ツアーオペレーターの多角経営と 業界地図の変化 - JAFIT

日本国際観光学会論文集(第22号)March,2015
《研究ノート》
ツアーオペレーターの多角経営と
業界地図の変化
た け な か
ま さ み ち
竹中 正道
株式会社ジェイ・ツーリズム
Tour operators(land operators)have for many years been the backbone of international travel by Japanese people. They
operate amidst extremely tight restraints, and are constantly impacted by excessive price competition and other factors. As the
business environment surrounding the Japanese travel industry continues to change beyond recognition, operators have begun to
diversify away from their core business and develop business opportunities in other areas. This paper takes a further look at the
work carried out by a tour operator, and looks at examples from the past and present to make observations in regard to the
potential for diversification. It is thought possible that this trend may result in a complete change to the landscape of the travel
industry in Japan.
キーワード:ツアーオペレーター、多角化、ポテンシャル
Keywords:Tour Operator, Diversification, Potential
1.はじめに
あまり表に出てこなかったオペレーター
2.先行研究のレビュー
本稿におけるツアーオペレーターとい
という職種に、大いなるポテンシャルを
前述したようにオペレーターは縁の下
う呼称は、いわゆるランドオペレーター
感じたからである。学会内でもその経営
の力持ちとして活躍し、あまり積極的に
と同義であり、約款上の手配代行者を意
や業務内容に着目する研究者は少ない。
表に出てくるケースが少なく、内情も分
味する。海外ではツアーオペレーターと
このような背景の中でオペレーターは
かりにくい事実があった。OTOAが積極
いう呼び方が、旅行会社やホールセラー
業界環境の変化を受けて、
潜在的な能力・
的活動をスタートして「OTOAドットコ
を指す場合があるので、混同を避ける意
機能を駆使しながら、新たなるフィール
ム」3をオープンしてからは、かなり表に
味で最初に確認しておきたい。ちなみに
ドでビジネスを発展させる可能性を十二
出てきた感はあるが、この分野の先行研
ツアーオペレーター(ランドオペレー
分にもつと考えられる。オンライン化は
究はまだ少ない。これは現役オペレー
ター)で構成する一般社団法人も日本海
国境を超え、旅行会社とオペレーターの
ターや出身者がほとんど学会との結びつ
外 ツ ア ー オ ペ レ ー タ ー 協 会 (以 降、
垣根も超え、商圏を変化させる勢いであ
きがなく、研究者が限られることも影響
OTOAと記述)という名称を使用してお
る。
している。ただしオペレーターと旅行会
り、実務界でもこの呼称が浸透してきて
また海外に根をおろす強みがあり、現
社との間の理不尽な取引形態や、価格破
いる。(旅行業入門、2005)
地側では日本人を受けいれるインバウン
壊につながる過当競争についての記述は
今回ツアーオペレーター(以降、オペ
ド、日本では旅行会社と共にアウトバウ
散見される。
(澤渡貞男、2009)
レーターと記述)を採りあげた背景はい
ンドというビジネスの実践者でもあるオ
その中で石崎祥之(2008)は、オペレー
くつかあるが、一番の理由としては昨今
ペレーターが、日本のインバウンドに進
ターは旅行会社への従属関係に派生する
の日本の旅行業界を取り巻く環境の大き
出する構図も現れてきている。進むグ
低収益構造に甘んじてきたが、インター
な変化である。急速に進行するオンライ
ローバル化の中、彼らがこれからの業界
ネットの普及に伴い B2B のビジネスフ
ン化、個人旅行(以降、FIT と記述)化、
地図を変化させる可能性は高く、その特
ィールドをB2Cにも広げることが可能と
インバウンドの急伸、そしてイン・アウ
性、過去や現状を見て行きながら、それ
なり、それが旅行業界の構造を変えると
ト合わせた交流人口3000万人時代を見据
らを検証・考察していくのが本稿の目的
説いている。B2C の直接販売によって、
えたグローバル化、といったものである。
である。
広告や旅行会社の利益などの中間コスト
1
2
二番目としては、長きに渡って海外旅
が省けるため、安い商品をオンラインで
行の根幹を下支えしてきた存在ながら、
簡単に購入できる時代になったというこ
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日本国際観光学会論文集(第22号)March,2015
とだ。
観光、送迎、ガイドなどの手配を請け負
3-2 オペレーターの組織・形態
しかしながら現在のところ、この動き
う業者と定義されている。
(観光学大事
オペレーターといっても多種多様で、
が業界構造を変えるまでには至っていな
典、2007)さらに細かく言えば、現地発
その組織や形態は次のように多岐にわた
い。長年日本市場に根を張ってきた旅行
着のツアー手配(オプショナルツアーな
る。
①国や地域などの手配エリアの差異、
会社の営業ネットワークや、パッケージ
ど)あるいはコンサートやミュージカル、
②日系か外資かの違い、③企業規模の大
ツアーなどの信用やブランドは、現地に
スポーツ観戦といったチケットの手配や
小、④日本における出先機関の有無、⑤
根差したオペレーターといえども、そう
イベント関連の手配もある。これは本来
専門テーマ特化型、⑥大手旅行会社のイ
たやすくは崩れない。現地と日本間の
の主たる業務で、現地ではこれに付随す
ンハウス、⑦旅行会社との両輪経営型、
B2C は、基本的に FIT に限られ、団体旅
る業務が並び、日本に窓口があるところ
といったような分類ができよう。
行は旅行会社へ依存するというのが現状
では、営業や手配に関わる膨大な業務が
①については、手配地域の拡大傾向が
である。ただしこのB2Cビジネスの市場
加わる。
目立ってきている一方で、特化型の小規
規模はまだ小さいながら拡大傾向にあ
昨今では従属関係の中で、旅行会社の
模オペレーターも出てきている。②は海
り、日々進むオンラインのビジネスや市
手が回らない付帯業務を行わざるを得な
外旅行自由化から現在まで、欧州系や華
場環境の変化で、徐々に業界構造を変化
い傾向が多々見られ、情報提供に留まら
僑系など様々な外資がある。③は従業員
させる可能性は十分に秘めている。
ずツアーのモデルコース造成なども行
数が数百名規模から二人といった広範囲
4
う。こうしてオペレーターによる旅行会
にわたる。④で出先のないものは、大手
の経営を例に挙げて、ガイドブック・メ
社の企画・販売ノウハウ吸収が自然に進
オペレーターの傘下にある(または契約
ディアへの露出による成功談や、工夫を
み、旅行会社の素地も出来上がってくる。
関係がある)比較的小規模な現地ベース
凝らした土産物としての高級オリーブオ
最後に忘れてはならないのが、出発後
のオペレーター。出先を持つ大手が日本
イル開発に関するノウハウを紹介。ビジ
のツアーを安全かつ円滑に運行させると
での営業や手配を中継する形態である。
ネスモデルとしては小規模であるが、オ
いう安全運行管理業務である。特に海外
⑤は海外挙式やイベントなどテーマに特
ペレーターの多角化成功を例証した。
における日本人旅行者の安全を根底から
化した比較的新しい形。⑥は日本の旅行
その他オペレーターに言及した先行記
支えるということは、表に出にくいが非
会社の現地法人や子会社になっているオ
述の中で、大手旅行会社が現地法人のオ
常に重要な仕事である。海外旅行は何事
ペレーターで、営業範囲は限られる。⑦
ペレーター会社による地上手配を行って
もなく無事帰国するのが当たり前のよう
も最近になって表に出てきた経営形態
いる旨が紹介されている。(観光学大事
に思われるが、
表-1のように万が一に備
で、オペレーターのノウハウを自社の旅
典、2007、澤登貞男、2009)いわゆるイ
えて関係する宿泊、運輸機関などに対す
行会社で活かせるメリットがある。
ンハウスであるが、この形態は大手ホー
る働きかけや、管理業務を日常的に行っ
ルセラーのシェア低下と共に変化してき
ている。その延長線上に経験則や日常の
4.オペレーターと OTOA のあゆみ
ており、一定のビジネスボリュームを前
取り組みに裏打ちされたオペレーターの
4-1 OTOA のあゆみ
提にしたインハウスのオペレーターは、
危機管理体制があり、日本の現地在外公
全てのオペレーターが OTOA 会員に
残念ながら一部を残し撤退や吸収合併な
館とも密接につながり、頼りがいある存
なっている訳ではないが、その沿革は同
どで整理されつつある。
在となっている。
業界の流れを示すので、
表-2で簡単にそ
さらに石崎はギリシャのマリソル社
現時点では、JTB、エイチ・アイ・エ
の歩みを見ていく。
厳しい環境の中でも、
ス、エス・ティー・ワールドなどが目立
忍耐強くコツコツとオペレーター業界に
つが、かつての大手ホールセラーから様
変わりした感は否めない。今後は現存す
表-1 OTOA 会員オペレーターが行っている安全への取り組み(一例)
るこれらの拠点が日本のインバウンドの
バス会社への要請事項
ホテルへの確認事項
発地として、あるいは日本以外の国への
総走行距離の確認
発地として、新たな視点でグローバルに
整備・点検の実施(エンジンの状況からブレーキのきき
スタッフの質は高いか
具合、タイヤの摩耗状況の確認まで)
機能、発展していくものと思われる。
3.オペレーターとは
3-1 オペレーターの仕事
シートベルトの設置状況
サービスは悪くないか
洗車・清掃の実施
客室内外ともに清潔か
保険の付保状況の確認等
非常時の体制は整っているか
その他
問題がたびたび発生していないか
オペレーターは、海外の地上手配を主
要業務として、旅行会社から宿泊、食事、
セキュリティは万全か
その他
出所:「OTOA ドットコム」より筆者抜粋・作成
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日本国際観光学会論文集(第22号)March,2015
表-2 OTOA のあゆみ
年代
理店業、そしてアンテナショップとして
の旅行会社経営などの動きが見られた。
主な出来事
1964年
海外旅行自由化。外資系オペレーターを中心とした地上手配
これらはどちらかと言うと4-5で述べる
1965年
欧州系オペレーターに次いで、ハワイのオペレーターが活動開始
リスクヘッジではなく、ニーズへの対応
1966年
日本旅行株式会社(現ジェイ・ティ・エイ)などが東南アジア手配開始
1968年
欧州と米国系オペレーター中心に、親睦のための情報交換会開催
を踏まえたビジネス拡大路線の一環であ
1970年
大量輸送時代に入り、従来の団体旅行からパッケージツアーへ業容拡大
1971年
旅行業法改正に伴う対応協議のため、運輸省(当時)と意見交換
1972年
日本旅行業協会(JATA)の賛助会員に14社が加盟、公式の場でオペレーターと旅
行業界が接触した最初の行動
った。
4-5 変動期(2001年~2011年)
この期間は米国同時多発テロ(2001
1974年
主要オペレーター14社により OTOA 設立
1976年
旅行業者費用保険と海外旅行傷害保険の両者を兼ねる「企業包括保険」を OTOA
と AIU が契約
1983年
旅行会社とオペレーターの契約関係を明確化した「海外地上手配契約書」が完成
1988年
創立15周年、OTOA 法人化の取り組み開始
年)
、東日本大震災(2011年)と災難続き
1991年
OTOA の社団法人化成る。
の10年となった。さらにこの間の円高基
1994年
バブル崩壊後の景気後退のあおりを受け、経営環境が厳しくなる。会員の抱える不
良債権が1億を超える
調が旅行者にとっては恩恵であったが、
2000年
OTOA のウェブサイト「OTOA ドットコム」開設
年)
、重症急性呼吸器症候群(SARS)と
イラク戦争(2003年)
、リーマン・ショッ
ク(2008年)
、新型インフルエンザ(2009
オペレーター経営にとって非常に厳しく
作用した。
このあたりから危機感が募り、
出所:「OTOA ドットコム」より筆者抜粋・作成
リスクヘッジの為に本気で多角化を進め
尽力していった経過が見てとれ、OTOA
4-4 第二次成長期(1991年~2000年)
存在の重要性を感じさせる。4-2からは、
OTOAの社団法人化が成り、出国者数
筆者流に区分した時代ごとの特徴を考察
1000万人時代(1990年以降)に入ると、
4-6 その後(2012年~)
する。
リピーター増加に伴い行先も多様化して
その後2012年の出国者数は過去最高の
きた。当然ながら新しい行先に対応すべ
1849万人に達したが、翌2013年は1747万
4-2 黎明期(1964年~1969年)
く手配エリアが拡大され、新規オペレー
人にダウン。日中韓の政治問題や為替変
海外旅行自由化から大量輸送時代まで
ターも参入する。一方でバブルが崩壊し
動、テロや疫病の脅威といった外的要因
の期間で、生みの苦しみはあったものの、
て景気が後退すると、一部の旅行会社の
でシーソー状態が続いている。一方でイ
競争は激しくなく、一定の収益は保てた。
経営が悪化し、不良化した債権がオペ
ンバウンドは、円安基調後の伸びが著し
手配エリアも拡大してゆき、外資も営業
レーターにも襲い掛かり、一時期に一億
い。
基盤を固めた。外資はもともと本国で
を超す金額になった。しかし全体的には
ホールセラーをやっていたり、金融関係
懸命な努力と生命力で乗り切り、OTOA
5.オペレーター経営の現状
であったりと、多角的なフィールド感覚
会員はこの間に約40%増加した。
(表-3)
2014年11月1日時点の OTOA 正会員
はもっていた。
さらに2000年には一般旅行者も意識した
数は147社、賛助会員は46社で、社団化以
「OTOA ドットコム」を開設し、ひとつ
来の最大会員数が151社(1998、1999年、
るようになっていく。
4-3 第一次成長期(1970年~1990年)
のハードルを乗り越えた。
表-3)なので、会員数としてそれほどの
ジャンボジェット機による大量輸送時
またこの時期に前後して、既に一部の
落ち込みは見られていないが、内情は厳
代に入りパッケージツアーの時代になる
オペレーターで多角化の動きはあり、手
しいものが想定される。経営を圧迫して
と、法的な問題を含めた旅行会社との取
配範囲の拡大、外航クルーズ、エアライ
いる主な要因としては、①旅行会社間の
引で様々な問題が発生してきた。その延
ンなどの交通機関やホテルチェーンの代
過当価格競争、②オペレーター間の過当
長線上で OTOA が設立され(1974年)、
諸問題と向き合いながらオペレーターの
表-3 OTOA 会員数の推移 (1991年8月1日の社団法人化以降)
立ち位置を固め、1990年の出国者数1000
1991年
1992年
1993年
1994年
1995年
1996年
1997年
万人台突入、翌年の OTOA 法人化に向
107
113
119
131
131
135
141
151
かう。後半はオペレーター間の競争や、
1999年
2000年
2001年
2002年
2003年
2004年
2005年
2006年
第2ブランドやメディア商品が登場して
価格競争も激しくなり、膨らむコストの
一方で収益は伸び悩んできた。
1998年
151
149
151
144
149
136
142
141
2007年
2008年
2009年
2010年
2011年
2012年
2013年
2014年
140
134
129
132
142
139
142
147
出所:OTOA *2014年は11月1日時点
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日本国際観光学会論文集(第22号)March,2015
価格競争、③日本ブランド低下による仕
ペレーターの多角化戦略は、追い詰めら
持ち合わせている。
入上のハンディキャップ、④ BRICs や
れた状況を打開し、新規事業として成功
⑧については、当初オペレーターは、
新興アジア勢力進出等によるホテル仕入
させるための重要な経営上の選択肢にな
旅行会社の作った企画を確実に手配する
事情悪化、⑤オンライン・トラベルエー
っている。
という職責で営業していた経緯もあり、
5
企画素材の情報提供に留まっていた。そ
ジェント(OTA) の台頭、⑥頻発する
6
テロや政変、外交問題など、⑦疫病の流
6.オペレーターと旅行会社の職能比較
の後は、モデルコースとしての企画提案
行、
⑧旅行会社からの過当付帯業務依頼、
旅行会社とオペレーターは同じ業界で
型も増え、旅行会社と同じように日程を
⑨人材流出、⑩為替変動といったものが
はあるが別の職種であり、会社や人それ
作成するテクニックも習得してきた。
考えられる。
ぞれの事情も異なるため職能の単純比較
⑨と⑪は旅行会社にとっての重要分野
オペレーターにとってホテル仕入は、
はしにくいが、敢えて筆者の経験と知見
であり、オペレーターが本業ベースであ
経営の根幹を左右する重要な業務であ
を基に、参考資料として表-4にまとめ
るなら特に得意である必要はない。⑨に
る。上記③、④、⑤は日本市場という観
た。
ついてはツアーの動きや売れ行きなど、
点で見るとホテルの廉価安定仕入の脅威
オペレーターを基準に考察すると、①
営業上必要な情報でもあるので、多少の
であり、①と②の現状に真っ向から相反
②や④、⑦などはメインの商材でもある
知識は備わっている。パッケージツアー
する。アジアの新興勢力に押され気味の
ので、営業上の武器として当然であろう。
の販売現場や旅行者から比較的遠くに位
日本市場ではあるが、根付いた安価な市
問題は⑤と⑥のグローバリズムに関わる
置するオペレーターなので、ある意味で
場価格は変えられず、オペレーターはそ
分野で、かなり両者にバランスがあるよ
は致し方ない分野である。⑪は旅行会社
の板挟み状態に置かれている。
うに思える。外資のオペレーターはもち
ではないので不得意で当然であるが、既
また⑥や⑦の現状は当該地域への日本
ろん、日系であっても日本拠点では外国
に旅行会社を同時経営しているところも
人旅行者の動きが止まる最悪の要因で、
人社員・役員や現地在住経験者比率が比
あり、FIT をオンラインで扱うところも
同地域を専門に扱うオペレーターにとっ
較的高く、通信用語や社内書類を英語に
出てきている。オンラインだと、旅行会
ては、まさに存続の危機に瀕する一大事
限定しているところもある。まして現地
社の営業・販売ネットワークは不要にな
となる。よって他の安全な国々を新規手
は日本以外の国々を扱っているところも
る。
配エリアに加えて営業を存続させるとい
あり、グローバルな世界そのものである。
⑩は現地対応能力では当然ながら、圧
う、多角的な動きに繋がって行く。中近
次に③と⑧であるが、③は当然ながら
倒的にオペレーターが優っている。経験
東・アフリカの専業者が、英国、イタリ
手配上航空便が入ってくるので多少の知
則もあり、マニュアルも整備されている
ア、フランスなどの手配を始めたといっ
識はあるものの、航空会社とのダイレク
ケースが多い。また OTOA としても真
た事例も見られる。さらにこのような情
トな付き合いはないので、得意な分野と
剣に取り組んでいる分野である。旅行会
勢に至らないまでも、人気の低下や航空
は 言 え な い。た だ し 中 に は 航 空 会 社
社側としては、情報収集はもちろん、マ
便の減便や撤退などにより専門特化して
GSA の経験をもつところ、B2C に進出
スコミや家族対応といった日本サイドで
いたデスティネーションが慢性的に落ち
したところは、かなりの知識やスキルを
の危機管理が主流となるが、一般的にそ
7
込むと、本業内ではあるが多角的に他の
デスティネーションを求める流れが出て
表-4 オペレーターと旅行会社の職能比較
きてもおかしくない。
分野
旅行会社
オペレーター
⑧については本来業務に加えて付帯業
①
デスティネーション知識
〇
◎
務のボリュームが増加し、かなりの手間
②
宿泊・食事・交通機関の知識
〇
◎
を要して時間を費やすため大幅なコスト
アップにつながる。業務量も大幅に増え
るが、社員の待遇改善に直結しないため、
③
航空に関する知識
◎
△
④
情報収集能力
△
◎
⑤
国際性
△
◎
⑨の人材流出に繋がっていく。
⑥
語学力
△
◎
⑦
扱い地域内ネットワーク力
×
◎
⑩については、為替変動リスクをとる
⑧
ツアー企画力・スキル
◎
〇
のはオペレーターの宿命であるが、利幅
⑨
市場調査力(国内)
◎
△
が少ない現状で差損を吸収するのは至難
⑩
危機管理能力(現地の事故等)
〇
◎
⑪
ツアー販売力・販売スキル
◎
×
の業である。本業以外の他の収入源に依
存せざるを得ない。
このような諸々の厳しい環境の中、オ
出所:筆者作成(人事異動の多い大手旅行会社の企画担当者とオペレーターのベテラン営業
担当者を想定したイメージ)
記号:×:低い △:やや低い 〇:やや高い ◎高い
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日本国際観光学会論文集(第22号)March,2015
この部分は JATA(一社・日本旅行業協
国人と共に旅行する価値観も出て来よ
に想定される中、オペレーターのもつ能
会)の取り組みもあって、かなり徹底さ
う。さらに日本の旅行業法の対象になら
力や経験・スキルなどが、この流れの中
れている。
ないので、ある面、主催会社として自由
の新たなビジネスチャンスに活かされる
がきくかもしれない。
可能性は高い。
7-4 現地のアウト、日本のインバウン
8.おわりに
7.オペレーター経営多角化の可能性
7-1 時代・環境の変化と多角化
かつてはオペレーターが多角経営を行
ド・ビジネス
以上、オペレーターという旅行業界内
うことについてタブー視されてきた感が
オペレーターは、ツーウェイである。
の業態を改めて見つめなおし、その歩ん
あり、まして旅行会社を興してB2Cに参
日本の旅行会社と共に日本人を海外に送
できた道程と現状を再確認、そして旅行
入ともなると、不快感を示された経緯も
り出すアウトバウンド、そして現地側は
会社との比較の中で得意分野を洗い出し
ある。また海外旅行市場は自由化以降成
それを受けいれるインバウンド、といっ
ながら、経営多角化の可能性を探ってき
長が続いて扱い量が増加し、多角化せず
たツーウェイである。そして今度は、日
た。先行研究の中でもその可能性の高さ
とも十分その道で経営出来たという背景
本のインバウンドが好調に推移するな
は指摘されていたが、当時はインバウン
もある。
か、その逆をビジネス化して多角化を図
ド伸長などの環境がまだ整っていなかっ
しかし時代は変わり、オペレーターの
る機運が熟してきた。つまり根を張った
た感がある。
世界とその周辺環境も大きく変化してき
現地で日本への旅行を営業して現地人旅
その後、旅行販売のオンライン化と海
ており、本業の内外での多角化を強いら
行者を送り出し、
日本ではインバウンド・
外旅行のFIT化は進み、インバウンドの
れてきている。それぞれの会社に適合し
ビジネスとして彼らの旅行を扱うのであ
急成長が業界内のバランスを変化させ、
た多角化があると思うが、現在の業界を
る。既にスペインほか、いくつかのオペ
アウトバウンドと合わせて日本のグロー
取り巻く環境を捉え、以下のような可能
レーターで成功例が出てきている。イン
バル化が進む。そしてこれら環境の変化
性ある分野での挑戦が期待される。事業
バウンドのノウハウや仕入手配などにつ
が、間違いなくグローバル化したオペ
規模としては7-3、7-4といった構造的多
いては、日本の大手旅行会社などに委託
レーターにとってプラスに作用すると思
角化が大きい。
も可能である。そうなれば、まさにツー
われ、業界の縄張り意識、そして業界を
ウェイで日本の旅行会社とビジネスが可
超えた多角経営を進めることによって、
7-2 手配地域の拡大・変更
能となり、従属関係も緩和されよう。さ
新たなる立ち位置を確保できよう。
これは本業の一部と言っていいかもし
らにオペレーターがアジアなどにもつ拠
FIT をターゲットにしたオンライン・
れないが、以前には全く関連のなかった
点をベースに、日本人に限らない、そし
ビジネスは、ブランドと信用力の面で多
国や地域を手配領域に加えるといった多
て日本に限らない第3国への旅行を扱う
少時間を要すると思われるが、現在では
角化である。第5章で少し述べたが、専
というビジネスも、アジアの成長に伴い
ウェブ上のテクニックやSNS等でカバー
門的な手配エリアで発生した紛争などが
市場規模が大きくなってきている。
できる部分も出てきている。まさに現地
に根差した強みをフルに活かせる旅行会
慢性化した場合など、代案の商材として
新エリアを取り入れて生き延びるという
7-5 その他の多角化
社のビジネスである。今では OTA とい
施策。しかし当然ながら、既にそのエリ
地の利を活かしたオペレーターによる
う外資勢力がオンラインで日本市場を侵
アには先行の他社が食い込んでいるはず
物品の輸入販売も可能性がある。前述し
食しつつある中、旅行会社側が商圏侵害
で、かなり厳しい営業力が問われる。
たマリソル社での成功例、また最近では
という点でこのビジネスに反発する可能
アフリカ方面の専業者による雑貨販売も
性は低い。
好調と聞く。この10年くらいの間に、他
インバウンドの成長に伴い、アウトに
業種から旅行関連産業に入ってくるケー
おいてはオペレーターが旅行会社に従属
日本でも可能だが、旅行会社との商圏問
スが目立つが、これは他業種の多角化が
する関係が、インにおいては国内仕入・
題や過当競争もあるので、現地をベース
旅行業界に波及しているのである。当然
手配に強い旅行会社が現地訪日客を持つ
にした方がその国や地域に根差したオペ
その逆も考えられるわけである。
オペレーターに従属する関係も想定でき
レーターのメリットが出せる。当面は
時を待たずして日本のアウトとインバ
る時代になった。こうなれば従属関係で
FIT に特化するケースが多いと思われる
ウンドを合わせた交流人口が3000万人を
はなく、ツーウェイのビジネス・パート
が、将来的には現地発着のパッケージツ
超えると予想され、ますます日本とアジ
ナー関係といえ、前述のオペレーターに
アー主催も視野に入る。外国人との混載
アのグローバル化は進む。スマホや SNS
よる商圏問題についても調整されよう。
も抵抗がなくなってくるであろうし、外
を媒体とした新たな旅行流通形態も十分
さらに各オペレーターだけでなく
7-3 現地ベースのオンライン FIT 旅行
会社
-155-
日本国際観光学会論文集(第22号)March,2015
OTOAが業界団体の強みを発揮して、こ
れらポテンシャルな多角化に機能して行
けば、業界地図に変化が出てくる可能性
も高まると言えよう。
ター
BRICs:経済成長の著しいブラジル、
5 ロシア、インド、中国の4か国
OTA:Online Travel Agent オンライ
6 ンに特化した、旅行とそのパーツなど
主要引用・参考文献
・日本国際観光学会『観光学大事典』木
を販売する業者で、エクスペディアや
トラベロシティなどが有名
GSA:General Sales Agent 総代理店
7 楽 社、2007 年、160、161、173、176、
293頁。
【本稿は所定の査読制度による審査を経たものである。
】
・日本国際観光学会編、松園俊志監修『旅
行 業 入 門』同 友 館、2005 年、122 頁、
228-231頁。
・石崎祥之「ランドオペレーター経営の
変化」
『立命館経営学』第47巻 第4号
2008年、87-93頁。
・澤渡貞男『海外パッケージ旅行発展史』
彩流社、2009年、148-150頁、176-179
頁。
・OTOA ド ッ ト コ ム www.otoa.com
(2014年11月5日アクセス)
・太田久雄・津山雅一『海外旅行マーケ
ティング』同友館、2000年、95頁。
・岡本義温・小林弘二・廣岡裕一『変化
する旅行ビジネス』文理閣、2003年、
156-159頁、160-164頁、172-175頁
・加 藤 弘 治 『観 光 ビ ジ ネ ス 未 来 白 書 2013年版』同友館、2013年、82-83頁
・‌高井典子・赤堀浩一郎『訪日観光の教
科書』創成社、2014年、102-106頁
注記
Overseas Tour Operators Association
1 of Japan(OTOA)
一 般社団法人・日本海外ツアーオペ
レーター協会。安全対策、研修、広報、
調査研究、ホームページ、インバウン
ド(訪日旅行)、連絡協議などを主な事
業として運営されている。
FIT:海外個人自由旅行(者)
(Foreign
2 Independent Tour/Traveler)
OTOA ドットコム:OTOA の専用ウ
3 ェブサイト www.otoa.com
ギリシャのマリソル社:ギリシャ一国
4 を範囲とする小規模ツアーオペレー
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