イスラームにおける自然・生命・人間

2012 年度全学共通科目(総合科目)
「諸宗教における自然と人間」第 11 回
2012 年 12 月 20 日
イスラームにおける自然・生命・人間
赤堀雅幸
(外国語学部アジア文化研究室)
ねらい:
砂漠の町メッカに生まれたイスラームは、その出発点から、人類に普遍の宗教とし
て自らを規定し、唯一神への絶対的な帰依を基調として、世界宗教のひとつへと発展
していった。イスラームの教えはどのよう自然、生命、人間のありようを語っている
のか、そしてその教えは現実の人々の暮らしにどのような色合いを与えているかを論
ず る こ と で 、「 唯 一 な る 神 」 と 「 多 様 な る 世 界 」 の 関 わ り に つ い て 考 え る 。
ながれ:
1:砂漠から世界へ
2:セム的一神教の伝統
3:神の徴としての自然と生命
4:被造物たる人間とその使命
基本文献:
事典
大塚和夫他編
2002
『岩波
日本イスラム協会他監修
2002
イ ス ラ ー ム 辞 典 』 岩 波 書 店 ( CD-ROM版 あ り )。
『新イスラム事典』平凡社(旧版がウェブ上で検索でき
る)
概説
赤堀雅幸編
井筒俊彦
2008
『民衆のイスラーム―スーフィー、聖者、精霊の世界』山川出版社
『 イ ス ラ ー ム 文 化 ―そ の 根 柢 に あ る も の 』 岩 波 書 店
1991
エ ス ポ ジ ト 、 J. L.
2009
『 イ ス ラ ー ム 世 界 の 基 礎 知 識 ― 今 知 り た い 94章 』 山 内 昌 之 監 訳 、
原書房
小杉泰
1994
『イスラームとは何か―その宗教・社会・文化』講談社
東長靖
1996
『 イ ス ラ ー ム の と ら え 方 』 世 界 史 リ ブ レ ッ ト 15、 山 川 出 版 社
研究案内
小杉泰他編
長場紘
2006
三浦徹他編
2008
『イスラーム世界研究マニュアル』名古屋大学出版会
『現代中東情報探索ガイド』改訂版、慶應義塾大学出版会
1995
『イスラーム研究ハンドブック』栄光教育文化研究所
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2012 年度全学共通科目(総合科目)
「諸宗教における自然と人間」第 11 回
1:砂漠から世界へ-イスラームの展開
• イスラームは「砂漠の宗教」か?
• イスラームは中東の宗教か?
• アラブはムスリムであり、ムスリムはアラブか?
「 砂 漠 の ア ラ ブ た ち は 、「 わ た し た ち は 信 仰 し ま す 。」 と 言 う 。 言 っ て や る が い い 。
「あなたがたは信じてはいない。ただ『わたしたちは服従しました』と言いなさ
い 。 信 仰 は ま だ あ な た が た の 心 の 中 に 入 っ て は い な い 。」( Q49: 14)
「慈悲あまねく慈愛深いアッラーの御名において。
クライシュ族の保護のため、
冬 と 夏 の か れ ら の 隊 商 の 保 護 の た め 、( そ の ア ッ ラ ー の 御 恵 み の た め に )
かれらに、この 聖殿の主 に仕えさせよ。
飢えに際しては、かれらに食物を与え、また恐れに際しては、それを除き心を安
ら か に し て 下 さ る 御 方 に 。」
( Q106)
「 わ れ は 審 判 の 日 の た め に 、 公 正 な 秤 を 設 け る 。1 人 と し て 仮 令 芥 子 一 粒 の 重 さ で
あっても不当に扱われることはない。われはそれを(計算に)持ち出す。われは
清 算 者 と し て 万 全 で あ る 。( Q21:47)
商業都市メッカにおけるイスラームの成立(7 世紀)
イ ス ラ ー ム の 第 1 次 拡 張 : 支 配 権 の 拡 大 ( 7~ 8 世 紀 )
ア ッ バ ー ス 朝 下 の バ グ ダ ー ド に お け る 神 学 ・ 法 学 の 完 成 ( 9~ 11 世 紀 )
イ ス ラ ー ム の 第 2 次 拡 張 : ス ー フ ィ ズ ム と 民 衆 へ の 浸 透 ( 12~ 15 世 紀 )
2:セム的一神教の伝統―イスラームの基本
• イスラームは反ユダヤ教・反キリスト教か?
• 「右手に剣、左手にコーラン」というのは本当か?
• イスラーム教徒はアッラーという独自の神を信ずるのか?
「あなたがたの神は 唯一の神 (アッラー)である。かれの外に神はなく、慈悲あ
ま ね く 慈 愛 深 き 方 で あ る 。」( Q2: 163)
「或る男がアッラーのみ使いに『どんなムスリムがよいムスリムですか』とたずね
た 。こ れ に 対 し み 使 い は『 言 葉 に よ っ て で も 、手 に よ っ て で も 他 人 を 平 安 に す る
人 が よ い ム ス リ ム で す 。』 と い わ れ た 。」『 日 訳 サ ヒ ー フ ・ ム ス リ ム 』
「 アッラー以外に神はないと証言し、アッラー以外にいかなる神をも崇拝しない者
は 、財 産 、生 命 を 脅 か さ れ る こ と は な い 。そ の 者 ら の 処 遇 は ア ッ ラ ー に 委 ね ら れ
る 」( 同 書 )
「アッラーとその諸々の 天使 、 使徒 およびジブリールとミーカーイールに敵対す
る 者 は 、誰 で あ る の か 。本 当 に ア ッ ラ ー こ そ 不 信 心 者 に と っ て は 敵 で あ る 。」
( Q2:
98)
「実にわれは明証を授けて 使徒たち を遣わし、またかれらと一緒に、 啓典 と(正
邪の)秤を下した。それは人びとが正義を行うためである。またわれは鉄を下し
た 。そ れ に は 偉 大 な 力 が あ り 、ま た 人 間 の た め に 種 々 の 便 益 を 供 す る 。」
( Q57: 25-27)
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「諸宗教における自然と人間」第 11 回
「 言 え 、『 わ た し た ち は ア ッ ラ ー を 信 じ 、 わ た し た ち に 啓 示 さ れ た も の を 信 じ ま す 。
ま た イ ブ ラ ー ヒ ー ム 、イ ス マ ー イ ー ル 、イ ス ハ ー ク 、ヤ ア コ ー ブ と 諸 支 部 族 に 啓
示されたもの、と ムーサーとイーサー に与えられたもの、と主から 預言者たち
に下されたものを信じます。かれらの間のどちらにも、差別をつけません。かれ
に わ た し た ち は 服 従 、 帰 依 し ま す 。』( Q2:136)
六信:唯一神・諸天使・諸啓典・諸使徒・最後の日・天命
イ ス ラ ー ム 教 徒 ・ 一 神 教 徒 ( 啓 典 の 民 )・ 多 神 教 徒 ・ 無 神 論 者
3:神の徴としての自然―イスラームの自然観
「( か れ こ そ は ) 天 と 地 の 創 造 者 で あ る 。 か れ が 一 事 を 決 め ら れ 、 そ れ に 『 有 れ 』
と 仰 せ に な れ ば 、 即 ち 有 る の で あ る 。」( Q 2: 117)
「本当にあなたがたの主はアッラーであられる。かれは 6 日で天と地を創り、
それから玉座に座しておられる。
かれは昼の上に夜を覆わせ、夜に昼を慌ただしく相継がしめなされ、
また太陽、月、群星を、命に服させられる。
あ あ 、か れ こ そ は 創 造 し 統 御 さ れ る お 方 で は な い か 。 万 有 の 主 、ア ッ ラ ー に 祝 福
あ れ 。」( Q 7: 54)
「 本 当 に 天 と 地 の 創 造 、昼 夜 の 交 替 、人 を 益 す る も の を 運 ん で 海 原 を ゆ く 船 の 中 に 、
ま た ア ッ ラ ー が 天 か ら 降 ら せ て 死 ん だ 大 地 を 甦 ら せ 、生 き と し 生 け る も の を 地 上
に 広 く 散 ら ば せ る 雨 の 中 に 、ま た 風 向 き の 変 換 、果 て は 天 地 の 間 に あ っ て 奉 仕 す
る 雲 の 中 に 、 理 解 あ る 者 へ の ( ア ッ ラ ー の ) 印 が あ る 。」( Q 2: 163)
「われがあなたに啓典を下したのは、只かれらの争っていることについて解明する
ためであり、
信仰する者に対する導きであり慈悲である。
アッラーは雨を天から降らせ、それで死に果てた大地を甦らせる。
本当にその中には耳を傾ける民への一つの印がある。
また家畜にもあなた方への教訓がある。
われはその腹の中の雑物と血液の間から、あなたがたに飲料を与える。
( そ の ) 乳 は 飲 む も の に と り 、 清 ら か で あ り 、( 喉 に ) 快 適 で あ る 。
ま た ナ ツ メ ヤ シ や ブ ド ウ の 果 実 を 実 ら せ て 、あ な た が た は そ れ か ら 強 い 飲 み 物 や 、
良い食料を得る。
本当にその中には、理解ある民への一つの印がある。
またあなたの主は、蜜蜂に啓示した。
『丘や樹木の上に作った屋根の中に巣を営み、
(地上の)各種の果実を吸い、あなたの主の道に、
障 碍 な く 、( 従 順 に ) 働 き な さ い 。』
それらは、腹の中から種々異なった色合いの飲料を出し、それには人間を癒すも
のがある。
本 当 に こ の 中 に は 、 反 省 す る 者 へ の 一 つ の 印 が あ る 。」( Q 16: 64-69)
被造物としての自然と生命
神の賛美者としての自然と生命
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「諸宗教における自然と人間」第 11 回
4:被造物たる人間とその使命
「 本 当 に わ れ は 人 類 を , 泥 で 形 作 っ て 陶 土 か ら 創 っ た 。」( Q 15: 26)
「 読 め 、『 創 造 な さ れ る 御 方 、 あ な た の 主 の 御 名 に お い て 。
一 凝 血 か ら 、 人 間 を 創 ら れ た 。』
読 め 、『 あ な た の 主 は 、 最 高 の 尊 貴 で あ ら れ 、
筆によって(書くことを)教えられた御方。
人 間 に 未 知 な る こ と を 教 え ら れ た 御 方 で あ る 。』」( Q 96: 1-5)
「様々な欲望の追求は、人間の目には美しく見える。婦女、息子、莫大な金銀財
宝 、( 血 統 の 正 し い ) 焼 印 を 押 し た 馬 、 家 畜 や 田 畑 。こ れ ら は 、現 世 の 生 活 の 楽
し み で あ る 。 だ が ア ッ ラ ー の 御 側 こ そ は 、 最 高 の 安 息 所 で あ る 。」( Q3: 14)
「われはあなたがたを創り、形を授け、それからわれは、天使たちに向かって、
『 ア ー ダ ム に サ ジ ダ し な さ い 。』 と 告 げ た 。 そ れ で 外 の も の は 皆 サ ジ ダ し た が 、
悪 魔 〔 イ ブ リ ー ス 〕 は サ ジ ダ し た 者 の 中 に 加 わ ら な か っ た 。」( Q7: 11-13)
「本当にわれは、 火を不義者のために準備している 。その(煙と炎の)覆いは、
かれらを取り囲む。もしかれらが(苦痛の)軽減を求めて叫ベば、かれらの顔
を焼く、溶けた黄銅のような水が与えられよう。何と悪い飲物、何と悪い臥所
で あ る こ と よ 。」( Q18: 29)
被造物としての人間
来世の報償と罰
イスラームを知 るためのウェブサイト
日 本 イ ス ラ ム 協 会 : http://www.gakkai.ac/islamkyokai/
戦前からの歴史をもつイスラーム研究の学術団体。
日 本 オ リ エ ン ト 学 会 : http://www.j-orient.com/
古代から現代までのオリエントを対象とした様々な分野の研究者が集合した学会
の公式サイト。
日 本 中 東 学 会 : http://www.james1985.org/
イ ス ラ ー ム 期 以 降 の 中 東 に 関 す る 研 究 者 の 学 会 の 公 式 サ イ ト 。「 日 本 に お け る 中 東
研 究 文 献 デ ー タ ベ ー ス 1989-2009」 が 検 索 で き る 。
NIHUプ ロ グ ラ ム ・ イ ス ラ ー ム 地 域 研 究 : http://www.islam.waseda.ac.jp/
人間文化研究機構と京都大学、東京大学、東洋文庫、早稲田大学、上智大学の共同
によるネットワーク型研究拠点。
東 京 大 学 東 洋 文 化 研 究 所 : http://www.ioc.u-tokyo.ac.jp/
東洋学の伝統を担う代表的な研究機関。
『イスラム事典』
(日本イスラム協会他監修、
平 凡 社 、 1982年 ) の 全 文 検 索 が で き る 。
東 洋 文 庫 : http://www.toyo-bunko.or.jp/
ア ジ ア 最 大 の 東 洋 学 専 門 図 書 館 。『 日 本 に お け る 中 東 ・ イ ス ラ ー ム 研 究 文 献 目 録
1868-1988』 他 が 検 索 で き る 。
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