C on t en t s 総論 1 序論 1-1 医療材料マネジメントが求められる背景と課題 医療材料のコストと質の二兎を追う(武藤 正樹).......................................... 3 1-2 病院経営者が行うマネジメント(上塚 芳郎).....................................19 総論 2 医療材料マネジメントに必要な知識 2-1 2-2 2-3 2- 4 医療機器の審査迅速化に向けた取り組み(安川 孝志)....................31 薬事と治験(昌子 久仁子).........................................................................45 診療報酬と償還価格(昌子 久仁子)........................................................55 医療材料の内外価格差(上塚 芳郎).......................................................67 各論 1 医療材料マネジメントサイクルの実際 1-1 1-2 医療材料マネジメントサイクルの基礎(行本 百合子).....................77 医療材料共同購買の実際 厚生連病院における医療材料共同購買の実践(木内 健行)..........................87 1-3 医療材料共同購買の実際 社会保険病院グループの取り組み(木内 雅人)............................................97 1- 4 1-5 SPD による医療材料マネジメント(大橋 太)................................ 113 手術室における医療材料・医薬品管理の 可視化(田中 聖人,山本 順一)................................................................. 125 各論 2 医療材料関連サービスの活用 2-1 医療材料データベースを用いた ベンチマーク分析(古木 壽幸)............................................................ 137 2-2 地域医療ネットワークによる 医療材料マネジメント(高木 浩輔).................................................... 147 2-3 流通産業の医療への参入 アスクルのメディカル&ケア事業への取り組み(矢吹 和久)................... 159 2- 4 2-5 在宅向け医療材料の分割販売(伊藤 大史)....................................... 169 医療機器バーコードの普及状況(黒澤 康雄).................................. 185 各論 3 マネジメント先進国・米国の事例に学ぶ 3-1 3-2 米国における医療 GPO の現況(岡部 陽二,塩飽 哲生).................. 199 モンテフィオーレ・メディカルセンターの 経営管理(山本 友紀).............................................................................. 221 各論 1-1 医療材料マネジメントサイクルの基礎 1 医療材料マネジメントサイクルの実際 総論 1-1 医療材料マネジメントサイクル の基礎 1 2 各論 1 第一東和会病院運営推進部長 行本 百合子 現在の医療において医療材料は必須のものとなっており,ほとんどの医療行為に欠かす ことができない。また,医療行為の進歩にも大きく貢献している。しかし,医療材料にか かるコストが病院経営に大きな影響を与えていることも見過ごすことはできない。そこで, 2 3 病院にとって多額な変動費となる医療材料を適正に,かつ効率的に扱うことが,いかに病 院経営の健全化につながっているか,なかでも,その業務に直接携わる現場の職員の意識(業 務への思い入れ)の差によりどれだけ大きな違いが生まれるかについて述べたい。 1 医療材料の定数管理 医療材料の定数管理は,各病院が在庫量と購入量を計画的に管理する方法として 30 年ほ ど前から行われている。最初は,2 セット同じものを準備して決められた曜日に供給する 「セット交換方式」という方式から始まった。しかし,同じセットを 2 つ作る必要があるの で在庫量が増える,またセットしたカートやワゴンを置くスペースが必要であるなどの理由 により,あまり多くの病院では採用されなかった。しかし,定数を 1 セットとして配置し, 使用量をカウントしてピッキングし,配置部署に払い出す方式は多くの病院で取り入れら れ,現在に至っている。さらに現在では,DPC 制度(DPC/PDPS:Diagnosis Procedure Combination/Per-Diem Payment System)の病院が増えてきたこともあり,診療行為に 対する医療材料の使用量を可視化できるシステム作りに挑戦している病院が増加している。 2 医療材料を合理的に管理するために 各病院とも医療材料を合理的に管理するために,特に DPC 制度が開始され,手術で使 用されるもの以外はほとんどの医療材料がコストとなることが決まって以来,病院経営者 の視点が大きく変化した。それ以前から医療材料マネジメントの重要性を認識している病 院は,医療経営の変化にも柔軟に対応してきたが,そうでない病院はその時点から取り組 みを始めたため,非常に苦労をしているところも多い。しかし,医療材料費が病院の費用 のなかで薬剤費を上回っている病院もあり,医療材料マネジメントは避けて通ることがで きない。このコストをいかに管理するかによって,病院の健全な経営(利益が生み出せるか) に大きな差が生まれてくるのである。 77 1 医療材料マネジメントサイクルの実際 私は病院管理者としての立場から,病院組織のなかで良好な医療材料マネジメントへの 取り組み(対策)を定着させるためには, ① 有能な人材の育成 ② 有能な人材による医療材料の科学的な管理 ③ 病院全体の協力体制としての管理 ④ 医療材料マネジメントの進化 という 4 点について,あまり長い年月をかけるのではなく,1 年間程度の教育スケジュー ルで実践することが重要と考えている。医療材料マネジメントを実践するための人材の選 抜は重要であるが,選抜された人材が秀でた資質をもっていることを求めているわけでは ない。選抜された人材のグループのなかで能力を高め,その相乗効果で業務を遂行してい くことが,医療材料マネジメントには不可欠である。 いずれの病院においても,医療材料マネジメントのための人材の育成は困難を極めてい る。私が所属している病院でも同様である。新卒,中途採用者などさまざまなケースがあ るが,どの人材も医療材料の取り扱いをまったくといってよいほど知らない。知っていた としても注射器や包帯という程度である。そのような職員に医療材料の管理について教育 するためには,その道の先駆者が行ってきた成功事例を踏襲している場合が多いが,そう すると「なぜ」その業務が重要なのかという認識・根拠が学べないことが多い。 私が医療材料の管理には業務のプロセスが重要なポイントであることを学んだのも,医 療材料に携わっていた先駆者からではなく病院経営管理者からだった。この病院経営管理 者から購買プロセス業務について質問を受けたことがきっかけだった。 どのような経緯で購買をするのかと問われると,通常は購入依頼が来たからと答える。 購入依頼のプロセスを理解しなければ,単に業者へ購入を依頼し,検品・受領を行い,購 入品を届けるだけの職員となる。しかし,購入のプロセスを理解しておくと展開は変わっ てくる。図 1 に示したプロセス図は,購買業務プロセスの考え方の一例である。すべての 医療材料においてこのプロセス図を最初から参考にする必要はないが,少なくとも各病院 においてこのプロセス図を参考にする範囲基準(単価,購入総額など)を設定しておくと, 業務遂行の教育が実践しやすいことを学んだ。そこで医療材料マネジメントの業務プロセ ス図を作成した(図 2)。この図が医療材料,その他の物品の管理業務を行ううえでの基礎 となっている。 78 1-1 医療材料マネジメントサイクルの基礎 総論 ステップ 事業 統括本部長 品質管理 責任者 経営 会議 各種 委員会 各施設長・ 各部署長 各施設・ 各部署担当者 用度施設課 供給者 規 格 関連文書(手順,帳票) 1 方針・目標を決定 情報収集 現状の機器・物品の稼働状況や,学会・研修会・他施設の使用状況などの情報収集 購入品 検討 2 購入の必要性を検討 再検討の必要がある場合 再検討の必要がある場合 概算見積書の 作成 概算見積依頼書の作成 見積書 (概算) 見積依頼書 (概算) 各論 見積依頼書(概算) 1 機種・規格・仕様・ 収支を検討 購入要望書の作成と依頼 購入 要望書 見積依頼書の作成 購入物品の 情報収集と整理 見積 依頼書 見積書の作成 2 購入要望書 見積依頼書 3 見積書 再検討の必要がある場合 再検討の必要がある場合 価格の検討 検討・報告 購入業務 供給業者評価・ 選定手順書 (P-Q-004-00-030328) 契約書作成・ 購入契約発注 承認 売買 契約書 注文書 売買契約書 注文書 受注 納品 購買品(購買サービス) 管理手順書 医療材料・試薬 (P-Y-021-01-030407) 医療機器・その他備品・ 消耗備品 (P-Y-021-04-030407) 検収 不良品の処置 検収 受領 受領書 受領書 供給 検収確認 不良品の処置 検収書作成と 提出 検収書保管 検収書 検収書① 検収書② 高額機器,薬品, 材料稼働状況の報告 報告 マネジメン トレビュー 稼働状況 高額機器, 報告書 薬品,材料 稼働状況報告書 図 1 購買業務プロセスのフロー図 3 医療材料マネジメントの要は使用管理 医療材料マネジメント業務は,大きく次の 4 項目の管理に分けられる。 ① 使用管理 ② 供給管理 ③ 購入管理 ④ 在庫管理 79 1 医療材料マネジメントサイクルの実際 各病棟 各納入 業者 ④ 病棟への供給 用度業務 ⑥ 検収(支払) ⑤ 納品(購入) ② ③ 用度課 中央 倉庫 診療(使用)① 医師・看護師など ③ 患者 在庫確認 請求明細 請求・供給の調査確認 医事課業務 診療費請求 ⑦ 医事課 図 2 医療材料マネジメントのプロセス図 特に重要な項目は「使用管理」である。使用管理について,職員は使った医療材料を把 握して供給することだけで満足している場合が多い。真の使用管理とは,患者に対してど のように使われたか,あるいは職員の安全管理(感染防止)のためにどのように使われたか を把握したうえで,その使用量の妥当性の根拠を確認した後,使用した部署または患者個 人に対して供給することである。 使用管理業務のプロセスを基本から学ぶためには,外来・入院診療業務フロー図から考 える必要がある。しかし,医事課業務の経験もない,まして病院経験が初めての職員には 困難である。医事課職員とのコラボレーションが可能なシステムを構築できる病院の風土 があれば,職員教育は向上するので,事務管理者はぜひ取り組んでほしい。 病院の診療業務は医師の指示によりすべてがなされる仕組みとなっている。そのことを 踏まえて,使用管理の内容がどのようになっているか,医療サービスを提供する過程にお いて患者の方に満足していただけているか,医療材料が適切に使われているかを見極めて いくことが重要である。これらの成果を把握することはなかなか難しいが,要は,治療の 結果が良好で,予定どおり治療が終了して退院されているかということである。このため には患者の声を聞くことも大切である。また,経済的効果の確認も重要である。このため には,使用者(診療者側)が支障なく通常の診療ができる,多くの職員が失敗しない(失敗 が少ない) ,患者の苦痛が少ない使い方ができている,などを確認する必要がある。 例えば点滴注射を行う場合,通常,留置針または翼状針が 1 本使用されるが,複数の針 が使われるケースが多くなると,患者からのクレームが発生し,病院の費用も増大する。 このような状況がなぜ起こっているのか原因を見つけて改善することが使用管理である。 使用管理においては,経営的な側面だけではなく,顧客(患者,職員)満足という側面を見 極めることが重要なポイントである。 80 1-1 医療材料マネジメントサイクルの基礎 3.1 医療現場における使用管理のポイント 総論 1 医療現場における使用管理の重要なポイントは次のとおりである。 2 ① 採用基準(ルール)を明確にして,そのルールを遵守する。 医療材料委員会で検討し選択したものを使用する。 各論 1 ② 請求漏れを見つけられるルールを決める。 使用したら医事課と用度課に連絡するということをルール化し,医事課請求と用度課の 2 供給を一致させておく。ポイントについては「3.2 特定保険医療材料の使用管理のポイン ト」の項で説明する。 3 ③ 採用時の使用方法(目的)を許可なく変更しない。 例えば,採用時には 2 個の使用で十分という費用計算であったが,途中で 4 個に変更し, 変更をその部署のみで決めてコスト増となるということが発生する。変更理由を申告させ ることでコスト増を防ぐことができ,顧客満足度を下げないようにすることもできる。 ④ 医療材料を使用するうえで,必要以上に使用しなければならないような状況の変化が あった場合は,すみやかに用度課に連絡する。 継続して使用している間に,その医療材料と併用する医療材料の変更によりうまく使え ないようになったり,メーカーの都合で材質が変更されたりすることがある。そのままの 状態で使用を継続していると,③と同様の負の連鎖が発生してしまうので注意したい。 ⑤ 患者,診療者側,経営者側にとって良い提案は,どんどん用度課に伝える。 用度課にいろいろな意見を言うことができないような風土を作ると,診療者側の意見が 出なくなる。これは,さまざまな問題が発生しても情報があがってこないことになるので, 顧客満足の低下はもとよりコスト増につながる。 ⑥ 最後に,医療メーカーの力を借りることも大切である。 医療材料にはさまざまな機能がある。効能・効果がある場合のみにしか使うことができ ない材料もなかにはあるが(特定保険医療材料),一般医療材料,特に衛生材料などの使用 は診療者側の裁量に任されている。しかし,医療材料メーカーは製造販売にあたって,そ の医療材料の使用目的や使用方法に機能をもたせて販売している。メーカーは新製品の売 り込みには熱心だが,その後のフォローが少ないことが多い。診療者側も職員の異動など により徐々に使用方法が適当になっていく。このため,当初の目的から外れてきたと思わ れる医療材料については,用度課がメーカーの勉強会を開催することは適正な使用管理に つながる。 3.2 特定保険医療材料の使用管理のポイント 特定保険医療材料の請求は,DPC 制度においても出来高で行える場合がある。もちろん 外来診療では出来高で請求できる。特に特定保険医療材料の使用記録により診療行為を予 測できる場合がある。その結果,診療報酬の正確な請求にもつながる。診療行為によって は請求が認められていない特定保険医療材料もあるが,特定保険医療材料の使用状況を診 81 1 医療材料マネジメントサイクルの実際 療者側,医事課,用度課との連携を密にして正しく請求できるシステムを構築しておくこ とが重要である。また,請求が正しくできたことを確認する責任者を明確にしたシステム にしておく必要もある。正しい請求(使用管理)を行うためのポイントを次に示す。 ① 特定保険医療材料の定義を用度課または医事課から診療者側に説明し理解してもらう。 ② 特定保険医療材料と一般医療材料を区別できるようにしておく。 特に手術室,血管造影室,内視鏡室など,特定保険医療材料の使用頻度が高い部署の職 員は識別しやすいような工夫をする(ラベルの色を変えるなど)。これが情報の伝達をスムー ズにすることにつながる。 ③ 情報の伝達方法をルール化しておく。 病院での工夫にもよるが,現在,電子カルテは導入しているが,手術室や血管造影室, 内視鏡室といった部署では診療者側(看護師など)が事後で入力するという病院が多い。事 後入力であるため請求漏れが発生しやすい。そこで,用度課からラベルなどで識別したも のの入力を促し,かつ使用量の把握を正確にさせ,医事課に請求漏れのチェックを依頼す るという情報伝達ルールを確立することが重要である。つまり,二重チェックとなるので ある。 ④ 手術室や血管造影室,内視鏡室といった部署では毎日使用量を確認する。 可能であれば患者単位が望ましく,看護部の協力は不可欠である。特に手術室での使用 はすべて請求できることが多いので,入力ミスが起こらない(起こっていないことを確認で きる)ルールの策定が重要である。このルールでは,事務職員がリーダーシップをとるよう にすることが望ましい。つまり,入力現場に事務職員が配属されるようにし,その職員が 医療現場と一体となって入力(請求)業務を担当するようにするのである。 ⑤ 特定保険医療材料の保険請求コードは用度課が確定し,医事課でも同じ番号となるよ うにしておくことが重要である。 しかし,電子カルテなどの関係で番号を一致させることができない場合は,キーワード などにより同一であることがわかるようにしておく。 ⑥ 特定保険医療材料は使用量(患者の診療に使う量)にあわせて供給する。 用度課は, 「いつ」, 「誰に」,「どれだけ」とういう情報に基づいて供給する。ただし,す べての特定保険医療材料が対象になるわけではないが,患者固定できる場合は確定した情 報によった使用管理を行う必要がある。 この方法は高額な一般材料医療材料にも適応。 ⑦ ⑥の方法で使用管理を行うことで,診療者側のミス,患者の状態の変化による使用中 止,診療報酬制度の適応外などによる情報の変化を把握する。 これは,用度課だけではなく診療者側および請求担当者側との情報共有により,適正な使 用管理へとつながる。 3.3 定数配置材料の使用管理のポイント 先に述べたように定数管理を行っている病院が多くなってきているが,適切な定数管理 82
© Copyright 2024 Paperzz