バイオテクノロジーを用いた地域植物資源の 育種学的活用に関する研究 The Study of Biotechnological Application for Breeding using Local Plant Resources 上野 敬一郎 2013 目 緒論 次 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 第 1 章 地域植物資源の探索と活用 ・・・・・・・・・・・・・ 6 -鹿児島県下で発見されたヒガンバナ属新種の成立解明を例として- 第 2 章 種 苗 増 殖 に お け る 組 織 培 養 法 の 改 良 と バ イ テ ク 育 種 へ の 応 用 26 第 1 節 多糖類産生土壌細菌によるオレガノ組織培養における 水浸状化制御法 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 27 第 2 節 再接種不要の細菌による水浸状化制御法の検証 第 3 節 ラズベリーの組織培養における種苗増殖への水浸状化制御法 の応用 第 4 節 第 3 章 ・ ・ ・ 36 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 42 シャクナゲの遺伝子組み換え技術の開発 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 47 突然変異育種を用いた地域特産作物の品種育成への応用 -輪ギクを例として- ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 72 第 1 節 組 織 培 養 を 用 い た キ ク の 変 異 誘 発 と 個 体 選 抜 技 術 の 確 立 ・ 74 第 2 節 無 側 枝 性 お よ び 低 温 開 花 性 等 有 用 変 異 選 抜 技 術 の 開 発 ・ ・ 86 第 3 節 イ オ ン ビ ー ム 再 照 射 に よ る 再 改 良 技 術 の 確 立 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 95 第 4 章 育成した新品種の全国展開と将来展望 - 鹿 児 島 県 育 成 品 種 , 秋 輪 ギ ク ‘ 新 神 ’ を 例 と し て - ・ ・ 1 34 第 1 節 鹿児島県における花き品種育成と栽培普及 第 2 節 品種の保護対策と管理 第 3 節 種苗供給システムの構築と全国展開に向けた方策 総合考察 摘要 ・ ・ ・ ・ ・ 135 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 137 ・ ・ 139 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 146 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 157 Su m mar y ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 16 0 引用文献 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 164 謝辞 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 177 学会誌公表論文リスト ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 178 緒 論 地域植物資源の活用 我が国は,北海道から小笠原諸島もしくは琉球列島に至る亜寒帯 から亜熱帯の気候のもとで多くの遺伝資源があり,地域生物資源活 用 大 事 典 (藤 巻 , 1998) で は , 地 域 の 活 性 化 に 役 だ つ 希 少 , 未 利 用 , 新 資 源 , 地 方 品 種 を 含 め , 植 物 資 源 253 種 が 掲 載 さ れ て い る . こ れ らの中には食用作物はもとより,染料や繊維原料作物,薬用植物, 観賞用植物および森林資源が含まれ,地域植物資源が衣食住につな がり日本の文化に結びつくものであることが示されている.一方, 国際的には生物多様性を守り,遺伝資源を持続的に利用していくた め の 枠 組 み と し て ,「 生 物 の 多 様 性 に 関 す る 条 約 ( C o n v e n t i o n o n B i o l o g i c a l D i v e r s i t y ; C B D : 1 9 9 3 )」 が 発 行 さ れ , 名 古 屋 市 で 開 催 さ れ た 同 条 約 の 締 約 国 が 集 ま る 生 物 多 様 性 条 約 第 10 回 締 約 国 会 議 ( Conference of the Parties 10; COP10: 2010) は 記 憶 に 新 し い . こ の 中 で ,1 ) 遺 伝 資 源 の 採 取・利 用 と 利 益 配 分 ( A B S:A c c e s s a n d B e n e f i t Sharing) に 関 す る 国 際 的 な 枠 組 み の 策 定 , 2) 生 物 多 様 性 が 失 わ れ る 速 度 を 2010 年 ま で に 減 少 さ せ る た め の 「 2010 年 目 標 」 の 検 証 と 新 た な「 ポ ス ト 2 0 1 0 年 目 標 」の 策 定 等 が 議 論 さ れ ,海 外 の 遺 伝 資 源 利用については厳しく規制や規定されるに至っている.これらの情 勢を含め,国内の地域植物資源についてはその重要度がさらに高ま っていると言えよう. 地域植物資源と園芸利用 ~鹿児島県を例として~ 鹿 児 島 県 レ ッ ド デ ー タ ブ ッ ク ( 鹿 児 島 県 , 2003) に よ る と , 鹿 児 島 県 は 九 州 の 南 端 に 位 置 し , 火 山 や 島 嶼 を 含 み , 県 域 が 東 西 約 270 km 南 北 約 600 km に 及 ぶ こ と か ら 様 々 な 生 物 資 源 の 宝 庫 と 言 わ れ て いる。県下には学術的にも価値がある南限種,北限種および固有種 が 多 く み ら れ , 植 物 約 3,100 種 を 含 め , 多 種 多 様 な 野 生 動 植 物 が 生 息・生育することが報告されている.これらの中には,オリエンタ -1- ルリリーの代表品種である‘カサブランカ’を始め,ユリ類園芸品 種の交雑親として用いられてきたテッポウユリやタモトユリ,ウケ ユリが含まれる.また,街路樹や庭園花木として広く利用されてい る ク ル メ ツ ツ ジ は , 江 戸 時 代 か ら 品 種 改 良 が 行 わ れ ( 赤 司 , 1 9 1 9 ), そ の 源 流 は 霧 島 性 ツ ツ ジ 類 と さ れ る ( 倉 重 ・ 小 林 , 2 0 0 8 ). さ ら に , 鉢花や庭園花木として利用される西洋シャクナゲの中でも屋久島交 配品種と言われる品種群の交雑親には,矮性で草姿に優れる屋久島 シャクナゲが用いられてきた.このように,現在の様々な園芸品種 の交雑親に鹿児島県ならびに九州の固有種や自生種が用いられてき た. 一 方 , 2 011 年 現 在 , 鹿 児 島 県 の 農 業 産 出 額 は 4 , 0 0 0 億 円 を 越 え 全 国 4 位 に 位 置 し ( 鹿 児 島 県 農 政 部 , 2 0 1 2 ), 南 の 食 糧 基 地 と し て 消 費 者ニーズに対応した「かごしまブランド」をはじめ,安心・安全な 食の供給を図り, 「 食 と 農 の 先 進 県 」を 目 指 し て い る( 鹿 児 島 県 農 政 部 , 2 0 1 2 ).ま た ,農 業 産 出 額 の 部 門 別 構 成 比 は ,畜 産 5 7 % , 耕 種 4 1 % となっており,耕種部門においてサツマイモ,サトウキビ,茶,露 地野菜,花き類等の畑作物は,全国上位の地位を占めている(鹿児 島 県 農 政 部 , 2 0 1 2 ).こ れ ら 多 数 の 品 目 に 対 し て ,主 要 作 物 類 は 国( 独 法)の品種育成と連携を図る他,水稲,花き類,豆類等の野菜,果 樹等では交雑育種を含めた品種改良を進め,主要作物の系統選抜や 地域適応性の高い優良品種の育成を図っている. バイオテクノロジーの活用 このような,多品目を対象とした育種試験においてバイオテクノ ロジーの活用場面を探るため,著者らは地域植物資源の探索,種苗 増殖の効率化,および突然変異による特性改良等を検討し,実用品 種 を 育 成 す る こ と に よ り ,こ れ ら の 技 術 の 有 効 性 を 実 証 し た .ま た , 育成品種の普及を目的として,品種保護や種苗供給体制について検 -2- 討し,許諾システムと安定した種苗供給体制により,全国での栽培 を実現した. 本研究では鹿児島県の多様な地域植物資源のバイオテクノロジー による育種学的活用を例として,鹿児島県下で発見されたヒガンバ ナ属新種の成立解明による地域植物資源の探索と活用,細菌の共生 関係を利用した培養植物の水浸状化抑制法による組織培養法の改良 と分子育種への応用,およびイオンビーム照射による突然変異育種 の地域特産作物への適用について検討した.さらに,この手法で育 成したキク新品種の全国展開への方策,問題点,およびその将来性 について行政的観点からも考察した. 第 1 章では,ヒガンバナ属植物を例に,鹿児島県下で発見された ヒガンバナ属新種の成立解明を通して,地域植物資源の探索と活用 について検討した.ヒガンバナ属は中国雲南省を起源中心地とし, 朝鮮半島を経由して分布を拡大した春出葉型と台湾・南西諸島を経 由 し て 分 布 を 拡 大 し た 秋 出 葉 型 の 両 種 が あ る( 栗 田 , 1 9 9 8 ). 鹿 児 島 県下にはその両種が自生することから,ヒガンバナ属植物分布の二 次中心地と言える.これらから自然交雑により発生した新種の起源 を解析し,花粉貯蔵や胚培養の検討から種間雑種育成に向けた技術 の開発を行った. 第 2 章では,非病原性の多糖類産生細菌に着目し,植物と細菌類 の共生関係を利用した組織培養中における植物体の水浸状化抑制法 の検討およびこの手法を遺伝子組み換え技術へ応用し,バイオテク ノロジーにおける微生物の活用法について検討した.特に,組織培 養を利用した種苗生産や供給の際,植物体が水分過剰で水浸状化を 呈し順化効率が低下する.このような問題に対して,細菌接種法 ( Shetty ら , 1995) を 活 用 し , そ の 効 果 が 認 め ら れ る 菌 株 に 加 え , 同 様 の 効 果 を 示 す 菌 株 の 探 索 を 行 い ,水 浸 状 化 回 避 効 果 を 検 討 し た . -3- また,接種した菌の植物体中における定着性や宿主範囲の拡大を解 析し,実用面での活用の可能性を論じた. ツツジ属についてこの章では,屋久島交配シャクナゲの品種であ る‘パーシーワイズマン’を用いて遺伝子組み換え技術の開発を行 い,木本性栄養繁殖作物の品種改良手法として技術の確立を検討し た. 第 3 章では,近年従来の放射線より高エネルギーを局所的に付与 し,広い変異スペクトルと高い変異率が得られるイオンビーム照射 ( Ta n a k a ら , 2 0 1 0 ) に 着 目 し , 輪 ギ ク を 例 に 栄 養 繁 殖 作 物 に お け る イ オ ン ビ ー ム を 用 い た 突 然 変 異 育 種 法 ( 永 富 , 2003) と , 実 用 品 種 育成に向けた技術開発について検討した.栄養繁殖作物についても 育種の基本は交雑によるが,特に高次倍数性作物であるサツマイモ やサトウキビの場合,品種育成場所では毎年数千~数万個体の交雑 実 生 か ら ,長 期 間 に わ た る 選 抜・育 成 プ ロ グ ラ ム が 実 施 さ れ て い る . このような栄養繁殖作物について,交雑を必要としない品種改良の 手法として,遺伝子組み換えの他,放射線照射等による突然変異育 種が挙げられる.これらは,基本的な品種特性を維持し,新たな特 性を付加できる点で極めて有用な手法である.しかし,実用レベル の優良変異個体を得るためには,交雑育種と同程度の個体数から選 抜・育 成 す る 効 率 の 良 い 培 養 系 と 選 抜 手 法 が 必 要 で あ る .本 章 で は , 第 2 章で開発した組織培養の効率化に関する知見を基礎とし,第 1 章 の 細 胞 組 織 科 学 的 知 見 を 基 に , 核 DNA 量 の 選 抜 へ の 利 用 を 図 る とともに,有効な選抜手法の開発により,輪ギク実用品種の育成を 通してイオンビーム照射の育種的利用法の確立について検討した. 第 4 章では,本研究により育成した輪ギク新品種の普及・展開を 図る上で育成者権の保護と種苗供給体制が課題となる.そこで,品 種 識 別 DNA マ ー カ ー の 開 発 の 他 , 本 県 育 成 品 種 の 許 諾 シ ス テ ム や 種 苗 供 給 体 制 を 検 討 し ,育 成 品 種 の 普 及 と 全 国 展 開 に つ い て 論 じ た . -4- また,突然変異や遺伝子組み換えによる品種育成は,基本的に従属 品種となることから,育成者権を保持していない品種については変 異誘発の対象とできないという問題がある.そのような場合の対応 策として民間企業との連携・共同について検討した. 本論文の研究成果から総合考察では,地域植物資源の探索と活用 の成功事例として鹿児島県種子島特産の「安納いも」を取り上げ, その地域ブランドとしての発展過程を論じた.また,茎頂培養にお ける内生菌の存在を提起し,第 2 章の細菌との共生関係による培養 効率向上の他,エンドファイト様の機能性付加について論じた.さ らに,イオンビーム照射によるキクの品種育成を通して,イオンビ ームによる突然変異育種と今後の展開について論じた. -5- 第 1 章 地 域 植 物 資 源 の探 索 と活 用 -鹿 児 島 県 下 で発 見 されたヒガンバナ属 新 種 の成 立 解 明 を例 としてー 地域植物資源には植物本来の分布拡大により,日本国内に自生し ているものの他,人の手によりもたらされ,定着し在来種として存 在するものも数多く含まれている.古くは稲作の伝搬をはじめ,茶 や椿も薬用および工芸作物としてもたらされ,日本に定着した作物 である.甘藷は江戸時代に琉球王朝から寄贈され,種子島で栽培に 成功し日本全国に広がり,多くの飢饉を救ってきた歴史がある(か ご し ま さ つ ま い も 小 辞 典 , 2005) . ま た , 全 国 各 地 の 畦 畔 や 墓 地 に 分布するヒガンバナは,食用,薬用として渡来し,救荒作物として 広 が っ た ( 松 江 , 1994) と さ れ て い る . 本 論 で は , 地 域 植 物 資 源 の 中からヒガンバナを例にその探索と活用について論じた. L y c o r i s 属 植 物 は ,中 国 か ら 日 本 に か け て 1 5 種 ほ ど 分 布 し て お り , 我 が 国 に は 5 種 が 自 生 も し く は 半 自 生 し て い る ( Fig. 1-1-1 A-E) . な か で も 鹿 児 島 県 下 に は 豊 富 な 自 生 が 見 ら れ , い わ ば Lycoris 属 植 物の二次中心地といっても過言ではない.その当地において,新し い 系 統 と 思 わ れ る 2 種 類 の Lycoris が 見 出 さ れ た . こ れ ら は , 故 大 野 一 矢 氏 ( 鹿 児 島 県 根 占 町 ) が 県 内 の Lycoris 属 を 収 集 し た 際 に 選 抜 し , 数 年 前 か ら L. traubii Traub. ( シ ョ ウ キ ズ イセン)の選抜種として‘オオスミ’と‘ベニサツマ’という品種 名で市販されるに至っている.花色は前者が樺色で後者が朱紅色で あ り 花 色 以 外 の 形 態 的 な 差 異 は ほ と ん ど 見 ら れ な い (Fig. 1-1-1 F, G). 著者らは県内をくまなく調査した結果,これらが薩摩半島南端の 鹿児島県山川町を中心とした地域に限定して自生していることをつ きとめ,さらにその形態,花色素,花粉稔性および核型分析などの 調 査 に よ り ,両 者 が 同 一 起 源 の 雑 種 ,つ ま り L . s a n g u i n e a M a x i m . ( キ -6- ツ ネ ノ カ ミ ソ リ ) と L. traubii の 交 雑 に よ る も の で あ る と 推 定 し た ( 野 添 ら , 1978; 上 野 ら , 1983) . 本 実 験 で は , こ れ ら の 成 立 を 実 証 す る た め , L. sanguinea と L. traubii の 人 為 的 な 交 雑 を 行 い , 両 親 種 と こ の 2 系 統 の Lycoris, な らびに得られた交雑実生について形態学的,細胞学的な観察から比 較 検 討 を 行 っ た . ま た , L. sanguinea と L. traubii の 自 然 交 雑 の 可 能 性を探るため,両種の分布ならびに開花期についての調査もあわせ て行った. な お ,本 報 で は 新 し い 系 統 の L y c o r i s を 以 下 L . s p . と 示 す こ と と し , 花 色 が 樺 色 (straw colored)の 方 を L. sp. A, 朱 紅 色 (vermilion)の 方 を L. sp. B と 示 す こ と と す る (Fig. 1-1-1 F, G). ま た , 稲 荷 山 (1953)は シ ョ ウ キ ズ イ セ ン を L . a u r e a H e r b . と 表 記 し て い る が ,日 本 産 と 中 国 産 の 黄 色 ヒ ガ ン バ ナ を 別 種 と し た Hayward (1957)の 分 類 に 従 っ て , シ ョ ウ キ ズ イ セ ン の 学 名 は , L. traubii の 学 名 を 採 用 し た . 材 料 および方 法 1 交雑実験 Lycoris traubii に は 染 色 体 数 2n=12, 13 お よ び 14 の 3 種 類 が 知 ら れ て い る が ( Bose, 1958; Bose・Flory, 1963; 稲 荷 山 , 1953) , 鹿 児 島 県 下 の も の は ほ と ん ど が 2 n = 1 3 型 で あ り ,よ く 結 実 す る .ま た ,2 n = 1 2 お よ び 2n=14 型 の 配 偶 子 が い ず れ も 1 種 類 の 核 型 , す な わ ち 前 者 が 5V+1R 型 , 後 者 が 4V+3R 型 の 配 偶 子 を 生 じ る ( 稲 荷 山 , 1953; 竹 村 , 1 9 6 2 )と さ れ て い る .こ の 例 に 準 じ る と 2 n = 1 3 型 は 5 V 型 と 4 V 型 の 配偶子をあわせもつと考えられ,後代に 2 種類の核型を期待しうる こ と か ら , 交 雑 親 と し て は 2n=13 型 の L. traubii を 用 い た . ま た ,L . s a n g u i n e a は 7 月 中 旬 ~ 8 月 上 旬 に 開 花 し ,L . t r a u b i i は 9 月中旬~下旬に開花するため,開花期に 2 か月近い差がある.そこ で , L. sanguinea を 花 粉 親 と す る 場 合 は , 開 花 期 に 花 粉 を 採 集 し , デ シ ケ ー タ ー( シ リ カ ゲ ル 入 り )中 で 室 温 乾 燥 後 ,-20℃ の 低 温 条 件 -7- 下 で 貯 蔵 し た も の を 交 雑 に 供 し た .こ れ に 対 し て ,L. traubii を 花 粉 親 と し て 用 い る 場 合 は , 秋 咲 き 性 の L. sanguinea が 新 し く 見 つ か っ た の で こ れ を 母 本 と し た . こ れ ら 秋 咲 き 性 の L. sanguinea は , 1981 年以降著者らの調査で九州中部から南部にかけて分布することが明 ら か に な っ た も の で , 特 に 鹿 児 島 県 産 の も の は L. traubii と 開 花 期 が完全に一致するため,新鮮な花粉による交雑が可能であった.な お,花粉の低温貯蔵の影響を確認するため,交雑する前に予め新鮮 および貯蔵花粉の発芽率を次の方法により調査した.すなわちホー ル グ ラ ス に 発 芽 培 地( グ ル コ ー ス 10%, 寒 天 1%)を と り ,蒸 留 水 を 1 滴 滴 下 し た 上 に 花 粉 を ま き ,保 湿 し た 状 態 で 20℃ ,24 時 間 培 養 し て花粉管の伸長した花粉粒を計測した. 交雑は露地育成植物を母本とし,開花直後の開葯前に除雄し,受 粉 後 に 袋 が け を 行 っ た .受 粉 1 ~ 1 . 5 か 月 後 ,種 皮 が 黒 色 を 呈 し た 完 熟した時点で採種した. 2 核型分析 体 細 胞 染 色 体 の 観 察 は , 根 端 を 前 処 理 と し て 0.05%コ ル ヒ チ ン 溶 液 に 6 時 間 侵 漬 し ,固 定 せ ず に 1 N - H C l で 6 0 ℃ ,6 0 秒 間 解 離 し た 後 , 酢 酸 オ ル セ イ ン に よ る 押 し つ ぶ し 法( 田 中 ・ 浜 , 1 9 6 1 )に よ り 行 い , 竹 村 ( 1961) の 報 告 に 従 っ て 核 型 分 析 を 行 っ た . 結 果 および考 察 1 両 親 種 と L. sp. の核 型 Lycoris sanguinea は 22 本 の 棒 形 染 色 体 (rod-shaped chromosome) を 持 ち , 2n=13 型 の L. traubii は 9 本 の V 型 染 色 体 (metacentric chromosome) と 4 本 の 棒 状 染 色 体 を も つ て お り ( Fig. 1-1-2 A, B, T a b l e 1 - 1 - 1 ),こ れ は 稲 荷 山 ( 1 9 5 3 ) ,B o s e ( 1 9 5 8 ) ,お よ び B o s e ・ F l o r y (1963)の 報 告 と 同 様 で あ っ た . 他 方 , L. sp. の 染 色 体 数 は , 樺 色 の L. sp. A が 2n=17, 朱 紅 色 の L. sp. B が 2n=18 で , 前 者 の 核 型 は 5 本 -8- の V 型 染 色 体 を も つ 5V+12R 型 ,ま た ,後 者 の そ れ は 4 本 の V 型 染 色 体 を も つ 4V+14R 型 で あ っ た ( Fig. 1-1-2 C, D, Table 1-1-1) . 周 知 の よ う に ,L y c o r i s 属 植 物 の う ち 雑 種 起 源 に よ り 成 立 し た 種 と し て は ,L. albiflora Koidz. が あ る . こ の 種 の 核 型 は 5V+12R 型 で あ る こ と か ら ,22R 型 の L. radiata Herb. ver. pumila Hort.と 10V+2R 型 の ,L . t r a u b i i 間 の 種 間 交 雑 に よ り 発 生 し た も の と 推 定 さ れ( 稲 荷 山 , 1931, 1932, 1953) , 実 際 に 両 種 を 交 雑 す る こ と に よ っ て , そ の 発 生 起 源 が 実 証 さ れ た ( 竹 村 , 1962) . す な わ ち , 減 数 分 裂 の 際 , 22R 型 の L. radiata ver. pumila は 11R 型 の , 10V+2R 型 の L. traubii は 5V+1R 型 の 配 偶 子 を そ れ ぞ れ も つ こ と か ら ( 稲 荷 山 , 1953) , 両 種 の 交 雑 種 は 両 者 の 配 偶 子 の 和 ,つ ま り ,L . a l b i f l o r a と 同 様 の 5 V + 1 2 R 型 の 核 型 を も つ こ と に な る . こ の 例 に 準 じ て 考 え る と , 9V+4R 型 の L. traubii か ら は 減 数 分 裂 に よ り 5V+1R と 4V+3R が 1:1 の 割 合 で で き る . こ れ が L. sanguinea か ら の 配 偶 子 11R と 受 精 に あ ず か る と , 雑 種 は 5V+12R 型 と 4V+14R 型 の 核 型 を も つ こ と に な る . 著 者 ら が 観 察 し た L. sp.の 2 種 類 の 核 型 は , こ の 考 え の 正 当 性 を 示 唆 し て い る. 2 交雑実験 Lycoris traubii を 母 本 と し L. sanguinea を 花 粉 親 と し た 交 雑 は 1981 年 9 月 に , ま た L. sanguinea を 母 本 と し L. traubii を 花 粉 親 と し た 交 雑 は 1 9 8 3 年 9 月 に 行 い ,両 交 雑 で 雑 種 種 子 を 得 る こ と が で き た (Table 1-1-2). な お , 両 交 雑 に お け る 結 実 率 は , L. sanguinea を 母 本 と し た 場 合 の 3 0 . 1 % に 比 べ て ,L . t r a u b i i を 母 本 と し た 場 合 は 7 . 3 % と 極 端 に 低 か っ た . こ の 違 い は , 母 本 と し た L. sanguinea の 結 実 性 が L. traubii の そ れ よ り 高 い こ と に 起 因 す る と も 考 え ら れ る が , 花 粉 の 新 鮮 さ の 違 い , す な わ ち L. traubii×L. sanguinea の 場 合 は 発 芽 率 60%程 度 の 貯 蔵 花 粉 を , ま た , L. sanguinea ×L. traubii の 場 合 は 発 芽 率 96.5%の 新 鮮 花 粉 を 用 い た こ と も 関 与 し て い た と 考 え ら れ る . -9- いずれにしても,正逆交雑で種子が得られ,未発芽の種子を含む も の の 雑 種 個 体 が 得 ら れ た こ と (Table 1-1-2)は , 両 種 は 交 雑 す る 機 会さえあればたやすく交雑し,雑種が生じることを示唆している. 3 交 雑 実 生 の外 部 形 態 Lycoris traubii の 実 生 苗 は 葉 先 が と が り , 葉 幅 が 中 央 で 広 く , 広 線 形 の 葉 を し て お り , L. sanguinea の 実 生 苗 は 葉 先 が 丸 く , 葉 幅 は 一 定 で 帯 状 の 葉 を し て い る (Fig. 1-1-3). こ の よ う な 両 種 の 特 徴 は , 開 花 株 の 葉 に も 同 様 に 認 め ら れ る (Fig. 1-1-4). こ の ほ か , 出 葉 期 , 葉の光沢および葉長/葉幅比など他の諸形質においても,実生苗と 開 花 株 の 特 徴 は 同 じ で あ っ た (Table 1-1-3). こ れ ら の こ と は Lycoris 属植物の場合,葉に関する諸形質が植物の齢によって変わらないこ とを意味する. つぎに,正逆双方の交雑において得られた交雑実生は,生育の極 端に劣る個体を除くと形態的な個体間差はほとんど認められなかっ た . ま た こ れ ら の 葉 は , 先 端 の 形 と 葉 幅 が 両 親 種 L. sanguinea と L. traubii の 中 間 的 形 質 を 示 し て い た (Fig. 1-1-3). こ れ は Fig. 1-1-4 に 示 し た L. sp. の 場 合 と 同 様 で あ る . さ ら に , 実 生 の 出 葉 期 , 葉 の 光 沢 , 葉 先 の 形 お よ び 葉 長 / 葉 幅 比 な ど の 形 態 的 特 徴 は , L. sp. の そ れ と ほ ぼ 同 じ で あ っ た (Table 1-1-3). こ れ ら の こ と は , L. sp. A お よ び B が L. sanguinea と L. traubii の 交 雑 に よ っ て 生 じ た と す る 著 者 らの推測を裏付けるものである. 4 交 雑 実 生 の核 型 Lycoris traubii×L. sanguinea の 組 合 せ か ら 得 ら れ た 実 生 の 内 訳 は , 5V+12R 型 5 個 体 , 4V+14R 型 3 個 体 , 5V+13R 型 の 異 数 体 1 個 体 , お よ び 4V+13R+1r 型 で 1 本 の 棒 状 染 色 体 に 欠 失 を 生 じ た も の 2 個 体 で あ っ た (Fig. 1-1-5, Fig. 1-1-6, Table 1-1-1) . こ れ に 対 し て , L. s a n g u i n e a × L . t r a u b i i の 組 合 せ か ら は ,2 1 個 体 の 実 生 が 得 ら れ た が , そ の う ち 染 色 体 を 観 察 し た の は 1 4 個 体 で あ っ た .こ れ ら の 核 型 と 個 - 10 - 体 数 は , 5V+12R 型 11 個 体 , 4V+14R 型 1 個 体 , お よ び 4V+1v+12R 型 で 1 本 の V 型 染 色 体 に 欠 失 を 生 じ た も の 2 個 体 で あ っ た (Fig. 1-1-6, Table 1-1-1). これらのことから,得られた交雑実生の中には,異数体や一部の 染 色 体 が 欠 失 し て 染 色 体 異 常 を き た し た 個 体 が ,調 査 し た 2 5 個 体 中 5 個 体 ( 2 0 % ) と か な り 高 い 頻 度 で み ら れ る も の の ,こ れ ら は 生 育 が 著 し く 劣 っ て い る こ と か ら 自 然 界 で は 消 滅 し た と 考 え ら れ る .そ し て , こ れ ら の 交 雑 か ら 基 本 的 に は L. sp. A お よ び B と 同 様 の 2 種 類 の 核 型 (5V+12R 型 お よ び 4V+14R 型 )が 生 じ る こ と が 実 証 さ れ た . 5 両 親 種 の分 布 と開 花 期 以 上 述 べ た よ う に , L. sp. A お よ び B は L. traubii と L. sanguinea の交雑後代実生と出葉期,外部形態および核型が一致し,両種の自 然交雑によって成立したとする著者らの仮説が支持されたことにな るが,問題は両種の自然開花期が大幅に異なる点で,両種の開花期 がいつ,どこで一致し,どのような形で自然交雑が行われたのか, 説 明 が 困 難 で あ る . そ こ で , 上 述 し た 実 験 と 併 行 し 九 州 に お け る L. traubii と L. sanguinea の 分 布 , な ら び に 開 花 期 に つ い て の 調 査 を 進 めた.その結果,前者は一般に知られるように,主に九州の南西海 岸沿い,特に鹿児島県下に多数分布し,開花期は 9 月中旬~下旬の 秋 咲 き で あ っ た (Fig. 1-1-7). そ れ に 対 し , 後 者 は 九 州 の 北 ~ 中 部 の 山間部には多いものの,鹿児島県下では一般に霧島から高隈山系に 自生し,その開花期は 7 月中旬~8 月上旬の夏咲きであった. し か し な が ら , Fig. 1-1-7 に 示 し た よ う に 1982 年 に 至 っ て 著 者 ら は 熊 本 県 球 磨 郡 相 良 村 ( a ) お よ び 宮 崎 県 西 臼 杵 郡 高 千 穂 町 ( b ) で ,形 態 的 に は 夏 咲 き の L. sanguinea と ほ と ん ど 変 わ ら な い , 秋 咲 性 ( 9 月 上 旬 ~ 中 旬 咲 き ) L. sanguinea の 存 在 を 確 認 し た . さ ら に 調 査 を 進 めることにより,個体数は圧倒的に少ないものの,それは鹿児島県 下 に も 及 ん で い る こ と が 判 明 し た .具 体 的 に は ,1983 年 に 鹿 児 島 市 - 11 - 皆 与 志 町 (c)お よ び 川 辺 郡 知 覧 町 (d)で , 翌 1984 年 に は 揖 宿 郡 山 川 町 (e)で さ ら に 遅 咲 き の 秋 咲 き 系 統 ( 9 月 中 旬 ~ 下 旬 咲 き ) が 自 生 も し く は 民 家 の 庭 先 に 植 栽 さ れ て い る の を 見 出 し た . 特 に L. sp. A お よ び B が 濃 密 に 分 布 す る 山 川 町 成 川 で 秋 咲 き の L. sanguinea が 見 出 さ れ ,し か も 成 川 の 近 隣 の 集 落 で は ま っ た く そ れ が 見 出 さ れ な か っ た . これらのことは,分布ならびに開花期のいずれからみても,鹿児 島県の自然条件下で,特に薩摩半島最南端の山川町成川一帯で両種 の 自 然 交 雑 が お こ り , 新 し い 雑 種 の Lycoris が 発 生 し た こ と を 示 唆 するものであった. 6 種 の分 類 について 小 松 崎 (1961)は L. traubii の 球 根 に 混 入 し て い た 朱 紅 色 の Lycoris を ア ケ ボ ノ シ ョ ウ キ ラ ン と い う 名 で 紹 介 し て い る . こ の Lycoris に つ い て ,竹 村( 私 信 )は 花 色 ,花 粉 稔 性 お よ び 核 型 か ら L. sanguinea と 8V+6R 型 の L. traubii と の 交 雑 に よ り 生 じ た 雑 種 と 推 測 し “ , L. × rubroaurantiaca Komatsuzaki”の 学 名 で , 小 松 崎 氏 と 共 に 新 種 の 発 表 を行う予定であった.ところが,小松崎氏の死去にともない,この Lycoris は 正 式 に 種 と し て 発 表 さ れ な い ま ま 現 在 に 至 っ て い る . 一 方 , 米 国 で は 正 式 に 種 と し て 発 表 さ れ て い な い が , L. “ cinnabarinam ” と い う Lycoris が 知 ら れ て い る . こ れ は 前 述 の Lycoris と 同 様 に , 日 本 か ら 輸 入 し た L. traubii の 球 根 の 中 に 混 じ っ て い た も の で ,W i l l i a m s ( 1 9 8 3 ) は こ の L y c o r i s に つ い て ,花 色 が 朱 紅 色 で 核 型 が 4V+14R 型 で あ り , 花 粉 稔 性 が 低 い こ と か ら , 竹 村 と 同 様 に L. sanguinea と 8V+6R 型 の L. traubii と の 交 雑 に よ り 生 じ た 雑 種と推測しているが,開花期などの違いから人為的な交雑種であろ うと報告している. こ れ ら の こ と か ら , ア ケ ボ ノ シ ョ ウ キ ラ ン と L. “ cinnabarinam” の 両 者 は 朱 紅 色 の 花 色 を も つ 4V+14R 型 の L. sp. B と 同 一 と 考 え ら れ る . ま た , 前 述 の ‘ オ オ ス ミ ’ と ‘ ベ ニ サ ツ マ ’ は , そ れ ぞ れ L. - 12 - sp. A と B で あ る が , こ れ ら は L. traubii の 選 抜 種 と し て つ け ら れ た 品種名であり,これらについても正式な種としての発表はなされて いない. こ れ ら の Lycoris が い ず れ も 種 と し て 発 表 さ れ な か っ た 大 き な 理 由 の ひ と つ は , 繰 り 返 し 述 べ た よ う に , L. sanguinea と L. traubii の 開花期が大幅に異なり,自然交雑の可能性が低いと考えられていた ことに起因する.しかしながら,前述のように鹿児島県下で両種の 自然交雑の可能性が極めて高いことが示唆され,しかも,両種の人 為 的 な 交 雑 か ら 得 ら れ た 実 生 は ,L . s p . A お よ び B と 核 型 が 一 致 し , 形 態 的 に も 類 似 す る も の で あ っ た . 以 上 の 結 果 か ら 判 断 す る と , L. sp. は 秋 咲 き の L. sanguinea と 9V+4R 型 の L. traubii と の 自 然 交 雑 に より,鹿児島県下で誕生したと考えるのが最も妥当であろう. こ れ ら の 結 果 か ら ,現 在 こ の 新 し い 系 統 の L y c o r i s は L . s a n g u i n e a と L . t r a u b i i と の 自 然 交 雑 に よ る 雑 種 起 源 の 種 ,L . × r u b r o a u r a n t i a c a と し て 栗 田 は 自 身 の ホ ー ム ペ ー ジ ( ヒ ガ ン バ ナ 属 の 分 類 : http://www5e.biglobe.ne.jp/~lycoris/taxonomy-3.html ) で 整 理 し , 秋 咲 き 性 の L. sanguinea に つ い て も 秋 咲 き 性 の 分 類 群 (taxon)を 与 え , 本研究の結果が周知されるに至っている. 本章では,地域植物資源としてヒガンバナ属植物を例に鹿児島県 下 で 発 見 さ れ た Lycoris 属 新 種 の 成 立 解 明 を 中 心 に 論 じ た . 一 般 に 知 ら れ て い る ヒ ガ ン バ ナ (L. radiata Herb.) は 3 倍 体 で , ほ と ん ど 結実することなく分球により旺盛に増殖することから,中国大陸か ら渡来し,救荒作物として人の手により分布を拡大したものと推察 さ れ る . そ れ に 対 し て 種 子 で も 繁 殖 す る L. sanguinea は 全 国 の 山 野 に ,L . t r a u b i i は 南 西 諸 島 か ら 九 州 の 沿 岸 部 に 日 本 の 固 有 種 と し て 分 布 し て お り , L. sp. A お よ び B は 両 親 種 の 分 布 の 接 点 で 誕 生 し た . 鹿児島県内のこれらヒガンバナ属植物を収集した故大野一矢氏の意 - 13 - 志を継ぎ,鹿児島県南大隅町根占の南大隅農園では,ここで取り上 げた 2 種のヒガンバナを含めて,ヒガンバナ属植物の球根生産が行 われている.また,同農園では結実した種子から実生を育成し,得 られた個体を選抜して新たな品種として生産販売が行われており, 多数の種苗会社のカタログにより全国に販売されている.このよう にヒガンバナ属植物は地域植物資源として活用され,地域興しの素 材として利用されるに至っている. - 14 - 要 約 地域植物資源には植物本来の分布拡大や,人の手によりもたらさ れ,在来種として定着したものなど数多く含まれている.全国各地 の畦畔や墓地に分布するヒガンバナは,食用,薬用として渡来し, 救荒作物として広がったものとされている.本論では,地域植物資 源の中からヒガンバナを例にその探索と活用について論じた. 鹿児島県下で発見された 2 種類のヒガンバナ属植物について,形 態的な諸特性や染色体の核型分析からショウキズイセン (Lycoris traubii) と キ ツ ネ ノ カ ミ ソ リ (L. sanguinea) の 交 雑 種 と 推 定 し , そ の両親種と考えられる 2 種の種間交雑,雑種実生の形態,染色体分 析 ,両 親 種 の 分 布 お よ び 開 花 期 の 調 査 を 行 っ た .そ の 結 果 ,L . t r a u b i i ×L. sanguinea お よ び L. sanguinea ×L. traubii の 正 逆 双 方 の 交 雑 か ら 得 ら れ た 種 間 交 雑 実 生 の 形 態 は 両 親 種 の 中 間 型 を 示 し , L. sp. A お よ び B と 一 致 し て い た .ま た ,交 雑 実 生 の 染 色 体 数 な ら び に 核 型 は ,L . s p . A お よ び B と そ れ ぞ れ 一 致 す る 5 V + 1 2 R 型 と 4 V + 1 4 R 型 で あ っ た .さ ら に ,L . s a n g u i n e a お よ び L . t r a u b i i の 分 布 な ら び に 開 花 期 の 調 査 か ら ,秋 咲 き 性 の L . s a n g u i n e a の 存 在 を 確 認 し ,特 に L . s p . A および B が濃密に分布する鹿児島 県山川町成川で,開花期が安全 に 一 致 す る L. sanguinea と L. traubii が 同 所 的 に 分 布 す る こ と を 確 認した.これらの結果から,鹿児島県下で発見された 2 種類のヒガ ンバナ属植物は,ショウキズイセンと秋咲きキツネノカミソリの自 然交雑により鹿児島県下で発生したことを証明した. 現在,以上の結果を基に,これらのヒガンバナ属植物は雑種起源 の種として分類され,鹿児島県南大隅町で球根生産が行われている. また,同農園で得られた実生から選抜した新たな品種も含めて,種 苗会社のカタログにより全国に販売され,地域植物資源が地域興し の素材として利用されるに至っている. - 15 - A Fig. 1-1-1 B C D E F G Characteristics of Lycoris species in Kagoshima, Japan. A; L. radiata (2n=33), B; L. albiflora (2n=17), C; L. squamigera (2n=27), D; L. traubii (2n=13), E; L. sanguinea (2 n=22), F; L. sp. A (2 n=17), G; L. sp. B (2 n=18) - 16 - Fig. 1-1-2 Serial arrangement of the somatic chromosomes at metaphase of Lycori s species. A; L. sanguinea (autumn flowering type. 2n=22=22R). B; L. traubii (2n=13=9V+4R), C; L. sp. A (2n=17=5V+12R), D; L. sp. B (2n=18=4V+14R) - 17 - Fig. 1-1-3 Comparison of leaf shapes among seedlings of L. traubii, L. sanguinea and their inter-specific hybrids. A; L. traubii (2n=13), B; L. sanguinea (2n=22), C; L. traubii × L. sanguinea (2n=17), D; L. traubii × L. sanguinea (2n=18), E; L. sanguinea × L. traubii (2n=17), F; L. sanguinea × L. traubii (2n=18). - 18 - Fig. 1-1-4 Comparison of leaf shapes among the flowering-size plants of L. traubii, L. sanguinea and L. sp. A and B. A; L. traubii, B; L. sanguinea , C; L. sp. A, D; L. sp. B. - 19 - Fig. 1-1-5 Photomicrograph of the somatic chromosomes in root tip cell of inter-specipfic hybrids (L. traubii× L. sanguinea ). A-1,2; 2n=18=4V+14R, B-1,2; 2n=18=4V+13R+1r. Arrow indicates very small rod-shaped chromosome. - 20 - Fig. 1-1-6 Serial arrangement of the somatic chromosomes at metaphase of hybrids between L. sanguinea and L. traubii. A-D; L. traubii× L. sanguinea , E-G; L. sanguinea × L. traubii. A; 2n=17=5V+12R, B; 2n=18=4V+14R, C; 2n=18=5V+13R, D; 2n=18= 4V+13R+1r, E; 2n=17=5V+12R, F; 2n=18=4V+14R, G; 2n=17= 4V+1v+12R. - 21 - Fig. 1-1-7 Geographical distribution of L. sanguinea and L. traubii on the island of Kyushu. ; L. sanguinea (summer flowering type), ; L. sanguinea (autumn flowering type), ◎; L. traubii. a; Sagara village in Kumamoto prefecture, b; Takachiho town in Miyazaki prefecture, c; Kagoshima city in Kagoshima prefecture, d; Chiran town in Kagoshima prefecture, e; Yamagawa town in Kagoshima prefecture. - 22 - Table 1-1-1. Chromosome number and karyotype of Lycoris. Species and hybrids 2n Karyotype L. sanguinea L. traubii 22 13 22R y 9V + 4R No. of seedlings examined - L. sp. A L. sp. B 17 18 5V + 12R 4V + 14R - L. traubii × L. sanguinea 17 18 18 18 5V + 12R 4V + 14R 5V + 13R 5 3 1 2 L. sanguinea× L. traubii z y x z 17 18 18 z x 4V + 13R + r 5V + 12R 4V + 14R w 11 1 2 4V + v + 12R R = rod shaped (telocentric and acrocentric) chromosome, V = metacentric and submetacentric chromosome, r = very small rod-shaped chromosome, v = metacentric chromosome partially deleted. - 23 - Table 1-1-2. Result obtained by intra- and inter-specific hybridization. Conbination L. traubii self (2n=13) No. of pollinated flowers No. of fructified flowers (%) No. of seeds obtained No. of hybrid seedlings germinated 16 12 (75.0) 78 - 9 8 (88.9) 26 - L. traubii × L. sanguinea 150 11 ( 7.3) 11 11 L. sanguinea × L. traubii 93 28 (30.1) 28 21 L. sanguinea self (2n=22) - 24 - Table 1-1-3. Comparison of the morphological characteristics among Lycoris species and their F1 hybrids. Characters Leaf: Emergence Texture of surface Shape of apex Length/ width ratio: seedlingsz flowering-size plant Flowers: Colour of perianth L. traubii L . sp. L. sanguinea (autumnal) early-mid. Oct. early-mid. Jan. glossy glaucous acute obtuse 18.1±3.1 18.6±2.1 21.9 21.4±3.5 saffron yellow vermilion y (21-C) (41-A) (R.H.S.C.C.) z three-years old, y The Royal Horticultural Society Color Chart. L. traubii × L. sanguinea × L. sanguinea L. traubii A: (2n=17) B: (2n=18) mid. Oct. glaucous attenuate mid. Oct. glaucous attenuate mid. Oct. glaucous attenuate mid. Oct. glaucous attenuate 31.1±1.8 28.4±1.7 28.1±1.4 - 30.8±2.7 - straw-coloured (14-C) vermilion (41-B) - - - 25 - 第 2章 種 苗 増 殖 における組 織 培 養 法 の改 良 とバイテク育 種 への応 用 栄養繁殖性作物ではウイルスフリー化や優良系統の種苗供給を目 的として,茎頂培養による増殖が行われており,組織培養関連産業 において増殖の効率や安定化は種苗生産コストに直接結びつく重要 な 課 題 で あ る ( 大 澤 , 1994) . ま た , 遺 伝 子 組 み 換 え や 変 異 誘 発 等 バイオテクノロジーを用いた研究開発や品種育成においても,組織 培 養 の 効 率 化 や 安 定 化 は 成 功 に 導 く 重 要 な 課 題 と い え る .と こ ろ が , 組織培養において再生植物が培養容器中で水分過多となり水浸状化 を呈する場合が数多く認められ,その多くは正常な生育を示さず順 化が困難で,培養効率の低下につながっている.また,栄養系のク ローン増殖を行う上で,変異やキメラの発生は生産する種苗の品質 に 関 わ る こ と か ら ,安 定 し た 培 養 系 の 作 出 が 必 要 で あ る .本 章 で は , 栄養繁殖作物を対象として,非病原性の細菌を用いた水浸状化回避 による組織培養法の改善と育種への応用,ならびにキメラ発生回避 について論じた. 現在,バイオテクノロジーは遺伝子・タンパク質・酵素レベルへ と深化・融合し,医学・薬学・工学といった様々な分野で応用が図 られている.農学分野においても機能解析や遺伝子診断等への応用 が図られ,環境や育種部門での実用化や生産現場での活用が行われ ている.このような実用化や活用を図る上で,組織培養の効率化や 安定化はその基盤となる. 本章では,まず,多糖類産生の非病原性細菌を利用した組織培養 の 効 率 化 と 安 定 化 を 目 的 と し て , A T C C ( T h e A m e r i c a n Ty p e C u l t u r e C o l l e c t i o n )か ら 複 数 の 菌 種 を 選 択 し ,水 浸 状 化 回 避 機 能 を 検 証 し た . 次に,接種した細菌の植物体内における定着性と持続性について, 植物体内の残存性による確認と水浸状化回避機能を指標に検証を行 った.さらに,宿主範囲の汎用性として,科の異なる植物種を用い - 26 - てその機能を検証し,植物組織培養産業での実用性を検討した.一 方 , 多 糖 類 産 生 の 非 病 原 性 細 菌 と い う 点 で 共 通 す る , A grobacterium を用いた遺伝子組み換えの栄養繁殖性木本植物への適用を通して育 種場面での活用について併せて検討した. 第 1節 多 糖 類 産 生 土 壌 細 菌 によるオレガノ組 織 培 養 における 水浸状化制御法 水浸状化(ヴィトリフィケーション)は,組織培養による植物の クローン増殖を行う際の生理的な障害となっている (Debergh ら , 1 9 9 2 ; H a k k a r r t ・ Ve r s l u i j s 1 9 8 3 ; K e v e r s ら , 1 9 8 4 ) . 水 浸 状 化 し た 植 物は,膨張し肉厚となり,半透明で脆くなりやすい特徴がある. Kevers ら (1984) は , こ の 生 理 的 な 異 常 が , 植 物 体 内 の 水 分 過 剰 に 起因し,組織の葉緑素欠乏や木質化の低下を引き起こすと報告して いる. このように組織培養中の水浸状化は, 培養植物の順化や生育 の 障 害 と な る こ と か ら , 再 生 効 率 低 下 の 原 因 と 言 わ れ る (Bottcher ら , 1 9 8 8 ; P h a n ・ L e To u z e , 1 9 8 3 ; S a t o ら , 1 9 9 3 ; S h e t t y ら , 1 9 9 5 ; Z i m m e r m a n ・ C o b b , 1 9 8 9 ) . 組 織 培 養 中 の 水 浸 状 化 を 回 避 し ,ク ロ ー ン増殖における効率や品質を向上させる方策として,培地中の糖質 濃 度 の 増 加 (Rugini, 1986; Zimmerman ・ Cobb, 1989 ), 培 養 中 の 照 度 変 更 ( S u t t e r ・ L a n g h a n s , 1 9 7 9 ) ,ゲ ル 化 剤 濃 度 の 改 変 ( B o r n m a n ・ Vo g e l m a n n , 1 9 8 4 ; D e b e r g h ら , 1 9 8 1 ; Z i m m e r m a n ・ C o b b , 1 9 8 9 ) , 培 養 湿 度 の 低 減 (Bottcher ら , 1988), お よ び Bacto Peptone や そ の 分 子 量 別 の 添 加 (Sato ら , 1993)に よ り 改 善 が 検 討 さ れ た が , そ の 効 果 は 限 定的で有効な対策には至らなかった. She t t y ら (1995; 1996a, b) は , オ レ ガ ノ ( Origanum vulgare) の 試 験 管 内 培 養 か ら 水 浸 状 化 を 回 避 す る 多 糖 類 産 生 の 特 異 的 な 細 菌 (Pseudomonas sp.) を 単 離 し た . こ の Pseudomonas sp. を 接 種 す る こ - 27 - とにより,組織培養により栄養系で増殖し,クローン化した複数系 統 の オ レ ガ ノ に 対 し て ,1 0 ~ 1 5 日 後 に は 水 浸 状 化 を 回 避 す る こ と が 可能で,接種後の植物体は,水浸状化した植物体と比較して,水分 含量が低下し,葉緑素およびポリフェノール含量が増加して正常な 生 育 を 示 し た . そ し て , こ の Pseudomonas sp.-接 種 法 に よ る 水 浸 状 化 の 回 避 率 は 90%以 上 と な り , オ レ ガ ノ の 複 数 系 統 で そ の 効 果 を 確 認できた.この手法を用いることで,栄養繁殖作物の優良系統を効 率よく大量に増殖することが可能となり,クローン増殖植物の順化 効率やその後の生育向上に有効であると考えられた. こ の よ う に , こ の Pseudomonas sp. と オ レ ガ ノ の 特 定 系 統 を 用 い て,植物と根圏微生物(細菌類)の水浸状回避効果が検証された (Shetty ら , 1995; 1996a, b).そ こ で ,本 試 験 で は ,ア メ リ カ の ジ ー ン バンクから多糖類産生の非病原細菌を入手し,これまでの報告に基 づいて水浸状化の回避効果を比較することにより,菌種の選定と水 浸状化の回避効果を検証した. 材 料 および方 法 1 供 試 した細 菌 系 統 本試験で供試するため,以下の細菌系統をアメリカジーンバンク ( AT C C : T h e A m e r i c a n Ty p e C u l t u r e C o l l e c t i o n , R o c k v i l l e , M d . ) か ら 入手した.これらの系統はいずれも土壌から単離された菌体外に多 糖類を産生する細菌類である. ・ P s e u d o m o n a s m u c i d o l e n s AT C C 4 6 8 5 , ・ P s e u d o m o n a s s p . s t r a i n AT C C 3 1 4 6 1 , ・ P s e u d o m o n a s s t u t z e r i AT C C 3 1 2 5 8 , ・ B e i j e r i n c k i a i n d i c a AT C C 2 1 4 2 3 . 上 記 4 系 統 に オ レ ガ ノ の 水 浸 状 化 回 避 能 力 を 示 す Pseudomonas sp. strain F (Shetty ら , 1995) を 対 照 と し て 加 え , 実 験 に 供 し た . ま た , B. indica は 複 合 多 糖 類 を 産 生 す る 植 物 共 生 性 の 土 壌 細 菌 で あ る . - 28 - これら Pseudomonas 属 菌 種 は , 菌 体 の 消 失 を 避 け る た め , NA (nutrient agar; Sigma Che mical, St. Louis, Mo.) 培 地 も し く は YMA (yeast extract-mannitol agar; Golds ら , 1990) 培 地 で , B. indica は YMA 培 地 で 25℃ , 48~ 60 時 間 培 養 後 , 5℃ で 冷 蔵 保 存 し た . 2 オレガノの組 織 培 養 と菌 の接 種 本 試 験 で は , 以 前 の 試 験 (Shetty ら , 1995) か ら 得 ら れ た オ レ ガ ノ の 培 養 系 統 O-1 を 用 い て , 種 々 の 細 菌 類 の 効 果 を 比 較 し た . 培 養 植 物 は , 1 mg・L-1 BAP (6-benzylaminopurine), 3% シ ョ 糖 , 0.3% ジ ェ ラ ン ガ ム (Sigma Chemical, St. Louis, Mo.) を 含 む MS 培 地 (Murashige ・ Skoog 1962) で 継 代 培 養 を 行 っ た . 培 地 は pH 5.8 に 調 整 後 ,121℃ , 15 分 間 で 加 圧 滅 菌 し た .植 物 体 を 置 床 し た シ ャ ー レ は 20℃ 連 続 光 下 (40 µmol・m-2・s-1) で 培 養 し た . オ レ ガ ノ O-1 系 統 は , 30 日 間 隔 で 分 枝 し た シ ュ ー ト を 切 り 分 け , 継 代 培 養 す る こ と に よ り 増 殖 と 維 持 を 行 っ た . 継 代 培 養 の 30 日 後 , オ レ ガ ノ O-1 系 統 の 分 枝 し た 茎 頂 部 を 含 む シ ュ ー ト を 切 り 取 り , 前 述 の 5℃ で 保 存 し て い た 種 々 の バ ク テ リ ア の 菌 体 コ ロ ニ ー に 切 断 し た 基 部 を 接 触 さ せ , 菌 の 接 種 を 行 っ た . 接 種 し た シ ュ ー ト は , 1.5% の シ ョ 糖 を 含 ん だ 1/2 濃 度 の MS 培 地 に 置 床 し た . 各 処 理 は 1 シ ャ ー レ あ た り 7 つ の シ ュ ー ト を 置 床 し , 4 反 復 で 行 っ た . そ し て , 30 日間培養後に,水浸状化に関連する生理的な要素として,ポリフェ ノール,葉緑素,水分の含量および植物体の生育量を比較した. 3 水 浸 状 化 関 連 の生 理 的 指 標 水浸状化した培養植物体および細菌接種法により水浸状化を回避 した培養植物体について,ポリフェノール含量,葉緑素含量,水分 含量および新鮮重を測定した. a. ポリフェノール含 量 ポ リ フ ェ ノ ー ル 含 量 は ,C h a n d l e r ・ D o d d s ( 1 9 8 3 ) の 方 法 に よ り 計 測 し た .新 鮮 重 約 5 0 m g の 培 養 植 物 体 を 2 . 5 m l の 9 5 % エ タ ノ ー ル - 29 - に 浸 漬 し , -20 ℃ で 4 8 時 間 保 存 後 , 各 サ ン プ ル を T i s s u e Te a r o r ( B i o s p e c . P r o d u c t s , R a c i n e , Wi s . ) で 細 断 し , 1 3 , 0 0 0 g で 8 分 間 の 遠 心 分 離 を 行 っ た .そ の 上 澄 み 1 m l を 試 験 管 ( 1 6 × 1 0 0 m m ) に と り , 1 m l の 9 5 % エ タ ノ ー ル と 5 m l の 蒸 留 水 を 添 加 し て 攪 拌 し ,各 試 験 管 に 0.5 ml の 50% フ ォ リ ン 試 薬 (Folin-Ciocalteu reagent) を 加 え 静 置 し た .5 分 後 ,1 m l の 5 % N a 2 C O 3 を 添 加 し ,十 分 に 攪 拌 し た 後 , 60 分 間 静 置 し た . そ の 混 合 液 を 95% エ タ ノ ー ル を ブ ラ ン ク と し て 分 光 高 度 計 ( G e n e s ys s p e c t r o p h o t o me t e r : S p e c t r o n i c , In c . , R o c h e s t e r, N . Y. ) を 用 い て , 7 2 5 n m に お け る 吸 光 度 を 測 定 し た . 検 量 線 は ,測 定 時 毎 に 95% エ タ ノ ー ル に 溶 解 し た 様 々 な 濃 度 の gallic acid の 吸 光 度 か ら 新 鮮 重 あ た り の ポ リ フ ェ ノ ー ル 含 量 (mg / g fresh weight) を算出し,乾物あたりの含量についてもあわせて算出した. b. 葉 緑 素 含 量 総 葉 緑 素 含 量 は ,H i p k i n s ・ B a k e r ( 1 9 8 6 ) に よ る 分 光 光 度 法 に よ り 測 定 し た . 培 養 植 物 か ら 新 鮮 重 約 50 mg の 葉 切 片 を 5-ml サ ン プ ル 管 に と り , 3 ml の 100% メ タ ノ ー ル を 加 え , 蒸 散 を 防 止 す る た め ラップでカバーして室温暗黒下で 2 時間抽出した.各サンプルは攪 拌 後 , メ タ ノ ー ル 抽 出 液 の 吸 光 度 (650 nm , 665 nm) を 測 定 し た . 総 葉 緑 素 量 は , 以 下 の 式 で 示 す よ う に メ タ ノ ー ル 1 ml あ た り の 重 量で算出した. 総 葉 緑 素 =25.8 × A650 + 4.0 × A665 ( g・ml-1) さらに,葉緑素含量は,以下の式で示すように,各外植片の新鮮 重 1 g あたりの量に換算した. 葉 緑 素 含 量 =[(葉 緑 素 g・メタノール ml-1) × メタノール 3 ml]・(生 重 g-1). c. 水 分 含 量 と植 物 体 の生 育 水 分 含 量 は , 重 量 測 定 済 み の 乾 燥 容 器 に , 新 鮮 重 150 mg の 培 養 植 物 を と り , 105℃ で 2 時 間 乾 燥 後 , デ シ ケ ー タ ー 中 で 30 分 間 冷 却 し , 乾 物 重 を 測 定 し た . さ ら に , 1.5 時 間 後 の 乾 燥 容 器 の 重 量 に 変 - 30 - 化 の な い こ と を 確 認 し た . そ し て , 以 下 の 式 に よ り 新 鮮 重 100 mg あたりの水分量として算出した. 水 分 含 量 =[(生 重 -乾 物 重 )・(生 重 )-1]) × 100 (mg) 植物体の生育は,反復毎に総生体重を個体数で割り,1 個体あた りの重量で示した. d. 順 化 にともなう評 価 以下の手順で培養植物の順化能力を検定した. 細 菌 接 種 の 3 0 日 後 ,水 浸 状 化 し た も の お よ び 細 菌 接 種 法 に よ り 水 浸 状 化 を 回 避 し た シ ュ ー ト に つ い て , ホ ル モ ン フ リ ー の 1/2 濃 度 の MS 培 地 に 移 植 し , 発 根 さ せ た . 30 日 後 , 発 根 し た 植 物 体 は バ ー ミ キ ュ ラ イ ト に 移 植 し , 高 湿 度 (100%) 状 態 を 維 持 す る た め 透 明 プ ラ スチックで覆った.5 日後,穴の開いたプラスチック・カバーと取 り替え,さらに 2 日間被覆した後,カバーを完全に取り除いた.そ の 後 , 植 物 体 は 25℃ , 湿 度 80%で 16 時 間 日 長 下 の 温 室 に 類 似 し た 室内環境に置いた. 順 化 は 各 処 理 ご と に 7~ 15 個 体 を 供 試 し , 各 シ ュ ー ト の 水 浸 状 化 数を目視により確認するとともに,順化の 1 週もしくは 3 週間後, 湿度環境の変化において生存している個体数を計測した.加えて, 各 植 物 体 の 生 育 量 を 5 段 階 ( 枯 死 ,停 滞 ,生 育 小 ,中 ,大 : - , ± , + , + + , +++) で 評 価 し た . 結 果 および考 察 細菌接種法により細菌を接種後の植物体の状態は,葉が暗緑色で 不透明になり,剛性があるのに対して,無処理区では,脆く,徒長 し , ガ ラ ス 質 で 淡 緑 色 で あ り , 無 処 理 区 の 葉 緑 素 含 量 は , Kevers ら , (1984) お よ び Shetty ら (1995)が 報 告 し た 600~ 700 g・g-1 の 水 浸 状 化 を 示 す 低 葉 緑 素 レ ベ ル と 同 程 度 で あ っ た ( Ta b l e 2 - 1 - 1 ) . ま た , 全ての細菌接種処理区で,植物組織中の水分含量は無処理区より低 下 し た ( Ta b l e 2 - 1 - 1 ) . P. m u c i d o l e n s と P. s p . s t r a i n AT C C 3 1 4 6 1 接 - 31 - 種 区 で は ,P. s t u t z e r i , B . i n d i c a , も し く は オ レ ガ ノ か ら 単 離 し た P. s p . strain F よ り 植 物 組 織 中 の 水 分 含 量 の 低 下 程 度 は 少 な か っ た . Kevers ら (1984) お よ び Shetty ら (1995) は , こ の 水 分 含 量 の 低 下 が,水浸状化を回避した植物の順化率向上に必須であると述べてい る.さらに,植物組織中の水分過剰は水浸状化した組織を示す一つ の指標であり,木質部におけるリグニン合成レベルの低下に関連す ることを示すとともに,異常な水分過多を生じ,結果的に脆くなる ことを示唆した. P s e u d o m o n a s m u c i d o l e n s , P. s p . s t r a i n AT C C 3 1 4 6 1 , お よ び P. s t u t z e r i を 接 種 し た オ レ ガ ノ の ポ リ フ ェ ノ ー ル 含 量 は ,新 鮮 重 ベ ー ス で 無 接 種 区 の 1.8 mg/g か ら 2.6~ 2.8 mg/g と な り , 増 加 が 認 め ら れ た ( Ta b l e 2 - 1 - 1 ) . そ し て , P. s p . s t r a i n F お よ び B . i n d i c a を 接 種 し た 植 物 の 30 日 後 の ポ リ フ ェ ノ ー ル 含 量 は , 4.6~ 4.8 mg・g-1 と な り 他 の 処 理 区 よ り 高 か っ た ( Ta b l e 2 - 1 - 1 ) . S h e t t y ら ( 1 9 9 5 ) が P. s p . strain F を 接 種 し た 際 の ポ リ フ ェ ノ ー ル 含 量 は , 無 接 種 区 で 7.0 mg・ g-1, 接 種 区 で は 10.2 mg・g-1 で あ り , そ の レ ベ ル と 比 較 す る と 本 実 験のポリフェノールレベルは低かったものの,前報 (Shetty ら , 1996a) と 同 様 に 接 種 に よ る ポ リ フ ェ ノ ー ル 含 量 の 増 加 が 認 め ら れ た. 一 方 , P. m u c i d o l e n s , P. s p . s t r a i n F, お よ び B . i n d i c a 接 種 区 の ポ リ フ ェ ノ ー ル 含 量 は , P. s p . s t r a i n AT C C 3 1 4 6 1 お よ び P. s t u t z e r i 接 種 区 よ り , 乾 物 重 ベ ー ス で 有 意 に 向 上 し た ( Ta b l e 2 - 1 - 1 ) . こ の 結 果 は,全般に水浸状化を回避した状態でオレガノのポリフェノール含 量 が 向 上 す る と い う 従 来 の 報 告 (Kevers ら , 1984; Shetty ら , 1996a) と一致するものであった.これら種々の多糖類産生細菌と関連する ポ リ フ ェ ノ ー ル 合 成 量 の 増 加 は , Darvill ・ Albersheim (1984) お よ び Ebel (1986) が 報 告 し た エ リ シ タ ー 法 に よ り 植 物 に お け る 二 次 代 謝 産 物 合 成 が 増 加 す る 事 象 と 類 似 し て い る .ま た ,K e v e r s ら ( 1 9 8 4 ) - 32 - が示唆したように,本実験の結果は水浸状化を回避した組織におけ るリグニン合成に必要なポリフェノール代謝の転流制御と関与して いると推察される. 細 菌 を 接 種 し た 植 物 体 の 葉 緑 素 含 量 は , 未 接 種 区 よ り 増 加 し , P. m u c i d o l e n s , P. s p . s t r a i n AT C C 3 1 4 6 1 , お よ び P. s p . s t r a i n F 接 種 区 の 葉 緑 素 含 量 は , P. s t u t z e r i お よ び B. indica 接 種 区 よ り 高 か っ た ( Ta b l e 2 - 1 - 1 ) . 葉 緑 素 含 量 の 増 加 は , 光 合 成 能 力 の 向 上 に つ な が る ことから,生長促進およびストレス耐性に関与し,順化後の生存率 の 向 上 に 結 び つ く こ と を 示 し て い る ( Ta b l e 2 - 1 - 2 ) . 一 方 , 未 接 種 区 の 場 合 ,低 葉 緑 素 含 量 や 高 水 分 含 量 が I A A ( イ ン ド ー ル 酢 酸 ) 等 の 植物ホルモンレベルの上昇を引き起こした可能性が考えられ,ここ で観察されたような徒長を伴ったことを示唆している.さらに,ポ リフェノールやリグニン合成に対する代謝産物の転流を減少させ, その結果,茎が脆くなり,木質部組織の保水力の低下に至るものと 考えられる.従来の報告では,低葉緑素レベルが水浸状化した組織 と 関 連 し て お り (Bottcher ら , 1988; Kevers ら , 1984; Shetty ら , 1995), 本実験の細菌を接種した全処理区で葉緑素含量の増加が認められた ことは,水浸状化における傾向に相反する結果として現れた. Pseudomonas sp. strain F (Shetty ら , 1996a) の よ う な 多 糖 類 産 生 細 菌は,水浸状化を回避する一方で,植物体の生育も抑制した.しか し な が ら , P. m u c i d o l e n s お よ び P. s p . s t r a i n AT C C 3 1 4 6 1 を 接 種 し た 植 物 体 の 生 育 は , そ の 抑 制 程 度 が よ り 少 な か っ た ( Ta b l e 2 - 1 - 1 ) . ここで用いた細菌は,いずれも接種により植物体の生育を抑制した が,それは節間が短くなることに起因しており,腋芽の分枝による 増殖効率は未接種区と同程度であった.このように,生育量に関わ ら ず ,次 の 継 代 培 養 の 際 に ,切 り 分 け る 分 枝 数 や 節 数 か ら 判 断 し て , 多 糖 類 産 生 の P. m u c i d o l e n s や P. s p . s t r a i n AT C C 3 1 4 6 1 を 接 種 し た 場 合 , P. s p . s t r a i n F 接 種 と 同 様 に , 十 分 な 増 殖 効 率 と 水 浸 状 化 を 回 - 33 - 避 す る 効 果 が あ る こ と を 示 し て い る . 多 く の 場 合 , P. m u c i d o l e n s お よ び P. s p . s t r a i n AT C C 3 1 4 6 1 を 接 種 す る と , 植 物 体 の 生 育 や 節 間 伸 長 の 抑 制 が P. s p . s t r a i n F 接 種 よ り 穏 や か で , 植 物 体 の 培 養 が 容 易 になることから,より効果的といえる.したがって,組織培養で大 量 増 殖 を 行 っ て い る 企 業 等 に お い て も , P. m u c i d o l e n s や P. s p . s t r a i n AT C C 3 1 4 6 1 な ど の 菌 種 は , 水 浸 状 化 を 減 少 さ せ 増 殖 の 最 適 化 が 可 能 と な る こ と か ら ,目 視 に よ る 緑 色 の 変 化 と 生 育 の 抑 制 程 度 は , 菌種を選定する上での効果的な指標となると考えられた. 順 化 実 験 か ら ,P. m u c i d o l e n s , P. s p . s t r a i n AT C C 3 1 4 6 1 , お よ び P. sp. strain F の 接 種 は 水 浸 状 化 を 抑 制 し , 植 物 体 の 活 性 を 促 進 す る こ と か ら , 効 果 的 で あ っ た ( Ta b l e 2 - 1 - 2 ) . こ れ ら の 細 菌 接 種 に よ り , 他種の培養植物で行うような一般的な温室等の条件下で,培養容器 外の環境に容易に順応でき,過大な環境制御を行う必要のないこと が 示 さ れ た ( F i g . 2 - 1 - 1 ) .こ れ ら の 結 果 は ,環 境 に 対 す る 植 物 の 順 化 能力が,細菌の接種と密接に関与していることから,培養環境下の 植物は,外的環境に効率的に順応するため,このような有益な細菌 を必要とし,無菌植物では生育活性やストレス耐性が低下すること を示唆している. 水浸状化を回避するため,前述のように様々な手法が試行されて きたが,簡便さに加え,既存の施設や培養条件の変更が必要ないこ と,および水浸状化回避効率の安定性から,細菌接種法が最も効果 的 と い え る . ま た , 本 実 験 で 供 試 し た 細 菌 種 で は , P. s p . s t r a i n F で 得 ら れ た 結 果 (Shetty ら , 1995)と 同 様 の 効 果 が 得 ら れ , そ の 効 果 の 持続性や接種植物の培養中に培地にしみ出す細菌の様相から,細菌 の 定 着 性 が 確 認 さ れ た . 特 に , P. m u c i d o l e n s も し く は P. s p . s t r a i n AT C C 3 1 4 6 1 を 接 種 し た 培 養 植 物 は ,接 種 し た 菌 の 定 着 性 が 確 認 さ れ , 生 育 の 減 少 は 4 0 ~ 5 0 % に す ぎ な か っ た ( Ta b l e 2 - 1 - 1 ) こ と に 加 え , 未接種区と同数の節数が得られることにより,増殖率の減少は認め - 34 - られない.さらに,このオレガノと細菌の相互関係は,水浸状化の 基 礎 的 な メ カ ニ ズ ム を 解 析 す る 有 用 な 手 段 と し て 重 要 で あ り ,P. s p . strain F に お け る 報 告 (Shetty ら , 1995; Shetty ら , 1996a)と 同 様 , 水 浸状化の回避と多糖類が密接に関与していることが複数の菌種で示 された. このように,菌接種による生育抑制にみられるデメリットは,増 殖率を考慮することで解決でき,水浸状化回避によりストレス耐性 や順化効率の向上が期待できることから,非病原性の多糖類産生細 菌を用いる細菌接種法は,水浸状化の問題を解決する有効な手段と いえる.今後,この細菌接種法の適用範囲の拡大や実用化を検討す る に あ た り , 本 実 験 で 良 い 結 果 を も た ら し た P. m u c i d o l e n s , P. s p . s t r a i n AT C C 3 1 4 6 1 お よ び P. s p . s t r a i n F 等 を 用 い る 予 定 で あ る . な お,組織培養による増殖で水浸状化が重大な問題で,順化率の向上 が求められているラズベリーについては,本章の第 3 節でその詳細 を検討した. - 35 - 第 2節 再 接 種 不 要 の細 菌 による水 浸 状 化 制 御 法 の検 証 S h e t t y ら ( 1 9 9 5 ) は , オ レ ガ ノ の 培 養 植 物 に 対 す る P. s p . s t r a i n F の接種により水浸状化を回避する方法を開発するとともに, これら の効果が,多糖類産生性と密接に関与していることを明らかにした (Shetty ら , 1996a, b). さ ら に 前 節 で は , 数 種 の 多 糖 類 産 生 土 壌 細 菌 を用いて,水浸状化の回避とその効果を検証し,菌種の適用拡大に 向けた検討を行った.その結果,これらの多糖類産生細菌を接種す る こ と に よ り ,オ レ ガ ノ の 培 養 植 物 で は 接 種 後 1 0 ~ 1 5 日 程 度 で 水 浸 状化を回避し,植物体が正常化するとともに,順化効率が向上し, 優良系統の増殖体系に活用可能であることを示した. 本節では,前節で行った非病原性多糖類産生細菌類の接種による 水浸状化の回避効果が,再接種を行わずに長期間の継代培養で維持 されることを確認するとともに,細菌の植物体内における定着性を 検証した.これにより,継代培養毎に再接種する必要がなくなるこ とから,実用化での増殖体系に大きな利益をもたらすことが期待さ れる.さらに,培養植物の生育や増殖率を考慮することにより,実 用化を想定した細菌接種法の検証を行った. 材 料 および方 法 1 供 試 した細 菌 系 統 第 2 章第 1 節に準じる. 2 オレガノの組 織 培 養 と菌 の接 種 および接 種 した培 養 植 物 の維 持 第 2 章第 1 節に準じて行い,接種後の植物体は,維持・増殖のた め , 1 mg・L-1 BAP, 3% シ ョ 糖 , 0.3% ジ ェ ラ ン ガ ム を 含 む MS 培 地 ( 以 下 MS-BAP 培 地 ) で 継 代 培 養 を 行 っ た . 各 処 理 に は ,反 復 と し て 1 0 個 体 置 床 し た シ ャ ー レ を 少 な く と も 6 枚 ず つ 用 い た .30 日 後 ,生 育 し 増 殖 し た 植 物 体 に つ い て ,水 浸 状 化 に関連する生理的な要素として,ポリフェノール,葉緑素,水分の - 36 - 含量および植物体の生育量を比較した.接種した植物体は,1 回目 の 増 殖 後 ,再 接 種 を 行 わ ず に M S - B A P 培 地 で 継 代 培 養 し ,3 0 日 間 隔 で 8 回まで継続した.そして,水浸状化に関連する生理因子を各回 の継代時に測定するとともに,未接種区についても同様の継代培養 を 行 い ,比 較 対 照 と し た .ま た ,5 8 回 の 継 代 培 養 後 ,細 菌 の 培 養 で 用 い ら れ る YMA 培 地 (Golds ら , 1990) 上 に 継 代 す る 培 養 植 物 の シュートを置床し,培養物から細菌がしみ出すことにより細菌の存 在と定着性を確認した. 3 水 浸 状 化 関 連 の生 理 的 指 標 水浸状化した培養植物体および細菌接種法により水浸状化を回避 した培養植物体について,第 2 章第 1 節と同様に,ポリフェノール 含量,葉緑素濃度,含水量および生重を比較した.なお,得られた 結果は,独立した 3 サンプルの平均値で示した. a. ポリフェノール含 量 第 2 章第 1 節に準じた方法で行った. b. 葉 緑 素 含 量 第 2 章第 1 節に準じた方法で行った. c. 水 分 含 量 と植 物 体 の生 育 第 2 章第 1 節に準じた方法で行った. d. 順 化 にともなう評 価 第 2 章第 1 節に準じ,培養植物の順化能力を検定した.継代培養 の 3 0 日 後 ,水 浸 状 化 し た も の と 細 菌 接 種 法 に よ り 水 浸 状 化 を 回 避 し た 個 体 の 両 方 を ,発 根 培 地 と し て ホ ル モ ン を 含 ま な い 1 / 2 濃 度 の M S 培 地 に 置 床 し た .15 日 後 ,発 根 率 と 根 長 を 測 定 し ,バ ー ミ キ ュ ラ イ ト へ 移 植 し た 培 養 植 物 は , 室 温 で 16 時 間 日 長 , 湿 度 85~ 90%の 条 件で順化した. 順 化 1 0 日 後 ,培 養 か ら 容 器 外 へ 移 し た 環 境 変 化 の 中 で 生 存 し て い る 植 物 体 の 数 を 計 測 し , 各 個 体 の 根 長 と 生 育 量 を 5 段 階 (根 長 : 発 - 37 - 根 な し , 3 mm 以 下 , 3~ 6 mm, 6 mm 以 上 ; 生 育 量 : 枯 死 , 停 滞 , 生 育 小 , 中 , 大 : -, ±, +, ++, +++) で 評 価 し た . 結 果 および考 察 接種後の植物体は,多回数の継代培養後でも,再接種なしで水浸 状化の回避が可能であった.これらの植物体は,暗緑色で不透明と な っ た の に 対 し て (Fig. 2-2-1a-c), 未 接 種 の 対 照 区 で は , 植 物 体 が 脆 く 徒 長 し , ガ ラ ス 質 で 淡 緑 色 を 呈 し て お り (Fig. 2-2-1d) , 水 浸 状 化に特徴的な外観を呈していた.7 回および 8 回の継代培養した植 物体について,水浸状化関連因子の解析を行った.その結果,全て の細菌接種処理区で,継代回数に関わらず,未接種の対照区と比較 し て 水 分 含 量 が 低 下 し て い た ( Ta b l e 2 - 2 - 1 ) . 接 種 区 の オ レ ガ ノ 培 養 植 物 に お け る ポ リ フ ェ ノ ー ル 含 量 は , P. stutzeri を 除 き , 新 鮮 重 ベ ー ス で 明 ら か に 上 昇 し , 乾 物 重 ベ ー ス で も P. s t u t z e r i を 除 き , ポ リ フ ェ ノ ー ル 含 量 の 有 意 な 増 加 が 認 め ら れ た ( Ta b l e 2 - 2 - 2 ) . 接種後再接種を行わずに 7 回・8 回の継代培養した植物体の葉緑 素含量は,未接種の対照区と比較して高くなった.ポリフェノール 含量と同様,全ての接種区で継代培養中の植物体における葉緑素濃 度 は , 未 接 種 区 よ り 高 く , P. s t u t z e r i 接 種 区 を 除 き , 乾 物 重 ベ ー ス で も 接 種 区 の 葉 緑 素 濃 度 は , 有 意 に 向 上 し た ( Ta b l e 2 - 2 - 3 ) . 植物体の生育を調査した結果,再接種なしで 8 回の継代培養後, 全 て の 接 種 区 で 新 鮮 重 と 乾 物 重 の 両 方 が 減 少 し た ( Ta b l e 2 - 2 - 4 ) . こ の よ う に 生 育 が 抑 制 さ れ た 一 方 で ,30 日 培 養 後 の 展 開 葉 数 は ,い ず れ の 接 種 区 に お い て も 未 接 種 の 対 照 区 と 同 程 度 で ,生 育 量 の 減 少 は , 節 間 伸 長 の 抑 制 に 起 因 し て い た (Fig. 2-2-1a-c). 組 織 培 養 に よ る 増 殖は腋芽の分枝により行うことから,節数すなわち展開葉数が変化 しないことは,増殖率が変わらないことを示している.また,未接 種の対照区の植物体は,継代培養で植物体を切り分ける際に,葉や - 38 - 茎が脆く壊れやすいのに対して,接種区から得られた植物体は,ピ ンセットで挟んだ際に茎が折れることはなく,物理的強度が増して いた. 5~ 8 回 の 継 代 培 養 後 , 植 物 体 を バ ク テ リ ア 用 の YMA 培 地 に 置 床 し,切断した茎の基部から菌体がしみ出すことにより接種菌の存在 を 確 認 し た .P. s t u t z e r i 接 種 区 で は ,継 代 培 養 し た 一 部 の 植 物 体 で , 水 浸 状 化 の 状 態 に 戻 る 個 体 が 認 め ら れ ,こ の よ う な 個 体 は ,Y M A 培 地に置床した際,細菌の増殖がないことから,植物体内の細菌密度 が低下していると考えられた. 本 実 験 で ,接 種 区 と 未 接 種 の 対 照 区 に お け る 順 化 1 0 日 後 の 生 存 率 は , そ れ ぞ れ 95% 以 上 と 85%と な り , 処 理 区 の 差 は 認 め ら れ る も の の , 70%の 割 合 で 水 浸 状 化 個 体 を 含 む 未 接 種 区 で も 高 い 生 存 率 を 示 し た ( Ta b l e 2 - 2 - 5 ) . S h e t t y ら ( 1 9 9 5 ) の 報 告 で は , 接 種 区 と 未 接 種 区 で 水 浸 状 化 し て い な い 正 常 個 体 の 割 合 は , そ れ ぞ れ 90%以 上 と 50%以 下 と な り , 順 化 1 週 間 後 の 生 存 率 は , 正 常 個 体 の 割 合 と 一 致 し て い た . こ の 生 存 率 の 違 い は , 順 化 環 境 が 湿 度 85%~ 90%の 夏 期 の 高 湿 時 期 で あ っ た こ と に よ る も の と 推 察 さ れ た . 一 方 , B. indica 接種区では,再接種なしの長期継代培養によっても,十分な発根が 得 ら れ ず , 植 物 の 生 育 は 抑 制 さ れ た ( Ta b l e 2 - 2 - 5 ) . 以 上 の よ う に , 従 来 の 研 究 結 果 (Shetty ら , 1995, 1996a) と 同 様 , 細菌接種法で水浸状化を回避することが可能であり,複数の菌種で 再接種なしに長期間同様の状態を維持することが可能であった.ま た,水浸状化していない正常個体では,植物体の水分含量の減少が 特 徴 的 に 認 め ら れ る こ と (Kevers ら , 1984; Shetty ら , 1995) , 水 浸 状化を回避する過程で,ポリフェノール合成が促進されるという従 来 の 報 告 (Kevers ら , 1984; Shetty ら , 1995) , さ ら に , 葉 緑 素 含 量 の 増 加 と 順 化 率 が 向 上 す る こ と (Shetty ら , 1995) な ど の 点 で 一 致 する結果が得られた.加えて,植物体の生育は,8 回の継代培養で - 39 - 抑制されたが,培養期間中の展開葉数に変化がないことから,分枝 による増殖に用いる節数は減少せず,増殖率は低下しなかった.そ して,このような水浸状回避に関わる葉緑素濃度やポリフェノール 含 量 ,植 物 体 の 生 育 量 ,お よ び 発 根 率 等 で 菌 種 に よ り 差 が 認 め ら れ , そ の 安 定 性 や 持 続 性 か ら P. m u c i d o l e n s お よ び P. s p . s t r a i n F の 接 種 が効果的であった. こ の よ う に , P. m u c i d o l e n s や P. s p . s t r a i n F の よ う な 多 糖 類 産 生 細菌を一回接種することで,再接種することなしに継代培養で維持 され,水浸状化を回避し,順化率が向上することから,組織培養に よる種苗生産現場に実用上有効であることが示された. さらに,水浸状化を回避した植物体組織において,高濃度のポリ フ ェ ノ ー ル 含 量 と パ ー オ キ シ ダ ー ゼ 活 性 は 密 接 に 関 連 し (Phan ・ L e To u z e , 1 9 8 3 ) ,種 々 の 多 糖 類 産 生 細 菌 類 の 接 種 に よ る ポ リ フ ェ ノ ー ル合成の増加は,エリシターとしての刺激による植物体内における 二次代謝産物の合成を促進すること (Darvill ・ Albersheim, 1984; Ebel, 1986; Dixon ・ Lamb, 1990), そ し て , こ れ ら の こ と が 水 浸 状 化 した植物体のリグニン合成とポリフェノール代謝制御に関与してい る こ と ( K e v e r s ら , 1 9 8 4 ) が 報 告 さ れ て い る .本 試 験 に お い て も ,細 菌の接種により水浸状化を回避した植物体は,ポリフェノール含量 が増加し,茎や葉の剛性が強化されリグニン合成の促進に結びつく ことが示された.このことは,二次代謝産物や細菌の産生する多糖 類のエリシター効果によるものと推察され,耐病性や環境耐性に結 びつくエリシター効果を導くような菌種を選抜することにより,実 用化に向けた活用が期待される. な お ,Y M A 培 地 上 の 植 物 体 か ら 接 種 し た 細 菌 が し み 出 す こ と に よ り,接種した細菌の植物体内における定着性と長期間の持続的な存 在 を 確 認 し た .Perry ら (1998) は ,細 菌 が 残 存 す る 植 物 体 を 抗 生 物 質 で 処 理 し 除 菌 す る こ と に よ り ,水 浸 状 化 が 再 現 す る こ と を 確 認 し , - 40 - 細菌の存在と水浸状化が密接に関連することを検証した. 今 後 ,接 種 し た 細 菌 類 の 定 着 性 や 安 定 性 を 明 ら か に す る た め に は , 接種した細菌の植物体中における組織部位別の分布状況を細胞学的 に確認するとともに,順化後一般栽培における定着持続性の確認が 必要であると考えられた. - 41 - 第 3節 ラズベリーの組 織 培 養 における種 苗 増 殖 への水 浸 状 化 制 御 法 の応 用 前節で数種の多糖類産生土壌細菌を用いた,水浸状化の回避とそ の効果を検証するとともに,再接種を行わずに長期間の継代培養で 細菌とその効果が維持されることを確認した. 本節では,従来の研究結果から水浸状化回避効果が確認されてい る Pseudomonas sp. strain F (Shetty ら , 1995; Shetty ら , 1996a) を用 いて,商業ベースで生産販売されている 4 系統のラズベリーに対す る水浸状化抑制効果を検証し,この非病原性細菌接種法の組織培養 産業における種苗増殖や木本性植物種に対する適用範囲の拡大につ いて検討した. 材 料 および方 法 1 供 試 した細 菌 系 統 オレガノの水浸状化回避能力を示す Pseudomonas sp. strain F ( She t t y ら , 1995) を 実 験 に 供 し た .こ の Pseudomonas 属 菌 種 は YMA 培 地 (Golds ら , 1990) で 25 ℃ , 48~ 60 時 間 培 養 後 , 5 ℃ で 冷 蔵 保 存した. 2 ラズベリーの組 織 培 養 本 実 験 に 供 試 し た ラ ズ ベ リ ー (Rubus s p . ) は ,ノ ー ス フ ァ ー ム 社 ( N o u r s e F a r m s , I n c . W h a t l e y, M A ) が 増 殖 販 売 し て い る 4 系 統 (CDH-92, GEL-20, Heritage お よ び JCR-FL)を 用 い た . 培 養 植 物 は , 1 m g ・ L - 1 B A P ( b e n z y l a m i n o p u r i n e ) ,3 % シ ョ 糖 , お よ び 0 . 3 % ジ ェ ラ ン ガ ム (Sigma Che mi cal, St. Louis, Mo.) を 含 む MS 培 地 (Murashige ・ S k o o g 1 9 6 2 ) で 継 代 培 養 を 行 っ た .培 地 は p H 5 . 8 に 調 整 後 ,1 2 1 ℃ 1 5 分間加圧滅菌した.培地を入れたシャーレに,4 枚の展開葉をつけ た シ ュ ー ト を 1 個 体 と し て 7 個 体 ず つ 置 床 し ,25℃ ,16 時 間 日 長 下 (40 µmol・ m-2・s-1) で 培 養 し た . 継 代 培 養 を 行 っ た 30 日 後 , 置 床 し - 42 - た植物体は,腋芽が伸長し複数のシュートが多芽状に増殖した.こ れ ら の ラ ズ ベ リ ー 培 養 系 統 は ,3 0 日 間 隔 で 分 枝 し た 腋 芽 を 切 り 分 け , 継代培養することにより維持した.そして,継代培養時の切り分け たシュートを接種材料として用いた. 3 ラズベリー培 養 植 物 に対 する細 菌 の接 種 細 菌 の 接 種 は ,Y M A 培 地 ( G o l d s ら , 1 9 9 0 ) で 培 養 し ,5 ℃ で 保 存 し て い た P. s p . s t r a i n F の 菌 体 コ ロ ニ ー に , 継 代 培 養 時 に 切 り 分 け たシュートの茎切断部を接触させ,菌の接種を行った.接種後のシ ュ ー ト は ,1 . 5 % シ ョ 糖 を 含 む 1 / 2 濃 度 の M S 培 地 に 置 床 し た .各 処 理は 1 シャーレあたり 7 個体の接種後のシュートを置床し,各系統 および処理ごとに 4 シャーレを用い反復とした.また,ラズベリー における細菌接種法を確立するため,最初の接種処理を行った 4 系 統 は ,再 接 種 な し に 3 0 日 間 隔 で 5 回 以 上 の 継 代 培 養 を 行 っ た .そ し て,各培養系統の接種区および未接種の対照区の植物体について, 水 浸 状 化 に 関 連 す る 生 理 的 な 要 素 と し て ,ポ リ フ ェ ノ ー ル ,葉 緑 素 , 水分の含量および植物体の生育量を測定した. 4 水 浸 状 化 関 連 の生 理 的 指 標 3 0 日 間 隔 で 5 回 の 継 代 培 養 を 行 い , P. s p . s t r a i n F 接 種 後 の 培 養 植物体および未接種の対照区の培養植物体について,ポリフェノー ル含量,葉緑素含量,水分含量および新鮮重を比較した.なお,得 られた結果は,独立した 3 サンプルの平均値と標準偏差で示し,少 なくとも 2 回の試験を繰り返した. a. ポリフェノール含 量 第 2 章第 1 節に準じた方法で行った. b. 葉 緑 素 含 量 第 2 章第 1 節に準じた方法で行った. c. 水 分 含 量 接 種 区 お よ び 未 接 種 区 の 4 培 養 系 統 の 植 物 体 は ,1 / 2 M S で 継 代 培 - 43 - 養 を 行 い , 初 回 の 30 日 後 , お よ び 菌 を 再 接 種 せ ず に 30 日 間 隔 で 5 回の継代培養後,植物体の水分含量を測定した.なお,測定方法は 第 2 章第 1 節に準じて行った. d. 順 化 にともなう湿 度 環 境 の変 化 における評 価 接 種 3 0 日 後 ,未 接 種 の 対 照 区 お よ び 接 種 区 の 4 培 養 系 統 の 植 物 体 は , 再 接 種 を 行 わ ず に 1/2 MS ホ ル モ ン フ リ ー 培 地 に 継 代 培 養 し た . 30 日 間 隔 で 継 代 培 養 を 行 い , 3 回 目 の 継 代 培 養 の 2 週 間 後 , 培 養 植 物は,バーミキュライトへ移植し,透明プラスチックで覆い湿度を 保 持 し た . 7 日 後 , 40 cm×40 cm の カ バ ー に 直 径 1 cm の 穴 が 9 個 開 いたプラスチック・カバーに取り替え,2 日後にカバーを取り除い た . 順 化 植 物 は , 室 温 , 16 時 間 日 長 条 件 下 で 維 持 し た . 順化の 1 週間後および 7 週間後,湿度環境の変化の中で生存して い る 植 物 体 の 数 を 計 測 し た . さ ら に , 各 植 物 体 の 活 性 を 5 段 階 (生 育 量 無 , 微 , 小 , 中 , 大 : -, ±, +, ++, +++) で 評 価 し た . 結 果 および考 察 本 節 で は , オ レ ガ ノ か ら 単 離 し た P. s p . s t r a i n F ( S h e t t y ら , 1 9 9 5 ) を用いて,ラズベリーの培養増殖系統に対する水浸状化回避効果を 検 証 し た .こ れ ま で の 研 究 結 果 か ら ,オ レ ガ ノ の 接 種 後 の 植 物 体 は , 暗緑色で不透明になり,剛性があるのに対して,未接種の対照は脆 く 徒 長 し ,淡 緑 色 を 呈 し て お り (Shetty ら , 1995),葉 緑 素 レ ベ ル が 低 い こ と が 水 浸 状 化 の 特 徴 と さ れ た ( K e v e r s ら , 1 9 8 4 ) .オ レ ガ ノ と 異 な り,ここで供試した 4 系統のラズベリーの接種区の植物体は,未接 種の対照区と比較して,形態的に顕著な変化が認められず,栄養系 統 の Heritage で は , 葉 色 に つ い て も 変 化 が 認 め ら れ な か っ た . し か し な が ら , 栄 養 系 統 Heritage を 除 い て , 未 接 種 の 対 照 区 の 葉 や 葉 柄 は,接種区より徒長し,ガラス化しており,淡緑色を呈していた. そこで,葉色の濃淡を指標に水浸状化率を調査した結果,栄養繁殖 系 統 CDH-92 お よ び GEL-20 で は , 接 種 区 で 水 浸 状 化 率 は 減 少 し た - 44 - も の の , 水 浸 状 化 率 が 低 い 栄 養 繁 殖 系 統 Heritage お よ び JCR-FL で は , 接 種 に よ る 水 浸 状 化 回 避 効 果 は 判 然 と し な か っ た ( Ta b l e 2 - 3 - 1 ) . 順 化 試 験 に お い て P. s p . s t r a i n F が 水 浸 状 化 の 回 避 に 効 果 的 に 働 く こ と が 明 ら か と な り , 栄 養 繁 殖 系 統 CDH-92, GEL-20 お よ び 部 分 的 で は あ る が JCR-FL に つ い て も 順 化 植 物 の 順 化 7 週 後 の 生 存 率 が 向 上 し た ( F i g . 2 - 3 - 1 , Ta b l e 2 - 3 - 1 ) . こ れ ら の 結 果 は , 水 浸 状 化 と 生 存 率 の 間に,密接な逆相関関係があることを示している.そして,多くの 培養植物では一般的に順化に温室等で多くの環境制御を必要する (Kevers ら , 1984; Debergh ら , 1992) の に 対 し て , 細 菌 接 種 法 は 外 的 環境に容易に順応できることを示している. これまでオレガノの試験結果から,接種後の植物体は含水率が減 少するとともにポリフェノール含量や葉緑素濃度も対照区より高く な っ た .ラ ズ ベ リ ー の 場 合 ,接 種 30 日 後 の 初 期 段 階 で は GEL-20 お よ び Heritage 系 統 の 水 分 含 量 は 減 少 し た も の の , 他 の 系 統 は 水 分 含 量 の 減 少 は 認 め ら れ な か っ た ( Ta b l e 2 - 3 - 2 ) . そ れ に 対 し て , 再 接 種 な し に 3 0 日 間 隔 で 5 回 継 代 培 養 後 で は ,処 理 区 全 て の 系 統 で ,未 接 種 の 対 照 区 よ り 水 分 含 量 が 減 少 し た ( Ta b l e 2 - 3 - 2 ) . 以 上 の こ と か ら , 本実験で供試した全ての系統で,未接種区の植物体と比較して細菌 接種法を適用した植物体の水分含量の減少が認められた. このように,オレガノと比較してラズベリーの培養系統の場合, Pseudomonas に 対 す る 反 応 は 緩 行 的 で あ る こ と か ら , 水 浸 状 化 回 避 の観察のためには,再接種を行わない長期間の継代培養が必要と考 え ら れ た .そ こ で ,再 接 種 な し に 3 0 日 間 隔 で 3 回 継 代 培 養 し ,順 化 試験と同時期の接種 2 か月半後の培養植物について,ポリフェノー ル と 葉 緑 素 の 含 量 を 調 査 し た . そ の 結 果 , CDH-92 の 葉 緑 素 濃 度 に 変化は認められないものの,他の系統では処理区全ての植物体で, ポ リ フ ェ ノ ー ル 含 量 と 葉 緑 素 濃 度 の 上 昇 を 確 認 し た ( Ta b l e 2 - 3 - 2 ) . - 45 - ラズベリーで観察された様々な水浸状化回避に関連するポリフェ ノール合成の増加は,植物における二次代謝産物の合成を促進する エ リ シ タ ー 法 の 例 (Darvill ・ Albersheim, 1984; Ebel, 1980; Dixon ・ L a m b , 1 9 9 0 ; D i x o n ・ P a i v a 1 9 9 5 ) と 類 似 し て い る .こ の こ と は ,水 浸 状化していない組織のリグニン合成に必要な,ポリフェノール産物 の 生 合 成 制 御 (Kevers ら , 1984; Kevers ら , 1987)と 関 連 し て い る も の と考えられた. 高い葉緑素濃度は,生育の増進やストレス耐性および順化効率の 向上に寄与する光合成効率の促進に関連していることを示している ( Ta b l e 2 - 3 - 1 , 2 - 3 - 2 ) .未 接 種 の 対 照 区 に お け る 低 葉 緑 素 濃 度 と 高 水 分 含量は,オーキシンやサイトカイニンなど植物ホルモンの生理的な アンバランスから生じる結果であり,そのことが徒長を引き起こす ものと考えられる.さらにこれにより,リグニン合成に向かう他の 芳香族代謝産物の流動を抑制し,その結果,葉や葉柄が脆くなり, 木質部組織の水分許容量の減少につながると考えられる.従来の研 究結果も,低葉緑素濃度と水浸状化組織との関連を示しており (Kevers ら , 1984; Bottcher ら , 1988; Shetty ら , 1995), 本 試 験 で 得 ら れた結果は,このような植物における生合成系と機能発現の関連性 を同様に示唆するものであった. 以上のように,細菌接種法は組織培養によって育成された植物体 の活力や順応力およびストレス耐性の増強に結びつくことが示され た.また,非無菌培養や組織培養における生育強化に対する既報の 見 解 (Herman 1990; Frommel ら , 1991; Pillay ・ Nowak 1997) を 支 持 するものであり,植物と根圏もしくは植物体内に共生する細菌の役 割や機能の解析に利用できる可能性がある.さらに,本実験では, 商業ベースで生産されているラズベリーの栄養繁殖 4 系統で細菌接 種法の効果を実証できたことから,種苗増殖産業における実用的な 活用も十分に期待できる結果であった. - 46 - 第 4節 シャクナゲの遺 伝 子 組 み換 え技 術 の開 発 Rhododendron 属 ( ツ ツ ジ 科 ツ ツ ジ 属 ) は , 園 芸 的 に 常 緑 性 や 落 葉 性ツツジ,さらには有鱗片や無鱗片シャクナゲに大別され,数百を 越 え る 種 が 存 在 す る ( A r i s u m i 1 9 8 9 ) .ま た ,そ の 中 で も R . a r b o r e u m , R. catawbiense, R. ponticum, R. wardii,お よ び R. yakushi manum な ど の種間交雑により育成された無鱗片シャクナゲは,いずれも園芸的 な観賞価値が高く,観賞花木として高く評価されてきた (Arisumi 1989).無 鱗 片 シ ャ ク ナ ゲ は ,矮 性 の 這 う よ う な 潅 木 か ら ,大 き な 高 木などいろいろな樹形とともに,白から濃赤色や濃紫色までの濃淡 と,黄色,オレンジ,ピンク,藤色そして紫までの様々な範囲の色 合 い を 美 し い 花 房 を 形 成 す る (Arisumi 1989). こ の よ う に , 常 緑 性 ツツジとともに無鱗片シャクナゲは,観賞用花木の中で最も重要な グループのひとつと言える. 木 本 類 の 一 般 的 な 品 種 改 良 は ,こ れ ら の 生 育 周 期 が 長 い こ と か ら , 長期間を要する.近年では,外来遺伝子を他植物へ導入する手法 (J efferson ら , 1987) が 多 く の 植 物 で 確 立 さ れ , 短 期 間 で 遺 伝 的 な 特 性の改変が可能となってきた.また,いくつかの木本性植物で遺伝 子組み換えの成功例が報告されているが,観賞用花木類における報 告 は わ ず か に す ぎ な い (Bajaj, 1999). Rhododendron 属 植 物 の 組 織 培 養 に よ り , 葉 片 (Fordham ら , 1982; Iapichino ら , 1992), カ ル ス (Economou ら , 1987; Harbage ・ Sti mart 1987), 花 芽 (Meyer 1982), お よ び 子 房 (Dai ら , 1987)か ら 植 物 体 が 得られている.本試験の目的は,観賞価値の高いシャクナゲの栄養 繁殖系品種における遺伝子組み換え技術の確立で,遺伝子導入によ り花色や草姿,もしくは耐干性や耐暑性等の環境変動に対する耐性 の改変に対する可能性を含めて検討した. シャクナゲの遺伝子組み換え技術については,著者や他の報告 - 47 - (Pavin gero vá ら , 19 97) が あ り , 本 実 験 で は Agrobacterium の 共 存 培 養 か ら 遺 伝 子 組 み 換 え 植 物 を 再 生 し ,導 入 遺 伝 子 の 発 現 を 確 認 し た . 材 料 および方 法 1 供 試 材 料 および培 養 法 本 試 験 で は 屋 久 島 シ ャ ク ナ ゲ (R. yakushimanum Nakai) の 交 配 品 種 と し て 知 ら れ て い る ‘ P e r c y Wi s e m a n ’ を 供 試 し た . 供 試 植 物 は 茎 頂 培 養 に よ っ て 無 菌 化 し , 1 mg・L-1 Zea (zeatin), 1.5% シ ョ 糖 , 0.2% ジ ェ ラ ン ガ ム ( Wa k o C h e m i c a l s C o . , O s a k a , J a p a n ) を 含 む ア ン ダ ー ソ ン 培 地 (Anderson 1984) で 継 代 培 養 を 行 い 栄 養 系 と し て 維 持 し た . 培 地 は pH 5.0 に 調 整 後 , 121℃ 15 分 間 加 圧 滅 菌 し た . こ れ ら の 栄 養 系 は 25℃ , 16 時 間 日 長 下 (35 mol・m-2・s-1) で 培 養 し た . 2 不定芽誘導培養 不 定 芽 誘 導 の た め ,5 m m 長 に 切 断 し た 無 菌 植 物 の シ ュ ー ト を 不 定 芽 誘 導 培 地 ( 5 m g ・ L - 1 Z e a を 含 む ア ン ダ ー ソ ン 培 地 ) に 置 床 し た .培 養 2 か月後,葉身,葉柄,もしくは茎の培地に接した部分は,肥大 し葉身は厚く,葉柄や茎は太くなった.その肥厚組織を新しい不定 芽 誘 導 培 地 に 移 植 し た .1~ 2 か 月 後 ,そ の 肥 厚 組 織 は 不 定 芽 を 形 成 し,植物体が再生した. 3 供 試 した細 菌 系 統 遺 伝 子 導 入 の た め の バ ク テ リ ア と し て , pBI121 (Jefferson ら , 1987) を 組 み 込 ん だ Agrobacterium tumefaciens LBA4404 (Hoeke ma ら , 1 9 8 3 ) 系 統 を 用 い た . な お , p B I 1 2 1 は C a M V- 3 5 S プ ロ モ ー タ ー (cauliflower (nopaline mosaic synthase virus-35S promoter) と NOS タ ー ミ ネ タ ー terminator) に よ り 発 現 制 御 さ れ た GUS ( -glucuronidase) 遺 伝 子 と NOS プ ロ モ ー タ ー お よ び NOS タ ー ミ ネ ー タ ー に よ り 制 御 さ れ た NPTII (neomycin phosphotransferase II)遺 伝 子 が 連 動 し て い る (J efferson ら , 1987). - 48 - 4 共存培養 g ・ ml-1 kanamycin A. tumefaciens strain LBA4404/pBI121 を 50 sulfate, 100 g ・ ml-1 rifampicin お よ び sulfate を 含 む 2 ml YEB 培 地 300 g ・ ml-1 streptomycin ( Ve r v l i e t ら , 1 9 7 5 ) に よ り 29℃ で 1 昼 夜 培 養 し , 5,000 rpm, 5 分 間 の 遠 心 分 離 に よ り バ ク テ リ ア を 回 5 mg ・ L-1 Zea と 収 し た . バ ク テ リ ア の ペ レ ッ ト は 100 M acetosyringon を 含 む ア ン ダ ー ソ ン 培 地 に 再 懸 濁 し , バ ク テ リ ア の 濃 度 は 5×108 CFU・ml-1 に 調 整 し た . 不 定 芽 誘 導 の た め 前 培 養 し , Zea 誘 導 に よ り 得 ら れ た 肥 厚 組 織 (4 mm2)を バ ク テ リ ア を 含 む 懸 濁 培 地 に 3 0 分 間 浸 漬 し た .そ の 後 ,接 種 部 を 菌 液 か ら 取 り 出 し 余 分 な 菌 液 を 滅 菌 濾 紙 で 拭 き 取 り , 5 mg・L-1 Zea と 100 M acetosyringon を 含 むアンダーソン共存培養培地上に置床した. 5 選 抜 と植 物 体 再 生 Kanamycin 感 受 性 試 験 は , 5 mg・L-1 Zea と 100 g・ml-1 kanamycin sulfate を 含 む ア ン ダ ー ソ ン 培 地 に ,前 培 養 に よ り 得 ら れ た 葉 お よ び 茎の肥厚組織を置床し,1 か月後の生存状態から判定した. 4 日 間 の 共 存 培 養 後 ,接 種 し た 肥 厚 部 分 を 選 抜 培 地 ( 5 m g ・ L - 1 Z e a , 100 g・ml-1 kanamycin sulfate お よ び 500 g・ml-1 carbenicillin を 含 む アンダーソン培地) に移し,2 週間ごとに新しい選抜培地に継代し た .2 か 月 後 ,不 定 芽 形 成 を 始 め た 接 種 部 を 再 生 選 抜 培 地 ( 1 m g ・ L - 1 Zea, 100 g・ml-1 kanamycin sulfate お よ び 500 g・ml-1 carbenicillin を含むアンダーソン培地) に移した.さらにその 2 か月後,不定芽 を形成した接種部は,不定芽からのシュート伸長のため,ゼアチン 濃 度 を 0.1 mg・L-1 に し た 再 生 培 地 に 移 植 し た . 1~ 2 cm に 伸 長 し た シ ュ ー ト は 基 部 か ら 切 断 し ,発 根 培 地( 塩 類 を 1 / 1 0 濃 度 に 調 整 し た MS 培 地 (Murashige ・ (indole-3-butyric acid), 100 Skoog, 1962) に 0.1 mg ・ L-1 IBA g・ml-1 kanamycin sulfate, 0.7% agar を 含む)に移植した. - 49 - 6 ゲノム DNA の抽 出 培養植物の組織を液体窒素で冷却し,乳鉢で粉砕した.粉砕物を 10 ml の 洗 浄 液 (0.1 M HEPES pH 8.0, 0.1% P V P, 4% 2 - m e r c a p t o e t h a n o l ) ( Ta k a g i ら , 1 9 9 3 ) を 入 れ た 1 5 m l 遠 心 管 に 移 し , 攪 拌 後 15,000 rpm で 5 分 間 遠 心 分 離 し , 洗 浄 ・ 回 収 を 行 っ た . そ の後,沈殿物に新しい洗浄液を加え再懸濁し,遠心洗浄する操作を 3 回繰り返して,ポリフェノールおよび多糖類を除去した.洗浄後 の 沈 殿 物 か ら SDS 抽 出 法 (Honda ・ Hirai. 1990) に よ り ゲ ノ ム DNA を抽出した. 7 PCR による解 析 PCR (Polymerase chain reaction) 解 析 に よ り GUS 遺 伝 子 と NPTII 遺 伝 子 の 導 入 を 確 認 し た .反 応 液 に は 1 0 n g D N A , 2 0 0 M dNTPs, 0.5 M の 各 p r i m e r , 1 . 0 u n i t の Ta q p o l y m e r a s e ( P r o m e g a ) , 2 m M の M g 2 + , お よ び Ta q p o l y m e r a s e b u f f e r ( P r o m e g a ) を 加 え た . サ ン プ ル は 9 4 ℃ , 5 分 加 熱 後 , 94℃ ; 1 分 , 58℃ ; 2 分 , 72℃ ; 3 分 の 反 応 を 30 回 繰 り 返 し た . PCR 産 物 は , ethidium bromide 染 色 に よ る ア ガ ロ ー ス ゲ ル 電 気 泳 動 に よ り 分 離 し た .GUS 遺 伝 子 の プ ラ イ マ ー は ,G US 遺 伝 子 の 塩 基 配 列 300-319 と NOS タ ー ミ ネ ー タ ー 遺 伝 子 の 塩 基 配 列 1 8 5 0 - 1 8 7 1 位 置 を 設 計 し , そ の シ ー ケ ン ス は そ れ ぞ れ 5 ' - AT G T TA C G T C C T G TA G A A A C - 3 ' ( J e f f e r s o n ら , 1 9 8 6 ) お よ び 3 ' - G C A A G T T T G TA A A C C G T T AT T T- 5 ' ( B e v a n ら , 1 9 8 3 ) と し た .N P T I I 遺 伝 子 の プ ラ イ マ ー は , NPTII 遺 伝 子 の 塩 基 配 列 151-174 お よ び 922-945 位 置 と し ,そ の シ ー ケ ン ス は そ れ ぞ れ 5 ' - AT G AT T G A A C A A G AT G G A T T G C A C - 3 ' お よ び 3 ' - G C G G A A G A A C T G C T C A A G A A G A C T- 5 ' (Beck ら , 1982)と し た . 8 サザン解 析 ゲ ノ ム DNA を 制 限 酵 素 BamHI と EcoRI で 切 断 し , 電 気 泳 動 に よ り 分 離 し た 後 , ナ イ ロ ン メ ン ブ レ ン ( A m e r s h a m ’s H y b o n d N + ) に 転 - 50 - 写 し た .そ し て ,サ ザ ン 解 析 は N P T I I 遺 伝 子 と G U S 遺 伝 子 断 片 を プ ロ ー ブ と し て 行 っ た .N P T I I 遺 伝 子 の プ ロ ー ブ は ,3 5 S - N P T I I / p U C 1 8 プ ラ ス ミ ド 遺 伝 子 カ セ ッ ト (Kosugi ら , 未 発 表 )の 1.1 kb BamHI 断 片 と し ,G U S 遺 伝 子 の プ ロ ー ブ は p B I 2 2 1 プ ラ ス ミ ド 遺 伝 子 ( J e f f e r s o n ら , 1986)の 2.1 kb BamHI-EcoRI 断 片 を 用 い た (Fig. 2-4-3). こ れ ら の プ ロ ー ブ を ハ イ ブ リ ダ イ ズ し た 後 , DIG ラ ベ ル し , CSPD 蛍 光 検 出 法 (Boehringer Mannheim)に よ り 解 析 し た . 9 GUS 活 性 分 析 再 生 植 物 の 組 織 化 学 的 G U S 活 性 の 解 析 は ,J e f f e r s o n ら , ( 1 9 8 7 ) の 方 法 を 改 変 し た Murakami ・ Ohashi (1992)の 方 法 に よ り 行 っ た . 再 生 植 物 の 茎 葉 を 1 mM X-gluc (5-bromo-4-chloro-3-indolyl- -D- glucuronide) と 5 mM DTT (dithiothreitol)を 加 え た 50 mM リ ン 酸 緩 衝 液 (pH 7.0) に 37℃ , 12 時 間 浸 漬 し , GUS 活 性 を 調 査 し た . ま た ,G U S 活 性 は 4 - M U G ( 4 - m e t h y l u m b e l i f e r y l - - D - g l u c u r o n i d e ) 分 析 法 (Kosugi ら , 1990) を 改 変 し , THOSO HPLC シ ス テ ム を 用 い て FS-8010 蛍 光 検 出 器 に よ り 定 量 し た . 結 果 1 選 抜 と植 物 体 の再 生 100 g・ ml-1 kana mycin sulphate を 含 む ア ン ダ ー ソ ン 培 地 に 置 床 し て 1 か月後,葉片由来の肥厚組織は褐変し枯死した.茎切片由来の 肥厚組織は,徒長枝が得られるものの,抗生物質を含む培地上で白 化 し (Fig. 2-4-1 A), 不 定 芽 の 形 成 は 認 め ら れ な か っ た . A. tumefaciens と の 共 存 培 養 を 行 い 100 g・ml-1 kanamycin sulphate を 含 む 選 抜 培 地 で 2 か 月 選 抜 後 ,葉 や 茎 の 1 2 0 組 織 片 の う ち 1 9 切 片 は 表 面 に 不 定 芽 を 形 成 し た ( F i g . 2 - 4 - 1 B ) .枯 死 し た 組 織 片 を 除 去 し た 19 不 定 芽 の う ち 9 芽 は , kanamycin sulphate と 1 mg・L-1 Zea を 含 む ア ン ダ ー ソ ン 培 地 上 で 増 殖 し , 多 芽 体 を 形 成 し た (Fig. 2-4-1 B). そ の 多 芽 体 か ら kanamycin sulphate と 0.1 mg・L-1 Zea を 含 む 培 地 上 - 51 - で緑色を保ち,活発に増殖伸長する 6 個の独立した栄養系を選抜し た ( F i g . 2 - 4 - 1 C - D ) .そ し て ,そ の 6 個 の 独 立 し た 栄 養 系 か ら 得 ら れ た シ ュ ー ト は , 100 g・ml-1 kanamycin sulphate を 含 む 1/10 濃 度 の M S 発 根 培 地 で 発 根 し た ( F i g . 2 - 4 - 1 E ) . 発 根 個 体 は ,鉢 上 げ 順 化 後 , 隔 離 温 室 へ 移 し た (Fig. 2-4-1 F). こ れ ら の 植 物 体 は 形 態 的 に 正 常 であった. 2 組 み換 え植 物 における NPTII 遺 伝 子 および GUS 遺 伝 子 の確 認 植 物 体 中 の NPTII 遺 伝 子 と GUS 遺 伝 子 の 確 認 は , PCR 法 と サ ザ ン ・ ハ イ ブ リ ダ イ ゼ ー シ ョ ン 法 に よ り 行 っ た (Fig. 2-4-2, 2-4-3) . NPTII 遺 伝 子 特 異 的 も し く は GUS 遺 伝 子 特 異 的 プ ラ イ マ ー を 用 い て PCR を 行 う こ と に よ り , 制 限 酵 素 で 処 理 し な い pBI121 プ ラ ス ミ ド 遺 伝 子 を テ ン プ レ ー ト と し て , 0.8 kb お よ び 1.9 kb の NPTII 遺 伝 子 と GUS 遺 伝 子 に 該 当 す る 遺 伝 子 断 片 が 増 幅 さ れ た (Fig.2-4-2, Lane 5 ) . そ し て ,組 み 換 え 植 物 の D N A を テ ン プ レ ー ト と し た 場 合 も 同 様 の PCR 産 物 が 得 ら れ た . そ れ に 対 し て , 非 形 質 転 換 体 の DNA を 用 いた場合,増幅産物は得られなかった. サ ザ ン 解 析 の た め , LBA4404/ pBI121 を 接 種 し た 組 織 片 か ら 得 ら れ た 2 個 体 に つ い て ゲ ノ ム DNA を 抽 出 し た . 抽 出 し た ゲ ノ ム DNA は ,E c o R I - B a m H I に よ り 制 限 酵 素 処 理 し ,2 . 1 k b の G U S 遺 伝 子 断 片 が 供 試 し た 2 個 体 の 組 み 換 え 植 物 か ら 検 出 さ れ (Fig. 2-4-3B, Lane 2, 3 ) ,5 - 6 k b の N P T I I 遺 伝 子 断 片 が 検 出 さ れ た ( F i g . 2 - 4 - 3 A , L a n e 2 , 3 ) . し か し な が ら , 1 個 体 に つ い て は 他 に サ イ ズ の 異 な る NPTII 遺 伝 子 断 片 が 2 本 検 出 さ れ ( Fi g. 2 -4 -3 A, La n e 2) ,こ の 組 み 換 え 体 は 3 コ ピ ー の NPT II 遺 伝 子 を 含 ん で い る こ と が 示 唆 さ れ た .ま た ,LBA4404/ pBI121 か ら 対 応 す る シ グ ナ ル と し て , Fig. 2-4-3 A に 示 さ れ た サ イ ズ の 遺 伝 子 断 片 が 反 応 す る こ と は な い こ と か ら , 残 存 す る Agrobacterium に よ る も の で は な い こ と が 示 さ れ た . - 52 - 3 GUS 遺 伝 子 の発 現 解 析 形 質 転 換 体 に お け る GUS 活 性 の 検 出 と し て , X-gluc 染 色 に よ る 組 み 換 え 植 物 の 茎 葉 お よ び 根 に お け る 組 織 化 学 的 な GUS 遺 伝 子 の 発 現 を 解 析 し た .35S プ ロ モ ー タ ー に よ り GUS 遺 伝 子 は 葉 ,茎 お よ び 根 と い っ た 全 て の 組 織 で 発 現 し た (Fig. 2-4-4 A-D). CaMV 35S プ ロモーターは,多くの植物種における組み換え植物の恒常的な外来 遺伝子発現プロモーターとして広く用いられており,シャクナゲに お け る 遺 伝 子 発 現 は ,C a M V 3 5 S プ ロ モ ー タ ー に よ り 制 御 さ れ た G U S 遺伝子が,植物体の全身で恒常的に発現する典型的な発現パターン (J efferson ら , 1987) と 一 致 し て い た . 4 - M U G 分 析 法 に よ り ,C a M V 3 5 S プ ロ モ ー タ ー に よ る G U S 遺 伝 子 の発現活性を定量した.その結果,非形質転換体では検出限界以下 であるのに対して,6 個の独立した組み換え体ではそれぞれに異な る GUS 活 性 を 示 し た (Fig. 2-4-5). ま た , そ の 発 現 活 性 は , 最 も 高 い No. 2 組 み 換 え 体 の 5.9 4MU nmols・min-1・mg-1 protein か ら 最 も 低 い No. 6 組 み 換 え 体 の 0.5 4MU nmols・min-1・mg-1 protein と な り , 組 み 換 え 体 に よ り 発 現 レ ベ ル が 10 倍 以 上 異 な っ て い た (Fig. 2-4-5). 考 察 本 試 験 で は ,A g r o b a c t e r i u m 接 種 法 に よ る シ ャ ク ナ ゲ の 遺 伝 子 組 み 換 え 技 術 の 確 立 に つ い て 論 議 し た . 当 初 共 存 培 養 に 供 試 し た 120 切 片から 6 個体の独立した栄養体の組み換え植物が得られたものの, 形 質 転 換 効 率 は 5%と 低 か っ た (Fig. 2-4-1). し か し , ツ ツ ジ 属 に お ける植物体再生技術は多くの種で確立されている (Dai ら , 1987; Economou ら , 1987; Fordham ら , 1982; Iapichino ら , 1992; Harbage ・ St i mart 1987; Meyer, 1982) こ と か ら , 本 試 験 に お け る 遺 伝 子 組 み 換 え技術は,シャクナゲを含むツツジ属の遺伝的変異拡大の可能性を 持ちあわせており,花色や形態的な特性改変の他,耐寒性や耐暑性 等環境ストレスに対する適応性の改変に活用可能と考えられる. - 53 - ツ ツ ジ 属 植 物 に お け る 類 似 し た 遺 伝 子 組 み 換 え 研 究 は , Pavingerová ら (1997) が 報 告 し て お り ,ツ ツ ジ 属 の 5 品 種 に つ い て の カ ナ マ イ シ ン 耐 性 植 物 の 再 生 率 は 5 . 5 ~ 7 9 . 5 % で あ り ,本 実 験 で 得 ら れ た 5 %の 形 質 転 換 効 率 よ り 大 幅 に 高 か っ た . し か し , 抗 生 物 質 耐性個体の獲得率が高い一方で,本試験で発生しなかったキメラの 発 生 を 認 め て い る . こ れ は , 初 期 選 抜 の 段 階 で は 本 試 験 の 1/5~ 1/2 濃度のカナマイシンで選抜を行っており,非形質転換細胞が混入し た も の と 考 え ら れ る .ま た ,本 試 験 で 非 形 質 転 換 体 の 腋 芽 は 1 0 0 g・ ml-1 kanamycin sulfate を 含 む 培 地 上 で , 白 化 す る も の の 枯 死 せ ず 伸 長 し た こ と (Fig. 2-4-1 A) か ら , 茎 頂 分 裂 組 織 の 形 成 後 は 低 濃 度 の カナマイシンによる選抜は困難であることを示しており,形質転換 細 胞 が 混 在 す る キ メ ラ 個 体 で は , 100 g・ml-1 kanamycin sulfate を 含 む培地上でも抗生物質耐性個体として生育できたものと推察された. そ し て ,本 実 験 で は 当 初 1 2 0 切 片 か ら 1 9 切 片 で 不 定 芽 形 成 を 確 認 し , 高濃度のサイトカイニンを含む培地で多芽状の不定芽を長期間選抜 す る こ と に よ り , 最 終 的 に 6 個 の 独 立 し た 形 質 転 換 体 を 得 た (Fig. 2-4-1).不 定 芽 を 形 成 し た 19 切 片 に は キ メ ラ が 混 在 し て い た 可 能 性 はあるものの,最終的に得られた 6 個の形質転換体にキメラが含ま れていなかったことは,不定芽発生初期から抗生物質の選抜圧をか け,多芽体形成と抗生物質耐性によりキメラを分離もしくは排除で きたものと考えられた. シロイヌナズナの形質転換では,遺伝子導入細胞の分離と固定の た め ,種 子 を 経 由 す る( 鹿 内 2009)が ,栄 養 繁 殖 作 物 の 中 で も 育 種 に長期を要する木本性植物において,種子を経由したキメラの分離 法 は 適 当 と は 言 え な い . ま た , Shinoyama ら (2002) は , キ ク の 形 質転換系において,葉片からの不定芽再生系の場合キメラの発生が 多いため,形質転換細胞をカルスで選抜することにより安定した形 質転換系を確立している.このようなキメラ発生の要因は,不定芽 - 54 - 形 成 が 多 細 胞 を 起 源 と し た 再 生 系 で あ る ( 大 澤 , 1988) こ と に 起 因 す る と 考 え ら れ る が , 本 試 験 や Pavingerová ら (1997)の 報 告 は い ず れも不定芽起源の植物体再生系を用いている.栄養繁殖作物でキメ ラが混入しない安定した形質転換系を確立するためには,本試験で 示したように,遺伝子導入の初期段階から適正な選抜圧により非形 質転換細胞の増殖を抑制し,多芽状に茎頂部位を増やすことにより キメラ状に混入した非形質転換細胞を分離もしくは排除する必要が あると考えられた. 本 実 験 で 用 い た GUS 遺 伝 子 は CaMV 35S プ ロ モ ー タ ー に よ っ て 制 御されていることから,植物体の全身で遺伝子が発現することを確 認 し た ( Fi g. 2 -4 -4) .ま た ,遺 伝 子 の 発 現 活 性 は ,形 質 転 換 体 に よ り 10 倍 以 上 の 差 が 認 め ら れ た (Fig. 2-4-5)が , こ れ は 導 入 さ れ た 遺 伝 子 の コ ピ ー 数 が 形 質 転 換 体 に よ り 異 な っ て い る こ と ( F i g . 2 - 4 - 3 ) ,も しくは異なる染色体に導入された遺伝子の位置効果によるものと考 えられた.このように遺伝子の発現レベルが形質転換体により大き く異なることから,有用遺伝子の導入の際は,多数の形質転換体の 中から目的にあった発現レベルの個体を選抜する必要があることが 示された. 得 ら れ た 遺 伝 子 組 み 換 え 植 物 は , 草 丈 40 cm に 生 長 し , 花 芽 を 形 成 し 開 花 段 階 に 至 っ た ( F i g . 2 - 4 - 6 ) . し か し ,一 定 温 度 で 管 理 す る 隔 離温室では低温遭遇期間がなく,開花には至らなかった.今後,花 器組織における遺伝子発現や稔性を調査するためには,花芽の休眠 打破のための低温処理が必要と考えられた. - 55 - 要 約 植物の組織培養中に問題となる水浸状化について,多糖類産生の 非 病 原 性 細 菌 に 着 目 し , 水 浸 状 化 回 避 に 効 果 を 認 め て い る Pseudomonas sp. strain F お よ び AT C C 保 有 の 菌 株 の 中 か ら Pseudomonas 属 お よ び Beijerinckia 属 の 2 属 4 種 の 細 菌 に つ い て , 細菌接種法による水浸状化回避の効果を解析した.これにより,オ レ ガ ノ か ら 単 離 し た P. s p . s t r a i n F と 同 様 に ,他 の 多 糖 類 産 生 非 病 原 性細菌において植物の水浸状化を回避する効果が認められ,多糖類 産生性により菌種の選定が可能であることを示した.また,植物体 に一度接種した細菌は,継代培養によって安定して保持され,植物 の水浸状化の回避効果は長期間持続した.このことは,接種した非 病原性細菌の植物体内における定着性と安定性を示すものであっ た . さ ら に , 細 菌 接 種 法 の 適 用 範 囲 の 拡 大 を 目 的 に , P. s p . s t r a i n F を木本性栄養繁殖作物であるラズベリーに接種し,水浸状化回避効 果を確認した.細菌接種によりラズベリーの栄養繁殖 4 系統は,水 浸状化回避効果に差があるものの,接種した細菌は長期間の継代培 養によって保持されるとともに,植物の順化率向上効果が認められ た.これにより,細菌接種法の有効性に加え,植物組織培養産業に おける実用化の可能性が示された.これらのことから,植物の水浸 状化回避の作用が,菌体外に産生する多糖類と密接に関係している ことを示すとともに,オレガノから単離した菌株だけでなく,同様 の特性を持った他の菌株も水浸状化回避に利用可能であること,こ れらの菌株が植物体内に定着し安定して保持されること,そしてこ の方法が植物の科を越えた範囲で適用可能であることなど,細菌接 種法は適用範囲が広く,実用化に向けた応用が可能であることを実 証した. Agrobacterium tumefaciens 接 種 法 に よ り シ ャ ク ナ ゲ の 遺 伝 子 組 み - 56 - 換 え 植 物 を 作 出 し た . A. tumefaciens は 病 原 性 を 取 り 除 い た バ イ ナ リ ー ベ ク タ ー に よ る NPTII と GUS 遺 伝 子 の 両 方 を 併 せ 持 つ 系 統 で , シ ャ ク ナ ゲ の 培 養 植 物 の 茎 葉 部 と の 共 存 培 養 を 行 っ た .接 種 の 3 ~ 4 か月後,カナマイシン選抜培地上で不定芽が形成され,植物体が再 生 し た .NPTII と GUS 遺 伝 子 の 導 入 は ,PCR 法 と サ ザ ン ハ イ ブ リ ダ イ ゼ ー シ ョ ン 法 に よ っ て 確 認 さ れ た .組 織 化 学 的 な G U S 活 性 解 析 か ら , 導 入 遺 伝 子 は CaMV 35S プ ロ モ ー タ ー に よ り , 全 て の 組 織 で 恒 常的に発現することが示された.ツツジ属における遺伝子組み換え 技術の確立は,花色や形態的な特性改変の他,耐干性や耐暑性等環 境ストレスに対する適応性の改変に活用可能と考えられた. - 57 - Table 2-1-1. Average water content in control and bacterially inoculated oregano shoot explants from clonal line O-1 30 days after treatment. ATCC Treatment No. Total chlorophyll (mg/g [fresh wt] of tissue) mean (STD) Control (No bacteria) mg of water in 100 mg of tissue mean (STD) Phenolics mg/g (fresh wt) of tissue mean (STD) g/g (dry wt) of tissue mean (STD) Plant growth (biomass) (mg/replicate) 698 (56) 91.2 (0.9) 1.8 (0.1) 20.7 (1.3) 465 Pseudomonas mucidolen 4685 1,102 (42) 89.2 (0.4) 2.8 (0.2) 26.2 (1.9) 243 Pseudomonas sp. 31461 1,040 (59) 88.5 (0.8) 2.6 (0.2) 22.2 (1.3) 264 Pseudomonas stutzeri 31258 888 (155) 84.2 (0.8) 2.8 (0.2) 17.7 (1.3) 159 Beijerinkia indica 21423 906 (41) 85.3 (0.7) 4.6 (0.2) 31.5 (1.1) 99 1,048 (35) 85.9 (1.0) 4.8 (0.5) 33.8 (3.7) 130 Pseudomonas sp. F Table 2-1-2. - Evaluation of normal development and acclimation in soil of control and bacterially inoculated oregano shoot explants of line O-1 60 days after treatment. Treatment ATCC No. Control (No bacteria) No. of explants % of shoots hyperhydrated % survival after acclimation Plant vigor after 3 weeks of 1 week 3 weeks acclimation * 15 93 100 73 + Pseudomonas mucidolens 4685 15 0 100 93 +++ Pseudomonas sp. 31461 15 0 100 93 ++ Pseudomonas stutzeri 31258 15 46 100 93 ++ Beijerinkia indica 21423 7 0 100 100 + - 7 7 100 86 ++ Pseudomonas sp. F * Plant vigor; + low vigor; ++ midium; +++ high vigor. Each experiment had about 15 plants / clonal line / treatment. - 58 - Fig. 2-1-1. Surviving of oregano clone O-1 after 3 weeks acclimation following treatment with various bacterial species to reduce hyperhydricity. Control, uninoculated control; a, P. mucidolens; b, Pseudomonas sp. strain ATCC 31461; c, P. stutzeri; d, B. indica; F, Pseudomonas sp. strain F. After bacterial treatment, the clones were enclosed with a transparent plastic cover for 1 week before sudden exposure to room temperature and humidity condition. - 59 - Fig. 2-2-1. Shoot growth of oregano clonal line O-1 on Murashige and Skoog medium / benzylaminopurine after the eighth 30-days subculture cycle without re-inoculation. a and after re-inoculation with P. mucidolens, b B. indica, c Pseudomonas sp. F. d un-inoculated control. - 60 - Table 2-2-1. Average water content in oregano (clonal line O-1) shoot explants after the seven and eight subcultures following inoculation with various bacterial species. Treatment Water in 100 mg tissue ± [SD (mg)]* 7th cycle 8th cycle Control (No bacteria) 89.3 (0.1) 87.3 (1.7) P. mucidolens 85.9 (1.1) 79.5 (0.7) Pseudomonas sp. 83.0 (0.9) 77.7 (1.3) P. stutzeri 84.3 (0.4) 80.4 (1.2) B. indica 82.6 (0.5) 79.6 0.0 Pseudomonas sp. F 83.0 (0.3) 81.3 0.0 * Numbers in parantheses indicate standard deviation Table 2-2-2. Average total phenolic content in oregano shoot explants after the seventh and eighth subcultured following inoculation with various bacterial species. Total phenolics Treatment 7th cycle (mg/g FW) 8th cycle ( g/g DW) (mg/g FW) ( g/g DW) Control (No bacteria) 2.5 *1 23.6 *1 3.0 *1 23.3 *1 P. mucidolens 7.5 *4 52.8 *4 6.6 *4 32.2 *3 Pseudomonas sp. 7.2 *4 42.4 *3 6.6 *3,*4 29.8 *2,*3 P. stutzeri 3.5 *2 22.2 *1 4.2 *2 21.5 *1 B. indica 5.6 *3 32.2 *2 5.7 *3 27.9 *2 Pseudomonas sp. F 8.7 *4 51.3 *4 6.1 *3 32.6 *3 *1-*4 Means followed by the same superrscripts are not significantly different at the 5% level by Duncan's multiple-range test. FW fresh weight, DW dry weight. - 61 - Table 2-2-3. Average total chlorophyll content in oregano shoot explants after the seventh and eighth sbcultured following inoculation with various bacterial species. Total chlorophyll ( g/g tissue) Treatment 7th cycle FW Control (No bacteria) 593 8th cycle DW FW DW *1 5.6 *1 709 *1 5.6 *1,*2 P. mucidolens 1,246 *3,*4 8.8 *3 1,326 *3 6.5 *3 Pseudomonas sp. 1,234 *3,*4 7.2 *2 1,340 *3 6.0 *2 937 *2 6.0 *1 912 *2 4.6 *1 B. indica 1,168 *3 6.7 *1,*2 1,434 *3 7.0 *3 Pseudomonas sp. F 1,367 *4 8.0 *2,*3 1,321 *3 7.0 *3 P. stutzeri *1-*4 Means followed by the same superrscripts are not significantly different at the 5% level by Duncan's multiple-range test. FW fresh weight, DW dry weight. Table 2-2-4. Average plant growth of oregano shoot explants after the seventh and eighth subcultures following inoculation with various bacterial species. Treatment Plant growth (mg/plate) 7th cycle 8th cycle Control (No bacteria) 983 *3 807 *4 P. mucidolens 253 *2 273 *3 Pseudomonas sp. 264 *2 198 *2 P. stutzeri 106 *1 237 *3 B. indica 122 *1 131 *1 Pseudomonas sp. F 271 *2 214 *2 *1-*4 Means followed by the same superrscripts are not significantly different at the 5% level by Duncan's multiple-range test. - 62 - Table 2-2-5. Evaluation of normal plant development and acclimation in soil of multiple subcultured control oregano shoot explants from clonal line O-1and of explants inoculated with various bacterial species, 15 days after growth on 50% Murashige and Skoog-hormone-free medium and being transferred to soil. Treatment No. of explants % of hyperhydricity % of root formation (length) % of survival (vigor) after 10 days acclimation Control (No bacteria) 20 70 100 (+++) 85 (++) P. mucidolens 20 0 85 ( ++ ) 100 (++) Pseudomonas sp. 20 0 100 ( + ) 100 (+) P. stutzeri 20 10 100 ( + ) 100 (++) B. indica 20 0 10 ( - ) 95 (+) Pseudomonas sp. F 20 0 100 ( + ) 100 (++) Root length: - no root; + short (<3 mm); ++ medium (3-6 mm); +++ long (>6 mm). Plant vigor: ± weak; + low vigor, ++ medium; +++ high vigor. - 63 - Table 2-3-1. Evaluation of normal plant development and acclimation in soil of control and Pseudomonas sp. F inoculated raspberry of four clonal lines, 2.5 months after treatment. % srvival after 7 weeks of exposure 42 % srvival with 10 days li i 83 50 +++ 0 100 100 +++ 44 88 56 ++ Inoculated 7 100 93 ++ Control 0 100 100 + Inoculated 0 100 100 ++ Control 21 100 71 ++ Inoculated 20 93 80 ++ % hyperhydrated shoot Treatment CDH-92 Control Inoculated GEL-20 Heritage JCR-FL Control Plant vigor* after 7 weeks of exposure * Plant vigor; +- weak; + low vigor; ++ midium; +++ high vigor. Each experiment had about 15 plants / clonal line / treatment. Table 2-3-2. Comparison of average water content, chlorophyll, and total phenolics in uninoculated control and inoculated raspberry explants from four cultivers with standard deviation in parentheses. Treatment CDH-92 GEL-20 Heritage JCR-FL 1 month* mg water in 100 mg tissue 5 months* mg water in 100 mg tissue 2.5 months* phenolics mg/g FW tissue 2.5 months* total chlorophyll g/g FW tissue Control 81.2 (1.1) 86.2 (0.4) 1.9 (0.6) 999 (124) Inoculated 80.7 (1.9) 82.5 (0.4) 4.4 (0.6) 979 (156) Control 83.6 (0.9) 87.1 (0.7) 1.4 (0.2) 729 (203) Inoculated 77.4 (0.4) 80.9 (1.9) 2.5 (0.1) 1,483 ( 75) Control 85.0 (0.7) 85.6 (1.4) 2.4 (0.5) 840 (182) Inoculated 81.2 (2.6) 81.5 (0.6) 3.0 (0.4) 1,470 (159) Control 83.1 (0.7) 88.0 (0.2) 2.2 (0.1) 891 (171) Inoculated 83.5 (1.3) 83.4 (0.1) 3.3 (0.0) 1,113 (188) * Months indicate the time on 1/2 MS (HF) medium with subculturing done every 30 d without any reinoculatio - 64 - Fig. 2-3-1. Plant growth and vigor of raspberry four clonal lines after 3 weeks exposure. Control; uninoculated control, inoculated; Pseudomonas sp. F strain inoculated clones. a; CDH-92, b; GEL-20, c; Heritage, d; JCR-FL. - 65 - Fig. 2-4-1 Regeneration of transformed shoots and production of transgenic plants. A Kanamycin selection at 100 g/ml (non-transformed shoot); B Adventitious bud formation on selection medium (Zea 5 mg/l); C Regeneration and shoot formation on selection medium (Zea 1 mg/l); D Elongation of kanamycin-resistant shoots (Zea 0.1 mg/l); E Rooted plants; F Transgenic plants established in the greenhouse. - 66 - Fig. 2-4-2. PCR analysis of regenerated plants. A: Detection of the NPTII gene. B: Detection of the GUS gene. Lane M: 1kb ladder Marker. Lane 1: non-transfprmed control plant. Lane 2-4: transformed plants with LBA4404/pBI121. Lane 5: planmid pBI121. - 67 - HindIII BamHI EcoRI LB RB nos-pro NPTII nos-ter 0.8 XbaI HindIII 35S-pro BamHI 35S-pro 0.3 BamHI NPTII nos-ter 0.8 0.8 0.3 35S-NPTII / pUC18 0.8 EcoRI HindIII GUS nos-ter 1.8 0.3 0.8 EcoRI BamHI 35S-pro pBI121 GUS nos-ter 1.8 0.3 pBI221 / pUC19 Fig. 2-4-3. Southern hybridization of DNA prepared from in vitro non-transformed and transformed plant tissues. A: Detection of the NPTII gene. The probe was the 1.1 kb BamHI fragment of 35SNPTII/pUC18 containing the NPTII gene. Arrows on left indicate estimation of 5 and 6 kb size fragments. Arrows on right sow hybridizing bands. B: Detection of the GUS gene. The probe was the 2.1 kb BamHI-EcoRI fragment of pBI221 containing the GUS gene. Lane 1: non-transfprmed control plant. Lane 2,3: transformed plants with LBA4404/pBI121. DNA samples were digested with BamHI-EcoRI. - 68 - Fig. 2-4-4. Histochemical observation of GUS gene expression in the tissues of transgenic Rhododendron plants. A: GUS assay of non-transfomed control (left) and transformed (right) shoot; B: Root; C: Leaf; D: Cross section of leaf. - 69 - (4MU nmols/ min/ mg protein) GUS activity 6 5 4 3 2 1 0 control No.1 No.2 No.3 No.4 No.5 transformants Fig. 2-4-5. GUS activity in the leaf of transgenic Rhododendron plants. - 70 - No.6 Fig. 2-4-6. Present status of transgenic Rhododendron plants. Bar = 10 cm. - 71 - 第 3章 突 然 変 異 育 種 を用 いた地 域 特 産 作 物 の品 種 育 成 への応 用 ―輪 ギクを例 としてー 種子繁殖・栄養繁殖といった繁殖様式にかかわらず,育種や品種 改良の基本は交配により優良な遺伝形質を集積して行われる.しか しながら,サツマイモ,サトウキビ,キク,イチゴなどゲノムサイ ズが大きな高次倍数性で栄養繁殖性の作物の場合,遺伝特性を集積 し,優秀な品種を育成するためには,多数の交配後代から選抜を繰 り返すことはもちろん,後代検定による交配組合せ能力やヘテロシ スの利用を図り,長期間にわたる選抜・育成による品種改良が必要 となる.実際,サトウキビの場合毎年数万の実生個体から選抜する 育 種 プ ロ グ ラ ム が 実 施 さ れ て お り ( 杉 本 , 2007) , 高 次 倍 数 性 の 栄 養繁殖作物における品種改良の特徴として報告している(杉本, 2007) . こ の よ う な 高 次 倍 数 性 栄 養 繁 殖 作 物 を 含 め て , 交 配 に よ ら ない品種改良の手法として,遺伝子組み換えや突然変異育種があげ られる.これらは,基本的な表現形質や品種特性を維持したまま, 新たな特性を付加できる点で極めて有用な育種手段といえる.その た め , 遺 伝 子 組 み 換 え 作 物 の 利 用 は 急 速 に 拡 大 し て お り , James ( 2011) の 報 告 に よ る と , 2010 年 現 在 , 世 界 の 作 物 栽 培 総 面 積 15 億 ha の 10% に あ た る 1 億 4,800 万 ha に 達 し て い る .と こ ろ が ,日 本では遺伝子組み換え作物に対する一般市民における社会的な許容 評 価 ( PA : P u b l i c A c c e p t a n c e ) が 極 め て 厳 し く , 実 用 品 種 と し て 環 境 や人体に対する安全性の評価を終えたものであっても,日本で遺伝 子 組 み 換 え 作 物 の 経 済 栽 培 は ,2 0 1 0 年 段 階 に お い て も 実 施 さ れ て い な い( J a mes , 2 0 11 ) .こ の よ う に ,多 額 の 投 資 に よ り 遺 伝 子 組 み 換 え による品種改良や安全性評価を行っても,国内では実用品種として の利用が期待できないことから,これに代わる育種法として変異誘 発による品種改良の検討を開始した。 - 72 - 本章では,栄養繁殖作物の交配によらない突然変異を利用した育 種法として,イオンビームを用いた手法の検討を行った.対象作物 として輪ギクを用い,組織培養技術の改善,個体選抜技術,有用変 異選抜技術,および再照射による再改良等を検討し,輪ギク実用品 種の育成を通して,イオンビーム育種の確立を検討した. - 73 - 第 1節 組 織 培 養 を用 いたキクの変 異 誘 発 と個 体 選 抜 技 術 の確 立 キ ク [ Chrysanthemum x morifolium Ramat. ( Dendranthema x grandiflorum Kitamura) ] は , 世 界 的 に も 重 要 な 花 き 品 目 で あ り , 我が国の花き生産の 3 割を占める.鹿児島県においても,キク類は 切 り 花 生 産 の 半 分 に あ た る 55 億 円 の 農 業 産 出 額 を あ げ る 基 幹 品 目 で あ る ( 鹿 児 島 県 農 政 部 , 2012) . 一 般 に , 花 き 類 は 新 奇 性 の あ る 品種が好まれることから,スプレーギク品種については,出荷時期 に 対 応 し た 花 色 ・ 花 形 ・ 草 姿 の 異 な る 2,000 種 以 上 の 品 種 が 育 成 さ れている.しかし,キク類で最も多く生産されている白や黄色の輪 ギクは,主に業務用や葬儀用として用いられることから,同色でも 色あいや形を揃える必要がある.そのため,生産される品種は限ら れ て お り , 1990 年 代 ま で 白 の 秋 輪 ギ ク は ‘秀 芳 の 力 ’の 単 一 品 種 で の 独 占 状 態 が 続 い て い た .一 方 ,主 に 1 0 ~ 5 月 に 出 荷 す る 秋 輪 ギ ク ‘ 神 馬 ’は , 純 白 で 花 形 や 草 姿 が 良 く 生 育 特 性 に 優 れ る こ と か ら , 2000 年 以 降 は 3 0 年 来 主 力 品 種 で あ っ た ‘ 秀 芳 の 力 ’ を 凌 駕 し ,生 産 量 で 全 国 一 の 品 種 と な っ て い る ( 永 吉 , 2 0 0 3 ). 本 節 で は , ‘ 神 馬 ’ を 中 心 に イオンビームを用いた人為的な突然変異誘発と変異個体の育成・選 抜技術について検討した. 材 料 および方 法 1 供 試 品 種 および材 料 の調 整 Ta b l e 3 - 1 - 2 で 示 す と お り , 対 照 品 種 と し て 用 い た ‘ 神 馬 ’ の 他 1 3 品種を供試し,植物体再生系および供試部位の検討を行った。切り 花 用 に 栽 培 さ れ た 各 品 種 の 花 弁 ( 舌 状 花 ) ま た は 葉 身 部 を , 70%エ タ ノ ー ル で 表 面 殺 菌 後 ,有 効 塩 素 濃 度 1 . 0 % の 次 亜 塩 素 酸 ナ ト リ ウ ム 水 溶 液 中 で 1 5 分 間 滅 菌 し ,滅 菌 水 で 3 回 洗 浄 後 ,2 × 4 m m の 切 片 に 調整し,培地に置床した. 変 異 誘 発 等 に 供 試 す る 場 合 は , 各 品 種 の 生 長 点 を 0.5 mm 以 下 で - 74 - 無 菌 的 に 摘 出 し , 0 . 0 1 m g ・ L - 1 N A A( n a p h t h y l a c e t i c a c i d ) , 0 . 0 5 m g ・ L-1 BAP( 6-benzylaminopurine) , 3% シ ョ 糖 お よ び 0.3% ジ ェ ラ ン ガ ム( 和 光 純 薬 )を 添 加 し ,p H 5 . 8 に 調 整 し た M S 培 地( M u r a s h i g e ・ S k o o g , 1 9 6 2 )( 以 下 , 茎 頂 培 養 培 地 ) に 置 床 し , 無 菌 植 物 を 育 成 し て葉身部をその後の試験に供試した. 2 植 物 体 再 生 系 および培 養 方 法 不 定 芽 経 由 の 再 生 系 に つ い て は , MS 基 本 培 地 に オ ー キ シ ン と し て 0.1~ 0.5 mg・L-1 NAA ま た は 1.0~ 5.0 mg・L-1 IAA( indole acetic acid)を ,サ イ ト カ イ ニ ン と し て 0.1~ 2.0 mg・L-1 BAP を 添 加 し ,3% シ ョ 糖 を 加 え , pH 5.8 に 調 整 後 ,0.3% ジ ェ ラ ン ガ ム で 固 化 し 不 定 芽 誘 導 培 地 と し て 用 い た . い ず れ の 培 地 も 121℃ , 15 分 間 の オ ー ト ク レ ー ブ に よ り 加 圧 滅 菌 し た . な お , IAA 添 加 培 地 の 場 合 , 濾 過 滅 菌 し た IAA を オ ー ト ク レ ー ブ 後 の 培 地 に 加 え て 攪 拌 後 , 直 径 9 cm の 滅 菌 シ ャ ー レ に 25 ml ず つ 分 注 し た . 調整した外植体は,不定芽再生効率の安定化のため,置床する際 は 葉 の 背 胚 軸 面 を 上 向 き に 統 一 し , 1 シ ャ ー レ あ た り 20 切 片 ( 4 列 ×5 切 片 ) ず つ 不 定 芽 誘 導 培 地 に 置 床 し , 25℃ , 16 時 間 日 長 , 白 色 蛍 光 灯 下 ( 35 mol ・ m-2 ・ s-1 ) で 培 養 し た . ま た , 各 区 と も 少 な く と も 4 枚のシャーレを用い,4 反復とした. 不定芽誘導培地に置床して 1 か月後,葉切片上に多芽状に形成し た 不 定 芽 を 茎 頂 培 養 と 同 組 成 の 不 定 芽 生 育 培 地 ( MS 培 地 ; 0.01 mg・ L - 1 N A A , 0 . 0 5 m g ・ L - 1 B A P, 3 % シ ョ 糖 , 0 . 3 % ジ ェ ラ ン ガ ム ; p H 5 . 8 ) に 移 植 し た .1 か 月 後 ,生 長 し た 外 植 片 を 含 む 不 定 芽 を 4 ~ 5 分 割 し , 不 定 芽 の 伸 長 を 促 す た め MS ホ ル モ ン フ リ ー 培 地 50 ml を 分 注 し た ガ ラ ス 製 500 ml 培 養 容 器 に そ れ ぞ れ 10 切 片 程 度 を 置 床 し た . 多 芽 体 誘 導 に つ い て は , 2 mg・L-1 BAP お よ び 3% シ ョ 糖 を 含 む MS 液 体 培 地 に 無 菌 植 物 か ら 摘 出 し た 茎 頂 部 位 を 入 れ て , 液 体 振 盪 培 養 を 行 っ た . 1 か 月 後 , 5 × 5 mm 程 度 の 大 き さ に 分 割 し , 同 じ - 75 - 培地に継代培養することにより,多芽体を誘導した.多芽体は,ホ ルモンフリー固形培地に移植することにより複数の植物体を再生し た. 3 乾 燥 処 理 による水 浸 状 化 回 避 再生個体の水浸状化を回避することを目的に,ホルモンフリー培 地に移植する前に乾燥処理を行った.多芽体の場合,液体培地から 取 り 出 し ,ク リ ー ン ベ ン チ 内 の 滅 菌 濾 紙 上 で 2 0 ~ 3 0 分 間 通 風 乾 燥 し , 水分減少程度を計測した.その後,ホルモンフリー固形培地に移植 し て 植 物 体 の 再 生 を 行 い ,再 生 個 体 の 外 観 か ら 水 浸 状 化 を 判 定 し た . 葉片由来の不定芽についても同様に,外植片が着いた状態の不定芽 を 4~ 5 分 割 し , 滅 菌 濾 紙 上 に 並 べ , ク リ ー ン ベ ン チ 内 で 20 分 間 の 通風乾後,ホルモンフリー固形培地に移植した. 4 順 化 と育 苗 不 定 芽 を ホ ル モ ン フ リ ー 培 地 に 移 植 し た 1 か 月 後 に , 草 丈 5~ 10 cm に 伸 長 し た 再 生 個 体 を 長 さ 5 cm の シ ュ ー ト に 調 整 し た . 殺 菌 剤 (テトラクロロイソフタロニトリル懸濁液剤)と発根剤(インドー ル 酪 酸 液 剤 )を 含 む 薬 液 に シ ュ ー ト を 2 分 間 浸 漬 し ,順 化 に 用 い た . なお,各薬剤の濃度は製品の記載に従って調整した. バ ー ミ キ ュ ラ イ ト ( 2S, 旭 工 業 ) に 水 を 加 え , 育 苗 箱 ( 50×36× 1 0 c m )に 敷 き 詰 め ,よ く ほ ぐ し た も の を 順 化・発 根 床 と し て 用 い た . こ こ に 上 記 の シ ュ ー ト を 150~ 250 本 程 度 挿 し , ポ リ 袋 で 密 閉 し て 25℃ , 16 時 間 照 明 の 恒 温 室 で 発 根 を 促 し , 7~ 10 日 後 , 採 苗 用 の 移 植苗とした.これらは,土床の育苗施設に移植後,1 か月間で一般 栽培に利用する挿し穂と同程度の大きさに生長した.定植時の苗の 均 一 性 を 高 め る た め ,育 苗 圃 で 生 長 し た 苗 の 上 部 5 c m を 採 穂 し ,発 根処理後,切り花生産圃場に定植した.変異誘発当代を展開する試 験 規 模 は , 作 型 ご と に 3 , 0 0 0 ~ 4 , 0 0 0 個 体 と し , 11 ~ 1 2 月 開 花 と 3 ~ 4 月開花の 2 作型の試験を実施した. - 76 - 5 変異誘発処理 照 射 材 料 は ,無 菌 植 物 の 葉 切 片 を 2 × 4 m m の 大 き さ に 調 整 し ,6 c m 径シャーレの不定芽誘導培地上に,葉の背胚軸面を上向きに統一し て 4 0 切 片 置 床 し た .ま た ,シ ャ ー レ の 上 部 は ,滅 菌 し た カ プ ト ン フ ィルム(東レ・デュポン)を張り,パラフィルムで密封して次に示 す照射処理を行った.なお,イオンビーム照射は,材料を調整後施 設に搬送する期間を要することから,変異誘発処理は葉片の培養開 始 後 3~ 5 日 目 に 行 っ た . イオンビームは,独立行政法人日本原子力研究開発機構高崎量子 応 用 研 究 所 の イ オ ン 照 射 研 究 施 設 ( T I A R A ) に 設 置 さ れ た AV F サ イ クロトロン加速器により照射した.また,イオンビームは,総エネ ル ギ ー 220 MeV ま た は 320 MeV の 炭 素 イ オ ン ビ ー ム を 0.5~ 5 Gy の 線 量( 試 料 の 厚 み を 0 . 5 m m と し て 線 量 調 整 )で ,5 0 M e V ま た は 1 0 0 MeV の ヘ リ ウ ム イ オ ン ビ ー ム を 1~ 10 Gy の 線 量 で 照 射 し た . 軟 X 線 は TRS-100CX( SOFRON 製 ) を 用 い て , 線 量 率 3.6 Gy・h-1 に よ り 1 ~ 2 0 G y の 線 量 を 照 射 し た .各 線 量 区 は 少 な く と も 2 枚 の シ ャ ー レ を反復として用いた. 照射後の葉切片は,照射時と同様に背胚軸面を上向きにして 1 シ ャ ー レ あ た り 2 0 切 片( 4 列 × 5 切 片 )ず つ 9 c m シ ャ ー レ の 新 し い 不 定 芽 誘 導 培 地 に 置 床 し ,2 5 ℃ ,1 6 時 間 日 長 ,白 色 蛍 光 灯 下( 3 5 μ m o l ・ m-2・s-1) で 培 養 し た . ま た , 各 処 理 は 少 な く と も 4 枚 の シ ャ ー レ を 反復として用いた. 6 再 生 個 体 の栽 培 方 法 と選 抜 切 り 花 生 産 圃 場 に 定 植 し た 苗 は , 11 ~ 1 2 月 開 花 の 作 型 で は , 無 加 温 の ハ ウ ス 内 で 16 時 間 日 長 に な る よ う に 暗 期 光 中 断 に よ る 電 照 抑 制 栽 培 と し ,一 般 の 栽 培 管 理 を 行 っ た .3 ~ 4 月 開 花 の 作 型 で は ,電 照 抑 制 期 間 を 最 低 温 度 15℃ で ,消 灯 ( 電 照 抑 制 を 終 了 し ,長 日 か ら 短 日 条 件 に 替 わ っ た 時 点 )後 は 最 低 温 度 18℃ で 加 温 管 理 し た .開 花 - 77 - 時に葉腋の摘芽数から無側枝性を判定し,消灯後の開花週数,満開 時の舌状花弁数および葉形等の形態特性を調査し,優良個体の選抜 を行った. 結 果 および考 察 1 植 物 体 の再 生 独 立 行 政 法 人 日 本 原 子 力 機 構 高 崎 研 究 所 の 加 速 器 で あ る AV F サ イクロトロンによるイオンビーム照射では,炭素イオンは到達深度 が限定され,厚みのあるサンプルでは細胞層によってイオン粒子が 到 達 し な い 層 や 細 胞 の 死 滅 す る 層 が 生 じ る ( Ta n a k a , 1 9 9 9 ). そ の た め,変異誘発材料としては厚みがなく一定している葉身と花弁に限 定し,植物体再生の培地条件を検討した.また,カルス経由の再生 植物の場合,培養中の変異を内在しやすいこと,同一変異細胞由来 の再生個体が複数得られる可能性が高いこと,植物体再生に時間が か か る こ と お よ び 植 物 体 再 生 が 不 安 定 で あ る こ と ( 大 澤 , 1988) な どの問題があることから,不定芽による再生系を中心に培養条件を 検討した. 切り花用に栽培された‘神馬’の花弁および葉身部を,濃度の異 な る NAA ま た は IAA と BAP を 組 み 合 わ せ た 不 定 芽 誘 導 培 地 に 置 床 し , 1 か 月 後 に 不 定 芽 形 成 数 を 調 査 し た . そ の 結 果 , 5 mg・L-1 IAA, 1 mg・L-1 BAP を 含 む 不 定 芽 誘 導 培 地 で , 葉 片 は 98%の 最 も 高 い 不 定 芽 再 生 率 を 示 し ,各 葉 片 あ た り 16 個 の 不 定 芽 を 形 成 し た 結 果 ,1 枚 のシャーレから安定して 300 ~ 400 個 体 の 再 生 植 物 が 得 ら れ た ( Ta b l e 3 - 1 - 1 ). 一 方 , 花 弁 は , 1 m g ・ L - 1 I A A + 0 . 5 m g ・ L - 1 B A P お よ び 5 mg・L-1 IAA + 1 mg・L-1 BAP の 不 定 芽 誘 導 培 地 で , 最 も 高 い 60% 程 度 の 再 生 率 ,切 片 あ た り 約 1 0 個 の 不 定 芽 か ら 成 り ,シ ャ ー レ あ た り 1 2 0 個 体 ほ ど の 植 物 体 が 得 ら れ た ( Ta b l e 3 - 1 - 1 ). 同 様 に‘ 神 馬 ’を 含 む 1 4 品 種 に つ い て ,植 物 ホ ル モ ン 濃 度 と 組 合 せの異なる 8 種類の不定芽誘導培地で不定芽による再生効率を検証 - 78 - した.その結果,それぞれ最適濃度の組合せで不定芽再生率は,3 ~ 1 0 0 % と 品 種 に よ り 大 き く 異 な り ,そ れ に 伴 い 再 生 効 率 に つ い て も 品 種 間 差 が 認 め ら れ た ( Ta b l e 3 - 1 - 2 ). 不 定 芽 再 生 率 の 低 か っ た ス プ ‘ ロ ア ー ル ’, ‘ サ ザ ン チ ェ リ ー ’)は , レ ー ギ ク 3 品 種(‘ エ リ ア ス ’, 開 花 期 を 日 長 制 御 可 能 な 6 ~ 9 月 開 花 の 夏 秋 タ イ プ で あ る .同 じ 夏 秋 タ イ プ の 輪 ギ ク 品 種(‘ フ ロ ー ラ ル 優 香 ’以 下 5 品 種 )や 夏 秋 小 ギ ク 品 種 (‘ 鹿 夏 の お り ひ め ’,‘ 鹿 夏 の ひ こ ぼ し ’) で は 高 い 再 生 効 率 を 示したことから,夏秋タイプの日長反応性と不定芽再生能が連鎖し ているわけではない.ただし,これまでの試験の中で,夏秋スプレ ーギク品種群における不定芽再生率はいずれも低かった(データ省 略 ).こ れ は ,夏 秋 ス プ レ ー ギ ク の 交 配 親 と な る 品 種 や 系 統 が 限 定 さ れ,これらの品種群における遺伝的な背景が限定されていることに 起因するものと考えられた. 従来からキク茎葉からの再分化能に品種間差があることは数多く の 報 告 が あ り ( De Jong ら , 1993; Kaul ら , 1990; 深 井 ら , 1987; Ledger ら , 1991; 宮 崎 ら , 1976; Renou ら , 1993; 柴 田 ら , 1992; 高 津 ら , 1 9 9 8 ; U r b a n ら , 1 9 9 4 ),ホ ル モ ン バ ラ ン ス や 外 植 体 と し て 用 い る 組織の部位により再分化能の高い品種や条件をスクリーニングし, 形 質 転 換 系 に 用 い て い る . そ の 中 で も 高 津 ら ( 1998) は , 植 物 体 再 生に要する日数の短縮と培養中の変異を考慮し,カルスを経由しな い 外 植 片 か ら の 不 定 芽 再 生 系 を 用 い て い る . 一 方 , Shinoyama ら ( 2002) は , カ ル ス 経 由 の 再 分 化 系 を 用 い る こ と に よ り , よ り 広 範 な品種に対する安定した形質転換系の開発に成功している. 本試験において,対象とする品種の再生系に関わる培養部位や培 地のスクリーニングは切り花の花弁や葉身を材料に用いた.一方, 照射材料には,コンタミや利用時期の問題がない無菌植物の葉身を 主に用いた.無菌植物の準備が整う 6 か月間に培地のスクリーニン グを行ったため,材料の準備が整い次第,最良の再生条件で照射実 - 79 - 験を行うことができた.ただし,夏秋スプレーギクのような植物体 再生効率が低い品種については,外植体とする組織の選択,光条件 や温度等の培養環境の検討の他,カルス経由による再分化系の確立 を併せて行い,再生効率の向上を図る必要がある. 2 順 化 と育 苗 第 2 章で述べたように,組織培養における植物体再生において, 水浸状化は培養植物の順化や生育の障害となり,再生効率低下の原 因 と な る ( B o t t c h e r ら , 1 9 8 8 ; P h a n ・ L e To u z e , 1 9 8 3 ; S a t o ら , 1 9 9 3 ; Shetty ら , 1995; Zimmerman・ Cobb, 1989) . こ れ に 対 し て , 様 々 な 対 策 が 図 ら れ て い る が ,培 養 湿 度 の 低 減( Bottcher ら , 1988)等 を 参 考に,乾燥ストレスの付与による水浸状化の回避効果を検討した. 茎 頂 部 位 を 2 mg・L-1 BAP を 含 む MS 液 体 培 地 に よ る 振 盪 培 養 で 継 代培養することにより,茎葉が伸長しない多芽体として維持・継代 することが可能であった.しかし,この多芽体をホルモンフリー固 形 培 地 に 移 植 し た と こ ろ ,再 生 個 体 は 全 て 水 浸 状 と な っ た .そ こ で , この現象を回避するために液体培地中の多芽体を取り出し,クリー ン ベ ン チ 内 の 滅 菌 濾 紙 上 で 2 0 ~ 3 0 分 間 通 風 乾 燥 し ,ホ ル モ ン フ リ ー 固 形 培 地 で 植 物 体 の 再 生 を 行 っ た .多 芽 体 の 水 分 含 量 は ,20 分 の 乾 燥 処 理 に よ り 3 % 程 度 , 3 0 分 間 で 5 % 程 度 減 少 し た ( Ta b l e 3 - 1 - 3 ). ホルモンフリー培地に移植して 1 か月後,多芽体の一部に枯死する 部 位 が 認 め ら れ た が ,20 分 間 乾 燥 処 理 区 は ,再 生 個 体 の 80%程 度 が 水 浸 状 化 を 回 避 し 正 常 に 生 育 し た ( Ta b l e 3 - 1 - 3 ). ま た , 本 実 験 で は 秋輪ギク‘秀芳の力’および寒小ギク‘南州の舞’を供試した.両 品種の乾燥処理における水浸状化回避効果は共通しており,品種間 差が少ないものと推察された.そこで,この手法を用い,不定芽再 生 の 際 ,不 定 芽 生 育 培 地 か ら ホ ル モ ン フ リ ー 培 地 へ 移 植 す る 段 階 で , 同様の乾燥処理を行ったところ,水浸状化した再生個体は皆無とな り,安定した順化作業が可能となった. - 80 - 一般に培養植物の順化は,培地中で発根した根を傷めないように 丁寧に取り出し,鉢上げして保湿する.しかし,この方法では作業 の繁雑さ等から一度に順化できる数に限度があること,培養容器中 の発根苗では新根の発生が遅く,根量も少ないため,生育の不揃い が出やすいことなど問題も多い.また,培養物は一般栽培の挿し穂 と 比 較 し て 小 さ く 軟 弱 な た め ,保 湿 や 遮 光 に よ る 順 化 を 必 要 と す る . そこで,通常の栄養繁殖と同様,挿し穂を苗箱に挿し芽し,順化と 挿し芽を兼ねた方法により発根苗を得ることを検討した.培養容器 内 の シ ュ ー ト を 長 さ 3 ~ 5 c m に 切 り そ ろ え ,発 根 剤( オ キ シ ベ ロ ン , 2 0 0 倍 液 , イ ン ド ー ル 酪 酸 液 剤 , バ イ エ ル ク ロ ッ プ サ イ エ ン ス )と 殺 菌 剤( ダ コ ニ ー ル 1 0 0 0 ,1 0 0 0 倍 液 , テ ト ラ ク ロ ロ イ ソ フ タ ロ ニ ト リ ル懸濁液剤, くみあい化学工業)を混用した薬液にシュートを 2 分 間浸漬後,後述の水分調整を行ったバーミキュライトを敷き詰めた 苗 箱 に 挿 し ,ポ リ 袋 で 密 閉 し て 保 湿 し た .密 閉 挿 し し た 苗 箱 は ,2 5 ℃ , 16 時 間 照 明 ( 35 mol・m-2・s-1) の 順 化 室 に 置 き , 3 日 後 に 霧 吹 き で 水分の補給を行った.その結果,挿し芽を行ったシュートは全て発 根苗となり,一般栽培で用いる土の採苗圃に植え付けが可能となっ た ( Fig. 3-1-1) . な お , 前 述 の 植 物 体 再 生 の 際 の 乾 燥 処 理 を 行 わ な い 場 合 , 水 浸 状 化 し た シ ュ ー ト が 数 %含 ま れ る . こ れ ら は こ の 方 法 で,雑菌汚染による腐敗はないものの,発根しないことから採苗圃 に移植後全て枯死した.しかし,乾燥処理により水浸状化したシュ ートは生じないため,全ての再生個体を容易に順化し発根苗とする ことができ,本試験で開発した方法が採苗圃用の苗として有効であ ることが明らかとなった. また,本実験で開発した密閉挿しを行う際のバーミキュライトの 含水率は重要で,過湿では発根前に腐敗し,水分が不足すると順化 率 は 50%以 下 に 低 下 し た ( デ ー タ 省 略 ) . そ こ で , バ ー ミ キ ュ ラ イ トの水分調整量を検討した.その結果,水分飽和状態まで給水させ - 81 - た 場 合 , 乾 物 重 量 の 2.6~ 3.7 倍 の 水 分 を 吸 収 し た ( Table 3-1-4) . 新しいバーミキュライトは水分をほとんど含まないため,バーミキ ュライト重量の約 2 倍量の水を加えることで,適湿状態に調整でき た ( Table 3-1-4) . こ れ に 対 し て , 再 利 用 す る 場 合 は , 乾 物 バ ー ミ キュライト重量と同程度の水分を含んでいることから,再利用する バ ー ミ キ ュ ラ イ ト 重 量 の 8~ 10%の 水 を 追 加 す る こ と に よ り , 適 度 な 水 分 状 態 の 調 整 が 可 能 で あ っ た ( Table 3-1-4) . 次に,得られた発根苗を土の採苗圃に植え付けた.十分に発根し た 苗 は 通 常 の 採 苗 圃 に お け る 管 理 で 活 着 し , 枯 死 す る 個 体 は 1,000 本 中 3 ~ 4 本 で あ り ,活 着 率 は 9 9 . 7 % と 安 定 し て い た( デ ー タ 省 略 ). 植 え 付 け 時 ,茎 の 直 径 が 2 m m 程 度 の 発 根 苗 は ,1 か 月 間 の 育 苗 で 茎 の 太 さ が 一 般 栽 培 に 利 用 す る 挿 し 穂 と 同 程 度 の 4~ 5 mm に 生 長 し た . そ こ で ,そ の 先 端 部 の 5 c m を 採 穂 し ,圃 場 定 植 用 の 苗 と し て 用 い た ( Fig. 3-1-1) . こ の よ う に 採 苗 圃 で 育 苗 し た 挿 し 穂 を 用 い る こ と に より,環境や生育状態による不揃いを排除し,変異誘発当代におい て 生 育 特 性 に 関 わ る 個 体 選 抜 が 可 能 と な っ た ( F i g . 3 - 1 - 1 ). 3 培 養 部 位 の選 定 輪ギクにおいて,花弁(舌状花)数は花の品質を左右する重要な 形 質 で あ る ( 永 吉 , 2 0 0 3 ). そ こ で , 培 養 変 異 を 確 認 す る た め , 輪 ギ ク‘神馬’を対象品種として組織培養を行い,部位別に得られた再 生 個 体 に つ い て ,3 ~ 4 月 開 花 の 作 型 で 開 花 個 体 の 花 弁 数 を 調 査 し た . そ の 結 果 , Ta b l e 3 - 1 - 5 に 示 し た よ う に , 培 養 変 異 が 最 も 少 な い 茎 頂 由 来 個 体 で は , 平 均 花 弁 数 が 165.0 枚 で , 151~ 190 枚 の 範 囲 に 分 布 し た . こ れ に 対 し て , 葉 片 由 来 の 再 生 個 体 は , 平 均 花 弁 数 が 162.3 枚 で , 101~ 250 枚 の 範 囲 に 広 く 分 布 す る が , 茎 頂 部 位 と 同 様 の 151 ~ 1 9 0 枚 の 個 体 が 8 9 . 4 % を 占 め た .ま た ,花 弁 由 来 の 再 生 個 体 で は , 茎 頂 お よ び 葉 片 由 来 の 再 生 個 体 と 比 べ て , 平 均 花 弁 数 が 130.8 枚 と 30 枚 程 度 少 な く , 花 弁 数 が 190 枚 を 上 回 る 個 体 は 存 在 し な か っ た - 82 - ( Ta b l e 3 - 1 - 5 ). 以 上 の こ と か ら , 花 弁 由 来 の 再 生 個 体 で は , 茎 頂 や 葉片由来と比べ花弁数が減少する傾向があると考えられた. Nagatomi ら ( 1997) は , ガ ン マ 線 緩 照 射 に よ る 花 色 の 変 異 セ ク タ ーから花弁培養によりキメラを分離し,花色変異個体を得ており, 原 品 種‘ 太 平 ’か ら‘ 南 風 の 輝 ’を 含 む 10 品 種 の 花 色 変 異 品 種 を 育 成 し て い る .ま た ,同 品 種‘ 太 平 ’に 対 す る イ オ ン ビ ー ム 照 射 で は , 培養部位として葉片より花弁を用いることで花色変異率が高くなる こ と か ら ,‘ イ オ ン の 光 明 ’ を 含 む 6 品 種 が 育 成 さ れ て い る ( 永 富 , 2 0 0 3 ).こ の よ う に ,花 色 変 異 を 目 的 と す る 場 合 は ,培 養 部 位 と し て 葉 片 よ り 花 弁 を 利 用 す る 方 が 変 異 率 は 高 い .し か し , ‘ 神 馬 ’は 白 色 の輪ギクであり,花色や花形等の基本特性を維持した変異誘発を目 的としている.したがって,培養部位として花弁より葉片を利用す る方が品質や形態特性を維持した変異誘発に適すると考えられた. 4 イオンビーム照 射 と線 量 反 応 ‘ 神 馬 ’の 無 菌 植 物 の 葉 片 を 不 定 芽 誘 導 培 地 に 置 床 し て 3 ~ 5 日 後 , こ れ ら を 照 射 材 料 と し て , 炭 素 イ オ ン ( 220MeV・ 12C5+, 320MeV・ 12 C 6 + ), ヘ リ ウ ム イ オ ン ( 5 0 M e V ・ 4 H e 2 + , 1 0 0 M e V ・ 4 H e 2 + ) お よ び 軟 X 線 の 照 射を 行 っ た .そ の 結 果 ,軟 X 線 で は 線 量 の 増 加 に伴 い 不 定 芽 形 成 数 は 直 線 的 に 減 少 し , 10 Gy で は 無 照 射 の 5%以 下 に な っ た . こ れ は , 軟 X 線 が ガ ン マ 線 と 同 様 の 電 離 放 射 線 で あ り , Nagatomi ら ( 1997) が 示 し た ガ ン マ 線 の 線 量 反 応 と 一 致 す る 結 果 で あ っ た . そ れ に 対 し て ,イ オ ン ビ ー ム は 線 種 に よ り 線 量 反 応 は 異 な る も の の , 線量の増加に伴って緩やかに不定芽形成数が減少し,その後急激に 低 下 し た ( F i g . 3 - 1 - 2 ). こ れ は , イ オ ン ビ ー ム を A r a b i d o p s i s に 照 射 し た 結 果 ( Ta n a k a ら , 2 0 0 2 ) と 一 致 す る も の で , 電 離 放 射 線 よ り エ ネルギーが高いイオンビーム照射の特徴といえる. 5 イオンビーム照 射 による変 異 の傾 向 - 83 - 不 定 芽 数 が 無 照 射 区 の 20%程 度 に 低 下 し た ヘ リ ウ ム イ オ ン ( 100 MeV) の 10 Gy 照 射 区 で は , 得 ら れ た 再 生 個 体 の 花 径 , 花 弁 数 , 舌 状花の形など,花器形態に関する様々な形質で変異が認められた ( F i g . 3 - 1 - 3 ). 一 方 , 高 L E T ( k e V ・ m - 1 : 線 量 エ ネ ル ギ ー ) の 炭 素 イ オ ン ( 220 MeV, 320 MeV) 照 射 区 で は , 線 量 の 増 加 に 伴 い , 花 弁 数 が 減 少 す る 傾 向( Ta b l e 3 - 1 - 6 )や 葉 形 の 異 常 が 増 加 す る 傾 向( Ta b l e 3-1-7) が 認 め ら れ る も の の , そ の 効 果 や 割 合 は 判 然 と し な か っ た . こ の 理 由 と し て ,用 い た ヘ リ ウ ム イ オ ン は L E T が 炭 素 イ オ ン よ り 低 い こ と か ら( Ta n a k a ら , 2 0 0 2 )高 線 量 の 照 射 で 再 生 個 体 が 得 ら れ る . その結果,花形・花容,葉形・大きさといった量的遺伝形質により 支配される形態特性について多数の変異を内在し,外観上の形態変 異 が 生 じ た と 考 え ら れ る . こ れ に 対 し て 高 LET の イ オ ン 種 の 場 合 , 高線量では細胞に対するダメージが大きくなるため,再生個体は得 ら れ な い . 一 方 , 低 線 量 で は DNA の 欠 失 や 置 換 等 の 変 異 を 内 在 す る も の の ,各 細 胞 に 生 じ る 変 異 の 数 が 限 ら れ る こ と か ら( S h i k a z o n o ら , 2 0 0 1 ), 元 品 種 の 特 性 を 維 持 し た 変 異 誘 発 が 可 能 に な る も の と 考 えられた. イ オ ン ビ ー ム に よ る 変 異 誘 発 を 行 う に あ た り , 低 LET・ 高 線 量 照 射 に よ り 獲 得 変 異 の 可 能 性 を 探 り , 品 種 育 成 の た め に は 高 L E T・ 低 線量により遺伝子レベルでのダメージが少ない,品種本来の特性を 維持した変異体を獲得する必要性が示唆された.さらに,本実験で 得 ら れ た 結 果 は , 従 来 の 線 量 と 比 較 す る と 非 常 に 低 い ( Ta n a k a ら , 2 0 0 2 ; N a g a t o m i ら , 1 9 9 7 ). こ れ は , 他 の 報 告 が 種 子 や 植 物 体 を 照 射 材 料 と し ,多 く は 静 止 期 の 核 に 照 射 さ れ る の に 対 し て ,本 実 験 で は , 不 定 芽 誘 導 培 地 に 置 床 後 3~ 5 日 で 細 胞 分 裂 開 始 前 の 活 性 が 上 昇 し た段階で照射した.従って,放射線に対する感受性が乾燥種子や植 物体に対する照射より高まり,低線量での変異誘発を可能にしてい るものと考えられた. - 84 - 6 変 異 誘 発 システムの構 築 本実験では無菌植物の葉片培養開始後,一般の切り花栽培と同様 の 定 植 苗 を 得 る ま で 約 1 8 週 ,種 苗 を 栽 培 圃 場 に 定 植 後 開 花 す る ま で 16~ 18 週 で あ っ た . こ れ に よ り , Fig. 3-1-1 で 示 す よ う に , イ オ ン ビームによる変異誘発から変異体の選抜まで,およそ 8 か月で完了 する変異誘発システムが完成した.このシステムは,栽培圃場へ定 植する前に育苗段階を加えることで,個体再生時の生育を揃えるこ とができ,一般の切り花栽培と同様の栽培管理の中で照射当代の選 抜を行うことが可能である.さらに,植物体再生効率が安定してい るため,開花時期ごとに圃場規模に応じて逆算し,照射スケジュー ルや照射数量を決定することができる.これにより,鹿児島県では バイオテクノロジ研究所と農業開発総合センター花き部と連携する こ と で ,作 型 に 応 じ た 3,000~ 4,000 本 規 模 の 選 抜 を 年 間 に 数 回 実 施 する品種育成試験が可能となった. - 85 - 第 2節 無 側 枝 性 および低 温 開 花 性 等 有 用 変 異 選 抜 技 術 の開 発 秋輪ギク‘神馬’は,純白で花容・草姿・生育特性に優れること か ら , 従 来 か ら の 主 力 品 種 で あ っ た ‘ 秀 芳 の 力 ’ に 替 わ っ て 2000 年には生産量で全国一の品種となった.しかし,この品種は側枝の 発生が多く,低温遭遇により開花が遅れるといった欠点もあり,生 産 現 場 か ら 強 く 改 善 が 求 め ら れ て い る ( 永 吉 , 2 0 0 3 ). ま た , 側 芽 を 摘み取り,頂芽の花蕾だけを残す輪ギク栽培では,この摘芽・摘蕾 作 業 が 栽 培 管 理 作 業 の 約 1/4 を 占 め , 側 枝 発 生 の 多 い ‘ 神 馬 ’ の 場 合 , 開 花 時 期 に よ っ て は 10 a あ た り 120 万 個 の 摘 蕾 が 必 要 と な る ( F i g . 3 - 2 - 1 ; 永 吉 , 2 0 0 3 ). そ の た め , 摘 蕾 数 が 少 な い 「 無 側 枝 性 品 種」の育成は,輪ギク最大の育種目標といっても過言ではない.実 際 , 夏 秋 輪 ギ ク ( 6 ~ 9 月 開 花 ) で は ,‘ 岩 の 白 扇 ’,‘ フ ロ ー ラ ル 優 香’および‘精の一世’といった無側枝性品種が栽培の主流となっ て い る ( 永 吉 , 2 0 1 1 ). こ の よ う な キ ク に お け る 無 側 枝 性 は , Okamoto・ Suto ( 2003) に より高温条件下で腋芽が消失することにより発現することが確認さ れており,この特性を栽培面で活用し,夏秋輪ギクの開花期にあわ せ た 栽 培 管 理 法 が 検 討 さ れ て い る ( 松 本 , 2 0 0 0 ). ま た , こ れ ら 無 側 枝性品種や系統を交配親として用いた新品種の育成も数多く手がけ られ, ‘ 神 馬 ’の 交 配 親 に も 無 側 枝 性 品 種 が 用 い ら れ て い る .そ の た め, ‘ 神 馬 ’の 一 般 切 り 花 栽 培 の 中 か ら 無 側 枝 性 の 枝 変 わ り が 発 生 し , ‘ 旭 神 ’( 農 林 水 産 省 品 種 登 録 1 2 4 7 6 号 ) お よ び ‘ 吉 良 の 馬 ’( 農 林 水 産 省 品 種 登 録 15667 号 ) な ど が 選 抜 ・ 育 成 さ れ て い る . し か し , 開花時期の遅れや切り花重の減少など栽培特性の劣化が伴うことか ら, ‘ 神 馬 ’の 代 替 品 種 に は な っ て い な い .ま た ,定 植 用 の 挿 し 穂 や 母株の育成時期が高温期となり,栽培時期が低温期にあたる秋輪ギ クでは,無側枝性実用品種の育成は難しく,むしろ鹿児島県では高 - 86 - 温期に分枝し増殖が可能で,収穫後の萌芽茎を利用する二度切り栽 培 適 性 の 高 い , 無 側 枝 性 が 発 現 し に く い 系 統 を 選 抜 し ,‘ 神 馬 ’ 1 号 として供給している. 一方,低温期の一般栽培圃場から,開花の早い個体を選抜するこ とにより,低温遭遇による開花遅延を起こしにくい‘神馬’2 号が 選抜され,種苗法による制約がないことから,現在では全国で広く 栽培されている.しかし,低温開花性で側枝発生の少ない系統や品 種の育成には至っていない. そこで,本節では第 1 節で開発した「変異誘発システム」を活用 し,低温開花性と無側枝性という,相反する温度帯で発現する栽培 特性について,人為的な変異誘発による特性改変を行い,実用品種 育成に向けた技術開発を行った. 材 料 および方 法 1 供 試 品 種 および材 料 の調 整 Ta b l e 3 - 2 - 1 に 本 実 験 で 供 試 し た 品 種 お よ び 系 統 の 由 来 と 特 性 を 示 した. ‘ 神 馬 ’の 場 合 ,鹿 児 島 県 で は 農 家 生 産 圃 場 か ら 優 良 個 体 の 収 集を行い,系統選抜により生育特性などに特徴のある系統を育成し ている.これらには,萌芽数が多く二度切り栽培に向く‘神馬’1 号,低温開花性に優れる‘神馬’2 号,花容・草姿に優れる‘神馬’ 9 - 1 - 1 系 統 が あ る ( Ta b l e 3 - 2 - 1 ). 本 実 験 で は , Ta b l e 3 - 2 - 1 に 示 し た ‘神馬’3 系統を区別して照射するとともに,変異個体の選抜や選 抜系統の対照として用いた.また,変異誘発に用いる材料は,第 1 節に準じて茎頂培養から無菌植物を育成し,その葉身部を試験に供 試した. 2 変 異 誘 発 と植 物 体 再 生 変異誘発に用いるイオンビームは,第 1 節に準じ,独立行政法人 日 本 原 子 力 機 構 高 崎 研 究 所 の AV F サ イ ク ロ ト ロ ン 加 速 器 に よ る 総 エ ネ ル ギ ー 220 MeV ま た は 320 MeV の 炭 素 イ オ ン ビ ー ム を 0.5~ 5 - 87 - Gy の 線 量 ( 試 料 の 厚 み を 0.5 mm と し て 線 量 調 整 ) で 照 射 し た . 軟 X 線 は TRS-100CX( SOFRON 製 ) を 用 い て , 線 量 率 3.6 Gy・h-1 に よ り 5 Gy の 線 量 を 照 射 し た . ‘ 神 馬 ’ の 不 定 芽 再 生 系 は , 第 1 節 に 示 し た よ う に , 5.0 mg・L-1 I A A ,1 . 0 m g ・ L - 1 B A P を 含 む 不 定 芽 誘 導 培 地 を 用 い ,植 物 体 の 再 生 , 順化,および育苗は,第 1 節の変異誘発システムに準じて行った. 3 選 抜 圃 場 における栽 培 条 件 キ ク の 無 側 枝 性 は ,生 育 中 の 高 温 遭 遇 に よ り 発 現 す る( O k a m o t o ・ S u t o , 2 0 0 3) こ と か ら , 栽 培 期 間 が 高 温 期 に あ た る 8 ~ 9 月 定 植 ・ 11 ~ 12 月 開 花 作 型 で 無 側 枝 性 の 選 抜 を 行 っ た . 無 加 温 ハ ウ ス で 16 時 間日長になるように暗期光中断による電照抑制栽培とし,一般栽培 管理を行った.開花時に葉腋の摘芽数から無側枝性を判定するとと も に ,消 灯( 電 照 抑 制 を 終 了 し ,長 日 か ら 短 日 条 件 に 替 わ っ た 時 点 ) 後の開花週数,満開時の舌状花弁数および葉形等の形態特性を調査 することで,優良個体の選抜を行った. 低 温 開 花 性 の 選 抜 は , 生 育 期 間 が 低 温 期 に あ た る 12 月 定 植 ・ 3 ~ 4 月 開 花 の 作 型 で , 生 育 期 間 を 通 じ て 一 般 管 理 よ り 4~ 5℃ 低 く , 最 低 温 度 10~ 14℃ と し た 低 温 管 理 を 行 う こ と で 消 灯 後 の 開 花 週 数 から開花の遅延しない形態特性に優れる個体を選抜した. 選抜個体は収穫後の株から萌芽させ,栄養繁殖により増殖して選 抜 系 統 と し た .次 年 度 ,選 抜 系 統 は ,高 温 管 理 が 可 能 な 1 1 ~ 1 2 月 開 花 の 作 型 と 低 温 に 遭 遇 す る 3~ 4 月 開 花 の 2 作 型 で 特 性 の 確 認 を 行 い , 系統選抜を行った. 4 ゲノムサイズの測 定 および核 の観 察 核 D N A 量 の 測 定 は ,三 柴・三 位( 1 9 9 9 )お よ び Ya m a g u c h i ら( 2 0 0 8 ) の方法に従ってフローサイトメータを用いて分析した.開花時の調 査個体から採集した測定用の成熟葉は,静止期の核の集積と核サイ ズ の 安 定 化 の た め に あ ら か じ め 2 4 時 間 以 上 冷 蔵 保 存 し た .測 定 時 に - 88 - 5×15 mm に 調 整 し た キ ク の 葉 片 と DNA 量 の 対 照 植 物 で あ る サ ト ウ キ ビ の 葉 片 を 交 互 に 3 枚 重 ね ,1 m l の 単 離 ・ 染 色 液( 1 0 m M T r i s - H C l p H 7 . 5 , 2 mM M gC l 2 , 0 . 1 % Tr i t o n X -1 0 0 , 0 . 5 % Na 2 S O4 , 2 mg ・ L - 1 4 , 6 diamidino-2-phenylindole ) 中 で カ ミ ソ リ 刃 を 用 い て 細 断 し , 30 m のナイロンメッシュで濾過して 5 分間静置後,フローサイトメータ ( P a r t e c PA , PA RT E C ) を 用 い て 測 定 し た . ま た , 単 離 ・ 染 色 液 や サ ンプルの調整・染色過程は,酸化防止のため氷冷して行った. 核 DNA 量 測 定 の 指 標 と す る 対 照 植 物 は , ゲ ノ ム サ イ ズ が キ ク の 半 分 程 度 で 安 定 し て 測 定 が 可 能 な 植 物 種 と し て Plant DNA C-values d a t a b a s e < h t t p : / / d a t a . k e w. o r g / c v a l u e s / > か ら 得 た 情 報 を 基 に , サ ト ウ キ ビ ( S a c c h a r u m o f f i c i n a r u m L . c v. N i 1 7 ) を 選 定 し た . キ ク サ ン プ ル の 核 DNA 量 は , 対 照 植 物 の ピ ー ク 位 置 と 比 較 し て 原 品 種 の ピ ー ク 位 置 の 平 均 値 を 100%と し て 算 出 し た . なお,イオンビーム照射後に発生する不定芽の形成過程を確認す る た め ,培 養 中 の 葉 切 片 を 3 ~ 5 日 毎 に 取 り 出 し ,横 断 切 片 の 切 断 面 の細胞の変化を観察した.葉切片は固定せずに新鮮材料をカミソリ 刃 に よ り 厚 さ 5 0 ~ 2 0 0 m に 細 断 し ,前 述 の フ ロ ー サ イ ト メ ト リ ー で 用 い た 染 色 液 ( 三 柴 ・ 三 位 , 1999) に 浸 漬 し た . 核 染 色 後 の 横 断 切 片は,落射蛍光顕微鏡下で紫外・可視の観察を行い,組織の状態, 細胞の大きさおよび核の数を調査した. 結 果 および考 察 1 無 側 枝 性 変 異 の選 抜 と品 種 育 成 イ オ ン ビ ー ム 照 射 に よ る 摘 芽 数 の 変 化 を 調 査 し た 結 果 ,1 2 月 開 花 の 作 型 に お い て , 炭 素 イ オ ン ビ ー ム ( 320 MeV) の 1~ 3 Gy 照 射 に よ り , 摘 芽 数 が 9~ 16 個 に 減 少 し た 個 体 が 4.5~ 12.5% 得 ら れ た こ とから,線量の増加に伴い少摘芽数の個体が増加する傾向が認めら れ た ( F i g . 3 - 2 - 2 ). - 89 - こ の よ う な 無 側 枝 性 を 対 象 と し た 作 型 で , 2001 年 度 6,090 個 体 の 変異誘発当代から優良変異個体の選抜を行った.その結果,花容・ 草 姿 ・ 生 育 量 ( 切 り 花 重 ) 等 が 優 れ る 20 個 体 を 選 抜 し , B01-1-1~ B 0 1 - 1 - 4 お よ び B 0 1 - 2 - 1 ~ B 0 1 - 2 - 1 6 系 統 と し た .そ の 中 で 腋 芽 が 消 失 した無側枝節が確認され,無側枝性を持つと推定される個体は,わ ず か に 2 個 体 ( B01-2-14 お よ び B01-2-15) で あ っ た . こ の よ う に , 生育量が低下していない変異体の出現頻度は極めて低いものの,従 来 の 枝 変 わ り に よ る 自 然 突 然 変 異 で は 得 ら れ な か っ た ,花 容・草 姿 ・ 生育量に優れる無側枝性発現個体を獲得できた. 次年度,栄養繁殖により増殖し,各選抜個体を系統として系統選 抜を行ったところ,変異当代の特性をよく保持していた.このよう に,特性が分離しないことは,変異個体のキメラ性がないことを示 している.さらに,無側枝節が確認できた 2 系統は,系統選抜時も 1 2 月 開 花 の 作 型 で 無 側 枝 性 を 示 し ( F i g . 3 - 2 - 3 ), そ の 特 性 が 安 定 し て い る こ と か ら ,B 0 1 - 2 - 1 4 系 統 を‘ 新 神 ’ ( ‘Aladdin’; 農 林 水 産 省 品 種登録第 1 4 1 1 8 号 ; 今 給 黎 ら , 2 0 0 6 ), B 0 1 - 2 - 1 5 系 統 を ‘ 今 神 ’ ( ‘ I m a g i n e ’ ; 農 林 水 産 省 品 種 登 録 第 1 4 1 1 9 号 )と し て 登 録 し た( Ta b l e 3 - 3 - 1 ). な お , こ れ ら 2 品 種 の 形 態 特 性 は , Ta b l e 3 - 3 - 7 に 示 し た よ うに,元品種の‘神馬’と同等の基本特性を示し,無側枝性が改良 さ れ た 品 種 で あ る こ と が 分 か る . ま た , こ れ ら 2 系 統 に 加 え , 2002 年 度 照 射 区 か ら 無 側 枝 性 を 示 す B 0 2 - 1 - 1 系 統 が 得 ら れ ( F i g . 3 - 2 - 3 ), ‘神馬’の無側枝性改良手法として変異誘発システムが活用可能で あることが確認できたことから「 ,イオンビーム照射によるキク科植 物の突然変異育種法」として(独)原子力研究機構と共同で特許を 申 請 し た ( 特 許 公 開 2004-321057) . 2 低 温 開 花 性 の選 抜 秋輪ギク‘神馬’の葉片に変異誘発を行い,生育期間中に低温に 遭遇する 3 月開花の作型で再生個体の開花特性を調査した.その結 - 90 - 果,消灯後の開花週数(電照栽培を終了し,短日条件に替わった時 点から開花に至るまでの週数)は系統や苗の来歴によって異なって い た .本 実 験 で 用 い た 系 統 で は ,挿 し 芽 増 殖 苗 で 比 較 す る と‘ 神 馬 ’ 2 号 < 9-1-1 系 統 ≦ ‘ 神 馬 ’ 1 号 の 順 で 開 花 が 遅 れ る 個 体 の 分 布 が 拡 大 し た ( Ta b l e 3 - 2 - 2 ). こ れ は , 各 系 統 の 低 温 開 花 性 を 示 す 順 と 一 致 している.また,苗の来歴では挿し芽増殖苗<茎頂培養苗≦葉片由 来 苗 の 順 で 開 花 が 遅 れ る 個 体 の 分 布 は さ ら に 拡 大 し た( Ta b l e 3 - 2 - 2 ). ‘神馬’の場合,栄養生長期間中の低温遭遇により幼若化し,開花 遅 延 を 引 き 起 こ す こ と が 知 ら れ て い る( 永 吉 ,2 0 1 1 ).こ の 幼 若 化 は 切り花生産の栽培期間だけでなく,親株,穂冷蔵および挿し芽と多 くの時期や種苗の前歴に関係することが報告されている(永吉, 2 0 1 1 ).さ ら に ,茎 頂 培 養 に よ る メ リ ク ロ ン 苗 は ,多 く の 植 物 種 で 生 育旺盛になることが知られており,挿し芽増殖苗と比べて生育旺盛 な茎頂培養苗は,栄養生長から生殖生長への切り替わりが遅れ,開 花が遅れる個体が増加したと考えられた. 一方,茎頂培養苗と同様に,葉片由来個体の開花週数は幅広く分 布したが,照射の有無や線量による明確な差は認められなかった ( Ta b l e 3 - 2 - 2 ). こ れ に 対 し て , 消 灯 後 9 週 ま で に 開 花 し た も の を 早 生 型 ,13 週 以 降 に 開 花 し た も の を 晩 生 型 と し た 場 合 ,線 量 の 増 加 に 伴 っ て 開 花 の 早 晩 に 関 わ る 変 異 が 増 加 す る 傾 向 が 認 め ら れ た ( Fig. 3 - 2 - 4 ).こ れ ら は ,培 養 植 物 を 同 時 期 に 順 化 し ,同 一 条 件 下 で 育 苗 , 栽培管理を行っていることから,ここで示した早生型の中に低温開 花性を示す変異体が含まれることが期待された. 変異当代で花容・草姿および生育特性が優れ,開花が遅延しない 個体を選抜し,挿し芽増殖による栄養繁殖により次年度,系統選抜 を 行 っ た . 3 月 開 花 作 型 で 最 低 13℃ の 低 温 管 理 を 行 っ た 結 果 , 消 灯 後 の 到 花 日 数 は 低 温 開 花 性 を 持 つ 神 馬 2 号 が 66 日 , 神 馬 1 号 が 75 日 , 9-1-1 系 統 が 77 日 で あ っ た . こ れ に 対 し て , 低 温 開 花 性 に よ り - 91 - 選 抜 し た B01-3-1~ B01-3-18 の 18 系 統 の 到 花 日 数 は 63~ 75 日 と な り ,低 温 開 花 性 の 選 抜 が 可 能 で あ る と 考 え ら れ た( デ ー タ 省 略 ).一 方 , 同 作 型 で 無 側 枝 性 の B 0 1 - 2 - 1 5 系 統 (‘ 今 神 ’) の 到 花 日 数 は 7 7 日 ,B 0 1 - 2 - 1 4 系 統(‘ 新 神 ’)は 8 3 日 と な り ,変 異 誘 発 に 用 い た 9 - 1 - 1 系 統 の 7 7 日 と 同 程 度 か さ ら に 遅 れ る こ と か ら ,低 温 開 花 性 は 付 与 さ れていないことが明らかとなった.さらに,これら低温開花性選抜 系 統 を 12 月 開 花 作 型 で 栽 培 し た 場 合 , 無 側 枝 性 を 示 す 系 統 は な く , 無側枝性と低温開花性を併せ持つ系統は選抜できなかった(データ 省 略 ).な お ,こ の よ う な 無 側 枝 性 や 低 温 開 花 性 は ,栄 養 繁 殖 に よ る 系統で保存されることが‘新神’育成の過程でも示されており(今 給 黎 ら , 2 0 0 6 ), 低 温 開 花 性 と 無 側 枝 性 を 併 せ 持 つ 品 種 の 育 成 が 期 待 された. 3 イオンビーム照 射 による線 量 効 果 と核 DNA 量 の変 化 ‘ 神 馬 ’ お よ び 無 側 枝 性 変 異 系 統 に つ い て , 各 5 個 体 の 核 DNA 量の測定を行った.その結果,変異誘発に用いた原品種‘神馬’の 9-1-1 系 統 お よ び 低 温 開 花 性 の ‘ 神 馬 ’ 2 号 の 核 DNA 量 は , い ず れ も 同 程 度 で , 標 準 偏 差 1%程 度 の 範 囲 で DNA 量 の 測 定 が 可 能 で あ っ た ( Ta b l e 3 - 2 - 3 ). ま た , 原 品 種 の D N A 量 を 1 0 0 % と し た 場 合 , 無 側 枝 性 変 異 系 統 の ‘ 今 神 ’ は 2 % 程 度 D N A 量 が 減 少 し て お り ,‘ 新 神 ’ お よ び B02-1-1 系 統 は ,変 異 誘 発 に 用 い た‘ 神 馬 ’9-1-1 系 統 と 同 等 の D N A 量 を 保 持 し て い た ( Ta b l e 3 - 2 - 3 ). 低 温 管 理 に よ り 早 生 お よ び 晩 生 個 体 を 選 抜 し , 各 照 射 区 10~ 16 個 体 の DNA 量 を 測 定 し た 結 果 , 照 射 線 量 の 増 加 に 伴 っ て DNA 量 が 2 % 以 上 減 少 し た 個 体 の 割 合 は 増 加 し た ( F i g . 3 - 2 - 5 ). 一 方 , 早 生 の 35% お よ び 晩 生 変 異 の 45% は DNA 量 の 減 少 が 認 め ら れ た ( Fig. 3 - 2 - 5 ). こ れ は , 開 花 が 遅 れ た 個 体 の 多 く は D N A 量 が 減 少 し て い る ことから,生育の遅延や生育量の低下および葉型等の形態的な異常 を伴う(データ省略)ものと推察された.したがって,品種本来の - 92 - 特性を維持したワンポイントの改良には,生物効果が高いイオンビ ー ム ( Ta n a k a ら , 2 0 1 0 ) を 1 ~ 3 G y の 低 線 量 で 照 射 し , 多 数 の 変 異 誘発当代の中から,生育量の劣らない変異個体を選抜する必要があ ると考えられた. 4 キメラ性 の解 析 本実験で用いている不定芽の発生過程を確認するため,核の蛍光 染 色 に よ り 経 時 的 に 観 察 し た . Fig. 3-2-6 A, B に 示 す よ う に , 葉 切 片を不定芽誘導培地に置床して 3 日後では,細胞の大きさや数に変 化は認められなかった.8 日後には表層に近い海綿状組織細胞層の 核が隣接する 2 個もしくは 4 個(3 個観察される核は 1 個が裏側に 隠 れ て い る ) に 増 加 し た ( F i g . 3 - 2 - 6 C , D ). こ れ は , プ ロ ト プ ラ ス ト培養の一次・二次分裂で細胞数が 2 個・4 個に増加する様相(高 山 , 1986) と 酷 似 し て い た . 一 方 , 同 時 点 で 他 の 組 織 層 に お け る 同 様 の 核 の 増 加 は 認 め ら れ な か っ た .さ ら に ,15 日 後 に は 表 層 に 突 起 した細胞塊が実態顕微鏡下で観察された.この細胞塊はドーム状で 核が整列していることから,他の細胞層のランダムに増殖するカル ス細胞と区別でき,茎頂分裂組織と形状が類似した組織形成である と 考 え ら れ た ( F i g . 3 - 2 - 6 E , F ). そ の 後 , こ の 表 層 に 突 起 し た ド ー ム状の細胞塊は,個々の不定芽となり植物体が再生した.この一連 の過程は,不定芽の発生数や位置と一致しており,不定芽は培養 8 日後に細胞の増殖が確認された表層に近い海綿状組織細胞に由来す る と 推 察 さ れ た .本 実 験 で は ,葉 片 の 培 養 開 始 後 3 ~ 5 日 目 の 照 射 で あ る た め , 初 期 分 裂 開 始 直 前 の 変 異 誘 発 と な っ て い る . Ya m a g u c h i ら( 2 0 1 0 )の 場 合 も 培 養 開 始 3 ~ 4 日 後 に 照 射 し て い る こ と か ら ,変 異誘発後,個々の変異細胞が増殖し変異当代から独立した変異体が 得られたと推察された. 一般に植物体に変異誘発を行った場合,変異誘発当代は混在する 変 異 細 胞 を 分 離 ・ 固 定 す る た め ,種 子 繁 殖 に よ る 次 世 代( Shikazono - 93 - ら , 2 0 0 5 ), 切 り 戻 し ( Ya m a g u c h i ら , 2 0 0 9 ) も し く は 変 異 セ ク タ ー か ら の 植 物 体 再 生 ( 永 富 , 2002) に よ っ て 完 全 変 異 体 を 獲 得 す る . こ れに対して,葉切片に変異誘発を行い,植物体を再生する場合,著 者らの前述の例を含め,変異誘発当代から変異体の選抜が可能であ る ( Ya m a g u c h i ら , 2 0 1 0 ). し か し , S h i n o y a m a ら ( 2 0 0 2 ) は キ ク の 葉切片から不定芽経由で得られた形質転換体の場合,薬剤耐性で判 別可能な非形質転換細胞が混在するキメラが多く存在すると報告し て い る . ま た , 不 定 芽 は 多 細 胞 起 源 と さ れ る ( 大 澤 , 1988) こ と か ら,組織培養を組み合わせた変異誘発の場合も変異細胞が区分キメ ラとして混在する可能性が考えられる. Ya m a g u c h i ら ( 2 0 0 9 ) は 腋 芽 に 照 射 し た 際 , 区 分 キ メ ラ に よ る 花 色変異を複数回の切り戻しにより分離,固定しており,著者らの腋 芽に照射した他の試験で区分キメラである斑入り状の葉緑素変異体 が得られたことと一致していた.これに対して,本実験ではアルビ ノの不定芽が極めてまれに発生するが,これらは独立した完全アル ビ ノ 変 異 体 で あ っ た( デ ー タ 省 略 ).ま た ,本 実 験 で 得 ら れ た 選 抜 個 体は栄養繁殖した個体間で形態的な差異がなく,形質が安定してい た こ と か ら ,そ の 一 部 は 品 種 登 録 に 至 っ て い る .さ ら に , ‘ 新 神 ’の 品 種 識 別 マ ー カ ー ( 阿 部 ら , 2007; Shirao ら , 2013) を 用 い た 報 告 で は,異なる複数の場所で栽培した‘新神’でも同一の判定結果であ っ た ( 白 尾 ら , 2 0 0 7 ). な お ,‘ 新 神 ’ の 葉 切 片 か ら 再 生 し た 選 抜 個 体についても ‘新神’と同一であると識別されている(白尾ら, 2 0 0 7 ).無 側 枝 性 や 低 温 開 花 性 等 の 生 理 特 性 に 関 す る キ メ ラ 判 別 は 難 しいものの,本実験で得られた変異個体では,栄養繁殖による形質 や識別マーカーの分離が認められなかった.したがって,個々の変 異細胞に由来する独立した不定芽が得られ,キメラ性も低く抑えら れたことから,変異誘発当代での変異個体の選抜は可能であると考 えられる. - 94 - 第 3節 イオンビーム再 照 射 による再 改 良 技 術 の確 立 従来から変異誘発に用いられてきた放射線は,ガンマ線やX線等 の電離放射線が中心であった.これらと比較して,粒子線のイオン ビームは飛跡に沿って物質に与えるエネルギー,いわゆる線エネル ギ ー 付 与 ( Linear Energy Transfer: LET) が 非 常 に 高 く , 同 じ 線 量 で あ る 1 Gy の 照 射 で , ガ ン マ 線 で は 2,000 ス プ ー ル , 炭 素 イ オ ン で は 4 ト ラ ッ ク と な り , 細 胞 核 内 の DNA に 対 し て 電 離 放 射 線 の 数 百 倍 の エ ネ ル ギ ー を 局 所 的 に 付 与 す る 特 徴 が あ る( T a n a k a ら , 2 0 1 0 ). そ の た め ,従 来 の ガ ン マ 線 や X 線 と 比 較 し て ,変 異 率 が 高 く ,変 異 スペクトルが大きい,不良変異の発生が少ないといった特徴を持っ て お り , 種 々 の 植 物 種 で 応 用 が 図 ら れ て い る ( Tanaka ら , 2010) . 著 者 ら は 第 2 節 で 示 し た よ う に ,2 0 0 1 年 度 の 照 射 実 験 か ら 無 側 枝 性変異個体の選抜を行い, ‘ 神 馬 ’の 基 本 的 な 生 育 特 性 を 損 な わ な い 無 側 枝 性 品 種 ‘ 新 神 ’( 農 林 水 産 省 品 種 登 録 第 1 4 1 1 8 号 ; 今 給 黎 ら , ( 農 林 水 産 省 品 種 登 録 第 1 4 1 1 9 号 )を 育 成 し た . 2 0 0 6 )お よ び‘ 今 神 ’ し か し ,こ の 2 品 種 は ,無 側 枝 性 を 示 す も の の , ‘ 神 馬 ’と 同 様 に 低 温遭遇により開花が遅延する欠点も持っている.一方,同様の手法 を 用 い て 池 上 ら ( 2 0 0 6 )は 早 期 開 花 系 統 を 育 成 し た が ,安 定 し た 無 側枝性の獲得には至っていない.このように,1 回の変異誘発処理 では,無側枝性と低温開花性の両形質を併せ持つ変異体の育成には 至らなかった.そこで,変異体に再度イオンビームを照射すること により段階的な改良を行うことで,両形質を併せ持つ品種の育成法 を検討した. 材 料 および方 法 1 供 試 品 種 および材 料 の調 整 本 実 験 で は , Ta b l e 3 - 2 - 1 に 示 し た ‘ 神 馬 ’ 3 系 統 ,‘ 神 馬 ’ 由 来 の 無 側 枝 性 の あ る‘ 新 神 ’, ‘ 今 神 ’お よ び 無 側 枝 性 変 異 系 統 の B 0 2 - 1 - 1 - 95 - を 区 別 し て 照 射 し ,変 異 個 体 の 選 抜 や 選 抜 系 統 の 対 照 と し て 用 い た . また,変異誘発に用いる材料は,第 1 節に準じて茎頂培養により無 菌植物を育成し,その葉身部を試験に供試した. 2 変 異 誘 発 と植 物 体 再 生 変異誘発のための照射試験は,第 1 節および第 2 節に準じて行っ た .不 定 芽 再 生 系 は ,第 1 節 に 示 し た よ う に ,5 . 0 m g ・ L - 1 I A A ,1 . 0 m g ・ L-1 BAP を 含 む 不 定 芽 誘 導 培 地 を 用 い , 植 物 体 の 再 生 , 順 化 お よ び 育苗は,第 1 節の変異誘発システムに準じて行った. 3 栽 培 条 件 と選 抜 手 法 無 側 枝 性 の 選 抜 は ,第 2 節 に 準 じ ,12 月 開 花 の 作 型 で 行 い ,摘 芽 数もしくは無側枝節数を指標として選抜した.また,低温開花性の 選抜は,第 2 節と同様に定植後の栄養生長期間中に低温管理が可能 な 3~ 4 月 開 花 の 作 型 で 行 い , 個 体 選 抜 時 は 最 低 温 度 14℃ の 低 温 管 理下で栽培し,消灯後の開花週数から開花の遅延しない形態特性に 優れる個体の選抜を行った. 選抜個体は,第 2 節と同様に収穫後の株から萌芽させ,栄養繁殖 に よ り 増 殖 し て 選 抜 系 統 と し , 次 年 度 , 高 温 管 理 が 可 能 な 11 ~ 1 2 月 開 花 の 作 型 と 低 温 に 遭 遇 す る 3~ 4 月 開 花 の 2 作 型 で 特 性 の 確 認 と 系統選抜を行った. 4 ゲノムサイズの測 定 核 DNA 量 の 測 定 は , 第 2 節 に 準 じ て 開 花 時 の 再 生 個 体 か ら 1 枚 ずつ成熟葉を採取し,フローサイトメータを用いて分析した. 結 果 および考 察 1 DNA 量 とイオンビーム再 照 射 の可 否 本 実 験 で は ,‘ 神 馬 ’ 3 系 統 に 加 え ,‘ 神 馬 ’ 由 来 の イ オ ン ビ ー ム 照 射 に よ り 得 ら れ た 無 側 枝 性 変 異 体 で あ る ‘ 新 神 ’,‘ 今 神 ’ お よ び B 0 2 - 1 - 1 系 統 を 区 別 し て 照 射 し た ( Ta b l e 3 - 2 - 1 ). そ の 結 果 , 供 試 し たすべての品種・系統で,イオンビーム照射後,変異誘発当代の再 - 96 - 生個体が得られ, ‘ 新 神 ’, ‘ 今 神 ’お よ び B02-1-1 系 統 に 再 照 射 を 行 った場合も原品種である‘神馬’と同様に変異個体の選抜が可能で あ っ た ( Ta b l e 3 - 3 - 1 ). し か し , 2 0 0 2 年 度 ‘ 今 神 ’ に 照 射 後 再 生 し た 1,461 個 体 は , 照 射 材 料 と し た ‘ 今 神 ’ よ り 生 育 特 性 が 優 れ た 個 体 は な く , 花 容 ・ 草 姿 に 優 れ る 変 異 個 体 は 選 抜 で き な か っ た ( Ta b l e 3 - 3 - 1 ). こ れ に 対 し て ,‘ 新 神 ’ お よ び B 0 2 - 1 - 1 系 統 を 照 射 材 料 と し た 場 合 は , 選 抜 個 体 が 得 ら れ た ( Ta b l e 3 - 3 - 1 ). こ れ は ,‘ 新 神 ’ お よ び B 0 2 - 1 - 1 系 統 の 核 D N A 量 が 原 品 種 で あ る‘ 神 馬 ’と 同 程 度 で あ っ た の に 対 し ,‘ 今 神 ’ で は 減 少 し て い た ( Ta b l e 3 - 2 - 3 ) こ と に 起 因 すると考えられる. 原 品 種 お よ び 2003~ 2005 年 の 照 射 試 験 か ら 得 ら れ た 再 生 個 体 に つ い て D N A 量 を 比 較 し た . そ の 結 果 , Ta b l e 3 - 3 - 2 に 示 し た よ う に , ‘ 新 神 ’ は ‘ 神 馬 ’ と 核 D N A 量 に 差 は な く ,‘ 今 神 ’ で は 有 意 に 減 ‘ 新 神 ’ お よ び‘ 今 少 し て お り ,Ta b l e 3 - 2 - 3 と 同 様 で あ っ た .ま た , 神 ’に 再 度 イ オ ン ビ ー ム を 照 射 し ,各 処 理 区 か ら 無 作 為 に 2 0 個 の 再 生 個 体 を 抽 出 し て 調 査 し た .そ の 結 果 , ‘ 今 神 ’で は ,無 照 射 区 の 不 定 芽 に よ る 再 生 系 を 経 由 す る こ と に よ っ て , 再 生 個 体 の DNA 量 は 有 意 に 減 少 し た ( F i g . 3 - 3 - 1 , Ta b l e 3 - 3 - 2 ). 炭 素 イ オ ン の 4 G y 照 射 区 で は さ ら に 減 少 す る こ と か ら ,‘ 今 神 ’ の 再 生 個 体 の 核 D N A 量 は , ほ ぼ 全 個 体 に あ た る 95~ 100%で , 原 品 種 の ‘ 神 馬 ’ よ り 減 少 し た ( F i g . 3 - 3 - 1 , Ta b l e 3 - 3 - 2 ). こ の こ と は , 炭 素 イ オ ン 照 射 で は DNA の 大 き な 構 造 変 化 を 伴 い や す い ( Shikazono ら , 2001, 2003, ‘ 今 神 ’で は ゲ ノ ム の 大 き な 変 化 や 修 復 能 力 低 下 等 2 0 0 5 )こ と か ら , が生じ,ゲノムの安定性が低下した結果と考えられ,再照射が適さ ない変異体であると考えられる.一方,最初の照射で原品種の‘神 馬 ’ と 同 程 度 の DNA 量 を 維 持 し て い る ‘ 新 神 ’ で は , 無 照 射 区 の D N A 量 は 減 少 せ ず ,イ オ ン ビ ー ム 照 射 に よ り 平 均 で 1 % 程 度 D N A 量 が 減 少 し た ( F i g . 3 - 3 - 1 , Ta b l e 3 - 3 - 2 ). 前 節 で 示 し た よ う に , 個 体 も - 97 - し く は 系 統 内 の 測 定 結 果 が 標 準 偏 差 1%程 度 で あ り , 前 述 の 平 均 値 で 1%の 差 を 有 意 に 判 定 で き る こ と か ら , 本 実 験 で 用 い た DNA 量 の 測 定 法 は 1 % 以 上 の 差 を 検 出 で き る と 考 え ら れ た . そ こ で ,‘ 新 神 ’ の 照 射 区 の 再 生 個 体 に つ い て , 1%以 上 DNA 量 が 減 少 し た 個 体 数 を 算 出 し た 結 果 , そ の 割 合 は 5 0 % で あ っ た ( Ta b l e 3 - 3 - 2 ). こ れ は , 輪 ギ ク 品 種 ‘ 太 平 ’ に お け る 核 DNA 量 の 線 種 ・ 線 量 に 対 す る 反 応 と 一 致 し て い た ( Ya m a g u c h i ら , 2 0 1 0 ). ま た , 炭 素 イ オ ン 照 射 後 の 変 異 体 は ,D N A 量 の 減 少 を 伴 う 変 異 と 減 少 を 伴 わ な い 点 突 然 変 異 の 両 方 が 同 程 度 に 存 在 す る( S h i k a z o n o ら , 2 0 0 5 )こ と が 報 告 さ れ て い る . ‘ 新 神 ’ に 照 射 し た 際 に 50%の 再 生 個 体 で DNA 量 の 減 少 が 認 め ら れたことは,遺伝子の大きな構造変化が半数で発生したことを意味 す る . し た が っ て , DNA 量 の 減 少 を 伴 っ て い な い 残 る 半 数 の 再 生 個体についても点突然変異を含む何らかの変異を内在していること を示唆しており,本実験で得られた再生個体の大半が点突然変異を 含めた様々な変異を内在していると推察された.このことは,変異 誘発率が高く,点突然変異による変異体の選抜と再照射による変異 誘発が可能なイオンビームの優位性を示している.再照射により得 られた選抜個体は,栄養繁殖により系統とし,次年度以降の系統選 抜 に 供 試 し た ( Ta b l e 3 - 3 - 1 ). 2 変 異 体 における選 抜 特 性 の安 定 性 無側枝性を持つ‘新神’と低温開花性に優れる‘神馬’2 号に炭 素 イ オ ン を 照 射 し ,無 側 枝 性 を 対 象 と し た 1 1 ~ 1 2 月 開 花 作 型 と 低 温 開 花 性 を 対 象 と し た 3~ 4 月 開 花 作 型 で 変 異 誘 発 当 代 の 選 抜 を 行 っ た .‘ 新 神 ’ の 場 合 は , 2 0 0 3 年 度 照 射 に よ り 得 ら れ た 9 , 0 3 3 個 体 の 変異誘発当代から,生育や花容・草姿に優れ,無側枝性や低温開花 性 を 示 す 8 7 個 体 を 選 抜 し( Ta b l e 3 - 3 - 3 , Ta b l e 3 - 3 - 4 ),2 0 0 5 年 ま で の 照 射 試 験 か ら 1 4 1 個 の 選 抜 個 体 が 得 ら れ た ( Ta b l e 3 - 3 - 1 ). ま た , 強 い 無 側 枝 性 を 示 す も の の DNA 量 が 減 少 し て い な い B02-1-1 系 統 に 再 - 98 - 照 射 を 行 っ た と こ ろ , 2005 年 度 ま で の 照 射 試 験 で 1,742 個 体 か ら , 6 4 個 の 選 抜 個 体 が 得 ら れ た ( Ta b l e 3 - 3 - 1 ). F i g . 3 - 3 - 2 に 示 し た よ う に, ‘ 新 神 ’お よ び B 0 2 - 1 - 1 系 統 に イ オ ン ビ ー ム を 再 照 射 し て 得 ら れ た選抜個体は,原品種‘神馬’と比較して花径は同程度で,舌状花 弁数は増加しており,花容が優れる個体であった. これらの変異誘発個体において,個体選抜時または栄養繁殖系統 に お け る 無 側 枝 性 変 異 の 出 現 頻 度 を 調 査 し た ( F i g . 3 - 3 - 3 ). 原 品 種 で あ る‘ 神 馬 ’9 - 1 - 1 系 統 で は ,変 異 誘 発 当 代 の 2 0 0 1 年 1 2 月 開 花 作 型 に お け る 無 側 枝 性 変 異 は 拡 大 す る も の の 出 現 頻 度 は 低 か っ た( F i g . 3 - 3 - 3 A ). 一 方 ,‘ 新 神 ’ に 再 照 射 を 行 っ た 場 合 , 2 0 0 3 年 度 に 花 容 ・ 草 姿 に 優 れ 無 側 枝 性 も し く は 低 温 開 花 性 を 示 す 87 個 の 選 抜 個 体 が 得 ら れ た ( Ta b l e 3 - 3 - 3 , Ta b l e 3 - 3 - 4 ). こ れ ら は 無 側 枝 性 が 発 現 し な い ,す な わ ち 腋 芽 が 発 生 す る 3 月 開 花 作 型 で 選 抜 し た 5 1 個 体 が 含 ま れ る こ と か ら ,そ れ ぞ れ を 栄 養 繁 殖 系 統 と し ,そ の 8 4 系 統 に つ い て 翌 年 度 ,2 0 0 4 年 1 2 月 開 花 作 型 で の 無 側 枝 率 を 調 査 し た .F i g . 3 - 3 - 3 B に 示 す よ う に ,‘ 新 神 ’ 由 来 変 異 系 統 の 無 側 枝 率 は ,‘ 新 神 ’ と 同 程 度 の 無 側 枝 率 4 4 . 8 ± 1 5 . 7 % で ,‘ 神 馬 ’ と 同 様 に 変 異 誘 発 に よ り 無 側 枝 性 変 異 が 拡 大 し た . さ ら に , 2005 年 度 B02-1-1 系 統 に 再 照 射 し て 得 ら れ た 生 育 特 性 に 優 れ た 56 個 の 選 抜 個 体 の 無 側 枝 率 を Fig. 3-3-3 C に 示 し た . B02-1-1 系 統 は 無 側 枝 率 が 80.4%で , 56 選 抜 個 体 の 無 側 枝 率 は 8 4 . 8 ± 5 . 0 % と な り ,無 側 枝 性 の 変 異 は 拡 大 す る も の の 9 割 以 上 が 無 側 枝 率 80%を 超 え る 強 い 無 側 枝 性 を 示 し た . 浅 見 ら( 2010)は , ‘ 神 馬 ’に 対 す る 変 異 誘 発 で は 無 側 枝 性 変 異 の 出 現 頻 度 が 低 い こ と か ら ,幼 苗 や 培 養 物 を 高 温 処 理 す る こ と に よ り , 無 側 枝 性 の 早 期 選 抜 を 行 っ て い る .本 実 験 で は ,無 側 枝 性 の‘ 新 神 ’ や B02-1-1 系 統 を 照 射 材 料 と す る こ と で , 無 側 枝 性 変 異 が 高 い 頻 度 で安定して得られた.また,秋輪ギクでは,栄養繁殖が夏季の高温 期にあたることから,無側枝性が強い品種は挿し穂増殖が困難であ - 99 - る ( 永 吉 , 2 0 1 1 ). B 0 2 - 1 - 1 系 統 に 対 す る 変 異 誘 発 で は , 2 0 0 3 お よ び 2004 年 度 の 照 射 試 験 か ら 64 個 体 を 選 抜 し た が , 次 年 度 の 系 統 選 抜 時 の 供 試 数 は 3 3 系 統 に 減 少 し た ( Ta b l e 3 - 3 - 1 ). こ れ は , 無 側 枝 性 により腋芽が消失し,増殖できない個体が存在したためで,無側枝 率が高く増殖率の低い変異個体を選抜の初期段階で淘汰できること を 示 し て い る .ま た , ‘ 新 神 ’に 照 射 し た 場 合 ,無 側 枝 性 の 異 な る 変 異系統が得られることから,再照射によって育種目標に合わせた適 度な無側枝レベルへ段階的に改良が可能であることを示している. 一方,低温開花性については,定植後栄養生長期間に低温に遭遇 す る 3 ~ 4 月 開 花 作 型 で 早 期 に 開 花 す る 変 異 誘 発 当 代 を 選 抜 し た .こ れらの選抜個体は栄養繁殖により増殖し,それぞれを系統として, 次 年 度 の 11~ 1 2 月 開 花 作 型 と 3 ~ 4 月 開 花 作 型 に 供 試 し た . 変 異 誘 発当代において個体レベルで選抜した特性と,次年度の系統レベル で の 特 性 に つ い て 比 較 し た . 2 0 0 4 年 3 月 開 花 の 栽 培 で ,‘ 新 神 ’ は 開花までに消灯後 9 週を要したが,選抜個体は 8 週以内の開花個体 を 選 抜 し た .次 年 度 2 0 0 5 年 4 月 開 花 の 作 型 で ,消 灯 後 の 開 花 週 数 が ‘ 神 馬 ’ 2 号 は 9 週 ,‘ 新 神 ’ は 1 2 . 1 週 と な る 温 度 管 理 下 で , 選 抜 系 統 の 開 花 は 9 ~ 1 3 週 と な っ た ( F i g . 3 - 3 - 4 A ). ま た , 定 植 後 栄 養 生 長 期 間 に 低 温 に 遭 遇 し な い 2 0 0 3 年 1 2 月 開 花 の 選 抜 で は ,‘ 新 神 ’ よ り 早 い 消 灯 後 8 週 未 満 の 開 花 個 体 を 選 抜 し た こ と に よ り ,2 0 0 5 年 4 月 開 花 の 作 型 で ,消 灯 後 の 開 花 週 数 は 9 ~ 1 3 週 と な っ た( F i g . 3 - 3 - 4 B ).‘ 神 馬 ’ の 開 花 遅 延 は , 低 温 遭 遇 に よ る 幼 若 化 ( 幼 若 層 へ の 誘 導 ) が 主 な 要 因 と さ れ て い る ( 永 吉 , 2 0 1 1 ). ま た , 幼 若 化 は 切 り 花 生産の栽培期間だけでなく,親株,穂冷蔵および挿し芽等それぞれ の 生 育 時 期 の 環 境 も 影 響 す る こ と が 報 告 さ れ て い る ( 永 吉 , 2 0 1 1 ). さらに,第 2 節で示したように,茎頂培養苗や葉身由来の再生個体 が 生 育 旺 盛 に な り , 開 花 が 遅 延 す る こ と ( Ta b l e 3 - 2 - 2 ) か ら , 変 異 誘発当代の個体選抜の結果と,栄養繁殖により増殖した系統選抜時 - 100 - の開花特性が必ずしも一致しなかった理由と考えられた.しかし, 個体選抜時に早期開花性の選抜を行うことにより,系統選抜時には 元品種の‘新神’より早期開花の系統が得られたことから,低温開 花性の選抜が有効であると考えられた. 3 無 側 枝 性 と低 温 開 花 性 を併 せ持 つ新 品 種 の育 成 2003 年 度 の 照 射 試 験 で は , ‘ 神 馬 ’2 号 お よ び‘ 新 神 ’に 変 異 を 誘 発 し ,9 , 8 3 1 個 体 か ら 9 4 個 体 を 選 抜 し た( Ta b l e 3 - 3 - 3 , Ta b l e 3 - 3 - 4 ). 2004 年 度 に は こ れ ら か ら 得 ら れ た 92 系 統 を 2 作 型 で 栽 培 し て , そ の中から低温開花性および無側枝性を示す 6 系統を選抜した.これ ら 6 系 統 を 含 め て 2 0 0 5 年 4 月 お よ び 11 月 開 花 作 型 で 特 性 評 価 を 行 っ た .そ の 結 果 ,最 低 温 度 を 1 2 ℃ で 管 理 し た 4 月 開 花 作 型 で は ,Ta b l e 3 - 3 - 5 に 示 す よ う に ,‘ 神 馬 ’ 1 号 お よ び ‘ 新 神 ’ は 低 温 遭 遇 に よ る 開 花 遅 延 に よ り ,到 花 日 数 が 8 5 日 前 後 と な っ た .こ れ に 対 し て ,低 温 開 花 性 に 優 れ る‘ 神 馬 ’2 号 は 6 7 日 と 2 . 5 週 の 差 と な っ た .一 方 , 低 温 開 花 性 選 抜 系 統 の 到 花 日 数 は ,B 03 -1 -3 系 統 が‘ 神 馬 ’2 号 よ り 短 く ,B 0 3 - 2 - 2 お よ び B 0 3 - 2 - 5 系 統 は 同 程 度 で ,他 は 原 品 種 の‘ 神 馬 ’ や ‘ 新 神 ’ よ り 早 期 に 開 花 し た ( Ta b l e 3 - 3 - 5 ). ま た , 無 側 枝 性 が 発 現しにくい生育期間が低温期の 4 月開花作型では,摘芽・摘蕾数に 大きな差は認められなかった.さらに,植物体の生育量を示す草丈 や 9 0 c m 切 り 花 重 に 品 種 ・ 系 統 に よ る 差 が 認 め ら れ た ( Ta b l e 3 - 3 - 5 ) が,これは到花日数の長短に由来するものと考えられた.ただし, B03-2-2 系 統 は 到 花 日 数 が 短 い に も か か わ ら ず , 草 丈 や 90 cm 切 り 花重は他系統を上回っている.これは,低温管理下で茎の伸長や展 開葉数が上回ることを示しており,低温伸長性につながるものと推 察された. 無 側 枝 性 が 発 現 し や す い 1 1 月 開 花 作 型 で は , Ta b l e 3 - 3 - 6 に 示 す よ う に ,‘ 神 馬 ’ 1 号 お よ び ‘ 神 馬 ’ 2 号 の 摘 芽 数 が 約 3 0 個 で あ る のに対して, ‘ 新 神 ’は 1 4 . 3 個 と 半 減 し た .各 選 抜 系 統 の 摘 芽 数 は , - 101 - B03-1-3 系 統 が ‘ 新 神 ’ と 同 程 度 の 13.0 個 と 最 も 少 な く , B03-2-2 系統以外は原品種の‘神馬’より少なかった。また,この作型にお け る 到 花 日 数 は 51.4~ 54.1 日 で , 品 種 ・ 系 統 間 差 は 2.7 日 と 小 さ か った.これは,低温に遭遇しない作型では原品種の‘神馬’と開花 習 性 に 大 き な 変 化 が な い こ と を 示 し て お り ,生 育 量 の 指 標 と な る 9 0 c m 切 り 花 重 に 差 は 認 め ら れ な か っ た ( Ta b l e 3 - 3 - 6 ). な お , B 0 3 - 2 - 2 系 統 は‘ 神 馬 ’2 号 由 来 で あ り ,低 温 開 花 性 を 示 す も の の( Ta b l e 3 - 3 - 5 ), 摘 芽 数 は 原 品 種 よ り 多 く な っ た ( Ta b l e 3 - 3 - 6 ). さ ら に , こ の 中 の 5 系 統 に つ い て 低 温 開 花 性 を 確 認 す る た め ,2 0 0 6 年 4 月 開 花 作 型 に お い て , 定 植 後 開 花 ま で 最 低 温 度 12℃ で 管 理 し 開 花 日 数 を 調 査 し た . その結果,電照抑制を終了し短日条件となる消灯後の開花週数は, ‘ 神 馬 ’ 1 号 が 1 1 週 ,‘ 神 馬 ’ 2 号 が 9 週 ,‘ 新 神 ’ は 1 3 週 で あ っ た ‘神馬’ ( デ ー タ 省 略 ).F i g . 3 - 3 - 5 で 示 す 消 灯 8 1 日 後 の 開 花 状 況 は , 1 号が開花期, ‘ 神 馬 ’2 号 は 開 花 後 満 開 に 近 い 状 態 ,お よ び‘ 新 神 ’ は開花前の状態であり,開花週数の違いを明確に現していた.同条 件 で 栽 培 し た 5 系 統 の 開 花 状 況 か ら , B03-1-3 お よ び B03-2-2 の 2 系 統 は ‘ 神 馬 ’ 2 号 よ り 早 く , B03-2-5 系 統 は 同 程 度 で , B03-1-7 お よ び B 0 3 - 1 - 2 1 の 2 系 統 は ,‘ 神 馬 ’ 2 号 と 1 号 の 中 間 程 度 で あ っ た ( F i g . 3 - 3 - 5 ). こ れ は , 供 試 し た 5 系 統 の 低 温 開 花 性 が ‘ 神 馬 ’ 1 号 お よ び ‘ 新 神 ’ よ り 改 善 さ れ た こ と を 示 し て お り , Ta b l e 3 - 3 - 5 に 示した前年の結果と一致していた.前述のように,変異誘発当代の 低温管理による選抜結果と,栄養繁殖により増殖した系統選抜時の 低温遭遇後の開花特性は,必ずしも一致しなかった.しかし,栄養 繁殖によりクローン増殖した種苗で低温や高温に遭遇する各作型で 栽 培 を 繰 り 返 し , 特 性 を 把 握 す る こ と に よ り ,‘ 新 神 ’ か ら ‘ 神 馬 ’ 2 号と同程度の低温管理が可能な系統が選抜できた.これらの結果 か ら , 無 側 枝 性 と 低 温 開 花 性 の 両 形 質 が 改 善 さ れ た B03-1-3 お よ び - 102 - B 0 3 - 2 - 5 の 2 系 統 が 選 抜 , 育 成 さ れ ( Ta b l e 3 - 3 - 5 , Ta b l e 3 - 3 - 6 ), そ の 特性の安定性が確認できた. 4 イオンビーム照 射 による育 成 品 種 と特 性 評 価 低 温 開 花 性 と 無 側 枝 性 を 顕 著 に 示 す B03-1-3 系 統 を 新 し い タ イ プ の ‘ 新 神 ’ と し て ,‘ 新 神 2 ’ の 名 称 で 品 種 登 録 を 行 っ た ( 農 林 水 産 省 品 種 登 録 第 1 9 0 9 6 号 ). こ の ‘ 新 神 2 ’ の 特 性 は Ta b l e 3 - 3 - 7 に 示 すように‘神馬’や‘新神’と形態的な基本特性は変わらず,切り 花の品質を左右する花径や花弁数は増加し,側枝数が‘新神’より さ ら に 少 な く な っ た . 浅 見 ら ( 2010) は , 無 側 枝 性 の 検 定 結 果 と し て ,‘ 新 神 ’ を 中 程 度 ,‘ 新 神 2 ’ は 強 い 無 側 枝 性 を 示 す 品 種 と 評 価 しており,これら 2 品種の無側枝性の安定性が確認されている. 鹿 児 島 県 農 業 経 営 管 理 指 導 指 標 ( 鹿 児 島 県 農 政 部 , 2001) に よ る と,輪ギク栽培において育苗から切り花生産および経営管理に至る 10 aあ た り の 1作 に お け る 全 労 働 時 間 は 1,050時 間 と 見 積 も ら れ て い る . そ の う ち , 摘 芽 ・ 摘 蕾 作 業 に 要 す る 時 間 は 390時 間 で 最 も 多 く , 全 作 業 時 間 の 37%に 達 す る . 特 に ‘ 神 馬 ’ の 場 合 , 側 枝 数 が 多 く な る 11 ~ 12 月 開 花 作 型 で は , 1 本 あ た り 3 0 ~ 4 0 個 の 摘 芽 を 行 う ( Fi g. 3 - 2 - 3 ). し た が っ て , 1 2 0 ~ 1 6 0 万 個 / 1 0 a の 花 蕾 や 側 枝 を 摘 み 取 る 必 要 が あ り ( F i g . 3 - 2 - 1 ), 摘 芽 に 要 す る 作 業 時 間 は 前 述 の 3 9 0 時 間 を 上 回る.このように,摘芽作業時間は側枝数がそのまま反映されるこ と か ら ,‘ 神 馬 ’ と 比 較 し て 無 側 枝 率 5 0 % の ‘ 新 神 ’ の 場 合 , 摘 芽 作 業 時 間 は 5割 程 度 に な る . さ ら に , 無 側 枝 率 70%の ‘ 新 神 2’ の 場 合 は ,3 割 程 度 に 短 縮 で き る こ と か ら ,2 0 0 ~ 2 7 0 時 間 の 省 力 化 に つ な が る こ と に な る . ま た ,‘ 神 馬 ’ や ‘ 新 神 ’ の 場 合 , 低 温 遭 遇 に よ り 開 花が遅延することから,開花遅延を引き起こさないための温度管理 と し て , 最 低 温 度 を 1 4 ~ 1 6 ℃ で 管 理 す る 必 要 が あ る ( 永 吉 , 2 0 1 1 ). こ れ に 対 し て , 低 温 開 花 性 に 優 れ る ‘ 神 馬 ’ 2号 で は , 通 常 よ り 2℃ 低 い 1 2 ~ 1 4 ℃ で の 温 度 管 理 が 可 能 で あ る ( 永 吉 , 2 0 1 1 ). 鹿 児 島 県 農 - 103 - 業 経 営 管 理 指 導 指 標 ( 鹿 児 島 県 農 政 部 , 2001) に よ る と , 2~ 3月 出 し 輪 ギ ク 栽 培 に お い て , 暖 房 に 必 要 な A重 油 の 消 費 量 は 8,000 L-1・10 a-1が 見 積 も ら れ て い る . 2006年 3月 開 花 作 型 で ‘ 神 馬 ’ や ‘ 新 神 ’ が開花遅延を起こさない温度管理を行う場合,鹿児島県指宿市にお け る 栽 培 期 間 中 の 外 気 温 か ら 必 要 な 燃 料 消 費 量 と し て 9,000~ 9,500 L - 1 ・ 1 0 a - 1 が 試 算 さ れ た ( 未 発 表 ). 一 方 , 低 温 管 理 が 可 能 な ‘ 神 馬 ’ 2号 の 場 合 , 同 時 期 の 燃 料 消 費 量 は 6,000 L-1・10 a-1と な り , 作 型 あ た り 3,000~ 3,500 L-1・10 a-1の 燃 料 節 減 が 可 能 と 試 算 さ れ て い る ( 未 発 表 ).以 上 の よ う に ,輪 ギ ク に 対 す る 無 側 枝 性 と 低 温 開 花 性 の 両 形 質 の付与が労働力や燃料費の削減に結びつくことが確認できた. ‘ 新 神 2 ’は ,神 馬 系 秋 輪 ギ ク の 最 終 目 標 と し た 無 側 枝 性 と 低 温 開 花性の両形質を併せ持つ優れた品種として育成した.しかし,水揚 げ(日持ち性)の不安定性や,無側枝性が強いことにより高温期の 自家増殖が困難であることなどの問題点が明らかとなったため,残 念ながら生産量は減少している.この問題を解決するため‘新神’ へのイオンビーム再照射による低温開花性の改良が進められており ( 田 之 頭 ら , 2 0 1 2 ),‘ 神 馬 ’ に 由 来 す る 低 温 開 花 性 と 無 側 枝 性 を 兼 ね備えた最終的な改良品種が近々発表される予定である. 以上のように,本研究では‘新神’にイオンビームを再照射する ことにより,無側枝性および低温開花性の両形質を実用レベルで改 変できることが実証できた.このことは,イオンビーム照射が輪ギ クの特性改良を行う際,花容・草姿・生育特性に優れ,目的に合わ せた特性を付与できる点で,優れた手法であることが明らかとなっ た .さ ら に ,D N A 量 が 減 少 し て い な い 変 異 体 を 選 抜 す る こ と に よ り , このような変異体を照射材料として,複数の特性を段階的に改良で きることが示された.これは,従来の放射線育種では行われなかっ た,イオンビーム照射に特徴的な変異誘発の新しい手法であり,イ - 104 - オンビーム照射による変異誘発を行っている他の植物種においても, 広く応用可能な技術と考えられる. - 105 - 要 約 高次倍数性の栄養繁殖植物であるキク類について,イオンビーム 照射による変異誘発技術の確立を目的として,本章では,まず培養 系の確立,照射材料の選定およびイオンビームの線種・線量の検討 を 行 っ た .そ の 結 果 ,10 品 種 以 上 の キ ク 類 で 一 般 切 り 花 栽 培 と 同 様 の 管 理 で , 3,000~ 4,000 個 体 の 変 異 誘 発 当 代 か ら , 形 態 お よ び 生 育 特性による優良変異個体を選抜する変異誘発システムを確立した. この変異誘発システムで得られた変異個体はキメラ性が低く,変 異 誘 発 当 代 で の 選 抜 が 可 能 で あ っ た . ま た , 白 色 の 秋 輪 ギ ク ‘神 馬 ’ は,我が国における主力品種であるが,側枝の発生が多く,低温遭 遇 に よ り 開 花 が 遅 れ る 欠 点 が あ る .‘ 神 馬 ’ を 対 象 と し た イ オ ン ビ ーム照射によって,無側枝性変異の選抜から側枝が少ない‘新神’ および‘今神’を育成した.しかし,無側枝性と低温開花性の両特 性を併せ持つ変異個体は得られなかった. そこで,イオンビーム照射により得られた変異体に再度変異誘発 を 行 っ た .そ の 結 果 ,イ オ ン ビ ー ム を 再 照 射 す る 際 は ,DNA 量 が 原 品種と同程度の変異体を用いる必要があることを示し,再照射によ る変異誘発および優良変異体の選抜が可能であることを実証した. ま た ,‘ 新 神 ’ に イ オ ン ビ ー ム を 照 射 し , 低 温 開 花 性 の 選 抜 を 行 う ことにより,無側枝性と低温開花性の特性を併せ持つ変異体が選抜 で き ,‘ 新 神 2 ’ の 育 成 に 至 っ た . こ の 無 側 枝 性 と 低 温 開 花 性 の 両 特 性の付与は,高品質切り花の省力・低コスト生産を実現するもので ある.このように,イオンビーム照射による変異誘発は,複数の特 性を段階的に改良できることを示している.これらの知見は,輪ギ クの特性改良に限らず,イオンビーム照射による変異誘発において, 広く適用可能で有効な手法と考えられる. - 106 - Table 3-1-1. Influence of phytohormone combination on adventitious bud formation in chrysanthemum cv. ‘Jimba’. Medium Additional substances (mg/l) NAA IAA BA % of regeneration frequency (STD) Leaf No. of adventitiousbuds/ segment (STD) Plating efficiency [No. of buds/ plate (STD)] % of regeneration frequency (STD) Petal No. of adventitiousbuds/ segment (STD) Plating efficiency [No. of buds/ plate (STD)] N0.1 B0.5 0.1 0.5 4 (2.5) 2.0 (2.7) 3 (2.9) 31 (16.0) 6.7 (2.5) N0.1 B1.0 0.1 1.0 1 (2.5) 1.0 (2.2) 1 (2.5) 22 (10.9) 5.0 (0.0) 46 (36.1) 22 (10.9) N0.5 B0.5 0.5 0.5 44 (23.6) 6.0 (2.2) 55 (33.2) 47 (14.2) 6.7 (2.5) 64 (32.9) N0.5 B1.0 0.5 1.0 31 (18.5) 5.0 (0.0) 31 (18.5) 48 (22.9) 8.3 (2.5) 89 (55.6) I 1.0 B0.5 1.0 0.5 87 (12.0) 9.2 (2.0) 174 (24.1) 62 (18.4) 10.0 (0.0) 123 (36.7) I 1.0 B1.0 1.0 1.0 74 (23.3) 7.5 (5.2) 148 (104.3) 53 (18.0) 9.4 (1.7) 101 (41.7) I 5.0 B0.5 5.0 0.5 90 (17.3) 13.8 (6.3) 303 (95.0) 55 (18.4) 8.9 (2.2) 103 (47.4) I 5.0 B1.0 5.0 1.0 98 16.0 (6.5) 368 (65.0) 64 (20.9) 9.4 (1.7) 125 (48.0) (5.0) - 107 - Table 3-1-2. Regeneration frequency of some chrysanthemum cultivars using adventitious bud formation medium. Cultivars Explants % of regeneration frequency Medium Standard type Plating efficiency y 'Jimba' Leaf I 5.0 B1.0 100 ++++ 'Jimba' Petal I 5.0 B1.0 64 +++ 'Sanyo-ohgon' Leaf I 5.0 B0.1 100 +++ 'Hohada-no-aki' Leaf I 5.0 B0.5 85 ++ 'Yumito-taisan' Leaf I 5.0 B0.5 83 ++ 'Floral-Yuka' Leaf I 5.0 B0.5 100 +++ 'Tokai-kimba' Leaf N0.5 B0.5 30 + 'Sei-un' Leaf N0.5 B0.5 61 +++ 'Sei-un' Petal N0.1 B1.0 75 ++ 'Summer-yellow' Leaf I 5.0 B0.1 100 +++ 'Super-yellow' Leaf I 5.0 B0.1 100 +++ 'Elias' Leaf I 5.0 B0.1 3 ± 'Elias' Petal I 5.0 B1.0 5 + 'Loire' Leaf I 5.0 B0.1 5 ± 'Loire' Petal I 5.0 B0.5 9 + 'Southern-cherry' Leaf I 1.0 B1.0 7 ± 'Kana-no-orihime' Petal I 5.0 B1.0 85 +++ 'Kana-no-hikoboshi' Petal I 5.0 B1.0 83 +++ Spray type z No. of buds / plate. -: 0, ±: 1-5, +: 5-50, ++: 50-100, +++: 100-200, ++++: 200<. y I: IAA, B: BAP, N: NAA, 0.1~5.0: 0.1~5.0 mg・L-1. - 108 - z Table 3-1-3. Hyperhydricity control in tissue culture generated chrysanthemum by dehydration treatment. % Survival after subcultured for 1 month (STD) 100 (0) Water content of after treatment * % of dehydrate * Non-treated control Dehydration teratment 20 min. 30 min. 93.6 0.0 90.9 89.2 2.7 4.4 85 81 (7) (8) 20 16 (9) (3) 80 84 Non-treated control Dehydration teratment 20 min. 30 min. * mg water in 100 mg tissue, 92.7 0.0 100 (0) 100 (0) 0 89.2 87.8 3.5 4.9 98 85 (4) (7) 21 41 (7) (11) 79 59 Cultivars Treatnent 'Syuhono-chikara' 'Nansyuno-mai' % of shoots hyper-hydrated normal (STD) 100 (0) 0 Table 3-1-4. Water content of vermiculite for rooting and adaptation in shoots of chrysanthemum. Water content of mg water in 100 mg vermiculite (STD) before preparation A new article Recycling product after preparation water saturation 2 (0) 195 (1) 370 (19) 111 (1) 127 (4) 260 - 109 - (5) Table 3-1-5. Frequency distribution of number of petals resulting from regenerated plants with different tissue of chrysanthemum cv. ‘Jimba’. No. of petals Frequemcy distribution of regenerated plants from differrent tissue meristem leaf petal % % 90~100 % 7.6 101~130 2.1 42.9 131~150 4.3 39.0 151~170 75.0 73.4 8.6 171~190 25.0 16.0 1.9 191~210 2.2 211~230 1.0 231~250 1.0 No. of investigated plants Average on the number of petals 11 325 371 165.0 162.3 130.8 - 110 - Table 3-1-6. Effects of dose of irradiation on number of petals resulting from regenerated plants with leaf explants of chrysanthemum cv. ‘Jimba’. Raddiation type Plant matearial line control 'Jimba' 9-1-1 12 220 MeV・ C 5+ 'Jimba' 9-1-1 meristem culture regenerated from leaf regenerated from leaf Total dose (Gy) ~170 ~180 ~190 0 7.0 72.0 21.0 0 3.0 18.0 46.0 21.0 ~150 ~160 6.0 26.0 52.0 13.0 2.0 3.0 2.0 5.0 26.0 49.0 16.0 1.0 16.0 50.0 29.0 5.0 11.0 83.0 Soft X-ray (3.6Gy/h) 'Jimba' 9-1-1 regenerated from leaf regenerated from leaf 6.0 ~210 14 1.0 4.0 320MeV・12C6+ 'Jimba' 9-1-1 ~200 2.0 5.0 No. of investigated ~220 plants Percentage of variants to number of petals with regenerated plants 3.0 9.0 34 89 1.0 85 38 18 1.0 3.0 47.0 34.0 13.0 3.0 40 2.0 40.0 44.0 9.0 2.0 5.0 43 3.0 10.0 42.0 29.0 19.0 5.0 3.0 19.0 47.0 25.0 - 111 - 21 6.0 64 Table 3-1-7. Effects of dose of irradiation on leaf shape of resulting from regenerated plants with leaf explants of chrysanthemum cv. ‘Jimba’. Percentage of variants to leaf shape with regenerated plants. Raddiation type Dose control 12 5+ 220 MeV・ C 12 6+ 320MeV・ C Soft X-ray (3.6Gy/h) normal thin z Gy 0 % 88.8 % 10.5 % 0.7 401 0.5 81.4 17.6 1.0 204 1.0 86.7 11.5 1.7 347 1.5 79.4 18.1 2.5 243 2.0 58.6 31.5 9.9 111 3.0 80.2 17.9 1.9 106 4.0 36.2 57.4 6.4 47 5.0 41.2 47.1 11.8 17 1.0 85.9 14.1 0.0 447 2.0 87.0 10.9 2.2 46 3.0 62.4 34.7 2.9 418 5.0 45.7 42.9 11.4 35 5.0 91.1 7.6 1.3 381 z Leaf having deeply incised. y Leaf having different size and/or length/width ratio. - 112 - abnormal y No. of investigated plants Table 3-2-1. Ecological traits and origin of chrysanthemum cultivars used in this study. Cultivars and line 'Jimba' #1 'Jimba' #2 'Jimba' 9-1-1 'Aladdin' 'Imagine' B02-1-1 Origin Mutation or selection Ecological traits Reference 'Jimba' 'Jimba' 'Jimba' 'Jimba' 9-1-1 'Jimba' 9-1-1 'Jimba' 9-1-1 Field selection Field selection Field selection Ion beam Ion beam Ion beam Good sprouting Low temp. flowering Good flower quarity Non-branching node Non-branching node Non-branching node - - - Imakiire et al . (2006) Ueno et al. (2003) Ueno et al. (2003) Table 3-2-2. Effects of dose of irradiation on flowering periods resulting from regenerated plants with leaf explants of chrysanthemum cv. ‘Jimba’ in March 2002. Raddiation type Plant matearial Percentage of variants on the number of weeks to flowering after lighting stop. ~8W ~9W ~10W 'Jimba' #1 vagitative propagation 0 33.3 58.3 8.3 control 'Jimba' 9-1-1 vagitative propagation 0 30.0 70.0 meristem culture 0 18.5 25.9 29.6 14.8 11.1 regenerated from leaf 0 6.4 23.8 23.0 21.7 20.7 4.1 regenerated from leaf 0.5 4.1 11.7 28.6 21.9 27.0 6.6 1.0 4.2 20.8 24.1 19.9 23.0 5.8 2.2 361 1.5 8.3 19.0 23.4 18.3 18.7 8.3 4.0 252 2.0 12.8 27.4 23.9 10.3 17.1 5.1 3.4 117 3.0 13.1 18.7 22.4 20.6 17.8 4.7 2.8 107 4.0 17.4 6.5 19.6 13.0 17.4 8.7 17.4 46 2.5 16.4 19.3 16.2 30.6 10.3 4.5 445 2.0 16.3 20.9 11.6 11.6 18.6 14.0 7.0 43 3.0 5.7 21.3 23.5 16.0 22.0 7.0 4.4 455 13.3 20.0 30.0 10.0 26.7 30 25.1 26.9 14.8 17.8 4.4 1.2 338 320MeV・C 'Jimba' 9-1-1 'Jimba' 9-1-1 regenerated from leaf 1.0 0.2 control Soft X-ray ~12W ~13W ~14W 14W~ 24 10 4.0 Soft X-ray ~11W No. of investigated plants control 220 MeV・ C line Total dose (Gy) 27 0.3 391 196 'Jimba' 9-1-1 regenerated from leaf 5.0 1.5 8.3 'Jimba' #2 vagitative propagation 0 78.9 21.1 meristem culture 0 9.5 47.6 7.1 19.0 7.1 9.5 42 regenerated from leaf 5.0 2.3 43.7 20.7 14.9 9.2 9.2 87 'Jimba' #2 - 113 - 38 Table 3-2-3. DNA contents of chrysanthemum cv. ‘Jimba’ and few axillary buds selected lines. Plant matearial line propagation 'Jimba' 9-1-1 meristem culture DNA contents % STD 100.0 0.9 'Jimba' #2 meristem culture 100.0 1.1 'Imagine' meristem culture 98.1 0.9 vagitative propagation 98.3 1.2 meristem culture 100.0 1.2 vagitative propagation 100.1 1.2 meristem culture 100.0 0.5 'Aladdin' B02-1-1 - 114 - Table 3-3-1. The number of tested and selected plants, regenerated from leaf cultures irradiated with ion beam from 2001 to 2005. Cultivars and line Iraddiation year 'Jimba' #1 'Jimba' #2 'Jimba' 9-1-1 'Aladdin' 'Imagine' B02-1-1 2005 2001-2003 2001-2002 2003-2005 2002 2004-2005 Number of Number of Number of Line tested M1 selected selected Resistration y selection z plants line plants 1,372 4,535 12,226 14,815 1,461 1,742 1 44 17 141 0 64 z 1 44 17 141 - 33 0 7 4 9 - 4 - - x 2 w 1 - - M1 plants means ‘Mutanized 1st generation plants’. These M1 plants were grown from November to December or from March to April using a flowering cropping system. y Each mutant line was vegetatively propagated from M1 plants. These mutant lines were grown from November to December and from March to April using a flowering cropping system. x These two lines were 'Aladdin' and 'Imagine'. w This line was ‘Aladdin 2’. - 115 - Table 3-3-2. DNA contents of tested plants, which regenerated from leaf cultures re-irradiated by ion beam. Plant matearial 'Jimba' 'Aladdin' 'Imagine' B02-1-1 'Aladdin' Regenerated plants from reirradiated 'Aladdin' x 'Imagine' Regenerated plants from reirradiated 'Imagene' x Raddiation type 320MeV・12C6+ 320MeV・12C6+ Dose Number of tested plants DNA contents Gy - 10 15 10 5 % t-test z STD 100.0 1.0 100.1 1.2 98.2 ** 1.0 100.0 0.4 0 1 2 3 16 20 20 20 20 100.2 99.9 98.8 99.0 98.8 0 2 3 4 16 20 20 20 20 98.2 96.9 96.9 97.1 95.3 z ** * ** ** ** ** The number and % of the plants of decreased y DNA amount No. % - - - 0.7 0.8 1.7 1.2 1.4 3 10 10 10 15 50 50 50 0.9 1.3 1.4 1.3 2.5 20 19 19 20 100 95 95 100 Means followed by the superscripts are significantly different at the 5% level (*) or 1% level (**) by t-test. y The plants decreased more than 1% DNA amount. x Non selected regenerated M1 plants in 2003. - 116 - Table 3-3-3. The number of tested and selected plants in December 2003, which regenerated from leaf disc cultures irradiated by ion beam, for selection of few axillary buds. Plant tested Radiation 'Aladdin' C Regenerated plants from re-irradiated 'Aladdin' 'Jimba' #2 C Regenerated plants from irradiated 'Jimba' #2 Flowering period December Energy Dose Number of Number of % of tested selected seletion rate MeV Gy plants plants 129 320 0 445 9 2.0 1 1,364 12 0.9 2 1,323 4 0.3 3 1,049 10 1.0 5 194 1 0.5 sub-total 4,375 36 44 320 0 58 0 0.0 1 125 2 1.6 2 327 2 0.6 3 288 3 1.0 5 0 0 0.0 sub-total 798 7 Total 5,173 43 Characteristec of cultiver (*) or number of selected plants % of nodes wothout axillary buds >80 >50 >30 >10 10> 0 (%) * * 1 2 4 2 1 2 7 2 1 2 1 7 3 1 2 5 21 8 * * 2 5 1 1 2 1 1 1 4 25 3 11 Table 3-3-4. The number of tested and selected plants in March 2004, which regenerated from leaf disc cultures irradiated by ion beam, for selection of early flowering type. Plant tested Radiation 'Jimba' 9-1-1 'Jimba' #1 'Jimba' #2 'Imagine' 'Aladdin' B02-1-1 - - - - - - C Regenerated plants from re-irradiated 'Aladdin' C Flowering period March Energy Dose Number of Number of % of tested selected seletion rate MeV Gy plants plants - - 14 15 - - - - 27 33 - - - - 163 107 - - sub-total 359 320 0 217 3 1.4 1 109 0 0.0 2 705 6 0.9 3 428 5 1.2 220 1 569 12 2.1 1.5 1,519 17 1.1 2 752 8 1.1 sub-total 4,299 51 Total 4,658 - 117 - Characteristec of cultiver (*) or number of selected plants Number of weeks to flowering after lighting stop. 7 8 9 10 * * * * * * 3 4 2 1 3 2 12 2 3 11 14 6 39 Table 3-3-5. Characteristics of selected lines in April flowering, derived from ‘Jimba’ or ‘Aladdin’, and these were mutants after ion beam irradiation. April flowering croping system in 2005 Cultuvar or selected line 'Jimba' #1 'Jimba' #2 'Aladdin' B03-1-3 B03-1-7 B03-1-16 B03-1-21 B03-2-2 B03-2-5 Ion beam irradiated plant 'Jimba' 9-1-1 'Aladdin' 'Aladdin' 'Aladdin' 'Aladdin' 'Jimba' #2 'Aladdin' Days to Number Flowering flowering of date in short investigat days ed plants 28-Apr 14-Apr 30-Apr 7-Apr 14-Apr 19-Apr 21-Apr 8-Apr 10-Apr 84.9 a y 67.2 d 86.4 a 62.5 e 70.7 cd 74.4 bc 78.3 b 65.1 de 66.1 de z 5 4 5 6 4 2 5 3 3 z Plant height cm 129.8 a x 115.0 c 129.4 a 107.7 d 110.5 d 130.0 a 116.8 c 122.7 b 108.0 d Weight of Number of 90 cm cut disflower budding node g 105.2 ab x 105.0 ab 109.0 a 79.7 bc 80.8 bc 91.5 abc 108.8 a 110.7 a 72.0 c 32.0 a x 27.8 a 32.6 a 31.3 a 32.5 a 33.0 a 43.6 b 38.7 ab 38.3 ab The plants were cultivated with at least 20 plants per line. Planting date: 2004/12/13. Lighting stop date: 2005/2/3. Minimum temperature controlled at 12℃. y Different letters within columns indicate significant differences by Tukey’s multiple range test (p<0.01)(n=10). x Different letters within columns indicate significant differences by Tukey-Kramer’s multiple range test (p<0.05). - 118 - Table 3-3-6. Characteristics of selected lines in November flowering, derived from ‘Jimba’ or ‘Aladdin’, and these were mutants after ion beam irradiation. November flowering croping system in 2005 z Cultuvar or selected line 'Jimba' #1 'Jimba' #2 'Aladdin' B03-1-3 B03-1-7 B03-1-16 B03-1-21 B03-2-2 B03-2-5 Ion beam irradiated plant 'Jimba' 9-1-1 'Aladdin' 'Aladdin' 'Aladdin' 'Aladdin' 'Jimba' #2 'Aladdin' Days to Number Flowering flowering of date in short investigat days ed plants 24-Nov 23-Nov 24-Nov 25-Nov 26-Nov 26-Nov 26-Nov 24-Nov 26-Nov 52.1 ab 51.4 a 54.1 b 52.9 ab 54.1 b 54.1 b 54.1 b 52.3 ab 54.1 b y z 5 5 7 2 6 7 7 3 5 Weight of Number of 90 cm cut disflower budding node g Plant height cm x 121.4 b 126.0 a 109.3 d 120.5 bc 110.5 d 107.9 d 116.9 c 111.7 d 109.4 d 75.4 ns 69.4 ns 77.4 ns 73.0 ns 77.5 ns 76.4 ns 73.1 ns 78.0 ns 81.4 ns x 30.0 c 31.6 c 14.3 a 13.0 a 16.8 ab 26.0 b 19.9 ab 45.3 d 24.0 ab The plants were cultivated with at least 20 plants per line. Planting date: 2005/8/18. Lighting stop date: 2005/10/3. Temperature controlled at 25℃ by ventilation and non-heating. y Different letters within columns indicate significant differences by Tukey’s multiple range test (p<0.01)(n=10). x Different letters within columns indicate significant differences by Tukey-Kramer’s multiple range test (p<0.05). - 119 - Table 3-3-7. Characteristics of chrysanthemum cultivars in registration form, derived from 'Jimba', and these were mutants after ion beam irradiation z 'Jimba' 'Aladdin' 'Imagine' 'Aladdin2' 06: medium 120 cm 06: medium 120 cm 06: medium 119 cm 06 medium 120 cm 5 Stem color 01: green 01: green 01: green 01: green 6 Stipule: size 03: small 03: small 03: small 03: small 01: very strongly upwards 05: medium 96 mm 04: medium 60 mm 01: very strongly upwards 06: medium 101 mm 03: medium 57 mm 01: very strongly upwards 05: medium 91 mm 03: medium 57 mm 01: very strongly upwards 06: medium 117 mm 03: medium 57 mm 1.6 1.6 1.6 1.9 05: medium 05: medium 05: medium 04: medium 05: medium 140 mm 05: medium 144 mm 05: medium 138 mm 06: medium 154 mm 06: medium 06: medium 06: medium 06: medium 05: medium 06: medium to dense 05: medium 06: medium to dence 02: incurving 02: incurving 02: incurving 02: incurving 01: incurving 01: incurving 01: incurving 01: incurving 06: med-long 65 mm 05: medium 15 mm No. 01 white JHSCC 07: long 67 mm 05: medium 15 mm No. 01 white JHSCC 05: med-long 61 mm 05: medium 14 mm No. 01 white JHSCC 07: long 76 mm 05: medium 17 mm No. 01 white JHSCC 01: solid 01: solid 01: solid 01: solid Oct.-Nov. Oct.-Nov. Oct.-Nov. Oct.-Nov. 06: medium to many 04: medium 02: very few to few 03: few No. Characteristics 1 Plant: length 7 Petiole: attitude 9 Leaf: length 10 Leaf: width 11 Leaf: ratio length/width 13 33 35 39 41 52 Leaf: depth of lowest lateral sinus Flower head: diameter (disbudded plants) Flower head: hight (disbudded plants) Flower head: density of ray florets Flower head: predominant type of ray floret Ray floret: longitudinal axis 58 Ray floret: length 59 Ray floret: width Ray floret: main color of inner side Ray floret: pattern of 66 second color of inner side 63 90 Flower habits 92 No. of lateral buds z The number of characteristics in registration form. - 120 - 4 mm 1w 4w 8w 2 mm Leaf disk culture Irradiation 1w Cutting & Rooting Regeneration 5 cm Nursery production 5 cm 4w Growth plantlet Regererated plants 16w Cultivation F ig . 3 - 1- 1 . Schemat ic represent ati on of mut at i on i nduct i on of chrysant hemum usi ng i on beam breeding syst e m. - 121 - Number of adventitious buds / plate 400 A 300 C220 C320 200 100 0 0 2 4 6 8 Irradiation dose (Gy) 10 Number of a dventitious buds / pla te 400 B 300 He50 He100 200 100 0 0 2 4 6 8 Irradiation dose (Gy) 10 Number of adventitious buds / pla te 400 C 300 200 100 0 0 2 4 6 8 Irradiation dose (Gy) 10 F ig . 3 - 1- 2 . Effect s of irradi at i on dose of i on beam or soft X-ray on regenerat i on of leaf expl ant s. T h e r e g e n e r a t i o n w a s n u mb e r o f a d v e n t i t i o u s b u d s / p l a t e ( p l a t i n g e ff i c i e n c y) , as estimated from at least 80 explants (4 plates × 20 leaf segments/plate) f r o m s e g m e n t s o f c h r y s a n t h e m u m c v. ‘ J i m b a ’ . A ; 2 2 0 M e V o r 3 2 0 M e V C a r b o n i o n b e a m , B ; 5 0 M e V o r 1 0 0 M e V H e l i u m i o n b e a m, C ; s o f t X - r a y 3 . 6 G y / h . 3 2 0 M e V - C , 1 0 0 M e V - H e a n d s o f t X - r a y i r r a d i a t i o n s we r e t h r e e t i me s d i ffe r e n t i r r a d i a t i o n . - 122 - F ig . 3 - 1 - 3 . Mut at ion of fl ower char act ers by 100 MeV Hel i um i on bea m i r radi at i on on leaf expl ants of chrysant hemu m c v. ‘J i mba’. - 123 - F ig . 3 - 2- 1 . Di sbudding in the chrysant hemum cultivation. Number of disbudding Total dose (320 MeV‐ C) 3Gy 9~12 13~16 17~20 2Gy 21~24 25~28 1Gy 29~32 33~ 0Gy 0% 20% 40% 60% 80% 100% Percentage of variants F ig . 3 - 2- 2 . Effects of dose of irradi at i on on number of disbudding resul ti ng from regenerat ed pl ant s wi th l eaf expl ant s of chrysanthemu m cv. ‘ Ji mba’. These plants were grown under December flowering cropping system. - 124 - F ig . 3 - 2- 3 . Schemat i c drawi ng il l ust rat ion of axi l lary bud in chrysant hemu m cv. ‘Ji mba’ and/ or select ed mut ants. These plants were grown under December flowering cropping system. - 125 - 30 ~9W (early) 13W~ (late) Percentage of variants (%) 25 20 15 10 5 0 0 0.5 1.0 1.5 2.0 3.0 4.0 220 MeV・ C (Gy) F ig . 3- 2 - 4 . Effect s of dose of irradi at i on on fl oweri ng peri ods resul ti ng from regenerat ed pl ant s wi th l eaf expl ant s of chrysanthemu m cv. ‘ Ji mba’. T h e e a r l y t yp e f l o w e r e d wi t h i n n i n e w e e k s , a n d t h e l a t e t y p e n e e d e d i t u n t i l flowering more than 13 weeks after lighting stop. - 126 - 97%> 97-98% 98-100% 100% 80% 60% 40% 20% 0% cont 0 0.5 1.5 3 4 5 220MeV‐C ion beam irradiation dose (Gy) X5 early late F ig . 3 -2 - 5 . Effect s of dose of i r radi at ion on nucl ear DNA cont ent resul ti ng from regenerat ed pl ant s wi th l eaf expl ant s of chrysanthemu m cv. ‘ Ji mba’. Relative DNA content is expressed as the ratio of the nuclear DNA content of investigated plants divided by that of control plants maintained by vegetative p r o p a g a t i o n . T h e e a r l y t yp e f l o w e r e d w i t h i n n i n e w e e k s , a n d t h e l a t e t yp e n e e d e d i t u n t i l f l o w e r i n g mo r e t h a n 1 3 we e k s a f t e r l i g h t i n g s t o p . - 127 - F ig . 3 - 2- 6 . Leaf segment s of chrysant hemum c v. ‘J i mba’ duri ng ti ssue cult ure. A and B: after 3 days of leaf tissue culture, the visible light view (A) and UV l i g h t v i e w ( B ) . C a n d D : a f t e r 8 d a ys o f c u l t u r e , t h e s t a r t o f c e l l m u l t i p l i c a t i o n ( a r r o w s ) . E a n d F : e a r l y s t a g e o f a d v e n t i t i o u s b u d f o r ma t i o n ( a r r o ws ) a f t e r 1 5 d a y s o f l e a f t i s s u e c u l t u r e . B a r : 5 0 0 m (D and F). - 128 - m (A-C and E) or 200 Frequency distribution of M1 plants measured by DNA contents (%). 102 100 98 96 94 92 90 88 -2 -1 00 Imagine 1 1 22 33 44 5 6 70 Aladdine 81 9 2 10 3 11 320MeV-C ion beam irradiation dose (Gy) F ig . 3-3-1. Fr equency di st ributi on of M1 plants after C ion beam re-i rradiation measured by DNA contents resulting from regenerated with leaf expl ant s of chrysant hemu m c v. ‘ Ima gi ne’ and ‘Al addi n’. : DNA content of each investigated plant. : Av e r a g e o f D N A c o n t e n t s o f e a c h t r e a t m e n t . B a r i s s t a n d a r d . - 129 - Jimba #1 Jimba #2 Aladdin B02-1-1 F ig . 3 - 3- 2 . Indi vi dual sel ect i on of few axi l lary buds mut ant s, which were deri ved from l eaf of Al addi n or B02-1 -1, and t hese were M 1 pl ants aft er Carbon i on beam re-i rradiat ion. : Aladdin, : B 0 2 - 1 - 1 , b a r ; 1 0 c m. - 130 - Frequency distribution of M1 plants (%) Frequency distribution of mutant lines (%) Frequency distribution of M1 plants (%) 35 30 25 20 15 10 5 0 35 30 25 20 15 10 5 0 80 ‘Jimba’ 9-1-1: 11.9%, M1 plants: 19.4 ±13.7%, n=70 A ‘Aladdin’: 47.3%, Mutant lines: 44.8 ±15.7%, n=81 B B02-1-1: 80.4%, M1 plants: 84.8 ± 5.0%, n=58 60 C 40 20 0 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 Percentage of non-blanching node (%) F ig . 3- 3 - 3 . Frequency di st ri but i on of non-branchi ng node i n M 1 pl ants or sel ect ed l i nes, deri ved from t he l eaf of ‘Ji mba’ or non-branchi ng mut ants aft er carbon i on beam i rradi ati on. A : T h e s e 7 0 M 1 p l a n t s w e r e g r o w n u n d e r t h e D e c e mb e r f l o w e r i n g c r o p p i n g s y s t e m i n 2 0 0 1 , d e r i v e d f r o m t h e ‘ J i mb a ’ 9 - 1 - 1 l i n e . B : T h e s e 8 4 s e l e c t e d l i n e s w e r e g r o w n u n d e r D e c e mb e r f l o w e r i n g i n 2 0 0 4 , derived from ‘Aladdin’ after C ion beam re-irradiation in 2003. C : T h e s e 5 6 M 1 p l a n t s w e r e g r o w n u n d e r t h e D e c e mb e r f l o w e r i n g c r o p p i n g system in 2005, derived from the B02-1-1 line. ▼: T h e me a n p o i n t . The number shows the mean ± STD. - 131 - 9 Number of weeks to f lowering in December. Number of weeks to f lowering in March. 9 A 8 7 03/04 M1(Aladdin) 03/04 M1 (Jimba #2) 03/04 Aladdin 6 5 7 8 9 10 11 12 13 12/04 M1(Aladdin) B 12/04 M1(Jimba#2) 12/04 Aladdin 8 7 6 5 14 7 8 9 10 11 12 13 14 Number of weeks to flowering in April. Number of weeks to flowering in April. F ig . 3 - 3- 4 . Compa r i s on of we e ks t o fl owe ring i n i ndi vi dual / l i ne s el ec t ion. A : I n d i v i d u a l s e l e c t e d i n M a r c h . B : I n d i v i d u a l s e l e c t e d i n D e c e mb e r. Individual selected plants flowered within eight weeks, and vegetative p r o p a g a t e d p l a n t s w e r e s e l e c t e d b y n u m b e r o f we e k s t o f l o w e r i n g a f t e r lighting stop, under April cropping system. - 132 - A B C 1 2 3 4 5 F ig . 3- 3 - 5 . Line sel ect i on breeding of l eaf-deri ved M 1 pl ant s aft er carbon ion beam re-i rradi at i on, whi ch possess both non-branchi ng node and l ow temperature fl owering characterist ics. A: ‘Jimba’ #1, B: ‘Jimba’ #2, and C: ‘Aladdin’. 1 ~ 5: selected mutant line, 1 : B 0 3 - 1 - 3 , 2 : B 0 3 - 1 - 7 , 3 : B 0 3 - 1 - 2 1 , 4 : B 0 3 - 2 - 2 , 5 : B 0 3 - 2 - 5 . T h e s e p la n t s w e r e g r o w n u n d e r l o w t e mp e r a t u r e ( mi n i m u m 1 2 ℃ ) c o n t r o l a n d a n A p r i l f l o w e r i n g c r o p p i n g s y s t e m i n 2 0 0 6 , a n d t h e f l o w e r i n g a f t e r 8 1 d a ys u n d e r s h o r t -d a y c o n d i t i o n . - 133 - 第 4章 育 成 した新 品 種 の全 国 展 開 と将 来 展 望 ―鹿 児 島 県 育 成 品 種 ,輪 ギク‘新 神 ’を例 としてー 国 内 で 生 産 さ れ て い る 切 り 花 は キ ク 類 が そ の 1 / 3 を 占 め ,な か で も 白 輪 ギ ク の 生 産 が 最 も 多 い ( 永 吉 , 2 0 0 3 ). そ の 中 で 秋 輪 ギ ク ‘ 神 馬’は,純白で花形や草姿が良く生育特性が優れることから,それ ま で 30 年 来 主 力 品 種 で あ っ た ‘秀 芳 の 力 ’と 置 き 換 わ っ た 品 種 で , 2 0 0 0 年 以 降 全 国 一 の 品 種 に な っ た ( 永 吉 , 2 0 0 3 ). し か し , 伸 長 す る腋芽数が多く,摘芽作業に多大な労力を要するとともに,冬期の 栽培で低温に遭遇することにより,開花遅延を引き起こす(永吉, 2 0 0 3 ). そ こ で , 放 射 線 を 用 い た 変 異 誘 発 に よ り ‘ 神 馬 ’ の 特 性 改 良 を 進 め , 無 側 枝 性 の ‘ 新 神 ’( 農 林 水 産 省 品 種 登 録 第 1 4 1 1 8 号 , F i g . 4 - 1 - 1 ),‘ 今 神 ’( 農 林 水 産 省 品 種 登 録 第 1 4 1 1 9 号 ) を 育 成 し , 2 0 0 6 年 3 月 登 録 品 種 と な っ た .そ の 後 , ‘ 新 神 ’に 低 温 開 花 性 を 付 与 し た ‘ 新 神 2 ’( 農 林 水 産 省 品 種 登 録 第 1 9 0 9 6 号 ) を 育 成 し , 2 0 1 0 年 3 月に品種登録された. 一般に,突然変異育種や遺伝子組み換えによる品種育成は,利用 した品種の従属品種として取り扱われ,育成者権は元品種の育成者 にも認められている.そのため,これらの育種法による品種改良の 対象は,一般に自ら育成者権を持つ品種,もしくは育成者権が及ば な い 未 登 録 の 品 種 で あ る .一 方 , ‘ 神 馬 ’は 品 種 登 録 さ れ て い な い 品 種 で あ る こ と か ら ,特 性 改 良 に 際 し 育 成 者 権 に 抵 触 す る こ と は な く , 特性改良により育成した品種の育成者権を得ることが可能である. このことが, ‘ 神 馬 ’を 対 象 と し た 品 種 育 成 試 験 を 着 手 し た 理 由 の 一 つであった. この章では,鹿児島県を例として,花き類の品種育成と秋輪ギク ‘神馬’から育成した新品種について生産現場への普及と全国展開 を図る上で生じた問題やその対応について,具体的事例を紹介しな - 134 - がら論議した. 第 1節 鹿 児 島 県 における花 き品 種 育 成 と栽 培 普 及 鹿児島県の花き類における品種育成と普及は, 「 品 種 育 成( 交 配 ・ 変 異 誘 発 → 選 抜 → 品 種 候 補 → 現 地 試 験 → 花 き 品 種 選 定 会 )」→「 品 種 登録出願」→「フラワーセンターでの増殖・供給」→「県の許諾」 →「 普 及 ・ 生 産 」と い う 一 連 の 流 れ に よ り ,本 県 独 自 の『 品 種 育 成 ・ 種 苗 供 給 シ ス テ ム 』に よ り 実 施 さ れ て い る( F i g . 4 - 1 - 2 ).そ の た め , 県育成品種の県内生産については,このシステムに沿うことで品種 育 成 か ら 普 及 へ と 結 び つ き ,生 産 振 興 が 図 ら れ て い る .具 体 的 に は , 次 の 5 つ の 流 れ で 行 わ れ ,特 に 品 種 を 選 定 す る 段 階 で 生 産 者 や 販 売 者 が積極的に関わることにより,生産現場のニーズが反映されるシス テムになっていることが特徴となっている. 1 現 地 試 験:系 統 選 抜 の 段 階 か ら 産 地・農 協・市 場 が 参 加 し ,現 地 試験の供試系統を自ら選定する.そして,生産現場での栽培適性を 判断し,作りたいもの・売りたいものを生産現場で選ぶ. 2 花 き品 種 選 定 会 : 生 産 ・ 流 通 関 係 者 を 交 え , 許 諾 料 を 払 う 価 値 が 有り,作りたいもの・売りたいものを品種に選定する. 3 増 殖 ・供 給 : 県 の 組 織 で あ る フ ラ ワ ー セ ン タ ー が 県 育 成 品 種 の 実 証展示栽培を行うと共に,増殖し種苗供給を行う. 4 栽 培 許 諾 : 許 諾 は 品 種 の 育 成 者 で あ る 県 と 団 体 で 行 い ,生 産 者 は 所属する団体と栽培契約を行う.この許諾と契約により生産者が登 録品種の意識を持ち,品種保護の徹底が可能となる. 5 普 及 ・生 産 : 普 及 担 当 者 に よ る 供 給 品 種 の 栽 培 ・ 技 術 指 導 は も と より,生産・流通関係者が自ら選び,試作・選定した品種が供給さ れることからスムーズに普及する. このように,品種育成から生産・販売までが一体化したシステム - 135 - であり,花き類においてはスプレーギクを中心に,鹿児島県育成品 種 と し て 6 0 件 を 越 え る 品 種 が 登 録 ・ 申 請 さ れ て い る( 品 種 登 録 デ ー タ 検 索 : h t t p : / / w w w. h i n s y u . m a f f . g o . j p / ). こ れ ら の 品 種 の 育 成 元 で あ る 試験研究機関は,品種育成とともに新品種の栽培技術を提供し,フ ラワーセンターから安定した種苗供給が行われることによって,新 品 種 の 普 及 と 花 き 生 産 の 維 持 ・ 拡 大 が 図 ら れ て き た .そ の 結 果 , ‘新 神 ’ の 場 合 , 2001年 に 品 種 育 成 を 開 始 し , 3 年 後 の 2004年 に は 新 品 種 の 供 給 が 開 始 さ れ ,2 0 0 6 年 度 に は 県 内 輪 ギ ク 生 産 者 の 9 割 以 上 に 普及するという驚異的なスピードで育成から普及へ結びつけること ができた. 他 の 都 道 府 県 に つ い て も ,基 本 的 に は 同 様 の 育 種 シ ス テ ム を 持 ち , 単独育成品種を独自に利用することに問題は生じない.しかし,輪 ギク品種の場合,前述のようにその用途から使用される品種が限定 されており,主要産地である愛知県や福岡県で栽培する品種の動向 に 他 の 産 地 は 追 従 せ ざ る を 得 な い .つ ま り ,輪 ギ ク 品 種 に つ い て は , 県育成品種を県内生産に限定した場合,優れた品種であっても品種 の変遷とともに,過去の品種として葬り去られる危険性を含んでい る.そのため‘新神’の場合,県内産地(生産者)から県外へ栽培 許諾を行うよう要望が出され,品種を守るための手段として全国展 開に向けた準備を進めるに至った. - 136 - 第 2節 品種の保護対策と管理 鹿児島県における品種育成は,従来から県内生産を対象としてき た が ,全 国 を 対 象 と し た 許 諾 を 進 め る た め に は , 「 品 種 の 管 理 」と「 安 定した種苗供給」が重要度を増す.そこで,本節では育成者権の保 護と品種管理の観点から以下検討した. 1 種苗法と育成者権 登 録 品 種は 種 苗 法 に よ っ て 守 ら れ て お り ,営 利 栽 培 の ため に は 育 成者権(品種育成者の権利)を持つ者から許諾を得る必要がある. 切り花ではカーネーションやキクで不法栽培された輸入品が水際で 摘発され,くい止められた事例がある(農林水産省ホームページ: h t t p : / / w w w. m a f f . g o . j p / j / s t u d y / s i n _ h i n s y u / i n d e x . h t m l ) が , こ れ ら は 花 や葉の色・形といった可視的な形態特性で区別が可能であった. と こ ろ が‘ 新 神 ’の 場 合 ,同 じ 条 件 で 栽 培 す れ ば 元 品 種 の‘ 神 馬 ’ と区別は可能であるものの, ‘ 新 神 ’は‘ 神 馬 ’の 基 本 特 性 を 維 持 し た品種である.したがって,無側枝性が発現しにくい低温期に他産 地の栽培環境の異なる両品種が混在した場合,形態特性で‘新神’ を明確に識別することは非常に難しい. ‘ 神 馬 ’は 登 録 品 種 で な い た め,年間数千万本の中国産‘神馬’が輸入されており,その中の一 部に‘新神’が混ざっていたとしても,それを特定することは困難 を極めるものと考えられる.そのため,遺伝子レベルの品種識別法 の開発を急ぐ必要性が生じた. 2 遺伝子レベルの品種識別 こ れ ま で キ ク の 栽 培 品 種 で DNA 判 定 を 品 種 識 別 に 利 用 し た 例 は な か っ た . そ れ は , 2,000 以 上 の 品 種 が あ り , ゲ ノ ム サ イ ズ ( DNA 塩 基 対 の 数 ; イ ネ = 約 4.5 億 , 人 = 30 億 , キ ク = 94 億 塩 基 対 ) が 大 きく解析が難しいことに起因している.また,基本的にキクの品種 は形態特性で識別してきたため,それ以上の識別技術は必要としな - 137 - かった.花色が異なる品種であれば,切り花の形態特性から明確に 判 別 で き る が ,‘ 新 神 ’ の 場 合 , 無 側 枝 節 の 有 無 や 花 弁 数 ・ 葉 数 ・ 托 葉の大きさなどの違いはあるものの,これらの形質は栽培環境で変 化 す る た め , 形 態 的 な 識 別 は 困 難 で あ る . さ ら に DNA 量 が 減 少 し ていないことから, ‘ 神 馬 ’と 遺 伝 子 レ ベ ル で の 違 い も わ ず か と 考 え ら れ る . 仮 に ‘ 新 神 ’ の 変 異 が 遺 伝 子 レ ベ ル で 2,000 塩 基 対 の 変 異 に 由 来 し て い た と し て も , 94 億 分 の 2,000 塩 基 の 違 い に す ぎ ず , 99.99998% は 同 一 で あ る と い う こ と を 示 し て い る . し か し な が ら , ‘新神’の識別技術の確立のため,このわずかな違いから品種識別 のマーカーを開発する必要があった. 3 ‘新神’の品種識別技術 理化学研究所との共同研究により,植物のゲノム中に多数存在す る反復配列の 1 つである転移因子レトロトランスポゾンを利用する 方 法 を 用 い て ,‘ 新 神 ’ と ‘ 神 馬 ’ を 明 確 に 識 別 す る 技 術 が 2 0 0 5 年 に 完 成 し ,そ の 成 果 を 理 化 学 研 究 所 か ら「 キ ク 品 種 識 別 法 」 (阿部ら, 2007; 特 開 2007-24433 号 )と し て 特 許 出 願 し た .こ の 手 法 を 用 い る ことによって,切り花の葉や花弁 1 枚から数時間後には‘新神’も し く は‘ 神 馬 ’,ど ち ら の 品 種 で あ る か を 明 確 に 識 別 す る こ と が 可 能 と な っ た ( F i g . 4 - 2 - 1 ; 阿 部 ら , 2 0 0 7 ; 松 山 , 2 0 0 9 ). さ ら に ,‘ 新 神 ’ 由来の改良系統にも応用できることが判っているので, ‘ 新 神 ’の 枝 変わりを含めた改良を行った場合も判別が可能である. こ れ に よっ て ,国 内 外 で の 違 法 栽 培 や そ の 輸 入 品 を 阻 止す る こ と ができ,栽培許諾を受けた生産者が安心して生産できるようになっ た . 現 在 , 低 温 開 花 性 を 付 与 し た ‘ 新 神 2’ の 品 種 識 別 マ ー カ ー も 開 発 で き て い る ( 松 山 ・ 白 尾 , 2011; 特 開 2011-24466) . こ の よ う に,品種育成と併行して品種識別マーカーを開発することは,品種 保護の観点から極めて合理的な栽培許諾,品種管理法と言える. - 138 - 第 3節 種苗供給システムの構築と全国展開に向けた方策 品種の普及にあたって,優良種苗の安定した供給は生産の安定化 や品質保持から不可欠の課題である.鹿児島県内での生産に関して は,生産力や特性を確認した原原種を試験研究機関から県のフラワ ーセンターへ供給し,ここで増殖した優良種苗が県内産地へ供給さ れるが,これは県内生産向けに限定される.そのため,県外の生産 に向けては別の種苗供給体制が必要となるが,県外向けに別の種苗 供給組織を本県で作ることはできない. 一方,一部の大規模農家は海外(インドネシア等)の種苗生産会 社に種苗生産を委託し,切り花生産の苗を購入している例がある. そこで,鹿児島県はその種苗生産会社と品種の許諾契約を結び,鹿 児 島 県 か ら 原 原 種 の 供 給 を 行 い ,種 苗 生 産 会 社 で の 増 殖 を 委 託 し た . そして,許諾を受けた生産者は海外で増殖した優良種苗を購入する と い う 全 国 に 向 け た 種 苗 供 給 シ ス テ ム を 構 築 し た ( F i g . 4 - 1 - 2 ). こ れにより,県内外を問わず,許諾を受けた生産者に対して安定した 優良種苗の供給が確保でき,全国展開に向けた普及体制が整った. 1 全国展開の状況 2005年 度 か ら ‘ 新 神 ’ は 県 外 許 諾 や 海 外 増 殖 を 開 始 し , 2006年 度 に は 北 は 青 森 か ら 南 の 沖 縄 ま で 全 国 19県 30以 上 の 生 産 団 体 と 栽 培 の ‘新神’ 許 諾 契 約 を 交 わ し て お り ,2 0 1 1 年 現 在 の 栽 培 許 諾 生 産 者 数 は , が 1 6 9 件 ,‘ 新 神 2 ’ は 1 5 9 件 と な り そ の 数 は 2 0 0 6 年 か ら 2 0 0 9 年 に 急 激 に 増 加 し た( F i g . 4 - 3 - 1 ).こ れ は , ‘ 新 神 ’が 無 側 枝 性 に 加 え て , ‘神 馬’より花弁数や葉数の増加を伴っており,立葉で品質も良いこと から,鹿児島県内はもとより他県でも高い評価を得ているためと考 えられる. さらに,鹿児島県農業開発総合センター花き部では,これら新品 種の供給開始時に,品種の栽培技術を許諾生産者に向けて,情報誌 - 139 - 「新神通信」として配信した.このように,栽培許諾,種苗供給お よび技術提供を組み合わせた体制が全国への普及を支援するシステ ムとなっている. 2 将来展望 神馬系秋輪ギクの最終目標とした無側枝性と低温開花性を併せ持 つ‘ 新 神 2’で あ る が ,品 種 育 成 後 , 水 揚 げ( 日 持 ち 性 )の 不 安 定 性 や,無側枝性が強いことにより自家増殖が困難であることなどの問 題点が明らかとなったため残念ながら生産は減少しているのが現状 で あ る .こ の 問 題 を 解 決 す る た め , ‘ 新 神 ’へ の イ オ ン ビ ー ム 再 照 射 に よ る 低 温 開 花 性 の 改 良 を 再 開 し て お り ( 田 之 頭 , 2 0 1 2 ),‘ 神 馬 ’ に由来する低温開花性と無側枝性を兼ね備えた最終改良版として品 種育成の完了を間近に控えている. また,このような突然変異育種により育成した品種は従属品種と して取り扱われるため,他者が育成者権を持つ登録品種を対象とす ることは問題があるが,育成者権をもつ種苗会社と共同で品種育成 を行い,育成した新品種の育成者権を分け合うことも可能である. ‘フローラル優香’は静岡県の種苗会社「晃花園」が育成者権を持 つ, ‘ 岩 の 白 扇 ’と 並 ぶ 無 側 枝 性 夏 秋 輪 ギ ク の 主 力 品 種 で あ る .こ の 場合,鹿児島県が白色の‘フローラル優香’から黄色の‘フローラ ‘フローラル ル金優香’ ( 農 林 水 産 省 品 種 登 録 第 1 9 5 6 9 号 )を 育 成 し , 優香’の育成者権を持つ「晃花園」と許諾契約を結んだ.その内容 は,鹿児島県内の許諾は鹿児島県が管理し,県外は「晃花園」が管 理することで育成者権の分担を図るもので,このような両者にメリ ットを生み出す方法も県外許諾や全国展開を考える上では重要な方 策と言えよう. このように,主力品種の基本的な特性は維持した上で,育種目標 とする栽培特性の改変を行い,品種識別マーカーの開発を組み合わ せた品種管理を行って,安定した種苗供給体制により展開を図る. - 140 - こうした品種育成から普及まで含めた一連のシステムとして構築で きており,今後も県内外を視野とした輪ギクの品種育成や他品目へ の応用を進めていく予定である. - 141 - F ig . 4 - 1-1 . Fl ower i ng s t a ge of ‘ Al a ddi n’ ( Imaki i r e et . al ., 2006). - 142 - Application Kagoshima pref. • Breeding • (crossing, mutation, selection) • Propagation Registration (Governmental office) • (Flower C) Licensed management (Governmental office) Cultiva tion License Supply • JA • Production Group Supply • Market Contra ct • Farmer • Propagation (Indonesia ) License • Contra ct Farmer outside Fl ow of cul ti vat i on l icense and t he nurser y suppl y. - 143 - Supply Production group • in Kagoshima F ig . 4 - 1- 2 . Registration The Plant MAFF Plant Var. Protec. Variety Supply 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 F ig . 4 - 2- 1 . PCR anal ysis of chrysant hemum cultivars (Abe et al., 2007; Shi r ao et al ., 2007). L a n e 1 : 1 k b l a d d e r M a r k e r. 2 : ‘ J i m b a ’ # 1 , 3 : ‘ J i mb a ’ # 2 , 4 : ‘ K i r a n o - u m a ’ , 5 : ‘ K yo k u s h i n ’ , 6 - 7 : ‘ I m a g i n e ’ , 8 - 9 : ‘ A l a d d i n ’ , 1 0 : ‘ F l o r a l - Yu k a ’ , 11 : ‘ S e i u n ’ . - 144 - No. of license 50< 30-50 20-30 10-20 5-10 1-5 0 F ig . 4 - 3- 1 . The l i censed number of cul ti vati on of ‘Al addi n’ and ‘Al addi n 2’ i n J apan. - 145 - 総合考察 我が国は,亜寒帯から亜熱帯の気候のもとで多くの遺伝資源があ り,数多くの地域植物資源が日本の生活や文化に結びついている. 一方,海外の遺伝資源利用については厳しく規制や規定されている た め ,国 内 の 地 域 植 物 資 源 に つ い て は 重 要 度 が さ ら に 高 ま っ て い る . 本章では鹿児島県を例に地域特産物とその利用について論じる.鹿 児島県では,近年「黒」をテーマに特産品のイメージ作りを図って お り ,「 黒 豚 」「 黒 牛 」「 黒 薩 摩 鳥 」「 黒 糖 ( 黒 砂 糖 )」「 黒 酢 」「 黒 こ う じ 」「 黒 米 」「 黒 ご ま 」 な ど , 様 々 な 「 黒 」 が 存 在 す る . こ れ に 対 し て ,「 白 」 の 代 表 格 と し て は ,「 か る か ん 」「 桜 島 大 根 」「 伊 佐 米 」「 白 波 」「 し ろ く ま 」「 白 輪 菊 」 な ど が 挙 げ ら れ よ う . こ の よ う な 豊 富 な 特 産 品 は , 南 北 に 600 km, 東 西 に 270 km で 島 嶼 を 含 む , 変 化 に 富 んだ恵まれた環境が生み出したものと言っても過言ではない.これ らの豊富な遺伝資源や特産品が存在する鹿児島において,農業試験 研究の耕種部門では,水稲・エンドウ豆・ニガウリ・イチゴ・桜島 大 根・カ ン キ ツ・ビ ワ・ユ リ・キ ク・茶 等 で 育 種 試 験 を 行 っ て お り , サトウキビ・サツマイモ等では品種選定を中心に選抜が行われてい る. 1 9 8 0 年 代 に 入 っ て バ イ テ ク ブ ー ム が 始 ま り ,各 都 道 府 県 で は 農 業 関係の生物工学研究施設が整備された.鹿児島県では,平成 2 年 ( 1 9 9 0 年 )に 育 種 を 支 え る 試 験 研 究 機 関 と し て バ イ オ テ ク ノ ロ ジ ー 研究所が設立された.ここでは,地域特産農作物を対象として,組 織培養による培養系の開発を行い,品種育成への応用や遺伝子レベ ルの解析へ発展させてきた.なかでも,遺伝子組み換え技術につい ては,交配によらずに新しい特性が付与できる手法として注目し, 研究開発を行ってきた.しかし,我が国では遺伝子組み換え作物に 対する社会的な許容評価が極めて厳しいことから,国内の実用品種 - 146 - 育成に向けた遺伝子組み換え研究開発は停滞しているのが現状であ る.そこで,バイオテクノロジーを活用した品種改良手法として, 変異誘発技術に着目した.その中で従来放射線として利用されてき たガンマ線やX線等とは変異スペクトルが異なるとされるイオンビ ームを用いて,サツマイモ,サトウキビ,イチゴ,キクおよびソリ ダ ゴ に つ い て ,2000 年 か ら 変 異 誘 発 試 験 を 開 始 し た . な お ,そ れ ぞ れ対象とした特性は,本研究で示したキクの生育や開花習性の他, サ ツ マ イ モ が 澱 粉 特 性 ( U e n o ら , 2 0 0 2 ), サ ト ウ キ ビ は 葉 鞘 毛 群 の 除 去( Ta k e n o s h i t a ら , 2 0 1 0 ),イ チ ゴ は 収 穫 の 早 期 化( 竹 之 下 ら ,2 0 0 9 ), お よ び ソ リ ダ ゴ や キ ク の 花 色 改 変 ( 田 之 頭 , 2012) で あ っ た . このように,栄養繁殖作物を中心に豊富な地域植物資源の探索・ 活用,植物組織培養の改善・効率化と品種改良への応用,さらにイ オンビームによる突然変異を利用した育種技術と品種育成を検討し, 加えて育成品種の生産現場への普及・展開を行ってきた.そこで, 地域植物資源を利用したこれらの内容と発展方向について鹿児島県 における取組を例として論じた. 1 地 域 植 物 資 源 の探 索 と活 用 地域植物資源の探索・活用面では,鹿児島県下で発見されたヒガ ンバナ属新種について,組織細胞学的な染色体の核型分析や種間交 雑,および分布域と開花時期の調査を通して,雑種起源とする本種 の 成 立 解 明 を 行 っ た . 現 在 は , 栗 田 ( 1998) に よ り 核 型 分 析 を 中 心 に,ヒガンバナ属植物の分類や,人為交雑を含めた雑種の起源と交 配組合せが整理されている.また,鹿児島県南大隅町根占の南大隅 農園では,ここで取り上げた 2 種のヒガンバナを含めて,ヒガンバ ナ属植物の球根生産が行われ,開花時期には観光農園として開放さ れて町の観光スポットとして活用されている(南大隅町ホームペー ジ : h t t p : / / w w w. t o w n . m i n a m i o s u m i . l g . j p / m i n a m i 0 4 / m i n a m i 3 6 . a s p ). - 147 - また,ヒガンバナ属植物を例に試験を行ったが,ここで得た花粉 貯蔵法や胚培養および染色体観察等の手法は,その後,ニガウリの 偽 受 精 胚 培 養 に よ る 半 数 体 植 物 の 育 成 ( 長 谷 , 2012) に 展 開 す る 基 礎 と な っ た . さ ら に , フ ロ ー サ イ ト メ ー タ ー に よ り DNA 量 を 測 定 し変異体の選抜やイオンビーム照射による変異誘発の様相を解析し た が , こ の よ う な ゲ ノ ム サ イ ズ か ら DNA 量 を 測 定 し 異 数 性 の 判 定 が 可 能 と な る こ と は ,組 織 細 胞 学 に よ る 染 色 体 観 察 と 共 通 し て お り , 両手法の活用と視点が多数の変異体から優良変異の選抜を行う基礎 となった. 一方,鹿児島県において,地域植物資源を産業利用として成功し た事例に「安納いも」や「種子島紫」などの青果用サツマイモがあ る.これらは,種子島で自家用として栽培されてきた在来種の中か ら 選 抜 ・ 育 成 さ れ ( 上 妻 ら , 2 0 0 3 ), 鹿 児 島 県 育 成 品 種 と し て 4 品 種 ‘安 が 登 録 さ れ た も の で(‘ 安 納 紅 ’ :農 林 水 産 省 品 種 登 録 第 6 8 6 2 号 , 納 こ が ね ’: 農 林 水 産 省 品 種 登 録 第 6 8 6 3 号 ,‘ 種 子 島 ろ ま ん ’: 農 林 ‘種子島ゴールド’ :農 林 水 産 省 品 種 登 録 水 産 省 品 種 登 録 第 7085 号 , 第 7 0 8 6 号 ), 種 子 島 の 生 産 に 限 定 し て 栽 培 が 許 諾 さ れ て い る . 2 0 0 7 年 以 降 ,栽 培 面 積 や 生 産 量 は 急 増 し ,2 0 1 1 年 実 績 で 栽 培 面 積 は 5 0 0 h a を越え,地域の基幹品目となった.これらの種苗は系統選抜を行っ た ウ イ ル ス フ リ ー 苗 と し て 供 給 さ れ ( 普 及 に 移 す 研 究 成 果 , 2 0 0 9 ), 生産量や品質の安定化に寄与している. しかし,このウイルスフリー苗の維持・増殖の際に,これらの品 種は内生菌の残存が原因で増殖率の低下や保存系統の消失に至る問 題 が 発 生 し て い る ( デ ー タ 省 略 ). こ の よ う な 問 題 を 解 決 す る た め , 第 2 章で用いた植物体内に残存するバクテリアの検定法を応用して, バ ク テ リ ア 用 の LB 液 体 培 地 ( 和 光 ) に 組 織 片 を 投 入 し , 菌 の 増 殖 の有無によりバクテリアフリーの選抜を行い,種苗増殖・供給の安 定化を行っている. - 148 - このように,植物資源を地域振興に活用した例を示した.遺伝資 源の収集や保存は自治体や国レベルで行われているものの,その成 功事例は限られている.これは,地域特産物の市場規模が限定され る場合が多いことから生じると考えられるが,今後,育種による生 産力の向上や 6 次産業化の進展による市場規模の拡大により,地域 植物資源が活用され発展することを期待している. 2 種 苗 増 殖 における組 織 培 養 法 の改 良 とバイテク育 種 への応 用 第 2 章 で は ,多 糖 類 産 生 細 菌 の 接 種 に よ り ,多 種 の 植 物 種 で 水 浸 状 化の回避が可能であり,植物体内に安定して保持されることを示し た.また,菌の接種によりエリシター様の刺激からリグニン合成が 促進されることが示唆された. サツマイモでは前述のように茎頂培養時に内生菌の混入が問題と なる他,窒素固定に関わる内生菌の存在が明らかになっている ( A s i s ・ A d a c h i , 2 0 0 4 ). ま た , 農 林 水 産 省 の プ ロ ジ ェ ク ト 研 究 「 新 形質付与のためのエンドファイトの機能解明」では,イネ科植物を 中心にエンドファイト(植物体内で共生的に生活する菌類)の探索 やその共生にみられる寄主と宿主の関係,そして耐病虫性等の機能 解明が実施され,プロジェクト研究成果として報告されている(プ ロ ジ ェ ク ト 研 究 成 果 ,2 0 0 2 ).こ の 中 で ,エ ン ド フ ァ イ ト の 共 生 に よ る耐病性獲得機構として,エンドファイトの存在によりエリシター 機能を持つ物質が放出され,キチナーゼの発現を誘導していること が 示 唆 さ れ て い る ( プ ロ ジ ェ ク ト 研 究 成 果 , 2 0 0 2 ). ま た , こ れ ら の 多くは糸状菌類であり,宿主特異性を示して宿主域が種や菌株ごと に限定されるが,細菌性エンドファイトの場合,宿主域が広く,窒 素固定能やキチナーゼ生産能を示すものがあることが報告されてい る ( プ ロ ジ ェ ク ト 研 究 成 果 , 2 0 0 2 ). これらのことから,細菌性内生菌を窒素固定能やキチナーゼ生産 能,もしくはその他の機能を指標に探索することにより,細菌性エ - 149 - ンドファイトを分離し,生育や収量,耐病性等の実用形質向上に寄 与する有用エンドファイトの選抜が可能と考えられる.さらに,茎 頂培養時に混入する内生菌類は,外生の雑菌類が排除されているの で,内生菌の分離が容易であり,無菌植物を利用して分離菌の再接 種後の機能解析を行う実験系を確立することにより,実用的な細菌 性エンドファイトの開発が期待できる.また,このような細菌性エ ンドファイトの開発により,無菌のウイルスフリー苗に接種・定着 させ,種苗生産の安定化や付加価値向上が期待できる.また,栄養 繁殖性作物は容易に増殖可能であることから,品種の管理が難しい が,このようなエンドファイトを種苗生産マーカーとして利用する ことにより,種苗法による品種保護と併せて,種苗や品種の保護や 管理がより広範に適用できるものと考えられ,植物組織培養関連産 業のみならず品種開発を行う種苗生産産業への貢献が期待できる. 一 方 ,第 2 章 で は ,微 生 物 と の 共 生 関 係 を 利 用 し て 遺 伝 子 を 導 入 し , 木本植物であるシャクナゲの遺伝子組み換え技術を確立した.遺伝 子組み換え技術は,基本的な表現形質や品種特性を維持したまま新 た な 特 性 を 付 加 で き る ,交 配 を 必 要 と し な い 品 種 改 良 の 手 法 と し て , 極めて有用な育種手段といえる.しかし,前述のように我が国にお いては遺伝子組み換え作物に対する社会的な許容評価が極めて厳し いことから,国内の実用品種育成に向けた研究開発は必ずしも活発 とはいえないのが現状である.一方,遺伝子組み換え技術は,遺伝 子解析技術と共に,遺伝子の発現や機能解析に欠くことのできない 基本手法であり,育種における遺伝子レベルの選抜や識別マーカー 開発に深化している.また,前述のエンドファイトについても,新 たな形質付与技術として期待される.ただし,実用化にあたっては 遺伝子レベルの解析が不可欠であり,これらの技術の深化と融合に より細菌性エンドファイトが早期に実用化に至り,生産現場で活用 されることが望まれる. - 150 - 3 突 然 変 異 育 種 を用 いた地 域 特 産 作 物 の品 種 育 成 への応 用 本研究で行ったイオンビーム照射にあたっては, ( 財 )放 射 線 利 用 振興協会の支援と文部科学省の「放射線利用技術移転事業」による 技術セミナーや専門家派遣・技術研修を活用して研究を開始した. このイオンビーム照射による変異誘発技術の開発や応用として,第 3 章では輪ギク品種‘神馬’を対象に葉片からの不定芽経由の再生 系を利用した「変異誘発システム」を構築した.これにより,イオ ンビーム照射による変異誘発を行い,実用形質として無側枝性と低 温開花性に着目した選抜により,無側枝性品種‘新神’と‘今神’ を育成した.さらに,イオンビームの再照射により,高温で発現す る無側枝性と低温遭遇による開花遅延を回避するという,相反する 温 度 帯 で 生 じ る 二 つ の 形 質 を 併 せ 持 つ ‘ 新 神 2’ を 育 成 し た . ここで着目した輪ギクにおける無側枝性とは,高温遭遇により腋 芽の葉原基分化が停止し,腋芽や分化した葉腋の分枝性が失われる 特 性 で あ る . 夏 秋 輪 ギ ク ‘ 岩 の 白 扇 ’ の 場 合 , 昼 温 を 30℃ , 夜 温 を 20℃ で 管 理 す る こ と に よ り 無 側 枝 性 が 発 現 す る ( Okamoto・ Suto, 2 0 0 3 ).栽 培 が 夏 季 の 高 温 期 で ,育 苗 ・ 増 殖 が 低 温 期 に あ た る 夏 秋 輪 ギクでは,このような無側枝性を切り花生産に活用し,栽培管理の 省 力 化 が 実 現 さ れ て い る ( 松 本 , 2 0 0 0 ). と こ ろ が , 栽 培 が 低 温 期 , 増殖が高温期にあたる秋輪ギクでは,同じ温度域で無側枝性が発現 した場合,腋芽が消失し分枝しないため,母株の育成や増殖が困難 となる. 一 方 ,‘ 新 神 ’ の 無 側 枝 性 発 現 程 度 は , 1 2 月 開 花 の 作 型 で 5 0 % 程 度 で あ る が , Okamoto・ Suto( 2003) の 報 告 を 参 考 に , 昼 夜 温 の 変 温 管 理 で 無 側 枝 性 発 現 の 温 度 帯 を 調 査 し た と こ ろ ,昼 温 3 0 ℃ ,夜 温 2 5 ℃ で 無 側 枝 節 の 発 生 が 認 め ら れ た( デ ー タ 省 略 ).ま た ,2 0 0 6 年 6 月 下 旬 か ら 8月 中 旬 の 夏 期 育 苗 中 の 無 側 枝 率 を 調 査 し た と こ ろ , 期 間 中 の 気 温 が 最 高 35.5 ℃ ,平 均 28.9℃ ,最 低 24.8℃ の 中 で ,無 側 枝 率 は 神 - 151 - 馬 系 の 品 種 , 系 統 ご と に ,’ 神 馬 ’ 1 号 : 6 % , ‘ 神 馬 ’ 2 号 : 6 1 % , ‘ 新 神 ’ : 67%, B02-1-1系 統 : 96% と な り , 系 統 間 で 無 側 枝 程 度 に 差 が 認 め ら れ た .さ ら に ,こ の 無 側 枝 率 は 増 殖 率 と 相 反 す る 関 係 に あ る . な お , こ こ で 示 さ れ た よ う に , 低 温 開 花 性 に 優 れ る ‘ 神 馬 ’ 2号 は , 育 苗 期 間 中 に ‘ 新 神 ’ と 同 程 度 の 無 側 枝 率 を 示 す も の の , 12月 開 花 作 型 に お け る 無 側 枝 率 は 20%程 度 で , 実 用 レ ベ ル の 無 側 枝 性 と は 言 えない.このように,秋輪ギクにおける実用的な無側枝レベルは, 切り花生産中の無側枝率と,育苗中の増殖率の相反する両形質を考 慮した選抜が必要と言える。 夏期の高温期間中に夏秋輪ギク‘サマーイエロー’は,無側枝節 が存在せず無側枝性を持たない品種である.この品種について,予 備 的 に イ オ ン ビ ー ム に よ る 変 異 誘 発 を 試 み た 結 果 ,再 生 し た 約 2 , 0 0 0 個体の変異誘発当代に無側枝性を発現する個体は存在しなかった ( デ ー タ 省 略 ). こ の こ と は ,‘ 神 馬 ’ か ら 選 抜 し た 無 側 枝 性 変 異 体 は,無側枝性が発現する温度帯や感度が変化したものであり,イオ ンビーム照射による変異誘発で,無側枝性を持たない品種に無側枝 性は付与できないことが確認できた.現在は,前述のように無側枝 率と増殖率を対比した選抜を行っているが,今後は,無側枝性発現 や回復に至る温度帯と感度の簡易検定法の開発が必要と考えられる. 次に,イオンビームの再照射による再改良を検討したところ,無 側 枝 性 と 低 温 開 花 性 を 併 せ 持 つ 品 種 の 育 成 を 通 し て , 高 LETの イ オ ンビームの低線量照射による変異誘発の特性を実証した.ここで示 し た よ う に , 再 照 射 を 行 う た め に は , DNA量 が 減 少 し て い な い 変 異 体を用いる必要があり,生育低下を伴う遺伝子の大きな構造変化で はなく,点突然変異により品種特性を維持した新たな特性付与が可 能 に な る こ と が 示 さ れ た .さ ら に , ‘ 新 神 ’の 場 合 ,通 常 の 栽 培 で‘ 神 馬’と同じ到花日数で開花させると,展開葉数や花弁数が‘神馬’ よ り 多 く な り ( 今 給 黎 ら , 2 0 0 5 ), 生 育 量 ( 切 り 花 重 ) が 増 加 す る . - 152 - これは,変異誘発当代の個体選抜時に,生育旺盛な変異個体を選抜 した結果によるものと考えられた.イオンビーム照射では欠失等の 失う方向の変異だけではなく,トランスポゾンが活性化し,新たな 変 異 を 生 み 出 し て い る 可 能 性 が 示 唆 さ れ た .実 際 , ‘ 新 神 ’の 品 種 識 別 マ ー カ ー が レ ト ロ ト ラ ン ス ポ ゾ ン を 基 に 開 発 で き た こ と( 阿 部 ら , 2007) も , こ の 仮 定 を 支 持 し て い る . 以上のように,本研究において輪ギクのイオンビームを用いた変 異誘発技術を確立した.さらに,実用品種の育成を通して,イオン ビ ー ム 育 種 の 優 位 性 を 実 証 す る こ と が で き た .現 在 , ‘ 新 神 ’の 再 改 良 を 再 開 し て い る ( 田 之 頭 ら , 2 0 1 2 ). ま た , こ れ ら を 応 用 し て , イ チゴやサトウキビ等高次倍数性の栄養繁殖作物について,変異誘発 による特性改良を進めている. 4 育 成 した新 品 種 の全 国 展 開 と将 来 展 望 品種の育成や普及を行う上で,品種の保護と管理および安定した 種苗供給システムの構築が不可欠である.品種の保護・管理は種苗 法による育成者権,および品種識別マーカー開発における特許権等 の知的財産権に基づいており,品種の栽培と種苗供給・管理が許諾 契約により可能となる. 鹿児島県を例とすると,イオンビーム照射により育成した品種に ついては,鹿児島県と(独)原子力研究開発機構の共同出願により その育成者権を分担している.また,育成者権を持たない品種を利 用する場合についても,前述のように共同研究等を通して新品種の 育成者権を協議し双方の合意に至った.このように,知的財産権に 関わる権利の分配に協議は不可欠であるが,利用・活用を前提とし た上での協議でなければ具体性に乏しく,双方の合意に導くことは 難しい.県育成品種の普及にあたって,県外許諾を行う際の最も大 きな問題は,品種識別マーカーの開発であった.識別マーカーは理 化学研究所との共同研究により開発でき,品種の管理が可能となっ - 153 - たが,識別マーカーの周知性や信頼性を確保するため特許申請を行 う必要性が理化学研究所から提示された.これに対して,特許の共 同出願に係る経費の予算措置が難しかったことから,理化学研究所 単 独 で 特 許 を 出 願 し ( 阿 部 ら , 2 0 0 7 ),‘ 新 神 ’ の 許 諾 実 績 か ら 相 当 分を特許の利用料として負担することで両者の協議が成立した.そ の 後 , 2008年 度 か ら 農 林 水 産 省 「 DNAマ ー キ ン グ に よ る 栄 養 繁 殖 作 物 の 品 種・産 地 判 別 技 術 の 開 発 」 ( 課 題 番 号 1 9 7 0 )に 共 同 参 画 し , ‘新 神 2 ’の 品 種 識 別 マ ー カ ー の 開 発 に 至 っ て い る( 松 山・白 尾 ,2 0 1 1 ; 松 山 ら , 2012; Shiraoら , 2012) . このように,育成品種の知的財産権確保の観点から品種識別マー カ ー の 開 発 と 利 用 を 図 っ た .現 在 ,品 種 育 成 の 効 率 化 を 目 的 と し て , 遺伝子レベルの選抜マーカー開発が各分野で進展している.選抜マ ーカーの利用は育種の効率化に留まらず,育成品種の識別マーカー に 直 結 す る .今 後 は「 知 財 保 護 」と い う 護 り の 観 点 の み な ら ず , 「攻 めの農業」を展開する攻守合わせたツールとして,さらに発展する ことを期待している. 5 まとめ 本研究では鹿児島県の地域植物資源を例として,これらの評価, 培養法の改良および育種への応用を検討し,イオンビーム照射によ るバイオテクノロジーを活用した実用品種の育成と生産現場への普 及についても議論した.実用品種の育成に至った理由の一つは,変 異誘発当代における高精度の選抜にある.また,栄養繁殖作物の場 合,長年の増殖・栽培の過程で植物体中の体細胞変異を蓄積してお り,同一品種を用いる場合であっても,材料は優良個体を生み出す ことが可能な選抜系統を用いる必要がある.これは,全国で栽培さ れ て い る サ ツ マ イ モ の ‘ 高 系 14号 ’ に は 地 域 に 適 応 し た 様 々 な 派 生 系統が存在すること,および本研究で用いた輪ギク‘神馬’の場合 も,系統により変異誘発当代の選抜率が異なることから明らかであ - 154 - る .つ ま り ,第 1 章 で 論 じ た 地 域 植 物 資 源 の 探 索 と し て 生 産 現 場 か ら 優良個体を収集し,優良系統として選抜することから始めて,第2 章 お よ び 第 3章 で 論 じ た キ メ ラ の 回 避 や 分 離 を 念 頭 に 試 験 を 進 め る 必 要 性 が 示 さ れ て い る .具 体 的 に は ,次 の 4 つ の 点 に 留 意 す る 必 要 が あろう. 1.選抜した優良系統を用いて,キメラ性を回避し変異誘発当代で の選抜を可能にする変異誘発システムを活用する. 2.変異誘発当代の選抜を一般栽培と同様の規模,管理により実施 し ,精 度 の 高 い 一 次 選 抜 か ら 生 育 量 の 劣 ら な い 変 異 体 を 選 抜 す る . 3 .DNA 量 を 指 標 に し た 選 抜 に よ り ,基 本 的 な 品 種 特 性 を 維 持 し た 変異体の選抜が可能となる. 4.一般栽培に準じた管理により系統選抜を行うことで,種苗生産 を含めた実用栽培に則した選抜が可能となる. 上記の視点を踏まえてイオンビーム照射による変異誘発を行うこ とにより,さらに多く品目で実用品種が育成できるものと考えてい る .実 際 , ‘ 新 神 ’育 成 以 降 ,全 国 で 様 々 な 品 目 を 対 象 と し て イ オ ン ビ ー ム 照 射 が 行 わ れ て い る( Tanaka ら ,2010) .し か し ,変 異 ス ペ クトルが広く,変異率が高いイオンビーム照射であっても,交配に よる品種育成時の交配組合せと同様に,変異誘発に用いる材料や系 統の選定を行い,交配育種と同程度の育種・選抜の規模で,生育量 の劣らない変異体を選抜することが必要であり,それなしには実用 品種の育成には至らないと考えられる.このような視点は,現在の イオンビーム照射による変異誘発試験に活用されており,今後さら に多くの実用品種育成につながり, 「 イ オ ン ビ ー ム 育 種 」と し て 発 展 することを期待している.また,このような品種育成に向けた一連 の 技 術 は ,鹿 児 島 県 の 植 物 バ イ テ ク 研 究 に お け る 基 礎 と な っ て お り , 県育成品種の開発を行っている部門との連携により品種育成に向け た技術の展開を行っている. - 155 - バイオテクノロジーを含め,分析や解析技術は進歩・深化してい る.生産現場のニーズと研究シーズの融合を図ることにより,各地 域の植物資源が大量増殖や品種育成等,生産現場で活用される実用 品目としてさらに発展することを期待したい. - 156 - 摘 要 鹿 児 島 県 は 九 州 の 南 端 に 位 置 し , 南 北 約 600 km に 及 ぶ こ と か ら 様々な生物資源の宝庫である.本研究では,鹿児島県を例として, 地域特産作物を育種的に活用するため,地域植物資源の探索を行い, 微生物を利用した組織培養の改善・効率化と形質転換技術の開発な らびにイオンビームによる突然変異を利用した品種改良技術の開 発を行った.さらに,これらの技術を活用した実用品種の育成を行 い,育成品種の生産現場への普及を行うために,品種の保護技術と 種苗供給体制について検討した. 第 1 章では,鹿児島県下で発見された 2 種類のヒガンバナ属植物 について,形態的な諸特性や染色体の核型分析からショウキズイセ ( Lycoris traubii) と キ ツ ネ ノ カ ミ ソ リ ( L. sanguinea) の 交 雑 種 と 推 定 し ,そ の 両 親 種 と 考 え ら れ る 2 種 の 種 間 交 雑 ,雑 種 実 生 の 形 態 , 染色体分析,両親種の分布および開花期の調査を行った.これらの 結果から,鹿児島県下で発見された 2 種類のヒガンバナ属植物は, ショウキズイセンと秋咲きキツネノカミソリの自然交雑により鹿 児島県下で発生したことを証明した. 第 2 章では,植物の組織培養中に問題となる水浸状化について, 多 糖 類 産 生 の 非 病 原 性 細 菌 に 着 目 し , 水 浸 状 化 回 避 に 有 効 な Pseudomonas sp. strain F お よ び AT C C 保 有 の 菌 株 の 中 か ら Pseudomonas 属 お よ び Beijerinckia 属 の 2 属 4 種 の 細 菌 に つ い て , 細菌接種法による水浸状化回避の効果を解析した.これにより,オ レ ガ ノ か ら 単 離 し た P. s p . s t r a i n F と 同 様 に ,他 の 多 糖 類 産 生 非 病 原 性細菌において植物の水浸状化を回避する効果が認められ,多糖類 産生能により菌種の選定が可能であることを示した.また,接種し た非病原性細菌は植物体内において定着性と安定性を示した.さら に , 細 菌 接 種 法 の 適 用 範 囲 の 拡 大 を 目 的 に , P. s p . s t r a i n F を 木 本 性 - 157 - 栄養繁殖作物であるラズベリーに接種し,水浸状化回避効果を確認 した.ラズベリーの栄養繁殖 4 系統に一度接種した細菌は,長期間 の継代培養によっても安定して保持され,植物の順化率向上効果が 認められた.これにより,細菌接種法が植物の科を越えた範囲で適 用可能であり,この方法の実用化への可能性が示唆された. Agrobacterium tumefaciens 接 種 法 に よ り シ ャ ク ナ ゲ の 遺 伝 子 組 み 換 え 植 物 を 作 出 し た . A. tumefaciens は 病 原 性 を 取 り 除 い た バ イ ナ リ ー ベ ク タ ー に よ る NPTII と GUS 遺 伝 子 の 両 方 を 併 せ 持 つ 系 統 で , シ ャ ク ナ ゲ の 培 養 植 物 の 茎 葉 部 と の 共 存 培 養 を 行 っ た .接 種 の 3 ~ 4 か月後,カナマイシン選抜培地上で不定芽が形成され,植物体が再 生 し た .NPTII と GUS 遺 伝 子 の 導 入 は ,PCR 法 と サ ザ ン ハ イ ブ リ ダ イ ゼ ー シ ョ ン 法 に よ っ て 確 認 さ れ た .組 織 化 学 的 な G U S 活 性 解 析 か ら , 導 入 遺 伝 子 は CaMV 35S プ ロ モ ー タ ー に よ り , 全 て の 組 織 で 恒 常 的 に 発 現 す る こ と が 示 さ れ た . 形 質 転 換 体 の 獲 得 率 は 5%と 低 か ったが,キメラを含まず,導入遺伝子の存在,発現活性および発現 部位の確認から,安定した形質転換系であった.ツツジ属における 遺伝子組み換え技術の確立により,花色や形態的な特性改変の他, 耐干性や耐暑性等環境ストレスに対する適応性の改変に活用可能と 考えられた. 第 3 章では,交配を介さない形質付与の手法として,輪ギク‘神 馬’を対象にイオンビーム照射による変異誘発技術について検討し た.まず,キメラの発生がなく変異誘発当代から変異体の選抜と品 種育成が可能な変異誘発システムを構築した.さらに,低温開花性 と無側枝性に着目し,この変異誘発システムを用いたイオンビーム 照 射 に よ り ,‘ 神 馬 ’ か ら 無 側 枝 性 の ‘ 新 神 ’ と ‘ 今 神 ’ を 育 成 し た.この 2 品種は無側枝性を獲得したものの,低温遭遇により開花 が遅延し,無側枝性と低温開花性の 2 つの特性を併せ持つ変異体は 選 抜 で き な か っ た . そ こ で ,‘ 新 神 ’ に イ オ ン ビ ー ム の 再 照 射 を 行 - 158 - い,低温開花性の選抜を行うことにより,無側枝性と低温開花性の 特性を併せ持つ変異体の選抜が可能となり, ‘ 新 神 2’の 育 成 に 至 っ た .変 異 体 の 選 抜 を 行 う 際 ,そ の 特 性 選 抜 の 他 ,DNA 量 の 測 定 は 重 要 で あ り , 特 に 再 照 射 に よ る 段 階 的 な 特 性 改 良 を 行 う 場 合 は , DNA 量の減少していない変異体を選抜する必要性が示された. 第 4 章では,育成品種における品種識別マーカーの開発と種苗供 給システムを構築した.これによって,品種の保護と管理および種 苗の増殖と安定供給を実現し,生産現場への普及と切り花生産の安 定化,さらに鹿児島県育成品種の全国への展開が可能となった. このように,地域植物資源を対象としたバイオテクノロジーに関 わる様々な技術は,探索・活用に始まり,種苗増殖および品種育成 を通して地域産業の振興に結びついてきた.また,植物組織培養に 微生物を活用する細菌接種法は,エンドファイト様の機能を解析す る こ と に よ り ,総 合 的 病 害 虫 管 理( I P M:I n t e g r a t e d P e s t M a n a g e m e n t ) 等,実用技術への発展が期待される.さらに,イオンビーム照射に よる変異誘発技術によって実用品種を育成し,全国での栽培に発展 することができた.この成果は,全国の「イオンビーム育種」の指 標となっている.これらの技術が,各地域の様々な植物資源におけ る新たな品種育成,増殖・種苗供給および知的財産権を含む保護等 育種学的な活用として今後の研究発展に役立つことが期待された. - 159 - Summary Ka g o s h i ma P r e f e c tu r e is s i tu a te d in th e s o u th w e s te r n r e g io n o f th e J a p a ne s e ma in la n d . I t i s a w id e e x p a n s e o f la nd s tr e tc h in g a p p r o x ima te l y 6 0 0 k m f r o m n o r th to s o u th . T h e r e a r e a la rg e n u mb e r o f p la n t r e s o u r c e s , b e c a u s e th e c li ma te r a n g e s f r o m t e mp e r a te t o s u b -t r o p i c a l a c r o s s ma n y i s l a n d s i n t h i s p r e f e c tu r a l re g io n . In t h is s tu d y, a s e le c ti ve b r e e d in g te c h n o lo g y f o r ve g e ta ti v e p r o p a g a tio n o f b e n e f ic ia l p la n ts is d is c u s s e d a n d th is a d va n c e s te c h n o lo g ie s f o r search and utilization of local plant resources. Fr o m this foundation imp r o ve me n t p la n t r e s o u r c e s th r o u g h b r e e d in g c o mb in e d w ith tis s u e c u ltu r e c a n b e d e ve lo p e d . Fu r th e r th is r e s e a r c h h a s in te g r a te d u s e o f mic r o b ia l in te r a c tio n a n d mu t a t i o n i n d u c t i o n o f i o n b e a m i r r a d i a t i o n a s a d d i t i o n al t o o l s f o r p l a n t r e s o u r c e d e ve lo p me n t. T h is h a s p r o vid e d a d d itio n a l f o u n d a tio n f o r b r e e d in g o f n e w c u ltiva rs a n d c u lti va tio n in J a p a n . Chapter 1 T h e au th o r s h a d d is c o ve r e d in Ka g o s h ima P r e f e c tu r e , J ap a n , tw o n e w t yp e s o f Ly c o r i s wh ic h h a ve s tr a w -c o lo r e d (L . s p . A ) o r ve r m ilio n ( L . s p . B ) f l o w e r s . T h e ir mo r p h o lo g ic a l c h a r a c te r s , c h a r a c te r is ti c k a r yo t yp e s , a n d o th e r c h a r a c te r s s u g g e s te d th a t th e s e Ly c o r i s s p e c ie s mig h t b e h yb r id b e tw e e n L . t r a u b i i a n d L . s a n g u i n e a . In t h i s s t u d y, i n t e r- s p e c if i c h yb r i d i z a t i o n b e t w e e n t h e s e tw o s p e c i e s w a s c o n d u c te d a n d 32 o ff s p r in g w e r e a n a l yz e d to c o n f ir m th e h yp o t h e s is . T h e mo r p h o lo g ica l c h a r a c t e r s o f th e s e s e e d lin g s w e r e in te r me d ia te b e tw e e n b o th s p e c i e s a n d t h e s e v e r a l l e a f c h a r a c t e r i s t i c s r e s e mb l e L . s p . A a n d B . Th e c h r o mo s o me n u mb e r s o f s o ma t i c c e l l i n t h e s e h yb r i d s w e r e e i t h e r 1 7 o r 1 8 , a n d th e ir k a r yo t yp e s o f c h r o mo s o me c o n f ig u r a tio n a ls o c o in c id e d w ith e ith e r L . s p . A a n d B . A n e x te n s ive s u r ve y o n th e d is t r ib u ti o n o f Ly c o r i s s p e c ie s re ve a le d th e p r e s e n c e o f an a u tu mn a l f lo w e r in g L . s a n g u i n e a in c e n tr a l a n d s o u th e r n K yu s h u , a n d e s p e c ia ll y in N a r i k a w a a r e a in th e to w n o f Ya ma g a w a w h e r e L . sp . A a n d B - 160 - w e r e f o u n d in a b u n d a nc e . L . t r a u b i i a n d L . s an g u i n e a w e r e g r o w in g s id e b y s id e a n d f lo w e r ed s i mu lta n e o u s l y f r o m m id - to la te S e p te mb e r. B a s ed o n th e ir d is tr ib u t io n , mo r p h o l o g ic a l c h a r a c te r is tic s , a n d k a r yo t yp ic s i mi lar it ie s , w e c o n c lu d e th at L . s p . A an d B a r e in te r- s p e c if ic h yb r id s b e tw e e n L . t r a u b i i a n d th e a u t u mn a l f l o w e r i n g f o r m o f L . s a n g u i n e a , an d th a t th e ir o r ig in wo u ld b e th e s o u th e r n p a rt o f K yu s h u . Chapter 2 H yp e r h yd r ic i t y is a p h ys io lo g ic a l ma lf o r ma t io n a ff e c t in g c lo n a ll y p r o p a g a t e d p l a n t s g e n er a t e d u n d e r t i s s u e c u l t u r e c o n d i t i o n s . T h i s m a l f o r ma t i o n is a s s o c ia te d w ith e x c e s s ive h yd r a tio n a n d p oo r lig n if ic a tio n a n d r e s u lts in p o o r r e g e n e r a tio n o f p la n ts . We ha ve te s te d h yp e r h yd r ic i t y p r e ve n tio n in o r e g a n o b y s e ve r a l n o n s p e c if ic p o l ys a c c h a r id e -p r o d u c in g r h iz o s p h e r e b a c te r ia , P s e u d om o n a s sp p . a n d B e i j e r i n c k i a s p . , p r e ve n te d h yp e r h yd r ic i t y a n d imp r o ve d a c c l i ma t i o n of oregano c lo n e s . It is c le a r that an initial p o l ys a c c h a r id e -p r o d u c in g b a c te r ia l tr e a t me n t c a n s u s ta in th e u n h yp e r h yd r a te d c o n d itio n o ve r mu l tip le s u b c u ltu r e s . These r e s u lts s u g g es te d th a t b a c te r ia - me d ia te d h yp e r h yd r ic i t y p r e ve n tio n ma y b e lin k e d to su r vi va l o f b a c te r ia in th e s te m ti s s u e s , w h ic h ma y b e c a r r ie d th r o u g h th e n e x t s u b c u ltu r e . B a s e d on th is s tu d y w e h a ve te s te d h yp e r h yd r i c it y p r e ve n tio n in f o u r co m me r c ia l c lo n a l lin e s o f r a s p b e r r y ( C D H -9 2 ; G E L-2 0 ; H e r ita g e ; J CR - FL) b y b a c te r ia ( P s e u d om o n a s s p. s tr a in F) . A c c li ma t iz a tio n w a s e n h a n c e d in CD H -9 2 , G E L-2 0 a n d to so me e x te n t wit h J CR - FL. S u c h b a c te r ia -tre a te d c lo n e s a d a p ted e a s il y to o u t s i d e e n viro n me n t o r g r e e n h o u s e c o nd i t i o n s w i t h o u t e x t e n s i ve a c c l ima t i z a t i o n . T h e s e r e s u l ts c o n f i r m t h e r o l e o f p la n t o r r h i z o s p h e r e a s s o c ia te d b a c te r i a , i n imp a r tin g e n h a n c e d vi g o r a n d s tr e s s to le r a n c e in p la n ts . S u c h k n o wled g e s h o u ld b e u s e d f o r ra p id ly a c c li ma tin g t is s u e c u ltu r e -g e n e r a te d p la n t c lo n e s to o u ts id e e n vir o n me n t o r g r e e n h o u s e c o nd i t i o n s . T h i s h a s p o s i t i ve i mp l i c a t i o n s f o r c o m me r c ia l a p p lic a t io n s . S u b s e q u e n tly s u b c u ltu r e s c a n b e ma in ta i n e d w ith o u t - 161 - r e - in o c u la tio n . A d d itio n al u s e f o r mic r o b ia l in te r a c tio n is th e d e ve lo p me n t o f tr a n s g e n ic R h o d o de n d ro n p la n t s u s i n g s o i l b a c te r i u m A g ro b a c t e r iu m tum e fa c i en s- me d i a t e d g e n e tr a n s f e r. A . t u m e f a c i e n s s tr a in h a r b o r in g a b in a r y ve c to r th a t c o n ta in e d th e c h i me r i c N P T II a n d G U S g e n e s w a s c o -c u l t i v a t e d w i t h s t e m a n d l e a f s e g me n t s f r o m R h o d o d e n d ro n t i s s u e s c u l t u r e d i n v i t ro . A d ve n t i t i o u s b u d s w e r e f o r me d a n d s h o o ts w e r e r e g e n e r a te d o n ka n a m yc in s e l e c tio n me d iu m 3 -4 m o n th s a f te r in o c u la tio n . In te g r a tio n o f th e N P T II a n d th e G U S g e n e s w a s c o n f ir me d b y P CR a n d b y S o u th e r n h yb r i d iz a tio n a n a l ys e s . H is t o c h e mic a l G U S a s s a y sh o w e d th a t th e in s e r te d g e n e w a s e x p r e s s e d in a ll tis s u e s w ith th e C a M V 3 5 S p ro mo te r. I n R h o d o de n d ro n, th e tr a n s f o r ma t io n p r o c e d u r e mig h t h a ve a f u n d a me n ta l r o le to e x p a n d th e ra n g e o f ge n e tic va r ia t io n s u c h a s f lo w e r c o lo r a n d mo rp h o lo g ic a l c h a r a c te r i s t ic s , a n d t o s t r e n g th e n t o l e r a n c e t o e n v i r o n me n t a l s t r e s s e s . Chapter 3 In th is s tu d y, w e d e s c r ib e d e ff e c ts o f io n b e a m ir r a d ia tio n o n c u ltu r e s o f c h r ys a n th e mu m. ‘ J imb a ’ is th e mo s t p o p u la r w h ite -f lo w e r c h r y s a n th e mu m c u lti va r in J ap a n . H o we ve r, th is c u lt iva r h a s ma n y la te r a l b u d s , a n d th is r e s u lts in d e la ye d f lo w e r in g u n d e r a lo w te mp e r a tu r e . T h e o b je c tive s o f th is s tu d y w e r e to d e ve lo p a n e ff e c ti ve me th o d f o r o b ta in in g m u ta tio n s w ith io n b e a m ir r a d ia tio n to d e ve lo p n o n -c h i me r i c c h r ys a n th e mu m mu ta n ts p o s s e s s in g e x c e lle n t f lo w e r in g a n d c u l t i v a tio n p r o p e r t i e s . M o r e t h a n 1 0 , 0 0 0 r e g e n e r a t e d p la n t s w e re o b ta in e d a n d c u l t u r e d i n d i ff e r e n t c r o p p i n g s ys te ms ; f o r s e l e c t i o n o f f e w e r a x i l l a r y b u d s o r lo w e r te mp e r a tu r e f lo w e r in g lin e . Fr o m t h e s c r e e n in g o f 10 , 4 68 M 1 p la n ts d e r ive d f r o m th e io n -b e a m ir r a d ia te d o f le a f d is c s , mo r e th a n 4 0 vis ib le mu ta n ts w e r e s e le c te d . T h e n , w e h a ve s u c c e e d e d in th e in tr o d u c tio n o f t w o n ew c u lti va r s o f c h r ys a n t h e mu m w i t h r e d u c e d a x i l l a r y b u d s n a me d ‘ A l a d d i n ’ a n d ‘ I ma g i n e ’ u s in g io n b ea m ir r a d ia tio n . H o w e ve r, th e f lo w e r in g in th e s e tw o cu lti va r s w a s s til l s u p p r e s se d u n d e r a lo w te mp e r a tu r e . T h e r e f o r e , ma n y mu ta n ts w er e s e le c te d - 162 - i n M 1 p la n ts d er i ve d f r o m th e io n b e a m r e - ir r a d ia tio n o f ‘ A la d d in ’ a n d B 0 2 -1 -1 . In M 1 p la n ts o f ‘ A l a d d in ’ , D N A c on te n t s r e m a i n e d a l mo s t t h e s a me l e v e l a s i n o r ig in a l ‘ J imb a ’ . When we u s ed th e r e -ir r a d ia tio n te c h n iq u e for p la n t i mp r o ve me n t, t h e g o a l w a s t o k e e p o r i g i n a l D N A co n te n t o f t h e p la nt ma t e r i a l s o r mu ta n ts u s e d . T h e s e mu ta n ts s h o w e d f a vo r a b le f lo w e r c h a r a c te r is tic s s i mila r t o t h e o r i g i n a l ‘ J i mb a ’ c u l t i v a r. Fu r t h e r, w e s u c c e e d e d i n t h e i n t r o d u c t i o n o f a n e w c u lti va r f r o m ‘ A la d d in ’ , n a me d ‘ A la d d in 2 ’ , in w h ic h b o th d e s ir a b le c h a r a c te r is tic s , f e w a x i lla r y b u d s a n d e a r l y f lo w e r in g a t a lo w te mp e r a tu r e , w e r e c o mb in e d . T h e s e tw o tr a its w ill c o n tr ib u te to l a b o r a n d /o r e n e rg y s a v i n g . Fu r th e r t o b r e e d n e w c u l t i va r s o f c h r ys a n t h e mu m u s i n g mu t a t io n i n d u c t i o n b y i o n b e a m ir r a d ia tio n h a s g o o d p o te n tia l i mp r o vin g f lo w e r q u a lit y. Chapter 4 We d e velo p e d th e cu lti va r- id e n tific a tio n ma rk e r s of ‘A la d d in ’ a n d ‘ A la d d in 2 ’ , a n d ma d e th e s ys te m to in c r e a s e t h e s e p la n t p h e n o typ e s i n n u r s e r ie s to d is tr ib u te th e m to g r o w e r s . We a ls o e n a b le d p r o te c tio n a n d th e ma n a g e me n t o f th e c u lti va r s, a n d th e s u p p l y o f th e n u r s e r ie s . T h is me a n s th a t th e fa r me r s c a n p r o d u c e t h e se c u l t i va r s n o t o n l y i n Ka g o s h ima p r e f e c t u r e b u t a ls o i n r e s t o f J a p a n. T h e b a c ter ia l-in o c u la te d me th o d w o u ld b e a b le to u s e in th e s e c o mm e r c ia l tis s u e c u ltu re s , b e c a u s e o f e n h a n c e d vig o r a n d s tr e s s to le r a n c e in tis s u e c u ltu r e -g e n er a te d p la n ts . T h is me c h a n is m is l i k e ‘ E n d Fig h t’ o f p la n t a s s o c ia te d mic r o b e , a n d it c a n b e d e ve lo p e d a s a w a y t o imp r o ve p la n t to le r a n c e to p la n t d is e a s e o r s tre s s a n d c an b e a c h ie ve d b y n a tu r a l b io lo g ic a l p r o c e s s . Fu r th e r mo r e , w e s u c c e e d ed in th e i n tr o d u c tio n o f n e w c u lti va r s , u s in g io n b e a m ir r a d ia t io n te c h n iq u e . T h is n o ve l a p p r o a c h a llo w e d mu ta tio n in d u c tio n o f o th e r lo c a l p la n t r e s o u r c e s a n d is b e in g te r me d ‘ Io n B e a m B r e e d in g ’ . M u ta tio n in d u c tio n , mic r o b ia l in te r a c tio n and DNA a n a lys is based on a b o ve bio te c h n o lo g y t e c h n i q u e s h a ve b e e n ut i l i z e d i n t h e a gr i c u l tu r a l p r o d u c t i o n f o r p l a n t r e s o u r c e s . - 163 - 引用文献 阿 部 知 子・松 山 知 樹・白 尾 吏・上 野 敬 一 郎 . 2007. キ ク 品 種 識 別 方 法 . 特 許 公 開 2007-24433. 赤 司 喜 次 郎 . 1919. 久 留 米 春 寒 誌 (第 四 版 ). 赤 司 広 楽 園 . 久 留 米 . A n d e r s o n , W. C . 1 9 8 4 . A r e v i s e d t i s s u e c u l t u r e m e d i u m f o r s h o o t m u l t i p l i c a t i o n o f R o d o d e n d r o n . J . A m e r. S o c . H o r t . S c i . 1 0 9 : 343-347. Ar i sumi , K. 1989. Rhododendron. Collected Data of Plant Genetic R e s o u r c e s ( 3 ) . p . 11 1 9 - 1 1 2 0 . I n : T. M a t s u o ( e d ) . K o d a n s h a S c i . To k y o J a p a n . 浅 見 逸 夫・長 谷 川 徹・山 田 眞 人 . 2010. キ ク 無 側 枝 性 評 価 の た め の 簡 易 な 幼 苗 及 び イ ン ビ ト ロ 検 定 法 の 開 発 . 愛 知 農 総 試 研 報 . 42: 1-6. A s i s , C . A . J r. , a n d K . A d a c h i . 2 0 0 4 . I s o l a t i o n o f e n d o p h y t i c b a c t e r i a associated with the stem of sweetpotato (Ipomoea batatas (L) Lam). 35. Annual Scientific Conference of the Crop Science Society of the Philippines. 29 (Supplement no. 1): 77 (Abst). B a j a j , Y. P. S . 1 9 9 9 . T r a n s g e n i c T r e e s . p . P r e f a c e . I n : Y. P. S . B a j a j (ed.) B i o t e c h n o l o g y i n A g r i c u l t u r e a n d F o r e s t r y 4 4 . S p r i n g e r. B e r l i n . G e r m a n y. B e c k , E . , G. L u d w i g , E . A . Av e r s w a l d , B . R e i s s , a n d H . S c h a l l e r. 1 9 8 2 . Nucleotide sequence and exact localization of the neomycin phosphotransferase gene from Tn5. Gene 19: 327-336. B e v a n , M . , W. M . B a r n e s , a n d M . D . C h i l t o n . 1 9 8 3 . S t r u c t u r e a n d t r a n s c r i p t i o n o f t h e n o p a l i n e s y n t h a s e g e n e r e g i o n o f T- D N A . Nu c l e i c Ac i d s R e s . 11 : 3 6 9 -3 8 5 . - 164 - B o r n m a n , C . H . a n d T. C . Vo g e l m a n n . 1 9 8 4 . E f f e c t o f r i g i d i t y o f g e l medium on benzyladenine-induced adventitious bud formation and vi t r i f i c at i on in vitro in Picea abies. Physi ol . Pl ant . 61: 505-512. B o s e , S . 19 5 8 . C yt o l o gi c a l i n ve s t i ga t i o n i n Ly c o r i s 2 . Cyt o l o gi c a l s i mi l a r i ty L. aurea a nd L. traubii . Pl ant Li fe 14: 33 -37. B o s e , S . a n d W. S . F l o r y. 1 9 6 3 . A s t u d y o f p h y l o g e n y a n d o f k a r y o t y p e e vo l u t i on i n Ly c o r i s . T h e Nu c l e u s 6 : 1 4 2 -1 5 6 . B o t t c h e r, I. , K . Zo gl a u e r, a n d H . G o r i n g. 1 9 8 8 . In d u c t i o n a n d r e ve r s i o n of vitrification of pl ants cultured i n v i t ro. Physiol. Pl an t. 72: 560-564. C h a n d l e r , S . F. a n d J . H . D o d d s . 1 9 8 3 . T h e e f f e c t o f p h o s p h a t e , n i t r o g e n and sucrose on the production of phenolics and solasidine in callus cultures of Solanum laciniatum. Plant Cell Rep. 2: 105-108. Dai, C., C. V. Lambeth, R. Ta v e r n , and D. Mertz. 1987. Mocropropagat i on of Rhododendron pr i ni phyl l u m b y o var y c ul t ur e . HortSci. 22: 491-493. D a r v i l l , A . G. a n d P. A l b e r s h e i m . 1 9 8 4 . P h y t o a l e x i n s a n d t h e i r e l i c i t o r s a d e f e n e s a g a i n s t m i c r o b i a l i n f e c t i o n i n p l a n t s . A n n u . R e v. P l a n t Physiol. 35: 243-275. D e J o n g , J . , W. R a d e m a k e r a n d M . F. Wo r d r a g e n . 1 9 9 3 . R e s t o r i n g adventitious shoot formation on chrysanthemum leaf explants f ol l owi ng c o -cul t i va t i on wi t h Agrobacterium tumefaciens. Pl ant Cell Tiss. Org. Cult. 32: 263 -270. D e b e r g h , P. C . , Y. H a r b a o u i , a n d R . L e m e u r. 1 9 8 1 . M a s s p r o p a g a t i o n o f globe artichoke (Cynara scolymus): evaluation of different hypotheses to overcome vitrification with special reference to water potential. Physiol. Plant. 53: 181-187. - 165 - D e b e r g h , P. C . , J . A i t k e n - C h r i s t i e , D . C o h e n , B . G r o u t , S . v o n A r n o l d , R Zi mmer man, and M. Z i v. 1992. Reconsideration of the term < vi t r i f i ca ti on> a s use d i n mi c r opr opa gat i on. Pl a nt Cel l Ti s s. Org. Cult. 30: 135-140. Dixon, R. A. and C. J. Lamb. 1990. Molecular communication in i n t e r a c t i o n s b e t w e e n p l a n t s a n d m i c r o b i a l p a t h o g e n s . A n n u . R e v. Plant Physiol. Plant Mol. Biol. 41: 339-367. Dixon, R. A. and N. L. Paiva. 1995. Stress-induced phenylpropanoid metabolism. Plant Cell 7:1085-1097. Ebel, J. 1986. Phytoalexin synthesis: the biochemical analysis of the i n d u c t i o n p r o c e s s . A n n u . R e v. P h y t o p a t h o l . 2 4 : 2 3 5 - 2 6 4 . E c o n o m o u , A . S . , P. E . R e a d , a n d M . J . S p a n o u d a k i . 1 9 8 7 . A z a l e a regeneration from callus culture. Acta Hort. 226: 209-216. F o r d h m a n , I . , D . P. S t i m a r t , a n d R . H . Z i m m e r m a n . 1 9 8 2 . A x i l l a r y a n d a d v e n t i t i o u s s h o o t p r o l i f e r a t i o n o n E x b u r y a z a l e a s i n v i t ro . H o r t Sci. 17: 738-739. F r o m m e l , M . I . , J . N o w a k , a n d G. L a z a r o v i z . 1 9 9 2 . G r o w t h e n h a n c e m e n t and devel op ment al modi fi cat i ons of i n vi t ro gr own pot at o ( Solanum tuberosum spp. tuberosum) as affected by a non-fluorescent Pseudomonas sp. Plant Physiol. 96: 928-936. 普 及 に 移 す 研 究 成 果 . 2 0 0 9 . 青 果 用 サ ツ マ イ モ「 安 納 紅 」の ウ イ ル ス フ リ ー 選 抜 系 統「 B 1 号 」. 鹿 児 島 県 農 総 セ ン タ ー . 平 成 2 1 年 度 普 及 に 移 す 研 究 成 果 集 : p. 5-6. 藤 巻 宏 . 1998. 地 域 生 物 資 源 活 用 大 事 典 . p. 1-640. 農 山 漁 村 文 化 協 会. 東京 G o l d s , T. J . , M . R . D a v e y, E . L . R e c h , a n d J . B . P o w e r. 1 9 9 0 . M e t h o d s o f g e n e t r a n s f e r a n d a n a l y s i s i n h i g h e r p l a n t s . p . 3 4 1 - 3 7 1 . I n : J . W. - 166 - P o l l a r d , a n d J . M . Wa l k e r ( e d s . ) . P l a n t C e l l a n d T i s s u e C u l t u r e 6 , Humana, NJ. U.S.A. H a k k a r r t , F. A . a n d I . M . A . Ve r s l u i j s . 1 9 8 3 . S o m e f a c t o r s e f f e c t i n g glassiness in carnation meristem tip cultures. Neth. J. Plant Physiol. 89: 47-75. H a r b a g e , J . F. a n d D . P. S t i m a r t . 1 9 8 7 . A d v e n t i t i o u s s h o o t r e g e n e r a t i o n f r om i n vi t r o s ubcul t ur e d c a l l us of Rhododendron Exbury h ybri ds. HortSci. 22: 1324-1325. H a y w a r d , W. 1 9 5 7 . Ly c o r i s t r a u b i i s p . n o v. P l a n t L i f e 1 3 : 4 0 - 4 2 . Herman, E. B. 1990. Non-axenic plant tissue culture: possibilities and opportunities. Acta Hortic. 280: 233-238. Hipkins, M. F. and N. R. B a k e r. 1986. Photosynthesis energy t r a n s d u c t i o n . p . 5 1 - 1 0 1 . I n H i p k i n s , M . F. a n d N . R . B a k e r ( e d . ) , S p e c t r o s c o p y, I R L P r e s s , O x f o r d , Wa s h i n g t o n . H o e k e m a , A . , P. R . H i r s c h , P. J . J . H o o y k a s s , a n d R . A . S c h i l p e r o o r t . 1983. A binary plant vector strategy based on separation of vir- and T- r e g i o n o f t h e A g r o b a c t e r i u m t u m e f a c i e n s T i - p l a s m i d . N a t u r e 3 0 3 : 179-180. Honda, H. and A. Hirai. 1990. A simple and efficient method for identification of hybrids using nonradioactive rDNA as probe. Japan J. Breed. 40: 339-348. 深 井 誠 一・陳 忠 英・大 江 正 温 . 1987. キ ク の 葉 片 培 養 に お け る シ ュ ー ト 形 成 に 関 す る 品 種 間 差 異 . 大 阪 農 技 セ 研 報 . 24: 55-58. I a p i c h i n o , G. , S . M c C u l l o c h , a n d T. H . H . C h e n . 1 9 9 2 . A d v e n t i t i o u s shoot formation from leaf explants of Rhododendron. Plant Cell Tiss. Org. Cult. 30: 237 -241. 池上秀利・巣山拓郎・國武利浩・黒柳直彦・松野孝敏・平島敬太・ 谷川孝弘・坂井康宏・長谷純宏・田中 - 167 - 淳 ・ 中 原 隆 夫 . 2006. イ オンビーム照射による秋ギク‘神馬’の突然変異誘発と新系統 ‘ JCH1029’ の 育 成 . 福 岡 農 総 試 研 報 . 25: 47-52. 今 給 黎 征 郎 ・ 永 吉 実 孝 ・ 郡 山 啓 作 ・ 上 野 敬 一 郎 . 2006. 無 側 枝 性 輪 ギ ク 「 新 神 」 の 育 成 . 鹿 児 島 農 試 報 告 . 34: 15-20. 稲 荷 山 資 生 . 1931. Lycoris 属 植 物 の 細 胞 学 的 研 究 ( 予 報 ) . Bot. Mag. To k y o . 4 5 : 1 1 - 2 6 . 稲 荷 山 資 生 . 1 9 3 2 . Ly c o r i s 属 植 物 の 細 胞 学 的 研 究 Ⅰ . し ろ ば な ひ が ん ば な の 減 数 分 裂 に お け る 染 色 体 の 結 合 . B o t . M a g . To k y o . 4 6 : 426-434. 稲 荷 山 資 生 . 1 9 5 3 . ヒ ガ ン バ ナ 属 ( Ly c o r i s ) の 細 胞 学 的 研 究 . 生 研 時 報 . 46: 5-10. J a me s , C. 20 11 . Gl o b a l St a t u s o f Co mme r c i a l i ze d Bi o t e c h / GM Cr o p s: 2010. ISAAA. Brief No. 42 Jefferson, R. A., S. M. Burgess, and D. Hirsh. 1986. -glucuronidase f r o m E s c h e r i c h i a c o l i a s a g e n e - f u s i o n m a r k e r. P r o c . N a t l . A c a d . Sci. USA 83: 8447-8451. J e f f e r s o n , R . A . , T. A . K a v a n a g h , a n d M . W. B e v a n . 1 9 8 7 . G U S f u s i o n : -glucuronidase as a sensitive and versatile gene fusion marker in higher plants. EMBO J. 6 (13): 3901-3907. 鹿 児 島 県 . 2003. 鹿 児 島 県 の 絶 滅 お そ れ あ る 野 生 動 植 物 -鹿 児 島 県 レ ッ ド デ ー タ ブ ッ ク -. p. 1-320. 鹿 児 島 県 農 業 経 営 管 理 指 導 指 標 . 2001. 秋 ギ ク 電 照 . 鹿 児 島 県 農 政 部 . p. 535-542. 鹿 児 島 県 農 政 部 . 2012. か ご し ま の 農 業 . p. 5-8. 鹿 児 島 県 農 政 部 農 政課. か ご し ま さ つ ま い も 小 辞 典 . 2005. 伝 搬 と 普 及 . 鹿 児 島 県 農 政 部 : p. 1-3. - 168 - K a u l , V. , R . M . M i l l e r , J . F. H u c h i n s o n a n d D . R i c h a r d s . 1 9 9 0 . S h o o t regeneration from stem and leaf eplants of Dendranthema grandiflora Tzvelev (syn. Chrysanthemum morifolium Ramat.). Plant Cell Tiss. Org. Cult. 21: 21 -30. K e v e r s , C . , M . C o u m a n s , M . F. C o u m a n s - G i l l e s , a n d T. G a s p a r. 1 9 8 4 . Physiological and biochemical events leading to vitrification of pl ants cultured in vitro. Physi ol . Pl ant . 61: 69 -74. K e v e r s , C . , R . P r a t , a n d T. G a s p a r. 1 9 8 7 . Vi t r i f i c a t i o n o f c a r n a t i o n i n vitro: changes in cell wall properties, cellulose and lignin content. Plant Growth Reg. 5: 59-66. 小 松 崎 一 雄 . 1 9 6 1 . ア ケ ボ ノ シ ョ ウ キ ラ ン ( 新 称 ) 日 本 産 Lyc o r i s の 新 種 . 野 草 . 264: 101. K o s u g i , S . , Y. O h a s h i , K . N a k a j i m a , a n d Y. A r a i . 1 9 9 0 . A n i m p r o v e d assay for -glucuronidase in transormed cells: methanol almost completely suppresses a putative endogenous for -glucuronidase a c t i v i t y. P l a n t S c i . 7 0 : 1 3 3 - 1 4 0 . 上 妻 道 紀・内 村 力・安 庭 誠・神 門 達 也・佐 藤 光 徳・吉 田 典 夫 . 2003. カ ン シ ョ の 品 種 ‘安 納 紅 ’, ‘安 納 こ が ね ’, ‘種 子 島 ろ ま ん ’, ‘種 子 島 ゴ ー ル ド ’の 育 成 . 鹿 児 島 農 試 報 告 . 31: 1-15. 倉 重 祐 二 ・ 小 林 伸 雄 . 2008. 発 見 さ れ た 神 奈 川 県 立 農 事 試 験 場 “榔 聞 類調査”にみる大正時代のツツジ園芸品種と育種傾向の推察. 園 学 研 . 7( 2): 323-328. 栗 田 子 郎 . 1998. ヒ ガ ン バ ナ の 博 物 誌 . p. 1-181. 研 成 社 . 東 京 . L e d ge r, S . E . , S . C . D e r o l e s a n d N . K . G i ve n . 1 9 9 1 . R e ge n e r a t i o n a n d Agrobacterium-medi at ed t r ansformat i on of chrysant he mu m. Pl ant Cell Rep. 10: 195-199. 松 江 幸 雄 . 1994. 曼 珠 沙 華 魅せられるまま (9): 10-13. - 169 - 彼岸まで. 園芸世界. 松 本 由 利 子 . 2000. 無 側 枝 性 ギ ク の 生 育 開 花 に 関 す る 研 究 ( 第 2 報 ) 夏秋ギク「岩の白扇」の電照抑制作型における栽培時期と親株 の 越 冬 条 件 が 生 育 開 花 に 及 ぼ す 影 響 . 香 川 県 農 試 報 告 . 52: 55-64. 松 山 知 樹 . 2 0 0 9 . 「 D N A マ ー ク 」で 果 樹 や 花 の 品 種 を 識 別 す る . R I K E N NEWS. 334 (4): 6-9. 松 山 知 樹 ・ 白 尾 吏 . 2 0 11 . キ ク 品 種 「 新 神 2 」 の 識 別 方 法 . 特 許 公 開 2 0 11 -2 44 6 6 . 松山知樹・白尾吏・上野敬一郎・古川浩二・岩澤洋樹・阿部知子・ 田 畑 哲 之 . 2012. イ オ ン ビ ー ム 照 射 し た キ ク と シ ン ビ ジ ウ ム で の ゲ ノ ム DNA 変 異 検 出 . 園 学 研 . 11 ( 別 2 ) : P 1 8 8 . M e ye r, M . M . 1 9 8 2 . I n v i t ro p r o p a ga t i o n o f R h o d o d e n d ro n c a t a w b i e n s e from flower buds. HortScience 17: 891-892. 三 柴 啓 一 郎 ・ 三 位 正 洋 . 1999. フ ロ ー サ イ ト メ ト リ ー 自 由 自 在 8, 植 物 研 究 へ の 応 用 . p 67-73. 中 内 啓 光 監 修 . 細 胞 工 学 別 冊 . 秀 潤 社. 東京. 宮 崎 貞 巳 ・ 田 代 洋 丞 ・ 島 田 恒 治 . 1 9 7 6 . キ ク の 組 織 培 養 ( 第 1 報 ). 佐 賀 大 農 彙 . 40: 31-44. M u r a k a m i , T. a n d Y. O h a s h i . 1 9 9 2 . M e t h o d f o r h i s t o c h e m i c a l d e t e c t i o n of GUS reporter gene expression in transgenic plants. Plant Cell Te c h n o l . 4 : 2 8 1 - 2 8 6 . M u r a s h i g e , T. a n d F. S k o o g . 1 9 6 2 . A r e v i s e d m e d i u m f o r r a p i d g r o w t h and bioassays with tobacco tissue cultures. Physiol. Plant. 15: 473-497. 長 谷 健 ・ 田 之 頭 優 樹 ・ 向 吉 健 二 ・ 田 中 義 弘 . 2012. 偽 受 精 胚 培 養 に よ る ニ ガ ウ リ 半 数 体 作 出 法 . 九 州 農 業 研 究 要 旨 . 75: 129. Nagatomi, S., E. Miyahira and K. Degi. 1997. Combinated effect of gamma irradiation methods and - 170 - in vitro explant sources on mutation induction of flower color in Chrysanthemum morifolium Ramat. Gamma Field Symposia. 35: 51-69. 永 富 成 紀 . 2002. ガ ン マ 線 に よ る 品 種 改 良 . Energy Review 2002-5: 12-14. 永 富 成 紀 .2 0 0 3 . イ オ ン ビ ー ム 照 射 に よ る 花 き 突 然 変 異 育 種 の 展 開 . 農 林 水 産 技 術 研 究 ジ ャ ー ナ ル . 26: 33-38. 永 吉 実 孝 . 2003. 鹿 児 島 県 に お け る 放 射 線 育 種 . 放 射 線 と 産 業 . 98: 10-16. 永 吉 実 孝 . 2 0 11 . 無 側 枝 性 の 発 現 を め ぐ っ て , 神 馬 の 開 花 遅 延 防 止 の た め の 温 度 管 理 . p 86-93, p140-145. 大 石 一 史 編 著 . キ ク を つ くりこなす. 農文協. 東京. 農 林 水 産 省 ホ ー ム ペ ー ジ . 2006. 植 物 新 品 種 の 保 護 の 強 化 及 び 活 用 の促進に関する検討会最終報告書. < h t t p : / / w w w. m a f f . g o . j p / j / s t u d y / s i n _ h i n s y u / i n d e x . h t m l > 野 添 博 昭・坂 田 祐 介・有 隅 健 一 . 1978. リ コ リ ス 属 植 物 の 系 統 発 生 に 関 す る 研 究 (第 1 報 ). 園 学 要 旨 . (春 ): 300-301. O k a m o t o , A . a n d K . S u t o . 2 0 0 3 . M o r p h o l o g i c a l O b s e r v a t i o n o n Vi a b l e and Nonviable Chrysanthemum Axillary Bud 'Iwnohakusen'. Formation J. Japan. in Soc. Non-branching Hort. Sci. 72: 422-424. 大 澤 勝 次 . 1988. 組 織 培 養 に よ る 種 苗 の 増 殖 . 農 業 お よ び 園 芸 . 63: 92-96, 274-278. 大 澤 勝 次 . 1994. 第 4 章 植 物 増 殖 技 術 . p 95-124. 図 集 ・ 植 物 バ イ テクの基礎知識. 農文協. 東京. Pavingerová, D., J. Bríza, K. Kodytek, and H. Niedermeierová. 1997. Transformation of Rhododendron spp. using Agrobacterium tumefaciens with a GUS-intron chimeric gene. Plant Sci. 122: 165-171. - 171 - P e r r y, P. , K . U e n o , a n d K . S h e t t y. 1 9 9 9 . R e v e r s i o n t o h y p e r h y d r a t i o n b y addition of antibiotics to remove Pseudomonas in unhyperhydrated o r e g a n o t i s s u e c u l t u r e s . P r o c e s s B i o c h e m i s t r y. 3 4 : 7 1 7 - 7 2 3 . P h a n , C . T. a n d R . L e To u z e . 1 9 8 3 . A c o m p a r a t i v e s t u d y o f c h l o r o p h y l l , phenolic and protein contents, and of hydoroxycinnamate: CoA ligase activity of normal and vitreous plant of (Prunus avium L.) obtained in vitro. Plant. Sci. Lett. 31: 323-327. P i l l a y, V. K . a n d J . N o w a k . 1 9 9 7 . I n o c u l a m d e n s i t y, t e m p e r a t u r e , a n d genotype effects on in vitro growth promotion and epiphytic c o l o n i zat i o n o f t o ma t o ( Ly c o p e r s i c o n e s c u l e n t u m L. ) s e e d l i n gs inoculated with a pseudomonad bacterium. Can. J. Microbiol. 43: 354-361. プ ロ ジ ェ ク ト 研 究 成 果 . 2002. 新 形 質 付 与 の た め の エ ン ド フ ァ イ ト の機能解明. 農林水産技術会議. プロジェクト研究成果シリー ズ 392: p. 1-81. R e n o u , J . P. , P. B r o c h a r d a n d R . J a l o u z o t . 1 9 9 3 . R e c o v e r y o f t r a n s g e n i c chrysanthemum (Dendranthema grandiflora Tzvelev) after hygromycin resistance selection. Plant Sci. 89: 185-197. R u gi n i , E . 1 9 8 6 . Al mo n d s . p . 5 7 4 -6 11 . In D. A. E va n s ( e d . ) . Ha n d b o o k of Plant Cell Culture. 4, Macmillan Pub. Co., London, U.K. Sato, S., M. Hagimori, and S. Iwai. 1993. Recovering vitrified carnation (Dianthus caryophyllus L.) shoots using bacto-peptone and is subfractions. Plant Cell Rep. 12: 370-374. S h e t t y, K . , O . F. C u r t i s , R . E . L e v i n , R . Wi t k o w s k y, a n d W. A n g . 1 9 9 5 . Prevention of vitrification associated with in vitro shoot culture of oregano ( Origanum vulgare) by Pseudo monas s pp. J . Pl ant Physi ol . 147: 447-451. - 172 - S h e t t y, K . , O . F. C u r t i s , a n d R . E . L e v i n . 1 9 9 6 a . S p e c i f i c i n t e r a c t i o n o f mucoid strain vulgare) of clones Pseudomonas and the spp. with relationship oregano to (Origanum prevention of h yp e r h yd r i c i t y i n t i s s u e c u l t u r e . J . P l a n t P h ys i o l . 1 4 9 : 6 0 5 -6 11 . S h e t t y, K . , T. C a r p e n t e r , O . F. C u r t i s , a n d T. P o t t e r. 1 9 9 6 b . R e d u c t i o n of hyperh ydri ci t y i n t i ssue cul t ures of oregano ( Origanu m v ulgare ) by extracellular polysaccharide isolated from Pseudomonas sp. Plant Sci. 120: 175-183. 柴 田 道 夫 ・ 間 竜 太 郎 ・ 池 田 広 ・ 清 水 明 美 . 1992. キ ク の 葉 切 片 か ら の 不 定 芽 形 成 能 の 品 種 ・ 種 間 差 . 育 学 雑 . 42 (別 2): 556-557. 鹿 内 利 治 . 2 0 0 9 . シ ロ イ ヌ ナ ズ ナ の 形 質 転 換 . 低 温 科 学( 北 海 道 大 学 低 温 科 学 研 究 所 ) 67: 615-616. Shikazono, N., A. Ta n a k a , H. Wa t a n a b e , and S. Ta n o . 2001. Rearrangements of the DNA in carbon ion-induced mutants of Arabidopsis thaliana. Genetics. 157: 379-387. S h i k a z o n o , N . , Y. Yo k o t a , S . K i t a m u r a , C . S u z u k i , H . Wa t a n a b e , S . Ta n o a n d A . Ta n a k a . 2 0 0 3 . M u t a t i o n r a t e a n d N o v e l t t m u t a n t s o f Arabidopsis thaliana induced by Carbon Ions. Genetics. 163: 1449-1455. S h i k a z o n o , N . , C . S u z u k i , S . K i t a m u r a , H . Wa t a n a b e , S . Ta n o a n d A . Ta n a k a . 2 0 0 5 . A n a l y s i s o f m u t a t i o n s i n d u c e d b y c a r b o n i o n s i n Arabidopsis thaliana. J. Exp. Bot. 56: 587-596. S h i n o y a m a , H . , T. K a z u m a , M . K o m a n o , Y. N o m u r a a n d T. Ts u c h i y a . 2002. An efficient transformation system in chrysanthemum [Dendranthema x grandiflora (Ramat.) Kitamura] for stable and non-chi meric expression of forein genes. Plant Biotechnol., 19: 335-343. - 173 - S h i r a o , T. , K . U e n o , T. A b e a n d T. M a t s u y a m a . 2 0 1 3 . D e v e l o p m e n t o f DNA markers for identifying chrysanthemum cultivars generated by ion-beam irradiation. Mol. Breed. 31: 729-735. 白尾 吏 ・ 上 野 敬 一 郎 ・ 松 山 知 樹 ・ 市 田 裕 之 ・ 阿 部 知 子 . 2007. 秋 輪 ギ ク「 新 神 」の D N A マ ー カ ー に よ る 品 種 識 別 . 九 州 農 業 研 究 発 表 要 旨 集 . 70: 203. 杉 本 明 . 2007. 「 甘 み ・ 砂 糖 ・ さ と う き び 」 (10) さ と う き び の 品 種 改 良 . 砂 糖 類 情 報 . 7: 95-101. S u t t e r , E . a n d R . W. L a n g h a n s . 1 9 7 9 . E p i c u t i c u l a r w a x f o r m a t i o n o n c a r n a t i o n p l a n t l e t s r e g e n e r a t e d f r o m s h o o t t i p c u l t u r e . J . A m e r. S o c . Hort. Sci. 104: 493-496. Ta k a g i , H . , Y. Ta n a k a , I . Ta r u m o t o , a n d N . M u r a t a . 1 9 9 3 . E v a l u a t i o n o f genetic diversity of sweet potato germplasm I. Characterization by restriction fragment poly-morphisms analysis. Japan J Breed 43 (Suppl. 1): 192. 高 津 康 正 ・ 友 常 秀 彦 ・ 霞 正 一 ・ 佐 久 間 文 雄 . 1998. 国 内 産 キ ク 品 種 に おける茎葉再分化能の差異と効率的な形質転換系の確立.園学 雑 . 67 (6): 958-964. 高山 覚 . 1986. 図 解 バ イ オ テ ク ノ ロ ジ ー , プ ロ ト プ ラ ス ト か ら の 植 物 の 再 生 . p 4, p181-186. 農 業 図 書 . 東 京 . 竹 村 英 一 . 1961. ヒ ガ ン バ ナ 属 の 人 工 雑 種 の 形 態 学 的 ・細 胞 学 的 研 究 Ⅰ . Lyc o r i s s p re n g e r i Co me s . と Ly c o r i s s t r a mi n e a Li ndl と の 雑 種 F 1 に つ い て . B o t . M a g . To k y o . 7 4 : 5 2 4 - 5 3 1 . 竹 村 英 一 . 1962. ヒ ガ ン バ ナ 属 の 人 工 雑 種 の 形 態 学 的 ・細 胞 学 的 研 究 Ⅲ. 4 つ の V 形 染 色 体 を も つ 一 人 工 雑 種 . B o t . M a g . To k y o . 7 5 : 324-330. 竹 之 下 佳 久 ・ 長 谷 健 ・ 大 江 正 和 ・ 斉 藤 宏 之 ・ 阿 部 知 子 . 2009. イ オ ンビーム照射によるイチゴ品種「さつまおとめ」早生優良系統 - 174 - の 作 出 .第 6 回 イ オ ン ビ ー ム 育 種 研 究 会 大 会 講 演 要 旨 集:1 7 - 1 8 . Ta k e n o s h i t a , Y. , J . N a g a i , T. N a g a t a n i , M . O o e , Y. H a s e , A . Ta n a k a a n d I . Narumi. 2010. Ion Beam Breeding of Sugarcane Cultivar "Ni17". JAEA-Review 2010-065: 69. 田中克己・浜 清 . 1961. な す り つ け 法 と 押 し つ ぶ し 法 - 概 説 . P188-193. 田 中 克 己 ・ 浜 清 ( 共 著 ). 顕 微 鏡 標 本 の 作 り 方 . 裳 華 房,東京. Ta n a k a , A . 1 9 9 9 . M u t a t i o n i n d u c t i o n b y i o n b e a m s i n A r a b i d o p s i s . Gamma field symposia. 38: 19-27 (Abst.). Ta n a k a , A . , A . S a k a m o t o , Y. I s h i g a k i , O . N i k a i d o , G. S u n , Y. H a s e , N . S h i k a z o n o , S . Ta n o a n d H . Wa t a n a b e . 2 0 0 2 . A n U l t r a v i o l e t - B Resistant Mutant with Enhanced DNA Repair in Arabidopsis. Plant Physiol. 129: 64-71. Ta n a k a , A . , N . S h i k a z o n o a n d Y. H a s e . 2 0 1 0 . S t u d i e s o n B i o l o g i c a l E f f e c t s o f I o n B e a m s o n L e t h a l i t y, M o l e c u l a r N a t u r e o f M u t a t i o n , Mutation Rate, and Spectrum of Mutation Phenotype for Mutation Breeding in Higher Plants. J. Radiat. Res. 51: 223-233. 田 之 頭 優 樹 . 2012. 突 然 変 異 を 利 用 し た 花 き の 新 品 種 育 成 . 農 業 か ご し ま . 11 ~ 1 2 月 号 : 2 0 -2 1 . 田之頭優樹・長谷健・永吉実孝・仁田尾学・野澤樹・長谷純宏・鳴 海 一 成 . 2 0 1 2 . イ オ ン ビ ー ム 再 照 射 に よ る 秋 輪 ギ ク「 新 神 」の 段 階 的 特 性 の 改 良 . 九 州 農 業 研 究 要 旨 . 75: 153. 上 野 敬 一 郎 ・ 坂 田 祐 介 ・ 有 隅 健 一 . 1 9 8 3 . Ly c o r i s 属 植 物 の 系 統 発 生 に 関 す る 研 究 (第 2 報 ). 園 学 要 旨 . 58 (秋 ) : 334-335. U e n o , K . , S . N a g a y o s h i , K . S h i m o n i s h i , Y. H a s e , N . S h i k a z o n o a n d A . Ta n a k a . 2 0 0 2 . E f f e c t s o f i o n b e a m i r r a d i a t i o n o n c h r y s a n t h e m u m leaf discs and sweetpotato callus. TIARA Ann. Rep. 2001. JAERIReview 2002-035: 44-46. - 175 - U r b a n , L . A . , J . M . S h e r m a n , J . W. M o y e r a n d M . E . D a u b . 1 9 9 4 . H i g h frequency shoot transformation of regeneration chrysanthemum and Agrobacterium-mediated (Dendranthema grandiflora). Plant Sci. 98: 69-79. Ve r v l i e t , G. , M . H o l s t e r s , H . Te u c h y, M . Va n M o n t a g u , a n d J . S c h e l l . 1975. Characterization of different plaque-forming and defective t e m p e r a t e p h a g e s i n A g r o b a c t e r i u m s t r a i n . J . G e n . Vi r o l . 2 6 : 3 3 - 4 8 . Wi l l i a m s , M. 1983. Ly c o r i s “cinnabarinam”a hybrid between L.sanguinea and L. traubii ?. Plant Life 50: 95-99. Ya m a g u c h i , H . , A . S h i m i z u , K . D e g i a n d T. M o r i s h i t a . 2 0 0 8 . E f f e c t s o f dose and dose rate of gamma ray irradiation on mutation induction and nuclear DNA content in chrysanthemum. Breeding Sci. 58: 331-335. Ya m a g u c h i , H . , A . S h i m i z u , Y. H a s e , K . D e g i , A . Ta n a k a a n d T. Morishita. 2009. Mutation induction with ion beam irradiation of lateral buds of chrysanthemum and analysis of chimeric structure of induced mutants. Euphytica 165:97-103. Ya m a g u c h i , H . , A . S h i m i z u , Y. H a s e , A . Ta n a k a , N . S h i k a z o n o , K . D e g i a n d T. M o r i s h i t a . 2 0 1 0 . E f f e c t o f i o n b e a m i r r a d i a t i o n o n m u t a t i o n induction and nuclear DNA content in chrysanthemum. Breed. Sci. 60:398-404. Z i m m e r m a n , T. W. a n d B . G. C o b b . 1 9 8 9 . Vi t r i f i c a t i o n a n d s o l u b l e carbohydrate levels in Petunia leaves as influenced by me dia gel rite and sucrose concentrations. Plant Cell Rep. 8: 358-360. - 176 - 謝 辞 本論文のとりまとめに際し,ご懇切なるご指導とご鞭撻を賜った 島根大学教授小林伸雄博士,准教授松本敏一博士に厚くお礼申し上 げます.また,ご校閲の労と有益なご助言を賜った鳥取大学教授田 村文男博士,島根大学教授浅尾俊樹博士,山口大学教授執行正義博 士に深く感謝の意を申し上げます. 学生時代から様々な面でご指導とご教示を賜った鹿児島大学名 誉教授有隅健一博士,バイオテクノロジーの基礎をご指導していた だくと共に終始激励いただいた北海道大学名誉教授大澤勝次博士, (独)農業生物資源研究所大橋祐子博士,ノースダゴダ州立大学教 授 D r. K a l i d a s S h e t t y に 深 く 感 謝 い た し ま す . 本研究の遂行に当たり,終始激励とご助言ならびにご協力を賜っ た ( 独 ) 日 本 原 子 力 研 究 開 発 機 構 田 中 淳 博 士 , 長 谷 純 宏 博 士 ,( 独 ) 理化学研究所阿部知子博士,松山知樹博士,斉藤宏之博士にお礼申 しあげます.また,長年にわたりご助言と激励をいただいた鹿児島 県農業開発総合センター元所長軽部稔氏,下西恵大隅支場長に感謝 を申し上げます. 品種育成に向けて終始ご助言,ご協力をいただいた鹿児島県農業 開発総合センター花き部白山竜次部長,今給黎征郎技術専門員,郡 山啓作主任研究員,ご助言,ご指導いただいた鹿児島県バイオテク ノロジー研究所永吉実孝所長に深く感謝の意を申し上げます。また, 研究にご協力いただき,共に労したバイオテクノロジー研究所細胞 機 能 研 究 室 白 尾 吏 主 任 研 究 員 ( 現 生 産 環 境 部 ), 川 畑 真 由 美 技 術 補 佐 員( 現 大 隅 地 域 振 興 局 )お よ び 研 究 所 の 皆 様 に 感 謝 申 し 上 げ ま す . 最後に,本稿をまとめるにあたり,多大なご理解とご支援をいた だいた鹿児島県農業開発総合センター熊毛支場大内田主任研究員, 上妻英男技術補佐員,他皆様に末尾ながら厚くお礼申し上げます. - 177 - 学 会 誌 公 表 論 文 リスト 題 目 : 鹿 児 島 県 下 で 見 出 さ れ た Ly c o r i s 新 種 の 成 立 に つ い て . 著者名 : 上野敬一郎, 野添博昭, 坂田祐介, 有隅健一 学 術 雑 誌 名 : 園 芸 学 会 雑 誌 (1994) 63 (2): 409-417. 本論文との対応:緒論,第 1 章 題 目 : Genetic transformation of R h o d o d e n d ro n by A g ro b a c t e ri u m tumefaciens. 著 者 名 : K e i - i c h i r o U e n o , Yu t a k a F u k u n a g a a n d K e n - i c h i A r i s u m i 学 術 雑 誌 名 : Plant Cell Reports (1996) 16: 38-41. 本論文との対応:緒論,第 2 章第 4 節 題 目 : Effe ct of Sele cted Polysa cc har ide- Producing Soil Bacteria o n Hyperhydricity Co ntrol in Oregano Tissue Cultures. 著 者 名 : Kei-ichiro Ueno and Kalidas Shetty 学 術 雑 誌 名 : Applied and Environmental Microbiology (1997) 63 (2): 767-779. 本論文との対応:緒論,第 2 章第 1 節 題 目 : Prevention of hyperhydricity in oregano shoot cultures is sustained through multiple subcultures by selected polysaccharide-producing soil bacteria without re-inoculation. 著 者 名 : Kei-ichiro Ueno and Kalidas Shetty 学 術 雑 誌 名 : Applied Microbiolo gy a nd Biotec hno lo gy (1998) 5 0:119-124. 本論文との対応:緒論,第 2 章第 2 節 - 178 - 題 目 : Reduced hyperhydricity culture-generated and raspberry enhanced (Rubus sp.) growth of tissue clonal lines by Pseudomonas sp. Isolated from oregano. 著 者 名 : Kei-ichiro Ueno, Susan Cheplick and Kalidas Shetty 学 術 雑 誌 名 : Process Biochemistry (1998) Vo l . 3 3 . N o . 4 : 4 4 1 - 4 4 5 . 本論文との対応:緒論,第 2 章第 3 節 題 目 : イオンビームの再照射によって秋輪ギク‘神馬’の複数形質を 改 良 し た 新 品 種 ‘ 新 神 2’ の 育 成 著者名 : 上野敬一郎,永吉実孝,今給黎征郎,郡山啓作,南 田中 淳,長谷純宏,松本敏一 学 術 雑 誌 名 : 園 芸 学 研 究 (2013) 12 (3): 245-254. 本論文との対応:緒論,第 3 章 - 179 - 公宗,
© Copyright 2024 Paperzz