<第 24 号>平成 28 年 4 月 18 日 湘南養護学校 支援連携部 相談支援係―教師編― ~コミュニケーション方法の選択とツールの活用~ 新年度が始まりました。子どもたちは新たな出会いに不安な様子を見せつつも、徐々に学校生活に慣 れてきたように感じられます。そんな子どもたちとのスムーズなコミュニケーションを進めるに当たっ ては、先生たちにとってもどのような接し方をするのがよいのか迷われることもあるでしょう。特に、 障がいの程度によっては言語発達の遅れがあるだけでなく、音声言語による表出が全く見られない子ど ももいる中では、子どもの“声”をいかに聴き取ったり伸ばしたりしていけばよいかは大きな課題です。 そうした子どもの場合、音声言語以外のコミュニケーション方法として、拡大・代替コミュニケーショ ン(AAC; Augmentative & Alternative Communication)が推進されます。 AAC をいかに選択し、活用すればよいか AAC とは、子どもが現在持っているコミュニケーションスキルを拡大(Augmentative)し、サイン や絵カードシステムなど話し言葉に代わる(alternative)コミュニケーション手段を活用することです。 AAC というと、話し言葉以外の方法を用いることが強調されがちですが、今持っている力を拡大しつつ、 他の手段を必要に応じて活用していきます。そのため、「うちの子どもはサインを使っているけど、サインを 使っちゃダメなの?PECS じゃないとダメなの?」ということはありません。サインも充実させながら、サイ ンだけでは十分に伝えきれない本人の気持ちをそれ以外の方法でより機能的(スムーズに、伝わりやす く)に伸ばしていきます。発音が不明瞭であれば、音声模倣の練習も積み重ねながらサインや PECS と いった複数の手段を教えることもあります。 また、話し言葉の代わる方法やツールには、それぞれ長所と短所があったり、子どもの力として模倣 する力が備わっているかどうか、手先の器用さなどによって手段選択の幅が変わってきます。なお、AAC について詳しく知りたい方は、 「自閉症児と絵カードでコミュニケーション PECS と AAC」(アンディ・ボンディ、 ロリ・フロスト著 二瓶社)をご一読されることをお勧めします。 ~校内の風景より~ では、実際に校内での AAC の実践についてご紹介します。コミュニケーションの発信する力を伸ば す機会として最もふさわしいのは、子どもの要求する気持ちが高まる場面です。多くの子どもにとって は給食の場面が取り組みやすい場面となります。 名前 コミュニケーション・レベル コミュニケーションの方法と目標 ①A さん 話し言葉で限定された単語を使 PECS+話し言葉の併用。2 語文への発展をねらう。 って意思表出可能。 PECS のフェイズⅣ「文構成の導入」です。話し言 葉だけでは単語で発声するのみですが、PECS で視 覚的な支援を行い、2 語文への拡大を図ります。 子どもは、カードを指差しながら発声しています。 「ラーメン」 「ください」 「ラーメンください」 分かりました。 名前 コミュニケーション・レベル コミュニケーションの方法と目標 ②B くん 単音での発声あり。動作模倣を 単音での発声+PECS+サインの 3 種類の方法を併用 促し、サインの表出を練習中。 し、コミュニケーションの発信力を養うことと、発声の機 会と種類を増やす。 ②サイン B さんは母音といくつかの子音の発声ができ スープく ださい、ね ①PECS ③発声 ます。音声だけで意思を十分に伝えることは困 難なので、サインと PECS も併用してより伝 わる表現の獲得を目指しています。 名前 コミュニケーション・レベル コミュニケーションの方法と目標 ③C くん 不明瞭な発音はあるが、単音ず PECS+話し言葉の併用。PECS を補助的に活用して話 つひらがなを音声で読み上げる し言葉で意思を伝える力を養う。 ことができる。 せ・ん・せ・い・ ご・は・ん・く・だ・さ・い “先生ご飯ください”ね C さんは、1 音ずつですが話し言葉を使える 場面や内容は増えてきています。PECS は表 現力を養う重要な役割を果たしています。 名前 コミュニケーション・レベル コミュニケーションの方法と目標 ④D くん 話し言葉で 2、3語文の表出があ PECS+話し言葉の併用。PECS を補助的に活用して、 る。ひらがなを読める。 「○○先生、××と△△をください。」といった複数の助詞 を活用した話し言葉で表現できる力を養う。 ○○先生、野菜と魚をください。 話し言葉での表現力の充実を図るために、 “○○先生、野菜と魚 をください”だね、分 かりました。 PECS は重要な役割を果たしています。D さんは、助詞を使った表現を獲得中です。 ご紹介した事例は、すべて小学部の同じ学年の児童です(※事例は、本質を損ねない程度に改変してあります)。 複数のコミュニケーション方法を活用することは子どもにとって負担になることもあるかもしれません が、それぞれの長所と短所を上手に使い分けて無理なく実践されています。 B さんや C さんについては、AAC の活用をすることが話し言葉(発声)を伸ばすよい手立てとなっ ています。自分にとって分かりやすく使いやすい方法は、コミュニケーションの意欲をよく伸ばし、意 欲が伸びれば表現力も伸びるという相乗効果があることがよく分かります。今回紹介した事例は映像が ありますので、実際の様子をご覧になりたい方は、相談支援係までご連絡ください。
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