全文 - ヒューマンサイエンス振興財団

厚生労働科学研究委託費
創薬基盤推進研究事業
研究課題名:産学官連携研究の促進に向けた創薬ニーズ等調査研究
平成 26 年度(2014 年度)
国外調査報告書
がん等の難治性疾患の革新的治療法開発
の新たな潮流を探る
公益財団法人ヒューマンサイエンス振興財団
発行元の許可なくして転載・複製を禁じます。
はしがき
公益財団法人ヒューマンサイエンス振興財団(HS 財団)では、昭和 61 年度(1986 年度)より、厚
生科学研究費補助金を活用し、医療・医薬等いわゆるヒューマンサイエンスにおける研究開発の
分野で、産学官が協力して実施する各種プロジェクトを推進しております。
HS 財団は、上記各種プロジェクトを推進するために有用な情報を提供する目的で、欧米を中心
とする諸外国の医薬品などの研究開発の状況に関する「国外調査」を毎年実施して参りました。
平成 26 年度の国外調査においては、「がん等の難治性疾患の革新的治療法開発の新たな潮
流を探る」をテーマに、欧米各国における最新の医薬品産業の動向を把握するとともに、創薬に関
連する科学・技術の進展と先端的医療技術開発の現状等について調査・分析することを目的に、
欧米各国を訪問して、製薬企業、研究・医療機関及び関連行政機関より、最新の情報を入手・分
析することと致しました。
今回の国外調査で収集した情報が、日本のヒューマンサイエンスにおける研究開発振興の一助
となることを切に願っております。
なお、本調査は、平成 26 年度の厚生労働科学研究委託費(創薬基盤推進研究事業)を受けて
行った調査であり、HS 財団の「国外調査班」が計画立案し、実施したものです。本調査の実施にあ
たり、諸準備・諸手配にご協力頂きました関係各位に、厚く御礼申し上げます。
公益財団法人ヒューマンサイエンス振興財団
i
国外調査班(敬称略、会社名五十音順)
【班メンバー】
第一三共株式会社
研究開発本部
佐
味の素製薬株式会社
事業開発部
岩
田
博
司
協和発酵キリン株式会社
総務渉外部
小
林
恵
子
協和発酵キリン株式会社
総務渉外部
森
下
芳
和
興和株式会社
医療用開発本部
川
越
淳
一
大正製薬株式会社
医薬事業企画部
川
西
政
史
田辺三菱製薬株式会社
研究本部
大
野
文
彦
バイエル薬品株式会社
オープンイノベーションセンター
深
尾
太
郎
Meiji Seika ファルマ株式会社
医薬製品企画部
林
宏
行
MSD 株式会社
グローバル研究開発本部
閌
康
博
株式会社レクメド
代表取締役社長
松
株式会社レクメド
取締役 事業開発部長
柏
株式会社レクメド
事業開発部
鈴
木
規
由
株式会社レクメド
事業開発部
中
里
恭
子
(公財)ヒューマンサイエンス振興財団 研究企画部
井
口
富
夫
(公財)ヒューマンサイエンス振興財団 研究企画部
加
藤
正
夫 (研究分担者)
ii
藤
督 (リーダー)
本
正
純
子
目 次
第 1 章 調査の概要
1-1. 調査の目的………………………………………………………………………………….
1
1-2. 訪問先と主な入手情報……………………………………………………........................
1
1-3. 調査団メンバー………………………………………………………………………….......
15
1-4. 調査日程…………………………………………………………………………................
16
1-5. 調査協力者………………………………………………………………………………….
17
第 2 章 訪問先別調査結果
■米国
【Washington DC】
2-1. Biotechnology Industry Organization(BIO)………………………………………….…...
18
【Bethesda/MD】
2-2. National Institutes of Health(NIH)………………………………………………………...
21
【NYC/NY】
2-3. Parent Project Muscle Dystrophy(PPMD)………………………………………………...
31
【Boston/MA】
2-4. HealthCare Ventures …………………………………………………….…………….……
37
2-5. Dana-Farber Cancer Institute(DFCI)..………………………………………………….....
41
【San Diego/CA】
2-6. Genelux Corporation………………………………………………………………..………
47
2-7. International Stem Cell Corp(ISCO).......................................................................... ...
52
【Thousand Oaks/CA】
2-8. Amgen, Inc.………………………………………………………………………………….
58
■欧州
【Helsinki, Finland】
2-9. Oncos Therapeutics Ltd .......................................................................………………...
63
2-10.Institute for Molecular Medicine Finland(FIMM) ………………………………………
69
iii
【Paris, France】
2-11.Cellectis SA………………………………………………………………..........................
76
2-12.Institut Curie ………………………………………………………………........................
80
【Basel, Switzerland】
2-13.Novartis International AG.………………………………………………………………….
86
【Allschwil, Switzerland】
2-14.Actelion Pharmaceuticals Ltd.. …………………………………….........................……..
90
【Brussels Belgium】
2-15.Innovative Medicines Initiative(IMI) ………………………………………….....……...
95
【London, UK】
2-16.Cancer Research UK(CRUK)・Cancer Research Technology(CRT)...…………………..
107
2-17.UK Trade & Investment(UKTI)……………………………............................................
113
2-18.Medicines and Healthcare Products Regulatory Agency(MHRA)………………...….....
116
第3章
調査結果の総括と提言
3-1. 調査結果の総括…………………………………………………………………………….
119
3-2. 提言………………………………………………………………………………………….
120
注 :本 文 中 の外 貨 金 額 の桁 表 記 として、K=1,000(千 )、M=1,000,000(百 万 )、B=1,000,000,000
(十億)、を用いた。
iv
受領資料一覧
各訪問先から受領したプレゼンテーションに用いられた資料(説明資料)のすべて及び説明の
補足として配布された資料(配布資料)の一部を、PDF ファイルに変換し巻末付録 CD-ROM に収
載した(計 43 ファイル)。
ただし、各訪問先から受領した資料の内、ホームページからダウンロードできる資料 及び冊子
体の資料(*を付記)については、巻末付録 CD-ROM への収載を割愛した。
01.Biotechnology Industry Organization(BIO)
説明資料
01-1. Japan Health Sciences Foundation(JHSF)Meeting
02.National Institutes of Health(NIH)
説明資料
02-1. The Future of Biomedical Research:A View from NIH
02-2. Human Microbiome Research at NIH
Past, Present & Future
02-3. The Curative Potential of Cell Transfer Immunotherapy for Human Cancer
配布資料
02-4. The Integrative HMP(iHMP)Research Network Consortium, The Integrative Human
Microbiome Project:Dynamic Analysis of Microbiome-Host Omics Profiles during
Periods of Human Health and Disease.,Cell Host & Microbe 16, p276 -p289,
September 10(2014)
02-5. Eric Tran et al.,Cancer Immunotherapy Based on Mutation-Specific CD4+ T Cells in a
Patient with Epitherial Cancer. Science vol.344 p641-p645(2014)
03.Parent Project Muscle Dystrophy(PPMD)
説明資料
03-1. Duchenne develops when dystrophin is missing or malformed
03-2. Putting Patient First
配布資料
03-3. Benefit-Risk Assessments in Rare Disorders(冊子)*
03-4. STRENGTH HAPPENS TOGETHER(冊子)*
03-5. TRENGTH HAPPENS TOGETHER CONNECT 20 th Annual Conference(冊子)*
04.HealthCare Ventures
なし
05.Dana-Farber Cancer Institute(DFCI)
説明資料
05-1. Dana-Farber Cancer Institute, Capabilities and Collaboration Opportunities
v
06.Genelux Corporation
説明資料
06-1. GENELUX, Illuminating Hope in the Fight Against Cancer
07.International Stem Cell Corp(ISCO)
説明資料
07-1. Cells for Therapy and Research
08.Amgen, Inc.
説明資料
08-1. Unlockingof the potential of Biology
配布資料
08-2. Medical Information request(MIR-242655)*
09.Oncos Therapeutics Ltd.
説明資料
09-1. ONCOS THERAPEUTICS, Personalized Cancer Immunotherapy
10.Institute for Molecular Medicine Finland(FIMM)
説明資料
10-1. FIMM
11.Cellectis SA
説明資料
11-1. Engineered T cell therapies ~ A new paradigm in oncology ~
12.Institut Curie
説明資料
12-1. Institut Curie
12-2. The continuum between basic research, translational research and care
配布資料
12-3. Scientific Directory 2014
13.Novartis International AG
なし
14.Actelion Pharmaceuticals Ltd.
説明資料
14-1. REALIZING THE VALUE OF INNOVATION
vi
15.Innovative Medicines Initiative(IMI)
説明資料
15-1. The Innovative medicines Initiative: The European engine for pharmaceutical
innovation
15-2. Project Overview: PreDiCT-TB
15-3. Project Overview: NEW DRUGS FOR BAD BUGS, ND4BB PROGRAMME
15-4. Project Overview: MARCAR
15-5. Project Overview: MARCAR
15-6. OncoTrack, Methods for systematic next generation oncology biomarker development
15-7. Novel complex models for cancer target validation
15-8. Project Overview: QuIC ConCePT
15-9. EBiSC: The European Bank for induced pluripotent Stem Cells
15-10.StemBANCC: Stem cells for Biological Assays of Novel drugs and prediCtive
toxiCology
15-11.Patient Outreach
15-12.EUPATI: EUROPEAN Patients’ Academy on Therapeutic Innovation
配布資料
15-13.IMI JU SCIENTIFIC PRIORITIES FOR 2014
15-14.The right prevention and treatment for the right patient at the right time
15-15.Innovative Medicines Innitiative Highlights May 2014
15-16.Innovative Medicines Innitiative 2: Europe’s fast track to better medicines
15-17.1st Call for Proposals 2014 Innovative Medicines Innitiative 2
15-18.IMI Intellectual Property Policy
15-19.New Drugs 4 Bad Bugs(ND4BB)
15-20.The Innovative Medicines Initiative: a Public Private Partnership Model to Foster
Drug Discovery
15-21.Public-private partnerships as driving forces in the quest for innovative medicines
16.Cancer Research UK(CRUK)・Cancer Research Technology(CRT)
説明資料
16-1. INTRODUCTION TO: - CANCER RESEARCH UK AND - CANCER RESEARCH
TECHNOLOGY LTD
16-2. Clinical Development Partnerships, Releasing the untapped potential in cancer drug
development
16-3. CANCER RESEARCH UK STRATIFIED MEDICINE PROGRAMME 2
17.UK Trade & Investment(UKTI)
なし
vii
18.Medicines and Healthcare Products Regulatory Agency(MHRA)
なし
viii
第 1 章 調査の概要
1-1.調査の目的
平成26年度(2014年度)の国外調査は、「がん等の難治性疾患の革新的治療法開発の新たな潮
流を探る」をテーマとし、具体的には、がんを中心に、炎症性疾患、自己免疫疾患、感染症等の難
治性疾患・希少疾患に対する革新的な新規治療法や治療技術、創薬シーズ等に関し、欧米各国
の代表的な大学、公的研究機関、製薬企業、バイオベンチャー等を訪問し、最新の情報を入手・分
析することとした。
1-4.調査日程に示すスケジュールにて、欧米各国の製薬企業、研究機関、及びライフサイエ
ンス関連行政機関等を訪問するものであった。又、その具体的目的は、以下のとおりであった。
・
がん免疫療法とがんウィルス療法の研究開発状況に関する調査・情報収集
・
がんにおける Translational Research と個別化医療への取組みに関する調査・情報収集
・
難治性疾患や希少疾患の治療薬開発に対する国家レベル、官民連携あるいは患者団体
の取組みに関する調査・情報収集
・
製薬企業やバイオベンチャー企業の得意分野・技術への選択と集中に関する調査・情報
収集
1-2.訪問先と主な入手情報
1) Biotechnology Industry Organization(BIO)
・
平成 25 年度国外調査に続き訪問し、BIO の活動に関するアップデートと Rare Diseases へ
の取組みに関して情報を収集した。
・
BIO は、研究開発型のバイオベンチャーが会員企業の中心となり、それぞれの会員企業の
メンバーが同時に各種コミッティーのメンバーとなっていくつかの活動を行っている。
・
米国以外の戦略地域では、アジアにおいては、日本ではなく中国が選ばれていた。
・
希少疾患の分野においては、米国バイオベンチャーが積極的にその制度を活用してきた
こともあり、BIO としても FDA への働きかけを含め、各種ロビー活動を展開して、会員企業
の利益の拡大に努めている。
・
米 国において、希 少 疾 患 治 療 薬の開 発 促 進には、Accelerated Approval、Fast Track、
Priority Review、Breakthrough Therapies の 4 つの仕組みが使える可能性がある。
・
患者数が少ない中での、臨床デザインやエンドポイントの設定に関して今後の議論が望ま
れる。
・
BIO はベンチャー企業のみならず、患者団体とも連携し、BIO International Conference 等
で患者団体への発言の場を提供している。
2) National Institutes of Health(NIH)
・
NIH の予算及び funding 政策、Microbiome Project の現況、異種移植研究及びがん免疫
療法の概況について話を伺った。
(1) The Future of Biomedical Research: A View from NIH
・
NIH は全米の Intramural Research と Extramural Research の 2 つの機能を有し、Intramural
1
Research は NIH 傘下の 27 の研究所内の 6,000 人の科学者がかかわる研究で予算額は
NIH 全体予算の 11%、Extramural Research は外部研究機関、研究者のサポートを行い、
予算額は NIH 予算の 81%に相当する。
・
NIH の 2013 年度予算は、年間約 30B 米ドル。その内訳は、基礎研究に 52%、臨床研究
に 34.6%、その他応用研究が 10.5%であり、米国の科学技術予算削減の影響を受けるもの
の、米国政府はゲノム研究などの基礎研究の重要性を高く認識しており 2012 年度同様の
レベルを維持している。
・
Extramural Research 予算の内 30%をプールし、肺の健康と疾病の前兆診断、消化管粘膜
免疫疾患と肝疾患と HIV の関係、ダウン症とアルツハイマー病のバイオマーカー探索、消
化管 Microbiome-Brain Interaction とメンタルヘルスとの関係などの Targeted Research に
優先的に充てられている。
・
大きなプロジェクトとしては BRAIN(脳の機能・病態解明のための先端技術開発)、BD2K
(ビッグデータの収集と活用)、BUILD(少数民族など多様な学生やポスドクの研究環境を
支援する目的で設置された NIH Common Fund。個別指導や奨学金、トレーニングのため
の研究装置の購入、PhD 取得などの支援を行う)、BEST(大学院院学生やポスドクへのト
レーニングプログラム手法の開発及び企業など non-academic とのコラボレーションなどを推
進する人材の育成トレーニング)がある。
・
NIH は得られた研究成果に関して外部評価委員会を通じて透明かつ公明正大に評価を
行うとともに積極的に公開している。
(2) Human Microbiome
・
Human Microbiome Project は、2008 年 NIH の Common Fund プロジェクトとしてスタートし
た。
・
2008~2012 年までに Phase1 として、Human Microbiome の探索のため 175M 米ドルが
NHGRI、NIAID、NIDDK、NIDCR、NIAMS、ORWH、NCCAM、ODS の研究に拠出され
た。
・
健常人 300 人の 5 か所の体組織(鼻腔、口腔、消化管、皮膚、泌尿器)の Microbiome に
ついて調 べ、Microbiome と疾 病 との関 連 についてのコホート研 究 を行 った。健 常 人 の
Microbiome は多様性に富むが、遺伝的な多様性は少なかった。
・
2013~2016 年に Phase2 として全米 15 研究施設が参加する研究コンソーシアム iHMP
(integrated Human Microbiome Project)が開始され、健康と病態のヒト Microbiome-Host
Omics 解析を実施中である。
・
今後、新生児から 21 歳までの 10 万人の米国人を対象に Microbiome を採取する National
Children’s Study を計画している。
(3) 臓器異種移植研究
・
ブタを使った臓器の異種移植研究の現状について話を伺った。
・
臓器移植において臓器不足は深刻な社会問題であり、異種移植研究がその救世主となる
ことを目指している。
・
ブタは組織解剖学的にヒトに似ていることと食用動物のため倫理的なハードルが低い点で
臓器ドナーとして適している。
・
異種移植の場合、拒絶反応が問題となるが免疫拒絶に関与する 6 つのヒト遺伝子を同定
2
し、遺伝子組換えの手法により拒絶反応を回避する研究を行ってきた。
・
現在までにブタにおいて 180 日間生存の最長記録を達成している。
・
この技術は腎臓、肺、膵島移植にも応用可能であり、現在ピッツバーグ大、メリーランド大と
共同研究中である。
・
iPS 細胞や ES 細胞を利用した臓器移植の研究は行っていない。
(4) がん免疫療法
・
Rosenberg 博士は 40 年に亘り、がん免疫療法について研究を行ってきた世界的に著名な
がん免疫療法の先駆者である。
・
がん免疫療法には 3 つの方法がある:①免疫系刺激療法(IL-2 などによる免疫細胞の賦
活、抗 CTLA4 抗体、抗 PD-1 抗体による regulatory factor の阻害)、②がんワクチン療法、
③養子免疫細胞療法(ACT)。
・
すべてのがんは遺伝子変異を有しており、エクソソーム解析による変異遺伝子の解析がが
ん研究、治療には必須であり、肺がんのメタ解析では 26 種の変異遺伝子が同定されてい
る。
・
近年がんワクチンの治験が必ずしも成功していない理由として、一つの変異に対してのワク
チンの効果では不十分なためと考えている。
・
ACT の利点は、患者自身の免疫系細胞の一部を取り出し、研究室で大量培養した後に
患者に戻すため大量投与が可能であり、がんへの攻撃力をアップできる点にあり、難治性
がんの治療で良好な結果が得られている。
・
免疫療法がメラノーマ、肺がんに効果があり、他のがんに対して効果がない理由として、他
の多くのがんでは変異は数えるほどであるのに対し、メラノーマや肺がんでは平均数百の
変異が見つかっていることから十分な効果が出やすいと考えられる。一方、胆管がん、結
腸がん、前立腺がんは IL-2 や抗 PD-1 を投与しても十分な免疫反応を惹起できるだけの
変異ではないためと考えられる。
・
がんウィルス療法については、ウィルスが正常細胞に比べてがん細胞特異的に感染する根
拠がなく、これまで実施したトライアルでは効果がないことから訪問時点での Rosenberg 博
士の見解は否定的であった。
3) Parent Project Muscle Dystrophy(PPMD)
・
PPMD のミッションは DMD を終わらせる(to end Duchenne)ことであり、そのための研究を促
進し、患者両親の声をワシントンに届け、すべての患者に最善の治療法を提供、さらには
世界への啓蒙にある。
・
PPMD が対応、支援する業務は、Advocacy、Community outreach、研究支援、診療への
助言、資金収集、等であり、19 名のスタッフですべての業務に対応している。
・
啓 蒙 活 動や患 者 、関 係 者とのコミュニケーションはホームページ上のコミュニティサイト、
Twitter や Facebook など SNS を活用している。一方で、メディアコントロールにも注意を払
っている。
・
新規治療薬開発促進へ向けての支援活動として以下を進めている。

新薬開発の時間短縮と効率向上(成功率向上+コスト削減)へ向けての活動

患者レジストリー、研究支援、臨床開発支援、規制面(ガイダンス)への提言など
3
・
患者レジストリー、Duchenne Connect の概要

2007 年に PPMD により立ち上げられた患者レジストリー。3,000 例以上のエントリー
(2013 年は新規登録が 400 件以上)があり、研究者、企業も閲覧でき、臨床試験のデ
ザインに活用できる。
・
新規治療薬の臨床試験への支援

現在、11 薬剤について経済的支援を実施中。前期臨床試験への支援であり、後期
臨床試験は支援していない。また、臨床試験実施の際の各臨床機関における IRB 取
得の支援も行う。PPMD の予算規模は年間 6M 米ドル前後であるが、新薬研究開発
への支援に 1 件当たり最大 0.5~0.75M 米ドル、総額で 2.5~3.5M 米ドルを投じている。
他の研究支援団体と共同で資金提供することもある。
・
FDA への助言、支援活動

PPMD は Draft Guideline を独自に作成、2014 年 6 月に FDA に提出している。

主な内容は、NDA までの所要時間の短縮、surrogate endopoint を用いる場合のその
evidence の明確化、患者レジストリーの natural history data の活用によるプラセボ群
の廃止若しくは最少人数化等である。独自の guidline を作成しようとしている EMA に
もコメントを開示している。
・
PPMD は患者団体として非常に先駆的な取組みを行っていることを自負しており、他の患
者団体の魁となろうとしている。
4) HealthCare Ventures
・
HealthCare Ventures は、主要な開発品が前臨床及び早期臨床段階にあるバイオ企業に
投資をするベンチャーキャピタルである。1985 年に設立され、25 年間投資業務を行ってき
ており、9 種のファンドを通じてこれまでに、1.6B 米ドルの資金を調達し、106 の企業に投資
してきた。今回の訪問ではこのキャピタルのパートナーを長く務める Mirabelli 氏に話をうか
がった。
・
25 年の間に Velcade(プロテオソーム阻害剤)、CAMPATH(抗 CD33 抗体)、Synagis(抗
RSV ウィルス抗体)等、数多くの革新的な薬剤の開発に立ち会い、投資した会社を高額で
売却することに成功してきた(MedImmune は AstraZeneca が買収、Leukosite は Millenium
が買収、その後 Millenium は武田薬品に買収された)。
・
投 資 の 失 敗 も 経 験 し て い る 。 原 因 は Science が robust で な い こ と や 、 正 し い 人 が
management をしていない等である
・
おおまかな HealthCare Venture の投 資 成 績 は下 記 の とおり。成 功 例 と しては Human
Genome Science(GSK が買収)、Medimmune がある。株式上場より売却の方が効率が良
い。
・

投資額の 10 倍以上で会社が売却できる場合:10~20%

全く投資が回収できないケース:10~20%

どうにか投資回収:60~80%
投資対象として前臨床から POC を得る前の project を専門としている。この理由は医薬品
の研究開発過程において、project 価値の上昇幅が最も大きいと考えられるからである。
・
Scientific Advisor との communication から、基礎研究のさまざまな領域や課題の中で、何
4
が数年先に期待を集める領域となるかを同定した上で、研究者との面接や第 3 者の評価を
参考に投資先を決める。最近は protrein misfolding という分野を選んで成功した。
・
投資の基準は、既存の治療を変革する可能性が高い製品であること。場合によっては、シ
ニアマネジメントとして、Healthcare Ventures の社員が投資した会社の事業方針、研究開
発方針の決定に関与し、投資した会社の価値を上げることを目指す場合もある。
・
先駆的な投資先の発見、評価、実際の投資、そして売却相手探しはどこでもできるもので
はなく、ハーバード大学、MGH 等の研究施設、投資家等、ヒト、モノ、カネのそろったボスト
ンだからできる。環境はボストンのほうがカリフォルニアより優れていると語った。
・
再生医療についてどう考えるか尋ねたところ、医薬品ではなく「医療」であり、技術そのもの
やツールには投資しない方針なので強い興味はないという答えだった。
・
バイオベンチャーの新薬創出への貢献、バイオベンチャーへの投資額等における米国の
圧倒的な優位性を築く要因となった政策を尋ねたところ、SBIR(スタートアップ助成制度)
ではなく、Bayh-Dole 法(国公立研究機関の研究成果の私企業への移転を認めた法律)
が事業化の incentive を明確にしたことと、1970 年代から 90 年代にわたる米国のライフサイ
エンスへの莫大な投資ではないかという意見だった。
5) Dana-Farber Cancer Institute(DFCI)
・
連邦政府が指定する全米 41 のアメリカ国立がん研究所指定がんセンターの一つであり、
ハーバード大学傘下にある主要関連医療機関の一つ。
・
”Balanced Portfolio”というポリシーで、患者ケアと先進的研究の支出の比重を 1:1(いずれ
も年間 500M 米ドル)と研究に大きな比重を置く。他のがんセンターでは患者ケアの比重が
大きいが、それらとは異なることが DFCI の特徴である。研究の収支での不足分は病院収
入の余剰分と寄付金で賄う。Jimmy Fund というがん治療の研究基金をはじめとし、チャリテ
ィー基金が収入に占める割合は大きい。
・
Integrative Research Centers(多岐にわたる研究の統合センター。全体のビジネスプランや
財政プランを作成)、Investigators(基礎研究、橋渡し研究など)、Disease Centers(疾患研
究)、Selected Technologies(高度技術研究)という 4 つの独自性を持った研究機能を持ち、
連携しながら全体で 200 人以上の専従の研究者を抱える。
・
臨床試験はボストンの 5 つの病院(DFCI、Beth Israel Deaconess Medical Center、Brigham
and Women's Hospital、Boston Children's Hospital、Massachusetts General Hospital)と 2
つの Harvard School(Harvard Medical School、Harvard School of Public Health)のコンソ
ーシアムで、Dana-Farber/Harvard Cancer Center の管理により実施する体制となっている。
現在 3,500 人以上の患者に対して 700 の試験を実施中。
・
年間 16,000 人の新規がん患者から 80%の生検の同意を得てゲノム解析を自前資金で実
施。遺伝子プロファイリングや臨床試験で治療前後の比較データを取得し、研究に利用。
・
Office of Research and Technology Ventures(ORTV)という組織が、外部特許事務所を活
用しつつ、DFCI 発の 800~900 という特許のマネージメント、企業へのライセンス、企業がス
ポンサーとなる共同研究実施などのために機能。最近ライセンス収入も飛躍的に増加。
・
最近の多数の研究成果の中で、低分子薬では 2008 年から 2013 年のライセンス薬 9 個の
うち 6 個が Phase1 で開発中。また、DFCI 発のベンチャーが 15 社ある。
5
・
研究に力を入れる一方、患者ケアにも力を入れている。病院はホテルのような温かみのあ
る内装、花に満ちたスペースや美しいチャペルを併設した設備であった。
6) Genelux Corporation
・
Genelux は現在有効な治療法のないがんやその他の疾患の治療に対して、最先端の診断
薬あるいは治療薬を開発している企業であり、豊富な知的財産、多角的な戦略によってい、
今後さらなる成功が期待される企業である。
・
2014 年 10 月現在、Genelux は米国に 23 人、ドイツに 7 人の従業員から構成される。
・
oncolytic virus を基本とした独占的な技術基盤と、がんの診断と治療への幅広い応用範
囲(たとえば家畜のがんに対する治療)を有する製品パイプラインを開発している企業であ
る。
・
Memorial Sloan-Kettering Cancer Center(ニューヨーク)、University of Tuebingen(ドイツ)、
Institute of Cancer Research(UK)、University of California, San Diego 等と共同研究開
発を行っている。
・ 歴史 的にヒトへの投 与経 験、安全 性が確 立され、種々のがん細 胞を死 滅しうる vaccinia
virus を基盤とした oncolytic virus を開発しており、他の virus 由来の oncolytic virus との
違い、優位性を presentation で示された。
・
開発中の oncolytic virus、GLV-1h68(GL-ONC1)は動物において、健常組織や器官に障
害をあたえることなく、広範囲の固形腫瘍の劇的な縮小と消失を認めている。
・
Phase1(First in Man、Safety & Dosing)は Royal Marsden Hospital で行われ、進行固形腫
瘍を有する被験者に GL-ONC1 が経静脈的に投与され、安全性、忍容性が確認された。
・
後腹膜腫瘍、頭頸部がん、中皮腫に対する Phase1 が行われており、種々の投与法(腹腔
内投与、腫瘍への直接投与)においても忍容性が高く、腫瘍縮小効果のシグナルを認め
た症例が観察された。今後 Phase2 を開始予定である。
7) International Stem Cell Corp(ISCO)
・
ISCO は子会社として Lifeline Cell Technology(研究用細胞と培地の製造販売、日本はク
ラボウが代理店)及び Lifeline Skin Care(アンチエイジング化粧品の製造販売と皮膚領域
の幹細胞技術)があり、2013 年はグループで 6M 米ドルの売り上げを達成している。ISCO
の従業員数は 38 名である。グループとして、細胞培養や細胞の製造技術に長年の経験を
有している。
・
ISCO は 自 社 で 知 財 面 を 抑 え て い る 、 ヒ ト 単 為 生 殖 ( 未 授 精 卵 由 来 ) 幹 細 胞 ( human
parthenogenetic stem cell, hpSC)を利用した再生医療事業を目指している。
・
hpSC は未受精卵に 2 つの化合物(puromycin と Ionomycin)を処理することによる作製法
が確立されている。胚 盤 胞(blastocyst)段 階まで進んだところで、内 部の細胞 を単 離し、
vitro で増殖させる。iPS 細胞より作製が難しいが、既に 15 の cell line を樹立した。
・
hpSC は ES 細胞や iPS 細胞と同様の多分化能(pluripotency)と無限増殖性を有する。増
殖能については、細胞株によって差の大きい iPS 細胞より優れる。
・
基本、他家移植となるが、ホモ接合型の HLA haplotype の hpSC を揃えることで、免疫拒絶
は抑制できる。
6
・
神経幹細胞、肝細胞、網膜 及び角膜への分化方法を確立しており、前臨床段階の各種
検討を進めている。
・
最も進んでいるのが、hpSC 由来神経幹細胞のパーキンソン病治療への適用であり、既に
サルモデルでの有効性を確認している。安全性の面でも、前臨床段階において、がん化、
幹細胞の残存、異常な組織の出現、脳外への細胞の流出、全身への毒性、免疫拒絶の
兆候がいずれも見られておらず、最高用量でも認容性を認めている。Duke 大学との共同
で間もなく臨床試験(2015 年 Q1 に IND)に入る予定。
8) Amgen, Inc.
・
Genetech が既に Roche の傘下に入っている中、独立性を保っているバイオベンチャーの中
で、世界一の座に君臨している
・
設立当時より、「先ずは Biology がある」を理念に、革新的な薬剤を創製してきており、今後
も革新的な薬剤の開発に挑戦していく。
・
Biologics には強いこだわりを持っていて、その製造プロセスに関しても常に高いレベルを
求めている。この高いレベルの Biologics 製造能力を維持する目的で毎年数 M 米ドルレベ
ルの設備投資を行っている。(最近ではシンガポールに積極的に設備投資をしている)
・
上記世界最高レベルの Biologics 製造能力を生かし、バイオシミラーにも取り組んでいる。
現在 9 個のプログラムが進行している。
・
今回の訪問の目的の一つである、Amgen のがんウィルス療法の取組みに関しては、米国
民の 3 分の 2 が既に感染している HSV-1 をベースに開発を進めている。
・
人工改変させたウィルス(T-Vec)をメラノーマの部位に直接注入し、ウィルスによってがん細
胞が溶解、同時に GM-CSF が発現し、がんの部位にがん攻撃性免疫細胞を集積させると
いう 2 段階のメカニズムによってがん細胞を攻撃する戦略である。
・
N=436 のメラノーマ患者を対象とし、GM-CSF の皮下注射を対照療法とした phase3 におい
て、第1エンドポイントの Durable Response Rate が、T-VEC は 16.3%(N=295)、一方の
GM-CSF は 2.1%(N=141)であった。
・
ウィルス製剤に関しては、自社に製造施設を持っている。
・
T-Vec の NDA filing を 2014 年 7 月に済ませていて、今後の FDA との対応を注視する必
要がある。
9) Oncos Therapeutics Ltd.
・
Oncos Therapeutics は adenovirus をベースにした oncolytic virus の臨床開発を行っている
ヘルシンキのバイオベンチャー。
・
Advanced Therapy Access Program(ATAP)という他に治療手段のない患者に未承認薬へ
のアクセスを許可するプログラム(コンパショネートユース制度に類するもの)を用いて創立
者が研究していた adenovirus ベースの oncolytic virus の安全性が 115 の症例で確認され
たことを契機に 2009 年に設立された。
・
現在開発中(Phase1 を終了)の ONCOS-102 は、遺伝子レベルで修飾された adenovirus。
がん細胞特異的に増殖し、免疫活性化作用を持つ GM-CSF を感染組織で発現する。
・
治験用ウィルスの製造は CMO に委託している。製造は EU や US のガイダンスに沿って行
7
われている。
・
oncolytic virus には vaccinia virus をベースにしたもの(Genelux)や HSV をベースにしたも
の(旧 Oncovax:Amgen が買収)がある。しかし vaccina virus は遺伝子サイズが大きく、宿
主細胞由来のウィルスがコンタミする懸念、HSV は安全性の懸念と免疫原性が低いという
難 点 がある。これらの点 から TLR9 を介 して Innate Immunity を刺 激 する作 用 を持 つ
adenovirus をベースにすることに優位性があると考えられる。
・
作用機作としてはがん細胞選択的なウィルス増殖による腫瘍壊死作用とウィルスとともに壊
死 したがん 細 胞 が免 疫 系 へ 提 示 されることによる腫 瘍 免 疫 増 強 作 用 が考 えられるが、
Oncos は後者の作用が主薬効と考えている。
・
投与方法としては腫瘍内投与を行っている。静脈内投与は簡便だが、肝臓での代謝や抗
ウィルス抗体等によりウィルスが除去されやすい欠点がある。腫瘍近傍での免疫系活性化
と CytotoxicT 細胞の誘導を主薬効と考えていることもこの投与法を選択した理由である。
すなわち ONCOS-102 は”in situ vaccination”による腫瘍免疫誘導を目指している。
・
事実、ONCOS-102 投与症例でウィルスが注入されていないがん組織への CD8 陽性 T 細
胞の侵潤を確認できている。これは ONCOS-102 の腫瘍内投与が全身性にがん免疫を誘
導できたことを示唆している。
・
治療用がんワクチンの臨床開発では目覚ましい成果が得られていないが、この理由は、単
一のがん抗原を用いていることも一因と考えられる。ONCOS-102 は壊死したがん細胞全体
を免疫系に提示できる分、優位性があると考えている。
・
終了した Phase1 では 3 ヶ月後、40%の患者で Stable Disease が確認された。1 例の中皮腫
の患者では腫瘍組織の 47%の減少が確認された。また卵巣がん患者では化学療法感受
性の復活が示唆された。
・
上記の化学療法とのシナジーは唯一の動物モデルであるハムスターでも確認された。
・
今後は中皮腫、軟部肉腫を対象に標準療法との併用で承認を目指す。checkpoint 阻害
剤との併用や化学療法剤との併用も視野に入れている
・
現在、必要なのは開発資金と後期臨床のパートナー会社とのこと。
10) Institute for Molecular Medicine Finland(FIMM)
・
ヘルシンキ大 Meilahti キャンパスには 12 の建物に 7 つの医療機関にいくつかの研究施設
と 政 府 機 関 や 大 学 関 連 機 関 が 加 わ り 、 大 き な メ デ ィ カ ル ・ ク ラ スタ ー を 形 成 し て い る 。
Biomedicum Helsinki はその中 で、医 学 研 究 の推 進 と人 材 育 成 を進 める機 関 であり、
FIMM もその傘下にある。
・
2008 年にヘルシンキ大学医学部に医療機関が協力する形で、国家レベルの基礎医学研
究所、FIMM が開設された。
・
FIMM は Translational Research をメインにした研究所であり、Molecular medicine 関連の
研究室に加え、次世代シークエンサー、HTS 施設、イメージング関係、インフォーマティクス
等の Technology Infrastructure(FIMM Technology Center)を持つとともに、大規模なバイ
オバンクを運営している。
・
FIMM が管理運営するバイオバンクに関してはその一つに Finnish Hematolology Registry
and BioBank(FHRP)がある。フィンランドのすべての臨床機関及び大学で血液関連疾患
8
の血液サンプルと臨床情報を収集。血漿、単核球、皮膚生検試料と DNA を FIMM で保管
するとともに各種オミックス解析及び薬剤感受性試験を行う。
・
薬剤感受性試験(drug sensitivity and resistance testing, DSRT)は 309 の薬剤に対し HTS
設備を用いて行われる。
・
AML 患者に対しては既に DSRT が開始されており、結果が速やかに臨床現場に返され、
遺伝子解析結果とともに各患者への最適な薬剤の選択に役立てようとしている。DSRT の
結果を元に 10 例の患者に薬剤が選択され、有効率 40%の成績が出ている。
・
この試みは Drug repositioning にも適用可能で、腎がん適用の VEGFR 阻害剤 Axitinib
が T315I 変異を有する CML 患者に使えるのではないかというデータが出ている。同様な試
みは MML や前立腺がんでも展開しようとしている。
11) Cellectis SA
・
Cellectis は 1999 年に Institue Pasteur の成果を基に設立され、従業員は 59 名。
・
独自の gene engineering 技術(TALEN TM)を基盤に T 細胞発現受容体の改変(CAR-T)
を行うことでがん特異的な攻撃能を高め、T 細胞他家移植による治療技術を実現させてい
る。
・
治療プロトコールは最適化されており、1 人のドナーあたり 10 9 個の PBMC を単離、CAR-T
を導入することで、1,000 人分相当の治療用細胞の採取が可能となる。
・
ドナーから PBMC 採取後は 20 日以内に治療に使える状態に整えることが可能。なお、細
胞の生産設備は自社では保有しておらず、すべて CMO に委託している。
・
現在 12 のパイプラインが進行中。このうち UCART19 が 2015 年 Q2 に Phase1 開始予定で
現在準備中。
・
既に CAR-T に関して Servier 及び Pfizer と共同開発契約を締結済み。
・
将来を見据えた活動としては、がん以外にも感染症や免疫性疾患への技術展開も視野に
入れている。また iPS 細胞と本技術の組合せによる新たな展開も模索中(2014 年 8 月にタ
カラバイオへ幹細胞関連技術を売却)。
・
Cellectis の本社・研究所は、パリ市内のバイオベンチャー、製薬関連企業が集合するバイ
オクラスター内にあり、企業間の連携が取りやすい環境にあった。臨床応用に向けた T 細
胞生産については欧州各地の CRO、CMO に委託しており、多角的な事業展開を進めて
いた。
12) Institut Curie
・
Institut Curie(キュリー研究所)は 1909 年に Marie Curie によって設立されたラジウム研究
所を発端とする。
・
120 人の博士研究員、150 人の博士課程の学生を含んだ 1,150 人の研究スタッフからな
る。
・
3 つの大きな mission として、Care、Research、Teaching を掲げ、Paris、Saint Cloud、Orsay
の 3 か所の施設から構成される。
・
年間 500 を超える論文数を誇り、1 論文当たりの平均 IF(impact factor)は 2012 年で 7.0
を超えており、研究レベルの高さを物語っている。
9
・
50 を超える特許ライセンス、130 のパテント群、100 以上の企業との共同研究締結を有し、
現在 184 の臨床試験が行われており、治験に参加している患者の割合は 12%と高い治験
参加率を誇る。
・
フランス国内の機関(CNRS、INSERM)、他の地域機関(Institut Pasteur、ENS、ESPCI、
Les Mines、Institut Gustave Roussy)等との緊密な連携関係にある。
・
14 の基礎研究ユニットと 1 つの Translational Research 部門からなり、その中で Subcellular
Structure and Cellular Dynamics 、 Translational Research Department 、 Immunity and
Cancer のそれぞれの研究ユニット長より研究内容の説明がなされた。
・
Biology と Physics の融合からなる研究体制を確立しており、他の研究分野を医療、医学に
応用しようとする試みは本研究所のユニークな点といえる。
・
細胞生物学、免疫学の優れた研究者が多数在籍している。特にがんに対する免疫の研究
が盛んであり、がん免疫療法にも注力している。抗体医薬、がんワクチン、細胞療法、サイト
カインと様々な視点からがん免疫療法の研究を行っている。
・
technology oriented な approach によって、新規のがん治療法の開発を製薬企業、特に欧
州の製薬企業と共同で行っている。
・
研究所の 1 施設として、NIKON Imaging Centre が設立されており、画像解析、顕微鏡の
最新技術の提供、共同開発を行っている。
13) Novartis International AG
・
研究部門の Novartis Institutes for BioMedical Research(NIBR)は、ターゲットの探索から
ヒト臨床試験による POC(proof of concept)確認までを担当している。後期開発・販売部門
から独立することで、商業的機会ではなく、アンメットメディカルニーズと疾患発症メカニズム
だけを考慮した革新的な医薬品の研究開発に集中することができる。
・
NIBR は、6,000 人の研究員を擁し、米国マサチューセッツ州の主要研究施設、カリフォル
ニア州のゲノム研究施設、バーゼル、上海、シンガポールと、世界中に複数の研究施設を
有する。同一の疾患領域を担当する研究グループが、複数の研究施設に分散しているが、
連携して研究開発を行っている。また各研究施設は、地域独特の研究開発にも取り組ん
でおり、シンガポールでは Neglected Diseases(顧みられない疾患)、上海では中国で患者
の多い HCV に関する研究開発を行っている。
・
外部研究連携は、社内リソースのない領域に限定しており、社内研究とのバッティングはな
い。ペンシルバニア大と提携した CTL019 は、CD19 に特異的な CAR を発現するベクター
を自家 T 細胞に導入する、細胞療法及び ex vivo 型遺伝子治療である。
・
疾患発症メカニズムを志向した研究開発を行っており、疾患発症メカニズムが明確な層別
化された患者層や希少疾患を対象とした小規模の臨床開発により、早期に高い成功率で
POC を確認し、その後、他の患者層や疾患発症メカニズムが共通な他の適応症へと拡大
する戦略をとっている。
・
LDK378 は、ALK 陽性非小細胞性肺がんのクリゾチニブ抵抗性/不耐用患者を対象として
Breakthrough Therapy 指定を受けて承認を取り、その後、クリゾチニブ治療を受けていない
患者へも適応を広げるよう開発を進めている。
・
抗 IL1β抗体の ACZ885 では、患者数の少ない疾患で承認を取り、疾患発症メカニズムと
10
して NALP3 経路を共通に持つ他の疾患へ適応拡大を進めていった。
14) Actelion Pharmaceuticals Ltd.
・
Actelion は 1997 年に Roche 出身の研究者により設立。設立 4 年後にトラクリアの米国・カ
ナダでの上市を成功させた。
・
Innovation、Speed、Flexibility のキーワードを軸にした取組みにより急成長を実現させてい
る。
・
全従業員(約 2,500 人)のうちの約 30%が R&D を担当。研究開発に対するウェイトが大き
い。
・
グローバルビッグファーマを含む他社との連携にも力を入れており、メルク(2003 年)、ロシ
ュ ( 2006 年 ) 、 GSK ( 2009 年 ) 等 と は 既 に 関 係 を 構 築 済 で あ る 。 ま た 、 日 本 新 薬 と は
Selexipag(=selective prostacyclin receptor agonist)、Macitentan(=endothelin receptor
antagonist)の開発で連携している。
・
低分子創薬に強みを持ち、自社内で約 30 万化合物ライブラリーを保有。high throughput
screening を効率的に運用することで、パイプラインを拡充してきている。
・
現在は革新性が高く、特に後期臨床ステージにある導入案件を探しているため、情報ソー
スへのアプローチ方法を探っている。日本市場に高い関心を持っており、日本国内アカデ
ミアとの連携についても今後取組みを強化していくことを希望している。
・
Actelion の研究所はバーゼル郊外にあり、解放的な環境の下で施設の拡張も進められて
いた。化合物スクリーニングのための研究設備もオートメーション化され、化合物データベ
ースも整備されており、高い効率性を意識した取組みを行っていた。
15) Innovative Medicines Initiative(IMI)
・
IMI は最初、2008 年に EU と EFPIA がそれぞれ 2.5B ユーロずつ出資(ただし、EFPIA は
各参加企業からの現物出資)することで立ち上がった官民共同プロジェクトである。
・
これまで、2B ユーロが投じられ、56 個のプロジェクトが開始された。
・
これまでの成果

成功の判断材料としては、IMI のプロジェクトによる科学面の改善が decision making
にどれだけ貢献したか、例えば、以下のような進展があったかどうかを見る
新しいモデル、評価系の開発→新しい評価系、評価基準の設定→企業による
実践→規制面のガイダンスへの反映

IMI 各プロジェクトより公開された論文の Citation Index は FNIH や Wellcome Trust
のそれを上回っている。

個別例としては以下が挙げられる。

Schizophrenia の臨床試験(67 試験)の統合データベース構築

安全性:537 化合物の毒性データベースを構築

European Lead Factory:感染症の IMI プロジェクトの ENABLE と共同で数化合
物を前臨床段階まで推進。
・
プロジェクトの運営

プロジェクトの立ち上げにおいては、最初の企業側からのプロジェクト提案からプロジ
11
ェクト開始まで 8~9 ヶ月のオーダーで進めている。

開始されたプロジェクトの効率的な運営には EFPIA 企業側のコーディネーターとアカ
デミア側のコーディネーターの協力が重要である。
・
IMI 2

2013 年でプロジェクトインプットが終了した IMI の後継プロジェクトである。

予算は EU が 1.6B ユーロ、EFPIA が 1.4B ユーロ、他産業が 0.2B ユーロをそれぞれ
支出する。

個別化医療と医療の優先度(予防医療か治療か)に焦点を当て、ライフサイエンス以
外のセクターの参加も可能となっている。
・
以下のプロジェクトについて個別に紹介を受けた。

がん:ONCOTRACK、PREDECT、QUIC-CONCEPT、MARCAR

感染症(耐性菌克服): ND4BB、COMBACTE、ENABLE、TRANSLOCATION

感染症(結核): PREDICT-TB

Stem Cell: EBiSC、STEMBANCC

患者団体支援: EUPATI
16) Cancer Research UK(CRUK)・Cancer Research Technology(CRT)
・
CRUK は世界最大のがん研究の慈善団体であり、予算のほとんどが国民の寄付から成り
立っている。年間研究予算は 350M 英ポンドを超え、英国内の研究所、臨床試験ユニット、
病院、大学への資金提供を行っている。
・
CRUK のゴールはがん患者の生存率を向上し(今後 20 年で 4 人に 3 人のがん患者を生
存させる)、より少ない副作用のより良い治療を提供することである。
・
がんの基礎的な理解、がんの予防、早期診断の研究、アンメットニーズの高いがん、治療
による介入、予防医学といった領域に投資を行っている。
・
Cancer Research Technology(CRT)は CRUK 内のがんに特化した技術の開発と商業化を
担う。125 人のスタッフ(内 70 人が drug discovery unit に所属)からなり、ロンドンに本部、
米国ボストンに US 支部がある。本年は CRUK に 17M 英ポンドを資金提供でき、今後 4 年
間で 55M 英ポンドの寄付が予想される。
・
アカデミアとの共同で、あるいは CRT Discovery Laboratories(CRTDL)で、低分子化合物、
バイオ製剤を含めた 80 以上の新薬開発プログラムが進行中である。
・
Center for Drug Development (CDD)は企業あるいはアカデミア由来の compound の前臨
床、早期臨床開発プログラムに対して、資金提供を行い、主体的にプロジェクトを運営、デ
ータマネージメント、試験の実行を行う。これまでに前立腺がんに対する Zytiga、脳腫瘍に
対する Temodar、肺がんに対する Alimta 等が CDD によって開発された実績がある。
・
CDD は 柔 軟 か つ 革 新 的 な ビ ジ ネ ス モ デ ル を 提 供 し 、 企 業 の 有 す る ポ ー ト フ ォ リ オ
(prioritized あ るいは deprioritised を含 め て)の プロジェクトに 対 して、共 同 であたる 。
AstraZeneca、Ei Lilly、Medimmune、アステラス製薬等と共同研究を行っている。
・
複数の製薬企業と共同して、複数の新薬を複数のバイオマーカーで患者を層別化する肺
がんに対する層別化、個別化医療プログラム(CRUK Stratified Medicine Programme 2:
SMP2)が英国内で実施中である。
12
17) UK Trade & Investment(UKTI)
・
Minister for Life Sciences が、基礎科学研究の優れた成果を国民医療サービスにおける
患者ベネフィットへ橋渡しするために、2014 年 5 月に新設された。
・
2014 年のライフサイエンス関連の国家予算は、BIS(基礎科学研究)4.6B 英ポンド、DH
(NHS)128B 英ポンドであり、他の国家予算が削減される中で維持及び微増している。
・
英国は、技術分野として、ここ最近は Big Data と Genomics に注力している。
・
UK Biobank では、NHS の電子データや生体試料との連携が進められている。
・
The Francis Crick Institute が、疾患基礎研究を目的として建設中である。
・
英国の医学研究寄付財団は多数あるが、代表的な Wellcome Trust(大規模、国内外の医
学 研 究 を 支 援 ) 、 CRUK ( 大 規 模 、 国 内 の み の 基 礎 研 究 か ら 患 者 治 療 ま で 支 援 ) 、
Alzheimer’s Research UK(小規模、国内の創薬研究のみを支援)を見ても、その規模、資
金支援対象とする内容は多様である。また、寄付金募集についても、税制優遇処置だけに
頼らず、疾患に関する国際サミットの開催により国際的な資金調達を目指したり、チャリティ
ショップ(リサイクルショップ的なもので、中古品売却代金を寄付)を各地に設ける等、多様
な取組みを行っている。
・
再生細胞医療領域では、Cell Therapy Catapult を中心に、規制整備、対外誘致、研究開
発資金支援等の活動を行っている。東京エレクトロンが細胞処理に関する共同研究のため
に英国に進出した。
・
これまで様々な団体で公開されていたライフサイエンス関連企業のデータベースを統合し、
来年早々に公開する予定。約 5,000 社の情報が閲覧できる。
18) Medicines and Healthcare Products Regulatory Agency(MHRA)
・
がん免疫療法、Duchenne Muscular dystrophy(DMD)治療薬の UK での規制及び耐性菌
に対する抗生物質開発促進策について話を伺った。
・
oncolytic virus を含めたがん免疫治療薬などに対して UK に特有な規制はなく、それらの
審査は EU の基準に従い、Committee for Advanced Therapies(CAT)により行われている。
・
EU では oncolytic virus がいくつか Phase3 に入っているが、oncolytic virus も含めてがん
免疫治療薬の承認品目はまだない。
・
DMD 治療薬に対する審査は、他の遺伝子治療薬と同じ扱いをしている。DMD はオーファ
ン対象であり、10 年間の優先販売権などの特典が与えられる。
・
希少疾患、遺伝子治療や再生医療の治験においてプラセボとの比較は困難であり、少数
の治験数で議論する上では疾患ごとの natural history の利用が重要と考えている。
・
英国では、がん、筋ジストロフィーや痴呆症など国民の生命を脅かす疾病や rare disease へ
の画期的新薬の開発に力を入れており、これら疾病に対する最先端医薬品を患者に早く
届けるための医薬品早期アクセス制度(Early Access to Medicines Scheme:EAMS)を独
自にスタートさせ、2014 年 4 月 7 日にその申請受付を開始した。
・
EAMS の仕組みは、MHRA が Phase2 臨床データなどの初期の科学的評価に従ってベネ
フィットがリスクを上回ると判断した場合、承認前でも医師が速やかに患者と連携しながら
Promising andInnovative Medicines(PIM)指定薬として使用できるようになっている。この
13
仕組みは FDA の Breakthrough Therapy 指定の基準とは異なっている。
・
2014 年 10 月時点で PIM 指定を受けているのはがん細胞治療薬など 2 品目である。
・
耐性菌に対する抗生物質の開発促進のための米国の GAIN 法のようなものはないが、英
国でも耐性菌の問題は重要視しており、インセンティブを含めたガイダンスを来年出す予
定である。
・
欧米の規制当局間では Transatlantic Task Force と呼ぶ Initiative があり、製品特有な課題
やその科学的助言、ガイドラインについて定期的な会合を持っている。
・
他の先進国の規制当局同様、新規医療技術や新規カテゴリーの治療薬に対し、MHRA も
手探りで慎重に対応を検討・実践している。
14
1-3.調査団メンバー
調査団メンバーは、国外調査班メンバー及び事務局で構成される以下 9 名であった。
団長/班リーダー
佐 藤
督
第一三共株式会社
研究開発本部
岩 田
博 司
味の素製薬株式会社
事業開発部
森 下
芳 和
協和発酵キリン株式会社
総務渉外部
大 野
文 彦
田辺三菱製薬株式会社
研究本部
博
MSD 株式会社
グローバル研究開発本部
正
株式会社レクメド
代表取締役社長
鈴 木
規 由
株式会社レクメド
事業開発部
加 藤
正 夫
(公財)ヒューマンサイエンス振興財団
研究企画部
井 口
富 夫
(公財)ヒューマンサイエンス振興財団
研究企画部
閌
松 本
康
15
1-4.調査日程
月日
(曜日)
10 月 20 日
(月)
21 日
(火)
22 日
(水)
23 日
(木)
24 日
(金)
25 日(土)
/26 日(日)
27 日
(月)
28 日
(火)
訪問都市
訪問先
Washington DC, USA
1. Biotechnology Industry Organization(BIO)
Bethesda, USA
2. National Institutes of Health(NIH)
NYC, USA
3. Parent Project Muscle Dystrophy(PPMD)
Boston, USA
San Diego, USA
Thousand Oaks, USA
4. HealthCare Ventures
5. Dana-Farber Cancer Institute(DFCI)
6. Genelux Corporation
7. International Stem Cell Corp(ISCO)
8. Amgen, Inc.
(移動日)
Helsinki, Finland
Paris, France
9. Oncos Therapeutics Ltd.
10.Institute for Molecular Medicine Finland(FIMM)
11.Cellectis SA
12.Institut Curie
29 日
Basel, Switzerland
13.Novartis International AG
(水)
Allschwil, Switzerland
14.Actelion Pharmaceuticals Ltd.
Brussels, Belgium
15.Innovative Medicines Initiative(IMI)
30 日
(木)
16.Cancer Research UK(CRUK)・Cancer Research
31 日
(金)
London, UK
Technology(CRT)
17.UK Trade & Investment(UKTI)
18.MHRA
16
1-5.調査協力者(敬称略)
・ 古賀 淳一/第一三共(株) 執行役員 研究開発本部 バイオ統括部長/Amgen, Inc.
・ 木村 正裕/フィンランド大使館 商務部 上席商務官/FIMM
・ Eero Toivainen/Senior Advisor、FINPRO(Export Finland)/FIMM
・ 水田真紀/在日フランス大使館 企業振興部 –ユビフランス- 東京事務所 貿易担当官
ライフサイエンス担当/Cellectis
・ Cedric Guillerm/ 在日フランス大使館 科学技術部/Institut Curie
・ 斎藤 文子/在日フランス大使館 科学技術部/Institut Curie
・ 碓井 悦子/ノバルティスファーマ(株) 薬事部レギュラトリーポリシー担当マネージャー/
Novartis International
・ 島田 秀孝/欧州製薬団体連合会 理事長/IMI
・ 武井 尚子/駐日英国大使館 貿易・対英投資部 ライフサイエンス 対英投資上級担当
官/UKTI、CRUK・CRT
・ 越川 麻子/駐日英国大使館 貿易・対英投資部 ライフサイエンス 対英投資副担当官
/UKTI
注: 調査協力者は訪問までの期間に訪問先との調整等にご協力いただいた方々を掲載した。
調査協力者は、氏名/協力依頼時の所属等/協力をいただいた訪問先、の順に記載した。
17
2-1.Biotechnology Industry Organization (BIO)
Biotechnology Industry Organization (BIO)
所
在
電
地 : 1201 Maryland Avenue, SW 9 th Floor Washington, DC 20024, USA
話: +1 202 962 9200
F
A
X: +1 202 488 6301
H o m e p a g e: www.bio.org
面 談 日 時: 2014 年 10 月 20 日(月) 11:00~12:15
面 談 場 所: 上記所在地
面
談
者: Lila Feisee
Vice President, International Affairs
Kay Holcombe
Senior Vice President, Science Policy
Greg Meiselbach
Senior Manager, International Affairs
Kristin Viswanathan
Manager, Reimbursement and Health Policy
Dekonti Sayeh
Administrative Assistant, International Affairs
Contact Person: Dekonti Sayeh
Administrative Assistant, International Affairs
面 談 目 的:
以下の項目に関する調査・情報収集を行うこと。

米国バイオベンチャー業界の総元締め的な役割を果たしている BIO から見た、米国にお
ける Rare Diseases(以下「希少疾患」)及びがん治療薬開発の現状
説 明 内 容:
1. 概要
・
平成 25 年度国外調査に続き訪問し、BIO の活動に関するアップデートと希少疾患への取
組みに関して情報を収集した。最初に平成 25 年度と同じく BIO の概略の説明を受けた後
で、希少疾患治療薬の開発に関しての説明を受けた。今回、気になったスライドとして、彼
らが International Prioroties として「中国」、「インド」、「ブラジル」の医薬新興 3 か国を
上げており、これら 3 か国の今後のマーケットに注目していることが窺われた(Fig.2-1-1)。
18
International Priorities
Priority
Countries
Priority Issues
China
U.S. Trade
Agreements
India
Policy &Regulatory
Platform
Brazil
Global IP
(Multilateral Orgs)
BIOTECHNOLOGY INDUSTRY ORGANIZATION
5
Fig.2-1-1 BIO の国別及び課題別の優先順位(受領資料より)
2. 希少疾患

近年、医療費の支払いに関して大きな圧力が世界的に高まっている中、希少疾患治療薬
の開発は大手製薬企業も含めて大きな関心事になっている。このことは、医薬品開発の初
期段階から、将来の医療費支払いまで見越した開発計画を投資家も求めており、競争が
無く、医療費のディスカウントが少ない希少疾患治療医薬は非常に魅力的である。このよう
なこともあり、米国においては、希少疾患治療薬に適用されることが多いバイオ医薬品に関
しては、現在も開発初期段階への投資が盛んである。

米国では、1983 年にオーファンドラッグ法が制定され、多くの米国バイオベンチャーが本
制度を利用して医薬品の開発に成功している。特に、本制度でオーファンに指定されると
享受できる、7 年間の独占権(「the same drug for the same didease」が 7 年間販売で
きない)が重要である。ここで、低分子医薬品であると容易に「the same drug」と判定され
るが、バイオ医薬品の場合は、必ずしも「the same drug」とは言えず、多くのバイオベンチ
ャーが、ここの曖昧さを利用してバイオ医薬品の開発を進めている面もある。

希少疾患はその名のとおり、患者数が少なく、どのような臨床試験を組むかが大きま問題
である。高血圧など、希少疾患以外では開発に関してガイドラインが整備されているが、希
少疾患では少なく、2014 年 8 月に米国 FDA と欧州 EMA が共同で Gaucher 病に関し
ての ガ イ ド ライ ン を 初 め て 発 表 し た 。ま た 、 患 者 支 援 団 体 が 中 心 に な っ て Duchenne
Muscular Dystrophy のガイドライン作成を進めてきており、今後、他の希少疾患に関し
てもガイドラインが整備されていくと思われる。

希少疾患の臨床試験においては、プラセボを置くかどうかがいつも問題となってくるが、昨
今、プラセボの代わりに患者の自然経過をコントロールに試験をデザインする取り組みがな
されている。この方法を用いる場合、どれくらい客観的に自然経過を記述できるかが大きな
19
問題で、一つの方法としては、4 カ月ごとに臨床試験のサロゲートマーカーになるような特
定のマーカーの変化等を記録し、これらに対する比較で薬剤の有効性を評価することも検
討されている。

BIO はベンチャー企 業 のみならず、患 者 支 援 団 体 等 とも連 携 し、BIO International
Conference 等の場で、患者支援団体に情報発信の場を提供している。
所
感:
米国のバイオベンチャー企業の発展にとって、希少疾患への取組みとオーファンドラッグ制度は、
今、大きな役割をはたしている。特に、高価なバイオ医薬品おける 7 年間の独占販売権を有効に
活用し、米国バイオベンチャー企業は大きく成長した。本邦においては、さらに 10 年の独占販売
期間もあり、今後希少疾患薬のメリットを生かした開発が盛んになる余地が十分にある。
(松本 正)
受 領 資 料:
1. 説明資料: Japan Health Sciences Foundation(JHSF)Meeting
20
2-2.National Institutes of Health (NIH)
National Institutes of Health (NIH)
所
在
地 : Forgarty International Center Conference Room, Building 31A,
31 Center Drive, Bethesda, Maryland 20892-2220, USA
電
話: +1 301 496 4787
H o m e p a g e: www.nih.gov
面 談 日 時: 2014 年 10 月 20 日(月) 13:30~15:45
面 談 場 所: 上記所在地
面
談
者: Sally Rockey,
Deputy Director for Extramural Research, Office of the Director
Lita M.Proctor, Ph.D.
Health Sciences Administrator, Human Microbiome Project, National
Human Genome Research Institute
Muhammad M. Mohiuddin, MD,
Chief of transplantation section, Cardiothoracic Surgery Research Program
(CSRP), National Heart Lung and Blood Institute(NHLBI), NIH
Steven A. Rosenberg M.D., Ph.D.
Chief, Surgery Branch, National Cancer Institute(NCI)
Contact Person: Marya Levintova, Ph.D.
International Health Program Officer for Russia, Eurasia and Arctic Affairs
Acting International Health Program Officer for East Asia and the Pacific
Division of International Relations, Fogarty International Center
面 談 目 的:
以下の項目に関する調査・情報収集を行うこと。
1. The Biomedical Research Strategy of USA in the future について
2. Human Microbiome Project の現状と今後について
3. The xeno-transplantation research(異種移植研究)の現状と今後について
4. Cancer Immunotherapy の現状と今後について
説 明 内 容:
1. The Future of Biomedical Research: A View from NIH (Ms.Sally Rockey)
・ NIH は現在 27 の研究所・センターを擁する世界最大のライフサイエンス・臨床医学研究の
グラント(研究費助成)機関である。
21
・ NIH は全米の Intramural Research と Extramural Research の 2 つの機能を有し、Intramural
Research は NIH 傘下の 27 の研究所・センター内 6,000 人の科学者がかかわる研究で予
算額は NIH 全体予算の約 11%、Extramural Research は 2,500 以上の外部研究機関、40
万人以上の研究者へのサポートを行い、予算額は NIH 予算の約 81%に相当する。
・ NIH の研究費はグラントへの申請により審査を受けて配分されるが、1998 年から 2003 年ま
では約倍増(13B 米ドル⇒30B 米ドル)した。しかし、2003 年以降は大幅な増加が認められ
なかった。一方、グラント申請数は大幅に増え、2013 年度のグラント獲得率は約 16%と低く
なっており、低下の原因としては 2013 年の 5.5%予算削減(1~1.5B 米ドル削減)により多く
の新たな取組みができなかったためと考えている。
・ NIH の 2013 年度予算は、年間約 30B 米ドルであった。その内訳は、基礎研究に 52%、臨
床研究に 34.6%、その他応用研究が 10.5%であり、米国の科学技術予算削減の影響を受
けるものの、米国政府はゲノム研究などの基礎研究の重要性を高く認識しており、2012 年
度同様のレベルを維持している。
・ NIH のグラント審査は、研究者からのグラント申請後に通常 3 つの段階を経て行われる
(Fig.2-2-1)。①Study Section と呼ばれるレビューグループにより、技術的メリットやフィー
ジビリティーなどが審査される。研究内容により専門の Study Section に振り分けられる。②
各 Institute による審査。③Institute Director へ推薦。
・ 各 Institute では研究内容をスコア化しており、高スコアの研究にファンドされる仕組みであ
るが、各 Institute により評価スコアが異なっている。ただし、各 Institute では一切申請内容
に制約は設けていない。
Fig.2-2-1 NIH のグラント審査システム(受領資料より)
・ Extramural Research には 2 つの申請方法がある。1 つは、研究者自身の発想に基づく先
22
端的 な研 究で、Extramural Research 予 算の 70%に相当している。2 つ目 は、Targeted
Research と呼ばれ NIH としての関心が高く目的を明確にした研究で予算の 30%が使われ
て い る 。 各 Institute や セ ン タ ー で は 、 そ れ ぞ れ 関 心 の 高 い 研 究 内 容 ( Request for
Applications:RFA)を提示している。
・ RFA の例として、肺の健康と疾病の前兆診断、消化管粘膜免疫疾患と肝疾患と HIV の関
係 、 ダ ウ ン 症 と ア ル ツ ハ イ マ ー 病 の バ イ オ マ ー カ ー 探 索 、 消 化 管 Microbiome-Brain
Interaction とメンタルヘルスとの関係などがあり、その他大きなプロジェクトとして、以下のも
のがある。
BRAIN(Brain Research through Advancing Innovative Neurotechnologies)
脳の機能・病態解明のための先端技術開発
BD2K(Big Data to Knowledge)
ビッグデータの収集と活用
BUILD(Building Infrastructure Leading to Diversity)
少数民族など多様な学生やポスドクの研究環境を支援する目的で設置された NIH
Common Fund。個別指導や奨学金、トレーニングのための研究装置の購入、PhD
取得などの支援を行う
BEST(Broadening Experiences in Scientific Training)
大学院生やポスドクへのトレーニングプログラム手法の開発。企業など non-academic
とのコラボレーションなどを推進する人材育成のためのトレーニング手法
・ NIH は NIH 内に約 400 人の The Scientific Review Officer(SRO)を有し、年間延べ 25,000
人の SRO が Review を行っている。グラントの Peer Review 結果を公開するとともに、Peer
Review システムの改善を絶えず行い、積極的なグラントへの申請を促している。また、得ら
れた研究成果については外部評価委員会を通じて透明かつ公明正大に評価を行うととも
に積極的に公開している。
2. Human Microbiome Research(Dr. Lita M. Proctor)
・ Human Microbiome Project は、ヒトゲノムプロジェクトが終了に向かっているときに多くの研
究者(特に微生物や免疫の研究者)から他のゲノム、ヒト体内の microflora のゲノムをシー
クエンスすることが人類の遺伝的なポテンシャルの解明につながるとの発想から 2008 年に
NIH の Common Fund プロジェクトとしてスタートした。
・ 2008~2012 年までに Phase1 として、Human Microbiome の探索のため 175M 米ドルが NIH
の NHGRI(国立ヒトゲノム研究所)、NIAID(国立アレルギー・感染研究所)、NIDDK(国立
糖尿病・消化器・腎疾患研究所)、NIDCR(国立歯科・頭蓋顔面研究所 )、 NIAMS(国立
関節炎、骨格筋、皮膚疾患研究所)、ORWH(女性健康研究室)、NCCAM(国立補完代
替医療センター)、ODS(栄養補助食品室)の各研究費から拠出された(Fig.2-2-2)。
23
Fig.2-2-2 NIH Human Microbiome Project:Phase1(2008~2012)(受領資料より)
・ Phase1 では米国の 18 歳~40 歳の健常人男女 300 人の 5 か所の組織(鼻腔、口腔、消化
管、皮膚、泌尿器)の Microbiome について調べ、Microbiome と疾病との関連についての
コホート研究を行った。300 人はミズーリ州とテキサス州の医科大学の学生や医師からのボ
ランティアで 2 年以上にわたる健康チェックの後、リクルートされた。
・ Phase1 の研究の結果、健康人の Microbiome は体組織固有で多様性に富み core となるよ
うな体細菌はないが類似の機能を持つ体細菌が多く共存することで host(人)の phenotype
に強力な役割を果たしていることが予想された。
・ 2013~2016 年は Phase1 の結果を受け Phase2 として全米 15 研究施設が参加した研究コン
ソーシアム iHMP(integrated Human Microbiome Project)が 25M 米ドルの予算で健康と病
態のヒト Microbiome-Host Omics 解析を開始している(Fig.2-2-3)。
・ Phase2 で実施されている典型的な研究は以下のようなものである。
 早産・・・新生児の消化管及び母親の消化管と膣内の Microbiome
 長期的コホート研究・・・炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease:IBD)の潰瘍性大
腸炎(Ulcerative Colitis)とクローン病(Crohn's Disease)の Microbiome
 2 型糖尿病・・・糖尿病前段階の人の消化管と鼻腔中の Microbiome。自己免疫疾患
やインフルエンザへの罹患、離婚、失業などの大きなストレスが免疫機能に影響を与え
る状態との関連性についても検討
iHMP のデータ解析センターがメリーランド大学に設置されている。
24
Fig.2-2-3 NIH Human Microbiome Project:Phase2(2013~2016) (受領資料より)
・ Phase2 の研究は始まったばかりでまだデータはないが、取得するデータの種類と保管方法、
サンプリング手法のプロトコールなどの研究内容について Cell Host & Microbe 誌に発表し
ている。
The Integrative HMP ( iHMP )Research Network Consortium, The Integrative Human
Microbiome Project:Dynamic Analysis of Microbiome-Host Omics Profiles during Periods
of Human Health and Disease.,Cell Host & Microbe 16, p276 -p289, September 10(2014)
・ 現在、HMP は NIH の 27 研究所・センターのうち 16 の研究所・センターが参加したプロジ
ェクトとなっている。
・ 今後、新生児から 21 歳までの 10 万人の米国人を対象に Microbiome を採取する National
Children’s Study を計画している。
3. The xeno-transplantation research(Dr.Muhammad M. Mohiuddin)
・ Cardiothoracic Surgery Research Program (CSRP)の Transplantation Section の Chief で
ある Muhammad M. Mohiuddin 博士にブタを使った臓器の異種移植研究の現状について
話を伺った。
・ 臓器移植において、移植する臓器の不足は米国でも深刻な社会問題となっており、人工
心臓は稼働期間、電池寿命や作動不良などの課題もあることから、ブタを使った異種移植
研究がその救世主となることを目指している。
・ ブタは、成長が早く 4 週間でヒトに移植可能な大きさとなること、組織解剖学的にヒトに似て
いること、食用動物のため倫理的なハードルが低いなどの点で臓器ドナーとして適してい
る。
25
・ 異種移植の場合、拒絶反応が問題となるが免疫拒絶に関与する 6 つのヒト遺伝子を同定
し、遺伝子組換えの手法により拒絶反応を回避する研究を行ってきた。
・ バイオテク企業 Revivicor(世界初の哺乳類の体細胞クローンで生まれた雌羊ドリーをクロ
ーニングした 英 国 の 企 業 で最 近 米 国 の 企 業 に 買 収 された)と 共 同 開 発 を行 っている 。
Revivicor は遺伝子改変によるヒト化した数種類のブタの作成を担当し、NIH はそのブタへ
必要なヒト遺伝子を組み込み遺伝子組み換えブタを作成する。
・ ブタは多くの点でヒトと類似しているが、免疫系はヒトと異なっているため、10~15 年にわたっ
て拒絶反応回避の研究を行ってきた。
・ ブタ組織に対する拒絶反応は、ヒトの体内にある抗体がブタの上皮細胞の抗原を非自己と
して認識するため生じる。
・ α ガラクトシダーゼ・トランスフェラーゼ・ノックアウト(GTKO)ブタに、ヒト・補体制御たんぱく
質 CD46(hCD46)とヒト・トロンボモジュリン(hTM)を発現させた遺伝子組み換えブタの心臓
をヒヒの腹部に異所移植した場合、免疫抑制剤である抗 CD20 抗体などの投与により、180
日間生存の最長記録を達成している。
・ 今後、臨床試験を実施するためには、生存期間の更なる延長(2 年以上)、倫理問題やブ
タ特有のウィルス(porcine endogenous retrovirus:PERV)による感染などの課題を解決する
必要がある。
・ この技術は腎臓、肺、膵島移植にも応用可能であり、現在ピッツバーグ大、メリーランド大と
共同研究中である。
・ iPS 細胞や ES 細胞由来の臓器の移植に関する研究はやっていない。
4. The Cancer Immunotherapy Research(Dr.Steven A. Rosenberg)
・ Rosenberg 博士は 40 年に渡り、NCI でがん免疫療法について研究を行ってきた世界
的に著名ながん免疫療法の先駆者である。
・ がん免疫療法には 3 つの方法がある(Fig.2-2-4)。
①非特異的免疫刺激療法(IL-2 などによる免疫細胞の賦活、抗 CTLA4 抗体、抗 PD-1
抗体による regulatory factor の阻害)
②がんワクチン療法
③養子免疫細胞療法(adoptive immunotherapy/adoptive cell therapy:ACT)
26
Fig.2-2-4 がん免疫療法の主な 3 つの方法(受領資料より)
・ がん患者の体内にはがん細胞を特異的に攻撃できる T 細胞が存在するが、がん細胞は免
疫を制御するチェックポイントを利用して T 細胞を抑制することにより、免疫系の攻撃から逃
れていることが知られており、現在多くの経路が見つかっている(Fig.2-2-5)。
Fig.2-2-5 がん細胞表面の抑制性共シグナル分子と T 細胞表面免疫抑制リガンド
(受領資料より)
27
抗 CTLA-4 抗体と抗 PD-1 抗体は、いずれも T 細胞表面上にある重要な抑制性の免疫チ
ェックポイント分子で受容体である CTLA-4 や PD-1 及び、結合するリガンドである PD-L1
に対する抗体によりこれらの機能を阻害し、T 細胞の抑制を解除して活性化し抗腫瘍効果
を発揮する薬剤である
・ がんワクチンは、がん細胞に多く発現するが正常細胞には全く発現しない、がん特異性で、
かつ強い免疫原性をもつ、がんの予防や治療を行なうために用いる(ワクチン)製剤であり、
ワクチン製剤が樹状細胞によりヒト白血球型抗原(HLA)を介しリンパ球に抗原を提示して
活性化させ、そのリンパ球ががん細胞を攻撃することにより、治療を行なう。これまでがん抗
原ペプチド、樹状細胞や腫瘍溶解物などを使った 4,000 件以上の報告では効果がほとん
ど見られなかった。唯一、Sipuleucel-T(Dendreon の前立腺がんワクチン)のみ 4 か月の生
存期間延長効果があったとされ、2010 年に FDA が承認している。
・ 近年がんワクチンの治験が必ずしも成功していない理由として、一つの変異に対してのワク
チンの効果では不十分なためと考えている。
・ ACT、細胞療法は、患者自身の免疫系細胞の一部を取り出し、研究室で大量培養した後
に患者に戻すため、大量投与が可能であり、がんへの攻撃力をアップできる点を特徴とし
ており、難治性がんの治療で良好な結果が得られている。
・ Melanoma 以 外 の 上 皮 性 が ん へ の 免 疫 療 法 の 適 用 に つ い て の 青 写 真 ( blueprint ) を
Science 誌(Eric Tran et.al.,Vol.344, 9May(2014))に報告している(Fig.2-2-6)。
Fig.2-2-6 Melanoma 以外の上皮性がんへの免疫療法の適用についての青写真
(受領資料より)
28
・ 胆管がん患者(肺と肝臓に転移)に先ず ACT 療法を試みたが効果がなかったため、転移
肺がんの遺伝子変異を解析した結果、26 種の変異が同定された。検討の結果、がん患者
の免疫系はこの 26 変異遺伝子の内、唯一 ERBB2IP 遺伝子を認識した。この ERBB2IP
変異遺伝子に反応するリンパ球を 85%まで精製、増幅した後、患者に投与した結果、胆管
がん、肺がん、肝臓がんで劇的な治療効果を示した。この結果は、遺伝子変異を有するす
べてのがん腫の治療にこの ACT 療法が応用できる可能性を示しており、現在、結腸直腸
がん患者で試験中である。
・ 現在、最も革新的な治療法として T リンパ球に遺伝子改変を加えるリンパ球移入療法が開
発されている。がん細胞に結合する一本鎖抗体 anti-CD19 と T リンパ球活性化に必要なシ
グナル配列を融合した(Chimeric Antige Receptor:CAR)遺伝子を導入する方法であり、
少数例ながら良好な結果が得られている。このアプローチは通常の末梢血リンパ球からほ
ぼ無尽蔵にがん反応性リンパ球を作ることができ、またこれらは元来がん反応性ではない
ため、がん患者内での免疫抑制メカニズムにも暴露されていない細胞である。
・ 免疫療法がメラノーマや肺がんには効果があり、他のがん腫に対して効果がない理由とし
て、他の多くのがんでは変異は数えるほどであるのに対し、メラノーマや肺がんでは平均数
百の変異が見つかっていることから十分な効果が出やすいと考えられる。一方、胆管がん、
結腸がん、前立腺がんは IL-2 や抗 PD-1 抗体を投与しても十分な免疫反応を惹起できる
だけの変異ではないためと考えられる。
・ oncolytic virus 療法については、ウィルスが正常細胞に比べてがん細胞特異的に感染す
る根拠がなく、これまで実施したトライアルでは効 果がないことから 、訪 問 時 点での
Rosenberg 博士の見解は否定的であった。
所
感:
NIH はその予算の約半分を基礎研究に投資しており、今後も基礎研究重視の方針に変化はな
いと感じた。リスクをとる研究への投資を継続している点や次世代の若い科学者の教育、トレーニン
グに年間数 B 米ドルもの多額の予算をかけている点が米国の科学技術の基盤を強く保っている要
因の一つと感じた。
今回話を伺ったブタの臓器を人間に移植する異種移植研究は、拒絶反応回避のための長年の
研究でここまで来たかとの感じはあるものの、倫理問題や感染症などの課題も多く、まだ先は長いと
の感じを持った。しかし、人工臓器開発の進歩との競合も考えられるものの、移植できる臓器の不
足が更に深刻化する状況では、一時的又は長期に代替する手段として今後重要性が増すものと
思われた。
がんの治療は一筋縄ではいかない。しかし、全ヒトゲノムの解読が終了し、ゲノムと疾患等の関連
などゲノムの機能解析が急速に進められている中、ヒトがんゲノム解析の研究成果からもがんとヒト
遺伝子の変異の関係が明らかになってきており、益々ゲノム解析の重要性が増してきている。今回
がん免疫療法においてもがんの遺伝子変異を認識したがん免疫療法が大きな成果を上げつつあ
ることを改めて認識することができ、今後のがん免疫療法の進展に期待したい。
(井口 富夫)
29
受
領
資
料:
1. 説明資料
1)
The Future of Biomedical Research:A View from NIH
2)
Human Microbiome Research at NIH Past, Present & Future
3)
The Curative Potential of Cell Transfer Immunotherapy for Human Cancer
2. 配布資料
4)
The Integrative HMP(iHMP)Research Network Consortium, The Integrative Human
Microbiome Project:Dynamic Analysis of Microbiome -Host Omics Profiles during
Periods of Human Health and Disease.,Cell Host & Microbe 16, p276 -p289, September 10
(2014)
5)
Eric Tran et al.,Cancer Immunotherapy Based on Mutation-Specific CD4+ T Cells in a
Patient with Epitherial Cancer. Science vol.344 p641-p645(2014)
30
2-3.Parent Project Muscle Dystrophy (PPMD)
Parent Project Muscle Dystrophy (PPMD)
所
在
電
地 : 401 Hackensack Avenue, 9 th Floor, Hackensack, NJ 07601, USA
話: +1 201 250 8440
F
A
X: +1 201 250 8435
H o m e p a g e: www. parentprojectmd.org
面 談 日 時: 2014 年 10 月 21 日(火) 10:30~14:00
面 談 場 所: 上記所在地
面
談
者: Kimberly Galberaith
Chief Operating Officer
Sharon Hesterlee, Ph.D.
Vice President Research
Will Nolan
Director of Communications and Administration
Contact Person: Sharon Hesterlee, Ph.D.
Vice President Research
面 談 目 的:
以下の項目について調査・情報収集すること。

PPMD の活動状況全般

創薬支援の実際の進め方、支援するプロジェクトの選択方法や評価方法

FDA など規制当局との関係
説 明 内 容:
1. PPMD の設立経緯と目指すもの
・ PPMD は 1994 年に現 President &CEO の Pat Furlong と DMD(Duchenne Mascular
Dystrophy、 デ ュ シェ ン ヌ 型 筋 ジ スト ロ フィ ー ) 患 者 の 両 親 、 祖 父 母 に よ り 設 立 され た 。
Furlong 氏自身も DMD の息子を持ち、当時の米政府の同疾患治療への無関心、研究予
算の乏しさに対して不満を抱いたことが立ち上げの動機である。
・ PPMD のミッションは DMD を早く終焉させること(to end Duchenne)であり、そのための治
療薬の研究開発を促進し、患者とその両親の声をワシントンに届け、すべての患者に最善
の治療法を提供、さらには世界への啓蒙を行うことにある。
31
2. PPMD の活動
・ PPMD が対応、支援する業務は、Advocacy、Community outreach、研究支援、診療への
助言、資金収集、等であり、19 名のスタッフですべての業務に対応している。
・ 啓 蒙 活 動や患 者、関 係 者とのコミュニケーションはホームページ上のコミュニティサイト、
Twitter や Facebook など SNS を活用している。一方で、メディアコントロールにも注意を払っ
ている。
・ さらに、毎年 2 月に、PPMD のステークホルダー、患者、患者の両親、製薬会社、臨床家や
研究者を集めての 3 日間の annual conference を Washington DC で開催している。今年は
560 人が集まり、製薬会社も 16 社が参加した。患者の声を伝えるべく上下院議員や政府
高官とも接触し、ロビー活動も行う。通常は孤立し、製薬会社とは接触する機会の無い患
者や患者家族にとって重要なイベントであり、このような試みを行う患者団体は他に無い。
2001 年に MD Care Act(筋ジス治療に関する法律)が制定され、患者登録や研究ネットワ
ークの構築が始まり、DMD にとって大きな turning point であったが、この年より annual
confernce を開始した。MD Cara Act は 5 年ごとに見直されるが、今年も無事再承認されて
いる。
3. 治療薬の研究開発への支援
1) 治療薬開発のためのボトルネック
・ DMD 治療薬の創製に向けて、この疾患特有のボトルネックが数多くある(Fig.2-3-1)。
・ 臨床開発時の endpoint、臨床開発のデザイン、実施機関、実施法に関するもの、規制や
規制当局に関するもの等であり、PPMD は様々な対応を講じ、提言などを行っている。
Fig.2-3-1 DMD 治療薬開発のためのボトルネック(受領資料より)
32
・ 基本的には Fig.2-3-2 に示すように、新規治療法を一刻も早くと待っている DMD 患者の
ために、如何に候補薬剤の研究開発期間を短縮するかと言う点と、臨床開発の効率と質を
如何に向上させるかと言うことが重要で、このための種々の対応策を講じ、支援活動を構
築している。
Fig.2-3-2 新規 DMD 治療薬の開発に対し PPMD が対応している事項 (受領資料より)
2) 患者レジストリー、DuchenneConnect の構築
・ 2007 年に PPMD は Duchenne Connect と称する患者レジストリーを構築した。既に 3,000
例以上のエントリーがあり、2013 年は新規登録が 400 件以上なされた。このレジストリーは
研究者、企業も閲覧でき、臨床試験のデザインに活用できる。
Fig.2-3-3 患者レジストリー、Ducchene Connect の概要(受領資料より)
33
3) 新規治療薬の前臨床試験及び臨床試験への支援
・ 現在、11 の薬剤について経済的支援を実施している(Fig.2-3-4)。PPMD は基本的には
前臨床研究段階と前期臨床試験への支援であり、後期臨床試験や基礎研究は支援して
いない。また、臨床試験実施の際の各臨床機関における IRB 取得の支援も行う。PPMD の
予算規模は年間 6M 米ドル前後であるが、新薬研究開発への支援に 1 件当たり最大
0.5~0.75M 米ドル、総額で年間 2.5~3.5M 米ドルを投じている。他の研究支援団体と共同
で資金提供することもある。
Fig.2-3-4 PPMD が現在支援している開発中の薬剤と支援対象(受領資料より)
・ PPMD が過去に支援を行った例としては Eli Lilly の tadalafil があり、現在 Phase3 まで進
んでいる。10 年前は DMD 治療薬の臨床開発中のものは 1、2 個しかなかったが、現在は
豊富なパイプラインが構築できている。この中には PPMD の支援が功を奏したケースが
多々ある。
・ 臨床試験への患者組み込みへの支援も行っている、薬剤間の競合もあるので直接の患者
紹介などではなく、患者あるいは患者家族への治験に関する情報提供を行うことによる支
援となる。患者が治験に参加する際に必要な交通費を補助することもある。
・ 通常、臨床試験を行う場合、臨床機関ごとに IRB の承認を取らねばならないが、これは治
療薬を待つ患者にとって大きな時間のロスとなる。中心となる臨床機関での IRB の承認で、
他の臨床機関の IRB 承認を代用できるように提言を行っている。
4) TACT(TREAT-NMD Advisory Committee on Therapeutics)との協力関係
・ グローバルな神経筋疾患関係者のネットワーク、TREAT-NMD が 2009 年に設立した、アカ
デミア、企業、患者団体、公共機関の専門家からなる委員会で、企業やアカデミアによる治
34
療薬の臨床試験のデザインに対し、Fig.2-3-5 に示すような助言を行っている。PPMD は研
究開発を支援する薬剤の選択に際し、TACT の助言を仰いでいる。
Fig.2-3-5 TACT による助言(受領資料より)
4. FDA への助言、支援活動
・ PPMD は Draft Guideline を独自に作成、2014 年 6 月に FDA に提出している。主な内容
は、NDA までの所要時間の短縮、surrogate endopoint を用いる場合のその evidence の明
確化、患者レジストリー中の natural history data の活用によるプラセボ群の廃止若しくは最
少人数化等である。
・ EMA は独自の guidline を作成しようとしているが、PPMD は EMA にもコメントを開示してい
る。
所
感:
欧米の患者団体あるいは患者支援団体の活動力については、国内の製薬や医療関連企業に
とってはこれまで接触することもなく、噂で聞く程度であったが、今回、直に話を聞くことにより、その
実力に驚愕した。やはり、PPMD のメンバーには、自分自身でなく、自分の息子たちが決め手とな
る治療法が無いままに生命の危機に直面していると言う現実が一番の motivation になっていること
は確かである。しかし、それに加えて、種々の活動、行政に対してのロビー活動に始まり、新規治療
薬の研究開発の支援活動、患者及び家族への教育・支援活動、啓蒙活動等が組織だって、かな
り強力に進められているという点は、この団体をマネージする人々の能力が相当に高いものと推察
される。
創薬支援に関しては、資金調達、資金提供もさることながら、患者レジストリーの構築に始まり、
支援する研究プロジェクトの科学的な選択と評価も自身で行え、更には自身で DMD 治療薬開発
に関する Guidline の Draft 作成まで行えるという、日本の学会の活動を上回る能力と activity を発
35
揮している。 また、PPMD は患者団体として非常に先駆的な取組みを行っていることを自負して
おり、他の患者団体の魁となろうとしていると見受けられた。
今回、訪問した IMI の幾つかの官民連携プロジェクトでも患者団体が参加しているものがあり、
欧米での患者団体、患者支援団体の創薬への影響力が想像以上に強力なことが理解できた。特
に、希少疾患や難治性疾患では患者さんとともに創薬を進めると言う姿勢が、治療薬のみならず、
予防医療、個別化医療の構築に取っても重要になってくる。我が国でも、国主導で、患者団体も
取り込んだ官民連携のプロジェクトが構築されるべきと考えられる。
(加藤 正夫)
受 領 資 料:
1. 説明資料
1)
Duchenne develops when dystrophin is missing or malformed
2)
Putting Patient First
2. 配布資料
3)
Benefit-Risk Assessments in Rare Disorders(冊子)
4)
STRENGTH HAPPENS TOGETHER(冊子)
5)
STRENGTH HAPPENS TOGETHER CONNECT 20 th Annual Conference(冊子)
36
2-4.HealthCare Ventutes LLC.
HealthCare Ventutes LLC.
所
地 : 47 Thorndike Street, Suite B1-1 Cambridge, MA 02141 USA
在
電
話: +1 617 252 4343
H o m e p a g e: www.hcven.com
面 談 日 時: 2014 年 10 月 22 日(水) 9:00~11:00
面 談 場 所: 上記所在地
面
談
者: Christopher K. Mirabelli, Ph.D.
Managing Director
Contact Person: Christopher K. Mirabelli, Ph.D.
Managing Director
面 談 目 的:
以下の項目に関する調査・情報収集を行うこと。
・ バイオ企業を対象にした投資の実際
・ バイオ企業育成施策
説 明 内 容:
1. Healthcare Ventures の概要
・ HealthCare Ventures は、主要な開発品が前臨床及び早期臨床段階にあるバイオ企業に
投資をするベンチャーキャピタルである。1985 年に設立され、25 年間投資業務を行ってき
ており、9 種のファンドを通じてこれまでに、1.6B 米ドルの資金を調達し、106 の企業に投資
してきた。今回の訪問ではこのキャピタルのパートナーを長く務める Mirabelli 氏に話をうか
がった。
・ 25 年の間に Velcade(プロテオソーム阻害剤)、CAMPATH(抗 CD33 抗体)、Synagis(抗
RSV ウィルス抗体)等、数多くの革新的な薬剤の開発に立ち会い、投資した会社を高額で
売却することに成功してきた(MedImmune は AstraZeneca が買収、 Leukosite は
Millenium が買収、その後 Millenium は武田薬品に買収された)。
2. 投資先の発見と選択方法
・ 投資対象として前臨床から POC を得る前の project を専門としている。その理由は医薬品
の研究開発過程において、project 価値の上昇幅が最も大きいステージと考えられるからで
ある。
37
・ Scientific Advisor との Communication から、基礎研究のさまざまな領域や課題の中で、何
が数年先に期待を集める領域となるかを同定した上で、研究者との面接や第 3 者の評価を
参考に投資先を決める。出かけて行ってヒトに会い、又は紹介を受けてネットワークを広げ
ていくという形でこれまでやってきた。
・ 具体的な例を説明すると、10 年前、Healthcare Ventures の Scientific Advisory Board に
Hot な研究領域となりつつあるものは何かと尋ねたところ、Advisory Board の 1 人は“protein
misholding”の分野と答えた。そこで誰が興味深い研究をしているのかあちこちを訪ねて捜
したところ、Jack Kelley というスクリプス研究所のメディシナルケミストと Whitehead Institute
の教授、Susan Lindquist に行きあたった。Kelley 博士は Transthyletin という蛋白が misfold
を受けて蓄積することにより致死性の Polyneuropathy という疾患を引き起こす遺伝病を対
象に、misfold した transthyletin に結合して misfolding を是正する低分子化合物の研究を
していた。一方 Lindquist 教授は酵母で protein foldng を調べる系を持っていて、パーキン
ソン病等の神経変性疾患に関与する α-synuclein の misfolding を研究しており、misfolding
をブロックする低分子化合物を見つけるための HTS の系を樹立していた。
・ Healthcare Ventutre はこの二つの研究を進めるための会社を設立し、私は CEO として着任
した。二つの program の進捗は順調だったが、特に Transthyletin の Program は早く進捗し、
会社設立後 18 カ月で IND を果たした。会社設立直後は Heathcare Ventute のみが投資し
ていたが、早い進捗に触発されて他の投資家も加わり、従業員も増やすことができ、私は
一年間で会社から離れた。その 4 年後に Phase2 試験で、この遺伝病の症状を改善するこ
とが確認され、この会社(FoldRX)は Pfizer に買収された。現在は、より市場規模の大きな
Cardiomyopathy にこの化合物が有効である可能性を Phase2 試験で調べているという。
・ FoldRx を成功に導いた Jack Kelley 博士は再度私を訪ねてきて、蛋白がリポソームを出て
から fold し、trap され、分解されていく“Proteostasis”というネットワークの異常は種々の疾患
の原因となりうると語った。Proteostasis を研究している何人かの優れた研究者にも会い、こ
の Biology の基盤研究をする会社を設立しようと考えたが、事業化までは長い期間と多額
の投資が必要なため、他の投資家も募り、45M 米ドルの資金で基盤研究の会社をスタート
させた。研究は順調に進捗しており、Proteosome Activator としての活性を持つ化合物を見
出し来年には IND を行う予定である。
3. 投資の実際
・ 投資の基準は、既存の治療を変革する可能性が高い製品であるかどうかである。場合によ
っては、シニアマネジメントとして、Healthcare Ventures の社員が投資した会社の事業方針、
研究開発方針の決定に関与し、投資した会社の価値を上げることを目指す場合もある(上
記の実例のように)。
・ おおまかな HealthCare Venture の投資成績は下記のとおりである。成功例としては Human
Genome Science(GSK が買収)、Medimmune(AstraZeneca が買収)である。株式上場より
売却の方が効率が良い。
 投資額の 10 倍以上で会社が売却できる場合:10~20%
 全く投資が回収できないケース:10~20%
 どうにか投資回収できたケース:60~80%
38
・ Healthcare Ventures には私のような投資判断をする 6 人のパートナーが投資先の決定に
責任 を持ち、Administration として財務や予算作成等の業務に携わる社員が 5 名、特定
の Project のマネジメント(Healthcare Venture が IP を得て初期の開発業務を行う)を行う
社員が 8 名ほどで計 15 人から 18 人で事業を行っている。
・ 投資の失敗も経験している。ある arginine-rich な peptide を低分子に結合させ、細胞膜を
通過させて局所的な DDS を行う技術を研究する会社を設立し、サイクロスポリンを局所的
に投与し肝硬変を治療することを目指した。しかし、臨床試験では、サイクロスポリンは透過
するもののペプチドから release されず期待した効果は出なかった。この結果、40M 米ドル
の投資(Healthcare venture 単独ではないが)と 5 年間が水泡に帰した。
・ この原因は Science が robust でなかったこともあるが、適切な人間が management をしてい
なかったこともあるだろう。振り返れば正直に“It’s time to stop”と言える人間が management
をするべきだったかもしれない。
・ 先駆的な投資先の発見、評価、実際の投資、そして売却相手探しはどこでもできるもので
はなく、ハーバード大学、MGH 等の研究施設、投資家等、ヒト、モノ、カネのそろったボスト
ンだからできる。環境はボストンのほうがカリフォルニアより優れている。
4. この 25 年間の米国のライフサイエンス業界の変化
・ Mirabelli 氏にこの 25 年間、何が変化したかを尋ねたところ、総じて言えば基本的には良く
なっている。みな、夢を追うのではなくより現実的になったと述べた。変わったのは、アカデミ
アの側で、30 年前はケミストやイミュノロジストとのコラボをうまくやる Biology の研究者は居
なかったが、最近は多い。どこの研究施設も HTS やケミカルライブラリーを持っており、仮説
を証明する化合物を大学や研究所の側で持っているケースが多い。これは 20 年前や 30
年前には無かったとの答えであった。IT の進歩の Impact は大きい。情報集めは昔より数段
容易になったし、20 年前には巨大な Computor と数十名のスタッフを必要とした分析が、今
は数台の PC を用いて簡単にできるようになった。これは大きな変化だろう。
5. がん免疫治療、及び oncolytic virus について
・ がん治療の分野においては、併用療法の可能性を追求しておくことも重要で、これが、最
近、抗 CTLA-4 抗体や抗 PD-1 抗体との併用療法の可能性が盛んに検討されている原因
だろう。個人的には、低分子の化学療法剤と Immunotherapy の併用の可能性が大きいと
考えている。化学療法剤ががん細胞を破壊することによって、大量のがん抗原が release さ
れ、免疫系によってがん抗原が認識される機会が増大する。これは非常に有力な併用療
法になるのではないかと思う。
6. 米国のバイオベンチャーが充実している理由
・ バイオベンチャーの新薬創出への貢献、バイオベンチャーへの投資額等における米国の
圧倒的な優位性を築く要因となった政策は何かと Mirabelli 氏に尋ねた。
・ Mirabelli 氏は、SBIR(スタートアップ助成制度)ではなく、一つはバイドール法(国公立研
究機関の研究成果の私企業への移転を認めた法律)が事業化のインセンティブを明確に
したことである。もう一つは、宇宙開発競争が終わった後の 70 年代、米国が解決すべき次
39
の課題は何かと考えた当時のニクソン大統領が、がんとの闘いを宣言し、その後莫大な金
額が、1970 年代から 90 年代に亘って投資されたことをあげた。がんとの闘いは部分的にし
か成功していないが、バイドール法と米国のライフサイエンスへの莫大な投資の二つが米
国の今を作ったのではないかという意見であった。
所感
米国のバイオテック業界で、製薬企業の研究部門からスタートし、製薬企業から出て、ベンチャ
ーの社長を務め、その後は投資サイドに回り成功してきた Mirabelli 氏の Venture capitalist としての
業務の実際についてじっくり聞くことができ、得るものが大きかった。
サイエンスの深い理解と張り巡らせたネットワークの中から将来性のある研究とヒトを見出し、事
業化へ向けて会社を設立し育てていくことで生計を立てている Healthcare Ventue のような会社は
日本には無い。サイエンスを深く理解した上で臨床ニーズを踏まえて研究開発の方向性をデザイ
ンして行く「目利き」でなければこのような事業はできない。このようなベンチャーキャピタルの存在が、
米国のバイオテック業界の強力な創薬力の下支えの一つであると感じた。
開発リスクを嫌う度合い(リスクを取らない度合い)について、日本の製薬会社と米国の製薬会社
の比較はどうかと尋ねたところ、日米に差は無いという答えだった。しかし、創薬することの困難さが
増してきている現在、また、医療費削減への圧力が増してきている現在、画期的な薬剤でないとそ
の価格が受け入れられない傾向が増してきている。この中でリスクを取って画期的な薬剤の創出に
挑戦する必要性も増してきていると述べていた。このコメントは、医薬品の研究開発 management に
携わるすべての人間が噛みしめるべきコメントと考える。
(森下 芳和)
受 領 資 料: なし
40
2-5.Dana-Farber Cancer Institute (DFCI)
Dana-Farber Cancer Institute (DFCI)
所
在
地 : 450 Brookline Avenue, Boston, MA 02215, USA
電
話: +1 617 632-3000
H o m e p a g e: www.dana-farber.org/
面 談 日 時: 2014 年 10 月 22 日(水) 13:00~15:00
面 談 場 所: 上記所在地
面
談
者: O. Prem Das, PhD
Chief Research Business Development Officer
Nancy N. Grodin
Senior Licensing Associate
Alyssa O’Driscoll
Assistant Director, Donor Relations
Elena Vaillancourt
Senior Licensing Associate
Contact Person: O. Prem Das, PhD
Chief Research Business Development Officer
面 談 目 的:
以下の項目に関する調査・情報収集を行うこと。
・ DFCI における臨床研究を含むがん研究全般
・ DFCI における個別化医療への取組み
説 明 内 容:
1. 組織概要
1) 設立経緯
・ 1947 年に医学博士 Sydney Farber が小児がん研究所を設立。
・ 1969 年にがん患者の対象年齢を成人にも拡大し、1974 年には設立者の名前を冠した
Sydney Farber 研究所に改称した。
・ 1983 年に Charles A. Dana 財団の長期に亘る支援に感謝の意を表し、現在の名称となっ
た。
・ DFCI は Dana-Farber/Harvard Cancer Center(DF/HCC)の創立メンバーであり、ハーバード
大学傘下にある主要関連医療機関の1つである。
・ 連邦政府が指定する全米 41 のアメリカ国立がん研究所指定がんセンターの 1 つにもなっ
41
ている。
2) “Balanced Portfolio”
・ 創立以来、がん患者へ今日受けられる最高の治療を提供する一方で、研究を通じて明日
の医療を開発することをコミットし、同時にがんや関連疾患の理解と予防を推進する次世代
の医師や研究者を養成してきている。これを”Balanced Portfolio”というポリシーで表し、患
者ケアと先進的研究の支出の比重を 1:1(いずれも年間約 500M 米ドル)とし、年間 16,000
人の患者を受け入れながら、基礎から臨床までの研究にも力を注いでいる。
・ このポリシーは New York の Memorial Sloan Kettering Cancer Center や Texas の MD
Anderson Cancer Center といった他のがんセンターで、患者ケアの比重がそれぞれ 4:1、
9:1 と高いのとは異なる、DFCI の特徴である。
・ 研究の収支での不足分は病院収入の余剰分と寄付金で賄っている。
・ 1948 年にボストンの病院で白血病に苦しんでいた子供の名前から命名された Jimmy Fund
というがん治療の研究基金をはじめとし、チャリティー基金が収入に占める割合は大きい。
Jimmy Fund は設立以来、総額で 948M 米ドルを超える。(2013 年は 73M 米ドル)
Fig.2-5-1 DFCI: Balanced Portfolio(受領資料より)
2. 臨床ケア
・ 小児がんのケアは Jimmy Fund Clinic あるいは Boston Childrens Hospital(BCH)を通じて
行われる。
・ がんの一般診療は解剖学的に分類された 12 の Disease Center を通じて行われる。
・ 臨床試験は Disease Center で行われ、ボストンの 5 つの病院(DFCI、Beth Israel Deaconess
42
Medical Center ( BIDMC ) 、 Brigham and Women's Hospital ( BWH ) 、 BCH 、
Massachusetts General Hospital (MGH))と 2 つの Harvard School(Harvard Medical
School ( HMS ) 、 Harvard School of Public Health (HSPH ) )の コ ン ソー シアム であ る
Dana-Farber/Harvard Cancer Center (DF/HCC)に管理される。
・ 1 つの病院で IRB を取れば、他の 4 病院の IRB 取得は不要。
・ 現在 3,500 人以上の患者に対して 700 の臨床試験を実施中である。
・ 研究に力を入れる一方、患者ケアにも力を入れている。病院はホテルのような温かみのある
内装、花に満ちたスペースや美しいチャペルを併設した設備を有している(Fig.2-5-2)。
Fig.2-5-2 病院内のチャぺル(DFCI ホームページより)
3. 研究体制 (Fig.2-5-3)
・ 研究においては、研究 室 やグループのリーダーは「独立 した業 務請 負 人」とされており、
DFCI はその研究が拘束を受けないように支援している。
・ DFCI は探索研究の独立性といった文化を守りながら、アカデミックな発見から臨床的有用
性への橋渡し研究をする際のプロジェクトマネジメントをしっかり行うことを目標に置いてい
る。
・ DFCI は Integrative Research Centers(多岐にわたる研究の統合センター。全体のビジネス
プランや財政プランを作成)、Investigators(基礎研究、橋渡し研究など)、Disease Centers
(疾患研究)、Selected Technologies(高度技術研究)という 4 つの特色を持った研究機能
を持ち、連携しながら全体で 200 人以上の専従の研究者を抱える。
・ DFCI の教職員の 90%以上は HMS、数%は HSPH の教職員の肩書きを持っているが、IP
や研究内容は DFCI に帰属し、給料も DFCI から支払われる。HMS での肩書は象徴的な
もので、DFCI での肩書とは異なり、昇進についてもそれぞれ独立している。
43
Fig.2-5-3 The “new” Research Infrastructure at DFCI(受領資料より)
・ Integrative Research Centers は 15 の研究センターから構成され、各センター長は 5 年間の
明確なマイルストーンと成果物が含まれたビジネスプラン及び 5 年間の自足可能な財務計
画に責任を負う。ビジネスプランが President から承認されれば、資金提供がなされる仕組
みとなっている。
4. がんゲノム・プロファイリングへの挑戦
・ 年間 16,000 人の新しいがん患者から 80%という高率で生検同意を得て、ゲノム解析を自
前資金で実施している。費用は患者1人につき 3~4K 米ドル。
・ 臨床試験での治療前後での比較データを取得し、臨床データとリンクさせることにより、変
異プロファイリング研究などに利用している。
・ 14 遺伝子の検討から開始し、現在では 400 遺伝子に関する分析を実施している。
・ データの蓄積により、患者個別の治療の最適化(個別化医療)と、治療開始期における治
療デザインの最適手法の選択という2つの価値が生まれると考えている。
5. 研究から臨床現場への橋渡し
・ Office of Research and Technology Ventures(ORTV)という DFCI の内部組織が、DFCI の
研究成果や技術を医療現場へ届けることを使命としている。
・ ORTV は、DFCI 発の 800~900 という特許を 15~20 の外部特許事務所を活用してマネージ
メントし、企業へのライセンス、企業がスポンサーとなる共同研究実施などのために活用して
いる。
・ この仕組みは、ベイラー医科大学やウィスコンシン大学では、大学で生み出されたすべて
の発明が、大学から分離された非営利機関によって処理されているのとは異なる。
・ ライセンス収入に関しては、2014 年には大きな取引が成立し、飛躍的に増加した。(年間
44
約 20M 米ドル)
・ 特許化のポリシーとしては、すべての発明を出願するというものではない。ノウハウであった
り、データが不足しているもの、薬にはならないもの、基礎的な研究などは除くが、それでも
発明の 60~70%は出願している。
・ 2014 年は年間 120 件超の発明がなされているが、その約 23%はキナーゼを研究している 2
人の合成研究者による低分子化合物の特許であり、この 2 人の生産性は非常に高い。
・ 数多く行っている基礎研究の成果は、Nature 誌などへの論文発表という形になることもあ
る。
6. 研究成果
・ 低分子薬では 2008 年から 2013 年に企業にライセンスした薬剤 9 個のうち 6 個が Phase1
で開発中であり、非常に成果は上がっている状態にある。
・ DFCI 発のベンチャー企業は年平均 2.7 社立ち上がっており、2007 年から 2013 年に設立
された会社のうち、4 社は買収され、残りの 15 社のうち 14 社は存続しており、一般的なベン
チャー企業の成功確度から見ると、非常に高いと考えられる(Fig.2-5-4)。
Fig.2-5-4 Start-up Success(受領資料より)
・ 最近の業績として、Gordon Freeman 博士は、PD-L1 のクローニングに成功し、PD-1 との相
互作用が免疫反応を抑制するチェックポイントであることを見出した。PD-1、PD-L1 阻害に
関する特許は数社に非排他的にライセンスしており、Merck の薬剤が 2014 年 9 月に承認
された。
所
感:
患者ケアとがん研究の両立という他のがんセンターにない理念を掲げながら、非常にうまく成果
45
を上 げている印 象 を受 けた。病 院 設 備 はホテルのような印 象 を受 ける落 ち着 いた内 装 で、年 間
16,000 人の患者受け入れというのも頷けた。臨床から得られる豊富なデータ、さらに自前資金で行
っているゲノム・プロファイリング研究が研究現場や臨床現場にもたらす情報量は非常に多いと考
えられる。
一方、研究者には研究に集中できる環境づくりがなされており、企業との橋渡しをする ORTV と
いう内部組織もうまく機能しているようだ。ライセンス収入の急激な増加や、企業との協業の様子か
ら、情報発信を機能的に行っている感触であった。研究者 200 人の組織で、企業にライセンスした
化合物のうち、2008~2013 年で臨床入りしたものが 6 個あるというのは非常に高い研究効率であり、
また 2007~2013 で年平均 2.7 社のベンチャー立ち上げというのも、成果が継続的に上がっているか
らと考えられる。PD-1 や PD-L1 のような基礎研究から新しい標的が見出される可能性があり、共同
研究先として日本企業が考える候補の一つと考えられる。
(大野 文彦)
受 領 資 料:
1. 説明資料: Dana-Farber Cancer Institute, Capabilities and Collaboration Opportunities
参 考 資 料:
1. Dana-Farber Cancer Institute ホームページ: http://www.dana-farber.org/
46
2-6.Genelux Corporation
Genelux Corporation
所
在
電
地 : 3030 Bunker Hill St, San Diego, CA 92109, USA
話: +1 858 483 0024
H o m e p a g e: www.genelux.com
面 談 日 時: 2014 年 10 月 23 日(木) 10:00~12:00
面 談 場 所: 上記所在地
面
談
者: Thomas Zindrick
President and Chief Executive Officer
Tony Yu, Ph.D.
Vice President of Clinical Trial Operations
Contact Person: Camha Hoang
Project manager
面 談 目 的:
以下の項目に関する調査・情報収集を行うこと。
・ 組み換え vaccinia virus を用いた腫瘍溶解療法を中心としたプラットフォーム技術の化学
的側面について
・ Genelux のがん領域及び腫瘍溶解療法の R&D 及び事業戦略について
説 明 内 容:
1. 概要:
・ Genelux は現在有効な治療法のないがんやその他の疾患の治療に対して、最先端の診
断薬あるいは治療薬を開発しているバイオメディカル企業である。豊富な知的財産、多角
的な戦略によって、今後さらなる成功が期待されている企業である。R&D 開発本部は米
国、サンディエゴに位置し、ドイツに生産拠点がある。2014 年 10 月現在、米国 23 名、ドイ
ツ 7 名の職員から構成されている。
・ Memorial Sloan-Kettering Cancer Center(ニューヨーク)、National Institute of Health、
University of Tuebingen(ドイツ)、Institute of Cancer Research(UK)、University of
California, San Diego、University of Wurzburg(ドイツ)等と欧米の著名な研究所、病院と
共同研究開発を行っている。
2. 技術基盤
・ oncolytic vaccinia virus を中心とした独占的な技術基盤を有する。歴史的にヒトへの投与
47
経験があり、安全性が確立され、種々のがん細胞を死滅しうる vaccinia virus を基盤とした
oncolytic virus を開発している。以下に oncolytic virus 開発における vaccinia virus の優
位性を示す。
 歴史上、最も成功している生物学的製剤(smallpox に対するワクチンとして、数百万の
ヒトへの安全な投与が確立されている。)
 遺伝的に安定している DNA ウィルス
 細胞質で複製し、宿主の遺伝子を変化しない。
 広範な種類のがん細胞に感染し、がん細胞を殺す。
 多くの遺伝子情報を保持できることから、治療用タンパク、あるいは診断を改善しうる遺
伝子情報を追加できる。
 血中から遠隔の腫瘍への移動ができる。
等々が挙げられる。
・ 2003 年に Ruc-GFP、β-galactosidase、β-glucuronidase の 3 つの挿入変異を含む
vaccinia virus である GLV-1h68(GL-ONC1)を開発(Fig.2-6-1)、このウィルスを用いた非
臨床試験、早期臨床試験を行っており、膨大、広範かつ多岐にわたる検討を行っている。
Fig.2-6-1 GLV-1h68(GL-ONC1)の開発(受領資料より)
・ 以下、oncolytic virus の非臨床試験のデータのまとめを示す。
 静脈内投与によって、ヌードマウスにおけるヒト乳がんの縮小、退縮をきたした。
 GLV-1h68 の投与によって、担がんマウスの体重減少を抑制した。
48
 マウスモデルにおいて、肺への転移巣が完全に退縮した。
 単回投与によって、ヒト前立腺腫瘍を有するマウス血中の CTC(circulating tumor cells)
を劇的に減少させた。
 化学療法(cisplatin)の併用により、腫瘍縮小効果の増強を認めた。
 膵臓がんに対して、放射線療法との併用で相乗効果を認めた。
・ また、がん治 療 以 外 にがんの診 断 においても応 用 できる ウィルスを開 発 中 であり( Fig.
2-6-2)、Genelux によって、500 以上の新規 vaccinia virus を開発中である。
Fig.2-6-2 がんの診断、治療のための新規組み換え vaccinia virus の開発(受領資料より)
3. 臨床開発
・ vaccinia virus による腫瘍溶解性のがん免疫療法の基盤として、以下の点が挙がる。
 良好な忍容性、腫瘍特異的、腫瘍細胞内で複製し、腫瘍細胞を融解する。
 患者のがんに対する免疫応答を活性化する。
 がん細胞に特異的に移行、増殖するための遺伝子改変を施すことによって、薬効が改
善しうる。
・ 現在進行中の GL-ONC1 の早期臨床試験の成績を Fig.2-6-3 に示す。欧米の複数の施
設で、固形腫瘍を中心とした種々のがん(卵巣がん、頭頸部がん、中皮腫等)に対して、複
数の投与量(dose escalation design)、静脈内(全身性)あるいは腹腔内、胸腔内投与(局
所投与)、単剤あるいは化学療法との併用における安全性、忍容性を検討している。
49
Fig.2-6-3 GL-ONC1 の早期臨床試験の一覧(受領資料より)
・ 以下に GL-ONC1 の臨床試験のサマリーを示す。
・ 安全性に関して:
GL-ONC1 の種々の用量及び異なる投与方法により、83 人の患者に計 294 回の投与が行
われ、検討された。最大容量 5 x 10 9 pfu 単回静脈投与において、忍容性は良好であった。
すべての臨床試験において、MTD には到達しなかった。
・ 尿あるいは唾液からの viral shedding(ウィルスの消失)は微細であるかあるいは、ほとんど
認めなかった。
・ 全身性あるいは局所へのウィルスの到達は良好であった。
・ がん組織、がん細胞への GL-ONC1 の感染はウィルス由来 GFP の検出、IHC、viral plaque
assay いずれの検討においても良好であった。
・ ウィルスに対する抗体反応:あり、ウィルスの静脈内投与後、速やかにプラトーに達する
・ 抗腫瘍効果に関して:
preliminary な結果ではあるが、単剤で抗腫瘍効果、臨床的有効性が認められた。一例と
して、UCSD で行われた GL-ONC1-005 試験の結果を Fig.2-6-4 に示す。頭頸部がんに対
して、CR、PR と有効性を認めている。
50
Fig.2-6-4 GL-ONC1-005 試験の有効性の結果(受領資料より)
所
感:
開発初期のデータから最近の臨床試験の結果まで、広範かつ詳細に説明いただけたこともあっ
て、Genelux の姿勢に好感を持てたとともに、oncolytic virus therapy について多くの知見を得ること
ができた。すぐれた臨床試験のデザイン、今回はすべてを提示されなかったが、非常に豊富なウィ
ルスパイプライン、多数の IP、がん治療のみならず、診断薬、家畜での応用等多角的な戦略を有し
ていることから、非常に有望なバイオ企業であることは間違いないだろう。今後、oncolytic virus の
Phase2 が計画されており、さらなる成長が期待される。
(閌 康博)
受 領 資 料:
1. 説明資料: GENELUX, Illuminating Hope in the Fight Against Cancer
51
2-7.International Stem Cell Corporation (ISCO)
International Stem Cell Corporation (ISCO)
所
在
電
地 : 5950 Priestly Drive, Carlsbad, CA 92008, USA
話: +1 760 940 6383
F
A
X: +1 760 476 0600
H o m e p a g e: www.intlstemcell.com
面 談 日 時: 2014 年 10 月 23 日(木) 14:00~16:00
面 談 場 所: 上記所在地
面
談
者: Simon Craw, Ph.D.
Executice Vice President
Business Development and Investor Relations
Ibon Garitaonandia, Ph.D., MBA
Director of Translational Research
Rodolfo Gonzalez, Ph.D.
Principal Scientist
Contact Person: Simon Craw, Ph.D.
Executice Vice President
Business Development and Investor Relations
面 談 目 的:
以下の項目に関する調査・情報収集を行うこと。
・ ISCO の独占技術である hpSC を用いた再生医療技術の特徴
・ 再生医療における開発の進捗状況及び今後の応用範囲
説 明 内 容:
1. ISCO の経営状況
・ ISCO は子 会 社として Lifeline Cell Technology(研 究 用 細 胞と培 地の製 造 販 売)及 び
Lifeline Skin Care(アンチエイジング化粧品の製造販売と皮膚領域の幹細胞技術の開発)
が あ り 、 2013 年 は グ ル ー プ で 6M 米 ド ル の 売 り 上 げ を 達 成 し て い る 。 Lifeline Cell
Technology の研究用細胞は既に 200 種以上を販売しているが、日本が米国に次ぐ最大の
市場であり、クラボウ(倉敷紡績株式会社)が代理店となっている。
・ ISCO の従業員数は 38 名である。グループとして、細胞培養や細胞の製造技術に長年の
経験を有している。現 在、未受精 卵由 来のヒト単為 生殖幹 細胞( human parthenogenetic
stem cell, hpSC)を利用した再生医療事業の立ち上げを目指している。
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・ カリフォルニア州 Carlsbad に本社、同州 Oceanside に研究施設と GMP 生産施設、メリーラ
ンド州 Fredelick に培地等の製造設備を保有する。
2. Human parthenogenetic stem cell(hpSC)の作製法
・ hpSC の知財状況については、基本的には Freedom to Operate であるが、ISCO は多くの周
辺特許を保有又は出願しており、ES 細胞(embryonic stem cell)が特許の対象とならない
欧州においては競合上有利な知財状況になっている。また、hpSC の科学的な知見の一部
を Nature Scientific Report 誌や Cell Stem Cell 誌に公表している(Fig.2-7-1)。
Fig.2-7-1 hpSC の知財状況(受領資料より)
・ hpSC は体外受精用に採取されたが受精に用いられなかった卵子を出発細胞として用いる。
受精を経ておらず胎児以降まで発生分化しないということでは、ES 細胞で問題となる倫理
的な障壁からは逃避できる。
・ 未受精卵から hpSC への分化誘導は 2 つの化合物、puromycin と Ionomycin を処理するこ
とによる方法が確立されている。この化合物カクテルは未受精卵を刺激し、接合子(zygote)
様の性質を獲得させ、胚盤胞(blastocyst)様の細胞塊段階まで分裂させる。この胚盤胞様
の細胞塊の内部の細胞を単離し、hpSC を in vitro で増殖させる(Fig.2-7-2)。
・ 技術的に iPS 細胞より作成が難しいが、既に 15 の cell line を樹立し、バンク化している。
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Fig.2-7-2 hpSC の作製方法(受領資料より)
3. hpSC の特徴
・ hpSC と他の幹細胞との性状の比較を Fig.2-7-3 に示す。
・ hpSC は ES 細胞や iPS 細胞と同様の多分化能(pluripotency)と無限増殖性を有する。増
殖能については、細胞株間の差の大きい iPS 細胞より優れ、ES 細胞と同等である。
Fig.2-7-3 hpSC と ES 細胞、iPS 細胞、組織幹細胞の比較(受領資料より)
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・ hpSC の iPS 細胞に勝る利点としては、作製法に関して遺伝子の導入や導入用のウィルス
ベクターの使用の必要が無いという点がある。FDA も安全性の面からこの点を気にしている
ようである。
・ 自家移植の場合は何れの幹細胞も問題は無いが、他家移植の場合は免疫拒絶の問題が
出てくる。ISCO では HLA-homozygous な hpSC を揃え、同じハプロタイプの患者に移植す
ることにより免疫拒絶の頻度を減らす戦略を取っている。
・ hpSC から種々の細胞への分化法については、神経幹細胞、網膜上皮細胞、角膜上皮細
胞、血管内皮細胞、肝細胞等への方法を確立、若しくは確立中である。基本的には化合
物処理による分化誘導を用いており、最適の化合物の組み合わせをスクリーニングしてい
る。パーキンソン病治療用の神経幹細胞の場合は誘導後の細胞の 97%がドパミン産生細
胞に分化している事を確認している。
4. hpSC のパーキンソン病治療への適用
・ ISCO の hpSC 技術の利用で最も進んでいるのが、hpSC 由来神経幹細胞のパーキンソン
病治療への適用であり、既にサルのモデルでの症状の改善を含む有効性を確認している
(Fig.2-7-4)。安全性の面でも、前臨床段階において、がん化、幹細胞の残存、異常な組
織の出現、脳外への細胞の流出、全身への毒性、免疫拒絶の兆候がいずれも見られてお
らず、最高用量でも認容性を認めている。
Fig.2-7-4 非げっ歯類における hpSC 由来神経幹細胞移植の効果(受領資料より)
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・ 細胞バンク中の hpSC から神経幹細胞に分化し、必要細胞数を確保するまでの所要期間
は 2-3 ヶ月とのことである。神経幹細胞への分化に用いる化合物とその添加条件は既に決
定されており、分化誘導後には化合物の完全除去されていることが確認されている。
・ FDA は特に安全性の面に注目しているようで、サルでの急性毒性試験を含む前臨床試験
のパッケージについて要求されているが、その多くの試験を終了させている。間もなく、論
文発表していく予定である。
・ Duke 大学との共同で間もなく臨床試験に入る予定であり、2015 年早々に IND が計画され
ている。Fig.2-7-5 にそのデザインを示すが、投与経路は脳内への直接注入である。
Fig.2-7-5 パーキンソン病での臨床試験のデザイン(受領資料より)
5. 他の疾患領域への展開及び外部との提携
・ パーキンソン病以外の適用領域としては、脳梗塞、眼疾患、肝臓疾患を候補としている。
現在の ISCO の規模ではこれ以上の領域に手を広げることはできない。
・ 肝臓細胞への分化誘導法については既に確立し、分化させた肝細胞をラットモデルに移
植したところ、ビリルビン代謝能が回復したと言うデータを 2013 年に学会発表している。
・ 眼領域では、hpSC 由来の網膜上皮細胞をマウスモデルに移植して有効性を示したと言う
データや角膜を形成させた経験がある。2014 年 7 月にロート製薬と眼領域での共同研究を
開始している。
・ 他疾患領域での基本戦略は ISCO でヒト細胞への分化を機能面で確認した後、臨床試験
に入る段階で製薬企業と提携に入る、というものである。
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所
感:
ISCO の最も得意とするところは、長年の研究用細胞の製品化に関連して養ってきた細胞培養
技術にある。この技術を基に、hpSC の再生医療への実用化を進めつつあるが、hpSC を開発しよう
としている企業が他に無いことから、特許以外にも ISCO 独自のノウハウが hpSC の作製及び hpSC
から成熟細胞への分化誘導に重要になっていると思われる。また、ipSC 細胞の作製と ipSC 細胞か
らの分化誘導に関し、化合物カクテルによる方法を確立しているという点も、ISCO の長年の細胞培
養技術の為せる技だったかもしれない。さらに、Cell Stem Cell 誌等の科学雑誌にも論文を投稿し
ており、それなりの科学的基盤を持つ企業と考えられる。
hpSC が、再生医療への適応性と言う点において、ES 細胞や iPS 細胞と比較してどうかについて
は非常に興味深いところであるが、現状では判定困難である。ビジネス面、医療経済面からは他家
移植が期待されるが、HLA-homozygous な hpSC を揃えることで、免疫拒絶を回避できるのかどうか、
また、増殖能の良さから、安価にかつ短期間で必要細胞数を調製できるのか、の 2 点が今後の課
題となってくる。規制面からは、遺伝子導入を必要としない点は大きなメリットになるだろう。
(加藤 正夫)
受 領 資 料:
1. 説明資料: Cells for Therapy and Research
57
2-8.Amgen Inc.
Amgen Inc.
所
在
電
地 : One Amgen Center Drive, Thousand Oaks, CA 91320-1799, USA
話: +1-805-447-1000
F
A
X: +1-805-499-1010
H o m e p a g e: www.Amgen.com
面 談 日 時: 2014 年 10 月 24 日(金) 10:30~13:30
面 談 場 所: 上記所在地
面
談
者: Mary Klem
Director, Corporate Communications
Gregory Friberg, MD
Executive Medical Director
Global Development & US Medicl Org.
Hematology/Oncology Therapeutics
Jennifer Gansert, MD, PhD
Executive Medical Director
Global Development Leader
Hematology/Oncology
Tim Osslund, PhD
Principal Scientist
Contact Person: Mary Klem
Director, Corporate Communications
面 談 目 的:
以下の項目について調査・情報収集を行うこと。
・ Amgen における、がん領域の新しい取組み
・ がんウィルス療法で開発後期にある T-Vec の特徴と臨床成績
説 明 内 容:
1. 概要
・ Amgen の出席者の厚意によって、Amgen の概要から始まり、2 価の融合抗体技術、BiTE
( 二 つの 抗 原 認 識 部 位 を 持 った 人 工 的 に 作 成 さ れた 抗 体 ) 技 術 や 、が ん免 疫 療 法 剤
T-Vec 等、Amgen の研究開発の最近の動きに関して丁寧な説明と質疑応答がなされた。
・ Amgen は、Genetech が既に Roche の傘下に入っている中、独立性を保っているバイオベン
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チャーの中で、世界一の座に君臨している。1980 年の設立当時より、「先ずは Biology から」
を理念に、革新的な薬剤を創製してきており、これからもアンメットニーズのある領域に対し
て、強い Biology を生かして革新的な薬剤の開発に挑戦していこうとしている。Biologics に
は強いこだわりを持っていて、特に、その製造プロセスに関しては、常に高いレベルを求め
ている。この高いレベルの Biologics 製造能力を維持する目的で毎年数 M 米ドルレベルの
設備投資も行っている(最近ではシンガポールに積極的に設備投資している)。さらに、世
界最高レベルの Biologics 製造能力を生かし、バイオシミラーにも積極的に取り組んでいて、
現在 9 個のプログラムを走らせている。うち、3 個(adalimumab、trastuzumab、bevacizumab)
はピボタル臨床試験を実施中、2 個は臨床試験準備中、残り 4 個は生産系の構築を進め
ている段階にある。
・ Amgen は、歴史的には EPOGEN と NEUPOGEN という 2 つの大型製品が会社の成長を
助け、引き続き Enbrel 等の大型製品を生み出して成長を続けている(Fig.2-8-1)。開発領
域は、がん、腎領域から炎症、骨、循環器へと広がっているが、その基本には常に Biology
の理解を置いている。この Biology の理解の延長上に、deCODE Genetics の子会社化があ
り、遺伝学を通して新しい疾患の標的を正確に理解しようとしている。
Fig.2-8-1 Amgen の諸製品の売り上げ推移(受領資料より)
・ 2013 年の総売上 18.7B 米ドルに対して研究開発費 3.9B 米ドルを使っており、常に総売上
に対して 20%近くの研究開発費を使っている。
2. BiTE
・ Amgen の Biology 技術が、十二分に生かされた BiTE 抗体に関して詳細な説明を受けた。
・ BiTE 抗体(Blinatumomab)は、細胞傷害性 T 細胞の表面抗原 CD3 に対する抗体の抗原
認識部位とがん細胞(急性白血病細胞)の表面抗原 CD19 に対する抗体の抗原認識部位
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をリンカーで繋げた抗体で、この抗体によって、細胞傷害性 T 細胞とがん細胞と結合させ、
がん細胞を叩く、革新的な治療法である(Fig.2-8-2)。
Fig.2-8-2 Bite 抗体の作製法と構造(受領資料より)
・ 当日は、2014 年の ASCO において発表された、「Confirmation Open-label, Single-arm,
Multicenter Phase2 Study」のスライド(Fig.2-8-3)を用いて BiTE の臨床成績の紹介があっ
た。その結果は、CR と CRh(complete remission with partial hematological recovery of
peripheral blood counts)を合わせて 43%であった。
Fig.2-8-3 Blinatumomab の r/r ALL における Phase2 の臨床成績(受領資料より)
60
3. T-Vec
・ Amgen は米国民の 3 分の 2 が既に感染している HSV-1 をベースに新規がん免疫療法剤
Talimogene laherparepvec(T-Vec)の開発を進めている HSV-1 は、2 本鎖の DNA ウィルス
で、宿主の遺伝に中に組み込まれることがない上に、HSV-1 に対しての有効な抗ウィルス
剤が開発されていて、安全性の面からも、優位性が認められるウィルスである。今回、2014
年の ASCO において発表されたデータを中心に説明を受けた。
・ T-Vec は、HSV-1 ウィルス遺伝子の中の ICP34.5 と ICP47 を欠失させることで、本ウィルスが
正常細胞では増殖せず、がん細胞でのみ増殖し、がん細胞の内部から溶解(死滅)させる
ことができるようにしている。また、新たに GM-CSF 遺伝子を組み込むことで、溶解したがん
細胞からがん細胞内で発現された GM-CSF を周囲に分散し、がん細胞周辺にがん攻撃性
免疫細胞を呼び寄せ、がん細胞を攻撃するという 2 段階のメカニズムでがん細胞を攻撃し
ている(Fig.2-8-4)。ウィルス製剤の投与方法は、メラノーマの患部に直接投与している。
Fig.2-8-4 T-Vec の作用メカニズム(受領資料より)
・ N=436 のメラノーマ患者を対象とし、GM-CSF の皮下注射を対照療法とした第 3 相ランダム
化比較臨床試験(OPTiM 試験)において、第 1 エンドポイントの Durable Response Rate が、
T-Vec は 16.3%(N=295)、一方の GM-CSF は 2.1%(N=141)で、P<0.0001 であった。また、
T-Vec の忍容性も十分証明された(Fig.2-8-5)。
(参考:N=50 の Phase2 の結果は、ORR=26 (8CR, 5PR)であった。)
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Fig.2-8-5 T-Vec のメラノーマにおける Phase3 の臨床成績(受領資料より)
・ T-Vec のウィルス製剤に関しても、他のバイオ医薬品と同様に自社の製造施設で製造して
いる。なお、T-Vec は、2014 年 7 月に NDA filing がなされていることから今後の FDA との
対応が注目される。
4. Lab Tour
・ Amgen の研究部門の立ち上げの研究者(1981 年 10 月~)で、Amgen の中で一番のシニア
である Tim Osslund 氏による Lab Tour があり、45 棟ある現 Amgen キャンパスの中から、
1980 年代の設立期のビルをスタートに、最新の製造施設の見学がなされた。
所
感:
「Biology First(先ずは生物学から)」を研究の基本理念に据え、研究から製造まで一貫して世
界をリードしている姿勢に感銘を覚えた。結局は、この生物学の正確な理解、そして生物学をベー
スにした疾患の理解こそが、新薬の開発の王道に他ならないと強く感じた。
(松本 正)
受 領 資 料:
1. 説明資料: Unlocking of the potential of Biology
2. 配布資料: Medical Information request(MIR-242655)
62
2-9.OncosTherapeutics Ltd.
Oncos Therapeutics Ltd.
所
在
電
地 : Saukonpaadenranta 2 FI-00180 Helsinki, Finland
話: +358 10 279 4000
F
A
X: +358 9 753 0016
H o m e p a g e: www.oncos.com/
面 談 日 時: 2014 年 10 月 27 日(月) 10:00~11:30
面 談 場 所: 上記所在地
面
談
者: Annti Vuolanto, D.Sc.(Tech)
COO and co-founder
Sari Pesonen, Ph.D.
Head of Clinical Science
Charlotta Backman, M.Sc.(Biol)
Director, Clinical Operations
Contact Person: Annti Vuolanto, D.Sc.(Tech)
COO and co-founder
面 談 目 的:
以下の項目について調査・情報収集を行うこと。
・ Oncos Therapeutics の oncolytic virus の科学的特徴
・ Oncos Therapeutics の ONCOS-102 を始めとする開発候補品の現状と今後の開発方針
説 明 内 容:
1. Oncos Therapeutics の設立とこれまでの経緯
・ Oncos Therapeutics は adenovirus をベースにした oncolytic virus(腫瘍溶解ウィルス)の臨
床開発を行っているヘルシンキのバイオベンチャー。ヘルシンキ大学でこのウィルスの研究
が開始されたのは 2002 年であり、Advanced Therapy Access Program(ATAP)という他に治
療手段のない患者に未承認薬を用いた治療を許可するプログラムの下で ONCOS-102 の
安全性が確認されたことを契機に 2009 年に設立された。
・ ATAP は飽くまでも治療ベースのプログラムで治験ではない。定まったプロトコールはなく、
統一されたデータ収集はなされていないが、chemotherapy 抵抗性のがん患者 115 症例が
ONCOS-102 の投与を受け、Phase1 試験に先立って安全性が確認され、何人かの患者で
は ONCOS-102 の臨床効果が確認された。
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・ 2010 年には SeriesA の Funding を受け、2012 年には Phase1 が開始された。2014 年には
Phase1 が終了し、ONCOS-102 の作用機作が明らかにされた。
2. ONCOS-102 の特徴と作用機作
・ ONCOS-102 は、遺伝子レベルで修飾された adenovirus。がん細胞特異的に増殖し、免疫
活性化作用を持つ GM-CSF を感染組織で発現する(Fig.2-9-1)。ただし、がん細胞と正
常細胞における選択性がどのくらいであるかは定量的な検討はなされていない。治験用ウ
ィルスの製造は CMO に委託している。製造は EU や US のガイダンスに沿って行われてい
る。
Fig.2-9-1 ONCOS-102 の構造
・ oncolytic virus には vaccinia virus をベースにしたもの(Genelux)や HSV をベースにしたも
の(旧 Oncovax:Amgen が買収)がある。しかし vaccinia virus は遺伝子サイズが大きく、
Cloning と Quality Control が困難であり、envelope virus であるため、宿主細胞由来のウィ
ルス粒子がコンタミする懸念がある。また HSV は安全性の懸念があり、ヘルペスウィルス感
染症で知られるように体内に潜伏する場合があり、免疫原性が低いという懸念がある。また
RNA ウィルスは一般的に見て構造が不安定であり、遺伝子修飾の安定性に懸念がある。
これらの点を考え合わせると、TLR9 を介して Innate Immunity を刺 激する作用を持つ
adenovirus をベースにすることに優位性があると考えられる。
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・ 作用機作としてはがん細胞選択的なウィルス増殖による腫瘍壊死作用とウィルスとともに溶
解 したがん細 胞 が 免 疫 系 へ 提 示 されることによる腫 瘍 免 疫 増 強 作 用 が 考 え られるが、
Oncos では後者の作用が主薬効と考えている
・ 投与方法としては腫瘍内投与を行っている。静脈内投与は簡便だが、肝臓での代謝や抗
ウィルス抗体等によりウィルスが除去されやすい欠点がある。また GM-CSF を全身的に発現
させれば副作用が懸念される。腫瘍内投与でも腫瘍近傍での免疫系活性化と CytotoxicT
細 胞 の 誘 導 が Phase1 の 症 例 で 確 認 さ れ て い る ( Fig . 2-9-2 ) 。 言 い 方 を 変 え れ ば
ONCOS-102 は”in situ vaccination”による腫瘍免疫誘導を目指している(Fig.2-9-3)。
Fig.2-9-2 ヒトにおける ONCOS-102 腫瘍内投与による腫瘍免疫の誘導
65
Fig.2-9-3 ONCOS-102 の腫瘍免疫活性化作用
・ 上記の点から、必ずしも患者体内の腫瘍組織すべてに ONCOS-102 を投与する必要はな
いと考えており、事実、ONCOS-102 投与症例でウィルスが注入されていないがん組織への
CD8 陽性 T 細胞の侵潤を確認できている。これは ONCOS-102 の腫瘍内投与が全身性に
がん免疫を誘導できたことを示唆している(Fig.2-9-4)。
・ 治療用がんワクチンの臨床開発では目覚ましい成果が得られていないが、この理由は、単
一のがん抗原を用いていることも一因と考えられる。ONCOS-102 は溶解したがん細胞の断
片全体を免疫系に提示できる分、優位性があると考えている
・ adenovirus はマウスでは増殖できないため、軟部肉腫を移植したハムスターで化学療法と
の併用を検討したところ ONCOS-102 及び化学療法剤単独投与よりも優れた効果を示し
た。
3. ONCOS-102 の Phase1 結果と今後の予定
・ 終了した Phase1 では 3 ヶ月後、40%の患者で Stable Disease が確認された。1 例の中皮腫
の患者では腫瘍組織の 47%減少が確認された。また卵巣がんの患者では化学療法感受
性の復活が示唆された。この結果はハムスターを用いた併用試験の結果と一致している。
今後は中皮腫、軟部肉腫を対象に標準療法との併用での承認を目指す。checkpoint 阻害
剤との併用や化学療法剤との併用も視野に入れている。現在、必要としているのは開発資
金と後期臨床のパートナー会社とのことであった。
66
Fig.2-9-4 ヒトにおける ONCOS-102 の腫瘍免疫誘導(非投与部位)
所
感
たった 10 人のベンチャーながら、Phase1 を 2 年間で終了し、薬効確認もしつつある activity の
高さには驚きを禁じ得ない。これは臨床試験施設(ヘルシンキ大学)の近くで臨床研究を行ってい
ることや、治験用ウィルスの生産を外部委託できていることにも起因すると思われる。
また、他の oncolytic virus との性質の違い、自分たちのプラットフォームの優位性については、小
さなベンチャーながら意識が高いと感じた。この会社の adenovirus を用いるプラットフォームは、
Genelux の使っている vaccinia virus や Amgen の HSV に比べ、直接的な腫瘍溶解効果の寄与が
少なく、腫瘍免疫誘導効果に優れている印象がある。ただし 3 種のプラットフォームの中で有効性、
安全性に関し最も優れたものはどれかという問題は今後の検討を待たなければならない。
一方作用機作の検討が進んでいる分、このウィルスの正常細胞での増殖が全くないのか(ウィル
スが正常細胞で増殖してしまうと正常細胞に対する免疫反応が惹起されないか)、ウィルスを投与
された患者さんからウィルスは放出(shedding)されないのか、といった安全性面の検討が遅れてい
るように感じた。しかし現段階では、開発コンセプトの証明をスピード豊かにやり遂げることが最も重
要であるのかもしれない。
彼らの仮説通り、腫瘍を溶解することで生じる多様な腫瘍抗原に対して免疫が誘導できているの
であれば、がん治療用ワクチンよりも高い効果を期待できることは明白であり、一 連の checkpoint 阻
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害剤との併用効果も期待できる。今後の展開が楽しみである。
(森下 芳和)
受 領 資 料:
1. 説明資料: ONCOS THERAPEUTICS, Personalized Cancer Immunotherapy
68
2-10.Institute for Molecular Medicine Finland (FIMM)
Institute for Molecular Medicine Finland (FIMM)
所
在
電
地 : Biomedicum Helsinki 2U, Tukholmankatu 8, 00290 Helsinki, Finland
話: +358 9 191 25783
H o m e p a g e: www.fimm.fi
面 談 日 時: 2013 年 10 月 27 日(月) 13:00~15:00
面 談 場 所: 上記所在地
面
談
者: Caroline Heckman, Ph.D.
Senior Researcher
Translational Research and Personalized Medicine, FIMM
Joan Lundin M.D., Ph.D.
Research Director
Clinical Informatics and Image-based Diagnostics, FIMM
Kari Alitalo M.D., M.Sc.D.
Academy Professor,
Research Council of Health, The Academy of Finland
Contact Person:
Eero Toivainen
Senior Advisor
FINPRO(Export Finland)
面 談 目 的:
以下の項目に関する調査・情報収集を行うこと

FIMM におけるゲノム研究等基礎医学研究や Translational Research の現況フィンランドで
のがん研究の状況: 同国で最も著名ながんの基礎研究者である、Kari Alitalo 教授と面
談
説 明 内 容:
1. FIMM の設立経緯と組織体制及び基本運営方針
・ ヘルシンキ大 Meilahti キャンパスには同大学医学部を中心に、12 の建物に 7 つの医療機
関が設置され、さらに、いくつかの研究施設と政府機関や大学関連機関が加わり、大きなメ
ディカル・クラスターを形成している。Biomedicum Helsinki はその中で、医学研究の推進と
人材育成を進める機関であり、FIMM もその傘下にある。ヘルシンキ大学医学部で特に注
力する 3 大研究プログラムとして、translational cancer biology、euroscience、genome-scale
biology がある。
69
・ 2008 年にヘルシンキ大学医学部に医療機関が協力する形で、国家レベルの医学研究所、
FIMM が開 設 された。FIMM は Translational Research をメインにした研 究 所 であり 、
Molecular medicine 関連の基礎レベルの研究室に加え、次世代シークエンサー、HTS 施
設、イメージング関係施設、インフォーマティクス等の Technology Infrastructure を FIMM
Technology Center で一括して持つとともに、大規模なバイオバンクを運営している(Fig.
2-10-1)。
・ 対外的には、Europian Molecular Biology Laboratory(EMBL、欧州分子生物学研究所)
と深い繋がりを持ち、国内外の諸研究機関との提携も活発に行われている。また、欧州全
体のコンソーシアムである、EATRIS(バイオマーカー探索)、EU-OPENSCREEN(Chemical
Biology)、ELIXIR(バイオインフォーマティクス)にも参加している。
Fig.2-10-1 FIMM の組織体制と外部提携(受領資料より)
・ FIMM のバイオバンク(Fig.2-10-2)ではフィンランド全土から各種ヒト由来試料を収集して
いるが、DNA サンプルは 200,000 以上を保有しており、全ゲノムシークエンスを外部研究機
関の協力を得て実施中で、本年中に 15,000 人分の配列が得られる見込みである。
70
Fig.2-10-2 FIMM バイオバンク施設の液体窒素タンク群(訪問時に撮影)
2. FIMM での Translational Research 及び個別化医療へのアプローチ
・ FIMM が管 理 運 営 する バイオバンクに関 しては、全 国 民 対 象 のバイオバンク( national
population biobank)とともに疾患別の試料収集を行っているが、その一つに 2011 年に収
集が開始された Finnish Hematology Registry and BioBank(FHRB)がある。フィンランドの
すべての臨床機関及び大学で血液関連疾患の血液サンプルと臨床情報を収集し、血漿、
単核球、皮膚生検試料と DNA を FIMM のバイオバンク施設で保管するとともに、各種オミ
ックス解析及び薬剤感受性試験(Drug sensitivity and resistance testing、DSRT)が FIMM
の研究室で実施されている(Fig.2-10-3)。
・ シークエンス解析やプロテオミクス解析と DSRT の結果は患者の担当臨床医に返されるが、
特に DSRT の結果は 4~5 日後に返されるので、その患者の以後の治療方針の迅速な策定
に活用されることになる。また、蓄積される情報はデータベース化され、新規なバイオマーカ
ーの探索や薬剤耐性の発生メカニズムの研究にも応用される。これらの活動は当初は
FIMM 側の研究予算で賄われていたが、昨今は医療機関も一部負担するようになってきて
いる。
71
Fig.2-10-3 血液サンプルの FIMM での解析体制(受領資料より)
・ DSRT は 309 の低分子化合物の薬剤に対し FIMM のロボット化 HTS 設備を用いて行われ
る(Fig.2-10-4)。薬剤は既に、他のがん種への適用も含めて承認されたもの、若しくは開
発中のものである。これら化合物と個々の患者由来の単核球とを 3 日間培養し、生存率を
測定する。
・ DSRT の結果より、薬剤感受性に基づく患者の層別化とともに、DNA 配列上の変異の解析
結果との照合により、より適合した薬剤や併用すべき薬剤の選択が可能となる。
Fig.2-10-4 DSRT(Drug sensitivity and resistance testing)の概要(受領資料より)
72
・ AML(Acute Myeloid Leukemia、急性骨髄性白血病)患者に対しては既に DSRT が開始
されており、結果が速やかに臨床現場に返され、遺伝子解析結果とともに各患者への最適
な薬剤の選択に役立てようとしている。DSRT の結果を元に 10 例の患者に薬剤が選択され、
有効率 40%の成績が出ている(Fig.2-10-5)。
Fig.2-10-5 AML の個別化医療に向けた DSRT の位置づけ(受領資料より)
・ 同様な試みは MML(Myelo-monocytic Leukemia、骨髄性単球性白血病)や前立腺がん
にも展開されようとしている。MML の場合は Celgene との共同で実施されるが、エピゲノム
解析(メチル化 DNA の解析)や RNA シークエンスによる遺伝子発現解析も追加される。
・ ま た 、この 個 別 化 医 療 の 試 み は Drug repositioning に も 適 用 可 能 で 、 腎 が ん適 用 の
VEGFR 阻害剤、Axitinib が T315I 変異を有する CML(Chronic Myeloid Leukemia、慢性
骨 髄 性 白 血 病)患 者に使 える可 能 性を示すデータが得られている。この発 見は、最 近 、
Nature 誌に発表された(2015 年 2 月 9 日にオンライン公開)。
3. 施設の見学
・ 以下の研究施設の見学を行った。
1) バイオバンク設備:大型の液体窒素タンクを 8 台保有
2) オミックス解析設備:次世代シークエンサー(NGS)は 3 台保有、主としてエクソーム解
析を行っている。
3) HTS 設備:DSRT に使用されている。
4) Webmicroscopy 技術(Lundin 博士が説明):
 顕微鏡画像を精密にデジタル化する技術であり、FIMM と Biocenter Finland や EU 傘
下の EATRIS との協力により確立された。顕微鏡画像をほぼ無限大にギガピクセルサイ
ズで拡大でき、壁一面に映写することも可能(Fig.2-10-6)であり、特に病理標本の診
断を複数の pathologist により協議、判定することも可能になる。顕微鏡の 500 視野を1
視野に収めることができ、iPad やスマートフォンの画面にも映し出せる。タッチパネル方
73
式となっており、指の操作にて簡単に拡大、縮小、移動、焦点合わせなどが可能となっ
ている。
 各種定量化の algolism も開発されており、組織の壊死部分を同定し定量化することも
できる。診断用途として、マラリア感染細胞を識別するシステムも作っている。
 FIMM のバイオバンク中の組織のデジタル化も進められている。デジタル画像データの
保管に関しては、現在は現有設備で間に合っているが、病院全体で使うようになると設
備面の対応が必要になるとのことであった。
 FIMM よりスピンアウトした FIMMIC が同じ研究棟で本技術の事業化を進めている。
Fig.2-10-6 Lundin 博士による Webmicroscopy 技術の紹介(訪問時に撮影)
所
感:
フィンランドは人口が 650 万人で東京都の半分程度であり、医学、ライフサイエンス面での同国
からの情報に接することもほとんど無いことから、この分野の基礎や応用研究面については当初は
有用な情報が得られるとは想定していなかった。しかし、ヘルシンキ大学医学部キャンパスへの医
療系研究機関の集中度や、実際見学したのは FIMM のみであるが、そのシークエンサーやバイオ
バンク等の設備面は、日本の最先端の研究機関のそれと匹敵するものであり、ただ、驚愕するのみ
であった。
個別化医療への取組みについては欧米にかなり先行を許している訳であるが、ここ FIMM でも
バイオバンク、シークエンサー等の設備面と、臨床機関とのネットワークを活用して、既に初期デー
タを出すところまで進んでいる。例えば、全ゲノムシークエンスの情報は、その国民特有の医療政
策や医療技術の開発にとって非常に重要な情報になるわけであるが、既にそのプロジェクトが進ん
でおり、15,000 人分の全ゲノム配列の取得が間もなく完了となると言う。本邦においては、立ち上が
ったばかりではあるが、最大規模を誇る東北メディカルメガバンクでも 1,000 人分のシークエンシン
グがようやく完了した言う状況なので、更なる国家レベルでの研究戦略の再構築が必要かもしれな
い。
74
また、バイオバンクで収集されるヒト生体試料の充実度も目を見張るものがあり、これには国民性
や国の保健医療政策、特に、日本と違って国民の ID 制度(背番号制度)が既に確立されている点
が大きな原動力になっているのではないかと思われる。FIMM の医療機関と連携したバイオバンク
や臨床研究、オミックス研究を包含する予防医療や個別化医療を目指す研究体制は、国内でも厚
労省の高度専門医療センター(ナショナルセンター)や東北大等のアカデミア、あるいは臨床研究
中核病院の一部でも構築済み、若しくは構築途上ではあるが、分散化しているという印象は否めず、
今後、より効率的な各拠点の連携体制の構築が必要と思われる。
(加藤 正夫)
受 領 資 料:
1. 説明資料: FIMM
75
2-11.Cellectis SA
Cellectis SA
所
在
電
地 : 8 rue de la Croix Jarry 75013 Paris, France
話: +33 (0)1 81 69 16 00
F
A
X: +33 (0)1 81 69 16 06
H o m e p a g e: www.cellectis.com/en
面 談 日 時: 2014 年 10 月 28 日(火) 10:00~12:00
面 談 場 所: 上記所在地
面
談
者: Mathieu Simon, M.D.
Chief Executive Officer
David Sourdive, Ph.D
Executive Vice President, Corporate development
Philippe Duchateau,
Chief Scientific Officer
Julia Berretta, Ph.D
VP, Business Development and Strategic Planning
Contact Person: Julia Berretta, Ph.D
VP, Business Development and Strategic Planning
面 談 目 的:
以下の項目に関する調査・情報収集を行うこと。

革新的がん免疫療法である Engineered T cell therapies の最新動向

Cellectis が取り組む創薬開発戦略
説 明 内 容:
1. 概要
・ Cellectis は 1999 年に Institue Pasteur の研究成果を基に設立され、T cell エンジニアリン
グ技術を応用したがん治療法の研究開発に特化して取り組んでいる。従業員は現在 59 名。
現在、12 のプログラムを進めており、このうち最も先行するプログラム(UCART19)が 2015
年 Q2 に Phase1 入りを予定している。
・ アライアンス活動についても積極的に行っている。これまでに Servier とは UCART19 及び
固形がんに関する 5 つのターゲットに関するアライアンスを締結しており、R&D のうち P1終
了時までを Cellectis が責任をもち、以降の開発は Servier が担うことになっている。、また
Pfizer ともアライアンス関係にあり、がん関連で Pfizer が進める 15 ターゲット及び Cellectis
の 12 ターゲットについて、CAR-T 開発に関する連携関係を構築済である。
76
・ Cellects の強みとしては、Transcription Activator Like Effector Nucleases を活用した独自
のゲノム編集技術(TALEN TM )を用い、キメラ抗原受容体(CAR)を用いた遺伝子改変T細
胞(CAR-T)を基盤とする一連の治療薬開発プラットフォームが整えられている点にある。ま
た、GMP レベルでの生産も可能状況を整えており、非臨床から臨床までをつなぐポートフ
ォリオも整備されている点にあり、こうした環境下で、スピーディで低コストでの開発を可能と
している。
・ 自社内で保有する設備は最小限にしつつも、外部受託機関を積極的に活用しながら効率
的なパイプラインマネジメントを実施している。なお、治験薬製造はロンドン大学(英)、大量
生産が必要な際は CELL for CURE(仏)を活用することにしており、国内外問わずに外部
機関の活用を行っている。
・ Cellectis が持つコアテクノロジーは核酸エンジニアリングを基盤にしており、長年の経験に
基づき、高質でハイスループットな技術を有することで、本分野でのパイオニア的な存在と
なっている。
2. Engineered T cell therapies
・ Cellectis の CAR-T 技術はこれまであった様々な課題を克服し、抗腫瘍効果を強力に発揮
させることが可能となるよう設計されている。これまでも自家ではなく他家での治療が可能と
なるよう抗原性を無くし、化学療法による治療時に CAR-T の効果に対して抗がん剤の悪影
響が生じないような改良を行う、あるいは、特性を高めるための工夫など、様々な検討が行
われている。
・ CAR 部位の改良では、可変領域やヒンジ部分の長さを様々に変換するタイプや、マルチ
チェーンタイプに改変することで、抗原に対する親和性や特異性を高めるといった次世代
型の CAR-T 技術の研究・開発が展開されている(Fig.2-11-1)。
Fig.2-11-1 Cellectis が保有する CAR-T 技術の特徴(受領資料より)
77
・ 最も開発が進んでいるリード化合物 UCART19 は、慢性リンパ性白血病(CLL)、及び急性
リンパ性白血病(ALL)での適応を目指して開発中されている初めての CAR-T 製剤である。
CD19 発現細胞特異的に作用するよう改変されており、効果的に抗がん作用を発揮させる
ことが可能である。マウスを用いた薬理学的データにおいて、その高い有効性が確認済み
であり、2014 年 Q4 で GMP レベルでの生産、2015 年 Q3 での臨床試験入りが予定されて
いる(Fig.2-11-2)。
Fig.2-11-2 UCART19 の臨床開発概要(受領資料より)
・ CAR-T の臨床応用に向けた治療プロトコールは最適化されており、1 人のドナーあたり 10 9
個の PBMC を単離、その後 CAR-T を導入することで、1,000 人分相当の治療用細胞の採
取が可能となる。ドナーからの PBMC 採取から治療利用までには 20 日弱で実施可能であ
り、このサイクルを回すことで低コストでの治療が実現可能である(Fig.2-11-3)。
Fig.2-11-3 CAR-T の調製プロトコール(受領資料より)
78
3. Cellectis が進める創薬開発戦略
・ これまで血液がん、及び固形がんでの治療への最適化を中心に CAR-T 技術改良研究を
進めており、UCART19 が臨床段階に入る状況に進んでいる。一方、CAR-T 技術の応用
範囲は広く、様々な疾患分野での活用できる可能性が考えられるため、がん領域以外へ
の展開も視野に入れられている。実際、感染症分野や免疫関連疾患分野での応用を念頭
にした取組みは今後進めていくことを希望していた。
・ 再生医療分野に関連しても関心をもっているが、これまで具体的な取組みはされていない
状況とのことであった。例として PBMC をドナーから入手することに比較し、iPS 細胞から T
細胞を分化させることの方が効率性を高められる可能性があるが、PBMC を用いる手法は
安全性が確立されている一方、iPS 細胞の利用については安全性が担保されておらず、慎
重に進めるべきとの認識だった。
4. 施設見学
・ Cellectis の本社・研究所は、パリ市内のバイオベンチャー、製薬関連企業が集合するバイ
オクラスター内にあり、企業間の連携が取りやすい環境にあった。研究室はオフィスから施
設内を 5 分程度歩いたところに位置しており、細胞培養設備や遺伝子取扱い設備を中心
にコンパクトに配置されていた。
・ ドナーから入手したサンプルは、研究室の中心に位置するマイナス 150℃の超低温冷凍庫
に保管されており、必要に応じてすぐに取り出せる状況になっていた。なお、細胞は少なく
とも年単位で安定に管理されており、臨床現場との情報連携も密に取られているとのことだ
った。
所
感:
Cellectis の特徴としては、自社の強みのある技術を柱に、最小限の投資で大きな成果に結び付
けられるような戦略を練りながら、効果的な創薬研究・開発を進めているところにあり、コンパクトであ
りながら非常にフットワーク良く外部連携活動を進めていた。CAR-T 技術についても次世代型の開
発に継続して取り組んでおり、また、これまで取り組まれていたがん領域に限定せず、CAR-T 技術
が活用可能な新たな疾患領域への展開を念頭においた取組みにも着手している状況にあることか
ら、今後は CAR-T 技術のパイオニア的存在として、更なる発展が期待された。
(岩田 博司)
受 領 資 料:
1. 説明資料: Engineered T cell therapies ~ A new paradigm in oncology ~
79
2-12.Institute Curie
Institut Curie
所
在
電
地 : 26 rue d'Ulm 75248 Paris cedex 05 - France
話: +33 (0)1 56 24 55 00
H o m e p a g e: www.institut-curie.org
面 談 日 時: 2014 年 10 月 28 日(火) 14:00~16:30
面 談 場 所: 上記所在地
面
談
者: Dr Bruno Goud
Director of the Research Unit «Subcellular Structure and Cellular
Dynamics»
Dr. Sergio Roman-Roman
Head of Translational Department
Dr. Sebastian Amigorena
Director of the Research Unit «Immunity and Cancer»
Contact Person: Caroline BELLIERE DAHAN
Executive Assistant
面 談 目 的:
以下の項目に関する調査・情報収集を行うこと。
・ がん免疫療法、がんの臨床と研究全般
・ 臨床部門も含めた研究所全体の事業運営
・ translational research の方針とこれまでの成果
・ 企業との連携
説 明 内 容:
1. 研究所の概要

Istitut Curie(キュリー研究所)は 1921 年に創設された財団とその運営する研究所の総称。
その前身は 1909 年に設立されたラジウム研究所である。

3 つの大きな mission として、Care(がん、特に乳がん、小児がん、眼腫瘍に注力)、Reseach、
Teaching を掲げている。

フ ラ ン ス 国 内 の 3 つ の 拠 点 か ら 構 成 さ れ る ( the hospital on Rue Ulm in Paris 、
René-Huguenin Hospital in Saint-Cloud、the Proton Therapy Centre in Orsay)。

120 人の博士研究員と 150 人の博士課程の学生を含む 1,150 人の研究スタッフからなる。

年間予算は 100M ユーロ(約 140 億円)である。
80

年間 500 以上の論文発表を行っており、1 論文あたりの平均 impact factor は年々高くなり、
2012 年は 7.0 を超えている。

フランス国内の公的機関(CNRS、INSERM)、その他の研究機関(Institut Pasteur、ENS、
ESPCI、Les Mines、Institut Gustave Roussy)との緊密な連携関係にある。

interdisciplinary integrated approach で、以下に示すような research area を Key として掲げ
ている。基礎科学を発展させ、がんの予防、スクリーニング、診断における進歩をもたらすよ
うな translational research を更に推進することが研究所の目標である。

Key research areas:
1. Cell biology
2. Developmental biology
3. Immunology
4. Human genetics and oncogenesis
5. Epigenetics and genotoxicology
6. Molecular mechanisms in oncogenesis
7. Pharmaco-chemistry
8. Cellular and molecular imaging
9. Bioinformatics and systems biology
・ Research Center は 14 の基礎研究ユニットと1つの Translational Research 部門から構成さ
れる(Fig.2-12-1)。
Fig.2-12-1 研究所内のリサーチセンターの概要(受領資料より)
81

企業との連携として、以下の可能性が挙げられた。
 基礎研究(新しい作用機序、耐性機序等の同定)
 組織検体、細胞株、動物モデル、専門知識、技術の共有
 がん(乳がん、卵巣がん、肉腫、メラノーマ等)における新規の薬剤標的の同定
・ また、企業との連携の実際の成功事例として、抗体医薬の共同開発について示された。
3 年間の共同開発で、
 抗体スクリーニングの in vitro assay 系、トランスジェニックマウス、KO マウス等の in vivo
モデル、患者選択のためのコンパニオン診断薬の開発
 xenograft マウス、がん組織ライブラリー、臨床医へのアクセス
 知的財産は共同で所有
 治療標的を含んだ特許の独占的なライセンスを提供するに至った。
・ 現在提携している企業を Fig.2-12-2 に示す。
Fig.2-12-2 キュリー研究所が種々の型で提携している企業
2. 研究ユニットの紹介

リサーチセンターは先ほど示したように、14 の基礎研究ユニットと1つの Translational
Research 部門から構成される。今回の訪問では、3 名の Unit director によって、それぞれの
担当する unit である Subcellular Structure and Cellular Dynamics、Translational Research、
Immunity and Cancer の研究内容の説明がなされた。
82
1) UMR144: Subcelular Structure and Cellular Dynamics(Director: Bruno Gold)
・ 正常細胞の機能を理解することによって、特にがんの進展中に細胞がどのようにして病原
性を獲得するのかを理解することを目的とする。
・ Biology と Physics の融合からなる研究体制(Labex CelTisPhyBio)を確立しており(Fig.
2-12-3)、他の研究分野を医療、医学に応用しようとする試みは本研究所のユニークな点と
いえる。
・ 他分野にまたがる学際的な研究プログラム(interdisciplinary research program)として、以
下の 3 つのテーマが紹介された。
 細胞膜の dynamic remodeling (cell biology-biophysics-structural biology-high
resolution imaging-mathematical modeling の融合)
 幾何学、機械的な手法による細胞機能の制御機構の解明
 正常組織とがん細胞の微小環境における細胞の communication
Fig.2-12-3 Labex の組織図
2) Department of Translational Research(Director: Sergio Roman Roman)
・ Institut Curie において、research 部門と hospital 部門を橋渡しする部門であり、2003 年に
設立された。研究所の 3 つの拠点である Paris、Orsay、St-Cloud においては、それぞれの
Translational Research の特徴を発揮している(例:Paris では、systemic cancer biology、
global care of patients を、Orsay では、radiation biology and innovation inradiotherapy を
特徴とする等々)。
83
・ 6 つ の platforms ( genomics 、 high-content screeening 、 protein assays ( RPPA ) 、
experimental radiotherapy、preclinical investigation laboratory)、6 つの team(FSHR and
Cancer、Translational Pediatrics、Response Rate in Breast Cancer、Triple Negative Breast
Cancer、Circulating Biomarkers、Uveal Melanoma)及び Immunotherapy 部門からなる。
・ Preclinical Investigation Laborotory では、10 年前より患者由来の mouse xenograft モデル
を作成しており、15 種以上のがん種において、200 以上の xenograft モデルの構築に成功
している。
・ Translational Research Program の例として以下が紹介された:
 triple negative breast cancers の治療標的の同定(製薬企業との共同開発)
 ブドウ膜黒色腫における candidate genes/pathway の同定、preclinical trials、(大学と
の共同開発)、clinical trials を含めたプログラム
3) Immunity and Cancer Unit (U932) (Director: Sebastian Amigorena)
・ Immunity and Cancer unit 内の Translational Research チームは新規の immunotherapy の
開発に従事している(Translational Research 部門の immunotherapy platform)。
・ Imunotherapy の translational research は応用研究から非臨床での検討を含んだ臨床研究
まで 3 つのプログラムによって構成されている。
 Program 1: 治療用抗体
 製薬企業と共同でのがん細胞の migration/adhesion に重要なタンパクを標的とした
新たなモノクローナル抗体の開発
 ファージディスプレイを用いた腫瘍における標的、治療抗体開発プラットフォーム。
2011 年に設立され、COPIO-AVISAN-ITMO-TS によって、部分的に資金提供され
ている。
 Program 2: 抗腫瘍ワクチン
 新規の免疫療法を確立するために独自の動物モデルの開発。ヒトの免疫系にヒト
のがん抗原を発現しているがんを有する動物モデルがヒトでの状況を再現するため
に開発されている。
 IGR-Curie DEX2:肺がん術後患者の治療のために、がんペプチドを付加した成熟
樹状細胞由来のエクソソームによるワクチンを用いた Phase2 が進行中である。
 Program 3: 腫瘍の微小環境
 抗がん剤治療反応前後での細胞集団、サイトカイン等を含んだがんの微小環境の
解析
 がん生検組織における免疫学的パラメーターに焦点を絞ったトランスクリプトーム解
析
 免疫学的応答に関連した遺伝子の DNA の構造的な解析
所
感:
細胞生物学、免疫学の優れた研究者が多数在籍している研究所である印象を持った。特にが
んに対する免疫の研究が盛んであり、がん免疫療法の translational research にも注力している。抗
体医薬、がんワクチン、細胞療法、サイトカインと様々な視点からがん免疫療法の研究を行ってい
84
る。また、生物学と物理学の融合といった非常にユニークな観点で学際的な研究(interdisciplinary
integrated aproach)プロジェクトを多数行っている点は興味深い。technology oriented な approach
によって、新規のがん治療法の開発を製薬企業、特にフランス国内を含めた欧州の製薬企業と共
同で長期にわたって良好かつ緊密な連携がとれている印象を持った。今回、時間の都合で訪問で
きなかったが、研究所の1施設として、NIKON Imaging Centre が設立され、画像解析、顕微鏡の
最新技術の提供、共同開発を行っていることもあり、日本の製薬企業との共同研究は受け入れや
すい環境であると感じられた。
(閌 康博)
受 領 資 料:
1. 説明資料:
1)
Institut Curie
2)
The continuum between basic research, translational research and care
2. 配布資料: Scientific Directory 2014
85
2-13.Novartis International AG
Novartis International AG
所
在
電
地 : CH-4002 Basel, Switzerland
話: +41 61 324 11 11
F
A
X: +41 61 324 80 01
H o m e p a g e: www.novartis.com
面 談 日 時: 2014 年 10 月 29 日(水) 9:00~11:00
面 談 場 所: 上記所在地
面
談
者: Luana Banu
Senior Manager, Country Strategic Support, International Public and
Government Affairs
Andrew Robert Pape Ph.D.
Head Strategy and Portfolio
Couzette Kleynhans
Head of International Public & Government Affairs
森 竜広
ノバルティス ファーマ株式会社 薬事・信頼性保証本部 開発薬事部 プロ
セス改善グループ グループマネージャー
Contact Person: Luana Banu
Senior Manager, Country Strategic Support, International Public and
Government Affairs
面 談 目 的:
以下の項目に関する調査・情報収集を行うこと。
・
Novartis の事業戦略
・
Novartis の研究開発戦略概要
・
がん免疫療法を中心とする Novartis のがん領域における研究開発戦略
説 明 内 容:
1. Novartis Institutes for BioMedical Research(NIBR)
・ 研究部門の Novartis Institutes for BioMedical Research(NIBR)の研究開発戦略の説明
を受けた。
・ NIBR は、ターゲットの探索からヒト臨床試験による POC(proof of concept)確認までを担当
している。
86
・ Pharmaceutical Division の Pharmaceutical Development Group が、Phase2b 以降の後期
開発段階から承認申請までを担当している。Pharmaceutical Development Group とは連携
もしており、大規模後期臨床試験からのフィードバックを受け、疾患メカニズムの理解に役
立てている。
・ 後期開発部門と販売部門から独立していることで、商業的機会ではなく、アンメットメディカ
ルニーズと疾患メカニズムだけを考慮した革新的な医薬品の研究開発に集中することがで
きる。
・ POC 獲得の判断については、NIBR や Pharmaceutical Development Group が一方的に行
うのではなく、例えば、がん領域に関しては、Oncology Business Unit が中心となって、
Project Board を設立し、多面的に議論し判断している。
・ NIBR は、6,000 人の研究員を擁し、米国マサチューセッツ州ケンブリッジの主要研究施設、
カリフォルニア州のゲノム研究施設、バーゼル、上海、シンガポールと、世界中に複数の研
究所を有している。
・ 同一の疾患領域を担当する研究グループが、上記の世界各地の複数の研究所に分散し
て所在しているが、世界的に連携して研究開発を行っている。
・ 世界的に連携した研究開発のみならず、各研究所の立地上の特徴を生かした研究開発
にも取り組んでいる。シンガポールでは、Neglected Diseases(顧みられない疾患)に対する
治療薬の研究開発を行っており、上海では、中国に患者の多い HCV に対する治療薬の
研究開発を行っている。
・ 外部連携については、社内リソースの無い部分に限定しているため、社内プロジェクトとの
バッティングは無い。University of Pennsylvania(Penn)と提携した CTL019 は、CD19 に特
異的なキメラ抗原受容体(CAR)を発現するベクターを自家 T 細胞に導入する、ex vivo 型
遺伝子治療の細胞療法プログラムである。CoStim Pharmaceuticals の買収により獲得した
低分子化合物は、がんに対する免疫抑制を制御する。これらは、これまで社内で有してい
なかった技術であり、非常に期待を寄せている。生体試料については、アカデミアと連携し、
入手している。
・ 疾患発症メカニズムを志向した研究開発を行っており、疾患発症メカニズムが明確な層別
化された患者層や希少疾患患者を対象とした小規模の臨床開発により、早期に高い成功
率で POC を確認し、その後、他の患者層や疾患発症メカニズムを共通とする他の適応症
へと拡大する戦略を執っている。
・ LDK378 は、ALK 陽性非小細胞性肺がんのクリゾチニブ抵抗性/不耐用患者を対象として
FDA より Breakthrough therapy 指定を受けて承認を取り、その後、クリゾチニブ治療を受け
ていない患者へも適応を広げるよう開発を進めている。
・ 抗 IL1β抗体の ACZ885 では、患者数の少ない疾患で承認を取り、疾患発症メカニズムと
して NALP3 経路を共通に持つ他の疾患へ適応拡大を進めていった。
2. CTL019
・ CTL019(旧称 CART-19)は、Penn の Perelman School of Medicine の Prof. Carl H. June,
M.D により開発された、患者から採取した自家 T 細胞に、抗 CD19 抗体抗原認識ドメインと
細胞内ドメインの CD3ζ鎖及び CD137(4-1BB)を結合させた CAR を発現するレンチウィ
87
ルスベクターを導入し、患者に投与する CAR 免疫療法技術に基づいている。
・ Novartis は、2012 年 8 月に、Penn と、がんに対する CAR 免疫療法に関して複数年に亘る
共同研究契約を締結し、共同研究から生じるすべての CAR 免疫治療薬と CTL019 に関す
る全世界的独占的ライセンス契約を獲得した。また、Novartis は、20M 米ドルを投資して、
CAR の探索・開発のための施設である CACT(Center of Advanced Cellular Therapies)を
Penn と共同で設立することとした。
・ CD19 は、非ホジキンリンパ腫や急性リンパ性白血病(ALL)、慢性リンパ性白血病(CLL)
などで高発現しているが、CD20 や CD22 よりも早期の pro B 細胞から成熟 B 細胞まで広く
発現する一方、幹細胞では発現しないことから、CD19 を白血病や悪性リンパ腫の治療標
的として採用している。
・ 直近に発表された臨床試験の結果では、再発・不応性の急性リンパ性白血病(ALL)に対
し完全寛解率 90%、最長で 2 年の寛解維持をもたらした。
3. Novartis の事業再編
・ 2014 年に、業界リーダーになれないと判断したワクチン部門を GSK に、動物医薬部門を
Lilly にそれぞれ売却し、OTC 部門を GSK との合弁会社とした。
・ 大規模な事業売却であったが、一方で、GSK のがん領域の資産を買収したことにより、会
社売上の全体については大きな変動はない。
4. 施設見学
・ Novartis Campus Basel 内を案内された。
・ 本施設には、従業員 7,500 人(内、研究員 2,500 人)が勤める。従業員の国籍は 100 カ国
以上から成る。
・ 優れた人材の獲得とともに、獲得した人材を維持することにも努力を払っており、その一環
として、職場となる研究施設は、研究者の創造性を刺激するような、著名な建築家による芸
術的な建物内に置かれ、また、各建物のロビーや研究所の敷地内に芸術的なモニュメント
を多数配置している。
・ 研究所内において、異なるプロジェクトやグループに属する研究者間の自発的なインター
ラクションを生み出すための工夫として、敷地内に自由にディスカッションができるように公
園のようなオープンスペースを多数有している。
所
感:
希少疾患や個別化医療に関して、疾患発症メカニズムにフォーカスすることで、早期 POC 獲得
や早期承認とその後のスムーズな適応拡大を両立させるスマートな戦略をとっていることが、非常
に印象的であった。
また、CAR 免疫療法については、本年度国外調査にて訪問した Cellectis とは異なり、自家細胞
を用いており、従来の off-the-shelf 型の医薬品ビジネスとは異なるビジネススキームを構築する必
要があり、この点についてどのようなアプローチをとるのか、今後の展開について注目していきた
い。
さらに、採用したタレントを引きとどめるために、より魅力的な職場環境を提供することを重要視し、
88
大きなコストをかけていることに非常に感銘を受けた。
(鈴木 規由)
受 領 資 料: なし
89
2-14.Actelion Pharmaceuticals Ltd
Actelion Pharmaceuticals Ltd
所
在
電
地 : Gewerbestrasse 16, CH-4123 Allschwil Switzerland
話: +41 61 565 65 65
F
A
X: +41 61 565 65 00
H o m e p a g e: www1.actelion.com/en/index.page?
面 談 日 時: 2014 年 10 月 29 日(水) 13:00~15:00
面 談 場 所: 上記所在地
面
談
者: Ravi Sodha, PhD, MBA
Senior Director, Business Development
Carina Spaans, PhD, MBA
Director, Business Development
Maurice Zultak, MD
Senior Director, Search and Evaluation Corporate Business Development
Youcef Fezoui, PhD
Senior Director, Alliance Management, Global Business Development
Nicholas Franco
Executive Vice President, Chief Business Development Officer
Contact Person: 板橋 一成
アクテオリオン ファーマシューティカルズ ジャパン 株式会社
顧問 コープレート&ビジネスデベロップメント担当
面 談 目 的:
以下の項目に関する調査・情報収集を行うこと。
・
Actelion の医薬品開発の取組み方針及び具体的戦略
・ 日本国内での活動状況
説 明 内 容:
1. 概要
1) Actelion の概要

Actelionは1997年にRoche出身研究者により設立された。設立4年後にRocheより導入した
Bosentan(Tracleer®)を米国・カナダで上市を成功させたのを皮切りに、肺動脈性肺高血圧
症適応を中心とするグローバル展開を進めることで急成長を実現させている。全従業員(約
2,500人)のうちの約30%がR&Dを担当しており、研究開発を重視した取組みを行うことで、
90
難治性疾患への創薬展開に力を入れている。

Actelionのカルチャーとしては革新性を重視した創薬展開を行うこととしており、Innovation、
Flexibility、Speedをキーワードとした取組みを実践している。特にActelionがビッグファーマ
に劣らない成長を遂げている強みとして、Speedを挙げており、新たな取組みに挑戦する上
で速やかなディシジョンを行うことを重要視している。

創薬研究を行う上では、Clinical Developmentからの知識や経験が非常に重要と捉えており、
アンメットメディカルニーズの発掘や臨床現場からの直接の情報を活用することで、新たな価
値の創造につなげることが可能となる。戦略としてはClinical Developmentにかかわる各部
門、領域を個別に取り扱うのではなく、これらを統合させることで幅広い疾患領域に関する情
報を得ることを可能にしている(Fig.2-14-1)。Drug Repositioningからのアプローチでの成功
事例もあるが、これらは臨床情報の活用に基づく場合が多い。ただし、Drug Repositioning
からのアプローチで革新的な治療薬が期待できるかはケースバイケースで運によるところもあ
り、特に注力すべきストラテジーとはしていない。
Fig.2-14-1 Actelionの臨床開発関連組織の枠組み(受領資料より)

これまでエンドセリン受容体、G タンパク共役受容体(GPCR)、アスパラギン酸プロテアーゼ、
イオンチャンネルの各分野を重点分野と位置付け、低分子創薬の強みを生かしながら、パ
イプラインを拡充してきている。

グローバルビッグファーマを含む他社との連携にも力を入れており、メルク(2003年)、ロシュ
91
(2006年)、GSK(2009年)等とは既に関係を構築済である。また、中小ベンチャーを中心と
した買収、導入も積極的に進めることで、自社製品を拡充し続けている。
2) これまでの実績と今後のVision
・ Actelionの製品は現在までに世界60以上の国・地域で販売されている。グローバル展開し
ている医薬品は原発性肺高血圧症(PAH)での適応を取得しているVELETRI、
TRACREER、VENTAVISの3製品がある。
・ これまでPAH治療薬での領域で強みを発揮してきており、Actelionの柱として位置づけられ
てきた。今後についてもPAH治療薬のフランチャイズ展開は進めていく一方、アンメットメディ
カルニーズが高い新たな治療領域への展開も進めていくことにしている。こうした戦略に基
づき、2013年には新たなPAH治療薬としてOPSUMITがFDA承認を取得したのに加え、
CEPTARISを買収することでT細胞リンパ腫(CTCL)治療薬VALCHLORをパイプラインに加
えることにも成功している。
・ 引続く開発パイプラインはFig.2-14-2に示したものが現在進行中である。PAHに加えアンメ
ットメディカルニーズの高い新たな疾患領域へ注力する戦略が順調に実を結びつつあり、さ
らなる事業の拡張、グローバル展開を見据えた取組みをスタートしている。
ACTELION'S FOCUS ON HIGH UNMET MEDICAL NEEDS
Phase
Compound
Indication
Study
Status
IV
Bosentan
Pediatric pulmonary arterial
FUTURE
Complete
IMPACT
Ongoing
hypertension
III
Cadazolid
Clostridium difficile
infection
III
Macitentan
Eisenmenger syndrome
MAESTRO
Ongoing
III
Selexipag
Pulmonary arterial
GRIPHON
Submissions
hypertension
II
Ponesimod
ongoing
Multiple sclerosis
Extension
Ongoing
study
II
Macitentan
CTEPH
MERIT
Ongoing
II
Macitentan
CpcPH
MELODY
Ongoing
I
Lucerastat
Lipid storage disorders
-
Phase II in
preperation
I
Macitentan
Glioblastoma
-
Ongoing
I
S1P1 modulator
Immunological disorders
-
Ongoing
Fig.2-14-2 Actelionが保有する開発パイプライン(Actelion のHPより)
・ 今後、外部連携活用により求めていきたい案件としては、後期ステージにある革新
的な創薬候補品である。現時点ではいまだスイスのローカルな製薬会社であるが、
92
こうした候補品を活用しながら、グローバルなビジネス展開を進めていくことを希
望している。
3) 日本国内での取組み
・ 日本でのビジネス展開については非常に重要視しており、Actelion Japanが2001年に設立さ
れている。Actelion Japanの従業員は現在255名おり日本での臨床開発及び販売に10年以
上取り組んできた。現在、トラクリア(肺動脈性肺高血圧症)、エポプロステノール(肺動脈性
肺高血圧症)、ブレーザベス(ニーマン・ピック病)の3製品を販売している。
・ 現在、既に日本新薬とはSelexipag(selective prostacyclin receptor agonist)、Macitentan
(endothelin receptor antagonist)での開発で連携を進めており、日本国内からの新たな製品
導入にも期待している段階である。
・ 今後は更に革新性が高く、特に後期臨床ステージにある導入案件を探しているために情報
ソースへのアプローチ方法を探っている。日本市場に高い関心を持っており、日本国内アカ
デミアとの連携についても取組みを更に強化していくことを希望している。
・ 日本の医薬を取り巻く状況は保守的であり、ビジネスを進める上での難しさがあるが、この状
況はActelionの設立当時の20年ほど前のスイスに似ている。Actelionはこうした状況下で挑
戦を重ねてきた会社であるので、日本でもチャンスがあると捉えている。
2. 施設見学

リサーチサイエンティストの案内で、研究施設見学を行った。最初に VTR で Actelion の概
要紹介を受けた後、HTS 関連施設を中心に説明された。

自社内で保有する化合物ライブラリーの規模は約 30 万化合物であり、独自性の高い新規
化合物を適宜組み入れつつも効率性を重視するために化合物数は 30 万程度で維持され
ていた。スクリーニングは独自で作製するフェノティピクスクリーニング系を含め、凡そオート
メーション化されており、迅速なデータ取得が可能なシステムが構築されていた。

得られたデータはすべてデータベース化されており、デスクトップ上で化合物構造と各アッ
セイで示された活性が紐付けされたデータにアクセス可能であるとのことだった。データ取
得から分析、判断までを迅速に実施可能とすることで少人数で効果的な創薬を進めること
のできる環境が整えられていた。

施設の拡張がこの数年で大規模に進められてきており、ビジネスセンターを中心にその周
囲にガラス張りの開放感のある研究棟が建てられていた。
所
感:
Actelionの研究所はバーゼル郊外にあり、開放的な環境の下で施設の拡張も進められていた。
化合物スクリーニングのための研究設備もオートメーション化され、化合物データベースも整備され
ており、高い効率性を意識した取組みを行っていた。
コンパクトでありながら順調な成長を実現させている理由としては、迅速な判断が可能な社内組織
体制を整えていることと、臨床開発に重きをおくことによりアンメットメディカルニーズの適確な把握が
寄与するところが大きいと考えられた。また、現段階ではいまだスイスのローカルな一企業にすぎな
いが、これからはグローバル展開をより強化するとのコメントもあり、自らの取組みに自信と誇りをもっ
93
て取り組んでいる点が印象的だった。
施設を訪問した当日は、学生の団体と見受けられる施設見学会も行われており、また会社概要を
説明するルートも整えられており、積極的に外に対して情報発信も行われているようであった。
(岩田 博司)
受 領 資 料:
1. 説明資料: REALIZING THE VALUE OF INNOVATION
参 考 資 料:
1. 特定非営利活動法人 PAH の会 http://www.pha-japan.ne.jp/
94
2-15.Innovative Medicines Initiative (IMI)
Innovative Medicines Initiative (IMI)
所
在
電
地 : Avenue de la Toison D’Or 56-60, B-1060, Brussels, Belgium
話: +32 2 221 81 81
H o m e p a g e: www.imi.europa.eu
面 談 日 時: 2014 年 10 月 30 日(木) 10:00~14:30
面 談 場 所: 上記所在地
面
談
者: Elisabetta Vaudano, DVM, PhD
Principal Scientific Manager
Magda Gunn
Scientific Project Manager
Angela Wittelsberger
Scientific Project Manager
Nathalie Seigneuret
Scientific Project Manager
Maria Teressa De Magistris
Scientific Project Manager
Fatiha Sadallah
Scientific Project Manager
Contact Person: Elisabetta Vaudano, DVM, PhD
Principal Scientific Manager
面 談 目 的:
以下の項目について調査・情報収集を行うこと。

IMI の組織体制及びプログラムの立ち上げと運営

IMI のこれまでの成果

IMI 2 の概要

12 個の個別プログラムの概況、これまでの経過、成果と今後の展望
説 明 内 容:
・ IMI に関しては平成 23 年度の国外調査 WG で EFPIA 本部を訪問時にその概要につい
て、また、平成 25 年度の研究資源委員会の調査においても EFPIA-Japan(欧州製薬団体
連合会)を訪問し、その後の進捗状況について、それぞれ情報収集を行った。
95
・ 今回は初めて、直接、IMI 本部を訪問し、IMI のこれまでの成果及び 2013 年に開始された
IMI 2 の概況について情報収集するとともに、がん、感染症、幹細胞技術、及び患者団体
支援に関する個別の共同研究プロジェクトの状況を各プロジェクトマネージャーより説明い
ただいた。
1. IMI のこれまでの状況
・ IMI は 2008 年に EU と EFPIA がそれぞれ 2.5B ユーロずつ出資(ただし、EFPIA は各参加
企業からの現物出資)することで立ち上がった官民共同プロジェクトである。これまで、EU
より 2B ユーロが投じられ、56 個のプログラムが開始されたが、参加した EFPIA 会員企業は
のべ 409 社であり、これに 650 のアカデミア、120 の中小サイズの企業、17 の行政関連機関、
25 の 患 者 団 体 と 6,000 名 を 超 す 研 究 者 ( い ず れ もの べ 数 ) が 行 動 を共 に した ( Fig .
2-15-1)。
Fig.2-15-1 IMI のこれまでの実績 (受領資料より)
・ EU から投じられた 2B ユーロの予算の配分に関しては、プログラムの種類別では感染症に
対する予算が最も多く、創薬関連、中枢疾患、代謝性疾患、薬剤安全性、幹細胞、がん、
と続いた。プログラムの指向性としては、情報ネットワークの構築、R&D 生産性の向上、ア
ン メ ッ ト メ デ ィ カ ル ニ ー ズ に 対 す る 革 新 的 ア プ ロ ー チ に 関 す る も の が 多 か っ た ( Fig .
2-15-2)。
96
Fig.2-15-2 投下された EU 予算の配分(受領資料より)
2. プログラムの立ち上げと運営
・ IMI の特徴あるプログラムの立ち上げの仕組みは Fig.2-15-3 に示されるが、順を追って説
明すると以下のようになる。
1) Topic Definition Phase
・ EFPIA 加盟会社で形成されるコンソーシアム(Indusry Consortium)は IMI の研究方針と年
間計画に基づき、連携のためのトピックを特定する。IMI 事務局は学術団体、医療機関、
中小企業、規制当局、患者団体から成る申請者コンソーシアムに対して、プロジェクトの提
案の募集(コール)を行う。
2) Stage-1(プロジェクトの募集)
・ アカデミア、臨床機関、学術団体、中小サイズの企業、患者団体等で形成される申請者コ
ンソーシアム(Applicant Consortium)はプロジェクト案を提出し応募する。独立の専門家に
よる評価、順位付けを受ける。
3) Stage-2
・ IMI は選ばれた申請者コンソーシアムにそのプロジェクト案での、EFPIA コンソーシアムとの
合流を促し、プロジェクトコンソーシアムが形成される。プロジェクトコンソーシアムはプロジェ
クト最終提案(Full Project Proposal)を作成し、独立の専門家と倫理委員会による評価を
受ける。
4) Grant Preparation Phase
・ プロジェクトコンソーシアムのメンバーは IMI と契約条件について交渉を行い。合意後、共
同研究及び助成金に関する契約(Grant Agreement)を締結し、プロジェクトが開始される。
97
Fig.2-15-3 個々のプログラムの立ち上げまでの流れ(受領資料より)
・ プログラムの立ち上げにおいては、最初の企業側からのプログラムの提案からプログラムの
開始まで 8~9 ヶ月のオーダーで進められている。また、開始されたプログラムの効率的な運
営には EFPIA 企業側のコーディネーターとアカデミア側のコーディネーターの協力が重要
とのことである。
・ 知財の取り扱いについては、Fig.2-15-4 に示すように、企業優先、プログラム参加者への
利益還元、情報の公開・普及、明確な代償に関する取り決め、知財へのアクセスの制限撤
去を基本理念にしており(Fig.2-15-4)、個々の案件の抱える事情に応じてフレキシブルに
対応することを原則としている。
98
Fig.2-15-4 IMI における知財取り扱いの原則 (受領資料より)
3. IMI のこれまでの成果
・ プログラムが成功したかどうかの判断材料としては、IMI のプログラムにより科学面の改善が
decision making にどれだけ貢献したか、例えば、以下のような進展があったかどうかを見て
いる。新しいモデルや評価系の開発を目的とするプロジェクトでは、新しい評価系と評価基
準が設定され、次いで、企業により実践されたかどうか、最終的には規制面のガイダンスへ
の反映がなされたかどうかを見るとしている(Fig.2-15-5)。
Fig.2-15-5 プログラムの成功不成功の判断基準(受領資料より)
・ また、IMI 各プログラムより公開された論文の質も評価基準になるが、Citation Index は
FNIH(Foundation for NIH)や Wellcome Trust のそれを上回っている(Fig.2-15-6)。
99
Fig.2-15-6 IMI の諸プログラムより出された論文の質(受領資料より)
・ 成功事例の個別例としては以下が挙げられる。
① Schizophrenia の臨床試験(67 試験)の統合データベースを構築した。
② 安全性:537 化合物の毒性データベースを構築した。
③ European Lead Factory:感染症の IMI プログラムの ENABLE と共同で数化合
物を前臨床段階まで推進した(Fig.2-15-7)。
Fig.2-15-7 Europian Lead Factory(ELF)と ENABLE の協働体制(受領資料より)
4. IMI 2
・ 2013 年にプログラムインプットが終了した IMI(IMI 1)の後継プロジェクトとして、IMI 2 が
2013 年より開始されている(Fig.2-15-8)。予算は IMI 1 と同レベルで、EU が 1.6B ユーロ、
100
EFPIA が 1.4B ユーロ、他産業が 0.2B ユーロをそれぞれ拠出する。
・ 個別化医療と医療の優先度(予防医療か治療か)に焦点を当て、ライフサイエンス以外の
セクターの参加も可能となっている。IMI 1 では対象外であった医療機器の開発も視野に
入ってくる。
・ 現在、開始されたプログラムは 2 つのみであるが、年内にあと 2 つ立ち上がり、さらには緊急
の課題として Evora 出血熱関係のプログラムも準備されているところである。
Fig.2-15-8 IMI 2 の概要(受領資料より)
5. 個別プログラムの紹介
・ 以下のプログラムについて個別に紹介を受けた。
 がん: ONCOTRACK、PREDECT、QUIC-CONCEPT、MARCAR
 感染症(耐性菌克服): ND4BB、COMBACTE、ENABLE、TRANSLOCATION
 感染症(結核): PREDICT-TB
 幹細胞研究: EBiSC、STEMBANCC
 患者団体支援: EUPATI
① ONCOTRACK
 2011 年に開始。EFPIA 会員 7 社、アカデミア 8 機関、中小サイズ企業 3 社が参画。
 システムバイオロジーによりがん領域での新規診断用、薬効予測用バイオマーカーを
探索する。
 100 例超の大腸がん患者由来の組織の多層オミックス解析データ及び患者組織を移
植した Xenograft モデルでの各種抗がん剤に対する感受性のデータを元に、in silico
のモデル(ModCell TM )を構築、新規バイオマーカー探索 及び薬効予測のツールとす
る。
② PREDECT
 2011 年に開始。EFPIA 会員 7 社、アカデミア 9 機関、中小サイズ企業 3 社が参画。
101
 がんの病態を反映した再現性と予測性を持つ新規な in vitro 及び in vivo 薬効評価系
あるいは創薬標的分子の検証系の構築を目指す。
 具体的には、3 次元培養系の最適化、トランスジェニックマウスの活用などを試みてい
る。
 モデル系での多層オミックス解析データをシステムバイオロジーからのアプローチで解
析することにより、in silico での創薬標的分子の妥当性検証にも挑戦する。
③ QUIC-CONCEPT
 2011 年に開始。EFPIA 会員 8 社、アカデミア 13 機関、中小サイズ企業 1 社、非営利
団体 1 団体が参画。
 がんの画像バイオマーカーを探索する。PET、MRI、CT 技術を駆使しがん細胞の増殖、
ネクローシス、アポトーシスを検出できる画像解析手法を確立する。
 現在は動物モデルでの検討を行っているが、2016 年に Phase1 臨床試験で使用される
事を目標としている。
④ MARCAR
 2010 年に開始。EFPIA 会員 5 社、アカデミア 6 機関、中小サイズ企業 1 社が参画。
 抗がん剤の non-genotoxic な発がん性を検出できるバイオマーカーを探索する。
 早期の発がん性予測により、無駄な動物実験を省略できるようにする。
 エピジェネシスや microRNA からのアプローチを進めている。
⑤ ND4BB
 薬剤耐性菌の脅威、欧州では年間 25,000 人が死亡、経済損失は 1.5B ユーロに達す
ると言われているが、新規な抗菌剤の開発が停滞、この 30 年間に 2 剤が承認された
のみである。この現状を鑑み、2011 年に EU では 12 の Action plan を設定、その一つ
に新規抗菌剤の開発が謳われている。
 これを受け、IMI では Discovery 段階から臨床開発段階まで各ステージでの新規抗菌
剤の研究開発の促進、強化を目指すプログラムを 7 つ立ち上げ、それらを統括するプ
ログラムとして ND4BB がある(Fig.2-15-9)。600M ユーロを超える EU 予算が拠出さ
れる。
 今回は、個々のプログラムのうち、COMBACTE、TRANSLOCATION 及び ENABLE
について紹介を受けた。
102
Fig.2-15-9 ND4BB の概要(受領資料より)
⑥ COMBACTE
 2013 年に開始。EFPIA 会員 3 社、アカデミア 29 機関、中小サイズ企業 1 社が参画。
 抗菌剤の効率的開発のため、34 ヶ国 294 病院が参加するネットワーク(CLIN-Net)の
構築により、情報の共有、ネットワークを活用した臨床試験の実施、臨床開発の効率
化を目指す。
 情報の共有に関しては、前臨床、臨床、両方のデータの共有、前臨床試験データの
PK/PD からの解釈、自社の臨床試験データの他社試験のデザインへの活用などが目
標とされている。
 MD14893(坑 S.aureus モノクローナル抗体)についてのネットワーク活用のモデルケー
スとしての臨床試験を既に開始している。
⑦ TRANSLOCATION
 2013 年に開始。EFPIA 会員 5 社、アカデミア 14 機関、中小サイズ企業 5 社が参画。
 多剤耐性グラム陰性菌の膜透過性を評価する系の構築を目指す。
⑧ ENABLE
 2014 年に開始。EFPIA 会員 4 社、アカデミア 18 機関、中小サイズ企業 10 社が参加。
 官 民 共 同 で 創 薬 シ ー ズ を 探 索 す る プ ロ グ ラ ム で あ り 、 別 の IMI プ ロ グ ラ ム で あ る
European Lead Factory での HTS のヒット化合物を最適化して臨床試験に入れる化合
物を創出する。
103
 グラム陰性菌に対する抗菌剤のリード化合物を 3 化合物、臨床開発候補を 2 化合物保
有しており、少なくとも 1 化合物は前臨床から Phase1 を目指せると考えている。
⑨ PREDICT-TB
 2012 年に開始。EFPIA 会員 3 社、アカデミア 13 機関、中小サイズ企業 2 社、患者団
体 1 団体が参加。
 併用療法で結核の克服を目指す。
 米 国 、Critical Path Institute の結 核 治 療 法 開 発 に関 しての官 民 プロジェクトである
CPTR プロジェクトと提携関係にあり、情報の共有を進めている。
⑩ EBiSC
 2014 年に開始。EFPIA 会員 6 社、アカデミア 8 機関、中小サイズ企業 6 社、公的機関
等 6 機関が参加。
 iPS 細胞の収集、検査、研究者への配布に当たる中央機関の設立を 2015 年に目指し
ている。
 2,500 人の患者由来 iPS 細胞を欧州内研究機関から収集し、2016 年までにカタログ化
を行う。
⑪ STEMBANCC
 2012 年に開始。EFPIA 会員 11 社、アカデミアと中小サイズ企業 23 機関/社が参加。
 iPS 細胞の創薬利用、薬効評価と安全性評価への活用を促進する。
 患者由来 iPS 細胞の疾患メカニズム研究への活用:500 名の患者から iPS 細胞株
1,500 株樹立を目指す。対象疾患はアルツハイマー、パーキンソン等中枢・神経系疾
患と糖尿病に絞り込んでいる
 iPS 細胞の作製法については、日本のディナベック株式会社のセンダイウィルスベクタ
ーによる遺伝子導入法に統一している。
 iPS 細胞の供給体制の確立を目指し、欧州以外の研究機関や企業にも細胞を提供す
る。
⑫ EUPATI(European Patients’Academy on Therapeutic Innovation)
 2012 年に開始。EFPIA 会員 18 社、アカデミアと公共機関 8 機関と 4 つの患者団体が
参加。
 患者や患者団体を新薬の研究開発のすべてのステージで取り込むため、患者への疾
患や新薬開発についての教育や情報提供を行う。
 患者への教育として、3 段階の手法を用意しており、上位レベルから、Patients Expert
Training Course、 Educational Tool Box、 Internet Library である。
所
感:
ヒューマンサイエンス振興財団の調査活動において、過去にも IMI の官民共同連携活動を取り
上げてきたが、何れも EFPIA に対しての情報収集であったので深い情報までは触れることができな
104
かった。今回、IMI 本部を訪れる機会をいただき、現場の状況を知るプロジェクトマネージャーの皆
様から、直接に話を聞くことができ、IMI の諸プロジェクトが順調に展開していること、更にはその要
因を知ることができた。
2008 年に IMI が設立され、2010 年に最初のプログラムが立ち上がり、その後、5 年程度の期間
に 50 以上の官民連携プロジェクトが立ち上がったと言うのは、日本の官民連携の実情を考えるとた
だ、驚くのみである。
その要因を考えてみると、以下の事実、一部推測もあるが、が挙げられる
・ 最初に予算ありきで、立ち上げ後 5 年程度の資金提供が確保されていること
・ EFPIA 企業は資金の提供ではなく、現物支給、労務や知財等の提供だったので、参加へ
のハードルが下がったのではないか。
・ プログラム立ち上げへ向けての手続きが簡素化されている。EFPIA 側からのテーマ提案か
らプログラム開始まで 1 年以内というスピード感は手続きや仕組みのデザインがうまくできて
いるからと思われる。
・ プログラムの目標設定が官民双方に受け入れやすいものになっている。
・ 知財の管理は最初から細部にわたる取り決めをするのではなく、基本的な原則の下、各プ
ログラムの状況に応じてフレキシブルに対応している点。
以上に加えて、IMI 本部のプログラム管理のノウハウと、企業側とアカデミア側から1名ずつ選出
されるコーディネーターの協力関係が運営上大きな役割を果たしていると思われる。また、もう一つ
の重要なポイントとしては、一つのプログラムに EFPIA 会員企業が最低 5 社程度は参加し、 同種
企業 間の pre-copetitive な連 携となっている点がある。創薬の困 難 性が増 す中、何れの企業も
pre-competitive な連携は必要と感じているものの、その仕組み作りに相当な労力が必要となる。
この課題を、EU と EFPIA、その間にできた IMI が資金付きで解決してくれたとも言える。
複数の企業が参画する官民連携は、米国でも AMP(Accerelating Medicines Partnership)はじ
めいろいろなものが走っている。残念ながら、本年 4 月より発足する日本医療研究開発機構にはそ
のような構想は全く見当たらないが、将来の戦略、民間企業や医療関連業界を活性化する戦略と
して取り上げられることを期待する。
(加藤 正夫)
受 領 資 料:
1. 説明資料
1)
The Innovative Medicines Initiative: The European engine for pharmaceutical innovation
2)
Project Overview: PreDiCT-TB
3)
Project Overview: NEW DRUGS FOR BAD BUGS, ND4BB PROGRAMME
4)
Project Overview: MARCAR
5)
Project Overview: MARCAR
6)
OncoTrack, Methods for systematic next generation oncology biomarker development
7)
Novel complex models for cancer target validation
8)
Project Overview: QuIC ConCePT
9)
EBiSC: The European Bank for induced pluripotent Stem Cells
10) StemBANCC: Stem cells for Biological Assays of Novel drugs and prediCtive toxiCology
105
11) Patient Outreach
12) EUPATI: EUROPEAN Patients’ Academy on Therapeutic Innovation
2. 配布資料
13) IMI JU SCIENTIFIC PRIORITIES FOR 2014
14) The right prevention and treatment for the right patient at the right time
15) Innovative Medicines Initiative Highlights May 2014
16) Innovative Medicines Initiative 2: Europe’s fast track to better medicines
17) 1st Call for Proposals 2014 Innovative Medicines Initiative 2
18) IMI Intellectual Property Policy
19) New Drugs 4 Bad Bugs(ND4BB)
20) The Innovative Medicines Initiative: a Public Private Partnership Model to Foster Drug
Discovery
21) Public-private partnerships as driving forces in the quest for innovative medicines
参 考 資 料:
1) HS レポート#75・平成 23 年度ヒューマンサイエンス振興財団国外調査 WG 報告書
2) HS レポート#84・平成 25 年度ヒューマンサイエンス振興財団研究資源委員会報告書
「産学官連携による創薬 -アカデミア発シーズへの創薬支援戦略-」
106
2-16.Cancer Research UK (CRUK)・Cancer Research Technology (CRT)
Cancer Research UK (CRUK)・Cancer Research Technology (CRT)
所
在
電
地 : Angel Building, 407 St John Street, London EC1V 4AD, UK
話: +44 20 7242 0200 (CRUK), +44 20 3469 6300 (CRT),
F
A
X: +44 20 3469 6400 (CRUK)
H o m e p a g e: www.cancerresearchuk.org/
面 談 日 時: 2014 年 10 月 31 日(金) 9:00~11:00
面 談 場 所: 上記所在地
面
談
者: Phil L’Huillier, PhD MBA
Director, Business Management, Cancer Research Technology Ltd.
Dr Ola Zaid
New Projects Manager, Clinical Partnerships Team, Centre For Drug
Development, Cancer Research UK
Chris Baker Phd
Busines Development Manager, Strategic Partnerships, Cancer Research UK
Contact Person: Andrea Schievella, Ph.D.
Business Manager, CRT Inc.
Siobhan Kennedy
Executive Assistant to Dr Phil L'Huillier, Cancer Research Technology Ltd.
面 談 目 的:
以下の項目に関する調査・情報収集を行うこと。
・
CRUK におけるがんの臨床と研究全般 CRT の機能及び企業との連携活動
説 明 内 容:

3 人の説明者によって、CRUK と CRT の関係と機能分担、臨床試験における企業との連携、
及び、CRUK での層別化医療について紹介がなされた。

以下、各項目の説明内容を示す。
1. Cancer Research UK と Cancer Research Technology LTD の概要の説明
1) Cancer Research UK(CRUK)の概要
・ CRUK は世界レベルの研究を提供しうる英国内の広範な研究者ネットワークを支援してい
る。
・ CRUK は世界最大規模のがん研究の慈善団体であり、予算のほとんどが国民の寄付から
107
成り立っている。年間研究予算は 350M 英ポンド(約 620 億円)を超え、英国内の研究所、
臨床試験ユニット、病院、大学への資金提供を行っている。
・ CRUK のゴールの1つとして、英国におけるがん患者の生存率を今後 20 年間で、健常人
の 3/4 まで向上しうることである。
・ がんの基本的な理解、がんの予防、早期診断に関する研究、アンメットニーズの高いがん、
治療法の革新、予防医学等に対して、優先的に今後、投資を行っていくことを考えてい
る。
2) Cancer Research Technology(CRT)
・ CRT は CRUK のがんに特化した技術開発と商業開発の関係事業を担う部門である。125
人のスタッフ(内 70 人が drug discovery unit に所属)からなり、ロンドンに本部、米国ボスト
ンに US 支部がある。2014 年は CRUK に 17M 英ポンドを資金提供することができ、今後 4
年間でも 55M 英ポンドの寄付ができるものと予想している。
・ CRT の知財の供給源となる研究所、大学を Fig.2-16-1 に示す。CRT は英国内の多くの研
究所、大学へ資金提供し、共同研究を行っている。
・ アカデミアの薬剤開発ユニット等への投資や CRT Discovery Laboratories(CRTDL)におい
て、低分子化合物、バイオ製剤を含めた 80 以上の新薬開発プログラムが進行中である。
・ Center for Drug Development(CDD)は企業あるいはアカデミア由来の創薬シーズの前臨
床、早期臨床開発プログラムに対して、資金提供を行い、主体的にプロジェクトを運営、デ
ータマネージメント、試験の実行を行っている。これまでに前立腺がんに対する Zytiga、脳
腫瘍に対する Temodar、肺がんに対する Alimta 等の CDD による早期開発の実績がある。
Fig.2-16-1 CRT が投資を行い、知的財産の基礎となる研究所、大学(受領資料より)
108
・ CRT の operational model として、CRTDL が Academia、Commercial Partner とのギャップを
埋める新しいモデルを提示、AstraZeneca、FORMA、TEVA 等とアライアンスを締結してい
る。このモデルの利点として、CRUK が資金提供している世界クラスの研究所、研究者との
提携、新規の薬剤標的の確認とその開発における CRTDL の専門的技術と知識、企業の
薬剤研究と開発の能力といったアカデミアと企業の最も優れた点を結びつけることが可能と
なる。
2. Clinical Development Partnerships
・ 本セッションでは、CRUK 組織内の CDD の新薬の発見と臨床開発における企業との連携
の手法及び活動を中心に説明がなされた。
・ CDD は 1982 年に設立され、企業、アカデミア由来の創薬シーズの非臨床、早期臨床開発
プログラムに対し、資金提供、マネージメント、プログラムの遂行を独自で行う。
・ CDD は柔軟なビジネスモデルを提供し、企業の有するポートフォリオ(prioritized あるいは
deprioritised の決定を含めて)のプロジェクトに対して、共同であたる。
・ これまでに 120 以上の候補物質の Phase1/2 を行ってきた実績があり、6 つの product がそ
の後上市された。(Temodar/temozolomide、Zytiga/abiraterone 等)
・ 候補物質の種類として、低分子化合物が 68%、生物学的製剤が 32%(その内、抗体医薬
が 60%、ワクチンが 20%)である。臨床試験の種類としては、First in Man が 61%と非常に
割合が高い。
・ Clinical Development Partnerships(CDP)の実際の例として、現在までに 10 件の企業と
CDP との契約が締結され、現在 4 件が協議中である。CDP の現在のパイプラインを Fig.
2-16-2 に示す。
Fig.2-16-2 CDD の現在のパイプライン(受領資料より)
109
・ 薬剤の併用に関する Alliance についての試みが説明された。CDD は現在開発中にある企
業発の薬剤の早期ステージにおける併用試験に注力している。AtraZeneca、Eli Lilly、
Astex、MedImmune 等と共同で行っており、企業の壁を越えた併用試験の検討、優れた併
用を同定するための非臨床でのプロファイル検討の拡大も将来的に検討する予定である。
・ この CDP のモデルは、企業に対して、臨床開発の薬剤パイプラインを拡大する機会、知的
財産の権利、初期の臨床データを企業が保持することができる革新的なビジネスモデルを
提供する。CRUK は世界最大の独立したがん研究機関であり、抗がん剤開発で実績のあ
る専門集団であり、企業と連携して、患者により多くの抗がん剤を提供する機会を望んでい
る。
3. CRUK Stratified Medicine Programme 2
・ 3 番目のセッションでは、CRUK の層別化医療計画について、過去の経験(SMP1)を踏ま
え、現在進行中である CRUK Stratified Medicine Programme 2(SMP2)についての説明が
なされた。
・ 2011 年から 2013 年にわたり、英国内を中心とした約 9,000 人の患者に対して遺伝学的検
査が行われたが、検体の質が不良であったり、ばらつきが多かったこともあり、良好な結果、
結論を得ることができなかった(SMP1)。
・ SMP2 においては、生存率が依然として、低いままである肺がんに焦点を当てることとした。
EGFR や ALK といったような特定のバイオマーカーによって、選択された少数の患者を対
象とする今までの層別化治療の方法(routine stratified therapy)ではなく、Fig.2-16-3 に示
すように複数のバイオマーカーによって、複数の薬剤へのアプローチを可能とするプログラ
ム(CRUK Stratified Therapy)が計画されている。
Fig.2-16-3 CRUK 層別化医療プログラムによる患者層別化の方法(受領資料より)
110
・ 本プログラムは以前の SMP1 で確立された分子遺伝学的スクリーニングの系を用い、適切
な患者に適切な場所で適切な薬剤を提供することを目的とした英国民全体を網羅した臨
床試験プログラムである。本プログラムは新薬追加、新規の技術、新規の適応症、併用療
法を可能としうる。
・ 製薬企業、アカデミアとの共同モデルを用いたプログラムであり(Fig.2-16-4)、現在、20 M
英ポンド以上の総投資額で、AstraZeneca や Pfizer 発の 14 種類以上の薬剤を用いて層別
化医療の構築を進める予定である。
・ 分子遺伝的なプレスクリーニング、次世代シークエンシングパネルの提供者として、
illumina がパートナーに選ばれ、多数の遺伝子変異(single nucleotide variants、insertion
& deletion、copy number variations、DNA rearrangements)の検査を行う。
Fig.2-16-4 CRUK 層別化医療プログラムによる協業モデル(受領資料より)
・ 本プログラムにおいては、バイオマーカーを用いて選択する多数の arm、cohort に対して、
複数の薬剤を提供する(Fig.2-16-5)。また、すべての治験施設がすべての arm に参加す
ることを可能たらしめている。
・ SMP2 は UK 内の層別化医療の開発方法を変え、肺がん患者により多くの治療選択肢を
提供するであろう。本プログラムは CRUK の ECMC(Experimental Cancer Medicine Centre)
全ネットワークとそれを越えた国家的な試みとなる可能性がある。
・ 分子遺伝学的プレスクリーニングの系を共同で利用するモデルは患者、スポンサー、製薬
企業にとって、有益となるであろう。
111
Fig.2-16-5 CRUK SMP2 におけるバイオマーカーでの選択による治療法の選択
(受領資料より)
所
感:
CRUK が世界最大規模のがん研究の慈善団体であること、その寄付金の額の巨大さ(年間 350
M 英ポンド:約 620 億円)に驚かされた。英国の寄付文化に対する考え方(あるいは税の控除制度
等)が日本とは大きく異なることを感じた。資金的に独立していることもあり、CRUK の抗がん剤の早
期開発における initiative、独自性は際立っており、企業の新薬ポートフォリオの prioritization、対
象疾患の選択、再投資に至るまで深く関与、強い影響力を発揮し、かつ多くの成功事例があること
は強調してよい。英国、欧州の企業との連携が活発であるが、日本企業との共同研究も最近では
行っていることからも、新規の抗がん剤のターゲットのバリデーションに関して、世界トップレベルの
専門的技術、知識を有する CRUK との連携は日本の製薬企業にとっても大変魅力的に映った。
(閌 康博)
受 領 資 料:
1. 説明資料:
1)
INTRODUCTION TO: -CANCER RESEARCH UK AND-CANCER RESEARCH
TECHNOLOGY LTD
2)
Clinical Development Partnerships, Releasing the untapped potential in cancer drug
development
3)
CANCER RESEARCH UK STRATIFIED MEDICINE PROGRAMME 2
112
2-17.UK Trade & Investment (UKTI)
UK Trade & Investment (UKTI)
所
在
電
地 : 1 Victoria Street, London, SW1H 0ET, UK
話: +44 (0)20 7215 8000
F
A
X: +44 (0)20 7215 2471
H o m e p a g e: www.ukti.gov.uk/
面 談 日 時: 2014 年 10 月 31 日(金) 12:00~13:00
面 談 場 所: 上記所在地
面
談
者: Dr Mark Treherne
Chief Executive, Life Sciences Organisation
Contact Person: 武井 尚子
駐日英国大使館 貿易・対英投資部 ライフサイエンス 対英投資上級担
当者
面 談 目 的:
以下の項目に関する調査・情報収集を行うこと。
・ UKTI のライフサイエンス産業政策への取組み
・ 特に、平成 25 年度国外調査訪問時からの進捗
説 明 内 容:
1.
Minister for Life Sciences
・ 2014 年 5 月に新しく Minister for Life Sciences が置かれた。初代は、George Freeman 氏
が、Department for Business, Innovation and Skills(BIS) と Department of Health との連
名で任命された。
・ 同氏は、国会議員となる前は、ライフサイエンス関連のベンチャーキャピタル及びトランスレ
ーショナルリサーチ専門のコンサルタントとしての経歴を持ち、ライフサイエンスの技術 面、
経済面の双方に明るい。
・ 本ポストを設けた目的は、基礎研究と国民医療サービスを結び付け、優れた科学技術を患
者ベネフィットへと橋渡しすることである。
・ 同ポストと同時に新しく設置される部門においては、医療経済に強い人材を集めており、創
造的な方法で、革新的の医薬品の研究開発コストの担い手の問題や、高齢化に伴う医療
費増大の問題に取り組もうとしている。
113
2. 2014 年のライフサイエンス関連の英国予算
・ 2014 年のライフサイエンス関連の BIS 予算は 4.6B 英ポンドであり、ライフサイエンス関連の
基礎科学領域の学術研究に支出される。Department of Health(NHS)予算は、128B 英ポ
ンドであり、国民医療サービスに対して支出される。
・ 他の国家予算が削減される中でライフサイエンス関連予算は、維持され、微増している。
3. UKTI Life Science Organization
・ UKTI Life Science Organization としては、これまで対外輸出促進と英国内投資を分けた
組織編成をしてきたが、両組織を統合し、両方向を同時に関連させて支援することとした。
・ UKTI Life Science Organization のスタッフは、英国内のロンドン本拠地に 10 人程度がおり、
それ以外の場所では他の産業分野を兼任して担当している場合があるが、英国内各地に
50~100 人が散らばっており、また、英国外の大使館等の 107 カ所に 1 名から数名のスタッ
フがいる。
4. 英国ライフサイエンス業界動向
・ ここ最近は、ライフサイエンスのテクノロジー分野としては、Big Data と Genomics に注力して
いる。Big Data については、ライフサイエンス領域においては、NHS にある 6,200 万人分の
健常人と患者データの有効活用を考えている。Genomics については、NHS 加入者 10 万
人分の全ゲノム解析を行い、個別化医療の促進による医療コスト削減を目指している。
・ UK Biobank については、NHS の電子データや NHS に寄付された生体試料との連携が行
われている。
・ The Francis Crick Institute が、政府、Wellcome Trust、Cancer Research UK 等の資金によ
り、ユーロスターのロンドン側ターミナルのロンドン・セントパンクラス駅近隣に、建設中であ
る。ノーベル受賞者のがん研究者 Sir Paul Nurse が初代所長を務める。がんを中心とする
疾患に関する基礎研究を行う。
・ これまで様々な団体で公開されていたライフサイエンス関連企業のデータベースを統合し、
来年早々に公開する予定。約 5,000 社の情報を閲覧できる。
5. 医学研究寄付財団
・ 医学研究寄付財団について、まず英米の違いとして、英国の大規模財団は、歴史が古く、
例えば、Cancer Research UK は、1900 年代発祥の The Imperial Cancer Research Fund と
The Cancer Research Campaign(CRC)が合併したものである。また、Wellcome Trust は、
Sir Henry Wellcome の創業製薬企業(Burroughs Wellcome & Co)の株式売却資産に基
づいて 1936 年に設立された。一方、米国大規模財団は、新しく、また、新興富裕層の資産
を基 に した も のが 多 く 、 例 え ば 、 IT 起 業 家 の 資 産 に 由 来 す る Bill & Melinda Gates
Foundation、ハリウッドスターの資産に由来する The Michael J. Fox Foundation、化粧品企
業オーナーの資産に由来する Alzheimer’s Drug Discovery Foundation 等がある。
・ 英国においては寄付に対する税制優遇があり、それだけではなく、寄付財団は各地にチャ
リティショップ(リサイクルショップ的なもので、中古品売却 益を寄付)も有し、寄付活動に創
114
意工夫を行っている。
・ また、最近の英米の傾向として、寄付の対象が、基礎研究や大学から、医薬品探索研究
やトランスレーショナルリサーチを行う疾患財団等のより直接的に治療に繋がる対象へとシ
フトしている。
・ 英国の疾患財団としては、大規模な例として Cancer Research UK が有名であり、小規模な
例としては、Alzheimer’s Research UK が有名である。Alzheimer’s Research UK は、小規
模であること、疾患修飾薬がいまだないこと、人々が公にしたがらない等の理由で、寄付に
苦労しており、疾患に関する国際サミットの開催により国際的な資金調達を目指している。
6. 再生細胞医療領域
・ 再生細胞医療領域については、日本は iPS 細胞のノーベル賞を共同受賞したことからも、
競争相手というよりは提携相手と考えている。東京エレクトロンが細胞処理に関する共同研
究のために英国に進出した。Cell Therapy Catapult が中心となって、規制整備、対外誘致、
研究開発資金支援等の様々な活動を行っている。
・ UKTI としては、規制づくりで先行している日本との連携について前向きに捉えており、英
国内の各方面に働きかけていきたいと考えている。
所
感:
本年度の訪問では、最近の英国ライフサイエンス業界の動向について、質疑応答形式でヒアリ
ングを行った。
UKTI にはここ数年連続して訪問しているが、英国におけるライフサイエンス分野の先進的な取
組みの紹介がある一方で、毎年のように、日本には余り知られていない、英国におけるライフサイエ
ンス分野の古くからの取組み(UK Biobank、CRUK 等)についての発見があり、非常に有益に感じ
る。
特に本年度は、イノベーションのコスト負担を誰が担うのか?という観点において、英国における
Minister for Life Sciences による新たな施策と、疾患財団による旧来からの取組みという、事例を
知ることができた。近年は、医薬品の研究開発コストが増大する中で、個別化医療や希少疾患等
の大きな市場を期待できない治療薬の開発が求められている。その一方で、ここ最近は好調である
が、株式投資を軸とするベンチャーキャピタル投資は、景気や株式市場の動向に多大な影響を受
け、本質的に好不調の波を持つため、イノベーションの資金ソースを漫然とベンチャーキャピタル投
資のみに依存していくことは、ベンチャーキャピタル投資が不調の際の資金ソースの枯渇という潜
在的なリスクを伴っている。このような状況に対して、英国政府や疾患財団の取組みは非常に示唆
に富むものであり、今後とも英国の動きに注目していきたい。
(鈴木 規由)
受 領 資 料: なし
115
2-18. Medicines and Healthcare Products Regulatory Agency (MHRA)
Medicines and Healthcare products Regulatory Agency (MHRA)
所
在
電
地 : 151 Buckingham Palace Road, Victoria, London, SW1W 9SZ, UK
話: +44 20 3080 6000
F
A
X: +44 20 3118 9803
H o m e p a g e:
www.gov.uk/government/organisations/medicines-and-healthcare-products-regulatory-agency
面 談 日 時 : 2014 年 10 月 31 日(金) 14:00~15:00
面 談 場 所: 上記所在地に同じ
面
談
者: Krishna Prasad, MB, BS, MD, FRCP
Clinical Assesor/Cardiologist
Julian Bonnerjea, PhD
Manager, Biological and Biotechnology Unit, Licensing Division
Dr Elaine Godfrey
Deputy-Manager - CTU, Licensing
Keith McDonald, MSc MRPharmS
Group Manager, Licensing Division
Contact Person: Ida De Souza
Executive Assistant - Product Lifestyle Assessment Team 1
Licensing Division
面 談 目 的:
以下の項目に関する調査・情報収集を行うこと。
1. Regulation of Cancer Therapy, especially immune-therapies and oncolytic virus therapy in
UK
2. Regulation of Breakthrough Therapy and Regeneric Medicine in UK
3. Regulation of rare-disease therapeutics
4. Regulation of therapeutic drugs for Duchenne Muscular Dystrophy
5. 抗菌薬開発の推進策に関する取り組み
説 明 内 容:
・ がん免疫療法、Duchenne Muscular Dystrophy(DMD)治療薬の英国での規制及び耐性
菌に対する抗生物質開発促進策について話を伺った。
・ oncolytic virus を含めたがん免疫治療薬などに対して英国に特有な規制はなく、それらの
審査は EU での中央審査方式に従い、Committee for Advanced Therapies(CAT)により行
116
われるが、高額で時間もかかる。迅速な審査を望む場合は、EU のメンバー国で同意されな
いと思われる点について MHRA では Scientific advice を受けるようアドバイスしている。
・ EU では oncolytic virus がいくつか Phase3 に入っているが、oncolytic virus も含めてがん
免疫治療薬の承認品目はまだない。
・ Rare disease、遺伝子治療や再生医療の治験においてプラセボとの比較は困難であり、少
数の治験数で議論する上では疾患ごとの natural history の利用が重要と考えている。
・ 英国では、がん、筋ジストロフィーや痴呆症など国民の生命を脅かす疾病や rare disease へ
の画期的新薬の開発に力を入れており、これら疾病に対する最先端医薬品を患者に早く
届けるための医薬品早期アクセス制度(Early Access to Medicines Scheme:EAMS)を独
自にスタートさせ、2014 年 4 月 7 日にその申請受付を開始した。
・ EAMS の仕組みは、MHRA が Phase2 臨床データなどの初期の科学的評価に従ってベネ
フィットがリスクを上回ると判断した場合、承認前でも医師が速やかに患者と連携しながら
Promising and Innovative Medicines(PIM)指定薬として使用できるようになっている。この
仕組みは FDA の Breakthrough therapy 指定の基準とは異なっている。
・ 2014 年 10 月時点で PIM 指定を受けているのはがん細胞治療薬など 2 品目である。
・ DMD 治療薬に対する審査は、他の遺伝子治療薬と同じ扱いをしている。DMD はオーファ
ン対象であり、10 年間の優先販売権などの特典が与えられる。
・ 耐性菌に対する抗生物質の開発促進のための米国の GAIN 法のようなものはないが、英
国でも耐性菌の問題は重要視しており、インセンティブを含めたガイダンスを来年出す予
定である。
・ 欧米の規制当局間では Transatlantic Task Force と呼ぶ Initiative があり、製品特有な課題
やその科学的助言、ガイドラインについて定期的な会合を持っている。
補足説明(MHRA 概要:HP より)
・ MHRA はイギリス保健省配下のエージェンシーで、医薬品及び医療機器の認可及び安全
性に責務を負っている。
・ MHRA は 2003 年に医薬品規制庁(Medicines Control Agency:MCA)及び医療機器庁
(Medical Devices Agency:MDA)を併合して発足し、2013 年には国立生物製品基準規制
機構(National Institute for Biological Standards and Control:NIBSC)を併合し現在の組
織となった。MHRA は 900 人以上のスタッフを抱えている。
・ MHRA は多くの専門家助言委員会を持っており、医薬品委員会(Commission on Human
Medicine)や英国薬局方委員会(British Pharmacopoeia Commission)などがある。
・ 医 薬 品 委 員 会 は 、 MHRA に 設 置 さ れ た 委 員 会 で あ る 。 2005 年 に 医 薬 品 委 員 会
(Medicines Commission)及び医薬品安全委員会(Committee on Safety of Medicines)を
併合して誕生した。 委員会の責務には、英国政府の大臣に対しヒト向け医療製品に関す
る規制の諮問、安全・品質・効果性についての助言、医薬品副作用情報の調査及び収集
が含まれる。
・ EU に お ける 医 薬 品 の 承 認 審 査 は Centralised Procedure ( 中 央 審 査 手 続 ) と Mutual
Recognition Procedure ( EU 各 国 間 の 相 互 承 認 手 続 ) や Decentralised ( National )
Procedure(各国個別の審査手続)で行われる。
117
所
感:
英国は、今回の調査テーマであるがん免疫療法などの先端医療については EU における中央
審査方式で審査する一方、EAMS のような英国独自の医薬品早期アクセス制度をスタートさせて
独自性を打ち出そうとする意思が強く感じられた。我が国が 2014 年に薬事法の一部を改正してス
タートさせた再生医療等製品の実用化に対応した条件・期限付き承認制度は、英国の
EarlyAccess 制度や EAMS と類似の制度であり、先行するこれら制度の今後の運用の動向に注視
し、我が国の先端医薬品の審査の参考にしていくことを期待したい。
MHRA は、他の先進国の規制当局同様、新規医療技術や新規カテゴリーの治療薬に対し、手
探りで慎重に対応を検討・実践している。
(井口 富夫)
受
領
資
料: なし
118
第 3 章 調査結果の総括と提言
3-1.調査結果の総括
各々の機関・企業より入手した個別情報の詳細は、第2章に示したとおりであるが、本年度の調査
テーマ・具体的目的等を踏まえ、調査結果を以下の3点から総括した。
1)がん免疫療法・ウィルス療法の進展
がん免疫療法は、幾つかに分類されているが、何れの療法においても、これまでに十分な臨床的
成果は得られていなかった。しかし、今回の調査により、分子レベルでの作用機作解明や新たな併
用療法の検討等が進み、多くの治療薬・治療法が開発されつつある状況であることが分かった。治
療開始前に遺伝子レベルでの的確な診断が必要となるため、限られた施設でしか治療を実施でき
ないケースが少なくないこと、非常にコスト高であること、有効性に関する個人差が大きいこと等、課
題・問題が残ってはいるが、多くの研究機関、企業が精力的に取り組んでおり、次々に新規の有用
な知見も得られていることから、将来的には、がんの治療法の新たな柱となる可能性も高まってい
る。
今回の調査では、がんウィルス療法においても、大きな進展が確認できた。当初、本療法に関し
ては、患者体内の正常細胞へのウィルス感染や異常増殖等の安全性面での問題が憂慮されていた
が、今回紹介を受けた臨床開発中の各種ウィルスは、何れも安全性での問題は認められていない。
近く、AmgenのT-Vecが、本療法として欧米で始めて承認される可能性もあり、今後、作用機作の更
なる解明や、各々の開発中のウィルスの優劣判断・使い分け等の課題を克服して、様々なウィルス
の開発が急速に進展することも考えられるため、その展開を注視して行く必要がある。
2)国家レベルでの治療薬開発推進体制の見直し
欧米においては、10年程前より、生活習慣病を対象とした大型新薬の上市実現を目指した従来
型の創薬モデルでは、ビジネスとしての将来性に限界があるとの認識に立ち、オープンイノベーショ
ンを始めとする積極的な社外研究機関・企業との連携・提携により、従来とは異なる新たなタイプの
治療薬開発に取り組んでいる。このような取り組みの典型的な事例の1つが、希少疾患治療薬への
取組みである。しかし、希少疾患を対象とした新薬開発では、各国における各種支援・優遇制度の
理解・活用、政府・規制当局との密な関係の構築と連携、患者会との連携・交流等、一般的疾患と
は異なる検討・対応が必要となるケースも少なくない。また、遺伝子診断等で層別化されたがん患者
に対する最適な治療薬の開発やその適正使用等においても、企業は多くの研究・医療機関等との
提携・協力が必要である。今回の調査で、希少疾患治療薬開発に関し、業界団体であるBIO
(Biotechnology Industry Organization)が積極的にFDAに働きかけていたり、患者団体との連携・交
流を図っていること、PPMD(Parent Project Muscle Dystrophy)のように、自ら特定の希少疾患治療
薬のガイダンス作成を試みる等の幅広い活動を展開している患者団体があること、DFCI
(Dana-Farber Cancer Institute)やCRUK(Cancer Research UK)のように、莫大な慈善基金をもとに、
一般市民・患者の視点に立った独自のがん研究・治療薬開発・適正使用を推進している機関があ
ること等が明らかとなった。
119
3)得意分野・技術への選択と集中
多くの先進国における薬剤費削減の動きや新薬承認基準の厳格化、企業の研究開発パイプライ
ンの枯渇化等により、創薬型企業の経営・研究開発環境は世界的規模で厳しさを増している。この
ような状況下で、より経済的・効率的に、より成功確率の高い創薬を目指さざるを得ない創薬型企業
にとって、自社の強み・特徴を活かした創薬を実現するため、「選択と集中」の徹底は非常に重要と
考えられる。今回の調査において、大企業においても、Novartisががん領域での治療薬創出に注力
していること、Amgenが新種のBiologics新薬開発やBiologics製造技術・ノウハウをもとにしたバイオ
シミラービジネスを積極的に拡充しようとしていることが分かった。また、「選択と集中」が当然と思わ
れるバイオベンチャーにおいても、低分子医薬品の研究開発に全社員の30%を配分している
Actelion等の事例に触れることができ、自社の得意分野・技術に絞り込んだ創薬や新たなビジネス
展開を精力的に進めていることが伺われた。
3-2.提言
上述のとおり、我々は、今回の調査によって、欧米各国の行政・規制機関、公的研究機関、患
者団体、業界団体、製薬企業、バイオテク企業等より様々な最新・有用情報を入手することができ
た。また、訪問した各組織における先進的な取組み、明確な将来展望や方針等に触れ、大いに触
発させられた。
上記状況のもと、本報告書の最後に我が国の行政・規制機関、製薬・バイオテク企業、大学・研
究機関が今後も持続的に発展し、世界の中でのプレゼンスを維持・向上することを願い、国外調査
班として以下のとおり提言する。
提言1
がんウィルス療法でのリーディングカントリーを目指して
がんウィルス療法は、当初、生きた遺伝子組み換えウィルスを用いるということから、患者体内の正
常細胞へのウィルス感染・異常増殖、遺伝子組み換えウィルスの野生化・悪性化等の安全性面での
問題が不安視されていた。しかし、今回の調査によって、本療法の開発に取り組んでいる欧米企業
では、何れも、これまでの臨床試験で安全性での問題は確認されていないことから、もはや大きな問
題とは捉えておらず、今後の開発にも自信を持っていることが分かった。また、どの国においても、が
んウィルス療法に関する規制が十分に整備されているわけではないことも明らかとなった。
我が国では、マスコミ等が本治療法は安全性に関する不安がある旨の記事を掲載したり、行政府
からカルタヘナ法に基づく使用指定を得ることに多大な時間を要していること等、以前は、国全体に
やや慎重な風潮が伺われた。しかし、現在、複数の大学・企業が本療法の開発に取り組んでおり、
中には非常に順調に開発が進んでいるケースもあるため、製薬企業、アカデミア、政府関係者が一
体となって本治療法開発の推進に取り組めば、日本が世界の規制をリードするチャンスも十分にあ
ると思われる。特に重要なのは、ウィルスをどこでどのように生産するかという製造面での課題である
ため、関係機関が連携して、速やかにGMP生産体制の構築に向けた検討を開始することを期待し
たい。
120
提言 2
がん免疫療法への取組みの強化
大きな期待が寄せられていたにも拘らず、がん免疫療法は、これまで期待通りの臨床的有用性
を示せなかった。しかし、今回の調査で、分子レベルでの詳細な作用機作解明や化学療法剤 との
併用療法の検討等が急速に進展し、一気に多くの問題が解決されて、今後、大きく発展して行くこ
とが予想される状況であることが分かった。
我が国は、がん免疫療法の分野では、これまでの取組みは十分な成果を示すには至らず、欧米
諸国に遅れをとっている状況と言わざるを得ない。しかし、2014 年 11 月に施行された改正薬事法
(再生医療等製品新法)を基盤に、日本における同分野の治験実施・促進体制を整備し、日本国
内での連携のみならず、海外の製薬企業、バイオテク企業と日本企業との連携を魅力あるものとし
たり、iPS 細胞由来 T 細胞等の日本の得意技術を活かしたアプローチに焦点を当てる等により、十
分に挽回可能であると考えられる。なお、医療現場への円滑な橋渡しや現実的な規制制度の構築
を実現するには、治験やメディカルニーズ*を熟知している専門臨床医の意見を積極的に取り入れ
ることが肝要である。
提言 3
製薬企業が生き残るための「選択と集中」の徹底
前述のとおり、今回訪問した欧米企業においては、想像以上に明確な方針のもと、自社の強み・
特徴を活かした創薬を実現するため、「選択と集中」を徹底していた。一方、我が国の製薬企業は、
総じて、いまだに幅広い分野・領域での事業展開を続けているところが少なくなく、強み・特徴が見
え難い。また、重点化している疾患領域を短期的に変更する等の傾向も見て取れる。欧米先進国
での薬剤費削減の動きや新薬承認基準の厳格化、患者の層別化・個別化の進展等により、創薬
型製薬企業の経営・研究開発環境は世界的規模で厳しさを増しており、より経済的・効率的で、成
功確率の高い創薬を目指さざるを得ない状況となっていることは間違いない。規模が比較的小さく、
資金面でも余裕があるわけではない我が国の製薬企業が、ボーダーレス化した国際医薬品市場で
生き残るためには、欧米大手製薬企業と真っ向から勝負するのではなく、世界でも通用する自らの
得意分野・技術は何かを真剣に考え、ブレずに、一貫性を持って、真の「選択と集中」を徹底する
ことが必要である。また、我が国の規制当局・行政府は、我が国の強み・特徴を活かした新たな治
療法・治療薬の開発を支援・推進するための施策を講じるべきであり、前述の薬事法改正で、新規
分野での治療法・治療薬開発に対する特別措置を法制化した際と同様の対応をより積極的に実
施するとともに、前競争的連携やコンソーシアム活動等を通じ、我が国のアカデミアシーズの事業
化や企業への橋渡し等を一層強化・整備するべきである。
121
提言 4
我が国固有の国家レベルでの新たな治療法・治療薬開発推進体制の再構築
欧米製薬企業・バイオテク企業の多くは、創薬標的に対するHTSから始まるクラッシックな創薬で、
これまでのような新薬創出は難しいと考えている。また、このような認識のもと、よりイノベーティブな創
薬アプローチに迅速に着手できるよう、研究部門のマーケティング・開発部門からの分離、下部組織
への大幅な権限委譲、等を進めるとともに、細胞療法による疾患治療や組織・細胞の機能再生、エ
ピゲノム機能解析に基づく細胞機能制御、コンピューターサイエンスを駆使した医薬品候補物質の
選択・評価、パーソナルゲノミクスの進展を見越した予防医療への取組み等、従来の創薬の概念に
は収まらない新たな治療法・治療薬の開発に着手している。このような動きを支えているのが、国家
レベルでの新たな治療法・治療薬開発推進の仕組みであり、オープンイノベーション、コンソーシア
ムでの前競争的連携等に代表されるこの仕組みは、確実にプレゼンスを増している。また、これらの
活動には、国からのグラントや各種慈善財団・患者団体からの支援金等が提供されており、国家的
な理解・支援が既に形成されている。
我が国においても、、オープンイノベーションを始めとする産学連携が急速に進展しており、近年、
包括提携等の大型案件も報道されているが、産学連携から期待通りの成果が得られているとは言い
難く、見直し・改善の必要がある。創薬分野で産学連携を成功させるためには、企業と提携アカデミ
ア間の円滑な意思疎通、情報・意見交換のためのインターフェースが整備され、常に両サイドにとっ
て機能的である必要がある。しかしながら、欧米と異なって人的資源の流動性が低い我が国では、
産業界とアカデミアの間の相互理解が不十分で、大型の産学連携を開始したにも関わらず、製薬
企業のニーズをアカデミアが理解できていないケース、アカデミアの知識・経験を製薬企業が活用で
きていないケースが散見されており、製薬企業のオープンイノベーション公募サイトにおいても、募集
する会社側と応募するアカデミア側の間で認識の違いが少なくない。
このような問題を解決するため、企業は、特定のアカデミアとの包括的提携を行って、相互理解の
醸成を図ったり、アカデミアでは、著名大学を中心とした地域クラスターでの企業との連携強化を図
ったり、自前での創薬実施基盤の構築等が行われている。さらに、政府においても、日本医療研究
開発機構(AMED)の設立、アカデミアシーズの事業化推進制度の充実、医薬基盤研を中心とした
包括的支援組織の設立等が進められている。しかし、これらの方策では、前述の抜本的な問題解決
には至らず、即効性も期待できない。
我が国において、産学連携を成功させるキーは「より深い双方向での相互理解に基づく、needs
oriented collaborationの実現」であり、これを実現するには、これまでのアカデミアから企業への一歩
通行のオープンイノベーションではなく、企業とアカデミアが双方向で経験・情報・技術・ノウハウを提
供し合い、一体となって、イノベーションに取り組む体制の構築・運営が必要であると考える。具体的
には、以下のような方策の検討・実践を強く要望する。
① 日本版NIHと期待されるAMEDの設立が決定したが、当該新組織では、政府系グラントのマネ
ージメントのみならず、医薬医療創薬分野の基礎から応用・事業化までの全体を俯瞰し、長期
的かつ多角的戦略を立てる機能が必要である。このような機能を十分に果たし、総合的な組織
構築・運営を実現するには、製薬企業での研究開発の経験が豊富で、ビジネスマインドを持ち、
各種関連機関との折衝力も有する優れた人材を実務トップに据える等の思い切った施策の検
討を望む。
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② 同じ製薬企業であっても、個々の方針・戦略等によって、アカデミアにどのステージまでの開発
を求めるかは異なるが、製薬企業のニーズとアカデミアのシーズの間に大きなギャップが存在し
ているケースは少なくない。我が国において、このギャップを埋めることができるのは公的機関で
あり、AMEDによるアカデミアの啓発・先導機能の発揮に期待したい。また、創薬支援ネットワー
クは、現在、創薬インフラ整備や知財活用を偏重しており、取組み全体にメディカルニーズ*の
視点が欠如しているとの見方もあるので、この点における機能改善・強化に期待したい。
③ がん治療においては、もはや層別化・個別化の進展は避けられず、患者のゲノム情報やがん細
胞中での遺伝的な変異を診断した後、個々の患者に適した治療法を選択するという選別が今
後も進むことは間違いない。また、患者個々の病状に応じ、より多くの選択肢からより適切な治
療法を選択するという流れも確実になりつつある。我が国においても、FIMM(Institute for
Molecular Medicine Finland)やCRUKで行われていたような、個別のCDx開発ではなく、国全
体の個別化医療推進のためのより総合的ゲノム・遺伝子情報活用の取組みを進めるべきであり、
AMED中心に、速やかな実行計画の検討・策定とその実現を期待したい。
④ 我が国では、各セクター内での連携(製薬企業:HS財団、製薬協等、バイオ企業:JBA、大学
発バイオベンチャー協会等)、大学病院:医学系大学産学連携ネットワーク協議会等、アカデミ
ア:創薬支援ネットワーク等)は進んでおり、企業と大学の包括的単独連携も盛んである。しかし、
欧州で5年以上の実績があり、研究成果も高く評価されているIMI(Innovative Medicines
Initiative)での取組みのような、ライフサイエンスに関連した多くの組織が多面的に連携し、業
界共通の課題に取り組む試みは我が国では見られていないため、ライフサイエンスにおけるイノ
ベーション創出を加速することを意図し、同様の取組みの具体化を進める必要がある。
*メディカルニーズ:
臨床現場の医師や患者の視点から見て充足されるべき、新規の治療法、医療技
術や治療薬
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平成 26 年度(2014 年度)
国外調査報告書
がん等の難治性疾患の革新的治療法開発の新たな潮流を探る
発
発
行
日: 平成 27 年 3 月 10 日
行: 公益財団法人 ヒューマンサイエンス振興財団
〒101-0032
東京都千代田区岩本町 2-11-1
ハーブ神田ビル
電話 03(5823)0361/FAX 03(5823)0363
(財団事務局担当 加藤 正夫)
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