けが、 やけど、手術 などの 傷跡はきれいに治りましたか? ∼その傷跡、ケロイド・肥厚性瘢痕かもしれません∼ 【監修】日本医科大学 形成外科 大学院教授 小川 令 先生 医療機関名 傷を受けたとき、傷が順調に治らないとき、傷跡を少しでも きれいに治すためにこの冊子をご覧ください。 提供: RZK070031HH 2015年3月作成 傷 跡 と は? 傷跡の治り方 自然に治った傷跡 傷は、治るために炎症が生じます。まず、赤い未熟な傷跡になり、その後 けがややけど、手術により受けた皮膚の傷は、完全に元通りにはなりません 炎症が消失し、成熟した肌色に近い傷跡となっていきます。 が、通常6ヵ月∼1年程度で目立たなくなり、傷跡になります。 自然に治った しかしながら、傷が治る過程において、体質(全身的因子)や過剰に傷を 傷跡は、赤みや盛り上がりがなく、表面は肌色に近く、かゆみや痛みも 動かす、 感染が生じたなどの要因 (局所的因子) が加わると、 「肥厚性瘢痕」 や 消失します。 「ケロイド」 といった炎症が普通よりも長く続く病的な傷跡が生じてしま います。 すり傷の傷跡 肥厚性瘢痕は2∼5年で成熟した傷跡になる傾向がありますが、さらに 炎症が強いケロイドは自然には治りにくいとされています。 受傷後6ヵ月 その後1年 全身的因子・局所的因子 ケロイド 肥厚性瘢痕 傷 未熟な傷跡 成熟した傷跡 時間経過 【参考】市岡 滋 編:創傷のすべてーキズをもつすべての人のためにー,345, 克誠堂出版,2012 1 2 傷跡の異常には 「ケロイド」 や 「肥厚性瘢痕」があります ケロイド・肥厚性瘢痕とは できやすい部分と原因 ケロイド・肥厚性瘢痕は、 けが、 やけど、 手術などの傷の部分が赤みをおび、 ケロイドは、胸(にきび・手術)、肩(にきび・BCG予防接種)、腹(手術)、 盛り上がる皮膚の病気です。 耳(ピアス)、あご(にきび) にできやすく、特に、胸はにきびからできたケロ イドの発生率が高いことが示されています。一方で、けがややけどによる 肥厚性瘢痕は、 くびや肘・膝などの動かす箇所にできやすいことが知られ ケロイド 肥厚性瘢痕 ています。 にきびからできたケロイドの発生率 12.1% ● 強い炎症が皮膚で続く ● 弱い炎症が皮膚で続く ● かゆみや痛みが強い ● かゆみや痛みは軽い ● もともとの傷の範囲を越え て、赤みや盛り上がりが周囲 に広がる ● もともとの傷の範囲でのみ 赤みや盛り上がりが生じる ● 時間と共に自然に治ることが 多い ● 時間が経っても自然に治る ことが少ない 26.9% 48.9% 4.8% 2.5% 1.9% 1.7% 【提供】日本医科大学 形成外科 大学院教授 小川 令 先生 けが、 やけど、手術などを受けた部分が このような状態になったら、 早めに医師に相談しましょう! 多くは健康保険を適用して治療することが可能です。 【提供】日本医科大学 形成外科 大学院教授 小川 令 先生 3 4 ケロイド・肥 厚性 瘢 痕は病 気? ケロイドの治療は、例えるならば火事の消火作業です。火事の状態(ケロ 原 因 イドの大きさや炎症の強さ) によって、 種々の治療法を使い分ける必要があ ります。大火事の際に、漫然とじょうろで水をかけたり、バケツで水をかけ ケロイド・肥厚性瘢痕は、傷が治るときに感染や血行不良などがあったり、 たりするだけの治療は、効果が少なく、このような場合はブルドーザーで 傷跡の安静が保てなかったりしたときに、傷に炎症が続くことによって生じ 燃えている火の原因を除去することや、放水車で強力に火を消してしまう ます。さらに、体質や、高血圧・ホルモンなどの影響が加わることにより、 ことが重要です。 炎症が長く続きます。 その結果、体がずっと傷を治そうとするため、①コラーゲン (膠原線維)が 繰り返される 伸展刺激 過剰に作られて盛り上がる、②血管が過剰に作られて赤くなる、③神経 = 線維が過剰に増えてかゆみや痛みが生じるなどがみられます。 火に油を注ぐ状態 表皮 血管 真皮 コラーゲン (膠原線維) 汗腺 内服薬 テープ固定 ジェルシート 手術 油腺 神経線維 毛包 皮下脂肪組織 ① コラーゲンの増生 ② 血管の増生 ③ 神経線維の増生 盛り上がり 赤み レーザー 副腎皮質ホルモン剤 (ステロイド) 放射線 かゆみや痛み 【提供】日本医科大学 形成外科 大学院教授 小川 令 先生 5 小川 令:創傷 5(2):56, 2014 6 ケロイド・肥 厚性 瘢 痕の治 療 法 内服薬 副 腎 皮 質ホルモン剤(ステロイド) 内服薬は、 かゆみや痛みなどの自覚症状を軽減したり、 赤みや盛り上がりの ステロイドには、 注射やテープ、 塗り薬があります。 注射は麻酔薬や、 周囲の 悪化を抑えたりする効果があります。効果は、服用後1∼2ヵ月で徐々に やわらかい皮膚から細い針を使って行えば、それほど痛いものではありま あらわれるので、医師の指示通りに継続して服用することが大切です。 せん。 また、自宅で毎日ステロイドテープを貼ることによって、注射をしな くてもより早く良 い 状 態となります。炎 症 が 引 いて、肌 色に近 い 成 熟 した傷跡になれば治療は終了します。しかし、途中で治療をやめてしまうと 再発する可能性が高くなります。 肩のケロイドに対する ステロイド注射・テープによる治療 治療前 治療後2年 内服薬を継続して服用することにより、 かゆみや痛みなどの自覚症状が軽減され、 赤みや盛り上がりも 目立たなくなっていく可能性があります。 7 8 ケロイド・肥 厚性 瘢 痕の治 療 法 手術および術後放射線治療 手術は、大きなケロイドに対して行います。再発の可能性が高い場合には、 小 川 先 生からのメッセージ 術後放射線治療も行います。放射線治療はケロイドの再発を抑え、適切な 線量で照射すれば、皮膚がんのリスクを減らすことができる可能性があり ます。 ケロイド・肥厚性瘢痕は、 見た目の悪さだけでなく、 ときに 眠れないくらいの痛みやかゆみ、引きつれる拘縮感を 胸部手術後のケロイドに対する手術 および術後放射線治療 呈し、大変な苦痛を伴う不快なものです。しかしながら、 命にかかわる病気ではないので、いまだに多くの病院では 術前 術後2年 「これは体質なので、治せません」 と説明されてしまうこと があります。 一方で、ケロイド・肥厚性瘢痕への理解はここ10年で 劇的に深まり、治療可能な疾患となりました。ケロイド・ 肥厚性瘢痕の多くは、健康保険の適用となりますので、 お悩みの患者さんは、ぜひケロイド・肥厚性瘢痕をしっ かりと診てくれる形 成 外 科や 皮 膚 科 の 先 生にご 相 談 いただきたいと思います。 9 10 けが、 やけど、手術 などの 傷跡はきれいに治りましたか? ∼その傷跡、ケロイド・肥厚性瘢痕かもしれません∼ 【監修】日本医科大学 形成外科 大学院教授 小川 令 先生 医療機関名 傷を受けたとき、傷が順調に治らないとき、傷跡を少しでも きれいに治すためにこの冊子をご覧ください。 提供: RZK070031HH 2015年3月作成
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