「南仏プロヴァンスの12か月」 ピーター・メイル 著 池 央耿 訳 医療科学部教授 (臨床工学科) (河出書房新社)1993年 井平 勝 人に勧められる本について文章を書く程の読書家で はありませんが、私の「心に残った一冊」ということ で紹介させていただきます。 「南仏プロヴァンスの12 か月」ピーター・メイルです。この本の著者は、旅行 者として何度もプロヴァンスを訪れるうちに、陽光あ ふれる南仏の豊かな自然と食生活、純朴な人心風土に 魅せられて、生まれ育ったロンドンを引き払い、築 200年の農家を買い取ってプロヴァンスに移り住みま す。生活が軌道に乗るまで結構な苦労があるようです が、この一年の過程が12月其々の季節に合わせて、歳 時記の様に12本のエッセイにまとめられています。生 活者として異国に移り住むことを決めた著者は、新鮮 な目で周りを眺め、そのすべてに親愛の眼差しを持っ て観察し、日々の発見の喜び、生きる喜びがその文章 から伝わってきます。気候、風土、人文、料理、ワイ ンすべてに向けられた興味の目は、旅行者が知り得な い、 しかし生活者は当たり前として「気にも留めない」 深くて狭い隙間に光を当てています。生活者としてそ の土地で生きる著者は、若葉の季節から夏の陽光あふ れる南仏の自然の中でのびのびと暮らす姿や、冬には 驢馬の耳を引きちぎるミストラルが目前によみがえる いう欲求であろうと思います。それを楽しむ方法の一 つが、「地元の人との触れ合い」であり「地元の料理」 でもあります。地元にとけ込もうとしながらどうしよ うもなくその半身は異邦人であり、半生活者から生じ た「喜怒哀楽」が私には、どうしようもなく面白く心 惹かれるものでありました。それは、この本が出版さ れ、プロヴァンスへの旅行者が大幅に増加という社会 現象が起きたということですから、そのあたりからも 伺えるのかもしれません。 私自身1年間、南仏ではなくドイツに留学する機会 がありました。最初にこの本を読んだのは留学する前 で、ざっと読んで確かに風土や気候文化にレストラン (美食)がそこかしこにちりばめられた「面白い本かな」 程度で忘れておりました。図らずもプロヴァンスでは ありませんでしたが、ドイツでこの本のことを思い出 すことになります。そういえばフランスに移り住んだ ように豊かな文体で語ります。それぞれの季節に合わ せた物語で語られる料理やレストラン、地元のワイン 本を読んだことがあったなと。本で読んだチーズのた めに、ワインの代わりのビールを飲みました。「毎日 の話は、旬の食材をその時期に合わせて楽しむ日本の 考え方と通じるところがあります。ところが、地元の とれたて食材の説明やワイン、チーズ、産地の詳細な 説明はあっても、肝心の味に関する説明は「わざと省 が冒険だ」を家族の合い言葉とし、毎日の発見と驚き を感じておりました。生活者として、地元にとけこむ 努力をしておりました。どうしようもない出来事もあ り、悔しい思いをしたこともありますが、やっぱり楽 略してるでしょ」と思われるほどで、それが日本人の 私には、周りの風景を含めてますます想像を膨らませ しい出来事もありました。 南仏プロヴァンスの12か月が出版されたのが1998 る結果と成っております。もちろん、著者は、旅行者 でなく生活者であるため、別に読者にここに来て「食 べてみろ」と訴えている訳ではなくただ淡々と日々の 発見と驚きを綴っていると思われました。私たちは、 年、好評であった本書はシリーズ化されその後2冊が 出版されております。今のプロヴァンスがどうなって いるのかも興味あるところです。いまでも思い出した ように読んでは、遠いプロヴァンス(ドイツ)に思い 観光として旅行しますが、その目的は、日頃のストレ スから解放であり、歴史的建造物や風景を楽しむこと です。それに裏打ちされるのは、突き詰めるところそ を寄せております。本書は、私にとっては生活者とし てドイツ(プロヴァンス)に生活するかどうかは別に して、いろんな大切なものを思い出させてくれる本と の土地の文化であり生活を知りたい(楽しみたい)と なりました。 102
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