2A5a 振動数ゆらぎと分子間振動カップリングを同時に取り入れた 時間領域計算法による液体 N,N-ジメチルホルムアミドの 線形・非線形振動スペクトルの理論的解析 (静岡大教育) ○鳥居 肇 E-mail: [email protected] Transient IR absorption anisotropy 液体中における分子振動励起は,分子間の共鳴的な振動カップリング(振動ハミルトニアンの非 対角項)の大きさに応じて,複数の分子に非局在化する。この非局在化に由来する現象として,振 動スペクトル(振動数領域)のノンコインシデンス効果 (NCE) や,過渡赤外吸収強度の異方性の速 い減衰(時間領域)が知られている [1]。一方,液体中の分子間相互作用とダイナミクスによって, 各分子の分子振動数(振動ハミルトニアンの対角項)には揺らぎが引き起こされ,振動バンドの広 がりとして観測されるほか,振動励起の非局在化を阻害する。そこで,これら2つのファクターに よって,液体の振動スペクトルなど分光シグナルがどのように変化するのかを知ることは,液体系 の構造・ダイナミクスや振動励起の挙動を分光シグナルから見積もるために重要である。そこで本 研究では,液体 N,N-ジメチルホルムアミド (DMF) のアミドⅠバンドを例にとり,時間領域の表式 を用いた計算を行うことにより,この点を定量的に検討した。 計算は,液体DMF(128 分子系)を対象に,MD/TDC/WFP法 [2] を拡張した方法を用いて行った。 つまり,液体構造の時間変化をMD法によって計算し,それと同時に,時刻t = 0 におけるアミドⅠモ ードのラマン励起波動関数 |ψ(R)(0)>(128 次元のベクトル)を振動ハミルトニアンH(t) によって時 間発展させる。各分子の振動数シフトや分子間の振動カップリングは分子間の距離と配向に依存す るので,H(t) は液体構造の時間変化に伴って変化する。そこで,|ψ(R)(t)> の時間発展は,MDのtime step (∆t) ごとに計算しなおすH(t) を用いて, |ψ(R)(t+∆t)> = exp [–i ∆t H(t)/ h ] |ψ(R)(t)> のように計算 する。ラマンスペクトルは,こうして得られる |ψ(R)(t)>(t ≅ 65.5 psまでの 32768 点)を用いて計算 できる相関関数をフーリエ変換することによって計算できる。上述したt = 0 の点を,MD計算の時間 軸上においてある程度の時間間隔(約 32.8 ps)で複数(1350 点)とることにより,スペクトルの統 計平均を得た。同様にして,赤外励起波動関数を時間発展させることにより,過渡赤外吸収強度の 異方性の挙動や 2 次元IRスペクトルを計算した。 ラマンスペクトルを計算した結果,NCEの大きさは 4 14.5 cm-1となった。これは,実験結果 (14–15 cm-1 [3]) と 2 良く一致する。また,気相状態からの振動数シフトやバ Isolated case (e.g., isotopically diluted solution) ンド幅も,実験と比較的良く一致した。そこで,同じ振 0.1 8 6 動ハミルトニアンを用いて,過渡赤外吸収強度の異方性 4 の挙動を予測した。結果を図 1 に示す。分子間の共鳴的 Neat liquid 2 な振動カップリングによる振動励起の非局在化のため 0.01 に,過渡赤外吸収強度の異方性が極めて速く減衰してい 8 6 ることがわかる。この異方性は 1 psで 0.4 から約 0.04 ま 4 3 2 1 0 で減衰しているが,この間に振動励起は 10 分子程度に Time / ps まで非局在化する。 図 1:液体 N,N-ジメチルホルムアミドの さらに,rephasing 条件下での 2 次元IRスペクトルを アミドⅠバンドを対象に計算した,過渡 計算した結果,振動励起の非局在化による特徴的なスペ 赤外吸収強度異方性の時間挙動。 クトル形状が現れることがわかった。 [1] H. Torii, in Novel Approaches to the Structure and Dynamics of Liquids: Experiments, Theories and Simulations; J. Samios and V. A. Durov., Eds.; Kluwer: Dordrecht, The Netherlands, 2004; p. 343–360. [2] H. Torii, J. Phys. Chem. A 106, 3281–3286 (2002). [3] M. G. Giorgini, M. Musso, A. Asenbaum, and G. Döge, Mol. Phys. 98, 783–791 (2000).
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