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(行ケ)第10238号審決取消請求事件 日焼け止め剤組成物事件PDF

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担当:辰野嘉則
事件名:日焼け止め剤組成物事件
法分野:特許法
知財高裁平成 22 年 7 月 15 日判決(平成 21 年(行ケ)第 10238 号審決取消請求事件)
(最高裁 HP:http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100716094532.pdf 判時 2088 号 124 頁)
【事案の概要】
・ 原告は、発明の名称を「日焼け止め剤組成物」とする発明(以下「本件発明」という。
)について平成11年
7月29日に国際特許出願(優先権主張平成10年7月30日、米国)をし、平成18年11月15日、拒絶
査定を受けたため、これを不服として、平成19年2月19日、拒絶査定不服審判請求を行った。
・ 審判手続において原告は、平成19年3月19日付け審判請求理由補充書において【参考文献1】として新た
な実験結果(以下「本件実験結果」という。
)を提出し、本件発明(実施例1)は、従来品(比較例1~4)
に対して、SPF値(注:UV-Bに対する防止効果の指標)について約3~10倍、PPD値(注:UV-
Aに対する防止効果の指標)について約1.1~2倍の値を示し、紫外線照射によってもかかる格段に高いS
PF値、PPD値を維持しているなどと、予想外の作用効果の存在を主張していた。
・ 特許庁は、平成21年3月31日、請求不成立の審決(以下「本件審決」という。
)を下した。その判断内容
は大要以下のとおりである。
① 本件発明と引用例A(特開平9-175974)の相違点
本件発明は「0.1~4重量%の2-フェニル-ベンズイミダゾール-5-スルホン酸である UVB 日焼け止
め剤活性種を含む」のに対し、引用例 A は「任意に通常のUV-Bフィルターを含む」とされている点
② 発明の容易性(特許法29条2項)
ア 「2-フェニル-ベンズイミダゾール-5-スルホン酸」が代表的な「UV-Bフィルター」の1つであ
ることは周知であり、後者の成分の中から前者を選定することは容易
イ 配合量として引用例Aに「UV-Bフィルターが約1~約12%の量で存在する」と記載されており、こ
れと範囲が重複する本件発明の「約0.1~4重量%」と特定することも当業者が適宜なし得る
ウ 本願明細書において、本件発明の効果については一般的な記載にとどまり、特に「UV-Bフィルター」
を「2-フェニル-ベンズイミダゾール-5-スルホン酸」に特定することによる効果については、何ら
具体的に記載されていないため、本願明細書の記載からは、格別予想外の効果が奏されたとはいえない。
「なお、平成19年3月19日付けの審判請求理由補充書において【参考文献1】として記載された本願
発明(請求項1の組成物)のSPF又はPPDに関する効果については、本願明細書には「UV-Bフィ
ルター」を「2-フェニル-ベンズイミダゾール-5-スルホン酸」に特定することによる効果が何ら具
体的に記載されていないので、参酌することができない。
」
・ 本件は、原告が本件審決を不服として、その取消を求めた事案である。
【争点】
① 出願後の実験の結果を特許法29条2項の要件充足性判断に際して参酌することの可否
② 本件発明は、本件における出願後の実験結果を参酌すれば、引用発明に比して当業者が予期し得ない格別
予想外の顕著な作用効果を奏するものといえるか
1
担当:辰野嘉則
【争点に対する判断】
(結論:請求認容)
1. ①出願後の実験結果の参酌の可否 → 本件実験結果につき肯定

出願後の実験結果の参酌が原則として否定される根拠
「特許法29条2項の要件充足性を判断するに当たり、当初明細書に、
「発明の効果」について、何らの記載が
ないにもかかわらず、出願人において、出願後に実験結果等を提出して、主張又は立証することは、先願主義を
採用し、発明の開示の代償として特許権(独占権)を付与するという特許制度の趣旨に反することになるので、
特段の事情のない限りは、許されないというべきである。
」
「本願当初明細書において明らかにしていなかった「発明の効果」について、進歩性の判断において、出願の後
に補充した実験結果等を参酌することは、出願人と第三者との公平を害する結果を招来するので、特段の事情の
ない限り許されないというべきである。
」

出願後の実験結果の参酌が許される場合
「他方、進歩性の判断において、
「発明の効果」を出願の後に補充した実験結果等を考慮することが許されない
のは、上記の特許制度の趣旨、出願人と第三者との公平等の要請に基づくものであるから、当初明細書に、
「発
明の効果」に関し、何らの記載がない場合はさておき、当業者において「発明の効果」を認識できる程度の記
載がある場合やこれを推論できる記載がある場合には、記載の範囲を超えない限り、出願の後に補充した実験
結果等を参酌することは許されるというべきであり、許されるか否かは、前記公平の観点に立って判断すべき
である。
」
 本件への当てはめ
・ 「本願当初明細書(甲3、段落【0011】
)には、本願発明の作用効果について、
「・・・現在、驚くべきこと
に、本組成物が優れた安定性(特に光安定性)
、有効性、及び紫外線防止効果(UVA及びUVBのいずれの
防止作用を含めて)を、安全で、経済的で、美容的にも魅力のある(特に皮膚における透明性が高く、過度の
皮膚刺激性がない)方法で提供することが見出されている」との記載がある。
」
・ 「本願当初明細書(甲3、段落【0025】
)には、・・・「好ましいUVB日焼け止め剤活性種は、2-フェニ
ル-ベンズイミダゾール-5-スルホン酸、TEAサリチレート、オクチルジメチルPABA、酸化亜鉛、二
酸化チタン、及びそれらの混合物から成る群から選択される。好ましい有機性日焼け止め剤活性種は2-フェ
ニル-ベンズイミダゾール-5-スルホン酸である」との記載がある。
」
・ 「以上の記載に照らせば、本願当初明細書に接した当業者は、
「UV-Bフィルター」として「2-フェニル
-ベンズイミダゾール-5-スルホン酸」を選択した本願発明の効果について、広域スペクトルの紫外線防止
効果と光安定性をより一層向上させる効果を有する発明であると認識するのが自然である」
・ 「他方、本件【参考文献1】実験の結果によれば、本願発明の作用効果は、①本願発明(実施例1)のSPF
値は「50+」に、PPD値は「8+」に各相当し、従来品(比較例1~4)と比較すると、SPF値につい
ては約3ないし10倍と格段に高く、PPD値についても約1.1ないし2倍と高いこと(広域スペクトルの
紫外線防止効果に優れていること)
、②本願発明は従来品に対して、紫外線照射後においても格段に高いSP
F値及びPPD値を維持していること(光安定性に優れていること)を示して」いる
・ 「確かに、本願当初明細書には、本件【参考資料1】実験の結果で示されたSPF値及びPPD値において、
従来品と比較して、SPF値については約3ないし10倍と格段に高く、PPD値についても約1.1ないし
2倍と高いこと等の格別の効果が明記されているわけではない。しかし、本件においては、本願当初明細書に
接した当業者において、本願発明について、広域スペクトルの紫外線防止効果と光安定性をより一層向上させ
る効果を有する発明であると認識することができる場合であるといえるから、進歩性の判断の前提として、出
願の後に補充した実験結果等を参酌することは許され、また、参酌したとしても、出願人と第三者との公平を
害する場合であるということはできない。
」
2
担当:辰野嘉則

被告の主張の排斥
* 被告の主張=「段落【0011】の記載は、本願発明の効果についての一般的な記載に止まるものであっ
て、本願当初明細書によっては、どの程度のSPF値やPPD値を有するかについて推測し得ない」
・ 「被告の主張を前提とすると、本願当初明細書に、効果が定性的に記載されている場合や、数値が明示的に記
載されていない場合、発明の効果が記載されていると推測できないこととなり、後に提出した実験結果を参酌
することができないこととなる。このような結果は、出願人が出願当時には将来にどのような引用発明と比較
検討されるのかを知り得ないこと、審判体等がどのような理由を述べるか知り得ないこと等に照らすならば、
出願人に過度な負担を強いることになり、実験結果に基づく客観的な検証の機会を失わせ、前記公平の理念に
もとることとなり、採用の限りでない。
」
2. ②出願後の実験結果を参酌した場合の本件発明における予想外の顕著な作用効果の有無 → 肯定
 本件発明に顕著な作用効果があるか
本件「実験結果を参酌すれば、引用発明に比較して当業者が予期し得ない格別予想外の顕著な効果を奏する」

被告の主張の排斥
* 被告の主張=本件実験結果にいう紫外線防止効果は、当業者が一般的指標であるSPF値、PPD値で確
認し得たものに過ぎないから、当業者が予想し得た範囲内である
・ 本件訴訟係属中に原告が実施した本件追加比較実験の結果によれば、2-フェニル-ベンズイミダゾール-5
-スルホン酸を水に溶解したもの(比較例5)及び日焼け止め剤活性種としては2-フェニル-ベンズイミダ
ゾール-5-スルホン酸のみを含む組成物(比較例6)では、SPF値、PPD値がいずれも低く、
「広域ス
ペクトルの紫外線(UVA及びUVB)防止効果を十分に得ることができない」から、
「本願発明は、2-フ
ェニル-ベンズイミダゾール-5-スルホン酸を他の特定成分と組み合わせることにより、各成分が互いに作
用し合う結果として、当業者において予想外の顕著な作用効果(広域スペクトルの紫外線防止効果及び光安定
性が顕著に優れるという作用効果)を有するものである」
。
* 被告の主張=本願当初明細書には開示も示唆もなかった併用による相乗効果を主張することは、先願主義
を採り発明の開示の代償として特許権を付与するという特許制度の趣旨からみても許されない
・ 「本願当初明細書には、
「現在、驚くべきことに、本組成物が優れた安定性(特に光安定性)
、有効性、及び紫
外線防止効果(UVA及びUVBのいずれの防止作用を含めて)を、
・・・提供することが見出されている。
」
(甲3、段落【0011】
)
、
「好ましい有機性日焼け止め剤活性種は2-フェニル-ベンズイミダゾール-5
-スルホン酸である」
(甲3、段落【0025】
)と記載されているから、当業者は、UVBフィルターとして
「2-フェニル-ベンズイミダゾール-5-スルホン酸」を含み、他の特定成分と組み合わせた本願発明の組
成物が優れた紫外線防止効果を有することを理解し、各組成成分の和を超えた相乗効果をも奏し得るであるこ
とを理解することができるといえるから、被告の上記主張は採用の限りでない。
」
* 他の被告の個別主張に対する判断は省略
3
担当:辰野嘉則
【コメント】
・ 本裁判例は、先願主義を採用する特許制度の趣旨に照らして、出願後の実験等を提出することは原則としてっ
許されないが、出願人と第三者との公平等の要請を害さない場合には許されるとし、当業者において「発明の
効果」を認識できる程度の記載がある場合やこれを推論できる記載がある場合には、記載の範囲を超えない限
り、出願の後に補充した実験結果等を参酌することは許されるとの判断を示したものである。
・ 明細書に当業者において「発明の効果」を認識できる程度の記載がある場合やこれを推論できる記載がある場
合には実験結果を参酌してよい、という一般論は、従来の裁判例や特許庁審査基準とも形式的には整合するが
本件特許明細書には、前掲【0011】や【0025】のようなごく定性的記載しかないにもかかわらず、出願後に
補充した実験結果等の参酌を認めた点は特徴的であり、同様に定性的な記載しか存在しないことを理由として
新規実験による主張を排斥した下記平成 17 年知財高裁判決等との統一的な理解は困難である。
・ 従来より、日本特許庁よりも米国特許商標庁や欧州特許庁の方が出願後に実験結果等を広く参酌すると言われ
るが、日本特許庁のこれまでの取扱に対して一石を投じる判断と言えよう。
(参考・本件判決の規範と従来の裁判例・特許庁審査基準)
 特許庁審査基準(第 II 部第2章 2.5 (3)②「意見書等で主張された効果の参酌」
)
・ 「明細書に引用発明と比較した有利な効果が記載されているとき、及び引用発明と比較した有利な効果は明記
されていないが明細書又は図面の記載から当業者がその引用発明と比較した有利な効果を推論できるときは、
意見書等において主張・立証(例えば実験結果)された効果を参酌する」
⇒明細書に明記されていない場合、当業者がその記載から有利な効果を推論できる場合は参酌可
⇒「効果を推論できる」ためにどの程度の記載が必要か(定量的記載が必要か)については言及なし
●明細書に定性的な記載のみあった事案
 知財高裁平成 17 年 11 月 8 日判決(平成 17 年(行ケ)第 10389 号)
・ サリチル酸系抗炎症剤とトラネキサム酸を組み合わせた解熱鎮痛剤の発明について、明細書には、
「本発明に
用いられるサリチル酸系抗炎症剤としては・・・エテンザミドが特に好ましい(
【0005】
)
」と記載され、具体
的な抑制率(数値)も記載されていた(
【0015】
、
【0016】
)
。
・ 明細書【0005】には「本発明に用いられるサリチル酸系抗炎症剤としては特に制限されないが、アスピリ
ン、エテンザミド、サリチル酸メチル、サリチル酸ナトリウム、サリチル酸アミド、アスピリンアルミニウム
等が好ましく、エテンザミドが特に好ましい。
」と、定性的にエテンザミドと他の成分を比較する記載はある
が、他のサリチル酸系抗炎症剤成分とトラネキサム酸の組み合わせについては実施例はなく、具体的・定量的
な記載はない。
・ 原告は、サリチル酸系抗炎症剤としてエテンザミドを選択することにより顕著な効果が得られることを、エテ
ンザミド以外の成分とトラネキサム酸の組み合わせでは炎症の抑制率が低いことが記載された実験成績証明
書(甲 12、13)により主張したが、知財高裁は、
「本願明細書には、エテンザミド以外のサリチル酸系抗炎症
剤にトラネキサム酸を配合した例の記載がなく、エテンザミドを採用することが、それ以外のサリチル酸系抗
炎症剤を採用することと比較して、格別に顕著な効果を奏するものであることをうかがわせるような記載もな
い」ことから、出願人(原告)の主張は明細書の記載に基づかないものとして、進歩性なしと判断。
⇒エテンザミド以外のサリチル酸系抗炎症剤とトラネキサム酸との併用の場合に抑制率が低いことについては、
明細書に当業者において「発明の効果」を認識できる程度の記載がなく、これを推論できない場合であったと
考えれば、本件判決の一般論部分とは整合的に解釈できる。
⇒本件判決と異なり、明細書における定性的な記載(定性的な効果の記載+エテンザミドが特に好ましいという
記載)では足りないとの判断。
 知財高裁平成 21 年 4 月 27 日判決(平成 20 年(行ケ)第 10353 号)
・ 本願発明:
「チアゾリジンジオン及びスルホニルウレアを用いる糖尿病の治療」
4
担当:辰野嘉則
・ 引用発明:
「ピオグリタゾン及びグリベンクラミド(スルホニルウレアの一種)を用いる糖尿病に対する血糖
制御薬」
・ 原告が2年間にわたりスルホニルウレア投与に加えてチアゾリジンジオンを4mg/日で投与する臨床試験
において血糖制御が非常に安定して行われる一方(甲6)
、2年間にわたりスルホニルウレア投与に加えてピ
オグリタゾンを投与する臨床試験においては、そのような血糖の持続的調節に成功しなかった(甲7)と主張
したが、知財高裁は、甲6、甲7の実験結果を参酌した上で、そもそも本願発明の血糖制御の作用効果は、引
用発明から予測できない顕著な作用効果ということはできない、と判示した。
・ 明細書の記載は、
「今回、驚くべきことに、インスリン分泌促進物質と組み合わされた化合物(I)が血糖制御
に対して特に有効な効果を発揮することが示された。
」という定性的な記載に止まる。
⇒明細書に効果が定性的にしか記載されていない状況で、定量的な実験結果を参酌した点で本件判決と共通。
●明細書に定性的な記載すらなかった事案
 知財高裁平成 20 年 3 月 31 日判決(平成 18 年(行ケ)第 10219 号)
・ 原告が比較実験データを提出したが、
「本願補正明細書には、・・・本願補正発明の具体的な効果については、特
定の病原生物に対する抗菌活性範囲が記載されているのみであって、従来のマクロライド系抗生物質と比較し
てどの程度に有利な効果があるのかは何も開示されていない。したがって、本願出願後に提示された試験結果
に基づく有利な作用効果は、本願補正発明の記載から推測できるものではない。
」として、進歩性を否定。
 知財高裁平成 22 年 5 月 26 日判決(平成 21 年(行ケ)第 10319 号)
・ 毛髪トリートメント組成物及び毛髪トリートメント方法に関する発明につき、明細書に「圧縮ガスの圧力が9
乃至11バール」と記載されていたがその効果については記載がなかった。
原告が審決後に行った実験結果によって、10バールの圧力の圧縮ガスを使用した方が、7バールの圧力の圧
縮ガスを使用したときよりもヘアトリートメント組成物の毛髪への分配が有意に優れると主張したことに対
し、知財高裁は、
「そのような効果については本願明細書が記載するものではない」として、進歩性を否定。
【参考文献等】
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特許庁審査基準(第 II 部第2章)
知財高裁平成 17 年 11 月 8 日判決(平成 17 年(行ケ)第 10389 号)
知財高裁平成 21 年 4 月 27 日判決(平成 20 年(行ケ)第 10353 号)
知財高裁平成 20 年 3 月 31 日判決(平成 18 年(行ケ)第 10219 号)
知財高裁平成 22 年 5 月 26 日判決(平成 21 年(行ケ)第 10319 号)
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