無線型情報コンセントの整備について ~災害時の迅速かつ効率的な情報

無線型情報コンセントの整備について
~災害時の迅速かつ効率的な情報収集に~ Wireless Lan information Outlet System
金沢河川国道事務所
防災課長
勘
俊介
防災情報係長
中村
長則
○坂
淳一
防災情報係
1.はじめに
石 川 県 七 尾 市 に 位 置 す る 国 道 160号 大 田 ~ 大 泊 ( L≒ 15.5km、 以 下 「 対 象 区 間 」) は 、
2車線の幹線道路であり、約4,200台/日の交通量がある。対象区間内には雨量規制区間
殿 L=2.5km、 沢 野 L=2.2km、 佐 々 波 L=4.8km
越波区間
庵 L=1.5km、 佐 々 波 L=4.8km、 花 園
L=2.6kmが あ り 、 土 砂 崩 れ 、 越 波 に よ る 災 害 が 発 生 す る 可 能 性 が あ り 迅 速 に 情 報 を 収 集 す
る 必 要 性 が あ る ( 図 -1 )。 最 近 5年 間 で 雨 量 規 制 に よ る 通 行 止 め が 3回 発 生 し 、 そ の う ち
土 砂 災 害 に よ る も の が 2回 起 き て い る 。 ま た 越
波 の 被 害 も こ こ5年間 で 38回 発 生 し、 4回の 通 行
規制が起きている。
金 沢 河 川 国 道事 務 所 では 、 平成 18年 度よ り 無
線型情報コンセント設備を対象区間内に整備
し 、 そ の 区 間 内 で あ れば 、 リ アル タ イ ムの 映 像
・ 電 話 ・ パ ソ コン 端 末 など の 情報 を 高 速IP通 信
に よ り 行 う こ と が で きる 。 対 象区 間 内 には 、 合
対象区間
計 40箇 所 の 無 線型 情 報コ ン セ ント ( ア クセ ス ポ
イント)を設けている。
近 年 の 異 常 気 象 な どに よ る 災害 が 多 発し 、 よ
雨量規制区間
り 迅 速 な 情 報 の 収 集 を求 め ら れる よ う にな っ た
越波規制区間
こ と を 踏 ま え 無 線 LAN技 術 の 進 歩 に よ る 無 線 型
情報コンセントの活用方法や今後の道路管理に
図 -1
対象規制区間
おける画期的な展望を報告する。
2.有線型情報コンセントの検証
有線型情報コンセントが開発された経緯や設備の概要など
についての検証を行う。
2.1 有線設備の概要
平成 3 年に台風 19 号 による土砂崩れが発生し、長期にわ
たり国道 160 号 で通行規制が行われた。この災害以降道路情
報施設整備計画に基づき、光及びメタルの複合ケーブルの
有線設営状況
整備に着手するのと並行して、 CCTV カ メラの整備も行った。
CCTV カ メラでの画像収集が行き届かない場所には、平成 5 年に全国で初の有線型情報コ
-1-
ンセント( 当時は有線型情報コンセント整備計画が出来る前 )が整備された 。
160 号 に 整 備 さ れ た 後 に 順 次 8 号 や 手 取 川 、 梯 川 に も 有 線 型 の 情 報 コ ン セ ン
トが整備された。運用においては、既存設置されているコンセント設備(写
真-1)に光ケーブルを接続し、可搬端末装置より現地画像、音声通話を可
能にすることができる。
2.2
写 真 -1
災害時の検証と課題
有線型情報コンセントでは 、アクセスポイントがある箇所まで 、
延 長 光 ケ ー ブ ル ( 500m 程 度 ) に よ り 接 続 し て い る た め ア ク セ ス ポ
イントを探し出すのに時間がかかったり、延長光ケーブルが災害
現場まで届かない場合がある。
また、機器等のケーブル接続や機器設営が難しい点や、路肩状
可搬端末 約 15kg
況、交通量が多い場合にケーブルの引き回しが困難なことに加え
機材が重く機動性に欠けるため、いざ現場へ出動という場合には
使用しづらいという点がある。保守の面で見てもコネクタのまわ
りのごみや汚れなどの除去が必要になる。
可搬端末装置を移動する際には、映像が途切れてしまうため容
延長光コード 約 40kg
易に移動させることができない。
以上 のように 、有線型 情報コ ンセント を使った 情報収集 には、現 場状況に より本部から
の 細かい要 望に応え ること に制限が あるため 、現状に おいてそ の対応が できては いたもの
の今後より迅速な対応を図る必要性がある。
3.無線型情報コンセント活用による情報収集
金沢河川国道事務所では、有線型情報コンセント
を 検 証 の上 、 それ に 替 わる 無 線 型情 報 コ ンセ ン トを 整
備しているが 、その詳細について下記の通り記載する 。
3.1
無線型情報コンセント概要
ま ず 、無 線 型情 報 コ ンセ ン ト が検 討 さ れた 背 景と し
IT 技 術 の 進 歩 が 挙 げ ら れ る 。 そ の 急 速 に 発 達 し た 技
術を用いて無線型情報コンセントが開発されたことに
図 -2
背負子型可搬端末装置
より、カメラ映像・電話・パソコン端末からの無線信
号 を 、 背 負 子 型 可 搬 端 末 装 置 ( 図 -2 ) に よ り IP 化 し ア ク セ ス ポ イ ン ト ( 写 真 -2 ) 経 由
で事務所、出張所に伝送することが可能である。
電話にあっては、携帯電話の不感地帯であったり、災害時の通話手段確保
において有効に使用できる。また SIP 対応の FAX を使 用すれば、現地の図面
や、その他の情報等を事務所・出張所より送ることが可能である。実施例に
ついては図-3に示す通り。
移動中の通信については、ローミング機能によりアクセスポイント
の自動切換を行うため映像、音声が途中で途切れることはない。
-2-
写 真 -2 ア ク セ ス ポ イ ン ト
電源については、可搬型内蔵のバッテリーに
実施例
より 2 時間程度の運用が可能であり、専用の充
電器により車内での充電が可能なため、いつで
も取り外し交換ができる。
3.2
車載システムの構成
車載端末装置
事務所
出張所
設備
車載端末装置
通信線路は無線LAN
事務所、出張所
アクセスポイント間
は光ケーブル接続
基本的なシステム構成は図-4に示す通りだが 、
※
アクセスポイント
• パトロール車用車載端末装置
およびパトロール車と通信をお
こなう為に路側に設置するアク
セスポイントより構成します。
• [アクセスポイント]+[車載端
末装置]
アクセスポイント
車載端末装置
IEEE802.11g,IEEE802.11b の イ ン タ ー フ ェ ー ス を
取り入れているため伝送速度は最大 54Mbps と 高
映像伝送
携帯端末装置
速伝送が可能である。車から撮影したカメラ映
図 -3
像をエンコーダより MPEG2 に 圧縮し無線 LAN
実施例
で伝送し現地アクセスポイントを通じて事務所・出張所に送ることが可能である。
図 -4
システム構成図
アンテナ部
パ
道路
国土
交通
トロ
ール
可搬車載局構成図
無線ブリッジ部
カー
MPEG2
エンコーダ部
カメラ部
L2SW部
PC部
省
DC14.4V/AC100V
電源部
電話部
※ 無 線 LANの 標 準 規 格 の 1つ で 2.4GHz帯 で 約 54Mbpsの 通 信 を 行 な う 仕 様
3.3
セキュリティ対策
無線通信にすることにより、セキュリティ対
光ケーブル等の有線の場合
策 が 重 要 ( 図 -5 ) にな っ て くる が 、 それ ら の対
傍受、妨害、不正アクセス等
策を下記により行っている。
の攻撃が不可
物理的に繋がらないのでセ
キュリティ対策の必要がない
1 .成りすましによる不正アクセス
→ユーザー認証やメッセージ認証を行う。
クラッカー
無線LANの場合
2 .通信内容の傍受、改ざん
傍受、妨害、不正アクセス等
の攻撃が可能
→暗号化及びメッセージ認証を行う。
物理的に繋がなくても良いの
で、セキュリティ対策が必要
3 .大量データの送信による通信妨害
クラッカー
→ユーザー以外のデータを阻止する。
3.4
図 -5
セキュリティの問題点
現状の懸案事項
木の葉等が育ち見通しがきかなくなった場合に、通信が不安定になる可能性がある。
可搬 装置が防 雨仕様で あるた め、大雨 時の長時 間作業を 行うにあ たり、し っかりとした
防 水対策を 施さなけ ればな らないと 考える。 ファンが 付いてい る関係上 防水、防 滴仕様に
することは難しい。
近 隣 事 務 所 の サ ー バ に 可 搬 端 末 装 置 の LAN ア ド レ ス 登 録 等 の 設 定 を し て お く だ け で 、
災 害時の応 援に使用 は可能 となるた め、今後 展開予定 である。 但し、情 報コンセ ントを設
置するにあたり機器の仕様が異なる場合 、使えないおそれがあるので注意する必要がある 。
アク セスポイ ントから 複数の 映像を同 時に送る 場合、容 量の範囲 で伝送す ることができ
るが、容量の範囲を越えた場合に映像伝送ができなくなる。
-3-
4.有線型と無線型の比較
既存情報コンセントとの比較
検 証 を 踏 ま え比 較 表 にま と めて み る と無 線 型 情
報 コ ン セ ン ト は従 来 型 と比 較 して 、 一 見性 能 が 落
ち る よ う に 見 え る が 、 表 -1 に 示 す 通 り 従 来 型 と
遜 色 が な い 。 コス ト の 面で は 設置 間 隔 が短 く な る
ため、費用が増える。
ま た 、 現 地 へ持 ち 運 ぶ機 器 の重 量 を 比べ て み る
と 大 き な 差 が ある こ と が分 か る。 重 量 が軽 く な る
有線型情報コンセント
映像品位
無線型情報コンセント
6Mbps
6Mbps
データ伝送速度
最大100Mbps
最大54Mbps(無線通信)
映像の複数伝送
可
可
接続方法
光ケーブルにて接続
無線で接続(6Mbps程度)
コンセント設置条件
AC100Vまたは
DC12V(バッテリ)で稼動
ACアダプタまたは
DC12V(バッテリ)で稼動
約55kg
(延長光ケーブル含む)
約7kg
1
1.2
重量
コスト比率(可搬端末含む)
ことによりバイク隊での情報収集に活用できる。
表 -1
比較表
5.考察及びまとめ
以上において災害時に情報収集を容易にかつ迅速に行える点、通常のパトロールでの
リ アルタイ ム映像の 伝送な ど活用で きる点は 多い。今 後のシス テム開発 が進めば 更に伝送
速 度の向上 や小型・ 軽量化 が進み情 報収集や 初動体制 の確保に かかる時 間を短縮 すること
ができると考える 。今年度内には加賀管内の熊坂にある雨量規制区間にも設置予定であり 、
災害に備えることができる。
以上の点 を踏まえ 、今後 起こりう る災害時 の対応を 行うにあ たり、よ り一層の 効果が挙
げられると考える。
6.今後の画期的な展望
最後に 、今後どのようなことができるようになるかを以下の通り記載する 。
○ カメラの画像品位を落とすことにより、ヘルメットと一体型の装置(図
-6 ) を 使 っ た 情 報 収 集 。 イ ン カ ム を つ け れ ば ハ ン ズ フ リ ー で 通 話 が 可 能 。
○ 行 政 LAN 等 へ 接 続 等 の イ ン フ ラ を 整 備 す る こ と に よ り 、 道 の 駅 や イ ン
ターネットへの無線型情報コンセント映像のリアルタイム配信により、外部
や一般ドライバーへの情報不足の解消を図る。問題点としてセキュリテ
ィの関係をクリアすることが条件となる。
図 -6 メ ッ ト 一 体 型
イメージ図
○ 可搬端末装置の多様化にも対応しており、船舶に装
置を搭載しダムの湖面巡視等の映像が伝送可能になる。
○ 車 載に 各 種セ ン サ ーを 設 置 (図 -7 ) する こ とによ り
路面状況、位置情報、除雪車の進捗状況が把握出来る。
また凍結防止散布車にカウンターを付けることにより防
止剤の散布状況を把握することができる。
○ 無線型ロボットを使った遠隔操作可能なシステム構
築。将来は遠隔操作にて情報を収集できるようになり、
図 -7
現場へ行かず情報を収集できる。
センサー設置イメージ図
文末にな りました が、本 論文作成 にあたり 御協力頂 きました 関係各位 の方々に 感謝を申
しあげます。
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