絵画の印象評定に及ぼすBGMの効果 漁田ゼミ

絵画の印象評定に及ぼすBGMの効果
漁田ゼミ
荒木雅絵・二橋美苗子・松本恵・湯森真耶
2005/7/27
テーマ
• 私たちは明るい音楽を聴くと明るい気分に,
暗い曲を聴くと暗い気分になる。
• 音楽がものの見え方に影響をあたえるか
もしれない。
• 個々の個性,気分によって捉え方が変わ
る抽象画について影響があるかを調べる
(気分誘導実験)
目的
• 音楽を聴くことによって,気分が変化する
時がある。
例)明るい曲→明るい気分・元気な気分
暗い曲→悲しい気分・落ち込む
気分の変化が物の見方に与える影響を,
曲を聴いた後の抽象的な絵の見方の違い
によって確かめることを目的としている。
先行研究 -「先行気分が後続の気分誘発に及ぼす影響」より 音楽による気分誘導とは?
→気分一致効果とは:先行気分と一致する感情価をも
つ刺激の認知的情報処理が促進される現象のことであ
る。(市川,2004)
今回の実験では,音楽による気分誘導を行い,評価対
象に絵画を使用した。音楽を聴くことは広く一般的に行
われており,他の誘導法を用いた場合と比べて,より日
常的で自然な気分を誘導する事ができると考えられる。
(市川,2004)また,評価対象の絵に関しては,できる限
り抽象的なものを選んだ。
【実験計画】
方法
実験の条件として,次の3つのパターンを用意する。
P:明るい音楽を聴いている中で絵を見る。
N:暗い音楽を聴いている中で絵を見る。
C:何も音楽のない中で絵を見る。
この3パターンにおいては,全て被験者間計画を用いた。
【実験参加者】
静岡大学情報学部大学部生30名をランダムに10ずつP・
N・Cの条件に割り当てた。
方法2
【材料】
実験参加者に評定してもらう絵として,次の4枚を選択した。
A1:Nino 「少年」イタリア人物画
A2:小沢勇寿郎「ヴァロックの女」
A3:Pisani 「Casale Toscana」イタリア風景画
A4:Hollando オランダ風景画
(入手先:http://store.yahoo.co.jp/dipint/index.html )
【音楽】
P・N条件の音楽として,それぞれ下記のものを使用した。 P-1 如月ハニー 渡辺岳夫
P-2 「HERO」-Main Title- 服部隆之
N-1 FRANK‘S DEATH-SOLDIERS Blue States
N-2 黒の慟哭 Isamu Nakae
方法3
【形容詞対】
絵の評定に使用した形容詞対は下記の6つとした。
明るい・暗い 楽しい・悲しい 快・不快
動的・静的 暖かい・冷たい 開放的な・束縛された
※なお,実験前気分の評定に関しては,「明るい・暗い」「楽しい・悲しい」
「快・不快」の3つのみで行った。
【手続き】
まず,実験を開始する前に,予めアンケートにより前気分判
定用の形容詞対3つによって,実験前気分を測定した。
次に,実験参加者には,4枚の絵を見てもらい,その評価を
上記に記載した形容詞対6つで行ってもらうものとした。その際,
1つの絵に対して評価は60秒間行ってもらった。
【手続き】
方法4
絵の評価を行ってもらうときに,先ほどの条件に従って,
PとNに関してはランダムに選択した音楽を流した。音楽に
関しては,「リラックスしてもらうため実験中には音楽を流し
ます。」と教示した。
最後に,内省報告アンケートを行った。
結果予想
・音楽と絵の評定は比例関係になると予想される。
明るい音楽→明るい評定
暗い音楽→暗い評定
分散分析
分散分析
【評定項目】 【結果】
明るい・暗い
n.s.
楽しい・悲しい
n.s.
快・不快
n.s.
動的・静的
n.s.
暖かい・冷たい
n.s.
開放的な・束縛された
n.s.
全ての項目について,有意な結果にならなかった。
t検定結果(A2)
A2の絵
t-検定の結果(A2)
N方向
N
P
C
t(18)=2.06,p<0.1
開 放 的 な ・束 縛 さ れ た
t(18)=2.54,p<0.1
開 放 的 な ・束 縛 さ れ た
t(18)=1.74,p<0.1
動 的 ・静 的
暖 か い ・冷 た い
P方向
4.5
4
3.5
3
2.5
2
1.5
1
t(18)=1.99,p<0.1
優位な差が出た形容詞対
• 暖かい⇔冷たい
• 動的⇔静的
• 開放的な⇔束縛された
明るい音楽を聴いた場合,暗い音楽を聞いた
場合に比べて,抽象画は暖かく動的で開放的な
ものに見える。
考察
• A2の絵に関しては,曲を聴かせることによっ
て,評価に影響が出た。
• 明るい音楽を聴かせると明るい方向へ,暗
い音楽を聴かせると,暗い方向へと気分は
誘導されると考えられる。
→A2の絵については予想通りの結果!
t検定結果(その他)
t‐検定結果
• NegativeとControlについてt‐検定
一部に
有意な結果
・A1,A4の評定項目の一部に有意な結果がみられた
・該当の評定項目は,快・不快/動的・静的/暖かい・冷たい
・ Negativeな曲を流すと,Positive傾向な評定を示す
参考(A1とA4)
A1
A4
t‐検定結果
5
4.5
4
Positive傾向
3.5
N
C
3
2.5
2
1.5
1
快・不快(A1)
t(18)=1.80 p<0.1
動的・静的(A4)
t(18)=1.86 p<0.1
暖かい・冷たい(A1)
t(18)=2.45 p<0.1
結果の考察
• なぜNegativeな音楽を聴くと
評定が明るくなるのか? アンケート参照
分散分析が有意でない
気分自体は暗くなる
気分≠評定
暗さ:絵画>音楽
お相撲さんと大柄な一般人
音楽による気分誘導は起こっているが,
絵の評定に影響は与えない。
アンケート結果
事前アンケート結果(1)
明るい⇔暗い
音楽と気分の変化
(明るい・暗い)
1.2
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
-0.2
-0.4
positive
negative
control
1
2
3
4
絵
• Control条件を除き,曲とは反対の絵の評価をする
傾向にある。
事前アンケート結果(2)
音楽と気分の変化
(楽しい・悲しい)
楽しい⇔悲しい
2
1.5
positive
negative
control
1
0.5
0
1
2
3
4
絵
• どの曲を聴いても(または曲を聴かなくても)初めの
気分よりも絵を悲しいという評価にする傾向がある。
事前アンケート結果(3)
音楽と気分の変化
(快・不快)
0.8
快⇔不快
0.6
0.4
0.2
0
-0.2
1
2
3
4
positive
negative
control
-0.4
-0.6
絵
• 音楽を聴くとnegative条件のみ全員が初めよりも快
へ絵の評価をした。しかしそれ以外はばらついた。
⇒「快・不快」という形容詞対がわかりにくかった?
このことから考えられること
1. 実験参加者は用意した明るい音楽を明るい,
暗い音楽を暗い,と感じていなかった?
2. 明るい音楽を聴いても明るい気持ちに,暗い
音楽を聴いても暗い気持ちにならなかった?
⇒音楽は絵の評価に無関係だった?
事前アンケート結果(4)
明るい⇔暗い
流れていた曲と気分(平均)
5
4.5
4
3.5
3
2.5
2
1.5
1
0.5
0
positive
negative
曲
気分
• 実験参加者は,明るい曲を明るく,暗い曲を暗いと
評定していた。
• とくに暗いほうは顕著。(音楽の利用度も暗い方が
高い値であった)
事前アンケート結果(5)
control条件における気分の変化
1.2
1
0.8
暗い
悲しい
不快
0.6
0.4
0.2
0
-0.2
1
2
3
4
絵
• ほぼ全ての絵において曲を聴かなくても暗い評価を
する傾向がある。
⇒選定した絵がもとから暗かった?評価するのに公平
ではなかった?
まとめ
曲を聴かせることによって,気分誘導
は起こったと言える。
・明るい音楽を聴かせると明るい方向へ,暗い
音楽を聴かせると,暗い方向へと気分は誘導
されると考えられる。
・A2の絵については予想通りの結果
・しかし,その他の絵に関しては,音楽と絵の
評価の間に関連はみられなかった。
→音楽による気分誘導は起こっているが,
絵の評定に影響は与えない。
• 絵がもとから暗かったため,明るい曲をきい
てもそれが絵に反映されなかった。
• 暗い曲は絵よりも暗かったため,明るく見えて
しまった。
⇒絵と曲のバランスが悪かったため,
期待した結果と逆になってしまった。
(選んだ絵が抽象的ではなかった)
反省点
1.材料の問題点
・コントロール条件の絵の評定結果により(結果5参照),選定 し
た絵がもとから暗かったため,評価するのに公平ではなかった
事が考えられる。
・明るい,暗いという曲の定義が曖昧であった。
→客観的に材料を判定してもらう必要があった。
2.使用した形容詞対の問題点
有意差がほぼ出ていない形容詞対
明るい⇔暗い
楽しい⇔悲しい
快⇔不快 (アンケートにより,答えにくい形容詞として挙げられていた)
・上記の形容詞対はどちらかと言えば感情を表す。絵の評定には
結びつかないのではないかと考えられる。
・事前アンケートで使用し,さらに絵の評定にも使用したため,
事前アンケートでの評価が無意識のうちに影響してしまった
可能性がある。
→形容詞対も客観的な評価をしてもらったうえで,
ランダムに提示する方が適していたと考えられる。
終