NDC 420.72, 549.92 ワ.シボードマィコンを使用した学生実験 一1.放射線計測の改善一 沼** 岸 本 俊 祐* 岡 田 (昭和53年4月26日受理) An Application of Microcomputer to Experiments for Students 一 1. lmprovements in Radiant Ray Measurement 一 Shunsuke KisHiMoTo and Tadashi OKADA (Received April 26, 1978) In this report, an application of microcomputer to experiments for students is described with some examples. The microcomputer assembled Qn one−board is used as a general counter with memory for radiant ray mesurement which is one of the themes of experiments in applied physics. By using new techniques of microcomputer, considerable improvements were made on main parts of the experiment. 1. ま え が き ここ数年来のLSI技術の進歩は,マイクロコンピュータ 我々はまず,本校応用物理の学生実験*の中のテーマ“放 射線の計測”を取り上げ,マイコンの導入をはかった。こ のテーマで扱う物理量は,ガイガー・ミュラー計数管(以 (以下マイコンという)の分野においても著しく,ワンチ 下GM管という)からのパルス数であり,完全なディジタ ップCPUはおろか,その中にメモリや1/Oポートまでも含 ル量であるため,簡単なインターフェイス回路で導入がは むワンチップマイコンさえ実用化され始めている。これに かれた。しかも,マイコンに,統計処理という人間の不得 伴って応用分野は急速に拡大しており,高速化,自動化, 意とする部分を受け持たせたことにより,測定を大幅に高 省力化等の目的で産業用機器の分野を始め,家電製品のよ 速化,自動化でき,学生はより多くの時間を結果の検討に うな民生用機器の分野にまでおよんでいる1)。このような 向けることができるようになった。その結果,実験内容に 技術動向の中で,工学系の学生に実験を通して体験的にマ 対する理解が深まると共に,マイコンの有弔性をある程度 イコンの応用についての基本的な知見を与えることは,教 認識させるという効果が得られたので報告する。 育上有用なことと思われる。 2.実験内容とマイコンの役割 幸い,1枚のプリント墓板上に,CPU,メモリ,1/0ポ 放射線計測の学生実験は,GM管のプラトー特性,自然 ート等のLSIチップを配したワンボードのマイコンが,組 立キットでトレーニング用として安価に出回っており,学 放射線による計数値の頻度分布,半減期の短い放射性元素 生実験に導入するのに便利である。導入にあたって問題と (137MBa,半減期τ=2.6分)の自然崩壊等をストップウオ なるのは,実験テーマの選定で,マイコンの導入により教 ッチと積算カウンタを用いて測定し,GM管の特性,ラン 育効果が上がり,測定器等の外部機器とのインターフェイ ダム現象の統計分布,自然崩壊等の特性を求あることを目 スが容易なものが望ましい。 *応用物理 的としている2)。 実験は,GM管からのパルスを積算カウンタで一定時刻 **電気工学科 *大学教養課程程度のレベル 1一 津山高専紀要第16号(1978) ごとに数え,記録することが主な作業である。特に自然放 る。その結果,単なるパルス計数はもとより,計数結果を 射線による計数値の頻度分布測定では,数秒おきに数100 適当に処理して記憶し,途中結果や必要な演算結果を得る 回以上,カウンタの計数値を読み取っては記録し続けなけ ことができる。 ればならず,一つの分布を得るのに30分はかかる。この測 3.ハードウェア 定は,ポアソン分布を得ることをねらっているのである が,教育的には計数値の平均値が2程度の典型的な分布か 今回使用した実験システムの, ら,平均値が大きくガウス分布で近似できるあたりまで Fig.1に示す。 ハードウェア構成を r一一一輔一一『『一1 霧 KEY DISPLAY U.NIT ROM n.75KB) 血 aOARD 奄茶s 1 暫 @雷 炉OPORT r 酎X扁一一一一一剛哺一1 i8BITx3) 渦ぎ一一一一一一一」 翫朧・SC 1騨E 1 @PP1 GM bOUNTER 一。;K㌃・ @ LIN正R甑CE一 @1 RAM CPU 8080A @璽 @ 》 響 1 @蜜 9岡A i0.5KB) @1 1 1 lo隅31輔2 V”甑 1 1 1 1 32768阿図・ ・MICROCOMPUTER−T陥。一一」 一.一一一一一一CLOCK一一一一一一一一」 112; ーー盲馳盲冒1一瞥1 一 一 一一 一 一 ■聯 噌 扁 向一 欄嘘 一 一 一 剛r Fig. 1 Hardware block diagram of the experimental system の,平均値の異なる二四の分布を求めたいところで. ?驕B. マイコンはワンボードになった組立キット(NEC:TK− しかし,実験時間の制約や実験者の疲労のため,現状では 80)である。CPU部は8080Aで8ビット並列処理,メモ 1例の分布をとるのがやっとである。そこで,この部分の リ部はRQM(0.75Kバイト), RAM(O.5Kバイト)をもつ。 測定をマイコンを導入して自動化,高速化をはかれば,最 入出力部は8ビット×3の並列双方向入出力ポート(PPI) も効果のある改善が期待できる。頻度の少ない自然放射線 を持ち,これを通して16進数キー16個,コントロールキー では,高速化ができないので,半減期の十分長い放射線源 9個が接続されている。表示部は16進8桁の7セグメント (たとえば137Cs, T・=3e年)を使い,この線源とGM管と LEDから成り, RAMにとられた表示データ用バッファか の距離を適当に選ぶことにより計数値の平均値を変化させ らDMAで読み出しが行なわれている。キー操作やメモリ うる。こうすれば,0.1秒程度の短いゲート時問でも必要 への書き込み,表示等処理に必要なモニタ・プログラムは な平均値を持つ各種の分布が得られる。 ROMに書き込まれており,簡単なインターフェイスを通 また自然崩壊の測定では,一定時刻ごとの累積度数を求 してオーディオ用カセットテープを外部記憶装置として利 めるため高速化は望めないが,マイコンにそれらの計数値 用することもできる3)。 を一時記憶させ,必要な後処理をさせることにより測定を インターフェイス部は,GM管*から出力されるインピ 自動化することができる。さらに,これらのことを通し ーダンスの高い細いパルス(波高値一1V,半値幅2μ秒程度) て,学生にマイコン利用の有用性を理解させることも可能 を,マイコンで読める信号Sに変換する。これは,パルス である。. 増幅回路とゲート用TTLで構成した単安定マルチバイブ 通常,マイコンをこのような目的で導入する場合は,そ レータ回路から成る。信号Sのパルス幅は,マイコンとG れをシステム・コントローラとして他の機器を制御する方 M管の特性から次のように決める。CPU(8080A)の基本 法がとられる。しかし,ここでは,ハードウェアや取り扱 命令実行時間は数μ秒で,S信号ポーリングに数ステップ いの簡単化のため,マイコン自身の中にメモリ付カウンタ 30μ秒程度が必要であり,一方,GM管の不感時間が約 をソフトウェアで作り,それを自身で制御して,パルス計 100μ秒なのでこの中間の50μ秒とする。波高値は,マイコ 数を行なわせることとした。そのために,マイコンに必要 ン入力部の規格であるPPIのロジックレベルに合わせる。 な入出力信号は,GM管からの計数すべき信号S,クuッ クロック部は,測定用ゲート信号Gを作る。これは,氷 ク回路からのゲート信号Gの2ビット分の入力信号と,外 晶発振器の基本発振周波数(3.2768MHz)を分周し, 部回路の初期化を行なうためのリセット信号頁の1ビット 10Hz,1Hz, i/20Hzを得るクロック部分と,.その出力信 分の出力信号である。これらの信号をプdiグラムで処理す .号を入力し,G信号を作るための単安定マルチバイプレー *島津製GM−B 3形 ることにより,マイコンを多機能のカウンタとして働かせ 2 ワンボードマイコンを使用した学生実験 岸本・岡田 タ回路から成る。信号Gのしレベル,うまり,ゲート閉の 時間は,計数値の積算,記憶,表示等の後処理を行なうた あの数10ステップの実行時間に,余裕を加えて300μ秒と TA @ SETIO lIぐOi=1,・・㍉t) D1ぐ(ED)、 する。このため実際のゲート開の時間は,先の分周で得た 時間よりも小さく.なるが,ゲー一・ F時間0.1秒の場合でも全 体の0.3%を占めるだけで,この程度の誤差は無視できる。 Fig.1に,こうして決めた各部の波形も同時に示してお @ そ D1噂 c2ぐ t⑩ @INPUT G YeS G・1. n←0 NQ IP T G く。また,図には示していないが,手動測定ができるよう に手動ゲート信号を発生する回路も作られている。 G・1? 4.ソフトウェア NPUT KEY N N 『? @ Y @ Y @ 1《n)1。 @ ぐ 本システムのようなマイコンを使用した計測システムで は,ソフトウェアはハードウェア以上に重要で,放射線計 測でも必要な機能(頻度分布,積算計数,時間変化等) @D2ぐ(MnP c1《(R9),。 @ D2尋O @ nく(n)†1 は,これで実現する。 まず頻度分布測定の場合の,ソフトウェア的構成を Fig・2に,フローチャートをFig.3に示す。信号G, Sは アキュムレータ(ACC)へ同時に読み込み, ACCのビッ トシフトとフラグテスト機能を用いて,それらのHレベル /Lレベルを判断する。GおよびSがしレベルからHレベ m hNPUτG, N Gコ霊? M卜(M)・Rs @ Y m n耳C? xSTOP Mn・(Mn)・1 S・1? x R9・(Rl日 Rs《(RS>+ @鯛・D2・(R5) Y ルになった回数を数えるレジスタをそれぞれRg, Rsとす る。また,RgやRsの内容を10進数に変換して表示するた めのバッファメモリをD1, D2(いずれも10進4桁), Fig. 3 Flow chart for the mesurement of frequency (Rs)=nに対応するn番目のメモリをMnとする。 プログラムの最初に,初期値設定として,メモリMi (i= distribution 1,……,t)の内容をクリアし,ゲートの途中から計数しない 変わったら次にLレベルになるまでの間,つまり,ゲLト ようにGのしレベルを待つ。GがしレベルからHレベルに が開の間,SがHレベルになるたびにRsの内容を1ずつ CLOCK INTER− FACE 増す。Gがしレベルになれば,総計数値用メモリMtにRs の内容を加えると共に,(Rs)=nならMnの内容を1だけ GM ふやす。こうして,Rsの計数値に従って0が何回,1が s 戸 G 何回,……というように集計する。その後,Rsをクリア 一 一 一 ACC GIS Ra BCD \ Rg し,再びGのHレベルで次の計数を始める。これを所定回 蜘 SOURCE tw c(たとえば。・=1000)繰り返す。測定が終れば,総ゲー ト開の回ta cと総計数値(M’)を表示して待機する。次 に,所定のキーを押せば,順次計数値nとそれに対応した (R a”) 一7 n ! G ipt’ 度数(Mn)を10進化して表示部へ読み出す。. [[田[田] 積算計数の場合は,GのHレベルの期間のSのHレベル o.亀 n t MM...M.,.M Dl D2㏄。、痂〔二血 の回数を計数するのは頻度分布と同じである。異なる点 は,手動ゲートの場合,手動スイッチのチャタリングによ l ll Mn)+ 1’ n’ るゲートの誤動作を防ぐため5m秒ほど待ってから計数を @i 始める。また,自動ゲート信号で連続測定をする場合は, Rgの内容に対応した番地のメモリにRsの内容を順次記憶 しておき,測定後一つずつ読み出す。 TOTAL 1 自然崩壊の自動即定のように,正確iな測定明始三三が必 一・ 一一一 ・T K一 80 一一 一一一一 一1 Fig.2 Software block diagram of the measurement 要な場合は,プログラムの最初にリセット信号R.を出力 of frequency distribution し,これでクロック部を初期化する。積算計数では,ゲー 一3 1津:山高専紀要1.第16号(1978) ト開の期間の計数値をそのまま記憶するが,この場合は累 つどキー.ボー、ドから16進数で直接行なうこともできるが, 積値として順次計算して記憶しておく。測定後は各累積値 この方法だと時間もかかり誤りも多い。そこで,カセット. と共に,それらの差も読み出すようにプログラムする。 テープレコーダに必要なプログラムをあらかじめ録音して なお,いずれのプログラムも,8680A用機械語でコごデ おき,実験時に学生または指導者がマイコンへm一ドする ィングすれば,.150ステップ(300バイト分)程度の容量と ようにしている。.この方法によれば,.プログラムのロード なる。 は30秒程度で終る。 5.使 用 結 果 6.む す び 半減期が十分長い放射性元素(137Cs)の崩壊による,放 トレーニン.グ・キットとして市販されているワンボード 射線計測の頻度分布をFig.4に示す。ゲート時間0.1秒 のマイコン(NEC:TK:一80)を,本校応用物理の学生実験に で11000回ゲートを開き,平均の計数率の変化は,GM管 導入し,実験内容の改善をはかった。 と放射線源との距離を変えて行なった。図中の実線は,ポ まず,インターフェイスが簡単で教育効果の期待宅きる アソン分布による期待値をあてはめたものである。これを 倣射線の計測”を取り上げ,マイコンを自動ゲートのメ 見れば,平均値が1.4回/(O.1秒)の典型的なポアソン分布 モリ付カウンタとして用いた。 から,9.0回/(0.1秒)のガウス分布(図中点線)で近似で その結果,計数値の頻度分布測定で従来の方法に比べて きるあたりまでの,きれいな分布の変化が得られている。 5倍の高速化ができ,決められた実験時間内で十分な量の 一つの分布をとるのに要する時間は 計数に0.1秒×1000 データが得られること,結果を記憶しているため集計・分 =100秒と,メモリに記憶された各度数の読み出しに2分 類した値を直接得ることができること等,大幅な改善がで の計4分ほどで,5例の測定に30分もあれば十分である。 きた。 これを,従来の方法では2時間半程度かかっていたのと比 学生は,実験中でも結果を監視し,実験過程にフィード べれば,大幅に改善されていることがわかる。 ・嚇噂 fauss Dis. 終っていた改善前に比べて,学生の実験に妃する理解が深 [,:pzloi?son DiS’ rr(1’iiill/ 0 >り⊆ΦコリΦ由 20 40 0 バックをかげながら実験ができる。このことは教育上平に 重要で,時間的制約のためデータの取りっぱなしで実験が まり十分な効果を上げた。 またマイコンの有用性についても,ある程度の理解が得 られた。ただ実験を行なう学年が3年のためマイコン自体 鴨r鵬、 回 』 に対する深い理解はむつかしいが,この点は高学年の適切 o O ,5 10’ ’15 n (Counts/O.1 Sec) なテーマの実験にマイコンを導入すれば,さらに有効な結 果が期待できる。 Fig. 4 Frequency distribution (Statistical distribution of random phenomenon) ここでは,既成のワンボードマイコンを利用したが,本 実験のためだけには機能が多く,無だがある。したがっ Fig・5に,半減期が短い放射線源(137MBa)を親核種 て,今後単機能の専用マイコンを製作し,処理プログラム (137Cs)から分離した後の自然崩壊を,ゲート時間20秒で もROM化すれば,さらにすっきりとしたものになるの 自動測定した結果を示す。測定後,記憶したデータの読み で,この方向での検討を進めたい。 出しのとき,20秒ごとの累積値と共に,その差が表示され マイコンの普及により,本実験のようなソフトウェアに るので結果を直接グラフに書き込んでいける。 依存した実験システムが,非常に簡単に実現できるように な紅処理プログラムのマイコンへのロードは,実験の なった。したがって,これを有効に使いこなすことは,今 @005030 10 ︵ωON、u︶2淫。ξ仁コ8 ヨ て 後の実験技術の中で重要な位置を占めるものと思われる。 O0 237e−4.39×lo−St このため今後も,マイコンの学生実験への応用を積極的に :一4一!f.... T=2.6 min 進めて行く必要がある。 一r’一.! . 一 rN“L一 ’ . 文 献 1)電子通信学会,マイクロプロセッサとその応用小野 集,信無印,60−2(昭52−2),118, 2)重田ほか,基礎教育物理学実験 (昭51),144,共立 0 Time .(min) 123456789 出版. Fig.5 Radioactive decay of 137MBa ユーザーズ・マニァル,(1976−9). 3)日本電気,μCOM−80トレーニング・キットTK−80 一4一
© Copyright 2024 Paperzz