No.164 香港におけるMICEの状況と 福岡県の方向性について 香港事務所長 藤木 重尚 参加者の消費額の大きさや、都市としてのブランド価値向上に貢献することから、各国・地域で重要な産業として位 置づけられている「MICE」 。各都市がその基盤づくりや誘致を競う中、アジアで MICE 開催件数上位に位置する香港の 状況を参考に、福岡県が今後行うべき MICE 誘致の方向性について考える。 1 はじめに 「国際コンベンション開催件数全国2位の福岡で、コ ンベンションを開催しませんか!」 。 (公財)福岡コンベ ンションビューローのウェブサイトに紹介されていると おり、福岡市の国際会議開催件数は2009年以降、東京に 次いで2位を維持している(表1) 。 表1 国内都市別国際会議開催状況 表1 国内都市別国際会議開催状況 国内都市別国際会議開催状況 (2013年上位5都市および北九州市) 年上位5都市および北九州市) (2013 (2013年上位5都市および北九州市) 2008 2009 2010 2011 2012 2013 (平成20) (平成21) (平成22) (平成23) (平成24) (平成25) 東京23区 480 497 491 470 500 531 福岡市 172 206 216 221 252 253 横浜市 183 179 174 169 191 226 京都市 171 164 155 137 196 176 大阪市 77 94 69 72 140 172 北九州市 47 50 49 38 45 57 (出展:JNTO国際会議統計) (出典:JNTO (出典:J N T国際会議統計) O 国際会議統計) 本稿では、香港をはじめ世界各都市における、国際会 議などMICE開催状況から、福岡の特徴でもあり強みで もあるMICEの更なる発展の方向性について考えてみた い。 ま ず、MICEと は、観 光 庁 に よ れ ば、 「企業等の会 議(Meeting) 、企 業 等 2014 年国際会議開催件数 表2 2014年国際会議開催件数 の 行 う 報 奨・ 研 修 旅 行 表2 2014年国際会議開催件数 ( イ ン セ ン テ ィ ブ 旅 行 ) 順位 都市名 件数 1 パリ 214 (Incentive Travel)、 2 ウィーン 202 国 際 機 関・ 団 体、 学 3 マドリッド 200 会等が行う国際会議 4 ベルリン 193 (Convention) 、 展 示 5 バルセロナ 182 会・ 見 本 市、イ ベ ン ト 6 ロンドン 166 (Exhibition/Event) の 7 シンガポール 142 14 北京 104 頭文字のことであり、多 15 ソウル 99 くの集客交流が見込まれ 16 香港 98 るビジネスイベントなど 20 台北 92 の総称」と定義される。 22 東京 90 MICEは、参 加 者 の 宿 (出展:国際会議協会ICCA (出典:国際会議協会 ICCA (出典:国際会議協会 I C C A およびJNTO報道資料) 泊、飲食、観光、輸送等の および 報道資料) および JJNTO N T O 報道資料) 直接消費による経済波及 34 BUSINESS SUPPORT FUKUOKA 2016.1 効果に加えて、国内外の企業関係者や研究者とのネット ワークの構築、都市としての知名度・魅力向上といった 意義を有するため、各国・地域で重要な産業として位置 づけられ、その誘致が図られている。 国際会議協会(ICCA)による統計では、世界の開催件 数は表2のとおりである(表1とは国際会議の定義が異 なることに留意1) 。多数の国家が集まる欧州諸国が上位 を占めるが、アジアでは北京、ソウル、香港の順となっ ている。このようなアジアで上位に位置する都市は、ど ういった強みを持ち、どのような取組みによりMICEの 誘致を行っているのか。香港の例をご紹介したい。 2 香港におけるMICE開催状況 香 港 政 府 観 光 局 お よ び 香 港 貿 易 発 展 局 に よ る と、 MICEに参加するために香港に1泊以上宿泊した海外か らの来訪者は、2014年に180万人を超える。このうち、 中国本土からの来訪者は49.1%を占めるが、香港を訪れ る外国人全体では、中国本土からの来訪者が75%を超え ることを考えると、MICEにおいてはその他の地域から のより多くの訪問者を獲得していることが分かる。 また、香港のMICE主要開催施設は、香港島中心部に あるHong Kong Convention and Exhibition Centre (HKCEC)と 香 港 国 際 空 港 近 く に あ るAsia World Expo(AWE) 、九 龍 半 島 の 旧 啓 徳 空 港 近 く に あ る Kowloonbay International Trade and Exhibition Centre(KITEC)であり、その施設規模は表3のとおり である。香港はこうした大規模施設を活かして、見本市 (Exhibition)開催に力を入れており、2014年には合計 で100以上の見本市を開催している。 ここで、香港のMICE開催上の優位性について考えて みたい。 一つは、前述のとおり、開催施設の充実が挙げられる。 いずれも見本市に適した大規模ホールを備えていること に加え、空港隣接や市街地中心部という好立地から、交 通アクセスも極めて良く、 人の集めやすさが魅力である。 なお2015年2月、香港政府立法会の検討委員会におい て、今後の開催施設の需給がひっ迫する可能性が高まっ たとして、2020年頃を目途に新しいコンベンション施 設を建設するよう提案がなされるなど、更なる施設の充 実が見込まれている。 二つ目は、香港は世界でも有数のオープンな自由主義 経済であり、ビジネスをしやすい都市としての地位を築 いていることである。そのため、世界各国から人の往来 が多く、香港国際空港は中国本土47都市を含む世界180 以上の都市に直行便を有し、1日1,100便が発着してい る。このことも、関係者の来港を容易にしている。 三つ目は、MICE開催に対するワンストップ支援体 制である。香港政府観光局は、2008年にMeeting and Exhibition Hong Kong(MEHK)を設立し、ホテルの 確保、ビジネス支援、観光 表3 香港の主要国際会議施設 表4 香港の主要国際会議施設 香港の主要国際会議施設 アレンジ、政府関係機関と 施設規模 の調整、空港での専用入国 施設名 審査カウンター設置など HKCEC 86,082㎡ を一手に担っている。 AWE 70,000㎡以上 四つ目は、民間サービス KITEC 8,000㎡以上 の 充 実 で あ る。ホ テ ル は (各施設ウェブサイト (出典:各施設 W E B サイトから作成) (出典:各施設 WEB サイトから作成) 2015年2月 時 点 で247軒、 から作成) 7.3万室を数え、うち香港政府観光局が最もグレードが 高いと位置づけるホテル(平均宿泊費は約35,400円)も 35軒、1.8万室に上る。また、イベント会社やブース設営 業者、保険会社、運送業者、旅行会社といった民間企業 もMICEの受入れに習熟しており、円滑な運営を可能と している。 香港は、上記のような優位性に加えて、中国本土への 近さをアピールすることも通じてMICEを積極的に誘致 しており、 今後もその件数は増加するものと予想される。 議のための基盤づくりが必要になってくるであろう。 表4は、香港と東京、福岡市の国際会議開催件数等の 比較であるが、施設規模や国際線就航都市数では、香港 や東京のような大都市には見劣りする。 また、VIPが宿泊できる世界ブランドの高級ホテルが 少ないことや、小規模の開催施設が分散して立地してい ることもあり、各国から多数の参加者が来訪するような 大規模MICEの誘致といった“ホームラン”を打つには、 ハードルが高い。 一方、比較的小規模でも開催される海外からの報奨・ 研修旅行などについては、福岡の魅力が生かせるのでは ないだろうか。報奨旅行は、文字通り従業員の働きに応 えて、または今後の働きに期待して企業が実施するもの であり、その最大のポイントは“楽しいこと” “気持ちよ く過ごせること”であろう。そこには外国人観光客が求 める要素と重複するものが多いと考えられる。 本県を訪れる外国人観光客が増えている要因として、 観光地としての魅力に加えて、東京、京都、大阪などの ゴールデンルートをすでに回ったリピーターが、次の訪 問先として九州・福岡を選んでいることが挙げられる。 ここに先回りして、食べ物がおいしく、物価も安く、買 い物がしやすく、そして九州各地の自然にアクセスもで きる福岡をPRすることで、報奨旅行の誘致が図れるの ではないだろうか。 表4 国際会議開催件数等の比較 表5国際会議開催件数等の比較 国際会議開催件数等の比較 香港 国際会議件数(2014年) ホテル室数 最大施設面積(㎡) 東京(23区) 90 15 7.3 12.8 2.4 86,082 施設名 国際線就航都市数 福岡 98 HKCEC 80,660 東京ビックサイト 11,351 マリンメッセ福岡 180以上 100 うち欧州・米本土 16 28 1 うち中国(含む香港・マカオ) 47 18 10 ビジネストラベラー誌 「ベスト・ビジ ネス・シティ」 東アジア1位 その他 英モノクル 「最も住みよい 都市2015」 1位 22 英モノクル 「最も住みよい 都市2015」 12位 (出展:ICCA、各施設及び空港ウェブサイト等) (出典:ICCA、各施設および空港 WEB (出典:I C C A、各施設および空港 W E B サイト等) サイト等) 4 M E H K ウェブサイト:英語・中国語(繁・簡) ・日本語・韓国語に対応 3 福岡県におけるMICE開催状況と今後の方向性 さて、本県では、観光庁から「グローバルMICE都市」 に選定された福岡市、及び「グローバルMICE強化都市」 に選定された北九州市が、MICE開催の中心である。特 に福岡市については、冒頭で述べたとおり、日本国内で の国際会議開催件数が東京に次いで2位であり、その競 争力の向上が本県の知名度・魅力のさらなる向上につな がる。 一方で、ICCAの統計による国際会議開催件数は15件 (世界で164位)に留まっており、今後は大規模な国際会 お問い合わせ まとめ 日本のみならず、アジア各国でそれぞれの強みを生か したMICE誘致競争が行われている。福岡において、大 規模国際会議を開催する基盤整備及び誘致促進を、 “ホー ムラン”を打つためのトレーニングとすれば、福岡の魅 力にあった報奨旅行等の獲得は“ヒット”の積み重ねで ある。 本県におけるMICE開催需要はまだまだ伸びしろがあ ると思われるが、独自の強みを生かした戦略的な誘致活 動が重要になってくるであろう。 1 JNTO基準は、①参加者総数が50名以上、②参加国が日本を含む3か国 以上、③開催期間が1日以上、など。ICCA基準は、①参加者総数が50 名以上、②定期的に開催される、③3か国以上で持ち回り、など。 情報取引推進課 TEL:092-622-6680 BUSINESS SUPPORT FUKUOKA 2016.1 35
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