Akita University 秋 田大学 総 合基礎教 育研 究紀要 人 と 表 現』 1 1- 1 7 ( 1 9 9 6) 『特集 ジ ャ ンル の不 連 続 性 とア イ ロニ ー ー トマ ス ・ ミ ドル ト ン の シ テ ィ ・コ メ デ ィ を め く る 一 考 察 - 佐 々木 和 * 貴 Ge n r eDi s c o n t nui i t i esa ndI r o ny: ma sMi dd l e t o n' sCi t yCo me d y n Es A s a yo nTho Ka z ukiSASAXI 「芝居 の 目指 す ところは、昔 も今 も 自然 に対 して いわ ば鏡 を向けて ・・・生 きた時代 の本 質 をあ り 『ハ ム レッ ト』 3幕 2場 の ままに示 す こ となのだ 。 」 17世 紀初 頭、急速 な人 口集 中が もた らす劇 的 な変貌 と矛盾 の渦 中にあ った ジ ェー ムズ朝 ロ ン ドン とその住民 を映 すべ く、演劇 はあ らたな鏡 を掲 げた。即 ち風刺 的 トー ン或 いは陰謀 のモ テ ィー フを共有 し、我 々が のちにシテ ィ ・コ メデ ィとい うサ ブ ・ジャ ンル名で呼ぶ ことにな る、 一群 の喜劇 が立て続 けに生み 出 され たのであ る。 1) その なかで も トマ ス ・ミ ドル トン ( 1 5 8 0 - 1 6 2 7 )の喜劇 は、 そのテ クス トが一見異様 な まで に 「不連続性 」 ' ' di s c ont i nui t i es "を突 出 させて い るこ とが、 最大 の特徴 とい え るだ ろ う。つ ま り劇 を構成 す る、例 えば ジ ャ ンル、 キ ャラクタ ー、 モテ ィー フ、 プ ロ ッ ト、テーマ等 の内部 に、複数 の要素が共存 あ るいは葛藤 してい るのだ。 従 って、 ミ ドル トンを見 る/ 読 む とは、密 か な陰謀 に満 ちた シテ ィ ・コメデ ィの ロン ドンに も 似 て、予漸不 可能 な不連続性 に満 ちたテ クス トとい う迷路 を さ まよ う体験 とな るだ ろ う。 とす れ ば、 これ まで ミ ドル トンの テ クス トの顕著 な特徴 と して常 に挙 げ られて きた 「ア イ ロニー」 とい う特 質 2) も また、 こう した不 連続性 そ の もの と当然密接 な関わ りを持 つ ので はなか ろ う か0 本 稿 は こ の 作 業 仮 説 を 、 ミ ドル トン の シ テ ィ ・コ メ デ ィの 代 表 作 A dk! : b Mw dz h 物 汝 ( 1 61 3 )を例 に とって検 証 す る試 みで あ るO議 論 の拡 散 を避 け るため に、論点 は この 喜劇 で と りわ け顕著 な 「ジ ャ ンル の不 連続性 」 3) と 「ア イ ロニー 」 の関係 に絞 られ る ことに な ろ う。 さて まず誰 もが最初 に遭遇 す る Aau3 : eM wd あ 秘 f とい う題 名お よび登場 人物表 につ いて考 えてみ よ う. 1 T Cha s t eMa id一 一 、 これは文字通 り読 めば もち ろん 「貞潔 な乙女 」で あ る。 し か も人物 表 を見れ ば、乙女 の名 は Mo l lつ ま り聖処 女 Ma r y の愛称 で もあ るO しか し " mo l l ' -とは 同時 に 当時娯 婦 の隠語 で もあ り、実 際、 ミ ドル トン 自身 も何 度 もその意味 で用 いて い る となれ ば、 どうであ ろ うか。4) のみ な らず、 Mo l lの望 まぬ婚約者 が 一 一 Wh o r e n 1 0 nd u 一 一 「束婦 を追 いか ' c ha s t ( e ) H に重ねて y c h a s edH とい う地 口の存在 もまた意 け る猟犬 」 とい う名 であ るこ とか ら、 f - 11 - Akita University 識 に浮上 して こ よ う. つ ま りそ こには意 図的 に d o u b l ee n t en dr e 的読 み込 み を誘 う仕掛 けが埋 め込 まれて い るの だ. となれ ば 一 一 Ch e a ps i d e一 一 の方 もそれ に応 じて、 清純 な乙女 の住 む ロン ドン で最 も華 やか な商店 街 とい う昼 の顔 か ら、娼婦 の 出没 す るいかがわ しげな盛 り場 とい う夜 の顔 まで そ の トー ンに幅 が生 じる こ とにな ろ う。従 って この劇 の題 お よび人物表 の中では、 「チー プサ イ ド小町 」 と 「チー プサ イ ドの辻 君 」 とい ういわ ば正反 対 の物語 素がせ め ぎあ って い る と い うこ とにな る。 言 い換 え るな らば、 そ こには今後 出現 す るはずの この劇 の ジ ャ ンル の不連続 性 が、 いわば雛 形 と して既 に/ 常 に提 示 され て い るの だ。 そ して、 この よ うに劇 世界 に参入 し よ う とす る瞬 間 に ジ ャ ンル へ の期 待 の形 成 を妨 げ られ る とき、 そ こに生 じるのが無 心の没入 を 拒 む劇 世界へ の違和 感 あ るいは距 離感 、 す なわ ち一般 に 「アイ ロニー 」 と呼ばれ る効果 であ る こ とは言 うまで もな いだ ろ う。 さて それ で は テ クス ト自体 か ら 「ジ ャ ンル の不 連続 性 」が露 呈 して い る箇 所 を取 り上 げ、 アイ ロニー と絡 めて 具体 的分析 を してみ るこ とに しよ う。 まず、 いか な る劇 で あれ その基調 を 設定 す る上で いわ ば要 とな る導入 部 (1幕 1場 )か ら、例 を引 くこ とにす る。 ここで は主筋 とお ぼ しきプ ロ ッ トが 展 開 され、結婚 を無理 強 いす る無理解 な両親 、悲 嘆 に く れ る主役 のか弱 い乙女 、 そ して敵 役 が順 次 登場 して くる。 となれ ばテ クス トは、 この劇 がル ネ ッサ ンス期 の大部 分 の喜劇 とジ ャ ンル を共有 して い る、 とい うメ ッセー ジを発 して い る ことに な るだ ろ う。 つ ま り様 々 な障壁 に引 き離 されて い る若 いカ ップル が、苦 難 の末 それ を乗 り越 え て結 ばれ るとい う、 お馴 染 み の ロマ ンチ ック ・コメデ ィの ジ ャ ンル で あ る。従 って、例 えば フ ラ ンシス ・ボーモ ン トの Th e且わ&h to ft h eBumi ngPe s t L e (1 607) とい った そ のパ ロデ ィが 受 け るほ ど、我 々以 上 に この ジ ャ ンル を熱知 して いた ジ ェー ムズ朝 の観 客 であれば、次 の展 開 と し て は ヒロイ ンに相応 しい ロマ ンチ ックな恋 人 の登場 を待 ち受 けて いたは ずで あ る。 ところが そ uc h w( xdJ r .は、 開 口一番 こへ現れ た恋 人役 To l As i de ] . . .Imus th a s t eni t , Ore l s ep e a ko ' hm in e;he rbl o o d' smi ne, n dt A ha t ' st hes ur e s t .We l l ,kn i ht g ,t ha tc ho i c es p oi l I so lyk n e p tf orme. (1 33-1 36) 5) と語 り、 ヒ ロイ ン を 「獲 物 」 " s p oi r 7に例 え るば か りか 、 彼 女 の 内 な る 「セ ク シ ュ ア リテ ィ」 ' ' he r bl o o d ' S i mn e' ' の存在 す ら明 言 す るので あ る. これ では まるで、 ミ ドル トン後 期 の悲劇 Wo me n,Be wwe Wo me n (1 621)の墜 ちて い く人妻 ビア ンカ と誘惑者 フ ロー レンス公 の関係 で あ る。 む しろ敵役 の Si rWa l t e rの方 が Wh y,h own o w,pI ℃t ym t is t r e s s ?No wIh a v ec a u hty g o u. Wh a t ,c a nyo uI nur eS Oy Ou rt imet os t r a yt hu sh my o urhi t h ul f s e va r nt ? (11 3-11 5) と台 詞 だ け を 取 り出 せ ば 、 ロ マ ン チ ッ ク ・コ メ デ ィの 主 人 公 に 相 応 しい。 の み な ら ず、 Tou c h w0dJ r .の恋 人へ の最初 の呼 び か けは Tum no tt ome, - 12 - Akita University T止1t ho uma ys thw血I l y;i tb u twhe t s Mys t oma c h,wh i c hi st o os ha r p-s e ta lr e a d y・ ( 1 3 8 11 4 0) と、 ヒ ロイ ンの肉体 へ の あか らさ まな欲 望 に満 ちて い るoつ ま り彼 の視線 の先で、愛 を捧 げ る べ き 「貞淑 な 乙女 」 M。1 1は、既 に欲 望 の対象 と して 「追 い求 め られ る娼婦 」 Mo l l- と変貌 を 遂 げて い るの だ。 そ して こ う した若 者 が 主役 となれ る喜劇 ジャ ンル とは、 愛が支配原理 の ロマ ンチ ック ・コ メデ ィで は な く、欲 望 が行 動原則 のサ テ ィ リック ・コメデ ィで あ るこ とは い う ま で もないだ ろ う。 つ ま り To uc h wo o dJ r .の この予想外 のせ りふ は、 これ までテ クス トが発 して い た ジ ャ ンル ・メ ッセー ジに対 す るノイ ズ と して機 能 して い るので あ る.従 って ここで は、 題 名 が告知 して いた 「ジ ャ ンル の不 連続 」が 早 くも生 じて い る とい うこ とにな ろ う。 そ して この よ うに ジ ャンルへ の信頼 感 あ るいは 主 人公 へ の感情 移入 とい う、通常 の劇 で は最初 に整備 され るは ずの条件 を欠 い て劇 世界 に参 入 す る こ とを強 い られ る者 は、恐 ら く劇 の題及 び人物 表 に遭 遇 した ときと同一の、 この劇 世界 に対 す る微妙 な違和感即 ち 「アイ ロニー」 を、 ここで再 び 必 然 的 に味 わ うので は あ る まい か 。 また一 方、 シテ ィ ・コ メデ ィ こそが ジ ェー ムズ朝 の作 家 と観 客が 自 らの 「今 」 を表象 すべ く 選 んだ新 たな鏡 で あ って み れ ば、 その代 表作 に生 じるロマ ンチ ック ・コメデ ィ とサ テ ィ リック ・コメデ ィの この裂 け 目に、 古 き良 き共感 的 な祝祭 空 間 ロン ドン と、収奪 を こ ととす る新 しい 商業 空 間 ロン ドンの 間 にそ の とき生 じて いた裂 け 目を 「兆候 的 」 8) に読 み とるこ とも、 あ る いは可能 か も知 れ な い。 そ して テ クス ト自体 を社会 的象徴 行為 と して捉 え、 そ こに生 じる不 連 続 に社会 が 内包 す る矛盾 の有 り様 を読 み取 る とい うこの視 点 は、 テ クス トと 「歴 史」が交錯 す る地点へ と我 々 を必然 的 に導 いて い くこ とにな ろ う。 7) 次 に、 3幕 2場 の Si rWa lt e rの庶 子 の洗礼 のお祝 いの場 面 を例 に取 ってみ よ う. ここは、 こ の喜劇 で最 も有 名 な い わ ば見 せ場 で あ り、 同時 に穀誉 褒旋相 半 ばす る箇 所 で もあ るo例 えば、 ミユ リエル ・ブラ ッ ドブル ックの 「エ リザベ ス朝 の ドラマで も最 も下 品な もの」 とい う断言 も あれ ば、 ブライア ン ・ギ ボ ンズ の 「ミ ドル トンの喜劇 世界 の小宇宙 」 とい う賞賛 もあ る 。 8) しか し本稿 の視 点 は、 サ ミュエル ・シ ェー ンボー ムが その先駆 的 な論文 でいみ じ くも用 いた ・ 払bl isianH a 9) とい う形 容 に最 も近 い 。 つ ま りミハ イル ・バ フチ ンが そ の 「ラ プ レー論 」 10) で解 き明か した民衆 的世 界 像 と重 ねて 、例 えば この場 に顕著 な 「尿 」 をめ くるスカ トロジカル なイ メー ジ群 を、 そ の両 面価 値 性 ・祝 祭 性 、 あ るいは グ ロテ ス ク ・リア リズ ム とい う視 点か ら 理解 しよう とす るス タ ンスで あ る。 テ クス トか らイ メー ジの連 な りを逐 一引用 す るのは些か 煩 雑 なので、 こ こで は レヴ ェル ズ ・プ レイ版 のR . B. パ ー カーの手際 の良 い整理 を利 用 させ て も ら うこ とに しよ う。 Th eg o s s l pS,t h e i rt o ng u esi nc o n t i ne n tw it hw in e,t a l ko fan i n e t e e n-y e a r -o l dg ir lwhowe t st heb e d, a n da r et h ems e l ve sa c c us e do fd i p pi n g血g er si n t ou in r e;t h epur it a ng o s s i p sa nbi g t L O uS l y' we t sa ss h e k i s s e s ' ;a n dA ll wi tt hi nkst h ego s s i p sha ved un r l(s omuc ht ha tt he yne e da' l o ok i n g-g lass '( s l a ngf or ' c ha mhe r -pot ' ) ,d i s t r a c t st h e i ra t t en t i o nt o ap r Ke S S i o n ps s i n g' Pi s s i n g Co n d ui t ' ,a nd s t l S Pi c i o us l y e xa mi ne dt h ewe t ne s st x ! ne a ht t he i rs t o o l s .1I) のみ な らず この場 は、 出産 、過 剰 な飲 食 、性 的放縦 とい った グ ロテ スクな身体性 の強調 で埋 め 尽 くされて い る とい って も過 言 で は な い.そ こにお祝 い に集 まった女性 達 は、 A l bi t夫 人 の 出 - 13 - Akita University 産 の様 子 を語 り、 ワ イ ンを浴 び るよ うに飲 み、 コ ンフ イ ッ トを貴 り食 い、若 い男 にキス を浴 び せ 、泥酔 して倒 れ、 いわ ば乱 痴 気騒 ぎを繰 り広 げ るのであ る。バ フチ ン流 に言 えば、 そ こで は 口、排 鯉 口、 生殖器 な ど体 の あ らゆ る穴 が大 き く開かれ、身体 と世界 の境 界線 が打 ち破 られ る こ とにな る. そ して この グ ロテ ス クな生成 す る肉体 の イ メー ジ こそが、 中世 か らル ネ ッサ ンス にか けて、民 衆 的 ・祝祭 的 イ メー ジ体 系 の まさに核 心 にあ った こ とは、 その 「ラ プ レー論」 で バ フチ ンが 見 事 に解 きあ か した と こ ろで あ る。 した が って 、バ フチ ン経 由で我 々は そ こに Che a p s i d e - 「市場 」 とい う祝祭 的空 間 に響 きわ た るロン ドン市民 の 「卑語 」 " bdl i n gs ga t e" を、 またそれ が引 き起 こす吠 笑 を、復 元 して 聞 き取 るこ とが可能 であ ろ う。 またそれが標識 として 指 し示 す ジャ ンル は 、 いわ ゆ るグ ロテ ス ク、 或 いは カー ニパ レス ク と称 され る喜劇 のは ずで あ る。 だが他 方、 ジ ェー ムズ朝 の ロ ン ドンにお け る C血e a ps i d e - 「市場 」 は、既 にその治外 法権 的 自由を失 い、利潤 追求 を至 上命 題 とす るいわば ホ ップズ的商業空 間 に変容 しつつ あ った こ と は、例 えばスーザ ン ・ウェ ル ズが Tl mS,t hema r k e t pl a c ei sc o mp r o is m e d,丘Rt ,b yb ec o mi n gs i mpl yt hel o mt i ono fe xc hZ L ng ea ndp r o Bt c e;s e c o n d,b yb ei n gc i r c ums c ibe r dmo r et ig ht l yb yt he' ' o缶c i l a r a t h ert ha naga t he in r gp l a c e ,ac o mmo ns pa o r de r , "b yl o s i n gI t s' ' e x t r a t e r it r o ia r ls t a t u s "a n dt だC O ml n gmor ei n t e gr a t e dwi t ht hec e n t r la a p pa r a t usoft he 12) g o ve mme n t . と、 その画期 的 な シテ ィ ・コ メデ ィ論 で強調 す る ところで あ る。 となれ ば 、 16世紀 中葉 の ラ プ レー には可能 で あ った市場 の祝 祭 性 及 び そ こに託 され たユ ー トピア的 メ ッセー ジの無条件 の 肯定 は 、 17世紀初 頭 の シテ ィ ・コ メデ ィの書 き手達 には既 に不可能 で あ った こ とにな るだ ろ う。 この喜劇 にお い て も、 従 って 、 それ が置 かれ た歴 史的条件 に対応 す るか の よ うに、 女性 達 の繰 り広 げ るカーニ パ レス ク/ グ ロテ ス ク ・コメデ ィは、無条件 には称 揚 され ない。つ ま り彼 女 た ちの グ ロテ ス ク に変容 す る身体 は 、 Al l itの皮 肉 な まなざ しに よって、批 判 ・監視 され て w い るので あ るO ジ ャ ンル の視 点 か ら見 れ ば、 カーニパ レスク/ グ ロテ ス ク ・コメデ ィがサテ ィ リヅク ・コメデ ィに よって 分 断 され、 入 り組 んだ形 で ジ ャ ンル の不連続 が生 じて い る とい う こ とにな るだ ろ うか .例 えば女性 達 の旺盛 な食欲 は、 A l1 itに よって w si A d e・ ]Apx!I ts e e msyou rpur it yl o ve ss we e tt h i n g swel lt ht p u t si nthric et o g e t h e r ・Ha dt h i sb e e na llmyc o s tn o wiha dhe e l t x e g g a r J d・The s ewo menh a venoc o ns c i e nc esa ts we e t me a t s ,wh er ee' e r t h e yc o me ;s e ea n dt he yh a ven o tc ul l ' do u ta llt hel o n gpl umst o o ,t h e y hvel e 丘n o t h i n ghe r eb u ts h o r twng gl e-t a i lc o mG t s ,no twor h mo t u ht i n g; ( 6316 8) と、祁捻 され て い る。 カ ー ニパ レス ク ・コ メデ ィでは称 揚 され る無尽蔵 の食 物及 び その飽 くこ と無 き消 費が、 サ テ ィ リック ・コ メデ ィの視 点 か ら、 富 の浪 費及 び食 物へ の貴欲 さ として批 判 されて い るの だ。富 を蕩尽 す る こ とに意 味 を兄 いだ して いた中世 ・ル ネ ッサ ンスの民衆 文化 の 価 値観 が、富 を蓄積 す る こ とに意 義 を見 い たす近世 の ブル ジ ョア文化 の倫理 に よって裁 断 され て い るとい って もい いだ ろ う。 しか し、 テ クス トは さ らに 2転 3転 す る。 Al 】 wi t が女性 達 に鮮 易 して退 場 す る と同時 に、 サ テ ィ リ ック ・コ メデ ィは影 を潜 め、 ヒ ロイ ンの弟 で血 とい う道 化 役 の登場 とともに、 テ クス トはサ テ ユル ナ リア的様 相 を呈 して くるの だ.彼 に " r o t t en - 14 - ki ss" Akita University (1 8 2) を浴 びせ よ う と して、泥酔 の余 り転倒 す る者 まで 出 る始末 であ るO ところがカーニパ レス ク/ グ ロテ スク ・コメデ ィの世界 が混 乱 の極 に達 した この瞬 間 に、今度 はあたか もそれ を 否定 す るか の よ うに、再 び Al l wi t がテ クス ト上 に呼 び 出され る。 そ して彼 は た ち まち祝 祭 世 界 の住 人達 の注 意 を逸 ら して 、 実 に相応 しい こ とに彼 らを " Pi s s i n g -c o nd ui t " (1 89)へ 向 けて 退 rWa lt e rの付 き人 の Da v yと共 に 出 させ るので あ る。 のみ な らず 、 Si A丑 wi t :Wha t ' she r eu n d ert h es t o ol s ? i r ;s o mewi n es pi l the r e,he l i k e. Da v y:No t h i n gb l l tWe t ,S l1 A it w :I s ' tn owo r s e, t hi nk ' s tt hou ? Fa irne e d l e wo r ks t 0l sc o s tn o hi t ngw it ht he m,Da v y. ( 204207) と、彼 らが残 してい った染 み (-祝祭 の痕跡 ) を小永 で はないか と疑 わ しげに点検 しさ えす る の だ。 カーニ パ レス ク/ グ ロテ ス ク ・コメデ ィを盛 り上 げ る陽気 な物 質 「尿 」 も、サテ ィ リッ ク ・コメデ ィの視 点 か らは単 に 「美 しい刺繍 を施 した腰掛 け」つ ま りブル ジ ョアのステ ータ ス ・シ ンボル を汚 す否定的物 質で しか ないので あ る。 となれ ば、 こう した ジ ャ ンル の不連 続が 露 呈 す るパ ラ ドクシカル な瞬 間の連続 に、 た とえば ス トリブラス/ ホ ワイ トが提示 した枠 組 に倣 って、 グ ロテ ス クな身体 に共感 しそれ を映笑 して いた、 い まだ残 存 す る中世 ・ル ネ ッサ ンスの 民衆 文化 と、 グ ロテ スクな 身体 を嫌 悪 し " s u b ima l t e d pu b l i ct x x l y"13) を創 出 しよ う とす る、今 まさに勃興 しつつあ った近代 ブル ジ ョア文化 との葛藤状態 を読 み とるこ ともお そ ら く可 能で あ ろ う。 また このジ ャ ンル の不連続性 故 に、 当然 この場 で は、祝祭 の映笑 とサ タイアの噸笑が 交替 で 生 じるこ とにな るは ずだ。 つ ま り誰 もが誰 もを笑 う民衆 の平等 な広場 の笑 い と、誰 かが 誰か を 笑 うブル ジ ョワの差 別 的 な私室 で の笑 いが反転 し続 け るので あ る。従 って、 この異質な笑 い を 交互 に笑 うとき我 々は、近 世初期 英 国 にお いて生 じて いた、二 つの文化 の葛藤状 態 を生 き直 す こ とにな るので はあ るまいか。 それ は また、劇 世界 へ の単純 な没入 を妨 げ、我 々 を どち らの笑 い に も全 面的 には加 担 で きな い、 いわ ば ダ ブル ・バ イ ン ド的状 況 に追 い込 む こ とに もな ろ う。 つ ま りこ こで もまた ジャ ンル の不連続性 は、我 々が ミ ドル トンのテ クス トを見 る/ 読 む際 に感 じる独特 の皮 肉 な距 離感 覚 即 ちア イ ロニーが、 まさに生成 す る瞬間 と密接 に関わ ってい るので あ る。 のみな らず、 この よ うにジ ャ ンル の不連続性 とい う同一 の構 造 を、劇 の要 とな る箇所 で 反復 す ることに よって、 か くも執 劫 に劇 世界 と我 々 との関係 に揺 さぶ りをか け るテ クス トと遭 遇 す る とき、 我 々は いつ しか、世界 と我 々 との一見不動 の関係 を も、相 対化 す る視 点 を獲得 し 始 め るので はあ るまいか 。 ' となれ ば、 ミ ドル トン的 アイ ロニー とは、 T T Sc m t i cl mny"、 即 14 ち 「真 の認識 に達 す るため に用 い る範 晦 」 ) の様相 をす ら帯 びて くるだ ろ う。 つ ま りその ア 15 イ ロニ カル な ス タ ンスが、 今 、 ここにあ る世界 に疑 問 を呈 し続 け るこ とで、 い まだ、 こ こに な い世界へ と我 々 を誘 うた め の戦 略拘縮 晦で あ る とす るな らば、 ミ ドル トンのテ クス トには、 ソ クラテ ス同様 、我 々 が真 の認識 (-ユ ー トピア) に達 す るための、 いわば産婆役 を果 た す可 能 性 す ら秘 め られて い る とい うこ とにな るので あ る. 16) - 15 - Akita University [注 ] * 本稿 は 日本 シ ェ イ クス ピア協 会 第 34回大会 (1995年 10月 22日、於 広 島 女学 院 大 学 ) セ ミナ ー B 「トマ ス ・ミ ドル トンをめ くって」 で 口頭 発 表 した原稿 の 一部 に加 筆 修 正 を 加 えた もので あ る。 1) サ ブ ・ジ ャ ンル と して の シテ ィ ・コ メデ ィを包括 的 にあつか った研 究書 と して は、 L C. K山g ht sの D7 1 a ma&Sb c i e&i nt h e Ag eo fJo 榔m (Lond o n:Cha t t o &Wi n d us ,1 9 37)が今 もなお最初 に 読 むべ き名 著 で あ ろ うが 、60年代 か ら7 0年代 にか けて の定 番 はむ しろ B. Gi b t x) n s の Ja c o b e a nCi & C b me d y IA St u d yo fSat i k Pl a y sb' J o 7 Wn ,Mws t o na ndMi dd l e t m ( hn d o n:Me hue t n, 1 9 6 8 ) 、 あ るいは A. eg L g a t tの Ci t i z e nC b me d yi nt h eAgeo fSh a k e 申e a n( Tmn t o‥Uo fTmn t oPr e s s ,1973 )で あ った と思 わ れ る.個 々 の作 家 のテー マや作 品 のモ テ ィー フを丁寧 に分析 、 分類 して い くそ の手 法 は現 在 も継 承 され て お り、例 えば最 近 も T. B. ei L n wa n d の TheC砂 St a ge d:J a c o b e an C b me 4y , 1 6 0 3 -1 3 (U o fCh i c a g oPr e s s , 1 9 8 6)とい った手堅 い研 究 書 が 出て い る。 しか し 80年 代 には い ると、 シテ ィ ・ We l l sの コ メ デ ィ の テ ク ス トの イ デ オ ロ ギ ー 分 析 を 行 う批 評 が 出 現 した . そ の 頃 矢 は S. ' T J a c o t x ' a nCi t yCo me d ya n dt l l el d e o l o g yo ft h eCky , 一 一 EL打,48,I (1 981)で あ り、 この流 れ は 89年 には L. Ve nutiの 仇 rHa妙O nDa y s IEwl i s hPr e y e v o l u i i o nar yTe xt sa ndPo s i mo de m Cut m 、 そ して 9 5年 には L. Ma nl yの Li t e r ah nl ea nd Cut ur ei n Wi s c on s i n Pr es s) (Ma d i s o n:Uof 血7 1 y Mb de m Lond b n ( Ca mbr id ge: Ca mb id r g e U P)とい った優 れ た研 究 書 を生 み 出 して い るO拙稿 は、 シテ ィ ・コ メ l l sの 立論 に多 くを負 って い る こ とを デ ィの批 評 史 にお け る こ う した新 しい流 れ 、 と りわ け We こ こに記 して お きた い 。 2) 例 えばわ が 国 の ミ ドル トン研 究 の先駆 者 笹 山隆氏 は そ の記念碑 的 論文 で 「彼 の作 家精神 の 基 底 に ア イ ロニ ー に貫 かれ た喜劇 的 ヴ ィジ ョンが あ って、 それ が ジ ャ ンル や主題 とはか かわ り な く、彼 の ほ とん どの作 品 に か すか なが らもあ る共通 した色 調 を与 え て い る」 と述 べ て い る 。 c f. 「ジ ェー ム ズ時代 とチ ャール ズ時代 の演劇 」 『講座 1 987年 ) 、 1 84責 。 あ るい は 海外 の ミ ドル トンの権 威 英米文学 史 5 劇 Ⅰ』所 収 (大修館 、 RB. Pa r ke rもそ の 著名 な論 文 Mi d dl e t on ' s , nJ a c o b e a n Th e at r e ,e ds .J . R. Bmwn e ta l. (bnd on: E d war d Ex er p ime n t sw it h Come d ya n dJ u dg eme nt m ol A d, 1 9 60 )の 中で " Th ep l o to fA Thc ki satr i u mpho fi mn i cc o ns t uc r ti o n. . : ( p. 1 8 5 )、 さ らに ' ' Th er eis a ls oc it r i c i s mi mp l i c 辻i nt heimm ics m me y t r yo ft hepl o tl o f A Ch as t eMa i d]. "( p.1 91)と ミ ドル トンの 主要作 とアイ ロニ ー の結 び つ きを強調 して い る。 3) これ は もち ろん Fr e d icJ r a me s o n が Th e Po l i t i c a l Unc o ns c わ wn e 3 L S( I t ha ca , Ne w Yor k:Co mel l UP, 1 9 81) の第 2章 で用 い た ' ' ge n er ic d i s c o nt i nu i t i es 一 一とい う概 念 装 置 をそ の まま借 用 した もの で あ る。社 会 的 ・歴 史 的考察 へ の 回路 を重視 す る80年 代 以 降 の新 しい批 評 の流 れ とジ ャ ンル批 評 を結 び つ け よ う とす るもの に とって、 この概 念 装 置 が考 察 の 出発 点 のひ とつ とな る こ とは、 い まや共通 の認識 で あ る と言 って も過 言 で は あ るまい。 4) cf.OED' mo l l ' f 2.a .Ap ms t i t u t e .g en. ,ag ir l ,woma n. 1 6 04Mi d d l e t onFa t h e rHu b b ur d<c q>sT,Wks .( Bu l l e n )ⅥⅡ.7 8" No neo ft h es ec o mmonMo l l sn e 地er ,bu t d i s c o n t e n t e da n du nf or t u na t ege n t l e wo me n." 5) テ クス トは Br ya nLou gbRy& Ne i lTa y l o r編 の Fi v e1 %y s :Thom sMi d ae t o n( e nd L on:Pe n gui n Bo o ks ,1 98 8) に よ る。 6) cf.「兆候 的読 解 」 " l e c t res u mp y t o ma l e " とは も とも とル イ ・アル チ ュセ ー ル が マル ク ス の 『資 本 論 』 を 論 じ る 際 に 提 唱 し た 読 解 法 だ が 、 前 掲 書 中 で Ve nu t ‖ま " Thi sl i . eAl hu t s s e r , s s mp y t o ma t i c ]r e a d i 喝 a S S ume St h a tt e x t u l pmd a u c t i oni sas ∝i l pr a a c t i c e,. . .t h a ti tha si t so wnc u l t u r l a - 16 - Akita University ma t e ia r ls( t r o p es ,ge n r e s ,c on v e n t i on s ,t h e mes )a n di t so wnmdeso ft r a n s or f mi n gt h e m.The s ema t e ia r ls c o met ot h et e x ta lwa y sa lr e a d ys ∝i li a nt h e i rs i g n i 丘c a n c ea ndf unc t i o n l n g,a lwa yss ha l edb ys ec p i 丘cs o c i l a dt os ∝i lr a e p r e s e n t a t i o n s ,Vl aue s ,a ndb e l i e f swh i c hs er vet hec o mp et mgi n t e r es t so f gmu ps ,a lwa ysa l l i e p s ,a lwa ysa c t i n g,i no herwor t d s ,a sa ni de o l q g i c a Ll TS O ht i ono fc o n t md i c t o r ys ∝i lc a o nd i t i o ns ・' ' t ho s egmu ( p. 4)と、 その基 本 的前提 を分 か り易 く説 明 して くれ て い る。 また アル チ ュセール 自身 の 「兆 候 的読解 」 を参 照 した けれ ば、 『資 本論 を読 む』 (合 同 出版 、 1974年 )が まだ入手可能 で あ る。 7) 象徴 的な こ とに、 そもそ もチー プサ イ ドとい う土地 の名が語源的 に 「市場 」の意味であ る。 c f.OEI )' l c h ea p'n. 2. Th epl a c eo fb u yi n ga n ds e l l i n g;ma r k e t .( He nc ei npl a c e-n a mes ,a sCh ea ps i d e, Ea s t c h e a p. ) 8) M. C, Br a d bm ) k,7 7 1 eGr o u J t ha n dSt r wi u r eo fEl i z a b et h anC b me d y( Ca mb id r ge:Ca mbr id g eUP, 1 9 7 3) , p. 1 62 , o P. c i t . ,p. 1 29. & Gi b t x ) n s 9) sa mu elSc h o en ba um, f ChasおMa i di nCh e a P s i dea n dMi dd l e t o n ' sCi y Co t me d y, MSt u di e si nt h eEy ql i s h Re ナ ∽i s s a n c eL ha ma,eds . J . W. Be n ne t te ta l.( Ne wYo r k:Ne wYo r kUP, 1 9 5 9 ) ,p. 304. Ra b e l a i sa n dhi sWb y ut r a n s . H. I s wol s ky ( Ca mbr id g e即a s s . :TheMr rPr e s s , 1 9 6 8) . 1 0) c f.M. M. Ba k h t i n, この特 異 な ロシアの思想 家、 なか ん ず くその祝祭理 論 の西欧世界 へ の衝撃 を真 筆 に受 け とめ、 S t ll a y br a s s と惜 しくも先 現 時点で鼻 も生産的 な形 で英文学へ応 用 して い る批 評書 としては、 P. 年物 故 した A. Wh i t e の共著 で邦訳 も出た Th el l o l i t i c sa n dPo e t i c so fTr a n s g r e s s わ乃( Lon d o n:Me t h u en, 1 9 8 6)が挙 げ られ よ う。 11) ACh a s t eMa i di nCh e a P s i d be d. R. B. Pa r k e r( b d o n:Me t hu e n, 1 鮪9 ) , pp. 1i v-1 V. l s , 坤. c i t . ,p. 38. 1 2) we l i t e, q i , . c i t . , pp. 93-4. 1 3) s t lbbr a a s s &Wh r Wa l t e r の唐 突 な改俊 も また、劇 の展開上重要 な瞬 間 に出現 す るジ ャ ン 1 4) 5幕 1場 で の Si ル の不連続性 の顕著 な例 と して挙 げ るこ とが 出来 よ う。 そ こで彼 が語 るのは、 シテ ィ ・コメデ l qe l 吻 (1622)に こそ似 つ ィ とい うサ ブ ・ジ ャ ンル のなかで はいか に も唐突 な、 む しろ後 の aa かわ しい深刻 な悲劇 的 ビジ ョンで あ る。 1 5) c f.OED" i l l ) n y"n3. he t y mol 喝i c ls a ens e:Di s s i nu ht i o n,pr e t e n c e. 1 6) ミ ドル トンのテ キス トのユ ー トピア的 契機 につ いて は、 大橋 洋 一 「都市 ・陰謀 ・女性 トマ ス ・ミ ドル トン劇 にお け る - 」 『ェ リザ ぺ ス朝 演劇 一 小津 次郎 先 生追悼 論 文集 -』所 収 991年 ) 、206-231 頁 を参 照 の こ と。 ( 英 宝社 、 1 - 17 -
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