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初めて雑誌に載せていただきました。

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(2)1996年3月13日第3種郵便物認可
特集
みみだより467号
2003年12月22日発行
「BAHA」 伝音性難聴者のための新しい補聴器
伝音性難聴には今まで骨導補聴器を使ってきました。しかし,装用感,特にヘッドバ
ンドの装用は不安定で極めて不快であるために使用の継続が困難であったり,相当の精
神的苦痛を伴うものでした。このため,スウェーデンで新しい補聴器が開発されていま
す。既にアメリカでは多くのユーザーがいますが,日本では認知度が低いこと,保険適
用になっていないと言った理由でほとんど広がっていません。今回,実際にBAHAを
選択し,手術を受け,使用されておられる2名の方から原稿を頂戴できましたのでお届
けします。
『BAHAを語る――サイボーグも悪くない!?』
堀
智久・伊藤
有紀子
なぜ,我々の身体は,皮膚で終わらねばならず,せいぜいのところ,皮膚で封じ
こめられた物までしか包含しないのだろうか,と ――――Haraway, Donna J.
1.BAHAとは
BAHAとは,‘Bone Anchored Hearing Aid’のそれぞれの頭文字をとった略称の
ことであるが,直訳すれば,「骨に停泊させる補聴器」である。これは,もともと,伝
音難聴の骨導式補聴器ユーザのために開発された補聴器である。たとえば,外耳道閉鎖
症や慢性的な中耳炎,外耳奇形といった気導式補聴器を使うのが難しい人が該当する。
このBAHAが欧米の骨導式補聴器ユーザに支持されているのは,従来の骨導式補聴
器がさまざまな問題点を抱えていたためである。ひとつは,従来の骨導式補聴器が頭痛,
皮膚の痛みを余儀なくさせるという点である。骨導式補聴器は,音を骨に振動させて伝
えるため,振動子が常に皮膚の上から圧迫される必要がある。そのため,たとえば,ヘ
アバンドや眼鏡の両者シャフトで固定することによって,これを使用する間,常に頭蓋
骨を圧迫しなくてはならないのである。
もうひとつは,音質の劣化という問題点があった。骨導式補聴器の場合,音を骨に振
動させて伝えるが,実際には皮膚の上から圧迫して音を伝える。皮膚の上から音を振動
させると,ときに目立った音質の劣化が見られることがあった。とりわけ,BAHAとBA
HAが適応になる方が使用する気導補聴器を比較すると,BAHAの音質の方が良好である。
それから,外観的な理由もあるだろう。骨導式補聴器は,振動子を固定するために,
男性でもヘアバンドをしなければならないといったことがあり,客商売ができないとい
った不満の声があった。BAHAの場合には,とてもコンパクトで,髪の下にすっきり
と隠せてしまうため,外観にうるさい若い人に絶大な人気を集めている。
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さて,ではBAHAはいったい,どのような仕組みなのだろうか。BAHAは,なん
と「骨に補聴器(以下振動子と呼ぶ)の受け台(以下,接合子)を挿入するためのチタ
ン(以下,骨導端子)を埋め込んでしまう」というなんとも画期的なアイディア―「骨
と骨導端子が融合する原理(osseointegration system )」―を採用している。つまり,
あらかじめ,外科手術によって,耳の後ろに接合子をつけるための骨導端子を埋め込ん
でおき,その上に補聴器本体を着脱できるようにしようというのである(図1,図2,図
3参照)
。
図2:チタンの受け台
図1:BAHAの断層図
小さなチタンの骨導端子が,耳の後ろに埋め込
まれて,この上に接合子を載せて骨と補聴器(振
動子)のつなぎ役をする。接合子の上に,BAH
A補聴器本体をのせ,骨導端子を通じて直接音を
骨に振動させる。そうすることで,従来の骨導式
図3:BAHAの装着
補聴器の問題点,圧迫感による痛みといった諸問題を解決してしまおうというのである。
なんとも実に,シンプルかつ画期的な方法である。
2.BAHAをつけるまで
BAHAにやっかいなところがあるとすれば,外科手術によって,チタンの骨導端子
を埋め込まなくてはならないということである。これは局部麻酔でできるような簡単な
ものであるが,ここで,その手術の流れを簡単に説明しておこう。
①直径25mm程度の大きさに皮膚を半円形に切る。
この中心部は,チタンの骨導端子・接合子が置かれる場所となる。
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みみだより467号
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②小さいドリルで,骨の中に小さな穴をあける。
③チタン製の骨導端子を骨の中に埋め込む。・・・・・・・・・・・
④①で切り取られた皮膚をもと戻す。
⑤皮膚の上から貫通するかたちで,小さい穴をこの部品の真上にあ
ける。
⑥接合子を③で埋め込んだチタンの骨導端子の上に取りつける。
⑦抜糸,骨が完全に治癒すれば――約3ヶ月かかる――,
そのうえにBAHA本体が取りつけられるようになる。
3.BAHAの付加機能
多くの補聴器がそうであるように,BAHAもまた
さまざまな付加機能が付いている。はじめからその機
能が内蔵されているものもあれば,改めてアクセサリ
を購入し,取りつけなくてはならないものもある。ま
た,現在よく使われているBAHAには ,「BAHA
コンパクト」と「BAHAクラッシック300」がある
が,それぞれの性能は微妙に異なっている(図4,図5)
。
図4:BAHAコンパクト
ここでおもしろい二つのアクセサリをご紹介しよ
う。ひとつは,
「ディレクショナル・マイクロフォン」
であり,もうひとつは「ディレクショナル・クロス
・マイクロフォン」である(図6,図7)
。
ひとつめの「ディレクショナル・マイクロフォン」
は,
「BAHAコンパクト」のみ取りつけ可能なもの
であるが,これは騒がしい場所で人と会話をすると
きに便利である。BAHAコンパクトの下に小さな
図5:BAHAクラッシック300
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図6:ディレクショナル・マイクロフォン
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図7:ディレクショナル・クロス・
マイクロフォン
マイクを取りつけ,これによって横と後ろからの音を弱め,前方の音を強調する。レス
トランや繁華街といった騒がしい場所で,比較的接近距離で相手と会話をしているとき
に,その効果を発揮してくれる。
ふたつめの「ディレクショナル・クロス・マイクロフォン」は,「BAHAクラッシ
ック300」のみ取りつけ可能なものであるが,両側難聴の人が,BAHAを片側しか装
着していない場合に,反対方向から音を聞くのに便利である。このアクセサリは,BA
HAを装着している耳の反対側の耳に装着するものであり,それとBAHA本体は,首
の後ろでコードでつながっている。BAHAを装着していない側の音をこのアクセサリ
で拾い取って,BAHA本体の方に音を伝えてくれるしくみになっている。
ほかにも,テレコイルやオーディオケーブルといった重要なアクセサリはあるし,B
AHAクラッシックのみ付いている金属音を弱める機能があったりする。これらも,若
者に支持を集めるポイントの1つになっているだろう。
4.BAHA装用者を支えるサポート体制を!
ところで,どうして欧米では20年も前からBAHAが使われていて,9000人以上も
のBAHAユーザがいるというのに,日本では,両手で数える程度にしか存在していな
いのだろうか。
その理由のひとつは,単純に,BAHAが日本でよく知られていないということがあ
る。あとで対談する伊藤さんというBAHAユーザも,この私も,たまたま英語からB
AHAの情報を詳しく知ることができたから,BAHA装用に辿りつけたのである。B
AHAの情報は今のところ日本語では詳しく知ることができず,そのため,私たちがB
AHAの英語の情報を日本語に訳してホームページに載せたものがあるから,興味のあ
る方は,ぜひそちらを参考にして欲しい。私たちがつくったホームページで,BAHA
のことは,おおよそわかると思う。
もうひとつの理由は,このBAHAは今のところ,諸々の事情があって,厚生労働省
の補助が受けられないことである。そのうえ,日本のBAHAユーザは,私と伊藤さん
も含めて,両手で足りるくらいしか存在していないのだから,そのサポート体制がきち
んと整っているはずがない。たとえば,厚生労働省で認められている外耳道形成術だと,
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医療費は厚生医療の対象となり,補聴器は補助具として補助金が受けられるから,この
二つを抱き合わせれば,ほとんどお金の負担がかからない。それに対して,BAHAだ
と,厚生医療の対象にはならないし,BAHA本体も自分のお金で買わなくてはならな
いから,個人の負担がとても大きい。もう少し,外耳道形成術と同程度に,BAHA装
用者を援助するサポート体制があってもよいのではないだろうか。
○参考資料
BAHAユーザのための小冊子
http://www.patients-baha.com/downloads/WHA4GB.pdf
entific社ホームページ
http://www.entific.com/
BAHA患者支援サイト
http://www.patients-baha.com/
○BAHA日本語訳ホームページ
堀智久・伊藤有紀子のBAHAを日本語で紹介するホームページ
http://www1.ocn.ne.jp/~hituji55/siryousitu.html
○執筆者
堀
智久
[email protected]
伊藤有紀子
[email protected]
対談 堀智久(BAHAユーザ)×伊藤有紀子(日本初BAHAユーザ)
堀: 今日は,
伊藤さんのBAHAの体験を聞かせていただけるということになっています。
よろしくお願いいたします。
堀: さっそくなんですけど,伊藤さんは,確か,僕と同じく生まれつきの両側の外耳
道閉鎖症ということでしたよね。ご自身の聴力とかは,わかりますか?
伊藤: 両耳とも,だいたい伝音性の75デシベルくらいです。[障害者手帳の]6級を持
っています。でも,聾学校とかは通ったことがなくて。「言葉の教室」には行った覚え
がありますけど。
堀: そうですか,聴力的には僕とほとんど変わらないですね。でも,僕と違って,特
殊教育を受けてきたとかいう経験はないんですね。で,自分で自分のことを聞いている
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みたいで,変なんですけど(笑)
,不便なこととかはないですか?
伊藤: それは,もちろんあります。補聴器をつけても,やっぱり聞こえにくくて。誰
かに声をかけられても気づかなかったり,無視されたりとか。
堀: そうでしょう? だから,僕の場合には,幼稚部まで聾学校にいたんですけど。そ
れで,小学校の2年生のときに外耳道形成術をした。結果は,うまくいかなかった。だ
から,今こうして,BAHAユーザになっちゃっているわけですけど(笑)
。
伊藤: 私の場合,5歳ぐらいの時に,〔外耳道形成の〕手術をしたんです。それは,堀
さんと同じように,結果としては,なにもかわらなかった,うまくいかなかったんです。
全身麻酔で3週間も入院して,大変だったらしいですけど。
‘らしい’というのは,その
時は,ただ親に言われるがままだったので,あまり覚えてないんですけどね。
堀: BAHAを使うまで,ずっとヘアバンド型の補聴器を使用されていたということでし
たね?
伊藤: そうなんです。そのヘアバンド型の補聴器というのが,小さい時はあまり不便
さを感じなかったんですけど,周りの目が気になる年頃になると髪型も自由にできなく
て,すごい不満だったんです。陰口言われたり,日常感じる煩わしさがあったり。感情
の起伏の激しい私は,何度もヒステリーになって親にあたったことか……(笑)
。
堀: ああ,そうですねえ。親にあたる,ヒステリーっていうのは,さておき(笑)
,あ
れは確かに不便ですね。僕も使ってましたから。ところで,やっぱり ,「オシャレとか
したい」っていうのは,大事ですかね?
伊藤: 当たり前ですよ! 特に女の子は気にします。贅沢なことだとは思いますが,と
ても大事なことです。あと,機能的な理由として,ヘッドバンドの補聴器では,常に振
動子を骨に当てていないといけないので,ずっと圧迫されることによる,頭痛や皮膚の
痛みにも悩まされました。
堀: 確かにルックス的な問題というのは,意外にも重要かもしれませんね。
「ただ,普
通の女の子としてオシャレがしたい」,それが社会福祉的には贅沢なこととされてしま
う。
それに,あの圧迫はしんどいですね。あの継続的な圧迫感っていうのは,使ってみた
人にしかわからない。もしかしたら,そのルックス的な問題にしても,継続的な痛みに
しても,今まであまりにも軽視されすぎてきたんじゃないだろうか。特に聴力テストで
「○○デシベル上がった」という測定っていうのは,どうしても本人の主観とはかけ離
れたところにいってしまう。もうすこし,その人の生活全体を評価する測定尺度,たと
えば,QOLによる測定とか重視されるべきなんじゃないだろうか。
伊藤: BAHAの良い点については,さきほどのルックス的なところもありますし,なに
よりも,補聴器をつけているという装着感がほとんどないです。入浴時に思わずBAHA
をとり忘れたことをシャワーを浴びる瞬間に気づいて血の気がひいたほどです(笑 )。
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堀: それは,ありますね。でもそういうことって,使っていない人には,わかんな
いんですよ。ほんとに。あと,手術の楽さもあるでしょう?
伊藤: そう,手術がとても楽。入院は1週間,局部麻酔で時間は3時間くらいでし
た。アメリカでは,日帰り手術だって言いますし。歯の治療で行うインプラントと同
じやり方らしくて,全身麻酔で行われた外耳道形成手術よりかなり手軽な感じでした
ね。もちろん成功率はBAHA手術の方が圧倒的に高いので,確かな効果と安全性を兼
ねそろえていて,この方法はシンプルかつ明快で本当によくできたものだと思います。
堀: そうですね。ところで,僕が個人的によく質問を受けることなんだけど,耳の
後ろの金属のチタンが露出しているのを見てゾッとする人が多いみたいなんだけど。
どうだろう?サイボーグみたいだ!って(笑 )。なんて失礼なヤツだ,って思うんだ
けどね。
伊藤:そんなこと言ったら,先ほどの歯のインプラントだって,そうじゃないですか!
ピアスだって,入れ歯だって,人工のものを身につけている人は他にたくさんいると
思います。なにも皮膚に覆われている必要はないじゃないですか。私にしたらコンタ
クトレンズの方がよっぽど恐い感じがしますけどね。
堀: なるほど。そういうのっていうのは,一番初めにやる人が勇気のある人なのか
もしれないね。とすると,日本で一番初めにこの手術を受けられた伊藤さんが,一番
の怖い者知らずっていうことになるなぁ(笑)
。
編集部注)
BAHAコンパクトはホナック社のMicroLinkにも対応しています。
図のようにBAHAコンパクトとPhonak MicroLink「MLx」とを接続することで,F
M補聴システムが使用可能になります。
操作は通常のマイクロリンクと同じで
○がoff,●でFM使用可能,●●がFM
とBAHA内マイクとの併用となります。
参考サイト
http://www.earreconstruction.com/baha-hearing-loss.htm
http://www.connevans.com/products/sect_01c_2003.pdf
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