日本介護経営学会 第8回学術大会自由演題報告(H24.11.23) 介護実践現場におけるコンフリクトと 職員の成長・介護実践の関連 白石旬子 (日本社会事業大学大学院社会福祉学研究科 日本学術振興会特別研究員DC2) 1 本研究の背景 介護チーム内で仕事のやり方・考え方の不一致が頻 繁に生じている。 他職員と「ケアの考え方が合わない」経験をした介護職員8 割(日本社会事業大学 2011) 離職・サービスの質の低下 組織論の観点:不一致・対立=コンフリクト コンフリクトには、新しい知識の創出やより良いパフォー マンスを生み出す可能性がある。 介護実践現場のコンフリクトも、プラスの成果を生み出し ているのではないか? 2 組織論でのコンフリクトのタイプと「成果」との関連 コンフリクトのタイプ 「成果」との関連 「タスク・コンフリクト」 ⇒「仕事の目標や仕事その ものに関する意見の不一 致」 タスク・ コンフリクト (TC) 相関 マイナスに作用 プロセス・ コンフリクト (PC) プラスに作用 「プロセス・コンフリクト」 ⇒「仕事の役割、責任、資 源配分を巡る不一致」 マイナスに作用 「リレーションシップ・コ ンフリクト」 ⇒「緊張や怒りなどの感情 的な要素を含んだ対人的 な不一致」 リレーションシップ・ コンフリクト (RC) 「成果」 3 研究方法および、アンケート調査結果① アンケート調査⇒インタビュー調査(「説明的デザイン」) 対象:全国の入所・居住系介護サービス施設・事業所 10,000施設・事業所(有効回答1,938名) 結果:コンフリクトに「統合方略」を用いる職場では、コン フリクトによって、職員の成長を高め、個別に応じた「介 護実践」を促していた。 ⇒調査・結果の詳細は、今年度の「介護経営」に掲載。 ※アンケート調査は、平成23年度厚生労働省老人保健健康増進等事業「介護職員の初期キャリア形 成に関する研究事業」の一部として行われた。 4 アンケート調査②「介護 経営」掲載結果の概要 「『価値や根拠を前提に する』不一致」因子 ⇒「利用者の様子・行動の 変化の理由を考えて行動し ているか」等で構成 「視野の広がり」因子 ⇒「多様な観点から考える ようになった」等で構成 職場における「介護実 践」4因子 ⇒「自然排泄」「生活時間の 個別化」「行動制限しない」 「外泊・在宅復帰」で構成 5 アンケート調査③ (補足分析) :「タスク・コンフリク ト」がプラスに作用する背景 「統合方略」群:「視野の広がり」への各変数の直接・間接・総合効果 「価値や根拠を前提にする」不一致 タスク・コンフリクト リレーションシップ・コンフリクト プロセス・コンフリクト 直接効果 間接効果 総合効果 -0.55 0.24 -0.15 -0.17 -0.01 -0.26 -0.56 -0.02 -0.15 -0.22 -0.05 ※標準化係数にて算出 「タスク・コンフリクト」のプラスの効果を作用させるにはそ の間接効果を低めることが必要 これが実践の上で可能となるかどうかの具体像をインタ ビュー調査のなかで捉える(本報告の目的) 6 インタビュー調査(目的、方法と対象) 【目的】 「成果」にプラスに作用する「TCの直接効果」を作用させるために、 マイナスに作用する「TCの間接効果」を減じる、実践的な具体像を 示すこと 【対象とその抽出方法】 高齢者介護サービス施設・事業所において、職場内でリーダー の役割を担っている(いた)者であって、介護の方法や考え方に ついて、職員同士が対立した職場での勤務経験をもつ者 有意抽出法で抽出された7名(介護現場での平均経験年数15.1 年(±6.1年)) 【倫理的配慮】 日本社会事業大学研究倫理委員会に審議を依頼、承認を得た。 ※インタビュー調査は、「介護職員のチームケアを阻害する組織行動論的要因および、介護学的要 因」(科学研究費補助金特別研究員奨励費)により行われた。 7 インタビュー調査(調査方法、インタビュー内容) 【調査方法】 半構造化面接法を用いたインタビュー調査 【インタビュー内容】 「職場のなかで、介護サービスを提供する際に、介護 の方法や考え方について職員同士が対立した経験に ついて、これまでの経験の中で印象に残っているもの を教えてください」 - 対立の具体的内容 どのようなコンフリクトが起きていたのか 職場はそれに対してどのように対処したのか その対立によって得られた「成果」 8 インタビュー調査(分析方法・手順) 1. 逐語録を読み込み、意味内容が通じる部分で切片化、カード化 2. 「天下り式」コーディング(佐藤2002)により、アンケート調査結 果の潜在因子に分類 ① 「『価値や根拠を前提にする』不一致」コード ② 「コンフリクトのタイプ・関係性」コード ③ 「解決方略」コード ④ 「職場の成果」コード 3. ①~④それぞれ「たたき上げ式」コーディング(佐藤2002)を実 施、サブコードを生成 4. 生成されたサブコードを、職場に「プラス」の成果を得たとする職 場、「マイナス」の成果を得たとする職場別に集計 9 インタビュー調査:結果(事例の概要) 対立の主題とその「成果」 No 対立の主題 1 ナースコールを頻回に押す利用者にどのように対応するか 2 利用者にどのように楽しんでもらうのか 3 時間のかかる利用者の食事の提供量を半分にするかどうか 得られた「成果」 「視野の広がリ」 「職員の関わり方の変 化による改善」 「視野の広がり」 「生活時間の個別化」 「視野の広がり」 4 ソリが合わず、協働できない職員をどうするか 「視野の広がり」 「生活時間の個別化」 5 6 7 8 「行動制限しない」 「利用者への悪影響」 「利用者への悪影響」 「利用者への悪影響」 身体拘束を外していくかどうか 利用者に自分で食べてもらうようにするか、介助するか トイレ誘導を続けるか、おむつにするか トイレ誘導を再開させるか、おむつのままにするか 10 インタビュー調査:結果(コード集計) インタビューデーターを146枚にカード化 「天下り式」のコーディングにより、各コードにあては まったカードは55枚 「成果」別:コード集計 全体 枚(%) <コード> プラスの成果を マイナスの成 得た職場 果を得た職場 枚 (%) 枚 (%) 〈「価値や根拠を前提にする」不一致〉 12 (22%) 11 (30%) 1 (6%) 〈コンフリクトのタイプ・関係性〉 14 (25%) 9 (24%) 5 (28%) 〈解決方略〉 16 (29%) 7 (19%) 9 (50%) 〈職場の成果〉 13 (24%) 10 (27%) 3 (17%) 55 (100%) 37 (100%) 18 (100%) 合計 11 インタビュー調査:結果(サブコード集計①) 「成果」別:「『価値や根拠を前提にする』不一致」サブコード集計① プラスの成果を マイナスの成 得た職場 果を得た職場 <コード> 【サブコード】 枚 (%) 枚 (%) 【「価値」の合意や前提の形成】 5 (45%) 0 (0%) 3 (27%) 0 (0%) 〈「価値や根拠を前 【同じ思い・強みを引き出す】 提にする」不一致〉 【リーダーのなかでの一致を確認】 3 (27%) 1 (100%) 合計 11 (100%) 1 (100%) 12 逐語データ【同じ思い・強みを引き出す】 「食べられることもあるよね」、って私が言ったときに、 ワーカーとして、「いやいや絶対半量じゃないとダメだと 思います」っていう職員はなかなかいないですよね。「そ れって私たちの仕事よね、食べれるときあるじゃない、そ の時は頑張って食べさせようよ」っていうのは、みんな だって、そうだなってその時は思いますよね。 13 逐語データ【リーダーのなかでの一致を確認】 みんなの良いところって、時間なり人がいないって言い 分けをするけど、でも利用者さんにこうしてあげたいって いう気持ちはあったと思うんですよね、なんかこう、まとも な感覚っていうのが。自分の介護職としてのケアは、こう あるべきみたいなのが絶対にあったと思うんです。 14 インタビュー調査:結果(サブコード集計②) 「成果」別:「コンフリクトのタイプ・関係性」サブコード集計② プラスの成果を マイナスの成 得た職場 果を得た職場 <コード> 【サブコード】 枚 (%) 枚 (%) 【価値を守るためのTCをいとわない】 2 (22%) 0 (0%) 【RCを気にせず、TCとし捉える】 1 (11%) 0 (0%) 【TCに「なりきれない」】 1 (11%) 1 (20%) 【TCとRCの混在】 1 (11%) 0 (0%) 〈コンフリクトの 【TCに姿を変えたRC】 1 (11%) 0 (0%) タイプ・関係性〉 【RC】 1 (11%) 0 (0%) 【RCを高めない】 2 (22%) 1 (20%) 【RCへの転移】 0 (0%) 3 (60%) 合計 9 (100%) 5 (100%) 15 逐語データ 【リレーションシップ・コンフリクトを高めない】 それと、話し合いのなかでは、個人攻撃しないように、っ ていうのも、みんなには言ってきました。個人の誰かじゃ なくて、自分たち全体で、改めるところは改めていかない といけないし。もし、話の流れが個人攻撃にいきそうにな ると、そうじゃなくって、みんなでどうする、っていう風に軌 道修正するっていうファシリテーションとかもしていました よね。 16 逐語データ 【リレーションシップ・コンフリクトへの転移】 あの人どうしてくれようというか、あの人どうしたらいいの という感じだったけど、…[中略]…その時、その人が嫌い じゃないけどその考え方はどうにかならないかなと。…[中 略]…もうなんだろうこの人は、と思ったけど。 17 インタビュー調査:結果(サブコード集計③) 「成果」別:「解決方略」サブコード集計③ <コード> 〈解決方略〉 【サブコード】 【みんなで話し合う】 【場にもっていく】 【みんなから意図的に聞く】 【話し合わない】 【Win-Lose】 【積極的な判断をしない】 プラスの成果 マイナスの成 を得た職場 果を得た職場 枚 (%) 枚 (%) 0 (0%) 3 (43%) 2 (29%) 0 (0%) 2 (29%) 1 (11%) 0 (0%) 2 (22%) 0 (0%) 4 (44%) 0 (0%) 2 (22%) 合計 7 (100%) 9 (100%) 18 逐語データ 【みんなで話し合う】 当時の主任が、「そういうの信じられへん、あかんよとか、 ワーワー、ぎゃあぎゃあ」言っている職員たちの声を拾っ て、カンファレンスでみんなで話し合おうか、っていうことに なりました。…[中略]…ワーワー言っていたことは次の会 議のなかで話し合う、っていうのはありましたね。 19 逐語データ 【みんなから意図的に聞く】 私がほかの職員にどう思う、どう思う、って聞くうちに、み んな言いたいから言いだすじゃないですか。もし、反対意 見で黙っていそうな人がいれば、どう思います?みたいな 感じで聞いて。言いたそうな人とか、反論がありそうな人っ て、勢力図とかって何となく分かるじゃないですか。 20 インタビュー調査:考察① 価値や根拠 を前提にす る不一致 今回の結果では、リー ダーの以下の行動より、 タスクコンフリクトを活用 ②RCを高め ①一致点の確 認・意識づけ TC ない働きかけ + RC PC ③話し合い と場づくり - - - + ① 一致点の意図的な確 認・意識づけ ② リレーションシップ・コ ンフリクトにつなげな い働きかけ ③ 意見を出し合う・話し 合う場をつくる・もって いく 「職場の成果」 21 インタビュー調査:考察② 今回のインタビューから浮かび上がってこ なかった内容 プロセス・コンフリクトへの働きかけ タスク・コンフリクトが「視野の広がり」「介護実践」 を促すプロセス 相違点の「信念対立を解明」するアプローチ(京 極2012) 22 ご清聴ありがとうございました。 本研究にご協力くださった皆様に、心から感謝申し上げます。 23
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