資料03 - 講義資料

第3回 キャパシタ
目標:
目標:
キャパシタとインダクタの理解
インピーダンスを理解する
この回から,抵抗以外の2端子素子であるキャパシタ(コンデンサ)とインダクタについて学んでいく。
これらの素子が,抵抗と異なる点は,エネルギーを蓄える機能を持つことと,電圧と電流の間の比例係数が
周波数によって変化することである。これらの素子の性質とともに,周波数で変化する電圧と電流の比例係
数であるインピーダンス
インピーダンスの概念について解説する。
インピーダンス
キャパシタ(コンデンサ)1
2つの導体を,絶縁体を介して向き合わせ電位差を与える。導体の間には電界が発生し,導体中の電荷は
電界により引き付けられる。その結果,2つの導体には量が等しく極性が反対の電荷が集まる。対向させる
導体の形状や絶縁体(誘電体)の素材を工夫して,電荷が集まり易いようにした電子部品がキャパシタ
キャパシタ(日
キャパシタ
本語だと“コンデンサ
コンデンサ”
コンデンサ )である。また,複数の導体が電界により電気的な結合して互いに影響しあう効果も,
キャパシタとしてモデル化できる。
キャパシタ
キャパシタの働き
図 3.1 は部品としてのキャパシタの並行平板モデルである。2枚の導体の
平板(極板)が絶縁体を介して対向している。極板に蓄えられる電荷の量を
Q クーロンとすると,Q は電位差 v に比例し,
+ Q 電荷
- Q
電荷
図 3.1 キャパシタの並行平
板モデル
Q = Cv
(3.1)
1
となる。ここで,比例係数 C を静電容量
静電容量(キャパシタンス
静電容量 キャパシタンス)と呼び,単位はファラッド(F)である。この
キャパシタンス
値が大きいほど,同じ極板間電圧で蓄えられる電荷量が大きくなる。平行平板モデルでは,極板の面積を S,
2枚の極板の間隔を d,極板間に満たされている絶縁体の誘電率をε とすると,電気容量 C は,
C=
εS
2
(3.2)
d
となる。
(ただし,極板間のギャップ d は十分小さく,極板の面積 S に対して d 2 << S であると仮定している。
)
----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------1
コンデンサ(英語表現は
capacitor)英語圏で condenser とは凝縮器(冷却機の放熱部に使われる)を指す。イチゴにか
コンデンサ
ける「コンデンスミルク」
(sweetened condensed milk)の condense。
静電容量(capacitance
静電容量
または electrostatic capacity)英語表現からわかるように,もともとは電荷を蓄える能力(capacity)
から capacitance や capacitor という用語が派生したと考えられる。
電気回路
配布資料
3-1
キャパシタの電気的性質
端子間電圧が,蓄えられた電荷の量に比例するので・・・
①端子間の電圧は急には変化しない
②端子間の電圧は電流の積分に比例
②“インピーダンス”(の絶対値)は周波数に反比例して小さくなる
3
キャパシタに蓄えられる電荷,電圧,容量の間の関係は図 3.2
に示すように,電荷 Q を水の量,容量 C を容器の底面積,電圧 v
を水位と考えるアナロジーが成り立つ。電圧 v は容器の底面での水
圧と考えることもできる。
この図から,容量の大きな方が,同じ電圧に対して,より多く
の電荷を蓄えることができることや,同じだけの電流を流し込ん
だときの電位の変化が小さくなることが,直感的に理解できるだ
ろう。
Q
面積
C
v
v
面積
C1
図 3.2 電荷の流体モデルを使った
アナロジー
①端子間の
端子間の電圧は
電圧は急には変化
には変化しない
変化しない
溜まった電荷
まった電荷の
電荷の量は急には変
には変われない,
われない これがキャパシタの動作を理解するためのキーとなる考えである。
電荷の量を変えるためにはキャパシタに電流を流し込む(充電)あるいは流し出す(放電)必要があるので,
有限の
有限の時間を
時間を費やす。端子間の電位差は電荷の量に比例するので,キャパシタ
やす
キャパシタの
端子間の電圧は
電圧は急には変化
には変化
キャパシタの端子間の
しないことになる。
また,純粋なキャパシタは電力を消費せず,電極間の電界としてエネルギーを蓄積する。
しない
②端子間の
端子間の電圧は
電圧は電流の
電流の積分に
積分に比例
キャパシタの両端の電圧は溜まっている電荷の量に比例し,電荷の量は充電または放電した電流を積算し
た結果である。電圧,電流および溜まっている電荷を時間の関数として, v (t ) , i (t ) , Q (t ) と表すと,次の式の
ような関係が成り立つ。
v (t ) =
Q (t ) 1
=
C
C
∫
t
0
i(t ′)dt ′ + v (0)
(3.3)
ここで, v (0) は時刻 t = 0 におけるキャパシタ端子間の電圧である。逆に,電流 i (t ) は電荷 Q (t ) の時間微分に
等しいので,
i (t ) =
dQ(t )
dv (t )
=C
dt
dt
(3.4)
と表すこともできる。
③“インピーダンス”
インピーダンス” (の絶対値)
絶対値)が周波数に
周波数に反比例して
反比例して減少
して減少
インピーダンスとは,電圧や電流が時間に関して正弦波として変化するときの,電圧/電流の比である。一
般に,2端子素子のインピーダンスは複素数の値を持つ,周波数の関数となる。
キャパシタの端子間の電圧が角周波数 ω の正弦波信号となっている場合を考える。このとき,工学や物理学
でよく使われるように, v (t ) , i (t ) を複素関数で表し,
----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------インピーダンス(impedance)
インピーダンス
3-2
電気回路
配布資料
v(t ) = ve
ˆ jωt

ˆ jωt
i (t ) = ie
(3.5)
とすると,
(3.4)式より,
i (t ) = C
dv (t )
dt
(3.6)
ˆ jωt = jωCv (t )
= jωCve
(3.7)
となり,
iˆ = jωCvˆ
v̂ =
(3.8)
1 ˆ
i
jωC
(3.9)
という関係式が得られる。つまり,電圧が正弦波として変動するとき,電流も同じ周波数の正弦波となり,
複素関数として表した2つの信号の間には比例関係が成り立つことがわかる。
抵抗に関するオームの法則の関係式, v = Ri ,i = v / R と比べると,オームの法則における抵抗 R に対応す
るのが, 1 / ( jωC ) という複素数の値になっていることがわかる。
v = Ri ,
i=
1
v
R
1 ˆ ˆ 1
v̂ = z ⋅ iˆ =
i , i = vˆ = jωCvˆ
jωC
z
・・・抵抗(オームの法則,R は電気抵抗)
・・・キャパシタ(インピーダンス z =
1
)
jωC
インピーダンスとは,正弦波信号における電圧/電流比
4
インピーダンスは“周波数
周波数で
変化する抵抗
周波数で変化する
する抵抗”のようなもので,複素数で表される。インピーダンスの逆数が
抵抗
アドミタンス である。
容量 C のキャパシタの
キャパシタのインピーダンスは
インピーダンスは
1
jωC
キャパシタのインピーダンスの式から,電圧と電流が正弦波状に変化する場合,以下の性質が成り立つ。
ⅰ)キャパシタ
キャパシタは
)は通過させない
キャパシタは,時間的に
時間的に変化しない
変化しない成分
しない成分(
成分(直流成分,
直流成分, ω = 0)
通過させない
キャパシタは
キャパシタは直流では
直流ではオープン
ではオープン。
オープン。 ω = 0 でのインピーダンスは無限大となることから理解できる。
ⅱ)インピーダンス
インピーダンスの
インピーダンスの絶対値は
絶対値は周波数を
周波数を増やすと,
やすと,それに反比例
それに反比例して
反比例して減少
して減少する
減少する
周波数が 2 倍なら 1/2,3倍なら 1/3,10 倍なら 1/10・・・。
ⅲ)電圧
電圧の
電圧の位相は
位相は電流の
電流の位相から
位相からπ / 2 だけ遅
だけ遅れている
1 / j = e − jπ /2 だから。
だから。
複素関数による正弦波表現については,
「情報科学と社会」
(現在の講義名は「情報科学基礎」
)で解説してい
る。忘れてしまった人には,講義資料を置いているサイト(http://tamlab.web.fc2.com/)の資料が参考に
なる。講義の第9~11 回が複素数に関連している。
----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------アドミタンス(admittance)
アドミタンス
電気回路
配布資料
3-3
複数のキャパシタの合成値
演習問題[
演習問題[1] キャパシタの直列接続と並列接続
図 3.3 の2つの回路について,端子 A,B 間のキャパシタンスを求めよ。
C1
C2
A
C1 C 2
CN
CN
B
a)
b)
図 3.3 キャパシタの直列接
続と並列接続
v0
演習問題[
演習問題[2] キャパシタの放電特性と,蓄積エネルギー
1)電圧 v0 に充電された容量 C のキャパシタの両端を時刻 0 に抵抗値 R の抵抗でショー
トし,放電を開始した。キャパシタの両端の電位差の時間変化を求めよ。
2)このとき,抵抗で消費される全エネルギーを求めよ。
1)
2)
3-4
電気回路
配布資料
C
t=0
演習問題解答例
演習問題解答例
[1] キャパシタの直列接続と並列接続
図 3.3 の2つの回路について,端子 A,B 間のキャパシタンスを求めよ。
合成キャパシタの端子間電圧を v,電荷を Q とする
・・・CN には全て等しい量の電荷 Q が誘起される。各キャパシタの端子
a)直列接続:C1,C2,
間電圧は,
Q / C1 , Q / C2 , ・・・ Q / CN となるので,
Q Q
Q
Q
+
+⋯+
=V =
C1 C2
CN
C
が成り立つ。これより,合成容量 C =
1
1 / C1 + 1 / C2 + ⋯ + 1 / CN
b)並列接続:全てのキャパシタの端子間電圧が等しく V なので,
Q = C1V + C2V + ⋯ + CNV = (C1 + C2 + ⋯ + CN )V
これより,合成容量 C = C1 + C2 + ⋯ + C N
[2] キャパシタの放電特性と,蓄積エネルギー
1)電圧 v0 に充電された容量 C のキャパシタの両端を時刻 0 に抵抗値 R の抵抗でショー
トし,放電を開始した。キャパシタの両端の電位差の時間変化を求めよ。
2)このとき,抵抗で消費される全エネルギーを求めよ。
1)解答例
キャパシタの端子間電圧を v (t ) ,抵抗に流れる電流を i (t ) ,
を得る。
閉路方程式を作ると,
1
 1

+ R  I ( s) = 0
I ( s ) + RI ( s) = 0 → 
sC
 sC

I ( s ) ≠ 0 なので,
1
1
+R =0→s=−
sC
CR
st
ラプラス変換の基本信号が e であることと,初期値が
2)時刻 t の 0~∞の区間での抵抗の消費電力の積算であるから,
0
C
ラプラス変換領域で電圧 V ( s ) ,電流 I ( s ) として
dQ (t )
dQ (t )
v(t ) = Ri(t ) = − R
・・・・・ i (t ) = −
より
dt
dt
dv(t )
= −CR
・・・・・ Q ( t ) = Cv ( t ) より
dt
この方程式を初期値 v0 として解くと,
v (t ) = v0 e − t /(CR )
∞
t=0
別解(ラプラス変換の応用)
電荷を Q (t ) とすると, t ≥ 0 では,
∫
v0
2
v (t )
dt =
R
=
∫
v02
R
=−
=
∞ v 2 e −2 t /( CR )
0
R
0
∫
∞
0
v0 であることを使うと, v (t ) = v0 e − t /(CR )
dt
e −2t /(CR ) dt =
v02
R
∞
 CR −2 t /(CR ) 
e −2t /( CR ) の原始関数(微分すると e −2t /( CR ) になる
− 2 e
 ・・・・・・

0
関数)は, ( −CR / 2)e −2t /( CR )
{
}
Cv02 −2 t /( CR ) ∞
Cv 2
e
 = − 0 lim e −2 t /(CR ) − e0 ・・・ C > 0 , R > 0 だから lim e −2 t /( CR ) = 0
0
t →∞
2 
2 t →∞
C 2
v0
2
#ラプラス変換の詳細については,2 年後期の「線形システム入門」,
「数学Ⅳ」などで学ぶことになる。
電気回路
配布資料
3-5
キャパシタの応用
電荷を
電荷を貯める性質
める性質を
性質を利用 ・・・電源回路
・・・電源回路としての
電源回路としての利用
としての利用
カメラのストロボなどの大電流発生回路
平滑化回路
AC 電源ラインを整流した出力段の平滑化
直流電源回路の
直流電源回路のインピーダンス低下
インピーダンス低下・
低下・安定化・
安定化・分離
いわゆる“パスコン”
(バイパスコンデンサ)
直流カット
直流カット回路
カット回路
交流増幅回路における段間の結合回路
フィルタ回路
フィルタ回路の
回路の部品
周波数選択性のある低域通過,高域通過,帯域通過などのフィルタの構成要素
LSI 内部のキャパシタは,面積に調整により電気容量の比率を正確に制御できるので,
“スイッチトキ
ャパシタ”型の回路による,特性の再現性がよく,しかも調節可能なアナログフィルタに利用されて
いる。
セラミックコンデンサ:周波数特性が良いの
で電源電圧の安定化用に LSI の近くに実
装することが多い。温度による容量変化に注
意。
タンタル電解コンデンサ:小型で容
量が大きく,周波数特性も良好。
極性があり,リード線の長い方がプ
ラス側。綺麗な青い色をしていて,
何でだか“アオマメ”って呼んでた。
最近の抵抗やキャパシタは,表面実
装用のチップ部品になって,みんな
同じ形になってしまった。この図のよう
なものは見たことがない人が増えて
いるかも。
左2 つに比べてデカイ,高耐圧・大容量の
アルミ電解コンデンサ:±500V 出力の増幅
回路を自作した際,耐圧を高くするため直列
にして使ったことがある。調整作業中、電源
を切っていたので油断して,うっかり端子に触
ってしまい,貯まっていた 500V で感電した。
すごく“熱くて痛かった。
”
左2 つが、これくら
いの相対的大きさ
キャパシタの形状・大きさには,いろいろなものがあ
る。種類によって容量や周波数の守備範囲が違う。
3-6
電気回路
配布資料