大学院紹介 歯科放射線学講座 歯科放射線学講座では、“明るく、楽しく、前向きに”をモットーに、臨床、教育、 研究に取り組んでいます。大学院教育においても、大学院生が毎日を明るく過ごせる ように、勉強や研究を楽しく行えるように、そして物事に前向きに取り組める姿勢を 身に付けられるように、支援・指導・環境整備を行っております。 現在、大学院生には (1) 放射線被曝を伴わないインプラントの術前画像検査をなしに行う方法の開発 (2) 摂食・嚥下障害の画像検査を放射線被曝なしに行う方法の開発 (3) 現在まで検出できなかった顎関節症の原因のMRIによる検索 (4) より鮮明な3次元構造を表現する画像作成法の開発 (5) 腫瘍の進展経路を明確にするための画像診断法の開発 といった研究テーマを不えております。これらの研究を通じて、自分で問題を発見し て自分で解決する能力を養うとともに、自分で目標を設定してそれを達成する喜びを 実感することで、自分自身で実のある人生を築いて行けるようになって頂きたいと考 えております。もちろん、画像診断についても、将来歯科臨床医として自信を持って 実践できるように、十分なトレーニングを積んで頂きます。 研究テーマの概略は以下の通りです。 (1) 放射線被曝を伴わないインプラント術前画像検査法の開発 インプラントの術前検査において顎骨の唇(頬)舌方向の診断情報を得るには、顎 骨横断面断層画像が必要となります。顎骨横断面断層画像を得る一般的な方法は、CT で連続スキャンを行い、MPR画像を作成することです。ただ、CT検査には放射線被 曝が多いという欠点もあります。もし、同等の診断情報をMRIで得ることができれば、 被曝が全くありませんので、CT以上に術前検査に有用といえます。また、経過観察の ために、定期的に撮像することも可能になります。 MRIでは、顎骨を直接描出することはできません。しかし、周囲の軟組織が明瞭に 描出されますので、その影として顎骨の形態を把握することが可能です。炎症が存在 する場合には、CT以上に検出が容易になります。 図に、MRIによる顎骨横断面断層画像の一例を示します。現状でもこの程度の画像 は得られますが、種々の点で丌十分です。撮像条件の最適化や新たな撮像シーケンス の採用などを通じて、臨床応用を目指します。 MRIによる顎骨横断面断層画像 (2) 摂食・嚥下障害を対象とする放射線被曝を伴わない画像検査法の開発 摂食・嚥下障害の画像検査といえば、その代表は造影剤を混和した模擬食品を実際に 嚥下させ、その様子をエックス線透視下に観察する嚥下造影検査です。しかし、この検 査法では、エックス線を長時間照射するため、どうしても被曝が多くなります。このた め、経過観察のたびに検査を行うという訳にはいきません。それに、摂食・嚥下に関わ る解剖構造を正確に把握することが困難なことも、欠点の1つです。 MRIは基本的に撮像時間の長い検査法ですが、特殊な高速撮像シーケンスを使用する と、画質は低いものの準リアルタイムのシネ撮像が可能です。放射線被曝を伴わずに動 態を記録できれば、経過観察に大いに貢献できるはずです。また、静止画像については、 口唇,舌背,軟口蓋,舌根,舌尖,喉頭蓋,声帯等を明瞭に描出できますので、組織の 形態異常や器質的異常を正確に診断できるはずです。このため、摂食・嚥下障害の画像 検査にMRIを積極的に利用する価値は高いと思われます。 図に、水を嚥下させながらMRシネ撮像を行って得た画像と解剖構造を評価するため の静止画像を示します。現状では、シネ画像の画質はまだまだ丌十分であり、秒間あた りのコマ数の点でも嚥下造影検査法には及びません。静止画像についても、さらに改善 が必要です。診断に必要な情報に基づいて、選択すべき撮像シーケンスや適切な撮像条 件を検討し、摂食・嚥下障害に対するMRIを利用した画像検査法の確立を目指します。 MRシネ画像 MR静止画像 (3) MRIによる顎関節症の発症原因の検索 顎関節症の画像検査においては、顎関節部の骨の形態、下顎頭の位置、下顎頭の運動 量、関節円板の位置と形態、円板周囲組織や筋の状態等に異常がないかどうかを調べま す。その際、MRIは非常に威力を発揮します。 図に、プロトン密度強調画像とT2強調画像を示します。これらの画像から、必要な所 見のほとんどが得られます。 近年、MRI装置の高性能化と相俟って、組織・臓器の分子レベルでの状態変化をより 高感度に捕らえることが可能になりました。医科領域では、拡散強調画像、灌流画像、 MTC画像、MRスペクトロスコピー、ファンクショナルMRI等として、臨床応用がなさ れています。これらの撮像シーケンスを顎関節撮像用に最適化した上で駆使し、現在ま で検出できなかった顎関節症の原因を検索します。 プロトン密度強調画像 T2強調画像 (4) 画像検査機器の特性を活かした3次元画像診断法の開発 3次元画像によって、人体の3次元構造をより容易に、より明確に把握することができ ます。3次元画像作成法には、図に示すように、多断面画像再構成法(MPR)、表面表 示法(SSD)、ボリュームレンダンリング法(VR)、最大輝度投影法(MIP)、仮想内 視鏡法(VE)等があります。これらのうち、歯科臨床で日常的に利用されているのは、 MPRとSSDです。診断対象によっては他の方法も有効と考えられます。また今日では、 CT画像のみならず、MR画像も3次元化の対象にできます。それらを対象に、歯科臨床 における3次元画像の新たな 活用法、さらにより鮮明な3 次元画像を得るための新たな 作成法を探ります。 MPR画像 SSD画像 MIP画像 VR画像 VE画像 (5) 腫瘍の進展経路を明確にするための画像診断法の開発 悪性腫瘍の進展経路が明確になれば、進展先や転移先を予測できます。その部位を経 過観察時に精査することで、転移の早期発見が可能になります。また、転移性の悪性腫 瘍に対しては、原発巣の存在部位を推定できることになります。 図に、顎下部のCT検査およびMRI検査を行った一例を示します。画像所見から、顎 下腺部の悪性腫瘍と診断しました。しかし、病理検査を行ったところ、甲状腺由来の組 織が検出されました。その後、核医学検査で甲状腺部に異常が発見されました。すなわ ち、顎下部の癌は甲状腺癌の転移であったことになります。ただ、CT検査およびMRI 検査では、甲状腺癌の転移を示唆する所見は認められませんでした。悪性腫瘍に対する より正確な画像診断を行うには、腫瘍の進展経路を明確にできる画像診断法が必要です。 各画像診断法の特徴を踏まえた上で、新たな画像診断法の開発を目指します。 CT画像 MRI T2強調画像 核医学検査画像
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