BCMニュース 2010年度 No.4 「BCM 訓練の効果と評価方法」

No.10-022
2010.7.15
BCM ニュース<2010.No4>
BCM 訓練の効果と評価方法
BCP(事業継続計画)の策定後、事業継続マネジメントサイクルに従い、実効性を高めるための訓
練を実施したり、実施を検討したりする企業等が増えてきている。昨年度の BCM ニュース(No5:8
月 28 日発行)において、
「効果的な訓練に向けての計画」と題し、「訓練を効果的な内容にするために
は、目的の設定を行い、それに基づいて訓練対象と訓練方法を検討することが肝要である」ことを解
説し、訓練の実施ステップや、訓練手法についていくつか取り上げた。
本稿では、緊急時を想定した訓練の効果について改めて述べるとともに、訓練結果を今後に活かす
ために、実施した訓練の内容についてどのように評価すべきかに焦点を当て、解説することとする。
1.訓練の効果
せっかく策定した BCP が実際の緊急時に役に立たなくては困るため、書かれている内容に実効性
があるのかどうか、および内容に不備や不足がないかどうかを確認するプロセスは不可欠である。
その手段として効果的なのが訓練である。BCP 策定時に机上で検討した行動手順がうまくいくのか、
また新たに追加すべき手順はないか等について、災害発生時の状況を疑似体験し、実際に体を動か
して確認するのである。
訓練を実施することによる効果としては、上記のほか、以下も見込める。
① 策定文書の理解と定着
「BCP の内容の検証」を訓練のテーマとする場合、参加者は、事前に BCP の内容について
熟読するなどして相応の準備を行う。また、訓練を通じて BCP に記載してあることへの理解が
進み、定着を図ることができる。
② 緊急時における判断能力、対応能力の向上
策定した文書の内容に関することだけでなく、災害発生時におけるとっさの判断、対応能力
を向上させることに役立つ。
上記効果を念頭におき、「BCP の習熟度合いの確認とともに不備、不足を洗い出す」あるいは「被
害状況など各情報の収集、整理・分析、伝達・開示が適切に行えるかを検証する」、「災害発生時に
想定される各種突発事象への対応力を強化する」といった目的を設定して訓練を企画・実行してい
く。
ところで、せっかく訓練を企画・実行するのであれば、訓練結果を適切に評価し、今後の改善に
結び付けていくための準備にも企画の段階から考慮しておくべきである。すなわち、訓練中の参加
者のどのような動きに注目し、どのように評価するかについてあらかじめ検証ポイントを決めてお
くことで、効率よく結果分析を行うことができる。弊社が手掛けてきた BCM 訓練での経験を踏ま
え、訓練の評価ポイントについて以下に示すこととする。なお、訓練の手法にはシナリオブライン
ド形式(参加者に事前にシナリオを開示せず、訓練開始とともに逐次状況を付与し、その対応を求
める形式)によるシミュレーション型の訓練のほか、シナリオ読み合わせ型の訓練、クイズ・ワー
クショップ型訓練などがあるが、ここでは大規模かつ本格的な演習形式であるシナリオブラインド
訓練を対象とした評価方法を紹介する。その他の形式の訓練にこれを適用する場合は、必要部分を
適宜取捨選択されたい。
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2.訓練の評価ポイント
BCM訓練の評価には様々なアプローチがあろうが、ここでは、訓練の評価事項を大きく「情報
の取扱(収集/整理・分析/伝達・開示)」
、「(情報の取扱以外に関する)役割の遂行」、
「付与され
た状況への対応」の 3 つに分類し、その内容を説明する。
(1)情報の取扱
緊急事態発生時には、会社内の人的・物的被害状況、会社を取り巻く状況、あるいは社内各部門
からの連絡など各種さまざまな情報が錯綜することが想定される。したがってこれら情報をいかに
適切に処理していくかは、どの会社においても共通の検討テーマである。そこで、訓練時における
このような情報の取扱を「収集」
、「整理・分析」、
「伝達・開示」の各観点に分け、それぞれ評価す
ることは意義あるものと考えられる。
「情報の取扱」にかかる各観点の評価ポイントは以下のとおりである。
(情報の収集)
着目点
内容
積極性
情報収集に関して積極性が見られること
網羅性
各担当部門が、所管業務に関連して収集すべき情報をもれなく収集しているこ
と
効率性
(ツール類等を活用し)効率よく情報収集が図られていること
迅速性
必要な情報を速やかに収集していること
連携
必要に応じ他部門との連携が図られていること
上記評価ポイントのうち、例えば「積極性」に関する評価としては、自ら早め早めに情報収集を
実施していれば高い評価であるが、他部門や訓練のコーディネーター等に促されて行動するのでは
低い評価となる。
(情報の整理・分析)
着目点
内容
的確性
収集した情報に関する整理・分析の結果において、漏れなくその内容が正確に
反映されていること、及び必要な情報のみが対象となっていること
効率性
収集した情報に関する整理・分析についての手法に効率的な要素が見られるこ
と
迅速性
収集した情報に関する整理・分析(フォームへの記載、分析に必要な議論も含
む)に要する時間が適正(迅速)であること
上記評価ポイントのうち、例えば「的確性」に関する評価としては、BCP で定められた情報が収
集できており、情報の内容を見て危険性や業務への影響度等を分析できていれば高い評価であるが、
必要な情報とそうでない情報の判別をせず、すべての情報について整理・分析を試みようとしてい
るのであれば低い評価となる(緊急時においては、整理・分析すべき情報に優先度がつくはずであ
る)。
(情報の伝達・開示)
着目点
内容
適時性
必要な情報を適時に伝達・開示できていること
的確性
伝達・開示する情報は、その内容が的確であること
明瞭性
必要な情報を、簡潔・明瞭に伝達・開示できていること
上記評価ポイントのうち、例えば「適時性」に関する評価としては、速報として伝達・開示すべ
き情報と、それ以外の情報を区分し、適切なタイミングで社内関係者に伝達、および社外関係者(の
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役を担う訓練参加者)に開示していれば高い評価であるが、関係者より促されてしまうような場面
が見られた場合は低い評価となる。
(2)
(情報の取扱以外に関する)役割の遂行
緊急事態に対応する各部門が、それぞれ決められた役割を遂行しているかどうかの評価は必須で
ある。ただし、情報の取扱に関しては上記(1)において評価することとし、それ以外の役割の遂
行に関する事項をここでの対象とする。
「役割の遂行」にかかる評価ポイントは以下のとおりである。
着目点
内容
積極性
BCP で記載されていることを、自ら能動的に行動できていること
的確性
役割遂行に向けた実施事項を順序良く確実にこなしていること
迅速性
きびきびとスピード感を持って業務を遂行していること
網羅性
BCP で記載されている実施事項を、抜け漏れなく遂行できていること
連携
自らの役割遂行のために、他部門からの必要な協力を得ることができているこ
と。また、他部門の役割遂行のために、自ら協力できていること
上記評価ポイントのうち、例えば「迅速性」に関する評価としては、業務が遅延なく迅速に遂行
されていれば高い評価であるが、明らかに業務処理のスピードが遅く、業務が滞るようなことがあ
れば低い評価となる。
(3)付与された状況への対応
事前に決められた役割を決められたとおりに遂行することも重要であるが、予期していない事象
が発生した場合への対応も評価の対象として加えるべきである。シナリオブラインド形式の訓練で
は、企画の段階において BCP 等で明示的には決められていない事項を洗い出し、あえてその事項に
関する対応を問うことがある。いわば状況判断力や応用力を問うものである。
「付与された状況への対応」にかかる評価ポイントは以下のとおりである。
着目点
内容
積極性
予期せぬ状況が付与された場合においても、積極的に課題解決への行動を見せて
いること
的確性
予期せぬ状況が付与された場合においても、課題解決への的確な判断や行動を見
せていること
迅速性
予期せぬ状況が付与された場合においても、課題解決に向けて迅速に行動してい
ること
網羅性
予期せぬ状況が付与された場合においても、全ての課題に対して解決へ向けた取
り組みを行っていること
連携
予期せぬ状況が付与された場合において、他部門との情報共有や協力体制を積極
的に進めて、課題解決に取り組むこと
上記評価ポイントのうち、例えば「網羅性」に関する評価としては、与えられた状況に対して優
先順位を付け、優先度の高いものから順次解決を図り、優先度の低いものまで全てに取り組んでい
れば高い評価であるが、対応漏れが生じ、特に、重要性の高い事象へ対応できていなければ低い評
価となる。
※ 上記各「着目点」とその「内容」に関して、弊社では例示しているもの以外にもそれぞれ評価
例を設定しているが、ここでは省略する。
3.訓練の評価にかかる留意点
ここまで訓練の評価ポイントについて解説してきたが、賢明な読者は「評価のための観察者」が
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独立して必要なことにお気づきになったのではないかと思う。特にシミュレーション型の訓練では、
訓練の対象者が、自らさまざまな対応を行いつつ、同時に訓練の様子を精緻に観察するのは不可能
である。そこで専門の観察担当者を置かなければならないが、適切な評価を行うために、どの部門
が、どのような対応をしなければならないかを熟知していること、あるいは訓練参加者による突発
的な事象への対応が、客観的に見て適切であったかどうかを判定することが求められる。社内にお
いてこれらの要件を満たす人物が配置できればよいが、そうでない場合、観察役を専門のコンサル
タントに依頼するなどの代替手段の検討が必要となる。
4.まとめ
本稿では、訓練の評価方法についてスポットを当て、評価例や評価にかかる留意点について取り
上げた。但し、訓練を評価する目的は、点数を付けることにあるのではなく、現状を適切に把握し、
改善点を見出すところにある。結果が思わしくなかったとしても、そこで落胆するのではなく、進
化に向けたよいきっかけと捉え、明らかになった課題に計画的に取り組んでいくことが重要である。
また、結果が良好であったならば、次のステップとしてさらに難易度の高い訓練にチャレンジす
ることにより、対応力の一層の強化や、底上げを図るよう取り組んでいただきたい。
以上
株式会社インターリスク総研
上席コンサルタント 吉田 利秀
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トについての調査研究およびコンサルティングに関する専門会社です。
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コンサルティング第二部
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