窒素固定植物における15N自然存在比の体内分布と水ストレス J. Khadka1)・ 山内 章1)・巽 二郎2) 1)名古屋大学大学院生命農学研究科,2)生物資源フィールド科学教育研究センター 背景と目的 植物の窒素固定能の評価法として,15N自然存在比を利用した手法が広く利用されるようになった。 この方法には測定対象とする窒素固定植物の他に,これと窒素吸収特性のよく似た非窒素固定植物(対 照植物)が用いられる。最適な対照植物の選定が精度の高い測定のために必要であるが,野外研究では しばしば困難な場合があり,測定誤差を招く一因ともなっている。最近,対照植物を必要としない新し い方法が提唱された。これは地上部と地下部間における15N自然存在比の差(Δδ15N)を利用した方法で ある。しかしこれに関するデータは少なく,多様な窒素固定植物に対して有効であるのかは不明である。 本研究では,土壌保全に広く用いられる3種のマメ科および非マメ科多年生窒素固定植物に水ストレス を与えて窒素固定能を変化させ,窒素固定能と地上部・地下部間のΔδ15Nとの関係を解析し,新手法の 有効性を検証した。 材料と方法 マ メ 科 植 物 で あ る メ ド ハ ギ ( Lespedeza cuneata ) お よ び 非 マ メ 科 植 物 で あ る ナ ワ シ ロ グ ミ (Elaeagnus pungens)とヤマモモ(Myrica rubra)ならびに対照植物としてBauhinia purpureaをポ ット土壌で栽培した。25,10,5%の土壌水分ストレス処理を行った。 成果と公表 非マメ科植物であるナワシログミ(Elaeagnus pungens)とヤマモモ(Myrica rubra)では窒素固定 能とΔδ15N(地上と地下部間のδ15Nの差)との間に相関関係が認められなかったが,マメ科植物である メドハギ(Lespedeza cuneata)では両者間に有意な相関関係が認められた。以上より,フランキア共 生窒素固定植物には新手法が不適であるが,多年生マメ科植物の初年生株においてはΔδ15Nを用いた方 法が窒素固定能の評価法として有効であることが示唆された。 1. Khadka, J. and Tatsumi, J. 2006. Difference in δ15N signatures among plant parts of perennial species subjected to drought stress with special reference to the contribution of symbiotic N2-fixation to plant N. Plant Production Science 9 (2): 115-122.
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