DPC を活用した包括評価と今後の病院経営のポイント 日本で開発された DPC(診断群分類)は、患者を分類する新しい方法であります が、平成15年4月より特定機能病院の一般病棟において包括評価式による診 療報酬支払がスタートしています。しかし、今後の改定によってまもなく全て の病院に包括評価方式が導入されると予測されており、本格的導入に備えて DPC に関する充分な理解が必要です。そこで、DPC とこれを利用した包括評価に関す る解説と、関連する今後の病院経営のポイントをご紹介します。 1.入院医療の包括評価 既に急性期・亜急性期では出来高払いのほかに包括制が導入されており、回復 期リハビリでは包括制となっているほか、慢性期では包括払いが原則となって います。 (1) Case Mix 分類による支払の概念 Case Mix とは、病院・ヘルスケアサービス提供施設において、サービス内容に より利用者(患者)を分類する方法ですが、この分類には考慮すべき3つの特 徴があります。 Case Mixとは ・ 医療の共通語(ICD)を用いて重症度や資 源必要度によって患者を分類する方法 ・ 医療のパーフォーマンス測定や医療資源 Case Mixの3つの特徴 ・ 臨床的意義(同じ分類の患者は臨床的に似ている) ・ 資源利用の均一性(同じ分類の患者は治療費用も ほぼ同じ) の効率的な配分に用いる ・ 適切な分類数(少なすぎず、多すぎず。お互いが 区別 可能で、かつ管理できうる数) 日本国内だけではなく、国際的に比較可能な基準が必要とされています。一定 の基準による疾病分類と、前述の3原則に従った患者分類によるものが、アメ リカ・イェール大学で作られたケースミックスであるDRGであり、これは民間 主流であったアメリカの医療保険において、高齢者と低所得者に対する公的保 険が導入されたことを機に、患者情報の提供が求められ、これによって収集さ れた疾病の情報をもとに分類がなされたものです。これをベースにアメリカの 保険局、オーストラリア等で利用されており、Case Mix を活用して比較すると いう手法が世界のすう勢になっています。 (2) 医療の標準化 共通する言語と基準があって比較が可能になるのですから、こうした点を認識 して、十分なデータを収集する必要があります。Case Mix にはさまざまな有用 性と利用性があり、実際の在院日数や患者満足度の審査に用いられるほか、E BMやガイドライン作成にも非常に役立つものでもあり、また患者データの収 集やグループ分類は、急性期だけでなく慢性期や外来、その他の病床にも利用 することができ、そのために一定の基準をどのように作り、その結果医療の標 準化をどう図るかという点に収束することも可能になるといえます。 Case Mixの有用性と利用法 ・ 病院もしくはヘルスケアシステムにおいて、最も 効率的な資源の利用を決定する。 ・ 病院内での質の担保を提供する。 ・ 病院の経営、管理と予算策定に用いる。 ・ 病院が必要とし、受け取る予算の基準を決める。 ・ 病院間で予算配分に利用する。 ・ 同僚による診療内容の審査に利用する。 2.特定機能病院における包括評価の概要 今回の改正は、特定機能病院の一般病棟について、出来高払いから包括評価を 導入したものです。機能の適切な評価と、その機能にふさわしい良質で効率的 な医療を提供する観点から、診断群分類を作り活用するという趣旨です。 (1) 背景および導入の経緯 診断群分類が必要とされる背景には、国民関心の高まりや情報の標準化と透明 化の要請の一方、傷病名数や一病態に対する複数傷病名・治療方法が存在して おり、また評価のためにはある程度の数のまとまりが求められ、情報の透明化 と説明責任、客観的選択、あるいは情報共有を図ることが必要であるというも のです。ただし、本来であれば、包括された疾病群の評価を医療費負担に結び つけるかどうかは国民の選択によるものですが、国は今回の改正で支払へと活 用したということなのです。 導入に際して、厚生労働省による試行調査では、全国の国立病院等10施設を 対象とし、183から2年程度をかけて現在660種類となっている定額払い の分類を検討しています。これは、平均在院日数の短縮化や医療の質の向上を 目的としていましたが、実際には現在のところそれほどの効果は上がっておら ず、網羅性の課題も明らかとなりました。一方で、コーディング体制の確立、 事務方式の検討、クリニカル・パスの展開等の重要な実績を果たしたといえま す。 日 本 に お け る こ れ ま で の 診 断 群 分 類 に 関 す る 研 究 1.医療経済研究機構(1998年) 2.健康保険組合連合会における研究(2001年) ①調査病院ICDコーディング(ICD10・9CM)の正確 ①アメリカのDRGと日本の診断群分類(DPC Ver1)を 性は高かった。 比較し、説明力には差がない ②AP-DRGの採用が適切である。 ②網羅性ではアメリカのものが優れる ③相対係数計算方法は妥当である。 ③日本の現行システムとの親和性はDPCが優れる ④疾病別包括支払方法は妥当、但し亜急性期患 ④DPCの精緻化を推奨 者ではRUGなどがよい。 ⑤民間を含めた試行の拡大の提唱 (2) 制度の概要 今回の包括評価方式導入は、全国の82病院からスタートしました。実際の包 括範囲点数の算定には、機能評価係数と調整係数を足した医療機関別係数が用 いられます。機能評価係数は入院基本料加算を数字に置き換えて係数にしたも のであり、調整係数では、包括制に移行して経営が厳しくなる医療機関がある 可能性を考慮し、平成14年7月から10月の間の医療費実績に等しくなるよ う医療機関ごとに設定されたものであり、スタート時の混乱を回避する目的と 考えられますが、例えば、同じ大学病院でありながら10%以上も差があるケ ースもあるなど、適用には微妙な問題があります。具体例として、胃がんの例 を挙げます。 包括評価の算定のイメージ 胃がんの場合(30日間入院) ◇ 155,230点 診断群分類:胃の悪性腫瘍、開腹胃全摘術(処置等、副傷病なし) *1日当たり点数 14日まで 15日〜28日 29 日以上 2,939点 2,172点 1,846点 ◇入院医療機関:A大学附属病院 *医療機関別係数:1.0507 調整係数:1.0245 紹介外来加算:0.0257 診療録管理体制加算:0.0005 (算定内訳) ○包括評価 = 2939 点×1.0507×14 日+ 2172 点×1.0507×14 日 + 1846 点×1.0507×2 日 = 79,061 点 ○出来高評価= 76,169 点(胃全摘術等) コーディングには膨大なデータが必要であるため、提出するデータは、診療録 データとしてICD10コーディングによる主傷病名、つまり入院の契機とな ったもの、資源を最も投入したもの、退院時サマリーの傷病名、また副傷病名 として入院時依存症、入院後発症疾病というもの、入退院日・経路・転帰、手 術・特定診療行為、さらにレセプトデータとして診療行為・頻度・点数および データのダウンロード方式への対応が必要になります。日本においては、アメ リカと逆に先に制度を構築し、これに基づくデータを収集するという考え方を 取っています。 (3) 診断群分類とは 今回は昨年4ヶ月間に収集した26万7000症例のデータをもとに、最終的 に包括評価の対象となる1860という診断分類でスタートすることとしまし た。しかし、このうちの検査入院や教育入院というものが果たして入院の対象 となるのかという点については、今後の日本の医療のあり方を問う試金石とな るといえます。診断群分類コードの構成は次のとおりです。重症度については、 アメリカのDRGと比べより精緻化される必要はありますが、この部分が含ま れた点は評価されるものと考えます。 診 断 群 分 類 コー ドの 構 成 100010.3.1.01.1.1.1.1 傷病名(4桁) 重症度等 入院目的 手術等(2桁) 1.手術1(●×術) 2.手術2(△×術) 0.なし 1.あり 処置等1 処置等2 0.なし 1.化学療法等 0.なし 1.人工呼吸等 副傷病名 0.なし 1.あり 支払に使われるデータが医療資源を最も投入したもの、すなわち医療費を最も 費やしたものである点はDPCの特徴であり、医療資源の投入度合いに着目し た構築となっています。診断群類分類点数表は次のようなものです。 (診断群分類点数表) 番号 173 診断群分類番号 0201103x020x00 傷病名 手術 白内障、水晶体の疾患 処置等1 白内障手術及び眼内レンズ挿入術 処置等2 なし 副傷病 なし 重症度等 片眼 (定義告示) 番号 傷病名 手術 ICD コード 167 か 白 内 障 、 H25,H27,H28,H260, ら 178 水 晶 体の H262,H263,H264, H268,H269,Q12 疾患 まで 処置等 1 区分 処置等 2 区分 この項の手術の欄に掲げる 全身麻酔 手術以外の手術 関連手術あり K282+K283+K259,K282+K28 3+K268,K282+K283+K270,K 282+K283+K271,K282+K283 +K272,K282+K283+K273,K2 82+K283+K280,K282+K283+ K281, K282-2 眼内レンズ挿入術 K283 白内障手術及び眼内 K282+K283 レンズ挿入術 白内障手術 K282 区分 副傷病名 ICD コード E10,E11,E12, E13, E14,H20,H30, H33, H40,H42,H181 ,H590,H598,I2 0, I25, T814 その他の手術あり 日本の診断群分類は、ほとんどが学界主導で行われていましたが、現在スタン ダードとされる分類方法は次の樹形図のとおりです。 《全診断群分類樹形図》 傷病名 検査入院 年齢、出生時体重等 手術 あり なし 手術1 手術2 処置等1 60 0100503x99xxxx なし あり 0100503x020xxx 61 0100503x021xxx 0100503x01xxx この制度によって、診療報酬請求の基本が診断情報になり、病院内で診断・診 療情報を迅速かつ正確に伝達することが最大のポイントとなってくると共に、 これが業務・医療の質の向上につながると考えられており、経営面からは、患 者ごとのコストの把握と管理がより容易になり、またDPCという共通概念の 導入によって病院間、診療内容間の比較が可能となって、情報公開が促進され、 比較検討ができる方向へ進むと考えられています。今後の議論は医療機関の機 能に着目した評価へと焦点が移ることになります。さらに、制度の改善には病 院からのフィードバックが重要であり、情報を収集して実際に検証するため、 導入後1年以内の見直しを図り、分類数や評価範囲の相当性に関する検討がな されるべきです。 3.包括評価制度における論点 21世紀における医療の将来像には、質の高い効率的な医療提供体制が掲げら れ、情報開示や患者の選択、医療の質の向上というキーワードが登場しますが、 これが今回のDPC導入の裏のメッセージといえます。制度改革の基本的方向 においても同様のキーワードが挙げられています。 (1) 入院あたりの包括と1日あたりの包括の比較 出来高払いから包括払いへコストの削減、および一定の医療費で一定の診療を なすために医療の質の向上に対する意識も進んでくると考えられます。 出来高払いと包括払いの比較 支払単位 危険負担(費用が予想を越 えた場合の費用負担者) 診療の動機付け 出来高払い 包括払い(DRG/PPS) 医療行為 診断名・処置名 (1回の入院全て) 患者・保険者 医療機関 過剰診療(overuse) 過小診療(underuse) 医師のコスト意識 小 大 医療の質についての意識 小 大 売上増加 コスト削減 動機付けなし 動機付けなし 病院経営上の動機付け 予防医療 1件あたり包括評価と1日あたり包括評価の比較 1件 あた り包括評 価 強い 在 院日数 短縮の インセ ン ティブ 現 行支払 い制 度との整 合性 経 営への 短期的 影響 強い 月 単位の 支払い が難 しい 大き い 1日あた り包括 評価 比較 的弱い 。ただ し、平均 在 院日 数の評 価によ っ てイン セ ンティブ を 高める こ とが可 能 比較 的弱い 。ただ し、平均 在 院日 数の評 価によ っ てイン セ ンティブ を 高める こ とが可 能 月単位 での 支払 いが容 比較 的小さい ただし、 1件あたり包括評価=在院日数調整係数×1日あたり包括評価であり、 両者に資源消費量を反映する指標としての内容に大きな差はない。 比較的長い在院日数を要する疾患については、入院が終わってから診療報酬が 支払われるという経営上の問題点も挙げられます。 (2) 医療機関格差の評価 病院間比較として平均在院日数をみると、昨年4ヶ月間のデータでは最短で1 7日余り、最長で31日となっており、かなりの差があるのが現状です。在院 日数が長くコストも高い施設と、そうではない施設とにどのような差があるの かを検証している。それぞれの施設で用いられているパスの違いや重症度の差、 パスの内容についての比較が可能になります。 【病院間比較方法例】 イギ リス的 診 断 群 分 類 の 利 用 診断群分類番号○○ 在院日数 あるいは 費用 ニ病院 ハ病院 ロ病院 イ病院 ハ 病 院 の C ritical P ath ロ 病 院 の C ritical P ath … ・差 を も た ら し て い る 要 因 の 比 較 (CP、 重 篤 度 、 年 齢 、 治 療 手 技 、 … ) ・結 果 の 比 較 (予 後 、 再 入 院 率 、 … ) 退院 処置 … 第2日 検査 処置 第1日 第0日 退院 第2日 第1日 第0日 検査 4.包括評価時代の病院経営 (1) 質が高く効率的な診療の提供を目指す 「いかに良い診療を効率的な原価で提供するか」を目的とした病院経営のポイ ントは、次に挙げるとおりです。包括部分においてはいかに外来で検査等を実 施するかという点は、質との問題の検討と共に一定部分しか報酬が得られない ため、プラスアルファへの取り組みが必要です。包括評価において重要なのは、 コスト管理と質の管理であり、これに関連して情報の管理と活用は、患者が残 した非常に多くの情報をどう利用するのか、いかにシステマティックに活用す るのかということを意味します。ポイントは次のとおりです。 1. 包括部分のコスト管理と質の担保 2. 出来高部分の外来機能の検討 3. 健診等地域における健康管理 予防への取り組み (2) コスト分析と原価計算方法 何らかの手法を用いてコスト分析を行うことは必要ですが、個々の病院での取 り組みは難しいというのが現状です。この手法の一つとして、患者別・診断群 分類原価計算方法を検討します。原価計算の目的は、次の3点です。 多数の病院で、共通基盤に基く(比較可 能な)原価計算を可能にする 病院における内部管理にも活用する 理にかなった価格(診療報酬)決定のた めの参考情報を提供する 基本的な考え方は、患者別の原価を推定し、診断群別の原価を、患者別の原価 を積み上げた形で考えようというものです。また、異なる設置主体でも使用可 能なマニュアルの作成を目指し、原価計算の原則としてできる限り患者に直課 することができます。患者別原価計算の大まかな流れは次のとおりです。 《部署別原価計算》 1.原価項目の設定 2.原価集計単位の設定 NO 患者への 直課項目 YES 3.部署(サービス区分)別原価の 算出 4.関接部門費の直接部門への配賦 直課可能な 医師給 コメディカル給 5.患者への直課 材料費など 看護師給 事務員給 直課不可能な その他経費 6.患者への配賦 材料費など 費目 7.患者別原価の算出 間接部門の 各部署 診療科 患 中央診 療部門 間接部門 病棟 者 最終的には、固定費と間接部門費についても、診療部門、中央診療部門、間接 部門にわけて配賦し、そして患者ごとにDPC番号を付加して、それぞれ算出 した原価を積み上げて診断群別の原価を計算するという手法であるため、膨大 なデータが必要となります。 5.質の管理 コスト管理の取り組みが求められる一方、質の管理も重要であるといえます。 医療の質の向上に向けての試みの体系イメージは次のとおりです。 EBM パス 情報ルールの統一 治療結果 の改善 結果測定 PM・CI 医療情報 の公開 CQI・TQM 治療のバラツキ の縮小 医療事故対策 消費者 意識高揚 認定 医療の質は、次のような要素で構成されるといえます。 効果 Effectiveness 安全safety 構造 過程 結果 End Result 効率 Efficiency プロセスアプローチ アウトカムアプローチ 公平 Equity プロセスアプローチと ア ウ トカム ア プ ロー チ の 比 較 • プロセス • アプローチ • 特徴 • 最適な治療方法 を提示 • 欠点 • 最適な方法は必 ずしも最良の結 果を保証しない • 例 • EBM、クリニカ ルパス • アウトカム • アプローチ • 治療の結果を提示 • 結果が悪くても改善 策を提示できない • 患者データベース、 クリニカルインディ ケーター プロセス・アプローチとアウトカム・アプローチを統一して考え、EBMやク リニカル・パスの活用によって、両方を見分け質の向上につなげることが必要 といえます。 (1) プロセスの管理 クリニカル・パスもプロセス・アプローチのひとつであり、産業界における管 理手法を医療に応用したものです。業務管理をアウトカム保証に、時間管理を 在院日数の短縮へ、コスト管理を費用の節約に応用しています。当初はクリテ ィカルパスと呼ばれ、これは「一定の疾患をもつ患者に対して特定の結果をう るため、医療チームによって行わなければならない必要不可欠(critical)な 仕事内容と最も望ましい実施順序・時期について一覧表にまとめたもの」とい う定義によります。バリアンスとは、予定されたものが運用できなかった原因 を把握するというものであり、バリアンス・コードとして患者、医療チーム、 システム、社会の各要因における原因をまとめ、パスを改訂する際に用いるも のです。 クリニカルパスの目的とパス作成必須事項 ・情 報 の 共 有 患者への説明 医療チーム ・業 務 の 標 準 化 成果の評価 バラツキの減少 職員教育 効率化 ・医 療 の 質 向 上 バ リア ン ス 対 応 パス改訂 患者用パス 職員用パス 成 果 目 標 ・評 価 バ リア ン ス 業務の標準化については、成果目標を設定し、評価することが重要です。バリ アンスによって、職員の標準化もなされることになります。担当医師に関わら ず、同じ疾患の患者に対して同じパスを実施することは、職員のレベルが短期 間で向上することになるため、新人教育にも活用できます。また、医療の質向 上として、バリアンスに対応し、これを検討することは、改善業務につながる 上、パスの改訂のみならず病院全体の医療の質の向上につながるといっても過 言ではないかもしれません。 クリニカル・パス導入と実施のポイント ① 医師を中心としたC.P.作成,運用の委員会 ・全職員参加 ・簡単な検査,定型的治療の可能な疾患から採用 ・運用マニュアルの作成 ・試行ー分析ー評価ー改善の繰り返し (バリアンス分析の重視) ・患者用,実施記録も含めた職員用のパスと ワークシートの作成 ・記録の簡素化 ② 看護職員からのケースマネージャーの採用 ・毎日の患者からのヒアリング ③ 院内研修会の実施 記録の簡素化のため個別性のある記録は別に作成し、パスとの関連がある事項 のみを記載する方法を取ることで、後日パスを確認する人間、つまり、診療費 を請求する医事課の職員が理解できる内容にするということでもあります。運 用マニュアルは、指示簿としても活用されるため指示・実施確認方法の決定、 連絡方法、記録、評価については個々の病院で作成しなければならない事項で す。パスの導入に際しては、個々の病院の現状に合わせたパスを作成し、そこ からスタートして収れんを図るという方法を取り、他院の例はあくまでも参考 程度とし、簡単な検査から手がけることが円滑な導入のポイントといえます。 クリニカル・パスとは、臨床データとコストデータの二つのデータシステムの 統合であるといえます。これを利用してケアと、削減ではなくコストの適正化 を図ることが目的なのです。 (2) アウトカムの管理 アウトカム・アプローチの活用としては、継続的なデータ収集と還元がありま す。当面の取り組みとしては、退院時サマリーや ICD コーディングの導入等の 診療情報の整備、パスやガイドラインの活用による診療内容の標準化、そして アウトカムの評価と機能評価や ISO のような外部資源の利用によって、医療の 質の向上を図ることが求められています。また今後の方向性としては、ガイド ラインやクリニカル・パスによる医療の標準化の推進、そしてアウトカム評価 として患者が予定したとおりに治癒するかどうかという点でクリティカル・イ ンディケーターの開発が求められており、その妥当性については今後の課題と いえます。 (3) リスクマネジメント リスクマネジメントが質の管理であるという認識が確立されているかといえば、 必ずしもそうではありません。マネジメントに必要なものは、トップの意識改 革と安全文化の樹立であり、そしてシステムの確立と標準化、安全指標を設定 すると共に調査と管理体制を確立することが重要です。また安全情報システム の確立には、ヒヤリ・ハット事例の報告が必須ですが、パターン分析は図られ ても改善への検討は困難であることが多いのが現状であり、取り組みが必要と 考えられます。また医療事故報告については、予め対策をたてておくこと、標 準化については、病院として統一されたマニュアルでの実施、工程数の減少と 実施主体の明確化、標準化という日常の留意が問題を起こさないために必要で す。危機管理体制の確立には、具体的な想定リスクに対応して策定し、情報と 指揮権限の流れと役割と行動をマニュアル化しておくことも重要なのです。医 療において最も重要で当たり前の品質は安全です。これを確保するために、従 来のリスクマネジメントからセーフティマネジメントへと取り組みを替えてい くことが求められます。 6.包括評価導入にむけて (1) 導入までに必要な準備 包括評価が導入されるまでに必要と考えられる準備は次のとおりです。 1. 主要疾患に対するクリニカルパスの導入 2. 正確なコーディングと診療録の改定及び診療 情報管理内容の決定(診療情報管理室の設置) 医師の理解・コーダーの養成 3. 研究班プロジェクトの考え方に沿ったコスト計算 方法の確立 優秀な医事課職員の養成・業務手順の改変 クリニカル・パス導入は必須事項であり、また情報の分析・活用においては、 患者満足度・職員満足度の分析が必要と考えられますが、現在は標準化された ものがないため、自院での調査をまず実施して、その後比較が可能な標準化さ れたものに乗り換えるという方法で差し支えありません。データの作成方式フ ローチャートは図表のとおりですが、まず自院でのシステムを作り上げていた だきたいと考えます。 医事課* 様式1入力票に基本情報 を入力後、カルテにいれて 病棟に送付 入院 院内の各部門の役割を明確化 医事課*: データの流れの管理 主治医: 必要情報の記載 医療情報部・病歴室: データの質の管理 (各科別コーディングミスの分析) 提出用ファイルの作成 転科 退院 医事課* Kコードの入力と 記載漏れの有無のチェック *: レセプトを作成し、提出する 責任部門 病棟 主治医が退院(転科)時 に情報を記入 ICD10コーディングを含む 医事課* Kコードの入力と 記載漏れの有無のチェック 医療情報部・病歴室 1)内容のチェック・必要に応じてコーディング 2)入力支援ソフトを活用してデータファイルの作成 3)転科例の場合、単一データの作成 検索ソフト 活用 医療資源を最 も投入した傷 病名の確認 医事課* ファイル名の確認など 厚生労働省に他の様式データとともに送付 (2) 早急に行うべき対策 第一に DPC に関する知識を習得する取り組みが必要です。また、自院での症例 に対して DPC の当てはめを行い、包括評価において、赤字部分を含んでいる大 学病院の診療報酬請求額と比較し、自院のほうが高い場合には、早急な取り組 みが必要であるといえます。具体的な取り組みを挙げます。 1. DPCに関する医師を含めた研修会の実施 2. 自院症例に対するDPCの導入 3. 新設包括評価における在院日数・診療報酬と 自院症例の比較 4. IT化予算の捻出
© Copyright 2024 Paperzz