解体コンクリートによる二酸化炭素の固定と国家インベントリへの反映 清水建設株式会社 黒田泰弘,菊地俊文 1.はじめに 経済発展とそれに伴うエネルギー需要の増大が気象変動に大きな影響を与えており、産業革命後の 100 年間に大気中の炭酸ガス濃度はおおよそ 280ppm から 370ppm まで上昇し、世界の平均気温も ほぼ 1℃上昇しているといわれている。仮にこの傾向が続けば、世界の気温は 21 世紀末までにさら に 1~4℃上昇する可能性があり、多くの地域で破壊的な気候変動を引き起こす恐れがあると考えら れている。このため、温室効果ガス排出量の削減が世界的に求められ、特に二酸化炭素(以下、CO2) 排出量の削減は、国際的な枠組みの中で全ての産業に課せられた最優先課題となっている。 このような背景のもと、コンクリート分野においてもライフサイクル CO2 評価は、重要なものと なっており、各種の原単位を用いた CO2 排出量の定量化が行われつつある。ところで、鉄筋コンク リート構造物の耐久性(コンクリート中の鋼材腐食)に関わる重要な劣化現象の一つに中性化がある。 一般的に中性化は、大気中の CO2 の作用によって pH が低下する現象を指すため、CO2 を固定する 反応(炭酸化)ともいえる。セメント製造時に排出した CO2 のいくらかを供用中もしくは解体後に 固定するとした場合、これを定量化し、ライフサイクル CO2 に含めることは合理的と考えられる。 しかし、従来のコンクリートの中性化に関する研究の関心は耐久性にあるため、CO2 の固定量につい ての評価は十分に行われていないのが現状である。 こうした中、Danish Technological Institute を中心とする研究グループが、CO2 固定を考慮した ライフサイクル CO2 評価の検討を実施している 1)~4)。一連の報告書では、CO2 固定メカニズムの整 理と解析、破砕と CO2 固定速度に関する実験的検討、北欧諸国におけるコンクリート塊の発生、再 資源化状況の調査等を行っており、CO2 固定を考慮したライフサイクル CO2 評価のガイドラインを 示しているが、以下の点で示唆深い。 (1) 解体後のコンクリート塊は、破砕によって表面積が増えるため、急速に中性化が進行する。 (2) 解体コンクリートの CO2 固定量の算定には、打ち込み時の粒径、解体後の用途や破砕後の粒 径などさまざまな因子が影響し、それら因子の統計的な把握が必要となる。 CO2 排出量削減に対する社会的要請が極めて強い状況を鑑みた場合、多種多様な意思決定場面で意 思決定をミスリードしないためにも、解体コンクリートによる CO2 固定に関する知見の蓄積が急が れる。本稿では、セメント製造による CO2 排出と中性化による CO2 の固定メカニズムについて述べ るとともに、CO2 固定に関する室内実験結果と中間処理工場を対象に行った調査結果(既発表)5) について報告し、我が国における解体コンクリートによる CO2 固定量について考察する。 2.セメント製造による CO2 排出と中性化による CO2 の固定 南斎ら 6)によれば、セメント産業を含む窯業・土石部門による CO2 排出量は、全産業 CO2 排出量 の7%を占めており、非常に大量の CO2 排出量がセメント製造に由来するものである。このような 大量の排出は、①建設行為そのものの特性から製造量が多いこと、また化石燃料の使用による CO2 排出とは別に、②セメントの焼成過程で石灰石からの脱炭酸(CaCO3→CaO+CO2)が生じること、 という 2 点に起因する。ポルトランドセメントの CO2 排出量の原単位 7)をみると、石灰石の脱炭酸 起源の CO2 排出量は 467.5g/kg であり、化石燃料燃焼起源の CO2 排出量 301.1g/kg を上回る。 このように、セメントの製造時には比較的多くの CO2 が排出されるが、コンクリート中のセメン ト水和物が中性化(炭酸化)する際には、CO2 を固定する。主なセメント水和物の炭酸化反応は次の ように示される 8)。 3CaO・2SiO2・3H2O+3H2CO3 →3CaCO3+2SiO2+6H2O →CaCO3+2H2O Ca(OH)2+H2CO3 3CaO・Al2O3・3CaSO4・32H2O+3H2CO3 →3CaCO3+2Al(OH)3+3CaSO4+32H2O 3CaO・Al2O3・CaSO4・12H2O+3H2CO3 →3CaCO3+2Al(OH)3+CaSO4+12H2O 3CaO・(Al2O3・Fe2O3)・3CaSO4・32H2O+3H2CO3 →3CaCO3+2Al(OH)3+2Fe(OH)3+3CaSO4+ 29H2O これらの式より、セメント水和物の炭酸化が進行すると、最終的にはセメント水和物が分解し、元 の石灰石(CaCO3)に戻り、CO2 を固定することがわかる。つまり、炭酸化が進行すると、石灰石 の脱炭酸起源の CO2 排出量を炭酸化の進行度合いに応じてキャンセルできると考えられる。 表1 モルタル片による実験の要因と水準 実験の要因 水準 セメント種類 OPC,BB 水セメント比 40%,60% 粒度範囲 5-2mm,2-0.5mm,0.5-0mm 乾燥 D(20℃,65%) 曝露条件 乾湿 DW(散水 2 回/週) 80 CaCO 含有率 (%) 70 60 50 3 40 30 OPC-40% D 0.5-0mm D 2-0.5mm D 5-2mm DW 0.5-0mm DW 2-0.5mm DW 5-2mm 20 10 0 0 28 91 28 91 28 91 曝露期間 (日) 3 CaCO 含有率 (%) 80 70 60 50 40 30 OPC-60% D 0.5-0mm D 2-0.5mm D 5-2mm DW 0.5-0mm DW 2-0.5mm DW 5-2mm 20 10 0 0 曝露期間 (日) 80 3 CaCO 含有率 (%) 3.CO2 の固定量に関する検討 (1)モルタル片による室内実験 セメント種類と水セメント比の異なるモルタル試 験体(20℃の環境下にて材齢 1 年まで封かん養生) を破砕して、表1のような要因と水準による曝露試 験を行い、セメント種類や水セメント比、粒度範囲 や曝露条件を変え、それらが CO2 の固定量に及ぼす 影響について検討した 5)。 CO2 の固定量は、炭酸カルシウムの量から算定で きるため、熱分析(TG-DTA)により炭酸カルシウ ム量を推定することにした。図1に熱分析による炭 酸カルシウムの含有率の測定結果(粒度範囲によっ て骨材の割合が異なるため、不溶残分の試験結果を もとに、セメントペースト中の含有率に換算)を示 す。試験結果は以下のようにまとめられる。 (1)セメント種類の比較では、BB を用いた場合の 方が OPC を用いた場合より、二酸化炭素の固定量 は幾分小さくなる傾向を示した。 (2)水セメント比の比較では、水セメント比が大き い場合の方が、CO2 の固定量が大きくなる傾向を示 した。ただし、粒径が小さい場合には、その差は小 さくなった。 (3)粒度範囲の比較では、粒径が小さいほうが、破 断面が多くなり、表面積が増えることもあり、CO2 の固定量は大きく、特に 0-0.5mm の固定量が大き かった。 (4)曝露条件の比較では、乾湿を繰り返した場合の 方が水の介在によって、CO2 の固定量は大きくなっ た。粒径の小さい範囲では、ケイ酸カルシウム水和 物やアルミン酸カルシウム水和物の炭酸化も進行 しているようである。 以上より、コンクリートを細かく破砕し、乾湿を 繰り返した場合には短期間のうちに炭酸化が進行し、 解体コンクリートにより固定される二酸化炭素量は 比較的大きなものとなることが予想される。 70 60 50 40 30 BB-60% D 0.5-0mm D 2-0.5mm D 5-2mm DW 0.5-0mm DW 2-0.5mm DW 5-2mm 20 10 0 0 曝露期間 (日) 図1 曝露期間と CaCO3 含有率との関係 (2)中間処理工場を対象とした調査 我が国では、中間処理工場へと輸送された解体コンクリートの大半が、再生砕石 RC40 に破砕さ れ、道路用の路盤材や建設現場の仮設地盤に使われている。そこで、首都圏にある複数の中間処理工 場を対象に、コンクリート塊の破砕・保管方法等についてヒアリング調査を実施するとともに、各中 間処理工場より再生砕石 RC40 のサンプルを 20kg 程度ずつ入手して、粒度分布、不溶残分、熱分析 (TG-DTA)の試験を実施し、再生砕石 RC40 が固定している CO2 量を調査した 5)。調査結果の一 覧を表2に、再生砕石の標準的な製造フローを図2に示す。 調査結果の概要は以下のようにまとめられる。 (1)受け入れたコンクリ―ト塊を必要に応じて前処理(小割、鉄筋の除去等)した後、ジョークラ ッシャで 1 次破砕し、インパクトクラッシャで 2 次破砕して、製品化している工場が大半である。 (2)保管方法は原料(コンクリート塊)および製品 (再生砕石)ともに屋外に曝露されている工場がほ コンクリート塊 とんどであり、結果的に乾湿を繰り返している。 ・バックホー(集積) ・ホイルローダ(投入) (3)受入から出荷までの期間は、概ね 1 ヶ月以内と 受入ホッパ いう回答と 1~3 ヶ月程度という回答が半々であっ グリズリフィーダ た。解体現場での保管も含めると 1 か月程度以上は <40mm >40mm 屋外曝露されるケースが多いと考えられる。 ジョークラッシャ(1次) (4) 今回の調査の範囲では、再生砕石 RC40 の 磁選機 5mm 通過分の全体に対する割合は平均で 24%で インパクトクラッシャ(2次) あり、5mm 通過分に含まれるセメントペースト中 の CaCO3 含有率は平均で 27.6%と推定された。し 磁選機 >40mm たがって、仮に 5mm 通過分の粒子にのみ CO2 が 振動ふるい 固定されていると仮定しても、再生砕石 RC40 が固 <40mm 定している CO2 量は 1ton あたり 11kg 程度あり、 再生砕石RC40 ・ホイルローダ(横移動、積込み) 40mm 超の粒子も CO2 を全く固定していない訳で はないため、少なく見積もっても 11kg-CO2/ton 以 図2 再生砕石 RC40 の標準的な製造フロー 上は固定していると推定される。 表2 実態調査結果の一覧 サンプル試験結果 ヒアリング調査結果 工場 受入れから出荷 までの期間 破砕 通過率(%) 保管方法 破砕条件 破砕能力 受入から破砕 破砕から出荷 40mm A 1ヶ月以内 1次破砕:ジョ-クラッシャ 2次破砕:インパクトクラッシャ 3次破砕:コーンクラッシャ 2,000t/日 屋外 B 1ヶ月以内 1次破砕:ジョ-クラッシャ 2次破砕:インパクトクラッシャ 3,000t/日 C 1ヶ月以内 1次破砕:ジョ-クラッシャ 2次破砕:インパクトクラッシャ D 1~3ヶ月程度 の場合もある E 20mm 5mm 2mm 0.5mm 不溶残分※ (%) CaCO3※ (%) 屋外 100 84 15 6 2 58 34.5 屋外 屋外 99 80 37 26 5 65 22.7 820t/日 屋外 屋外 一部屋根付き 100 69 19 12 4 66 30.2 1次破砕:ジョ-クラッシャ 2次破砕:インパクトクラッシャ 3,520t/日 屋根付き 屋外 一部屋根付き 100 79 30 20 6 57 24.4 1~3ヶ月程度 の場合もある 1次破砕:ジョ-クラッシャ 2次破砕:インパクトクラッシャ 2,040t/日 屋外 屋外 100 80 27 19 6 55 25.8 F 1~3ヶ月程度 の場合もある 1次破砕:ジョ-クラッシャ 2次破砕:インパクトクラッシャ 640t/日 屋外 屋外 100 74 22 14 5 70 29.8 G 1ヶ月以内 1次破砕:ジョ-クラッシャ 2次破砕:インパクトクラッシャ 630t/日 屋外 屋外 96 61 25 17 4 63 18.8 H 1~3ヶ月程度 の場合もある 1次破砕:ジョ-クラッシャ 2次破砕:インパクトクラッシャ 480t/日 屋外 屋外 100 73 18 9 5 68 34.3 99 75 24 15 5 63 27.6 平均 ※不溶残分、CaCO3は5mm通過分の結果(CaCO3はセメントペースト中の含有量) 4.国家インベントリへの反映 表3 解体コンクリートによる CO2 固定量の試算結果 3.の検討結果を元に、再生砕石 調査年 解体材発生量 再利用率 CO2 固定量の試算結果 RC40 の 1ton あたりの CO2 固定量 48% 13.2 万 ton を 11kg-CO2 として、我が国の解体 1990 年(平成 2 年) 2,500 万 ton コンクリートによる CO2 固定量を 1995 年(平成 7 年) 3,650 万 ton 65% 26.1 万 ton 推定した。試算結果を表3に示す。 2000 年(平成 12 年) 3,530 万 ton 96% 37.3 万 ton 2000 年以降、再生砕石による 2002 年(平成 14 年) 3,510 万 ton 97.5% 37.6 万 ton CO2 固定量は毎年 33 万 ton を超え 2005 年(平成 17 年) 3,220 万 ton 98.1% 34.7 万 ton るものであり、建設行為そのものの 97.3% 33.5 万 ton 特性から解体材発生量が多いこと 2008 年(平成 20 年) 3,130 万 ton もあって、総量として無視できない ものであることがわかる。例えば、政府が京都議定書に基づき、国際事務局へ毎年報告している資料 によると、建設業の 2007 年度の CO2 排出量は 1,169 万トン-CO2 とされており 9)、33 万 ton の CO2 固定量は、建設業全体が直接的に排出する CO2 排出量の約 3%にあたるものである。 5.おわりに 地球温暖化の問題を背景として、CO2 排出量の削減が世界的な関心事となっている。本研究では、 セメント水和物の炭酸化による CO2 の固定に着目して、モルタル片によるモデル試験結果や中間処 理工場の再生砕石 RC40 の調査結果について報告するとともに、我が国の解体コンクリートによる CO2 固定量を非常にラフな仮定のもとに推定した。 なお、本研究の成果をきっかけとして、国土交通省国土技術政策総合研究所の総合技術開発プロジ ェクト「社会資本のライフサイクルをとおした環境評価技術の開発(プロジェクトリーダー:岸田弘 之)」において、全国の中間処理工場(45 都道府県の 46 工場)から収集した再生砕石試料の CO2 固 定量の調査が昨年度実施されており、再生砕石の CO2 固定量のデータが整いつつある。また、土木 学会の「CO2 削減を考慮したコンクリート構造物の解体、再利用、補修技術に関する調査研究小委員 会(委員長:河合研至) 」でも、理論的な検討が進められている。将来的には、解体コンクリートに よる CO2 固定量が、建設資材の CO2 排出原単位に反映されるものと期待される。 参考文献 1) Bjorn Lagerblad: Carbon dioxide uptake during concrete life cycle –state of the art, Cement och Betong Institutet, 2005. 2) Christian J. Engelsen, Dag Henning Saether, Jacob Mehus, and Claus Pade: Carbon dioxide uptake in demolished and crushed concrete, Nordic Innovation Centr, 2005. 3) Guoni Jonsson: Information on the use of concrete in Denmark, Sweden, Norway and Iceland, Nordic Innovation Centr, 2005. 4) Kirsten Pommer, and Claus Pade: Guidelines - Uptake of carbon dioxide in the life cycle inventory of concrete, 2005. 5) 黒田泰弘・菊地俊文:解体コンクリートによる二酸化炭素の固定,コンクリート工学論文集,Vol.20, No.1,pp.15-22,2009. 6) 南斎規介・森口祐一・東野達:産業連関表による環境負荷原単位データブック(3EID), ISSN 1341-4356 CGER-D0310-2002, (独)国立環境研究所 地球環境研究センター, 2002 7) (社)セメント協会:セメントの LCI データの概要,2010. 8) (社)日本コンクリート工学協会・炭酸化研究委員会:炭酸化研究委員会報告書,1993. 9) 東京建設業協会の環境ホームページ http://token.or.jp/kankyou/warming/
© Copyright 2026 Paperzz