 1村 (能 勢、 田尻 、
である大阪市
岬、太子、河南、千早赤阪)は 分析か ら除外 した。他方 、政令指定都市
につ
いては、市域 が非常に大 きく他市町 村 と同列に扱 うことが難 しい。そ こで 、24の 行政 区そ
れぞれ に一館ず つ図書館 が設 置 され てい る ことを踏 まえて 、行政 区単位
で分析 を行 うこと
のデー タが著 し
に した。 この場合 、非常に規模の大 きい大阪市 立中央図書館 を有す る西区
い
い外れ値 とな るた め、分析 か ら除外 した。 また 、児童書の購 入数が報告 され ていな 藤井
の対象 とな
の ー
寺市 のデー タを除 いた。結果 として 23区 31市 5町 の計 59標 本 デ タが分析
った。
‐28‐
表
1
変数 一覧
変数番 号・ 変数名
01 -般 貸出密度
算出方法
(そ れぞれ市区RIIご
(貸 出冊数 ―児童 書貸 出数
とに算出)
)/(人
ロー15
歳未満人 口)
02
03
04
児童貸出密度
児童書貸出数/15歳 未満人 口
図書館充足率
図書館 数/小 学校数
05
図書館あた リー般蔵書数
(蔵 書冊数 ―児童書冊数
図書館 あた リー般 書購 入数
(購 入冊数 ―児童書購 入冊数 )/図 書館
サー ビスポ イン ト充足率
(図 書館数
+サ ー ビスポイ ン ト数)/小 学校
数
“
07
08
09
10
)/図 書館 数
図書館 あた り児童書数
児童書冊数/図 書館数
図書館 あた り児童 書購 入数
児童 書購入冊数/図 書館数
図書館あた り面積
図書館 面積 の合計/図 書館数
図書館 あた り職員数
(専 任職員数+兼 任職 員数+非 常勤職員 数
)/
図書館数
11 図書館あた り専任司書数
12 大人 llXXI人 あた リー般蔵書数
専任司書・ 司書補数/図 書館数
(蔵 書冊数 ―児童書冊数
)/(人 ロー15歳 未
満人 口)X llXXl
13
大人 llXXl人 あた リー般書購 入数
(購 入冊数 ―児童 書購入冊数
)/(人 ロー15
歳未満人 口)× llXXl
14 子 ども ltXXl人 あた り児童書数
児童書冊数/15歳 未満人口×llX10
15子 ども 10∞ 人あた り児童 書購入数 児童書購入冊数/15歳 未満 人 口X lKltlll
16 人 口 llXXl人 あた り図書館 面積
図書館 面積 の合計 /人 口X10oo
17 人 口 10∞ 人あた り職員数
(専 任職員数 +兼 任職 員数 十非 常勤職 員数 )/
人 口 X llXXl
18
19
人 口 llXXl人 あた り専任 司書数
専任司書・司書補数/人 口X llX10
短大・ 大学 卒業者率
短大・ 高専、大学・ 大学院卒 の人 口/(人 口
-15歳 未満人 口
)
20
父親 世代短大・ 大学卒業者率
短大・高専、大学・大学院卒の男性人 口 (30‐ 44
歳)/男 性人口
21
母親世代短大・ 大学卒業者率
22
人 口集 中地区人 口率
(30‐
44歳 )
短大・高専、大学・大学院卒の女性人 口 (3044
歳)/女 性人 口 (3044歳
人 口集 中地区人 口/人 口
23 65歳 以上人 口率
65歳 以上 人 口/人 口
24 15歳 未満人 口率
15歳 未満人 口/人 口
‐29‐
)
表2
変数 の概要
変数名
標準
一般貸出密度
児童貸出密度
偏差
との相関係数
との相関係数
425★
平均
一般 貸出密度
408
262
児童貸出密度
877
524
図書館 充足率
014
010
301☆
サー ビスポイ ン ト充足率
016
012
364贅
図書館 あた リー般蔵書数
82705
50931
502★
4801
3852
37279
26204
500★
図書館 あた り児童書購 入数
1982
1605
503・
図書館 あた り面積
1165
702
図書館 あた り職 員数
9∞
475
382☆ ナ
440・ '
図書館 あた り専任 司書数
474
230
251
197
大人 llXXl人 あた リー般蔵書数
1607
1291
748★
98
91
4339
3654
7∞・★
220
236
683'・
1931
1617
人 口 llXXl人 あた り職員数
015
011
701'贅
人 口 lllllll人 あた り専任 司書数
007
005
599★
短大 ・大学卒業者率
025
006
531・ '
父親世代短大・ 大学卒業者率
042
009
581・
母親世代短大・ 大学卒業者率
043
009
607・
・
人 口集 中地区人 口率
095
O K19
‐438・ ★
‐408★ =
65歳 以上 人 口率
015
002
‐305★
‐366★ ★
15歳 未満 人 口率
014
002
図書館 あた リー般書購入数
図書館 あた り児童書数
大人 lllal人 あた リー般書購入
彙
★
489★ ★
士
519'姜
471★
★
★
★
458★ ☆
★
743+十
数
子 ども 10∞ 人あた り児童書数
子 ども 1000人 あた り児童書購
入数
人 口 lKXXl人 あた り図書館面積
686■
■
★
718景
768★
611'彙
★
334‐
注)相 関係数 の機は 1%水 準、*は 5%水 準で有意。 面積 の当 立は平方メー トル。
‐30・
★
4
分析結果
(1)説 明変数 と被説 明変数 の相関
重回帰分析の結果 に入 る前に、それぞれ の説明変数 と被説 明変数 との相関 を確認 してお
きたい。表 2に 、それ ぞれ の変数 の平均 、標準偏差 と被説明変数 との相 関係数 を示 した。
なお、分析 に用いない組み合わせ については 、相 関係数は示 していない。
これ を見る と、貸 出密度 ともっ とも相関が高いのは図書館 内的要因 であ り、図書館 数で
基準化 した場合 よ りも人 口で基準化 した場合 の方が、相 関が高 くな って いる。 とはいえ、
これ らの内的要 因は 、変数相互 の相関がかな り高い もの を含 んでい るため、 ここで相関係
数 の 高か つた変数すべ てが 、貸出につ よく影響 していると結論づ けることはできない。回
帰 モデルの決定にお ける変数選択 を慎重に行 う必要がある。 一方階層指標 につい て も、相
関係数で 05∼ 06と 比較的高い関連が あ り、少な くとも単相関にお いては、階層 の高い人
が多 く住む地域 ほ ど図書館 の貸出が多 い とい う関係 があることがわか る。
(2)重 回帰分析の手順
重回帰分析 は、モデル に採用 され た複数 の変数 を統制 し、個 々の変数単独 の被説明変数
との関連 を調べ ることがで きる。図書館 内的変数 を統制 してなお 、階層指標 が独 自の関連
を被説 明変数 との 間に有 しているか ど うか、その強 さは どの程度 かが問題 となる。
今回の分析 では 、被説 明変数 として一般貸出密度 と児童貸出密度 の二つ を設定 した。 ま
た、図書館 内的要因の一部に関 しては図書館 数 と人 口のそれぞれ で基準化 した二組 の変数
を用意 した。 したがって 、被説明変数 と内的要因の基準化 の 方法の組み合わせ に よ り、A
∼Dの 計 4回 の重回帰分析 を行 い、4つ の回帰 モデル を求 めることになる (表 3参 照)。
表3
本研 究で行 う重回帰分析
分析名
被説明変数
分 析 に 投 入 す る説 明 変 数
分析 A
一般貸出密度
01∼ 04、 05、
B
分析 C
分析 D
一般貸出密度
01∼ 04、
児童貸出密度
01∼ 04、 07、 08、 09∼ 11、 20ま たは 21、 22∼ 24
児童貸出密度
01∼ 04、
分析
06、
09-11、
19、
22、
23
12、 13、
16∼ 18、
19、
22、
23
14、 15、
16∼
18、
20ま たは 21、 22∼ 24
まずは一般 貸出密度 を被説 明変数 とし、図書館 数 で基準化 した内的要因を用 いて分析 を
行 った (分 析 A)。 ステ ップ フイ ズ法に よる変数選択
(Fln 2 01、
Fotl● 2 1Xl)を
行 い、最
終的な回帰モデル を決定 した。 とはいえ、説明変数の 中には相互の相関が高 い もの も含 ま
れてお り、それ らが最終的 なモ デル に取 り込まれ た場合 には、多重共線性 の問題 を起 こし
て分析結果 が不適切 なもの となる。その場合は、投入す る変数 の 中か ら問題 の ある変数 を
除 き、改 めてステ ップ フイ ズ法 による変数選択 を行 つた。 その上で、ほぼ妥当だ と考 え ら
れ る (極 端 に大 きな偏相関係数や符 号の逆転 がな く、多重共線性 の可能性 を示す指数 が低
い)モ デル が得 られた とき、そのモデル を最終的 な回帰モデル として決 定 した。 同様 の作
業 を、内的要因を人 口で基準化 したデー タを用いて行 い (分 析 B)、 さらに同 じ作業 を、
被説 明変数 を児童貸出密度に入れ替 えて行 つた (分 析 Cと D)。
この中で 、分析
Bで は、当初 の 10変 数 で分析 した場合 、 「図書館充足率Jが モデル に
取 り込まれたIIIに 、偏回帰係数 が極端に大 きな説明変数 が現れ るな ど、適切なモデルが得
られ なか つた。充足率 については これ と相 関の 高い 「サー ビスポイ ン ト充足率」 が含 まれ
「
ているため、「図書館充足率」を除 いた 9変 数 で分析 した。また、分析 Dで は、 人 口 10∞
人あた りの職員数 J「 人 口 101Xl人 あた りの図書館面積」の 2変 数 について 、被説 明変数や
他 の説明変数 との間の相関が高 く、 これ らが最終モデ ルに採用 された際に、モデル全 体 が
妥 当な もの にな りに くか つた。 これ らは、 もともと児童サ ー ビス と一般サー ビスを区別 し
て集計 され てお らず、いわば補助的なデ ー タとして扱 うべ きものであ ると考 えられ るた め、
この 2変 数 を除 いて分析 した 'な この よ うな作業 を経 て表 4∼ 7の 回帰モデル と、モデル 全
体の説明力
(自
由度調整済み R2)、 モデルに取 り込 まれた説明変数 と被説 明変数 との関連
の相対的な強 さ (標 準偏回帰係数)を 示すデ ー タを得た。
表 4 分析 A:図 書館数で基準化 した変数を用いた一般貸出密度 の回帰モデル
標 準偏 回
説明変数
図書館 あた リー般書購入数
405姜 ★
短大 。大学卒業者率
346彙
図書館 充足率
252■
人 口集 中地 区人 口率
モデル に採用 され なか つた変数
帰係数
★
161
自由度調整済み V
サー ビスポイ ン ト充足率 、図書館 あた
り面積 、図書館 あた リー般蔵書数 、図
書館 あた り職員数 、図書館 あた り専任
司書数 、65歳 以上人 口率
注)標 準偏回帰係数 の韓は !%水 準、ウは 5%水 準で有意 (以 下表 7ま で同様 )
‐32‐
表5
分析
B:人 口で基準化 した変数 を用 いた一般貸 出密度 の回帰モデル
標準偏 回
説明変数
帰係 数
モデル に採用 され なかった変数
大人 llXXl人 あた リー般書購入数
353・
サー ビスポイ ン ト充足率 、人 口 101Xl人
大人 lCXlll人 あた リー般蔵書数
347■
あた り図書館 面積 、人 口 lCXXl人 あた り
短大・ 大学卒業者率
310最
職員数 、人 口 llXXl人 あた り専任 司書
数、65歳 以上人 口率、人 口集 中地区人
自由度調整済み R2
表6
口率
分析 C:図 書館 数で基準化 した変数 を用いた児童貸 出密度 の回帰 モデル
説明変数
標準偏回
帰係数
モデル に採用 され なか った変数
図書館 あた り児童 書購入数
502★ ★
サー ビスポイ ン ト充足 率、図書館 あた
母親世代短大 。大学卒業者 率
456・ ★
り図書館 面積 、図書館 あた り職員数 、
図書館充足率
373★ '
図書館 あた り専任 司書数 、図書館 あた
自由度調整 済み R2
671
り児童書数 、15歳 未満 人 口率、65歳 以
上人 口率、人 口集 中地区人 口率、
表 7 分析 D:人 口で基準化 した変数を用いた児童貸出密度の回帰モデル
説明変数
標準偏回
帰係数
モデル に採用 され なかった変数
母親世代短大・ 大学卒業者率
409☆ ★
図書館 充足率 、サー ビスポイ ン ト充
子 ども llXXl人 あた り児童 書購入数
385'■
足率 、人 口 1∞Ю 人 あた り専任 司書
子 ども lKXXl人 あた り児童書数
305'十
数、15歳 未満人 口率、65歳 以上人 口
自由度調整 済み P
711
率、人 口集 中地区人 口率、
(3)重 回帰分析 の結果
分析の結果得 られた最終的な回帰 モデル をみ る と、変数の選択 にはほぼ一貫 した傾向が
み られた。 まず 、いずれ のモデル に も採用 され 、被説 明変数 との関連 も大 きか ったのは、
購入数 を指標化 した変数であつた。 また社会 階層指標 につ いて も、全 てのモデル に採用 さ
れ 、統計的に有意 な関連 が現れ て いた
4、
ぃずれ のモデル において も、この二つの指標が
‐33‐
標準偏回帰係数 の上位 を占めてお り、図書館 の利用 と強 い関連 があることが示 された。 ま
た、図書館 数 で基準化 した変数 を用 いた場合には図書館 充足率が、人 口で基準イとした変数
を用 いた場合 には蔵書数 を指標化 した変数 が 、それぞれ選択 され ていた。 図書館 充足率 に
ついて は、児童貸 出を説明変数 とした ときに、い くぶ ん偏回帰係 数 が高 くな つて いた。 モ
デルの説明力
(自
由度調整済み ぱ )を み ると、図書館 単位 で基準化 した変数 を用 いるよ り、
人 口で基準化 した変数 を用 いた方が高い値 とな り、一般貸出 よ り児童貸 出を説明変数 とし
た ときに、よ り高い値 とな った。
購入数、蔵書数 、図書館数 (充 足率)以 外の指標 については、ほ とん どモデル に採用 さ
れ なか つた。 これは、図書館 内的要因を表す指標 間に大 きな相 関があるために、多数 の変
数 を回帰モデルに含 め られない ことが主な理 由であると考え られ 、採用 されなか つた変数
がま つた く貸出 と関連がない とい うことは言えな い。階層指標 以外 の図書館外的要因 につ
いては 、ほ とん ど関連がみ られ なか った。
5
考察
以上の結果は、図書館 の整備条件や地域特性 を統制 してなお、階層 の高い住民 が多 く住
む市町 椰 まど、一般 、児童 を問わず図書館 がよく利用 され てい ることを示す もの である。
都道府 県単位 で集計 されたデー タを用 いた先行研 究 (福 嶋 2tX18)の 結果 が、市町村単位 で
集計 したデー タを用いた分析で も確 かめ られ た ことにな り、図書館利 用に社会階層が無視
で きない影響 を与 えてい ることは、ほぼ間違 いな い。 もちろん 、図書館利用者 を直接対象
とした調査ではないため、実際 に図書館 を利用 している人 が、階層 の高 い層 に偏 つている
ことが証明 されたわけではない。 しか し、説明変数や指標 の取 り方を変 えて も、ほぼ同様
の結果 が得 られた ことか ら、ある程度 信頼 しうる結論 が導 かれ たのではないか と考える。
図書館 の利用は図書館 の整備 条件 と地域住民 の階層 によつて、かな りの部分 を説明す るこ
とがで きるのである。
図書館内的要因 については、購 入数 、蔵書数、図書館充足率 は貸 出 との関連 が強 く表れ
ていた。購 入数 は資料費、受入数 な どの フ ロー変数 を代表す る指標 として用 いてい るが、
単に蔵書 の多寡 だけではな く、常に新 しい資料 に触れ る ことがで きる ことが公共図書館 の
春1用 を促進す る大 きな要因にな つてい ると言 える。 図書館 充足率については、先行研 究に
お いてはそれ ほ ど重視 されてい ない (岸 田・ 佐藤
関する先行研究
(中 村
1991、
田村 20“ )が 、図書館 の利用圏 に
1989)に 鑑みれば、重要な要因であることが考え られる。 この点、
既存の資料では、分室や 自動車図書館等のサービスポイ ン トについて、基礎的なデー タが
不足 している。 これ らを適切に指標化することができれば、モデル全体の説明力をさらに
‐34‐
上げることができるか も しれ ない。
今回 の分析 では、児童貸出を説明変数 とした ときに、回帰モデル にお いて も単相関にお
いて も、図書館 充足率 との関連 が よ り強か つた。行動範囲の狭 い児童 ほ ど、身近 に図 書館
が必 要であることを示 す もの と考え られ る。児童 貸出については、回帰 モデルか らは外 し
た ものの、人 口あた りの職 員数や図書館 面積 との相関 も高い。職 員数 が多い ことで、た と
えば読み聞力せ な どの事業が よ り多 く行われてい る可能性 がある。 また、面積 が広い こと
で、それ だけ児童 の読書 スペー スを広 く取 ることができてい る可能性 もあ る。 これ らは、
児童 と一般 を分 けて集計 され ていないため、今回 の分析には適 さなか つた。 しか し児童貸
出 と一般 貸出は部分的に異なる要素 を含んで い る と考 え られ、今後 の検討 が必要な課題 で
ある。
今回提示 した回帰 モデル によって説明 され るの は、
被説 明変数 の分散 の 5∼ 7割 程度 であ
る。開館時間、立地条件、 レファ レンス、予約 、視聴覚資料 や コ ミックの有無、資料展示
や読み聞力せ 等 の事業な ど、利用に影響 を与える と考 え られ る要因は他 に もあ り、地域 の
経済状況が図書館利 用に影響 を与 えるとい う研究 もある
(田 村
20∝ )。 これ らは資料 の限
界や統計的に扱 うことの困難 か ら、今回 の分析 には含 めていない。 この よ うな限界はある
ものの今回の結果 は、比較的少ない変数 で、図書館利 用 のか な りの部分 を説明 できるモデ
ル と して、汎用性 をもつ ものである と考える。
6
繭
本研 究は対象地域 を大阿 府に限定 し 21nl年 度 の一時点 のみ のデー タを用 いた分析であ
った。 この結果 を一般化す るためには、全国の市町村デー タを用いた分析 を行 うことが理
想的 である。少 な くとも、条件の異な る複数 の都道府県 のデー タとの比較 はZ、 要 であろ う。
また、階層 の影響 がいつ か ら顕在化 し、 どの よ うに変化 してい るのか 、図書館利 用 の階層
小 してい るのか とい う問題 も、今後 の調査課題 である。異なる年
差 が拡大 しているの力編苦
度 のデー タを比較 して、その動態 を把握す る ことが求 め られ る。社会教育 と社会 階層 の間
題 を統計的に分析す る上で、公共図書館 は利 用可能なデー タが もつ とも整備 され てい る対
象 であるが、それ で も統計 を用 いた分析 には限界がある。 人々の図書館利 用の実態 を明 ら
力ヽこす るためには、図書館利 用者 を対象 とした調査や 、市民を対象 としたサ ンプ リング調
査が不可欠である。それ らの知見 をあわせて検討す ることで、 さらに図書館 利用 と社会階
層 の関連が明確 になると考 える。
‐35-
注
1)国 勢調査 のデ ー タは総務省統計局 のホームペ ー ジ
(htp=││… sは 8ojp/data kokus詢 21XXl
ハnd∝ htm)よ リダウンロー ドし、年齢段 階 ごとの最終学歴 のデー タのみ 、大阪府総務 部
統計課 のホー ムベ ージ 輛
prcFosabJp/toukc1/kokucho0071mCX htlllDよ
ロー ドした
8日 確認 )。
"…
(い ずれ も 2010年 2月
リダ ウン
2)20∞ 年度途 中に開館 した図書館 については、一時的な購入数 が大 きく、貸 出について も
年間を通 したデ ー タでは ないため、分析 に含 めるには問題 がある。 したがって当該図書
館 のデー タは、図書館数、貸 出、蔵書、職員等 を含 めて一切分析 か ら除外 した。
3)最 終的なモデル を決定す る際 に用 いた変数 については、モデル に採用 され なか った もの
も含 めて表 4∼ 7に 示 してい る。
4)分 析 C・
Dで は、母親学歴 を投入 した結果 のみ示 しているが 、父親学歴 に入れ替 えて分
析 して もモデルの説明力 、採用 され る変数、被説 明変数 との関連 の強 さにはほ とん ど違
いがなか つた。
文献一覧
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『 日本社会教育学会紀要』
No44
pp73‐ 82。
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吉川徹 21X16 『 学歴と格差・不平等』 東京大学出版会
岸田和明・佐藤佳子 1991「 公共図書館の貸出を説明する関数の重回帰分析による検証」
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alld lnfonttatlon Scicnctt No 29、
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28、 No2、