海外視察フランスコース

平成 24 年度 男女共生グローバルサポーター事業
2012 年 10 月 28 日(日)~11 月 4 日(日)8日間
海外視察フランスコース
「ワーク・ライフ・バランス」
~フランスの女性の働き方~
中野 理恵(いわき市)
◆概要
国名:フランス共和国
面積:約 54 万 4000k ㎡
人口:約 6500 万人(2012 年 1 月暫定値)
首都:パリ
言語:フランス語
宗教:カトリック、イスラム教、プロテスタン
ト、ユダヤ教
政体:共和制(第五共和制)
元首:フランソワ・オランド大統領
(2012 年 5 月就任、任期 5 年)
議会:二院制
通貨:ユーロ
Ⅰ.フランス班のテーマ
(1ユーロ=103 円 2012.10.30 付外国為替相場)
「持続可能な未来の創造のために」というテー
マをもとに、下記の4つ視点に着目した。
① 男女平等
女半々のパリテ内閣があるということから、
フランスの伝統的な考え方をもとにしたワー
ク・ライフ・バランスはどのようになっている
のか。
<人間開発に関する指数>
HDI(人間開発指数)14 位(日本 11 位)
GII(ジェンダー不平等指数)11 位(日本 12 位)
※参考資料:
「人間開発報告書 2010」国連開発計画
1
(放射能に関する調査及び情報提供の独立委員会)
② 環境問題
3.11 以降、世界的に大きな課題となった原子
力エネルギー問題において、フランスはエネル
ギーの 77%を原子力に依存している国という
立場のもと、国民感情や行政の政策はどのよう
になっているのか。
11/2(金)パリ
◇駐仏日本大使館
◇女性の権利省
(Ministre chargée des Droits des Femmes)
◇全国家族手当金庫
(Caisse Nationale de l'AllocationsFamiliales)
◇国民教育省
③ 福祉
フランスでは、家族関係や子育てに関してど
のような政策がとられているのか。
Ⅴ.研修内容
L’OCCITANE
④ 教育
国際女性教育振興会の基本的なかんがえより
スタンス、
「人間が人間らしく生きていく基本と
して大事なもの」ということから着目した。
10 月 30 日(火曜日)
場所:ロクシタン本社
対応者:薮内雪さん(ブティック・工場見学)
、
カティア・ミケレットさん(持続可能な発展部
門責任者)
ブーシュ=デュ=ローヌ県の古都エクサンプロ
ヴァンスから車で 40 分の小さな村マノスクに
ある、
「ロクシタン」のファクトリーとブティッ
ク、オフィスを見学し、主に「管理職等への女
性の登用」
「子育て期の働き方」に焦点を当て、
話を伺った。
Ⅱ.個別研修テーマ
働き方(ワーク・ライフ・バランス)について
Ⅲ.テーマ設定の理由
フランスは男女平等に関しての制度や、取り
組みが日本よりもかなり進んでいるイメージが
ある。それらの取り組み方や現状等を探り、私
達の今後に役立てたいという考えのもと、フラ
ンスの民間企業(ロクシタン)と、行政機関(女
性の権利省)の2箇所に着目した。
Ⅳ.研修先
10/29(月)マルセイユ
◇女性の権利と男女平等の地域代表局
10/30(火)マノスク
◇ロクシタン(L'OCCITANE)
ロクシタン本社工場の外観
10/31(水)リヨン
◇リヨン第一大学
企業概要
L'Occitane International S.A.
略称:L'Occitane
業種:化粧品
創業:1976 年
ヴァランス
◇クリラッド(CRIIRAD)
2
創設者:オリビエ・ボーサン
(Olivier Baussan)
代表者:レイノルド・ガイガー(Reinold Geiger
/会長)
本社所在地:アルプ=ド=オート=プロヴァン
ス県マノスク
フランスのプロヴァンス地方におけるライフス
タイルを取り入れた自然派のコスメティックブ
ランド。
1. コーチングシステムの導入
ロクシタンでは、女性も管理職を目指せ
るように、コーチングシステムを導入して
いる。行動の仕方、心構え、ネットワーク
を広げるためのノウハウ伝授などを希望
すれば誰でも無料で受けることができる。
2. 理事会や取締役会議に女性の参加を
トップ管理職になることに対し萎縮し
がちな女性もいることから、ロクシタンで
は普段からより多くの女性従業員が理事
会や管理職会議に出席するよう勧めてい
る。
働く女性の実情
ロクシタンは女性を多く雇用している企業で
ある。化粧品会社は従来女性が雇用されやすい
業種であるが、本社では従業員のうち 55%の割
合を女性が占め、管理職では 62%が女性と非常
に高い割合である。なお訪問時(2012 年 10 月
30 日)には人事部、マーケティング部、ブティ
ックは女性のみで構成されていた。
女性の管理職登用
管理職の 62%を女性が占めるロクシタンで
も、
トップ管理職に女性がなるにはまだまだ
“ガ
ラスの天井”があるという。訪問時、トップ管
理職の女性割合は 40%と、日本と比べると高く
感じる割合ではあるが、女性の活用が進んでい
るロクシタンであっても、パリテ(男女同数)
には未だ届かない現状である。
対応者のカティア・ミケレットさん
子育て期の男女の働き方
[育児休業]
フランスでは、子どもが 3 歳になるまで最長
3 年間、男女とも養育休暇(育児休業)が取得
できる。この他に、女性は出産休暇として予定
日前6週間、出産後 10 週間(合計 16 週間)の
休暇を取得できる(第 3 子以降または、複産等
の場合には期間が延長される2)
。
パートナーの出産に対応する男性のための制
度
(男女とも取得可能な育児休業とは別の制度)
として「父親休業」がある。男性は、出産休暇
を出産時から 2 週間以内に 3 日間取ることがで
き、さらに父親休業を、4 ヵ月以内に 11 日間取
得できる。この父親休業は、以前は取得しない
男性が多かったが、最近は取得率が高まってい
る。なお、ロクシタンでは子どもを持った男性
全てがこの父親休業を取得している。企業内で
女性の管理職登用への取組
フランスでは、給与、その他職業上での男女
平等が法律で定められている。
また、上場企業や一定規模の株式会社は、取
締役の 30%~40%は女性を任命するように国
から求められており、男女平等のためのアクシ
ョンプラン(プランド・アクション1)や、男
女の雇用および職業訓練等について男女の状況
を評価できる数量分析を含む報告書(男女比較
状況報告書)の作成も義務付けられている。
ロクシタンでは、これら法律で定められた事
項を守るとともに、具体的には下記の取組を行
っている。
3
は、育休のみならず有給休暇を 100%取得する
ことが推奨されており、育児休業を取得する男
性への“冷たい視線”等は一切ないという。
また、ロクシタンでは育児休業中であっても
昇給を行うなど、育児休業中のフォローを重要
視している。
1プランド・アクションを制定しない企業には、従業員
に払っている給与全体の 1%が罰金として課せられてい
る。なお現状では監視システムはない。
2
第1子、第2子:産前 6 週間+産後 10 週間 ▽第
3子以降:産前 8 週間+産後 18 週間 ▽双子の場合:
産前 12 週間+産後 22 週間。なお日本の出産休暇は、産
[託児所]
ロクシタンには企業内託児所はないが、近
隣の託児所と提携している。日本と同様に、フ
ランスでも託児所は常に満員で、子どもを預け
ることが難しい状況にある。そんななかで、ロ
クシタンでは、従業員のために託児所の予約枠
を確保している。また、男性の育児参加も推進
しており、託児所への子どもの送迎も男性従業
員が積極的に行えるような企業内の雰囲気を作
るよう努めている。
前 6 週間+産後 8 週間である。日本では、出産手当の給
多様な勤務形態
ロクシタンでは、多様な勤務形態にも対応し
ている。実際にお話を伺ったカティアさんは、
管理職でありながら 2 週に 1 度、水曜日を休日
とし、子ども達との時間を過ごしている。子育
て等で短時間勤務を取ることも、自分が希望す
る時期にフルタイムに戻ることも容易だという。
なお、時短勤務、産休・育休の補充要員はCD
D(有期雇用の契約従業員)で対応している。
11 月 2 日(金曜日)
場所:女性の権利省(パリ市内)
対応者:カロリーヌ・ドゥ・ハースさん(大臣
官房女性政策担当参事官)
付はないが、健康保険法に基づき出産手当金として、標
準報酬日額の 60%を支給。フランスでは、出産休暇手当
として家族給付全国基金が休暇前賃金の 80%を支給。
女性の権利省(Ministre chargée des
Droits des Femmes)
ジェンダーへのメンタリティ
会社が制度を整えても、従業員の意識を変え
るのは困難だという。ロクシタンは比較的男女
平等について進んだ取組を行っており、女性も
男性も性別にかかわらず働きやすい企業である
が、それでも人々のジェンダーへの意識を変え
ることは、一企業の取組だけでは難しい。日本
と同様にフランスにおいてもまだまだ人々の意
識は変わっていない。カティアさんは「日本の
現状については詳しくわからないが、フランス
より女性が活躍しにくいと聞く。ただ、ロクシ
タン・ジャポンの代表取締役は女性。今後の発
展を楽しみにしている」と笑顔でエールを送っ
てくれた。
2012 年 5 月 16 日、オランド政権下のエロー内
閣で 24 年ぶりに再建された「女性の権利省」。
大臣にはモロッコ出身のナジャット・バロー=
ベルカセム氏(34 歳で同内閣最年尐)が任命さ
れ、様々な取組を進めようと動き出している。
今回は女性の権利省の参事官であり、自身は女
性運動のアソシエイション出身だというカロリ
ーヌさんにお話を伺った
対応者のカロリーヌさん
4
「フランスは男女平等ではない」
現在フランスの女性の賃金は男性より 27%
尐なく、毎年 2 万 7 千人の女性が DV の被害を
受けている。多くの女性が「仕事」と「家事」
に追われる、“二重の日々”を送っており、オラ
ンド政権下で男女平等への取組を始めているが、
現状では、
フランスは男女平等ではないという。
女性の権利省の役割
主な役割として、各省庁間に向け女性問題を
提起し、調整や伝達を行っている。また国全体
に向けた情報発信や啓発広報も行っている。
現在の課題
現在、フランス政府の定めている男女平等推
進に関わる施策のうち、実際守られているのは
3 割程度だという。働く上での男女の平等につ
いては、制度は整えられつつあるが、すべての
企業でその制度が活用され、守られているとは
言い難い状況にある。DV に関しては件数とし
ては上がってきていない被害も多い。施策や制
度が守られていることを監視するためのシステ
ムや、表沙汰にならない DV 被害への対策が現
在の女性の権利省の大きな課題だという。
また、保育所の数が足りず、希望者の 10 分
の 1 しか入所できない現状にあることや、中絶
の処置のできる医師が尐なく、受け入れること
のできる病院が尐ない等の問題も山積している。
依然として男女の固定的役割分業意識や慣習も
多く、国民の意識が遅々として、変わっていか
ないことも大きな課題であるという。
対策と取組
特に改革を推進しようと取組んでいる分野は、
「教育」
「法律」
「女性の権利」
「治安」だという。
学校教育では子どもたちに低学年の段階で男女
同じような遊びをさせ、男女の別なく様々な職
業体験の場へ子ども達を送り出す。また、固定
的な意識を変えるために教師へジェンダーにつ
いての再教育を行い、様々なメディアを活用し
た啓発を行っている。メディアでの啓発は成功
5
しているとは言えない現状にあるが、担当の省
を通し CSA(視聴覚高等評議会)への働きかけ
を行うなどの取組を行い、今後はフランス・テ
レビジョン3の放送規約などに男女平等に関す
るリテラシーを盛り込んでいくことを検討して
いるという。
また、トップから意識改革を進めるため大臣
クラスへの男女平等意識啓発のための教育を行
っている。
フランスの男女平等施策は動き始めたばかり
のものもあり、現時点では自然に制度が推進さ
れることは難しい。罰則を定めるなど、ある程
度強制力を持って推進していく必要があるとい
う。
今回お話を伺ったカロリーヌさんからは、
「フ
ランスは EU のなかでも特に熱心に男女平等を
推進しており、諸外国には男女平等が進んでい
る国だと思われているかもしれないが、内情は
まだまだ男女平等には遠く、目標には届いてい
ない。財政難により潤沢な予算があるとは言え
ないが、男女平等への取組に力を注いでいくと
いうトップの意向もあるので、今後も強く働き
かけを行っていきたい。またそのために大事な
ことは、活動家と行政の連携だと思っている」
とのお話をいただいた。
公共放送を実施する各社(France 2、France 3 等)の
3
株式を保有する、フランス政府 100%出資の株式会社。
Ⅵ.考察結果
フランスの実情の1つとして、様々な制度を
整えても、
「人々の意識が変わらないと何も変わ
らない」という課題があげられた。今後必要な
「意識(メンタリティ)の改革」は、日本にお
いても共通する重要な課題であることを改めて
認識した。