第 1 回 : 医療機関, かかりつけ医, 専門医

JOMF NEWS LETTER
No.248 (2014.9)
新連載
アメリカでの医療のかかり方
第 1 回 : 医療機関, かかりつけ医, 専門医
海外出産・育児コンサルタント
Care the World 代表
ノーラ・コーリ
【 はじめに 】
アメリカは先進国の中でももっとも進んだ国の代表として、医療機器や設備にお
いても世界最高の基準を誇っています。有名な病院には国内はもちろんのこと、世界中か
ら優秀なドクターや研究者が集まってきています。このような優れた医療環境のもとで治
療を受けられることはアメリカに住むものにとってたいへん恵まれていると言えるでしょ
う。
しかし、そのような恵まれた医療環境がありながら、その恩恵にあずかることが
できる人は限られているというのも事実です-それはなぜか。高額な医療費、多くの人が
医療保険に入れなかった現状、安心して医療を受けられない背景にはなにがあるのか、な
どアメリカにおける医療の問題点とそのメカニズムについてシリーズで迫っていきます。
海外出産・育児コンサルタントの筆者は 2001 年からアメリカのニューヨークに
住み、国際医療ソーシャルワーカーとして小児病院、総合病院、救急病院、病院付属のク
リニックで患者とその家族と関わってきました。現在では肢体および知的障がい者のため
のデイケア施設で施設長を務めています。さらに、今までに家族の健康管理を担当し、子
どもの健康診断、学校入学のための予防接種、小児科医へ、眼科医や検眼医へ、歯科医へ、
婦人科医へ、超音波やレントゲンの検査機関の利用、手術、薬局の利用というようにアメ
リカの医療にかかわってきました。今回は筆者が体験したアメリカでの医療、特にニュー
ヨークでの医療を通して、利用する立場から、賢いアメリカでの医療の利用法をお伝えい
たします。
【 医療機関の種類 】
アメリカにはさまざまな医療
機関が存在します。まず頭に浮かぶのが
病院だと思いますが、病院もいくつかの
レベルがあります。重症患者が多く集ま
る総合病院はたいてい Medical Center
という名前がついています。このような
病院はたいていの場合、大学付属の病院
重症患者を受け入れる大学付属の総合病院
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です。そのため、トレーニング中のインターンやレジデンスのドクターがたくさん治療に
加わっています。一般の総合病院はたいてい Hospital という名前がついています。さら
に外来だけの総合病院はたいてい Medical Group という名前がついています。小さな個人
経営の町医者ですと Doctor’s office となります。
私が主に利用している Medical Group の病院をご紹介しましょう。ここではい
くつかの専門の科があります。たとえば小児科、内科、外科、婦人科、緊急外来と一般患
者の利用度の高い代表的な科が集まっています。各科にはドクターが何人かいてグループ
のように診療をしています。私はいつもはかかりつけ医の Dr.E に診てもらっていますが、
足のねんざのように 緊急で予約を入れた場合 Dr. E が不在でも同じ内科にいるほかの
primary doctor に診てもらうことができます。それは Dr. E が休暇をとっていたり、曜
日によってほかの Medical Group 内の別の診療所
に出向いているときも同じです。さらに診療費は
病院へ支払われるのでなく、それぞれのかかった
ドクターに支払われます。それはドクターによっ
て扱っている保険が異なるからです。
Photo by Nora Kohri
Medical Group の診療所
検査機関は独立してオフィスを構えているところもありますが、病院の中に備え
られている検査機関もあります。独立して設備を構えているところは病院の近くに独立し
たオフィスを構え、名前にしても XXX Radiology Associates などの名称で運営してい
ます。そのようなところではレントゲン写真などを詳しく分析するドクターが何人かチー
ムとなって勤めています。病院の中に備えられている検査機関は Radiology Department
という名称で運営されています。多くの場合、病院の建物の中にあるにも関わらず、運営
は独立しています。私が足首をねん挫した時、足くびのレントゲンは Medical Group の病
院内にレントゲンの部署があったので、ほかの検査機関に出向くことなく、その建物内で
撮ってもらえました。
【 Primary Care Doctor の役割り 】
これだけ多くの医療機関が存在し、専門も細分化していると診断がつかない症状
が出た時にどこへ行ったらよいのか迷うのが現実です。そのため、アメリカではまず
primary doctor (かかりつけ医)を決めて、すべての疾患において、まずそのドクターに
出向くようなシステムが取り入れられています。Primary doctor の専門は大人でしたら、
内科医、子どもでしたら小児科医、女性でしたら産婦人科医、高齢者であれば
Geriatricians という老人を専門とする医者というように選べますが、一貫して新生児か
ら老人まで診る Family Medicine Doctor でもかまいません。今は medical doctor(MD) 以
外にも患者を全体的な視点から見る osteopathic medicine (DO)でトレーニングを受けた
primary doctor もいます。
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Primary doctor はすべての疾患を把握し、primary doctor の範囲で治療が可能
な場合はその場で治療をしたり、検査に行くように指示をしたり、処方箋を書いたりしま
す。しかし、専門医が必要だと判断したら、専門医を紹介し、紹介状を書いて患者に渡し
ます。入院や手術が必要な場合はたいてい専門医が担当医となり、専門医が提携している
病院に入院するように指示がでます。ただし、専門医は primary doctor とチームとなって
患者と取り組みます。さらに primary doctor の大切な役割りは患者の健康管理と健康指
導であり、アメリカ人は年に 1 回 primary doctor のもとで定期健診を行います。
それでは primary doctor ではどの程度治療が可能なのでしょうか。たとえばも
のもらいくらいでしたら、primary doctor が目薬を処方してくれますので、あえて眼科医
へ行く必要はありません。とびひくらいの皮膚疾患でも primary doctor のもとで治療し
てもらえますので、皮膚科医に行く必要はありません。
日本では誰でも希望する医者にかかることができるので、医者の評判をものさし
にドクターを決めるのが一般的でしょう。しかし、アメリカではたとえ評判のよいドクタ
ーでも自分が加入している医療保険を取り扱っていなければ自費扱いとなるので、評判だ
けをあてにしていません。あくまでも自分の保険が効くドクターを調べ、実際にかかって
みてそのドクターがよいドクターかどうかを判断します。
それでも、大半は医療保険会社がドクターをスクリーニングしているので、その
選択に頼ります。Primary doctor の探し方は自分が加入している医療保険会社のホームペ
ージで Find a physician という項目へ行くと自分が住んでいる範囲にいるドクターを検
索できるようになっています。
まず住居区の郵便番号を入れます。そこから何マイル以内なら通えるかを判断し、
10 マイルとか 20 マイルというように項目から選びます。そうすると自分の加入している
医療保険を取り扱っているドクターの名前がずらりと出てきます。次にドクターがどこの
大学を何年に出ているのか、年齢はどのくらいか、どこの病院でレジデンスの訓練を受け
たか、入院や手術の場合はどこの総合病院と提携しているか、何年間医者としての経験が
あるのか、どこの医師会のメンバーか、専門は何か、女性なのか男性なのか、などがわか
ります。
ホームページによってはドクターの家族構成や趣味、
顔写真も記載されています。
ドクターを比較し、自分に合いそうなドクターが見つかったら、そのドクターが
勤めている診療所に電話をします。ホームページから予約をとれるところもあります。電
話をするとまずどの医療保険に入っているかを聞かれますので、それを伝えます。予約日
が決まったら、予約時間にオフィスに出向きます。初診の場合は登録書類に記入する時間
も含め、10 分くらい前にはオフィスに着いた方がよいでしょう。現在ではすべてがコンピ
ューター化されていますので、住所などはもうすでに予約段階でインプットされている場
合がほとんどです。
【 直接専門医に出向く場合 】
日本ではひとつの医療保険がすべての科をカバーしています。歯科医に行く場合
でも、心療内科医に行く場合でも、眼科医に行く場合でも内科医にかかったときに持って
いった同じ保険証を持っていけばよいでしょう。しかし、アメリカでは医療保険の種類が
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大きく 4 つに分かれています。それは以下のようにです。
1. Medical
2. Dental
3. Vision
4. Mental Health and substance abuse
おおまかに4つのカテゴリーを説明します。
1.Medical というのはからだ全般の疾患のことを指します。たとえば腹痛、頭
痛、切り傷、打撲、皮膚疾患、などです。これらの疾患の場合は primary doctor に出向
きます。ほとんどの人はからだの疾患に関する medical には入っていますが、ほかの3つ
には入っていない場合もあります。2.歯が痛いという場合は直接歯科医へ出向きます。
3.
めがねやコンタクトレンズが必要という場合は直接眼科医か検眼医のもとを訪れます。
4.うつ状態が続いているような場合は、精神科医に出向くか、カウンセラーやセラピス
トのもとに直接出向きます。
明らかに目の疾患で、たとえ primary doctor に出向いても専門医への紹介とな
るだろうと自分で判断した場合はどうでしょうか。直接専門医へ出向いてもよいのでしょ
うか。それは保険のプランによります。プランによっては primary doctor を通してでな
いと専門医に診てもらうことはできないという場合があります。
なぜ保険によってはこのような段階を経るように仕向けているのでしょうか。そ
れは専門医にかかると検査項目も増えますし、 primary doctor よりコストがかかるから
です。医療保険会社としては極力コストを抑えたいがため、なるべく患者に primary
doctor に出向いてもらい、 primary doctor で処置できるものはそこで処置してもらいた
いのです。さらに患者にとっても primary doctor であれば受付けでの支払いが専門医と
比べて多少低いのも事実です。そのようになるべく primary doctor で治療ができるよう
に患者を仕向けるシステムが出来上がっています。
それでは専門医へ直接出向くことが可能なプランの場合はどうでしょう。その場
合はホームページにログインをし、 Find a physician の中でも specialist という項目
で探します。住居区の郵便番号を入力し、近所の specialist のリストが出ますので、そ
こから自分に合いそうな専門医を見つけ、電話で予約を入れます。当然専門医にかかるの
でコストは primary doctor にかかる時よりは割高になりますが、専門医に診てもらえる
安心感は代えがたいかもしれません。
ちなみに医者の呼び方についてお伝えしましょう。日本では指導的立場にいる人
はすべて「先生」と呼びますが、アメリカでドクターと呼ばれる人はたいてい博士号ある
いはそれ相当の資格を得た人に限られています。歯科医は dentist ですが、呼び方として
はドクター○○と呼びます。検眼医も正式には optometrist ですが、ドクター○○と呼ば
れます。眼科医、検眼医は覚えにくいので、eye doctor とも呼ばれます。精神科医も
psychiatrist ですが、
ドクター ○○と呼ばれています。ただし、
心理学者
(psychologist)
、
カウンセラーやセラピストと呼ばれている人たちは患者の治療に携わる資格を持っている
かもしれませんが、必ずしも博士号やドクターの名称がつく資格を持っていない人もいる
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ので、必ずしもドクターとは呼ばれません。カウンセラーやセラピストはファーストネー
ムで呼んでいる人が多いようです。全体的に言うと、博士号を取った場合、それは誇りで
もあり、その称号を本人が使うのでわかります。