中国はいまどうなっているか(「尖閣」と「18回党大会・今年の全人代」) 日中関係をどうすればいいか 13年8月 小寺松雄(10年5月~12年12月赤旗北京特派員) 【初めに】この間の中国ニュース*リコノミクス(李首相の経済政策) *第2四半期成長率7・5%*薄熙来公判…など 2 年半は「尖閣で明け暮れた」といっても過言ではない *10年9月 尖閣付近での中国漁船衝突事件⇒不起訴 *12年4月 石原が「都が尖閣購入」表明 * 9月 日本政府、尖閣を「国有化」⇒8日間にわたる反日デモ (12年11月中国共産党18回大会、13 年3月全人代) *今年5月の日中韓首脳会談は延期、日中首脳会談のメド立たず 【尖閣問題の若干の整理(中国側の反論も踏まえて)】 1)領有をめぐって ★1895年1月、日本の領有決定 *無主の島の「先占」(調査、上陸、定住、営業)について=古賀辰四郎は10年前の 1885年に尖閣諸島に上陸、調査、アホウドリの羽に注目。87年、92年には日 本海軍軍艦が測量。96年から移住。中国側からの抗議はない。 *中国側は先占を言う論拠がない(上陸記録はない) 。 「中国の昔の文書に出ていた」と いっても、それは領有とはいえない ★95年4月の下関条約(台湾・澎湖島割譲は日本の帝国主義的悪行、これは前提) *このときに「尖閣」はまったく議題・話題にのぼってない *中国が「日本が日清戦争終結のどさくさにかすめ取った」(これ自体論証がないが) というならその後いくらでも抗議の機会はあったのだが。 ★「古い文書」「先占」について中国は「二重基準」ではないかという声も(フィリピ ンに対して「古い文書の記載はは領有を意味しない」、ベトナムに対して「西沙は中 国が先占した」) 2)12年4月石原発言からの系譜 ⇒6月丹羽大使外国紙インタビュー「都が買えば日中関係に重大な影響」 (正論だ) ⇒日本政府は大使に注意(「日中間に領土問題は存在しない」という論理) ⇒7月、野田首相が国で買う意向を表明 ⇒9 月9日、胡錦濤主席が野田首相に「日本の購入反対」表明(野田は明確な反応せず) ⇒2日後の閣議で購入決定(小寺=これはタイミングとしては妥当でない) 中国高官「胡主席はメンツをつぶされた」⇒中国最高指導部が次々に抗議 ※丹羽前大使について若干の裏話 ※いわゆる「棚上げ」論(72年、78年)について=事実上「棚上げ」はあった。そ のこと自体、「日中間に領土問題がある」ことの証左。日本はもっと堂々と論議、説 得をするべきだった。 3)膠着状態の中で、さてどうするか ★日本政府はなぜ「日中に領土問題存在」と言えない、言わないのか ある公使「実効支配してるのになぜその必要があるのか。それほどお人よしではない」 *一方、宮本元大使「領有権問題はないが、領土問題は存在する」 丹羽前大使は最近の著書で「少なくとも外交上の争いになっているわけで、それを争 いすらないとまで言い切るのはいかがなものか」 「一触即発みたぃになっているから この危機管理について話し合いましょう、これが私の立場」 ★日本政府はメンツもあるだろうが、自信があるのなら、 「討論、説得、批判」をして みたらどうか。少なくとも中国は「話し合いで」とは言ってる。 ★双方とも事態をエスカレートさせないことが喫緊(常駐論やレーダー騒動など論外) ★政府とともに、なによりも草の根の国民レベルで、友好と話し合い(ときには論議も) ※国際司法裁に提起…という論は? ★この間のキーワード3つ 1) 「中華民族の偉大な復興という中国の夢」(党大会後、全人代後の習近平あいさつ) 「中華民族の偉大な復興」は何をもって言うか ① GDPで米国を抜く日?(早ければ2016年にも 一般的には30年代) ②1人あたりGDPがやはり重要(現在は180カ国の90位~100位) 。これをど の程度まで上げるのを目標とするか ③ 2020年には「小康社会の全面達成」 (GDPを2010年から20年までに2倍 に)して、21年に中国共産党創立100年を迎える、その時? ④2049年は中国革命100年、18大会「新中国100年には、わが国を富強、民 主、文明、調和の取れた社会主義の現代化国家に」 、この時? ※いま中国は③④を「二つの100年計画」と言っている。 もう少し視野を長くした「100年」論もある⇒1987年に打ち出された社会主義 初級段階論(趙紫陽「100年かかる」 ) 。 2) 「科学的発展観」=党大会で打ち出された5つの指針「マルクス・レーニン主義」 「毛沢東思想」「鄧小平理論」「三つの代表」 「 「科学的発展観」 「科学的発展観」=くだいていえば成長一本槍ではなく環境や格差にも目を配った総 合的視点…注目していきたい 3) 「一次配分と再配分」 ※「分配・再分配」は近経の用語とされるが、中国ではごく普通に使われている *18大会「発展の成果を人民が共に享受するよう所得分配制度の改革を進化させなけ ればならない」⇒今年2月3日国務院「国家発展改革委員会の所得分配制度改革深化 に関する意見」=「所得分配制度改革深化は非常に困難で複雑なシステムである」 「一 時分配と再分配で効率と公平の両方に配慮」と指摘し、具体論を展開 *今年の全人代報告での「所得分配制度改革」の重視。報告はこれを「社会主義市場経 済の重要な礎石」と位置づけている。 ★全人代最終日・李克強新首相会見で感じたこと2点 *汚職腐敗に関して「役人になると金を得る」と思うな *「平和発展」と「主権堅持」は両立する※期待したいがかなり難しいと思う(小寺) ★寄り道2つほど 【「格差」拡大?縮小?】 *31行政区1人あたりGDP 05年上海対貴州10対1 12年天津対貴州5対1 この面では縮小 *ジニ係数 00年0・41⇒12年0・47(0・61との試算も)拡大 【中国共産党常務委員7人と新職務】 50歳代の2人(習主席と李首相)トップ2。あとの5人は17年に勇退。どんな5 人が新たに入るか? *一時常務委入り有望だった2人 李源潮(62) 、汪洋(57) *政治局員中、注目の若手2人 孫政才(49) 、胡春華(49) ★中国への思いは「期待・敬意」 「懸念・不安」 「嫌悪・否定」と大きな幅がある。それ でも「期待と懸念がないまぜになった注目」は今後とも続く。中国はそれにふさわし い理性的な国家運営、周辺国の見方を意識した外交がなおのこと求められると思う。 ★中国のあるジャーナリストが、(尖閣問題に関してではあるが)この間の独仏和解を 教訓に日中関係で提言「日本はドイツのように謙虚さと責任を負う勇気を、大国とな った中国はフランスのような寛容さと気概をもってほしい」と発言(小寺流に言いな おせば「中国は大国にふさわしい謙虚さと理性を」 ) ★5・1赤旗1面 シンガポールのトミー・コー無任所大使「ほとんどの日本の知識人 が中国の興隆を日本への脅威とみなし、覇権を求めていると考えている。一方で中国 の知識人は、日本が米国による中国の封じ込めに加担していると疑ってる」 「計算違 いの危機を避けよ」 (了) ※参考までに ★2000年日本共産党22回大会報告(志位)=市場経済は、そのまま放任すれば国 民生活を脅かす破壊的な作用をもつが、社会全体の経済運営の中で「市場の調節作用」 が重要な役割を果たすことも事実であり、計画経済と結合されるなら、社会の進歩的 な発展の道をきりひらく要素となりうる。こうした立場から私たちは、中国、ベトナ ムなどの市場経済の導入を「一路資本主義化」とみなす単純な立場に立つものではあ りません。レーニンが試行錯誤を経て、晩年に到達した社会主義への過渡期の政策- 「新経済政策」は、市場経済を大胆に取り入れながら、社会主義部門を市場競争のな かで十分に勝てる力をもつように育てていくという構想でした。これは短期間で終わ ★志位『綱領教室第2巻』から *(中国、ベトナム、キューバについては)綱領の言葉どおりにいえば「社会主義をめ ざす新しい探求が開始された」国ぐにだということです。この点で綱領はたいへん慎 重で厳密な書き方をしています。P266 *中国は…すでに世界第二位の経済力を持ち、まもなく世界最大の経済力を持つ国にな ろうとしているけれども、依然として膨大な貧困人口を抱え、今後も長期にわたって 貧困や格差とのたたかいが求められている発展途上国である。汚職・腐敗や環境破壊 も重大な社会問題となっており、その克服にも取り組まなくてはなりません。そうい う角度で、長い目で中国の発展というものを見る必要があると思います。 P268 *いまの中国には、資本主義に害悪を国民的に体験することが難しいという問題がある。 外国の多国籍企業もたくさん入り…国内の私的資本主義の企業も巨大化…しかしす べて政府の政策、了解、協力のもとで経済活動をしている企業ですから、そこで起こ ってくる資本主義の害悪の批判と告発をどのように行うかは、難しい問題… P274 ※この点は不破哲三も05年の日中理論会議で「国民的な自覚の中で社会主義的前進の 原動力を生み出してゆくためには資本主義批判が不可欠…。資本主義か社会主義化の 対比で問題を吟味するという立場からの議論にほとんど出合わない」と問題提起。 『2 1世紀の世界と社会主義』P183~ (了)
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