デジタルフォレンジックツール 使用法学習のための電子教材の開発

(04)教材の開発 -Ⅲ
講演番号:3F05
デジタルフォレンジックツール
使用法学習のための電子教材の開発
Development of an Electronic Teaching Material
for a Digital Forensic Tool
加藤 大希※1
Hiroki KATO
矢野
佑樹※2
Yuki YANO
○本郷 節之※3
Sadayuki HONGO
キーワード:デジタルフォレンジック, サイバー犯罪, 電子教材
Keywords: Digital forensics, Cyber-crimes, Electronic teaching material
1. はじめに
デジタルフォレンジックとは,コンピュータに関す
る犯罪などが生じた場合に,原因究明や証拠提示,捜査
に必要な機器やデータの収集,分析を行い,その法的な
証拠性を明らかにする手段や技術のことを言う[1].
サイバー犯罪の発生件数は急増後高止まりの状態で
あることから,サイバー犯罪への対処能力を有する人
材が不足しており,これら人材の育成が急務である.
本報告では,サイバー犯罪に対処可能な人材育成を
目的として,我々が取り組んだデジタルフォレンジッ
クツールの使用法を学習するための電子的な学習教材
について概説する.
2. マニュアルの作成と発展
2.1 対象とするフォレンジックツール
本研究では,データ保全,復元,分析,検索等の作業を
簡単なインターフェースで操作することが可能な PC
用のフォレンジックツールである AOS リーガルテック
社製の FinalForensics を対象とした[2].
2.2 マニュアルの作成と課題
我々は前年度,「初心者でも解析作業を可能とす
る」ことを目指したマニュアルを作成した.しかし
同マニュアルを評価した結果,初心者の効率的な使
用法修得には,単なるマニュアルにとどまらない「学
習教材」が必要であることが使用者から指摘された.
3 電子教材の開発
3.1 電子教材開発の目的
本研究では,一連のフォレンジック作業も含めた,
デジタルフォレンジックツールの使用法を効率的に
学習できる電子教材の作成を目的とする.
※1
北海道警察
※2
株式会社コンピュータネットワーク
※3
北海道科学大学
公益社団法人日本工学教育協会 平成 28 年度
工学教育研究講演会講演論文集
3.2 電子教材の開発
本教材は,web ページ上に音声及び字幕説明入りの動
画を配置するもので,web サーバには Apache,web ペー
ジには WordPress を用いた.動画の作成は, AviUtl を
用い ,音声による説明には ,文字読み上げソフトの
「VOICEROID+ 結月ゆかり EX」を用いた.なお,本教材
は,北海道科学大学と北海道警察が共同開発した.
3.3 電子教材の構成
本教材は,「デジタルフォレンジックとは」,「基本
的捜査例」,「ツールの起動方法・画面説明」,「事件
ファイルの新規作成および既存事件ファイルの利用」,
「情報の収集」,「ファイルの検索」,「削除・回収フ
ァイルの復元」,「ウェブ閲覧履歴を確認するには」,
「メールを解析するには」の全 9 章で構成した.
4 電子教材の検証・評価
4.1 評価実験の環境
評価実験には,PC,FinalForensics,USB メモリ,時計,
筆記用具,問題用紙,アンケート用紙を使用した.
4.2 検証・評価方法
評価者に 9 章中 2~3 章分の教材を閲覧させた後,検
証用に作成した筆記式の確認問題及び実技式の想定問
題を回答させた.想定問題は経過時間を記録した.
想定問題終了後にアンケートを実施し,下記表 1 の 7
項目を各 5 段階で評価させた.章の内容に合わせ,確認
問題は全章で,想定問題は 4 章から 9 章で行わせた.
表1
項番
1
2
3
4
評価項目一覧
項目名
情報はわかりやすいか
動画は見やすいか
レイアウトは見やすいか
項目名
5 動画の章に過不足はないか
6 情報の内容は正確か
7 操作手順は適切か
項番
動画の音声は聞き取りやすいか
4.3 1 次検証
北海道警察の捜査員8名及び北海道科学大学生8名を
対象に評価実験を行って,アンケートを実施し,結果を
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収集・分析して,改善・修正点を抽出した.
4.4 アンケート集計・分析結果
全てのアンケート内容を分析した結果,動画速度,字
幕文章,動画の表示手法等,改善すべき点として,下記
表2の項目が浮上した為,同項目の改善・修正作業を実
施した上で2次検証作業を行うこととした.
表2
カテゴリ
動画機能
動画音声
動画画面
動画構成
説明内容
りやすかったか」の項目では0.3以上の上昇が見られ,
全体の平均値も4.38から4.57へ,0.19上昇した.同アン
ケート結果を下記図3に示す.
1 次検証で浮上した改善すべき点
改善内容
・倍速・低速ボタンの実装
・音声の速度を遅くする
・ズーム速度の変更
・イメージに関する説明追加
・動画の終了を表示
・削除メールに関する説明追加
・技術用語の説明・注釈の追加
・一部の文章構成を訂正する
図 3 1次及び2次検証時のアンケート集計結果の比較
4.5 2次検証
1次検証で得た改善すべき点の修正を実施した後,北海
道警察の捜査員8名と,北海道科学大学生5人を対象
に,1次検証と同様の評価実験,アンケートを実施した.
なお,評価対象は,1次検証時と異なる章を行わせた.
また、2 次検証時の評価者のコメントとして,「前回
と比べ、各章の要点が一目でわかり、動画もとても見
やすく感じた」,「速度調整のアイデアはとても良い」
等,改善の効果を認めるものが多く見られた.
5.3 総合コメントに基づいた改善方法の提案
各正答率とアンケート結果とを統合した結果浮上し
た,改善すべき点を下記表 3 に示す.
5. 考察
5.1 1次検証と2次検証の正答率の比較
全被験者の確認問題・想定問題の正答率を章別に合
算し,1次検証と2次検証の結果を比較したところ,ほぼ
全ての章の正答率が上昇する結果となり,全体の正答
率は,確認問題で13.6%,想定問題で11.1%上昇した.同
結果を下記図1,図2に示す.
図 1 1次及び2次検証時の確認問題正答率の比較
図 2 1次及び2次検証時の想定問題正答率の比較
5.2 1次検証と2次検証のアンケート評価の比較
全被験者から収集したアンケート結果を集計した結
果,ほぼ全ての項目で2次検証時の評価が1次検証時の
評価を上回る結果となった.特に「情報は分かりやすか
ったか」,「動画は見やすかったか」,「音声は聞き取
表3
カテゴリ
動画音声
動画画面
動画構成
2 次検証で浮上した改善すべき点
改善内容
・イントネーションの修正を行う
・黒画面に図や画像を追加する
・一部の画像サイズを修正する
・字幕位置の修正
・動画の最後に「まとめ」を追加
6. まとめ
6.1 得られた知見
1 次検証の結果浮上した改善点に対応した後,2 次検
証を実施し,各検証結果を比較したところ,ほぼ全ての
項目で評価の上昇が認められたことから,改善の効果
が十分に認められる結果となった. 更に 2 次検証にて
浮上した改善点にも対応したことで,本教材は,対象と
したフォレンジックツールの使用法を学習するための
教材として一定のレベルに達したものと判断される.
6.2 今後の課題
本教材は,2 度に亘る検証実験の結果,フォレンジッ
クツールの使用法を学習するための電子教材として一
定のレベルに達したものと判断されることから,今後
は,同教材を用いた講習会の開催など,利用者に対し,
同教材内容の周知,普及に努めることで,フォレンジッ
クツールを駆使してサイバー犯罪の捜査に従事する捜
査官を育成することが重要な課題と考えられる.
参考文献
[1]http://e-words.jp/w/デジタルフォレンジック.html
[2]http://aos.com/ja-jp/products/finalforensics/
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