2014年 第4巻 第1号(PDF:2.2MB

千歳科学技術大学
フォトニクス研究所紀要
2014 年
第4巻 第1号
千歳科学技術大学
フォトニクス研究所
1
目次
フォトニクス材料研究
固相内分子回転運動と相関する発光性材料の開発
坂井 賢一
5
フォトリフラクティブ活性と分子構造の関連性: アゾカルバゾールおよび関連色素化合物
のさらなる構造修飾
今井 敏郎
6
自己組織化を利用したバイオミメティック材料の作製
平井 悠司
8
谷尾 宣久
9
大越 研人
10
梅村 信弘
11
梅村 信弘
12
川辺 豊
13
小林 壮一
14
透明ポリマーの屈折率予測システムの開発
枯渇作用により棒状高分子が形成する特異な相分離構造
5mol% MgO 添加 LiNbO3 結晶の疑似位相整合特性
BaGa4S7 結晶の位相整合特性
フォトニクスデバイス研究
DNA-脂質-色素複合体薄膜による波長可変レーザー
VAD 法による Bi 添加石英光ファイバの利得特性
2光子吸収を利用した GaAs フォトニック結晶導波路によるアップコンバージョン光
の発生
小田 久哉
15
液体をコアとするフォトニック結晶ファイバーの分散特性
唐澤 直樹
2
16
フォトニクスシステム研究
学内既設マルチモードファイバ伝送路を用いた 10 Gbps 伝送実験
山林 由明
17
光ファイバ出射光スポット内に観察されるスペックルパターンの外乱応答特性
長谷川 誠
18
ワンチップ PLL IC を用いた RF 周波数シンセサイザの製作
福田 誠
19
小田 尚樹
20
パワーアシスト車椅子の操縦支援制御
バイオフォトニクス研究
福祉施設向けのハーブ植物工場技術の研究開発
-障がい者の就労支援と園芸療法に適したハーブの通年栽培化の検討-
吉田 淳一
21
瞳孔反応と眼球運動のイメージ解析に基づく中枢性神経機能診断システム
南谷 晴之
22
李 黎明
24
木村-須田 廣美
25
FT-IR を用いた胆石治療の基礎研究
甘草の新規品質評価法の開発
大学院光科学研究科光科学専攻 博士後期課程 平成 25 年度研究中間発表会要
旨
看護過程での知識理解のための e ラーニング活用
辻 慶子
26
田中 佳子
29
人間力育成を取り入れた e ポートフォリオ
3
その他
コロキウム報告
31
14th Chitose International Forum on Photonics Science and Technology (CIF’14) 開催報告
CIF’14 組織委員会
32
ナノテク推進委員会
35
分子・物質合成プラットフォームの紹介
編集後記
38
4
フォトニクス材料研究
固相内分子回転運動と相関する発光性材料の開発
Creation of Fluorescence Emission Coupled with Molecular Rotational Motion in
Organic Solids
バイオ・マテリアル学科 坂井賢一(Ken-ichi SAKAI)
We tried to develop fluorescent materials incorporated with molecular-motor-like supramolecular
structure, where crown ether acts as a bearing and organic ammonium does as a rotor. In such the
system, fluorescent property is expected to be correlated with ferroelectric property induced by
flip-flop rotational motion of molecules.
近年、ミクロな分子運動をマクロな固体物性に反映さ
せることによる新規物性の探索が注目されている。一例
として、クラウンエーテルを軸受、m-フルオロアニリン
を回転子とした超分子構造体が組み込まれた分子性結晶
において、分子回転と双極子反転の連動により強誘電性
の発現が報告されている。 1)本研究では、このような超
分子構造体を発光性物質の中に組み込むことで、分子回
転に起因する強誘電性と発光性の相関・融合システムの
構築を目指した。今年度は、超分子カチオンとの塩形成を念頭に蛍光性アニオン分子の設
計・評価を進めた。
Fig. 1. A potential curve for concerted
(1) 蛍光性プテリジン誘導体ルマジン
displacements of two protons from the
シアノ基を導入したルマジン(DCNLmH2)は高い酸
N3 to the O(–C2) side in the
–
HDCNLm dimer, obtained using DFT
性度のため容易にモノアニオン[DCNLmH] となり、テ
single-point calculations.
トラブチルアンモニウム塩として結晶化した。結晶は
530 nm に極大をもつ黄色の強い蛍光を発するが、それ
はモノアニオンが形成する二量体に由来する。二量体
は2つの対称的な N–H···O− 型の特異なイオン性水素
結合により形成されている。水溶液中でも結晶と同じ
蛍光スペクトルを与えることから、この二量体が水溶
液中でも安定に存在できることがわかる。プロトンの
電場による変位の可能性を探るため、DFT計算によ
る解析も行った(Fig. 1)。また、拡散法による超分子カ
Fig. 2. Potential energy curves for the
チオンとの塩形成の試みも進めている。
proton coordinates of three kinds of
(2) 分子内水素結合をもつ蛍光性キノキサリン
hydrogen-bonding interactions (d1-, d2-,
and d3-interactions). a) (hqxc-)2 dimer
3-ヒドロキシ-2-キノキサリンカルボン酸(hqxcH)は
andE - dNH plots. Two N-H protons in
亜鉛イオンと錯体を形成し、励起状態分子内プロトン
(hqxc-)2 dimer were changed under the
condition of d1 = d1' from dNH = 0.6 to 2.0
移動反応(ESIPT)に起因する蛍光を示す。hqxcH 自体の
Å. b) (H2Im+)(hqxc-) cation-anion pair
蛍光性はそれほど高くないが、カルボン酸からのプロ
and E - dNH plots for two kinds of
hydrogen-bonding d2- and
トン脱離と関係して分子内及び分子間水素結合が影響
d3-interactions.
を受け、呈色や蛍光発光が変化することを明らかにし
た。またプロトンアクセプターとしてイミダゾール(Him)を用いた場合、その錯体結晶は強
誘電特性を示すことを見出している。プロトン変位に関するDFT計算から、分子間での
プロトン移動が強誘電性発現に関与することが示唆された(Fig. 2)。
1) T. Akutagawa, et.al., Nature Materials 8, 342-347 (2009).
5
フォトニクス材料研究
フォトリフラクティブ活性と分子構造の関連性: アゾカルバゾール
および関連色素化合物のさらなる構造修飾
Relationship between Photorefractive Activity and Molecular Structure: Further
Structural Modification of Azocarbazole Dyes
バイオ・マテリアル学科 今井敏郎(Toshiro IMAI)
A joint research project with Kawabe’s group of CIST on development of organic photorefractive
device of faster response is continueing. We prepared several p-nitrophenylazocarbazole dyes of
structural variation in the carbazole N-substituent and tested for improved photorefractive
properties. We are also preparing some analogues having acceptor part other than nitro group, for
example, cyano, sulfone, and ester groups, aiming at the use of shorter wavelength for the writing
process.
現在、新規フォトリフラクティブシステムについての川辺研との共同研究が進行中であ
る。フォトリフラクティブ材料としてはアゾ化合物が使われることが多く、本研究でも、
図1に示す、アゾカルバゾール色素のヒドロキシエチル置換体 NACzEtOH を PMMA
中に分散させた薄膜試料が比較的優れたフォトリフラクティブ効果を示すことから、この
ものが先導化合物となっていた。2011年度には、中央のπ共役橋部分をアゾ結合 N=N
から、2つのイミノ結合 N=CH と CH=N に、さらにはオレフィン結合 CH=CH に置
き換えたものを合成し、フォトリフラクティブ活性についての比較を行って、N=CH 体が
N=N 体に务らない性能を示すことを明らかにした。
NO2
N
N
N
HO
NACzEtOH
Fig. 1 A Leading Compound of the Present Study
また、ドナー部をカルバゾールから他のより強いドナー、例えばインドリンやテト
ラヒドロキノリンのものに変えたアゾ色素も調製し、比較した。当然ながら、これら
は吸収がかなり長波長側にシフトするので、同じ波長での評価で議論をするのは難し
かったが、それぞれ特徴のある挙動を示した。
NO2
NO2
N
N
N
N
N
N
HO
HO
Fig. 2 Introduction of Stronger Donor than Carbazole
2012年度には、よりファインチューニングな検討として、カルバゾールN上の
6
フォトニクス材料研究
アルキル基として、炭素鎖長2・4・6・9および12のものについて、単純なアル
キル基のものと、前3者については末端にOHのついたものを調製し、系統的に比較
した。その結果、水酸基をもつものとしては当初の先導化合物の EtOH 体が優れて
いるが、アルキル基が長くなると水酸基のないものの方がむしろいい結果を与えるこ
とが明らかとなった。しかしながら、炭素数が9以上になると、PMMA中に均一に
分散した膜試料をつくるのが難しくなることから、6程度が最適らしい。
NO2
R
シンプルアルキル系 ヒドロキシアルキル系
N
N
CH2CH3
N
R
CH2CH2OH
CH2CH2CH2CH3
CH2CH2CH2CH2OH
CH2CH2CH2CH2CH2CH3
CH2CH2CH2CH2CH2CH2OH
Fig. 3 Variation of Alkyl Groups on the Carbazole Nitrogen
また上の直鎖状アルキルのものの他に、分岐のある 2-エチルヘキシル置換体も調製
した。このものは、直鎖のヘキシル体などと同程度の優れたフォトリフラクティブ活
性をもつとともに、製膜性においてより優れていることが分かった。
さらに、カルバゾール窒素上のアルキル基中に水酸基以外の極性基を導入したもの
もいくつか調製し、フォトリフラクティブ活性を比較した。その結果、エステル基な
どを含むものに、製膜性において極めて優れるとともに、フォトリフラクティブ活性
も高いものがあることを見出している。このことは、ホストのポリマーとしてポリエ
ステル(PMMA)を用いていることを考えると、ゲスト色素とホストポリマーがとも
にエステル基をもつことで相溶性が増した結果であると考えることができる。
アクセプター部についてはこれまでニトロフェニル基に固定していたが、それより
アクセプター性の弱いもの、例えばスルホニル基・シアノ基・ケト基やエステル基な
どに変えたものを合成し比較評価したいと考えており、一部は合成が完了している。
これにより、吸収の短波長化が達成できるであろうから、書き込みに新たに青色レー
ザーを用いることが可能となるだろう。
A
N
N
A = NO2, SO2R, CN, COR, CO2R, etc
N
R
Fig. 4 Change to Weaker Acceptor Group in Place of Nitro
7
フォトニクス材料研究
自己組織化を利用したバイオミメティック材料の作製
Preparation of biomimetic materials by using self-organization process
バイオ・マテリアル学科 平井悠司(Yuji HIRAI)
We demonstrate here a creation of a novel biomimetic multi-functional surface by using dry etching
of silicon with a self-organized porous polymer masks and UV-O3 treatment with photo-masks.
Self-organized honeycomb-patterned films were prepared by a simple casting method. After fixing
top layer of honeycomb-patterned films on silicon substrates, reactive ion etching (RIE) were
carried out. After RIE, the silicon nanospike-array structure was obtained. Water contact angles on
the silicon nanospike-array structures were c.a. 170 degree. After UV-O3 treatment with
photo-masks, only UV-O3 irradiated area shows superhydrophilicity. The wettability-patterned
surfaces have property of water-transportation. These results suggest multi-functional biomimetic
silicon substrates have great potentials for water-controlling surfaces.
自然界には、蓮の葉に代表される超撥水表面や砂漠に住むゴミムシダマシの有する超撥
水−親水パターン化表面の水滴捕集機能など、表面の微細構造と組成を利用した水の制御表
面が多数存在する。これらの機能は微小な水滴を外部エネルギーを利用せずに輸送するこ
とが可能であり、様々な分野での応用が期待される。そこで我々は、自己組織化を利用し
て超撥水性と超親水性のパターン化表面を作製し、その表面濡れ性の測定を行った。
ハニカム状多孔質膜は、高分子溶液を高湿度下で塗布・製膜することで結露した水滴を
鋳型として作製した。その後、ハニカム状多孔質膜の上面をシリコン基板上に固定化し、
シリコンをドライエッチング(RIE)法で削る際のマスクとして利用することで、シリコン微
細突起構造を作製した(Fig.1)。この基板上で水滴の接触角を測定したところ、接触角は 170
度を示し超撥水性であることが確認された。表面の元素分析を行ったところ、フッ素原子
に由来するピークが検出された。このフッ素原子は、RIE で使用する保護ガスの C4F8 分子
がエッチングプロセスの際にサンプル表面で重合、吸着したものであると考えられる。フ
ォトマスクを用いて UV オゾン処理し、部分的にフッ素原子を除去することでシリコン微
細構造の濡れ性パターニングを行った。その結果、露光された部分のみ濡れることが明ら
かとなり、超撥水性-超親水性表面のパターニングに成功した。また、V 字型に超親水領域
をパターニングし、Fig.2 のように基板を傾けて置き、その後水滴を滴下したところ重力に
逆らって上昇して行く様子が観察された。今後はこの現象を詳しく解析し、まとめて行く
予定である。
Fig.1 (a) Schematic illustrations of preparation procedures of silicon nanospike-array structures. SEM images of (b)
honeycomb-patterned films, (c) porous polymer masks on silicon surface, and (d) silicon nanospike-array structures.
(Bars; 2 µm)
Fig.2 Continuous photographs of a dropping water droplet on the wettability patterned substrate.
8
フォトニクス材料研究
透明ポリマーの屈折率予測システムの開発
Refractive Index Prediction System of Transparent Polymer
バイオ・マテリアル学科 谷尾宣久(Norihisa TANIO)
Refractive index of optical polymer glass is determined by the packing of molecular chain and the
chemical structure of the repeat unit. We clarified uncertain the atomic refraction and atomic
dispersion value experimentally. The system which predicts refractive index of polymer is reported.
透明ポリマーの繰り返し単位の化学構造のみから屈折率およびその波長依存性(アッベ数)
を計算する屈折率予測システムの開発を行っている。未解明の原子屈折、原子分散値を実験的
に解明し、解明した値を計算システムに組み込むことにより、様々な化学構造、結合様式をも
つ透明ポリマーに対応できる予測システムに発展させた。
ポリマーの屈折率およびアッベ数を計算するためには、原子屈折および原子分散値が必須で
ある。我々は、
“化学便覧基礎編改訂4版”
(日本化学会編、丸善、1993)に掲載されている原
子屈折および原子分散値を基に透明ポリマーの屈折率予測システムを作成している。しかしな
がら、光学応用にとって重要であると思われる原子および原子団でありながら、原子屈折値が
明らかになっていない原子が数多くある。本研究では、透明ポリマーの屈折率予測に必要な原
子および原子団について、原子屈折および原子分散値をポリマーの屈折率精密測定から決定し
た。具体的には、低屈折率化に有利となるフッ素(F)、ポリアミドを構成する窒素(N)
、シ
リコーン樹脂を構成するケイ素(Si)などの原子、フェニル基などの原子団の原子屈折およ
び原子分散値を決定した。解明した値をシステムに組み込むことで屈折率予測システムの適用
性を高めた。現在、予測システムに組み込まれて
Table 1 Atomic refraction ([R]D) and
いる原子屈折および原子分散値を Table 1 に示す
※
atomic dispersion ([R]F-[R]C)
( 付の値が本研究で解明した値である)
。ケイ素
の原子屈折及び原子分散値をシステムに組み込み、
ケイ素ポリマーの屈折率を計算した。システムの計
算結果画面を Fig.1 に示す。値の信憑性についての詳
細を近々報告する予定にしている。
<文献>谷尾宣久, Polyfile, 50(587), 31(2013)
<謝辞>本研究は科学研究費助成事業(基盤研究C)
により実施された。
Fig.1 Refractive index prediction system of
optical polymer.
9
フォトニクス材料研究
枯渇作用により棒状高分子が形成する特異な相分離構造
Depletion-effect-driven Formation of Micro-segregated Smectic Liquid Crystalline
Phases
バイオ・マテリアル学科 大越研人(Kento OKOSHI)
The liquid crystalline (LC) phase behavior of binary mixtures of rod-like helical polysilanes with
narrow molecular weight distributions and a saturated branched alkane, squalane, were investigated
by synchrotron radiation small-angle X-ray scattering (SR-SAXS) and atomic force microscopy
(AFM) observations to verify the theoretical predictions of micro-segregation in the hard-rod and
spherical particle systems. We have found that the almost quantitative increase of the layer spacing
of the smectic phase took place as the amount of squalane in the system increased, which indicates
that squalane is segregated in the interstitial region of the smectic layers. This result is the first
indisputably clear reproduction of the predicted micro-segregation where spherical particles are
segregated in between the smectic layers of rod-like particles.
凝縮系物理学の分野では、単純な棒状粒子が、その濃厚相においてネマチック相からス
メクチック相さらにはカラムナー柱状相といった高次液晶相へ、段階的な逐次相転移を示
す事が予測されており、この系に球状粒子を混合すると、枯渇作用(Depletion effect)
によって球状粒子が層間に分離してスメクチック相を安定化すると考えられている。しか
し、このような理論的予測との対応を図る実験的研究は全くなされてこなかった。
本研究では、非常に剛直ならせん高分子であるポリシラン(polysilane; Fig.1 left)を
合成し、分子量分布を非常に狭く調製する事によって形成するスメクチック相に、自乗平
均回転半径がポリシランの直径と同程度と見積もられる多分岐飽和アルカンであるスクワ
ラン(squalane; Fig.1 left)を混合し、発現するスメクチック相の層間隔の混合比依存
性をシンクロトロン放射光小角X線散乱を用いて調べた(Fig.1 right)
。その結果、混合
比が増大するに従ってスメクチック相の層構造に由来する反射(layer reflection)が小
角側にシフトし、その面間隔からほぼ定量的にスクワランが層間に分離することが明らか
になった[1]。
Fig.1 Schematic illustration of the micro-segregation in the binary mixture of a hard-rod polymer,
polysilane, and a spherical saturated branched alkane, squalane (left). Small-angle X-ray scattering
profiles of the binary mixture with different squalane content (right).
参考文献:
1) S. Shinohara, T. Tanaka, and K Okoshi, Proc. of CIF’13 “Biomimetics, Photonics Sensing and
Networks” Eds. O. Karthaus and M. Kawase, PWC Pub., pp.58-59, Chitose, Japan, 2013.
10
フォトニクス材料研究
5mol% MgO 添加 LiNbO3 結晶の疑似位相整合特性
Quasi phase-matching properties for 5mol% MgO doped LiNbO3
バイオ・マテリアル学科 梅村信弘(Nobuhiro UMEMURA)
The quasi phase-matched second-harmonic generation (SHG), sum-frequency generation (SFG),
and optical parametric oscillator (OPO) wavelengths in the visible and IR regions were measured at
a crystal temperature of 20℃ by using the periodically poled 5mol% MgO doped congruent
LiNbO3 crystals. The high-accuracy extraordinary Sellmeier equation, which reproduces the quasi
phase-matching properties in the 0.39m~4.95m range is obtained.
近年、中赤外線レーザ用波長変換素子として、分極反転型波長変換デバイスが注目され
ており、その中でも 5mol%MgO 添加のニオブ酸リチウム結晶を用いた波長変換素子
(MgO:PPLN)が既に実用化されている。しかしながら、既に発表されているこの結晶の異常
光線のセルマイヤー方程式は、透過波長領域全般にわたる擬似位相整合特性を正確に再現
することはできず、特に、1μm 以上の励起による光パラメトリック発生(OPG)については、
そのシグナル光及びアイドラー高の理論曲線が大きく異なることが報告されている。これ
を改善するためには尐なくとも波長の異なる2つのレーザでそれぞれ励起し、その擬似位
相整合 OPG の波長を測定し、セルマイヤー方程式を作成する必要がある。また、高次の擬
似位相整合第2高調波(SHG)及び光和周波発生(SFG)の波長を測定することで、短波長側の
セルマイヤー方程式のパラメータもフィッティングすることが可能である。
今回、分極反転長 29.0m の MgO:PPLN 結晶を用い、結晶温度 20℃における擬似位相整
合第2高調波及び光パラメトリック発生の波長を測定した。一例として、図1に KTA/OPO
のシグナル光である 1.5347m 光励起の擬似位相整合 OPG のアイドラー波長のチューニン
グカーブを示す。図中の点線は、比較のため現在発表されているセルマイヤー方程式のう
ち、比較的正確な3つの方程式から計算された理論曲線である。実線は、今回の研究から
得られた 0.39~4.95m で正確な以下のセルマイヤー方程式から得られた理論曲線である。
ne2  24.6108 
0.09665
2  0.04338

19279.81
2  961.78
ここで、λの単位はm である。この方

0.8654
2  43.27
5.00
OPG のチューニングカーブは勿論、高
次の擬似位相整合第2高調波のすべて
の波長データ対しても±2Åの精度で
一致する(他の方程式は、波長によっ
て±20Åの違いがある。また、異なる
メーカから供給された分極周期長
Idler Wavelength (m)
程式は、1.0642m 励起擬似位相整合
Paul(独)
4.98
Gayer
(イスラエル)
4.96
4.94
Zelmon(米)
4.92
Umemura
(日)
28.96m の MgO:PPLN についても上記
と同様の測定を行い、それら実験地と
4.90
28.8
本方程式の理論値と同じく一致した。
MgO:PPLN は、温度同調で使用される
ことも多く、今後、屈折率温度分散式
28.9
29.0
29.1
29.2
Grating Period L (m)
Fig.1 Idler tuning curves for MgO:PPLN /OPG
について実験を行う。
pumped at 1.535m.
11
フォトニクス材料研究
BaGa4S7 結晶の位相整合特性
Phase-matching properties for BaGa4S7
バイオ・マテリアル学科 梅村信弘(Nobuhiro UMEMURA)
Sellmeier and thermo-optic dispersion formulas for BaGa4S7 (BGS) that reproduce excellently the
temperature-dependent phase-matching conditions in the 0.958~9.5525m are presented.
BaGa4S7 結晶は、ロシアの Badikov らによって発明された非線形光学結晶で、点群 mm2 に属
し、透過率が 0.4~12m と可視から赤外線に透過領域を有することから赤外線用波長変換素子
として研究がすすめられている。しかし、その位相整合特性について正確なデータが殆どない
のが現状である。そのため、各種レーザを用いて位相整合データを測定し、その実験値からセ
ルマイヤー方程式を得た。
今回の実験で使用した結晶は、9.8×9.5×14.05 mm3 で、OPO の実験の前に結晶の正確なカ
ット角を Nd:YAG レーザ励起 KTP/OPO 及び AgGaS2/OPO のアイドラー出力光を基本波とした
SHG の位相整合角より求めた。図1にタイプ-1SHG(zx 面)のうち Long branch の位相整合角を
示す。図1の理論曲線は以下のセルマイヤー方程式から求められたもので、±0.2°の精度で
我々の実験値と一致する。
2
n y  6.02286 
2
nz  6.49125 
2
0.15642
205.725
 2
2
  0.03658   312.285
0.16650

308.649
2  0.03761 2  350.535
0.16798
503.619
 2
2
  0.04262   402.991
(0.633m<<10.5910m)
5.5
Fundamental Wavelength (m)
nx  5.72004 
5.3
○
5.2
実験値
理論値
5.1
5.0
ここでλの単位はm である。なお、SHG
0
2
4
6
8
10
12
Phase-matching angle θ (deg)
Fig.1 Phase-matching angles for type-1 SHG in
the zx plane (<Vz).
8
Idler Wavelength (m)
位相整合角のデータから、結晶のカット角
は zx(=bc)面でθc=9.2±0.2°と判明した。ま
た、図1からわかるように、10.5910 m 発
振の CO2 レーザの第2高調波(5.2955m)の
ダブリングに対する結晶温度 20℃での位相
整合角はpm=7.8°であった。
次に、同じ結晶を用いて 1.0642m 発振の
Nd:YAG 励起 OPO の実験を行った。図2に
zx 面タイプー1の位相整合角を示す。z 軸
方向の 90°位相整合のシグナル及びアイド
ラー波長の実験値は、それぞれ 1.3266 m 及
び 5.3802m であった。
これらの結果から、本結晶は、光差周波
発生により、酸化物結晶や KTP 同類体では
フォノンによる吸収で発生が不可能な 5m
以上の中赤外線レーザの波長変換素子とし
て利用可能と思われる。
5.4
○ 実験値
△ 実験値(Tyazhev ら)
理論値
7
6
5
0
Fig.2
12
5
10
Phase-matching angle θ (deg)
15
Phase-matching angles for type-1 OPO (idler
wavelength) in the zx plane(<Vz).
フォトニクスデバイス研究
DNA-脂質-色素複合体薄膜による波長可変レーザー
Tunable laser based on DNA-lipid-dye complex thin films
バイオ・マテリアル学科 川辺豊(Yutaka KAWABE)
Two types of cyanine dyes were employed as laser dyes acting in a DNA-surfactant solid films. We
demonstrated the laser emission and wavelength tuning in 570-610 and 670-710 nm by adopting a
two-beam interference method for the formation of dynamic grating in the media. It was confirmed
that dye durability under optical pumping was also improved via interaction with DNA complex.
色素をドープした DNA 脂質複合体は優れたレーザー媒質になりうることが知られてい
る。今回われわれは薄膜化した試料におけるレーザー特性と波長の可変化を、動的回折格
子を形成することによって達成した。
用いた化合物は Fig. 1 に示す構造を有するシアニン色素で DIQCn(2)と略記されるもので
ある。これらの色素を複合体である DNA-CTMA 中に 20 塩基対に対し 1 の割合でドープし
た原料溶液からスピンコート法によって 4 ~ 5 m 厚の薄膜を作製した。Fig. 1 に示すように
Q-sw YAG レーザーの第二高調波の 2 光束を試料面上で干渉させ、周期的に反転分布を形成
することによってレーザー発振を達成した。さらに交差角 2を変えることにより発振波長
が変化することも確認した。Fig. 1 右側に交差角に対する発振波長の依存性を示す。またそ
の時のスペクトルの例を挿入図中に示した。
得られた波長は J 会合体を形成する色素 PIC としても知られる DIQC2(1)については 570
– 610 nm、共役系の長い DIQC2(3) では 670 – 710 nm である。回折の Bragg 次数は 2 次であ
り、実効屈折率を 1.505 として計算した予測値とよく一致していることがわかる。また、発
振閾値は 3 – 5 mJ/cm2 であり、この種の色素としては標準的である。今後は光学系の改良に
よって、よりコンパクトな構成にすることが求められる。
この研究の大部分は大学院生であった千田寿文によってなされたものである。
Fig. 1 (left top) Schematic diagram of experimental setup for the excitation by two-interfering beams.
(left bottom) Molecular structure of the dye employed. (right) Tuning curve obtained by varying the
intersecting angle of two beams. (inset) Emission spectra obtained under several
Reference:
T. Chida, Y. Kawabe, Proc. SPIE, 8464, 84640E (2012).
13
フォトニクスデバイス研究
VAD 法による Bi 添加石英光ファイバの利得特性
Gain Characteristics in Bi-doped Silica Optical Fiber fabricated by VAD method
光システム学科 小林壮一(Soichi KOBAYASHI)
1.3 μm optical amplifiers for the long-distance up-stream networks are attractive for a future increase
of fiber access network in telecommunications. In this report an optical amplification with Bi doped
silica fiber fabricated by the vapor axial deposition (VAD) method is presented at 1300 nm.
アクセス系光通信方式である PON システムにおいて、加入者の増大に伴う分岐損失を補
うためのブースターアンプ、長距離用にインラインアンプが求められている。特に加入者
側から局(プロバイダ等)への 1.3μm帯光ファイバ増幅器は実用化されておらず、Bi 添加
光ファイバが実用的増幅器として期待されている[1],[2]。
本報告では Bi 高添加石英光ファイバを VAD 法で作製し、1.3μm帯における利得特性に
ついて明らかにしている。Bi 添加石英光ファイバは従来の Er、Yb と同様に液浸法を用いて
作製された。最初に VAD 法により Ge 添加の石英ガラススートを作製し、次に脱水工程後、
酸化ビスマスと,酸化アルミニウム溶液に液浸後、焼結して母材とし、母材を線引きし、外
径 125μm、コア径 4μmの Bi 添加光ファイバを作製した(PSTI 社製)。元素分析の結果、
0.5 mol%以上の Bi 含有量であった。図1に Bi 添加石英光ファイバの利得特性測定系を示し
た。
励起用 LD の発振波長は 808 nm であり、
入射信号として 1300 nm LD 直流光を減衰器、
WDMカップラーを通して Bi 添加ファイバ(BDF)に入射し、利得特性測定には光スペク
トルアナライザー(OSA)を用いた。図 2 は BDF を半導体レーザ(808 nm)で励起し、4.31
mW から 85.4mW までパワー変化したときの蛍光スペクトルを示しており、1200nm から
1350 nm までの波長範囲で平坦性が得られた。1400 nm におけるパワーの落ち込みは OH 基
の高調波による吸収損失を示している。伝搬損失も考慮したネットゲインは 1.83 dB/m であ
り、1.3μmにおける伝搬損失は-1.95 dB/m であった。1300 nm のレーザ光の増幅が可能とな
り、且つ従来の石英系光ファイバと同様な扱い(融着接続可能)が容易であることが明ら
かとなった。従って今後光ファイバ増幅器として高利得化、高出力化への検討を行う。
本研究は、(独)情報通信研究機構の高度通信・放送研究開発委託研究/革新的光
通信インフラの研究開発の一環としてなされたものである。
BDF
85.4mW
WDM coupler
LD LD
signal
signal
ATT
ATT
OSA
4.31mW
1300nm
@@
Pump LD
@ 808nm
Fig.1 Schematic setup for BDF measurement
system
Fig.2 Fluorescence spectra of BDF with
pumped power between 4.31 and 85.4 mW.
[1] Y.Fujimoto and M. Nakatsuka, Jpn. J. Appl. Phys., vol.40, pp.L279-L281, 2001.
[2] V. V. Dvoyrin, et.al., Opt. Lett., Vol. 31, No. 20, pp.2966-2968, 2006.
14
フォトニクスデバイス研究
2光子吸収を利用した GaAs フォトニック結晶導波路によるアップ
コンバージョン光の発生
Observation of InAs quantum-dot laser utilizing GaAs W1 type photonic-crystal slab
waveguides
光システム学科 小田久哉(Hisaya ODA)
The photonic crystal waveguide is also attractive for laser lasing, because very small group velocity
of near the Brillouin zone (BZ) edge should enhance interactions between the radiation field and
matter. In this work, we present the 1.55 m to 1.3 m upconversion luminescence based of
two-photon absorption in InAs-QDs GaAs PhC-WG.
2次元フォトニック結晶スラブ線欠陥導波路(PhC-WGs)では、ブリルアンゾーンのバ
ンドエッジにおいて、光の群速度は極端に遅くなるため、光と物質との相互作用が大きく
なる。そのため光が大きく増幅し、PhC-WGs 中に共振器を用いなくともレーザ発振するこ
とが期待される。過去に我々は InAs 量子ドット(QD)を埋め込んだ W1 型および W3 型
GaAs PhC-WGs において 1.3m 帯でのレーザ発振に成功した 1,2。一方 PhC-WGs はスローラ
イトの効果により容易に非線形光学効果を利用することが可能である。2光子吸収による
キャリア励起を利用することで、 高効率なアップコンバージョン素子の開発も期待できる。
そこで我々は上記のレーザ発振における励起光の波長を 1.55m 帯にすることで、1.3m 帯
への波長変換を試みた。研究の第一段階として W1 型 GaAs PhC-WGs に 1.55μm 帯の波長で
光励起し、PhC-WGs 中に埋め込まれた InAs による 1.3μm 帯の発光の観測を行った。
試料は GaAs 三角格子 2 次元フォトニック結晶
に線欠陥を導入した試料長 500 μm のエアブリッ
ジ型 W1 PhC-WGs である(格子定数:321 nm、空孔
径:240 nm、コア厚:250 nm)。また、導波路全域
に InAs-QD を埋め込んである。励起光としてパル
ス幅 4.9 ps のファイバーレーザ(1550 nm)を使用
し、PhC-WGs 入射した。入射端面から出射された
発光のスペクトル観測を行った。図 1 に励起光ピ
ークパワー0.5 W での発光スペクトルを示す。
InAs-QD からのブロードな自然放出光のスペクト
ル(図1(a))に加え、鋭いピーク(図1(b))が観 Fig. 1 (a)PL spectra from InAs-QDs GaAs core
測された。これは導波モード(even)のバンドエッジ layer. (b)UL spectra from InAs-QDs GaAs
付近であり、パーセル効果により発光が増強され
たと考える。
15
PhC-WG.
フォトニクスデバイス研究
液体をコアとするフォトニック結晶ファイバーの分散特性
Dispersion properties of liquid-core photonic crystal fibers
光システム学科 唐澤直樹(Naoki KARASAWA)
Dispersion properties of liquid-core photonic crystal fibers (PCFs) have been calculated rigorously
for various liquids with high nonlinear refractive indices. In calculations, air holes are assumed to be
arranged in a regular hexagonal array in fused silica and a central hole is filled with liquid to create a
core. The results are compared with those obtained by a fully vectorial effective index method and
fitting parameters for various core sizes are found. It was found that the chloroform-core PCF was
suited well for nonlinear optical applications using optical pulses from a Ti:sapphire laser.
フォトニック結晶ファイバー(PCF)は光の導波方向に空孔が規則的に配列された光ファ
イバーである。PCF の分散特性はその空孔の配置により制御することが可能なため、超短
光パルスを導波すると超広帯域光波が発生することが見出され、様々な分野で応用されて
いる。我々はこの光学的非線形効果をさらに増大するための手法として、高光学的非線形
性液体を PCF の空孔に選択的に充填し、その液体をコアとして光波を伝搬させることに注
目している。本研究では、液体をコアとする PCF に超短パルスを伝搬するときに重要な分
散特性について理論的に検討した。計算には厳密なマルチポール法を用い、液体と石英ガ
ラスの材料分散も考慮した。クラッドの屈折率を空気と石英ガラスの実効的な屈折率とし
て扱う実効屈折率法の妥当性も検討し、そのためのパラメータを得るための手法も検討し
た。Fig 1. (a)に計算で用いた液体コア PCF の断面構造、Fig 1. (b)に代表的な4種類の高光学
的非線形液体をコアとして用い、クラッドとして石英ガラスに直径 1 m、ピッチ 1.1 m の
空孔配置を用いた時の実効屈折率の実部(neff,r)と群速度分散(GVD)の波長依存性を示す。
計算より高屈折率の液体ほど零分散波長が長波長になることがわかる。またクロロフォル
ムを用いると零分散波長が 800 nm 程度となり、チタンサファイアレーザーを用いる応用に
最適であることがわかった。クロロフォルムの非線形屈折率は石英の 19 倍であるため、従
来よりもはるかに低パワーでの非線形光学効果を利用するデバイスへの応用が期待される。
Fig 1. (a) The cross sectional view of a liquid core PCF, where d is the diameter and L is the pitch of
holes, (b) the effective refractive index (above) and GVD (below) of the liquid-core PCFs (d=1.0 m,
L=1.1 m) with four different liquids (CS2, toluene, chloroform, and water).
参考文献:N. Karasawa “Dispersion properties of liquid-core photonic crystal fibers,” Appl. Opt.,
Vol. 51, pp. 5259-5265 (2012).
16
フォトニクスシステム研究
学内既設マルチモードファイバ伝送路を用いた10 Gbps伝送実験
10-Gbps transmission experiments over installed multimode fiber lines in CIST campus
グローバルシステムデザイン学科 山林 由明(Yoshiaki YAMABAYASHI)
We have succeeded in 10 Gbps transmission experiments over multimode fiber lines being already
installed in CIST campus. A series of experiments were conducted for three line lengths, 320, 400,
and 1800 m, having the identical core-type (Graded Index, 62.5 m). To improve the
transmission characteristics, Spot-Size Converter fibers (SSCs) were connected to input and output
port of the latter two lines. For the five-day period, no bit-error was observed for the 320 and 400
m lines, both are laid in the building. Error-bursts generated after the longest line, which links two
buildings, could be suppressed with the SSC.
本学内に敷設されている 62.5 um GI マルチモードファイバ(MMF)を借用して 10 Gbps
伝送実験を行った。320 m 長に関しては単一モードファイバ(SMF)での中心励起とし、400
m、1800 m に関しては入出力部に、Fig. 1 に示すスポットサイズ変換器 (SSC) を接続した。
シミュレーションでは、この SSC はスポットサイズ 12.7 m の SMF であり、伝送路 MMF
(MFD = 12.8 mm)の最低次モードを 99%以上の電力効率で励振できる。
Fig. 1
Dimensions of the Spot-Size Converter
Fig. 2 Route for the longest MMF line
5 日間にわたる実験中、320 m、400 m に関してはパケットエラーは発生しなかった。最
長の伝送路は研究棟から本部棟を往復する 1800 m であって(Fig. 2)、SSC なしの場合は 5 日
間で 139 回のエラーバーストを観測したが(Fig. 3-a)、SSC をその両端に接続することで、7
回に減ずることができた(Fig. 3-b)。
Fig. 3
(a) Without the SSC
(b) With the SSC
Error bursts observed during 5-day experiments over 1800 m GI-MMF installed lines.
謝辞:ご多忙中にも拘わらず、快くファイバ設備の利用をお許し下さった本学情報・メディア課
高橋智男課長に深く感謝します。
17
フォトニクスシステム研究
光ファイバ出射光スポット内に観察されるスペックルパターンの
外乱応答特性
Disturbance Response Characteristics of Speckle Patterns Observed in an Output Light
Spot from an Optical Fiber
グローバルシステムデザイン学科 長谷川誠(Makoto HASEGAWA)
Speckle patterns to be observed in an output light spot from an optical fiber show certain changes in
response to application of external disturbance onto the optical fiber. Some response characteristics
with relatively good reproducibility were observed for movements of the optical fiber as well as load
application onto the fiber. When a multimode optical bare fiber is placed in a loop or in a U-shape
onto a support plate, the speckle pattern in the output light spot appears to rotate while rotating or
tilting the support plate. The pattern rotation angle is in proportion to the rotation or tilting angle of
the support plate. On the other hand, when the optical fiber is placed so that corrugated bending of
the fiber is induced by the load application via ridges, the number of speckles in the pattern
decreases upon load application onto the optical fiber.
マルチモード光ファイバにレーザ光を入射して他端からの出射光をスクリーン上に投影
すると,出射光スポット内にスペックルパターンと呼ばれる粒状の不均一パターンが観測
される。著者は,このスペックルパターンの外乱印加による変動現象に着目して,センシ
ングへの応用可能性も視野に入れ,安定した応答特性を得るための検討を進めている。
SMA コネクタを有する被覆された光ファイバを設置板上に U 字状に設置し、レーザを伝
播させた状態で U 字の軸方向を回転軸として設置板を回転させると、観察されるスペック
ルパターンも全体として回転して見える。図1に示すように、パターン回転角度と設置板
の回転角度は比例関係にある。
同じく U 字状に設置した光ファイバ上に所定の機構を介して 1 個 500gの重りを1つずつ
載せていくと、パターン内に存在する粒状変動の数が、図 2 のように重りの数の増加(印
加荷重の増加)に従って減尐する。
350
The number of speckles
Pattern Rotation (deg.)
30
25
20
15
10
5
0
300
250
200
1st round
2nd round
3rd round
4th round
5th round
150
100
50
0
0
2
4
6
8
10
Rotation angle of the support plate (deg.)
12
Fig.1 Speckle pattern rotation angles with the
rotation angle of the support plate(1,3).
0
5
10
15
20
25
The number of weights
30
35
Fig.2 Changes in the number of speckles with
load application onto the fiber(2,3).
参考文献:
(1) M.Hasegawa, et al.: Proc. SPIE, vol.8561, pp.856103-1 - 856103-8, (Photonics Asia 2012, paper no.8561-3),
2012.
(2) M.Hasegawa, et al.: Proc. SPIE, vol.8561, pp.856105-1 - 856105-7, (Photonics Asia 2012, paper no.8561-4),
2012.
(3)長谷川誠、他、信学論(CⅡ)、Vol.J96-C、No.3、pp.40-43(2013-3)
18
フォトニクスシステム研究
ワンチップ PLL IC を用いた RF 周波数シンセサイザの製作
PLL synthesizer using one-chip PLL IC
光システム学科 福田 誠(Makoto FUKUDA)
A one-chip PLL IC allows implementation of phase-locked loop (PLL) frequency synthesizers if
used with an external loop filter and external reference frequency. The ADF4350 has an integrated
voltage controlled oscillator (VCO). A RF-frequency synthesizer board was designed and an
800MHz oscillation was obtained.
PLL(Phase Locked Loop)周波数シンセサイザは、高安定な基準信号に同期した任意の
周波数をもつ信号を合成するシステムである。当初 PLL を構成する位相比較器およびプロ
グラム可能なカウンタをモノリシック IC に収めた製品が開発され、
VCO(Voltage Controlled
Oscillator)とループフィルタおよび水晶発振回路を外付けすることによってシンセサイザ
を実現していたが、
その後 CMOS 技術の進歩によって IC が高周波化されたことによって、
現在では 4.4GHz まで発振可能な VCO 内蔵の PLL IC が実用化されている。この IC を用い
ることによって、発振周波数範囲やチャンネル間隔などの仕様に合わせたループフィルタ
と高安定な水晶発振回路を外付けすることによって PLL 周波数シンセサイザを設計でき
るようになった。
本研究では、アナログ・デバイセズ社製の ADF4350 を用いて Fig.1 に示す 800MHz 帯の
周波数シンセサイザを設計・試作することを目的とした。PLL 周波数シンセサイザシステ
ムにおける信号の種類は、直流、低周波アナログ信号、デジタル信号、高周波信号とさま
ざまな周波数の信号を扱わなければならず、それらが互いに干渉するとシンセサイザの出
力信号の品質が低下する。したがって、ADF4350 はオール・イン・ワン IC ではあるがプ
リント基板の設計および部品の実装技術には、多くのノウハウが必要である。本研究では
基板の裏面をベタアースパターンとし、表面のみで配線を行う二層のプリント基板を製作
してシンセサイザを作ることとした。まず、信号線の配線だけはなく、電源の供給、アー
スの配線、バイパスコンデンサの配置をイメージしながらパーツのレイアウトを考えて回
路図のドラフトを作成した。次に、プリント基板を製作するために CAD を用いて回路図
を入力し、プリント基板のパターンをデザインした。設計データをプリント基板加工機に
送り、0.2 ㎜の高周波回路用ミリングカッターによって基板表面の銅箔を切削してプリント
パターンを製作した。その結果、周波数 800MHz~860MHz において周波数間隔 25kHz の
安定した発振を得ることができた。Fig.2 に観測された 800MHz 帯の信号スペクトルを示す。
PC
BPF
fref
ADF4350
TCXO
RF AMP
fout
ループフィルタ
(ローパスフィルタ)
Fig 1.
Block diagram of PLL synthesizer
Fig 2.
19
Measured spectrum
フォトニクスシステム研究
パワーアシスト車椅子の操縦支援制御
Driving Assistance Control of Power Assisted Wheelchair
光システム学科 小田尚樹(Naoki ODA)
The driving assistance control for power assisted wheelchair has been developed in our research.
For example, opening-door is one of difficult operations for wheelchair users. Using vision-based
control approach, opening-door assistance method has been proposed. The validity of the proposed
method is confirmed by several experimental results.
電動車いすのパワーアシスト制御に視覚フィードバック制御系を採用することによって,
環境状況に応じたアシスト機能の多機能化を目指した人間支援制御系の開発を行ってきた。
本来的なパワーアシスト制御は,車椅子に加えられた力を
検出し,それを車輪の電気モータでアシストするもので,
操縦時の負担低減に有効である。本研究では,パワーアシ
スト機能に加えて,視覚フィードバック制御によって障害
物との衝突回避や追従支援機能などの多機能化制御へと展
開している点が特徴である。
平成 24 年度は,
車椅子の搭乗者が開き戸を通過する際の
支援制御手法を新たに提案した。通常の開き戸を通過する
動作は,車椅子の搭乗者にとって複雑な操作を要し,困難
な動作の一つである。例えば,手前に引いて開ける場合に
Stereo camera
は,扉が車椅子に当たらないよう後退のための操縦をしつ
Fig. 1. Robotic Wheelchair
つドアを引かなければならない。また,センサレスによる
パワーアシスト制御では,開ける動作の反力の影響を受け
るため,比較的重い扉の場合にはその反力によって意図し
た後退動作をさせることは特に困難を伴う。
そこで,車椅子の仮想機械インピーダンスを環境の状態
に応じて切り替えることで,開けるための力まで支援可能
な制御手法を提案した。開き戸を引いて開ける動作の初期
段階では,負のインピーダンスへと切り替えることで反力
に応じて後退方向のアシスト力を生成し,その後に視覚フ
ィードバック系へと移行させる手法である。視覚フィード
バック制御では,前方の環境物との相対的な速度が制御さ
れるため,開くドアに応じて自動的に後退動作が達成され
る。Fig.1 に実験用の車椅子,Fig.2 にその実験の様子を示
す。比較的重たい模擬的な開き戸を用いて実験を行い,提
案手法の有効性を確認した。今後,インピーダンスの切り
替え条件など実際の開き戸の通過支援に適用するためにさ
らに改良を行っていく予定である。
参考文献:
[1] 本九町,小田:
「インピーダンス切替によるパワーアシ
スト車椅子のドア開閉支援制御」
,平成 24 年第 30 回日本ロ
ボット学会学術講演会,2K1-1,札幌,2012 年 9 月 17 日~
9 月 20 日
20
Fig. 2. Experimental Result
バイオフォトニクス研究
福祉施設向けのハーブ植物工場技術の研究開発
-障がい者の就労支援と園芸療法に適したハーブの通年栽培化の検討-
Research on in-room herb cultivation factory technologies for welfare workshops
グローバルシステムデザイン学科 吉田淳一(Junichi YOSHIDA)
In-room herb cultivation factory technologies for welfare workshops have been studied from the
viewpoint of work support and horticultural therapy. It was shown that combination of simple
tray-style cultivation equipment with artificial lighting system is suitable for the horticultural
therapy with keeping enough space. However, it was revealed that further study on the heating in
winter is necessary for lowering the operation cost of the facility.
近年技術進歩が著しいLED等を使用した補光技術を応用すると,栽培期間が短縮されるこ
とから,尐ない暖房エネルギーで冬期の栽培・収穫が可能となり,加えて補光を適切に制
御することによりハーブ固有の機能性成分(ビタミン、ポリフェノール等の栄養素)の増
強効果も期待される。このような新たな付加価値を具備したハーブ生産向け植物工場とし
ての技術を用いることにより、福祉団体が原料ハーブを継続生産し加工製品を他者にも通
年提供する事業が可能となる。障がい者の身体的特性は多様であり、それぞれのケースに
応じた作業法選択が可能なように、植物栽培設備は単純・簡易であることが望まれる。本
研究開発では植物工場の形態として,(社)植物情報物質研究センターと共同研究を行い,
同センターで実績のある樋式栽培装置を使用し,それにLED補光併用可能な太陽光利用型を
ベースとして、栽培時の補光用光源を数種類比較検討して、従来の植物工場用光源に比べ
高効率・省電力化を図る検討を行った。さらに、LED光照射による、ビタミン、ポリフェノ
ール等のハーブ固有の機能性成分(栄養素)の増強効果を計測して製品の高付加価値化の
検証も併せて実施し、ハーブ栽培に最適な補光システムを提案することとした。
製作した設備での栽培実験結果は概ね良好であったが、栽培室が積雪地にあり当初設置
した電気ヒーター以外に冬季暖房設備の改善に課題があることが分かった。特に、暖房設
備についてはコストの面からの検討が不可欠であり、太陽熱蓄積・排熱・ヒートポンプ等
の利用を併用したハイブリッド方式の導入・検証が今後必要である。人工光による補光で
は、成長においては光量を最適化すればLED蛍光灯のような安価な光源でも実用的補光栽培
が可能であり、その分従来の光源より低コスト化・省エネルギー化が図れるが、機能性成
分を高めるには、植物に最適な赤及び青の波長を含む赤・青同時発光型LED 等で最終処理
を行うことが有効であると考えられる。ハーブの生理的・心理的効果については、ハーブ
の摘み取り作業及びハーブティーの飲用前後における感情計測から明らかな有意差が認め
られ、園芸療法的効果が期待できることが示された。
なお、本研究開発は公益財団法人北海道科学技術総合振興センター平成 24 年度異分野
連携型研究開発補助金の補助を受けて実施したものである。
21
バイオフォトニクス研究
瞳孔反応と眼球運動のイメージ解析に基づく中枢性神経機能診断
システム
Diagnosis system for central neural function disorders based on the image analysis of
pupillary response and eye tracking movement
バイオ・マテリアル学科 南谷晴之 (Haruyuki MINAMITANI)
In this study, development of infrared imaging system was achieved for analysis of pupillary
response and eye tracking movement concerning in the central neural function disorders. The
system is constructed with 780 nm infrared LED light source, infrared filter and miniature CCD
camera for image acquisition and compact personal computer with image capture board for image
processing. After image processing, smooth pursuit eye movement, saccadic eye movement,
nystagmus, cycloduction movement, pupil light reflex, near convergence reaction are obtained as
the visual functions, from which various disorders of autonomic neural function, vertigo,
Alzheimer’s dementia, Parkinson’s disease, spinocerebellar degeneration, and so on can be early
diagnosed and evaluated after the therapeutic treatment.
中枢神経系疾患の診断には多くの場合,X 線 CT,MRI あるいは PET などの画像診断装
置が使われるが,CT,MRI は形態学的診断に,PET は機能的診断に適している.いずれも
診断効果が高いというメリットがあるものの,経費がかかり,診断結果を得るのに時間が
かかるという問題点も上げられる.臨床の現場では,機能診断の面で測定精度が高く,患
者に負担をかけない簡便・安価な診断装置が望まれている.本研究で開発した赤外イメー
ジング法による瞳孔反応と眼球運動の視機能解析システムは,大型の画像診断装置のよう
にあらゆる疾患に対応するものではなく,視機能に関連する自律神経系疾患,眩暈・眼振,
認知症(アルツハイマー病)
,パーキンソン病,脊髄小脳変性症などの早期診断や予後診断
などに役立つと考えている.
システムは,開眼状態で波長 780 nm の近赤外光を照明し,近赤外フィルタを通して超
小型の CCD カメラで眼球部を撮像するもので,これを Fig.1 に示すゴーグル型とハンディ
型の 2 種類の撮像ユニットに組み込んだものになっている.撮像されたイメージは画像キ
ャプチャボードを介して即座に PC に転送され,リアルタイムで画像処理される.視機能
情報として滑動性眼球運動,衝動性眼球運動,視運動性眼振,回旋機能,前庭動眼反射,
対光瞳孔反応,近見瞳孔反応,などを眼球位置計測,瞳孔径計測から求める.Fig.2 は左右
水平方向の眼球運動を示したもので,ほかに垂直眼球運動と眼球回転運動である回旋が時
系列データとして求められる.Fig.3 は散瞳と縮瞳を示したもので瞳孔径の時系列データを
高時間分解能で求められる.Fig.4 は対光反射における瞳孔径の変化を示した一例であり,
急速な縮瞳反応がみられる.被験者によってその反応の早さと回復時間は異なり,単に瞳
孔径変化の大きさだけでなく,反応・回復時間も視運動機能と中枢神経機能をとらえるの
に役立つ.我々は,本システムを用いて短期記憶障害やストレス負荷における視機能の変
化を瞳孔反応からとらえたり,注意力・意識力の低下にともなう眼球運動や瞳孔反応の変
化を求め,中枢性神経機能診断の可能性を検討している.
22
バイオフォトニクス研究
Fig.1 Image acquisition system of eye movement and papillary response by using goggle-type
and handy-type of infrared CCD camera
Fig.2 Infrared images of eye movement toward horizontal direction
Pupil diameter
Fig.3 Infrared images of papillary response concerning mydriasis (left) and miosis (right)
Light
Miosis time
Time
Fig.4 Pupillary response of miosis against high intensity light stimulus
23
バイオフォトニクス研究
FT-IR を用いた胆石治療の基礎研究
The Basic study of Gallstones Treatments by FT-IR
バイオ・マテリアル学科 李 黎明(Liming LI)
The purpose of this study is to determine the optimum wavelength of ultrabroadband pulse laser for
cleave the specific molecules and analyzing the structure of atoms and molecules that make up the
Gallstones. We measured cholesterol stone and bilirubin calcium stone for KBr method of stone
powder using the FT-IR. We also measured in the area mapping by the reflection method using
FT-IR at each 200μm. As a result, the wavelength of about 6050nm is the most effective in the
treatment of cholesterol stones and bilirubin calcium stones.
胆石症には様々な治療法があるがいずれも完全砕石は行えず、破砕片による胆道損傷や
遺残したものに起因する再結石などの問題がある。本研究では超短光パルスレーザを用い
た砕石術法の確立のために、胆石を構成している原子や分子の構造を解析し、結石内の特
定の分子結合を切断するための最適な波長を求めることを目的とする。最初にフーリエ変
換赤外分光光度計(FT-IR)を用いて、コレステロール石とビリルビンカルシウム石の粉末か
らKBr法で吸収スペクトルを求めた(Fig.1)。次に2種類の胆石をそれぞれ200µmごとにFT-IR
を用いた反射法によるエリアマッピングで測定した(Fig.2)。エリアマッピングで得られたデ
ータを分析する為に、各スペクトルピークの吸光度の平均を求め、それぞれの測定部位の
吸光度を吸光度の平均で割って各ピークの吸光度の値のばらつきを客観的に表した。その
結果、コレステロール石の場合も、ビリルビンカルシウムの場合も1653cm-1のピーク比の標
準偏差が最も小さくなったので、波長約6050nm近傍のレーザを照射するのが胆石症の治療
に有効であることを明らかにした。
3000
2000
1000
2
11.5
00.5
0
X (μm)
2800
2400
2000
1600
1200
800
400
0
1-1.5
0.5-1
0-0.5
1.5
1
0.5
0
0
400
800
1200
1600
1.5-2
1-1.5
0.5-1
0-0.5
Y (μm)
Y (μm)
Fig.1 IR absorbance spectrum of cholesterol stone (left) and bilirubin calcium stone (right)
X (μm)
Fig.2 Area mapping and peak ratio 3D graph. cholesterol stone (left). bilirubin calcium stone
(right).
24
バイオフォトニクス研究
甘草の新規品質評価法の開発
Development of new quality rating system of licorice roots
バイオ・マテリアル学科 木村-須田廣美(Hiromi KIMURA-SUDA)
The most important ingredient in the root of licorice plants used as drugs, glycyrrhizin, is normally
extracted in solvent and then determined by HPLC. Here, we have focused on identification of the
production center of licorice plants and characterized the dried root by FTIR imaging, ICP-OES,
and isotope microscope system. We succeed in showing distribution of glycyrrhizin and different
kind of glycyrrhizinate, and then show the possibility of identification of the production center of
licorice plants without any sample preparation.
フレーク状で流通される生薬「甘草(カンゾウ)」の品質管理や産地判別を行うことは、
食の安全・安心を確保できるトレーサビリティー実現のために極めて重要な課題である。
一般に、生薬の分析や品質管理には、薄層クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフ
ィー(HPLC)などが用いられる。この様なクロマトグラフィーを用いる場合は、含有成分を
溶媒で抽出する必要がある。したがって、測定するまでに時間を要し、溶媒に不溶な成分
は分析することができない。我々は、溶液抽出が不要、かつ、操作方法が簡便な赤外イメ
ージング法および顕微ラマン分光法に着目し、甘草のキャラクタリゼーションを行ってき
た。その結果、特別な試料調製やプローブを用いることなく、甘草の断面におけるグリチ
ルリチン酸、グリチルリチン酸塩およびセルロースの分布を示すことに成功し、赤外イメ
ージング法や顕微ラマン分光法が甘草の品質管理に有効であることを示した。本研究では、
甘草の産地判別に着目し、赤外イメージング法、誘導結合プラズマ発光分光分析法
(ICP-OES)、同位体顕微鏡を用いて甘草のキャラクタリゼーションを行った。試料には市販
ならび畑から採取した生の甘草の根を用いた。薬局方に従って甘草の HPLC 測定を行った
結果、グリチルリチン酸の含有量が基準値の 2.5%以上であることを確認した。これにより、
本実験で用いた甘草が生薬グレードであることを確認した。ICP-OES による元素分析の結
果、本実験で使用した甘草の根には、Na、K、Ca、Mg などの元素が多く含まれているこ
とが明らかとなった。甘草の根の赤外イメージング測定を行い、グリチルリチン酸の分布
を調べた結果、木部にグリチルリチン酸が多く含まれていることを認めた(Fig.1)。同位体
顕微鏡観察を行った結果、Na、K、Ca、Mg は木部多く分布し、グリチルリチン酸の分布
と一致しているのを確認した(Fig.2)。この結果は、グリチルリチン酸がこれらの元素と塩
を作っていることを示唆している。Na、K、Ca、Mg は土壌由来であることから、赤外イ
メージング法と同位体顕微鏡を併用すれば、非破壊で精度の高い産地判別を行えることが
予想される[1〜2]。
Fig.1 FTIR image of licorice root
(Distribution of glycyrrhizin)
Fig.2 Element image of licorice root
参考文献:
[1] 木村-須田廣美 他、 物質・デバイス領域共同研究拠点研究成果報告書(平成 23 年度)
[2] 木村–須田廣美 他、第 4 回安定同位元素イメージング技術による産業イノベーション
シンポジウム、北海道大学、札幌、2012 年 6 月
25
博士後期課程 平成 25 年度研究中間発表会要旨
看護過程での知識理解のための e ラーニング活用
Experimental study of web-based education for knowledge understanding in nursing
process
辻慶子(Keiko TSUJI)
[email protected]
The effectiveness of e-learning self-supporting system was studied in the education of basic
nursing process. Preparation and review of the lecture of basic nursing process were presented by
web-based method to the students. A period of self-supporting time and outcome of term
examination were found to be correlated positively. A self-learning support by e-learning seemed to
promote the understanding of basic nursing process in students of the School of Nursing.
はじめに
看護過程展開における自己学習での学習時間の確保について,e ラーニングの活用が有
用と考え,看護過程の展開 6 段階に沿った知識理解に関する学習内容を予習・復習で学べ
る e ラーニング教材の整備を図った.そして,授業実践を通じて,取組状況と定期試験及
び課題学習の成果との相関を調べ,e ラーニング活用の学習効果を含む有用性の検討を行
った.
1.
e ラーニングを活用した授業設定
毎回の看護過程の授業内容に即した知識理解に主眼を置いた予習と復習用の e ラーニン
グ教材を整備した.教科書コンテンツは,症例の紹介・看護手続きの紹介等の,内容的に
纏まりのある範囲毎に 1 つのファイル(SCORM 定義の SCO ファイル)として作成され
た.また,初学者が看護過程の展開をイメージしやすいように,文字だけでは無く,アニ
メーションや映像も活用した.毎回のコースで提示する科書コンテンツの分量は,コンテ
ンツを一読する時間を 10 分と設定し,2 から 5 コンテンツ程度とした.演習問題コンテン
ツは,予習・復習毎に,5 問ずつ作成された.なお,第 15 回目の授業では,予習・復習用
ではなく,科目全体を通したまとめとして演習問題を 24 題作成し,看護師国家試験問題
に類似した問題を用意した.
2.
授業実践の検証
予習・復習での e ラーニングの閲覧状況を図 1 に示す.また,学習者 1 人当たりの e ラ
ーニングを活用した平均学習時間を図 2 に示す.また最後の 15 回目に行った試験対策の
演習問題の平均学習時間は 84.4 分であった.授業の最終回に,e ラーニング活用に関する
学習者アンケートを実施し、e ラーニングを活用した理由と,継続した理由について,
自由記述で回答してもらった.回収率は受講者全体の 69.4%で,複数回答を認めた.アン
ケート収集後,内容分析を行い,分類分けをした結果を表 1 に示す.
3.
図 1. e ラーニングの閲覧率図 2. 1 人当たりの平均学習時間
26
博士後期課程 平成 25 年度研究中間発表会要旨
表 1 左側に示す通り今回開発した e ラーニング教材の学習内容が看護過程の展開に沿って
知識の確認であることを鑑みると,本研究の教材内容の適切さ(有用性)を確認できたと
考える.本研究の事前調査の位置づけとして,前年度(平成 22 年度)に,グループワー
ク以外の知識確認の要素が強い回を対象に,予習用の e ラーニング教材のみを整備して学
習を促す取組を試行した 1).この時には,学生の e ラーニングの閲覧率は 70~80%で,ま
た徐々に活用率は減尐する傾向を示した.本研究での知識理解教材の有用性の結果と照ら
し合わせて考えると予習教材のみよりは,復習教材を含む学習要素がある方が,より知識
理解に繋がりやすい可能性がある.平成 22 年度の利用率の低減を照らし合わせると,利
便性の観点で予習・復習教材をセットにして授業毎に提示することで,学習の習慣づけに
繋がる効果があると期待される.図 3 に,平成 22 年度と 23 年度に行った自己学習に対す
る意識調査の結果を示した。
表1 e ラーニング活用の理由
%
継続した理由
%
看護過程展開に役立つ
知識理解に役立った
テスト対策として活用
活用した理由
33.3
30.4
14.5
授業の理解に役立った
手軽さ・利便性
内容がわかりやすい
28.4
17.6
13.5
疑問解決に役立った
グループワークの準備に活用
成績に影響すると思う
11.6
4.3
4.3
成績に影響すると思う
看護過程展開に役立つ
義務だと思った
1 回分の量が適切
13.5
10.8
10.8
4.1
図 3. 自己学習のしやすさ
予習・復習の状況と知識定着の検証
予習・復習の取組状況と成績の相関については,学期末に行った定期試験を利用した.
予習及び復習の学習回数と定期試験の相関は見られなかった.予習・復習の学習時間と定
期試験の成績との関係では、比較的強い相関を得た(表 2)
.予習・復習の教科書と演習問
題の繰り返し回数と定期試験の成績との関係においては、教科書が,予習ではすべての回
数で弱い相関が見られ,逆に復習ではすべての回数で相関が見られなかった.演習問題で
は,一部のグループワークの回を除いて,弱い相関が見られた.予習・復習とも,演習問
題に反復的に取り組むことは,知識定着には効果が高いと期待される.
4.
学習
時間
繰り
返し
回数
①教科書
②演習問題
①+②
①教科書
②演習問題
①+②
予習 r 値(p 値)
0.212(0.036)
0.436(0.000)
0.406(0.000)
0.236(0.019)
0.302(0.002)
0.352(0.000)
復習 r 値(p 値)
0.215(0.034)
0.434(0.000)
0.416(0.000)
0.045(0.67)
0.306(0.002)
0.303(0.002)
表 2 定期試験の成績との相関一覧
予習・復習の取組状況と知識活用の検証
知識理解に関する予習・復習の取組状況と,こうした知識活用に関する能力との関係に
ついてもあわせて調べることにした.相関については,定期試験の成績と課題学習の間で、
学習時間と繰り返し回数についていずれのケースでも、弱い形で相関が見られた.課題学
習の成果については,知識の活用能力が主に求められ,知識理解のための e ラーニングの
取組によって明示的に能力向上に繋がるとは考えにくい.しかしながら,e ラーニングの
学習時間や取組回数に弱い相関が見られたことは,間接的な影響・関係性があることを示
唆している.本研究では,知識の分類・体系化などを明示的に行っておらず,知識理解と
5.
27
博士後期課程 平成 25 年度研究中間発表会要旨
応用の関係を明確に論じることはできない.定量的な検証は,今後の研究課題とする.
6. まとめ
整備した e ラーニング教材を活用して授業実践を行い,その結果,予習・復習での知識
理解に向けた学習教材としての有用性が高いことを確認した. 学習成果との関係では,予
習・復習及び演習問題を,時間をかけて学習することが知識定着には極めて重要な要素で
あることを確認した. e ラーニングを活用した知識の定着の取組は,教科系の基礎教育や
リメディアル教育での実践事例の報告も行われている 2).本研究では,看護系の一科目で
ある看護過程での有用性を検討した.本研究をさらに進め,看護系科目群での新たな教育
方法の確立に繋げることが重要と考えている.
参考文献
(1)辻慶子,小松川浩:
“自己学習支援のための e ラーニング教材の開発と評価”,教育シ
ステム情報学会第 36 回全国大会,pp.282-283(2011)
(2)今井順一,山中明生,小松川浩:
“e-Learning による工科系数学教育に関する実証評価”,
工学教育学会誌 vol.54 no.4, pp.16-20(2006)
28
博士後期課程 平成 25 年度研究中間発表会要旨
人間力育成を取り入れた e ポートフォリオ
田中佳子(Yoshiko TANAKA)
E-mail: [email protected]
研究の経緯
本研究は,学生自身が在学期間を経てどのように自らが変化していくかを学生自身が見
つめ,考えることを中心におき,学生への教育的配慮を e ポートフォリオを活用した省察
を通して人間力を育成することを計画した.その e ポートフォリオの運用と評価を行う予
定である.
1.
学習者特性の成長を測る
大学生は青年期後期の,自我同一性の確立という大きな発達課題がある.この発達課題
を学生自身の人間力育成の課題と捉えた.そのために,生涯学び続ける意欲,自分がどの
ように学んでいるかという学習観,ライフクライシスにおいても立ち直り継続していく精
神力などの学習者特性に関わる力を「学修観」としてこれを指標にして自分を振り返るこ
とで人間力を育成することを企図した.
2.
人間力育成のために自分で自分を知る「学修観」
上述した,学習者特性を測るために,市川の学習動機(6 カテゴリー)・学習観(4 カテゴリ
ー)の尺度,小塩の精神的回復力尺度(3 カテゴリー)の(計 13 カテゴリー)3 点を使用した調
査を行い,3因子を抽出した.
この結果から,因子1として,感情調整,失敗に対する柔軟性,思考過程の重視,方略思
考,意味理解思考,因子2として,新奇性追求,肯定的未来志向,充実志向,訓練志向,
実用志向,因子3として,関係志向,自尊志向,報酬志向である.これらを順に,
「考えよ
うとする力」
「行動しようとする力」
「繋がろうとする力」と名づけた.
3.
学習者特性「学修観」の可視化
個々の学生の情報を一元化したものとして,個票(図1)を作成した.個票には,教科の
得点と,3つの力を,平
均より上(H)か下(L)を表
示し,そのタイプに応じ
たアドバイスを表示して
いる.
4.
個票の e ポートフォ
リオシステム化
学生の学習者特性結果
が e ポートフォリオシス
テムで可視化されること
で,即時性を持ち,ライ
フイベントに応じて,適
宜学生が自分を振り返る
ことが可能になる.人間
力育成のために,ポート
フォリオにおいてフォー
図 1 個票(2011)
カスして自分を振り返り
省察することができる.そこで,先行研究で構築されている千歳科学技術大学の e ラーニ
5.
29
博士後期課程 平成 25 年度研究中間発表会要旨
ングシステムと学習カルテシステムを利用した.
e ポートフォリオには学習者特性の結果が記載された個票の情報が表示されるようにし
た.機能のイメージを図 2 に示す.①には,抽出した3因子である3つの力が表示される.
また図中②のボタンをクリックすると,学習動機・学修観・精神的回復力がそれぞれのバ
ランスを示すことで学生自身の変化を詳細に把握するためにレーダーチャートで表示され
る.③には 8 種類のアドバイジングメッセージが表示される.さらに,過去に行った診断
結果や,自身の配属学科や他学科の統計結果(例として,同じような特性の学生がどのく
らいいるのか)を横並びに表示できることで,確認と比較ができる工夫も行っている.
図 2 学習者特性の可視化機能のイメージ
今後の課題
今後,e ポートフォリオと紙の個票との差異についてのアンケート調査を行い可視化の
有用性を検討していく予定である.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
6.
参考論文
1.土持 ゲーリー 法一, “ポートフォリオが日本の大学を変える―ティーチング/ラーニン
グ/アカデミック・ポートフォリオの活用” ,東信堂, (2011)
2.市川 伸一, “学習動機の構造と学習観との関連”, 日本教育心理学会第 37 回総会発表論
文集,177 (1995)
3.小塩 真司,中谷 素之,金子 一史,長峰 伸治,“ネガティブな出来事からの立ち直りを導く
心理的特性-精神的回復力尺度の作成-”,カウンセリング研究,Vol.35,No.1,57-65 (2002)
4.山川 広人,斉藤 史徳,立野 仁,田中 佳子,小松川 浩,“人間力の自己診断テストと連動し
た e ポートフォリオの設計”,大学 ICT 推進協議会 2012 年度年次大会論文集,247-253 (2012)
30
コロキウム報告
平成 25 年度中(1 月まで)に開催されたコロキウム開催実績を以下に示します。全て
PWC「光テクノロジー応用懇談会」との共催です。
第 1 回 平成 25 年 6 月 11 日(火) 千歳科学技術大学
「ナノテクノロジープラットフォーム事業の紹介」
千歳科学技術大学 川瀬正明
「ナノテクノロジープラットフォーム分析機器等活用事例発表」
デンソーエレクトロニクス
家屋壁弘志
第 2 回 平成 25 年 10 月 29 日(火) 千歳アルカディア・プラザ
「ベンチャー企業の挑戦-㈱レーザーシステムの歩み-」
レーザーシステム 土内彰
「超短光パルスを用いた光非線形効果による超広帯域スペクトル光波の発生」
光システム学科 唐澤直樹
第 3 回 平成 25 年 11 月 25 日(月) 千歳科学技術大学
「2D・3D ラマンイメージング、最新アプリケーションの紹介」
レニショー 三浦一郎
「フィールドエミッション低真空分析走査電子顕微鏡 JSM-7800F の紹介と観察例」
日本電子 小倉一道
31
14th Chitose International Forum on Photonics Science and Technology (CIF’14) 開催報告
CIF’14 組織委員会
2013 年 7 月 8, 9 日の両日、本学において恒例の Chitose International Forum が開催
された。第 14 回目を迎える今年は「Laser - From Science to Applications」をテーマと
して Laser Physics、Semiconductor Laser and Their Application、Laser Sensing の三
つのセッションを開催するとともに、元文部科学省宇宙開発委員会委員長の池上徹彦氏を
招聘し一般向け特別講演を行った。
三つのセッションでは新たな試みとして、冒頭に大学院生を対象とするチュートリアル
講演を各分野の著名な研究者にお願いした。口頭の招待講演では国外から 3 名、国内から
9 名の研究者に講演をお願いし、それぞれの研究分野において活発な意見が交換された。
ポスターセッションでは 35 件の発表があり、
本学の学部生、
大学院生や北大、
和歌山大、
ポツダム大の研究員らがそれぞれの研究について熱心に発表し、国外からの研究者とも熱
心な意見交換が行われた。なお、一般聴講者を含めた全体の参加人数は約 300 名である(チ
ュートリアル講演を除く)
。
特別講演をされる池上徹彦博士
特別講演
池上徹彦博士(Guest Researcher, NISTEP、元宇宙開発委員長、元会津大学学長、元 NTT
取締役)の特別講演は「宇宙はたのしい!-宇宙の時間と地球の時間-」のタイトルで行
われ、博士の豊富な経歴をベースに日本や世界の宇宙開発の現状から地球の文明の移り変
32
わり、科学技術のあり方まで幅広くスケールの大きな内容が披露された。講演は一般市民
にも開放されたものであることから、
「はやぶさ」や宇宙ステーションの映像など、わかり
やすい内容でかつ興味深いものであった。最後に大学の役割について、その機能は多岐に
わたり、インターナショナル志向(海外からわかりやすい日本へ)を目指すべきであると
まとめて頂いた。本特別講演には約 300 名の方々が参加し熱心に耳を傾けた。
Session 1: Laser Physics
本セッションでは、レーザ発生の新たな手法から、レーザ光を用いた物理現象の解明な
ど幅広い分野をカバーしている。最初に北海道大学の笹木敬司教授によるナノ構造体によ
るマイクロキャビティ―レーザについてご講演をいただいた。次いで東北大学の福村裕史
教授によるサブピコ秒パルスのX線レーザとそれを用いた分光応用についてご講演をいた
だき、さらに、アリゾナ大学の金田有史准教授より、光励起半導体レーザの利点と波長変
換技術との組み合わせによる広帯域化など今後の発展性についてもご講演をいただいた。
最後に、北海道大学の山下幹雄名誉教授からモノサイクル光パルスに関する概要について
紹介されるとともに、近年注目されているテラヘルツからガンマ線までのコヒーレント光
源の発生への応用についてもご講演いただいた。
Session 2: Semiconductor Laser and Their Application
このセッションではレーザの中でも特に半導体レーザとその応用に焦点をあて、基礎か
ら応用にわたる様々な視点から講演が行われた。最初に辻伸二博士(JST、日立)による
チュートリアル講演が行われ、半導体レーザに関するイノベーションの道筋と将来の方向
性が論じられた。続いて大橋弘美博士(NTT)によって特に 2m 帯の近赤外レーザについ
て報告された。硴塚(かきつか)孝明博士(NTT)からは低閾値のフォトニック結晶レー
ザについての紹介があり、最後に山西正道広島大名誉教授(浜松ホトニクス)が中赤外の
量子カスケードレーザに関して講演された。
Session 3: Laser Sensing
最後に、近年重要性が高まっているレーザ応用の一つであるレーザセンシングのセッシ
ョンが開催され内外 4 人の研究者による講演と討議がなされた。最初はチュートリアル講
演としてポツダム大学の Löhmannströben 教授によって本分野の簡単な歴史と将来の可能
性についての概略が述べられた。佐々木一正本学客員教授からは波長可変レーザと OTDR
(光パルス試験器)を用いた災害モニターなどへの応用が紹介された。九州大学の Ribierre
博士からは有機固体レーザとそのセンサーへの応用についての最近の研究が話がなされた。
最後にパリ第 11 大学の Hildebrand 教授より量子ドットの共鳴蛍光エネルギー移動(FRET)
利用した分光と生体への応用が紹介された。
33
Poster Session
ポスターセッションは第 1 日目の 15 時より 2 時間にわたって開催された。全 35 件の申
し込みがあった。内訳は、本学関係が 30 件、北海道大学 3 件、和歌山大学 1 件、ドイツの
ポツダム大学 1 件であった。昨年と比べて学外からの参加が尐なかったのが残念であった
が、材料、デバイスの割合が例年より多くを占めていたが、それ以外の制御システム、バ
イオ関連など多彩な内容が活発に討議された。
ポスターセッションにおいては以下に示す 3 件の発表に対し、ポスター賞が川瀬委員長
から授与された。
P-10 Generation of Uniform Visible Supercontinuum Using a Dispersion-flattened Water-filled
Photonic Crystal Fiber
E.Yoshida, K.Tamaki, A.Wada and N.Karasawa (CIST)
P-13 Synthesis and photophysical properties of supramolecular Eu(III) complex
Y.Hirai, T.Nakanishi, K.Fushimi, and Y.Hasegawa (Hokkaido Univ.)
P-19 The Image Analysis and Processing of Pork tissue Injected with Indocyanine Green(ICG)
G.Ren, R.Shirogane, T.Saito and L.Li (CIST)
34
分子・物質合成プラットフォームの紹介
ナノテク推進委員会
文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム事業
2012 年度から開始された「文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム事業」は、ナ
ノテクノロジーに関する最先端の研究設備とその活用のノウハウを有する 25 機関 38 組
織が緊密に連携して、
「微細構造解析プラットフォーム」、
「微細加工プラットフォーム」及
び「分子・物質合成プラットフォーム」の3つのネットワークと「センター機関」を構成
し、全国的な設備の共用体制を共同で構築するものです。本事業を通じて、産学官の多様
な利用者による設備の共同利用を促進し、産業界や研究現場が有する技術的課題の解決へ
のアプローチを提供するとともに、産学官連携や異分野融合を推進します。
分子・物質合成プラットフォーム
我が国のナノテクノロジー関連化学・材料分野は他分野に比べて世界的に高い水準
を有しており、これを維持向上させることが、我が国の科学技術とこれを基盤とした
産業の発展に不可欠です。現状の経済情勢や震災復興の必要性に鑑みれば、各研究者
が高価な設備を購入することなく最先端機器を活用し、次世代を担う素材の開発研究
が行える、全国規模の共用設備ネットワークの構築が必要です。
本プラットフォームは、ナノテクノロジー分子・物質合成に要求される先端機器群を供
給し、産官学の研究者に対して、また、設備利用に留まらず、合成に関するノウハウの提
供、データの解析等も含めた総合的な支援を実施します。また、10 年にわたって最先端研
究ニーズに応えるため、成果公開型支援だけでなく、成果非公開型支援も積極的に行い、
そして、利用者の成果が新しい利用者を呼び、全国から多くの先端研究者が自から集う先
端ナノテク分子・物質合成拠点を形成し、支援者と利用者双方の特に若手を育成できる環
境を構築します。
分子・物質合成プラットフォームの構成
プラットフォームは、北海道から九州に分布する、学校法人千歳科学技術大学、国立大
学法人 東北大学、独立行政法人 物質・材料研究機構、国立大学法人 北陸先端科学技術大
学院大学、国立大学法人 信州大学、国立大学法人 名古屋大学、国立大学法人 名古屋工業
大学、
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構、国立大学法人 大阪大学、国立大学法人 奈
良先端科学技術大学院大学、および国立大学法人 九州大学の 11 機関から成り、各実施機
関は近隣の大学・公的機関・民間企業の共用を支援し、また、それぞれが特徴を活かして
他機関では実施できない先端技術支援を全国規模で展開していきます。さらに、プラット
フォーム内の複数の機関相互や他のプラッフォームとの協力、あるいは国内の大型先端研
究施設との連携等も含めて、
単なるひとつの設備利用ではない融合的な支援を推進します。
35
千歳科学技術大学における取り組み
分子・物質合成とその特性評価の一貫した支援を実現し、有機エレクトロニクス(液晶や
OFET)や有機色素、無機セラミックなど光・電子を制御する新規ナノデバ イス創製や生
体材料や光学高分子に関する研究開発を支援することを目的としています。バイオ・医療
分野で、
細胞や生体組織のキャラクタリゼーションなどの支援を行うとともに、食品分析、
創薬に資するナノバイオ テクノロジー材料合成・評価 を通して地域の産業が活性化する
ための支援を行います。
千歳科学技術大学にける事業の特徴は、外部共用設備の中でも分子物質合成とその特性
評価に関わる
1.分子・物質合成に関する NMR や化学系分光器群による合成過程の測定支援
2.TEM、EDX、高分子計測装置群、表面物性測定装置群による高分子材料等の評価支援
3.FZ 炉、薄膜形成支援装置群による構造体作製支援
の3点を有機的に連携させることによって材料の合成研究や利用者のナノテクノロジー知
識の育成から最終製品の評価までの一貫した支援を目的としていることです。
主な設備
・透過型電子顕微鏡(TEM)
・非接触光学式薄膜計測システム
・エネルギー分散型 X 線分析装置
・走査型電子顕微鏡(SEM)
・高性能 X 線小角・高角散乱装置
・赤外線加熱単結晶製造装置(FZ 炉)
・紫外可視近赤外分光光度計
・元素分析装置
・核磁気共鳴装置 (NMR)
・他
実施体制
フォトニクス研究所(吉田淳一所長)内に「ナノテク推進委員会(Olaf Karthaus 委員長)
」
を設置し、全般の運営に当たっています。以下に委員会の構成メンバーを記します。
Olaf Karthaus
バイオ・マテリアル学科
今井 敏郎
バイオ・マテリアル学科
川辺 豊
バイオ・マテリアル学科
木村-須田 廣美
バイオ・マテリアル学科
谷尾 宣久
バイオ・マテリアル学科
36
李 黎明
バイオ・マテリアル学科
大越 研人
バイオ・マテリアル学科
坂井 賢一
バイオ・マテリアル学科
平井 悠司
バイオ・マテリアル学科
唐澤 直樹
光システム学科
小林 壮一
光システム学科
山中 明生
光システム学科
張 公儉
光システム学科
小田 久哉
光システム学科
長谷川 誠
グローバルシステムデザイン学科
河野 敬一
シニアアドバイザー
櫻井 智規
技術員
尾籠 京子
事務職員
雀部 博之
顧問
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編集後記
フォトニクス研究所紀要の第 4 号をお届
けする。
年 1 回の発行であるから、これで 4 年目
である。四年制の大学ならば完成年度を迎
えたことになる。しかしながら、研究所が
完成したかと問われれば、胸を張って完成
したというにはためらいがある。
しかしながら、今回紹介したナノテクプ
ラットフォームが 2012 年に発足したよう
に、本学の研究環境も着実に前進している
のは間違いないだろう。
研究所の組織自体は自律的に成長するま
でには至っていないし、それが良いかどう
かもよくわからない。むしろ小さな組織で
は特定の細胞が活性化すること、すなわち
ナノテクプラットフォームに限らず、構成
する細胞の個々の成長が組織を特徴づける
ことになろうし、さらなる成長を促すこと
になると期待している。
本紀要よりその一端をくみ取っていただ
ければ幸いである。
(YK 生)
千歳科学技術大学
編集委員
吉田 淳一(委員長)
川辺 豊 (幹事)
カートハウス オラフ
唐澤 直樹
長谷川 誠
高杉 雅史
編集庶務担当
柏倉 喜美子
フォトニクス研究所紀要
第4巻
第1号
平成 26 年 2 月 20 日発行
編集
フォトニクス研究所紀要編集委員会
発行者 千歳科学技術大学
〒066-8655 北海道千歳市美々758-65
電 話
0123-27-6003
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通巻 4 号