妊娠中の体力づくりが出産に及ぼす心身の効果

○プロジェクト研究 0738-1
研究課題
「妊娠中の体力づくりが出産に及ぼす心身の効果に関する研究」
○研究代表者 看護学科教授
加納尚美
○研究分担者 人間科学センター教授 岩井浩一
( 2名)
理学療法学科助教
村井みどり
○研究協力者(8名)
茨城県立医療大学 看護学科 梶原祥子(准教授) 山海千保子(助教)加藤龍子(学外研究員)
上田市産院:廣瀬健(院長:医師)田口陽子・猪俣理恵・田中かずみ(助産師)
筑波大学大学院人間総合科学研究科:楠見由里子(大学院生)
バース青葉:富岳加奈子(助産師)
○研究年度 平成19年度
(研究期間) 平成19年度~平成21年度(3年間)
1.研究目的
本研究においては、妊産婦が安心かつ快適な妊娠・出産のプロセスをたどれるように妊娠中の体づく
りが出産に及ぼす心身の効果を検討することを目的とする。妊娠中からの体づくりによる出産への効
果を実証することにより、効果的な継続ケアの内容の評価、そしてより正常な出産経過をたどるため
の準備を明らかにすることは、医療者間の本来の役割分担を明確化することができる。また、こうし
た実績は、産婦人科医減少により産科閉鎖が相次ぐ茨城県内においても、多職種がどのように役割分
担をして妊産婦をよりよい妊娠出産体験にもっていけるように支援するかをデザインする基礎デー
タとして生かすことができる。
以上の観点から、4つの側面からアプローチを行う。
A 妊産婦継続ケアの有用性に関する文献研究:医療者間の協働と役割分担について明らかにする
B 妊産婦を支える医療機関、関係者の状況および改善点に関する調査
C 妊婦の体力と運動の実態調査
①成人女性が妊婦体験服を装着した際の体力調査
②妊娠時期別の妊婦の体力に関する横断調査
③産褥期女性への後ろ向き調査
D 妊娠中に継続的に体力つくりを進めた場合の効果について(来年度計画予定)
2.研究方法
A
文献研究
過去10年間(1997-2007年)にさかのぼって、日本語文献においては医中誌webにて「バースセン
ター」「院内助産院」「助産所」「自宅出産」「継続ケア」「安全性」「満足度」「経済効率」を
キーワードとして検索を行った。その他「助産師雑誌」「助産師」「ペリネイタルケア」について
は同期間のマニュアル検索を行い、関連性のある記事を抽出した。英語文献においてはMEDLINE 、
CINAHL、Cochrane Libraryにて「birth center」[midwifery-care]「out of hospital birth」「safety」
「cost-effectiveness」「satisfaction」をキーワードとして検索を行った。また、検索された文
献で使用されていた引用参考文献において、関連性があると思われた原著論文も抽出した。分析対
象の文献数は 90件であった。
B 過去3年以内に産科を標榜するまたは助産を行う茨城県内および関東圏内の医療施設に勤務する
産科医(約20-30名)、助産師(約100名)で研究の主旨に賛同する者を対象とする。方法は、
該当する施設の産科部長(医師)及び助産/看護師長(助産師)に研究協力依頼を郵送で行
い、返信のあった施設には医師用アンケート、助産師用アンケートを送付する。(2008年3
-4月)
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C
①茨城県立医療大学看護学科に在学する女子学生で周産期看護学の授業を履修中または履
修終了し、研究の主旨に賛同する者とし、女子学生に研究参加募集を行い、妊婦体験服装
着前後の体力(6分間歩行の距離・心拍変動、握力、骨盤底筋、を測定する。
②共同研究者の施設に通院する正常経過をたどる妊婦で妊娠中期(妊娠20週前後)から妊娠
末期(妊娠32週前後)の時期にあり、研究の主旨に賛同する者。
研究協力施設に通院する妊婦にアンケート調査および歩数および心拍の変化を測定する。
③共同研究者の施設に入院中の褥婦で、研究の主旨に賛同する者(合計100名程度)
(2008年3-4月)研究協力施設に入院中の褥婦にアンケート調査を行う。
以上、B,Cについては茨城県立医療大学倫理委員会にて研究計画書を申請し、承認を得ている。
3.研究結果
A 文献研究結果
文献検索の結果、収集した文献について、<経済効率><満足度><安全性>の視点で分類検討を行
った。①<経済効率>としては、国際的研究では、助産師主導のケアの方が効率がよい。②<満足度>
については1人の支援者が妊娠中から分娩、産褥を通してすべて継続して関わっていく継続ケアが妊産
婦の満足度に影響する。③<安全性>については、医療連携下における助産師主導の継続ケアと従来型
の病院ケアのRCTでは、うまく連携が行なわれた結果、有意に帝王切開率が減少し、他の安全に関する
臨床的結果は両群で差異がなく、安全性が担保されている対象の多くは、公的に整備された医療との連
携システムの中に組み込まれていた。
B
医師と助産師への郵送調査
調査用紙を作成し、3月に調査予定。
C
妊婦と体力に関する調査
①女子学生の妊婦体験服装着前後の体力 ②妊婦の体力測定
対象:①茨城県立医療大学看護学科および研究科(看護学専攻)10名
②出産施設通院中の妊婦7名
期間:2008年2月
調査内容:筋硬度測定(腰・足部)、スタビラーザー、握力、6分間歩行前後の心拍および歩行距離
妊婦に関しては3日間の歩行数
主な結果:女子学生の平均年齢は21.8歳、妊婦の平均年齢は27,1歳で妊娠週数は27週(21-39週)で
あった。女子学生では、妊婦体験服装着前後で有意差はなく、装着前の足部の筋硬度(前<後 p=.014)、
6分間歩行前後の心拍数(前<後 p=.025)であった。妊婦体験服装着した女性学生と妊婦との測定
で有意差がみられたのは、腰部の筋硬度では女子学生>妊婦(p=.02)であった。6分間歩行距離は
妊婦の方が女子学生よりも長い傾向であったが有意差はみられなかった。
4.考察(結論)
文献研究では、妊産婦をめぐる支援体制において経済性、妊産婦の満足度、安全性の視点から、ケ
ア内容、医療関係者の役割分担と人材活用と経済効率の問題、安全性の確立に向けたシステムやイン
フラ面での整備等が今後とも検討されるべき課題であることが明らかになった。
妊婦の体力測定では、基礎データの一部が得られたが、今後解析を詳細にする必要性がある。 ま
た、妊婦の事例をさらに増やし、日常生活情報と比較しデータ分析をする必要性がある。
5.成果の発表(学会・論文等,予定を含む)
「助産師主導の妊産婦継続ケアの有用性に関する文献研究」 第22回日本助産学会学術集会(2008年3月神
戸)にて発表予定
6.参考文献
Waldenström, 1998, Lavender et al, 1999, Longworth et al, 2001, Coyle et al, 2001a, Coyle et
al, 2001b, The National Childbirth Trust, 2006 他
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