- 地球温暖化に伴う水道原水水質問題に関する研究 - 地球温暖化に伴う森林流域流出水の硝酸態窒素濃度の変動予測 京都大学大学院農学研究科 小杉賢一朗・藤本将光 1.は じ め に 水 道 原 水 の供 給 域 のほとんどは森 林 に覆 われた流 域 である。森 林 流 域 からの流 出 水 に含 まれる硝 酸 態 窒 素 は,下 流 域 の湖 沼 の富 栄 養 化 の原 因 となると同 時 に,飲 用 に利 用 された場 合 に健 康 被 害 を 引 き起 こすことが危 惧 されている。このため我 が国 では,1999 年 に硝 酸 態 窒 素 及 び亜 硝 酸 態 窒 素 が環 境 基 準 の項 目 に追 加 された(10 mgN/L の水 質 基 準 )。森 林 流 域 では,表 土 層 中 の有 機 物 が分 解 され ることによってアンモニア態 窒 素 が発 生 する。その多 くは樹 木 の根 系 により吸 収 されるが,一 部 は降 雨 の浸 透 水 に溶 け込 んで下 層 土 に移 動 する。その過 程 で,硝 化 作 用 を受 けて硝 酸 態 窒 素 へと変 化 する。 その後 ,風 化 基 岩 層 に浸 透 して徐 々に渓 流 へと流 動 する過 程 で,脱 窒 作 用 を受 けて硝 酸 態 窒 素 の濃 度 が低 下 する。この結 果 ,森 林 流 域 からの流 出 水 の硝 酸 態 窒 素 は,環 境 基 準 の 10 分 の 1 以 下 の小さ な値 となっている。しかしながら,地 球 温 暖 化 により高 い確 率 で発 生 が予 測 されている「降 雨 強 度 の増 加 」が起 きた場 合 に,このような水 や窒 素 の循 環 プロセスが崩 壊 し,渓 流 水 の硝 酸 態 窒 素 濃 度 が上 昇 することが危 惧 される。そこで本 研 究 では,森 林 流 域 での野 外 観 測 を行 うことにより,降 雨 強 度 の増 加 に伴 う硝 酸 態 窒 素 濃 度 の変 化 を検 討 した。 2.観 測 流 域 観 測 は滋 賀 県 田 上 山 系 の不 動 寺 流 域 で行 った。基 岩 地 質 は風 化 花 崗 岩 である。入 れ籠 状 に配 置 された6つの森 林 流 域 からの流 出 量 を自 動 連 続 観 測 した(図 -1 参 照 )。一 ヶ月 に 1~2 回 の定 期 観 測 時 に,各 流 域 からの流 出 水 を採 取 し,溶 存 態 窒 素 濃 度 を計 測 した。さらに 10 月 7~11 日には,総 雨 量 180.5 mm の降 雨 イベントを対 象 として,3 つの流 域 (C1,C2 および S)からの流 出 水 を 1~2 時 間 おきに 自 動 連 続 採 水 し,溶 存 態 窒 素 濃 度 を計 測 した。 3.結 果 観 測 結 果 より,以 下 の知 見 が示 された。 1) 樹 木 の吸 収 と硝 化 作 用 によって,アンモニア態 窒 素 の流 出 はほとんど見 られなかった。 2) 硝 酸 態 窒 素 の濃 度 は,樹 木 の吸 収 能 力 が低 下 した壮 齢 林 では高 く,幼 齢 林 では低 くなった。壮 齢 林 と幼 齢 林 が 混 在 す る下 流 域 で は, 中 間 的 な濃 度 を示 した。このことから,幼 齢 林 が水 質 改 善 機 能 を持 つことが定 量 的 に示 された。 3) 壮 齢 林 の流 域 の一 つ(C1)では,流 量 の増 加 に 伴 って土 層 からの流 出 が支 配 的 となることで,硝 酸 態 窒 素 濃 度 が上 昇 した。 4) 土 層 からの流 出 が支 配 的 と考 えられる壮 齢 林 の 流 域 の一 つ(C2)では,樹 木 による吸 収 の影 響 により,夏 場 に硝 酸 態 窒 素 濃 度 が減 少 した。 5) 豪 雨 時 には,土 層 からの流 出 が大 きく増 加 する こ とで, 壮 齢 林 ・ 幼 齢 林 と もに 硝 酸 態 窒 素 の 濃 度 が上 昇 した。C2 流 域 では,土 層 内 の濃 度 が 低 下 することによって,流 出 水 の濃 度 が一 時 的 に低 下 する現 象 が見 られた。 6) 温 暖 化 の影 響 で降 雨 強 度 が強 くなると,幼 齢 林 からの流 出 水 の硝 酸 態 窒 素 濃 度 が増 加 すること によって,水 質 改 善 機 能 が失 われ,流 域 全 体 か らの流 出 水 の硝 酸 態 窒 素 濃 度 が増 加 する可 能 性 があることが示 唆 された。 図 -1 観 測 流 域 の 地 形 と 観 測 点 の 位 置
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