高等学校理科における科学的な思考力を育成するための指導と評価の工夫 ― 観察,実験などを中心とした科学的探究活動を通して 【研 究 者】 教科教育部 主任指導主事 指導主事 羽村 山本 昭彦 浩史・大本 広島大学大学院教育学研究科 【研究指導者】 【研究協力員】 県立広島皆実高等学校 教諭 岡田 睦雄 県立音戸高等学校 教諭 下髙呂元成 県立安古市高等学校 教諭 濵井 洋行 順一・佐々木 助教授 磯﨑 ― 悟 哲夫 県立尾道北高等学校 県立三次高等学校 県立広島高等学校 教諭 教諭 教諭 高須 康仁 佐々木政則 坂本 豊 研究の要約 本研究は,高等学校理科における科学的な思考力を育成するための指導と評価の工夫について明 らかにすることを目的とした。 科学的な思考力を育成するための指導と評価に着目し,科学的探究活動の各段階における指導と 評価の工夫を次のように取り入れた。①既習事項や日常生活と関連させ,生徒が取り組みやすい問 題を設定する,②問題解決の方略を,生徒自ら考えさせ,グループで話し合い,最終決定させる, ③検証の場面で,生徒が適切な観察,実験を行えるようにする。④ワークシートを生徒の思考が明 確に表現できるように工夫し,適宜,形成的評価を行う。 以上のことを基に,授業実践を行った。授業実践を行った科目,単元及び科学的探究活動のテー マは以下のとおりである。 「化学Ⅱ」:単元 医薬品 3種の胃薬の成分分析による同定 「生物Ⅱ」:単元 嫌気呼吸 3種の微生物の特定 「物理Ⅱ」:単元 電荷と電界 コンデンサーの電気容量 授業分析の結果,生徒の科学的な思考力(①問題の把握,②問題解決の方略の立案,③観察,実 験結果の根拠ある予想,④目的意識をもった正しい観察,実験操作,⑤観察,実験結果を基にした 考察)を育成する上で,本研究で行った指導と評価の工夫が有効であることが明らかとなった。 キーワード: 科学的な思考力 目 高等学校理科 次 はじめに ……………………………………………25 Ⅰ 昨年度の研究から ……………………………26 Ⅱ 科学的な思考力を育成するための指導と評価 の工夫 ……………………………………………26 Ⅲ 実践授業と分析 ………………………………30 Ⅳ 成果と課題 ……………………………………44 おわりに ……………………………………………44 はじめに 今日の理科教育において,科学的な思考力を育成 指導と評価 科学的探究活動 する指導が重要な課題の一つとなっている。 私たちは昨年度,「高等学校理科における科学的 な思考力を育成するための教材開発に関する研究 −観察,実験などを探究的に行う教材の開発−」の 研究を行い,開発した教材の授業実践の結果から, 開発した教材に一定の有効性が認められた。また, 授業実践の際に,様々な知見が得られた。一方で, 生徒の科学的な思考力の変容をどのように評価す るのかという課題が残った。 そこで本年度は昨年度の研究成果を基に,指導と 評価に着目し,科学的な思考力を育成するための指 導と評価の工夫について明らかにすることを目的 とした。 ‑ 25 ‑ Ⅰ 5 昨年度の研究から 前述したように,本年度は,昨年度の研究成果を 基にしているため,ここでは重要な語句及び考え方 について説明する。 1 科学的な思考力を育成するために開発し た教材の構造 昨年度の研究において考案した,観察,実験など を中心とした科学的探究活動を主体的に行わせる教 材の構造を図1に示す。 「科学的な思考」について 「科学的な思考」については,文献によっても「科 学的思考」と「科学的な思考」の両方が混在する。 本研究では「科学的な思考」と「科学的思考」を同 意語ととらえた。また,本研究の表記としては「科 学的な思考」の語を用いることとした。 2 科学的な思考力とは 「科学的な思考力」は,理科教育に関する文献等 でも何度も取り上げられ,研究者によっても様々な とらえがされてきた。 本研究では,文部科学省初等中等教育局長通知 『小学校児童指導要録,中学校生徒指導要録,高等 学校生徒指導要録,中等教育学校生徒指導要録並び に盲学校,聾学校及び養護学校の小学部児童指導要 録,中学部生徒指導要録及び高等部生徒指導要録の 改善等について(通知)』(平成13年4月27日付け,13 文科初第193号)において示された評価の観点及びそ の趣旨を基に,「科学的な思考力」を以下のように 定義した。 自然の事物・現象の中に問題を見いだし,観察, 実験などを行うとともに,事象を実証的,論理的に 考えたり,分析的,総合的に考察したりして問題を 解決する能力 3 科学的な思考力を育成するためには 科学的な思考力を育成するための文献や実践的 研究から, 「科学的な思考力」を育成する指導では以 下の二点が重要であることが明らかとなった。 1 観察,実験などを中心とした科学的探究活動を 主体的に行わせる。 2 プロセス・スキルを訓練する。 4 科学的な思考力を育成するための教材開 発の視点 科学的な思考力を育成するためには,上述の二点 を踏まえた教材を開発することが重要であり,この 教材を効果的なものとするために,以下のような三 つの教材開発の視点を考えた。 (1) 問題解決の方略を考え,自分の考えた方略で解 決する。 (2) グループによる協働的学習を行う。 (3) 発表を取り入れ,クラス全体で共有する。 図1 観察,実験などを中心とした科学的探究活動を主体的 に行わせる教材の構造 Ⅱ 科学的な思考力を育成するための指導 と評価の工夫 1 科学的な思考力を育成するための指導 科学的探究活動の流れは,図1の単元の指導計画 に示したとおり, 「問題の把握→情報の収集→仮説の 設定→仮説の検証→結論」の「探究の過程」とも呼 ばれるプロセスである。この探究の過程で留意すべ きは,このプロセスが必ずしも固定的なものではな いという点である。仮説を検証している時点で,新 たな問題が生じ,それを解決する過程が生じること もある。したがって,科学的探究活動の流れの基本 は,問題の把握から結論を導く過程の中に,仮説― 検証のプロセスがあることである。 昨年度の研究では,科学的な思考力を育成するた めには,この観察,実験などを中心とした科学的探 究活動を主体的に行わせることが重要であることを 明らかにした。むろん,いくら主体的にたどると言 っても,このプロセスが科学的でなければ生徒の科 学的な思考力は育成できない。ここに,この学習の 意味があり,指導の重要性がある。 ‑ 26 ‑ 2 科学的な思考力の評価 科学的な思考力の評価については,従来も様々な 研究がなされてきた。 『学習指導要領理科編(試案)』(昭和22年,文部 省)では,科学的考察力の考査の項目として「問題 を見つけはっきりつかむ能力」,「現象を正確に観察 する能力」,「事実から推論する能力」,「実験を企画 し予想の正否をためす能力」,「事実や原理を新しい ものに応用する能力」の五つを挙げている。この考 え方はプロセス・スキルを評価する考え方であると いえる。プロセス・スキルとは,AAAS(アメリカ 科学振興協会)の SAPA(Science-A Process Approach) のプロセス・スキルに代表されるように,科学の問 題解決の方法,すなわち探究の過程において必要な スキルを分析したものである。 大庭景利(昭和47年)は,科学的な思考力を心理学 的発達段階と合わせて「経験領域の拡大」,「主観的 思考より客観的思考をへて普遍的思考への移行」, 「抽象性の発展」等11の構成要素に分け,その発展 と診断について述べている。この考え方は,科学的 な思考をいくつかの思考要素に分け,それぞれにつ いて評価・診断するものである。 井出耕一郎(昭和59年)は,探究の過程における思 考活動に着目し,科学的な思考をいくつかの思考要 素に分け「論理的思考」,「創造的思考」等7項目の 評価項目(下位項目は24)を挙げている。しかし, 「問題の発見」も評価項目に加え,下位項目として 「問題解決のための観察・実験の提案」,「問題解決 への見通しをたてる」等探究の過程におけるプロセ ス・スキルも取り込んだ考え方といってよい。 大髙泉(平成4年)は,我が国及び諸外国で行われ ている科学的な思考力の評価について分析し, 「その ほとんどすべてが科学のプロセス・スキルを評価す るように作られ」1)ていると述べている。このこと は,科学的な思考力の評価の主流が,プロセス・ス キルを評価するものであることを示している。 井藤芳喜(平成5年)は,諸外国のプロセス・スキ ルを参考にし, 「観察する能力」, 「分類する能力」等 10項目の評価項目(下位項目は100)を整理してい る。井藤はここで「指導の内容と照らし合わせて, これに見合った項目を見い出し,具体的評価目標と することができる。」2)と述べており,プロセス・ス キルを生徒の科学的探究活動の内容に合わせて選択 する必要性を述べている。さらに吉田淳(平成5年) は, 「あくまで一連の問題解決の過程における問題発 見,予想,比較,関係付け,推論,定量化,推理, 仮説の設定,モデルの形成,規則性の発見,応用・ 運用などに,子どもがどのように取り組んでいるか について評価すべきである。」3)と述べ,一連の問題 解決の過程の中でプロセス・スキルを評価すべきで あるとしている。 以上のことから,科学的な思考力の評価は,一連 の科学的探究活動において,探究の過程の各段階が 十分踏まえられたかどうかを評価することが妥当で あると考える。 3 指導と評価 従来は,科学的探究活動を行わせても,その過程 はあまり評価されておらず,活動後に報告書を作成 させ,その報告書によって評価をすることが一般的 であった。高等学校学習指導要領第1章第6款5の (10)では,「生徒のよい点や進歩の状況などを積極 的に評価するとともに,指導の過程や成果を評価し, 指導の改善を行い学習意欲の向上に生かすようにす ること。」と示されている。学習の指導と評価の在り 方が極めて重要視されている昨今,科学的探究活動 においてもその改善が求められる。 また,指導と評価の一体化について鹿毛雅治 (1996)は, 「『ダイナミックな教育評価実践』という 立場に立つならば,思考力を評価するということが 思考力を育てる教育実践とまさに表裏一体のものに なる。」4)とした上で,「思考力の評価について考え るならば,思考力をどう測定するかという話よりも, 考える場,すなわち,考えたくなる,あるいは考え ざるをえない状況を教師がいかに創り出すかが問題 になるべきである。」5)としている。 科学的探究活動は,探究の過程を生徒に主体的に たどらせる活動であるから,当然,探究の過程の各 段階を踏まえて活動が進むことになる。したがって, 生徒が探究の過程の各段階を踏まえ,問題解決を行 えるように指導すべきであり,評価も当然のことな がら生徒へのフィードバックだけではなく,教師の 教授方略へのフィードバックでもある。そこで,科 学的探究活動において教師が行うべき指導と評価の 工夫について次に述べる。 4 指導と評価の工夫 (1) 既習事項や日常生活と関連させ,生徒が取り 組みやすい問題を設定する 探究の過程における「問題把握」の段階は,一連 の科学的探究活動のスタートであり,生徒の科学的 探究活動に対する動機付けの意味をもっている。 ‑ 27 ‑ この段階では,生徒が解決する問題を,生徒自身 の問題として把握するように指導することが望まし い。この点について広島県理科教育センター編集『理 科教育資料97 小学校・中学校・高等学校 理科指 導の基礎‑指導技術編‑』(1982)では「探究的学習で は,導入段階において明確に問題把握をさせること が,以後の展開を効果的にすることにつながる。」6) とし, 「問題をつかませる指導上のポイント」として, 「既習事項や生活経験と関連させたり,既習事項の 発展として問題をつかませる」7)ことを挙げている。 つまり,生徒が把握する問題は,既習事項や日常 生活と関連した問題が望ましいといえる。 既習事項との関連について,従来,科学的探究活 動を行う場合,生徒の既習事項とは関係なく,生徒 の興味・関心のありそうなテーマで,投げ入れ教材 として行われる場合がしばしば見られた。問題解決 においては,生徒は既有の知識や自己の素朴概念を 駆使して問題を解決しようとする。このことが既習 事項を定着させたり,素朴概念をより科学的な概念 へと変容させたりすることにもつながる。したがっ て,既習事項と関連し,単元に位置付いた問題を取 り扱うべきであると考える。 日常生活との関連について,小田豊ら(平成17年) は,児童生徒の学ぶ意欲が十分でないことについて, 「『学校で学んでいる内容が日常生活でどのように 活用されているのか,自分の将来の職業にどのよう に役立つのか』といったことが具体的にイメージす ることができないため,学ぶ意義が見いだせないこ ともその要因の一つと考えられる。」8)と,学習内容 と日常生活との関連を図ることが学ぶ意欲の向上す なわち動機付けにとって重要であることを述べてい る。そして,日常生活と関連付いた学習を行うこと は,科学を学ぶ意義を見いださせることにもつなが る。したがって,学習する素材を日常生活で使用す るものや身の回りにあるものから選定するなど,日 常生活との関連を図ることが望ましいといえる。 さらに,生徒が把握する問題は,生徒の既習事項, 素朴概念等に関連し,かつ解決可能な問題である必 要がある。動機付けが起こる多くの場合は,認知的 不調和が生じたときであり,またこの認知的不調和 は,大きすぎても小さすぎても動機付けになりにく いことが分かっている。生徒が「がんばればできそ う」と思う程度の不調和が望ましいとされている。 また,それが認知的葛藤を起こさせるものであれば, より生徒にとって学習後の成長が期待できる。 (2) 問題解決の方略を,生徒自ら考えさせ,グル ープで話し合い,最終決定させる 中野栗夫(昭和33年)は,「生徒実験は Cook-book Type におちいっているのではあるまいか?」9)と述 べ,一般的に見られる実験書を「科学的に思考する 余地は少しもない。」10)と批判しており,問題解決の 方略を考えさせ,自分の考えた方略で解決させるこ とが,科学的な思考力を育成する上で重要であるこ とを述べている。Shawn ら(1991)も,Cook-book Type のような実験では「児童・生徒の身体的欲求を満足 させ,記憶の潜在的能力を高めるとともに,成功の 可能性を開発する活動ではあるが,論理的思考力や 創造性の育成にはつながらないものである。」11)と科 学的な思考にはつながらないものとしている。した がって,従来の一般的な実験書と異なり,科学的探 究活動では問題解決の方略を生徒自ら考えさせるこ とが大切である。 そこで,本研究では,近年重視されている少人数 でのグループ学習を活用し,生徒の話し合いによる 活動を重視した。 まず生徒自身が考え,それをグループで話し合う ことによって自らの思考を練る。グループでの話し 合いが生徒の思考力を発達させることが分かってい る。話し合いの場では,生徒は自分の考えを相手に 説得するため,これを論理にまとめようとする。そ の論理は,自分なりの論理ではなく,相手も納得で きるような論理でなければならない。一方,相手の 意見を自分の思考の中に取り入れるためにも,これ を自分なりの論理で解釈してしまうのでなく,公共 的な論理で理解することを余儀なくされる。その過 程で思考が発達するのである。 次に,そのような話し合いだけで自らの考えを振 り返り再構築するだけでなく,更にメタ認知を働か せることによって,より思考力を育成できると考え た。そこで,生徒自身が自らの考えを振り返り,メ タ認知を働かせる場面を取り入れるために,ワーク シートを工夫した。ワークシートには最初の自分の 考え,グループで話し合った考え等,思考の変遷が 分かるようにした。 さらに,生徒だけの話し合いでは科学的根拠や記 述が曖昧な場合がある。そこで,生徒が記入したワ ークシートに対して,指導者がコメントを書いて返 却することとした。指導者がコメントを書く視点は 以下の三つである。 ‑ 28 ‑ ア イ ウ 論理的根拠があるか 問題解決への見通しがあるか 安全や環境への配慮がなされているか このうち,イについては,生徒の実態や授業の目 標によって,どこまでコメントするかが変わってく る。いくら生徒に考えさせても,正しい(と思われ る)方法を教師が与えてしまっては,生徒にとって Cook-book Type の実験を行うのと同じである。あく までもコメントする教師は,正しい方法をコメント するのではなく,ワークシートに記述された生徒の 考えを読み取り,その考えが生きるようにコメント するよう留意しなければならない。さらに,失敗回 避傾向の強い生徒には,ある程度成功に導くような コメントをするなどの配慮が必要である。 また,探究の過程を生徒に主体的にたどらせるた めには,生徒に自己責任性を持たせることが必要で ある。このことについて下山剛(1985)は,自分自身 の力で主体的に課題に取り組み,それを解決したい という傾向を含んだ概念,言い換えれば自己責任性 を育てる上で「自主的に考えたやり方,計画,目標 が認められ,生かされる指導や環境が与えられるこ とが望ましい。」12)と述べている。そのため,自らで 考えた方略で科学的探究活動を行わせることを生徒 に周知し,最終決定させる。 (3) 検証の場面で,生徒が適切な観察,実験を行 えるようにする いくら問題解決の方略を考えても,科学において は,事実として検証されなければならない。考えた ことを検証して初めて問題解決になる。そのために は,生徒が身に付けている観察,実験の技能を駆使 して検証する場面が必要である。 ところが,従来の実験書では与えられたマニュア ルに従って生徒は考えずに操作をすることが多かっ た。このことは,各種調査で指摘され,その改善の 方針として教育課程審議会答申(平成10年)「理科の 改善の基本方針」においても「目的意識をもった観 察,実験を行う」ことが明示されている。 そこで,検証の場面ではまず目的意識をもった観 察,実験操作を行わせること,すなわち,今行って いる操作は,何のために行っているのか,探究の過 程においてどのような意味をもっているのかを生徒 が十分把握しながら実験操作を行わせるということ である。 また,観察,実験の際は,正しい実験操作や,目 的に合致した適切な器具を使用できるように指導す る必要がある。さらに,環境や安全に対する配慮が なされた操作でなければならない。 以上の指導は主に机間指導によって行う。 (4) ワークシートを生徒の思考が明確に表現でき るように工夫し,適宜,形成的評価を行う 上記(1)〜(3)の指導を効果的に行うためにも,ワ ークシートを工夫する必要がある。 ア ワークシートの工夫 本研究では以下の三つの工夫を取り入れたワー クシートを作成した。 ア 目的,実験方法などを生徒自身が考え,話し合 って記入する イ 自己評価を導入する ウ 自らの考えを,essay type で記述する(教師は A,B,C の段階だけでなく,コメントを書いて返 却し,生徒が自らの考えを修正し,次の活動に生 かせるようにする。) イについては,生徒のメタ認知をより働かせるこ とを意図し,生徒自身の思考が明確に表現できるよ うに essay type とした。 ワークシートの基本スタイルは以下のとおりで ある。 タイトル【 】 1 目的 2 解決の方略1(自分で考える) 3 解決の方略2(グループで話し合って考える) その根拠 4 実験計画 (1) 準備物 (2) 手順 (3) 実験結果の予想と根拠 5 実験 (1) 実験中の気付き (2) 実験結果 3 実験結果からの考察 4 問題は解決できたか,改善点はないか イの自己評価については,科学的探究活動のねら いに即して以下の10項目について行う。なお,1〜 9については四段階評定尺度法で,10については自 由記述法で行う。また,各項目は,科学的探究活動 の各時間の最後に行えるように,ワークシート中に 取り入れる。 1 探究活動を行うときに,その目的をよく理解してから 活動に入った。 2 探究活動を行うときに問題を解決する方法を考えた。 3 班で話し合うことによって,自分の考えを確認したり 修正したりすることができた。 4 実験結果を予想した。 5 実験結果を予想するときに,その理由も考えた。 6 実験操作を行っているときに,何のためにこの操作を 行っているのかが分かっていた。 7 実験結果を基に十分考察をした。 8 発表会で,自分の考察を確認したり修正したりするこ とができた。 9 探究活動に積極的に取り組んだ。 10 感想・反省 イ 形成的評価 科学的な思考力の評価は,Ⅱ−2で述べたとおり, 一連の科学的探究活動において,探究の過程の各段 ‑ 29 ‑ 階が十分踏まえられたかどうかを評価することが妥 当であると考える。 そのためには,探究の過程の各段階において,適 宜,形成的評価を導入することが必要である。この 形成的評価について Bloom ら(1971)は,「形成的評 価は,カリキュラム作成,教授,学習の三つの過程 の,あらゆる改善のために用いられる組織的な評価 であるというのが我々の立場なのである。」13)として いる。科学的な思考力を育成するためには,探究の 過程の各段階において,この Bloom らの考え方に基 づいた形成的評価を導入し,その評価が次の段階に 生きるようにすることが必要である。 以上のことから,探究の過程の各段階において, 以下の項目で形成的評価を行う。 1 問題の把握ができたか。 2 情報を収集し,仮説を設定することができたか。 (1) 問題解決の方略を立案できたか。 (2) 観察,実験結果の根拠ある予想ができたか。 3 目的意識をもった正しい観察,実験操作ができ たか。 4 観察,実験結果を基にした考察ができたか。 1 Ⅲ 実践授業と分析 これまで述べてきた基本的な考え方を基に高等 学校理科において授業実践を行った。授業実践を行 った科目,単元及び科学的探究活動のテーマは以下 のとおりである。 「化学Ⅱ」:医薬品 3種の胃薬の成分分析に よる同定 「生物Ⅱ」:嫌気呼吸 3種の微生物の特定 「物理Ⅱ」:電気と磁気 コンデンサーの電気容量 次に,これらの実践授業と分析について述べる。 「化学Ⅱ」の実践授業と分析 (1) 単元の指導計画 ○ ○ 単元 「医薬品」 単元の目標 医薬品について,市販医薬品の成分分析を通して探究し,その性質や利用について理解させ,科学の成果が 日常生活に役立っていることを認識させる。 ○ 単元の評価規準 関心・意欲・態度 医薬品について,関心をも ち,意欲的に探究しようとす るとともに,科学的態度を身 に付けている。 ○ 次 観察・実験の技能・表現 胃薬のパッケージを作成す るとともに,胃薬について, その成分を分析するための 技能を習得するとともに実 験の結果及びそこから導き 出した自らの考えで報告書 を作成し,発表する。 知識・理解 市販医薬品の成分及び医薬 品の歴史と分類及び薬剤や 製剤方法について理解し,知 識を身に付けている。 指導と評価の計画(12時間) 時 1 1 思考・判断 胃薬の成分分析について,既 習事項を基に実験を計画・実 施し,得られた結果などに基 づいて,含まれている成分を 考察し,科学的に判断する。 2 ・ 3 4 ・ 5 1 2 2 価 評価規準(方法) 市販医薬品とそのパッケージを観察す ・医薬品について,関心をもっている。(行動観察・ワークシー ○ る。 ト) 胃薬の成分を調べる。 ・情報収集の技術を習得しており,その情報をまとめ記録して いる。(ワークシート) ○ ○ ・胃薬の成分について理解し,知識を身に付けている。(ワー クシート) 胃薬のパッケージの作成 ・胃薬の成分について,関心をもち意欲的に活動する。(行動 ○ ○ 観察) ・既習事項を基に,胃薬のパッケージを作成する。(作品) 【科学的探究活動】 ・医薬品について,関心をもち意欲的に探究しようとするととも 〈3種の胃薬の成分分析をして同定しよう〉 に,科学的態度を身に付けている。(行動観察) ○ ○ 3種の胃薬の成分分析の方法をグループ ・胃薬の成分分析について,既習事項を基に実験を計画す で話し合って考える。 る。(ワークシート) 実験計画の決定との実験の実施 ・胃薬の成分分析の実験計画を決定する。(ワークシート) ・計画に基づいた実験の技能を習得している。(行動観察) ○ ○ 学習内容 評 関 思 技 知 ‑ 30 ‑ 3 実験の考察と中間発表 再実験 4 活動の発表・まとめ 2 5 報告書の作成 6 医薬品の歴史と分類 3 1 ・自ら行った実験の方法,結果を考察し,討議や発表を通し て自分の考えを確認・修正する。(ワークシート) ・胃薬の成分分析について自分たちの班に必要な実験計画 ○ ○ を決定する。(ワークシート) ・計画に基づいた実験の技能を習得している。(行動観察) ・得られた結果に基づいて,胃薬に含まれている成分を考察 し,3種の胃薬を科学的に判断する。(ワークシート) ○ ○ ・結果から導き出された自らの考えを的確に表現する。(行動 観察) ・実験などで得られた過程や結果を図や表などで表現する技 ○ ○ 術を習得するとともに,その過程や結果から導き出された自ら の考えを的確に表現する。(報告書) ・医薬品について,関心をもっている。(行動観察・ワークシー ト) ○ ○ ・医薬品の歴史と分類について理解し,知識を身に付けてい る。(ワークシート) ※太線で囲まれた部分が科学的探究活動。 ○ ○ この単元では,生徒が日常生活でよく見かける医 薬品である胃薬から導入を図り,パッケージ作成な どを通して生徒の興味・関心を喚起する。また,一 般に市販されている胃薬の成分と薬効について理解 させる。そして,3種の市販胃薬を用意し,どれが どの胃薬かを分からないようにし,成分分析により 同定するという科学的探究活動を行わせることとし た。 昨年度の研究では,科学的探究活動の第1時に市 販医薬品の成分分析のために必要な情報を得るため の実験を行い,それを基に解決方略を考えさせた。 ところが,この第1時に行った実験が解決方略のヒ ントとなり,既有の知識等を総動員して解決方略を 考えるような活動になりにくかった。そこで,今年 度はまず自分の力で考えさせ,それを行わせ,その 結果及び解決方略をクラスで共有し,更によりよい 解決方略を考えさせることとした。探究の過程を2 サイクル行う科学的探究活動である。なお,そのた め,昨年度は科学的探究活動に3時間を配当したが, 本年度は6時間を年間授業計画に配当しておいた。 また,本年度の第3次の授業は,昨年度は第1次 で行っていた。昨年度は,この内容を最初に行うと 生徒は受け身になりがちであったため,科学的探究 活動等を通して医薬品に対する興味・関心や理解等 を深めたのちに医薬品の歴史と分類を学習する方が 望ましいと考えた。 科学的探究活動の内容は,胃薬A〜Cをグループ で計画,実施した実験によって,成分分析を行い同 定するというものである。胃薬A〜Cは,粉末①〜 ③として,どの粉末がどの胃薬かを分からなくして ある。胃薬A〜Cは以下のとおりである。 ○胃薬A(総合胃腸薬) 成分:制酸剤《炭酸塩》,消化酵素 ○胃薬B(総合胃腸薬) 成分:制酸剤《非炭酸塩》,有胞子乳酸菌,消化 酵素 ○胃薬C(胃酸分泌抑制剤) 成分:H2ブロッカー《ファモチジン》 (2) ワークシート ○ ワークシート1(第1時) 化学Ⅱ 「医薬品」 科学的探究活動 3種類の粉末①〜③がある。これらは胃薬A〜Cのどれ かである。どの粉末がどの胃薬だろうか。 【目的】 【活動の流れ】 1 まず,下の「胃薬の成分」を見て,その胃薬の特徴 をとらえる。 2 胃薬を同定する実験方法を考える。自分→グループ 3 安全性,確実性などを確認する。(教師に相談) 4 実験実施 5 実験結果より,3種類の粉末を同定する。 【胃薬の成分】 胃薬A:ケイヒ,ウイキョウ,ニクズク,チョウジ,炭 酸水素ナトリウム,沈降炭酸カルシウム,ケイ 酸マグネシウム,ビオヂアスターゼ, 胃薬B:ケイヒ,ウイキョウ,オウバク,チョウジ,シ ョウキョウ,カンゾウ,アカメガシワエキス, 有胞子性乳酸菌,水酸化マグネシウム,合成ヒ ドロタルサイト,ケイ酸アルミン酸マグネシウ ム,タカヂアスターゼ N1,リパーゼ AP12 胃薬C:ファモチジン ワークシート1では,まず課題を問いかけの形で 記述し,生徒に科学的探究活動の目的を記述させる。 このことにより,生徒により明確に問題を把握させ る。また,指導の際には,この問題が既習事項で解 決できることを押さえる。次に1〜5で,科学的探 究活動の流れ及び注意事項を示す。さらに,第1次 第2・3時で行った代表的な胃薬の成分を示し,生 徒に再確認させるとともに,課題を解決するための 情報を正しく提示した。 ‑ 31 ‑ ○ ワークシート2(第1時) 【胃薬の特徴】 胃薬の特徴(特徴的成分) A B C 【実験計画】(途中で変更した場合も消さずに残しておくこと) 1.準備物 試験管( 本),試験管立て, また,ここまでの活動が探究の過程の1サイクル であるから,それを振り返らせて自己評価を行う。 なお,自己評価項目についてはⅡ−4(4)アで示し た項目のうちの該当部分である。(以下同じ) ○ ワークシート5(第3時) 【中間発表用原稿】 1.実験操作のまとめ 2.実験方法案 操作 2.その実験の原理(その方法はどのような反応,性質を 利用したものか) その方法が胃薬を同定できる根拠(理由) 結果の予想 3.結果の予想 ワークシート2では,胃薬の成分から,特徴的成 分を整理させることにより,生徒に解決に必要な情 報を確認させる。実験計画を立てさせる際には, 「途 中で変更した場合も消さずに残しておくこと」とい う指示によって,生徒自身に自ら考えた方略の変遷 が分かるようにしている。 また,解決方略を考えさせる際の指導では,結果 が重要ではなく,自らが考えて検証することが重要 であることを押さえる。 ○ ワークシート3(第2時) 【実験の実施】 実験メモ(操作) 気付き 4.実験結果とその考察 結果 考察 胃薬A( ),胃薬B( ),胃薬C( 【実験方法の信頼性,実験方法の改善点】 ) ワークシート5では,発表によりクラスで共有す るために,自ら行った活動を振り返り,整理する。 ○ ワークシート6(第3時) 【中間発表】 各班の発表から分かったことを記入しよう 1班:実験方法( ) ワークシート3では,1枚を使って実験操作のメ モや実験中の気付きを記入する。 ○ ワークシート4(第2時) 2班:実験方法( ) 3班:実験方法( ) 4班:実験方法( ) 【実験結果】 【実験結果の考察】 感想・気付き・次回の再実験の予定 胃薬A( 自己評価 −略− ),胃薬B( ),胃薬C( ) このワークシートでは,実験結果を正確に記録さ せ,その事実に基づいて考察したこと,結論を書か せる。予想と違った場合には,その原因を考えさせ る。 自己評価 −略− このワークシートは,クラスで発表し共有するた めのものである。そして2サイクル目の問題意識を ‑ 32 ‑ 明確にさせるため,各班の発表を基に自分たちの方 略について考えさせる。 ○ ワークシート7(第4時) ○ ワークシート2の記述 【再実験の実施】 操作 その方法で胃薬を同定できる根拠 結果の予想 実験メモ(操作) 気付き ワークシート7は,探究の過程の2サイクル目で 解決の方略を考えさせ,実施するためのものである。 自分たちの行った1サイクル目の方略と,クラス発 表によって共有された方略や考え方が統合されるこ とが期待できる。 ○ ワークシート8(第4時) 【実験結果まとめ】 【実験方法の考察・検証】 ここでは,最初に考えた段階で,デンプン消化酵 素の存在に気付き,デンプンが分解されてできた糖 の検出方法として,ベネジクト液の使用を計画して いる。塩酸を入れると泡が出るのではないか,フェ ノールフタレイン溶液を加えると塩基性が分かるの ではないかと考えているが,何のために行うのか, なぜ加えるのか根拠がない。実験方法もイメージに 過ぎないことが分かる。この段階では,この生徒は 3種の胃薬を同定できないことが分かる。 また,教師は,この生徒がフェーリング溶液につ いての学習が不十分で,フェーリング溶液で糖を同 定できると考えていたことを机間指導で確認し,フ ェーリング溶液で代用できるかどうか考えさせよう とコメントしている。 ○ ワークシート3の記述 自己評価 −略− ワークシート8では,最終的に決定した方法での 実験結果を正確に記録させ,考察させる。そして, 活動を振り返らせ,自ら考えた解決方略(実験方法) について考察・検証させ,自己評価させる。 さらに,このワークシートを用いて第5時ではク ラス発表を行う。 (3) 授業実践及び分析 本科学的探究活動が,生徒の科学的な思考力を育 成するために有効であったかどうかを確かめるため 生徒のワークシート記述,生徒の自己評価,教師に よる形成的評価及び生徒・教師へのインタビューの 分析を行った。 ア 生徒のワークシート記述 ここでは,まず一人の生徒のワークシート記述の 変容について,その一部を紹介しながら述べる。 ‑ 33 ‑ 教師のコメントや,グループでの話し合いによっ て方法を決定し,実験した際のワークシートである。 デンプン消化酵素を調べるための温度の重要性に 気付いている。また,ワークシート2の段階では分 からなかった,塩酸を使用する根拠も分かるように なっており,発生する二酸化炭素の確認まで行って いる。 また,ワークシート2で書いた教師のコメントに より,フェーリング溶液について調べ,フェーリン グ溶液は,還元剤の存在は確認できるが糖は確認で きないことに気付いている。 ○ ワークシート6の記述 これは,クラス発表により,共有化させた場面の ワークシートである。他の班(4班)がフェーリン グ溶液ではなくヨウ素液を用いた実験を行った発表 を聞いてメモしている。また,そのことから,自ら の思考過程を振り返り,フェーリング溶液を用いる ということは「還元について考える」必要があるこ とに気付き,消化酵素の入っている胃薬を同定する 方法について再考しようとしていることが分かる。 また,他の班の方法から, 「対照実験」の必要性に気 付いていることが分かる。このことは,クラス発表 によって,自らの考えを確認・修正する必要性に気 付いたことを示している。 教師も,これらの気付きに対して「この授業で大 事なことに気づきましたね。」と肯定的に評価してい る。 ○ワークシート7の記述 これは再実験の際のワークシートである。 フェーリング溶液ではなくヨウ素液を用いて,デン プン消化酵素によって未反応のデンプンの存在を確 かめようとしていることが分かる。また,対照実験 を取り入れた方法に変わっており,より正確に同定 する方略を考え,実施していることが分かる。 教師は「手順や試料の量など詳しく記述するとも っとよい」と,記述の仕方をコメントしている。 ○ ワークシート8の記述 この実験結果とまとめは,ワークシート1と比べ て,科学的に正確な記述になり,根拠を基に考察し, それらを総合して結論を導いていることが分かる。 それに対して教師も「総合的判断できている」と評 価している。 また,フェーリング液では同定することが難しい ことを記述しており,教師はこの気付きを肯定的に 評価している。 最初は解決方略を考えることができなかったこの 生徒は,科学的探究活動を行いながら,グループで の話し合いや教師のコメントにより自らの考えを確 認・修正し,最終的には解決方略を考えることがで き,問題を解決していることが分かる。このことは, 解決方略を考えるためにグループでの話し合いや教 師のコメントが有効であったことを示している。ま た,目的意識をもった実験を行っていることも分か る。このことは,特に,根拠をもって結果を予想で きた実験操作に関して顕著であり,実験メモや気付 きに現れていた。 以上,一人の生徒の例を紹介したが,すべての生 徒のワークシート記述が望ましい状態に変容してお り,本研究で行った指導と評価の工夫が生徒の科学 的思考力を育成するのに有効であったといえる。 イ 生徒の自己評価 Ⅱ−4(4)アで述べた自己評価項目を基に,生徒 に四段階評定尺度法により自己評価させた。その結 果を以下に示す。なお,表中の「1回目」は第2時 終了時の自己評価, 「事後」は,第4時終了時の自己 ‑ 34 ‑ 評価であり,6名それぞれの生徒が1回目と2回目 で自己評価した番号を記載している。 4:あてはまる 3:どちらかといえばあてはまる 2:どちらかといえばあてはまらない 1:あてはまらない 1 この活動の意味をよく理解できていた。 1回目 4 3 3 3 3 3 事 後 4 3 4 3 4 3 2 実験の方法についてよく考えた。 1回目 4 3 4 2 2 3 事 後 4 3 3 3 4 4 3 実験の結果を予想して実験した。 1回目 4 2 3 3 3 3 事 後 4 4 4 3 3 4 4 実験操作の意味を理解して実験した。 1回目 4 3 3 3 2 3 事 後 4 3 3 3 3 4 5 操作,結果,考察についてまとめることができた。 1回目 3 2 3 4 3 3 事 後 4 4 3 4 3 3 6 実験結果について信頼性や改善点を考えることができた。 1回目 4 2 3 4 4 4 事 後 4 3 3 2 3 3 自己評価項目1〜5について,1回目と事後とを 比較すると,1例を除いて,1回目と事後とが同じ もしくは向上していることが分かる。この1例の生 徒に事後で理由を尋ねたところ,「『2 実験の方法 についてよく考えた』については,最初の段階で十 分正しく考えることができていたので,自己評価が 少し低下したと感じた。」と述べた。 一方,質問項目6については,探究活動終了後は 改善点を更に考える場がなかったため,この自己評 価項目では低下する生徒が見られた。このことは, 本科学的探究活動においてこの質問項目が事後では 適さないと考えられる。 また,中間発表を行った第3時終了時の自己評価 結果を以下に示す。 4:あてはまる 3:どちらかといえばあてはまる 2:どちらかといえばあてはまらない 1:あてはまらない 1 前回行った実験についてまとめることができた。 4 3 3 4 3 3 2 班内の議論で自分の考えを発表し,他人の意見を聞くことがで きた。 4 3 3 2 2 3 3 班内の議論により,自分の考えを確認・修正できた。 4 2 3 3 3 3 4 各班の発表により,自分の考えを発展できた。 4 3 3 3 2 3 5 次回の再実験では,よりよい実験ができそうだ。 3 2 3 4 3 3 これは探究の過程が1サイクル終了し,その結果 をクラスで共有した後の自己評価である。まず,全 員が1サイクル目についてまとめることができたと 肯定的に自己評価している。2名の生徒が「班内の 議論で自分の考えを発表し,他人の意見を聞くこと ができた。」に対して否定的な自己評価を行っている が,「自分の考えを確認・修正できた。」ことに関し ては肯定的な自己評価をしている。このことから, グループにおける話し合いは,ほぼ成立しており, それが自らの考えを確認・修正するのに有効であっ たといえる。また,クラス発表や次回の実験に対す る期待感についても,ほとんどの生徒が肯定的に自 己評価している。 以上のことから,問題把握から結論にいたる探究 の過程の各段階が,より確実に踏まえられるように なったと生徒は自己評価しているといえる。 ウ 教師による形成的評価 Ⅱ−3(4)イで述べた評価項目に従って,教師が 形成的評価を行った。その結果及び判断基準を以下 に示す。 A:十分満足できる B:おおむね満足できる C:努力を要する 1 問題の把握ができたか。 B B B B A B A:問題を十分に把握し,さらに新たな問題を見いだして いる。 B:問題を把握できている。 C:問題の把握ができていない。 2 問題解決の方略を立案できたか。(最初の段階) B C C B A B A:問題解決の方略を立案し,実験の細かい留意点まで立 案できている。 B:問題解決の方略を立案できている。 C:問題解決の方略を立案できていない。 3 観察,実験結果の根拠ある予想ができたか。 A C C B B B A:実験結果を,根拠をもって正しく予想できている。 B:実験結果を,根拠をもって予想できている。 C:実験結果を根拠をもって予想できていない。 4 目的意識をもった正しい観察,実験操作ができたか。 A B B B A B A:目的意識をもった正しい観察,実験操作ができており, その際にも,より目的に合致した工夫をしている。 B:目的意識をもった正しい観察,実験操作ができている。 C:目的意識をもった正しい観察,実験操作ができていな い。 5 観察,実験結果を基にした考察ができたか。 A B B B A B A:観察,実験結果を基にした考察ができており,さらに 新たな気付きについて正しく考察している。 B:観察,実験結果を基にした考察ができている。 C:観察,実験結果を基にした考察ができていない。 自分が考える最初の段階で問題解決の方略を立 案できなかった生徒も,グループでの話し合いや中 間発表など,科学的探究活動が進むにつれて,解決 方略について考えることができるようになり,目的 意識をもった正しい観察,実験操作を行い,その結 果を基に考察ができるようになった。すなわち,本 科学的探究活動において,生徒は探究の過程を十分 踏まえ,問題を解決できるようになったといえる。 エ 生徒・教師へのインタビュー 授業後に,生徒及び教師に対してインタビューを 行った。 ○ 生徒へのインタビュー 肯定的な感想を述べたものを以下に示す。 ‑ 35 ‑ 1 薬品だけ与えられ,自分だけで特定方法を見い出すと いうのが今までの総復習だけでなく,確認にもつながる ため良かったと思う。 2 一つの方法だけでなく,いくつかの方法を成分から考 えるのが楽しかったです。 3 1 人で考えてもわからないことも,3人集まればアイ デアが出るもので,協力し合えばいい結果と方法が生み 出されていた。 4 班で考え,実験し,まとめることにより,私や仲間で考 える力がついた。 5 自分たちで実験道具を考え,失敗をしながら実験をす ることで,自分の考えを言ったり,相手の考えを聞いた りするなどいい経験ができた。 6 全員で協力し,更に楽しかった。 7 楽しかった。もう少し意見を活発に出し合えたらよか った。他の班は違う方法ですごいと思った。 8 胃薬にもいろんな物質が含有しており,使う機会があ ればこの実験をしたことや,成分をよく注意して見た い。 9 先生にヒントを教えてもらいながら,自分の答えを導 き出すことができた。 ○ このうち,1,2,5は,科学的探究活動の意義 や楽しさを感じたものである。3〜6は,グループ による協働的学習の意義や楽しさを感じたものであ る。7はクラス発表の意義を感じたもの,8は学習 したことと日常生活の関連を感じたもの,9は指導 の工夫によって学習が成立できたと感じたものであ る。以上のことから,今回の授業実践は,生徒にと っておおむね好評であったといえる。 次に,肯定的でない感想を以下に示す。 10 いろいろな実験を行ったが,なかなか予想した結果に ならなかった。 11 まとめや発表をうまく行うことができなかった。 これらについて,このような生徒には,より成功 に導くようなコメントをする必要があるといえる。 2 教師へのインタビュー 1 グループ討議で,生徒は非常に活発に意見を出し合っ ていた。その理由の一つとして,この科学的探究活動に 向けて今年度は,最初から他人と話し合って考える,グ ループで話し合って考える場を意識的に多く設定して きたことが考えられる。 2 まとめや発表を,まだうまく行うことができなかった 生徒がいたので,まとめ方,発表の仕方を指導する必要 がある。 3 Cook‑book Type の実験よりもより生徒は興味をもっ て真剣に実験操作を行っていた。やはり自らが考えた方 法で実験するということが,生徒を主体的に活動させる ために,いかに有効であるかが分かった。これからも, 少しでも生徒が考えた方法で活動する場面をつくり出 すかを考えて実験をさせたい。 4 コメントを書く際には,生徒の性格的傾向も普段から つかんでおかなければよりよいアドバイスができない。 1ではグループでの話し合いが成立する条件につ いて言及している。2,4では指導の際の個に応じ た視点の必要性,3では実験指導の在り方に言及し ている。例えば,従来の Cook-Book Type でも,実験 方法は与えておいて準備物を考えさせたり,実験概 要は与えておいて具体的手順を考えさせたりするこ とが考えられる。 「生物Ⅱ」の実践授業と分析 (1) 単元の指導計画 ○ 単元 「嫌気呼吸」 ○ 単元の目標 嫌気呼吸に関する事象に興味・関心や探究心をもたせ,微生物を用いた実験を通して探究し,嫌気呼吸 についての基本的な考え方を理解させる。 ○ 単元の評価規準 関心・意欲・態度 嫌気呼吸に関する事象に関心 や探究心をもち,意欲的にそ れらを探究しようとするとと もに,科学的態度を身に付け ている。 ○ 思考・判断 嫌気呼吸について,既習事項 を基に実験を計画・実施し, 得られた結果などに基づいて 嫌気呼吸を行った微生物を特 定し,科学的に判断する。 観察・実験の技能・表現 知識・理解 嫌気呼吸について,微生物を 実験を通して,嫌気呼吸につ 用いた実験の技能を習得する いての基本的な考え方を理解 とともに,嫌気呼吸に関する し,知識を身に付けている。 事象を科学的に探究する方法 を身に付け,実験の過程や結 果及びそこから導き出した自 らの考えを発表する。 指導と評価の計画(5時間) 次 時 1 1 1 2 2 学習内容 ・アルコール発酵 ・乳酸発酵 評 価 評価規準(方法) ・アルコール発酵及び乳酸発酵に関心をもっている。(行動 ○ 観察) ・嫌気呼吸について理解し,知識を身に付けている。(ノート) ・嫌気呼吸について,関心をもち意欲的に探究しようとすると ともに,科学的態度を身に付けている。(行動観察) ・嫌気呼吸について,既習事項を基に実験を計画する。(ワ ークシート) 関 思 技 知 ○ 【科学的探究活動】 〈3種類の試料に含まれる微生物を特定 ○ ○ しよう〉 3種類の微生物を特定するための実験方 法をグループで話し合って考える。 グループで話し合った方法による実験を ○ ○ 行う。 結果の発表を行う。 3 ○ ○ ‑ 36 ‑ ・微生物実験の技能を習得している。(行動観察) ・実験の結果に基づいて科学的に判断し,微生物を特定して いる。(ワークシート) ・実験の結果に基づいた発表をする。(行動観察) ・実験の結果に基づいて嫌気呼吸について考察し,科学的 に判断する。(ワークシート) 3 1 ・解糖 ・単元のまとめ ○ ○ この単元では,最初にアルコール発酵と乳酸発酵 について学習する。その後,3種類の微生物(酵母 菌,乳酸菌,納豆菌)の懸濁液がそれぞれ入った試 験管A〜Cを生徒に提示する。ただし,試験管A〜 Cには,それぞれ食紅を加えて同じ色にし,中に入 っている微生物が何であるか分からなくしてある。 生徒は,既習事項を基に実験計画を立てて実験する ことを通して,それぞれの試験管に入っている微生 物が何であるかを特定していく。この探究活動を通 して,嫌気呼吸について理解を深めさせ,科学的な 思考力を育成することをねらった。 今回の探究活動では,既習のアルコール発酵をす る酵母菌と,乳酸発酵をする乳酸菌に加えて,身近 な発酵食品である納豆に含まれている納豆菌を合わ せた3種類の実験材料を用意し,生徒にグループで 同定させた点がポイントである。 (2) ワークシート ○ ワークシート1(第1時) テーマ【 】 ※3種類の微生物(酵母菌,乳酸菌,納豆菌)の懸濁 液が,3本の試験管A〜Cにそれぞれ別々に入って いる。 ※試験管A〜Cには,それぞれに食紅を加えて中味を 分からなくしてある。 1時間目 実験計画の作成 2時間目 実験の実施 3時間目 発表会とまとめ 目的 ・解糖について,関心をもっている。(行動観察) ・呼吸について理解し,知識を身に付けている。(ノート) ※太線で囲まれた部分が科学的探究活動。 の微生物を同定するための方法を,個人で考えつく だけ書かせる欄を設けた。次に,グループで話し合 った後に,実験の概略図や結果の予想の欄を書き, 教師がコメントを書いて返却する。 ○ ワークシート2(第1時) 準備物 実験の手順 1 2 3 4 5 実験の概略図 実験結果の予想 実験結果を予想した理由 ワークシート2では,生徒は,教師のコメントの 入ったワークシート1を見ながらメタ認知を働かせ 最終的な実験方法をグループで話し合い決定する。 ○ ワークシート3(第2・3時) <参考>使用できるもの 実験中の気付き グルコース水溶液,ショ糖水溶液,乳糖水溶液,牛乳,水酸化 ナトリウム水溶液,ビーカー,試験管,キューネ発酵管,綿, ピペット,インキュベーター,温度計,ガス検知器(二酸化 炭素用,エタノール用) 実験結果 試験管に懸濁している微生物を特定する方法を考えつく だけ書きなさい。 実験結果の考察 ◎それぞれが考えた方法についてグループで話し合い, 一つの方法を決め,実験計画を立てなさい。 微生物を特定する方法 試験管A( )試験管B( )試験管C( ) 自分たちのグループが行った方法で微生物の特定ができ たか。さらに改善するところはないか。 なぜ,微生物を特定する方法を上述のものに決めたので すか。その理由を簡潔に書きなさい。 この実験の感想・反省 ワークシート1は,実験計画段階のものである。 まず与えられた試薬や実験器具等を用いて,3種類 ‑ 37 ‑ 自己評価 −略− このワークシートは実験段階及びクラス発表段 階のものである。まず,実験中の気付きを書き,実 験結果を書く。次に実験結果を基に考察し,試験管 A〜Cに入っていた微生物を特定する。ここで,実 験結果と考察の欄を分けてあるのは,結果(事実) と考察(考えたこと)を明確に分けさせることをね らった。そして,科学的探究活動全体を振り返らせ, さらに改善するところはないか考えさせるようにし ている。 最後に,全体を振り返らせ,自己評価を行うよう にしている。 (3)授業実践及び分析 ア 生徒のワークシート記述例 ○ ワークシート1の記述 ○ ワークシート3の記述 このワークシートでは,実験中の気付きや,実験 後の改善などの記述から,生徒が実験結果に基づき 科学的に考察し,判断しているようすが分かる。 イ 生徒の自己評価 Ⅱ−3(4)アで述べた自己評価項目を基に,生徒 に四段階評定尺度法により自己評価させた。その結 果を図2に示す。事前の評価項目は以下のとおりで ある。 このワークシートで,まず個人で考えた微生物を 特定する方法の欄には,36℃でグルコースを基質と して加えることや,牛乳を基質として加えることを 記述している。このことから,この生徒は既習事項 を基に解決する方法を考えていることが分かる。 また,グループで話し合った後の欄には,より具 体的な記述が見られる。自分の案やグループの他の メンバーの案を基に話し合うことにより,自らの考 えを確認・修正しながら,問題解決の方略をより具 体的に考えていることが分かる。 さらに,その記述に教師がコメントを書き込むこ とにより,評価ならびに実験に関するアドバイスを 行うことができた。 1 探究活動を行うときは,その目的をよく理解してから活動に 入っている。 2 探究活動を行うときは,問題を解決する方法を考えている。 3 実験を行うときは,結果を予想している。 4 実験結果を予想するときは,その理由も考えている。 5 実験の操作を行っているとき,何のためにこの操作を行って いるのかが分かっている。 6 実験の結果を基に十分に考察をしている。 事後の評価項目は,事前の評価項目文を過去形に したものである。 図2から,いずれの自己評価項目においても, 「あ てはまる」 「どちらかといえばあてはまる」の肯定的 な評価が増えていることが分かる。特に2の解決方 略を考える項目と5の目的意識をもった観察,実験 操作の項目において「あてはまる」と自己評価した 生徒の伸びが大きい。 以上のことから,生徒は探究の過程を十分に踏ま えて科学的探究活動を行ったと自己評価していると いえる。 ‑ 38 ‑ 0% 20% 40% 60% 80% 略を考えることができ,実験結果を根拠をもって考 えることができるようになっている。 以上のことから,教師による形成的評価によって も,本科学的探究活動において,生徒は探究の過程 を十分に踏まえて問題解決できるようになったとい える。 エ 生徒・教師へのインタビュー ○ 生徒へのインタビュー 100% 1 事前 事後 2 事前 事後 3 事前 1 計画を立てるところから自分たちで行ったので,今ま での実験より理解が深まった。 2 話し合いながら調べたりしているうちに,自然と自分 も分かるようになった。結果が予想通りだったときは嬉 しかった。 3 自分たちで考えて実験したので,いつもよりも実験の 目的,考察,内容,結果を理解することができた。 4 自分たちで実験方法を考えるのは難しいけど,それで ちゃんと結果が出るとうれしかった。 5 実験で一番大事なのは,実験を始める前の理解だと思 った。 6 予想したりするのが楽しかった。 7 実験方法を全て自分達で調べて行ったので,実験の意 義等についてよく考えることが出来たので良かったと 思う。 事後 4 事前 事後 5 事前 事後 6 事前 事後 あてはまる どちらかといえばあてはまらない 図2 どちらかといえばあてはまる あてはまらない 生徒の自己評価結果(25名) ウ 教師による形成的評価 Ⅱ−4(4)アで述べた評価項目に従って,教師が 形成的評価を行った。その結果を図3に示す。判断 基準はⅢ−1(3)ウで述べた化学の実践授業の分析 の場合と同じである。 0% 20% 40% 60% 80% 100% 1 問題の把握 2 解決方略の立案 3 実験結果の根拠ある予想 4 目的意識をもった正しい観察,実験操 作 生物の実験は,与えられた方法に従って行い,そ の後観察することが多いので,今回の科学的探究活 動の流れは非常に生徒には好評であったといえる。 生徒へのインタビューでも「嬉しかった」 「楽しかっ た」という表現が目立った。特に,自らが考えたこ とが実験によって確実に証明された点に喜びを感じ たようすであった。 また,3,4,5,7に見られるように「今まで の実験より理解が深まった」 「実験の意義等について よく考えることができた」等,生徒は目的意識をも って実験を行っていたことが分かる。 さらに,1,3に見られるように,学習内容の理 解ができたととらえている感想もあった。この生徒 たちは,この科学的探究活動によって学力が付いた 感じがするとも述べていた。 ○ 教師へのインタビュー 1 今回のように生徒が興味をもって実験をするのは,初 めてと言っていいくらいであった。今までの観察,実験 のやり方を反省し,今後もこのような科学的探究活動を 行っていきたい。 2 最初はどこまでコメントを書いてやればよいか悩ん だが,明らかな間違いについてはきちんとコメントを する必要があるが,細かい具体的な方法までコメント しない方がよいということが分かった。 3 コメントするのは,やはり生徒一人一人に応じてどの レベルまでコメントしてやるのが望ましいかを考える 必要がある。 4 今回は実験方法が簡単であったが,複雑な実験操作が 必要な場合どこまで指導するのか,どこまで考えさせ るのか,今後教材を開発する必要がある。 5 観察,実験結果を基にした考察 A 図3 B C 教師による形成的評価結果(25 名) この結果から,生徒全員が,問題を把握でき,目 的意識をもった正しい観察,実験操作ができ,観察, 実験結果を基にした考察ができたといえる。2の解 決方略の立案及び3の実験結果の根拠ある予想につ いては,最初に考えた時点のものであり,その後の グループでの話し合いや教師のコメント等によって 自らの意見を確認・修正しながら最終的には解決方 生徒の反応がよかったため,教師も今後に向けて 更に科学的探究活動を行う場合の意見をもっている ‑ 39 ‑ ことが分かる。 また,2,3に見られるように,教師のコメント をする際には,「なるべく生徒の考えた方略を生か 3 す」,「個に応じる」視点が必要だと感じていること が分かる。これはコメントする際の重要なポイント である。 「物理Ⅱ」の実践授業と分析 (1) 単元の指導計画 ○ 単元名 電場と電位 3 コンデンサー ○ 単元の目標 コンデンサーに関する事象について,観察,実験を通して探究し,基本的な原理や仕組みを理解させ, コンデンサーについての基礎的な見方や考え方を身に付けさせる。 ○ 単元の評価規準 関心・意欲・態度 コンデンサーに関す る事象 に関心や探究心をもち,意欲 的に探究しようとす るとと もに,科学的態度を身に付け ている。 ○ 次 思考・判断 ・コン デン サ ーに関する観 察,実験を行い,実験結果を 基に考察し,科学的に判断す る。 ・与えられた条件で電気容量 の大き なコ ン デンサーを作 成し,予想値と比較し,総合 的に考察する。 観察・実験の技能・表現 ・コンデンサーについて,探 究の方法を用いた実験を行 い,その技能を習得する。 ・実験データを基にして創意 ある研究報告書を作成し,発 表する。 知識・理解 観察,実験を通してコンデン サーについての基本 的な原 理や仕組みを理解し,知識を 身に付けている。 指導と評価の計画(8時間) 時 1 2 1 3 4 5 1 2 2 3 価 評価規準(方法) コンデンサーの原理及びしくみ ・コンデンサーについて興味をもち,意欲的に探究しようとし ている。(行動観察) ○ ○ ○ ・コンデンサーの原理と仕組みについて考察し,創意ある報 告書を作成している。(報告書) 平行板コンデンサーの電気容量と誘電率 ・ガウスの法則及び一様な電場を表す式を用いて平行板コン ○ デンサーの電気容量,誘電率について考察している。(ワーク シート) 電気容量,誘電率及び比誘電率の関係と ・電気容量,誘電率,比誘電率及び耐電圧に関する観察,実 耐電圧 ○ ○ 験を行い,その結果を実証的,論理的に考察している。(ワー クシート) コンデンサーの接続 ・コンデンサーの並列接続,直列接続の合成容量の考え方に ○ ついて理解し,知識を身に付けている。(ワークシート) 学習内容 コンデンサーに蓄えられるエネルギー 評 関 思 技 知 ・微小電圧間にする仕事の考え方を用いて,コンデンサーに 蓄えられるエネルギーについて考察している。(ワークシート) ・テーマに関して関心をもち,意欲的に探究しようとしている。 【科学的探究活動】 (行動観察) 〈電気容量の大きなコンデンサーを作成 ○ ○ ○ ・コンデンサーの種類・特徴について調べ,知識を身に付け しよう〉 ている。(ワークシート) ・コンデンサーの種類・特徴 ・コンデンサーを設計している。(ワークシート) ・コンデンサーの設計 ・意欲的に活動している。(行動観察) ・班ごとにコンデンサーの作成 ・目的意識をもった正しい実験を行っている。(行動観察) ・電気容量の測定 ・実験の結果などを基に,創意工夫を凝らした報告書を作成 ・実測値と予想値の差についての比較検 ○ ○ ○ している。(報告書) 討 ・報告書の作成 ・活動成果の発表 ・自らの意見等をまとめ,分かりやすく発表している。(行動観 ○ ○ 察) ○ ※太線で囲まれた部分が科学的探究活動。 この単元では,1次でコンデンサーの基本的性質 について学習する。そして,2次では身の回りの物 を活用し,限られた条件の下でできるだけ電気容量 の大きなコンデンサーを作成するという科学的探究 活動を行わせる。 生徒は,1次で学習した内容を基に一人一人でコ ンデンサーの種類や特徴を調べた上で設計を行う。 次に,グループで話し合うことによってよりよい設 計を考え,その設計に基づいてコンデンサーを作成 する。さらに,作成したコンデンサーについて,そ の電気容量を根拠に基づいて予想する。そして,こ の予想値と実測値の差について比較検討し,その結 果をグループごとに報告書をまとめ,クラスで発表 し,共有化させる。 ‑ 40 ‑ ○ (2) ワークシート ○ ワークシート1(第1時) ワークシート3(第2時) 実験報告書 コンデンサー作成中の気付き 【電気容量の大きなコンデンサーの作成】 今まで学習してきたコンデンサーの性質から,電気容 量がより大きくなるようなコンデンサーの作成に挑戦し よう。 1時間目 コンデンサーの原理を確認する。コンデンサ ーの種類・特徴を調べる。どのようなコンデ ンサーを作成するのかを話し合い,まとめ る。 実験計画書の作成。 2時間目 作成,電気容量の測定,まとめ,考察,報告書 の作成,報告会の準備 3時間目 探究活動報告会 作成したコンデンサーの電気容量の予測 作成したコンデンサーの電気容量の測定値 予測値と実測値を比較し,その検討をせよ。 コンデンサーに関する法則 ワークシート3は実験段階のものである。自分た ちの班で作成したコンデンサーの電気容量の大きさ を根拠をもって予測させ実測値と比較検討させその 結果を記述させるようにしている。 ○ ワークシート4(第3時) コンデンサーの種類と特徴 発表原稿 どのような根拠で,どのようなコンデンサーを作成し たか。 ワークシート1では,まず問題を把握し,情報を 収集する。情報は,既習のコンデンサーに関する法 則や種類・特徴である。 また,本科学的探究活動では,目的を生徒に記述 させるのではなく,ワークシートにあらかじめ記載 しておき,目的を生徒により確実に徹底させるよう にした。 ○ ワークシート2(第2時) 電気容量の予測値と実測値及びその比較検討からいえ ること。 この実験を行っての反省や感想 実験計画書 限られた条件の下で,できるだけ電気容量の大きなコンデンサ ーを作成しよう。 条件 ① 大きさが一辺の長さが 10cm の立方体に収まること ② 素材は,身近にあるものを用いる。例(アルミホイル, ラップなど) 他の班の発表での気付き 今回の探究活動について感想等を自由に書きなさ い。 コンデンサーの設計や工夫(電気容量を大きくするた めの根拠を明らかにして) 自己評価 −略− 使用する素材や実験器具 ワークシート2では,科学的探究活動の目的をよ り明確にするため,ワークシート1より具体的に目 的を記述し,条件を与えている。生徒はコンデンサ ーの設計や工夫,使用する素材や実験器具について 考察し,グループで話し合って記述する。 ワークシート4は,クラス発表の段階のものであ る。クラス発表の際に,ポイントとなる事項をあら かじめまとめてから発表する。このことにより,自 らの考えを確認・整理させることをねらっている。 また,他の班の発表を聞いて,気付きを書く欄を 設けている。このことにより,解決方略の共有化を 図り,自らの考えをより深める。 (3) 授業実践及び分析 ア 生徒のワークシート記述及び作成したコンデン サー ‑ 41 ‑ ○ ワークシート2の記述 このワークシートから,生徒は,作成中に工夫点 に気付き,作成したコンデンサーの電気容量の大き さを,計算式を用いて予測していることが分かる。 さらに,予測値と実測値との差についてその原因を 空気ではないかと,生徒なりに考察していることが 分かる。 以上,生徒のワークシート記述を見ると,生徒は 自らの考えを確認・修正しながら科学的に考えるこ とができるようになっているといえる。 イ 生徒の自己評価 Ⅱ−3(4)アで述べた自己評価項目を基に,生徒 に四段階評定尺度法により自己評価させた。その結 果を図5に示す。事前の評価項目は以下のとおりで ある。 このワークシートからは,電気容量を大きくする ため,オイルをしみこませたティッシュペーパーを 極板の間に挿入する工夫や,大きなコンデンサーを 一つだけ作成するのではなく,小さなコンデンサー を多く作成しそれらを並列に接続することを考案し たことが分かる。 図4に生徒が作成したコンデンサーを示す。なお, 大きさは,10cm×10cm×2cm である。 1 探究活動を行うときは,その目的をよく理解してから活動に 入っている。 2 探究活動を行うときは,問題を解決する方法を考えている。 3 実験を行うときは,結果を予想している。 4 実験結果を予想するときは,その理由も考えている。 5 実験の操作を行っているとき,何のためにこの操作を行って いるのかが分かっている。 6 実験の結果を基に十分に考察をしている。 事後の評価項目は,事前の評価項目文を過去形に したものである。 0% 20% 40% 60% 80% 100% 1 事前 事後 2 事前 事後 3 事前 図4 ○ 生徒が作成したコンデンサー 事後 ワークシート3の記述 4 事前 事後 5 事前 事後 6 事前 事後 あてはまる どちらかといえばあてはまらない 図5 どちらかといえばあてはまる あてはまらない 生徒の自己評価結果(49名) 図5から,多くの自己評価項目で肯定的な評価が 増えていることが分かる。 ‑ 42 ‑ しかし,「3 実験を行うときは,結果の予想を している。」の自己評価項目で肯定的評価が減少して いる。本科学的探究活動は,電気容量を大きくする ようにコンデンサーの特性の式から考え,設計し, 作成し,測定して初めて結果が分かる流れであった。 したがって生徒は,設計段階では電気容量の値を理 論的に予想できても,コンデンサーを作成する段階 では「できてみないと分からない」と考えがちであ り,結果を予想しようと思わない生徒が多かったた めであったと考えられる。このことから,本科学的 探究活動のように,何かを作成するといったタイプ の科学的探究活動の場合には,指導を更に工夫する ことが必要であることが分かった。 以上のことから,上述の改良点のデータを除いて, 生徒は探究の過程を十分に踏まえて科学的探究活動 を行ったと自己評価しているといえる。 ウ 教師による形成的評価 Ⅱ−4(4)アで述べた評価項目に従って,教師が 形成的評価を行った。その結果を図6に示す。判断 基準はⅢ−1(3)ウで述べた化学の実践授業の分析 の場合と同じである。 0% 20% 40% 60% 80% め,コンデンサーを作成して電気容量を測定した時 点で,学習への意欲がとぎれたと述べていた。これ らの生徒はその後の指導によってBまで考察を深め させた。 以上のことから,教師による形成的評価では,本 科学的探究活動において,生徒はおおむね探究の過 程を踏まえて問題解決できるようになったといえる。 また,本科学的探究活動のテーマのように,観察, 実験の活動そのものによってその目的が達成されや すいテーマの場合は,観察,実験後に考察させよう とすれば,更なる指導の工夫が必要であることが分 かった。 エ 生徒・教師へのインタビュー ○ 生徒へのインタビュー 1 いつもと違って自分たちでやることを全て調べたり考 えたりしなくてはならなかったので大変だった。大変だ ったけどやり終えた今は充実感を感じています。 2 班の人と話をしていく中で新しいアイデアが出てきた のが楽しかった。 3 予想どおりにならなかったのが悔しかった。原因は多 分アルミホイルを巻くときに極板がくっついた事だと 思う。もう一度やる時間があれば今度はうまくできると 思う。 4 実験プリントどおりやればいいということがなかった ので正直つらかった。でも,先生が何度もやってきて困 っていると,アドバイスをくれたりしたのでうれしかっ た。 5 別のテーマでもこんな実験をしてみたい。 6 身の回りの物でコンデンサーを作れたので驚いた。 100% 1 問題の把握 2 解決方略の立案 3 実験結果の根拠ある予想 4 目的意識をもった正しい観察,実験操 作 5 観察,実験結果を基にした考察 A 図6 B C 教師による形成的評価結果(49名) 図6から,生徒全員が,問題を把握でき,実験結 果の根拠ある予想ができ,目的意識をもった正しい 観察,実験操作ができたといえる。2の解決方略の 立案については,最初に考えた時点のものであり, その後のグループ討議や教師のコメント等によって 自らの意見を確認・修正しながら最終的には解決方 略を考えることができるようになっている。 また,特徴的なことは,本科学的探究活動におい て5の観察,実験結果を基にした考察がCと判断さ れた生徒が約3割いたということである。この理由 について,事後に生徒に聞き取りを行った。ほとん どの生徒が,本科学的探究活動のテーマが「電気容 量の大きなコンデンサーを作成しよう」であったた 1,2,5から今回の科学的探究活動は,生徒に おおむね好評だったといえる。 また,4は机間指導の重要性を示唆している。 さらに,今回は化学のように再実験を行う時間が なかったが,3に見られるように,更にやってみた いという感想をもった生徒が多かった。このことか ら,生徒の興味・関心も高めることができたといえ る。科学的探究活動の他のテーマを開発し,年間授 業計画に取り入れ,可能であれば再実験が可能とな るように工夫する必要があろう。 ○ 教師へのインタビュー 1 ワークシートにコメントを書いて返却したことは,生 徒の到達度を把握し,指導に生かすことに役立った。 2 実験の際にきめ細かく机間指導したことは,生徒の学 習意欲を高めることにつながった。 3 自分たちの成果をまとめさせたものを,更に発表させ るということを平素行っていないので,苦労した班が多 かった。 ワークシートにコメントを書いて返却すること, 実験中に机間指導をすることといった,本研究で提 言する指導と評価の工夫が有効であったと感じてい ることが分かる。 また,平素自分たちの成果をまとめたり,発表さ せたりする指導の重要性に気付いている。 ‑ 43 ‑ Ⅳ 【引用文献】 成果と課題 本研究では,高等学校理科における科学的な思考 力を育成するために,科学的探究活動の各段階にお ける指導と評価の工夫を以下のように取り入れた。 ①既習事項や日常生活と関連させ,生徒が取り組み やすい問題を設定する。 ②問題解決の方略を,生徒自ら考えさせ,グループ で話し合い,最終決定させる。 ③検証の場面で,生徒が適切な観察,実験を行える ようにする。 ④ワークシートを生徒の思考が明確に表現できる ように工夫し,適宜,形成的評価を行う。 以上のことを基に,授業実践を行い,授業分析の 結果,生徒の科学的な思考力を育成する上で,本研 究で行った指導と評価の工夫が有効であることが 分かった。 しかし,授業実践を行った単元では,科学的探究 活動のテーマあるいは目的によっては,評価項目が 必ずしも適切でない場合も見られた。つまり,科学 的探究活動も,いくつかのカテゴリーに分類される 可能性があり,そのカテゴリーに応じて評価項目も さらに精選する必要がありそうである。今後は,こ の科学的探究活動について更に研究を進める必要が ある。 1) 大髙泉著日本理科教育学会編(平成4年):『理科教育講 座 第4巻 理科の学習論(上)』 東洋館出版社 p.246 2)井藤芳喜著日本理科教育学会編(平成5年):『理科教育 講座 第10巻 理科の評価』 東洋館出版社 p.33 3) 吉田淳著日本理科教育学会編(平成5年):『理科教育講 座 第10巻 理科の評価』 東洋館出版社 p.160 4) 鹿毛雅治著若き認知心理学者の会(1996):『認知心理学 者 教育評価を語る』 北大路書房 p.93 5) 同上 6) 奥出政清,福岡敏行,奥井智久,中村重太他著広島県理科 教育センター編集(1982):『理科教育資料97 小学校・中 学校・高等学校 理科指導の基礎−指導技術編−』 広島 理科教育研究会 p.158 7) 同上 8) 小田豊ら日常生活教材作成研究会(国立教育政策研究所 内)(平成17年):「平成16年度文部科学省委嘱研究報告書 『学習内容と日常生活との関連性の研究−学習内容と日 常生活,産業・社会・人間とに関連した題材の開発−』」 p.2 9) 中野栗夫(昭和33年):『理科における 科学的思考力の 育成法』 柳原書店 p.54 10) 前掲書 p.53 11) Shawn M. Glynn ら著,武村重和監訳(1993):『理科学習 の心理学 子どもの見方と考え方をどう変容させるか』 東 洋館出版社 p.229 12) 下山剛(1985):『学習意欲の見方・導き方』 教育出版 p.22 13) Benjamin S. Bloom ら著 梶田叡一他訳(昭和48年):『教 育評価法ハンドブック』 第一法規 p.162 【参考文献】 おわりに 本研究では科学的な思考力を育成するための指導 と評価を工夫することを目的として研究を行った。 科学的な思考力の育成は学習指導要領の目標にも 常に位置付けられ,中野(1972)が「理科の学習で最 も大切なことは,科学的思考力を育成することであ る。」と述べているように,理科教育の目標にもかか わる重要なテーマである。つまり教科としての「理 科」の存在理由にも深くかかわっているテーマであ る。今後も科学的な思考力に関する研究を更に深め ていきたい。 また,本研究では,グループでの話し合いが成立 したり,観察,実験中の机間指導等が効果的に行わ れたりすることを前提として論を進めた。しかし, 実際にはそのような教師の指導力及び授業への姿勢 にかかわることも重要なファクターであることを最 後に付記しておきたい。 文部省(平成11年):『高等学校学習指導要領解説−理科編理 数編−』 文部科学省 文部科学省(平成13年):『小学校児童指導要録,中学校生徒 指導要録,高等学校生徒指導要録,中等教育学校生徒指導 要録並びに盲学校,聾学校及び養護学校の小学部児童指導 要録,中学部生徒指導要録及び高等部生徒指導要録の改善 等について(通知)』 (13文科初第193号) 文部科学省 文部省(昭和22年):『学習指導要領理科編(試案)』 大日 本図書 大庭景利(昭和48年):「科学的思考力の構造と診断に関する 実証的研究」 広島大学学位論文 井出耕一郎(1984):「科学的思考とその評価の意義」,『理 科の教育』 Vol.33, No.12, 東洋館出版社 滝沢武久(1984):『子どもの思考力』 岩波新書 船元重春,学校理科研究会編(昭和55年):『理科教育学要論』 みずうみ書房 寺川智祐編著(1993):『理科教育学概論』 大学出版社 日本理科教育学会編(平成4年):『理科教育講座 第1巻 理 科の目標と教育課程』 東洋館出版社 日本理科教育学会編(平成4年):『理科教育講座 第2巻 発 達と科学概念形成』 東洋館出版社 日本理科教育学会編(平成5年):『理科教育講座 第10巻 理 科の評価』 東洋館出版社 日本理科教育学会編(2002):『これからの理科授業実践への 提案』 東洋館出版社 ‑ 44 ‑
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