ミヤコグサの根粒形成と肥料成分の関係 多摩大学附属聖ヶ丘中学高等学校 畔柳 知幸(高 1) 渋谷 卓(高 1) 1.はじめに 私たちは、宇宙教育プロジェクトによるミヤコグサの育成観察を発展させ、マメ科植物と 共生する根粒菌による根粒形成のしくみについて実験し、地球種と宇宙種を比較検討した。 2.根粒菌について 根粒菌とは、マメ科の植物(ミヤコグサやエダマメ)の根に根粒 (根粒菌とマメ科の植物との共生によって植物の根に生じる瘤)を 形成して共生する土壌微生物のことである。根粒菌はマメ科の植物 に根粒を形成すると、ほとんどの生物が利用することができない空 中窒素(N₂)を固定しNH₃(NH₄⁺)に変化させ、マメ科植物に ←根粒 供給している。一方、マメ科植物からはエネルギー源となる糖類な どを受け取る。この両者の関係は「共生」と呼ばれ、根粒菌が根粒 内で行う窒素固定を「共生窒素固定」と言う。根粒菌は土壌中で単 独生活をしている時は窒素固定を行わず、マメ科の植物と共生をし た時のみ窒素固定を行う。 図1 ミヤコグサの根粒 また、根粒菌にも多くの種類があり、宿主となる植物ごとに根粒菌 の種類が異なる。 植物は土壌に十分に窒素成分がある時には根粒菌を形成しない。植物が根に根粒菌をつける ということは、植物にとって余計な細胞分裂を行ったり、根粒菌にエネルギー源である糖類 などを渡さなければならないので、過剰な根粒菌形成は植物にとって高リスクとなる。そこ で、マメ科の植物は根粒をつくる数を調整するシステムを持っている。 3.実験の目的 2に示したように、マメ科植物は根粒形成を調節するシステムを持っており、窒素成分が 十分ある場合には根粒を形成しない。ここでは、ミヤコグサとミヤコグサ根粒菌を用いて、 窒素肥料成分有無や濃度の違いにより、形成される根粒の数がどのように変化するか確かめ るため、実験を行った。 4.実験準備・方法 (1)根粒菌の入手・培養 かずさ DAN 研究所を訪問した際、根粒菌とミヤコグサの 種子を分けてもらった。その後、根粒菌を TY 培地に植え継 ぎ、25℃のインキュベーター内で培養した。 ※TY 培地…Trypton 5.0g、Yeast extract 3.0g、CaCl2・2H2O 0.83g、D.W. 1000ml 図 2 培養した根粒菌 (2)ミヤコグサの育て方 ①ミヤコグサの種子を硫酸を使い、発芽処理する。 ②バーミキュライトに 2 ㎜ほどの深さに植える。 ③水に溶いた根粒菌を上から散布する。 ④インキュベーターを 25℃に設定し、中に蛍光灯を入れ、 16 時間点灯し、8 時間消灯する。 ⑤肥料は 1 週間に 1 度与え、それ以外は水を与える。 ⑥1 週間ごとにミヤコグサを抜き、根粒の様子を調べる。 ※種子の硫酸処理…①種子に濃硫酸を加え、 15~20 分処理す る。②濃硫酸を捨て、蒸留水で洗う。その後、15 分ごとに 蒸留水を交換し、2 時間前後洗浄・給水を行う。③給水し 膨らんだ種子をまく。④この方法では、同調的に種子を発 芽できる。播種後 3 日程で、ほぼ 100%発芽・発根する。 図 3 育てたミヤコグサ 図3 照明装置を入れたインキュベーター 5.実験その1 以下のような肥料成分の違いによる根粒形成を観察した。 肥料として2種類のハイポネックスを使用した。 1 ハイポネックス原液 含有肥料成分 窒素:リン酸:カリ=6:10:5(通常 1000 倍希釈で使用) 2 ハイポネックスハイグレード 含有肥料成分 窒素:リン酸:カリ=0:6:4(窒素を含まず、通常 開花促進で使 用) 肥料液として、①ハイポネックス原液 1000 倍希釈、②同 1 万倍希釈、③ハイポネックス ハイグレード 1000 倍希釈を用意し、 「水のみ」のものも含め、上記4(2)の方法で、10 月 6 日から実験を開始した。 <結果> 播種後2週間くらいまでは、根粒の形成は見られなかった。17 日後の観察で初めて、 「水 のみ」とハイポネック 1 万倍希釈で根粒の形成が確認された。24 日後以降は、実験を行った 全ての肥料液で根粒形成が確認されたが、ハイポネックス 1000 倍希釈では根粒形成はわず かで、またハイポネックス 1 万倍希釈とハイポネックスハイグレード 1000 倍希釈では「水 のみ」よりも多くの根粒形成が確認された。 表1 実験その1結果 ×…根粒なし △…根粒(少) ○…根粒あり ◎…根粒(多) <考察> ハイポネックス 1000 倍希釈では根粒はあまり形成されず、ハイポネックス 1 万倍希釈と ハイグレード 1000 倍希釈では多くの根粒が形成されたことから、土壌中に窒素成分が多い 時には根粒をあまり形成せず、窒素成分が少ない時には多くの根粒を形成するという、マメ 科植物の根粒形成を調整するシステムが働き、このような結果になったと考えられる。 6.実験その2 上記の実験をさらに定量的に調べるために、形成された根粒を大きさ別にポイント化し、 根粒形成を観察した。根粒の長径の長さが 1 ㎜未満のものを 1 ポイント、1 ㎜以上 2 ㎜未満 のものを 2 ポイント、2 ㎜以上のものを 4 ポイントとした。上記4(2)の方法で、11 月 14 日 から実験を開始した。 <結果> 21 日後の観察で、 「水のみ」とハイポネックス 1 万倍希釈、ハイポネックスハイグレード 1000 倍希釈で根粒形成を確認したが、ハイポネックス 1000 倍希釈には根粒が形成されなか った。その後も 30 日後、37 日後、42 日後、53 日後と根粒は増え、結果は表2の通りであ る。数値は、それぞれの条件で育成した、3 株の平均値である。今回は、ハイポネックス 1000 倍希釈には根粒が全く形成されなかった。また、ハイポネックス 1 万倍希釈とハイポネック スハイグレード 1000 倍希釈には、 「水のみ」よりも多くの根粒形成が確認された。 表2 実験その2結果 図4 実験その2結果 <考察> ハイポネックス 1000 倍で全く根粒が形成されなかったことから、土壌中に窒素成分が多 いと根粒を形成せず、窒素成分が少ないと根粒を形成することが明確となった。 7.実験その2から 「水のみ」に比べ、ハイポネックス 1 万倍希釈とハイポネックスハイグレード 1000 倍希 釈に根粒が多く形成されていることが分かったため、ミヤコグサの地上部の成長の具合と根 粒形成の関連を調べてみた。地上部の成長は、茎の長さと葉の数を調べた。 ≪結果≫ 12 月 5 日の観察では、茎長・葉数ともに差がないが、それ以降からハイポネックス 1000 倍希釈、ハイポネックスハイグレード 1000 倍希釈、ハイポネックス 1 万倍希釈、 「水のみ」 の順で成長が良かった。 表3 地上部分の成長の比較 <考察> ハイポネックス 1000 倍希釈は肥料 成分が十分で、根粒を形成しなくても 1 番良く成育している。ハイポネック ス 1 万倍希釈とハイグレード 1000 倍 希釈は肥料成分が不足している分を根 粒菌で補ってある程度成育している。 「水のみ」の場合は、ハイポネックス 1 万倍、ハイグレード 1000 倍に比べ 根粒が少ないのは、リン酸やカリなど もないため植物の成長が悪く、植物自 身に根粒形成のためのエネルギーが不 足し、根粒菌への糖類の供給も少なか ったからではないかと考えられる。 ハイポネックス 1 万倍 水のみ ハイポネックス 1000 倍 ハイグレード 1000 倍 図5 地上部分の成長の比較 8.実験その3 以上の実験をもとに,地球種と宇宙種とで,根粒の形成に違いが生じるか確かめてみた。 結果は下の表の通りである。データが少なくはっきりしたことはいえないが,今のところ地 球種と宇宙種で根粒形成について大きな違いは認められていない。 水のみ ハイポネックス1000倍 ハイポネックス1万倍 ハイグレード1000倍 地球 宇宙 地球 宇宙 地球 宇宙 地球 宇宙 茎長(㎜) 52 52 63 53 55 61 60 62 葉数 4 4 4 4 4 4 4 4 根粒 (ポイント) 5 6 0 0 5 4 7 9 表4 地球種と宇宙種の根粒形成の比較 研究協力…かずさDNA研究所
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